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高等学校生物/生物I/遺伝情報とDNA
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2022-08-22T08:18:22Z
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wikitext
text/x-wiki
<small> [[高等学校生物]] > 生物I > 遺伝 </small>
。
=== DNAの構造 ===
[[File:DNAのヌクレオチド構造.svg|thumb|300px|DNAのヌクレオチド構造]]
[[File:DNAの並び方.png|thumb|DNAの並び方の説明図。アデニン(A)はチミン(T)と結びつく。グアニン(G)はシトシン(C)と結びつく。]]
[[画像:DNA animation.gif|thumb|right|DNAの立体構造]]
'''DNA'''(デオキシリボ核酸、英: deoxyribonucleic acid)の構造は、'''ヌクレオチド''' (nucleotide) と呼ばれる構成単位をもち、ヌクレオチドは'''リン酸'''と'''糖'''と'''塩基'''の化合物である。ヌクレオチドの糖は'''デオキシリボース'''(deoxyribose) である。DNAでは、ヌクレオチドがいくつも結合して、二重らせん構造をつくっている。
塩基には4種類あり、'''アデニン'''(adenine)、'''チミン'''(thymine)、'''シトシン'''(cytosine)、'''グアニン'''(guanine)という4種類の塩基である。ヌクレオチド一個に、4種の塩基のうち、どれか一個が、ふくまれる。
生殖細胞では、減数分裂で染色体が半分になることから、遺伝子の正体とは、どうやら染色体に含まれている物質であろう、という事がモーガンなどの1913年ごろのショウジョウバエの遺伝の研究によって、突き止められていた。
遺伝子に含まれる物質にはタンパク質や核酸(かくさん)など、さまざまな物質がある。どの物質こそが遺伝子の正体なのかを突き止める必要があった。核酸の発見は、1869年ごろ、スイスの生化学者ミーシャーによって、膿(うみ)から取り出した細胞の核に、リン酸をふくんだ物質があることが発見され、この物質はタンパク質とは異なることが調べられた。ミーシャ-の発見したのが核酸である。この当時では、まだ核酸が遺伝子の正体だとは気づかれていなかった。なお、膿は、白血球を多くふくむ。
1949年、オーストリアの[[w:エルヴィン・シャルガフ|エルヴィン・シャルガフ]]は、
いろいろな生物の持つDNAを抽出して調べ、どの生物でもアデニン(A)とチミン(T)とは量が等しく1:1であり、グアニン(G)とシトシン(C)とは量が等しく1:1であることを発見した。
:A:T = 1:1 、 G:C = 1:1
このことから、シャルガフは、アデニンはチミンと結合する性質があり、グアニンはシトシンと結合する性質があると考えた。
DNAの、このような、アデニン(A)とチミン(T)とが等量で結合する性質があること、グアニンとシトシンも等量で結合する性質があることを、まとめて、相補性(そうほせい)という。
1953年、アメリカの[[w:ジェームズ・ワトソン|ジェームズ・ワトソン]]とイギリスの[[w:フランシス・クリック|フランシス・クリック]]は、
シャルガフの塩基組成の研究や、イギリスの[[w:モーリス・ウィルキンス|モーリス・ウィルキンス]]のX線回折の研究をもとにして、研究を行った。そしてワトソンとクリックは、DNAが'''二重らせん構造'''であることを発見した。
これによると、2本のヌクレオチド鎖が、アデニンとチミン、グアニンとシトシンで対合し、柱状になり、それがらせん状にねじれている。
<gallery widths=200px heights=200px>
File:Adenin.png|アデニン(A)
File:Timina.svg|チミン(T)
File:Guanine chemical structure 2.png|グアニン(G)
File:Citosina-es.svg|シトシン(C)
</gallery>
{{-}}
[[File:DNA chemical structure.svg|thumb|400px|DNAにおける水素結合の例。]]
[[ファイル:Base pair GC.svg|thumb|left|水素結合。 DNAにおける2つの塩基対の内の1つであるグアニンとシトシン間の水素結合。]]
二重らせん上のアデニンAとチミンTなど、らせんで対になった塩基どうしの結合は、'''水素結合'''(すいそ けつごう)という、水素を仲立ちとした弱い結合をしている。塩基上の水素原子が、向かいあった塩基の窒素原子や酸素原子などと、弱く結合するのが、DNAの場合での水素結合である。
なお水素結合が見られるのは生物だけに限らず、一般の化学物質などでも多く見られる。たとえば水分子の安定性でも、水素結合が関わっている。
DNAの場合の水素結合では、アデニンはチミンの塩基対では、塩基上の2箇所で水素結合をする。シトシンとグアニンの塩基対では、塩基上の3箇所で水素結合をする。
二重らせんの幅は2.0nmで、らせん1回転(1ピッチ)の長さは3.4nm、らせん1回転中に10対のヌクレオチド対がある。
=== DNAの働き ===
[[File:Amino acid strucuture for highscool education.svg|thumb|300px|アミノ酸の一般的な構造。図中のRは、アミノ酸の種類によって、ことなる。]]
[[Image:aspartame2.png|thumb|400px|ペプチド結合の例。いっぽうのアミノ酸のカルボキシル基COOHと、もういっぽうのアミノ酸のアミノ基NH<sub>2</sub>が結合する。ペプチド結合のとき、COOHからOHが取り除かれ、NH<sub>2</sub>のHが取り除かれ、1分子の水 H<sub>2</sub>O ができる。]]
DNAの働きには、主にタンパク質の設計図となることと、遺伝情報を子孫に伝えることがある。
DNAの遺伝子の働きかたを決める要因は、塩基の並び方で決定される。この塩基の並び方で、細胞で合成されるタンパク質が異なるため、DNAはタンパク質の設計図となっている。このため、DNAの塩基の並び方が異なると、遺伝情報も異なる。病気などの例外をのぞけば、ある生体で合成されたタンパク質、たとえば皮膚のタンパク質のコラーゲンや、骨のタンパク質や、筋肉のタンパク質のミオシンなど、どのタンパク質も、その生体のDNAの情報をもとに合成されたタンパク質である。
DNAは、細胞核の中で、RNA(アールエヌエー)というタンパク質合成用の塩基配列の物質をつくる。RNAの情報は、DNAの情報を元にしている。RNAは、核の外に出ていきリボソームと結合し、消化器官で食品のタンパク質から分解・吸収したアミノ酸を材料にして、
RNAの塩基配列に従ってアミノ酸をつなぎかえることで、タンパク質を作っている。
タンパク質の構造は、アミノ酸がいくつも結合した構造である。したがって、タンパク質を構成するアミノ酸の順序などの配列や、アミノ酸の数などによって、タンパク質の性質が異なる。なお、アミノ酸どうしの化学結合をペプチド結合という。
:(※ タンパク質の合成の仕組みについて、くわしくは、単元『[[高等学校理科 生物基礎/遺伝情報とタンパク質の合成]]』などの章で説明する。)
DNAは、受精卵の時から、細胞分裂の際は、必ず複製されている。
DNAは配偶子形成の際半分になり、配偶子が受精すると合わさって元に戻る。
こうしてDNAは遺伝情報を子孫に伝えている。
:(※ 生殖細胞とDNAの分配の仕組みについて、くわしくは、『[[高等学校理科 生物基礎/遺伝情報の分配]]』などの章で説明する。)
=== DNA量の変化 ===
配偶子形成の際のDNA量の変化は、原細胞のときを2と置くと、一次母細胞のときは4であり、二次母細胞のときは2となり、卵細胞・精細胞のときは1になり、受精卵のときに2にもどる。
体細胞分裂の際のDNA量の変化は、母細胞のときを2と置くと、前期~終期のときが4であり、娘細胞の時に2にもどる。
=== DNAと生物の共通性・多様性 ===
DNAを設計図としタンパク質を作る仕組みは全ての生物で共通している。
しかし、塩基配列が少しずつ変化(ATCGが入れ替わったり、増えたり)して、
生物の多様性が生まれた。
=== ゲノム ===
ゲノム(genome)とはある生物の遺伝子の全体のことである。
2003年にヒトゲノムの解読が完了した。
これにより、ヒトの遺伝子の全体が明らかとなった。
現在では、ゲノム研究は、食品や医療などに応用されている。
=== (※ ほぼ範囲外:) 遺伝子の本体の研究 ===
:※ 2010年代の生物基礎・生物の教科書では、形質転換やファージなどの話題が、あまり見当たらない。
:※ 数研出版や第一学習社など、いくつかの教科書にあるが、コラム送りになっている。
1869年、スイスの[[w:フリードリッヒ・ミーシェル|フリードリッヒ・ミーシェル]]は、
細胞核内の物質を発見しヌクレイン(nuclein)と呼んだ。
当時は、遺伝子の本体はタンパク質であると考えられていたが、
今日では、ヌクレインはDNAと呼ばれ、遺伝子の本体であることが明らかになっている。
* グリフィスの実験
[[Image:Griffith_experiment_ja.svg|thumb|400px|right|[[w:グリフィスの実験|グリフィスの実験]]]]
1928年イギリスの[[w:フレデリック・グリフィス|フレデリック・グリフィス]]は、
肺炎レンサ球菌とネズミを用いて[[w:グリフィスの実験|実験]]を行った。
肺炎レンサ球菌には、被膜を持っていて病原性のあるS(smooth)型菌と、被膜が無く病原性のないR(rough)型菌の2種類がある。
被膜の有無と病原性の有無の、どちらも遺伝形質である。
通常の菌の分裂増殖では、S型とR型との違いという遺伝形質は変わらない。
グリフィスの実験結果は次の通り。
:生きたS型菌をネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こして死ぬ。
:生きたR型菌をネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こさない。
:加熱殺菌したS型菌をネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こさない。
:加熱殺菌したS型菌に生きたR型菌を混ぜてネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こして死ぬ。死んだネズミの血液を調べるとS型菌が繁殖していた。
これはR型菌の形質が、加熱殺菌したS型菌に含まれる物質によって、S型菌の形質へ変化したためであり、
これを'''形質転換'''(transformation: nuclein)と呼ぶ。
{{-}}
* アベリーの実験
1943年ころ、カナダの[[w:オズワルド・アベリー|オズワルド・アベリー]]は、グリフィスの実験での形質転換を起こした物質が何かを特定するため、タンパク質分解酵素とDNA分解酵素を用いて、S型菌・R型菌の実験を行った。
実験結果
:S型菌のタンパク質を分解した抽出液にR型菌を混ぜると、S型菌へ形質転換した。
:次にS型菌のDNAを分解した抽出液にR型菌を混ぜても、S型菌へ形質転換はしなかった。
これによって、R型菌の形質転換を起こしたのはDNAであることがわかった。
* バクテリオファージの増殖実験
[[Image:Tevenphage.svg|thumb|left|T2ファージの構造]]
細菌に規制するウイルスのことをバクテリオファージまたは単にファージという。
1952年、アメリカの[[w:アルフレッド・ハーシー|アルフレッド・ハーシー]]と[[w:マーサ・チェイス|マーサ・チェイス]]は、
T2ファージというファージの一種のウイルスを用いて[[w:ハーシーとチェイスの実験|実験]]を行った。
T2ファージは細菌に寄生して増殖するウイルスであるバクテリオファージの一種であり、
ほぼタンパク質とDNAからできている。T2ファージの頭部の中にDNAが含まれる。それ以外の外殻(がいかく)はタンパク質で、できている。
彼らは、放射性同位体の<sup>35</sup>S(硫黄の放射性同位体)および<sup>32</sup>P(リンの放射性同位体)を目印として用い、硫黄をふくむタンパク質には<sup>35</sup>Sで目印をつけ、<sup>32</sup>PでDNAに目印をつけた。DNAは P(リン)をふくむがS(硫黄)をふくまない。彼らの実際の実験では、タンパク質に目印をつけた実験と、DNAに目印をつけた実験とは、それぞれ別に行った。
{{-}}
[[File:ハーシーとチェイスの実験.svg|thumb|800px|ハーシーとチェイスの実験]]
実験では、それらの放射性同位体をもつT2ファージを大腸菌に感染させ、さらにミキサーで撹拌し、遠心分離器で大腸菌の沈殿と、上澄みに分けた。
大腸菌からは、<sup>32</sup>Pが多く検出され、あまり<sup>35</sup>Sは検出されなかった。このことからT2ファージのDNAが大腸菌に進入したと結論付けた。また、上澄みからはT2ファージのタンパク質が確認された。つまり上澄みはT2ファージの外殻をふくんでいる。
さらに、この大腸菌からは、20~30分後、子ファージが出てきた。子ファージには<sup>35</sup>Sは検出されなかった。
これによって、DNAが遺伝物質であることが証明された。
{{-}}
== 遺伝子と染色体 ==
=== 性染色体 ===
==== 入門的な知識 ====
:(※ 編集者への注意: ) 2010年代の現代の中学校(高校ではなく)の理科や保健体育では、性染色体を教えてないかもしれません。この節を書く場合、読者が人生で始めて性染色体について習うかもしれない事を念頭に、平易に記述することをお願いします。
: なお、2010年代の現代の中学理科で習うこととして、メンデルの遺伝の法則と、中学生むけに簡略化した減数分裂の理論を習います。
ヒトの体細胞には46個の染色体があり、つまりヒトには23対の染色体がある。(2n=46)
そのうち22対は、男女に共通して存在する染色体であり、これを'''常染色体'''(じょうせんしょくたい、Autosome)と呼ぶ。
いっぽう残りの2本の染色体によって、ヒトの性別が決定されるので、これを'''性染色体'''と呼ぶ。
ヒトの場合、男女に共通して存在する染色体のことを'''X染色体'''という。いっぽう、ヒトでは男性にのみ存在する染色体のことを'''Y染色体'''という。
{{コラム|※ 範囲外: クラインフェルター症候群やターナー症候群など|
:ヒトなどの場合、X染色体があると女性ぽくなり、Yふがあると男性ぽくなるのが、なぜそうだと言い切れるのか、注意ぶかい学生には、気になるかもしれない。なぜなら、YYの組み合わせについては、教科書では何も言及してないからだ。
:つまり、教科書で習った範囲では、まだ「XXやYYだと女性」というYYについての可能性もありうるからだ。
:答えは実は、通常は性染色体YYの産まれてこないが、まれに産婦から分娩(ぶんべん)される子が性染色体YYの場合があり、子が性染色体YYだと死産になる、という医学的事実がある。(ただし、これは大学の専門課程のレベルの話題であるので、暗記しなくていい。)
:このことから、まずYYの組み合わせについては、高校生は、もう考えなくてよくなる。
:では、次に「X染色体が女、Y染色体が男」ということの分かった理由も学ぼう。答えは、まれに染色体が2対ではなく3対の子が産まれる場合があり、さらに、まれに性染色体が3対でありXXYやXXXやXYYの子が産まれてくる事例がある。XYYのようにY染色体が多いと男性的な特徴がある子が産まれてくることが医学的に分かっている(XYY症候群)。
:いっぽう、XXYの場合の子は、XYと比べると女性的な傾向が比較的に強い(なおこのXXYの人をクラインフェルター症候群という)。
:このほか、XXXの場合、女性的な傾向がある(トリプルエックス症候群。「超女性」ともいう)。XOだと(Oは染色体が無い場合)、女性的である(ターナー症候群)。
:説明ではいきなり「XXY」とか「XYY」とか、2文字でなく3文字で染色体を表したが、こういうふうに、主に人間において、染色体が2対でなく3対の場合のことをトリソミーという。「トリ」とは、「トリオ」(三人衆)の「トリ」と同様の意味であり、数字の 3 のことである。普通の減数分裂では、トリソミーが起きないが、しかし、まれにトリソミーが起きる場合がある。(※ 生物学では同様の染色体が2対ではなく3対の事例を「三倍体」ともいうが、しかし、どちらかと言うと農作物とかの食料資源で「三倍体」と言う言い回しを使うので、wikibooksでは患者の尊厳に配慮して「トリソミー」という用語を使用した。) なお、トリソミーや三倍体は、性染色体だけでなく常染色体でも起きる場合がある。
:いっぽう、XOのような、ある染色体が1本だけで対にならないの場合、モノソミーという。音響機器などの「モノラル」のモノと同じような意味で、「モノ」は「1個」とかの意味である。
:このように、一般的にヒトの場合、どの性染色体異常でもX染色体の数が多ければ、そのぶん女性的な特徴をもつ。同様に、Yが多ければ、そのぶん男性的な特徴を持つ。ヒトの場合、Y染色体を一つでも性染色体に持つと、男になり、男性器および精巣をもつのが一般的である。(※ これらの話題は大学レベルであり、医療系学部のレベルなので、高校の時点では暗記は不要である。)
:なお、これらは、あくまでヒトの場合であり、ほかの動物の場合は、後述するように、かならずしも、同じような結果になるとは限らない。
}}
==== 参考 ====
:※ 教科書には「参考」(数研出版の教科書)としてコラム的にページ下部に書かれている。啓林館の教科書では、本文中に書かれている。
ヒト以外の動物も含めると、性の決定には、XY型、XO型、ZW型、ZO型の4つがある。
XY型は、雌が同形のXX、雄が異形のXYの性染色体をもち、
[[w:ショウジョウバエ|ショウジョウバエ]]や、[[w:ヒト|ヒト]]などの[[w:哺乳類|哺乳類]]が行う。
XO型は、雌が同形のXX、雄がXの1つだけの性染色体をもち、
[[w:トンボ|トンボ]]や[[w:バッタ|バッタ]]などが行う。
ZW型は、雌が異形のZW、雄が同形のZZの染色体をもち、
[[w:ニワトリ|ニワトリ]]、[[w:ヘビ|ヘビ]]、[[w:カイコガ|カイコガ]]などが行う。
ZO型は、雌がZの1つだけ、雄が同形のZZの染色体をもち、
[[w:スグリエダシャク|スグリエダシャク]]などが行う。
:※ 範囲外: (※ 検定教科書(生物基礎・生物)に記述なし)
:ただし、性の決定を性染色体以外で行う生物も多くいる。
:例えば、[[w:アカウミガメ|アカウミガメ]]は、卵が孵化する際の温度で雌雄が決まる。
:また、[[w:カタツムリ|カタツムリ]]は、雌雄同体で、一つの個体が精巣と卵巣を持つ。
== 遺伝の法則 ==
=== 遺伝と形質 ===
'''遺伝'''(heredity)とは、生物の形や性質が、遺伝子によって、親から子へ伝わることである。
また、生物の形や性質のことを'''形質'''(けいしつ、trait)と呼ぶ。
形質には親から子へ遺伝する遺伝形質(genetic trait)と、
環境の影響によって獲得した遺伝しない獲得形質(Acquired trait)がある。
このページでは、形質とは遺伝形質を指す。
生殖の際に、親から生殖細胞を経て、子に伝えられている遺伝の因子を遺伝子(いでんし)といい、こんにちでは遺伝子の正体は、細胞にふくまれる'''DNA'''(ディーエヌエー)という物質であることが知られている。
=== メンデルの法則 ===
:※ 2010年代の現代の中学(高校ではなく)で、「メンデルの法則」「優性」「劣性」という用語を習ってある。これ以外の用語は、中学の遺伝の単元では習わないようだ。
:また、2010年代の高校カリキュラムでは、下記の内容は高校3年の専門『生物』(かつての『生物II』に相当)に移動している。
==== メンデルの実験 ====
<ref>岩槻邦夫、須原準平訳『メンデル 雑種植物の研究』岩波書店、1999年発行</ref>
メンデルは、異なる形質をもつエンドウの品種を用意し、2年間にわたり育て、
同一個体の配偶子間で行われる'''自家受精'''(autogamy)で
全く同じで変化しない子孫を生じる'''純系'''(pure line)の品種を選んだ。
その際、明確に決定的に発現する、互いに異なる対立形質を7つ採用し、
1856年から62年にかけて交配実験を行った。
#熟した種子の形の違い(丸・しわ)
#種子の胚乳の色の違い(黄・緑)
#種皮の色の違い(有色・無色)
#熟したさやの形の違い(ふくれ・くびれ)
#未熟なさやの色の違い(緑・黄)
#花の位置の違い(腋生(えきせい)・頂生(ちょうせい))
#茎の長さの違い(高い・低い)
'''実験1'''
1.種子の形について、
丸としわの純系を用意して両親P(Parents)としたところ、
その子雑種第一代<ref>メンデルは「雑種第一代」を単に「雑種」と呼び、「雑種第二代」を「雑種第一代」と呼んでいた。</ref>F1(Filius)は、全て丸であった。
このようにF1では、対立形質の片方のみが表れる。
現れる形質を優性形質(dominant trait)と呼び、現れない形質を劣性形質(recessive trait)と呼ぶ。
ここでの優性・劣性は、単に形質が現れやすい・現れにくいを意味し、形質が優秀である・劣等であるを意味しない。
'''実験2'''
F1を自家受精したところ、
雑種第二代F2では丸としわが5474個と1850個で、およそ3:1の出現比であった。
このようにF2では、
優性形質と劣性形質がおよそ3:1の比で出現する。
'''実験3'''
F2を自家受精したところ、
F2でしわだったものは、F3で全てしわの純系となり、
F2で丸だったものは、565株のF3の内、
193株は丸の純系となり、
372株は丸としわを3:1の比で生じた。
このようにF3では、F2で劣性形質を示すものは、劣性形質の純系となり、
F2で優性形質を示すものは、このうち、3分の2は優性形質と劣性形質を3:1の比で生ずる子孫を作り、
3分の1は優性形質の純系となる。
'''実験4'''
1.種子の形と2.胚乳の色について、
種子の形が丸で胚乳の色が黄の純系と種子の形がしわで胚乳の色が緑の純系を用意して両親Pとしたところ、
その子F1はすべて丸で黄であった。
'''実験5'''
F1を自家受精したところ、
F2では丸・黄、丸・緑、しわ・黄、しわ・緑が315個、108個、101個、32個で、
およそ9:3:3:1の出現比であった。
==== 遺伝子型と表現型 ====
個体の遺伝子の構成を記号で表したものを'''遺伝子型'''(genotype)と呼ぶ。
遺伝子型はふつう優性形質をアルファベットの大文字で表し、
劣性形質をアルファベットの小文字で表す。
ある形質を決定する遺伝子は、
ペアの染色体の同じ位置に1つずつ、
あわせて2つあるため、
アルファベット2文字で表す。(例:AA,Aa,aa)
また、AAやaaのように同じ遺伝子がペアになっているものを'''ホモ接合体(homozygous, 同型接合体)'''と呼び、
Aaのように異なる遺伝子がペアになっているものを'''ヘテロ接合体'''(heterozygous, 異型接合体)と呼ぶ。
遺伝子型によって現れる形質を'''表現型'''(phenotype)と呼ぶ。
遺伝子型の記号を[]で囲んで表すこともある。(例:[A],[a])
==== 検定交雑と戻し交雑 ====
遺伝子型の判別のために、その個体と劣性形質の個体とを交雑することを'''検定交雑'''(test cross)と呼ぶ。
また、F1とPとを交雑することを'''戻し交雑'''(backcross)と呼ぶ。
下の表は、検定交雑で遺伝子型を判別する方法を示している。
配偶子?2と?4の遺伝子構成は、F1の表現型とその分離比から予想できる。
つまり、?2はAのみ、?4はAとaである。
両親?1と?3の遺伝子型は、配偶子?2と?4の遺伝子構成から予想できる。
つまり、?1はAA、?4はAaである。
{|class="wikitable" style="text-align:center"
|-
|P||優性形質<br>?1|| ||劣性形質<br>aa
|-
| ||↓|| ||↓
|-
|配偶子||?2||丅||a
|-
| || ||↓||
|-
|F1|| ||全て優性形質<br>Aa||
|-
|}
{|class="wikitable" style="text-align:center"
|-
|P||優性形質<br>?3|| ||劣性形質<br>aa
|-
| ||↓|| ||↓
|-
|配偶子||?4||丅||a
|-
| || ||↓||
|-
|F1|| ||優性形質:劣性形質<br>Aa:aa<br>1:1||
|-
|}
==== 優性の法則 ====
{|class="wikitable"
|-
!!!!!Pの配偶子
|-
!!!!!A
|-
!Pの配偶子!!a
|align="middle"|Aa<br>[A]
|-
|}
実験1では、
種子の形が丸をA,しわをaと表すとすると、
遺伝子型は、丸の純系はAA、しわの純系はaaと表せる。
この両親Pの配偶子はそれぞれA、aとなり、
その子F1の遺伝子型はAaとなり、表現型は[A]となる。
このように、優性形質の純系と劣性形質の純系とを交雑すると、
その子は優性形質のみを表し、
これを'''優性の法則'''(law of dominance)と呼ぶ。
なお、今日では、エンドウの種子の形を決める遺伝子は、
実際には酵素を作る遺伝子であり、その酵素がデンプンを作って種子の形を丸にしていることがわかっている。デンプンの量は、AaはAAとaaの中間であるが、種子の形を丸にするには十分な量であるため、Aaの種子の形は丸となっている。
==== 分離の法則 ====
{|class="wikitable"
|-
|||||colspan="2"|F1の配偶子<!--||-->
|-
|||||A||a
|-
|rowspan="2"|F1の配偶子||A||align="middle"|AA<br>[A]||align="middle"|Aa<br>[A]
|-
<!--||-->|a||align="middle"|Aa<br>[A]||align="middle"|aa<br>[a]
|-
|}
実験2では、
F1の遺伝子型はAaと表され、
配偶子が作られるとき分離し、
それぞれの配偶子はA,aとなる。
このように配偶子形成の際ペアの遺伝子が分離し、
それぞれ配偶子に受け継がれることを'''分離の法則'''(law of segregation)と呼ぶ。
F1の自家受精では、
その配偶子がそれぞれ受精するため、
F2ではAA:Aa:aa=1:2:1となり、
結果[A]:[a]=3:1となる。
実験3では、
F2で[a]だったものは、aaであるから、
その配偶子はaであり、自家受精でaaつまり[a]となる。
F2で[A]だったものは、AA:Aa=1:2であるから、
3分の1のAAの配偶子はAであり、自家受精でAAつまり[A]となり、
3分の2のAaの配偶子はA,aとなり、自家受精でAA:Aa:aa=1:2:1つまり[A]:[a]=3:1となる。
==== 独立の法則 ====
{|class="wikitable"
|-
!!!!!Pの配偶子
|-
!!!!!AB
|-
!Pの配偶子!!ab
|align="middle"|AaBb<br>[AB]
|-
|}
実験4では、
種子の形が丸をA,しわをa、胚乳の色が黄をB,緑をbと表すとすると、
遺伝子型は、丸で黄の純系はAABB、しわで緑の純系はaabbと表せる。
この両親Pの配偶子はそれぞれAB,abとなり、
その子F1の遺伝子型はAaBbとなり、表現型は[AB]となる。
{|class="wikitable"
|-
|||||colspan="4"|F1の配偶子<!--||--><!--||--><!--||-->
|-
|||||AB||Ab||aB||ab
|-
|rowspan="4"|F1の配偶子||AB||align="middle"|AABB<br>[AB]||align="middle"|AABb<br>[AB]||align="middle"|AaBB<br>[AB]||align="middle"|AaBb<br>[AB]
|-
<!--||-->|Ab||align="middle"|AABb<br>[AB]||align="middle"|AAbb<br>[Ab]||align="middle"|AaBb<br>[AB]||align="middle"|Aabb<br>[Ab]
|-
<!--||-->|aB||align="middle"|AaBB<br>[AB]||align="middle"|AaBb<br>[AB]||align="middle"|aaBB<br>[aB]||align="middle"|aaBb<br>[aB]
|-
<!--||-->|ab||align="middle"|AaBb<br>[AB]||align="middle"|Aabb<br>[Ab]||align="middle"|aaBb<br>[aB]||align="middle"|aabb<br>[ab]
|-
|}
実験5では、
F1の遺伝子型はAaBbとあらわされ、
配偶子が作られるとき分離し、
それぞれの配偶子は、AB,Ab,aB,abとなる。
F1の自家受精では、
その配偶子がそれぞれ受精するため、
F2でAABB:AABb:AaBB:AaBb:AAbb:Aabb:aaBB:aaBb:aabb=1:2:2:4:1:2:1:2:1となり、
結果[AB]:[Ab]:[aB]:[ab]=9:3:3:1となる。
実験4・5では、
種子の形だけあるいは胚乳の色だけに注目すると、
それぞれ優性の法則と分離の法則に従い独立して遺伝している。
つまり、種子の形に関しては[A]:[a]=3:1であり、胚乳の色に関しては[B]:[b]=3:1である。
このように、2つの遺伝子が異なる染色体に存在するとき、
その遺伝子が互いに影響しないことを'''独立の法則'''(law of independence)と呼ぶ。
=== 参考: さまざまな遺伝 ===
:※ この節の話題は、かつ2000年代ごろまで、下記の不完全優性~抑制遺伝子、伴性遺伝などの話題は、むかしは高校生物の教科書や参考書に良くある話題だったが、しかし現代の高校教育では重要度が低いと考えられるように教育状況が変化しており(『もういちど読む』シリーズの高校生物にその事情が書いてある)、検定教科書では「参考」などのコラムに送られている。
==== 不完全優性 ====
優性と劣性の関係が不完全な遺伝の仕方を'''不完全優性'''(incomplete dominance)と呼ぶ。
不完全優性では優性の法則は当てはまらない。
不完全優性は、[[w:マルバアサガオ|マルバアサガオ]]などが行う。
マルバアサガオには、花の色が赤Rと白rのものがある。
花の色が赤の純系RRと白の純系rrを両親Pとすると、
その子F1はRrで花の色が中間の桃色となる。
さらにその子F2は、RR:Rr:rr=1:2:1で、赤色:桃色:白色=1:2:1となる。
{|class="wikitable" style="text-align:center"
|-
|P||RR<br>赤色||×||rr<br>白色
|-
| || ||↓||
|-
|F1|| ||Rr<br>桃色||
|-
| || ||↓||
|-
|F2
|colspan="3"|RR:Rr:Rr:rr<br>赤色:桃色:桃色:白色
|-
|}
==== 致死遺伝子 ====
成体になるまでに致死作用がある遺伝子を'''致死遺伝子'''(lethal gene)と呼ぶ。
致死遺伝子は、多くの生物に存在する。
例えば、[[w:ハツカネズミ|ハツカネズミ]]は致死遺伝子を持っており、
毛の色が黄色Yと灰色yのものがある。
黄色Yyを両親Pとすると、
その子F1はYy:yy=2:1で、[Y]:[y]=2:1となる。
YYの個体は発生の段階で死んでしまう。
これはYが劣性の致死遺伝子だからである。
{|class="wikitable" style="text-align:center"
|-
|P||Yy<br>黄色||×||Yy<br>黄色
|-
| || ||↓||
|-
|F1
|colspan="3"|YY:Yy:Yy:yy<br>死:黄色:黄色:灰色
|-
|}
==== 複対立遺伝子 ====
同一の遺伝子座にある、同一形質を決める、複数の遺伝子を'''複対立遺伝子'''(multiallelic gene)と呼ぶ。
複対立遺伝子には、ヒトのABO式血液型などがある。
ヒトのABO式血液型には、A型、B型、AB型、O型の4種類があり、
AとBとは不完全優性で、A,BはOに対して完全優性である。
例えば下の表のように、AO(A型)とBO(B型)を両親とすると、
その子はAB,AO,BO,OOとなり、それぞれAB型,A型,B型,O型となる。
{|class="wikitable"
|-
!表現型
|A型||B型||AB型||O型
|-
!遺伝子型
|AA<br>AO||BB<br>BO||AB||OO
|-
|}
{|class="wikitable" style="text-align:center"
|-
|P||AO<br>A型||×||BO<br>B型
|-
| || ||↓||
|-
|F1
|colspan="3"|AB:AO:BO:OO<br>AB型:A型:B型:O型
|-
|}
==== 補足遺伝子 ====
対立しない2つ以上の遺伝子が、その働きを互いに補足しあって1つの形質を決めるとき、その遺伝子を'''補足遺伝子'''()と呼ぶ。
補足遺伝子には、[[w:スイートピー|スイートピー]]の花の色などがある。
色素原を作る遺伝子をC、色素原から色素を作る遺伝子をPとし、
白色花CCppと白色花ccPPを両親Pとすると、
その子F1はCcPpで有色花となる。
さらにその子F2は、C-P-:C-pp:ccP-:ccpp=9:3:3:1で、有色花:白色花:白色花:白色花=9:3:3:1つまり有色花:白色花=9:7となる。
これはCとPの両方をもっていないと色素が作られないためである。
{|class="wikitable" style="text-align:center"
|-
|P||CCpp<br>白色花||×||ccPP<br>白色花
|-
| || ||↓||
|-
|F1|| ||CcPp<br>有色花||
|-
| || ||↓||
|-
|F2
|colspan="3"|9C-P-:3C-pp:3ccP-:1ccpp<br>9有色花:3白色花:3白色花:1白色花
|-
|}
==== 抑制遺伝子 ====
他の遺伝子の働きを抑制する遺伝子を'''抑制遺伝子'''(suppressor gene)と呼ぶ。
抑制遺伝子には、[[w:カイコガ|カイコガ]]のまゆの色などがある。
黄色遺伝子をY、Yの働きを抑制する遺伝子をIとし、
白まゆIIyyと黄まゆiiYYを両親Pとすると、
その子F1はIiYyで白まゆとなる。
さらにその子F2は、I-Y-:I-yy:iiY-:iiyy=9:3:3:1で、白まゆ:白まゆ:黄まゆ:白まゆ=9:3:3:1つまり白まゆ:黄まゆ=13:3となる。
これはIがYの働きを抑制するためである。
{|class="wikitable" style="text-align:center"
|-
|P||IIyy<br>白まゆ||×||iiYY<br>黄まゆ
|-
| || ||↓||
|-
|F1|| ||IiYy<br>白まゆ||
|-
| || ||↓||
|-
|F2
|colspan="3"|9I-Y-:3I-yy:3iiY-:1iiyy<br>9白まゆ:3白まゆ:3黄まゆ:1白まゆ
|-
|}
==== 伴性遺伝 ====
性染色体の中にあるが、性の決定以外の働きをもった遺伝子の遺伝現象のことを'''伴性遺伝'''(sex-linked inheritance)という。
伴性遺伝は形質の発現が性別によって異なり、
ヒトの赤緑色覚異常や血友病などに見られる。
ヒトの[[w:赤緑色覚異常|赤緑色覚異常]]の遺伝子は、X染色体上にある劣性遺伝子である。
:男性はそもそもX染色体を一つしかもたないので、そのX染色体に色覚異常遺伝子があれば、発症する。
:いっぽう女性は、X染色体を2つもつので、両方のX染色体に色覚異常遺伝子がある場合にだけ発症する。女性において線染色体の片方だけに色覚異常の遺伝子がある場合、発症はしない。(※ 範囲外: しかし保因者(ほいんしゃ)である。)
記号的に書けば、優性遺伝子と劣性遺伝子をそれぞれA,aと表すと、
X<sup>A</sup>、X<sup>a</sup>のように表す。この場合、X<sup>a</sup>が色覚異常の遺伝子である。
:男性では、X<sup>A</sup>Y、X<sup>a</sup>Yの2種類の遺伝子型があり、X<sup>a</sup>Yの場合のみ色覚異常となる。
:女性では、X<sup>A</sup>X<sup>A</sup>、X<sup>A</sup>X<sup>a</sup>、X<sup>a</sup>X<sup>a</sup>の3種類の遺伝子型があり、X<sup>a</sup>X<sup>a</sup>の場合のみ色覚異常となる。
このように、伴性遺伝は性別によって遺伝の仕方が異なる。
このようなメンデル遺伝的な理由もあって男性のほうが統計的には遺伝性の色覚異常は多いが、しかし女性でも遺伝性の色覚異常者はいる<ref>KIM E. BARRETT ほか原著改訂、岡田泰伸 監訳『ギャノング生理学 原著23版 』丸善株式会社、平成23年1月31日 発行、P233、節『クリニカルボックス 12-6 色覚異常』</ref>。
:※ しばしば、「色覚異常は男性だけ」のような誤解の書かれている医療入門書もあるが、そのような入門書の記述は間違いである。
=== 連鎖と組み換え ===
同じ染色体にある遺伝子が、配偶子形成の際に行動をともにすることを、遺伝子の連鎖(linkage)という。
1905年、イギリスの[[w:ウィリアム・ベーツソン|ウィリアム・ベーツソン]]は、
[[w:スイートピー|スイートピー]]の交雑実験から、
連鎖の現象を発見した。
生殖細胞の減数分裂のとき、相同染色体の一部が交換する現象を'''乗換え'''(crossover)という。
そのときに遺伝子の配列が変わることを'''組換え'''(Recombination)という。
遺伝子の組換えが起こる割合を'''組換え価'''()といい、パーセントで表される。
組み換え価を<math>l</math> %、組み換えの起こった配偶子数を<math>m</math>、全ての配偶子数を<math>n</math>と置くと、組み換え価は次のように求める。
<math>l</math>
<math>=</math>
<math>\frac{m}{n}</math>
<math>\times 100</math>
1926年、アメリカの[[w:トーマス・ハント・モーガン|トーマス・ハント・モーガン]]は、
異なる3つの形質に対し、組み換え価を求め、その組み換え価から遺伝子距離を求める'''三点交雑'''(three-point cross)により、
[[w:キイロショウジョウバエ|キイロショウジョウバエ]]の遺伝子の配列を図示し、これを'''染色体地図'''(chromosome map)と呼ぶ。
{{-}}
== 脚注 ==
<references/>
== 参考文献 ==
* 田中隆荘ほか『高等学校生物I』第一学習社、2004年2月10日発行、pp.110-154
* [https://web.archive.org/web/20141016171612/http://www.nhk.or.jp/kokokoza/library/2013/tv/seibutsu/ 『NHK高校講座 生物』第16-21回]
* [http://www.weblio.jp/cat/academic/sbtgy 生物学用語辞典 - Weblio 学問]
[[Category:高等学校教育|生1いてん]]
[[Category:生物学|高1いてん]]
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206953
206952
2022-08-22T08:19:31Z
Nermer314
62933
wikitext
text/x-wiki
<small> [[高等学校生物]] > 生物I > 遺伝 </small>
=== DNAの構造 ===
[[File:DNAのヌクレオチド構造.svg|thumb|300px|DNAのヌクレオチド構造]]
[[File:DNAの並び方.png|thumb|DNAの並び方の説明図。アデニン(A)はチミン(T)と結びつく。グアニン(G)はシトシン(C)と結びつく。]]
[[画像:DNA animation.gif|thumb|right|DNAの立体構造]]
'''DNA'''(デオキシリボ核酸、英: deoxyribonucleic acid)の構造は、'''ヌクレオチド''' (nucleotide) と呼ばれる構成単位をもち、ヌクレオチドは'''リン酸'''と'''糖'''と'''塩基'''の化合物である。ヌクレオチドの糖は'''デオキシリボース'''(deoxyribose) である。DNAでは、ヌクレオチドがいくつも結合して、二重らせん構造をつくっている。
塩基には4種類あり、'''アデニン'''(adenine)、'''チミン'''(thymine)、'''シトシン'''(cytosine)、'''グアニン'''(guanine)という4種類の塩基である。ヌクレオチド一個に、4種の塩基のうち、どれか一個が、ふくまれる。
生殖細胞では、減数分裂で染色体が半分になることから、遺伝子の正体とは、どうやら染色体に含まれている物質であろう、という事がモーガンなどの1913年ごろのショウジョウバエの遺伝の研究によって、突き止められていた。
遺伝子に含まれる物質にはタンパク質や核酸(かくさん)など、さまざまな物質がある。どの物質こそが遺伝子の正体なのかを突き止める必要があった。核酸の発見は、1869年ごろ、スイスの生化学者ミーシャーによって、膿(うみ)から取り出した細胞の核に、リン酸をふくんだ物質があることが発見され、この物質はタンパク質とは異なることが調べられた。ミーシャ-の発見したのが核酸である。この当時では、まだ核酸が遺伝子の正体だとは気づかれていなかった。なお、膿は、白血球を多くふくむ。
1949年、オーストリアの[[w:エルヴィン・シャルガフ|エルヴィン・シャルガフ]]は、
いろいろな生物の持つDNAを抽出して調べ、どの生物でもアデニン(A)とチミン(T)とは量が等しく1:1であり、グアニン(G)とシトシン(C)とは量が等しく1:1であることを発見した。
:A:T = 1:1 、 G:C = 1:1
このことから、シャルガフは、アデニンはチミンと結合する性質があり、グアニンはシトシンと結合する性質があると考えた。
DNAの、このような、アデニン(A)とチミン(T)とが等量で結合する性質があること、グアニンとシトシンも等量で結合する性質があることを、まとめて、相補性(そうほせい)という。
1953年、アメリカの[[w:ジェームズ・ワトソン|ジェームズ・ワトソン]]とイギリスの[[w:フランシス・クリック|フランシス・クリック]]は、
シャルガフの塩基組成の研究や、イギリスの[[w:モーリス・ウィルキンス|モーリス・ウィルキンス]]のX線回折の研究をもとにして、研究を行った。そしてワトソンとクリックは、DNAが'''二重らせん構造'''であることを発見した。
これによると、2本のヌクレオチド鎖が、アデニンとチミン、グアニンとシトシンで対合し、柱状になり、それがらせん状にねじれている。
<gallery widths=200px heights=200px>
File:Adenin.png|アデニン(A)
File:Timina.svg|チミン(T)
File:Guanine chemical structure 2.png|グアニン(G)
File:Citosina-es.svg|シトシン(C)
</gallery>
{{-}}
[[File:DNA chemical structure.svg|thumb|400px|DNAにおける水素結合の例。]]
[[ファイル:Base pair GC.svg|thumb|left|水素結合。 DNAにおける2つの塩基対の内の1つであるグアニンとシトシン間の水素結合。]]
二重らせん上のアデニンAとチミンTなど、らせんで対になった塩基どうしの結合は、'''水素結合'''(すいそ けつごう)という、水素を仲立ちとした弱い結合をしている。塩基上の水素原子が、向かいあった塩基の窒素原子や酸素原子などと、弱く結合するのが、DNAの場合での水素結合である。
なお水素結合が見られるのは生物だけに限らず、一般の化学物質などでも多く見られる。たとえば水分子の安定性でも、水素結合が関わっている。
DNAの場合の水素結合では、アデニンはチミンの塩基対では、塩基上の2箇所で水素結合をする。シトシンとグアニンの塩基対では、塩基上の3箇所で水素結合をする。
二重らせんの幅は2.0nmで、らせん1回転(1ピッチ)の長さは3.4nm、らせん1回転中に10対のヌクレオチド対がある。
=== DNAの働き ===
[[File:Amino acid strucuture for highscool education.svg|thumb|300px|アミノ酸の一般的な構造。図中のRは、アミノ酸の種類によって、ことなる。]]
[[Image:aspartame2.png|thumb|400px|ペプチド結合の例。いっぽうのアミノ酸のカルボキシル基COOHと、もういっぽうのアミノ酸のアミノ基NH<sub>2</sub>が結合する。ペプチド結合のとき、COOHからOHが取り除かれ、NH<sub>2</sub>のHが取り除かれ、1分子の水 H<sub>2</sub>O ができる。]]
DNAの働きには、主にタンパク質の設計図となることと、遺伝情報を子孫に伝えることがある。
DNAの遺伝子の働きかたを決める要因は、塩基の並び方で決定される。この塩基の並び方で、細胞で合成されるタンパク質が異なるため、DNAはタンパク質の設計図となっている。このため、DNAの塩基の並び方が異なると、遺伝情報も異なる。病気などの例外をのぞけば、ある生体で合成されたタンパク質、たとえば皮膚のタンパク質のコラーゲンや、骨のタンパク質や、筋肉のタンパク質のミオシンなど、どのタンパク質も、その生体のDNAの情報をもとに合成されたタンパク質である。
DNAは、細胞核の中で、RNA(アールエヌエー)というタンパク質合成用の塩基配列の物質をつくる。RNAの情報は、DNAの情報を元にしている。RNAは、核の外に出ていきリボソームと結合し、消化器官で食品のタンパク質から分解・吸収したアミノ酸を材料にして、
RNAの塩基配列に従ってアミノ酸をつなぎかえることで、タンパク質を作っている。
タンパク質の構造は、アミノ酸がいくつも結合した構造である。したがって、タンパク質を構成するアミノ酸の順序などの配列や、アミノ酸の数などによって、タンパク質の性質が異なる。なお、アミノ酸どうしの化学結合をペプチド結合という。
:(※ タンパク質の合成の仕組みについて、くわしくは、単元『[[高等学校理科 生物基礎/遺伝情報とタンパク質の合成]]』などの章で説明する。)
DNAは、受精卵の時から、細胞分裂の際は、必ず複製されている。
DNAは配偶子形成の際半分になり、配偶子が受精すると合わさって元に戻る。
こうしてDNAは遺伝情報を子孫に伝えている。
:(※ 生殖細胞とDNAの分配の仕組みについて、くわしくは、『[[高等学校理科 生物基礎/遺伝情報の分配]]』などの章で説明する。)
=== DNA量の変化 ===
配偶子形成の際のDNA量の変化は、原細胞のときを2と置くと、一次母細胞のときは4であり、二次母細胞のときは2となり、卵細胞・精細胞のときは1になり、受精卵のときに2にもどる。
体細胞分裂の際のDNA量の変化は、母細胞のときを2と置くと、前期~終期のときが4であり、娘細胞の時に2にもどる。
=== DNAと生物の共通性・多様性 ===
DNAを設計図としタンパク質を作る仕組みは全ての生物で共通している。
しかし、塩基配列が少しずつ変化(ATCGが入れ替わったり、増えたり)して、
生物の多様性が生まれた。
=== ゲノム ===
ゲノム(genome)とはある生物の遺伝子の全体のことである。
2003年にヒトゲノムの解読が完了した。
これにより、ヒトの遺伝子の全体が明らかとなった。
現在では、ゲノム研究は、食品や医療などに応用されている。
=== (※ ほぼ範囲外:) 遺伝子の本体の研究 ===
:※ 2010年代の生物基礎・生物の教科書では、形質転換やファージなどの話題が、あまり見当たらない。
:※ 数研出版や第一学習社など、いくつかの教科書にあるが、コラム送りになっている。
1869年、スイスの[[w:フリードリッヒ・ミーシェル|フリードリッヒ・ミーシェル]]は、
細胞核内の物質を発見しヌクレイン(nuclein)と呼んだ。
当時は、遺伝子の本体はタンパク質であると考えられていたが、
今日では、ヌクレインはDNAと呼ばれ、遺伝子の本体であることが明らかになっている。
* グリフィスの実験
[[Image:Griffith_experiment_ja.svg|thumb|400px|right|[[w:グリフィスの実験|グリフィスの実験]]]]
1928年イギリスの[[w:フレデリック・グリフィス|フレデリック・グリフィス]]は、
肺炎レンサ球菌とネズミを用いて[[w:グリフィスの実験|実験]]を行った。
肺炎レンサ球菌には、被膜を持っていて病原性のあるS(smooth)型菌と、被膜が無く病原性のないR(rough)型菌の2種類がある。
被膜の有無と病原性の有無の、どちらも遺伝形質である。
通常の菌の分裂増殖では、S型とR型との違いという遺伝形質は変わらない。
グリフィスの実験結果は次の通り。
:生きたS型菌をネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こして死ぬ。
:生きたR型菌をネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こさない。
:加熱殺菌したS型菌をネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こさない。
:加熱殺菌したS型菌に生きたR型菌を混ぜてネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こして死ぬ。死んだネズミの血液を調べるとS型菌が繁殖していた。
これはR型菌の形質が、加熱殺菌したS型菌に含まれる物質によって、S型菌の形質へ変化したためであり、
これを'''形質転換'''(transformation: nuclein)と呼ぶ。
{{-}}
* アベリーの実験
1943年ころ、カナダの[[w:オズワルド・アベリー|オズワルド・アベリー]]は、グリフィスの実験での形質転換を起こした物質が何かを特定するため、タンパク質分解酵素とDNA分解酵素を用いて、S型菌・R型菌の実験を行った。
実験結果
:S型菌のタンパク質を分解した抽出液にR型菌を混ぜると、S型菌へ形質転換した。
:次にS型菌のDNAを分解した抽出液にR型菌を混ぜても、S型菌へ形質転換はしなかった。
これによって、R型菌の形質転換を起こしたのはDNAであることがわかった。
* バクテリオファージの増殖実験
[[Image:Tevenphage.svg|thumb|left|T2ファージの構造]]
細菌に規制するウイルスのことをバクテリオファージまたは単にファージという。
1952年、アメリカの[[w:アルフレッド・ハーシー|アルフレッド・ハーシー]]と[[w:マーサ・チェイス|マーサ・チェイス]]は、
T2ファージというファージの一種のウイルスを用いて[[w:ハーシーとチェイスの実験|実験]]を行った。
T2ファージは細菌に寄生して増殖するウイルスであるバクテリオファージの一種であり、
ほぼタンパク質とDNAからできている。T2ファージの頭部の中にDNAが含まれる。それ以外の外殻(がいかく)はタンパク質で、できている。
彼らは、放射性同位体の<sup>35</sup>S(硫黄の放射性同位体)および<sup>32</sup>P(リンの放射性同位体)を目印として用い、硫黄をふくむタンパク質には<sup>35</sup>Sで目印をつけ、<sup>32</sup>PでDNAに目印をつけた。DNAは P(リン)をふくむがS(硫黄)をふくまない。彼らの実際の実験では、タンパク質に目印をつけた実験と、DNAに目印をつけた実験とは、それぞれ別に行った。
{{-}}
[[File:ハーシーとチェイスの実験.svg|thumb|800px|ハーシーとチェイスの実験]]
実験では、それらの放射性同位体をもつT2ファージを大腸菌に感染させ、さらにミキサーで撹拌し、遠心分離器で大腸菌の沈殿と、上澄みに分けた。
大腸菌からは、<sup>32</sup>Pが多く検出され、あまり<sup>35</sup>Sは検出されなかった。このことからT2ファージのDNAが大腸菌に進入したと結論付けた。また、上澄みからはT2ファージのタンパク質が確認された。つまり上澄みはT2ファージの外殻をふくんでいる。
さらに、この大腸菌からは、20~30分後、子ファージが出てきた。子ファージには<sup>35</sup>Sは検出されなかった。
これによって、DNAが遺伝物質であることが証明された。
{{-}}
== 遺伝子と染色体 ==
=== 性染色体 ===
==== 入門的な知識 ====
:(※ 編集者への注意: ) 2010年代の現代の中学校(高校ではなく)の理科や保健体育では、性染色体を教えてないかもしれません。この節を書く場合、読者が人生で始めて性染色体について習うかもしれない事を念頭に、平易に記述することをお願いします。
: なお、2010年代の現代の中学理科で習うこととして、メンデルの遺伝の法則と、中学生むけに簡略化した減数分裂の理論を習います。
ヒトの体細胞には46個の染色体があり、つまりヒトには23対の染色体がある。(2n=46)
そのうち22対は、男女に共通して存在する染色体であり、これを'''常染色体'''(じょうせんしょくたい、Autosome)と呼ぶ。
いっぽう残りの2本の染色体によって、ヒトの性別が決定されるので、これを'''性染色体'''と呼ぶ。
ヒトの場合、男女に共通して存在する染色体のことを'''X染色体'''という。いっぽう、ヒトでは男性にのみ存在する染色体のことを'''Y染色体'''という。
{{コラム|※ 範囲外: クラインフェルター症候群やターナー症候群など|
:ヒトなどの場合、X染色体があると女性ぽくなり、Yふがあると男性ぽくなるのが、なぜそうだと言い切れるのか、注意ぶかい学生には、気になるかもしれない。なぜなら、YYの組み合わせについては、教科書では何も言及してないからだ。
:つまり、教科書で習った範囲では、まだ「XXやYYだと女性」というYYについての可能性もありうるからだ。
:答えは実は、通常は性染色体YYの産まれてこないが、まれに産婦から分娩(ぶんべん)される子が性染色体YYの場合があり、子が性染色体YYだと死産になる、という医学的事実がある。(ただし、これは大学の専門課程のレベルの話題であるので、暗記しなくていい。)
:このことから、まずYYの組み合わせについては、高校生は、もう考えなくてよくなる。
:では、次に「X染色体が女、Y染色体が男」ということの分かった理由も学ぼう。答えは、まれに染色体が2対ではなく3対の子が産まれる場合があり、さらに、まれに性染色体が3対でありXXYやXXXやXYYの子が産まれてくる事例がある。XYYのようにY染色体が多いと男性的な特徴がある子が産まれてくることが医学的に分かっている(XYY症候群)。
:いっぽう、XXYの場合の子は、XYと比べると女性的な傾向が比較的に強い(なおこのXXYの人をクラインフェルター症候群という)。
:このほか、XXXの場合、女性的な傾向がある(トリプルエックス症候群。「超女性」ともいう)。XOだと(Oは染色体が無い場合)、女性的である(ターナー症候群)。
:説明ではいきなり「XXY」とか「XYY」とか、2文字でなく3文字で染色体を表したが、こういうふうに、主に人間において、染色体が2対でなく3対の場合のことをトリソミーという。「トリ」とは、「トリオ」(三人衆)の「トリ」と同様の意味であり、数字の 3 のことである。普通の減数分裂では、トリソミーが起きないが、しかし、まれにトリソミーが起きる場合がある。(※ 生物学では同様の染色体が2対ではなく3対の事例を「三倍体」ともいうが、しかし、どちらかと言うと農作物とかの食料資源で「三倍体」と言う言い回しを使うので、wikibooksでは患者の尊厳に配慮して「トリソミー」という用語を使用した。) なお、トリソミーや三倍体は、性染色体だけでなく常染色体でも起きる場合がある。
:いっぽう、XOのような、ある染色体が1本だけで対にならないの場合、モノソミーという。音響機器などの「モノラル」のモノと同じような意味で、「モノ」は「1個」とかの意味である。
:このように、一般的にヒトの場合、どの性染色体異常でもX染色体の数が多ければ、そのぶん女性的な特徴をもつ。同様に、Yが多ければ、そのぶん男性的な特徴を持つ。ヒトの場合、Y染色体を一つでも性染色体に持つと、男になり、男性器および精巣をもつのが一般的である。(※ これらの話題は大学レベルであり、医療系学部のレベルなので、高校の時点では暗記は不要である。)
:なお、これらは、あくまでヒトの場合であり、ほかの動物の場合は、後述するように、かならずしも、同じような結果になるとは限らない。
}}
==== 参考 ====
:※ 教科書には「参考」(数研出版の教科書)としてコラム的にページ下部に書かれている。啓林館の教科書では、本文中に書かれている。
ヒト以外の動物も含めると、性の決定には、XY型、XO型、ZW型、ZO型の4つがある。
XY型は、雌が同形のXX、雄が異形のXYの性染色体をもち、
[[w:ショウジョウバエ|ショウジョウバエ]]や、[[w:ヒト|ヒト]]などの[[w:哺乳類|哺乳類]]が行う。
XO型は、雌が同形のXX、雄がXの1つだけの性染色体をもち、
[[w:トンボ|トンボ]]や[[w:バッタ|バッタ]]などが行う。
ZW型は、雌が異形のZW、雄が同形のZZの染色体をもち、
[[w:ニワトリ|ニワトリ]]、[[w:ヘビ|ヘビ]]、[[w:カイコガ|カイコガ]]などが行う。
ZO型は、雌がZの1つだけ、雄が同形のZZの染色体をもち、
[[w:スグリエダシャク|スグリエダシャク]]などが行う。
:※ 範囲外: (※ 検定教科書(生物基礎・生物)に記述なし)
:ただし、性の決定を性染色体以外で行う生物も多くいる。
:例えば、[[w:アカウミガメ|アカウミガメ]]は、卵が孵化する際の温度で雌雄が決まる。
:また、[[w:カタツムリ|カタツムリ]]は、雌雄同体で、一つの個体が精巣と卵巣を持つ。
== 遺伝の法則 ==
=== 遺伝と形質 ===
'''遺伝'''(heredity)とは、生物の形や性質が、遺伝子によって、親から子へ伝わることである。
また、生物の形や性質のことを'''形質'''(けいしつ、trait)と呼ぶ。
形質には親から子へ遺伝する遺伝形質(genetic trait)と、
環境の影響によって獲得した遺伝しない獲得形質(Acquired trait)がある。
このページでは、形質とは遺伝形質を指す。
生殖の際に、親から生殖細胞を経て、子に伝えられている遺伝の因子を遺伝子(いでんし)といい、こんにちでは遺伝子の正体は、細胞にふくまれる'''DNA'''(ディーエヌエー)という物質であることが知られている。
=== メンデルの法則 ===
:※ 2010年代の現代の中学(高校ではなく)で、「メンデルの法則」「優性」「劣性」という用語を習ってある。これ以外の用語は、中学の遺伝の単元では習わないようだ。
:また、2010年代の高校カリキュラムでは、下記の内容は高校3年の専門『生物』(かつての『生物II』に相当)に移動している。
==== メンデルの実験 ====
<ref>岩槻邦夫、須原準平訳『メンデル 雑種植物の研究』岩波書店、1999年発行</ref>
メンデルは、異なる形質をもつエンドウの品種を用意し、2年間にわたり育て、
同一個体の配偶子間で行われる'''自家受精'''(autogamy)で
全く同じで変化しない子孫を生じる'''純系'''(pure line)の品種を選んだ。
その際、明確に決定的に発現する、互いに異なる対立形質を7つ採用し、
1856年から62年にかけて交配実験を行った。
#熟した種子の形の違い(丸・しわ)
#種子の胚乳の色の違い(黄・緑)
#種皮の色の違い(有色・無色)
#熟したさやの形の違い(ふくれ・くびれ)
#未熟なさやの色の違い(緑・黄)
#花の位置の違い(腋生(えきせい)・頂生(ちょうせい))
#茎の長さの違い(高い・低い)
'''実験1'''
1.種子の形について、
丸としわの純系を用意して両親P(Parents)としたところ、
その子雑種第一代<ref>メンデルは「雑種第一代」を単に「雑種」と呼び、「雑種第二代」を「雑種第一代」と呼んでいた。</ref>F1(Filius)は、全て丸であった。
このようにF1では、対立形質の片方のみが表れる。
現れる形質を優性形質(dominant trait)と呼び、現れない形質を劣性形質(recessive trait)と呼ぶ。
ここでの優性・劣性は、単に形質が現れやすい・現れにくいを意味し、形質が優秀である・劣等であるを意味しない。
'''実験2'''
F1を自家受精したところ、
雑種第二代F2では丸としわが5474個と1850個で、およそ3:1の出現比であった。
このようにF2では、
優性形質と劣性形質がおよそ3:1の比で出現する。
'''実験3'''
F2を自家受精したところ、
F2でしわだったものは、F3で全てしわの純系となり、
F2で丸だったものは、565株のF3の内、
193株は丸の純系となり、
372株は丸としわを3:1の比で生じた。
このようにF3では、F2で劣性形質を示すものは、劣性形質の純系となり、
F2で優性形質を示すものは、このうち、3分の2は優性形質と劣性形質を3:1の比で生ずる子孫を作り、
3分の1は優性形質の純系となる。
'''実験4'''
1.種子の形と2.胚乳の色について、
種子の形が丸で胚乳の色が黄の純系と種子の形がしわで胚乳の色が緑の純系を用意して両親Pとしたところ、
その子F1はすべて丸で黄であった。
'''実験5'''
F1を自家受精したところ、
F2では丸・黄、丸・緑、しわ・黄、しわ・緑が315個、108個、101個、32個で、
およそ9:3:3:1の出現比であった。
==== 遺伝子型と表現型 ====
個体の遺伝子の構成を記号で表したものを'''遺伝子型'''(genotype)と呼ぶ。
遺伝子型はふつう優性形質をアルファベットの大文字で表し、
劣性形質をアルファベットの小文字で表す。
ある形質を決定する遺伝子は、
ペアの染色体の同じ位置に1つずつ、
あわせて2つあるため、
アルファベット2文字で表す。(例:AA,Aa,aa)
また、AAやaaのように同じ遺伝子がペアになっているものを'''ホモ接合体(homozygous, 同型接合体)'''と呼び、
Aaのように異なる遺伝子がペアになっているものを'''ヘテロ接合体'''(heterozygous, 異型接合体)と呼ぶ。
遺伝子型によって現れる形質を'''表現型'''(phenotype)と呼ぶ。
遺伝子型の記号を[]で囲んで表すこともある。(例:[A],[a])
==== 検定交雑と戻し交雑 ====
遺伝子型の判別のために、その個体と劣性形質の個体とを交雑することを'''検定交雑'''(test cross)と呼ぶ。
また、F1とPとを交雑することを'''戻し交雑'''(backcross)と呼ぶ。
下の表は、検定交雑で遺伝子型を判別する方法を示している。
配偶子?2と?4の遺伝子構成は、F1の表現型とその分離比から予想できる。
つまり、?2はAのみ、?4はAとaである。
両親?1と?3の遺伝子型は、配偶子?2と?4の遺伝子構成から予想できる。
つまり、?1はAA、?4はAaである。
{|class="wikitable" style="text-align:center"
|-
|P||優性形質<br>?1|| ||劣性形質<br>aa
|-
| ||↓|| ||↓
|-
|配偶子||?2||丅||a
|-
| || ||↓||
|-
|F1|| ||全て優性形質<br>Aa||
|-
|}
{|class="wikitable" style="text-align:center"
|-
|P||優性形質<br>?3|| ||劣性形質<br>aa
|-
| ||↓|| ||↓
|-
|配偶子||?4||丅||a
|-
| || ||↓||
|-
|F1|| ||優性形質:劣性形質<br>Aa:aa<br>1:1||
|-
|}
==== 優性の法則 ====
{|class="wikitable"
|-
!!!!!Pの配偶子
|-
!!!!!A
|-
!Pの配偶子!!a
|align="middle"|Aa<br>[A]
|-
|}
実験1では、
種子の形が丸をA,しわをaと表すとすると、
遺伝子型は、丸の純系はAA、しわの純系はaaと表せる。
この両親Pの配偶子はそれぞれA、aとなり、
その子F1の遺伝子型はAaとなり、表現型は[A]となる。
このように、優性形質の純系と劣性形質の純系とを交雑すると、
その子は優性形質のみを表し、
これを'''優性の法則'''(law of dominance)と呼ぶ。
なお、今日では、エンドウの種子の形を決める遺伝子は、
実際には酵素を作る遺伝子であり、その酵素がデンプンを作って種子の形を丸にしていることがわかっている。デンプンの量は、AaはAAとaaの中間であるが、種子の形を丸にするには十分な量であるため、Aaの種子の形は丸となっている。
==== 分離の法則 ====
{|class="wikitable"
|-
|||||colspan="2"|F1の配偶子<!--||-->
|-
|||||A||a
|-
|rowspan="2"|F1の配偶子||A||align="middle"|AA<br>[A]||align="middle"|Aa<br>[A]
|-
<!--||-->|a||align="middle"|Aa<br>[A]||align="middle"|aa<br>[a]
|-
|}
実験2では、
F1の遺伝子型はAaと表され、
配偶子が作られるとき分離し、
それぞれの配偶子はA,aとなる。
このように配偶子形成の際ペアの遺伝子が分離し、
それぞれ配偶子に受け継がれることを'''分離の法則'''(law of segregation)と呼ぶ。
F1の自家受精では、
その配偶子がそれぞれ受精するため、
F2ではAA:Aa:aa=1:2:1となり、
結果[A]:[a]=3:1となる。
実験3では、
F2で[a]だったものは、aaであるから、
その配偶子はaであり、自家受精でaaつまり[a]となる。
F2で[A]だったものは、AA:Aa=1:2であるから、
3分の1のAAの配偶子はAであり、自家受精でAAつまり[A]となり、
3分の2のAaの配偶子はA,aとなり、自家受精でAA:Aa:aa=1:2:1つまり[A]:[a]=3:1となる。
==== 独立の法則 ====
{|class="wikitable"
|-
!!!!!Pの配偶子
|-
!!!!!AB
|-
!Pの配偶子!!ab
|align="middle"|AaBb<br>[AB]
|-
|}
実験4では、
種子の形が丸をA,しわをa、胚乳の色が黄をB,緑をbと表すとすると、
遺伝子型は、丸で黄の純系はAABB、しわで緑の純系はaabbと表せる。
この両親Pの配偶子はそれぞれAB,abとなり、
その子F1の遺伝子型はAaBbとなり、表現型は[AB]となる。
{|class="wikitable"
|-
|||||colspan="4"|F1の配偶子<!--||--><!--||--><!--||-->
|-
|||||AB||Ab||aB||ab
|-
|rowspan="4"|F1の配偶子||AB||align="middle"|AABB<br>[AB]||align="middle"|AABb<br>[AB]||align="middle"|AaBB<br>[AB]||align="middle"|AaBb<br>[AB]
|-
<!--||-->|Ab||align="middle"|AABb<br>[AB]||align="middle"|AAbb<br>[Ab]||align="middle"|AaBb<br>[AB]||align="middle"|Aabb<br>[Ab]
|-
<!--||-->|aB||align="middle"|AaBB<br>[AB]||align="middle"|AaBb<br>[AB]||align="middle"|aaBB<br>[aB]||align="middle"|aaBb<br>[aB]
|-
<!--||-->|ab||align="middle"|AaBb<br>[AB]||align="middle"|Aabb<br>[Ab]||align="middle"|aaBb<br>[aB]||align="middle"|aabb<br>[ab]
|-
|}
実験5では、
F1の遺伝子型はAaBbとあらわされ、
配偶子が作られるとき分離し、
それぞれの配偶子は、AB,Ab,aB,abとなる。
F1の自家受精では、
その配偶子がそれぞれ受精するため、
F2でAABB:AABb:AaBB:AaBb:AAbb:Aabb:aaBB:aaBb:aabb=1:2:2:4:1:2:1:2:1となり、
結果[AB]:[Ab]:[aB]:[ab]=9:3:3:1となる。
実験4・5では、
種子の形だけあるいは胚乳の色だけに注目すると、
それぞれ優性の法則と分離の法則に従い独立して遺伝している。
つまり、種子の形に関しては[A]:[a]=3:1であり、胚乳の色に関しては[B]:[b]=3:1である。
このように、2つの遺伝子が異なる染色体に存在するとき、
その遺伝子が互いに影響しないことを'''独立の法則'''(law of independence)と呼ぶ。
=== 参考: さまざまな遺伝 ===
:※ この節の話題は、かつ2000年代ごろまで、下記の不完全優性~抑制遺伝子、伴性遺伝などの話題は、むかしは高校生物の教科書や参考書に良くある話題だったが、しかし現代の高校教育では重要度が低いと考えられるように教育状況が変化しており(『もういちど読む』シリーズの高校生物にその事情が書いてある)、検定教科書では「参考」などのコラムに送られている。
==== 不完全優性 ====
優性と劣性の関係が不完全な遺伝の仕方を'''不完全優性'''(incomplete dominance)と呼ぶ。
不完全優性では優性の法則は当てはまらない。
不完全優性は、[[w:マルバアサガオ|マルバアサガオ]]などが行う。
マルバアサガオには、花の色が赤Rと白rのものがある。
花の色が赤の純系RRと白の純系rrを両親Pとすると、
その子F1はRrで花の色が中間の桃色となる。
さらにその子F2は、RR:Rr:rr=1:2:1で、赤色:桃色:白色=1:2:1となる。
{|class="wikitable" style="text-align:center"
|-
|P||RR<br>赤色||×||rr<br>白色
|-
| || ||↓||
|-
|F1|| ||Rr<br>桃色||
|-
| || ||↓||
|-
|F2
|colspan="3"|RR:Rr:Rr:rr<br>赤色:桃色:桃色:白色
|-
|}
==== 致死遺伝子 ====
成体になるまでに致死作用がある遺伝子を'''致死遺伝子'''(lethal gene)と呼ぶ。
致死遺伝子は、多くの生物に存在する。
例えば、[[w:ハツカネズミ|ハツカネズミ]]は致死遺伝子を持っており、
毛の色が黄色Yと灰色yのものがある。
黄色Yyを両親Pとすると、
その子F1はYy:yy=2:1で、[Y]:[y]=2:1となる。
YYの個体は発生の段階で死んでしまう。
これはYが劣性の致死遺伝子だからである。
{|class="wikitable" style="text-align:center"
|-
|P||Yy<br>黄色||×||Yy<br>黄色
|-
| || ||↓||
|-
|F1
|colspan="3"|YY:Yy:Yy:yy<br>死:黄色:黄色:灰色
|-
|}
==== 複対立遺伝子 ====
同一の遺伝子座にある、同一形質を決める、複数の遺伝子を'''複対立遺伝子'''(multiallelic gene)と呼ぶ。
複対立遺伝子には、ヒトのABO式血液型などがある。
ヒトのABO式血液型には、A型、B型、AB型、O型の4種類があり、
AとBとは不完全優性で、A,BはOに対して完全優性である。
例えば下の表のように、AO(A型)とBO(B型)を両親とすると、
その子はAB,AO,BO,OOとなり、それぞれAB型,A型,B型,O型となる。
{|class="wikitable"
|-
!表現型
|A型||B型||AB型||O型
|-
!遺伝子型
|AA<br>AO||BB<br>BO||AB||OO
|-
|}
{|class="wikitable" style="text-align:center"
|-
|P||AO<br>A型||×||BO<br>B型
|-
| || ||↓||
|-
|F1
|colspan="3"|AB:AO:BO:OO<br>AB型:A型:B型:O型
|-
|}
==== 補足遺伝子 ====
対立しない2つ以上の遺伝子が、その働きを互いに補足しあって1つの形質を決めるとき、その遺伝子を'''補足遺伝子'''()と呼ぶ。
補足遺伝子には、[[w:スイートピー|スイートピー]]の花の色などがある。
色素原を作る遺伝子をC、色素原から色素を作る遺伝子をPとし、
白色花CCppと白色花ccPPを両親Pとすると、
その子F1はCcPpで有色花となる。
さらにその子F2は、C-P-:C-pp:ccP-:ccpp=9:3:3:1で、有色花:白色花:白色花:白色花=9:3:3:1つまり有色花:白色花=9:7となる。
これはCとPの両方をもっていないと色素が作られないためである。
{|class="wikitable" style="text-align:center"
|-
|P||CCpp<br>白色花||×||ccPP<br>白色花
|-
| || ||↓||
|-
|F1|| ||CcPp<br>有色花||
|-
| || ||↓||
|-
|F2
|colspan="3"|9C-P-:3C-pp:3ccP-:1ccpp<br>9有色花:3白色花:3白色花:1白色花
|-
|}
==== 抑制遺伝子 ====
他の遺伝子の働きを抑制する遺伝子を'''抑制遺伝子'''(suppressor gene)と呼ぶ。
抑制遺伝子には、[[w:カイコガ|カイコガ]]のまゆの色などがある。
黄色遺伝子をY、Yの働きを抑制する遺伝子をIとし、
白まゆIIyyと黄まゆiiYYを両親Pとすると、
その子F1はIiYyで白まゆとなる。
さらにその子F2は、I-Y-:I-yy:iiY-:iiyy=9:3:3:1で、白まゆ:白まゆ:黄まゆ:白まゆ=9:3:3:1つまり白まゆ:黄まゆ=13:3となる。
これはIがYの働きを抑制するためである。
{|class="wikitable" style="text-align:center"
|-
|P||IIyy<br>白まゆ||×||iiYY<br>黄まゆ
|-
| || ||↓||
|-
|F1|| ||IiYy<br>白まゆ||
|-
| || ||↓||
|-
|F2
|colspan="3"|9I-Y-:3I-yy:3iiY-:1iiyy<br>9白まゆ:3白まゆ:3黄まゆ:1白まゆ
|-
|}
==== 伴性遺伝 ====
性染色体の中にあるが、性の決定以外の働きをもった遺伝子の遺伝現象のことを'''伴性遺伝'''(sex-linked inheritance)という。
伴性遺伝は形質の発現が性別によって異なり、
ヒトの赤緑色覚異常や血友病などに見られる。
ヒトの[[w:赤緑色覚異常|赤緑色覚異常]]の遺伝子は、X染色体上にある劣性遺伝子である。
:男性はそもそもX染色体を一つしかもたないので、そのX染色体に色覚異常遺伝子があれば、発症する。
:いっぽう女性は、X染色体を2つもつので、両方のX染色体に色覚異常遺伝子がある場合にだけ発症する。女性において線染色体の片方だけに色覚異常の遺伝子がある場合、発症はしない。(※ 範囲外: しかし保因者(ほいんしゃ)である。)
記号的に書けば、優性遺伝子と劣性遺伝子をそれぞれA,aと表すと、
X<sup>A</sup>、X<sup>a</sup>のように表す。この場合、X<sup>a</sup>が色覚異常の遺伝子である。
:男性では、X<sup>A</sup>Y、X<sup>a</sup>Yの2種類の遺伝子型があり、X<sup>a</sup>Yの場合のみ色覚異常となる。
:女性では、X<sup>A</sup>X<sup>A</sup>、X<sup>A</sup>X<sup>a</sup>、X<sup>a</sup>X<sup>a</sup>の3種類の遺伝子型があり、X<sup>a</sup>X<sup>a</sup>の場合のみ色覚異常となる。
このように、伴性遺伝は性別によって遺伝の仕方が異なる。
このようなメンデル遺伝的な理由もあって男性のほうが統計的には遺伝性の色覚異常は多いが、しかし女性でも遺伝性の色覚異常者はいる<ref>KIM E. BARRETT ほか原著改訂、岡田泰伸 監訳『ギャノング生理学 原著23版 』丸善株式会社、平成23年1月31日 発行、P233、節『クリニカルボックス 12-6 色覚異常』</ref>。
:※ しばしば、「色覚異常は男性だけ」のような誤解の書かれている医療入門書もあるが、そのような入門書の記述は間違いである。
=== 連鎖と組み換え ===
同じ染色体にある遺伝子が、配偶子形成の際に行動をともにすることを、遺伝子の連鎖(linkage)という。
1905年、イギリスの[[w:ウィリアム・ベーツソン|ウィリアム・ベーツソン]]は、
[[w:スイートピー|スイートピー]]の交雑実験から、
連鎖の現象を発見した。
生殖細胞の減数分裂のとき、相同染色体の一部が交換する現象を'''乗換え'''(crossover)という。
そのときに遺伝子の配列が変わることを'''組換え'''(Recombination)という。
遺伝子の組換えが起こる割合を'''組換え価'''()といい、パーセントで表される。
組み換え価を<math>l</math> %、組み換えの起こった配偶子数を<math>m</math>、全ての配偶子数を<math>n</math>と置くと、組み換え価は次のように求める。
<math>l</math>
<math>=</math>
<math>\frac{m}{n}</math>
<math>\times 100</math>
1926年、アメリカの[[w:トーマス・ハント・モーガン|トーマス・ハント・モーガン]]は、
異なる3つの形質に対し、組み換え価を求め、その組み換え価から遺伝子距離を求める'''三点交雑'''(three-point cross)により、
[[w:キイロショウジョウバエ|キイロショウジョウバエ]]の遺伝子の配列を図示し、これを'''染色体地図'''(chromosome map)と呼ぶ。
{{-}}
== 脚注 ==
<references/>
== 参考文献 ==
* 田中隆荘ほか『高等学校生物I』第一学習社、2004年2月10日発行、pp.110-154
* [https://web.archive.org/web/20141016171612/http://www.nhk.or.jp/kokokoza/library/2013/tv/seibutsu/ 『NHK高校講座 生物』第16-21回]
* [http://www.weblio.jp/cat/academic/sbtgy 生物学用語辞典 - Weblio 学問]
[[Category:高等学校教育|生1いてん]]
[[Category:生物学|高1いてん]]
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自然科学
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学校の帰りはいつもだけど、ハナちゃんの紹介であなたと一緒に帰ったの、遊びなれてる人だから?「あなたのお家はわかるのよ」そんなハナちゃんの思うこと
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これではヤバいわ学校を出ちゃ、氏神は来ないけど8時に校門開けるわよ、あなた学校登校したら?「少しは気持ちは楽でしょ」そんなハナちゃん思うこと
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一緒に遊ぶと言われたけれど、ナオくんにいじられるあなたの本気は有名か、人懐こくて私まで?「帰らぬつもりね放課後も」そんなハナちゃん思うこと
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白い服に赤いスカート、ハナちゃんはかわいいね昔の話をしたいけど、可愛い笑顔にどことなく?「嬉しい昔があるからよ」そんなハナちゃん思うこと
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== 高等学校の学習 ==
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*[[高等学校理数]]
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=== 基本分野 ===
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=== 応用分野 ===
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ガリア戦記 第3巻
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206904
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Linguae
449
/* 16節 */ 訳注等
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[[ガリア戦記]]> '''第3巻''' >[[ガリア戦記 第3巻/注解|注解]]
<div style="text-align:center">
<span style="font-size:20px; font-weight:bold; font-variant-caps: petite-caps; color:white; background: rgb(47,94,255);background: linear-gradient(180deg, rgba(47,94,255,1) 0%, rgba(24,56,255,1) 50%, rgba(0,8,255,1) 100%);"> C IVLII CAESARIS COMMENTARIORVM BELLI GALLICI </span>
<span style="font-size:40px; font-weight:bold; color:white; background: rgb(47,94,255);background: linear-gradient(180deg, rgba(47,94,255,1) 0%, rgba(24,56,255,1) 50%, rgba(0,8,255,1) 100%);"> LIBER TERTIVS </span>
</div>
[[画像:Gaule -56.png|thumb|right|150px|ガリア戦記 第3巻の情勢図(BC56年)。<br>黄色の領域がローマ領。桃色が同盟部族領。]]
{| id="toc" style="align:left;clear:all;" align="left" cellpadding="5"
! style="background:#ccccff; text-align:left;" colspan="2" | ガリア戦記 第3巻 目次
|-
| style="text-align:right; font-size: 0.86em;"|
'''[[#アルプス・オクトードゥールスの戦い|アルプス・オクトードゥールスの戦い]]''':<br />
'''[[#大西洋岸ウェネティー族の造反|大西洋岸ウェネティー族の造反]]''':<br />
<br />
'''[[#大西洋岸ウネッリ族の造反|大西洋岸ウネッリ族の造反]]''':<br />
'''[[#クラッススのアクィタニア遠征|クラッススのアクィタニア遠征]]''':<br />
<br />
'''[[#モリニ族・メナピイ族への遠征|モリニ族・メナピイ族への遠征]]''':<br />
| style="text-align:left; font-size: 0.86em;"|
[[#1節|01節]] |
[[#2節|02節]] |
[[#3節|03節]] |
[[#4節|04節]] |
[[#5節|05節]] |
[[#6節|06節]] <br />
[[#7節|07節]] |
[[#8節|08節]] |
[[#9節|09節]] |
[[#10節|10節]] <br />
[[#11節|11節]] |
[[#12節|12節]] |
[[#13節|13節]] |
[[#14節|14節]] |
[[#15節|15節]] |
[[#16節|16節]] <br />
[[#17節|17節]] |
[[#18節|18節]] |
[[#19節|19節]] <br />
[[#20節|20節]] <br />
[[#21節|21節]] |
[[#22節|22節]] |
[[#23節|23節]] |
[[#24節|24節]] |
[[#25節|25節]] |
[[#26節|26節]] |
[[#27節|27節]] <br />
[[#28節|28節]] |
[[#29節|29節]]
|}
<br style="clear:both;" />
__notoc__
==<span style="color:#009900;">はじめに</span>==
:<div style="color:#009900;width:85%;">前巻([[ガリア戦記 第2巻|ガリア戦記 第2巻]])の終わりで述べられたように、カエサルによってガッリアはほぼ平定されたと思われて、首都ローマで感謝祭が催されたほどであった。このため、本巻(第3巻)ではカエサル自身の遠征として記す内容はとても少ない。<br><br>本巻の[[#1節]]~[[#6節]]で言及される[[#アルプス・オクトードゥールスの戦い]]は、[[w:紀元前57年|BC57年]]秋頃に起こったと考えられるので、本来なら第2巻に含められるべきであるが、そうなると第3巻が20節ほどの非常に短い巻になってしまうので、第3巻の冒頭に置いたとも考えられる。<br><br>本巻(第3巻)の年([[w:紀元前56年|BC56年]])の春には、ガッリア遠征の遂行上きわめて重要な'''ルカ会談'''があったので、以下に補足する。</div>
<div style="background-color:#eee;width:75%;">
===コラム「ルカ会談」===
:::<span style="font-family:Times New Roman;font-size:13pt;">''[[w:en:Luca Conference|Luca Conference]]''</span>(英語記事)などを参照。
:<span style="color:#009900;">伝記作家[[ガリア戦記/注解編#プルータルコス『対比列伝』|プルータルコス]]によれば<ref>[[ガリア戦記/注解編#プルータルコス『対比列伝』|プルータルコス『対比列伝』]]の「カエサル」20,21</ref>、カエサルはベルガエ人との戦いを成し遂げると、前年に続いて'''パドゥス川'''〔[[w:la:Padus|Padus]] [[w:ポー川|ポー川]]〕流域で越冬しながら、ローマ政界への政治工作を続けた。例えば、カエサルを後援者とする選挙の立候補者たちが有権者を買収するための金銭をばらまいていた。ガッリア人捕虜を奴隷商人に売り払って得た莫大な金銭で。その結果、カエサルの金銭で当選した者たちの尽力で、属州総督カエサルへの新たな資金の支給が可決されるという具合であった。<br><br>そのうち、多くの名門貴族たちがカエサルに面会するために[[w:ルッカ|ルカ]]([[w:la:Luca|Luca]])の街へやって来た。<br>こうした中、[[w:紀元前56年|BC56年]]の4月に、カエサルと非公式の盟約([[w:三頭政治#第一回三頭政治|三頭政治]])を結んでいた[[w:マルクス・リキニウス・クラッスス|クラッスス]]と[[w:グナエウス・ポンペイウス|ポンペイウス]]もルカを訪れて、三者による会談が行われた。<br><br>首都ローマでは、三頭政治を後ろ盾とする[[w:ポプラレス|平民派]]の[[w:プブリウス・クロディウス・プルケル|クロディウス]](<span style="font-family:Times New Roman;">[[w:la:Publius Clodius Pulcher|Publius Clodius Pulcher]]</span>)が民衆に暴動をけしかけ、[[w:オプティマテス|門閥派]]のミロ(<span style="font-family:Times New Roman;">[[w:la:Titus Annius Milo|Titus Annius Milo]]</span>)と激しく抗争するなど、騒然としていた。このクロディウスの暴力的な手法は、クラッススとポンペイウスの関係を傷つけた。また、カエサルのガッリアでの輝かしい勝利に、二人とも不満を感じていた。このように三頭政治は綻び出していたのだ。<br><br>三人は三頭政治を延長することで合意した。カエサルは、クラッススとポンペイウスが翌年([[w:紀元前55年|BC55年]])の執政官に立候補すること、3属州の総督であるカエサルの任期がさらに5年間延長されること、などを求めた。<br><br>会談の結果、任期が大幅に延長されたカエサルの野望は、ガッリアに止まらず、[[w:ゲルマニア|ゲルマーニア]]や[[w:ブリタンニア|ブリタンニア]]の征服へと向かっていく。一方、再び執政官になった二人は、[[w:パルティア|パルティア]]を攻略するためにクラッススがシリア総督になることを決めるが、これはクラッススの命運とともに三頭政治の瓦解、カエサルとポンペイウスの関係悪化を招来することになる。
</span>
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:First Triumvirate of Caesar, Crassius and Pompey.jpg|thumb|right|500px|後に[[w:三頭政治#第一回三頭政治|三頭政治]](<span style="font-family:Times New Roman;">[[w:la:Triumviratus|Triumviratus]]</span>)と呼ばれることになる非公式な盟約を結んでいた、左から[[w:ガイウス・ユリウス・カエサル|カエサル]]、[[w:マルクス・リキニウス・クラッスス|クラッスス]]、[[w:グナエウス・ポンペイウス|ポンペイウス]]。<br>3人は、第3巻の戦いが始まる前に、ルカ会談で三頭政治の延長を決めた。]]
|}
</div>
</div>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
==アルプス・オクトードゥールスの戦い==
:<span style="font-family:Times New Roman;font-size:13pt;">''[[w:en:Battle of Octodurus|Battle of Octodurus]]''</span>(英語記事)<span style="font-family:Times New Roman;font-size:13pt;">''[[w:fr:Bataille d'Octodure|Bataille d'Octodure]]''</span>(仏語記事)などを参照。
===1節===
[[画像:Historische Karte CH Rome 1.png|thumb|right|300px|現在の[[w:スイス|スイス]]の帝制ローマ時代の地図。左下の三日月形の[[w:レマン湖|レマン湖]]の下方に、<span style="font-family:Times New Roman;">ALLOBROGES, NANTUATES, VERAGRI, SEDUNI</span> の部族名が見える。]]
[[画像:Afdaling vd San Bernardino - panoramio.jpg|thumb|right|300px|現在の[[w:グラン・サン・ベルナール峠|グラン・サン・ベルナール峠]]。ラテン語では <span style="font-family:Times New Roman;">[[w:la:Porta Magni Sancti Bernardi|Porta Magni Sancti Bernardi]] という。<br>スイスを縦断する[[w:欧州自動車道路|欧州自動車道路]] [[w:en:European route E27|E27]] が[[w:レマン湖|レマン湖]]からこの峠を通ってイタリアの[[w:アオスタ|アオスタ]]へ至る。</span>]]
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/1節]] {{進捗|00%|2022-04-23}}</span>
'''ガルバとローマ第12軍団が、ロダヌス川渓谷のオクトードゥールスにて冬営する'''
<br>
; カエサルが、ガルバと軍団・騎兵をアルプス地方へ派兵
*Cum in Italiam proficisceretur Caesar,
**カエサルは、イタリア〔[[w:ガリア・キサルピナ|ガッリア・キサルピーナ]]〕に出発していたときに、
*[[wikt:en:Servium|Servium]] Galbam cum [[w:en:Legio XII Fulminata|legione duodecima(XII.)]] et parte equitatus
**[[w:セルウィウス・スルピキウス・ガルバ (紀元前54年法務官)|セルウィウス・ガルバ]]を第12軍団および騎兵隊の一部とともに、
*in [[wikt:fr:Nantuates#Latin|Nantuates]], [[wikt:en:Veragri#Latin|Veragros]] Sedunosque misit,
**ナントゥアーテース族・ウェラーグリー族・セドゥーニー族(の領土)に派遣した。
*qui a finibus [[wikt:en:Allobroges#Latin|Allobrogum]] et lacu [[wikt:fr:Lemannus|Lemanno]] et flumine [[wikt:en:Rhodanus#Latin|Rhodano]] ad summas [[wikt:en:Alpes#Latin|Alpes]] pertinent.
**彼らはアッロブロゲース族の領土、レマンヌス湖〔[[w:レマン湖|レマン湖]]〕およびロダヌス川〔[[w:ローヌ川|ローヌ川]]〕から[[w:アルプス山脈|アルプス]]の頂きに及んでいる。
*Causa mittendi fuit,
**派遣の理由は(以下のこと)であった:
*quod iter per Alpes,
**アルプスを通る道は、
*quo magno cum periculo magnisque cum [[wikt:en:portorium|portoriis]] mercatores ire consuerant,
**大きな危険と多額の関税を伴って商人たちが旅することが常であったので、
*patefieri volebat.
**(カエサルは道が)開かれることを望んでいたのだ。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:現在の[[w:グラン・サン・ベルナール峠|グラン・サン・ベルナール峠]]を通ってスイスとイタリアを結ぶ道のことで、<br> 帝制初期に[[w:アウグストゥス|アウグストゥス]]によって街道が敷設された。<br> かつて[[w:ハンニバル|ハンニバル]]が越えたのは諸説あるが、この道であった可能性もある。<br> ローマ人がこの地に移入・育成した軍用犬は現在の[[w:セント・バーナード|セント・バーナード犬]]。)</span>
*Huic permisit, si opus esse arbitraretur, uti in his locis legionem hiemandi causa conlocaret.
**彼〔ガルバ〕に、もし必要と思われるならば、この地に軍団を[[w:冬営|冬営]]するために宿営させることを許可した。
[[画像:Servius Sulpicius Galba.jpg|thumb|right|300px|[[w:セルウィウス・スルピキウス・ガルバ (紀元前54年法務官)|セルウィウス・スルピキウス・ガルバ]]の横顔が刻まれた貨幣。ガルバは[[w:紀元前54年|BC54年]]([[ガリア戦記 第5巻|ガリア戦記 第5巻]]の年)に[[w:プラエトル|法務官]]に任官。内戦期もカエサルに従うが、暗殺計画に参画する。<br>[[w:ネロ|ネロ帝]]とともにユリウス家の王朝が途絶えると、ガルバの曽孫が[[w:ローマ内戦_(68年-70年)#四皇帝|四皇帝]]の一人目の[[w:ガルバ|ガルバ帝]]となった。このため[[w:ガイウス・スエトニウス・トランクィッルス|スエートーニウス]]『ローマ皇帝伝』の「ガルバ伝」にガルバへの言及がある<ref>[[s:la:De_vita_Caesarum_libri_VIII/Vita_Galbae#III.]]</ref>。]]
<br>
; ガルバが、諸部族を攻略して、軍団の冬営を決める
*Galba, secundis aliquot proeliis factis
**ガルバは、いくつかの優勢な戦いをして、
*castellisque compluribus eorum expugnatis,
**彼ら〔ガッリア諸部族〕の多くの砦が攻略されると、
*missis ad eum undique legatis
**彼〔ガルバ〕のもとへ四方八方から(諸部族の)使節たちが遣わされ、
*obsidibusque datis et pace facta,
**人質が供出されて、講和がなされたので、
*constituit
**(ガルバは、以下のことを)決めた。
*cohortes duas in Nantuatibus conlocare
**2個<ruby><rb>[[w:コホルス|歩兵大隊]]</rb><rp>(</rp><rt>コホルス</rt><rp>)</rp></ruby>をナントゥアーテース族(の領土)に宿営させること、
*et ipse cum reliquis eius legionis cohortibus
**(ガルバ)自身はその軍団の残りの<ruby><rb>歩兵大隊</rb><rp>(</rp><rt>コホルス</rt><rp>)</rp></ruby>とともに、
*in vico Veragrorum, qui appellatur [[wikt:en:Octodurus|Octodurus]], hiemare;
**オクトードゥールスと呼ばれているウェラーグリー族の村に冬営することを。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:オクトードゥールス([[wikt:en:Octodurus|Octodurus]])は現在の[[w:マルティニー|マルティニー市]]。)</span>
<br>
; ウェラーグリー族のオクトードゥールス村
*qui vicus positus in valle, non magna adiecta planitie,
**その村は、さほど大きくない平地に付随した渓谷の中に位置し、
*altissimis montibus undique continetur.
**とても高い山々で四方八方を囲まれている。
*Cum hic in duas partes flumine divideretur,
**これ〔村〕は川によって二つの部分に分け隔てられているので、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:現在の[[w:マルティニー|マルティニー]]の街中を、[[w:ローヌ川|ローヌ川]]の支流であるドランス川(''[[w:en:Drance|Drance]])が貫流している。)</span>
*alteram partem eius vici Gallis [ad hiemandum] concessit,
**その村の一方の部分をガッリア人に [越冬するために] 譲った。
*alteram vacuam ab his relictam cohortibus attribuit.
**もう一方の彼ら〔ガッリア人〕により空にされた方を、残りの<ruby><rb>歩兵大隊</rb><rp>(</rp><rt>コホルス</rt><rp>)</rp></ruby>に割り当てた。
*Eum locum vallo fossaque munivit.
**その地を堡塁と塹壕で守りを固めた。
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Martigny_1600.jpg|thumb|right|600px|かつてウェラーグリー族のオクトードゥールス村([[w:la:Octodurus|Octodurus]])があった所は、現在では[[w:スイス|スイス]]の[[w:マルティニー|マルティニー]]([[w:en:Martigny|Martigny]])市となっている。[[w:ローヌ川|ローヌ川]]が屈曲して流れる[[w:谷|渓谷]]地帯にある。]]
|}
</div>
<div style="background-color:#eee;width:77%;">
===コラム「ガルバの派遣とカティリーナ事件」===
:::関連記事:<span style="font-family:Times New Roman;font-size:13pt;">[[w:la:Catilinae coniuratio|Catilinae coniuratio]], ''[[w:en:Second Catilinarian conspiracy|Second Catilinarian conspiracy]]''</span>
:<span style="color:#009900;"> [[w:セルウィウス・スルピキウス・ガルバ (紀元前54年法務官)|セルウィウス・スルピキウス・'''ガルバ''']]にアルプス派兵を指揮させた理由について、カエサルは記していない。<br><br> [[w:紀元前63年|BC63年]]~[[w:紀元前62年|BC62年]]に、ローマの高官だった[[w:ルキウス・セルギウス・カティリナ|ルーキウス・セルギウス・'''カティリーナ''']]([[w:la:Lucius Sergius Catilina|Lucius Sergius Catilina]])がクーデタを企てるという大事件があった。'''[[w:マルクス・トゥッリウス・キケロ|キケロー]]'''が『[[w:カティリナ弾劾演説|カティリナ弾劾演説]]』で糾弾し、カエサルが事件の黒幕ではないかと取り沙汰された(スエートニウス<ref>[[s:la:De_vita_Caesarum_libri_VIII/Vita_divi_Iuli#XIV.]], [[s:la:De_vita_Caesarum_libri_VIII/Vita_divi_Iuli#XVII.|#XVII.]] を参照。</ref>)。<br> BC63年の[[w:プラエトル|法務官]][[w:ガイウス・ポンプティヌス|ガーイウス・'''ポンプティーヌス''']]がキケローを助けて事件を捜査し、アッロブロゲース族からカティリーナへ宛てた手紙を調べた。BC62年にポンプティーヌスは前法務官としてガッリア総督となり、事件に関与していたアッロブロゲース族を平定した。このとき、[[w:トリブヌス|副官]]としてポンプティーヌスを助けてアッロブロゲース族を攻めたのが'''ガルバ'''であった。総督がカエサルに替わっても、ガルバは副官として留任し、アッロブロゲース族の近隣部族の鎮定に努めていたわけである。<br> ポンプティーヌスは、一部の元老院議員の反対で、戦勝将軍の権利である[[w:凱旋式|凱旋式]]ができなかった。これを不満に思っていたガルバは、[[w:紀元前54年|BC54年]]に法務官になると尽力して、その年にポンプティーヌスの凱旋式を行なうことに成功した。
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Joseph-Marie Vien - The Oath of Catiline.jpg|thumb|right|320px|'''カティリーナの誓い'''(''Le Serment de Catiline'')<br>[[w:ジョゼフ=マリー・ヴィアン|ジョゼフ=マリー・ヴィアン]]画(1809年)。<hr>カティリーナと共謀者たちは、人間の血を混ぜたワインを飲んで誓いを立てる儀式を行なったと伝えられている。]]
|[[画像:The Discovery of the Body of Catiline.jpg|thumb|right|320px|'''カティリーナの遺骸の発見'''<br>(''Il ritrovamento del corpo di Catilina'')<br>''[[w:en:Alcide Segoni|Alcide Segoni]]'' 画(1871年)<hr>アッロブロゲース族のいるガッリアへ向かおうとしていたカティリーナは、[[w:ピストイア|ピストリア]]([[w:la:Pistorium|Pistoria]])の戦い(''[[w:en:Battle of Pistoia|Battle of Pistoia]]'')で戦死した。]]
|}
</div>
</div>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===2節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/2節]] {{進捗|00%|2022-05-05}}</span>
'''ガッリア人が再び挙兵して周囲の高峰を押さえ、第12軍団の冬営地を包囲'''
*Cum dies hibernorum complures transissent frumentumque eo comportari iussisset,
**冬営の多くの日々が過ぎ去って、穀物がそこに運び集められることを([[w:セルウィウス・スルピキウス・ガルバ (紀元前54年法務官)|ガルバ]]が)命じていたときに、
*subito per exploratores certior factus est
**突然に(以下のことが)[[w:偵察|偵察隊]]により報告された。
*ex ea parte vici, quam Gallis concesserat, omnes noctu discessisse
**ガッリア人たちに譲っていた村の一部から、皆が夜に立ち退いており、
*montesque, qui [[wikt:en:impendeo#Latin|impenderent]], a maxima multitudine Sedunorum et [[wikt:en:Veragri|Veragrorum]] teneri.
**そそり立つ山々がセドゥーニー族とウェラーグリー族のかなりの大勢により占拠されたのだ。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:ウェラーグリー族は既述のようにオクトードゥールス村 [[w:la:Octodurus|Octodurus]]〔現在の[[w:マルティニー|マルティニー市]]〕を、<br>セドゥーニー族 [[w:la:Seduni|Seduni]] はより上流のセドゥヌム [[w:la:Sedunum|Sedunum]]〔現在の[[w:シオン (スイス)|シオン市]]〕を首邑としていた。)</span>
*Id aliquot de causis acciderat,
**いくつかの理由から、起こっていたことには、
*ut subito Galli belli renovandi legionisque opprimendae consilium caperent:
**突如としてガッリア人が、戦争を再開して(ローマ人の)軍団を急襲する作戦計画を立てたのだ。
<br>
; 第1の理由:ガルバの第12軍団は、兵が割かれていて寡勢である
*primum, quod legionem neque eam plenissimam detractis cohortibus duabus
**というのも、第一に、総員がそろっていない軍団を ──2個<ruby><rb>[[w:コホルス|歩兵大隊]]</rb><rp>(</rp><rt>コホルス</rt><rp>)</rp></ruby>が引き抜かれていて、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:前節で既述のように、2個歩兵大隊をナントゥアーテース族のところに宿営させていたが、これはレマンヌス湖〔[[w:レマン湖|レマン湖]]〕に近いより下流の地域で、離れていたようだ。)</span>
*et compluribus singillatim, qui commeatus petendi causa missi erant, absentibus,
**多くの者たちが一人ずつ、糧食を求めるために派遣されていて不在である、──
*propter paucitatem despiciebant;
**(その第12軍団を)少数であるゆえに、見下していたからだ。
<br>
; 第2の理由:渓谷にいるローマ人は、山から攻め降りて来るガッリア人の飛道具を受け止められまい
*tum etiam, quod propter iniquitatem loci,
**それからさらに(ローマ勢が冬営している渓谷の)地の利の無さゆえ、
*cum ipsi ex montibus in vallem decurrerent et tela conicerent,
**(ガッリア勢)自身が山々から谷間に駆け下りて飛道具を投じたときに、
*ne primum quidem impetum suum posse sustineri existimabant.
**自分たちの最初の襲撃を(ローマ勢が)持ちこたえることができない、と判断していたので。
<br>
; 第3の理由:人質を取られて、属州に併合される前にローマ人を討て
*Accedebat, quod suos ab se liberos abstractos obsidum nomine dolebant,
**加えて、人質の名目で自分たちから引き離されている自分の子供たちのことを嘆き悲しんでいたので、
*et Romanos non solum itinerum causa, sed etiam perpetuae possessionis
**かつ、ローマ人たちは道(の開通)のためだけでなく、永続的な領有のためにさえも
*culmina Alpium occupare <u>conari</u>
**アルプスの頂上を占領すること、
*et ea loca finitimae provinciae adiungere
**および(ローマの)属州に隣接する当地を併合することを<u>企てている</u>、
*sibi persuasum habebant.
**と(ガッリア人たちは)確信していたのである。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===3節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/3節]] {{進捗|00%|2022-05-12}}</span>
'''ガルバが軍議を召集し、策を募る'''
*His nuntiis acceptis Galba,
**ガルバは、これらの報告を受け取ると、
*<u>cum</u> neque opus hibernorum munitionesque plene essent perfectae
**冬営の普請や防塁構築も十分に完成していなかったし、
*neque de frumento reliquoque commeatu satis esset provisum,
**穀物や他の糧秣も十分に調達されていなかった<u>ので</u>、
*quod deditione facta obsidibusque acceptis
**── というのも、降伏がなされて、人質が受け取られ、
*nihil de bello timendum existimaverat,
**戦争について恐れるべきことは何もない、と判断していたためであるが、──
*consilio celeriter convocato sententias exquirere coepit.
**軍議を速やかに召集して、意見を求め始めた。
<br>
;軍議
*Quo in consilio,
**その軍議において、
*<u>cum</u> tantum repentini periculi praeter opinionem accidisset
**これほどの不意の危険が、予想に反して起こっていたので、
*ac iam omnia fere superiora loca multitudine armatorum completa conspicerentur
**かつ、すでにほぼすべてのより高い場所が、武装した大勢の者たちで満たされていることが、見られていたので、
*neque subsidio veniri
**救援のために(援軍が)来られることもなかったし、
*neque commeatus supportari interclusis itineribus possent,
**糧秣が運び込まれることも、道が遮断されているので、できなかった<u>ので</u>、
*prope iam desperata salute non nullae eius modi sententiae dicebantur,
**すでにほぼ身の安全に絶望していた幾人かの者たちの'''以下のような'''意見が述べられていた。
*ut impedimentis relictis eruptione facta
**輜重を残して、出撃して、
*isdem itineribus quibus eo pervenissent ad salutem contenderent.
**そこへやって来たのと同じ道によって、安全なところへ急ぐように、と。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:レマンヌス〔[[w:レマン湖|レマン湖]]〕湖畔を通ってアッロブロゲース族領へ撤収することであろう。)</span>
*Maiori tamen parti placuit,
**しかしながら、大部分の者が賛成したのは、
*hoc reservato ad extremum consilio
**この考え(計画)を最後まで保持しておいて、
*interim rei eventum experiri et castra defendere.
**その間に、事の結果を吟味して、陣営を守備すること、であった。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===4節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/4節]] {{進捗|00%|2022-05-16}}</span>
'''ガッリア勢がガルバの陣営を急襲し、寡兵のローマ勢は劣勢に陥る'''
*Brevi spatio interiecto,
**(敵の来襲まで)短い間が介在しただけだったので、
*vix ut iis rebus quas constituissent conlocandis atque administrandis tempus daretur,
**決めておいた物事を配置したり遂行するための時間が、ほとんど与えられないほどであった。
*hostes ex omnibus partibus signo dato decurrere,
**敵方〔ガッリア勢〕があらゆる方向から、号令が出されて、駆け下りて来て、
*lapides [[wikt:en:gaesum|gaesa]]que in vallum conicere.
**石や投槍を堡塁の中に投げ込んだ。
*Nostri primo integris viribus fortiter propugnare
**我が方〔ローマ勢〕は、当初、体力が損なわれていないうちは勇敢に応戦して、
*neque ullum frustra telum ex loco superiore mittere,
**高所から、いかなる飛道具も無駄に投げることはなかった。
*et quaecumque<!--ut quaeque--> pars castrorum nudata defensoribus premi videbatur,
**陣営のどの部分であれ、防戦者たちがはがされて押され気味であることと思われれば、
*eo occurrere et auxilium ferre,
**(ローマ勢が)そこへ駆け付けて、支援した。
<br>
; 兵の多寡が、ローマ勢を追い込む
*sed hoc superari
**しかし、以下のことにより(ローマ勢は)打ち破られた。
*quod diuturnitate pugnae hostes defessi proelio excedebant,
**──戦いが長引いたことにより、疲れ切った敵たちは戦闘から離脱して、
*alii integris viribus succedebant;
**体力が損なわれていない他の者たちが交代していたのだ。──
*quarum rerum a nostris propter paucitatem fieri nihil poterat,
**我が方〔ローマ勢〕は少数であるゆえに、このような事〔兵の交代〕は何らなされ得なかった。
*ac non modo defesso ex pugna excedendi,
**疲弊した者にとっての戦いから離脱することの(機会)のみならず、
*sed ne saucio quidem eius loci ubi constiterat relinquendi ac sui recipiendi facultas dabatur.
**負傷した者にとってさえも、その持ち場を放棄することや(体力を)回復することの機会も与えられなかったのだ。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===5節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/5節]] {{進捗|00%|2022-05-29}}</span>
'''最後の土壇場で説得されたガルバが、疲労回復後の突撃に命運を賭ける'''
*<u>Cum</u> iam amplius horis sex continenter pugnaretur,
**すでに6時間より多く引き続いて戦われており、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:[[古代ローマの不定時法]]では、冬の日中の半日ほどである)</span>
*ac non solum vires sed etiam tela nostros deficerent,
**活力だけでなく飛道具さえも我が方〔ローマ勢〕には不足していたし、
*atque hostes acrius instarent
**敵方〔ガッリア勢〕はより激しく攻め立てていて、
*languidioribusque nostris
**我が方〔ローマ勢〕が弱り切っており、
*vallum scindere et fossas complere coepissent,
**(ガッリア勢は)防柵を破却したり、塹壕を埋め立てたりし始めていたし、
*resque esset iam ad extremum perducta casum,
**戦況はすでに最後の土壇場に陥っていた<u>ので</u>、
<br>
; 二人の軍団首脳バクルスとウォルセーヌスが、ガルバに敵中突破を説く
*[[wikt:en:P.|P.]] Sextius Baculus, primi pili centurio,
**<ruby><rb>[[w:プリムス・ピルス|首位百人隊長]]</rb><rp>(</rp><rt>プリームス・ピールス</rt><rp>)</rp></ruby>プーブリウス・セクスティウス・バクルス
**:<span style="color:#009900;">(訳注:[[w:la:Publius Sextius Baculus|Publius Sextius Baculus]] などの記事を参照。)</span>
*quem Nervico proelio compluribus confectum vulneribus diximus,
**──その者が[[w:ネルウィイ族|ネルウィイー族]]との戦いで多くの負傷で消耗したと前述した──
**:<span style="color:#009900;">(訳注:[[ガリア戦記 第2巻#25節|第2巻25節]]を参照。なお、[[ガリア戦記 第6巻#38節|第6巻38節]] でも言及される。)</span>
*et item [[wikt:en:C.#Latin|C.]] Volusenus, tribunus militum, vir et consilii magni et virtutis,
**および、[[w:トリブヌス・ミリトゥム|軍団次官]]ガーイウス・ウォルセーヌス ──卓越した判断力と武勇を持つ男──(の2人)は、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:''[[w:en:Gaius Volusenus|Gaius Volusenus]]'' などの記事を参照せよ。)</span>
*ad Galbam accurrunt
**ガルバのもとへ急いで来て、
*atque unam esse spem salutis docent, si eruptione facta extremum auxilium experirentur.
**身の安全のただ一つの希望は、出撃をして最後の救済策を試みるかどうかだ、と説く。
*Itaque convocatis centurionibus
**こうして、<ruby><rb>[[w:ケントゥリオ|百人隊長]]</rb><rp>(</rp><rt>ケントゥリオー</rt><rp>)</rp></ruby>たちが召集されて、
*celeriter milites certiores facit,
**(ガルバが以下のことを)速やかに兵士たちに通達する。
*paulisper intermitterent proelium
**しばらく戦いを中断して
*ac tantummodo tela missa exciperent seque ex labore reficerent,
**ただ投げられた飛道具を遮るだけとし、疲労から(体力を)回復するようにと、
*post dato signo ex castris erumperent,
**与えられた号令の後に陣営から出撃するように、
*atque omnem spem salutis in virtute ponerent.
**身の安全のすべての希望を武勇に賭けるように、と。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===6節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/6節]] {{進捗|00%|2022-06-05}}</span>
'''第12軍団がガッリア勢を破るが、ガルバはオクトードゥールスでの冬営を断念する'''
*Quod iussi sunt faciunt,
**(ローマ兵たちは)命じられたことをなして、
*ac subito omnibus portis eruptione facta
**突然に(陣営の)すべての門から出撃がなされ、
*neque cognoscendi quid fieret
**何が生じたのかを知ることの(機会)も
*neque sui colligendi hostibus facultatem relinquunt.
**(自軍の兵力を)集中することの機会も、敵方に残さない。
*Ita commutata fortuna
**こうして武運が変転して、
*eos qui in spem potiundorum castrorum venerant undique circumventos intercipiunt,
**(ローマ人の)陣営を占領することを期待してやって来ていた者たちを、至る所で包囲して<ruby><rb>屠</rb><rp>(</rp><rt>ほふ</rt><rp>)</rp></ruby>る。
*et ex hominum milibus amplius XXX{triginta},
**3万より多い人間が
*quem numerum barbarorum ad castra venisse constabat,
**それだけの数の蛮族が(ローマ)陣営のところへ来ていたのは、確実であったが、
*plus tertia parte interfecta
**3分の1より多く(の者)が<ruby><rb>殺戮</rb><rp>(</rp><rt>さつりく</rt><rp>)</rp></ruby>されて、
*reliquos perterritos in fugam coiciunt
**(ローマ勢は)残りの者たちを怖気づかせて敗走に追いやり、
*ac ne in locis quidem superioribus consistere patiuntur.
**(ガッリア勢は)より高い場所にさえ留まることさえ許されない。
*Sic omnibus hostium copiis fusis armisque exutis
**そのように敵方の全軍勢が撃破されて、武器が放棄されて、
*se intra munitiones suas recipiunt.
**(ローマ勢は)自分たちの防塁の内側に撤収する。
<br>
; ガルバがオクトードゥールスでの冬営を断念して、同盟部族領に撤退する
*Quo proelio facto,
**この戦いが果たされると、
*quod saepius fortunam temptare Galba nolebat
**──ガルバは、よりたびたび武運を試すことを欲していなかったし、
*atque alio se in hiberna consilio venisse meminerat,
**冬営に他の計画のために来ていたことを思い出していたが、
*aliis occurrisse rebus videbat,
**別の事態に遭遇したのを見ていたので、──
*maxime frumenti commeatusque inopia permotus
**とりわけ穀物や糧秣の欠乏に揺り動かされて、
*postero die omnibus eius vici aedificiis incensis
**翌日にその村のすべての建物が焼き討ちされて、
*in provinciam reverti contendit,
**(ガルバは)属州〔[[w:ガリア・キサルピナ|ガッリア・キサルピーナ]]〕に引き返すことを急ぐ。
*ac nullo hoste prohibente aut iter demorante
**いかなる敵によって妨げられることも、あるいは行軍が遅滞させられることもなく、
*incolumem legionem in Nantuates,
**軍団を無傷なままでナントゥアーテース族(の領土)に(連れて行き)、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:ナントゥアーテース族 ''[[w:en:Nantuates|Nantuates]]'' は、レマンヌス湖〔[[w:レマン湖|レマン湖]]〕の南東を領有していた部族。<br> [[#1節]]で、軍団のうち2個<ruby><rb>[[w:コホルス|歩兵大隊]]</rb><rp>(</rp><rt>コホルス</rt><rp>)</rp></ruby>を宿営させたことが述べられた。)</span>
*inde in Allobroges perduxit ibique hiemavit.
**そこから、アッロブロゲース族(の領土)に連れて行き、そこで冬営した。
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Amphitheaterforumclaudiival1.jpg|thumb|right|500px|オクトードゥールス(<span style="font-family:Times New Roman;">[[w:la:Octodurus|Octodurus]]</span>)、すなわち現在の[[w:マルティニー|マルティニー市]]に遺る帝制ローマ時代の円形競技場。オクトードゥールスは、<span style="font-family:Times New Roman;">Forum Claudii Vallensium</span> と改称され、[[w: クラウディウス|クラウディウス帝]]によって円形競技場が建てられた。<br>(<span style="font-family:Times New Roman;">''[[w:fr:Amphithéâtre de Martigny|Amphithéâtre de Martigny]]''</span> 等の記事を参照。)]]
|}
</div>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
==大西洋岸ウェネティー族の造反==
:::<span style="background-color:#ffd;">関連記事:[[w:モルビアン湾の海戦|モルビアン湾の海戦]]、''[[w:fr:Guerre des Vénètes|fr:Guerre des Vénètes]]'' 等を参照せよ。</span>
===7節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/7節]] {{進捗|00%|2022-06-12}}</span>
'''新たな戦争の勃発'''
*His rebus gestis
**これらの戦役が遂げられて、
*cum omnibus de causis Caesar pacatam Galliam existimaret,
**カエサルが、あらゆる状況についてガッリアは平定された、と判断していたときに、
*superatis Belgis,
**(すなわち)[[w:ベルガエ|ベルガエ人]]は征服され、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:第2巻で述べられたこと)</span>
*expulsis Germanis,
**[[w:ゲルマニア|ゲルマーニア]]人は駆逐され、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:第1巻で述べられた[[w:アリオウィストゥス|アリオウィストゥス]]との戦役のこと)</span>
*victis in [[wikt:en:Alpibus|Alpibus]] Sedunis,
**アルペース〔[[w:アルプス山脈|アルプス]]〕においてセドゥーニー族は打ち負かされて、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:[[#1節]]~[[#6節]]で述べられたこと)</span>
*atque ita inita hieme in [[wikt:en:Illyricum#Latin|Illyricum]] profectus esset,
**こうして冬の初めに(カエサルが)[[w:イリュリクム|イッリュリクム]]に出発していたときに、
*quod eas quoque nationes adire et regiones cognoscere volebat,
**──というのは、これら各部族を訪れて諸地方を知ることを欲していたからであるが、──
**:<span style="color:#009900;">(訳注:属州総督の職務として、巡回裁判を行う必要があったためであろう)</span>
*subitum bellum in Gallia coortum est.
**突然の戦争がガッリアで勃発したのである。
<br>
; 戦争の背景
*Eius belli haec fuit causa:
**その戦争の原因は、以下の通りであった。
*[[wikt:en:P.|P.]] Crassus adulescens cum legione septima(VII.)
**[[w:プブリウス・リキニウス・クラッスス|プーブリウス・クラッスス青年]]は、第7軍団とともに
**:<span style="color:#009900;">(訳注:三頭政治家[[w:マルクス・リキニウス・クラッスス|M. クラッスス]]の息子で、第1巻[[s:la:Commentarii_de_bello_Gallico/Liber_I#52|52節]]では騎兵隊の指揮官だった。<br> [[ガリア戦記_第2巻#34節|第2巻34節]]では、1個軍団とともに大西洋沿岸地方に派遣されたと述べられた。)</span>
*proximus mare Oceanum in Andibus hiemarat.
**<ruby><rb>大洋〔[[w:大西洋|大西洋]]〕</rb><rp>(</rp><rt>オーケアヌス</rt><rp>)</rp></ruby>に最も近いアンデース族(の領土)で冬営していた。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:アンデース族 Andes は、'''アンデカーウィー族''' [[w:la:Andecavi|Andecavi]], ''[[wikt:en:Andecavi|Andecavi]]'' と呼ばれることが多い。<br> 実際には大西洋岸から内陸側に寄っていたと考えられている。)</span>
*Is, quod in his locis inopia frumenti erat,
**彼〔クラッスス〕は、これらの場所においては穀物の欠乏があったので、
*praefectos tribunosque militum complures in finitimas civitates
**([[w:アウクシリア|支援軍]]の)<ruby><rb>[[w:プラエフェクトゥス|指揮官]]</rb><rp>(</rp><rt>プラエフェクトゥス</rt><rp>)</rp></ruby>たちや[[w:トリブヌス・ミリトゥム|軍団次官]]たちのかなりの数を、近隣諸部族のところへ
*frumenti (commeatusque petendi) causa dimisit;
**穀物や糧食を求めるために送り出した。
*quo in numero est [[wikt:en:T.#Latin|T.]] Terrasidius missus in Esuvios<!--/ Unellos Essuviosque-->,
**その人員のうち、ティトゥス・テッラシディウスは、エスウィイー族<!--ウネッリー族やエスウィイ族-->のところに遣わされ、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:テッラシディウスは騎士階級の将校。''[[w:en:Terrasidius|Terrasidius]]'' 参照。)</span>
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:エスウィイー族 ''[[w:en:Esuvii|Esuvii]]'' は、現在の[[w:オルヌ川|オルヌ川]]盆地の[[w:オルヌ県|オルヌ県]][[w:セー (オルヌ県)|セー]]~[[w:fr:Exmes|エム]]の辺りにいたらしい。)</span>
*[[wikt:en:M.#Latin|M.]] [[wikt:en:Trebius#Latin|Trebius]] Gallus in Coriosolităs,
**マールクス・トレビウス・ガッルスは、コリオソリテース族のところに(遣わされ)、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:''[[w:it:Marco Trebio Gallo|it:Marco Trebio Gallo]]'' 等参照)</span>
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:コリオソリテース族 ''[[w:en:Coriosolites|Coriosolites]]'' は、クーリオソリーテース ''[[wikt:en:Curiosolites|Curiosolites]]'' などとも呼ばれ、<br> 現在の[[w:コート=ダルモール県|コート=ダルモール県]]コルスール([[w:en:Corseul|Corseul]])の辺りにいたらしい。)</span>
*[[wikt:en:Q.|Q.]] [[wikt:en:Velanius#Latin|Velanius]] cum T. Sillio in Venetos.
**クゥイーントゥス・ウェラーニウスはティトゥス・シーッリウスとともに、[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]のところに(遣わされた)。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:''[[w:it:Quinto Velanio|it:Quinto Velanio]], [[w:it:Tito Silio|it:Tito Silio]]'' 等参照。)</span>
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]] ''[[w:en:Veneti (Gaul)|Veneti (Gaul)]]'' は、[[w:アルモリカ|アルモリカ]]南西部、現在の[[w:モルビアン県|モルビアン県]]辺りにいた。)</span>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===8節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/8節]] {{進捗|00%|2022-06-13}}</span>
'''ウェネティー族らの動き'''
<br>
; 沿海地方を主導するウェネティー族
*Huius est civitatis longe amplissima auctoritas omnis orae maritimae regionum earum,
**この部族〔ウェネティー族〕の<ruby><rb>影響力</rb><rp>(</rp><rt>アウクトーリタース</rt><rp>)</rp></ruby>は、海岸のその全地方の中でずば抜けて大きい。
*quod et naves habent Veneti plurimas,
**── というのは、[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]は、最も多くの船舶を持っており、
*quibus in Britanniam navigare consuerunt,
**それら〔船団〕によって[[w:ブリタンニア|ブリタンニア]]に航海するのが常であり、
*et scientia atque usu rerum nauticarum ceteros antecedunt
**かつ[[w:海事|海事]]の知識と経験において他の者たち〔諸部族〕をしのいでおり、
*et in magno impetu maris atque aperto <Oceano>
**かつ海のたいへんな荒々しさと開けた<<ruby><rb>大洋〔[[w:大西洋|大西洋]]〕</rb><rp>(</rp><rt>オーケアヌス</rt><rp>)</rp></ruby>>において、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:<Oceano> は写本になく、挿入提案された修正読み)</span>
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[w:大陸棚|大陸棚]]が広がる[[w:ビスケー湾|ビスケー湾]]は、世界最大12mの大きな[[w:潮汐|干満差]]と、<br> 北西風による激しい嵐で知られる<ref>[https://kotobank.jp/word/%E3%83%93%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%83%BC%E6%B9%BE-119819 ビスケー湾とは - コトバンク]</ref>。)</span>
*paucis portibus interiectis,
**わずかの港が介在していて、
*quos tenent ipsi,
**彼ら自身〔ウェネティー族〕がそれら〔港湾〕を制していて、
*omnes fere qui eo mari uti consuerunt, habent vectigales.
**その海を利用するのが常であった者たち〔部族〕ほぼすべてを、貢税者としていたのだ。──
<br>
; ウェネティー族が、クラッススの使節たちを抑留する
*Ab his fit initium retinendi Sillii atque Velanii,
**彼ら〔ウェネティー族〕によって、シーッリウスとウェラーニウスを拘束することが皮切りとなる。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:2人は、前節([[#7節]])でウェネティー族への派遣が述べられた使節)</span>
*<u>et si quos intercipere potuerunt</u>
**何らかの者たちを捕えることができたのではないか、と。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:下線部は、β系写本だけの記述で、α系写本にはない。)</span>
*quod per eos suos se obsides, quos Crasso dedissent, recuperaturos existimabant.
**というのは、彼らを介して、[[w:プブリウス・リキニウス・クラッスス|クラッスス]]に差し出されていた己の人質たちを取り戻すことができると考えていたのである。
<br>
*Horum auctoritate finitimi adducti,
**彼ら〔ウェネティー族〕の影響力によって、近隣の者たち〔諸部族〕が動かされて、
*ut sunt Gallorum subita et repentina consilia,
**──ガッリア人の判断力というものは、思いがけなく性急なものであるが、──
*eadem de causa Trebium Terrasidiumque retinent
**同じ理由によりトレビウスとテッラシディウスを拘束する。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:トレビウスは、前節でコリオソリテース族に派遣された。<br> テッラシディウスは、前節でエスウィイー族に派遣された。)</span>
*et celeriter missis legatis
**そして速やかに使節が遣わされて、
*per suos principes inter se coniurant
**自分らの領袖たちを通して互いに誓約する。
*nihil nisi communi consilio acturos eundemque omnes fortunae exitum esse laturos,
**合同の軍議なしには何も実施しないであろうし、皆が命運の同じ結果に耐えるであろう、と。
*reliquasque civitates sollicitant,
**残りの諸部族を扇動する。
*ut in ea libertate quam a maioribus acceperint, permanere quam Romanorum servitutem perferre malint.
**ローマ人への隷属を辛抱することより、むしろ先祖から引き継いでいた自由に留まることを欲すべし、と。
<br>
*Omni ora maritima celeriter ad suam sententiam perducta
**すべての海岸(の諸部族)が速やかに自分たち〔ウェネティー族〕の見解に引き込まれると、
*communem legationem ad [[wikt:en:Publium|Publium]] Crassum mittunt,
**共同の使節を[[w:プブリウス・リキニウス・クラッスス|プーブリウス・クラッスス]]のもとへ遣わす。
*si velit suos recuperare, obsides sibi remittat.
**もし味方の者たち〔ローマ人〕を取り戻すことを望むならば、自分たち〔諸部族〕の人質たちを返すように、と。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===9節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/9節]] {{進捗|00%|2022-06-19}}</span>
{{Wikipedia|la:Liger| Liger }}
'''カエサル到着、ウェネティー族らの作戦と開戦準備'''
; カエサルが、海戦の準備を手配してから、沿岸地域に急ぐ
*Quibus de rebus Caesar a Crasso certior factus,
**以上の事について、カエサルは[[w:プブリウス・リキニウス・クラッスス|クラッスス]]により報知されると、
*quod ipse aberat longius,
**(カエサル)自身は非常に遠くに離れていたので、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:[[#コラム「ルカ会談」|#ルカ会談]]などローマへの政界工作のために属州にいたと考えられている。)</span>
*naves interim longas aedificari in flumine [[wikt:la:Liger#Latine|Ligeri]], quod influit in Oceanum,
**その間に<u>軍船</u>が<ruby><rb>大洋〔[[w:大西洋|大西洋]]〕</rb><rp>(</rp><rt>オーケアヌス</rt><rp>)</rp></ruby>に流れ込むリゲル川〔[[w:ロワール川|ロワール川]]〕にて建造されること、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:艦隊 [[w:la:Classis Romana|classis]] の主力として戦う[[w:ガレー船|ガレー船]]は「長船」[[w:la:Navis longa|navis longa]] と呼ばれていた。<br> これに対して、軍需物資を運搬する輸送船は [[w:la:Navis actuaria|navis actuaria]] と呼ばれていた。)</span>
*remiges ex provincia institui,
**<ruby><rb>漕ぎ手</rb><rp>(</rp><rt>レーメクス</rt><rp>)</rp></ruby>が属州〔[[w:ガリア・トランサルピナ|ガッリア・トランサルピーナ]]〕から採用されること、
*nautas gubernatoresque comparari iubet.
**<ruby><rb>[[w:船員|水夫]]</rb><rp>(</rp><rt>ナウタ</rt><rp>)</rp></ruby>や<ruby><rb>操舵手</rb><rp>(</rp><rt>グベルナートル</rt><rp>)</rp></ruby>が徴募されること、を命じる。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:船尾の「<ruby><rb>[[w:舵|舵]]</rb><rp>(</rp><rt>かじ</rt><rp>)</rp></ruby>」が発明されたのは[[w:漢|漢代]]の中国であって、古代西洋の船に<ruby><rb>舵</rb><rp>(</rp><rt>かじ</rt><rp>)</rp></ruby>はない。<br> 船の操舵手は「<ruby><rb>舵櫂</rb><rp>(</rp><rt>かじかい</rt><rp>)</rp></ruby>」(''[[w:en:Steering oar|steering oar]]'') という[[w:櫂|櫂]]の一種を用いて操船したらしい。)</span>
<br>
*His rebus celeriter administratis ipse,
**これらの事柄が速やかに処理されると、(カエサル)自身は
*cum primum per anni tempus potuit, ad exercitum contendit.
**年のできるだけ早い時季に、軍隊のもとへ急いだ。
<br>
; ウェネティー族らが、使節団拘留の重大さを勘案して、海戦の準備を進める
*Veneti reliquaeque item civitates cognito Caesaris adventu
**[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]と残りの部族もまた、カエサルの到着を知り、
*<span style="color:#009900;"><</span>et de recipiendis obsidibus spem se fefellise<span style="color:#009900;">></span> certiores facti,
**<span style="color:#009900;"><</span>かつ人質を取り戻すという希望に惑わされたことを<span style="color:#009900;">></span> 知らされて、
*simul quod quantum in se facinus admisissent intellegebant,
**同時に、どれほど大それた行為を自分たちが侵していたかを判断していたので、
*<span style="color:#009900;">[</span>legatos, quod nomen ad omnes nationes sanctum inviolatumque semper fuisset,
**──(すなわち)あらゆる種族のもとでその名が神聖かつ不可侵の、使節たちが
*retentos ab se et in vincula coniectos,<span style="color:#009900;">]</span>
**自分たちによって拘束され、鎖につながれていたわけだが、──
*pro magnitudine periculi bellum parare
**危機の重大さに見合う戦争を準備すること、
*et maxime ea quae ad usum navium pertinent providere instituunt,
**とりわけ船団を運用するために役立つところのものを調達すること、を着手する。
*hoc maiore spe quod multum natura loci confidebant.
**地勢を大いに信じていた点に大きな期待をして。
<br>
*Pedestria esse itinera concisa aestuariis,
**(ローマ勢の)歩兵の行軍路は入江で遮断されるし、
*navigationem impeditam propter inscientiam locorum paucitatemque portuum sciebant,
**土地の不案内と港の少なさのゆえに航行が妨げられることを(ウェネティー族らは)知っていた。
*neque nostros exercitus propter inopiam frumenti diutius apud se morari posse confidebant;
**穀物の欠乏のゆえに、我が軍〔ローマ軍〕がより長く彼らのもとに留まることができないと(ウェネティー族らは)信じ切っていた。
<br>
*ac iam ut omnia contra opinionem acciderent,
**やがて、すべてのことが予想に反して生じたとしても、
*tamen se plurimum navibus posse, quam Romanos neque ullam facultatem habere navium,
**けれども自分たち〔ウェネティー族ら〕は艦船において、艦船の備えを何ら持たないローマ人よりも大いに優勢であり、
*neque eorum locorum, ubi bellum gesturi essent, vada, portus, insulas novisse;
**戦争を遂行しようとしているところの浅瀬・港・島に(ローマ人は)不案内であった(と信じ切っていた)。
<br>
*ac longe aliam esse navigationem in concluso mari atque in vastissimo atque apertissimo Oceano perspiciebant.
**閉ざされた海〔[[w:地中海|地中海]]〕と非常に広大で開けた大洋における航行はまったく別物であると見通していた。
<br>
*His initis consiliis
**この作戦計画が決められると、
*oppida muniunt,
**<ruby><rb>[[w:オッピドゥム|城塞都市]]</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>の防備を固め、
*frumenta ex agris in oppida comportant,
**穀物を耕地から<ruby><rb>城塞都市</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>に運び込み、
*naves in [[wikt:en:Venetia#Latin|Venetiam]], ubi Caesarem primum (esse) bellum gesturum constabat, quam plurimas possunt, cogunt.
**カエサルが最初の戦争を遂行するであろうことが明白であったところの[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]領に、ありったけの艦船を集める。
<br>
*Socios sibi ad id bellum
**この戦争のために(ウェネティー族は)自分たちのもとへ同盟者として
*[[wikt:en:Osismi#Latin|Osismos]], [[wikt:en:Lexovii#Latin|Lexovios]], [[wikt:en:Namnetes#Latin|Namnetes]], Ambiliatos, [[wikt:en:Morini#Latin|Morinos]], [[w:en:Diablintes|Diablintes]], [[wikt:en:Menapii#Latin|Menapios]] adsciscunt;
**<span style="font-size:10pt;">オスィスミー族・レクソウィイー族・ナムネーテース族・アンビリアーティー族・モリニー族・ディアブリンテース族・メナピイー族</span> を引き入れる。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:アンビリアーティー族 ➡ [[w:ガイウス・プリニウス・セクンドゥス|プリニウス]]は「アンビラトリー族」 [[wikt:en:Ambilatri#Latin|Ambilatri]] と記す。<br> ディアブリンテース族 ➡ プリニウスは「ディアブリンティー族」 [[wikt:en:Diablinti#Latin|Diablinti]] と記す。<br> この部族は、アウレルキー族 ''[[w:en:Aulerci|Aulerci]]'' の支族。)</span>
*auxilia ex Britannia, quae contra eas regiones posita est, arcessunt.
**援軍を、この地域の向かい側に位置する[[w:ブリタンニア|ブリタンニア]]から呼び寄せた。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:援軍を出したという口実のもと、翌年カエサルがブリタンニアに侵攻することになる。)</span>
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Map of Aremorican tribes (Latin).svg|thumb|right|600px|[[w:アルモリカ|アルモリカ]](<span style="font-family:Times New Roman;font-size:13pt;">''[[w:en:Armorica|Armorica]]''</span> )の部族分布図。
]]
|}
</div>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===10節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/10節]] {{進捗|00%|2022-07-02}}</span>
'''カエサルの開戦への大義名分'''
*Erant hae difficultates belli gerendi, quas supra ostendimus,
**上で指摘したような、戦争を遂行することの困難さがあった。
*sed tamen multa Caesarem ad id bellum incitabant:
**にもかかわらず、多くのことがカエサルをその戦争へと駆り立てていたのだ。
*iniuria retentorum equitum Romanorum,
**①ローマ人の[[w:エクィテス|騎士]]〔騎士階級の者〕たちが拘束されることの無法さ、
*rebellio facta post deditionem,
**②降伏の後でなされた造反、
*defectio datis obsidibus,
**③人質を供出しての謀反、
*tot civitatum coniuratio,
**④これほど多くの部族の共謀、
*in primis ne hac parte neglecta reliquae nationes sibi idem licere arbitrarentur.
**⑤何よりも第一に、この地方をなおざりにして、残りの種族が自分たちも同じことを許容されると思い込まないように。
*Itaque cum intellegeret
**そこで、(カエサルは以下のように)認識していたので、
*omnes fere Gallos novis rebus studere et ad bellum mobiliter celeriterque excitari,
**①ほぼすべてのガリア人が政変を熱望して、戦争へ簡単に速やかに奮い立たせられていること、
*omnes autem homines natura libertati studere incitari et condicionem servitutis odisse,
**②他方ですべての人間は本来的に自由を熱望することに扇動され、隷属の状態を嫌っていること、
*prius quam plures civitates conspirarent,
**多くの部族が共謀するより前に、
*partiendum sibi ac latius distribuendum exercitum putavit.
**(カエサルは)自分にとって軍隊が分けられるべき、より広範に割り振られるべきであると考えた。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===11節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/11節]] {{進捗|00%|2022-07-03}}</span>
'''ラビエーヌス、クラッスス、サビーヌス、ブルートゥスを前線へ派兵する'''
<br><br>
; 副官ラビエーヌスをトレウェリー族のもとへ遣わす
*Itaque [[wikt:en:Titum|T.]] [[wikt:en:Labienus#Latin|Labienum]] legatum in [[wikt:en:Treveri#Latin|Treveros]], qui proximi flumini Rheno sunt, cum equitatu mittit.
**こうして、<ruby><rb>[[w:レガトゥス|副官]]</rb><rp>(</rp><rt>レガトゥス</rt><rp>)</rp></ruby>[[w:ティトゥス・ラビエヌス|ティトゥス・ラビエーヌス]]をレーヌス川〔[[w:ライン川|ライン川]]〕に最も近いトレーウェリー族に、騎兵隊とともに派遣する。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[w:la:Titus Labienus|Titus Labienus]] は、『ガリア戦記』におけるカエサルの片腕。<br> ''[[w:en:Treveri|Treveri]]'' はローマの同盟部族だが、[[ガリア戦記_第5巻|第5巻]]・[[ガリア戦記_第6巻|第6巻]]で挙兵する。)</span>
*Huic mandat,
**彼に(以下のように)命じる。
*[[wikt:en:Remi#Latin|Remos]] reliquosque [[wikt:en:Belgas|Belgas]] adeat atque in officio contineat
**①レーミー族やほかの[[w:ベルガエ|ベルガエ人]]を訪れて、<ruby><rb>忠実さ</rb><rp>(</rp><rt>オッフィキウム</rt><rp>)</rp></ruby>に留めるように、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:''[[w:en:Remi|Remi]]'' は、ローマの同盟部族で、[[ガリア戦記_第2巻#3節|第2巻3節]]以降で言及された。)</span>
*[[wikt:en:Germanos|Germanos]]que, qui auxilio a Gallis arcessiti dicebantur,
**②ガッリア人により援兵として呼び寄せられたといわれていた[[w:ゲルマニア|ゲルマーニア]]人が
**:<span style="color:#009900;">(訳注:第1巻で言及された[[w:アリオウィストゥス|アリオウィストゥス]]の軍勢のこと。)</span>
*si per vim navibus flumen transire conentur, prohibeat.
**(彼らが)もし力ずくで船で川を渡ることを試みるならば、防ぐように、と。
<br>
; クラッスス青年をアクィーターニアに派遣する
*[[wikt:en:Publium|P.]] [[wikt:en:Crassus#Latin|Crassum]] cum cohortibus legionariis XII(duodecim) et magno numero equitatus in Aquitaniam proficisci iubet,
**[[w:プブリウス・リキニウス・クラッスス|プーブリウス・クラッスス]]には、軍団の12個<ruby><rb>[[w:コホルス|歩兵大隊]]</rb><rp>(</rp><rt>コホルス</rt><rp>)</rp></ruby>と多数の騎兵隊とともに、[[w:アクィタニア|アクィーターニア]]に出発することを命じる。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[w:la:Publius Licinius Crassus|Publius Licinius Crassus]]、[[#7節]]から既述。)</span>
*ne ex his nationibus auxilia in Galliam mittantur ac tantae nationes coniungantur.
**これらの種族から援兵がガッリアに派遣され、これほど多くの諸部族が結託することがないように。
<br>
; 副官サビーヌスを3個軍団とともに[[w:アルモリカ|アルモリカ]]北部へ派兵する
*[[wikt:en:Quintum#Latin|Q.]] [[wikt:en:Titurius#Latin|Titurium]] Sabinum legatum cum legionibus tribus
**副官[[w:クィントゥス・ティトゥリウス・サビヌス|クィーントゥス・ティトゥリウス・サビーヌス]]を3個軍団とともに
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:''[[w:en:Quintus Titurius Sabinus|Quintus Titurius Sabinus]]'' は[[ガリア戦記_第2巻#5節|第2巻5節]]から言及されている『ガリア戦記』前半で活躍する副官。)</span>
*in [[wikt:en:Unelli#Latin|Unellos]](Venellos), Coriosolităs [[wikt:en:Lexovii#Latin|Lexovios]]que mittit, qui eam manum distinendam curet.
**ウネッリー族・コリオソリテース族・レクソウィイー族に派遣して、彼らの手勢を分散させるべく配慮するように。
<br>
; ブルートゥス青年をウェネティー族領へ派兵する
*[[wikt:en:Decimus#Latin|D.]] [[wikt:en:Brutum|Brutum]] adulescentem classi Gallicisque navibus,
**[[w:デキムス・ユニウス・ブルトゥス・アルビヌス|デキムス・ブルートゥス青年]]に、(ローマの)艦隊とガッリア人の船団を、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[w:la:Decimus Iunius Brutus Albinus|Decimus Iunius Brutus Albinus]] は、カエサルの副官として活躍するが、後に暗殺に加わる。)</span>
*quas ex [[wikt:en:Pictones#Latin|Pictonibus]] et [[wikt:en:Santoni#Latin|Santonis]] reliquisque pacatis regionibus convenire iusserat,
**──これら(船団)はピクトネース族・サントニー族やほかの平定された地方から集まるように命じていたものであるが、──
*praeficit et, cum primum possit, in [[wikt:en:Veneti#Latin|Venetos]] proficisci iubet.
**(ブルートゥスに船団を)指揮させて、できるだけ早く[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]](の領土)に出発することを命じる。
<br>
*Ipse eo pedestribus copiis contendit.
**(カエサル)自身は、そこへ歩兵の軍勢とともに急ぐ。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===12節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/12節]] {{進捗|00%|2022-07-09}}</span>
'''ウェネティー族の城塞都市の地勢、海洋民の機動性'''
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Bretagne Finistere PointeduRaz15119.jpg|thumb|right|350px|ウェネティー族の[[w:オッピドゥム|城塞都市]]があった[[w:ブルターニュ半島|ブルターニュ半島]]の突き出た地形]]
|}
</div>
*Erant [[wikt:en:eiusmodi|eiusmodi]] fere situs oppidorum,
**([[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]の)<ruby><rb>[[w:オッピドゥム|城塞都市]]</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>の地勢はほぼ以下のようであった。
*ut posita in extremis [[wikt:en:lingula#Latin|lingulis]] [[wikt:en:promunturium#Latin|promunturiis]]que
**<ruby><rb>[[w:砂嘴|砂嘴]]</rb><rp>(</rp><rt>リングラ</rt><rp>)</rp></ruby>や[[w:岬|岬]]の先端部に位置しているので、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:en:lingula#Latin|lingula]] ⇒ [[w:la:Lingua terrae|lingua terrae]] (舌状地) ≒ <ruby><rb>[[w:砂嘴|砂嘴]]</rb><rp>(</rp><rt>さし</rt><rp>)</rp></ruby>(くちばし状の砂地)。)</span>
*neque pedibus aditum haberent, cum ex alto se [[wikt:en:aestus#Latin|aestus]] incitavisset,
**沖合から<ruby><rb>[[w:潮汐|潮 汐]]</rb><rp>(</rp><rt>アエトゥス</rt><rp>)</rp></ruby>が押し寄せて来たとき<span style="color:#009900;">〔満潮〕</span>に、徒歩での<ruby><rb>接近路</rb><rp>(</rp><rt>アプローチ</rt><rp>)</rp></ruby>を持っていなかった。
*quod bis accidit semper horarum XII(duodenarum) spatio,
**というのは<span style="color:#009900;">(満潮が毎日)</span>2度、常に12時間の間隔で起こるためである。
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Astronomical tide IJmuiden 21 January 2012.png|thumb|right|600px|ある日(24時間)の'''[[w:潮位|潮位]]'''予測グラフの例(2012年、オランダ北海沿岸のエイマイデン)。<br>満潮や干潮は、約12時間の周期で繰り返されることが多いため、たいてい1日2回ずつ生じる。]]
|}
</div>
*neque navibus,
**船で(のアプローチ)もなく、
*quod rursus minuente aestu naves in vadis adflictarentur.
**というのは、潮が再び減ると<span style="color:#009900;">〔干潮〕</span>、船団が[[w:浅瀬|浅瀬]]で損傷してしまうためである。
*Ita utraque re oppidorum oppugnatio impediebatur;
**このように<span style="color:#009900;">(陸路・海路)</span>どちらの状況においても、<ruby><rb>城塞都市</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>の攻略は妨げられていた。
<br><br>
*ac si quando magnitudine operis forte superati,
**あるとき、期せずして<span style="color:#009900;">(ウェネティー族がローマ人の)</span><ruby><rb>構造物</rb><rp>(</rp><rt>オプス</rt><rp>)</rp></ruby>の大きさに圧倒されて、
*extruso mari aggere ac molibus
**<span style="color:#009900;">(ローマ人が建造した)</span><ruby><rb>土手</rb><rp>(</rp><rt>アッゲル</rt><rp>)</rp></ruby>や<ruby><rb>[[w:防波堤|防波堤]]</rb><rp>(</rp><rt>モーレース</rt><rp>)</rp></ruby>により海水が押し出され、
*atque his oppidi moenibus adaequatis,
**これら<span style="color:#009900;">〔堡塁〕</span>が<ruby><rb>城塞都市</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>の城壁と<span style="color:#009900;">(高さにおいて)</span>等しくされ、
*suis fortunis desperare coeperant,
**<span style="color:#009900;">(ウェネティー族らが)</span>自分たちの命運に絶望し始めていたとしても、
*magno numero navium adpulso,
**船の多数を接岸して、
*cuius rei summam facultatem habebant,
**それら〔船〕の供給に最大の備えを持っていたので、
*omnia sua deportabant seque in proxima oppida recipiebant;
**自分たちの<ruby><rb>一切合財</rb><rp>(</rp><rt>オムニア</rt><rp>)</rp></ruby>を運び去って、最も近い<ruby><rb>城塞都市</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>に撤収していた。
*ibi se rursus isdem opportunitatibus loci defendebant.
**そこにおいて再び同じような地の利によって防戦していたのだ。
<br><br>
*Haec [[wikt:en:eo#Latin|eo]] facilius magnam partem aestatis faciebant,
**以上のことが、夏の大部分を<span style="color:#009900;">(ウェネティー族にとって)</span>より容易にしていた。
*quod nostrae naves [[wikt:en:tempestas#Latin|tempestatibus]] detinebantur,
**なぜなら、我が方〔ローマ人〕の船団は嵐により<span style="color:#009900;">(航行を)</span>阻まれており、
*summaque erat
**<span style="color:#009900;">(航行することの困難さが)</span>非常に大きかった。
*vasto atque aperto mari,
**海は広大で開けており、
*magnis aestibus,
**<ruby><rb>潮流</rb><rp>(</rp><rt>アエトゥス</rt><rp>)</rp></ruby>が激しく、
*raris ac prope nullis portibus
**港は<ruby><rb>疎</rb><rp>(</rp><rt>まば</rt><rp>)</rp></ruby>らでほとんどないので、
*difficultas navigandi.
**航行することの困難さが<span style="color:#009900;">(非常に大きかった)</span>。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===13節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/13節]] {{進捗|00%|2022-07-10}}</span>
'''ウェネティー族の帆船の特徴'''
<div style="background-color:#ededed; width:90%; text-align:center">
{|
|-
| colspan="2" |ウェネティー族の船の再現画(左下に兵士の大きさが示されている)
| rowspan="2" style="background-color:#fff;" |
| rowspan="2" style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Navis longa ja.JPG|thumb|right|350px|古代ローマの軍船([[w:ガレー船|ガレー船]])の構成]]
|-
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Navire venete.svg|thumb|right|200px|一つの帆をもつ帆船の例]]
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Navire venete 2.svg|thumb|right|200px|二つの帆をもつ帆船の例]]
|}
</div>
*Namque ipsorum naves ad hunc modum factae armataeque erant:
**これに対して彼ら<span style="color:#009900;">〔[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]〕</span>自身の[[w:帆船|船]]は、以下のやり方で建造され、<ruby><rb>[[w:艤装|艤装]]</rb><rp>(</rp><rt>ぎそう</rt><rp>)</rp></ruby>されていた。
; 竜骨
*[[wikt:en:carina#Latin|carinae]] [[wikt:en:aliquanto|aliquanto]] planiores quam nostrarum navium,
**<ruby><rb>[[w:竜骨 (船)|竜 骨]]</rb><rp>(</rp><rt>カリーナ</rt><rp>)</rp></ruby>は、我が方<span style="color:#009900;">〔ローマ人〕</span>の船のものよりも、いくらか平らで、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:[[w:竜骨 (船)|竜骨]]は、船底に突き出た背骨部分で、[[w:帆船|帆船]]が風で横滑りしないように造られていた。)</span>
*quo facilius vada ac decessum aestus excipere possent;
**それによって、より容易に[[w:浅瀬|浅瀬]] や [[w:潮汐|潮]]が退くこと<span style="color:#009900;">〔干潮〕</span>を持ち応えることができた。
; 船首と船尾
*[[wikt:en:prora#Latin|prorae]] admodum erectae atque item [[wikt:en:puppis|puppes]],
**<ruby><rb>[[w:船首|船 首]]</rb><rp>(</rp><rt>プローラ</rt><rp>)</rp></ruby>はまったく直立しており、<ruby><rb>[[w:船尾|船 尾]]</rb><rp>(</rp><rt>プッピス</rt><rp>)</rp></ruby>も同様で、
*ad magnitudinem fluctuum tempestatumque adcommodatae;
**<ruby><rb>[[w:波#波浪(風浪とうねり)|波 浪]]</rb><rp>(</rp><rt>フルークトゥス</rt><rp>)</rp></ruby> や <ruby><rb>[[w:嵐|暴風雨]]</rb><rp>(</rp><rt>テンペスタース</rt><rp>)</rp></ruby> の激しさに適応していた。
; 船体の材質
*naves totae factae ex [[wikt:en:robur#Latin|robore]] ad quamvis vim et contumeliam perferendam;
**船は、どんな力や衝撃にも耐えるために、全体として[[w:オーク|オーク材]]で造られていた。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:la:robur|robur]] は ''[[wikt:en:oak#English|oak]]'' と英訳され、[[w:樫#Japanese|樫]]と訳されることが多いが、<br> 「<ruby><rb>[[w:カシ|樫]]</rb><rp>(</rp><rt>カシ</rt><rp>)</rp></ruby>」は常緑樹であり、西洋では落葉樹である「<ruby><rb>[[w:ナラ|楢]]</rb><rp>(</rp><rt>ナラ</rt><rp>)</rp></ruby>」が多い。<br> 学名 [[w:la:Quercus robur|Quercus robur]] は「[[w:ヨーロッパナラ|ヨーロッパナラ]]」と訳される。)</span>
; 横梁
*[[wikt:en:transtrum#Latin|transtra]] ex pedalibus in altitudinem [[wikt:en:trabs#Latin|trabibus]], confixa [[wikt:en:clavus#Latin|clavis]] [[wikt:en:ferreus#Latin|ferreis]] digiti [[wikt:en:pollex#Latin|pollicis]] crassitudine;
**<ruby><rb>横梁(横木)</rb><rp>(</rp><rt>トラーンストルム</rt><rp>)</rp></ruby>は、1ペースの幅の<ruby><rb>材木</rb><rp>(</rp><rt>トラプス</rt><rp>)</rp></ruby>からなり、親指の太さほどの鉄製の[[w:釘|釘]]で固定されていた。
**:<span style="font-family:Times New Roman;color:#009900;">(訳注:1[[ガイウス・ユリウス・カエサルの著作/通貨・計量単位#ペース|ペース]]は約29.6cm。)</span>
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:en:transtrum#Latin|transtra]] は、<ruby><rb>[[w:マスト|帆柱]]</rb><rp>(</rp><rt>マスト</rt><rp>)</rp></ruby>([[wikt:en:malus#Etymology_3_2|malus]])を船に固定するための<ruby><rb>横梁(横木)</rb><rp>(</rp><rt>クロスビーム</rt><rp>)</rp></ruby>とも考えられる。)</span>
; 錨(いかり)の索具
*[[wikt:en:ancora#Latin|ancorae]] pro [[wikt:en:funis#Latin|funibus]] ferreis catenis revinctae;
**<ruby><rb>[[w:錨|錨]]</rb><rp>(</rp><rt>アンコラ</rt><rp>)</rp></ruby>は、<ruby><rb>[[w:ロープ|縄 索]]</rb><rp>(</rp><rt>フーニス</rt><rp>)</rp></ruby>の代わりに鉄製の[[w:鎖|鎖]]でつながれていた。
<div style="background-color:#eee; width:600px; text-align:center">
{|
|-
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Nemi 060 museo delle Navi.jpg|thumb|right|180px|[[w:la:Ancora|ancora]] ([[w:錨|錨]])(古代ローマ)]]
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Cordage en chanvre.jpg|thumb|right|150px|[[w:la:Funis|funis]] (綱の[[w:ロープ|ロープ]])]]
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Old chain.jpg|thumb|right|150px|[[w:la:Catena|catena]] ([[w:鎖|鎖]])]]
|}
</div>
<br>
; 帆の材質
*[[wikt:en:pellis#Latin|pelles]] pro [[wikt:en:velum#Latin|velis]] [[wikt:en:aluta#Latin|alutae]]que tenuiter confectae,
**<ruby><rb>[[w:帆布|帆 布]]</rb><rp>(</rp><rt>ウェールム</rt><rp>)</rp></ruby>の代わりに<ruby><rb>[[w:毛皮|毛皮]]</rb><rp>(</rp><rt>ペッリス</rt><rp>)</rp></ruby>や、薄く作製された<ruby><rb>なめし皮</rb><rp>(</rp><rt>アルータ</rt><rp>)</rp></ruby>が(用いられた)。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:en:pellis#Latin|pellis]] は<ruby><rb>鞣</rb><rp>(</rp><rt>なめ</rt><rp>)</rp></ruby>していない生皮、[[wikt:en:aluta#Latin|aluta]] は<ruby><rb>鞣</rb><rp>(</rp><rt>なめ</rt><rp>)</rp></ruby>した[[w:皮革|皮革]] [[wikt:en:corium#Latin|corium]] のこと。)</span>
<div style="background-color:#eee; width:600px; text-align:center">
{|
|-
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Linen canvas.jpg|thumb|right|150px|<ruby><rb>[[w:リネン|亜麻布]]</rb><rp>(</rp><rt>リネン</rt><rp>)</rp></ruby>の[[w:帆布|帆布]] ]]
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Kissen aus indischem Antilopenfell 2013.jpg|thumb|right|100px|[[w:la:Pellis|pellis]] ([[w:毛皮|毛皮]])]]
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Natural Bridge State Park (30337351644).jpg|thumb|right|200px|aluta ([[w:en:Tanning (leather)|なめし皮]])]]
|}
</div>
*[hae] sive propter inopiam [[wikt:en:linum#Latin|lini]] atque eius usus inscientiam,
**[これは] あるいは、<ruby><rb>[[w:アマ (植物)|亜麻]]</rb><rp>(</rp><rt>リーヌム</rt><rp>)</rp></ruby>の不足ゆえや、その利用に無知であるゆえか、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:ローマ人には、[[w:リネン|亜麻布 (リネン)]]で帆を作る慣習があった。)</span>
*sive eo, quod est magis [[wikt:en:verisimilis#Latin|veri simile]],
**あるいは、この方がより真実に近いのだろうが、
*quod tantas tempestates Oceani tantosque impetus ventorum sustineri
**<ruby><rb>[[w:オーケアノス|大洋]]〔[[w:大西洋|大西洋]]〕</rb><rp>(</rp><rt>オーケアヌス</rt><rp>)</rp></ruby>のあれほどの嵐や、風のあれほどの激しさに持ち応えること、
*ac tanta onera navium regi
**船のあれほどの重さを制御することは、
*[[wikt:en:velum#Latin|velis]] non satis commode posse arbitrabantur.
**<ruby><rb>帆 布</rb><rp>(</rp><rt>ウェールム</rt><rp>)</rp></ruby>にとって十分に具合良くできないと、<span style="color:#009900;">(ウェネティー族は)</span>考えていたためであろう。
<br><br>
; ウェネティー船団とローマ艦隊の優劣
*Cum his navibus nostrae classi eiusmodi congressus erat,
**彼ら<span style="color:#009900;">〔ウェネティー族〕</span>の船団と、我が方<span style="color:#009900;">〔ローマ軍〕</span>の艦隊は、以下のように交戦していた。
*ut una celeritate et pulsu remorum praestaret,
**迅速さと<ruby><rb>[[w:櫂|櫂]](かい)</rb><rp>(</rp><rt>レームス</rt><rp>)</rp></ruby>を<ruby><rb>漕</rb><rp>(</rp><rt>こ</rt><rp>)</rp></ruby>ぐのだけは<span style="color:#009900;">(ローマ艦隊が)</span>よりまさっていたのだが、
*reliqua pro loci natura, pro vi tempestatum
**そのほかのことは、地勢や嵐の勢いを考慮すると、
*illis essent aptiora et adcommodatiora.
**彼ら<span style="color:#009900;">〔ウェネティー族〕</span>にとってより適しており、より好都合であった。
*Neque enim his nostrae rostro nocere poterant
**なぜなら、我が方<span style="color:#009900;">〔ローマ艦隊〕</span>の<ruby><rb>[[w:衝角|衝 角]]</rb><rp>(</rp><rt>ローストルム</rt><rp>)</rp></ruby>によって彼ら<span style="color:#009900;">(の船)</span>に対して損壊することができず、
*── tanta in iis erat firmitudo ──,
**──それら<span style="color:#009900;">〔ウェネティー族の船〕</span>においては<span style="color:#009900;">(船体の)</span>それほどの頑丈さがあったのだが──
*neque propter altitudinem facile telum adigebatur,
**<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の船体の)</span>高さのゆえに、飛道具がたやすく投げ込まれなかったし、
*et eadem de causa minus commode <u>[[wikt:en:copula#Latin|copulis]]</u> continebantur.
**同じ理由から、あまり都合よく <ruby><rb><u>[[w:鉤縄|鉤縄]]</u></rb><rp>(</rp><rt>かぎなわ</rt><rp>)</rp></ruby> で<span style="color:#009900;">(敵船が)</span>つなぎ止められなかった。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:下線部は、古い写本では [[wikt:en:scopulus#Latin|scopulis]]「岩礁」だが、<br> 後代の写本で修正され「[[w:鉤縄|鉤縄]]」と解釈されている。下図参照。)</span>
<div style="background-color:#eee; width:350px; text-align:center">
{|
|-
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Grappling hook 2 (PSF).png|thumb|right|410px|[[w:海戦|海戦]]において敵船に[[w:移乗攻撃|接舷]]するために用いられていた、多数の<ruby><rb>[[w:鉤|鉤]]</rb><rp>(</rp><rt>かぎ</rt><rp>)</rp></ruby>を備えた<ruby><rb>[[w:銛|銛]]</rb><rp>(</rp><rt>もり</rt><rp>)</rp></ruby>の一種(<small>英語 [[wikt:en:grappling hook|grappling hook]]</small>)。<hr>[[内乱記_第1巻#57節|『内乱記』第1巻57節]]、[[内乱記_第2巻#6節|第2巻6節]]においても、[[w:デキムス・ユニウス・ブルトゥス・アルビヌス|D.ブルートゥス]]による'''[[内乱記/マッシリアについて|マッシリア攻囲]]'''の海戦の場面で、同様の鉤について言及される。]]
|}
</div>
*Accedebat ut,
**さらに加えて、
*cum <span style="color:#009900;">[</span>saevire ventus coepisset et<span style="color:#009900;">]</span> se vento dedissent,
**<span style="color:#009900;">[</span>風が荒々しく吹き始めて<span style="color:#009900;">]</span> 風に身を委ねて<span style="color:#009900;">(航行して)</span>いたときに、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:β系写本では [ ] 部分を欠く。)</span>
*et tempestatem ferrent facilius
**<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の船団は)</span>嵐により容易に耐えていたし、
*et in vadis consisterent tutius
**浅瀬により安全に停留して、
*et ab aestu relictae
**潮に取り残されても、
*nihil saxa et [[wikt:en:cautes#Latin|cautes]] timerent;
**岩石やごつごつした石を何ら恐れることがなかった。
*quarum rerum omnium nostris navibus casus erant extimescendi.
**それらのすべての事が、我が<span style="color:#009900;">〔ローマ人の〕</span>船団にとっては、恐怖すべき危険であったのだ。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:ウェネティー族の船は[[w:竜骨 (船)|竜骨]]がローマ人の船より平たいため、<br> 浅瀬や引き潮を容易に持ち応えられた。本節の冒頭を参照。)</span>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===14節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/14節]] {{進捗|00%|2022-07-17}}</span>
'''カエサル待望のブルートゥスの艦隊が来航し、ウェネティー族との海戦が始まる'''
*Compluribus expugnatis oppidis
**いくつもの<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の)</span><ruby><rb>[[w:オッピドゥム|城塞都市]]</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>が攻略されると、
*Caesar <u>ubi intellexit</u> frustra tantum laborem sumi
**カエサルは、これほどの労苦が無駄に費やされること(を知り)、
*neque hostium fugam captis oppidis reprimi
**(すなわち)<ruby><rb>城塞都市</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>が占領されても、敵の逃亡が阻まれないし、
*neque iis noceri posse,
**彼ら<span style="color:#009900;">〔ウェネティー族〕</span>に損害が与えられることも不可能である<u>と知るや否や</u>、
*statuit exspectandam classem.
**[[w:ローマ海軍|艦隊]]<span style="color:#009900;">(の到着)</span>を待つことを決意した。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:ローマの軍船がリゲル川〔[[w:ロワール川|ロワール川]]〕で建造されていることが[[#9節|9節]]で述べられた。)</span>
<br>
; ローマ艦隊が来航すると、約220隻のウェネティー船団が迎え撃とうとする
*Quae ubi convenit ac primum ab hostibus visa est,
**それ<span style="color:#009900;">〔ローマ艦隊〕</span>が集結して敵方により目撃されるや否や、
*circiter CCXX(ducentae viginti) naves eorum paratissimae
**約220隻の彼ら<span style="color:#009900;">〔ウェネティー族〕</span>の船団が準備万端を整え、
*atque omni genere armorum ornatissimae
**あらゆる種類の武器で完全武装された状態で
*ex portu profectae nostris adversae [[wikt:en:consisto#Latin|constiterunt]];
**港から出航して、我が方<span style="color:#009900;">〔ローマ艦隊〕</span>と向かい合って停止した。
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Bataille Morbihan -56.png|thumb|right|600px|[[w:紀元前56年|BC56年]]に現在の[[w:モルビアン県|モルビアン県]]沿いの[[w:キブロン湾|キブロン湾]]で戦われたと考えられている、[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]と[[w:デキムス・ユニウス・ブルトゥス・アルビヌス|D. ブルートゥス]]率いる艦隊との海戦、いわゆる「[[w:モルビアン湾の海戦|モルビアン湾の海戦]]」の海戦図。<hr>上図の説では、<span style="color:green;">ウェネティー族の帆船(緑色/約220隻)</span>と<span style="color:red;">ブルートゥス率いるローマのガレー船(赤色/約100隻)</span>が[[w:キブロン湾|キブロン湾]]で対峙し、<span style="color:red;">カエサルと1個軍団(赤色)</span>が沿岸を占領している。]]
|}
</div>
*neque satis [[wikt:en:Brutus#Latin|Bruto]], qui classi praeerat,
**艦隊を統率していた[[w:デキムス・ユニウス・ブルトゥス・アルビヌス|ブルートゥス]]には十分(明らか)ではなかった。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:デキムス・ブルートゥス [[w:la:Decimus Iunius Brutus Albinus|Decimus Brutus]] に艦隊を指揮させることが[[#11節|11節]]で述べられた。)</span>
*vel tribunis militum centurionibusque, quibus singulae naves erant attributae,
**あるいは、個々の船が割り当てられていた <ruby><rb>[[w:トリブヌス・ミリトゥム|兵士長官]]</rb><rp>(</rp><rt>トリブヌス・ミリトゥム</rt><rp>)</rp></ruby> や <ruby><rb>[[w:ケントゥリオ|百人隊長]]</rb><rp>(</rp><rt>ケントゥリオー</rt><rp>)</rp></ruby> にとってさえも、
*constabat quid agerent aut quam rationem pugnae insisterent.
**何をすべきなのか、どのような戦法に取り掛かるべきなのか、明らかではなかった。
*[[wikt:en:rostrum#Latin|Rostro]] enim noceri non posse cognoverant;
**なぜなら、<ruby><rb>[[w:衝角|衝 角]]</rb><rp>(</rp><rt>ローストルム</rt><rp>)</rp></ruby>にとって<span style="color:#009900;">(敵船に)</span>損害を与えることができないことを知っていたからだ。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:[[#13節|前節]]で、ウェネティー族の船体が頑丈であるため、と述べられた。)</span>
*turribus autem excitatis tamen has altitudo [[wikt:en:puppis#Latin|puppium]] ex barbaris navibus superabat,
**他方で、[[w:櫓|櫓]]が築かれたにもかかわらず、蛮族の船の <ruby><rb>[[w:船尾|船尾]]</rb><rp>(</rp><rt>プッピス</rt><rp>)</rp></ruby> の高さがそれら(の高さ)を上回っていた。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:ローマの軍船の甲板上には、投槍などの飛道具を投げるために櫓が設けられていた。)</span>
*ut neque ex inferiore loco satis commode [[wikt:en:telum#Latin|tela]] adigi possent
**その結果、より低い場所から十分に具合良く<span style="color:#009900;">(敵船に)</span><ruby><rb>[[w:飛び道具|飛道具]]</rb><rp>(</rp><rt>テールム</rt><rp>)</rp></ruby>が投げ込まれることは不可能で、
*et missa a Gallis gravius acciderent.
**ガッリア人により放られたものがより激しく降ってきていた。
<br>
; ローマ艦隊の切り札
*Una erat magno usui res praeparata a nostris,
**ただ一つの大いに役立つ物が、我が方<span style="color:#009900;">〔ローマ艦隊〕</span>によって準備されていた。
*[[wikt:en:falx#Latin|falces]] praeacutae insertae adfixaeque [[wikt:en:longurius#Latin|longuriis]],
**<span style="color:#009900;">(それは)</span>先の尖った[[w:鎌|鎌]]が <ruby><rb>長い竿</rb><rp>(</rp><rt>ロングリウス</rt><rp>)</rp></ruby> に挿入されて固定されたもので、
*non absimili forma muralium falcium.
**<ruby><rb><span style="color:#009900;">(攻城用の)</span>破城の鎌</rb><rp>(</rp><rt>ファルクス・ムーラーリス</rt><rp>)</rp></ruby> に形が似ていなくもない。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:「破城の鎌」'''[[古代ローマの攻城兵器#falx_muralis_(siege_hook)|falx muralis]]''' に似たもので、'''[[ガイウス・ユリウス・カエサルの著作/古代ローマの攻城兵器#falx_navalis|falx navalis]]''' とも呼ばれている。)</span>
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Caesar's Gallic war; (Allen and Greenough's ed.) (1898) (14778300381)(cropped).jpg|thumb|right|300px|破城鎌の復元画の例]]
|[[画像:Ulysse bateau.jpg|thumb|right|320px|帆柱・帆桁や帆・綱具などが描かれたローマ時代の[[w:モザイク|モザイク画]]<ref>[[w:en:Roman mosaic]]</ref>《[[w:オデュッセウス|オデュッセウス]]と[[w:セイレーン|セイレーン]]》<br>([[w:チュニス|チュニス]]の[[w:バルド国立博物館|バルド国立博物館]])]]
|}
</div>
*His cum [[wikt:en:funis#Latin|funes]] qui [[wikt:en:antemna#Latin|antemnas]] ad [[wikt:en:malus#Etymology_3_2|malos]] destinabant, comprehensi adductique erant,
**これによって、<ruby><rb>帆 桁</rb><rp>(</rp><rt>アンテムナ</rt><rp>)</rp></ruby> を <ruby><rb>[[w:マスト|帆 柱]]</rb><rp>(</rp><rt>マールス</rt><rp>)</rp></ruby> に縛り付けていた <ruby><rb>綱具</rb><rp>(</rp><rt>フーニス</rt><rp>)</rp></ruby> が捕捉されて引っ張られた状態で、
*navigio remis incitato praerumpebantur.
**<ruby><rb>艦艇</rb><rp>(</rp><rt>ナーウィギウム</rt><rp>)</rp></ruby>が[[w:櫂|櫂]]によってすばやく推進されると、<span style="color:#009900;">(綱具が)</span>引き裂かれていた。
*Quibus abscisis antemnae necessario concidebant,
**それら<span style="color:#009900;">〔綱具〕</span>が切断されると、<ruby><rb>帆 桁</rb><rp>(</rp><rt>アンテムナ</rt><rp>)</rp></ruby> は必然的に倒れてしまっていた。
*ut, cum omnis Gallicis navibus spes in velis armamentisque consisteret,
**その結果、ガッリア人の船団にとって、すべての期待は帆と索具に依拠していたので、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:en:armamentum#Latin|armamentum]] (英 ''[[wikt:en:rigging#English|rigging]]'')⇒「索具」:[[w:帆|帆]]と[[w:マスト|帆柱]]を支える綱や器具など。)</span>
*his ereptis omnis usus navium uno tempore eriperetur.
**これらが引き裂かれると、船のすべての運用能力も<ruby><rb>一時</rb><rp>(</rp><rt>いちどき</rt><rp>)</rp></ruby>に奪い取られていた。
*Reliquum erat certamen positum in virtute,
**残りの争闘は、武勇いかんに<ruby><rb>懸</rb><rp>(</rp><rt>か</rt><rp>)</rp></ruby>かっており、
*qua nostri milites facile superabant,
**その点では我が方<span style="color:#009900;">〔ローマ勢〕</span>の兵士たちが容易に上回っていた。
<br>
; 沿岸はカエサルとローマ軍によって占領されていた
*atque eo magis quod in conspectu Caesaris atque omnis exercitus res gerebatur,
**海戦がカエサルと全陸軍の眼前において遂行されていたので、それだけますます
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:en:classis#Latin|classis]] が艦隊(海軍)を指すのに対して、[[wikt:en:exercitus#Noun|exercitus]] は重装歩兵を主体とする陸軍部隊を指す。)</span>
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:en:eo#Etymology_3_2|eo]] [[wikt:en:magis#Latin|magis]] [[wikt:en:quod#Latin|quod]] ~ 「~だけ、ますます」)</span>
*ut nullum paulo fortius factum latere posset;
**(普通より)より少し勇敢ならどんな行動も知らずにはおかないほどであった。
*omnes enim colles ac loca superiora, unde erat propinquus despectus in mare, ab exercitu tenebantur.
**なぜなら、そこから海への眺望が近いところのすべての丘や高地は、<span style="color:#009900;">(ローマ人の)</span>軍隊によって占領されていたのである。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===15節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/15節]] {{進捗|00%|2022-07-28}}</span>
'''接舷戦でローマ艦隊がウェネティー船団を圧倒し、わずかな船だけが逃げ帰る'''
*Deiectis, ut diximus, antemnis,
**上述したように<ruby><rb>帆 桁</rb><rp>(</rp><rt>アンテムナ</rt><rp>)</rp></ruby>がぶっ倒れて、
*cum singulas binae ac ternae naves circumsteterant,
**<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の)</span>船1隻ずつを<span style="color:#009900;">(ローマの)</span>2隻ずつや3隻ずつが取り囲んでいたときに、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:ローマの[[w:ガレー船|ガレー船]]は、多数の漕ぎ手を乗せるため、兵士を大勢乗せることができなかった。<br> それゆえ、[[w:移乗攻撃|接舷戦]]では、敵の1隻に対して多くの船を当てる必要があったであろう。)</span>
*milites summa vi transcendere in hostium naves contendebant.
**<span style="color:#009900;">(ローマの)</span>兵士たちは最高の力で敵の船団に乗り移ることに努めていた。
*Quod postquam barbari fieri animadverterunt,
**そのことが行なわれていることに蛮族たちが気付いた後で、
*expugnatis compluribus navibus,
**かなり多くの<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の)</span>船が攻略されて、
*cum ei rei nullum reperiretur auxilium,
**その戦況に対して何ら助けを見出せなかったので、
*fuga salutem petere contenderunt.
**逃亡に身の安全を求めることに努めた。
*Ac iam conversis in eam partem navibus quo ventus ferebat,
**すでに風が運んでいた方角へ船団の向きが変えられていたが、
*tanta subito malacia ac tranquillitas exstitit,
**突如としてあれほどの<ruby><rb>[[w:凪|凪]]</rb><rp>(</rp><rt>なぎ</rt><rp>)</rp></ruby>や静けさが生じたので、
*ut se ex loco movere non possent.
**<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の船団が)</span>その場所から動くことができないほどであった。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:この[[w:ビスケー湾|ビスケー湾]]海域は、風や潮の勢いが強いため、<br> ウェネティー族は漕ぎ手を使わない帆船を用いていたのだろう。<br> 風力のみに頼る帆船は、無風時には進むことができない。)</span>
*Quae quidem res ad negotium conficiendum maximae fuit oportunitati:
**このような事態はまさに<span style="color:#009900;">(ローマ艦隊が)</span>軍務を遂行するために最大の機会であった。
*nam singulas nostri consectati expugnaverunt,
**実際、<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の船)</span>1隻ずつを我が方<span style="color:#009900;">(ローマ艦隊)</span>が追跡して攻略したので、
*ut perpaucae ex omni numero noctis interventu ad terram pervenirent,
**その結果<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の船の)</span>総数のうちごく少数が、夜のとばりに包まれて、陸地に達しただけであった。
*cum ab hora fere IIII.(quarta) usque ad solis occasum pugnaretur.
**<span style="color:#009900;">(海戦が)</span>ほぼ第四時から日が没するまで戦われていたけれども。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:第四時は、[[古代ローマの不定時法#昼間の時間|古代ローマの不定時法]]で日の出から3~4時間後。<br> フランスの6月頃なら、日の出が午前6時頃で、第四時は午前10時近くと思われる。<br> 6月頃なら、日の入は午後10時近くとかなり遅い。)</span>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===16節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/16節]] {{進捗|00%|2022-08-19}}</span>
'''ウェネティー族の行末'''
*Quo proelio bellum [[wikt:en:Veneti#Latin|Venetorum]] totiusque orae maritimae confectum est.
**以上の戦闘で、[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]およびすべての沿海部との戦争が完遂された。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:正確には、[[#17節|次節]]以降でウネッリー族ら残りの沿海部族との戦いが述べられるので「すべて」ではない。)</span>
*Nam <u>cum</u> omnis iuventus, omnes etiam gravioris aetatis,
**なぜなら、すべての青年とすべての年嵩の者さえも、
*in quibus aliquid consilii aut dignitatis fuit eo convenerant,
**何らかの分別や地位のあった者たちは、そこ<span style="color:#009900;">(戦場)</span>へ集まっていたから。
*<u>tum</u> navium quod ubique fuerat in unum locum coegerant;
**<u>そればかりか</u>、至る所にあった船<u>もまた</u>一つの場所に集められていたからだ。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:en:cum#Usage_notes_2|cum]] ~ [[wikt:en:tum#Latin|tum]] 「~のみならず、・・・もまた」<ref>[https://www.latin-is-simple.com/en/vocabulary/other/2643/ cum … tum - Latin is Simple Online Dictionary] 等を参照。</ref>)</span>
*quibus amissis reliqui
**それらを喪失して、残された者たちは、
*neque quo se reciperent
**どこを通って退却するのか、
*neque quemadmodum oppida defenderent habebant.
**どのような方法で<ruby><rb>[[w:オッピドゥム|城塞都市]]</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>を防衛するのかも、わからなかった。
*Itaque se suaque omnia Caesari dediderunt.
**こうして、<span style="color:#009900;">(ウェネティー族らは)</span>自らとその一切合財をカエサルに委ねた<span style="color:#009900;">〔降伏した〕</span>。
*In quos eo gravius Caesar vindicandum statuit
**これらの者たちを、カエサルはより厳重に処罰すると決定した。
*quo diligentius in reliquum tempus a barbaris ius legatorum conservaretur.
**将来、蛮族により<span style="color:#009900;">(ローマの)</span>使節たちの権利をいっそう保たせるように。
*Itaque omni senatu necato reliquos sub corona vendidit.
**こうして、すべての長老を殺害して、残りの者たちを葉冠をかぶせて<span style="color:#009900;">〔奴隷として〕</span>売却した。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:sub corona vendere 「葉冠のもとに売る=奴隷として売る」)</span>
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Jean-Léon Gérôme 004 (cropped).jpg|thumb|right|300px|葉冠を頭にかぶせられ、ローマの[[w:奴隷貿易|奴隷市場]]で競売に懸けられる女性奴隷。<hr>フランスの画家[[w:ジャン=レオン・ジェローム|ジャン=レオン・ジェローム]]が1884年に描いた歴史画「ローマの奴隷売却」(''[[w:fr:Vente d'esclaves à Rome|Vente d'esclaves à Rome]]'')の一部分。]]
|}
</div>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
==大西洋岸ウネッリ族の造反==
===17節===
[[画像:Campagne Unelles -56.png|thumb|right|200px|ウネッリ族・レクソウィイ族への遠征経路。]]
'''ウネッリ族の反乱とサビヌスの作戦'''
*Dum haec in Venetis geruntur,
**以上のことが[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]](の領国)で行なわれていた間に、
*Q. Titurius Sabinus cum iis copiis, quas a Caesare acceperat
**[[w:クィントゥス・ティトゥリウス・サビヌス|クィントゥス・ティトゥリウス・サビヌス]]は、カエサルから受け取った軍勢とともに
*in fines Unellorum{Venellorum} pervenit.
**[[w:ウネッリ族|ウネッリ族]]の領土に到着した。
*His praeerat Viridovix ac summam imperii tenebat earum omnium civitatum, quae defecerant,
**彼ら(ウネッリ族)を指揮していたのは[[w:ウィリドウィクス|ウィリドウィクス]]で、背反した全部族の最高指揮権を保持していた。
*ex quibus exercitum [magnasque copias] coegerat;
**(彼は)これら(の部族)から大軍勢を徴集した。
*atque his paucis diebus Aulerci Eburovices Lexoviique,
**それから数日内に、[[w:アウレルキ族|アウレルキ族]]、[[w:エブロウィケス族|エブロウィケス族]]と[[w:レクソウィー族|レクソウィイ族]]は、
*senatu suo interfecto, quod auctores belli esse nolebant,
**自分たちの長老たちを、戦争の首謀者になることを欲しなかったという理由で殺害し、
*portas clauserunt seseque cum Viridovice coniunxerunt;
**(城市の)門を閉じて、彼らはウィリドウィクスと結託した。
*magnaque praeterea multitudo undique ex Gallia perditorum hominum latronumque convenerat,
**そのうえにガリアの至る所から大勢の無頼漢や略奪者が集まっていた。
*quos spes praedandi studiumque bellandi ab agri cultura et cotidiano labore revocabat.
**これらの者たちを、略奪への期待と戦争への熱望が、農耕や毎日の仕事から呼び戻したのだ。
*Sabinus idoneo omnibus rebus loco castris se tenebat,
**サビヌスはすべての事柄において適切な場所で、陣営を保持した。
*cum Viridovix contra eum duorum milium spatio consedisset
**ウィリドウィクスは彼に対抗して2[[w:ローママイル|ローママイル]](約3km)の間隔で陣取って、
*cotidieque productis copiis pugnandi potestatem faceret,
**毎日、軍勢を連れ出して戦闘の機会を作った。
*ut iam non solum hostibus in contemptionem Sabinus veniret,
**その結果ついに、敵からサビヌスが軽蔑されるに至ったのみならず、
*sed etiam nostrorum militum vocibus nonnihil carperetur;
**我が方(ローマ)の兵士からも若干の者が声に出して嘲弄するに至った。
*tantamque opinionem timoris praebuit,
**これほどの恐れの評判を呈したので、
*ut iam ad vallum castrorum hostes accedere auderent.
**ついに陣営の堡塁のところにまで敵が敢えて近づいて来るほどであった。
*Id ea de causa faciebat
**(サビヌスは)以上のことを以下の理由でしたのである。
*quod cum tanta multitudine hostium,
**というのも、このような大がかりな敵とともに、
*praesertim eo absente qui summam imperii teneret,
**とりわけ、(ローマ側の)最高指揮権を保持する者(=カエサル)がおらずに、
*nisi aequo loco aut opportunitate aliqua data
**有利な場所か何らかの機会が与えられなければ、
*legato dimicandum non existimabat.
**総督副官([[w:レガトゥス|レガトゥス]])にとって戦うべきとは考えなかったのである。
===18節===
'''サビヌスの計略'''
*Hac confirmata opinione timoris
**このような恐れの評判が強められて、
*idoneum quendam hominem et callidum delegit Gallum,
**(サビヌスは)適切で明敏なガリア人のある男を選び出した。
*ex iis quos auxilii causa secum habebat.
**支援軍([[w:アウクシリア|アウクシリア]])のために保持していた者たちの内から。
*Huic magnis praemiis pollicitationibusque persuadet uti ad hostes transeat,
**この者を、多大なほうびを約束して、敵側に渡るように説得して、
*et quid fieri velit edocet.
**(サビヌスが)なされんと欲することを説き教えた。
*Qui ubi pro perfuga ad eos venit, timorem Romanorum proponit,
**その者は、逃亡兵として彼ら(ウネッリ族)のところへ来るや否や、ローマ人の恐れを申し述べた。
*quibus angustiis ipse Caesar a Venetis prematur docet,
**いかなる困窮で、カエサル自身が[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]により苦戦させられているかを教えた。
*neque longius abesse, quin proxima nocte
**遠からず、明晩には
*Sabinus clam ex castris exercitum educat
**サビヌスはひそかに陣営から軍隊を導き出して、
*et ad Caesarem auxilii ferendi causa proficiscatur.
**カエサルのところへ支援をもたらすために出発するであろう(とその男は教えた)。
*Quod ubi auditum est, conclamant
**このことが聞かれるや否や、(ウネッリ族の者たちは)叫び声を上げて、
*omnes occasionem negotii bene gerendi amittendam non esse: ad castra iri oportere.
**うまく仕事をするすべての機会を失うべきではない、(ローマの)陣営へ行かねばならぬ(と叫んだ)。
*Multae res ad hoc consilium Gallos hortabantur:
**多くの事柄が、この計画へとガリア人を励ました。
**(それらの事柄とは、以下のことである。)
*superiorum dierum Sabini cunctatio,
**最近の日々のサビヌスのためらい、
*perfugae confirmatio,
**脱走兵の確証、
*inopia cibariorum, cui rei parum diligenter ab iis erat provisum,
**彼ら(ガリア人)によって充分に入念に調達されなかった糧食の欠乏、
*spes Venetici belli,
**[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]の戦争への希望、
*et quod fere libenter homines id quod volunt credunt.
**というのも、たいてい人間は(自分が)欲することを喜んで信ずるからである。
*His rebus adducti non prius Viridovicem reliquosque duces ex concilio dimittunt,
**これらの事態に引かれて、(ウネッリ族は)ウィリドウィクスや他の指導者を会議から解散させなかった。
*quam ab his sit concessum arma uti capiant et ad castra contendant.
**彼らによって、武器を取って(ローマ)陣営へ急行するように容認されるまでは。
*Qua re concessa laeti, ut explorata victoria,
**この事が容認されて、勝利が得られたかのように喜んで、
*sarmentis virgultisque collectis, quibus fossas Romanorum compleant, ad castra pergunt.
**柴や薮を集めて、これでもってローマ人の堀を埋めるべく、(ローマの)陣営のところへ出発した。
===19節===
'''ウネッリ族らとの決戦'''
*Locus erat castrorum editus et paulatim ab imo acclivis circiter passus mille.
**ローマ陣営の位置は高く、最も下(麓)から緩やかな上り坂で約1000[[w:パッスス|パッスス]](約1.5km)のところにあった。
*Huc magno cursu contenderunt,
ここへ、大いに駆けて急いで、
*ut quam minimum spatii ad se colligendos armandosque Romanis daretur,
**ローマ人にとって集結して武装するための時間ができるだけ与えられないようにして、
*exanimatique pervenerunt.
**息を切らして到着した。
*Sabinus suos hortatus cupientibus signum dat.
**サビヌスは、自分の部下たちを励まして、はやる者たちに合図を与える。
*Impeditis hostibus propter ea quae ferebant onera,
**敵は、彼らが担いでいた重荷のために妨げられていて、
*subito duabus portis eruptionem fieri iubet.
**(サビヌスは)突然に(左右の)二つの門から出撃することを命じた。
*Factum est
**(ut以下のことが)なされた。
*opportunitate loci, hostium inscientia ac defatigatione,
**場所の有利さ、敵の(武具や戦術の)不案内と疲労や、
*virtute militum et superiorum pugnarum exercitatione,
**兵士の武勇とかつての戦闘の熟練によって
*ut ne primum quidem nostrorum impetum ferrent ac statim terga verterent.
**我が方(ローマ)の最初の襲撃さえ持ちこたえることなく、(敵は)すぐに背を向けた。
*Quos impeditos integris viribus milites nostri consecuti
**これらの妨げられている者たちを、健全な力で我が方の兵士たちが追跡して、
*magnum numerum eorum occiderunt;
**彼らの大多数を殺戮した。
*reliquos equites consectati paucos, qui ex fuga evaserant, reliquerunt.
**残りの者たちは、(ローマの)騎兵が追跡したが、逃亡によって逃れたので、見逃した。
*Sic uno tempore et de navali pugna Sabinus et de Sabini victoria Caesar est certior factus,
**このようにして一度に、海戦についてサビヌスが、サビヌスの勝利についてカエサルが、報告を受けて、
*civitatesque omnes se statim Titurio dediderunt.
**(敵の)全部族がすぐにティトゥリウス(・サビヌス)に降伏した。
*Nam ut ad bella suscipienda Gallorum alacer ac promptus est animus,
**こうなったのは、ガリア人は戦争を実行することについては性急で、心は敏捷であるが、
*sic mollis ac minime resistens ad calamitates ferendas mens eorum est.
**と同様に柔弱で、災難に耐えるには彼らの心はあまり抵抗しないためである。
==クラッススのアクィタニア遠征==
===20節===
[[画像:Campagne Aquitains -56.png|thumb|right|200px|クラッススのアウィタニア遠征の経路。]]
'''クラッススのアクィタニア遠征、ソティアテス族'''
*Eodem fere tempore P. Crassus, cum in Aquitaniam pervenisset,
**ほぼ同じ時期に[[w:プブリウス・リキニウス・クラッスス|プブリウス・クラッスス]]が[[w:アクィタニア|アクィタニア]]に達したときに、
*quae pars, ut ante dictum est, et regionum latitudine et multitudine hominum
**この方面は、前述のように、領域の広さと人間の多さで
*ex tertia parte Galliae est aestimanda,
**[[w:ガリア|ガリア]]の第三の部分であると考えられるべきであるが、
*cum intellegeret in illis locis sibi bellum gerendum,
**(クラッススは)かの場所で自らにとって戦争がなされるべきであると考えたので、
*ubi paucis ante annis L. Valerius Praeconinus legatus exercitu pulso interfectus esset
**そこでほんの数年前に[[w:ルキウス・ウァレリウス・プラエコニヌス|ルキウス・ウァレリウス・プラエコニヌス]]総督副官([[w:レガトゥス|レガトゥス]])が軍隊を撃退されて殺害されており、
*atque unde L. Manlius proconsul impedimentis amissis profugisset,
**かつここから[[w:ルキウス・マンリウス・トルクァトゥス|ルキウス・マンリウス]]執政官代理([[w:プロコンスル|プロコンスル]])が輜重を失って敗走しており、
*non mediocrem sibi diligentiam adhibendam intellegebat.
**己にとって尋常ならざる注意深さが適用されるべきだと考えたのだ。
*Itaque re frumentaria provisa, auxiliis equitatuque comparato,
**こうして糧食が調達され、支援軍([[w:アウクシリア|アウクシリア]])や[[w:騎兵|騎兵隊]]が整備され、
*multis praeterea viris fortibus Tolosa et Carcasone et Narbone,
**そのうえ多くの屈強な男たちが、[[w:トロサ|トロサ]]や[[w:カルカソ|カルカソ]]や[[w:ナルボ|ナルボ]]から
*- quae sunt civitates Galliae provinciae finitimae, ex his regionibus-
**<それらは、この地域に隣接する(ローマの)ガリア属州([[w:ガリア・ナルボネンシス|ガリア・トランサルピナ]])の都市であるが、>
*nominatim evocatis, in Sotiatium fines exercitum introduxit.
**名指しで徴集されて、(クラッススは)[[w:ソティアテス族|ソティアテス族]]の領土に軍隊を導き入れた。
*Cuius adventu cognito Sotiates magnis copiis coactis,
**彼(クラッスス)の到着を知ると、ソティアテス族は大軍勢を集めて、
*equitatuque, quo plurimum valebant, in itinere agmen nostrum adorti
**それにより彼らが大いに力があったところの騎兵隊で、行軍中の我が(ローマの)隊列を襲って、
*primum equestre proelium commiserunt,
**はじめに騎兵戦を戦った。
*deinde equitatu suo pulso atque insequentibus nostris
**それから、その(敵の)騎兵隊が撃退され、我が方が追跡したが、
*subito pedestres copias, quas in convalle in insidiis conlocaverant, ostenderunt.
**突然に歩兵の軍勢 <[[w:峡谷|峡谷]]の中で[[w:伏兵|伏兵]]として配置していた者たち> が現われた。
*Iis nostros disiectos adorti proelium renovarunt.
**これらによって追い散らされた我が方(ローマ軍)に襲いかかり、戦いを再び始めた。
===21節===
'''ソティアテス族の敗勢'''
*Pugnatum est diu atque acriter,
**長く激しく戦われた。
*cum Sotiates superioribus victoriis freti
**というのもソティアテス族は、かつての(ローマ軍に対する)勝利を信頼しており、
*in sua virtute totius Aquitaniae salutem positam putarent,
**自分たちの武勇の中に全アクィタニアの安全が立脚していると、みなしていたからだ。
*nostri autem,
**我が方(ローマ軍)はそれに対して
*quid sine imperatore et sine reliquis legionibus adulescentulo duce efficere possent,
**最高司令官([[w:インペラトル|インペラトル]])なし、他の[[w:ローマ軍団|軍団]]もなしに、この若造(クラッスス)が指揮官として何をなしうるかが
*perspici cuperent;
**注視(吟味)されることを欲していたのだ。
*tandem confecti vulneribus hostes terga verterunt.
**ついに傷を負って、敵は背を向けた。
*Quorum magno numero interfecto
**これらの者の大多数を殺戮し、
*Crassus ex itinere oppidum Sotiatium oppugnare coepit.
**クラッススは行軍からただちにソティアテス族の[[w:オッピドゥム|城市]]を攻撃し始めた。
*Quibus fortiter resistentibus vineas turresque egit.
**これらの者たちが勇敢に抵抗したので、(ローマ勢は)工作小屋([[w:ウィネア|ウィネア]])や[[w:櫓|櫓]]を(城の方に)導いた。
*Illi alias eruptione temptata, alias cuniculis ad aggerem vineasque actis
**彼ら(アクィタニア人)は、あるときは突撃を試みて、あるときは[[w:坑道|坑道]]を[[w:土塁|土塁]]や工作小屋のところへ導いた。
*- cuius rei sunt longe peritissimi Aquitani,
**<こういった事柄(坑道の技術)に、アクィタニア人は長らく非常に熟練している。
*propterea quod multis locis apud eos aerariae secturaeque sunt -,
**これは、彼らのもとの多くの場所に[[w:銅山|銅山]]や[[w:採石所|採石所]]があることのためである。>
*ubi diligentia nostrorum nihil his rebus profici posse intellexerunt,
**我が方の注意深さによってこのような事柄によっても何ら得られぬと考えるや否や、
*legatos ad Crassum mittunt, seque in deditionem ut recipiat petunt.
**(ソティアテス族は)使節をクラッススのところへ送って、自分たちを降伏へと受け入れるように求める。
*Qua re impetrata arma tradere iussi faciunt.
**この事が達せられ、武器の引渡しが命じられ、実行された。
===22節===
'''アディアトゥアヌスと従僕たちの突撃'''
*Atque in ea re omnium nostrorum intentis animis
**この事柄に我が方(ローマ勢)の皆が心から没頭しており、
*alia ex parte oppidi Adiatuanus, qui summam imperii tenebat,
**城市の他の方面から、最高指揮権を保持していた[[w:アディアトゥアヌス|アディアトゥアヌス]]が
*cum DC{sescentis} devotis, quos illi{Galli} soldurios appellant,
**ガリア人がソルドゥリイ(従僕)と呼んでいる600名の忠実な者とともに(突撃を試みた)。
'''アディアトゥアヌスの従僕たち'''
*- quorum haec est condicio,
**< これらの者たちの状況は以下の通りであった。
*uti omnibus in vita commodis una cum iis fruantur quorum se amicitiae dediderint,
**人生におけるあらゆる恩恵を、忠心に身を捧げる者たちと一緒に享受する。
*si quid his per vim accidat, aut eundem casum una ferant aut sibi mortem consciscant;
**もし彼らに何か暴力沙汰が起こったら、同じ運命に一緒に耐えるか、自らに死を引き受ける(自殺する)。
*neque adhuc hominum memoria repertus est quisquam qui,
**これまで、次のような人の記憶は見出されていない。
*eo interfecto, cuius se amicitiae devovisset, mortem recusaret -
**忠心に身を捧げる者が殺されても死を拒む(ような者) >
*cum his Adiatuanus eruptionem facere conatus
**これらの者(従僕)とともにアディアトゥアヌスは突撃することを試みた。
'''アディアトゥアヌスの敗退'''
*clamore ab ea parte munitionis sublato
**堡塁のその方面から叫び声が上げられて、
*cum ad arma milites concurrissent vehementerque ibi pugnatum esset,
**武器のところへ(ローマの)兵士たちが急ぎ集まった後に、そこで激しく戦われた。
*repulsus in oppidum
**(アディアトゥアヌスたちは)城市の中に撃退され、
*tamen uti eadem deditionis condicione uteretur a Crasso impetravit.
**しかし(前と)同じ降伏条件を用いるように、クラッススを説得した。
===23節===
'''ウォカテス族・タルサテス族対クラッスス'''
*Armis obsidibusque acceptis, Crassus in fines Vocatium et Tarusatium profectus est.
**武器と人質を受け取って、クラッススは[[w:ウォカテス族|ウォカテス族]]と[[w:タルサテス族|タルサテス族]]の領土に出発した。
*Tum vero barbari commoti,
**そのとき確かに蛮族たちは動揺させられて、
*quod oppidum et natura loci et manu munitum
**というのも、地勢と部隊で防備された(ソティアテス族の)城市が
*paucis diebus quibus eo ventum erat, expugnatum cognoverant,
**(ローマ人が)そこへ来てからわずかな日数で攻め落とされたことを知っていたためであるが、
*legatos quoque versus dimittere,
**使節たちをあらゆる方面に向けて送り出し、
*coniurare, obsides inter se dare, copias parare coeperunt.
**共謀して、互いに人質を与え合って、軍勢を準備し始めた。
*Mittuntur etiam ad eas civitates legati quae sunt citerioris Hispaniae finitimae Aquitaniae:
**アクィタニアに隣接する[[w:上ヒスパニア|上ヒスパニア]]([[w:en:Hispania Citerior|Hispania Citerior]])にいる部族たちにさえ、使節が派遣された。
[[画像:Hispania_1a_division_provincial.PNG|thumb|250px|right|BC197年頃のヒスパニア。オレンジ色の地域が当時の上ヒスパニア]]
[[画像:Ethnographic Iberia 200 BCE.PNG|thumb|right|250px|BC200年頃のイベリア半島の民族分布。朱色の部分に[[w:アクィタニア人|アクィタニア人]]の諸部族が居住していた。]]
*inde auxilia ducesque arcessuntur.
**そこから援兵と指揮官が呼び寄せられた。
*Quorum adventu
**これらの者が到着して、
*magna cum auctoritate et magna [cum] hominum multitudine
**大きな権威と大勢の人間とともに、
*bellum gerere conantur.
**戦争遂行を企てた。
*Duces vero ii deliguntur
**指揮官には確かに(以下の者たちが)選ばれた。
*qui una cum Q. Sertorio omnes annos fuerant
**皆が多年の間、[[w:クィントゥス・セルトリウス|クィントゥス・セルトリウス]]([[w:la:Quintus Sertorius|Quintus Sertorius]])と一緒にいて、
*summamque scientiam rei militaris habere existimabantur.
**軍事の最高の知識を有すると考えられていた(者たちである)。
**(訳注:セルトリウスは、[[w:ルキウス・コルネリウス・スッラ|スッラ]]の独裁に抵抗したローマ人の武将である。[[w:ヒスパニア|ヒスパニア]]の住民にローマ軍の戦術を教えて共和政ローマに対して反乱を起こしたが、[[w:グナエウス・ポンペイウス|ポンペイウス]]によって鎮圧された。)
*Hi consuetudine populi Romani loca capere,
**これらの者たちは、ローマ人民の習慣によって、場所を占領し、
*castra munire,
**[[w:カストラ|陣営]]を防壁で守り、
*commeatibus nostros intercludere instituunt.
**我が方(ローマ勢)の物資をさえぎることに決めたのだ。
*Quod ubi Crassus animadvertit,
**クラッススは(以下の諸事情に)気づくや否や、(すなわち)
*suas copias propter exiguitatem non facile diduci,
**己の軍勢が寡兵であるために、展開するのが容易でないこと、
*hostem et vagari et vias obsidere et castris satis praesidii relinquere,
**敵はうろつき回って道を遮断して、陣営に十分な守備兵を残していること、
*ob eam causam minus commode frumentum commeatumque sibi supportari,
**その理由のために糧食や軍需品を都合良く自陣に持ち運べていないこと、
*in dies hostium numerum augeri,
**日々に敵の数が増していること、(これらの諸事情に気づいたので)
*non cunctandum existimavit quin pugna decertaret.
**(クラッススは)戦闘で雌雄を決することをためらうべきではないと考えたのだ。
*Hac re ad consilium delata, ubi omnes idem sentire intellexit,
**この事が会議に報告されて、皆が同じく考えていることを知るや否や、
*posterum diem pugnae constituit.
**戦闘を翌日に決めた。
===24節===
'''両軍の開戦準備'''
*Prima luce productis omnibus copiis,
**(クラッススは)夜明けに全軍勢を連れ出して、
*duplici acie instituta,
**二重の戦列を整列し、
*auxiliis in mediam aciem coniectis,
**支援軍([[w:アウクシリア|アウクシリア]])を戦列の中央部に集結し、
*quid hostes consilii caperent exspectabat.
**敵がいかなる計略をとるのかを待った。
*Illi,
**彼ら(アクィタニア人)は、
*etsi propter multitudinem et veterem belli gloriam paucitatemque nostrorum se tuto dimicaturos existimabant,
**(自らの)多勢、昔の戦争の名誉、我が方(ローマ勢)の寡勢のために、安全に闘えると考えたにも拘らず、
*tamen tutius esse arbitrabantur obsessis viis commeatu intercluso sine ullo vulnere victoria potiri,
**それでもより安全と思われるのは、道を包囲して[[w:兵站|兵站]]を遮断し、何ら傷なしに勝利をものにすることであり、
*et si propter inopiam rei frumentariae Romani se recipere coepissent,
**もし糧食の欠乏のためにローマ人が退却し始めたならば、
*impeditos in agmine et sub sarcinis infirmiores
**(ローマ人が)隊列において[[w:背嚢|背嚢]]を背負って妨げられて臆病になっているところを、
*aequo animo adoriri cogitabant.
**平常心をもって襲いかかれると考えたのだ。
*Hoc consilio probato ab ducibus, productis Romanorum copiis, sese castris tenebant.
**この計略が指揮官により承認されて、ローマ人の軍勢が進撃しても、彼らは陣営に留まった。
*Hac re perspecta Crassus,
**この事を見通してクラッススは、
*cum sua cunctatione atque opinione timidiores hostes
**(敵)自身のためらいや、評判より臆病な敵が
*nostros milites alacriores ad pugnandum effecissent
**我が方(ローマ)の兵士たちを戦うことにおいてやる気にさせたので、
*atque omnium voces audirentur exspectari diutius non oportere quin ad castra iretur,
**かつ(敵の)陣営へ向かうことをこれ以上待つべきではないという皆の声が聞かれたので、
*cohortatus suos omnibus cupientibus ad hostium castra contendit.
**部下を励まして、(戦いを)欲する皆で、敵の陣営へ急行した。
===25節===
'''クラッスス、敵陣へ攻めかかる'''
*Ibi cum alii fossas complerent, alii multis telis coniectis
**そこで、ある者は堀を埋め、ある者は多くの飛道具を投げて、
*defensores vallo munitionibusque depellerent,
**守備兵たちを[[w:防柵|防柵]]や[[w:防壁|防壁]]から駆逐した。
*auxiliaresque, quibus ad pugnam non multum Crassus confidebat,
**[[w:アウクシリア|支援軍]]の者たちといえば、クラッススは彼らの戦いを大して信頼していなかったが、
*lapidibus telisque subministrandis et ad aggerem caespitibus comportandis
**石や飛道具を供給したり、[[w:土塁|土塁]]のために[[w:芝|芝草]]を運んだり、
*speciem atque opinionem pugnantium praeberent,
**戦っている様子や印象を示した。
*cum item ab hostibus constanter ac non timide pugnaretur
**敵もまたしっかりと臆せずに戦って、
*telaque ex loco superiore missa non frustra acciderent,
**より高い所から放られた飛道具は無駄なく落ちてきたので、
*equites circumitis hostium castris Crasso renuntiaverunt
**[[w:騎兵|騎兵]]は、敵の陣営を巡察してクラッススに報告した。
*non eadem esse diligentia ab decumana porta castra munita
**(敵の)陣営の後門(porta decumana)は(他の部分と)同じほどの入念さで防備されておらず、
*facilemque aditum habere.
**容易に接近できると。
===26節===
'''クラッスス、総攻撃をかける'''
*Crassus equitum praefectos cohortatus,
**クラッススは[[w:騎兵|騎兵]]の指揮官たちに促した。
*ut magnis praemiis pollicitationibusque suos excitarent, quid fieri velit ostendit.
**大きな恩賞の約束で部下たちを駆り立てて、何がなされることを欲しているかを示すようにと。
*Illi, ut erat imperatum,
**この者らは命じられたように、
*eductis iis cohortibus quae praesidio castris relictae intritae ab labore erant,
**守備兵として陣営に残されていて、働きによって疲弊していなかった歩兵大隊([[w:コホルス|コホルス]])を連れ出して、
*et longiore itinere circumductis, ne ex hostium castris conspici possent,
**敵の陣営から視認できないように、遠回りの道程をめぐらせて、
*omnium oculis mentibusque ad pugnam intentis
**(彼我の)皆の目と意識が戦闘に没頭している間に
*celeriter ad eas quas diximus munitiones pervenerunt atque his prorutis
**速やかに前述した(後門の)防壁に至って、それを崩壊させて、
*prius in hostium castris constiterunt,
**敵の陣営に拠点を築いた。
*quam plane ab his videri aut quid rei gereretur cognosci posset.
**彼ら(敵)によりまったく見られ、あるいはいかなる事が遂行されているかを知られるよりも早くのことだった。
*Tum vero clamore ab ea parte audito
**そのときまさにこの方面から雄叫びが聞こえて、
*nostri redintegratis viribus,
**我が方(ローマ勢)は活力を回復し、
*quod plerumque in spe victoriae accidere consuevit,
**勝利の希望の中にたいてい起こるのが常であったように
*acrius impugnare coeperunt.
**より激烈に攻め立て始めたのであった。
*Hostes undique circumventi desperatis omnibus rebus
**敵は至る所から攻囲されて、すべての事態に絶望し、
*se per munitiones deicere et fuga salutem petere intenderunt.
**壁を越えて飛び降りて、逃亡によって身の安全を求めることに懸命になった。
*Quos equitatus apertissimis campis consectatus
**この者たちを(ローマの)騎兵隊が非常に開けた平原で追撃し、
*ex milium L{quinquaginta} numero, quae ex Aquitania Cantabrisque convenisse constabat,
**[[w:アクィタニア|アクィタニア]]と[[w:カンタブリ族|カンタブリ族]]([[w:en:Cantabri|Cantabri]])から集まっていた(敵の総勢の)数は5万名が確認されたが、
*vix quarta parte relicta,
**やっとその四分の一が生き残り、
*multa nocte se in castra recepit.
**夜も更けて(ローマ勢は)陣営に退却した。
===27節===
'''アクィタニア諸部族の降伏'''
*Hac audita pugna
**この戦闘(の勝敗)を聞いて、
*maxima pars Aquitaniae sese Crasso dedidit obsidesque ultro misit;
**[[w:アクィタニア人|アクィタニア人]]の大部分がクラッススに降伏して、すすんで[[w:人質|人質]]を送った。
*quo in numero fuerunt
**その数の中には以下の部族がいた。
*Tarbelli, Bigerriones, Ptianii, Vocates, Tarusates, Elusates,
**[[w:タルベッリ族|タルベッリ族]]、[[w:ビゲッリオネス族|ビゲッリオネス族]]、[[w:プティアニー族|プティアニイ族]]、[[w:ウォカテス族|ウォカテス族]]、[[w:タルサテス族|タルサテス族]]、[[w:エルサテス族|エルサテス族]]、
*Gates, Ausci, Garunni, Sibulates, Cocosates:
**[[w:ガテス族|ガテス族]]、[[w:アウスキ族|アウスキ族]]、[[w:ガルンニ族|ガルンニ族]]、[[w:シブラテス族|シブラテス族]]、[[w:ココサテス族|ココサテス族]]、である。
*paucae ultimae nationes
**わずかな遠方の部族たちは、
*anni tempore confisae, quod hiems suberat,
**時季を頼りにして、というのも冬が近づいていたためであるが、
*id facere neglexerunt.
**そのこと(降伏と人質)をなおざりにした。
==モリニ族・メナピイ族への遠征==
===28節===
'''カエサル、モリニ族・メナピイ族へ遠征'''
*Eodem fere tempore Caesar,
**(前節までに述べたクラッススのアクィタニア遠征と)ほぼ同じ時期にカエサルは、
*etsi prope exacta iam aestas erat,
**すでに夏はほとんど過ぎ去っていたのであるが、
*tamen quod omni Gallia pacata
**全ガリアが平定されていたにもかかわらず、
*Morini Menapiique supererant,
**[[w:モリニ族|モリニ族]]と[[w:メナピー族|メナピイ族]]は生き残って
*qui in armis essent, neque ad eum umquam legatos de pace misissent,
**武装した状態で、彼(カエサル)のところへ決して和平の使節を派遣しようとしなかったので、
*arbitratus id bellum celeriter confici posse, eo exercitum duxit;
**この戦争は速やかに完遂されると思って、そこへ軍隊を率いて行った。
*qui longe alia ratione ac reliqui Galli bellum gerere instituerunt.
**これら(の部族)は、他のガリア人とはまったく別の方法で戦争遂行することを決めた。
*Nam
**なぜなら
*quod intellegebant maximas nationes, quae proelio contendissent, pulsas superatasque esse,
**というのも、戦闘を戦った非常に多くの部族が撃退され、征服されていることを(彼らは)知っており、
*continentesque silvas ac paludes habebant,
**かつ、絶え間ない[[w:森林|森]]と[[w:沼地|沼地]]を(彼らは)持っていたので
*eo se suaque omnia contulerunt.
**そこへ自分たちとそのすべての物を運び集めたのだ。
*Ad quarum initium silvarum cum Caesar pervenisset castraque munire instituisset
**かかる森の入口のところへカエサルが到着して陣営の防備にとりかかったときに、
*neque hostis interim visus esset,
**敵はその間に現れることはなく、
*dispersis in opere nostris
**工事において分散されている我が方(ローマ勢)を
*subito ex omnibus partibus silvae evolaverunt et in nostros impetum fecerunt.
**突然に(敵が)森のあらゆる方面から飛び出してきて、我が方に襲撃をしかけたのだ。
*Nostri celeriter arma ceperunt
**我が方は速やかに武器を取って
*eosque in silvas reppulerunt et compluribus interfectis
**彼らを森の中に押し戻して、かなり(の敵)を殺傷して
*longius impeditioribus locis secuti
**非常に通りにくい場所を追跡したが、
*paucos ex suis deperdiderunt.
**我が方の部下で損傷を負ったのは少数であった。
===29節===
'''カエサル、むなしく撤兵する'''
*Reliquis deinceps diebus Caesar silvas caedere instituit,
**続いて(冬が近づくまでの)残りの何日かで、カエサルは森を[[w:伐採|伐採]]することに決めた。
*et ne quis inermibus imprudentibusque militibus ab latere impetus fieri posset,
**(これは)非武装で不注意な兵士たちが側面からいかなる襲撃もなされないように(ということであり)、
*omnem eam materiam quae erat caesa conversam ad hostem conlocabat
**伐採されたすべての[[w:木材|材木]]を敵の方へ向きを変えて配置して、
*et pro vallo ad utrumque latus exstruebat.
**[[w:防柵|防柵]]の代わりに両方の側面に築いた。
*Incredibili celeritate magno spatio paucis diebus confecto,
**信じがたいほどの迅速さで大きな空間がわずかな日数で完遂されて、
*cum iam pecus atque extrema impedimenta a nostris tenerentur,
**すでに[[w:家畜|家畜]]や[[w:輜重|輜重]]の最も端が我が方(ローマ軍)により捕捉された。
*ipsi densiores silvas peterent,
**(敵)自身は密生した森を行くし、
*eiusmodi sunt tempestates consecutae, uti opus necessario intermitteretur
**[[w:嵐|嵐]]が続いたので、工事はやむを得ずに中断された。
*et continuatione imbrium diutius sub pellibus milites contineri non possent.
**雨が続いて、これ以上は皮([[w:天幕|天幕]])の下に兵士たちを留めることはできなかった。
*Itaque vastatis omnibus eorum agris, vicis aedificiisque incensis,
**こうして、彼らのすべての畑を荒らして、村々や建物に火をつけて、
*Caesar exercitum reduxit
**カエサルは軍隊を連れ戻して、
*et in Aulercis Lexoviisque, reliquis item civitatibus quae proxime bellum fecerant,
**[[w:アウレルキ族|アウレルキ族]]と[[w:レクソウィー族|レクソウィイ族]]や、他の同様に最近に戦争をしていた部族たちのところに
*in hibernis conlocavit.
**[[w:冬営|冬営]]を設置した。
----
*<span style="background-color:#99ff99;">「ガリア戦記 第3巻」了。「[[ガリア戦記 第4巻]]」へ続く。</span>
==脚注==
<references />
[[Category:ガリア戦記 第3巻|*]]
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206919
206913
2022-08-21T13:57:17Z
Linguae
449
/* 16節 */
wikitext
text/x-wiki
[[Category:ガリア戦記|3]]
[[ガリア戦記]]> '''第3巻''' >[[ガリア戦記 第3巻/注解|注解]]
<div style="text-align:center">
<span style="font-size:20px; font-weight:bold; font-variant-caps: petite-caps; color:white; background: rgb(47,94,255);background: linear-gradient(180deg, rgba(47,94,255,1) 0%, rgba(24,56,255,1) 50%, rgba(0,8,255,1) 100%);"> C IVLII CAESARIS COMMENTARIORVM BELLI GALLICI </span>
<span style="font-size:40px; font-weight:bold; color:white; background: rgb(47,94,255);background: linear-gradient(180deg, rgba(47,94,255,1) 0%, rgba(24,56,255,1) 50%, rgba(0,8,255,1) 100%);"> LIBER TERTIVS </span>
</div>
[[画像:Gaule -56.png|thumb|right|150px|ガリア戦記 第3巻の情勢図(BC56年)。<br>黄色の領域がローマ領。桃色が同盟部族領。]]
{| id="toc" style="align:left;clear:all;" align="left" cellpadding="5"
! style="background:#ccccff; text-align:left;" colspan="2" | ガリア戦記 第3巻 目次
|-
| style="text-align:right; font-size: 0.86em;"|
'''[[#アルプス・オクトードゥールスの戦い|アルプス・オクトードゥールスの戦い]]''':<br />
'''[[#大西洋岸ウェネティー族の造反|大西洋岸ウェネティー族の造反]]''':<br />
<br />
'''[[#大西洋岸ウネッリ族の造反|大西洋岸ウネッリ族の造反]]''':<br />
'''[[#クラッススのアクィタニア遠征|クラッススのアクィタニア遠征]]''':<br />
<br />
'''[[#モリニ族・メナピイ族への遠征|モリニ族・メナピイ族への遠征]]''':<br />
| style="text-align:left; font-size: 0.86em;"|
[[#1節|01節]] |
[[#2節|02節]] |
[[#3節|03節]] |
[[#4節|04節]] |
[[#5節|05節]] |
[[#6節|06節]] <br />
[[#7節|07節]] |
[[#8節|08節]] |
[[#9節|09節]] |
[[#10節|10節]] <br />
[[#11節|11節]] |
[[#12節|12節]] |
[[#13節|13節]] |
[[#14節|14節]] |
[[#15節|15節]] |
[[#16節|16節]] <br />
[[#17節|17節]] |
[[#18節|18節]] |
[[#19節|19節]] <br />
[[#20節|20節]] <br />
[[#21節|21節]] |
[[#22節|22節]] |
[[#23節|23節]] |
[[#24節|24節]] |
[[#25節|25節]] |
[[#26節|26節]] |
[[#27節|27節]] <br />
[[#28節|28節]] |
[[#29節|29節]]
|}
<br style="clear:both;" />
__notoc__
==<span style="color:#009900;">はじめに</span>==
:<div style="color:#009900;width:85%;">前巻([[ガリア戦記 第2巻|ガリア戦記 第2巻]])の終わりで述べられたように、カエサルによってガッリアはほぼ平定されたと思われて、首都ローマで感謝祭が催されたほどであった。このため、本巻(第3巻)ではカエサル自身の遠征として記す内容はとても少ない。<br><br>本巻の[[#1節]]~[[#6節]]で言及される[[#アルプス・オクトードゥールスの戦い]]は、[[w:紀元前57年|BC57年]]秋頃に起こったと考えられるので、本来なら第2巻に含められるべきであるが、そうなると第3巻が20節ほどの非常に短い巻になってしまうので、第3巻の冒頭に置いたとも考えられる。<br><br>本巻(第3巻)の年([[w:紀元前56年|BC56年]])の春には、ガッリア遠征の遂行上きわめて重要な'''ルカ会談'''があったので、以下に補足する。</div>
<div style="background-color:#eee;width:75%;">
===コラム「ルカ会談」===
:::<span style="font-family:Times New Roman;font-size:13pt;">''[[w:en:Luca Conference|Luca Conference]]''</span>(英語記事)などを参照。
:<span style="color:#009900;">伝記作家[[ガリア戦記/注解編#プルータルコス『対比列伝』|プルータルコス]]によれば<ref>[[ガリア戦記/注解編#プルータルコス『対比列伝』|プルータルコス『対比列伝』]]の「カエサル」20,21</ref>、カエサルはベルガエ人との戦いを成し遂げると、前年に続いて'''パドゥス川'''〔[[w:la:Padus|Padus]] [[w:ポー川|ポー川]]〕流域で越冬しながら、ローマ政界への政治工作を続けた。例えば、カエサルを後援者とする選挙の立候補者たちが有権者を買収するための金銭をばらまいていた。ガッリア人捕虜を奴隷商人に売り払って得た莫大な金銭で。その結果、カエサルの金銭で当選した者たちの尽力で、属州総督カエサルへの新たな資金の支給が可決されるという具合であった。<br><br>そのうち、多くの名門貴族たちがカエサルに面会するために[[w:ルッカ|ルカ]]([[w:la:Luca|Luca]])の街へやって来た。<br>こうした中、[[w:紀元前56年|BC56年]]の4月に、カエサルと非公式の盟約([[w:三頭政治#第一回三頭政治|三頭政治]])を結んでいた[[w:マルクス・リキニウス・クラッスス|クラッスス]]と[[w:グナエウス・ポンペイウス|ポンペイウス]]もルカを訪れて、三者による会談が行われた。<br><br>首都ローマでは、三頭政治を後ろ盾とする[[w:ポプラレス|平民派]]の[[w:プブリウス・クロディウス・プルケル|クロディウス]](<span style="font-family:Times New Roman;">[[w:la:Publius Clodius Pulcher|Publius Clodius Pulcher]]</span>)が民衆に暴動をけしかけ、[[w:オプティマテス|門閥派]]のミロ(<span style="font-family:Times New Roman;">[[w:la:Titus Annius Milo|Titus Annius Milo]]</span>)と激しく抗争するなど、騒然としていた。このクロディウスの暴力的な手法は、クラッススとポンペイウスの関係を傷つけた。また、カエサルのガッリアでの輝かしい勝利に、二人とも不満を感じていた。このように三頭政治は綻び出していたのだ。<br><br>三人は三頭政治を延長することで合意した。カエサルは、クラッススとポンペイウスが翌年([[w:紀元前55年|BC55年]])の執政官に立候補すること、3属州の総督であるカエサルの任期がさらに5年間延長されること、などを求めた。<br><br>会談の結果、任期が大幅に延長されたカエサルの野望は、ガッリアに止まらず、[[w:ゲルマニア|ゲルマーニア]]や[[w:ブリタンニア|ブリタンニア]]の征服へと向かっていく。一方、再び執政官になった二人は、[[w:パルティア|パルティア]]を攻略するためにクラッススがシリア総督になることを決めるが、これはクラッススの命運とともに三頭政治の瓦解、カエサルとポンペイウスの関係悪化を招来することになる。
</span>
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:First Triumvirate of Caesar, Crassius and Pompey.jpg|thumb|right|500px|後に[[w:三頭政治#第一回三頭政治|三頭政治]](<span style="font-family:Times New Roman;">[[w:la:Triumviratus|Triumviratus]]</span>)と呼ばれることになる非公式な盟約を結んでいた、左から[[w:ガイウス・ユリウス・カエサル|カエサル]]、[[w:マルクス・リキニウス・クラッスス|クラッスス]]、[[w:グナエウス・ポンペイウス|ポンペイウス]]。<br>3人は、第3巻の戦いが始まる前に、ルカ会談で三頭政治の延長を決めた。]]
|}
</div>
</div>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
==アルプス・オクトードゥールスの戦い==
:<span style="font-family:Times New Roman;font-size:13pt;">''[[w:en:Battle of Octodurus|Battle of Octodurus]]''</span>(英語記事)<span style="font-family:Times New Roman;font-size:13pt;">''[[w:fr:Bataille d'Octodure|Bataille d'Octodure]]''</span>(仏語記事)などを参照。
===1節===
[[画像:Historische Karte CH Rome 1.png|thumb|right|300px|現在の[[w:スイス|スイス]]の帝制ローマ時代の地図。左下の三日月形の[[w:レマン湖|レマン湖]]の下方に、<span style="font-family:Times New Roman;">ALLOBROGES, NANTUATES, VERAGRI, SEDUNI</span> の部族名が見える。]]
[[画像:Afdaling vd San Bernardino - panoramio.jpg|thumb|right|300px|現在の[[w:グラン・サン・ベルナール峠|グラン・サン・ベルナール峠]]。ラテン語では <span style="font-family:Times New Roman;">[[w:la:Porta Magni Sancti Bernardi|Porta Magni Sancti Bernardi]] という。<br>スイスを縦断する[[w:欧州自動車道路|欧州自動車道路]] [[w:en:European route E27|E27]] が[[w:レマン湖|レマン湖]]からこの峠を通ってイタリアの[[w:アオスタ|アオスタ]]へ至る。</span>]]
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/1節]] {{進捗|00%|2022-04-23}}</span>
'''ガルバとローマ第12軍団が、ロダヌス川渓谷のオクトードゥールスにて冬営する'''
<br>
; カエサルが、ガルバと軍団・騎兵をアルプス地方へ派兵
*Cum in Italiam proficisceretur Caesar,
**カエサルは、イタリア〔[[w:ガリア・キサルピナ|ガッリア・キサルピーナ]]〕に出発していたときに、
*[[wikt:en:Servium|Servium]] Galbam cum [[w:en:Legio XII Fulminata|legione duodecima(XII.)]] et parte equitatus
**[[w:セルウィウス・スルピキウス・ガルバ (紀元前54年法務官)|セルウィウス・ガルバ]]を第12軍団および騎兵隊の一部とともに、
*in [[wikt:fr:Nantuates#Latin|Nantuates]], [[wikt:en:Veragri#Latin|Veragros]] Sedunosque misit,
**ナントゥアーテース族・ウェラーグリー族・セドゥーニー族(の領土)に派遣した。
*qui a finibus [[wikt:en:Allobroges#Latin|Allobrogum]] et lacu [[wikt:fr:Lemannus|Lemanno]] et flumine [[wikt:en:Rhodanus#Latin|Rhodano]] ad summas [[wikt:en:Alpes#Latin|Alpes]] pertinent.
**彼らはアッロブロゲース族の領土、レマンヌス湖〔[[w:レマン湖|レマン湖]]〕およびロダヌス川〔[[w:ローヌ川|ローヌ川]]〕から[[w:アルプス山脈|アルプス]]の頂きに及んでいる。
*Causa mittendi fuit,
**派遣の理由は(以下のこと)であった:
*quod iter per Alpes,
**アルプスを通る道は、
*quo magno cum periculo magnisque cum [[wikt:en:portorium|portoriis]] mercatores ire consuerant,
**大きな危険と多額の関税を伴って商人たちが旅することが常であったので、
*patefieri volebat.
**(カエサルは道が)開かれることを望んでいたのだ。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:現在の[[w:グラン・サン・ベルナール峠|グラン・サン・ベルナール峠]]を通ってスイスとイタリアを結ぶ道のことで、<br> 帝制初期に[[w:アウグストゥス|アウグストゥス]]によって街道が敷設された。<br> かつて[[w:ハンニバル|ハンニバル]]が越えたのは諸説あるが、この道であった可能性もある。<br> ローマ人がこの地に移入・育成した軍用犬は現在の[[w:セント・バーナード|セント・バーナード犬]]。)</span>
*Huic permisit, si opus esse arbitraretur, uti in his locis legionem hiemandi causa conlocaret.
**彼〔ガルバ〕に、もし必要と思われるならば、この地に軍団を[[w:冬営|冬営]]するために宿営させることを許可した。
[[画像:Servius Sulpicius Galba.jpg|thumb|right|300px|[[w:セルウィウス・スルピキウス・ガルバ (紀元前54年法務官)|セルウィウス・スルピキウス・ガルバ]]の横顔が刻まれた貨幣。ガルバは[[w:紀元前54年|BC54年]]([[ガリア戦記 第5巻|ガリア戦記 第5巻]]の年)に[[w:プラエトル|法務官]]に任官。内戦期もカエサルに従うが、暗殺計画に参画する。<br>[[w:ネロ|ネロ帝]]とともにユリウス家の王朝が途絶えると、ガルバの曽孫が[[w:ローマ内戦_(68年-70年)#四皇帝|四皇帝]]の一人目の[[w:ガルバ|ガルバ帝]]となった。このため[[w:ガイウス・スエトニウス・トランクィッルス|スエートーニウス]]『ローマ皇帝伝』の「ガルバ伝」にガルバへの言及がある<ref>[[s:la:De_vita_Caesarum_libri_VIII/Vita_Galbae#III.]]</ref>。]]
<br>
; ガルバが、諸部族を攻略して、軍団の冬営を決める
*Galba, secundis aliquot proeliis factis
**ガルバは、いくつかの優勢な戦いをして、
*castellisque compluribus eorum expugnatis,
**彼ら〔ガッリア諸部族〕の多くの砦が攻略されると、
*missis ad eum undique legatis
**彼〔ガルバ〕のもとへ四方八方から(諸部族の)使節たちが遣わされ、
*obsidibusque datis et pace facta,
**人質が供出されて、講和がなされたので、
*constituit
**(ガルバは、以下のことを)決めた。
*cohortes duas in Nantuatibus conlocare
**2個<ruby><rb>[[w:コホルス|歩兵大隊]]</rb><rp>(</rp><rt>コホルス</rt><rp>)</rp></ruby>をナントゥアーテース族(の領土)に宿営させること、
*et ipse cum reliquis eius legionis cohortibus
**(ガルバ)自身はその軍団の残りの<ruby><rb>歩兵大隊</rb><rp>(</rp><rt>コホルス</rt><rp>)</rp></ruby>とともに、
*in vico Veragrorum, qui appellatur [[wikt:en:Octodurus|Octodurus]], hiemare;
**オクトードゥールスと呼ばれているウェラーグリー族の村に冬営することを。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:オクトードゥールス([[wikt:en:Octodurus|Octodurus]])は現在の[[w:マルティニー|マルティニー市]]。)</span>
<br>
; ウェラーグリー族のオクトードゥールス村
*qui vicus positus in valle, non magna adiecta planitie,
**その村は、さほど大きくない平地に付随した渓谷の中に位置し、
*altissimis montibus undique continetur.
**とても高い山々で四方八方を囲まれている。
*Cum hic in duas partes flumine divideretur,
**これ〔村〕は川によって二つの部分に分け隔てられているので、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:現在の[[w:マルティニー|マルティニー]]の街中を、[[w:ローヌ川|ローヌ川]]の支流であるドランス川(''[[w:en:Drance|Drance]])が貫流している。)</span>
*alteram partem eius vici Gallis [ad hiemandum] concessit,
**その村の一方の部分をガッリア人に [越冬するために] 譲った。
*alteram vacuam ab his relictam cohortibus attribuit.
**もう一方の彼ら〔ガッリア人〕により空にされた方を、残りの<ruby><rb>歩兵大隊</rb><rp>(</rp><rt>コホルス</rt><rp>)</rp></ruby>に割り当てた。
*Eum locum vallo fossaque munivit.
**その地を堡塁と塹壕で守りを固めた。
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Martigny_1600.jpg|thumb|right|600px|かつてウェラーグリー族のオクトードゥールス村([[w:la:Octodurus|Octodurus]])があった所は、現在では[[w:スイス|スイス]]の[[w:マルティニー|マルティニー]]([[w:en:Martigny|Martigny]])市となっている。[[w:ローヌ川|ローヌ川]]が屈曲して流れる[[w:谷|渓谷]]地帯にある。]]
|}
</div>
<div style="background-color:#eee;width:77%;">
===コラム「ガルバの派遣とカティリーナ事件」===
:::関連記事:<span style="font-family:Times New Roman;font-size:13pt;">[[w:la:Catilinae coniuratio|Catilinae coniuratio]], ''[[w:en:Second Catilinarian conspiracy|Second Catilinarian conspiracy]]''</span>
:<span style="color:#009900;"> [[w:セルウィウス・スルピキウス・ガルバ (紀元前54年法務官)|セルウィウス・スルピキウス・'''ガルバ''']]にアルプス派兵を指揮させた理由について、カエサルは記していない。<br><br> [[w:紀元前63年|BC63年]]~[[w:紀元前62年|BC62年]]に、ローマの高官だった[[w:ルキウス・セルギウス・カティリナ|ルーキウス・セルギウス・'''カティリーナ''']]([[w:la:Lucius Sergius Catilina|Lucius Sergius Catilina]])がクーデタを企てるという大事件があった。'''[[w:マルクス・トゥッリウス・キケロ|キケロー]]'''が『[[w:カティリナ弾劾演説|カティリナ弾劾演説]]』で糾弾し、カエサルが事件の黒幕ではないかと取り沙汰された(スエートニウス<ref>[[s:la:De_vita_Caesarum_libri_VIII/Vita_divi_Iuli#XIV.]], [[s:la:De_vita_Caesarum_libri_VIII/Vita_divi_Iuli#XVII.|#XVII.]] を参照。</ref>)。<br> BC63年の[[w:プラエトル|法務官]][[w:ガイウス・ポンプティヌス|ガーイウス・'''ポンプティーヌス''']]がキケローを助けて事件を捜査し、アッロブロゲース族からカティリーナへ宛てた手紙を調べた。BC62年にポンプティーヌスは前法務官としてガッリア総督となり、事件に関与していたアッロブロゲース族を平定した。このとき、[[w:トリブヌス|副官]]としてポンプティーヌスを助けてアッロブロゲース族を攻めたのが'''ガルバ'''であった。総督がカエサルに替わっても、ガルバは副官として留任し、アッロブロゲース族の近隣部族の鎮定に努めていたわけである。<br> ポンプティーヌスは、一部の元老院議員の反対で、戦勝将軍の権利である[[w:凱旋式|凱旋式]]ができなかった。これを不満に思っていたガルバは、[[w:紀元前54年|BC54年]]に法務官になると尽力して、その年にポンプティーヌスの凱旋式を行なうことに成功した。
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Joseph-Marie Vien - The Oath of Catiline.jpg|thumb|right|320px|'''カティリーナの誓い'''(''Le Serment de Catiline'')<br>[[w:ジョゼフ=マリー・ヴィアン|ジョゼフ=マリー・ヴィアン]]画(1809年)。<hr>カティリーナと共謀者たちは、人間の血を混ぜたワインを飲んで誓いを立てる儀式を行なったと伝えられている。]]
|[[画像:The Discovery of the Body of Catiline.jpg|thumb|right|320px|'''カティリーナの遺骸の発見'''<br>(''Il ritrovamento del corpo di Catilina'')<br>''[[w:en:Alcide Segoni|Alcide Segoni]]'' 画(1871年)<hr>アッロブロゲース族のいるガッリアへ向かおうとしていたカティリーナは、[[w:ピストイア|ピストリア]]([[w:la:Pistorium|Pistoria]])の戦い(''[[w:en:Battle of Pistoia|Battle of Pistoia]]'')で戦死した。]]
|}
</div>
</div>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===2節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/2節]] {{進捗|00%|2022-05-05}}</span>
'''ガッリア人が再び挙兵して周囲の高峰を押さえ、第12軍団の冬営地を包囲'''
*Cum dies hibernorum complures transissent frumentumque eo comportari iussisset,
**冬営の多くの日々が過ぎ去って、穀物がそこに運び集められることを([[w:セルウィウス・スルピキウス・ガルバ (紀元前54年法務官)|ガルバ]]が)命じていたときに、
*subito per exploratores certior factus est
**突然に(以下のことが)[[w:偵察|偵察隊]]により報告された。
*ex ea parte vici, quam Gallis concesserat, omnes noctu discessisse
**ガッリア人たちに譲っていた村の一部から、皆が夜に立ち退いており、
*montesque, qui [[wikt:en:impendeo#Latin|impenderent]], a maxima multitudine Sedunorum et [[wikt:en:Veragri|Veragrorum]] teneri.
**そそり立つ山々がセドゥーニー族とウェラーグリー族のかなりの大勢により占拠されたのだ。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:ウェラーグリー族は既述のようにオクトードゥールス村 [[w:la:Octodurus|Octodurus]]〔現在の[[w:マルティニー|マルティニー市]]〕を、<br>セドゥーニー族 [[w:la:Seduni|Seduni]] はより上流のセドゥヌム [[w:la:Sedunum|Sedunum]]〔現在の[[w:シオン (スイス)|シオン市]]〕を首邑としていた。)</span>
*Id aliquot de causis acciderat,
**いくつかの理由から、起こっていたことには、
*ut subito Galli belli renovandi legionisque opprimendae consilium caperent:
**突如としてガッリア人が、戦争を再開して(ローマ人の)軍団を急襲する作戦計画を立てたのだ。
<br>
; 第1の理由:ガルバの第12軍団は、兵が割かれていて寡勢である
*primum, quod legionem neque eam plenissimam detractis cohortibus duabus
**というのも、第一に、総員がそろっていない軍団を ──2個<ruby><rb>[[w:コホルス|歩兵大隊]]</rb><rp>(</rp><rt>コホルス</rt><rp>)</rp></ruby>が引き抜かれていて、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:前節で既述のように、2個歩兵大隊をナントゥアーテース族のところに宿営させていたが、これはレマンヌス湖〔[[w:レマン湖|レマン湖]]〕に近いより下流の地域で、離れていたようだ。)</span>
*et compluribus singillatim, qui commeatus petendi causa missi erant, absentibus,
**多くの者たちが一人ずつ、糧食を求めるために派遣されていて不在である、──
*propter paucitatem despiciebant;
**(その第12軍団を)少数であるゆえに、見下していたからだ。
<br>
; 第2の理由:渓谷にいるローマ人は、山から攻め降りて来るガッリア人の飛道具を受け止められまい
*tum etiam, quod propter iniquitatem loci,
**それからさらに(ローマ勢が冬営している渓谷の)地の利の無さゆえ、
*cum ipsi ex montibus in vallem decurrerent et tela conicerent,
**(ガッリア勢)自身が山々から谷間に駆け下りて飛道具を投じたときに、
*ne primum quidem impetum suum posse sustineri existimabant.
**自分たちの最初の襲撃を(ローマ勢が)持ちこたえることができない、と判断していたので。
<br>
; 第3の理由:人質を取られて、属州に併合される前にローマ人を討て
*Accedebat, quod suos ab se liberos abstractos obsidum nomine dolebant,
**加えて、人質の名目で自分たちから引き離されている自分の子供たちのことを嘆き悲しんでいたので、
*et Romanos non solum itinerum causa, sed etiam perpetuae possessionis
**かつ、ローマ人たちは道(の開通)のためだけでなく、永続的な領有のためにさえも
*culmina Alpium occupare <u>conari</u>
**アルプスの頂上を占領すること、
*et ea loca finitimae provinciae adiungere
**および(ローマの)属州に隣接する当地を併合することを<u>企てている</u>、
*sibi persuasum habebant.
**と(ガッリア人たちは)確信していたのである。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===3節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/3節]] {{進捗|00%|2022-05-12}}</span>
'''ガルバが軍議を召集し、策を募る'''
*His nuntiis acceptis Galba,
**ガルバは、これらの報告を受け取ると、
*<u>cum</u> neque opus hibernorum munitionesque plene essent perfectae
**冬営の普請や防塁構築も十分に完成していなかったし、
*neque de frumento reliquoque commeatu satis esset provisum,
**穀物や他の糧秣も十分に調達されていなかった<u>ので</u>、
*quod deditione facta obsidibusque acceptis
**── というのも、降伏がなされて、人質が受け取られ、
*nihil de bello timendum existimaverat,
**戦争について恐れるべきことは何もない、と判断していたためであるが、──
*consilio celeriter convocato sententias exquirere coepit.
**軍議を速やかに召集して、意見を求め始めた。
<br>
;軍議
*Quo in consilio,
**その軍議において、
*<u>cum</u> tantum repentini periculi praeter opinionem accidisset
**これほどの不意の危険が、予想に反して起こっていたので、
*ac iam omnia fere superiora loca multitudine armatorum completa conspicerentur
**かつ、すでにほぼすべてのより高い場所が、武装した大勢の者たちで満たされていることが、見られていたので、
*neque subsidio veniri
**救援のために(援軍が)来られることもなかったし、
*neque commeatus supportari interclusis itineribus possent,
**糧秣が運び込まれることも、道が遮断されているので、できなかった<u>ので</u>、
*prope iam desperata salute non nullae eius modi sententiae dicebantur,
**すでにほぼ身の安全に絶望していた幾人かの者たちの'''以下のような'''意見が述べられていた。
*ut impedimentis relictis eruptione facta
**輜重を残して、出撃して、
*isdem itineribus quibus eo pervenissent ad salutem contenderent.
**そこへやって来たのと同じ道によって、安全なところへ急ぐように、と。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:レマンヌス〔[[w:レマン湖|レマン湖]]〕湖畔を通ってアッロブロゲース族領へ撤収することであろう。)</span>
*Maiori tamen parti placuit,
**しかしながら、大部分の者が賛成したのは、
*hoc reservato ad extremum consilio
**この考え(計画)を最後まで保持しておいて、
*interim rei eventum experiri et castra defendere.
**その間に、事の結果を吟味して、陣営を守備すること、であった。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===4節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/4節]] {{進捗|00%|2022-05-16}}</span>
'''ガッリア勢がガルバの陣営を急襲し、寡兵のローマ勢は劣勢に陥る'''
*Brevi spatio interiecto,
**(敵の来襲まで)短い間が介在しただけだったので、
*vix ut iis rebus quas constituissent conlocandis atque administrandis tempus daretur,
**決めておいた物事を配置したり遂行するための時間が、ほとんど与えられないほどであった。
*hostes ex omnibus partibus signo dato decurrere,
**敵方〔ガッリア勢〕があらゆる方向から、号令が出されて、駆け下りて来て、
*lapides [[wikt:en:gaesum|gaesa]]que in vallum conicere.
**石や投槍を堡塁の中に投げ込んだ。
*Nostri primo integris viribus fortiter propugnare
**我が方〔ローマ勢〕は、当初、体力が損なわれていないうちは勇敢に応戦して、
*neque ullum frustra telum ex loco superiore mittere,
**高所から、いかなる飛道具も無駄に投げることはなかった。
*et quaecumque<!--ut quaeque--> pars castrorum nudata defensoribus premi videbatur,
**陣営のどの部分であれ、防戦者たちがはがされて押され気味であることと思われれば、
*eo occurrere et auxilium ferre,
**(ローマ勢が)そこへ駆け付けて、支援した。
<br>
; 兵の多寡が、ローマ勢を追い込む
*sed hoc superari
**しかし、以下のことにより(ローマ勢は)打ち破られた。
*quod diuturnitate pugnae hostes defessi proelio excedebant,
**──戦いが長引いたことにより、疲れ切った敵たちは戦闘から離脱して、
*alii integris viribus succedebant;
**体力が損なわれていない他の者たちが交代していたのだ。──
*quarum rerum a nostris propter paucitatem fieri nihil poterat,
**我が方〔ローマ勢〕は少数であるゆえに、このような事〔兵の交代〕は何らなされ得なかった。
*ac non modo defesso ex pugna excedendi,
**疲弊した者にとっての戦いから離脱することの(機会)のみならず、
*sed ne saucio quidem eius loci ubi constiterat relinquendi ac sui recipiendi facultas dabatur.
**負傷した者にとってさえも、その持ち場を放棄することや(体力を)回復することの機会も与えられなかったのだ。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===5節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/5節]] {{進捗|00%|2022-05-29}}</span>
'''最後の土壇場で説得されたガルバが、疲労回復後の突撃に命運を賭ける'''
*<u>Cum</u> iam amplius horis sex continenter pugnaretur,
**すでに6時間より多く引き続いて戦われており、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:[[古代ローマの不定時法]]では、冬の日中の半日ほどである)</span>
*ac non solum vires sed etiam tela nostros deficerent,
**活力だけでなく飛道具さえも我が方〔ローマ勢〕には不足していたし、
*atque hostes acrius instarent
**敵方〔ガッリア勢〕はより激しく攻め立てていて、
*languidioribusque nostris
**我が方〔ローマ勢〕が弱り切っており、
*vallum scindere et fossas complere coepissent,
**(ガッリア勢は)防柵を破却したり、塹壕を埋め立てたりし始めていたし、
*resque esset iam ad extremum perducta casum,
**戦況はすでに最後の土壇場に陥っていた<u>ので</u>、
<br>
; 二人の軍団首脳バクルスとウォルセーヌスが、ガルバに敵中突破を説く
*[[wikt:en:P.|P.]] Sextius Baculus, primi pili centurio,
**<ruby><rb>[[w:プリムス・ピルス|首位百人隊長]]</rb><rp>(</rp><rt>プリームス・ピールス</rt><rp>)</rp></ruby>プーブリウス・セクスティウス・バクルス
**:<span style="color:#009900;">(訳注:[[w:la:Publius Sextius Baculus|Publius Sextius Baculus]] などの記事を参照。)</span>
*quem Nervico proelio compluribus confectum vulneribus diximus,
**──その者が[[w:ネルウィイ族|ネルウィイー族]]との戦いで多くの負傷で消耗したと前述した──
**:<span style="color:#009900;">(訳注:[[ガリア戦記 第2巻#25節|第2巻25節]]を参照。なお、[[ガリア戦記 第6巻#38節|第6巻38節]] でも言及される。)</span>
*et item [[wikt:en:C.#Latin|C.]] Volusenus, tribunus militum, vir et consilii magni et virtutis,
**および、[[w:トリブヌス・ミリトゥム|軍団次官]]ガーイウス・ウォルセーヌス ──卓越した判断力と武勇を持つ男──(の2人)は、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:''[[w:en:Gaius Volusenus|Gaius Volusenus]]'' などの記事を参照せよ。)</span>
*ad Galbam accurrunt
**ガルバのもとへ急いで来て、
*atque unam esse spem salutis docent, si eruptione facta extremum auxilium experirentur.
**身の安全のただ一つの希望は、出撃をして最後の救済策を試みるかどうかだ、と説く。
*Itaque convocatis centurionibus
**こうして、<ruby><rb>[[w:ケントゥリオ|百人隊長]]</rb><rp>(</rp><rt>ケントゥリオー</rt><rp>)</rp></ruby>たちが召集されて、
*celeriter milites certiores facit,
**(ガルバが以下のことを)速やかに兵士たちに通達する。
*paulisper intermitterent proelium
**しばらく戦いを中断して
*ac tantummodo tela missa exciperent seque ex labore reficerent,
**ただ投げられた飛道具を遮るだけとし、疲労から(体力を)回復するようにと、
*post dato signo ex castris erumperent,
**与えられた号令の後に陣営から出撃するように、
*atque omnem spem salutis in virtute ponerent.
**身の安全のすべての希望を武勇に賭けるように、と。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===6節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/6節]] {{進捗|00%|2022-06-05}}</span>
'''第12軍団がガッリア勢を破るが、ガルバはオクトードゥールスでの冬営を断念する'''
*Quod iussi sunt faciunt,
**(ローマ兵たちは)命じられたことをなして、
*ac subito omnibus portis eruptione facta
**突然に(陣営の)すべての門から出撃がなされ、
*neque cognoscendi quid fieret
**何が生じたのかを知ることの(機会)も
*neque sui colligendi hostibus facultatem relinquunt.
**(自軍の兵力を)集中することの機会も、敵方に残さない。
*Ita commutata fortuna
**こうして武運が変転して、
*eos qui in spem potiundorum castrorum venerant undique circumventos intercipiunt,
**(ローマ人の)陣営を占領することを期待してやって来ていた者たちを、至る所で包囲して<ruby><rb>屠</rb><rp>(</rp><rt>ほふ</rt><rp>)</rp></ruby>る。
*et ex hominum milibus amplius XXX{triginta},
**3万より多い人間が
*quem numerum barbarorum ad castra venisse constabat,
**それだけの数の蛮族が(ローマ)陣営のところへ来ていたのは、確実であったが、
*plus tertia parte interfecta
**3分の1より多く(の者)が<ruby><rb>殺戮</rb><rp>(</rp><rt>さつりく</rt><rp>)</rp></ruby>されて、
*reliquos perterritos in fugam coiciunt
**(ローマ勢は)残りの者たちを怖気づかせて敗走に追いやり、
*ac ne in locis quidem superioribus consistere patiuntur.
**(ガッリア勢は)より高い場所にさえ留まることさえ許されない。
*Sic omnibus hostium copiis fusis armisque exutis
**そのように敵方の全軍勢が撃破されて、武器が放棄されて、
*se intra munitiones suas recipiunt.
**(ローマ勢は)自分たちの防塁の内側に撤収する。
<br>
; ガルバがオクトードゥールスでの冬営を断念して、同盟部族領に撤退する
*Quo proelio facto,
**この戦いが果たされると、
*quod saepius fortunam temptare Galba nolebat
**──ガルバは、よりたびたび武運を試すことを欲していなかったし、
*atque alio se in hiberna consilio venisse meminerat,
**冬営に他の計画のために来ていたことを思い出していたが、
*aliis occurrisse rebus videbat,
**別の事態に遭遇したのを見ていたので、──
*maxime frumenti commeatusque inopia permotus
**とりわけ穀物や糧秣の欠乏に揺り動かされて、
*postero die omnibus eius vici aedificiis incensis
**翌日にその村のすべての建物が焼き討ちされて、
*in provinciam reverti contendit,
**(ガルバは)属州〔[[w:ガリア・キサルピナ|ガッリア・キサルピーナ]]〕に引き返すことを急ぐ。
*ac nullo hoste prohibente aut iter demorante
**いかなる敵によって妨げられることも、あるいは行軍が遅滞させられることもなく、
*incolumem legionem in Nantuates,
**軍団を無傷なままでナントゥアーテース族(の領土)に(連れて行き)、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:ナントゥアーテース族 ''[[w:en:Nantuates|Nantuates]]'' は、レマンヌス湖〔[[w:レマン湖|レマン湖]]〕の南東を領有していた部族。<br> [[#1節]]で、軍団のうち2個<ruby><rb>[[w:コホルス|歩兵大隊]]</rb><rp>(</rp><rt>コホルス</rt><rp>)</rp></ruby>を宿営させたことが述べられた。)</span>
*inde in Allobroges perduxit ibique hiemavit.
**そこから、アッロブロゲース族(の領土)に連れて行き、そこで冬営した。
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Amphitheaterforumclaudiival1.jpg|thumb|right|500px|オクトードゥールス(<span style="font-family:Times New Roman;">[[w:la:Octodurus|Octodurus]]</span>)、すなわち現在の[[w:マルティニー|マルティニー市]]に遺る帝制ローマ時代の円形競技場。オクトードゥールスは、<span style="font-family:Times New Roman;">Forum Claudii Vallensium</span> と改称され、[[w: クラウディウス|クラウディウス帝]]によって円形競技場が建てられた。<br>(<span style="font-family:Times New Roman;">''[[w:fr:Amphithéâtre de Martigny|Amphithéâtre de Martigny]]''</span> 等の記事を参照。)]]
|}
</div>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
==大西洋岸ウェネティー族の造反==
:::<span style="background-color:#ffd;">関連記事:[[w:モルビアン湾の海戦|モルビアン湾の海戦]]、''[[w:fr:Guerre des Vénètes|fr:Guerre des Vénètes]]'' 等を参照せよ。</span>
===7節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/7節]] {{進捗|00%|2022-06-12}}</span>
'''新たな戦争の勃発'''
*His rebus gestis
**これらの戦役が遂げられて、
*cum omnibus de causis Caesar pacatam Galliam existimaret,
**カエサルが、あらゆる状況についてガッリアは平定された、と判断していたときに、
*superatis Belgis,
**(すなわち)[[w:ベルガエ|ベルガエ人]]は征服され、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:第2巻で述べられたこと)</span>
*expulsis Germanis,
**[[w:ゲルマニア|ゲルマーニア]]人は駆逐され、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:第1巻で述べられた[[w:アリオウィストゥス|アリオウィストゥス]]との戦役のこと)</span>
*victis in [[wikt:en:Alpibus|Alpibus]] Sedunis,
**アルペース〔[[w:アルプス山脈|アルプス]]〕においてセドゥーニー族は打ち負かされて、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:[[#1節]]~[[#6節]]で述べられたこと)</span>
*atque ita inita hieme in [[wikt:en:Illyricum#Latin|Illyricum]] profectus esset,
**こうして冬の初めに(カエサルが)[[w:イリュリクム|イッリュリクム]]に出発していたときに、
*quod eas quoque nationes adire et regiones cognoscere volebat,
**──というのは、これら各部族を訪れて諸地方を知ることを欲していたからであるが、──
**:<span style="color:#009900;">(訳注:属州総督の職務として、巡回裁判を行う必要があったためであろう)</span>
*subitum bellum in Gallia coortum est.
**突然の戦争がガッリアで勃発したのである。
<br>
; 戦争の背景
*Eius belli haec fuit causa:
**その戦争の原因は、以下の通りであった。
*[[wikt:en:P.|P.]] Crassus adulescens cum legione septima(VII.)
**[[w:プブリウス・リキニウス・クラッスス|プーブリウス・クラッスス青年]]は、第7軍団とともに
**:<span style="color:#009900;">(訳注:三頭政治家[[w:マルクス・リキニウス・クラッスス|M. クラッスス]]の息子で、第1巻[[s:la:Commentarii_de_bello_Gallico/Liber_I#52|52節]]では騎兵隊の指揮官だった。<br> [[ガリア戦記_第2巻#34節|第2巻34節]]では、1個軍団とともに大西洋沿岸地方に派遣されたと述べられた。)</span>
*proximus mare Oceanum in Andibus hiemarat.
**<ruby><rb>大洋〔[[w:大西洋|大西洋]]〕</rb><rp>(</rp><rt>オーケアヌス</rt><rp>)</rp></ruby>に最も近いアンデース族(の領土)で冬営していた。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:アンデース族 Andes は、'''アンデカーウィー族''' [[w:la:Andecavi|Andecavi]], ''[[wikt:en:Andecavi|Andecavi]]'' と呼ばれることが多い。<br> 実際には大西洋岸から内陸側に寄っていたと考えられている。)</span>
*Is, quod in his locis inopia frumenti erat,
**彼〔クラッスス〕は、これらの場所においては穀物の欠乏があったので、
*praefectos tribunosque militum complures in finitimas civitates
**([[w:アウクシリア|支援軍]]の)<ruby><rb>[[w:プラエフェクトゥス|指揮官]]</rb><rp>(</rp><rt>プラエフェクトゥス</rt><rp>)</rp></ruby>たちや[[w:トリブヌス・ミリトゥム|軍団次官]]たちのかなりの数を、近隣諸部族のところへ
*frumenti (commeatusque petendi) causa dimisit;
**穀物や糧食を求めるために送り出した。
*quo in numero est [[wikt:en:T.#Latin|T.]] Terrasidius missus in Esuvios<!--/ Unellos Essuviosque-->,
**その人員のうち、ティトゥス・テッラシディウスは、エスウィイー族<!--ウネッリー族やエスウィイ族-->のところに遣わされ、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:テッラシディウスは騎士階級の将校。''[[w:en:Terrasidius|Terrasidius]]'' 参照。)</span>
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:エスウィイー族 ''[[w:en:Esuvii|Esuvii]]'' は、現在の[[w:オルヌ川|オルヌ川]]盆地の[[w:オルヌ県|オルヌ県]][[w:セー (オルヌ県)|セー]]~[[w:fr:Exmes|エム]]の辺りにいたらしい。)</span>
*[[wikt:en:M.#Latin|M.]] [[wikt:en:Trebius#Latin|Trebius]] Gallus in Coriosolităs,
**マールクス・トレビウス・ガッルスは、コリオソリテース族のところに(遣わされ)、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:''[[w:it:Marco Trebio Gallo|it:Marco Trebio Gallo]]'' 等参照)</span>
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:コリオソリテース族 ''[[w:en:Coriosolites|Coriosolites]]'' は、クーリオソリーテース ''[[wikt:en:Curiosolites|Curiosolites]]'' などとも呼ばれ、<br> 現在の[[w:コート=ダルモール県|コート=ダルモール県]]コルスール([[w:en:Corseul|Corseul]])の辺りにいたらしい。)</span>
*[[wikt:en:Q.|Q.]] [[wikt:en:Velanius#Latin|Velanius]] cum T. Sillio in Venetos.
**クゥイーントゥス・ウェラーニウスはティトゥス・シーッリウスとともに、[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]のところに(遣わされた)。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:''[[w:it:Quinto Velanio|it:Quinto Velanio]], [[w:it:Tito Silio|it:Tito Silio]]'' 等参照。)</span>
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]] ''[[w:en:Veneti (Gaul)|Veneti (Gaul)]]'' は、[[w:アルモリカ|アルモリカ]]南西部、現在の[[w:モルビアン県|モルビアン県]]辺りにいた。)</span>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===8節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/8節]] {{進捗|00%|2022-06-13}}</span>
'''ウェネティー族らの動き'''
<br>
; 沿海地方を主導するウェネティー族
*Huius est civitatis longe amplissima auctoritas omnis orae maritimae regionum earum,
**この部族〔ウェネティー族〕の<ruby><rb>影響力</rb><rp>(</rp><rt>アウクトーリタース</rt><rp>)</rp></ruby>は、海岸のその全地方の中でずば抜けて大きい。
*quod et naves habent Veneti plurimas,
**── というのは、[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]は、最も多くの船舶を持っており、
*quibus in Britanniam navigare consuerunt,
**それら〔船団〕によって[[w:ブリタンニア|ブリタンニア]]に航海するのが常であり、
*et scientia atque usu rerum nauticarum ceteros antecedunt
**かつ[[w:海事|海事]]の知識と経験において他の者たち〔諸部族〕をしのいでおり、
*et in magno impetu maris atque aperto <Oceano>
**かつ海のたいへんな荒々しさと開けた<<ruby><rb>大洋〔[[w:大西洋|大西洋]]〕</rb><rp>(</rp><rt>オーケアヌス</rt><rp>)</rp></ruby>>において、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:<Oceano> は写本になく、挿入提案された修正読み)</span>
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[w:大陸棚|大陸棚]]が広がる[[w:ビスケー湾|ビスケー湾]]は、世界最大12mの大きな[[w:潮汐|干満差]]と、<br> 北西風による激しい嵐で知られる<ref>[https://kotobank.jp/word/%E3%83%93%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%83%BC%E6%B9%BE-119819 ビスケー湾とは - コトバンク]</ref>。)</span>
*paucis portibus interiectis,
**わずかの港が介在していて、
*quos tenent ipsi,
**彼ら自身〔ウェネティー族〕がそれら〔港湾〕を制していて、
*omnes fere qui eo mari uti consuerunt, habent vectigales.
**その海を利用するのが常であった者たち〔部族〕ほぼすべてを、貢税者としていたのだ。──
<br>
; ウェネティー族が、クラッススの使節たちを抑留する
*Ab his fit initium retinendi Sillii atque Velanii,
**彼ら〔ウェネティー族〕によって、シーッリウスとウェラーニウスを拘束することが皮切りとなる。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:2人は、前節([[#7節]])でウェネティー族への派遣が述べられた使節)</span>
*<u>et si quos intercipere potuerunt</u>
**何らかの者たちを捕えることができたのではないか、と。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:下線部は、β系写本だけの記述で、α系写本にはない。)</span>
*quod per eos suos se obsides, quos Crasso dedissent, recuperaturos existimabant.
**というのは、彼らを介して、[[w:プブリウス・リキニウス・クラッスス|クラッスス]]に差し出されていた己の人質たちを取り戻すことができると考えていたのである。
<br>
*Horum auctoritate finitimi adducti,
**彼ら〔ウェネティー族〕の影響力によって、近隣の者たち〔諸部族〕が動かされて、
*ut sunt Gallorum subita et repentina consilia,
**──ガッリア人の判断力というものは、思いがけなく性急なものであるが、──
*eadem de causa Trebium Terrasidiumque retinent
**同じ理由によりトレビウスとテッラシディウスを拘束する。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:トレビウスは、前節でコリオソリテース族に派遣された。<br> テッラシディウスは、前節でエスウィイー族に派遣された。)</span>
*et celeriter missis legatis
**そして速やかに使節が遣わされて、
*per suos principes inter se coniurant
**自分らの領袖たちを通して互いに誓約する。
*nihil nisi communi consilio acturos eundemque omnes fortunae exitum esse laturos,
**合同の軍議なしには何も実施しないであろうし、皆が命運の同じ結果に耐えるであろう、と。
*reliquasque civitates sollicitant,
**残りの諸部族を扇動する。
*ut in ea libertate quam a maioribus acceperint, permanere quam Romanorum servitutem perferre malint.
**ローマ人への隷属を辛抱することより、むしろ先祖から引き継いでいた自由に留まることを欲すべし、と。
<br>
*Omni ora maritima celeriter ad suam sententiam perducta
**すべての海岸(の諸部族)が速やかに自分たち〔ウェネティー族〕の見解に引き込まれると、
*communem legationem ad [[wikt:en:Publium|Publium]] Crassum mittunt,
**共同の使節を[[w:プブリウス・リキニウス・クラッスス|プーブリウス・クラッスス]]のもとへ遣わす。
*si velit suos recuperare, obsides sibi remittat.
**もし味方の者たち〔ローマ人〕を取り戻すことを望むならば、自分たち〔諸部族〕の人質たちを返すように、と。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===9節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/9節]] {{進捗|00%|2022-06-19}}</span>
{{Wikipedia|la:Liger| Liger }}
'''カエサル到着、ウェネティー族らの作戦と開戦準備'''
; カエサルが、海戦の準備を手配してから、沿岸地域に急ぐ
*Quibus de rebus Caesar a Crasso certior factus,
**以上の事について、カエサルは[[w:プブリウス・リキニウス・クラッスス|クラッスス]]により報知されると、
*quod ipse aberat longius,
**(カエサル)自身は非常に遠くに離れていたので、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:[[#コラム「ルカ会談」|#ルカ会談]]などローマへの政界工作のために属州にいたと考えられている。)</span>
*naves interim longas aedificari in flumine [[wikt:la:Liger#Latine|Ligeri]], quod influit in Oceanum,
**その間に<u>軍船</u>が<ruby><rb>大洋〔[[w:大西洋|大西洋]]〕</rb><rp>(</rp><rt>オーケアヌス</rt><rp>)</rp></ruby>に流れ込むリゲル川〔[[w:ロワール川|ロワール川]]〕にて建造されること、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:艦隊 [[w:la:Classis Romana|classis]] の主力として戦う[[w:ガレー船|ガレー船]]は「長船」[[w:la:Navis longa|navis longa]] と呼ばれていた。<br> これに対して、軍需物資を運搬する輸送船は [[w:la:Navis actuaria|navis actuaria]] と呼ばれていた。)</span>
*remiges ex provincia institui,
**<ruby><rb>漕ぎ手</rb><rp>(</rp><rt>レーメクス</rt><rp>)</rp></ruby>が属州〔[[w:ガリア・トランサルピナ|ガッリア・トランサルピーナ]]〕から採用されること、
*nautas gubernatoresque comparari iubet.
**<ruby><rb>[[w:船員|水夫]]</rb><rp>(</rp><rt>ナウタ</rt><rp>)</rp></ruby>や<ruby><rb>操舵手</rb><rp>(</rp><rt>グベルナートル</rt><rp>)</rp></ruby>が徴募されること、を命じる。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:船尾の「<ruby><rb>[[w:舵|舵]]</rb><rp>(</rp><rt>かじ</rt><rp>)</rp></ruby>」が発明されたのは[[w:漢|漢代]]の中国であって、古代西洋の船に<ruby><rb>舵</rb><rp>(</rp><rt>かじ</rt><rp>)</rp></ruby>はない。<br> 船の操舵手は「<ruby><rb>舵櫂</rb><rp>(</rp><rt>かじかい</rt><rp>)</rp></ruby>」(''[[w:en:Steering oar|steering oar]]'') という[[w:櫂|櫂]]の一種を用いて操船したらしい。)</span>
<br>
*His rebus celeriter administratis ipse,
**これらの事柄が速やかに処理されると、(カエサル)自身は
*cum primum per anni tempus potuit, ad exercitum contendit.
**年のできるだけ早い時季に、軍隊のもとへ急いだ。
<br>
; ウェネティー族らが、使節団拘留の重大さを勘案して、海戦の準備を進める
*Veneti reliquaeque item civitates cognito Caesaris adventu
**[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]と残りの部族もまた、カエサルの到着を知り、
*<span style="color:#009900;"><</span>et de recipiendis obsidibus spem se fefellise<span style="color:#009900;">></span> certiores facti,
**<span style="color:#009900;"><</span>かつ人質を取り戻すという希望に惑わされたことを<span style="color:#009900;">></span> 知らされて、
*simul quod quantum in se facinus admisissent intellegebant,
**同時に、どれほど大それた行為を自分たちが侵していたかを判断していたので、
*<span style="color:#009900;">[</span>legatos, quod nomen ad omnes nationes sanctum inviolatumque semper fuisset,
**──(すなわち)あらゆる種族のもとでその名が神聖かつ不可侵の、使節たちが
*retentos ab se et in vincula coniectos,<span style="color:#009900;">]</span>
**自分たちによって拘束され、鎖につながれていたわけだが、──
*pro magnitudine periculi bellum parare
**危機の重大さに見合う戦争を準備すること、
*et maxime ea quae ad usum navium pertinent providere instituunt,
**とりわけ船団を運用するために役立つところのものを調達すること、を着手する。
*hoc maiore spe quod multum natura loci confidebant.
**地勢を大いに信じていた点に大きな期待をして。
<br>
*Pedestria esse itinera concisa aestuariis,
**(ローマ勢の)歩兵の行軍路は入江で遮断されるし、
*navigationem impeditam propter inscientiam locorum paucitatemque portuum sciebant,
**土地の不案内と港の少なさのゆえに航行が妨げられることを(ウェネティー族らは)知っていた。
*neque nostros exercitus propter inopiam frumenti diutius apud se morari posse confidebant;
**穀物の欠乏のゆえに、我が軍〔ローマ軍〕がより長く彼らのもとに留まることができないと(ウェネティー族らは)信じ切っていた。
<br>
*ac iam ut omnia contra opinionem acciderent,
**やがて、すべてのことが予想に反して生じたとしても、
*tamen se plurimum navibus posse, quam Romanos neque ullam facultatem habere navium,
**けれども自分たち〔ウェネティー族ら〕は艦船において、艦船の備えを何ら持たないローマ人よりも大いに優勢であり、
*neque eorum locorum, ubi bellum gesturi essent, vada, portus, insulas novisse;
**戦争を遂行しようとしているところの浅瀬・港・島に(ローマ人は)不案内であった(と信じ切っていた)。
<br>
*ac longe aliam esse navigationem in concluso mari atque in vastissimo atque apertissimo Oceano perspiciebant.
**閉ざされた海〔[[w:地中海|地中海]]〕と非常に広大で開けた大洋における航行はまったく別物であると見通していた。
<br>
*His initis consiliis
**この作戦計画が決められると、
*oppida muniunt,
**<ruby><rb>[[w:オッピドゥム|城塞都市]]</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>の防備を固め、
*frumenta ex agris in oppida comportant,
**穀物を耕地から<ruby><rb>城塞都市</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>に運び込み、
*naves in [[wikt:en:Venetia#Latin|Venetiam]], ubi Caesarem primum (esse) bellum gesturum constabat, quam plurimas possunt, cogunt.
**カエサルが最初の戦争を遂行するであろうことが明白であったところの[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]領に、ありったけの艦船を集める。
<br>
*Socios sibi ad id bellum
**この戦争のために(ウェネティー族は)自分たちのもとへ同盟者として
*[[wikt:en:Osismi#Latin|Osismos]], [[wikt:en:Lexovii#Latin|Lexovios]], [[wikt:en:Namnetes#Latin|Namnetes]], Ambiliatos, [[wikt:en:Morini#Latin|Morinos]], [[w:en:Diablintes|Diablintes]], [[wikt:en:Menapii#Latin|Menapios]] adsciscunt;
**<span style="font-size:10pt;">オスィスミー族・レクソウィイー族・ナムネーテース族・アンビリアーティー族・モリニー族・ディアブリンテース族・メナピイー族</span> を引き入れる。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:アンビリアーティー族 ➡ [[w:ガイウス・プリニウス・セクンドゥス|プリニウス]]は「アンビラトリー族」 [[wikt:en:Ambilatri#Latin|Ambilatri]] と記す。<br> ディアブリンテース族 ➡ プリニウスは「ディアブリンティー族」 [[wikt:en:Diablinti#Latin|Diablinti]] と記す。<br> この部族は、アウレルキー族 ''[[w:en:Aulerci|Aulerci]]'' の支族。)</span>
*auxilia ex Britannia, quae contra eas regiones posita est, arcessunt.
**援軍を、この地域の向かい側に位置する[[w:ブリタンニア|ブリタンニア]]から呼び寄せた。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:援軍を出したという口実のもと、翌年カエサルがブリタンニアに侵攻することになる。)</span>
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Map of Aremorican tribes (Latin).svg|thumb|right|600px|[[w:アルモリカ|アルモリカ]](<span style="font-family:Times New Roman;font-size:13pt;">''[[w:en:Armorica|Armorica]]''</span> )の部族分布図。
]]
|}
</div>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===10節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/10節]] {{進捗|00%|2022-07-02}}</span>
'''カエサルの開戦への大義名分'''
*Erant hae difficultates belli gerendi, quas supra ostendimus,
**上で指摘したような、戦争を遂行することの困難さがあった。
*sed tamen multa Caesarem ad id bellum incitabant:
**にもかかわらず、多くのことがカエサルをその戦争へと駆り立てていたのだ。
*iniuria retentorum equitum Romanorum,
**①ローマ人の[[w:エクィテス|騎士]]〔騎士階級の者〕たちが拘束されることの無法さ、
*rebellio facta post deditionem,
**②降伏の後でなされた造反、
*defectio datis obsidibus,
**③人質を供出しての謀反、
*tot civitatum coniuratio,
**④これほど多くの部族の共謀、
*in primis ne hac parte neglecta reliquae nationes sibi idem licere arbitrarentur.
**⑤何よりも第一に、この地方をなおざりにして、残りの種族が自分たちも同じことを許容されると思い込まないように。
*Itaque cum intellegeret
**そこで、(カエサルは以下のように)認識していたので、
*omnes fere Gallos novis rebus studere et ad bellum mobiliter celeriterque excitari,
**①ほぼすべてのガリア人が政変を熱望して、戦争へ簡単に速やかに奮い立たせられていること、
*omnes autem homines natura libertati studere incitari et condicionem servitutis odisse,
**②他方ですべての人間は本来的に自由を熱望することに扇動され、隷属の状態を嫌っていること、
*prius quam plures civitates conspirarent,
**多くの部族が共謀するより前に、
*partiendum sibi ac latius distribuendum exercitum putavit.
**(カエサルは)自分にとって軍隊が分けられるべき、より広範に割り振られるべきであると考えた。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===11節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/11節]] {{進捗|00%|2022-07-03}}</span>
'''ラビエーヌス、クラッスス、サビーヌス、ブルートゥスを前線へ派兵する'''
<br><br>
; 副官ラビエーヌスをトレウェリー族のもとへ遣わす
*Itaque [[wikt:en:Titum|T.]] [[wikt:en:Labienus#Latin|Labienum]] legatum in [[wikt:en:Treveri#Latin|Treveros]], qui proximi flumini Rheno sunt, cum equitatu mittit.
**こうして、<ruby><rb>[[w:レガトゥス|副官]]</rb><rp>(</rp><rt>レガトゥス</rt><rp>)</rp></ruby>[[w:ティトゥス・ラビエヌス|ティトゥス・ラビエーヌス]]をレーヌス川〔[[w:ライン川|ライン川]]〕に最も近いトレーウェリー族に、騎兵隊とともに派遣する。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[w:la:Titus Labienus|Titus Labienus]] は、『ガリア戦記』におけるカエサルの片腕。<br> ''[[w:en:Treveri|Treveri]]'' はローマの同盟部族だが、[[ガリア戦記_第5巻|第5巻]]・[[ガリア戦記_第6巻|第6巻]]で挙兵する。)</span>
*Huic mandat,
**彼に(以下のように)命じる。
*[[wikt:en:Remi#Latin|Remos]] reliquosque [[wikt:en:Belgas|Belgas]] adeat atque in officio contineat
**①レーミー族やほかの[[w:ベルガエ|ベルガエ人]]を訪れて、<ruby><rb>忠実さ</rb><rp>(</rp><rt>オッフィキウム</rt><rp>)</rp></ruby>に留めるように、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:''[[w:en:Remi|Remi]]'' は、ローマの同盟部族で、[[ガリア戦記_第2巻#3節|第2巻3節]]以降で言及された。)</span>
*[[wikt:en:Germanos|Germanos]]que, qui auxilio a Gallis arcessiti dicebantur,
**②ガッリア人により援兵として呼び寄せられたといわれていた[[w:ゲルマニア|ゲルマーニア]]人が
**:<span style="color:#009900;">(訳注:第1巻で言及された[[w:アリオウィストゥス|アリオウィストゥス]]の軍勢のこと。)</span>
*si per vim navibus flumen transire conentur, prohibeat.
**(彼らが)もし力ずくで船で川を渡ることを試みるならば、防ぐように、と。
<br>
; クラッスス青年をアクィーターニアに派遣する
*[[wikt:en:Publium|P.]] [[wikt:en:Crassus#Latin|Crassum]] cum cohortibus legionariis XII(duodecim) et magno numero equitatus in Aquitaniam proficisci iubet,
**[[w:プブリウス・リキニウス・クラッスス|プーブリウス・クラッスス]]には、軍団の12個<ruby><rb>[[w:コホルス|歩兵大隊]]</rb><rp>(</rp><rt>コホルス</rt><rp>)</rp></ruby>と多数の騎兵隊とともに、[[w:アクィタニア|アクィーターニア]]に出発することを命じる。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[w:la:Publius Licinius Crassus|Publius Licinius Crassus]]、[[#7節]]から既述。)</span>
*ne ex his nationibus auxilia in Galliam mittantur ac tantae nationes coniungantur.
**これらの種族から援兵がガッリアに派遣され、これほど多くの諸部族が結託することがないように。
<br>
; 副官サビーヌスを3個軍団とともに[[w:アルモリカ|アルモリカ]]北部へ派兵する
*[[wikt:en:Quintum#Latin|Q.]] [[wikt:en:Titurius#Latin|Titurium]] Sabinum legatum cum legionibus tribus
**副官[[w:クィントゥス・ティトゥリウス・サビヌス|クィーントゥス・ティトゥリウス・サビーヌス]]を3個軍団とともに
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:''[[w:en:Quintus Titurius Sabinus|Quintus Titurius Sabinus]]'' は[[ガリア戦記_第2巻#5節|第2巻5節]]から言及されている『ガリア戦記』前半で活躍する副官。)</span>
*in [[wikt:en:Unelli#Latin|Unellos]](Venellos), Coriosolităs [[wikt:en:Lexovii#Latin|Lexovios]]que mittit, qui eam manum distinendam curet.
**ウネッリー族・コリオソリテース族・レクソウィイー族に派遣して、彼らの手勢を分散させるべく配慮するように。
<br>
; ブルートゥス青年をウェネティー族領へ派兵する
*[[wikt:en:Decimus#Latin|D.]] [[wikt:en:Brutum|Brutum]] adulescentem classi Gallicisque navibus,
**[[w:デキムス・ユニウス・ブルトゥス・アルビヌス|デキムス・ブルートゥス青年]]に、(ローマの)艦隊とガッリア人の船団を、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[w:la:Decimus Iunius Brutus Albinus|Decimus Iunius Brutus Albinus]] は、カエサルの副官として活躍するが、後に暗殺に加わる。)</span>
*quas ex [[wikt:en:Pictones#Latin|Pictonibus]] et [[wikt:en:Santoni#Latin|Santonis]] reliquisque pacatis regionibus convenire iusserat,
**──これら(船団)はピクトネース族・サントニー族やほかの平定された地方から集まるように命じていたものであるが、──
*praeficit et, cum primum possit, in [[wikt:en:Veneti#Latin|Venetos]] proficisci iubet.
**(ブルートゥスに船団を)指揮させて、できるだけ早く[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]](の領土)に出発することを命じる。
<br>
*Ipse eo pedestribus copiis contendit.
**(カエサル)自身は、そこへ歩兵の軍勢とともに急ぐ。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===12節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/12節]] {{進捗|00%|2022-07-09}}</span>
'''ウェネティー族の城塞都市の地勢、海洋民の機動性'''
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Bretagne Finistere PointeduRaz15119.jpg|thumb|right|350px|ウェネティー族の[[w:オッピドゥム|城塞都市]]があった[[w:ブルターニュ半島|ブルターニュ半島]]の突き出た地形]]
|}
</div>
*Erant [[wikt:en:eiusmodi|eiusmodi]] fere situs oppidorum,
**([[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]の)<ruby><rb>[[w:オッピドゥム|城塞都市]]</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>の地勢はほぼ以下のようであった。
*ut posita in extremis [[wikt:en:lingula#Latin|lingulis]] [[wikt:en:promunturium#Latin|promunturiis]]que
**<ruby><rb>[[w:砂嘴|砂嘴]]</rb><rp>(</rp><rt>リングラ</rt><rp>)</rp></ruby>や[[w:岬|岬]]の先端部に位置しているので、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:en:lingula#Latin|lingula]] ⇒ [[w:la:Lingua terrae|lingua terrae]] (舌状地) ≒ <ruby><rb>[[w:砂嘴|砂嘴]]</rb><rp>(</rp><rt>さし</rt><rp>)</rp></ruby>(くちばし状の砂地)。)</span>
*neque pedibus aditum haberent, cum ex alto se [[wikt:en:aestus#Latin|aestus]] incitavisset,
**沖合から<ruby><rb>[[w:潮汐|潮 汐]]</rb><rp>(</rp><rt>アエトゥス</rt><rp>)</rp></ruby>が押し寄せて来たとき<span style="color:#009900;">〔満潮〕</span>に、徒歩での<ruby><rb>接近路</rb><rp>(</rp><rt>アプローチ</rt><rp>)</rp></ruby>を持っていなかった。
*quod bis accidit semper horarum XII(duodenarum) spatio,
**というのは<span style="color:#009900;">(満潮が毎日)</span>2度、常に12時間の間隔で起こるためである。
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Astronomical tide IJmuiden 21 January 2012.png|thumb|right|600px|ある日(24時間)の'''[[w:潮位|潮位]]'''予測グラフの例(2012年、オランダ北海沿岸のエイマイデン)。<br>満潮や干潮は、約12時間の周期で繰り返されることが多いため、たいてい1日2回ずつ生じる。]]
|}
</div>
*neque navibus,
**船で(のアプローチ)もなく、
*quod rursus minuente aestu naves in vadis adflictarentur.
**というのは、潮が再び減ると<span style="color:#009900;">〔干潮〕</span>、船団が[[w:浅瀬|浅瀬]]で損傷してしまうためである。
*Ita utraque re oppidorum oppugnatio impediebatur;
**このように<span style="color:#009900;">(陸路・海路)</span>どちらの状況においても、<ruby><rb>城塞都市</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>の攻略は妨げられていた。
<br><br>
*ac si quando magnitudine operis forte superati,
**あるとき、期せずして<span style="color:#009900;">(ウェネティー族がローマ人の)</span><ruby><rb>構造物</rb><rp>(</rp><rt>オプス</rt><rp>)</rp></ruby>の大きさに圧倒されて、
*extruso mari aggere ac molibus
**<span style="color:#009900;">(ローマ人が建造した)</span><ruby><rb>土手</rb><rp>(</rp><rt>アッゲル</rt><rp>)</rp></ruby>や<ruby><rb>[[w:防波堤|防波堤]]</rb><rp>(</rp><rt>モーレース</rt><rp>)</rp></ruby>により海水が押し出され、
*atque his oppidi moenibus adaequatis,
**これら<span style="color:#009900;">〔堡塁〕</span>が<ruby><rb>城塞都市</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>の城壁と<span style="color:#009900;">(高さにおいて)</span>等しくされ、
*suis fortunis desperare coeperant,
**<span style="color:#009900;">(ウェネティー族らが)</span>自分たちの命運に絶望し始めていたとしても、
*magno numero navium adpulso,
**船の多数を接岸して、
*cuius rei summam facultatem habebant,
**それら〔船〕の供給に最大の備えを持っていたので、
*omnia sua deportabant seque in proxima oppida recipiebant;
**自分たちの<ruby><rb>一切合財</rb><rp>(</rp><rt>オムニア</rt><rp>)</rp></ruby>を運び去って、最も近い<ruby><rb>城塞都市</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>に撤収していた。
*ibi se rursus isdem opportunitatibus loci defendebant.
**そこにおいて再び同じような地の利によって防戦していたのだ。
<br><br>
*Haec [[wikt:en:eo#Latin|eo]] facilius magnam partem aestatis faciebant,
**以上のことが、夏の大部分を<span style="color:#009900;">(ウェネティー族にとって)</span>より容易にしていた。
*quod nostrae naves [[wikt:en:tempestas#Latin|tempestatibus]] detinebantur,
**なぜなら、我が方〔ローマ人〕の船団は嵐により<span style="color:#009900;">(航行を)</span>阻まれており、
*summaque erat
**<span style="color:#009900;">(航行することの困難さが)</span>非常に大きかった。
*vasto atque aperto mari,
**海は広大で開けており、
*magnis aestibus,
**<ruby><rb>潮流</rb><rp>(</rp><rt>アエトゥス</rt><rp>)</rp></ruby>が激しく、
*raris ac prope nullis portibus
**港は<ruby><rb>疎</rb><rp>(</rp><rt>まば</rt><rp>)</rp></ruby>らでほとんどないので、
*difficultas navigandi.
**航行することの困難さが<span style="color:#009900;">(非常に大きかった)</span>。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===13節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/13節]] {{進捗|00%|2022-07-10}}</span>
'''ウェネティー族の帆船の特徴'''
<div style="background-color:#ededed; width:90%; text-align:center">
{|
|-
| colspan="2" |ウェネティー族の船の再現画(左下に兵士の大きさが示されている)
| rowspan="2" style="background-color:#fff;" |
| rowspan="2" style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Navis longa ja.JPG|thumb|right|350px|古代ローマの軍船([[w:ガレー船|ガレー船]])の構成]]
|-
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Navire venete.svg|thumb|right|200px|一つの帆をもつ帆船の例]]
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Navire venete 2.svg|thumb|right|200px|二つの帆をもつ帆船の例]]
|}
</div>
*Namque ipsorum naves ad hunc modum factae armataeque erant:
**これに対して彼ら<span style="color:#009900;">〔[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]〕</span>自身の[[w:帆船|船]]は、以下のやり方で建造され、<ruby><rb>[[w:艤装|艤装]]</rb><rp>(</rp><rt>ぎそう</rt><rp>)</rp></ruby>されていた。
; 竜骨
*[[wikt:en:carina#Latin|carinae]] [[wikt:en:aliquanto|aliquanto]] planiores quam nostrarum navium,
**<ruby><rb>[[w:竜骨 (船)|竜 骨]]</rb><rp>(</rp><rt>カリーナ</rt><rp>)</rp></ruby>は、我が方<span style="color:#009900;">〔ローマ人〕</span>の船のものよりも、いくらか平らで、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:[[w:竜骨 (船)|竜骨]]は、船底に突き出た背骨部分で、[[w:帆船|帆船]]が風で横滑りしないように造られていた。)</span>
*quo facilius vada ac decessum aestus excipere possent;
**それによって、より容易に[[w:浅瀬|浅瀬]] や [[w:潮汐|潮]]が退くこと<span style="color:#009900;">〔干潮〕</span>を持ち応えることができた。
; 船首と船尾
*[[wikt:en:prora#Latin|prorae]] admodum erectae atque item [[wikt:en:puppis|puppes]],
**<ruby><rb>[[w:船首|船 首]]</rb><rp>(</rp><rt>プローラ</rt><rp>)</rp></ruby>はまったく直立しており、<ruby><rb>[[w:船尾|船 尾]]</rb><rp>(</rp><rt>プッピス</rt><rp>)</rp></ruby>も同様で、
*ad magnitudinem fluctuum tempestatumque adcommodatae;
**<ruby><rb>[[w:波#波浪(風浪とうねり)|波 浪]]</rb><rp>(</rp><rt>フルークトゥス</rt><rp>)</rp></ruby> や <ruby><rb>[[w:嵐|暴風雨]]</rb><rp>(</rp><rt>テンペスタース</rt><rp>)</rp></ruby> の激しさに適応していた。
; 船体の材質
*naves totae factae ex [[wikt:en:robur#Latin|robore]] ad quamvis vim et contumeliam perferendam;
**船は、どんな力や衝撃にも耐えるために、全体として[[w:オーク|オーク材]]で造られていた。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:la:robur|robur]] は ''[[wikt:en:oak#English|oak]]'' と英訳され、[[w:樫#Japanese|樫]]と訳されることが多いが、<br> 「<ruby><rb>[[w:カシ|樫]]</rb><rp>(</rp><rt>カシ</rt><rp>)</rp></ruby>」は常緑樹であり、西洋では落葉樹である「<ruby><rb>[[w:ナラ|楢]]</rb><rp>(</rp><rt>ナラ</rt><rp>)</rp></ruby>」が多い。<br> 学名 [[w:la:Quercus robur|Quercus robur]] は「[[w:ヨーロッパナラ|ヨーロッパナラ]]」と訳される。)</span>
; 横梁
*[[wikt:en:transtrum#Latin|transtra]] ex pedalibus in altitudinem [[wikt:en:trabs#Latin|trabibus]], confixa [[wikt:en:clavus#Latin|clavis]] [[wikt:en:ferreus#Latin|ferreis]] digiti [[wikt:en:pollex#Latin|pollicis]] crassitudine;
**<ruby><rb>横梁(横木)</rb><rp>(</rp><rt>トラーンストルム</rt><rp>)</rp></ruby>は、1ペースの幅の<ruby><rb>材木</rb><rp>(</rp><rt>トラプス</rt><rp>)</rp></ruby>からなり、親指の太さほどの鉄製の[[w:釘|釘]]で固定されていた。
**:<span style="font-family:Times New Roman;color:#009900;">(訳注:1[[ガイウス・ユリウス・カエサルの著作/通貨・計量単位#ペース|ペース]]は約29.6cm。)</span>
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:en:transtrum#Latin|transtra]] は、<ruby><rb>[[w:マスト|帆柱]]</rb><rp>(</rp><rt>マスト</rt><rp>)</rp></ruby>([[wikt:en:malus#Etymology_3_2|malus]])を船に固定するための<ruby><rb>横梁(横木)</rb><rp>(</rp><rt>クロスビーム</rt><rp>)</rp></ruby>とも考えられる。)</span>
; 錨(いかり)の索具
*[[wikt:en:ancora#Latin|ancorae]] pro [[wikt:en:funis#Latin|funibus]] ferreis catenis revinctae;
**<ruby><rb>[[w:錨|錨]]</rb><rp>(</rp><rt>アンコラ</rt><rp>)</rp></ruby>は、<ruby><rb>[[w:ロープ|縄 索]]</rb><rp>(</rp><rt>フーニス</rt><rp>)</rp></ruby>の代わりに鉄製の[[w:鎖|鎖]]でつながれていた。
<div style="background-color:#eee; width:600px; text-align:center">
{|
|-
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Nemi 060 museo delle Navi.jpg|thumb|right|180px|[[w:la:Ancora|ancora]] ([[w:錨|錨]])(古代ローマ)]]
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Cordage en chanvre.jpg|thumb|right|150px|[[w:la:Funis|funis]] (綱の[[w:ロープ|ロープ]])]]
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Old chain.jpg|thumb|right|150px|[[w:la:Catena|catena]] ([[w:鎖|鎖]])]]
|}
</div>
<br>
; 帆の材質
*[[wikt:en:pellis#Latin|pelles]] pro [[wikt:en:velum#Latin|velis]] [[wikt:en:aluta#Latin|alutae]]que tenuiter confectae,
**<ruby><rb>[[w:帆布|帆 布]]</rb><rp>(</rp><rt>ウェールム</rt><rp>)</rp></ruby>の代わりに<ruby><rb>[[w:毛皮|毛皮]]</rb><rp>(</rp><rt>ペッリス</rt><rp>)</rp></ruby>や、薄く作製された<ruby><rb>なめし皮</rb><rp>(</rp><rt>アルータ</rt><rp>)</rp></ruby>が(用いられた)。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:en:pellis#Latin|pellis]] は<ruby><rb>鞣</rb><rp>(</rp><rt>なめ</rt><rp>)</rp></ruby>していない生皮、[[wikt:en:aluta#Latin|aluta]] は<ruby><rb>鞣</rb><rp>(</rp><rt>なめ</rt><rp>)</rp></ruby>した[[w:皮革|皮革]] [[wikt:en:corium#Latin|corium]] のこと。)</span>
<div style="background-color:#eee; width:600px; text-align:center">
{|
|-
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Linen canvas.jpg|thumb|right|150px|<ruby><rb>[[w:リネン|亜麻布]]</rb><rp>(</rp><rt>リネン</rt><rp>)</rp></ruby>の[[w:帆布|帆布]] ]]
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Kissen aus indischem Antilopenfell 2013.jpg|thumb|right|100px|[[w:la:Pellis|pellis]] ([[w:毛皮|毛皮]])]]
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Natural Bridge State Park (30337351644).jpg|thumb|right|200px|aluta ([[w:en:Tanning (leather)|なめし皮]])]]
|}
</div>
*[hae] sive propter inopiam [[wikt:en:linum#Latin|lini]] atque eius usus inscientiam,
**[これは] あるいは、<ruby><rb>[[w:アマ (植物)|亜麻]]</rb><rp>(</rp><rt>リーヌム</rt><rp>)</rp></ruby>の不足ゆえや、その利用に無知であるゆえか、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:ローマ人には、[[w:リネン|亜麻布 (リネン)]]で帆を作る慣習があった。)</span>
*sive eo, quod est magis [[wikt:en:verisimilis#Latin|veri simile]],
**あるいは、この方がより真実に近いのだろうが、
*quod tantas tempestates Oceani tantosque impetus ventorum sustineri
**<ruby><rb>[[w:オーケアノス|大洋]]〔[[w:大西洋|大西洋]]〕</rb><rp>(</rp><rt>オーケアヌス</rt><rp>)</rp></ruby>のあれほどの嵐や、風のあれほどの激しさに持ち応えること、
*ac tanta onera navium regi
**船のあれほどの重さを制御することは、
*[[wikt:en:velum#Latin|velis]] non satis commode posse arbitrabantur.
**<ruby><rb>帆 布</rb><rp>(</rp><rt>ウェールム</rt><rp>)</rp></ruby>にとって十分に具合良くできないと、<span style="color:#009900;">(ウェネティー族は)</span>考えていたためであろう。
<br><br>
; ウェネティー船団とローマ艦隊の優劣
*Cum his navibus nostrae classi eiusmodi congressus erat,
**彼ら<span style="color:#009900;">〔ウェネティー族〕</span>の船団と、我が方<span style="color:#009900;">〔ローマ軍〕</span>の艦隊は、以下のように交戦していた。
*ut una celeritate et pulsu remorum praestaret,
**迅速さと<ruby><rb>[[w:櫂|櫂]](かい)</rb><rp>(</rp><rt>レームス</rt><rp>)</rp></ruby>を<ruby><rb>漕</rb><rp>(</rp><rt>こ</rt><rp>)</rp></ruby>ぐのだけは<span style="color:#009900;">(ローマ艦隊が)</span>よりまさっていたのだが、
*reliqua pro loci natura, pro vi tempestatum
**そのほかのことは、地勢や嵐の勢いを考慮すると、
*illis essent aptiora et adcommodatiora.
**彼ら<span style="color:#009900;">〔ウェネティー族〕</span>にとってより適しており、より好都合であった。
*Neque enim his nostrae rostro nocere poterant
**なぜなら、我が方<span style="color:#009900;">〔ローマ艦隊〕</span>の<ruby><rb>[[w:衝角|衝 角]]</rb><rp>(</rp><rt>ローストルム</rt><rp>)</rp></ruby>によって彼ら<span style="color:#009900;">(の船)</span>に対して損壊することができず、
*── tanta in iis erat firmitudo ──,
**──それら<span style="color:#009900;">〔ウェネティー族の船〕</span>においては<span style="color:#009900;">(船体の)</span>それほどの頑丈さがあったのだが──
*neque propter altitudinem facile telum adigebatur,
**<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の船体の)</span>高さのゆえに、飛道具がたやすく投げ込まれなかったし、
*et eadem de causa minus commode <u>[[wikt:en:copula#Latin|copulis]]</u> continebantur.
**同じ理由から、あまり都合よく <ruby><rb><u>[[w:鉤縄|鉤縄]]</u></rb><rp>(</rp><rt>かぎなわ</rt><rp>)</rp></ruby> で<span style="color:#009900;">(敵船が)</span>つなぎ止められなかった。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:下線部は、古い写本では [[wikt:en:scopulus#Latin|scopulis]]「岩礁」だが、<br> 後代の写本で修正され「[[w:鉤縄|鉤縄]]」と解釈されている。下図参照。)</span>
<div style="background-color:#eee; width:350px; text-align:center">
{|
|-
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Grappling hook 2 (PSF).png|thumb|right|410px|[[w:海戦|海戦]]において敵船に[[w:移乗攻撃|接舷]]するために用いられていた、多数の<ruby><rb>[[w:鉤|鉤]]</rb><rp>(</rp><rt>かぎ</rt><rp>)</rp></ruby>を備えた<ruby><rb>[[w:銛|銛]]</rb><rp>(</rp><rt>もり</rt><rp>)</rp></ruby>の一種(<small>英語 [[wikt:en:grappling hook|grappling hook]]</small>)。<hr>[[内乱記_第1巻#57節|『内乱記』第1巻57節]]、[[内乱記_第2巻#6節|第2巻6節]]においても、[[w:デキムス・ユニウス・ブルトゥス・アルビヌス|D.ブルートゥス]]による'''[[内乱記/マッシリアについて|マッシリア攻囲]]'''の海戦の場面で、同様の鉤について言及される。]]
|}
</div>
*Accedebat ut,
**さらに加えて、
*cum <span style="color:#009900;">[</span>saevire ventus coepisset et<span style="color:#009900;">]</span> se vento dedissent,
**<span style="color:#009900;">[</span>風が荒々しく吹き始めて<span style="color:#009900;">]</span> 風に身を委ねて<span style="color:#009900;">(航行して)</span>いたときに、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:β系写本では [ ] 部分を欠く。)</span>
*et tempestatem ferrent facilius
**<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の船団は)</span>嵐により容易に耐えていたし、
*et in vadis consisterent tutius
**浅瀬により安全に停留して、
*et ab aestu relictae
**潮に取り残されても、
*nihil saxa et [[wikt:en:cautes#Latin|cautes]] timerent;
**岩石やごつごつした石を何ら恐れることがなかった。
*quarum rerum omnium nostris navibus casus erant extimescendi.
**それらのすべての事が、我が<span style="color:#009900;">〔ローマ人の〕</span>船団にとっては、恐怖すべき危険であったのだ。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:ウェネティー族の船は[[w:竜骨 (船)|竜骨]]がローマ人の船より平たいため、<br> 浅瀬や引き潮を容易に持ち応えられた。本節の冒頭を参照。)</span>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===14節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/14節]] {{進捗|00%|2022-07-17}}</span>
'''カエサル待望のブルートゥスの艦隊が来航し、ウェネティー族との海戦が始まる'''
*Compluribus expugnatis oppidis
**いくつもの<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の)</span><ruby><rb>[[w:オッピドゥム|城塞都市]]</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>が攻略されると、
*Caesar <u>ubi intellexit</u> frustra tantum laborem sumi
**カエサルは、これほどの労苦が無駄に費やされること(を知り)、
*neque hostium fugam captis oppidis reprimi
**(すなわち)<ruby><rb>城塞都市</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>が占領されても、敵の逃亡が阻まれないし、
*neque iis noceri posse,
**彼ら<span style="color:#009900;">〔ウェネティー族〕</span>に損害が与えられることも不可能である<u>と知るや否や</u>、
*statuit exspectandam classem.
**[[w:ローマ海軍|艦隊]]<span style="color:#009900;">(の到着)</span>を待つことを決意した。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:ローマの軍船がリゲル川〔[[w:ロワール川|ロワール川]]〕で建造されていることが[[#9節|9節]]で述べられた。)</span>
<br>
; ローマ艦隊が来航すると、約220隻のウェネティー船団が迎え撃とうとする
*Quae ubi convenit ac primum ab hostibus visa est,
**それ<span style="color:#009900;">〔ローマ艦隊〕</span>が集結して敵方により目撃されるや否や、
*circiter CCXX(ducentae viginti) naves eorum paratissimae
**約220隻の彼ら<span style="color:#009900;">〔ウェネティー族〕</span>の船団が準備万端を整え、
*atque omni genere armorum ornatissimae
**あらゆる種類の武器で完全武装された状態で
*ex portu profectae nostris adversae [[wikt:en:consisto#Latin|constiterunt]];
**港から出航して、我が方<span style="color:#009900;">〔ローマ艦隊〕</span>と向かい合って停止した。
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Bataille Morbihan -56.png|thumb|right|600px|[[w:紀元前56年|BC56年]]に現在の[[w:モルビアン県|モルビアン県]]沿いの[[w:キブロン湾|キブロン湾]]で戦われたと考えられている、[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]と[[w:デキムス・ユニウス・ブルトゥス・アルビヌス|D. ブルートゥス]]率いる艦隊との海戦、いわゆる「[[w:モルビアン湾の海戦|モルビアン湾の海戦]]」の海戦図。<hr>上図の説では、<span style="color:green;">ウェネティー族の帆船(緑色/約220隻)</span>と<span style="color:red;">ブルートゥス率いるローマのガレー船(赤色/約100隻)</span>が[[w:キブロン湾|キブロン湾]]で対峙し、<span style="color:red;">カエサルと1個軍団(赤色)</span>が沿岸を占領している。]]
|}
</div>
*neque satis [[wikt:en:Brutus#Latin|Bruto]], qui classi praeerat,
**艦隊を統率していた[[w:デキムス・ユニウス・ブルトゥス・アルビヌス|ブルートゥス]]には十分(明らか)ではなかった。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:デキムス・ブルートゥス [[w:la:Decimus Iunius Brutus Albinus|Decimus Brutus]] に艦隊を指揮させることが[[#11節|11節]]で述べられた。)</span>
*vel tribunis militum centurionibusque, quibus singulae naves erant attributae,
**あるいは、個々の船が割り当てられていた <ruby><rb>[[w:トリブヌス・ミリトゥム|兵士長官]]</rb><rp>(</rp><rt>トリブヌス・ミリトゥム</rt><rp>)</rp></ruby> や <ruby><rb>[[w:ケントゥリオ|百人隊長]]</rb><rp>(</rp><rt>ケントゥリオー</rt><rp>)</rp></ruby> にとってさえも、
*constabat quid agerent aut quam rationem pugnae insisterent.
**何をすべきなのか、どのような戦法に取り掛かるべきなのか、明らかではなかった。
*[[wikt:en:rostrum#Latin|Rostro]] enim noceri non posse cognoverant;
**なぜなら、<ruby><rb>[[w:衝角|衝 角]]</rb><rp>(</rp><rt>ローストルム</rt><rp>)</rp></ruby>にとって<span style="color:#009900;">(敵船に)</span>損害を与えることができないことを知っていたからだ。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:[[#13節|前節]]で、ウェネティー族の船体が頑丈であるため、と述べられた。)</span>
*turribus autem excitatis tamen has altitudo [[wikt:en:puppis#Latin|puppium]] ex barbaris navibus superabat,
**他方で、[[w:櫓|櫓]]が築かれたにもかかわらず、蛮族の船の <ruby><rb>[[w:船尾|船尾]]</rb><rp>(</rp><rt>プッピス</rt><rp>)</rp></ruby> の高さがそれら(の高さ)を上回っていた。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:ローマの軍船の甲板上には、投槍などの飛道具を投げるために櫓が設けられていた。)</span>
*ut neque ex inferiore loco satis commode [[wikt:en:telum#Latin|tela]] adigi possent
**その結果、より低い場所から十分に具合良く<span style="color:#009900;">(敵船に)</span><ruby><rb>[[w:飛び道具|飛道具]]</rb><rp>(</rp><rt>テールム</rt><rp>)</rp></ruby>が投げ込まれることは不可能で、
*et missa a Gallis gravius acciderent.
**ガッリア人により放られたものがより激しく降ってきていた。
<br>
; ローマ艦隊の切り札
*Una erat magno usui res praeparata a nostris,
**ただ一つの大いに役立つ物が、我が方<span style="color:#009900;">〔ローマ艦隊〕</span>によって準備されていた。
*[[wikt:en:falx#Latin|falces]] praeacutae insertae adfixaeque [[wikt:en:longurius#Latin|longuriis]],
**<span style="color:#009900;">(それは)</span>先の尖った[[w:鎌|鎌]]が <ruby><rb>長い竿</rb><rp>(</rp><rt>ロングリウス</rt><rp>)</rp></ruby> に挿入されて固定されたもので、
*non absimili forma muralium falcium.
**<ruby><rb><span style="color:#009900;">(攻城用の)</span>破城の鎌</rb><rp>(</rp><rt>ファルクス・ムーラーリス</rt><rp>)</rp></ruby> に形が似ていなくもない。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:「破城の鎌」'''[[古代ローマの攻城兵器#falx_muralis_(siege_hook)|falx muralis]]''' に似たもので、'''[[ガイウス・ユリウス・カエサルの著作/古代ローマの攻城兵器#falx_navalis|falx navalis]]''' とも呼ばれている。)</span>
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Caesar's Gallic war; (Allen and Greenough's ed.) (1898) (14778300381)(cropped).jpg|thumb|right|300px|破城鎌の復元画の例]]
|[[画像:Ulysse bateau.jpg|thumb|right|320px|帆柱・帆桁や帆・綱具などが描かれたローマ時代の[[w:モザイク|モザイク画]]<ref>[[w:en:Roman mosaic]]</ref>《[[w:オデュッセウス|オデュッセウス]]と[[w:セイレーン|セイレーン]]》<br>([[w:チュニス|チュニス]]の[[w:バルド国立博物館|バルド国立博物館]])]]
|}
</div>
*His cum [[wikt:en:funis#Latin|funes]] qui [[wikt:en:antemna#Latin|antemnas]] ad [[wikt:en:malus#Etymology_3_2|malos]] destinabant, comprehensi adductique erant,
**これによって、<ruby><rb>帆 桁</rb><rp>(</rp><rt>アンテムナ</rt><rp>)</rp></ruby> を <ruby><rb>[[w:マスト|帆 柱]]</rb><rp>(</rp><rt>マールス</rt><rp>)</rp></ruby> に縛り付けていた <ruby><rb>綱具</rb><rp>(</rp><rt>フーニス</rt><rp>)</rp></ruby> が捕捉されて引っ張られた状態で、
*navigio remis incitato praerumpebantur.
**<ruby><rb>艦艇</rb><rp>(</rp><rt>ナーウィギウム</rt><rp>)</rp></ruby>が[[w:櫂|櫂]]によってすばやく推進されると、<span style="color:#009900;">(綱具が)</span>引き裂かれていた。
*Quibus abscisis antemnae necessario concidebant,
**それら<span style="color:#009900;">〔綱具〕</span>が切断されると、<ruby><rb>帆 桁</rb><rp>(</rp><rt>アンテムナ</rt><rp>)</rp></ruby> は必然的に倒れてしまっていた。
*ut, cum omnis Gallicis navibus spes in velis armamentisque consisteret,
**その結果、ガッリア人の船団にとって、すべての期待は帆と索具に依拠していたので、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:en:armamentum#Latin|armamentum]] (英 ''[[wikt:en:rigging#English|rigging]]'')⇒「索具」:[[w:帆|帆]]と[[w:マスト|帆柱]]を支える綱や器具など。)</span>
*his ereptis omnis usus navium uno tempore eriperetur.
**これらが引き裂かれると、船のすべての運用能力も<ruby><rb>一時</rb><rp>(</rp><rt>いちどき</rt><rp>)</rp></ruby>に奪い取られていた。
*Reliquum erat certamen positum in virtute,
**残りの争闘は、武勇いかんに<ruby><rb>懸</rb><rp>(</rp><rt>か</rt><rp>)</rp></ruby>かっており、
*qua nostri milites facile superabant,
**その点では我が方<span style="color:#009900;">〔ローマ勢〕</span>の兵士たちが容易に上回っていた。
<br>
; 沿岸はカエサルとローマ軍によって占領されていた
*atque eo magis quod in conspectu Caesaris atque omnis exercitus res gerebatur,
**海戦がカエサルと全陸軍の眼前において遂行されていたので、それだけますます
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:en:classis#Latin|classis]] が艦隊(海軍)を指すのに対して、[[wikt:en:exercitus#Noun|exercitus]] は重装歩兵を主体とする陸軍部隊を指す。)</span>
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:en:eo#Etymology_3_2|eo]] [[wikt:en:magis#Latin|magis]] [[wikt:en:quod#Latin|quod]] ~ 「~だけ、ますます」)</span>
*ut nullum paulo fortius factum latere posset;
**(普通より)より少し勇敢ならどんな行動も知らずにはおかないほどであった。
*omnes enim colles ac loca superiora, unde erat propinquus despectus in mare, ab exercitu tenebantur.
**なぜなら、そこから海への眺望が近いところのすべての丘や高地は、<span style="color:#009900;">(ローマ人の)</span>軍隊によって占領されていたのである。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===15節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/15節]] {{進捗|00%|2022-07-28}}</span>
'''接舷戦でローマ艦隊がウェネティー船団を圧倒し、わずかな船だけが逃げ帰る'''
*Deiectis, ut diximus, antemnis,
**上述したように<ruby><rb>帆 桁</rb><rp>(</rp><rt>アンテムナ</rt><rp>)</rp></ruby>がぶっ倒れて、
*cum singulas binae ac ternae naves circumsteterant,
**<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の)</span>船1隻ずつを<span style="color:#009900;">(ローマの)</span>2隻ずつや3隻ずつが取り囲んでいたときに、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:ローマの[[w:ガレー船|ガレー船]]は、多数の漕ぎ手を乗せるため、兵士を大勢乗せることができなかった。<br> それゆえ、[[w:移乗攻撃|接舷戦]]では、敵の1隻に対して多くの船を当てる必要があったであろう。)</span>
*milites summa vi transcendere in hostium naves contendebant.
**<span style="color:#009900;">(ローマの)</span>兵士たちは最高の力で敵の船団に乗り移ることに努めていた。
*Quod postquam barbari fieri animadverterunt,
**そのことが行なわれていることに蛮族たちが気付いた後で、
*expugnatis compluribus navibus,
**かなり多くの<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の)</span>船が攻略されて、
*cum ei rei nullum reperiretur auxilium,
**その戦況に対して何ら助けを見出せなかったので、
*fuga salutem petere contenderunt.
**逃亡に身の安全を求めることに努めた。
*Ac iam conversis in eam partem navibus quo ventus ferebat,
**すでに風が運んでいた方角へ船団の向きが変えられていたが、
*tanta subito malacia ac tranquillitas exstitit,
**突如としてあれほどの<ruby><rb>[[w:凪|凪]]</rb><rp>(</rp><rt>なぎ</rt><rp>)</rp></ruby>や静けさが生じたので、
*ut se ex loco movere non possent.
**<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の船団が)</span>その場所から動くことができないほどであった。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:この[[w:ビスケー湾|ビスケー湾]]海域は、風や潮の勢いが強いため、<br> ウェネティー族は漕ぎ手を使わない帆船を用いていたのだろう。<br> 風力のみに頼る帆船は、無風時には進むことができない。)</span>
*Quae quidem res ad negotium conficiendum maximae fuit oportunitati:
**このような事態はまさに<span style="color:#009900;">(ローマ艦隊が)</span>軍務を遂行するために最大の機会であった。
*nam singulas nostri consectati expugnaverunt,
**実際、<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の船)</span>1隻ずつを我が方<span style="color:#009900;">(ローマ艦隊)</span>が追跡して攻略したので、
*ut perpaucae ex omni numero noctis interventu ad terram pervenirent,
**その結果<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の船の)</span>総数のうちごく少数が、夜のとばりに包まれて、陸地に達しただけであった。
*cum ab hora fere IIII.(quarta) usque ad solis occasum pugnaretur.
**<span style="color:#009900;">(海戦が)</span>ほぼ第四時から日が没するまで戦われていたけれども。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:第四時は、[[古代ローマの不定時法#昼間の時間|古代ローマの不定時法]]で日の出から3~4時間後。<br> フランスの6月頃なら、日の出が午前6時頃で、第四時は午前10時近くと思われる。<br> 6月頃なら、日の入は午後10時近くとかなり遅い。)</span>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===16節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/16節]] {{進捗|00%|2022-08-19}}</span>
'''ウェネティー族らがカエサルに降伏するが、・・・'''
*Quo proelio bellum [[wikt:en:Veneti#Latin|Venetorum]] totiusque orae maritimae confectum est.
**以上の戦闘で、[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]およびすべての沿海部との戦争が完遂された。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:正確には、[[#17節|次節]]以降でウネッリー族ら残りの沿海部族との戦いが述べられるので「すべて」ではない。)</span>
*Nam <u>cum</u> omnis iuventus, omnes etiam gravioris aetatis,
**なぜなら、すべての青年とすべての年嵩の者さえも、
*in quibus aliquid consilii aut dignitatis fuit eo convenerant,
**何らかの分別や地位のあった者たちは、そこ<span style="color:#009900;">(戦場)</span>へ集まっていたから。
*<u>tum</u> navium quod ubique fuerat in unum locum coegerant;
**<u>そればかりか</u>、至る所にあった船<u>もまた</u>一つの場所に集められていたからだ。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:en:cum#Usage_notes_2|cum]] ~ [[wikt:en:tum#Latin|tum]] 「~のみならず、・・・もまた」<ref>[https://www.latin-is-simple.com/en/vocabulary/other/2643/ cum … tum - Latin is Simple Online Dictionary] 等を参照。</ref>)</span>
*quibus amissis reliqui
**それらを喪失して、残された者たちは、
*neque quo se reciperent
**どこへ退却するべきなのかも、
*neque [[wikt:en:quemadmodum#Latin|quem ad modum]] oppida defenderent habebant.
**どのような方法で<ruby><rb>[[w:オッピドゥム|城塞都市]]</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>を防衛するべきなのかも、わからなかった。
<br>
; ウェネティー族らが降伏する
*Itaque se suaque omnia Caesari dediderunt.
**こうして、<span style="color:#009900;">(ウェネティー族らは)</span>自らとその一切合財をカエサルに委ねた<span style="color:#009900;">〔降伏した〕</span>。
*In quos eo gravius Caesar vindicandum statuit
**これらの者たちに、より厳重に処罰されるべきである、とカエサルは決定した。
*quo diligentius in reliquum tempus a barbaris ius legatorum conservaretur.
**そのことによって、今後、蛮族により<span style="color:#009900;">(ローマの)</span>使節たちの権利をいっそう保たせるように。
*Itaque omni senatu necato reliquos sub corona vendidit.
**こうして、すべての長老を殺害して、残りの者たちを葉冠をかぶせて<span style="color:#009900;">〔奴隷として競売で〕</span>売却した。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:sub corona vendere 「葉冠のもとに売る=奴隷として競売で売る」)</span>
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Jean-Léon Gérôme 004 (cropped).jpg|thumb|right|300px|葉冠を頭にかぶせられ、ローマの[[w:奴隷貿易|奴隷市場]]で競売に懸けられる女性奴隷。<hr>フランスの画家[[w:ジャン=レオン・ジェローム|ジャン=レオン・ジェローム]]が1884年に描いた歴史画「ローマの奴隷売却」(''[[w:fr:Vente d'esclaves à Rome|Vente d'esclaves à Rome]]'')の一部分。]]
|}
</div>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
==大西洋岸ウネッリ族の造反==
===17節===
[[画像:Campagne Unelles -56.png|thumb|right|200px|ウネッリ族・レクソウィイ族への遠征経路。]]
'''ウネッリ族の反乱とサビヌスの作戦'''
*Dum haec in Venetis geruntur,
**以上のことが[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]](の領国)で行なわれていた間に、
*Q. Titurius Sabinus cum iis copiis, quas a Caesare acceperat
**[[w:クィントゥス・ティトゥリウス・サビヌス|クィントゥス・ティトゥリウス・サビヌス]]は、カエサルから受け取った軍勢とともに
*in fines Unellorum{Venellorum} pervenit.
**[[w:ウネッリ族|ウネッリ族]]の領土に到着した。
*His praeerat Viridovix ac summam imperii tenebat earum omnium civitatum, quae defecerant,
**彼ら(ウネッリ族)を指揮していたのは[[w:ウィリドウィクス|ウィリドウィクス]]で、背反した全部族の最高指揮権を保持していた。
*ex quibus exercitum [magnasque copias] coegerat;
**(彼は)これら(の部族)から大軍勢を徴集した。
*atque his paucis diebus Aulerci Eburovices Lexoviique,
**それから数日内に、[[w:アウレルキ族|アウレルキ族]]、[[w:エブロウィケス族|エブロウィケス族]]と[[w:レクソウィー族|レクソウィイ族]]は、
*senatu suo interfecto, quod auctores belli esse nolebant,
**自分たちの長老たちを、戦争の首謀者になることを欲しなかったという理由で殺害し、
*portas clauserunt seseque cum Viridovice coniunxerunt;
**(城市の)門を閉じて、彼らはウィリドウィクスと結託した。
*magnaque praeterea multitudo undique ex Gallia perditorum hominum latronumque convenerat,
**そのうえにガリアの至る所から大勢の無頼漢や略奪者が集まっていた。
*quos spes praedandi studiumque bellandi ab agri cultura et cotidiano labore revocabat.
**これらの者たちを、略奪への期待と戦争への熱望が、農耕や毎日の仕事から呼び戻したのだ。
*Sabinus idoneo omnibus rebus loco castris se tenebat,
**サビヌスはすべての事柄において適切な場所で、陣営を保持した。
*cum Viridovix contra eum duorum milium spatio consedisset
**ウィリドウィクスは彼に対抗して2[[w:ローママイル|ローママイル]](約3km)の間隔で陣取って、
*cotidieque productis copiis pugnandi potestatem faceret,
**毎日、軍勢を連れ出して戦闘の機会を作った。
*ut iam non solum hostibus in contemptionem Sabinus veniret,
**その結果ついに、敵からサビヌスが軽蔑されるに至ったのみならず、
*sed etiam nostrorum militum vocibus nonnihil carperetur;
**我が方(ローマ)の兵士からも若干の者が声に出して嘲弄するに至った。
*tantamque opinionem timoris praebuit,
**これほどの恐れの評判を呈したので、
*ut iam ad vallum castrorum hostes accedere auderent.
**ついに陣営の堡塁のところにまで敵が敢えて近づいて来るほどであった。
*Id ea de causa faciebat
**(サビヌスは)以上のことを以下の理由でしたのである。
*quod cum tanta multitudine hostium,
**というのも、このような大がかりな敵とともに、
*praesertim eo absente qui summam imperii teneret,
**とりわけ、(ローマ側の)最高指揮権を保持する者(=カエサル)がおらずに、
*nisi aequo loco aut opportunitate aliqua data
**有利な場所か何らかの機会が与えられなければ、
*legato dimicandum non existimabat.
**総督副官([[w:レガトゥス|レガトゥス]])にとって戦うべきとは考えなかったのである。
===18節===
'''サビヌスの計略'''
*Hac confirmata opinione timoris
**このような恐れの評判が強められて、
*idoneum quendam hominem et callidum delegit Gallum,
**(サビヌスは)適切で明敏なガリア人のある男を選び出した。
*ex iis quos auxilii causa secum habebat.
**支援軍([[w:アウクシリア|アウクシリア]])のために保持していた者たちの内から。
*Huic magnis praemiis pollicitationibusque persuadet uti ad hostes transeat,
**この者を、多大なほうびを約束して、敵側に渡るように説得して、
*et quid fieri velit edocet.
**(サビヌスが)なされんと欲することを説き教えた。
*Qui ubi pro perfuga ad eos venit, timorem Romanorum proponit,
**その者は、逃亡兵として彼ら(ウネッリ族)のところへ来るや否や、ローマ人の恐れを申し述べた。
*quibus angustiis ipse Caesar a Venetis prematur docet,
**いかなる困窮で、カエサル自身が[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]により苦戦させられているかを教えた。
*neque longius abesse, quin proxima nocte
**遠からず、明晩には
*Sabinus clam ex castris exercitum educat
**サビヌスはひそかに陣営から軍隊を導き出して、
*et ad Caesarem auxilii ferendi causa proficiscatur.
**カエサルのところへ支援をもたらすために出発するであろう(とその男は教えた)。
*Quod ubi auditum est, conclamant
**このことが聞かれるや否や、(ウネッリ族の者たちは)叫び声を上げて、
*omnes occasionem negotii bene gerendi amittendam non esse: ad castra iri oportere.
**うまく仕事をするすべての機会を失うべきではない、(ローマの)陣営へ行かねばならぬ(と叫んだ)。
*Multae res ad hoc consilium Gallos hortabantur:
**多くの事柄が、この計画へとガリア人を励ました。
**(それらの事柄とは、以下のことである。)
*superiorum dierum Sabini cunctatio,
**最近の日々のサビヌスのためらい、
*perfugae confirmatio,
**脱走兵の確証、
*inopia cibariorum, cui rei parum diligenter ab iis erat provisum,
**彼ら(ガリア人)によって充分に入念に調達されなかった糧食の欠乏、
*spes Venetici belli,
**[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]の戦争への希望、
*et quod fere libenter homines id quod volunt credunt.
**というのも、たいてい人間は(自分が)欲することを喜んで信ずるからである。
*His rebus adducti non prius Viridovicem reliquosque duces ex concilio dimittunt,
**これらの事態に引かれて、(ウネッリ族は)ウィリドウィクスや他の指導者を会議から解散させなかった。
*quam ab his sit concessum arma uti capiant et ad castra contendant.
**彼らによって、武器を取って(ローマ)陣営へ急行するように容認されるまでは。
*Qua re concessa laeti, ut explorata victoria,
**この事が容認されて、勝利が得られたかのように喜んで、
*sarmentis virgultisque collectis, quibus fossas Romanorum compleant, ad castra pergunt.
**柴や薮を集めて、これでもってローマ人の堀を埋めるべく、(ローマの)陣営のところへ出発した。
===19節===
'''ウネッリ族らとの決戦'''
*Locus erat castrorum editus et paulatim ab imo acclivis circiter passus mille.
**ローマ陣営の位置は高く、最も下(麓)から緩やかな上り坂で約1000[[w:パッスス|パッスス]](約1.5km)のところにあった。
*Huc magno cursu contenderunt,
ここへ、大いに駆けて急いで、
*ut quam minimum spatii ad se colligendos armandosque Romanis daretur,
**ローマ人にとって集結して武装するための時間ができるだけ与えられないようにして、
*exanimatique pervenerunt.
**息を切らして到着した。
*Sabinus suos hortatus cupientibus signum dat.
**サビヌスは、自分の部下たちを励まして、はやる者たちに合図を与える。
*Impeditis hostibus propter ea quae ferebant onera,
**敵は、彼らが担いでいた重荷のために妨げられていて、
*subito duabus portis eruptionem fieri iubet.
**(サビヌスは)突然に(左右の)二つの門から出撃することを命じた。
*Factum est
**(ut以下のことが)なされた。
*opportunitate loci, hostium inscientia ac defatigatione,
**場所の有利さ、敵の(武具や戦術の)不案内と疲労や、
*virtute militum et superiorum pugnarum exercitatione,
**兵士の武勇とかつての戦闘の熟練によって
*ut ne primum quidem nostrorum impetum ferrent ac statim terga verterent.
**我が方(ローマ)の最初の襲撃さえ持ちこたえることなく、(敵は)すぐに背を向けた。
*Quos impeditos integris viribus milites nostri consecuti
**これらの妨げられている者たちを、健全な力で我が方の兵士たちが追跡して、
*magnum numerum eorum occiderunt;
**彼らの大多数を殺戮した。
*reliquos equites consectati paucos, qui ex fuga evaserant, reliquerunt.
**残りの者たちは、(ローマの)騎兵が追跡したが、逃亡によって逃れたので、見逃した。
*Sic uno tempore et de navali pugna Sabinus et de Sabini victoria Caesar est certior factus,
**このようにして一度に、海戦についてサビヌスが、サビヌスの勝利についてカエサルが、報告を受けて、
*civitatesque omnes se statim Titurio dediderunt.
**(敵の)全部族がすぐにティトゥリウス(・サビヌス)に降伏した。
*Nam ut ad bella suscipienda Gallorum alacer ac promptus est animus,
**こうなったのは、ガリア人は戦争を実行することについては性急で、心は敏捷であるが、
*sic mollis ac minime resistens ad calamitates ferendas mens eorum est.
**と同様に柔弱で、災難に耐えるには彼らの心はあまり抵抗しないためである。
==クラッススのアクィタニア遠征==
===20節===
[[画像:Campagne Aquitains -56.png|thumb|right|200px|クラッススのアウィタニア遠征の経路。]]
'''クラッススのアクィタニア遠征、ソティアテス族'''
*Eodem fere tempore P. Crassus, cum in Aquitaniam pervenisset,
**ほぼ同じ時期に[[w:プブリウス・リキニウス・クラッスス|プブリウス・クラッスス]]が[[w:アクィタニア|アクィタニア]]に達したときに、
*quae pars, ut ante dictum est, et regionum latitudine et multitudine hominum
**この方面は、前述のように、領域の広さと人間の多さで
*ex tertia parte Galliae est aestimanda,
**[[w:ガリア|ガリア]]の第三の部分であると考えられるべきであるが、
*cum intellegeret in illis locis sibi bellum gerendum,
**(クラッススは)かの場所で自らにとって戦争がなされるべきであると考えたので、
*ubi paucis ante annis L. Valerius Praeconinus legatus exercitu pulso interfectus esset
**そこでほんの数年前に[[w:ルキウス・ウァレリウス・プラエコニヌス|ルキウス・ウァレリウス・プラエコニヌス]]総督副官([[w:レガトゥス|レガトゥス]])が軍隊を撃退されて殺害されており、
*atque unde L. Manlius proconsul impedimentis amissis profugisset,
**かつここから[[w:ルキウス・マンリウス・トルクァトゥス|ルキウス・マンリウス]]執政官代理([[w:プロコンスル|プロコンスル]])が輜重を失って敗走しており、
*non mediocrem sibi diligentiam adhibendam intellegebat.
**己にとって尋常ならざる注意深さが適用されるべきだと考えたのだ。
*Itaque re frumentaria provisa, auxiliis equitatuque comparato,
**こうして糧食が調達され、支援軍([[w:アウクシリア|アウクシリア]])や[[w:騎兵|騎兵隊]]が整備され、
*multis praeterea viris fortibus Tolosa et Carcasone et Narbone,
**そのうえ多くの屈強な男たちが、[[w:トロサ|トロサ]]や[[w:カルカソ|カルカソ]]や[[w:ナルボ|ナルボ]]から
*- quae sunt civitates Galliae provinciae finitimae, ex his regionibus-
**<それらは、この地域に隣接する(ローマの)ガリア属州([[w:ガリア・ナルボネンシス|ガリア・トランサルピナ]])の都市であるが、>
*nominatim evocatis, in Sotiatium fines exercitum introduxit.
**名指しで徴集されて、(クラッススは)[[w:ソティアテス族|ソティアテス族]]の領土に軍隊を導き入れた。
*Cuius adventu cognito Sotiates magnis copiis coactis,
**彼(クラッスス)の到着を知ると、ソティアテス族は大軍勢を集めて、
*equitatuque, quo plurimum valebant, in itinere agmen nostrum adorti
**それにより彼らが大いに力があったところの騎兵隊で、行軍中の我が(ローマの)隊列を襲って、
*primum equestre proelium commiserunt,
**はじめに騎兵戦を戦った。
*deinde equitatu suo pulso atque insequentibus nostris
**それから、その(敵の)騎兵隊が撃退され、我が方が追跡したが、
*subito pedestres copias, quas in convalle in insidiis conlocaverant, ostenderunt.
**突然に歩兵の軍勢 <[[w:峡谷|峡谷]]の中で[[w:伏兵|伏兵]]として配置していた者たち> が現われた。
*Iis nostros disiectos adorti proelium renovarunt.
**これらによって追い散らされた我が方(ローマ軍)に襲いかかり、戦いを再び始めた。
===21節===
'''ソティアテス族の敗勢'''
*Pugnatum est diu atque acriter,
**長く激しく戦われた。
*cum Sotiates superioribus victoriis freti
**というのもソティアテス族は、かつての(ローマ軍に対する)勝利を信頼しており、
*in sua virtute totius Aquitaniae salutem positam putarent,
**自分たちの武勇の中に全アクィタニアの安全が立脚していると、みなしていたからだ。
*nostri autem,
**我が方(ローマ軍)はそれに対して
*quid sine imperatore et sine reliquis legionibus adulescentulo duce efficere possent,
**最高司令官([[w:インペラトル|インペラトル]])なし、他の[[w:ローマ軍団|軍団]]もなしに、この若造(クラッスス)が指揮官として何をなしうるかが
*perspici cuperent;
**注視(吟味)されることを欲していたのだ。
*tandem confecti vulneribus hostes terga verterunt.
**ついに傷を負って、敵は背を向けた。
*Quorum magno numero interfecto
**これらの者の大多数を殺戮し、
*Crassus ex itinere oppidum Sotiatium oppugnare coepit.
**クラッススは行軍からただちにソティアテス族の[[w:オッピドゥム|城市]]を攻撃し始めた。
*Quibus fortiter resistentibus vineas turresque egit.
**これらの者たちが勇敢に抵抗したので、(ローマ勢は)工作小屋([[w:ウィネア|ウィネア]])や[[w:櫓|櫓]]を(城の方に)導いた。
*Illi alias eruptione temptata, alias cuniculis ad aggerem vineasque actis
**彼ら(アクィタニア人)は、あるときは突撃を試みて、あるときは[[w:坑道|坑道]]を[[w:土塁|土塁]]や工作小屋のところへ導いた。
*- cuius rei sunt longe peritissimi Aquitani,
**<こういった事柄(坑道の技術)に、アクィタニア人は長らく非常に熟練している。
*propterea quod multis locis apud eos aerariae secturaeque sunt -,
**これは、彼らのもとの多くの場所に[[w:銅山|銅山]]や[[w:採石所|採石所]]があることのためである。>
*ubi diligentia nostrorum nihil his rebus profici posse intellexerunt,
**我が方の注意深さによってこのような事柄によっても何ら得られぬと考えるや否や、
*legatos ad Crassum mittunt, seque in deditionem ut recipiat petunt.
**(ソティアテス族は)使節をクラッススのところへ送って、自分たちを降伏へと受け入れるように求める。
*Qua re impetrata arma tradere iussi faciunt.
**この事が達せられ、武器の引渡しが命じられ、実行された。
===22節===
'''アディアトゥアヌスと従僕たちの突撃'''
*Atque in ea re omnium nostrorum intentis animis
**この事柄に我が方(ローマ勢)の皆が心から没頭しており、
*alia ex parte oppidi Adiatuanus, qui summam imperii tenebat,
**城市の他の方面から、最高指揮権を保持していた[[w:アディアトゥアヌス|アディアトゥアヌス]]が
*cum DC{sescentis} devotis, quos illi{Galli} soldurios appellant,
**ガリア人がソルドゥリイ(従僕)と呼んでいる600名の忠実な者とともに(突撃を試みた)。
'''アディアトゥアヌスの従僕たち'''
*- quorum haec est condicio,
**< これらの者たちの状況は以下の通りであった。
*uti omnibus in vita commodis una cum iis fruantur quorum se amicitiae dediderint,
**人生におけるあらゆる恩恵を、忠心に身を捧げる者たちと一緒に享受する。
*si quid his per vim accidat, aut eundem casum una ferant aut sibi mortem consciscant;
**もし彼らに何か暴力沙汰が起こったら、同じ運命に一緒に耐えるか、自らに死を引き受ける(自殺する)。
*neque adhuc hominum memoria repertus est quisquam qui,
**これまで、次のような人の記憶は見出されていない。
*eo interfecto, cuius se amicitiae devovisset, mortem recusaret -
**忠心に身を捧げる者が殺されても死を拒む(ような者) >
*cum his Adiatuanus eruptionem facere conatus
**これらの者(従僕)とともにアディアトゥアヌスは突撃することを試みた。
'''アディアトゥアヌスの敗退'''
*clamore ab ea parte munitionis sublato
**堡塁のその方面から叫び声が上げられて、
*cum ad arma milites concurrissent vehementerque ibi pugnatum esset,
**武器のところへ(ローマの)兵士たちが急ぎ集まった後に、そこで激しく戦われた。
*repulsus in oppidum
**(アディアトゥアヌスたちは)城市の中に撃退され、
*tamen uti eadem deditionis condicione uteretur a Crasso impetravit.
**しかし(前と)同じ降伏条件を用いるように、クラッススを説得した。
===23節===
'''ウォカテス族・タルサテス族対クラッスス'''
*Armis obsidibusque acceptis, Crassus in fines Vocatium et Tarusatium profectus est.
**武器と人質を受け取って、クラッススは[[w:ウォカテス族|ウォカテス族]]と[[w:タルサテス族|タルサテス族]]の領土に出発した。
*Tum vero barbari commoti,
**そのとき確かに蛮族たちは動揺させられて、
*quod oppidum et natura loci et manu munitum
**というのも、地勢と部隊で防備された(ソティアテス族の)城市が
*paucis diebus quibus eo ventum erat, expugnatum cognoverant,
**(ローマ人が)そこへ来てからわずかな日数で攻め落とされたことを知っていたためであるが、
*legatos quoque versus dimittere,
**使節たちをあらゆる方面に向けて送り出し、
*coniurare, obsides inter se dare, copias parare coeperunt.
**共謀して、互いに人質を与え合って、軍勢を準備し始めた。
*Mittuntur etiam ad eas civitates legati quae sunt citerioris Hispaniae finitimae Aquitaniae:
**アクィタニアに隣接する[[w:上ヒスパニア|上ヒスパニア]]([[w:en:Hispania Citerior|Hispania Citerior]])にいる部族たちにさえ、使節が派遣された。
[[画像:Hispania_1a_division_provincial.PNG|thumb|250px|right|BC197年頃のヒスパニア。オレンジ色の地域が当時の上ヒスパニア]]
[[画像:Ethnographic Iberia 200 BCE.PNG|thumb|right|250px|BC200年頃のイベリア半島の民族分布。朱色の部分に[[w:アクィタニア人|アクィタニア人]]の諸部族が居住していた。]]
*inde auxilia ducesque arcessuntur.
**そこから援兵と指揮官が呼び寄せられた。
*Quorum adventu
**これらの者が到着して、
*magna cum auctoritate et magna [cum] hominum multitudine
**大きな権威と大勢の人間とともに、
*bellum gerere conantur.
**戦争遂行を企てた。
*Duces vero ii deliguntur
**指揮官には確かに(以下の者たちが)選ばれた。
*qui una cum Q. Sertorio omnes annos fuerant
**皆が多年の間、[[w:クィントゥス・セルトリウス|クィントゥス・セルトリウス]]([[w:la:Quintus Sertorius|Quintus Sertorius]])と一緒にいて、
*summamque scientiam rei militaris habere existimabantur.
**軍事の最高の知識を有すると考えられていた(者たちである)。
**(訳注:セルトリウスは、[[w:ルキウス・コルネリウス・スッラ|スッラ]]の独裁に抵抗したローマ人の武将である。[[w:ヒスパニア|ヒスパニア]]の住民にローマ軍の戦術を教えて共和政ローマに対して反乱を起こしたが、[[w:グナエウス・ポンペイウス|ポンペイウス]]によって鎮圧された。)
*Hi consuetudine populi Romani loca capere,
**これらの者たちは、ローマ人民の習慣によって、場所を占領し、
*castra munire,
**[[w:カストラ|陣営]]を防壁で守り、
*commeatibus nostros intercludere instituunt.
**我が方(ローマ勢)の物資をさえぎることに決めたのだ。
*Quod ubi Crassus animadvertit,
**クラッススは(以下の諸事情に)気づくや否や、(すなわち)
*suas copias propter exiguitatem non facile diduci,
**己の軍勢が寡兵であるために、展開するのが容易でないこと、
*hostem et vagari et vias obsidere et castris satis praesidii relinquere,
**敵はうろつき回って道を遮断して、陣営に十分な守備兵を残していること、
*ob eam causam minus commode frumentum commeatumque sibi supportari,
**その理由のために糧食や軍需品を都合良く自陣に持ち運べていないこと、
*in dies hostium numerum augeri,
**日々に敵の数が増していること、(これらの諸事情に気づいたので)
*non cunctandum existimavit quin pugna decertaret.
**(クラッススは)戦闘で雌雄を決することをためらうべきではないと考えたのだ。
*Hac re ad consilium delata, ubi omnes idem sentire intellexit,
**この事が会議に報告されて、皆が同じく考えていることを知るや否や、
*posterum diem pugnae constituit.
**戦闘を翌日に決めた。
===24節===
'''両軍の開戦準備'''
*Prima luce productis omnibus copiis,
**(クラッススは)夜明けに全軍勢を連れ出して、
*duplici acie instituta,
**二重の戦列を整列し、
*auxiliis in mediam aciem coniectis,
**支援軍([[w:アウクシリア|アウクシリア]])を戦列の中央部に集結し、
*quid hostes consilii caperent exspectabat.
**敵がいかなる計略をとるのかを待った。
*Illi,
**彼ら(アクィタニア人)は、
*etsi propter multitudinem et veterem belli gloriam paucitatemque nostrorum se tuto dimicaturos existimabant,
**(自らの)多勢、昔の戦争の名誉、我が方(ローマ勢)の寡勢のために、安全に闘えると考えたにも拘らず、
*tamen tutius esse arbitrabantur obsessis viis commeatu intercluso sine ullo vulnere victoria potiri,
**それでもより安全と思われるのは、道を包囲して[[w:兵站|兵站]]を遮断し、何ら傷なしに勝利をものにすることであり、
*et si propter inopiam rei frumentariae Romani se recipere coepissent,
**もし糧食の欠乏のためにローマ人が退却し始めたならば、
*impeditos in agmine et sub sarcinis infirmiores
**(ローマ人が)隊列において[[w:背嚢|背嚢]]を背負って妨げられて臆病になっているところを、
*aequo animo adoriri cogitabant.
**平常心をもって襲いかかれると考えたのだ。
*Hoc consilio probato ab ducibus, productis Romanorum copiis, sese castris tenebant.
**この計略が指揮官により承認されて、ローマ人の軍勢が進撃しても、彼らは陣営に留まった。
*Hac re perspecta Crassus,
**この事を見通してクラッススは、
*cum sua cunctatione atque opinione timidiores hostes
**(敵)自身のためらいや、評判より臆病な敵が
*nostros milites alacriores ad pugnandum effecissent
**我が方(ローマ)の兵士たちを戦うことにおいてやる気にさせたので、
*atque omnium voces audirentur exspectari diutius non oportere quin ad castra iretur,
**かつ(敵の)陣営へ向かうことをこれ以上待つべきではないという皆の声が聞かれたので、
*cohortatus suos omnibus cupientibus ad hostium castra contendit.
**部下を励まして、(戦いを)欲する皆で、敵の陣営へ急行した。
===25節===
'''クラッスス、敵陣へ攻めかかる'''
*Ibi cum alii fossas complerent, alii multis telis coniectis
**そこで、ある者は堀を埋め、ある者は多くの飛道具を投げて、
*defensores vallo munitionibusque depellerent,
**守備兵たちを[[w:防柵|防柵]]や[[w:防壁|防壁]]から駆逐した。
*auxiliaresque, quibus ad pugnam non multum Crassus confidebat,
**[[w:アウクシリア|支援軍]]の者たちといえば、クラッススは彼らの戦いを大して信頼していなかったが、
*lapidibus telisque subministrandis et ad aggerem caespitibus comportandis
**石や飛道具を供給したり、[[w:土塁|土塁]]のために[[w:芝|芝草]]を運んだり、
*speciem atque opinionem pugnantium praeberent,
**戦っている様子や印象を示した。
*cum item ab hostibus constanter ac non timide pugnaretur
**敵もまたしっかりと臆せずに戦って、
*telaque ex loco superiore missa non frustra acciderent,
**より高い所から放られた飛道具は無駄なく落ちてきたので、
*equites circumitis hostium castris Crasso renuntiaverunt
**[[w:騎兵|騎兵]]は、敵の陣営を巡察してクラッススに報告した。
*non eadem esse diligentia ab decumana porta castra munita
**(敵の)陣営の後門(porta decumana)は(他の部分と)同じほどの入念さで防備されておらず、
*facilemque aditum habere.
**容易に接近できると。
===26節===
'''クラッスス、総攻撃をかける'''
*Crassus equitum praefectos cohortatus,
**クラッススは[[w:騎兵|騎兵]]の指揮官たちに促した。
*ut magnis praemiis pollicitationibusque suos excitarent, quid fieri velit ostendit.
**大きな恩賞の約束で部下たちを駆り立てて、何がなされることを欲しているかを示すようにと。
*Illi, ut erat imperatum,
**この者らは命じられたように、
*eductis iis cohortibus quae praesidio castris relictae intritae ab labore erant,
**守備兵として陣営に残されていて、働きによって疲弊していなかった歩兵大隊([[w:コホルス|コホルス]])を連れ出して、
*et longiore itinere circumductis, ne ex hostium castris conspici possent,
**敵の陣営から視認できないように、遠回りの道程をめぐらせて、
*omnium oculis mentibusque ad pugnam intentis
**(彼我の)皆の目と意識が戦闘に没頭している間に
*celeriter ad eas quas diximus munitiones pervenerunt atque his prorutis
**速やかに前述した(後門の)防壁に至って、それを崩壊させて、
*prius in hostium castris constiterunt,
**敵の陣営に拠点を築いた。
*quam plane ab his videri aut quid rei gereretur cognosci posset.
**彼ら(敵)によりまったく見られ、あるいはいかなる事が遂行されているかを知られるよりも早くのことだった。
*Tum vero clamore ab ea parte audito
**そのときまさにこの方面から雄叫びが聞こえて、
*nostri redintegratis viribus,
**我が方(ローマ勢)は活力を回復し、
*quod plerumque in spe victoriae accidere consuevit,
**勝利の希望の中にたいてい起こるのが常であったように
*acrius impugnare coeperunt.
**より激烈に攻め立て始めたのであった。
*Hostes undique circumventi desperatis omnibus rebus
**敵は至る所から攻囲されて、すべての事態に絶望し、
*se per munitiones deicere et fuga salutem petere intenderunt.
**壁を越えて飛び降りて、逃亡によって身の安全を求めることに懸命になった。
*Quos equitatus apertissimis campis consectatus
**この者たちを(ローマの)騎兵隊が非常に開けた平原で追撃し、
*ex milium L{quinquaginta} numero, quae ex Aquitania Cantabrisque convenisse constabat,
**[[w:アクィタニア|アクィタニア]]と[[w:カンタブリ族|カンタブリ族]]([[w:en:Cantabri|Cantabri]])から集まっていた(敵の総勢の)数は5万名が確認されたが、
*vix quarta parte relicta,
**やっとその四分の一が生き残り、
*multa nocte se in castra recepit.
**夜も更けて(ローマ勢は)陣営に退却した。
===27節===
'''アクィタニア諸部族の降伏'''
*Hac audita pugna
**この戦闘(の勝敗)を聞いて、
*maxima pars Aquitaniae sese Crasso dedidit obsidesque ultro misit;
**[[w:アクィタニア人|アクィタニア人]]の大部分がクラッススに降伏して、すすんで[[w:人質|人質]]を送った。
*quo in numero fuerunt
**その数の中には以下の部族がいた。
*Tarbelli, Bigerriones, Ptianii, Vocates, Tarusates, Elusates,
**[[w:タルベッリ族|タルベッリ族]]、[[w:ビゲッリオネス族|ビゲッリオネス族]]、[[w:プティアニー族|プティアニイ族]]、[[w:ウォカテス族|ウォカテス族]]、[[w:タルサテス族|タルサテス族]]、[[w:エルサテス族|エルサテス族]]、
*Gates, Ausci, Garunni, Sibulates, Cocosates:
**[[w:ガテス族|ガテス族]]、[[w:アウスキ族|アウスキ族]]、[[w:ガルンニ族|ガルンニ族]]、[[w:シブラテス族|シブラテス族]]、[[w:ココサテス族|ココサテス族]]、である。
*paucae ultimae nationes
**わずかな遠方の部族たちは、
*anni tempore confisae, quod hiems suberat,
**時季を頼りにして、というのも冬が近づいていたためであるが、
*id facere neglexerunt.
**そのこと(降伏と人質)をなおざりにした。
==モリニ族・メナピイ族への遠征==
===28節===
'''カエサル、モリニ族・メナピイ族へ遠征'''
*Eodem fere tempore Caesar,
**(前節までに述べたクラッススのアクィタニア遠征と)ほぼ同じ時期にカエサルは、
*etsi prope exacta iam aestas erat,
**すでに夏はほとんど過ぎ去っていたのであるが、
*tamen quod omni Gallia pacata
**全ガリアが平定されていたにもかかわらず、
*Morini Menapiique supererant,
**[[w:モリニ族|モリニ族]]と[[w:メナピー族|メナピイ族]]は生き残って
*qui in armis essent, neque ad eum umquam legatos de pace misissent,
**武装した状態で、彼(カエサル)のところへ決して和平の使節を派遣しようとしなかったので、
*arbitratus id bellum celeriter confici posse, eo exercitum duxit;
**この戦争は速やかに完遂されると思って、そこへ軍隊を率いて行った。
*qui longe alia ratione ac reliqui Galli bellum gerere instituerunt.
**これら(の部族)は、他のガリア人とはまったく別の方法で戦争遂行することを決めた。
*Nam
**なぜなら
*quod intellegebant maximas nationes, quae proelio contendissent, pulsas superatasque esse,
**というのも、戦闘を戦った非常に多くの部族が撃退され、征服されていることを(彼らは)知っており、
*continentesque silvas ac paludes habebant,
**かつ、絶え間ない[[w:森林|森]]と[[w:沼地|沼地]]を(彼らは)持っていたので
*eo se suaque omnia contulerunt.
**そこへ自分たちとそのすべての物を運び集めたのだ。
*Ad quarum initium silvarum cum Caesar pervenisset castraque munire instituisset
**かかる森の入口のところへカエサルが到着して陣営の防備にとりかかったときに、
*neque hostis interim visus esset,
**敵はその間に現れることはなく、
*dispersis in opere nostris
**工事において分散されている我が方(ローマ勢)を
*subito ex omnibus partibus silvae evolaverunt et in nostros impetum fecerunt.
**突然に(敵が)森のあらゆる方面から飛び出してきて、我が方に襲撃をしかけたのだ。
*Nostri celeriter arma ceperunt
**我が方は速やかに武器を取って
*eosque in silvas reppulerunt et compluribus interfectis
**彼らを森の中に押し戻して、かなり(の敵)を殺傷して
*longius impeditioribus locis secuti
**非常に通りにくい場所を追跡したが、
*paucos ex suis deperdiderunt.
**我が方の部下で損傷を負ったのは少数であった。
===29節===
'''カエサル、むなしく撤兵する'''
*Reliquis deinceps diebus Caesar silvas caedere instituit,
**続いて(冬が近づくまでの)残りの何日かで、カエサルは森を[[w:伐採|伐採]]することに決めた。
*et ne quis inermibus imprudentibusque militibus ab latere impetus fieri posset,
**(これは)非武装で不注意な兵士たちが側面からいかなる襲撃もなされないように(ということであり)、
*omnem eam materiam quae erat caesa conversam ad hostem conlocabat
**伐採されたすべての[[w:木材|材木]]を敵の方へ向きを変えて配置して、
*et pro vallo ad utrumque latus exstruebat.
**[[w:防柵|防柵]]の代わりに両方の側面に築いた。
*Incredibili celeritate magno spatio paucis diebus confecto,
**信じがたいほどの迅速さで大きな空間がわずかな日数で完遂されて、
*cum iam pecus atque extrema impedimenta a nostris tenerentur,
**すでに[[w:家畜|家畜]]や[[w:輜重|輜重]]の最も端が我が方(ローマ軍)により捕捉された。
*ipsi densiores silvas peterent,
**(敵)自身は密生した森を行くし、
*eiusmodi sunt tempestates consecutae, uti opus necessario intermitteretur
**[[w:嵐|嵐]]が続いたので、工事はやむを得ずに中断された。
*et continuatione imbrium diutius sub pellibus milites contineri non possent.
**雨が続いて、これ以上は皮([[w:天幕|天幕]])の下に兵士たちを留めることはできなかった。
*Itaque vastatis omnibus eorum agris, vicis aedificiisque incensis,
**こうして、彼らのすべての畑を荒らして、村々や建物に火をつけて、
*Caesar exercitum reduxit
**カエサルは軍隊を連れ戻して、
*et in Aulercis Lexoviisque, reliquis item civitatibus quae proxime bellum fecerant,
**[[w:アウレルキ族|アウレルキ族]]と[[w:レクソウィー族|レクソウィイ族]]や、他の同様に最近に戦争をしていた部族たちのところに
*in hibernis conlocavit.
**[[w:冬営|冬営]]を設置した。
----
*<span style="background-color:#99ff99;">「ガリア戦記 第3巻」了。「[[ガリア戦記 第4巻]]」へ続く。</span>
==脚注==
<references />
[[Category:ガリア戦記 第3巻|*]]
o1e290wmgi9oga7o2w2ap6cahygsnfn
206921
206919
2022-08-21T14:21:23Z
Linguae
449
/* 16節 */ 訳注等
wikitext
text/x-wiki
[[Category:ガリア戦記|3]]
[[ガリア戦記]]> '''第3巻''' >[[ガリア戦記 第3巻/注解|注解]]
<div style="text-align:center">
<span style="font-size:20px; font-weight:bold; font-variant-caps: petite-caps; color:white; background: rgb(47,94,255);background: linear-gradient(180deg, rgba(47,94,255,1) 0%, rgba(24,56,255,1) 50%, rgba(0,8,255,1) 100%);"> C IVLII CAESARIS COMMENTARIORVM BELLI GALLICI </span>
<span style="font-size:40px; font-weight:bold; color:white; background: rgb(47,94,255);background: linear-gradient(180deg, rgba(47,94,255,1) 0%, rgba(24,56,255,1) 50%, rgba(0,8,255,1) 100%);"> LIBER TERTIVS </span>
</div>
[[画像:Gaule -56.png|thumb|right|150px|ガリア戦記 第3巻の情勢図(BC56年)。<br>黄色の領域がローマ領。桃色が同盟部族領。]]
{| id="toc" style="align:left;clear:all;" align="left" cellpadding="5"
! style="background:#ccccff; text-align:left;" colspan="2" | ガリア戦記 第3巻 目次
|-
| style="text-align:right; font-size: 0.86em;"|
'''[[#アルプス・オクトードゥールスの戦い|アルプス・オクトードゥールスの戦い]]''':<br />
'''[[#大西洋岸ウェネティー族の造反|大西洋岸ウェネティー族の造反]]''':<br />
<br />
'''[[#大西洋岸ウネッリ族の造反|大西洋岸ウネッリ族の造反]]''':<br />
'''[[#クラッススのアクィタニア遠征|クラッススのアクィタニア遠征]]''':<br />
<br />
'''[[#モリニ族・メナピイ族への遠征|モリニ族・メナピイ族への遠征]]''':<br />
| style="text-align:left; font-size: 0.86em;"|
[[#1節|01節]] |
[[#2節|02節]] |
[[#3節|03節]] |
[[#4節|04節]] |
[[#5節|05節]] |
[[#6節|06節]] <br />
[[#7節|07節]] |
[[#8節|08節]] |
[[#9節|09節]] |
[[#10節|10節]] <br />
[[#11節|11節]] |
[[#12節|12節]] |
[[#13節|13節]] |
[[#14節|14節]] |
[[#15節|15節]] |
[[#16節|16節]] <br />
[[#17節|17節]] |
[[#18節|18節]] |
[[#19節|19節]] <br />
[[#20節|20節]] <br />
[[#21節|21節]] |
[[#22節|22節]] |
[[#23節|23節]] |
[[#24節|24節]] |
[[#25節|25節]] |
[[#26節|26節]] |
[[#27節|27節]] <br />
[[#28節|28節]] |
[[#29節|29節]]
|}
<br style="clear:both;" />
__notoc__
==<span style="color:#009900;">はじめに</span>==
:<div style="color:#009900;width:85%;">前巻([[ガリア戦記 第2巻|ガリア戦記 第2巻]])の終わりで述べられたように、カエサルによってガッリアはほぼ平定されたと思われて、首都ローマで感謝祭が催されたほどであった。このため、本巻(第3巻)ではカエサル自身の遠征として記す内容はとても少ない。<br><br>本巻の[[#1節]]~[[#6節]]で言及される[[#アルプス・オクトードゥールスの戦い]]は、[[w:紀元前57年|BC57年]]秋頃に起こったと考えられるので、本来なら第2巻に含められるべきであるが、そうなると第3巻が20節ほどの非常に短い巻になってしまうので、第3巻の冒頭に置いたとも考えられる。<br><br>本巻(第3巻)の年([[w:紀元前56年|BC56年]])の春には、ガッリア遠征の遂行上きわめて重要な'''ルカ会談'''があったので、以下に補足する。</div>
<div style="background-color:#eee;width:75%;">
===コラム「ルカ会談」===
:::<span style="font-family:Times New Roman;font-size:13pt;">''[[w:en:Luca Conference|Luca Conference]]''</span>(英語記事)などを参照。
:<span style="color:#009900;">伝記作家[[ガリア戦記/注解編#プルータルコス『対比列伝』|プルータルコス]]によれば<ref>[[ガリア戦記/注解編#プルータルコス『対比列伝』|プルータルコス『対比列伝』]]の「カエサル」20,21</ref>、カエサルはベルガエ人との戦いを成し遂げると、前年に続いて'''パドゥス川'''〔[[w:la:Padus|Padus]] [[w:ポー川|ポー川]]〕流域で越冬しながら、ローマ政界への政治工作を続けた。例えば、カエサルを後援者とする選挙の立候補者たちが有権者を買収するための金銭をばらまいていた。ガッリア人捕虜を奴隷商人に売り払って得た莫大な金銭で。その結果、カエサルの金銭で当選した者たちの尽力で、属州総督カエサルへの新たな資金の支給が可決されるという具合であった。<br><br>そのうち、多くの名門貴族たちがカエサルに面会するために[[w:ルッカ|ルカ]]([[w:la:Luca|Luca]])の街へやって来た。<br>こうした中、[[w:紀元前56年|BC56年]]の4月に、カエサルと非公式の盟約([[w:三頭政治#第一回三頭政治|三頭政治]])を結んでいた[[w:マルクス・リキニウス・クラッスス|クラッスス]]と[[w:グナエウス・ポンペイウス|ポンペイウス]]もルカを訪れて、三者による会談が行われた。<br><br>首都ローマでは、三頭政治を後ろ盾とする[[w:ポプラレス|平民派]]の[[w:プブリウス・クロディウス・プルケル|クロディウス]](<span style="font-family:Times New Roman;">[[w:la:Publius Clodius Pulcher|Publius Clodius Pulcher]]</span>)が民衆に暴動をけしかけ、[[w:オプティマテス|門閥派]]のミロ(<span style="font-family:Times New Roman;">[[w:la:Titus Annius Milo|Titus Annius Milo]]</span>)と激しく抗争するなど、騒然としていた。このクロディウスの暴力的な手法は、クラッススとポンペイウスの関係を傷つけた。また、カエサルのガッリアでの輝かしい勝利に、二人とも不満を感じていた。このように三頭政治は綻び出していたのだ。<br><br>三人は三頭政治を延長することで合意した。カエサルは、クラッススとポンペイウスが翌年([[w:紀元前55年|BC55年]])の執政官に立候補すること、3属州の総督であるカエサルの任期がさらに5年間延長されること、などを求めた。<br><br>会談の結果、任期が大幅に延長されたカエサルの野望は、ガッリアに止まらず、[[w:ゲルマニア|ゲルマーニア]]や[[w:ブリタンニア|ブリタンニア]]の征服へと向かっていく。一方、再び執政官になった二人は、[[w:パルティア|パルティア]]を攻略するためにクラッススがシリア総督になることを決めるが、これはクラッススの命運とともに三頭政治の瓦解、カエサルとポンペイウスの関係悪化を招来することになる。
</span>
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:First Triumvirate of Caesar, Crassius and Pompey.jpg|thumb|right|500px|後に[[w:三頭政治#第一回三頭政治|三頭政治]](<span style="font-family:Times New Roman;">[[w:la:Triumviratus|Triumviratus]]</span>)と呼ばれることになる非公式な盟約を結んでいた、左から[[w:ガイウス・ユリウス・カエサル|カエサル]]、[[w:マルクス・リキニウス・クラッスス|クラッスス]]、[[w:グナエウス・ポンペイウス|ポンペイウス]]。<br>3人は、第3巻の戦いが始まる前に、ルカ会談で三頭政治の延長を決めた。]]
|}
</div>
</div>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
==アルプス・オクトードゥールスの戦い==
:<span style="font-family:Times New Roman;font-size:13pt;">''[[w:en:Battle of Octodurus|Battle of Octodurus]]''</span>(英語記事)<span style="font-family:Times New Roman;font-size:13pt;">''[[w:fr:Bataille d'Octodure|Bataille d'Octodure]]''</span>(仏語記事)などを参照。
===1節===
[[画像:Historische Karte CH Rome 1.png|thumb|right|300px|現在の[[w:スイス|スイス]]の帝制ローマ時代の地図。左下の三日月形の[[w:レマン湖|レマン湖]]の下方に、<span style="font-family:Times New Roman;">ALLOBROGES, NANTUATES, VERAGRI, SEDUNI</span> の部族名が見える。]]
[[画像:Afdaling vd San Bernardino - panoramio.jpg|thumb|right|300px|現在の[[w:グラン・サン・ベルナール峠|グラン・サン・ベルナール峠]]。ラテン語では <span style="font-family:Times New Roman;">[[w:la:Porta Magni Sancti Bernardi|Porta Magni Sancti Bernardi]] という。<br>スイスを縦断する[[w:欧州自動車道路|欧州自動車道路]] [[w:en:European route E27|E27]] が[[w:レマン湖|レマン湖]]からこの峠を通ってイタリアの[[w:アオスタ|アオスタ]]へ至る。</span>]]
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/1節]] {{進捗|00%|2022-04-23}}</span>
'''ガルバとローマ第12軍団が、ロダヌス川渓谷のオクトードゥールスにて冬営する'''
<br>
; カエサルが、ガルバと軍団・騎兵をアルプス地方へ派兵
*Cum in Italiam proficisceretur Caesar,
**カエサルは、イタリア〔[[w:ガリア・キサルピナ|ガッリア・キサルピーナ]]〕に出発していたときに、
*[[wikt:en:Servium|Servium]] Galbam cum [[w:en:Legio XII Fulminata|legione duodecima(XII.)]] et parte equitatus
**[[w:セルウィウス・スルピキウス・ガルバ (紀元前54年法務官)|セルウィウス・ガルバ]]を第12軍団および騎兵隊の一部とともに、
*in [[wikt:fr:Nantuates#Latin|Nantuates]], [[wikt:en:Veragri#Latin|Veragros]] Sedunosque misit,
**ナントゥアーテース族・ウェラーグリー族・セドゥーニー族(の領土)に派遣した。
*qui a finibus [[wikt:en:Allobroges#Latin|Allobrogum]] et lacu [[wikt:fr:Lemannus|Lemanno]] et flumine [[wikt:en:Rhodanus#Latin|Rhodano]] ad summas [[wikt:en:Alpes#Latin|Alpes]] pertinent.
**彼らはアッロブロゲース族の領土、レマンヌス湖〔[[w:レマン湖|レマン湖]]〕およびロダヌス川〔[[w:ローヌ川|ローヌ川]]〕から[[w:アルプス山脈|アルプス]]の頂きに及んでいる。
*Causa mittendi fuit,
**派遣の理由は(以下のこと)であった:
*quod iter per Alpes,
**アルプスを通る道は、
*quo magno cum periculo magnisque cum [[wikt:en:portorium|portoriis]] mercatores ire consuerant,
**大きな危険と多額の関税を伴って商人たちが旅することが常であったので、
*patefieri volebat.
**(カエサルは道が)開かれることを望んでいたのだ。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:現在の[[w:グラン・サン・ベルナール峠|グラン・サン・ベルナール峠]]を通ってスイスとイタリアを結ぶ道のことで、<br> 帝制初期に[[w:アウグストゥス|アウグストゥス]]によって街道が敷設された。<br> かつて[[w:ハンニバル|ハンニバル]]が越えたのは諸説あるが、この道であった可能性もある。<br> ローマ人がこの地に移入・育成した軍用犬は現在の[[w:セント・バーナード|セント・バーナード犬]]。)</span>
*Huic permisit, si opus esse arbitraretur, uti in his locis legionem hiemandi causa conlocaret.
**彼〔ガルバ〕に、もし必要と思われるならば、この地に軍団を[[w:冬営|冬営]]するために宿営させることを許可した。
[[画像:Servius Sulpicius Galba.jpg|thumb|right|300px|[[w:セルウィウス・スルピキウス・ガルバ (紀元前54年法務官)|セルウィウス・スルピキウス・ガルバ]]の横顔が刻まれた貨幣。ガルバは[[w:紀元前54年|BC54年]]([[ガリア戦記 第5巻|ガリア戦記 第5巻]]の年)に[[w:プラエトル|法務官]]に任官。内戦期もカエサルに従うが、暗殺計画に参画する。<br>[[w:ネロ|ネロ帝]]とともにユリウス家の王朝が途絶えると、ガルバの曽孫が[[w:ローマ内戦_(68年-70年)#四皇帝|四皇帝]]の一人目の[[w:ガルバ|ガルバ帝]]となった。このため[[w:ガイウス・スエトニウス・トランクィッルス|スエートーニウス]]『ローマ皇帝伝』の「ガルバ伝」にガルバへの言及がある<ref>[[s:la:De_vita_Caesarum_libri_VIII/Vita_Galbae#III.]]</ref>。]]
<br>
; ガルバが、諸部族を攻略して、軍団の冬営を決める
*Galba, secundis aliquot proeliis factis
**ガルバは、いくつかの優勢な戦いをして、
*castellisque compluribus eorum expugnatis,
**彼ら〔ガッリア諸部族〕の多くの砦が攻略されると、
*missis ad eum undique legatis
**彼〔ガルバ〕のもとへ四方八方から(諸部族の)使節たちが遣わされ、
*obsidibusque datis et pace facta,
**人質が供出されて、講和がなされたので、
*constituit
**(ガルバは、以下のことを)決めた。
*cohortes duas in Nantuatibus conlocare
**2個<ruby><rb>[[w:コホルス|歩兵大隊]]</rb><rp>(</rp><rt>コホルス</rt><rp>)</rp></ruby>をナントゥアーテース族(の領土)に宿営させること、
*et ipse cum reliquis eius legionis cohortibus
**(ガルバ)自身はその軍団の残りの<ruby><rb>歩兵大隊</rb><rp>(</rp><rt>コホルス</rt><rp>)</rp></ruby>とともに、
*in vico Veragrorum, qui appellatur [[wikt:en:Octodurus|Octodurus]], hiemare;
**オクトードゥールスと呼ばれているウェラーグリー族の村に冬営することを。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:オクトードゥールス([[wikt:en:Octodurus|Octodurus]])は現在の[[w:マルティニー|マルティニー市]]。)</span>
<br>
; ウェラーグリー族のオクトードゥールス村
*qui vicus positus in valle, non magna adiecta planitie,
**その村は、さほど大きくない平地に付随した渓谷の中に位置し、
*altissimis montibus undique continetur.
**とても高い山々で四方八方を囲まれている。
*Cum hic in duas partes flumine divideretur,
**これ〔村〕は川によって二つの部分に分け隔てられているので、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:現在の[[w:マルティニー|マルティニー]]の街中を、[[w:ローヌ川|ローヌ川]]の支流であるドランス川(''[[w:en:Drance|Drance]])が貫流している。)</span>
*alteram partem eius vici Gallis [ad hiemandum] concessit,
**その村の一方の部分をガッリア人に [越冬するために] 譲った。
*alteram vacuam ab his relictam cohortibus attribuit.
**もう一方の彼ら〔ガッリア人〕により空にされた方を、残りの<ruby><rb>歩兵大隊</rb><rp>(</rp><rt>コホルス</rt><rp>)</rp></ruby>に割り当てた。
*Eum locum vallo fossaque munivit.
**その地を堡塁と塹壕で守りを固めた。
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Martigny_1600.jpg|thumb|right|600px|かつてウェラーグリー族のオクトードゥールス村([[w:la:Octodurus|Octodurus]])があった所は、現在では[[w:スイス|スイス]]の[[w:マルティニー|マルティニー]]([[w:en:Martigny|Martigny]])市となっている。[[w:ローヌ川|ローヌ川]]が屈曲して流れる[[w:谷|渓谷]]地帯にある。]]
|}
</div>
<div style="background-color:#eee;width:77%;">
===コラム「ガルバの派遣とカティリーナ事件」===
:::関連記事:<span style="font-family:Times New Roman;font-size:13pt;">[[w:la:Catilinae coniuratio|Catilinae coniuratio]], ''[[w:en:Second Catilinarian conspiracy|Second Catilinarian conspiracy]]''</span>
:<span style="color:#009900;"> [[w:セルウィウス・スルピキウス・ガルバ (紀元前54年法務官)|セルウィウス・スルピキウス・'''ガルバ''']]にアルプス派兵を指揮させた理由について、カエサルは記していない。<br><br> [[w:紀元前63年|BC63年]]~[[w:紀元前62年|BC62年]]に、ローマの高官だった[[w:ルキウス・セルギウス・カティリナ|ルーキウス・セルギウス・'''カティリーナ''']]([[w:la:Lucius Sergius Catilina|Lucius Sergius Catilina]])がクーデタを企てるという大事件があった。'''[[w:マルクス・トゥッリウス・キケロ|キケロー]]'''が『[[w:カティリナ弾劾演説|カティリナ弾劾演説]]』で糾弾し、カエサルが事件の黒幕ではないかと取り沙汰された(スエートニウス<ref>[[s:la:De_vita_Caesarum_libri_VIII/Vita_divi_Iuli#XIV.]], [[s:la:De_vita_Caesarum_libri_VIII/Vita_divi_Iuli#XVII.|#XVII.]] を参照。</ref>)。<br> BC63年の[[w:プラエトル|法務官]][[w:ガイウス・ポンプティヌス|ガーイウス・'''ポンプティーヌス''']]がキケローを助けて事件を捜査し、アッロブロゲース族からカティリーナへ宛てた手紙を調べた。BC62年にポンプティーヌスは前法務官としてガッリア総督となり、事件に関与していたアッロブロゲース族を平定した。このとき、[[w:トリブヌス|副官]]としてポンプティーヌスを助けてアッロブロゲース族を攻めたのが'''ガルバ'''であった。総督がカエサルに替わっても、ガルバは副官として留任し、アッロブロゲース族の近隣部族の鎮定に努めていたわけである。<br> ポンプティーヌスは、一部の元老院議員の反対で、戦勝将軍の権利である[[w:凱旋式|凱旋式]]ができなかった。これを不満に思っていたガルバは、[[w:紀元前54年|BC54年]]に法務官になると尽力して、その年にポンプティーヌスの凱旋式を行なうことに成功した。
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Joseph-Marie Vien - The Oath of Catiline.jpg|thumb|right|320px|'''カティリーナの誓い'''(''Le Serment de Catiline'')<br>[[w:ジョゼフ=マリー・ヴィアン|ジョゼフ=マリー・ヴィアン]]画(1809年)。<hr>カティリーナと共謀者たちは、人間の血を混ぜたワインを飲んで誓いを立てる儀式を行なったと伝えられている。]]
|[[画像:The Discovery of the Body of Catiline.jpg|thumb|right|320px|'''カティリーナの遺骸の発見'''<br>(''Il ritrovamento del corpo di Catilina'')<br>''[[w:en:Alcide Segoni|Alcide Segoni]]'' 画(1871年)<hr>アッロブロゲース族のいるガッリアへ向かおうとしていたカティリーナは、[[w:ピストイア|ピストリア]]([[w:la:Pistorium|Pistoria]])の戦い(''[[w:en:Battle of Pistoia|Battle of Pistoia]]'')で戦死した。]]
|}
</div>
</div>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===2節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/2節]] {{進捗|00%|2022-05-05}}</span>
'''ガッリア人が再び挙兵して周囲の高峰を押さえ、第12軍団の冬営地を包囲'''
*Cum dies hibernorum complures transissent frumentumque eo comportari iussisset,
**冬営の多くの日々が過ぎ去って、穀物がそこに運び集められることを([[w:セルウィウス・スルピキウス・ガルバ (紀元前54年法務官)|ガルバ]]が)命じていたときに、
*subito per exploratores certior factus est
**突然に(以下のことが)[[w:偵察|偵察隊]]により報告された。
*ex ea parte vici, quam Gallis concesserat, omnes noctu discessisse
**ガッリア人たちに譲っていた村の一部から、皆が夜に立ち退いており、
*montesque, qui [[wikt:en:impendeo#Latin|impenderent]], a maxima multitudine Sedunorum et [[wikt:en:Veragri|Veragrorum]] teneri.
**そそり立つ山々がセドゥーニー族とウェラーグリー族のかなりの大勢により占拠されたのだ。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:ウェラーグリー族は既述のようにオクトードゥールス村 [[w:la:Octodurus|Octodurus]]〔現在の[[w:マルティニー|マルティニー市]]〕を、<br>セドゥーニー族 [[w:la:Seduni|Seduni]] はより上流のセドゥヌム [[w:la:Sedunum|Sedunum]]〔現在の[[w:シオン (スイス)|シオン市]]〕を首邑としていた。)</span>
*Id aliquot de causis acciderat,
**いくつかの理由から、起こっていたことには、
*ut subito Galli belli renovandi legionisque opprimendae consilium caperent:
**突如としてガッリア人が、戦争を再開して(ローマ人の)軍団を急襲する作戦計画を立てたのだ。
<br>
; 第1の理由:ガルバの第12軍団は、兵が割かれていて寡勢である
*primum, quod legionem neque eam plenissimam detractis cohortibus duabus
**というのも、第一に、総員がそろっていない軍団を ──2個<ruby><rb>[[w:コホルス|歩兵大隊]]</rb><rp>(</rp><rt>コホルス</rt><rp>)</rp></ruby>が引き抜かれていて、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:前節で既述のように、2個歩兵大隊をナントゥアーテース族のところに宿営させていたが、これはレマンヌス湖〔[[w:レマン湖|レマン湖]]〕に近いより下流の地域で、離れていたようだ。)</span>
*et compluribus singillatim, qui commeatus petendi causa missi erant, absentibus,
**多くの者たちが一人ずつ、糧食を求めるために派遣されていて不在である、──
*propter paucitatem despiciebant;
**(その第12軍団を)少数であるゆえに、見下していたからだ。
<br>
; 第2の理由:渓谷にいるローマ人は、山から攻め降りて来るガッリア人の飛道具を受け止められまい
*tum etiam, quod propter iniquitatem loci,
**それからさらに(ローマ勢が冬営している渓谷の)地の利の無さゆえ、
*cum ipsi ex montibus in vallem decurrerent et tela conicerent,
**(ガッリア勢)自身が山々から谷間に駆け下りて飛道具を投じたときに、
*ne primum quidem impetum suum posse sustineri existimabant.
**自分たちの最初の襲撃を(ローマ勢が)持ちこたえることができない、と判断していたので。
<br>
; 第3の理由:人質を取られて、属州に併合される前にローマ人を討て
*Accedebat, quod suos ab se liberos abstractos obsidum nomine dolebant,
**加えて、人質の名目で自分たちから引き離されている自分の子供たちのことを嘆き悲しんでいたので、
*et Romanos non solum itinerum causa, sed etiam perpetuae possessionis
**かつ、ローマ人たちは道(の開通)のためだけでなく、永続的な領有のためにさえも
*culmina Alpium occupare <u>conari</u>
**アルプスの頂上を占領すること、
*et ea loca finitimae provinciae adiungere
**および(ローマの)属州に隣接する当地を併合することを<u>企てている</u>、
*sibi persuasum habebant.
**と(ガッリア人たちは)確信していたのである。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===3節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/3節]] {{進捗|00%|2022-05-12}}</span>
'''ガルバが軍議を召集し、策を募る'''
*His nuntiis acceptis Galba,
**ガルバは、これらの報告を受け取ると、
*<u>cum</u> neque opus hibernorum munitionesque plene essent perfectae
**冬営の普請や防塁構築も十分に完成していなかったし、
*neque de frumento reliquoque commeatu satis esset provisum,
**穀物や他の糧秣も十分に調達されていなかった<u>ので</u>、
*quod deditione facta obsidibusque acceptis
**── というのも、降伏がなされて、人質が受け取られ、
*nihil de bello timendum existimaverat,
**戦争について恐れるべきことは何もない、と判断していたためであるが、──
*consilio celeriter convocato sententias exquirere coepit.
**軍議を速やかに召集して、意見を求め始めた。
<br>
;軍議
*Quo in consilio,
**その軍議において、
*<u>cum</u> tantum repentini periculi praeter opinionem accidisset
**これほどの不意の危険が、予想に反して起こっていたので、
*ac iam omnia fere superiora loca multitudine armatorum completa conspicerentur
**かつ、すでにほぼすべてのより高い場所が、武装した大勢の者たちで満たされていることが、見られていたので、
*neque subsidio veniri
**救援のために(援軍が)来られることもなかったし、
*neque commeatus supportari interclusis itineribus possent,
**糧秣が運び込まれることも、道が遮断されているので、できなかった<u>ので</u>、
*prope iam desperata salute non nullae eius modi sententiae dicebantur,
**すでにほぼ身の安全に絶望していた幾人かの者たちの'''以下のような'''意見が述べられていた。
*ut impedimentis relictis eruptione facta
**輜重を残して、出撃して、
*isdem itineribus quibus eo pervenissent ad salutem contenderent.
**そこへやって来たのと同じ道によって、安全なところへ急ぐように、と。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:レマンヌス〔[[w:レマン湖|レマン湖]]〕湖畔を通ってアッロブロゲース族領へ撤収することであろう。)</span>
*Maiori tamen parti placuit,
**しかしながら、大部分の者が賛成したのは、
*hoc reservato ad extremum consilio
**この考え(計画)を最後まで保持しておいて、
*interim rei eventum experiri et castra defendere.
**その間に、事の結果を吟味して、陣営を守備すること、であった。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===4節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/4節]] {{進捗|00%|2022-05-16}}</span>
'''ガッリア勢がガルバの陣営を急襲し、寡兵のローマ勢は劣勢に陥る'''
*Brevi spatio interiecto,
**(敵の来襲まで)短い間が介在しただけだったので、
*vix ut iis rebus quas constituissent conlocandis atque administrandis tempus daretur,
**決めておいた物事を配置したり遂行するための時間が、ほとんど与えられないほどであった。
*hostes ex omnibus partibus signo dato decurrere,
**敵方〔ガッリア勢〕があらゆる方向から、号令が出されて、駆け下りて来て、
*lapides [[wikt:en:gaesum|gaesa]]que in vallum conicere.
**石や投槍を堡塁の中に投げ込んだ。
*Nostri primo integris viribus fortiter propugnare
**我が方〔ローマ勢〕は、当初、体力が損なわれていないうちは勇敢に応戦して、
*neque ullum frustra telum ex loco superiore mittere,
**高所から、いかなる飛道具も無駄に投げることはなかった。
*et quaecumque<!--ut quaeque--> pars castrorum nudata defensoribus premi videbatur,
**陣営のどの部分であれ、防戦者たちがはがされて押され気味であることと思われれば、
*eo occurrere et auxilium ferre,
**(ローマ勢が)そこへ駆け付けて、支援した。
<br>
; 兵の多寡が、ローマ勢を追い込む
*sed hoc superari
**しかし、以下のことにより(ローマ勢は)打ち破られた。
*quod diuturnitate pugnae hostes defessi proelio excedebant,
**──戦いが長引いたことにより、疲れ切った敵たちは戦闘から離脱して、
*alii integris viribus succedebant;
**体力が損なわれていない他の者たちが交代していたのだ。──
*quarum rerum a nostris propter paucitatem fieri nihil poterat,
**我が方〔ローマ勢〕は少数であるゆえに、このような事〔兵の交代〕は何らなされ得なかった。
*ac non modo defesso ex pugna excedendi,
**疲弊した者にとっての戦いから離脱することの(機会)のみならず、
*sed ne saucio quidem eius loci ubi constiterat relinquendi ac sui recipiendi facultas dabatur.
**負傷した者にとってさえも、その持ち場を放棄することや(体力を)回復することの機会も与えられなかったのだ。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===5節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/5節]] {{進捗|00%|2022-05-29}}</span>
'''最後の土壇場で説得されたガルバが、疲労回復後の突撃に命運を賭ける'''
*<u>Cum</u> iam amplius horis sex continenter pugnaretur,
**すでに6時間より多く引き続いて戦われており、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:[[古代ローマの不定時法]]では、冬の日中の半日ほどである)</span>
*ac non solum vires sed etiam tela nostros deficerent,
**活力だけでなく飛道具さえも我が方〔ローマ勢〕には不足していたし、
*atque hostes acrius instarent
**敵方〔ガッリア勢〕はより激しく攻め立てていて、
*languidioribusque nostris
**我が方〔ローマ勢〕が弱り切っており、
*vallum scindere et fossas complere coepissent,
**(ガッリア勢は)防柵を破却したり、塹壕を埋め立てたりし始めていたし、
*resque esset iam ad extremum perducta casum,
**戦況はすでに最後の土壇場に陥っていた<u>ので</u>、
<br>
; 二人の軍団首脳バクルスとウォルセーヌスが、ガルバに敵中突破を説く
*[[wikt:en:P.|P.]] Sextius Baculus, primi pili centurio,
**<ruby><rb>[[w:プリムス・ピルス|首位百人隊長]]</rb><rp>(</rp><rt>プリームス・ピールス</rt><rp>)</rp></ruby>プーブリウス・セクスティウス・バクルス
**:<span style="color:#009900;">(訳注:[[w:la:Publius Sextius Baculus|Publius Sextius Baculus]] などの記事を参照。)</span>
*quem Nervico proelio compluribus confectum vulneribus diximus,
**──その者が[[w:ネルウィイ族|ネルウィイー族]]との戦いで多くの負傷で消耗したと前述した──
**:<span style="color:#009900;">(訳注:[[ガリア戦記 第2巻#25節|第2巻25節]]を参照。なお、[[ガリア戦記 第6巻#38節|第6巻38節]] でも言及される。)</span>
*et item [[wikt:en:C.#Latin|C.]] Volusenus, tribunus militum, vir et consilii magni et virtutis,
**および、[[w:トリブヌス・ミリトゥム|軍団次官]]ガーイウス・ウォルセーヌス ──卓越した判断力と武勇を持つ男──(の2人)は、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:''[[w:en:Gaius Volusenus|Gaius Volusenus]]'' などの記事を参照せよ。)</span>
*ad Galbam accurrunt
**ガルバのもとへ急いで来て、
*atque unam esse spem salutis docent, si eruptione facta extremum auxilium experirentur.
**身の安全のただ一つの希望は、出撃をして最後の救済策を試みるかどうかだ、と説く。
*Itaque convocatis centurionibus
**こうして、<ruby><rb>[[w:ケントゥリオ|百人隊長]]</rb><rp>(</rp><rt>ケントゥリオー</rt><rp>)</rp></ruby>たちが召集されて、
*celeriter milites certiores facit,
**(ガルバが以下のことを)速やかに兵士たちに通達する。
*paulisper intermitterent proelium
**しばらく戦いを中断して
*ac tantummodo tela missa exciperent seque ex labore reficerent,
**ただ投げられた飛道具を遮るだけとし、疲労から(体力を)回復するようにと、
*post dato signo ex castris erumperent,
**与えられた号令の後に陣営から出撃するように、
*atque omnem spem salutis in virtute ponerent.
**身の安全のすべての希望を武勇に賭けるように、と。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===6節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/6節]] {{進捗|00%|2022-06-05}}</span>
'''第12軍団がガッリア勢を破るが、ガルバはオクトードゥールスでの冬営を断念する'''
*Quod iussi sunt faciunt,
**(ローマ兵たちは)命じられたことをなして、
*ac subito omnibus portis eruptione facta
**突然に(陣営の)すべての門から出撃がなされ、
*neque cognoscendi quid fieret
**何が生じたのかを知ることの(機会)も
*neque sui colligendi hostibus facultatem relinquunt.
**(自軍の兵力を)集中することの機会も、敵方に残さない。
*Ita commutata fortuna
**こうして武運が変転して、
*eos qui in spem potiundorum castrorum venerant undique circumventos intercipiunt,
**(ローマ人の)陣営を占領することを期待してやって来ていた者たちを、至る所で包囲して<ruby><rb>屠</rb><rp>(</rp><rt>ほふ</rt><rp>)</rp></ruby>る。
*et ex hominum milibus amplius XXX{triginta},
**3万より多い人間が
*quem numerum barbarorum ad castra venisse constabat,
**それだけの数の蛮族が(ローマ)陣営のところへ来ていたのは、確実であったが、
*plus tertia parte interfecta
**3分の1より多く(の者)が<ruby><rb>殺戮</rb><rp>(</rp><rt>さつりく</rt><rp>)</rp></ruby>されて、
*reliquos perterritos in fugam coiciunt
**(ローマ勢は)残りの者たちを怖気づかせて敗走に追いやり、
*ac ne in locis quidem superioribus consistere patiuntur.
**(ガッリア勢は)より高い場所にさえ留まることさえ許されない。
*Sic omnibus hostium copiis fusis armisque exutis
**そのように敵方の全軍勢が撃破されて、武器が放棄されて、
*se intra munitiones suas recipiunt.
**(ローマ勢は)自分たちの防塁の内側に撤収する。
<br>
; ガルバがオクトードゥールスでの冬営を断念して、同盟部族領に撤退する
*Quo proelio facto,
**この戦いが果たされると、
*quod saepius fortunam temptare Galba nolebat
**──ガルバは、よりたびたび武運を試すことを欲していなかったし、
*atque alio se in hiberna consilio venisse meminerat,
**冬営に他の計画のために来ていたことを思い出していたが、
*aliis occurrisse rebus videbat,
**別の事態に遭遇したのを見ていたので、──
*maxime frumenti commeatusque inopia permotus
**とりわけ穀物や糧秣の欠乏に揺り動かされて、
*postero die omnibus eius vici aedificiis incensis
**翌日にその村のすべての建物が焼き討ちされて、
*in provinciam reverti contendit,
**(ガルバは)属州〔[[w:ガリア・キサルピナ|ガッリア・キサルピーナ]]〕に引き返すことを急ぐ。
*ac nullo hoste prohibente aut iter demorante
**いかなる敵によって妨げられることも、あるいは行軍が遅滞させられることもなく、
*incolumem legionem in Nantuates,
**軍団を無傷なままでナントゥアーテース族(の領土)に(連れて行き)、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:ナントゥアーテース族 ''[[w:en:Nantuates|Nantuates]]'' は、レマンヌス湖〔[[w:レマン湖|レマン湖]]〕の南東を領有していた部族。<br> [[#1節]]で、軍団のうち2個<ruby><rb>[[w:コホルス|歩兵大隊]]</rb><rp>(</rp><rt>コホルス</rt><rp>)</rp></ruby>を宿営させたことが述べられた。)</span>
*inde in Allobroges perduxit ibique hiemavit.
**そこから、アッロブロゲース族(の領土)に連れて行き、そこで冬営した。
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Amphitheaterforumclaudiival1.jpg|thumb|right|500px|オクトードゥールス(<span style="font-family:Times New Roman;">[[w:la:Octodurus|Octodurus]]</span>)、すなわち現在の[[w:マルティニー|マルティニー市]]に遺る帝制ローマ時代の円形競技場。オクトードゥールスは、<span style="font-family:Times New Roman;">Forum Claudii Vallensium</span> と改称され、[[w: クラウディウス|クラウディウス帝]]によって円形競技場が建てられた。<br>(<span style="font-family:Times New Roman;">''[[w:fr:Amphithéâtre de Martigny|Amphithéâtre de Martigny]]''</span> 等の記事を参照。)]]
|}
</div>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
==大西洋岸ウェネティー族の造反==
:::<span style="background-color:#ffd;">関連記事:[[w:モルビアン湾の海戦|モルビアン湾の海戦]]、''[[w:fr:Guerre des Vénètes|fr:Guerre des Vénètes]]'' 等を参照せよ。</span>
===7節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/7節]] {{進捗|00%|2022-06-12}}</span>
'''新たな戦争の勃発'''
*His rebus gestis
**これらの戦役が遂げられて、
*cum omnibus de causis Caesar pacatam Galliam existimaret,
**カエサルが、あらゆる状況についてガッリアは平定された、と判断していたときに、
*superatis Belgis,
**(すなわち)[[w:ベルガエ|ベルガエ人]]は征服され、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:第2巻で述べられたこと)</span>
*expulsis Germanis,
**[[w:ゲルマニア|ゲルマーニア]]人は駆逐され、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:第1巻で述べられた[[w:アリオウィストゥス|アリオウィストゥス]]との戦役のこと)</span>
*victis in [[wikt:en:Alpibus|Alpibus]] Sedunis,
**アルペース〔[[w:アルプス山脈|アルプス]]〕においてセドゥーニー族は打ち負かされて、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:[[#1節]]~[[#6節]]で述べられたこと)</span>
*atque ita inita hieme in [[wikt:en:Illyricum#Latin|Illyricum]] profectus esset,
**こうして冬の初めに(カエサルが)[[w:イリュリクム|イッリュリクム]]に出発していたときに、
*quod eas quoque nationes adire et regiones cognoscere volebat,
**──というのは、これら各部族を訪れて諸地方を知ることを欲していたからであるが、──
**:<span style="color:#009900;">(訳注:属州総督の職務として、巡回裁判を行う必要があったためであろう)</span>
*subitum bellum in Gallia coortum est.
**突然の戦争がガッリアで勃発したのである。
<br>
; 戦争の背景
*Eius belli haec fuit causa:
**その戦争の原因は、以下の通りであった。
*[[wikt:en:P.|P.]] Crassus adulescens cum legione septima(VII.)
**[[w:プブリウス・リキニウス・クラッスス|プーブリウス・クラッスス青年]]は、第7軍団とともに
**:<span style="color:#009900;">(訳注:三頭政治家[[w:マルクス・リキニウス・クラッスス|M. クラッスス]]の息子で、第1巻[[s:la:Commentarii_de_bello_Gallico/Liber_I#52|52節]]では騎兵隊の指揮官だった。<br> [[ガリア戦記_第2巻#34節|第2巻34節]]では、1個軍団とともに大西洋沿岸地方に派遣されたと述べられた。)</span>
*proximus mare Oceanum in Andibus hiemarat.
**<ruby><rb>大洋〔[[w:大西洋|大西洋]]〕</rb><rp>(</rp><rt>オーケアヌス</rt><rp>)</rp></ruby>に最も近いアンデース族(の領土)で冬営していた。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:アンデース族 Andes は、'''アンデカーウィー族''' [[w:la:Andecavi|Andecavi]], ''[[wikt:en:Andecavi|Andecavi]]'' と呼ばれることが多い。<br> 実際には大西洋岸から内陸側に寄っていたと考えられている。)</span>
*Is, quod in his locis inopia frumenti erat,
**彼〔クラッスス〕は、これらの場所においては穀物の欠乏があったので、
*praefectos tribunosque militum complures in finitimas civitates
**([[w:アウクシリア|支援軍]]の)<ruby><rb>[[w:プラエフェクトゥス|指揮官]]</rb><rp>(</rp><rt>プラエフェクトゥス</rt><rp>)</rp></ruby>たちや[[w:トリブヌス・ミリトゥム|軍団次官]]たちのかなりの数を、近隣諸部族のところへ
*frumenti (commeatusque petendi) causa dimisit;
**穀物や糧食を求めるために送り出した。
*quo in numero est [[wikt:en:T.#Latin|T.]] Terrasidius missus in Esuvios<!--/ Unellos Essuviosque-->,
**その人員のうち、ティトゥス・テッラシディウスは、エスウィイー族<!--ウネッリー族やエスウィイ族-->のところに遣わされ、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:テッラシディウスは騎士階級の将校。''[[w:en:Terrasidius|Terrasidius]]'' 参照。)</span>
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:エスウィイー族 ''[[w:en:Esuvii|Esuvii]]'' は、現在の[[w:オルヌ川|オルヌ川]]盆地の[[w:オルヌ県|オルヌ県]][[w:セー (オルヌ県)|セー]]~[[w:fr:Exmes|エム]]の辺りにいたらしい。)</span>
*[[wikt:en:M.#Latin|M.]] [[wikt:en:Trebius#Latin|Trebius]] Gallus in Coriosolităs,
**マールクス・トレビウス・ガッルスは、コリオソリテース族のところに(遣わされ)、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:''[[w:it:Marco Trebio Gallo|it:Marco Trebio Gallo]]'' 等参照)</span>
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:コリオソリテース族 ''[[w:en:Coriosolites|Coriosolites]]'' は、クーリオソリーテース ''[[wikt:en:Curiosolites|Curiosolites]]'' などとも呼ばれ、<br> 現在の[[w:コート=ダルモール県|コート=ダルモール県]]コルスール([[w:en:Corseul|Corseul]])の辺りにいたらしい。)</span>
*[[wikt:en:Q.|Q.]] [[wikt:en:Velanius#Latin|Velanius]] cum T. Sillio in Venetos.
**クゥイーントゥス・ウェラーニウスはティトゥス・シーッリウスとともに、[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]のところに(遣わされた)。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:''[[w:it:Quinto Velanio|it:Quinto Velanio]], [[w:it:Tito Silio|it:Tito Silio]]'' 等参照。)</span>
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]] ''[[w:en:Veneti (Gaul)|Veneti (Gaul)]]'' は、[[w:アルモリカ|アルモリカ]]南西部、現在の[[w:モルビアン県|モルビアン県]]辺りにいた。)</span>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===8節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/8節]] {{進捗|00%|2022-06-13}}</span>
'''ウェネティー族らの動き'''
<br>
; 沿海地方を主導するウェネティー族
*Huius est civitatis longe amplissima auctoritas omnis orae maritimae regionum earum,
**この部族〔ウェネティー族〕の<ruby><rb>影響力</rb><rp>(</rp><rt>アウクトーリタース</rt><rp>)</rp></ruby>は、海岸のその全地方の中でずば抜けて大きい。
*quod et naves habent Veneti plurimas,
**── というのは、[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]は、最も多くの船舶を持っており、
*quibus in Britanniam navigare consuerunt,
**それら〔船団〕によって[[w:ブリタンニア|ブリタンニア]]に航海するのが常であり、
*et scientia atque usu rerum nauticarum ceteros antecedunt
**かつ[[w:海事|海事]]の知識と経験において他の者たち〔諸部族〕をしのいでおり、
*et in magno impetu maris atque aperto <Oceano>
**かつ海のたいへんな荒々しさと開けた<<ruby><rb>大洋〔[[w:大西洋|大西洋]]〕</rb><rp>(</rp><rt>オーケアヌス</rt><rp>)</rp></ruby>>において、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:<Oceano> は写本になく、挿入提案された修正読み)</span>
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[w:大陸棚|大陸棚]]が広がる[[w:ビスケー湾|ビスケー湾]]は、世界最大12mの大きな[[w:潮汐|干満差]]と、<br> 北西風による激しい嵐で知られる<ref>[https://kotobank.jp/word/%E3%83%93%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%83%BC%E6%B9%BE-119819 ビスケー湾とは - コトバンク]</ref>。)</span>
*paucis portibus interiectis,
**わずかの港が介在していて、
*quos tenent ipsi,
**彼ら自身〔ウェネティー族〕がそれら〔港湾〕を制していて、
*omnes fere qui eo mari uti consuerunt, habent vectigales.
**その海を利用するのが常であった者たち〔部族〕ほぼすべてを、貢税者としていたのだ。──
<br>
; ウェネティー族が、クラッススの使節たちを抑留する
*Ab his fit initium retinendi Sillii atque Velanii,
**彼ら〔ウェネティー族〕によって、シーッリウスとウェラーニウスを拘束することが皮切りとなる。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:2人は、前節([[#7節]])でウェネティー族への派遣が述べられた使節)</span>
*<u>et si quos intercipere potuerunt</u>
**何らかの者たちを捕えることができたのではないか、と。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:下線部は、β系写本だけの記述で、α系写本にはない。)</span>
*quod per eos suos se obsides, quos Crasso dedissent, recuperaturos existimabant.
**というのは、彼らを介して、[[w:プブリウス・リキニウス・クラッスス|クラッスス]]に差し出されていた己の人質たちを取り戻すことができると考えていたのである。
<br>
*Horum auctoritate finitimi adducti,
**彼ら〔ウェネティー族〕の影響力によって、近隣の者たち〔諸部族〕が動かされて、
*ut sunt Gallorum subita et repentina consilia,
**──ガッリア人の判断力というものは、思いがけなく性急なものであるが、──
*eadem de causa Trebium Terrasidiumque retinent
**同じ理由によりトレビウスとテッラシディウスを拘束する。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:トレビウスは、前節でコリオソリテース族に派遣された。<br> テッラシディウスは、前節でエスウィイー族に派遣された。)</span>
*et celeriter missis legatis
**そして速やかに使節が遣わされて、
*per suos principes inter se coniurant
**自分らの領袖たちを通して互いに誓約する。
*nihil nisi communi consilio acturos eundemque omnes fortunae exitum esse laturos,
**合同の軍議なしには何も実施しないであろうし、皆が命運の同じ結果に耐えるであろう、と。
*reliquasque civitates sollicitant,
**残りの諸部族を扇動する。
*ut in ea libertate quam a maioribus acceperint, permanere quam Romanorum servitutem perferre malint.
**ローマ人への隷属を辛抱することより、むしろ先祖から引き継いでいた自由に留まることを欲すべし、と。
<br>
*Omni ora maritima celeriter ad suam sententiam perducta
**すべての海岸(の諸部族)が速やかに自分たち〔ウェネティー族〕の見解に引き込まれると、
*communem legationem ad [[wikt:en:Publium|Publium]] Crassum mittunt,
**共同の使節を[[w:プブリウス・リキニウス・クラッスス|プーブリウス・クラッスス]]のもとへ遣わす。
*si velit suos recuperare, obsides sibi remittat.
**もし味方の者たち〔ローマ人〕を取り戻すことを望むならば、自分たち〔諸部族〕の人質たちを返すように、と。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===9節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/9節]] {{進捗|00%|2022-06-19}}</span>
{{Wikipedia|la:Liger| Liger }}
'''カエサル到着、ウェネティー族らの作戦と開戦準備'''
; カエサルが、海戦の準備を手配してから、沿岸地域に急ぐ
*Quibus de rebus Caesar a Crasso certior factus,
**以上の事について、カエサルは[[w:プブリウス・リキニウス・クラッスス|クラッスス]]により報知されると、
*quod ipse aberat longius,
**(カエサル)自身は非常に遠くに離れていたので、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:[[#コラム「ルカ会談」|#ルカ会談]]などローマへの政界工作のために属州にいたと考えられている。)</span>
*naves interim longas aedificari in flumine [[wikt:la:Liger#Latine|Ligeri]], quod influit in Oceanum,
**その間に<u>軍船</u>が<ruby><rb>大洋〔[[w:大西洋|大西洋]]〕</rb><rp>(</rp><rt>オーケアヌス</rt><rp>)</rp></ruby>に流れ込むリゲル川〔[[w:ロワール川|ロワール川]]〕にて建造されること、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:艦隊 [[w:la:Classis Romana|classis]] の主力として戦う[[w:ガレー船|ガレー船]]は「長船」[[w:la:Navis longa|navis longa]] と呼ばれていた。<br> これに対して、軍需物資を運搬する輸送船は [[w:la:Navis actuaria|navis actuaria]] と呼ばれていた。)</span>
*remiges ex provincia institui,
**<ruby><rb>漕ぎ手</rb><rp>(</rp><rt>レーメクス</rt><rp>)</rp></ruby>が属州〔[[w:ガリア・トランサルピナ|ガッリア・トランサルピーナ]]〕から採用されること、
*nautas gubernatoresque comparari iubet.
**<ruby><rb>[[w:船員|水夫]]</rb><rp>(</rp><rt>ナウタ</rt><rp>)</rp></ruby>や<ruby><rb>操舵手</rb><rp>(</rp><rt>グベルナートル</rt><rp>)</rp></ruby>が徴募されること、を命じる。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:船尾の「<ruby><rb>[[w:舵|舵]]</rb><rp>(</rp><rt>かじ</rt><rp>)</rp></ruby>」が発明されたのは[[w:漢|漢代]]の中国であって、古代西洋の船に<ruby><rb>舵</rb><rp>(</rp><rt>かじ</rt><rp>)</rp></ruby>はない。<br> 船の操舵手は「<ruby><rb>舵櫂</rb><rp>(</rp><rt>かじかい</rt><rp>)</rp></ruby>」(''[[w:en:Steering oar|steering oar]]'') という[[w:櫂|櫂]]の一種を用いて操船したらしい。)</span>
<br>
*His rebus celeriter administratis ipse,
**これらの事柄が速やかに処理されると、(カエサル)自身は
*cum primum per anni tempus potuit, ad exercitum contendit.
**年のできるだけ早い時季に、軍隊のもとへ急いだ。
<br>
; ウェネティー族らが、使節団拘留の重大さを勘案して、海戦の準備を進める
*Veneti reliquaeque item civitates cognito Caesaris adventu
**[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]と残りの部族もまた、カエサルの到着を知り、
*<span style="color:#009900;"><</span>et de recipiendis obsidibus spem se fefellise<span style="color:#009900;">></span> certiores facti,
**<span style="color:#009900;"><</span>かつ人質を取り戻すという希望に惑わされたことを<span style="color:#009900;">></span> 知らされて、
*simul quod quantum in se facinus admisissent intellegebant,
**同時に、どれほど大それた行為を自分たちが侵していたかを判断していたので、
*<span style="color:#009900;">[</span>legatos, quod nomen ad omnes nationes sanctum inviolatumque semper fuisset,
**──(すなわち)あらゆる種族のもとでその名が神聖かつ不可侵の、使節たちが
*retentos ab se et in vincula coniectos,<span style="color:#009900;">]</span>
**自分たちによって拘束され、鎖につながれていたわけだが、──
*pro magnitudine periculi bellum parare
**危機の重大さに見合う戦争を準備すること、
*et maxime ea quae ad usum navium pertinent providere instituunt,
**とりわけ船団を運用するために役立つところのものを調達すること、を着手する。
*hoc maiore spe quod multum natura loci confidebant.
**地勢を大いに信じていた点に大きな期待をして。
<br>
*Pedestria esse itinera concisa aestuariis,
**(ローマ勢の)歩兵の行軍路は入江で遮断されるし、
*navigationem impeditam propter inscientiam locorum paucitatemque portuum sciebant,
**土地の不案内と港の少なさのゆえに航行が妨げられることを(ウェネティー族らは)知っていた。
*neque nostros exercitus propter inopiam frumenti diutius apud se morari posse confidebant;
**穀物の欠乏のゆえに、我が軍〔ローマ軍〕がより長く彼らのもとに留まることができないと(ウェネティー族らは)信じ切っていた。
<br>
*ac iam ut omnia contra opinionem acciderent,
**やがて、すべてのことが予想に反して生じたとしても、
*tamen se plurimum navibus posse, quam Romanos neque ullam facultatem habere navium,
**けれども自分たち〔ウェネティー族ら〕は艦船において、艦船の備えを何ら持たないローマ人よりも大いに優勢であり、
*neque eorum locorum, ubi bellum gesturi essent, vada, portus, insulas novisse;
**戦争を遂行しようとしているところの浅瀬・港・島に(ローマ人は)不案内であった(と信じ切っていた)。
<br>
*ac longe aliam esse navigationem in concluso mari atque in vastissimo atque apertissimo Oceano perspiciebant.
**閉ざされた海〔[[w:地中海|地中海]]〕と非常に広大で開けた大洋における航行はまったく別物であると見通していた。
<br>
*His initis consiliis
**この作戦計画が決められると、
*oppida muniunt,
**<ruby><rb>[[w:オッピドゥム|城塞都市]]</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>の防備を固め、
*frumenta ex agris in oppida comportant,
**穀物を耕地から<ruby><rb>城塞都市</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>に運び込み、
*naves in [[wikt:en:Venetia#Latin|Venetiam]], ubi Caesarem primum (esse) bellum gesturum constabat, quam plurimas possunt, cogunt.
**カエサルが最初の戦争を遂行するであろうことが明白であったところの[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]領に、ありったけの艦船を集める。
<br>
*Socios sibi ad id bellum
**この戦争のために(ウェネティー族は)自分たちのもとへ同盟者として
*[[wikt:en:Osismi#Latin|Osismos]], [[wikt:en:Lexovii#Latin|Lexovios]], [[wikt:en:Namnetes#Latin|Namnetes]], Ambiliatos, [[wikt:en:Morini#Latin|Morinos]], [[w:en:Diablintes|Diablintes]], [[wikt:en:Menapii#Latin|Menapios]] adsciscunt;
**<span style="font-size:10pt;">オスィスミー族・レクソウィイー族・ナムネーテース族・アンビリアーティー族・モリニー族・ディアブリンテース族・メナピイー族</span> を引き入れる。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:アンビリアーティー族 ➡ [[w:ガイウス・プリニウス・セクンドゥス|プリニウス]]は「アンビラトリー族」 [[wikt:en:Ambilatri#Latin|Ambilatri]] と記す。<br> ディアブリンテース族 ➡ プリニウスは「ディアブリンティー族」 [[wikt:en:Diablinti#Latin|Diablinti]] と記す。<br> この部族は、アウレルキー族 ''[[w:en:Aulerci|Aulerci]]'' の支族。)</span>
*auxilia ex Britannia, quae contra eas regiones posita est, arcessunt.
**援軍を、この地域の向かい側に位置する[[w:ブリタンニア|ブリタンニア]]から呼び寄せた。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:援軍を出したという口実のもと、翌年カエサルがブリタンニアに侵攻することになる。)</span>
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Map of Aremorican tribes (Latin).svg|thumb|right|600px|[[w:アルモリカ|アルモリカ]](<span style="font-family:Times New Roman;font-size:13pt;">''[[w:en:Armorica|Armorica]]''</span> )の部族分布図。
]]
|}
</div>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===10節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/10節]] {{進捗|00%|2022-07-02}}</span>
'''カエサルの開戦への大義名分'''
*Erant hae difficultates belli gerendi, quas supra ostendimus,
**上で指摘したような、戦争を遂行することの困難さがあった。
*sed tamen multa Caesarem ad id bellum incitabant:
**にもかかわらず、多くのことがカエサルをその戦争へと駆り立てていたのだ。
*iniuria retentorum equitum Romanorum,
**①ローマ人の[[w:エクィテス|騎士]]〔騎士階級の者〕たちが拘束されることの無法さ、
*rebellio facta post deditionem,
**②降伏の後でなされた造反、
*defectio datis obsidibus,
**③人質を供出しての謀反、
*tot civitatum coniuratio,
**④これほど多くの部族の共謀、
*in primis ne hac parte neglecta reliquae nationes sibi idem licere arbitrarentur.
**⑤何よりも第一に、この地方をなおざりにして、残りの種族が自分たちも同じことを許容されると思い込まないように。
*Itaque cum intellegeret
**そこで、(カエサルは以下のように)認識していたので、
*omnes fere Gallos novis rebus studere et ad bellum mobiliter celeriterque excitari,
**①ほぼすべてのガリア人が政変を熱望して、戦争へ簡単に速やかに奮い立たせられていること、
*omnes autem homines natura libertati studere incitari et condicionem servitutis odisse,
**②他方ですべての人間は本来的に自由を熱望することに扇動され、隷属の状態を嫌っていること、
*prius quam plures civitates conspirarent,
**多くの部族が共謀するより前に、
*partiendum sibi ac latius distribuendum exercitum putavit.
**(カエサルは)自分にとって軍隊が分けられるべき、より広範に割り振られるべきであると考えた。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===11節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/11節]] {{進捗|00%|2022-07-03}}</span>
'''ラビエーヌス、クラッスス、サビーヌス、ブルートゥスを前線へ派兵する'''
<br><br>
; 副官ラビエーヌスをトレウェリー族のもとへ遣わす
*Itaque [[wikt:en:Titum|T.]] [[wikt:en:Labienus#Latin|Labienum]] legatum in [[wikt:en:Treveri#Latin|Treveros]], qui proximi flumini Rheno sunt, cum equitatu mittit.
**こうして、<ruby><rb>[[w:レガトゥス|副官]]</rb><rp>(</rp><rt>レガトゥス</rt><rp>)</rp></ruby>[[w:ティトゥス・ラビエヌス|ティトゥス・ラビエーヌス]]をレーヌス川〔[[w:ライン川|ライン川]]〕に最も近いトレーウェリー族に、騎兵隊とともに派遣する。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[w:la:Titus Labienus|Titus Labienus]] は、『ガリア戦記』におけるカエサルの片腕。<br> ''[[w:en:Treveri|Treveri]]'' はローマの同盟部族だが、[[ガリア戦記_第5巻|第5巻]]・[[ガリア戦記_第6巻|第6巻]]で挙兵する。)</span>
*Huic mandat,
**彼に(以下のように)命じる。
*[[wikt:en:Remi#Latin|Remos]] reliquosque [[wikt:en:Belgas|Belgas]] adeat atque in officio contineat
**①レーミー族やほかの[[w:ベルガエ|ベルガエ人]]を訪れて、<ruby><rb>忠実さ</rb><rp>(</rp><rt>オッフィキウム</rt><rp>)</rp></ruby>に留めるように、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:''[[w:en:Remi|Remi]]'' は、ローマの同盟部族で、[[ガリア戦記_第2巻#3節|第2巻3節]]以降で言及された。)</span>
*[[wikt:en:Germanos|Germanos]]que, qui auxilio a Gallis arcessiti dicebantur,
**②ガッリア人により援兵として呼び寄せられたといわれていた[[w:ゲルマニア|ゲルマーニア]]人が
**:<span style="color:#009900;">(訳注:第1巻で言及された[[w:アリオウィストゥス|アリオウィストゥス]]の軍勢のこと。)</span>
*si per vim navibus flumen transire conentur, prohibeat.
**(彼らが)もし力ずくで船で川を渡ることを試みるならば、防ぐように、と。
<br>
; クラッスス青年をアクィーターニアに派遣する
*[[wikt:en:Publium|P.]] [[wikt:en:Crassus#Latin|Crassum]] cum cohortibus legionariis XII(duodecim) et magno numero equitatus in Aquitaniam proficisci iubet,
**[[w:プブリウス・リキニウス・クラッスス|プーブリウス・クラッスス]]には、軍団の12個<ruby><rb>[[w:コホルス|歩兵大隊]]</rb><rp>(</rp><rt>コホルス</rt><rp>)</rp></ruby>と多数の騎兵隊とともに、[[w:アクィタニア|アクィーターニア]]に出発することを命じる。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[w:la:Publius Licinius Crassus|Publius Licinius Crassus]]、[[#7節]]から既述。)</span>
*ne ex his nationibus auxilia in Galliam mittantur ac tantae nationes coniungantur.
**これらの種族から援兵がガッリアに派遣され、これほど多くの諸部族が結託することがないように。
<br>
; 副官サビーヌスを3個軍団とともに[[w:アルモリカ|アルモリカ]]北部へ派兵する
*[[wikt:en:Quintum#Latin|Q.]] [[wikt:en:Titurius#Latin|Titurium]] Sabinum legatum cum legionibus tribus
**副官[[w:クィントゥス・ティトゥリウス・サビヌス|クィーントゥス・ティトゥリウス・サビーヌス]]を3個軍団とともに
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:''[[w:en:Quintus Titurius Sabinus|Quintus Titurius Sabinus]]'' は[[ガリア戦記_第2巻#5節|第2巻5節]]から言及されている『ガリア戦記』前半で活躍する副官。)</span>
*in [[wikt:en:Unelli#Latin|Unellos]](Venellos), Coriosolităs [[wikt:en:Lexovii#Latin|Lexovios]]que mittit, qui eam manum distinendam curet.
**ウネッリー族・コリオソリテース族・レクソウィイー族に派遣して、彼らの手勢を分散させるべく配慮するように。
<br>
; ブルートゥス青年をウェネティー族領へ派兵する
*[[wikt:en:Decimus#Latin|D.]] [[wikt:en:Brutum|Brutum]] adulescentem classi Gallicisque navibus,
**[[w:デキムス・ユニウス・ブルトゥス・アルビヌス|デキムス・ブルートゥス青年]]に、(ローマの)艦隊とガッリア人の船団を、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[w:la:Decimus Iunius Brutus Albinus|Decimus Iunius Brutus Albinus]] は、カエサルの副官として活躍するが、後に暗殺に加わる。)</span>
*quas ex [[wikt:en:Pictones#Latin|Pictonibus]] et [[wikt:en:Santoni#Latin|Santonis]] reliquisque pacatis regionibus convenire iusserat,
**──これら(船団)はピクトネース族・サントニー族やほかの平定された地方から集まるように命じていたものであるが、──
*praeficit et, cum primum possit, in [[wikt:en:Veneti#Latin|Venetos]] proficisci iubet.
**(ブルートゥスに船団を)指揮させて、できるだけ早く[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]](の領土)に出発することを命じる。
<br>
*Ipse eo pedestribus copiis contendit.
**(カエサル)自身は、そこへ歩兵の軍勢とともに急ぐ。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===12節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/12節]] {{進捗|00%|2022-07-09}}</span>
'''ウェネティー族の城塞都市の地勢、海洋民の機動性'''
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Bretagne Finistere PointeduRaz15119.jpg|thumb|right|350px|ウェネティー族の[[w:オッピドゥム|城塞都市]]があった[[w:ブルターニュ半島|ブルターニュ半島]]の突き出た地形]]
|}
</div>
*Erant [[wikt:en:eiusmodi|eiusmodi]] fere situs oppidorum,
**([[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]の)<ruby><rb>[[w:オッピドゥム|城塞都市]]</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>の地勢はほぼ以下のようであった。
*ut posita in extremis [[wikt:en:lingula#Latin|lingulis]] [[wikt:en:promunturium#Latin|promunturiis]]que
**<ruby><rb>[[w:砂嘴|砂嘴]]</rb><rp>(</rp><rt>リングラ</rt><rp>)</rp></ruby>や[[w:岬|岬]]の先端部に位置しているので、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:en:lingula#Latin|lingula]] ⇒ [[w:la:Lingua terrae|lingua terrae]] (舌状地) ≒ <ruby><rb>[[w:砂嘴|砂嘴]]</rb><rp>(</rp><rt>さし</rt><rp>)</rp></ruby>(くちばし状の砂地)。)</span>
*neque pedibus aditum haberent, cum ex alto se [[wikt:en:aestus#Latin|aestus]] incitavisset,
**沖合から<ruby><rb>[[w:潮汐|潮 汐]]</rb><rp>(</rp><rt>アエトゥス</rt><rp>)</rp></ruby>が押し寄せて来たとき<span style="color:#009900;">〔満潮〕</span>に、徒歩での<ruby><rb>接近路</rb><rp>(</rp><rt>アプローチ</rt><rp>)</rp></ruby>を持っていなかった。
*quod bis accidit semper horarum XII(duodenarum) spatio,
**というのは<span style="color:#009900;">(満潮が毎日)</span>2度、常に12時間の間隔で起こるためである。
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Astronomical tide IJmuiden 21 January 2012.png|thumb|right|600px|ある日(24時間)の'''[[w:潮位|潮位]]'''予測グラフの例(2012年、オランダ北海沿岸のエイマイデン)。<br>満潮や干潮は、約12時間の周期で繰り返されることが多いため、たいてい1日2回ずつ生じる。]]
|}
</div>
*neque navibus,
**船で(のアプローチ)もなく、
*quod rursus minuente aestu naves in vadis adflictarentur.
**というのは、潮が再び減ると<span style="color:#009900;">〔干潮〕</span>、船団が[[w:浅瀬|浅瀬]]で損傷してしまうためである。
*Ita utraque re oppidorum oppugnatio impediebatur;
**このように<span style="color:#009900;">(陸路・海路)</span>どちらの状況においても、<ruby><rb>城塞都市</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>の攻略は妨げられていた。
<br><br>
*ac si quando magnitudine operis forte superati,
**あるとき、期せずして<span style="color:#009900;">(ウェネティー族がローマ人の)</span><ruby><rb>構造物</rb><rp>(</rp><rt>オプス</rt><rp>)</rp></ruby>の大きさに圧倒されて、
*extruso mari aggere ac molibus
**<span style="color:#009900;">(ローマ人が建造した)</span><ruby><rb>土手</rb><rp>(</rp><rt>アッゲル</rt><rp>)</rp></ruby>や<ruby><rb>[[w:防波堤|防波堤]]</rb><rp>(</rp><rt>モーレース</rt><rp>)</rp></ruby>により海水が押し出され、
*atque his oppidi moenibus adaequatis,
**これら<span style="color:#009900;">〔堡塁〕</span>が<ruby><rb>城塞都市</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>の城壁と<span style="color:#009900;">(高さにおいて)</span>等しくされ、
*suis fortunis desperare coeperant,
**<span style="color:#009900;">(ウェネティー族らが)</span>自分たちの命運に絶望し始めていたとしても、
*magno numero navium adpulso,
**船の多数を接岸して、
*cuius rei summam facultatem habebant,
**それら〔船〕の供給に最大の備えを持っていたので、
*omnia sua deportabant seque in proxima oppida recipiebant;
**自分たちの<ruby><rb>一切合財</rb><rp>(</rp><rt>オムニア</rt><rp>)</rp></ruby>を運び去って、最も近い<ruby><rb>城塞都市</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>に撤収していた。
*ibi se rursus isdem opportunitatibus loci defendebant.
**そこにおいて再び同じような地の利によって防戦していたのだ。
<br><br>
*Haec [[wikt:en:eo#Latin|eo]] facilius magnam partem aestatis faciebant,
**以上のことが、夏の大部分を<span style="color:#009900;">(ウェネティー族にとって)</span>より容易にしていた。
*quod nostrae naves [[wikt:en:tempestas#Latin|tempestatibus]] detinebantur,
**なぜなら、我が方〔ローマ人〕の船団は嵐により<span style="color:#009900;">(航行を)</span>阻まれており、
*summaque erat
**<span style="color:#009900;">(航行することの困難さが)</span>非常に大きかった。
*vasto atque aperto mari,
**海は広大で開けており、
*magnis aestibus,
**<ruby><rb>潮流</rb><rp>(</rp><rt>アエトゥス</rt><rp>)</rp></ruby>が激しく、
*raris ac prope nullis portibus
**港は<ruby><rb>疎</rb><rp>(</rp><rt>まば</rt><rp>)</rp></ruby>らでほとんどないので、
*difficultas navigandi.
**航行することの困難さが<span style="color:#009900;">(非常に大きかった)</span>。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===13節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/13節]] {{進捗|00%|2022-07-10}}</span>
'''ウェネティー族の帆船の特徴'''
<div style="background-color:#ededed; width:90%; text-align:center">
{|
|-
| colspan="2" |ウェネティー族の船の再現画(左下に兵士の大きさが示されている)
| rowspan="2" style="background-color:#fff;" |
| rowspan="2" style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Navis longa ja.JPG|thumb|right|350px|古代ローマの軍船([[w:ガレー船|ガレー船]])の構成]]
|-
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Navire venete.svg|thumb|right|200px|一つの帆をもつ帆船の例]]
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Navire venete 2.svg|thumb|right|200px|二つの帆をもつ帆船の例]]
|}
</div>
*Namque ipsorum naves ad hunc modum factae armataeque erant:
**これに対して彼ら<span style="color:#009900;">〔[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]〕</span>自身の[[w:帆船|船]]は、以下のやり方で建造され、<ruby><rb>[[w:艤装|艤装]]</rb><rp>(</rp><rt>ぎそう</rt><rp>)</rp></ruby>されていた。
; 竜骨
*[[wikt:en:carina#Latin|carinae]] [[wikt:en:aliquanto|aliquanto]] planiores quam nostrarum navium,
**<ruby><rb>[[w:竜骨 (船)|竜 骨]]</rb><rp>(</rp><rt>カリーナ</rt><rp>)</rp></ruby>は、我が方<span style="color:#009900;">〔ローマ人〕</span>の船のものよりも、いくらか平らで、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:[[w:竜骨 (船)|竜骨]]は、船底に突き出た背骨部分で、[[w:帆船|帆船]]が風で横滑りしないように造られていた。)</span>
*quo facilius vada ac decessum aestus excipere possent;
**それによって、より容易に[[w:浅瀬|浅瀬]] や [[w:潮汐|潮]]が退くこと<span style="color:#009900;">〔干潮〕</span>を持ち応えることができた。
; 船首と船尾
*[[wikt:en:prora#Latin|prorae]] admodum erectae atque item [[wikt:en:puppis|puppes]],
**<ruby><rb>[[w:船首|船 首]]</rb><rp>(</rp><rt>プローラ</rt><rp>)</rp></ruby>はまったく直立しており、<ruby><rb>[[w:船尾|船 尾]]</rb><rp>(</rp><rt>プッピス</rt><rp>)</rp></ruby>も同様で、
*ad magnitudinem fluctuum tempestatumque adcommodatae;
**<ruby><rb>[[w:波#波浪(風浪とうねり)|波 浪]]</rb><rp>(</rp><rt>フルークトゥス</rt><rp>)</rp></ruby> や <ruby><rb>[[w:嵐|暴風雨]]</rb><rp>(</rp><rt>テンペスタース</rt><rp>)</rp></ruby> の激しさに適応していた。
; 船体の材質
*naves totae factae ex [[wikt:en:robur#Latin|robore]] ad quamvis vim et contumeliam perferendam;
**船は、どんな力や衝撃にも耐えるために、全体として[[w:オーク|オーク材]]で造られていた。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:la:robur|robur]] は ''[[wikt:en:oak#English|oak]]'' と英訳され、[[w:樫#Japanese|樫]]と訳されることが多いが、<br> 「<ruby><rb>[[w:カシ|樫]]</rb><rp>(</rp><rt>カシ</rt><rp>)</rp></ruby>」は常緑樹であり、西洋では落葉樹である「<ruby><rb>[[w:ナラ|楢]]</rb><rp>(</rp><rt>ナラ</rt><rp>)</rp></ruby>」が多い。<br> 学名 [[w:la:Quercus robur|Quercus robur]] は「[[w:ヨーロッパナラ|ヨーロッパナラ]]」と訳される。)</span>
; 横梁
*[[wikt:en:transtrum#Latin|transtra]] ex pedalibus in altitudinem [[wikt:en:trabs#Latin|trabibus]], confixa [[wikt:en:clavus#Latin|clavis]] [[wikt:en:ferreus#Latin|ferreis]] digiti [[wikt:en:pollex#Latin|pollicis]] crassitudine;
**<ruby><rb>横梁(横木)</rb><rp>(</rp><rt>トラーンストルム</rt><rp>)</rp></ruby>は、1ペースの幅の<ruby><rb>材木</rb><rp>(</rp><rt>トラプス</rt><rp>)</rp></ruby>からなり、親指の太さほどの鉄製の[[w:釘|釘]]で固定されていた。
**:<span style="font-family:Times New Roman;color:#009900;">(訳注:1[[ガイウス・ユリウス・カエサルの著作/通貨・計量単位#ペース|ペース]]は約29.6cm。)</span>
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:en:transtrum#Latin|transtra]] は、<ruby><rb>[[w:マスト|帆柱]]</rb><rp>(</rp><rt>マスト</rt><rp>)</rp></ruby>([[wikt:en:malus#Etymology_3_2|malus]])を船に固定するための<ruby><rb>横梁(横木)</rb><rp>(</rp><rt>クロスビーム</rt><rp>)</rp></ruby>とも考えられる。)</span>
; 錨(いかり)の索具
*[[wikt:en:ancora#Latin|ancorae]] pro [[wikt:en:funis#Latin|funibus]] ferreis catenis revinctae;
**<ruby><rb>[[w:錨|錨]]</rb><rp>(</rp><rt>アンコラ</rt><rp>)</rp></ruby>は、<ruby><rb>[[w:ロープ|縄 索]]</rb><rp>(</rp><rt>フーニス</rt><rp>)</rp></ruby>の代わりに鉄製の[[w:鎖|鎖]]でつながれていた。
<div style="background-color:#eee; width:600px; text-align:center">
{|
|-
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Nemi 060 museo delle Navi.jpg|thumb|right|180px|[[w:la:Ancora|ancora]] ([[w:錨|錨]])(古代ローマ)]]
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Cordage en chanvre.jpg|thumb|right|150px|[[w:la:Funis|funis]] (綱の[[w:ロープ|ロープ]])]]
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Old chain.jpg|thumb|right|150px|[[w:la:Catena|catena]] ([[w:鎖|鎖]])]]
|}
</div>
<br>
; 帆の材質
*[[wikt:en:pellis#Latin|pelles]] pro [[wikt:en:velum#Latin|velis]] [[wikt:en:aluta#Latin|alutae]]que tenuiter confectae,
**<ruby><rb>[[w:帆布|帆 布]]</rb><rp>(</rp><rt>ウェールム</rt><rp>)</rp></ruby>の代わりに<ruby><rb>[[w:毛皮|毛皮]]</rb><rp>(</rp><rt>ペッリス</rt><rp>)</rp></ruby>や、薄く作製された<ruby><rb>なめし皮</rb><rp>(</rp><rt>アルータ</rt><rp>)</rp></ruby>が(用いられた)。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:en:pellis#Latin|pellis]] は<ruby><rb>鞣</rb><rp>(</rp><rt>なめ</rt><rp>)</rp></ruby>していない生皮、[[wikt:en:aluta#Latin|aluta]] は<ruby><rb>鞣</rb><rp>(</rp><rt>なめ</rt><rp>)</rp></ruby>した[[w:皮革|皮革]] [[wikt:en:corium#Latin|corium]] のこと。)</span>
<div style="background-color:#eee; width:600px; text-align:center">
{|
|-
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Linen canvas.jpg|thumb|right|150px|<ruby><rb>[[w:リネン|亜麻布]]</rb><rp>(</rp><rt>リネン</rt><rp>)</rp></ruby>の[[w:帆布|帆布]] ]]
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Kissen aus indischem Antilopenfell 2013.jpg|thumb|right|100px|[[w:la:Pellis|pellis]] ([[w:毛皮|毛皮]])]]
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Natural Bridge State Park (30337351644).jpg|thumb|right|200px|aluta ([[w:en:Tanning (leather)|なめし皮]])]]
|}
</div>
*[hae] sive propter inopiam [[wikt:en:linum#Latin|lini]] atque eius usus inscientiam,
**[これは] あるいは、<ruby><rb>[[w:アマ (植物)|亜麻]]</rb><rp>(</rp><rt>リーヌム</rt><rp>)</rp></ruby>の不足ゆえや、その利用に無知であるゆえか、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:ローマ人には、[[w:リネン|亜麻布 (リネン)]]で帆を作る慣習があった。)</span>
*sive eo, quod est magis [[wikt:en:verisimilis#Latin|veri simile]],
**あるいは、この方がより真実に近いのだろうが、
*quod tantas tempestates Oceani tantosque impetus ventorum sustineri
**<ruby><rb>[[w:オーケアノス|大洋]]〔[[w:大西洋|大西洋]]〕</rb><rp>(</rp><rt>オーケアヌス</rt><rp>)</rp></ruby>のあれほどの嵐や、風のあれほどの激しさに持ち応えること、
*ac tanta onera navium regi
**船のあれほどの重さを制御することは、
*[[wikt:en:velum#Latin|velis]] non satis commode posse arbitrabantur.
**<ruby><rb>帆 布</rb><rp>(</rp><rt>ウェールム</rt><rp>)</rp></ruby>にとって十分に具合良くできないと、<span style="color:#009900;">(ウェネティー族は)</span>考えていたためであろう。
<br><br>
; ウェネティー船団とローマ艦隊の優劣
*Cum his navibus nostrae classi eiusmodi congressus erat,
**彼ら<span style="color:#009900;">〔ウェネティー族〕</span>の船団と、我が方<span style="color:#009900;">〔ローマ軍〕</span>の艦隊は、以下のように交戦していた。
*ut una celeritate et pulsu remorum praestaret,
**迅速さと<ruby><rb>[[w:櫂|櫂]](かい)</rb><rp>(</rp><rt>レームス</rt><rp>)</rp></ruby>を<ruby><rb>漕</rb><rp>(</rp><rt>こ</rt><rp>)</rp></ruby>ぐのだけは<span style="color:#009900;">(ローマ艦隊が)</span>よりまさっていたのだが、
*reliqua pro loci natura, pro vi tempestatum
**そのほかのことは、地勢や嵐の勢いを考慮すると、
*illis essent aptiora et adcommodatiora.
**彼ら<span style="color:#009900;">〔ウェネティー族〕</span>にとってより適しており、より好都合であった。
*Neque enim his nostrae rostro nocere poterant
**なぜなら、我が方<span style="color:#009900;">〔ローマ艦隊〕</span>の<ruby><rb>[[w:衝角|衝 角]]</rb><rp>(</rp><rt>ローストルム</rt><rp>)</rp></ruby>によって彼ら<span style="color:#009900;">(の船)</span>に対して損壊することができず、
*── tanta in iis erat firmitudo ──,
**──それら<span style="color:#009900;">〔ウェネティー族の船〕</span>においては<span style="color:#009900;">(船体の)</span>それほどの頑丈さがあったのだが──
*neque propter altitudinem facile telum adigebatur,
**<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の船体の)</span>高さのゆえに、飛道具がたやすく投げ込まれなかったし、
*et eadem de causa minus commode <u>[[wikt:en:copula#Latin|copulis]]</u> continebantur.
**同じ理由から、あまり都合よく <ruby><rb><u>[[w:鉤縄|鉤縄]]</u></rb><rp>(</rp><rt>かぎなわ</rt><rp>)</rp></ruby> で<span style="color:#009900;">(敵船が)</span>つなぎ止められなかった。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:下線部は、古い写本では [[wikt:en:scopulus#Latin|scopulis]]「岩礁」だが、<br> 後代の写本で修正され「[[w:鉤縄|鉤縄]]」と解釈されている。下図参照。)</span>
<div style="background-color:#eee; width:350px; text-align:center">
{|
|-
| style="vertical-align:bottom;" |[[画像:Grappling hook 2 (PSF).png|thumb|right|410px|[[w:海戦|海戦]]において敵船に[[w:移乗攻撃|接舷]]するために用いられていた、多数の<ruby><rb>[[w:鉤|鉤]]</rb><rp>(</rp><rt>かぎ</rt><rp>)</rp></ruby>を備えた<ruby><rb>[[w:銛|銛]]</rb><rp>(</rp><rt>もり</rt><rp>)</rp></ruby>の一種(<small>英語 [[wikt:en:grappling hook|grappling hook]]</small>)。<hr>[[内乱記_第1巻#57節|『内乱記』第1巻57節]]、[[内乱記_第2巻#6節|第2巻6節]]においても、[[w:デキムス・ユニウス・ブルトゥス・アルビヌス|D.ブルートゥス]]による'''[[内乱記/マッシリアについて|マッシリア攻囲]]'''の海戦の場面で、同様の鉤について言及される。]]
|}
</div>
*Accedebat ut,
**さらに加えて、
*cum <span style="color:#009900;">[</span>saevire ventus coepisset et<span style="color:#009900;">]</span> se vento dedissent,
**<span style="color:#009900;">[</span>風が荒々しく吹き始めて<span style="color:#009900;">]</span> 風に身を委ねて<span style="color:#009900;">(航行して)</span>いたときに、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:β系写本では [ ] 部分を欠く。)</span>
*et tempestatem ferrent facilius
**<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の船団は)</span>嵐により容易に耐えていたし、
*et in vadis consisterent tutius
**浅瀬により安全に停留して、
*et ab aestu relictae
**潮に取り残されても、
*nihil saxa et [[wikt:en:cautes#Latin|cautes]] timerent;
**岩石やごつごつした石を何ら恐れることがなかった。
*quarum rerum omnium nostris navibus casus erant extimescendi.
**それらのすべての事が、我が<span style="color:#009900;">〔ローマ人の〕</span>船団にとっては、恐怖すべき危険であったのだ。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:ウェネティー族の船は[[w:竜骨 (船)|竜骨]]がローマ人の船より平たいため、<br> 浅瀬や引き潮を容易に持ち応えられた。本節の冒頭を参照。)</span>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===14節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/14節]] {{進捗|00%|2022-07-17}}</span>
'''カエサル待望のブルートゥスの艦隊が来航し、ウェネティー族との海戦が始まる'''
*Compluribus expugnatis oppidis
**いくつもの<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の)</span><ruby><rb>[[w:オッピドゥム|城塞都市]]</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>が攻略されると、
*Caesar <u>ubi intellexit</u> frustra tantum laborem sumi
**カエサルは、これほどの労苦が無駄に費やされること(を知り)、
*neque hostium fugam captis oppidis reprimi
**(すなわち)<ruby><rb>城塞都市</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>が占領されても、敵の逃亡が阻まれないし、
*neque iis noceri posse,
**彼ら<span style="color:#009900;">〔ウェネティー族〕</span>に損害が与えられることも不可能である<u>と知るや否や</u>、
*statuit exspectandam classem.
**[[w:ローマ海軍|艦隊]]<span style="color:#009900;">(の到着)</span>を待つことを決意した。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:ローマの軍船がリゲル川〔[[w:ロワール川|ロワール川]]〕で建造されていることが[[#9節|9節]]で述べられた。)</span>
<br>
; ローマ艦隊が来航すると、約220隻のウェネティー船団が迎え撃とうとする
*Quae ubi convenit ac primum ab hostibus visa est,
**それ<span style="color:#009900;">〔ローマ艦隊〕</span>が集結して敵方により目撃されるや否や、
*circiter CCXX(ducentae viginti) naves eorum paratissimae
**約220隻の彼ら<span style="color:#009900;">〔ウェネティー族〕</span>の船団が準備万端を整え、
*atque omni genere armorum ornatissimae
**あらゆる種類の武器で完全武装された状態で
*ex portu profectae nostris adversae [[wikt:en:consisto#Latin|constiterunt]];
**港から出航して、我が方<span style="color:#009900;">〔ローマ艦隊〕</span>と向かい合って停止した。
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Bataille Morbihan -56.png|thumb|right|600px|[[w:紀元前56年|BC56年]]に現在の[[w:モルビアン県|モルビアン県]]沿いの[[w:キブロン湾|キブロン湾]]で戦われたと考えられている、[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]と[[w:デキムス・ユニウス・ブルトゥス・アルビヌス|D. ブルートゥス]]率いる艦隊との海戦、いわゆる「[[w:モルビアン湾の海戦|モルビアン湾の海戦]]」の海戦図。<hr>上図の説では、<span style="color:green;">ウェネティー族の帆船(緑色/約220隻)</span>と<span style="color:red;">ブルートゥス率いるローマのガレー船(赤色/約100隻)</span>が[[w:キブロン湾|キブロン湾]]で対峙し、<span style="color:red;">カエサルと1個軍団(赤色)</span>が沿岸を占領している。]]
|}
</div>
*neque satis [[wikt:en:Brutus#Latin|Bruto]], qui classi praeerat,
**艦隊を統率していた[[w:デキムス・ユニウス・ブルトゥス・アルビヌス|ブルートゥス]]には十分(明らか)ではなかった。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:デキムス・ブルートゥス [[w:la:Decimus Iunius Brutus Albinus|Decimus Brutus]] に艦隊を指揮させることが[[#11節|11節]]で述べられた。)</span>
*vel tribunis militum centurionibusque, quibus singulae naves erant attributae,
**あるいは、個々の船が割り当てられていた <ruby><rb>[[w:トリブヌス・ミリトゥム|兵士長官]]</rb><rp>(</rp><rt>トリブヌス・ミリトゥム</rt><rp>)</rp></ruby> や <ruby><rb>[[w:ケントゥリオ|百人隊長]]</rb><rp>(</rp><rt>ケントゥリオー</rt><rp>)</rp></ruby> にとってさえも、
*constabat quid agerent aut quam rationem pugnae insisterent.
**何をすべきなのか、どのような戦法に取り掛かるべきなのか、明らかではなかった。
*[[wikt:en:rostrum#Latin|Rostro]] enim noceri non posse cognoverant;
**なぜなら、<ruby><rb>[[w:衝角|衝 角]]</rb><rp>(</rp><rt>ローストルム</rt><rp>)</rp></ruby>にとって<span style="color:#009900;">(敵船に)</span>損害を与えることができないことを知っていたからだ。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:[[#13節|前節]]で、ウェネティー族の船体が頑丈であるため、と述べられた。)</span>
*turribus autem excitatis tamen has altitudo [[wikt:en:puppis#Latin|puppium]] ex barbaris navibus superabat,
**他方で、[[w:櫓|櫓]]が築かれたにもかかわらず、蛮族の船の <ruby><rb>[[w:船尾|船尾]]</rb><rp>(</rp><rt>プッピス</rt><rp>)</rp></ruby> の高さがそれら(の高さ)を上回っていた。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:ローマの軍船の甲板上には、投槍などの飛道具を投げるために櫓が設けられていた。)</span>
*ut neque ex inferiore loco satis commode [[wikt:en:telum#Latin|tela]] adigi possent
**その結果、より低い場所から十分に具合良く<span style="color:#009900;">(敵船に)</span><ruby><rb>[[w:飛び道具|飛道具]]</rb><rp>(</rp><rt>テールム</rt><rp>)</rp></ruby>が投げ込まれることは不可能で、
*et missa a Gallis gravius acciderent.
**ガッリア人により放られたものがより激しく降ってきていた。
<br>
; ローマ艦隊の切り札
*Una erat magno usui res praeparata a nostris,
**ただ一つの大いに役立つ物が、我が方<span style="color:#009900;">〔ローマ艦隊〕</span>によって準備されていた。
*[[wikt:en:falx#Latin|falces]] praeacutae insertae adfixaeque [[wikt:en:longurius#Latin|longuriis]],
**<span style="color:#009900;">(それは)</span>先の尖った[[w:鎌|鎌]]が <ruby><rb>長い竿</rb><rp>(</rp><rt>ロングリウス</rt><rp>)</rp></ruby> に挿入されて固定されたもので、
*non absimili forma muralium falcium.
**<ruby><rb><span style="color:#009900;">(攻城用の)</span>破城の鎌</rb><rp>(</rp><rt>ファルクス・ムーラーリス</rt><rp>)</rp></ruby> に形が似ていなくもない。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:「破城の鎌」'''[[古代ローマの攻城兵器#falx_muralis_(siege_hook)|falx muralis]]''' に似たもので、'''[[ガイウス・ユリウス・カエサルの著作/古代ローマの攻城兵器#falx_navalis|falx navalis]]''' とも呼ばれている。)</span>
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Caesar's Gallic war; (Allen and Greenough's ed.) (1898) (14778300381)(cropped).jpg|thumb|right|300px|破城鎌の復元画の例]]
|[[画像:Ulysse bateau.jpg|thumb|right|320px|帆柱・帆桁や帆・綱具などが描かれたローマ時代の[[w:モザイク|モザイク画]]<ref>[[w:en:Roman mosaic]]</ref>《[[w:オデュッセウス|オデュッセウス]]と[[w:セイレーン|セイレーン]]》<br>([[w:チュニス|チュニス]]の[[w:バルド国立博物館|バルド国立博物館]])]]
|}
</div>
*His cum [[wikt:en:funis#Latin|funes]] qui [[wikt:en:antemna#Latin|antemnas]] ad [[wikt:en:malus#Etymology_3_2|malos]] destinabant, comprehensi adductique erant,
**これによって、<ruby><rb>帆 桁</rb><rp>(</rp><rt>アンテムナ</rt><rp>)</rp></ruby> を <ruby><rb>[[w:マスト|帆 柱]]</rb><rp>(</rp><rt>マールス</rt><rp>)</rp></ruby> に縛り付けていた <ruby><rb>綱具</rb><rp>(</rp><rt>フーニス</rt><rp>)</rp></ruby> が捕捉されて引っ張られた状態で、
*navigio remis incitato praerumpebantur.
**<ruby><rb>艦艇</rb><rp>(</rp><rt>ナーウィギウム</rt><rp>)</rp></ruby>が[[w:櫂|櫂]]によってすばやく推進されると、<span style="color:#009900;">(綱具が)</span>引き裂かれていた。
*Quibus abscisis antemnae necessario concidebant,
**それら<span style="color:#009900;">〔綱具〕</span>が切断されると、<ruby><rb>帆 桁</rb><rp>(</rp><rt>アンテムナ</rt><rp>)</rp></ruby> は必然的に倒れてしまっていた。
*ut, cum omnis Gallicis navibus spes in velis armamentisque consisteret,
**その結果、ガッリア人の船団にとって、すべての期待は帆と索具に依拠していたので、
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:en:armamentum#Latin|armamentum]] (英 ''[[wikt:en:rigging#English|rigging]]'')⇒「索具」:[[w:帆|帆]]と[[w:マスト|帆柱]]を支える綱や器具など。)</span>
*his ereptis omnis usus navium uno tempore eriperetur.
**これらが引き裂かれると、船のすべての運用能力も<ruby><rb>一時</rb><rp>(</rp><rt>いちどき</rt><rp>)</rp></ruby>に奪い取られていた。
*Reliquum erat certamen positum in virtute,
**残りの争闘は、武勇いかんに<ruby><rb>懸</rb><rp>(</rp><rt>か</rt><rp>)</rp></ruby>かっており、
*qua nostri milites facile superabant,
**その点では我が方<span style="color:#009900;">〔ローマ勢〕</span>の兵士たちが容易に上回っていた。
<br>
; 沿岸はカエサルとローマ軍によって占領されていた
*atque eo magis quod in conspectu Caesaris atque omnis exercitus res gerebatur,
**海戦がカエサルと全陸軍の眼前において遂行されていたので、それだけますます
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:en:classis#Latin|classis]] が艦隊(海軍)を指すのに対して、[[wikt:en:exercitus#Noun|exercitus]] は重装歩兵を主体とする陸軍部隊を指す。)</span>
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:en:eo#Etymology_3_2|eo]] [[wikt:en:magis#Latin|magis]] [[wikt:en:quod#Latin|quod]] ~ 「~だけ、ますます」)</span>
*ut nullum paulo fortius factum latere posset;
**(普通より)より少し勇敢ならどんな行動も知らずにはおかないほどであった。
*omnes enim colles ac loca superiora, unde erat propinquus despectus in mare, ab exercitu tenebantur.
**なぜなら、そこから海への眺望が近いところのすべての丘や高地は、<span style="color:#009900;">(ローマ人の)</span>軍隊によって占領されていたのである。
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===15節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/15節]] {{進捗|00%|2022-07-28}}</span>
'''接舷戦でローマ艦隊がウェネティー船団を圧倒し、わずかな船だけが逃げ帰る'''
*Deiectis, ut diximus, antemnis,
**上述したように<ruby><rb>帆 桁</rb><rp>(</rp><rt>アンテムナ</rt><rp>)</rp></ruby>がぶっ倒れて、
*cum singulas binae ac ternae naves circumsteterant,
**<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の)</span>船1隻ずつを<span style="color:#009900;">(ローマの)</span>2隻ずつや3隻ずつが取り囲んでいたときに、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:ローマの[[w:ガレー船|ガレー船]]は、多数の漕ぎ手を乗せるため、兵士を大勢乗せることができなかった。<br> それゆえ、[[w:移乗攻撃|接舷戦]]では、敵の1隻に対して多くの船を当てる必要があったであろう。)</span>
*milites summa vi transcendere in hostium naves contendebant.
**<span style="color:#009900;">(ローマの)</span>兵士たちは最高の力で敵の船団に乗り移ることに努めていた。
*Quod postquam barbari fieri animadverterunt,
**そのことが行なわれていることに蛮族たちが気付いた後で、
*expugnatis compluribus navibus,
**かなり多くの<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の)</span>船が攻略されて、
*cum ei rei nullum reperiretur auxilium,
**その戦況に対して何ら助けを見出せなかったので、
*fuga salutem petere contenderunt.
**逃亡に身の安全を求めることに努めた。
*Ac iam conversis in eam partem navibus quo ventus ferebat,
**すでに風が運んでいた方角へ船団の向きが変えられていたが、
*tanta subito malacia ac tranquillitas exstitit,
**突如としてあれほどの<ruby><rb>[[w:凪|凪]]</rb><rp>(</rp><rt>なぎ</rt><rp>)</rp></ruby>や静けさが生じたので、
*ut se ex loco movere non possent.
**<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の船団が)</span>その場所から動くことができないほどであった。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:この[[w:ビスケー湾|ビスケー湾]]海域は、風や潮の勢いが強いため、<br> ウェネティー族は漕ぎ手を使わない帆船を用いていたのだろう。<br> 風力のみに頼る帆船は、無風時には進むことができない。)</span>
*Quae quidem res ad negotium conficiendum maximae fuit oportunitati:
**このような事態はまさに<span style="color:#009900;">(ローマ艦隊が)</span>軍務を遂行するために最大の機会であった。
*nam singulas nostri consectati expugnaverunt,
**実際、<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の船)</span>1隻ずつを我が方<span style="color:#009900;">(ローマ艦隊)</span>が追跡して攻略したので、
*ut perpaucae ex omni numero noctis interventu ad terram pervenirent,
**その結果<span style="color:#009900;">(ウェネティー族の船の)</span>総数のうちごく少数が、夜のとばりに包まれて、陸地に達しただけであった。
*cum ab hora fere IIII.(quarta) usque ad solis occasum pugnaretur.
**<span style="color:#009900;">(海戦が)</span>ほぼ第四時から日が没するまで戦われていたけれども。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:第四時は、[[古代ローマの不定時法#昼間の時間|古代ローマの不定時法]]で日の出から3~4時間後。<br> フランスの6月頃なら、日の出が午前6時頃で、第四時は午前10時近くと思われる。<br> 6月頃なら、日の入は午後10時近くとかなり遅い。)</span>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
-->
===16節===
*<span style="background-color:#ffd;">[[/注解/16節]] {{進捗|00%|2022-08-19}}</span>
'''ウェネティー族らがカエサルに降伏するが、・・・'''
*Quo proelio bellum [[wikt:en:Veneti#Latin|Venetorum]] totiusque orae maritimae confectum est.
**以上の戦闘で、[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]およびすべての沿海部との戦争が完遂された。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:正確には、[[#17節|次節]]以降でウネッリー族ら残りの沿海部族との戦いが述べられるので「すべて」ではない。)</span>
*Nam <u>cum</u> omnis iuventus, omnes etiam gravioris aetatis,
**なぜなら、すべての青年とすべての年嵩の者さえも、
*in quibus aliquid consilii aut dignitatis fuit eo convenerant,
**何らかの分別や地位のあった者たちは、そこ<span style="color:#009900;">(戦場)</span>へ集まっていたから。
*<u>tum</u> navium quod ubique fuerat in unum locum coegerant;
**<u>そればかりか</u>、至る所にあった船<u>もまた</u>一つの場所に集められていたからだ。
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:[[wikt:en:cum#Usage_notes_2|cum]] ~ [[wikt:en:tum#Latin|tum]] 「~のみならず、・・・もまた」<ref>[https://www.latin-is-simple.com/en/vocabulary/other/2643/ cum … tum - Latin is Simple Online Dictionary] 等を参照。</ref>)</span>
*quibus amissis reliqui
**それらを喪失して、残された者たちは、
*neque quo se reciperent
**どこへ退却するべきなのかも、
*neque [[wikt:en:quemadmodum#Latin|quem ad modum]] oppida defenderent habebant.
**どのような方法で<ruby><rb>[[w:オッピドゥム|城塞都市]]</rb><rp>(</rp><rt>オッピドゥム</rt><rp>)</rp></ruby>を防衛するべきなのかも、わからなかった。
<br>
; ウェネティー族らが降伏する
*Itaque se suaque omnia Caesari dediderunt.
**こうして、<span style="color:#009900;">(ウェネティー族らは)</span>自らとその一切合財をカエサルに委ねた<span style="color:#009900;">〔降伏した〕</span>。
*In quos eo gravius Caesar vindicandum statuit
**これらの者たちに、より厳重に処罰されるべきである、とカエサルは決定した。
*quo diligentius in reliquum tempus a barbaris ius legatorum conservaretur.
**そのことによって、今後、蛮族により<span style="color:#009900;">(ローマの)</span>使節たちの権利をいっそう保たせるように。
*Itaque omni senatu necato
**こうして、評議会の全員が誅殺されると、
**:<span style="color:#009900;">(訳注:部族国家の合議制統治機関もローマの元老院に倣って [[wikt:en:senatus#Latin|senātus]] と呼ばれるが、ここでは「評議会」と訳す。[[ガリア戦記_第2巻#5節|第2巻5節]]・[[ガリア戦記_第2巻#28節|28節]]を参照。)</span>
*reliquos sub corona vendidit.
**残りの者たちに葉冠をかぶせて<span style="color:#009900;">〔奴隷として競売で〕</span>売却した。
**:<span style="color:#009900;">(訳注:sub corona vendere 「葉冠のもとに売る=奴隷として競売で売る」)</span>
<div style="text-align:center">
{|
|-
|[[画像:Jean-Léon Gérôme 004 (cropped).jpg|thumb|right|300px|葉冠を頭にかぶせられ、ローマの[[w:奴隷貿易|奴隷市場]]で競売に懸けられる女性奴隷。<hr>フランスの画家[[w:ジャン=レオン・ジェローム|ジャン=レオン・ジェローム]]が1884年に描いた歴史画「ローマの奴隷売却」(''[[w:fr:Vente d'esclaves à Rome|Vente d'esclaves à Rome]]'')の一部分。]]
|}
</div>
<!--
**:<span style="color:#009900;">(訳注:
**:<span style="color:#009900;font-family:Times New Roman;">(訳注:
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==大西洋岸ウネッリ族の造反==
===17節===
[[画像:Campagne Unelles -56.png|thumb|right|200px|ウネッリ族・レクソウィイ族への遠征経路。]]
'''ウネッリ族の反乱とサビヌスの作戦'''
*Dum haec in Venetis geruntur,
**以上のことが[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]](の領国)で行なわれていた間に、
*Q. Titurius Sabinus cum iis copiis, quas a Caesare acceperat
**[[w:クィントゥス・ティトゥリウス・サビヌス|クィントゥス・ティトゥリウス・サビヌス]]は、カエサルから受け取った軍勢とともに
*in fines Unellorum{Venellorum} pervenit.
**[[w:ウネッリ族|ウネッリ族]]の領土に到着した。
*His praeerat Viridovix ac summam imperii tenebat earum omnium civitatum, quae defecerant,
**彼ら(ウネッリ族)を指揮していたのは[[w:ウィリドウィクス|ウィリドウィクス]]で、背反した全部族の最高指揮権を保持していた。
*ex quibus exercitum [magnasque copias] coegerat;
**(彼は)これら(の部族)から大軍勢を徴集した。
*atque his paucis diebus Aulerci Eburovices Lexoviique,
**それから数日内に、[[w:アウレルキ族|アウレルキ族]]、[[w:エブロウィケス族|エブロウィケス族]]と[[w:レクソウィー族|レクソウィイ族]]は、
*senatu suo interfecto, quod auctores belli esse nolebant,
**自分たちの長老たちを、戦争の首謀者になることを欲しなかったという理由で殺害し、
*portas clauserunt seseque cum Viridovice coniunxerunt;
**(城市の)門を閉じて、彼らはウィリドウィクスと結託した。
*magnaque praeterea multitudo undique ex Gallia perditorum hominum latronumque convenerat,
**そのうえにガリアの至る所から大勢の無頼漢や略奪者が集まっていた。
*quos spes praedandi studiumque bellandi ab agri cultura et cotidiano labore revocabat.
**これらの者たちを、略奪への期待と戦争への熱望が、農耕や毎日の仕事から呼び戻したのだ。
*Sabinus idoneo omnibus rebus loco castris se tenebat,
**サビヌスはすべての事柄において適切な場所で、陣営を保持した。
*cum Viridovix contra eum duorum milium spatio consedisset
**ウィリドウィクスは彼に対抗して2[[w:ローママイル|ローママイル]](約3km)の間隔で陣取って、
*cotidieque productis copiis pugnandi potestatem faceret,
**毎日、軍勢を連れ出して戦闘の機会を作った。
*ut iam non solum hostibus in contemptionem Sabinus veniret,
**その結果ついに、敵からサビヌスが軽蔑されるに至ったのみならず、
*sed etiam nostrorum militum vocibus nonnihil carperetur;
**我が方(ローマ)の兵士からも若干の者が声に出して嘲弄するに至った。
*tantamque opinionem timoris praebuit,
**これほどの恐れの評判を呈したので、
*ut iam ad vallum castrorum hostes accedere auderent.
**ついに陣営の堡塁のところにまで敵が敢えて近づいて来るほどであった。
*Id ea de causa faciebat
**(サビヌスは)以上のことを以下の理由でしたのである。
*quod cum tanta multitudine hostium,
**というのも、このような大がかりな敵とともに、
*praesertim eo absente qui summam imperii teneret,
**とりわけ、(ローマ側の)最高指揮権を保持する者(=カエサル)がおらずに、
*nisi aequo loco aut opportunitate aliqua data
**有利な場所か何らかの機会が与えられなければ、
*legato dimicandum non existimabat.
**総督副官([[w:レガトゥス|レガトゥス]])にとって戦うべきとは考えなかったのである。
===18節===
'''サビヌスの計略'''
*Hac confirmata opinione timoris
**このような恐れの評判が強められて、
*idoneum quendam hominem et callidum delegit Gallum,
**(サビヌスは)適切で明敏なガリア人のある男を選び出した。
*ex iis quos auxilii causa secum habebat.
**支援軍([[w:アウクシリア|アウクシリア]])のために保持していた者たちの内から。
*Huic magnis praemiis pollicitationibusque persuadet uti ad hostes transeat,
**この者を、多大なほうびを約束して、敵側に渡るように説得して、
*et quid fieri velit edocet.
**(サビヌスが)なされんと欲することを説き教えた。
*Qui ubi pro perfuga ad eos venit, timorem Romanorum proponit,
**その者は、逃亡兵として彼ら(ウネッリ族)のところへ来るや否や、ローマ人の恐れを申し述べた。
*quibus angustiis ipse Caesar a Venetis prematur docet,
**いかなる困窮で、カエサル自身が[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]により苦戦させられているかを教えた。
*neque longius abesse, quin proxima nocte
**遠からず、明晩には
*Sabinus clam ex castris exercitum educat
**サビヌスはひそかに陣営から軍隊を導き出して、
*et ad Caesarem auxilii ferendi causa proficiscatur.
**カエサルのところへ支援をもたらすために出発するであろう(とその男は教えた)。
*Quod ubi auditum est, conclamant
**このことが聞かれるや否や、(ウネッリ族の者たちは)叫び声を上げて、
*omnes occasionem negotii bene gerendi amittendam non esse: ad castra iri oportere.
**うまく仕事をするすべての機会を失うべきではない、(ローマの)陣営へ行かねばならぬ(と叫んだ)。
*Multae res ad hoc consilium Gallos hortabantur:
**多くの事柄が、この計画へとガリア人を励ました。
**(それらの事柄とは、以下のことである。)
*superiorum dierum Sabini cunctatio,
**最近の日々のサビヌスのためらい、
*perfugae confirmatio,
**脱走兵の確証、
*inopia cibariorum, cui rei parum diligenter ab iis erat provisum,
**彼ら(ガリア人)によって充分に入念に調達されなかった糧食の欠乏、
*spes Venetici belli,
**[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]の戦争への希望、
*et quod fere libenter homines id quod volunt credunt.
**というのも、たいてい人間は(自分が)欲することを喜んで信ずるからである。
*His rebus adducti non prius Viridovicem reliquosque duces ex concilio dimittunt,
**これらの事態に引かれて、(ウネッリ族は)ウィリドウィクスや他の指導者を会議から解散させなかった。
*quam ab his sit concessum arma uti capiant et ad castra contendant.
**彼らによって、武器を取って(ローマ)陣営へ急行するように容認されるまでは。
*Qua re concessa laeti, ut explorata victoria,
**この事が容認されて、勝利が得られたかのように喜んで、
*sarmentis virgultisque collectis, quibus fossas Romanorum compleant, ad castra pergunt.
**柴や薮を集めて、これでもってローマ人の堀を埋めるべく、(ローマの)陣営のところへ出発した。
===19節===
'''ウネッリ族らとの決戦'''
*Locus erat castrorum editus et paulatim ab imo acclivis circiter passus mille.
**ローマ陣営の位置は高く、最も下(麓)から緩やかな上り坂で約1000[[w:パッスス|パッスス]](約1.5km)のところにあった。
*Huc magno cursu contenderunt,
ここへ、大いに駆けて急いで、
*ut quam minimum spatii ad se colligendos armandosque Romanis daretur,
**ローマ人にとって集結して武装するための時間ができるだけ与えられないようにして、
*exanimatique pervenerunt.
**息を切らして到着した。
*Sabinus suos hortatus cupientibus signum dat.
**サビヌスは、自分の部下たちを励まして、はやる者たちに合図を与える。
*Impeditis hostibus propter ea quae ferebant onera,
**敵は、彼らが担いでいた重荷のために妨げられていて、
*subito duabus portis eruptionem fieri iubet.
**(サビヌスは)突然に(左右の)二つの門から出撃することを命じた。
*Factum est
**(ut以下のことが)なされた。
*opportunitate loci, hostium inscientia ac defatigatione,
**場所の有利さ、敵の(武具や戦術の)不案内と疲労や、
*virtute militum et superiorum pugnarum exercitatione,
**兵士の武勇とかつての戦闘の熟練によって
*ut ne primum quidem nostrorum impetum ferrent ac statim terga verterent.
**我が方(ローマ)の最初の襲撃さえ持ちこたえることなく、(敵は)すぐに背を向けた。
*Quos impeditos integris viribus milites nostri consecuti
**これらの妨げられている者たちを、健全な力で我が方の兵士たちが追跡して、
*magnum numerum eorum occiderunt;
**彼らの大多数を殺戮した。
*reliquos equites consectati paucos, qui ex fuga evaserant, reliquerunt.
**残りの者たちは、(ローマの)騎兵が追跡したが、逃亡によって逃れたので、見逃した。
*Sic uno tempore et de navali pugna Sabinus et de Sabini victoria Caesar est certior factus,
**このようにして一度に、海戦についてサビヌスが、サビヌスの勝利についてカエサルが、報告を受けて、
*civitatesque omnes se statim Titurio dediderunt.
**(敵の)全部族がすぐにティトゥリウス(・サビヌス)に降伏した。
*Nam ut ad bella suscipienda Gallorum alacer ac promptus est animus,
**こうなったのは、ガリア人は戦争を実行することについては性急で、心は敏捷であるが、
*sic mollis ac minime resistens ad calamitates ferendas mens eorum est.
**と同様に柔弱で、災難に耐えるには彼らの心はあまり抵抗しないためである。
==クラッススのアクィタニア遠征==
===20節===
[[画像:Campagne Aquitains -56.png|thumb|right|200px|クラッススのアウィタニア遠征の経路。]]
'''クラッススのアクィタニア遠征、ソティアテス族'''
*Eodem fere tempore P. Crassus, cum in Aquitaniam pervenisset,
**ほぼ同じ時期に[[w:プブリウス・リキニウス・クラッスス|プブリウス・クラッスス]]が[[w:アクィタニア|アクィタニア]]に達したときに、
*quae pars, ut ante dictum est, et regionum latitudine et multitudine hominum
**この方面は、前述のように、領域の広さと人間の多さで
*ex tertia parte Galliae est aestimanda,
**[[w:ガリア|ガリア]]の第三の部分であると考えられるべきであるが、
*cum intellegeret in illis locis sibi bellum gerendum,
**(クラッススは)かの場所で自らにとって戦争がなされるべきであると考えたので、
*ubi paucis ante annis L. Valerius Praeconinus legatus exercitu pulso interfectus esset
**そこでほんの数年前に[[w:ルキウス・ウァレリウス・プラエコニヌス|ルキウス・ウァレリウス・プラエコニヌス]]総督副官([[w:レガトゥス|レガトゥス]])が軍隊を撃退されて殺害されており、
*atque unde L. Manlius proconsul impedimentis amissis profugisset,
**かつここから[[w:ルキウス・マンリウス・トルクァトゥス|ルキウス・マンリウス]]執政官代理([[w:プロコンスル|プロコンスル]])が輜重を失って敗走しており、
*non mediocrem sibi diligentiam adhibendam intellegebat.
**己にとって尋常ならざる注意深さが適用されるべきだと考えたのだ。
*Itaque re frumentaria provisa, auxiliis equitatuque comparato,
**こうして糧食が調達され、支援軍([[w:アウクシリア|アウクシリア]])や[[w:騎兵|騎兵隊]]が整備され、
*multis praeterea viris fortibus Tolosa et Carcasone et Narbone,
**そのうえ多くの屈強な男たちが、[[w:トロサ|トロサ]]や[[w:カルカソ|カルカソ]]や[[w:ナルボ|ナルボ]]から
*- quae sunt civitates Galliae provinciae finitimae, ex his regionibus-
**<それらは、この地域に隣接する(ローマの)ガリア属州([[w:ガリア・ナルボネンシス|ガリア・トランサルピナ]])の都市であるが、>
*nominatim evocatis, in Sotiatium fines exercitum introduxit.
**名指しで徴集されて、(クラッススは)[[w:ソティアテス族|ソティアテス族]]の領土に軍隊を導き入れた。
*Cuius adventu cognito Sotiates magnis copiis coactis,
**彼(クラッスス)の到着を知ると、ソティアテス族は大軍勢を集めて、
*equitatuque, quo plurimum valebant, in itinere agmen nostrum adorti
**それにより彼らが大いに力があったところの騎兵隊で、行軍中の我が(ローマの)隊列を襲って、
*primum equestre proelium commiserunt,
**はじめに騎兵戦を戦った。
*deinde equitatu suo pulso atque insequentibus nostris
**それから、その(敵の)騎兵隊が撃退され、我が方が追跡したが、
*subito pedestres copias, quas in convalle in insidiis conlocaverant, ostenderunt.
**突然に歩兵の軍勢 <[[w:峡谷|峡谷]]の中で[[w:伏兵|伏兵]]として配置していた者たち> が現われた。
*Iis nostros disiectos adorti proelium renovarunt.
**これらによって追い散らされた我が方(ローマ軍)に襲いかかり、戦いを再び始めた。
===21節===
'''ソティアテス族の敗勢'''
*Pugnatum est diu atque acriter,
**長く激しく戦われた。
*cum Sotiates superioribus victoriis freti
**というのもソティアテス族は、かつての(ローマ軍に対する)勝利を信頼しており、
*in sua virtute totius Aquitaniae salutem positam putarent,
**自分たちの武勇の中に全アクィタニアの安全が立脚していると、みなしていたからだ。
*nostri autem,
**我が方(ローマ軍)はそれに対して
*quid sine imperatore et sine reliquis legionibus adulescentulo duce efficere possent,
**最高司令官([[w:インペラトル|インペラトル]])なし、他の[[w:ローマ軍団|軍団]]もなしに、この若造(クラッスス)が指揮官として何をなしうるかが
*perspici cuperent;
**注視(吟味)されることを欲していたのだ。
*tandem confecti vulneribus hostes terga verterunt.
**ついに傷を負って、敵は背を向けた。
*Quorum magno numero interfecto
**これらの者の大多数を殺戮し、
*Crassus ex itinere oppidum Sotiatium oppugnare coepit.
**クラッススは行軍からただちにソティアテス族の[[w:オッピドゥム|城市]]を攻撃し始めた。
*Quibus fortiter resistentibus vineas turresque egit.
**これらの者たちが勇敢に抵抗したので、(ローマ勢は)工作小屋([[w:ウィネア|ウィネア]])や[[w:櫓|櫓]]を(城の方に)導いた。
*Illi alias eruptione temptata, alias cuniculis ad aggerem vineasque actis
**彼ら(アクィタニア人)は、あるときは突撃を試みて、あるときは[[w:坑道|坑道]]を[[w:土塁|土塁]]や工作小屋のところへ導いた。
*- cuius rei sunt longe peritissimi Aquitani,
**<こういった事柄(坑道の技術)に、アクィタニア人は長らく非常に熟練している。
*propterea quod multis locis apud eos aerariae secturaeque sunt -,
**これは、彼らのもとの多くの場所に[[w:銅山|銅山]]や[[w:採石所|採石所]]があることのためである。>
*ubi diligentia nostrorum nihil his rebus profici posse intellexerunt,
**我が方の注意深さによってこのような事柄によっても何ら得られぬと考えるや否や、
*legatos ad Crassum mittunt, seque in deditionem ut recipiat petunt.
**(ソティアテス族は)使節をクラッススのところへ送って、自分たちを降伏へと受け入れるように求める。
*Qua re impetrata arma tradere iussi faciunt.
**この事が達せられ、武器の引渡しが命じられ、実行された。
===22節===
'''アディアトゥアヌスと従僕たちの突撃'''
*Atque in ea re omnium nostrorum intentis animis
**この事柄に我が方(ローマ勢)の皆が心から没頭しており、
*alia ex parte oppidi Adiatuanus, qui summam imperii tenebat,
**城市の他の方面から、最高指揮権を保持していた[[w:アディアトゥアヌス|アディアトゥアヌス]]が
*cum DC{sescentis} devotis, quos illi{Galli} soldurios appellant,
**ガリア人がソルドゥリイ(従僕)と呼んでいる600名の忠実な者とともに(突撃を試みた)。
'''アディアトゥアヌスの従僕たち'''
*- quorum haec est condicio,
**< これらの者たちの状況は以下の通りであった。
*uti omnibus in vita commodis una cum iis fruantur quorum se amicitiae dediderint,
**人生におけるあらゆる恩恵を、忠心に身を捧げる者たちと一緒に享受する。
*si quid his per vim accidat, aut eundem casum una ferant aut sibi mortem consciscant;
**もし彼らに何か暴力沙汰が起こったら、同じ運命に一緒に耐えるか、自らに死を引き受ける(自殺する)。
*neque adhuc hominum memoria repertus est quisquam qui,
**これまで、次のような人の記憶は見出されていない。
*eo interfecto, cuius se amicitiae devovisset, mortem recusaret -
**忠心に身を捧げる者が殺されても死を拒む(ような者) >
*cum his Adiatuanus eruptionem facere conatus
**これらの者(従僕)とともにアディアトゥアヌスは突撃することを試みた。
'''アディアトゥアヌスの敗退'''
*clamore ab ea parte munitionis sublato
**堡塁のその方面から叫び声が上げられて、
*cum ad arma milites concurrissent vehementerque ibi pugnatum esset,
**武器のところへ(ローマの)兵士たちが急ぎ集まった後に、そこで激しく戦われた。
*repulsus in oppidum
**(アディアトゥアヌスたちは)城市の中に撃退され、
*tamen uti eadem deditionis condicione uteretur a Crasso impetravit.
**しかし(前と)同じ降伏条件を用いるように、クラッススを説得した。
===23節===
'''ウォカテス族・タルサテス族対クラッスス'''
*Armis obsidibusque acceptis, Crassus in fines Vocatium et Tarusatium profectus est.
**武器と人質を受け取って、クラッススは[[w:ウォカテス族|ウォカテス族]]と[[w:タルサテス族|タルサテス族]]の領土に出発した。
*Tum vero barbari commoti,
**そのとき確かに蛮族たちは動揺させられて、
*quod oppidum et natura loci et manu munitum
**というのも、地勢と部隊で防備された(ソティアテス族の)城市が
*paucis diebus quibus eo ventum erat, expugnatum cognoverant,
**(ローマ人が)そこへ来てからわずかな日数で攻め落とされたことを知っていたためであるが、
*legatos quoque versus dimittere,
**使節たちをあらゆる方面に向けて送り出し、
*coniurare, obsides inter se dare, copias parare coeperunt.
**共謀して、互いに人質を与え合って、軍勢を準備し始めた。
*Mittuntur etiam ad eas civitates legati quae sunt citerioris Hispaniae finitimae Aquitaniae:
**アクィタニアに隣接する[[w:上ヒスパニア|上ヒスパニア]]([[w:en:Hispania Citerior|Hispania Citerior]])にいる部族たちにさえ、使節が派遣された。
[[画像:Hispania_1a_division_provincial.PNG|thumb|250px|right|BC197年頃のヒスパニア。オレンジ色の地域が当時の上ヒスパニア]]
[[画像:Ethnographic Iberia 200 BCE.PNG|thumb|right|250px|BC200年頃のイベリア半島の民族分布。朱色の部分に[[w:アクィタニア人|アクィタニア人]]の諸部族が居住していた。]]
*inde auxilia ducesque arcessuntur.
**そこから援兵と指揮官が呼び寄せられた。
*Quorum adventu
**これらの者が到着して、
*magna cum auctoritate et magna [cum] hominum multitudine
**大きな権威と大勢の人間とともに、
*bellum gerere conantur.
**戦争遂行を企てた。
*Duces vero ii deliguntur
**指揮官には確かに(以下の者たちが)選ばれた。
*qui una cum Q. Sertorio omnes annos fuerant
**皆が多年の間、[[w:クィントゥス・セルトリウス|クィントゥス・セルトリウス]]([[w:la:Quintus Sertorius|Quintus Sertorius]])と一緒にいて、
*summamque scientiam rei militaris habere existimabantur.
**軍事の最高の知識を有すると考えられていた(者たちである)。
**(訳注:セルトリウスは、[[w:ルキウス・コルネリウス・スッラ|スッラ]]の独裁に抵抗したローマ人の武将である。[[w:ヒスパニア|ヒスパニア]]の住民にローマ軍の戦術を教えて共和政ローマに対して反乱を起こしたが、[[w:グナエウス・ポンペイウス|ポンペイウス]]によって鎮圧された。)
*Hi consuetudine populi Romani loca capere,
**これらの者たちは、ローマ人民の習慣によって、場所を占領し、
*castra munire,
**[[w:カストラ|陣営]]を防壁で守り、
*commeatibus nostros intercludere instituunt.
**我が方(ローマ勢)の物資をさえぎることに決めたのだ。
*Quod ubi Crassus animadvertit,
**クラッススは(以下の諸事情に)気づくや否や、(すなわち)
*suas copias propter exiguitatem non facile diduci,
**己の軍勢が寡兵であるために、展開するのが容易でないこと、
*hostem et vagari et vias obsidere et castris satis praesidii relinquere,
**敵はうろつき回って道を遮断して、陣営に十分な守備兵を残していること、
*ob eam causam minus commode frumentum commeatumque sibi supportari,
**その理由のために糧食や軍需品を都合良く自陣に持ち運べていないこと、
*in dies hostium numerum augeri,
**日々に敵の数が増していること、(これらの諸事情に気づいたので)
*non cunctandum existimavit quin pugna decertaret.
**(クラッススは)戦闘で雌雄を決することをためらうべきではないと考えたのだ。
*Hac re ad consilium delata, ubi omnes idem sentire intellexit,
**この事が会議に報告されて、皆が同じく考えていることを知るや否や、
*posterum diem pugnae constituit.
**戦闘を翌日に決めた。
===24節===
'''両軍の開戦準備'''
*Prima luce productis omnibus copiis,
**(クラッススは)夜明けに全軍勢を連れ出して、
*duplici acie instituta,
**二重の戦列を整列し、
*auxiliis in mediam aciem coniectis,
**支援軍([[w:アウクシリア|アウクシリア]])を戦列の中央部に集結し、
*quid hostes consilii caperent exspectabat.
**敵がいかなる計略をとるのかを待った。
*Illi,
**彼ら(アクィタニア人)は、
*etsi propter multitudinem et veterem belli gloriam paucitatemque nostrorum se tuto dimicaturos existimabant,
**(自らの)多勢、昔の戦争の名誉、我が方(ローマ勢)の寡勢のために、安全に闘えると考えたにも拘らず、
*tamen tutius esse arbitrabantur obsessis viis commeatu intercluso sine ullo vulnere victoria potiri,
**それでもより安全と思われるのは、道を包囲して[[w:兵站|兵站]]を遮断し、何ら傷なしに勝利をものにすることであり、
*et si propter inopiam rei frumentariae Romani se recipere coepissent,
**もし糧食の欠乏のためにローマ人が退却し始めたならば、
*impeditos in agmine et sub sarcinis infirmiores
**(ローマ人が)隊列において[[w:背嚢|背嚢]]を背負って妨げられて臆病になっているところを、
*aequo animo adoriri cogitabant.
**平常心をもって襲いかかれると考えたのだ。
*Hoc consilio probato ab ducibus, productis Romanorum copiis, sese castris tenebant.
**この計略が指揮官により承認されて、ローマ人の軍勢が進撃しても、彼らは陣営に留まった。
*Hac re perspecta Crassus,
**この事を見通してクラッススは、
*cum sua cunctatione atque opinione timidiores hostes
**(敵)自身のためらいや、評判より臆病な敵が
*nostros milites alacriores ad pugnandum effecissent
**我が方(ローマ)の兵士たちを戦うことにおいてやる気にさせたので、
*atque omnium voces audirentur exspectari diutius non oportere quin ad castra iretur,
**かつ(敵の)陣営へ向かうことをこれ以上待つべきではないという皆の声が聞かれたので、
*cohortatus suos omnibus cupientibus ad hostium castra contendit.
**部下を励まして、(戦いを)欲する皆で、敵の陣営へ急行した。
===25節===
'''クラッスス、敵陣へ攻めかかる'''
*Ibi cum alii fossas complerent, alii multis telis coniectis
**そこで、ある者は堀を埋め、ある者は多くの飛道具を投げて、
*defensores vallo munitionibusque depellerent,
**守備兵たちを[[w:防柵|防柵]]や[[w:防壁|防壁]]から駆逐した。
*auxiliaresque, quibus ad pugnam non multum Crassus confidebat,
**[[w:アウクシリア|支援軍]]の者たちといえば、クラッススは彼らの戦いを大して信頼していなかったが、
*lapidibus telisque subministrandis et ad aggerem caespitibus comportandis
**石や飛道具を供給したり、[[w:土塁|土塁]]のために[[w:芝|芝草]]を運んだり、
*speciem atque opinionem pugnantium praeberent,
**戦っている様子や印象を示した。
*cum item ab hostibus constanter ac non timide pugnaretur
**敵もまたしっかりと臆せずに戦って、
*telaque ex loco superiore missa non frustra acciderent,
**より高い所から放られた飛道具は無駄なく落ちてきたので、
*equites circumitis hostium castris Crasso renuntiaverunt
**[[w:騎兵|騎兵]]は、敵の陣営を巡察してクラッススに報告した。
*non eadem esse diligentia ab decumana porta castra munita
**(敵の)陣営の後門(porta decumana)は(他の部分と)同じほどの入念さで防備されておらず、
*facilemque aditum habere.
**容易に接近できると。
===26節===
'''クラッスス、総攻撃をかける'''
*Crassus equitum praefectos cohortatus,
**クラッススは[[w:騎兵|騎兵]]の指揮官たちに促した。
*ut magnis praemiis pollicitationibusque suos excitarent, quid fieri velit ostendit.
**大きな恩賞の約束で部下たちを駆り立てて、何がなされることを欲しているかを示すようにと。
*Illi, ut erat imperatum,
**この者らは命じられたように、
*eductis iis cohortibus quae praesidio castris relictae intritae ab labore erant,
**守備兵として陣営に残されていて、働きによって疲弊していなかった歩兵大隊([[w:コホルス|コホルス]])を連れ出して、
*et longiore itinere circumductis, ne ex hostium castris conspici possent,
**敵の陣営から視認できないように、遠回りの道程をめぐらせて、
*omnium oculis mentibusque ad pugnam intentis
**(彼我の)皆の目と意識が戦闘に没頭している間に
*celeriter ad eas quas diximus munitiones pervenerunt atque his prorutis
**速やかに前述した(後門の)防壁に至って、それを崩壊させて、
*prius in hostium castris constiterunt,
**敵の陣営に拠点を築いた。
*quam plane ab his videri aut quid rei gereretur cognosci posset.
**彼ら(敵)によりまったく見られ、あるいはいかなる事が遂行されているかを知られるよりも早くのことだった。
*Tum vero clamore ab ea parte audito
**そのときまさにこの方面から雄叫びが聞こえて、
*nostri redintegratis viribus,
**我が方(ローマ勢)は活力を回復し、
*quod plerumque in spe victoriae accidere consuevit,
**勝利の希望の中にたいてい起こるのが常であったように
*acrius impugnare coeperunt.
**より激烈に攻め立て始めたのであった。
*Hostes undique circumventi desperatis omnibus rebus
**敵は至る所から攻囲されて、すべての事態に絶望し、
*se per munitiones deicere et fuga salutem petere intenderunt.
**壁を越えて飛び降りて、逃亡によって身の安全を求めることに懸命になった。
*Quos equitatus apertissimis campis consectatus
**この者たちを(ローマの)騎兵隊が非常に開けた平原で追撃し、
*ex milium L{quinquaginta} numero, quae ex Aquitania Cantabrisque convenisse constabat,
**[[w:アクィタニア|アクィタニア]]と[[w:カンタブリ族|カンタブリ族]]([[w:en:Cantabri|Cantabri]])から集まっていた(敵の総勢の)数は5万名が確認されたが、
*vix quarta parte relicta,
**やっとその四分の一が生き残り、
*multa nocte se in castra recepit.
**夜も更けて(ローマ勢は)陣営に退却した。
===27節===
'''アクィタニア諸部族の降伏'''
*Hac audita pugna
**この戦闘(の勝敗)を聞いて、
*maxima pars Aquitaniae sese Crasso dedidit obsidesque ultro misit;
**[[w:アクィタニア人|アクィタニア人]]の大部分がクラッススに降伏して、すすんで[[w:人質|人質]]を送った。
*quo in numero fuerunt
**その数の中には以下の部族がいた。
*Tarbelli, Bigerriones, Ptianii, Vocates, Tarusates, Elusates,
**[[w:タルベッリ族|タルベッリ族]]、[[w:ビゲッリオネス族|ビゲッリオネス族]]、[[w:プティアニー族|プティアニイ族]]、[[w:ウォカテス族|ウォカテス族]]、[[w:タルサテス族|タルサテス族]]、[[w:エルサテス族|エルサテス族]]、
*Gates, Ausci, Garunni, Sibulates, Cocosates:
**[[w:ガテス族|ガテス族]]、[[w:アウスキ族|アウスキ族]]、[[w:ガルンニ族|ガルンニ族]]、[[w:シブラテス族|シブラテス族]]、[[w:ココサテス族|ココサテス族]]、である。
*paucae ultimae nationes
**わずかな遠方の部族たちは、
*anni tempore confisae, quod hiems suberat,
**時季を頼りにして、というのも冬が近づいていたためであるが、
*id facere neglexerunt.
**そのこと(降伏と人質)をなおざりにした。
==モリニ族・メナピイ族への遠征==
===28節===
'''カエサル、モリニ族・メナピイ族へ遠征'''
*Eodem fere tempore Caesar,
**(前節までに述べたクラッススのアクィタニア遠征と)ほぼ同じ時期にカエサルは、
*etsi prope exacta iam aestas erat,
**すでに夏はほとんど過ぎ去っていたのであるが、
*tamen quod omni Gallia pacata
**全ガリアが平定されていたにもかかわらず、
*Morini Menapiique supererant,
**[[w:モリニ族|モリニ族]]と[[w:メナピー族|メナピイ族]]は生き残って
*qui in armis essent, neque ad eum umquam legatos de pace misissent,
**武装した状態で、彼(カエサル)のところへ決して和平の使節を派遣しようとしなかったので、
*arbitratus id bellum celeriter confici posse, eo exercitum duxit;
**この戦争は速やかに完遂されると思って、そこへ軍隊を率いて行った。
*qui longe alia ratione ac reliqui Galli bellum gerere instituerunt.
**これら(の部族)は、他のガリア人とはまったく別の方法で戦争遂行することを決めた。
*Nam
**なぜなら
*quod intellegebant maximas nationes, quae proelio contendissent, pulsas superatasque esse,
**というのも、戦闘を戦った非常に多くの部族が撃退され、征服されていることを(彼らは)知っており、
*continentesque silvas ac paludes habebant,
**かつ、絶え間ない[[w:森林|森]]と[[w:沼地|沼地]]を(彼らは)持っていたので
*eo se suaque omnia contulerunt.
**そこへ自分たちとそのすべての物を運び集めたのだ。
*Ad quarum initium silvarum cum Caesar pervenisset castraque munire instituisset
**かかる森の入口のところへカエサルが到着して陣営の防備にとりかかったときに、
*neque hostis interim visus esset,
**敵はその間に現れることはなく、
*dispersis in opere nostris
**工事において分散されている我が方(ローマ勢)を
*subito ex omnibus partibus silvae evolaverunt et in nostros impetum fecerunt.
**突然に(敵が)森のあらゆる方面から飛び出してきて、我が方に襲撃をしかけたのだ。
*Nostri celeriter arma ceperunt
**我が方は速やかに武器を取って
*eosque in silvas reppulerunt et compluribus interfectis
**彼らを森の中に押し戻して、かなり(の敵)を殺傷して
*longius impeditioribus locis secuti
**非常に通りにくい場所を追跡したが、
*paucos ex suis deperdiderunt.
**我が方の部下で損傷を負ったのは少数であった。
===29節===
'''カエサル、むなしく撤兵する'''
*Reliquis deinceps diebus Caesar silvas caedere instituit,
**続いて(冬が近づくまでの)残りの何日かで、カエサルは森を[[w:伐採|伐採]]することに決めた。
*et ne quis inermibus imprudentibusque militibus ab latere impetus fieri posset,
**(これは)非武装で不注意な兵士たちが側面からいかなる襲撃もなされないように(ということであり)、
*omnem eam materiam quae erat caesa conversam ad hostem conlocabat
**伐採されたすべての[[w:木材|材木]]を敵の方へ向きを変えて配置して、
*et pro vallo ad utrumque latus exstruebat.
**[[w:防柵|防柵]]の代わりに両方の側面に築いた。
*Incredibili celeritate magno spatio paucis diebus confecto,
**信じがたいほどの迅速さで大きな空間がわずかな日数で完遂されて、
*cum iam pecus atque extrema impedimenta a nostris tenerentur,
**すでに[[w:家畜|家畜]]や[[w:輜重|輜重]]の最も端が我が方(ローマ軍)により捕捉された。
*ipsi densiores silvas peterent,
**(敵)自身は密生した森を行くし、
*eiusmodi sunt tempestates consecutae, uti opus necessario intermitteretur
**[[w:嵐|嵐]]が続いたので、工事はやむを得ずに中断された。
*et continuatione imbrium diutius sub pellibus milites contineri non possent.
**雨が続いて、これ以上は皮([[w:天幕|天幕]])の下に兵士たちを留めることはできなかった。
*Itaque vastatis omnibus eorum agris, vicis aedificiisque incensis,
**こうして、彼らのすべての畑を荒らして、村々や建物に火をつけて、
*Caesar exercitum reduxit
**カエサルは軍隊を連れ戻して、
*et in Aulercis Lexoviisque, reliquis item civitatibus quae proxime bellum fecerant,
**[[w:アウレルキ族|アウレルキ族]]と[[w:レクソウィー族|レクソウィイ族]]や、他の同様に最近に戦争をしていた部族たちのところに
*in hibernis conlocavit.
**[[w:冬営|冬営]]を設置した。
----
*<span style="background-color:#99ff99;">「ガリア戦記 第3巻」了。「[[ガリア戦記 第4巻]]」へ続く。</span>
==脚注==
<references />
[[Category:ガリア戦記 第3巻|*]]
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ガリア戦記/内容目次
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Linguae
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/* 第3巻 */
wikitext
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[[Category:ガリア戦記|もくし]]
ガリア戦記の章・節の概略を記した目次
{| id="toc" style="align:left;clear:all;" align="left" cellpadding="5"
! style="background:#ccccff; text-align:left;" | ガリア戦記 内容目次
|-
| style="text-align:left; font-size: 0.86em;"|
[[#第1巻|第1巻]] |
[[#第2巻|第2巻]] |
[[#第3巻|第3巻]] |
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[[#第5巻|第5巻]] |
[[#第6巻|第6巻]] |
[[#第7巻|第7巻]] |
[[#第8巻|第8巻]]
|}
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__notoc__
== [[ガリア戦記 第1巻|第1巻]] ==
*<span style="background-color:#ddd;">[[ガリア戦記 第1巻]] ; [[ガリア戦記 第1巻/注解]]</span>
'''[[w:ヘルウェティイ族|ヘルウェティイ族]]との戦役、[[w:アリオウィストゥス|アリオウィストゥス]]率いる[[w:ゲルマニア|ゲルマニア]]人との戦役。'''
== 第2巻 ==
*<span style="background-color:#ddd;">[[ガリア戦記 第2巻]] ; [[ガリア戦記 第2巻/注解]]</span>
;[[w:ベルガエ人|ベルガエ人]]との戦役、大西洋岸の征服
*ベルガエ人同盟との戦役
**[[ガリア戦記 第2巻#1節|01節]] ベルガエ諸部族のローマに対抗する共謀とその理由<!--([[w:ティトゥス・ラビエヌス|ラビエヌス]]の報告)-->
**[[ガリア戦記 第2巻#2節|02節]] カエサルが新たに2個軍団を徴募させ、初夏にベルガエへ向かう
**[[ガリア戦記 第2巻#3節|03節]] レーミー族使節が、カエサルに帰順を表明し、支援を約束する
**[[ガリア戦記 第2巻#4節|04節]] レーミー族使節が、ベルガエ人の出自や兵力について教える
**[[ガリア戦記 第2巻#5節|05節]] カエサルがハエドゥイー族のディーウィキアークスにベッロウァキー族領の劫掠を命じ、<br> さらに[[w:エーヌ川|アクソナ川]]のたもとに背水の陣を敷く
**[[ガリア戦記 第2巻#6節|06節]] レーミー族の城塞都市ビブラクスを、進軍して来たベルガエ勢が攻囲し始める
**[[ガリア戦記 第2巻#7節|07節]] カエサルがビブラクスの救援に分遣隊を派兵するが、<br> ベルガエ勢はカエサルの前に野営する
**[[ガリア戦記 第2巻#8節|08節]] カエサルが騎兵戦の小競り合いでベルガエ勢の強さを探り、陣営の防備を固めて主力を布陣させる
**[[ガリア戦記 第2巻#9節|09節]] ベルガエ勢の別動隊が、ローマ軍の背後の糧道を断とうとして[[w:エーヌ川|アクソナ]]渡河をめざす
**[[ガリア戦記 第2巻#10節|10節]] [[w:アクソナ川の戦い|アクソナ川の戦い]]:ローマ軍の同盟部隊に別動隊を破られ、ベルガエ勢が本土決戦を期す
**[[ガリア戦記 第2巻#11節|11節]] ベルガエ勢の撤退戦:夜通し退却するが、朝から追撃を始めたローマ軍に大勢が打ち取られる
**[[ガリア戦記 第2巻#12節|12節]] カエサルがスエッスィオーネース族の城塞都市ノウィオドゥーヌムを攻め、和議を請われる
**[[ガリア戦記 第2巻#13節|13節]] スエッスィオーネース族の降伏を受け入れる。続いてベッロウァキー族も和議を請い始める
**[[ガリア戦記 第2巻#14節|14節]] ハエドゥイー族のディーウィキアークスが、ベッロウァキー族を弁護
{{Wikipedia|サビス川の戦い|サビス川の戦い}}
*ネルウィイー族らとの戦役(サビス川の戦い)
**[[ガリア戦記 第2巻#15節|15節]] ベッロウァキー族、アンビアーニー族の降伏。[[w:ネルウィイ族|ネルウィイー族]]情報
**[[ガリア戦記 第2巻#16節|16節]] ネルウィイー族らがサビス川岸でカエサルの軍隊を待ち伏せる
**[[ガリア戦記 第2巻#17節|17節]] ネルウィイー族が、諜者を通じてローマ軍の内情を調べ、作戦を練る
**[[ガリア戦記 第2巻#18節|18節]] サビス川を挟んで対峙する両軍の陣営の地形
**[[ガリア戦記 第2巻#19節|19節]] ネルウィイー族らベルガエ勢が、森から出て、全軍を挙げてローマ軍へ殺到([[w:サビス川の戦い|サビス川の戦い]])
**[[ガリア戦記 第2巻#20節|20節]] 急襲されたローマ軍は危機的な状況に陥るが、鍛錬された将兵が規律を示す
**[[ガリア戦記 第2巻#21節|21節]] カエサルが第10軍団を鼓舞。切迫した状況で兵士たちが軍旗のもとに集まる
**[[ガリア戦記 第2巻#22節|22節]] ローマ勢が、不利な戦況において臨機応変に対処することを強いられる
**[[ガリア戦記 第2巻#23節|23節]] ローマ勢が左翼・中央で優勢になるが、ボドゥオーグナートゥス麾下ネルウィイー族がローマ陣営を目指して猛攻をかける
**[[ガリア戦記 第2巻#24節|24節]] ネルウィイー勢の突入によってローマ方の陣営が大混乱に陥り、騎兵・軽装兵・軍属奴隷たちが四散する
**[[ガリア戦記 第2巻#25節|25節]] 苦戦する右翼の第12軍団の将兵が、カエサルの激励に応えて敵勢の猛攻に耐える
**[[ガリア戦記 第2巻#26節|26節]] ローマ勢右翼の第7軍団が頑強に敵に抵抗し、3個軍団が増援に向かう
**[[ガリア戦記 第2巻#27節|27節]] 戦場の潮目が変わって、ローマ勢の士気が高揚するが、ネルウィイー勢も奮戦する
**[[ガリア戦記 第2巻#28節|28節]] ネルウィイー族の降伏
*アトゥアトゥキー族との戦役
**[[ガリア戦記 第2巻#29節|29節]] アトゥアトゥキー族の籠城;その出自とキンブリー・テウトニー戦争の顛末
**[[ガリア戦記 第2巻#30節|30節]] ローマ軍に城塞都市を包囲されたアトゥアトゥキー族が、大声で野次を飛ばす
**[[ガリア戦記 第2巻#31節|31節]] アトゥアトゥキー族の講和条件
**[[ガリア戦記 第2巻#32節|32節]] アトゥアトゥキー族がカエサルの通告を受け入れて、城門を開く
**[[ガリア戦記 第2巻#33節|33節]] アトゥアトゥキー族の夜襲と結末
*ガリア平定とカエサルの凱旋
**[[ガリア戦記 第2巻#34節|34節]] [[w:プブリウス・リキニウス・クラッスス|プーブリウス・クラッスス]]が大西洋岸諸部族([[w:アルモリカ|アルモリカエ]])を帰服させる
**[[ガリア戦記 第2巻#35節|35節]] カエサルの属州帰還と軍団の冬営;前例のない感謝祭
== [[ガリア戦記 第3巻|第3巻]] ==
*<span style="background-color:#ddd;">[[ガリア戦記 第3巻]] ; [[ガリア戦記 第3巻/注解]]</span>
'''[[w:アルプス山脈|アルプス]]での戦い、大西洋岸およびアクィーターニアの平定'''
*アルプス・オクトードゥールスの戦い
**[[ガリア戦記 第3巻#1節|01節]] [[w:セルウィウス・スルピキウス・ガルバ (紀元前54年法務官)|ガルバ]]とローマ第12軍団が、ロダヌス川渓谷のオクトードゥールスにて冬営する
**[[ガリア戦記 第3巻#2節|02節]] ガッリア人が再び挙兵して周囲の高峰を押さえ、第12軍団の冬営地を包囲
**[[ガリア戦記 第3巻#3節|03節]] ガルバが軍議を召集し、策を募る
**[[ガリア戦記 第3巻#4節|04節]] ガッリア勢がガルバの陣営を急襲し、寡兵のローマ勢は劣勢に陥る
**[[ガリア戦記 第3巻#5節|05節]] 最後の土壇場で説得されたガルバが、疲労回復後の突撃に命運を賭ける
**[[ガリア戦記 第3巻#6節|06節]] 第12軍団がガッリア勢を破るが、ガルバはオクトードゥールスでの冬営を断念する
*大西洋岸[[w:ウェネティ族 (ガリア)|ウェネティー族]]の造反
**[[ガリア戦記 第3巻#7節|07節]] 新たな戦争の勃発
**[[ガリア戦記 第3巻#8節|08節]] ウェネティー族らの動き
**[[ガリア戦記 第3巻#9節|09節]] カエサル到着、ウェネティー族らの作戦と開戦準備
**[[ガリア戦記 第3巻#10節|10節]] カエサルの開戦への大義名分
**[[ガリア戦記 第3巻#11節|11節]] ラビエーヌス、クラッスス、サビーヌス、ブルートゥスを前線へ派兵する
**[[ガリア戦記 第3巻#12節|12節]] ウェネティー族の城塞都市の地勢、海洋民の機動性
**[[ガリア戦記 第3巻#13節|13節]] ウェネティー族の帆船の特徴
**[[ガリア戦記 第3巻#14節|14節]] カエサル待望のブルートゥスの艦隊が来航し、ウェネティー族との海戦が始まる
**[[ガリア戦記 第3巻#15節|15節]] 接舷戦でローマ艦隊がウェネティー船団を圧倒し、わずかな船だけが逃げ帰る
**[[ガリア戦記 第3巻#16節|16節]] ウェネティー族らがカエサルに降伏するが、・・・
*大西洋岸ウネッリ族の造反
**[[ガリア戦記 第3巻#17節|17節]] ウネッリ族の反乱と[[w:クィントゥス・ティトゥリウス・サビヌス|サビーヌス]]の作戦
**[[ガリア戦記 第3巻#18節|18節]] サビーヌスの計略
**[[ガリア戦記 第3巻#19節|19節]] ウネッリ族らとの決戦
*[[w:プブリウス・リキニウス・クラッスス|クラッスス]]の[[w:ガリア・アクィタニア|アクィーターニア]]遠征
**[[ガリア戦記 第3巻#20節|20節]] クラッススのアクィーターニア遠征、ソティアテス族
**[[ガリア戦記 第3巻#21節|21節]] ソティアテス族の敗勢
**[[ガリア戦記 第3巻#22節|22節]] アディアトゥアヌスと従僕たちの突撃
**[[ガリア戦記 第3巻#23節|23節]] ウォカテス族・タルサテス族対クラッスス
**[[ガリア戦記 第3巻#24節|24節]] 両軍の開戦準備
**[[ガリア戦記 第3巻#25節|25節]] クラッスス、敵陣へ攻めかかる
**[[ガリア戦記 第3巻#26節|26節]] クラッスス、総攻撃をかける
**[[ガリア戦記 第3巻#27節|27節]] アクィーターニア諸部族の降伏
*モリニー族・メナピイー族への遠征
**[[ガリア戦記 第3巻#28節|28節]] カエサル、モリニ族・メナピイー族へ遠征
**[[ガリア戦記 第3巻#29節|29節]] カエサル、むなしく撤兵する
== [[ガリア戦記 第4巻|第4巻]] ==
'''ゲルマニア人との戦役、ゲルマニアおよびブリタンニアへの遠征'''
*[[w:ゲルマニア|ゲルマニア]]人との戦役
**[[ガリア戦記 第4巻#1節|01節]] [[w:ゲルマニア|ゲルマニア]]情勢、[[w:スエビ族|スエビ族]]について(1)
**[[ガリア戦記 第4巻#2節|02節]] スエビ族について(2)
**[[ガリア戦記 第4巻#3節|03節]] スエビ族(3)、[[w:ウビー族|ウビイ族]]について
**[[ガリア戦記 第4巻#4節|04節]] ゲルマニア人が[[w:メナピー族|メナピイ族]]を襲撃
**[[ガリア戦記 第4巻#5節|05節]] カエサルのガリア人観
**[[ガリア戦記 第4巻#6節|06節]] ガリア人とカエサルの動き
**[[ガリア戦記 第4巻#7節|07節]] ゲルマニア人の使節
**[[ガリア戦記 第4巻#8節|08節]] カエサルの返答
**[[ガリア戦記 第4巻#9節|09節]] カエサルの判断
**[[ガリア戦記 第4巻#10節|10節]] モサ川・レヌス川流域の地理
**[[ガリア戦記 第4巻#11節|11節]] ゲルマニア人とカエサルの駆け引き
**[[ガリア戦記 第4巻#12節|12節]] ゲルマニア騎兵の奇襲、ピソの討死
**[[ガリア戦記 第4巻#13節|13節]] カエサルの反省と決断
**[[ガリア戦記 第4巻#14節|14節]] ローマ軍の急襲
**[[ガリア戦記 第4巻#15節|15節]] 対ゲルマニア人戦役の帰趨
[[画像:Il_ponte_di_Cesare_sul_Reno.jpg |right|thumb|280 px|レヌス川に架けた橋を渡るローマ軍の想像画。]]
[[画像:The_Standard-Bearer_of_the_Tenth_Legion.jpg|thumb|250px|right|ローマ軍の上陸を鼓舞する鷲の徽章の旗手(想像画)]]
*第1次[[w:ゲルマニア|ゲルマニア]]遠征
**[[ガリア戦記 第4巻#16節|16節]] レヌス渡河の理由、スガンブリ族、ウビイ族
**[[ガリア戦記 第4巻#17節|17節]] レヌス川の架橋工事
**[[ガリア戦記 第4巻#18節|18節]] レヌス渡河、スガンブリ族の退却
**[[ガリア戦記 第4巻#19節|19節]] カエサル、ゲルマニアから撤退する
*第1次[[w:ブリタンニア|ブリタンニア]]遠征
**[[ガリア戦記 第4巻#20節|20節]] ブリタンニア遠征の理由と無知識
**[[ガリア戦記 第4巻#21節|21節]] ブリタンニア遠征の準備、ウォルセヌスとコンミウスの先遣
**[[ガリア戦記 第4巻#22節|22節]] モリニ族の帰服、船団の手配
**[[ガリア戦記 第4巻#23節|23節]] ブリタンニアへ渡海
**[[ガリア戦記 第4巻#24節|24節]] [[w:ブリトン|ブリタンニア人]]が上陸を阻む
**[[ガリア戦記 第4巻#25節|25節]] 軍船と鷲の徽章の旗手
**[[ガリア戦記 第4巻#26節|26節]] ローマ勢、苦戦からの強襲上陸
**[[ガリア戦記 第4巻#27節|27節]] ブリタンニア人の帰服
**[[ガリア戦記 第4巻#28節|28節]] 嵐に遭う船団
**[[ガリア戦記 第4巻#29節|29節]] ローマ船団の大破
**[[ガリア戦記 第4巻#30節|30節]] ブリタンニア人の心変わり
**[[ガリア戦記 第4巻#31節|31節]] カエサルの応急措置
**[[ガリア戦記 第4巻#32節|32節]] 包囲されたローマ軍団
**[[ガリア戦記 第4巻#33節|33節]] ブリタンニア人の戦術
**[[ガリア戦記 第4巻#34節|34節]] カエサルの来援と撤収、ブリタンニア勢の集結
**[[ガリア戦記 第4巻#35節|35節]] ブリタンニア勢を撃退
**[[ガリア戦記 第4巻#36節|36節]] 講和と大陸への帰着
*[[w:モリニ族|モリニ族]]・[[w:メナピー族|メナピイ族]]への第2次遠征
**[[ガリア戦記 第4巻#37節|37節]] モリニ族の裏切りと敗北
**[[ガリア戦記 第4巻#38節|38節]] モリニ族の降伏、メナピイ族への遠征
== [[ガリア戦記 第5巻|第5巻]] ==
'''第2次ブリタンニア遠征、ベルガエ人やトレウェリ族の蜂起'''
*[[w:ブリタンニア|ブリタンニア]]再遠征の準備
**[[ガリア戦記 第5巻#1節|01節]] 造船計画、[[w:ピルスタエ族|ピルスタエ族]]の問題
**[[ガリア戦記 第5巻#2節|02節]] 造船の進捗状況、トレウェリ族の問題
**[[ガリア戦記 第5巻#3節|03節]] トレウェリ族の動向、インドゥティオマルス]]と[[w:キンゲトリクス|キンゲトリクス
**[[ガリア戦記 第5巻#4節|04節]] カエサルとインドゥティオマルス
**[[ガリア戦記 第5巻#5節|05節]] イティウス港、ガリア領袖たちの召集
**[[ガリア戦記 第5巻#6節|06節]] [[w:ハエドゥイ族|ハエドゥイ族]]のドゥムノリクス
**[[ガリア戦記 第5巻#7節|07節]] ドゥムノリクスの最期
[[画像:Devil's_Dyke_Hertfordshire_sign.jpg|thumb|right|300px|カエサルがカッスィウェッラウヌスを破ったと推定される遺跡の記念碑]]
* 第2次ブリタンニア遠征
**[[ガリア戦記 第5巻#8節|08節]] ブリタンニアへ再び渡海
**[[ガリア戦記 第5巻#9節|09節]] ブリタンニア再上陸、敵の砦を夜襲
**[[ガリア戦記 第5巻#10節|10節]] 再び嵐が船団を破損
**[[ガリア戦記 第5巻#11節|11節]] 船団と陣営の防備、[[w:カッシウェラウヌス|カッスィウェッラウヌス]]登場
**[[ガリア戦記 第5巻#12節|12節]] ブリタンニアの地理(1)-部族と風土
**[[ガリア戦記 第5巻#13節|13節]] ブリタンニアの地理(2)-島々と地形
**[[ガリア戦記 第5巻#14節|14節]] ブリタンニアの地理(3)-生活習慣
**[[ガリア戦記 第5巻#15節|15節]] ブリタンニア勢がローマ陣営を襲撃
**[[ガリア戦記 第5巻#16節|16節]] ブリタンニア勢との戦術の優劣を分析
**[[ガリア戦記 第5巻#17節|17節]] [[w:ガイウス・トレボニウス|トレボニウス]]が敵の奇襲を撃退
**[[ガリア戦記 第5巻#18節|18節]] [[w:テムズ川|タメスィス川]]を渡河
**[[ガリア戦記 第5巻#19節|19節]] カッスィウェッラウヌスの戦車隊とローマ騎兵の交戦
**[[ガリア戦記 第5巻#20節|20節]] [[w:トリノヴァンテス族|トリノウァンテス族]]とマンドゥブラキウス
**[[ガリア戦記 第5巻#21節|21節]] 諸部族の投降、城市の陥落
**[[ガリア戦記 第5巻#22節|22節]] カンティウム勢による急襲、カッスィウェッラウヌスの降伏
**[[ガリア戦記 第5巻#23節|23節]] カエサルとローマ軍が大陸へ帰着する
[[画像:Ambiorix.jpg|thumb|right|300px|アンビオリクスの銅像。[[w:ベルギー|ベルギー]]の[[w:トンゲレン|トンゲレン]](Tongeren)市街に建つ。ローマ軍の侵略と闘って撃破した郷土の英雄として、同市が彫刻家ジュール・ベルタン(Jules Bertin)に依頼し1866年に建立した。]]
*[[w:アンビオリクス|アンビオリクス]]と[[w:エブロネス族|エブロネス族]]の蜂起
**[[ガリア戦記 第5巻#24節|24節]] ローマ軍団8個半がガリア北部で冬営する
**[[ガリア戦記 第5巻#25節|25節]] カルヌテス族の王タスゲティウスが殺される
**[[ガリア戦記 第5巻#26節|26節]] [[w:クィントゥス・ティトゥリウス・サビヌス|サビヌス]]とコッタの冬営にエブロネス族が襲来
**[[ガリア戦記 第5巻#27節|27節]] アンビオリクスの弁明と通告
**[[ガリア戦記 第5巻#28節|28節]] ローマ陣営の大論争
**[[ガリア戦記 第5巻#29節|29節]] サビヌスの反論
**[[ガリア戦記 第5巻#30節|30節]] サビヌスのさらなる説得
**[[ガリア戦記 第5巻#31節|31節]] 論争決し、ローマ勢が陣営を発つ
**[[ガリア戦記 第5巻#32節|32節]] エブロネス族の待ち伏せ
**[[ガリア戦記 第5巻#33節|33節]] 戦慄するローマ勢
**[[ガリア戦記 第5巻#34節|34節]] エブロネス族の作戦
**[[ガリア戦記 第5巻#35節|35節]] 苦戦に陥るローマ勢
**[[ガリア戦記 第5巻#36節|36節]] サビヌスの命乞い
**[[ガリア戦記 第5巻#37節|37節]] サビヌスとコッタの最期、ローマ軍団の壊滅
*[[w:ネルウィイ族|ネルウィイー族]]ら[[w:ベルガエ人|ベルガエ人]]同盟の蜂起
**[[ガリア戦記 第5巻#38節|38節]] アンビオリクスがアドゥアトゥキ族とネルウィイー族を説得
**[[ガリア戦記 第5巻#39節|39節]] ネルウィイー族が[[w:クィントゥス・トゥッリウス・キケロ|キケロ]]の陣営に襲来
**[[ガリア戦記 第5巻#40節|40節]] キケロの陣営が攻囲される
**[[ガリア戦記 第5巻#41節|41節]] キケロがネルウィイー族の詭弁をはねつける
**[[ガリア戦記 第5巻#42節|42節]] ネルウィイー族がローマ人の包囲網と攻城術をまねる
**[[ガリア戦記 第5巻#43節|43節]] ローマ勢が果敢に防戦
**[[ガリア戦記 第5巻#44節|44節]] 百人隊長プッロとウォレヌスの奮戦
**[[ガリア戦記 第5巻#45節|45節]] ガリア人伝令がカエサルにキケロと軍団の危機を伝える
**[[ガリア戦記 第5巻#46節|46節]] カエサルが副官たちに伝令を派遣する
**[[ガリア戦記 第5巻#47節|47節]] カエサルと副官たちの動き
**[[ガリア戦記 第5巻#48節|48節]] カエサルがキケロに返信
**[[ガリア戦記 第5巻#49節|49節]] ガリア勢がキケロの包囲を解いて、カエサルと対峙する
**[[ガリア戦記 第5巻#50節|50節]] カエサルが詭計により敵勢をおびき寄せる
**[[ガリア戦記 第5巻#51節|51節]] カエサルがネルウィイ族らを撃退
**[[ガリア戦記 第5巻#52節|52節]] カエサルがキケロの軍団と合流
*インドゥティオマルスとトレウェリ族の蜂起
**[[ガリア戦記 第5巻#53節|53節]] サビヌス敗死とカエサル勝利の影響
**[[ガリア戦記 第5巻#54節|54節]] セノネース族の背反、ガリアの不穏
**[[ガリア戦記 第5巻#55節|55節]] トレウェリ族のインドゥティオマルスが兵を集める
**[[ガリア戦記 第5巻#56節|56節]] インドゥティオマルスの挙兵
**[[ガリア戦記 第5巻#57節|57節]] インドゥティオマルスが[[w:ティトゥス・ラビエヌス|ラビエーヌス]]の陣営に殺到
**[[ガリア戦記 第5巻#58節|58節]] インドゥティオマルスの最期
== [[ガリア戦記 第6巻|第6巻]] ==
'''ガリア北部の平定。ガリアとゲルマニアの風習。エブロネス族の追討'''
*ガリア北部の平定
**[[ガリア戦記 第6巻#1節|01節]] カエサルが[[w:グナエウス・ポンペイウス|ポンペイウス]]の助けにより新兵を徴募する
**[[ガリア戦記 第6巻#2節|02節]] ガリア北部の不穏な情勢
**[[ガリア戦記 第6巻#3節|03節]] [[w:ネルウィイ族|ネルウィイ族]]を降し、ガリアの領袖たちを召集する
**[[ガリア戦記 第6巻#4節|04節]] アッコの造反、[[w:セノネス族|セノネス族]]と[[w:カルヌテス族|カルヌテス族]]を降す
**[[ガリア戦記 第6巻#5節|05節]] アンビオリクスへの策を練り、[[w:メナピイ族|メナピイ族]]へ向かう
**[[ガリア戦記 第6巻#6節|06節]] メナピイ族を降す
**[[ガリア戦記 第6巻#7節|07節]] [[w:トレウェリ族|トレウェリ族]]の開戦準備、[[w:ティトゥス・ラビエヌス|ラビエヌス]]の計略
**[[ガリア戦記 第6巻#8節|08節]] ラビエヌスがトレウェリ族を降す
*第二次ゲルマニア遠征
**[[ガリア戦記 第6巻#9節|09節]] 再びレヌスを渡河、ウビイ族を調べる
**[[ガリア戦記 第6巻#10節|10節]] ウビイ族を通じてスエビ族の動静を探る
**[[ガリア戦記 第6巻#訳注:スエビ族とカッティ族・ケルスキ族・ウビイ族について|訳注:スエビ族とカッティ族・ケルスキ族・ウビイ族について]]
*[[w:ガリア人|ガリア人]]の社会と風習について
**[[ガリア戦記 第6巻#訳注:ガリア・ゲルマニアの地誌・民族誌について|訳注:ガリア・ゲルマニアの地誌・民族誌について]]
**[[ガリア戦記 第6巻#11節|11節]] ガリア人の派閥性
**[[ガリア戦記 第6巻#12節|12節]] [[w:ハエドゥイ族|ハエドゥイ族]]、[[w:セクァニ族|セクァニ族]]、[[w:レミ族|レミ族]]の覇権争い
**[[ガリア戦記 第6巻#13節|13節]] ガリア人の社会階級、平民および[[w:ドルイド|ドルイド]]について(1)
**[[ガリア戦記 第6巻#14節|14節]] ドルイドについて(2)
**[[ガリア戦記 第6巻#15節|15節]] ガリア人の騎士階級について
**[[ガリア戦記 第6巻#16節|16節]] ガリア人の信仰と生け贄、[[w:ウィッカーマン|ウィッカーマン]]
**[[ガリア戦記 第6巻#17節|17節]] ガリアの神々(ローマ風解釈)
**[[ガリア戦記 第6巻#18節|18節]] ガリア人の時間や子供についての観念
**[[ガリア戦記 第6巻#19節|19節]] ガリア人の婚姻と財産・葬儀の制度
**[[ガリア戦記 第6巻#20節|20節]] ガリア部族国家の情報統制
*[[w:ゲルマニア|ゲルマニア]]の風習と自然について
**[[ガリア戦記 第6巻#21節|21節]] ゲルマニア人の信仰と性
**[[ガリア戦記 第6巻#22節|22節]] ゲルマニア人の土地制度
**[[ガリア戦記 第6巻#23節|23節]] ゲルマニア諸部族のあり方
**[[ガリア戦記 第6巻#24節|24節]] ゲルマニア人とガリア人
**[[ガリア戦記 第6巻#25節|25節]] ヘルキュニアの森林地帯
**[[ガリア戦記 第6巻#26節|26節]] ヘルキュニアの野獣①
**[[ガリア戦記 第6巻#27節|27節]] ヘルキュニアの野獣②
**[[ガリア戦記 第6巻#28節|28節]] ヘルキュニアの野獣③
*対エブロネス族追討戦(1)
**[[ガリア戦記 第6巻#29節|29節]] ゲルマニアから撤兵、対アンビオリクス戦へ出発
**[[ガリア戦記 第6巻#30節|30節]] アンビオリクスがバスィリスのローマ騎兵から逃れる
**[[ガリア戦記 第6巻#31節|31節]] エブロネス族の退避、カトゥウォルクスの最期
**[[ガリア戦記 第6巻#32節|32節]] ゲルマニア部族の弁明、アドゥアトゥカに輜重を集める
**[[ガリア戦記 第6巻#33節|33節]] 軍勢をカエサル、ラビエヌス、トレボニウスの三隊に分散
**[[ガリア戦記 第6巻#34節|34節]] 夷を以って夷を制す対エブロネス族包囲網
*スガンブリ族のアドゥアトゥカ攻略戦
**[[ガリア戦記 第6巻#35節|35節]] スガンブリ族が略奪に駆り立てられてアドゥアトゥカへ向かう
**[[ガリア戦記 第6巻#36節|36節]] アドゥアトゥカのキケロが糧秣徴発に派兵する
**[[ガリア戦記 第6巻#37節|37節]] スガンブリ族がキケロの陣営に襲来
**[[ガリア戦記 第6巻#38節|38節]] バクルスと百人隊長たちが防戦する
**[[ガリア戦記 第6巻#39節|39節]] スガンブリ族が糧秣徴発部隊をも襲う
**[[ガリア戦記 第6巻#40節|40節]] 敵中突破して陣営へ戻る糧秣徴発部隊の明暗
**[[ガリア戦記 第6巻#41節|41節]] スガンブリ族の撤退、カエサルの帰還
**[[ガリア戦記 第6巻#42節|42節]] カエサルがスガンブリ族の襲来と撤退を運命に帰する
*対エブロネス族追討戦(2)
**[[ガリア戦記 第6巻#43節|43節]] アンビオリクスが辛うじて追討を逃れる
**[[ガリア戦記 第6巻#44節|44節]] カエサルが撤退し、造反者アッコを処刑する
== [[ガリア戦記 第7巻|第7巻]] ==
[[画像:Vercingétorix_par_Millet.jpg|thumb|right|300px|[[w:ウェルキンゲトリクス|ウェルキンゲトリクス]]の立像]]
[[画像:Avaricum_westpoint_july_2006.jpg|thumb|right|450px|[[w:アウァリクム包囲戦|アウァリクム攻略戦]]の[[w:ジオラマ|ジオラマ]]([[w:陸軍士官学校 (アメリカ合衆国)|米国陸軍士官学校]]博物館)。]]
[[画像:Dorf_La_Roche_Blanche.JPG|thumb|right|450px|[[w:ゲルゴウィアの戦い|ゲルゴウィア攻略戦]]([[w:la:Obsidio Gergoviensis|Obsidio Gergoviensis]])の舞台となった現在のジェルゴヴィ高地([[w:fr:Plateau_de_Gergovie|Plateau de Gergovie]])の遠景。画像中央がローマ軍が小さい方の陣営を設置していたと推定されているラ・ロシュ=ブランシュ([[w:fr:La_Roche-Blanche_(Puy-de-Dôme)|La Roche Blanche]])の丘陵で、山頂からこの丘陵の辺りが激戦地だったと思われる。]]
'''ウェルキンゲトリクス率いるガリア同盟軍との戦役'''
*[[w:ウェルキンゲトリクス|ウェルキンゲトリクス]]とガリア同盟軍の蜂起
**[[ガリア戦記 第7巻#1節|01節]] 首都ローマの政情不安、ガリア人領袖たちの謀計
**[[ガリア戦記 第7巻#2節|02節]] カルヌテス族が開戦動議
**[[ガリア戦記 第7巻#3節|03節]] カルヌテス族がケナブム進駐
**[[ガリア戦記 第7巻#4節|04節]] アルウェルニ族のウェルキンゲトリクスが挙兵、ガリア諸部族同盟軍を指揮する
**[[ガリア戦記 第7巻#5節|05節]] ビトゥリゲス族がガリア同盟軍に寝返る
**[[ガリア戦記 第7巻#6節|06節]] 諸軍団と分断されて苦慮するカエサル
**[[ガリア戦記 第7巻#7節|07節]] [[w:ナルボンヌ|ナルボ]]をめぐる属州内外の攻防の駆け引き
**[[ガリア戦記 第7巻#8節|08節]] カエサルがケウェンナ山地を越えてアルウェルニ族の領内へ突入
**[[ガリア戦記 第7巻#9節|09節]] カエサルが諸軍団と合流、同盟軍はボイイ族攻略をめざす
**[[ガリア戦記 第7巻#10節|10節]] カエサルがアゲディンクムを発って、ボイイ族支援に向かう
**[[ガリア戦記 第7巻#11節|11節]] セノネス族のウェッラウノドゥヌムを降し、カルヌテス族のケナブムを攻略
**[[ガリア戦記 第7巻#12節|12節]] ビトゥリゲス族のノウィオドゥヌムを降すが、敵の騎兵が来援
**[[ガリア戦記 第7巻#13節|13節]] 同盟軍の騎兵を撃退、城市を再び降して、アウァリクム攻めに向かう
*[[w:アウァリクム包囲戦|アウァリクム攻略戦]]
**[[ガリア戦記 第7巻#14節|14節]] ウェルキンゲトリクスが[[w:兵站|兵站]]妨害と[[w:焦土作戦|焦土戦術]]を決断
**[[ガリア戦記 第7巻#15節|15節]] 焦土戦術開始、しかしアウァリクムの防衛を決定
**[[ガリア戦記 第7巻#16節|16節]] アウァリクムをめぐる両軍の駆け引き
**[[ガリア戦記 第7巻#17節|17節]] 攻囲に取りかかるローマ軍の[[w:糧秣|糧秣]]欠乏
**[[ガリア戦記 第7巻#18節|18節]] カエサルがウェルキンゲトリクス不在の敵陣へ迫る
**[[ガリア戦記 第7巻#19節|19節]] 丘の上のガリア勢と沼沢を挟んで対峙する
**[[ガリア戦記 第7巻#20節|20節]] ウェルキンゲトリクスが味方に弁明し、捕虜に問い質す
**[[ガリア戦記 第7巻#21節|21節]] ウェルキンゲトリクスの誠心とアウァリクムの重要性を確認
**[[ガリア戦記 第7巻#22節|22節]] アウァリクムの籠城ガリア勢が[[w:坑道戦|坑道戦]]で攻防に努める
**[[ガリア戦記 第7巻#23節|23節]] ガリア式城壁の構造
**[[ガリア戦記 第7巻#24節|24節]] ローマ勢が徹夜の土塁工事、籠城ガリア勢の攻勢
**[[ガリア戦記 第7巻#25節|25節]] 籠城ガリア勢が必死の防戦
**[[ガリア戦記 第7巻#26節|26節]] アウァリクム脱出の企て、女たちの絶叫
**[[ガリア戦記 第7巻#27節|27節]] ローマ軍が大雨の中で城壁を占拠
**[[ガリア戦記 第7巻#28節|28節]] ローマ軍がアウァリクムの市民4万人を大虐殺
**[[ガリア戦記 第7巻#29節|29節]] ウェルキンゲトリクスが演説で味方を鼓舞する
**[[ガリア戦記 第7巻#30節|30節]] ガリア勢がウェルキンゲトリクスに心服し、希望を抱く
**[[ガリア戦記 第7巻#31節|31節]] ウェルキンゲトリクスがほかの諸部族を勧誘し、兵力を補充する
*[[w:ゲルゴウィアの戦い|ゲルゴウィア攻略戦]]、[[w:ハエドゥイ族|ハエドゥイ族]]の離反
**[[ガリア戦記 第7巻#32節|32節]] ハエドゥイ族内紛の危機
**[[ガリア戦記 第7巻#33節|33節]] カエサルがハエドゥイ族の権力をコンウィクトリタウィスに与える
**[[ガリア戦記 第7巻#34節|34節]] ハエドゥイ族を動員し、ローマ軍をカエサルとラビエヌスの二隊に分散
**[[ガリア戦記 第7巻#35節|35節]] カエサルが陽動によってエラウェル川に架橋、渡河する
**[[ガリア戦記 第7巻#36節|36節]] 両軍がゲルゴウィアの要衝に陣営を築く
**[[ガリア戦記 第7巻#37節|37節]] ハエドゥイ族のコンウィクトリタウィスがガリア同盟軍に内応する
**[[ガリア戦記 第7巻#38節|38節]] リタウィックスの鼓舞でハエドゥイ族の歩兵1万が挙兵する
**[[ガリア戦記 第7巻#39節|39節]] エポレドリクスがハエドゥイ勢1万の寝返りをカエサルに知らせる
**[[ガリア戦記 第7巻#40節|40節]] カエサルが4個軍団を率いてハエドゥイ勢1万を制止し、リタウィックスは逃亡
**[[ガリア戦記 第7巻#41節|41節]] 副官ファビウスの報告:ゲルゴウィアの敵勢がローマ陣営に襲来
**[[ガリア戦記 第7巻#42節|42節]] ハエドゥイ族の者たちが反ローマ暴動を引き起こす
**[[ガリア戦記 第7巻#43節|43節]] ハエドゥイ族当局がカエサルに屈服。ガリア大動乱の予感
**[[ガリア戦記 第7巻#44節|44節]] ゲルゴウィアの急所の尾根
**[[ガリア戦記 第7巻#45節|45節]] ローマ勢の陽動部隊が敵を引き付け、本隊が敵の本陣を目指す
**[[ガリア戦記 第7巻#46節|46節]] ローマ軍の本隊が防壁を越えて、敵陣の一部を占拠
**[[ガリア戦記 第7巻#47節|47節]] 血気にはやるローマ兵たちの猪突猛進、ガリア女たちの命乞い
**[[ガリア戦記 第7巻#48節|48節]] ガリア勢が城市に引き返して、防戦に努める
**[[ガリア戦記 第7巻#49節|49節]] カエサルが劣勢の自軍に副官セクスティウスを増援する
**[[ガリア戦記 第7巻#50節|50節]] 激戦の末、敗勢に陥るローマ軍
**[[ガリア戦記 第7巻#51節|51節]] カエサルが一敗地に塗れる
**[[ガリア戦記 第7巻#52節|52節]] 敗軍の将カエサルが兵士たちを責める
**[[ガリア戦記 第7巻#53節|53節]] カエサルとローマ軍がゲルゴウィアから撤退
**[[ガリア戦記 第7巻#54節|54節]] ハエドゥイ族のエポレドリクスとウィリドマルスらがカエサルのもとから立ち去る
**[[ガリア戦記 第7巻#55節|55節]] エポレドリクスとウィリドマルスらがローマの拠点ノウィオドゥヌムで寝返る
**[[ガリア戦記 第7巻#56節|56節]] カエサルが属州へは戻らず、増水した[[w:ロワール川|リゲル川]]の渡河を敢行
*[[w:ティトゥス・ラビエヌス|ラビエヌス]]の[[w:ルテティア|ルテティア]]遠征
**[[ガリア戦記 第7巻#57節|57節]] 副官ラビエヌスがルテティア制圧に向かう
**[[ガリア戦記 第7巻#58節|58節]] ラビエヌスがメトロセドゥムを陥落させ、ルテティアのガリア勢と対峙
**[[ガリア戦記 第7巻#59節|59節]] ガリア諸部族が迫り、ラビエヌスが作戦変更を決断
**[[ガリア戦記 第7巻#60節|60節]] ラビエヌスが陽動戦術に努める
**[[ガリア戦記 第7巻#61節|61節]] ラビエヌスの陽動により、敵将カムロゲヌスが兵力を分散
**[[ガリア戦記 第7巻#62節|62節]] ラビエヌスがカムロゲヌス麾下のガリア勢を各個撃破して、カエサルと合流
*ガリア戦乱の拡大
**[[ガリア戦記 第7巻#63節|63節]] ハエドゥイ族がウェルキンゲトリクスに主導権争いを挑む
**[[ガリア戦記 第7巻#64節|64節]] ウェルキンゲトリクスがガリア諸部族の誘降・服従を謀る
**[[ガリア戦記 第7巻#65節|65節]] カエサルと同盟諸部族の防戦。ゲルマニア騎兵を呼び寄せる
**[[ガリア戦記 第7巻#66節|66節]] 属州へと南下するカエサル、迎え撃とうとするウェルキンゲトリクス
**[[ガリア戦記 第7巻#67節|67節]] カエサル麾下のゲルマニア騎兵がウェルキンゲトリクスを一蹴
*[[w:アレシアの戦い|アレスィア攻囲戦]]
**[[ガリア戦記 第7巻#68節|68節]] ウェルキンゲトリクスがアレスィア入城、カエサルは攻囲を決断
**[[ガリア戦記 第7巻#69節|69節]] アレスィアの地勢、ローマ軍の攻囲線
**[[ガリア戦記 第7巻#70節|70節]] カエサル麾下のゲルマニア騎兵が、再びガリア騎兵を虐殺
**[[ガリア戦記 第7巻#71節|71節]] ウェルキンゲトリクスが援兵召集のため騎兵を放ち、籠城策を定める
**[[ガリア戦記 第7巻#72節|72節]] カエサルが、より大掛かりな攻囲陣地を構築する
**[[ガリア戦記 第7巻#73節|73節]] カエサルは、攻囲陣地をさらに障害物で補強する
**[[ガリア戦記 第7巻#74節|74節]] ガリア人の来援に備えて、外周にも同様の塁壁を張り巡らす
**[[ガリア戦記 第7巻#75節|75節]] ガリア同盟が各部族に動員を要請する
**[[ガリア戦記 第7巻#76節|76節]] コンミウスもガリア同盟軍に内応、約25万の大軍が集結
**[[ガリア戦記 第7巻#77節|77節]] 飢餓状態のアレスィアで、クリトグナトゥスが極論を唱える
**[[ガリア戦記 第7巻#78節|78節]] マンドゥビイ族の投降をカエサルが拒む
**[[ガリア戦記 第7巻#79節|79節]] ガリア同盟軍の来援、アレスィアの歓呼
**[[ガリア戦記 第7巻#80節|80節]] ゲルマニア騎兵らローマ勢が来援ガリア騎兵をも打ち破る
**[[ガリア戦記 第7巻#81節|81節]] ガリア来援軍と籠城軍がローマ陣地に夜襲をしかける
**[[ガリア戦記 第7巻#82節|82節]] アレスィア内外のガリア勢が障害物に阻まれて退く
**[[ガリア戦記 第7巻#83節|83節]] ウェルカッスィウェッラウヌスが兵6万を率いて急所の丘へ向かう
**[[ガリア戦記 第7巻#84節|84節]] ウェルキンゲトリクスらアレスィア籠城軍も善戦する
**[[ガリア戦記 第7巻#85節|85節]] ウェルカッスィウェッラウヌスが急所の丘を攻める
**[[ガリア戦記 第7巻#86節|86節]] 危急存亡の秋、両軍の苦闘
**[[ガリア戦記 第7巻#87節|87節]] カエサルの救援、ラビエヌスの作戦
**[[ガリア戦記 第7巻#88節|88節]] 雌雄決し、ガリア来援軍が敗走
*ガリア同盟軍主力の降伏
**[[ガリア戦記 第7巻#89節|89節]] ウェルキンゲトリクスとアレスィア籠城軍の降伏
**[[ガリア戦記 第7巻#90節|90節]] ハエドゥイ族とアルウェルニ族の降伏、諸軍団の冬営
== [[ガリア戦記 第8巻|第8巻]] ==
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高校化学 酸素を含む脂肪族化合物
0
13370
206924
184294
2022-08-21T21:27:28Z
Leyo
4113
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wikitext
text/x-wiki
{{:高等学校化学I/脂肪族化合物/Tab}}
== アルコールの構造と分類 ==
炭化水素の水素を'''ヒドロキシ基'''(-OH)で置換した構造 R-OHのものを'''アルコール'''(alcohol)という。メタノールやエタノールなどは、ヒドロキシ基 -OH をもっているので、アルコールである。(なお -OH基の呼び名は、昔は「ヒドロキシル基」と呼ばれている場合もあった。現在は「ヒドロキシ基」に統一されている。)
右表に主なアルコールを示す。
{|border=1 cellspacing=0 align=right text-align=center style="text-align:center"
|- style="background:silver"
! 示性式 !! 名称 !! 構造式
|-
| CH{{sub|3}}OH || '''メタノール''' || [[File:Methanol Lewis.svg|100px|メタノール]]
|-
| C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH || '''エタノール''' || [[File:Ethanol-structure.png|150px|エタノール]]
|}
アルコールは分子中のヒドロキシ基の個数や結合の仕方による、いくつかの分類がある。
; 価数 : アルコール分子中のヒドロキシ基の個数をそのアルコールの'''価数'''という。
分子中にヒドロキシ基が1個のものを一価アルコールという。分子中にヒドロキシ基が2個のものを二価アルコールという。
メタノールもエタノールも、一価アルコールである。
{|border=1 cellspacing=0 align=center text-align=center style="text-align:center"
|- style="background:silver"
! 分類 !! 名称 !! 化学式 !! 融点(℃) !! 沸点(℃) !! 溶解度
|-
| 一価アルコール || メタノール<br />エタノール<br />1-プロパノール<br />1-ブタノール<br />1-ドデカノール || CH{{sub|3}}-OH<br />CH{{sub|3}}-CH{{sub|2}}-OH<br />CH{{sub|3}}-CH{{sub|2}}-CH{{sub|2}}-OH<br />CH{{sub|3}}-CH{{sub|2}}-CH{{sub|2}}-CH{{sub|2}}-OH<br />CH{{sub|3}}-(CH{{sub|2}}){{sub|11}}-OH<br /> || ー98℃<br />ー115℃<br />ー127℃<br />ー90℃<br />24℃ || 65℃<br />78℃<br />97℃<br />117℃<br />259℃ || ∞<br />∞<br />∞<br />少し溶ける<br />溶けにくい
|-
| 二価アルコール || エチレングリコール<br />(1,2-エタンジオール) || [[File:Glikol.svg|100px|エチレングリコール]] || ー13℃ || 198℃ || ∞
|-
| 三価アルコール || グリセリン<br />(1,2,3-プロパントリオール)|| [[File:Glycerin - Glycerol.svg|150px|グリセリン]] || 18℃ || 290℃(分解) || ∞
|-
|}
; 級数 : アルコール分子中の、ヒドロキシ基の結合している炭素原子に結合している炭素原子の個数による分類があり、以下のように第一級、第二級、第三級に分類される。
具体的にいうと、OH基のついた炭素に他の炭素が1つ結合している場合を'''第一級アルコール'''という。
同様に、OH基のついた炭素に他の炭素が2つ結合している場合を'''第二級アルコール'''という。
同様に、OH基のついた炭素に他の炭素が3つ結合している場合を'''第三級アルコール'''という。
:※ 化学でいう「第一級アルコール」〜「第三級アルコール」とは、けっして、アルコールの濃度のことではない。また、値段などのことでもない。
二クロム酸カリウム水溶液などの酸化剤により第一級アルコールと第二級アルコールは酸化され、それぞれアルデヒドおよびケトンを生じる。
{|border=1 cellspacing=0 align=center text-align=center style="text-align:center"
|- style="background:silver"
!分類!!構造!!化合物の例!!沸点
|-
|第一級<br />アルコール||[[File:第一級アルコール.svg|150px|第一級アルコール]]||1-ブタノール<br />2-メチル-1-プロパノール||117℃<br />118℃
|-
|第二級<br />アルコール||[[File:第二級アルコール.svg|150px|第二級アルコール]]||[[File:2ブタノール.svg|200px|2-ブタノール]]<br />2-ブタノール||99℃
|-
|第三級<br />アルコール||[[File:第三級アルコール.svg|150px|第三級アルコール]]||[[File:Tert bütil alkol ücüncül bir alkol.svg|150px|2-メチル-2-プロパノール]]<br />2-メチル-2-プロパノール||83℃
|}
=== 一般的な性質 ===
==== 水溶性について ====
アルコールはヒドロキシ基をもつが、このヒドロキシ基は親水性のため、エタノールなどの低級アルコールや、グリセリンのような-OH基の多いアルコールは、水に溶けやすい。しかし、アルコールでも、炭素数の割合が多くなると炭化水素としての性質が強くなり、水に溶けにくくなる。たとえば、炭素数が4の1-ブタノールや炭素数が5の1-ペンタノールは水に難溶である。
==== 融点や沸点 ====
アルコールは、分子量が同程度の炭化水素と比べて、沸点や融点が高い。この理由は、アルコールのヒドロキシ基が分子どうしで水素結合をしているため、というのが定説である。
==== ナトリウムとの反応 ====
また、アルコールの水溶液は中性であり、したがって、これから説明する反応は、けっして酸・塩基反応ではない。
アルコールに単体のナトリウムNaを加えると、反応して水素が発生し、ナトリウムアルコキシド R-ONa になる。
: 2R-OH + 2Na → 2R-ONa + H{{sub|2}}↑
例えばエタノールにナトリウムを反応させると、水素を発生しながらナトリウムエトキシド(C{{sub|2}}H{{sub|5}}ONa)を生じる。
: 2C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH + 2Na → 2C{{sub|2}}H{{sub|5}}ONa + H{{sub|2}}↑
炭素数が多いほどアルコールとしての性質が弱くなり、ナトリウムとは穏やかに反応するようになる。この反応は有機化合物中のヒドロキシ基の有無を調べる一つの方法である。
ナトリウムアルコキシド(R-ONa)に水を加えると、加水分解して水酸化ナトリウムを生じるため塩基性を示す。
: R-ONa + H{{sub|2}}O → R-OH + NaOH
==== 水溶液は中性 ====
アルコールの水溶液は中性である。つまり、アルコールのヒドロキシ基は、水溶液中では電離していない。
==== 酸化反応 ====
* アルコールに適切な酸化剤を用いて酸化させた場合
:第一級アルコールを酸化させると、まずアルデヒドになり、アルデヒドがさらに酸化すると、カルボン酸になる。
:第二級アルコールは、酸化されるとケトンになる。
:第三級アルコールは、酸化されにくい。
第一級アルコール [[File:第一級アルコール.svg|100px|第一級アルコール]] <chem> -> </chem> アルデヒド[[File:Aldehyd - Aldehyde.svg|100px|]] <chem> -> </chem> カルボン酸[[File:Carboxylic-acid.svg|100px|]]
第二級アルコール [[File:第二級アルコール.svg|100px|第二級アルコール]] <chem> -> </chem> ケトン[[File:Keton - Ketone.svg|100px|]]
==== 脱水反応 ====
濃硫酸を加熱して約130℃にしたものに、アルコールを加えると、アルコール分子内での脱水反応が起きたり、もしくはアルコールの2分子間で脱水反応が起きて、エーテルやアルケンを生じる。
具体的には、エタノールと濃硫酸とを混合し、約170℃に加熱するとエチレンを生じる。約130℃で加熱すると、分子間脱水が優先してジエチルエーテルを生じる。
なお、このジエチルエーテルの生成のように、2つの分子間から水などの小さな分子がとれて1つの分子になることを、縮合(しゅくごう、condensation)という。
== メタノール ==
'''メタノール'''(CH{{sub|3}}OH)はメチルアルコールとも呼ばれ、無色透明の液体であり、もっとも単純なアルコールである。人体には有毒で、飲むと失明の恐れがある。水とは任意の割合で溶け合う。
メタノールの製法は、触媒に酸化亜鉛 ZnO などを用いて、一酸化炭素 CO と水素 H<sub>2</sub> とを反応させる手法が主流である。
:CO + 2H<sub>2</sub> → CH<sub>3</sub>OH
メタノールは、溶媒や燃料のほか、薬品の原料や化学製品の原料などとして、用いられている。
* 参考
二クロム酸カリウム水溶液などによりメタノールは酸化され、ホルムアルデヒドとなる。
: <math>\mathrm{CH_3OH} \xrightarrow{-2 \mathrm H (*)} \mathrm{HCHO}</math>
<br />
:(*)水素原子が分子から奪われる酸化反応である。
== エタノール ==
'''エタノール'''(C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH)は無色透明の液体のアルコールである。エチルアルコールとも呼ばれる。アルコール飲料(酒)に含まれている。糖やデンプンなどの発酵により、エタノールが得られる。
:発酵: C{{sub|6}}H{{sub|12}}O{{sub|6}} → 2C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH + 2CO{{sub|2}}
工業的にはエチレンに水分子を付加することにより合成される。
:合成: CH{{sub|2}}=CH{{sub|2}} + H{{sub|2}}O → CH{{sub|3}}CH{{sub|2}}OH
濃硫酸には脱水作用があるため、エタノールと濃硫酸とを混合して加熱すると脱水反応がおこる。しかし、温度により異なった脱水反応がおこり、異なる物質が生成する。130℃程度で反応させるとエタノール2分子から水が取り除かれてジエチルエーテルを生じる。このように2分子から簡単な分子が取り除かれて結合し1つの分子となることを'''縮合'''(しゅくごう、condensation)という。
: 2C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH → C{{sub|2}}H{{sub|5}}-O-C{{sub|2}}H{{sub|5}} + H{{sub|2}}O
一方、160℃程度で反応させるとエタノール1分子の中で水が取り除かれ、エチレンを生じる。
: C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH → CH{{sub|2}}=CH{{sub|2}} + H{{sub|2}}O
== 参考: 多価アルコール ==
=== エチレングリコール ===
[[File:Glikol.svg|100px|thumb|エチレングリコール]]
'''エチレングリコール'''(1,2エタンジオール)は、2価アルコールであり、無色で粘性が高い、不揮発性の液体である。水とは任意の割合で溶け合う。
自動車のラジエーターの不凍液として用いられる。また、合成繊維や合成樹脂の原料としてもエチレングリコールは用いられる。
:(※範囲外) 不凍液として用いられる場合、誤飲を防ぐために着色されている(緑色などに着色されている)。(※ 第一学習社の教科書で、不凍液の着色について紹介している。)
:ウィキペディア日本語版によると、エチレングリコールそのものの色は無色透明。また、エチレングリコールには毒性があるとのこと。
ペットボトルの材質ポリエチレンテレフタラートをつくるための原料にも、エチレングリコールは使われている。(※ くわしくは化学IIで習う。)
エチレングリコールには甘味があるが(※ 文英堂シグマベストで教えている)、しかし毒性があるので、けっして飲んだりしてはいけない。
:※ エチレングリコールがヒドロキシル基をもつことと、水に溶けることを関連づけて覚えよう(参考書などで、そういう説明をしている)。検定教科書では慎重性を期して、そういう理屈付けはしてないが、覚えやすいので、関連づけよう。
* 範囲外: エチレングリコールの製法
:(※ いちおう第一学習社の教科書に書いてあるが、ほとんどの教科書・参考書で触れられておらず、事実上の高校範囲外。)
[[File:Ethylenoxide-2.svg|thumb|エチレンオキシド]]
エチレンを(ある触媒のもと)酸素と反応させ、「エチレンオキシド」という物質をつくる。(カッコ内「ある触媒のもと」は、検定教科書にない説明。wikibooksによる追記。)(※ 範囲外:) なお、エチレンオキシドは沸点が約10℃なので、常温では気体になりやすい。医学で滅菌用のガスとしてもエチレンオキシドは使われる。(ここまで範囲外)
そして、そのエチレンオキシドを(酸によって)加水分解させ、エチレングリコールをつくれる。(カッコ内「酸によって」は、検定教科書にない説明。wikibooksによる追記。)
つまり、
:エチレン → エチレンオキシド → エチレングリコール
という反応である。
※ 「エチレンオキシド」が高校範囲外である。かなり高度な受験参考書ですら、「エチレンオキシド」については触れられてない場合がほとんどである。なので高校生は、「エチレンオキシド」について大学受験では暗記の必要は無いだろう。
=== グリセリン ===
[[File:Glycerol structure.svg|thumb|グリセリン]]
1,2,3-プロパントリオール(グリセリン)は、3価アルコールであり、無色で粘性が高い、不揮発性の液体である。水とは任意の割合で溶け合う。無毒であり甘味があるので、化粧品や医薬品の原料などに用いられる。火薬(ニトログリセリン)の原料や合成樹脂の原料ともなる。
動物の体内に存在する油脂は、グリセリンと脂肪酸のエステルである。
{{DEFAULTSORT:しほうそくかこうふつ あるこおる}}
[[Category:高等学校化学]]
[[Category:高等学校教育]]
[[Category:化学]]
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206968
206924
2022-08-22T10:58:21Z
Nermer314
62933
wikitext
text/x-wiki
{{:高等学校化学I/脂肪族化合物/Tab}}
== アルコールの構造と分類 ==
炭化水素の水素をヒドロキシ基 -OHで置換した構造の化合物を'''アルコール'''(alcohol)という。メタノールやエタノールなどは、ヒドロキシ基 -OH をもっているので、アルコールである。
右表に主なアルコールを示す。
{|border=1 cellspacing=0 align=right text-align=center style="text-align:center"
|- style="background:silver"
! 示性式 !! 名称 !! 構造式
|-
| CH{{sub|3}}OH || '''メタノール''' || [[File:Methanol Lewis.svg|100px|メタノール]]
|-
| C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH || '''エタノール''' || [[File:Ethanol-structure.png|150px|エタノール]]
|}
アルコールは分子中のヒドロキシ基の個数や結合の仕方による、いくつかの分類がある。
; 価数 : アルコール分子中のヒドロキシ基の個数をそのアルコールの'''価数'''という。
分子中にヒドロキシ基が1個のものを1価アルコールという。分子中にヒドロキシ基が2個のものを2価アルコールという。
メタノールもエタノールも、一価アルコールである。2価以上のものを多価アルコールという。
{|border=1 cellspacing=0 align=center text-align=center style="text-align:center"
|- style="background:silver"
! 分類 !! 名称 !! 化学式 !! 融点(℃) !! 沸点(℃)
|-
| 一価アルコール || メタノール<br />エタノール<br />1-プロパノール<br />1-ブタノール || CH{{sub|3}}-OH<br />CH{{sub|3}}-CH{{sub|2}}-OH<br />CH{{sub|3}}-CH{{sub|2}}-CH{{sub|2}}-OH<br />CH{{sub|3}}-CH{{sub|2}}-CH{{sub|2}}-CH{{sub|2}}-OH<br /> || ー98℃<br />ー115℃<br />ー127℃<br />ー90℃ || 65℃<br />78℃<br />97℃<br />117℃
|-
| 二価アルコール || エチレングリコール<br />(1,2-エタンジオール) || [[File:Glikol.svg|100px|エチレングリコール]] || ー13℃ || 198℃
|-
| 三価アルコール || グリセリン<br />(1,2,3-プロパントリオール)|| [[File:Glycerin - Glycerol.svg|150px|グリセリン]] || 18℃ || 290℃(分解)
|-
|}
; 級数 : アルコール分子中の、ヒドロキシ基に結合している炭素原子に結合している炭素原子の個数による分類があり、以下のように第一級、第二級、第三級に分類される。
OH基のついた炭素に他の炭素が1つ結合している場合を'''第一級アルコール'''という。
同様に、OH基のついた炭素に他の炭素が2つ結合している場合を'''第二級アルコール'''という。
同様に、OH基のついた炭素に他の炭素が3つ結合している場合を'''第三級アルコール'''という。
二クロム酸カリウム水溶液などの酸化剤により第一級アルコールと第二級アルコールは酸化され、それぞれアルデヒドおよびケトンを生じる。
{|border=1 cellspacing=0 align=center text-align=center style="text-align:center"
|- style="background:silver"
!分類!!構造!!化合物の例!!沸点
|-
|第一級<br />アルコール||[[File:第一級アルコール.svg|150px|第一級アルコール]]||1-ブタノール<br />2-メチル-1-プロパノール||117℃<br />118℃
|-
|第二級<br />アルコール||[[File:第二級アルコール.svg|150px|第二級アルコール]]||[[File:2ブタノール.svg|200px|2-ブタノール]]<br />2-ブタノール||99℃
|-
|第三級<br />アルコール||[[File:第三級アルコール.svg|150px|第三級アルコール]]||[[File:Tert bütil alkol ücüncül bir alkol.svg|150px|2-メチル-2-プロパノール]]<br />2-メチル-2-プロパノール||83℃
|}
=== アルコールの性質 ===
==== 水溶性 ====
アルコールは親水性のヒドロキシ基と疎水性の炭化水素基をもつ。そのため、エタノールなどの低級アルコールや、グリセリンのような-OH基の多いアルコールは、水に溶けやすい。炭素数の割合が多くなると炭化水素としての性質が強くなり、水に溶けにくくなる。たとえば、炭素数が4の1-ブタノールや炭素数が5の1-ペンタノールは水に難溶である。
また、アルコールは水に溶けても電離しないため中性である。
==== 融点や沸点 ====
アルコールのOH基によって、水素結合が形成されるため、分子量が同程度の炭化水素と比べて、沸点や融点が高い。
==== ナトリウムとの反応 ====
また、アルコールの水溶液は中性であり、したがって、これから説明する反応は、けっして酸・塩基反応ではない。
アルコールに単体のナトリウムNaを加えると、反応して水素が発生し、ナトリウムアルコキシド R-ONa になる。
: 2R-OH + 2Na → 2R-ONa + H{{sub|2}}↑
例えばエタノールにナトリウムを反応させると、水素を発生しながらナトリウムエトキシド(C{{sub|2}}H{{sub|5}}ONa)を生じる。
: 2C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH + 2Na → 2C{{sub|2}}H{{sub|5}}ONa + H{{sub|2}}↑
炭素数が多いほどアルコールとしての性質が弱くなり、ナトリウムとは穏やかに反応するようになる。この反応は有機化合物中のヒドロキシ基の有無を調べる一つの方法である。
ナトリウムアルコキシド(R-ONa)に水を加えると、加水分解して水酸化ナトリウムを生じるため塩基性を示す。
: R-ONa + H{{sub|2}}O → R-OH + NaOH
==== 酸化反応 ====
* アルコールに適切な酸化剤を用いて酸化させた場合
:第一級アルコールを酸化させると、まずアルデヒドになり、アルデヒドがさらに酸化すると、カルボン酸になる。
:第二級アルコールは、酸化されるとケトンになる。
:第三級アルコールは、酸化されにくい。
第一級アルコール [[File:第一級アルコール.svg|100px|第一級アルコール]] <chem> -> </chem> アルデヒド[[File:Aldehyd - Aldehyde.svg|100px|]] <chem> -> </chem> カルボン酸[[File:Carboxylic-acid.svg|100px|]]
第二級アルコール [[File:第二級アルコール.svg|100px|第二級アルコール]] <chem> -> </chem> ケトン[[File:Keton - Ketone.svg|100px|]]
==== 脱水反応 ====
濃硫酸を加熱して約130℃にしたものに、アルコールを加えると、アルコール分子内での脱水反応が起きたり、もしくはアルコールの2分子間で脱水反応が起きて、エーテルやアルケンを生じる。
具体的には、エタノールと濃硫酸とを混合し、約170℃に加熱するとエチレンを生じる。約130℃で加熱すると、分子間脱水が優先してジエチルエーテルを生じる。
なお、このジエチルエーテルの生成のように、2つの分子間から水などの小さな分子がとれて1つの分子になることを、縮合(しゅくごう、condensation)という。
== メタノール ==
'''メタノール'''(CH{{sub|3}}OH)はメチルアルコールとも呼ばれ、無色透明の液体であり、もっとも単純なアルコールである。人体には有毒で、飲むと失明の恐れがある。水とは任意の割合で溶け合う。
メタノールの製法は、触媒に酸化亜鉛 ZnO などを用いて、一酸化炭素 CO と水素 H<sub>2</sub> とを反応させる手法が主流である。
:CO + 2H<sub>2</sub> → CH<sub>3</sub>OH
メタノールは、溶媒や燃料のほか、薬品の原料や化学製品の原料などとして、用いられている。
* 参考
二クロム酸カリウム水溶液などによりメタノールは酸化され、ホルムアルデヒドとなる。
: <math>\mathrm{CH_3OH} \xrightarrow{-2 \mathrm H (*)} \mathrm{HCHO}</math>
<br />
:(*)水素原子が分子から奪われる酸化反応である。
== エタノール ==
'''エタノール'''(C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH)は無色透明の液体のアルコールである。エチルアルコールとも呼ばれる。アルコール飲料(酒)に含まれている。糖やデンプンなどの発酵により、エタノールが得られる。
:発酵: C{{sub|6}}H{{sub|12}}O{{sub|6}} → 2C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH + 2CO{{sub|2}}
工業的にはエチレンに水分子を付加することにより合成される。
:合成: CH{{sub|2}}=CH{{sub|2}} + H{{sub|2}}O → CH{{sub|3}}CH{{sub|2}}OH
濃硫酸には脱水作用があるため、エタノールと濃硫酸とを混合して加熱すると脱水反応がおこる。しかし、温度により異なった脱水反応がおこり、異なる物質が生成する。130℃程度で反応させるとエタノール2分子から水が取り除かれてジエチルエーテルを生じる。このように2分子から簡単な分子が取り除かれて結合し1つの分子となることを'''縮合'''(しゅくごう、condensation)という。
: 2C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH → C{{sub|2}}H{{sub|5}}-O-C{{sub|2}}H{{sub|5}} + H{{sub|2}}O
一方、160℃程度で反応させるとエタノール1分子の中で水が取り除かれ、エチレンを生じる。
: C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH → CH{{sub|2}}=CH{{sub|2}} + H{{sub|2}}O
== 参考: 多価アルコール ==
=== エチレングリコール ===
[[File:Glikol.svg|100px|thumb|エチレングリコール]]
'''エチレングリコール'''(1,2エタンジオール)は、2価アルコールであり、無色で粘性が高い、不揮発性の液体である。水とは任意の割合で溶け合う。
自動車のラジエーターの不凍液として用いられる。また、合成繊維や合成樹脂の原料としてもエチレングリコールは用いられる。
:(※範囲外) 不凍液として用いられる場合、誤飲を防ぐために着色されている(緑色などに着色されている)。(※ 第一学習社の教科書で、不凍液の着色について紹介している。)
:ウィキペディア日本語版によると、エチレングリコールそのものの色は無色透明。また、エチレングリコールには毒性があるとのこと。
ペットボトルの材質ポリエチレンテレフタラートをつくるための原料にも、エチレングリコールは使われている。(※ くわしくは化学IIで習う。)
エチレングリコールには甘味があるが(※ 文英堂シグマベストで教えている)、しかし毒性があるので、けっして飲んだりしてはいけない。
:※ エチレングリコールがヒドロキシル基をもつことと、水に溶けることを関連づけて覚えよう(参考書などで、そういう説明をしている)。検定教科書では慎重性を期して、そういう理屈付けはしてないが、覚えやすいので、関連づけよう。
* 範囲外: エチレングリコールの製法
:(※ いちおう第一学習社の教科書に書いてあるが、ほとんどの教科書・参考書で触れられておらず、事実上の高校範囲外。)
[[File:Ethylenoxide-2.svg|thumb|エチレンオキシド]]
エチレンを(ある触媒のもと)酸素と反応させ、「エチレンオキシド」という物質をつくる。(カッコ内「ある触媒のもと」は、検定教科書にない説明。wikibooksによる追記。)(※ 範囲外:) なお、エチレンオキシドは沸点が約10℃なので、常温では気体になりやすい。医学で滅菌用のガスとしてもエチレンオキシドは使われる。(ここまで範囲外)
そして、そのエチレンオキシドを(酸によって)加水分解させ、エチレングリコールをつくれる。(カッコ内「酸によって」は、検定教科書にない説明。wikibooksによる追記。)
つまり、
:エチレン → エチレンオキシド → エチレングリコール
という反応である。
※ 「エチレンオキシド」が高校範囲外である。かなり高度な受験参考書ですら、「エチレンオキシド」については触れられてない場合がほとんどである。なので高校生は、「エチレンオキシド」について大学受験では暗記の必要は無いだろう。
=== グリセリン ===
[[File:Glycerol structure.svg|thumb|グリセリン]]
1,2,3-プロパントリオール(グリセリン)は、3価アルコールであり、無色で粘性が高い、不揮発性の液体である。水とは任意の割合で溶け合う。無毒であり甘味があるので、化粧品や医薬品の原料などに用いられる。火薬(ニトログリセリン)の原料や合成樹脂の原料ともなる。
動物の体内に存在する油脂は、グリセリンと脂肪酸のエステルである。
{{DEFAULTSORT:しほうそくかこうふつ あるこおる}}
[[Category:高等学校化学]]
[[Category:高等学校教育]]
[[Category:化学]]
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Nermer314
62933
wikitext
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{{:高等学校化学I/脂肪族化合物/Tab}}
== アルコールの構造と分類 ==
炭化水素の水素をヒドロキシ基 -OHで置換した構造の化合物を'''アルコール'''(alcohol)という。メタノールやエタノールなどは、ヒドロキシ基 -OH をもっているので、アルコールである。
右表に主なアルコールを示す。
{|border=1 cellspacing=0 align=right text-align=center style="text-align:center"
|- style="background:silver"
! 示性式 !! 名称 !! 構造式
|-
| CH{{sub|3}}OH || '''メタノール''' || [[File:Methanol Lewis.svg|100px|メタノール]]
|-
| C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH || '''エタノール''' || [[File:Ethanol-structure.png|150px|エタノール]]
|}
アルコールは分子中のヒドロキシ基の個数や結合の仕方による、いくつかの分類がある。
; 価数 : アルコール分子中のヒドロキシ基の個数をそのアルコールの'''価数'''という。
分子中にヒドロキシ基が1個のものを1価アルコールという。分子中にヒドロキシ基が2個のものを2価アルコールという。
メタノールもエタノールも、一価アルコールである。2価以上のものを多価アルコールという。
{|border=1 cellspacing=0 align=center text-align=center style="text-align:center"
|- style="background:silver"
! 分類 !! 名称 !! 化学式 !! 融点(℃) !! 沸点(℃)
|-
| 一価アルコール || メタノール<br />エタノール<br />1-プロパノール<br />1-ブタノール || CH{{sub|3}}-OH<br />CH{{sub|3}}-CH{{sub|2}}-OH<br />CH{{sub|3}}-CH{{sub|2}}-CH{{sub|2}}-OH<br />CH{{sub|3}}-CH{{sub|2}}-CH{{sub|2}}-CH{{sub|2}}-OH<br /> || ー98℃<br />ー115℃<br />ー127℃<br />ー90℃ || 65℃<br />78℃<br />97℃<br />117℃
|-
| 二価アルコール || エチレングリコール<br />(1,2-エタンジオール) || [[File:Glikol.svg|100px|エチレングリコール]] || ー13℃ || 198℃
|-
| 三価アルコール || グリセリン<br />(1,2,3-プロパントリオール)|| [[File:Glycerin - Glycerol.svg|150px|グリセリン]] || 18℃ || 290℃(分解)
|-
|}
; 級数 : アルコール分子中の、ヒドロキシ基に結合している炭素原子に結合している炭素原子の個数による分類があり、以下のように第一級、第二級、第三級に分類される。
OH基のついた炭素に他の炭素が1つ結合している場合を'''第一級アルコール'''という。
同様に、OH基のついた炭素に他の炭素が2つ結合している場合を'''第二級アルコール'''という。
同様に、OH基のついた炭素に他の炭素が3つ結合している場合を'''第三級アルコール'''という。
二クロム酸カリウム水溶液などの酸化剤により第一級アルコールと第二級アルコールは酸化され、それぞれアルデヒドおよびケトンを生じる。
{|border=1 cellspacing=0 align=center text-align=center style="text-align:center"
|- style="background:silver"
!分類!!構造!!化合物の例!!沸点
|-
|第一級<br />アルコール||[[File:第一級アルコール.svg|150px|第一級アルコール]]||1-ブタノール<br />2-メチル-1-プロパノール||117℃<br />118℃
|-
|第二級<br />アルコール||[[File:第二級アルコール.svg|150px|第二級アルコール]]||[[File:2ブタノール.svg|200px|2-ブタノール]]<br />2-ブタノール||99℃
|-
|第三級<br />アルコール||[[File:第三級アルコール.svg|150px|第三級アルコール]]||[[File:Tert bütil alkol ücüncül bir alkol.svg|150px|2-メチル-2-プロパノール]]<br />2-メチル-2-プロパノール||83℃
|}
=== アルコールの性質 ===
==== 水溶性 ====
アルコールは親水性のヒドロキシ基と疎水性の炭化水素基をもつ。そのため、エタノールなどの低級アルコールや、グリセリンのような-OH基の多いアルコールは、水に溶けやすい。炭素数の割合が多くなると炭化水素としての性質が強くなり、水に溶けにくくなる。たとえば、炭素数が4の1-ブタノールや炭素数が5の1-ペンタノールは水に難溶である。
また、アルコールは水に溶けても電離しないため中性である。
==== 融点や沸点 ====
アルコールのOH基によって、水素結合が形成されるため、分子量が同程度の炭化水素と比べて、沸点や融点が高い。
=== アルコールの反応 ===
==== ナトリウムとの反応 ====
アルコールに金属ナトリウムNaを加えると、水素が発生し、ナトリウムアルコキシド R-ONa を生じる。
<chem>2R-OH + 2Na -> 2R-ONa + H2 ^</chem>
例えばエタノールにナトリウムを反応させると、水素を発生しながらナトリウムエトキシド(C{{sub|2}}H{{sub|5}}ONa)を生じる。
: <chem>2C2H5OH + 2Na -> 2C2H5ONa + H2 ^</chem>
炭素数が多いほどナトリウムと穏やかに反応するようになる。この反応は有機化合物中のヒドロキシ基の有無を調べる一つの方法である。
ナトリウムアルコキシド(R-ONa)に水を加えると、加水分解して水酸化ナトリウムを生じるため塩基性を示す。
: R-ONa + H{{sub|2}}O → R-OH + NaOH
==== 酸化反応 ====
* アルコールに適当な酸化剤を用いて酸化させた場合
:第一級アルコールを酸化させると、まずアルデヒドになり、アルデヒドがさらに酸化すると、カルボン酸になる。
:第二級アルコールは、酸化されるとケトンになる。
:第三級アルコールは、酸化されにくい。
:
第一級アルコール [[File:第一級アルコール.svg|100px|第一級アルコール]] <chem> -> </chem> アルデヒド[[File:Aldehyd - Aldehyde.svg|100px|]] <chem> -> </chem> カルボン酸[[File:Carboxylic-acid.svg|100px|]]
第二級アルコール [[File:第二級アルコール.svg|100px|第二級アルコール]] <chem> -> </chem> ケトン[[File:Keton - Ketone.svg|100px|]]
==== 脱水反応 ====
濃硫酸を加熱して約130℃にしたものに、アルコールを加えると、アルコール分子内での脱水反応が起きたり、もしくはアルコールの2分子間で脱水反応が起きて、エーテルやアルケンを生じる。
具体的には、エタノールと濃硫酸とを混合し、約170℃に加熱するとエチレンを生じる。約130℃で加熱すると、分子間脱水が優先してジエチルエーテルを生じる。
なお、このジエチルエーテルの生成のように、2つの分子間から水などの小さな分子がとれて1つの分子になることを、縮合(しゅくごう、condensation)という。
=== メタノール ===
'''メタノール'''(CH{{sub|3}}OH)はメチルアルコールとも呼ばれる、無色透明の液体である。
人体には有毒で、飲むと失明の恐れがある。水と混和する。
メタノールの製法は、触媒に酸化亜鉛 ZnO と <chem>Cr2O3</chem> を用いて、一酸化炭素 CO と水素 H<sub>2</sub> とを反応させる。
:CO + 2H<sub>2</sub> → CH<sub>3</sub>OH
メタノールは、溶媒や燃料のほか、薬品の原料や化学製品の原料などとして、用いられている.
二クロム酸カリウム水溶液などによりメタノールは酸化され、ホルムアルデヒドとなる。
: <math>\mathrm{CH_3OH} \xrightarrow{-2 \mathrm H (*)} \mathrm{HCHO}</math>
<br />
:(*)水素原子が分子から奪われる酸化反応である。
=== エタノール ===
'''エタノール'''(C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH)は無色透明の液体のアルコールである。エチルアルコールとも呼ばれる。アルコール飲料(酒)に含まれている。糖やデンプンなどの発酵により、エタノールが得られる。
:発酵: C{{sub|6}}H{{sub|12}}O{{sub|6}} → 2C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH + 2CO{{sub|2}}
工業的にはエチレンに水分子を付加することにより合成される。
:合成: CH{{sub|2}}=CH{{sub|2}} + H{{sub|2}}O → CH{{sub|3}}CH{{sub|2}}OH
濃硫酸には脱水作用があるため、エタノールと濃硫酸とを混合して加熱すると脱水反応がおこる。しかし、温度により異なった脱水反応がおこり、異なる物質が生成する。130℃程度で反応させるとエタノール2分子から水が取り除かれてジエチルエーテルを生じる。このように2分子から簡単な分子が取り除かれて結合し1つの分子となることを'''縮合'''(しゅくごう、condensation)という。
: 2C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH → C{{sub|2}}H{{sub|5}}-O-C{{sub|2}}H{{sub|5}} + H{{sub|2}}O
一方、160℃程度で反応させるとエタノール1分子の中で水が取り除かれ、エチレンを生じる。
: C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH → CH{{sub|2}}=CH{{sub|2}} + H{{sub|2}}O
== 参考: 多価アルコール ==
=== エチレングリコール ===
[[File:Glikol.svg|100px|thumb|エチレングリコール]]
'''エチレングリコール'''(1,2エタンジオール)は、2価アルコールであり、無色で粘性が高い、不揮発性の液体である。水とは任意の割合で溶け合う。
自動車のラジエーターの不凍液として用いられる。また、合成繊維や合成樹脂の原料としてもエチレングリコールは用いられる。
:(※範囲外) 不凍液として用いられる場合、誤飲を防ぐために着色されている(緑色などに着色されている)。(※ 第一学習社の教科書で、不凍液の着色について紹介している。)
:ウィキペディア日本語版によると、エチレングリコールそのものの色は無色透明。また、エチレングリコールには毒性があるとのこと。
ペットボトルの材質ポリエチレンテレフタラートをつくるための原料にも、エチレングリコールは使われている。(※ くわしくは化学IIで習う。)
エチレングリコールには甘味があるが(※ 文英堂シグマベストで教えている)、しかし毒性があるので、けっして飲んだりしてはいけない。
:※ エチレングリコールがヒドロキシル基をもつことと、水に溶けることを関連づけて覚えよう(参考書などで、そういう説明をしている)。検定教科書では慎重性を期して、そういう理屈付けはしてないが、覚えやすいので、関連づけよう。
* 範囲外: エチレングリコールの製法
:(※ いちおう第一学習社の教科書に書いてあるが、ほとんどの教科書・参考書で触れられておらず、事実上の高校範囲外。)
[[File:Ethylenoxide-2.svg|thumb|エチレンオキシド]]
エチレンを(ある触媒のもと)酸素と反応させ、「エチレンオキシド」という物質をつくる。(カッコ内「ある触媒のもと」は、検定教科書にない説明。wikibooksによる追記。)(※ 範囲外:) なお、エチレンオキシドは沸点が約10℃なので、常温では気体になりやすい。医学で滅菌用のガスとしてもエチレンオキシドは使われる。(ここまで範囲外)
そして、そのエチレンオキシドを(酸によって)加水分解させ、エチレングリコールをつくれる。(カッコ内「酸によって」は、検定教科書にない説明。wikibooksによる追記。)
つまり、
:エチレン → エチレンオキシド → エチレングリコール
という反応である。
※ 「エチレンオキシド」が高校範囲外である。かなり高度な受験参考書ですら、「エチレンオキシド」については触れられてない場合がほとんどである。なので高校生は、「エチレンオキシド」について大学受験では暗記の必要は無いだろう。
=== グリセリン ===
[[File:Glycerol structure.svg|thumb|グリセリン]]
1,2,3-プロパントリオール(グリセリン)は、3価アルコールであり、無色で粘性が高い、不揮発性の液体である。水とは任意の割合で溶け合う。無毒であり甘味があるので、化粧品や医薬品の原料などに用いられる。火薬(ニトログリセリン)の原料や合成樹脂の原料ともなる。
動物の体内に存在する油脂は、グリセリンと脂肪酸のエステルである。
{{DEFAULTSORT:しほうそくかこうふつ あるこおる}}
[[Category:高等学校化学]]
[[Category:高等学校教育]]
[[Category:化学]]
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2022-08-22T11:35:29Z
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/* ナトリウムとの反応 */
wikitext
text/x-wiki
{{:高等学校化学I/脂肪族化合物/Tab}}
== アルコールの構造と分類 ==
炭化水素の水素をヒドロキシ基 -OHで置換した構造の化合物を'''アルコール'''(alcohol)という。メタノールやエタノールなどは、ヒドロキシ基 -OH をもっているので、アルコールである。
右表に主なアルコールを示す。
{|border=1 cellspacing=0 align=right text-align=center style="text-align:center"
|- style="background:silver"
! 示性式 !! 名称 !! 構造式
|-
| CH{{sub|3}}OH || '''メタノール''' || [[File:Methanol Lewis.svg|100px|メタノール]]
|-
| C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH || '''エタノール''' || [[File:Ethanol-structure.png|150px|エタノール]]
|}
アルコールは分子中のヒドロキシ基の個数や結合の仕方による、いくつかの分類がある。
; 価数 : アルコール分子中のヒドロキシ基の個数をそのアルコールの'''価数'''という。
分子中にヒドロキシ基が1個のものを1価アルコールという。分子中にヒドロキシ基が2個のものを2価アルコールという。
メタノールもエタノールも、一価アルコールである。2価以上のものを多価アルコールという。
{|border=1 cellspacing=0 align=center text-align=center style="text-align:center"
|- style="background:silver"
! 分類 !! 名称 !! 化学式 !! 融点(℃) !! 沸点(℃)
|-
| 一価アルコール || メタノール<br />エタノール<br />1-プロパノール<br />1-ブタノール || CH{{sub|3}}-OH<br />CH{{sub|3}}-CH{{sub|2}}-OH<br />CH{{sub|3}}-CH{{sub|2}}-CH{{sub|2}}-OH<br />CH{{sub|3}}-CH{{sub|2}}-CH{{sub|2}}-CH{{sub|2}}-OH<br /> || ー98℃<br />ー115℃<br />ー127℃<br />ー90℃ || 65℃<br />78℃<br />97℃<br />117℃
|-
| 二価アルコール || エチレングリコール<br />(1,2-エタンジオール) || [[File:Glikol.svg|100px|エチレングリコール]] || ー13℃ || 198℃
|-
| 三価アルコール || グリセリン<br />(1,2,3-プロパントリオール)|| [[File:Glycerin - Glycerol.svg|150px|グリセリン]] || 18℃ || 290℃(分解)
|-
|}
; 級数 : アルコール分子中の、ヒドロキシ基に結合している炭素原子に結合している炭素原子の個数による分類があり、以下のように第一級、第二級、第三級に分類される。
OH基のついた炭素に他の炭素が1つ結合している場合を'''第一級アルコール'''という。
同様に、OH基のついた炭素に他の炭素が2つ結合している場合を'''第二級アルコール'''という。
同様に、OH基のついた炭素に他の炭素が3つ結合している場合を'''第三級アルコール'''という。
二クロム酸カリウム水溶液などの酸化剤により第一級アルコールと第二級アルコールは酸化され、それぞれアルデヒドおよびケトンを生じる。
{|border=1 cellspacing=0 align=center text-align=center style="text-align:center"
|- style="background:silver"
!分類!!構造!!化合物の例!!沸点
|-
|第一級<br />アルコール||[[File:第一級アルコール.svg|150px|第一級アルコール]]||1-ブタノール<br />2-メチル-1-プロパノール||117℃<br />118℃
|-
|第二級<br />アルコール||[[File:第二級アルコール.svg|150px|第二級アルコール]]||[[File:2ブタノール.svg|200px|2-ブタノール]]<br />2-ブタノール||99℃
|-
|第三級<br />アルコール||[[File:第三級アルコール.svg|150px|第三級アルコール]]||[[File:Tert bütil alkol ücüncül bir alkol.svg|150px|2-メチル-2-プロパノール]]<br />2-メチル-2-プロパノール||83℃
|}
=== アルコールの性質 ===
==== 水溶性 ====
アルコールは親水性のヒドロキシ基と疎水性の炭化水素基をもつ。そのため、エタノールなどの低級アルコールや、グリセリンのような-OH基の多いアルコールは、水に溶けやすい。炭素数の割合が多くなると炭化水素としての性質が強くなり、水に溶けにくくなる。たとえば、炭素数が4の1-ブタノールや炭素数が5の1-ペンタノールは水に難溶である。
また、アルコールは水に溶けても電離しないため中性である。
==== 融点や沸点 ====
アルコールのOH基によって、水素結合が形成されるため、分子量が同程度の炭化水素と比べて、沸点や融点が高い。
=== アルコールの反応 ===
==== ナトリウムとの反応 ====
アルコールに金属ナトリウムNaを加えると、水素が発生し、ナトリウムアルコキシド R-ONa を生じる。
<chem>2R-OH + 2Na -> 2R-ONa + H2 ^</chem>
例えばエタノールにナトリウムを反応させると、水素を発生しながらナトリウムエトキシド(C{{sub|2}}H{{sub|5}}ONa)を生じる。
: <chem>2C2H5OH + 2Na -> 2C2H5ONa + H2 ^</chem>
炭素数が多いほどナトリウムと穏やかに反応するようになる。この反応は有機化合物中のヒドロキシ基の有無を調べる一つの方法である。
ナトリウムアルコキシド(R-ONa)に水を加えると、加水分解して水酸化ナトリウムを生じるため塩基性を示す。
: R-ONa + H{{sub|2}}O → R-OH + NaOH
==== 酸化反応 ====
* アルコールに適当な酸化剤を用いて酸化させた場合
:第一級アルコールを酸化させると、まずアルデヒドになり、アルデヒドがさらに酸化すると、カルボン酸になる。
:第二級アルコールは、酸化されるとケトンになる。
:第三級アルコールは、酸化されにくい。
:
第一級アルコール [[File:第一級アルコール.svg|100px|第一級アルコール]] <chem> -> </chem> アルデヒド[[File:Aldehyd - Aldehyde.svg|100px|]] <chem> -> </chem> カルボン酸[[File:Carboxylic-acid.svg|100px|]]
第二級アルコール [[File:第二級アルコール.svg|100px|第二級アルコール]] <chem> -> </chem> ケトン[[File:Keton - Ketone.svg|100px|]]
==== 脱水反応 ====
濃硫酸を加熱して約130℃にしたものに、アルコールを加えると、アルコール分子内での脱水反応が起きたり、もしくはアルコールの2分子間で脱水反応が起きて、エーテルやアルケンを生じる。
具体的には、エタノールと濃硫酸とを混合し、約170℃に加熱するとエチレンを生じる。約130℃で加熱すると、分子間脱水が優先してジエチルエーテルを生じる。
なお、このジエチルエーテルの生成のように、2つの分子間から水などの小さな分子がとれて1つの分子になることを、縮合(しゅくごう、condensation)という。
=== メタノール ===
'''メタノール'''(CH{{sub|3}}OH)はメチルアルコールとも呼ばれる、無色透明の液体である。
人体には有毒で、飲むと失明の恐れがある。水と混和する。
メタノールの製法は、触媒に酸化亜鉛 ZnO と <chem>Cr2O3</chem> を用いて、一酸化炭素 CO と水素 H<sub>2</sub> とを反応させる。
:CO + 2H<sub>2</sub> → CH<sub>3</sub>OH
メタノールは、溶媒や燃料のほか、薬品の原料や化学製品の原料などとして、用いられている.
二クロム酸カリウム水溶液などによりメタノールは酸化され、ホルムアルデヒドとなる。
: <math>\mathrm{CH_3OH} \xrightarrow{-2 \mathrm H (*)} \mathrm{HCHO}</math>
<br />
:(*)水素原子が分子から奪われる酸化反応である。
=== エタノール ===
'''エタノール'''(C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH)は無色透明の液体のアルコールである。エチルアルコールとも呼ばれる。アルコール飲料(酒)に含まれている。糖やデンプンなどの発酵により、エタノールが得られる。
:発酵: C{{sub|6}}H{{sub|12}}O{{sub|6}} → 2C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH + 2CO{{sub|2}}
工業的にはエチレンに水分子を付加することにより合成される。
:合成: CH{{sub|2}}=CH{{sub|2}} + H{{sub|2}}O → CH{{sub|3}}CH{{sub|2}}OH
濃硫酸には脱水作用があるため、エタノールと濃硫酸とを混合して加熱すると脱水反応がおこる。しかし、温度により異なった脱水反応がおこり、異なる物質が生成する。130℃程度で反応させるとエタノール2分子から水が取り除かれてジエチルエーテルを生じる。このように2分子から簡単な分子が取り除かれて結合し1つの分子となることを'''縮合'''(しゅくごう、condensation)という。
: 2C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH → C{{sub|2}}H{{sub|5}}-O-C{{sub|2}}H{{sub|5}} + H{{sub|2}}O
一方、160℃程度で反応させるとエタノール1分子の中で水が取り除かれ、エチレンを生じる。
: C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH → CH{{sub|2}}=CH{{sub|2}} + H{{sub|2}}O
== 参考: 多価アルコール ==
=== エチレングリコール ===
[[File:Glikol.svg|100px|thumb|エチレングリコール]]
'''エチレングリコール'''(1,2エタンジオール)は、2価アルコールであり、無色で粘性が高い、不揮発性の液体である。水とは任意の割合で溶け合う。
自動車のラジエーターの不凍液として用いられる。また、合成繊維や合成樹脂の原料としてもエチレングリコールは用いられる。
:(※範囲外) 不凍液として用いられる場合、誤飲を防ぐために着色されている(緑色などに着色されている)。(※ 第一学習社の教科書で、不凍液の着色について紹介している。)
:ウィキペディア日本語版によると、エチレングリコールそのものの色は無色透明。また、エチレングリコールには毒性があるとのこと。
ペットボトルの材質ポリエチレンテレフタラートをつくるための原料にも、エチレングリコールは使われている。(※ くわしくは化学IIで習う。)
エチレングリコールには甘味があるが(※ 文英堂シグマベストで教えている)、しかし毒性があるので、けっして飲んだりしてはいけない。
:※ エチレングリコールがヒドロキシル基をもつことと、水に溶けることを関連づけて覚えよう(参考書などで、そういう説明をしている)。検定教科書では慎重性を期して、そういう理屈付けはしてないが、覚えやすいので、関連づけよう。
* 範囲外: エチレングリコールの製法
:(※ いちおう第一学習社の教科書に書いてあるが、ほとんどの教科書・参考書で触れられておらず、事実上の高校範囲外。)
[[File:Ethylenoxide-2.svg|thumb|エチレンオキシド]]
エチレンを(ある触媒のもと)酸素と反応させ、「エチレンオキシド」という物質をつくる。(カッコ内「ある触媒のもと」は、検定教科書にない説明。wikibooksによる追記。)(※ 範囲外:) なお、エチレンオキシドは沸点が約10℃なので、常温では気体になりやすい。医学で滅菌用のガスとしてもエチレンオキシドは使われる。(ここまで範囲外)
そして、そのエチレンオキシドを(酸によって)加水分解させ、エチレングリコールをつくれる。(カッコ内「酸によって」は、検定教科書にない説明。wikibooksによる追記。)
つまり、
:エチレン → エチレンオキシド → エチレングリコール
という反応である。
※ 「エチレンオキシド」が高校範囲外である。かなり高度な受験参考書ですら、「エチレンオキシド」については触れられてない場合がほとんどである。なので高校生は、「エチレンオキシド」について大学受験では暗記の必要は無いだろう。
=== グリセリン ===
[[File:Glycerol structure.svg|thumb|グリセリン]]
1,2,3-プロパントリオール(グリセリン)は、3価アルコールであり、無色で粘性が高い、不揮発性の液体である。水とは任意の割合で溶け合う。無毒であり甘味があるので、化粧品や医薬品の原料などに用いられる。火薬(ニトログリセリン)の原料や合成樹脂の原料ともなる。
動物の体内に存在する油脂は、グリセリンと脂肪酸のエステルである。
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[[Category:高等学校化学]]
[[Category:高等学校教育]]
[[Category:化学]]
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高等学校化学I/脂肪族化合物/エーテル
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2022-08-22T11:44:32Z
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wikitext
text/x-wiki
{{:高等学校化学I/脂肪族化合物/Tab}}
酸素原子に2個の炭化水素基が結合した構造 <chem>R-O-R'</chem> をもつ化合物を'''エーテル(ether)'''という。エーテル中での-O-の結合を、エーテル結合という。
{| class="wikitable" style="text-align:center; float: right;"
|- style="background:silver"
!示性式!!名称!!構造式!!沸点(℃)
|-
|CH{{sub|3}}-O-CH{{sub|3}}||ジメチルエーテル||[[File:Dimethyl-ether-2D-flat.png|100px|ジメチルエーテル]]||-25℃
|-
|C{{sub|2}}H{{sub|5}}-O-C{{sub|2}}H{{sub|5}}||ジエチルエーテル||[[File:Diethyl-ether-2D-flat.png|150px|ジエチルエーテル]]||34℃
|-
|C{{sub|2}}H{{sub|5}}-O-C{{sub|}}H{{sub|3}}||エチルメチルエーテル||||7℃
|}
=== エーテルの性質 ===
エーテルは1価アルコールと構造異性体の関係にある。たとえばジメチルエーテルとエタノールは互いに異性体である。
エーテルはヒドロキシ基 -OH を持たないため、水に溶けにくく、水素結合をしないため、エーテルの沸点・融点はアルコールよりも低い。
たとえば、沸点はジメチルエーテル CH<sub>3</sub>-O-CH<sub>3</sub> の融点は-145℃であり沸点は -25℃ であり、分子量が同程度のエタノール(沸点78℃)とくらべて、かなり低い。
また、エーテルは、ナトリウムとも反応しない。
アルコールを濃硫酸と混合して脱水縮合させることでエーテルが生成する。
=== ジエチルエーテル ===
ジエチルエーテル(diethyl ether)は無色で揮発性の液体であり、引火しやすいため取り扱いに注意が必要である。麻酔性がある。
ジエチルエーテルは水には溶けにくく、有機物をよく溶かすので、有機溶媒としても用いられる。油脂などの有機化合物を抽出するさいの溶媒として、ジエチルエーテルが用いられる。
エタノールに濃硫酸を加えて130~140°Cで加熱するとジエチルエーテルが生成する。
単にエーテルというと、ジエチルエーテルを指す。
:
{{DEFAULTSORT:しほうそくかこうふつ えてる}}
[[Category:高等学校化学]]
[[Category:高等学校教育]]
[[Category:化学]]
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2022-08-22T11:49:11Z
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text/x-wiki
{{:高等学校化学I/脂肪族化合物/Tab}}
酸素原子に2個の炭化水素基が結合した構造 <chem>R-O-R'</chem> をもつ化合物を'''エーテル(ether)'''という。エーテル中での-O-の結合を、エーテル結合という。
{| class="wikitable" style="text-align:center; float: right;"
|- style="background:silver"
!示性式!!名称!!構造式!!沸点(℃)
|-
|CH{{sub|3}}-O-CH{{sub|3}}||ジメチルエーテル||[[File:Dimethyl-ether-2D-flat.png|100px|ジメチルエーテル]]||-25℃
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|C{{sub|2}}H{{sub|5}}-O-C{{sub|}}H{{sub|3}}||エチルメチルエーテル||||7℃
|}
=== エーテルの性質 ===
エーテルは1価アルコールと構造異性体の関係にある。たとえばジメチルエーテルとエタノールは互いに異性体である。
エーテルはヒドロキシ基 -OH を持たないため、水に溶けにくく、水素結合をしないため、エーテルの沸点・融点はアルコールよりも低い。
たとえば、沸点はジメチルエーテル CH<sub>3</sub>-O-CH<sub>3</sub> の融点は-145℃であり沸点は -25℃ であり、分子量が同程度のエタノール(沸点78℃)とくらべて、かなり低い。
また、エーテルは、ナトリウムとも反応しない。
アルコールを濃硫酸と混合して脱水縮合させることでエーテルが生成する。
=== ジエチルエーテル ===
ジエチルエーテル(diethyl ether)は無色で揮発性の液体であり、引火しやすいため取り扱いに注意が必要である。麻酔性がある。
ジエチルエーテルは水には溶けにくく、有機物をよく溶かすので、有機溶媒としても用いられる。油脂などの有機化合物を抽出するさいの溶媒として、ジエチルエーテルが用いられる。
エタノールに濃硫酸を加えて130~140°Cで加熱するとジエチルエーテルが生成する。
単にエーテルというと、ジエチルエーテルを指す。
=== エーテルの合成 ===
ナトリウムアルコキシド <chem>R-ONa</chem> とハロゲン化炭化水素 <chem>R'X</chem> の縮合によってエーテルが生成する。
<chem>R-ONa + R'X -> R-O-R' + NaX</chem>
{{DEFAULTSORT:しほうそくかこうふつ えてる}}
[[Category:高等学校化学]]
[[Category:高等学校教育]]
[[Category:化学]]
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高校化学 芳香族化合物
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2022-08-22T07:05:26Z
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wikitext
text/x-wiki
{{pathnav|高等学校の学習|高等学校理科|高等学校理科 化学|pagename=芳香族化合物|frame=1|small=1}}
= ベンゼン =
:[[File:ベンゼン環の分子模型.svg|thumb|left|150x150px|ベンゼンの分子模型]]
[[ファイル:Benezene-2D molecule.jpg|サムネイル|ベンゼンの構造。]]
'''ベンゼン'''C{{sub|6}}H{{sub|6}}は正六角形の環状構造である。
6つの炭素原子が正六角形に結合し、その外側に水素原子がひとつずつ結合した構造をもつ。これら12個の原子はすべて同一平面上にある。
この構造式を見ると炭素原子間の結合は二重結合と単結合が繰り返されているように思えるが、実際は、炭素原子間の6つの結合はすべて等価であり、単結合と二重結合の中間の1.5重結合のような性質を持っている。
この特徴的な環構造を'''ベンゼン環'''(benzene ring)という。ベンゼン環の構造は
:[[File:Benzol.svg|60px|ベンゼン環]] または [[File:Benzene circle.svg|60px|ベンゼン環]] または [[File:Benzol 2.svg|60px|ベンゼンの略記号。]] または [[File:Benzol 3.svg|60px|ベンゼンの略記号。]]
などと略記する。この教科書では、いずれの書き方も用いる。
=== 性質 ===
* 特有な臭いをもち、無色で揮発性の液体(沸点80℃、融点5.5℃)である。
* 水に溶けにくく、有機化合物をよく溶かすので、有機溶媒として用いられる。
* 引火しやすい。炭素原子の割合が多いため、多量のすすを出して燃える。
* 人体には有毒で発がん性がある。
== 芳香族炭化水素 ==
{| cellspacing="0" border="1" align="right"
!名称
!構造式
|-
|'''トルエン'''C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>CH<sub>3</sub>
|[[ファイル:Toluene_acsv.svg|91x91ピクセル|トルエン]]
|-
|'''スチレン'''
|[[ファイル:Polystyrol-Strukturformel.svg|100x100ピクセル|スチレン]]
|-
|'''ナフタレン'''C<sub>10</sub>H<sub>8</sub>
| [[ファイル:Naphthalene-2D-Skeletal.svg|100x100ピクセル|ナフタレン]]
|-
| '''アントラセン'''
C<sub>14</sub>H<sub>10</sub>
| [[ファイル:Anthracen.svg|150x150ピクセル|アントラセン]]
|-
|}
ベンゼン環をもつ炭化水素を'''{{Ruby|芳香|ほうこう}}族炭化水素'''(aromatic hydrocarbon)という。 芳香族炭化水素には、ベンゼンの原子が置換した'''トルエン'''(toluene、化学式:C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>CH<sub>3</sub>)やキシレンや、ベンゼンが2個結合した'''ナフタレン'''(naphthalene、化学式:C<sub>10</sub>H<sub>8</sub>)、などがある。
おもな芳香族炭化水素を右表に示す。
これらの化合物は芳香を持つものが多く、人体には有害なものが多い。また、ベンゼンと同様に可燃性があり、引火すると、すす を多く出して燃える。
キシレンには、2つのメチル基の位置によって3種類の異性体が存在する。
[[ファイル:Xylenes_ja.png|中央|500x500ピクセル|キシレンの異性体]]
''o''-,''m''-,''p''- はそれぞれ、オルト、メタ、パラと読む<ref>例えば、p-キシレンは、パラキシレンと読む。</ref>。
2つの置換基がある場合、ある置換基に対して、そのすぐ隣の位置を'''オルト位'''、1つ空いて離れた位置を'''メタ位'''、ベンゼン環を挟んで正反対の位置を'''パラ位'''と呼び、それぞれ記号''o''-,''m''-,''p''-をつけて異性体を区別する。
{| class="wikitable"
|+
!名称
!融点[℃]
!沸点[℃]
|-
|ベンゼン
|6
|80
|-
|トルエン
| -95
|111
|-
|スチレン
| -31
|145
|-
|o-キシレン
| -25
|144
|-
|m-キシレン
| -48
|139
|-
|p-キシレン
|13
|138
|-
|ナフタレン
|81
|218
|-
|アントラセン
|216
|342
|-
|}
=== ベンゼンの反応 ===
==== ベンゼンの置換反応 ====
ベンゼンは、ベンゼン環の安定性のため、アルケンよりは付加反応を起こしづらい。だが、置換反応では、環の構造が保存されるため、ベンゼンの水素原子は置換反応を起こしやすい。
*; スルホン化(スルホ基での置換反応)
: 濃硫酸にベンゼンを加え加熱すると、水素原子がスルホ基 -SO<sub>3</sub>H に置換され、'''ベンゼンスルホン酸''' ( C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>SO<sub>3</sub>H ) を生じる。
: [[ファイル:ベンゼンスルホン酸の合成式.svg|500x500ピクセル|ベンゼンスルホン酸の合成式]]
このように、スルホ基で置換される現象を'''スルホン化'''(sulfonation)という。
ベンゼンスルホン酸は強酸である。
*; ニトロ化(ニトロ基での置換反応)
: 濃硫酸と濃硝酸の混合物('''混酸'''(読み:「こんさん」) )にベンゼンを加え加熱すると、'''ニトロベンゼン''' ( C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>NO<sub>2</sub> ) を生じる。
:: [[ファイル:ニトロベンゼンの合成式.svg|500x500ピクセル|ニトロベンゼンの合成式]]
このような反応を'''ニトロ化'''(nitration)という。
ニトロベンゼンは、無色の液体で、特有の甘い香りをもつ。ニトロベンゼンは、水に溶けにくく、水より重い(密度1.2g/cm<sup>3</sup>)。
ニトロベンゼンのように、炭素原子に直接ニトロ基が結合した化合物をニトロ化合物という。
*; ハロゲン化(ハロゲン原子での置換反応)
: [[ファイル:1,4-dichlorobenzene.svg|サムネイル|191x191ピクセル|p-ジクロロベンゼン]]ベンゼンに触媒を用いてハロゲンを反応させると、置換反応が生じる。例えば塩素を反応させると水素原子を1つ置換して'''クロロベンゼン''' ( C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>Cl ) が生じる。
:: [[ファイル:クロロベンゼンの合成式.svg|500x500ピクセル|クロロベンゼンの生成]]
: クロロベンゼンにさらに塩素を付加すると生じるパラジクロロベンゼン(''p''-ジクロロベンゼン)は昇華性がある無色の固体(融点:54℃)であり、防虫剤として用いられる。
一般に、ハロゲン化合物ができる現象を'''ハロゲン化'''(halogenation)という。ベンゼンの、ハロゲンによる置換も、ハロゲン化の一例である。
==== ベンゼンの付加反応 ====
ベンゼンでは付加反応はほとんど起こらないが、高温高圧下で触媒を用いると、水素を付加されてシクロヘキサン ( C<sub>6</sub>H<sub>12</sub> ) を生じる。
: [[ファイル:ベンゼンの水素付加反応.svg|450x450ピクセル|ベンゼンの水素付加反応]]
また、ベンゼンと塩素の混合物に紫外線を加えても、付加反応を起こし、ヘキサクロロシクロヘキサン ( C<sub>6</sub>H<sub>6</sub>Cl<sub>6</sub> ) を生じる。
: [[ファイル:ベンゼンの塩素付加反応.svg|510x510ピクセル|ベンゼンの塩素付加反応]]
==== トルエンのニトロ化 ====
混酸をもちいてトルエンをニトロ化すると、o-位やp-位がニトロ化されて、ニトロトルエン C<sub>6</sub>H<sub>4</sub>(CH<sub>3</sub>)NO<sub>2</sub> が生じる。<gallery widths="150px" heights="150px">
File:O-Nitrotoluol.svg|o-ニトロトルエン
File:P-Nitrotoluol.svg|p-ニトロトルエン
File:Trinitrotoluene acsv.svg|2,4,6,-トリニトロトルエン
</gallery>さらにニトロ化すると、 2,4,6,-トリニトロトルエン(略称:TNT)が生じる。TNTは火薬の原料である。
== 発展: ベンゼン環の共鳴 ==
[[ファイル:共鳴を知らない場合のO-キシレンの想定.svg|サムネイル|300x300ピクセル|共鳴を知らない場合のo-キシレンの想像図(じっさいとは、ちがう)。]]
[[ファイル:Benzol_Representationen.svg|サムネイル|600x600ピクセル|π電子の説明図、など(図中の文字はドイツ語)下段の右から2つめの図 Benzol Delokalisierte π-Orbitalwolke の青色で表現された電子のように、ベンゼン環では価電子がリング状に存在している。]]
ベンゼンの異性体のひとつ、o-キシレンは、想像図のように2通りが考えられそうだが、じっさいには1通りしかない。
なぜなら、そもそもベンゼン環の環の部分のあいだの結合は、単結合と二重結合の中間の状態の結合になっているからである。 じっさいに、どんな実験によっても、o-キシレンは1種類しか発見されていない。
このように、単結合と二重結合の中間の状態の結合のある現象を'''共鳴'''(きょうめい)という。
ベンゼン環が共鳴をしているという事は、つまり、価電子が、特定の2個の炭素原子間に束縛されず、ベンゼン環のリング全体に円周状に均等に広がって存在しているという事である。このような現象を、電子の「非局在化」(ひ きょくざいか、英:delocation)などという。
(※ ベンゼン環での価電子の非局在化は、高校の範囲内。啓林館の検定教科書や、第一学習社の検定教科書などに、書いてある。)
つまり、ベンゼン環では、価電子が非局在化する事により、安定をしている。
なにもo-キシレンだけにかぎらず、すべてのベンゼン環は、このように共鳴している。
ベンゼン環が共鳴していることを明記したい場合、
[[ファイル:Benzene_circle.svg|左|72x72ピクセル|ベンゼン環]]
でベンゼン環を表記する場合もある。
{{-}} o-キシレンなどベンゼン環をもつ化合物にて、そのベンゼン環が共鳴してる構造式を書く場合には、書き方が主に2つある。 ひとつの書き方としては、下図のように両矢印でつないで書き、さらに [ ] で囲って、共鳴をあらわす。
[[ファイル:O-キシレンの共鳴_1.svg|左|サムネイル|300x300ピクセル|O-キシレンの共鳴の書き方のひとつ。]]
{{-}} あるいは、もうひとつの書き方として、構造式中のベンゼン環を [[ファイル:Benzene_circle.svg|72x72ピクセル|ベンゼン環]] で表して共鳴を表現してもよい。
[[ファイル:O-キシレンの共鳴_2.svg|左|サムネイル|200x200ピクセル|O-キシレンの共鳴の書き方のひとつ。]]
{{-}}
また、ベンゼン環は、共鳴によってエネルギー的に安定化する。そもそも、そのような原理によって、ベンゼン化合物で安定して存在できるのである。そして、ベンゼン環における共鳴とはつまり、価電子の非局在化のことだから、非局在化によって電子が安定的に存在できる、という事になる。
== フェノール類 ==
{| style="text-align:center" cellspacing="0" border="1" align="right"
!名称
!構造式
|-
|'''フェノール'''
|[[ファイル:Phenol-2D-skeletal.png|85x85ピクセル|フェノール]]
|-
|'''''o''-クレゾール'''
|[[ファイル:O-Kresol.png|76x76ピクセル|o-クレゾール]]
|-
|'''''m''-クレゾール'''
|[[ファイル:M-Kresol.png|76x76ピクセル|m-クレゾール]]
|-
|'''''p''-クレゾール'''
|[[ファイル:P-Kresol.png|99x99ピクセル|p-クレゾール]]
|}
ベンゼン環の置換基にヒドロキシ基を持つものを'''フェノール類'''(phenols)と呼ぶ。フェノール類には、フェノールのほか、クレゾール、ナフトールなどがある。フェノール類は互いに似た性質を示す。構造式を下に示すベンジルアルコールのように、ベンゼン環に直接ヒドロキシ基が結合しないものはフェノール類に属さず、この節で述べるような性質を持たない。
[[ファイル:Alkohol_benzylowy.svg|中央|サムネイル|150x150ピクセル|ベンジルアルコール。フェノール類ではない。]]
フェノール類の持つヒドロキシ基は水溶液中でわずかに電離し、弱酸性を示す。フェノール類の水溶液は、炭酸よりも弱い酸性を示す。
: [[ファイル:フェノキシドイオンの合成式.svg|600x600ピクセル|フェノキシドイオンの合成式]]
フェノール類は水中ではあまり電離せず、ほとんど溶けない。だがフェノールは弱酸なので、フェノールは強塩基の水酸化ナトリウムと反応して塩のナトリウムフェノキシドをつくって溶ける。
: [[ファイル:ナトリウムフェノキシドの合成式.svg|600x600ピクセル|ナトリウムフェノキシドの合成式]]
ナトリウムフェノキシドの溶液に、フェノールよりも強い酸である二酸化炭素などをくわえると、フェノールが生じる。
* ナトリウムとの反応
また、フェノール類は、アルコールと同様に単体のナトリウムと反応し、水素を発生する。
: 2[[ファイル:フェノール.svg|100x100ピクセル|フェノール]] + 2Na → 2 [[ファイル:Natriumphenolat_Structural_Formula_V.1.svg|80x80ピクセル|ナトリウムフェノキシド]] + H{{sub|2}}↑
=== 検出反応 ===
フェノール類水溶液は塩化鉄(Ⅲ)(FeCl{{sub|3}})水溶液を加えると青~赤紫色を呈する。この呈色反応はフェノール類の検出に重要である。ヒドロキシ基を持っていても、ベンゼン環に直接結合しないアルコールでは、この呈色反応は起こらない。
=== フェノール ===
'''フェノール'''はベンゼン環の水素原子を1つヒドロキシ基で置換した構造を持つ、人体には有毒な白色の固体である。石炭の乾留から得られるので石炭酸ともいう。
[[ファイル:Phenol-2D-skeletal.png|左|サムネイル|128x128ピクセル|フェノール]]
{{-}}
==== フェノールの合成 ====
フェノールはベンゼンを原料として様々な経路により合成することができる。中でも、工業的には'''クメン法'''(Cummene process)が重要である。
; クメン法
# ベンゼンとプロピレンを触媒を用いて反応させ、クメンを生じる。
# クメンを酸素で酸化し、クメンヒドロペルオキシドとする。
# 希硫酸により分解し、フェノールを生じる。この際、副生成物としてアセトンを生じる。
: [[ファイル:クメン法.svg|中央|700x700ピクセル|クメン法]]
このほかに、従来はベンゼンスルホン酸やクロロベンゼンからフェノールを合成する方法もあったが、現在は行われていない。
: [[ファイル:フェノールの昔の製法.svg|700x700ピクセル|フェノールの昔の製法]]
なお、ベンゼンスルホン酸からの製法では水酸化ナトリウムを300℃前後で融解させるので、'''アルカリ融解'''とも言われる。
==== フェノールの反応 ====
: [[ファイル:Pikrinsäure.svg|サムネイル|ピクリン酸]]
フェノールは反応性が高く、さまざまな化合物を生じる。フェノールに臭素を反応させると、ヒドロキシ基に対してオルト位とパラ位の水素原子が臭素で置換され、2,4,6-トリブロモフェノールの白色沈殿を生じる。
: [[ファイル:2,4,6-tribromophenol_synthesis.PNG|400x400ピクセル|2,4,6-トリブロモフェノールの合成]]
また、フェノールに濃硫酸と濃硝酸を作用させると、ヒドロキシ基に対してオルト位とパラ位をニトロ化してピクリン酸を生じる。
ベンゼン環にカルボキシル基が直接結合した有機化合物を'''芳香族カルボン酸'''(ほうこうぞくカルボンさん、aromatc carboxylic acid)という。一般に、水には溶けにくいが、水中ではわずかに電離して、水中では弱い酸性を示す。
また、水酸化ナトリウムなどの塩基の水溶液と中和して、塩を生じて、水に溶けるようになる。
芳香族カルボン酸は、医薬品や染料の原料として、よく用いられる。
=== 安息香酸 ===
[[ファイル:安息香酸.svg|サムネイル|安息香酸。高校では、このように略記するのが普通。]]
[[ファイル:Benzoesäure_V1.2.svg|サムネイル|安息香酸の構造。あまり、こうは描かない。]]
'''安息香酸'''(あんそく こうさん、benzoic acid) C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>COOH はベンゼン環の水素原子1つをカルボキシル基で置換した物質である。白色の固体で、水に溶けにくいが、熱水には溶け、水溶液中では弱酸性を示す。また、有機溶媒によく溶ける。最も単純な構造の芳香族カルボン酸であり、弱酸性を示す。安息香酸は水酸化ナトリウム水溶液に加えると、安息香酸ナトリウムを生じて溶ける。しかし、塩酸などの強酸を加えると、弱酸である安息香酸は遊離し、白色結晶が析出する。
: [[ファイル:安息香酸の合成式.svg|600x600ピクセル|安息香酸の合成式]]
安息香酸は、触媒をもちいてトルエンの酸化により得られる。トルエンを二酸化マンガンを触媒として酸化するか、あるいは過マンガン酸カリウム水溶液中で加熱するかで、トルエンの側鎖 -CH<sub>3</sub> が酸化されて安息香酸が得られる。
: [[ファイル:ベンズアルデヒドと安息香酸の式.svg|600x600ピクセル|ベンズアルデヒドと安息香酸の式]]
トルエンから安息香酸までの反応のさい、おだやかな条件で酸化させると、まずトルエンのメチル基 -CH<sub>3</sub> が酸化されアルデヒド基となり、-CHO基をもつベンズアルデヒド C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>CHO が生じる。ベンズアルデヒドは無色であり、芳香をもち、空気中で徐々に酸化されて、しだいに安息香酸になる。
{{-}}
=== フタル酸とテレフタル酸 ===
[[ファイル:Phthalic_Acid.PNG|サムネイル|フタル酸]]
'''フタル酸''' C<sub>6</sub>H<sub>4</sub>(COOH)<sub>2</sub> はベンゼン環に2つのカルボキシル基が、互いにオルト位に結合した物質である。フタル酸は2つのカルボキシル基が近い位置にあるため、加熱により分子内脱水反応が起こり、無水フタル酸を生じる。
: [[ファイル:フタル酸と無水フタル酸.svg|500x500ピクセル|フタル酸と無水フタル酸]]
フタル酸の製法は、工業的には、o(オルト)-キシレンの酸化によって得られる。「オルト」とは、ベンゼン環での隣り合った位置どうしの関係のこと。
なお、バナジウムの触媒でナフタレンを酸化しても、無水フタル酸が得られる。
'''テレフタル酸'''はフタル酸の異性体であり、互いにパラ位に2つのカルボキシル基が存在する。フタル酸とは異なり、カルボキシル基が離れているため、加熱しても脱水反応は起こらない。テレフタル酸はペットボトルやワイシャツなどの素材となるPET(ポリエチレンテレフタラート)の原料である。テレフタル酸の製法は、工業的には、p(パラ)-キシレンの酸化によって得られる。
: [[ファイル:テレフタル酸.svg|600x600ピクセル|テレフタル酸]]
{{-}}
=== サリチル酸 ===
'''サリチル酸'''は、ベンゼン環にカルボキシル基とヒドロキシ基が互いにオルト位に結合した物質である。 サリチル酸は、ナトリウムフェノキシドから合成される。ナトリウムフェノキシドに二酸化炭素を高温・高圧下で反応させるとサリチル酸ナトリウムが作られる。そのサリチル酸ナトリウムに希硫酸を作用させると、サリチル酸が得られる。
: [[ファイル:サリチル酸の合成式.svg|700x700ピクセル|サリチル酸の合成式]]
サリチル酸は無色(白色)の結晶で、水にはわずかに溶けて酸性を示す。温水やエタノールにはよく溶ける。サリチル酸はベンゼン環に直接ヒドロキシ基が結合しているため、芳香族カルボン酸としての性質を持つと同時に、[[高等学校化学I/芳香族化合物/芳香族カルボン酸#%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%AB%E9%A1%9E|フェノール類]]としての性質も持つ。
また、サリチル酸のヒドロキシ基を無水酢酸でアセチル化(アセチル基-OCOCH{{sub|3}}での置換反応)すると、'''アセチルサリチル酸'''となる。アセチルサリチル酸は「アスピリン」とも呼ばれ、解熱鎮痛剤として広く用いられている。
: [[ファイル:アセチルサリチル酸の合成式.svg|800x800ピクセル|アセチルサリチル酸の合成式]]
サリチル酸のカルボキシル基をメタノールでエステル化すると、'''サリチル酸メチル'''となる。サリチル酸メチルは湿布薬などに消炎剤として用いられる。
:
== 芳香族アミン ==
アンモニア NH<sub>3</sub> の水素基を炭化水素基で置換した化合物を'''アミン'''(amine)といい、その置換で置かれた炭化水素基が芳香族炭化水素基の場合を'''芳香族アミン'''(aliphateic amine)といい、つまりベンゼン環をもつアミンが芳香族アミンであり、具体例としては後述するアニリンが芳香族アミンである。
一般に芳香族アミンは弱塩基性であり、また、アンモニアに化学的性質が似ている。
=== アニリン ===
'''アニリン'''はベンゼンの水素原子1つをアミノ基で置換した物質である。アニリンは無色油状の液体で(沸点185℃)、水に溶けにくい。アニリンを水と混ぜると、分離して下に沈む。アミノ基は弱塩基性を示すため、塩酸と反応するとアニリン塩酸塩 C6H5NH5Cl を生じて、水に溶けるようになる。
: [[ファイル:アニリン塩酸塩の合成式.svg|600x600ピクセル|アニリン塩酸塩の合成式]]
アニリン塩酸塩に、水酸化ナトリウムのような強塩基の水溶液を加えると、油状のアニリンが遊離する。
アニリン溶液は、さらし粉の水溶液を加えると、酸化されて赤紫色になる。この呈色反応はアニリンの検出反応として重要である。
また、アニリンを硫酸酸性二クロム酸カリウム水溶液で酸化すると黒色物質を生じる。これは'''アニリンブラック'''(aniline black)と呼ばれ、黒色染料や黒色顔料として用いられる。
* 製法
アニリンの製法は、実験室ではニトロベンゼンから合成される。ニトロベンゼンにスズと塩酸を加えて加熱すると、還元され、アニリン塩酸塩を生じる。この水溶液に水酸化ナトリウム水溶液のような強塩基を加えて、アニリンを遊離させる。アニリンは水に溶けず分離するため、ジエチルエーテルを加えてアニリンをエーテルに溶かし抽出する。エーテル層と水層の2層に分離するため、エーテル層のみを取り出してエーテルを蒸発させると、アニリンが得られる。
: [[ファイル:Nitrobenzene-reduction.png|300x300ピクセル|アニリンの合成]]
=== アセトアニリド ===
アニリンに無水酢酸を作用させると、アミノ基がアセチル化され、'''アセトアニリド''' C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>NHCOCH<sub>3</sub> を生じる。アセトアニリドは無色無臭(白色)の固体であり、解熱鎮痛剤の原料となる。
: [[ファイル:アセトアニリドの合成式.svg|700x700ピクセル|アセトアニリドの合成式]]
この反応では、アミノ基とカルボキシ基との間で分子間脱水した結合-NH-CO-を生じている。この結合は'''アミド結合'''と呼ばれ、タンパク質やアミノ酸を構成する結合としても重要である。
== アゾ化合物 ==
アニリンに希塩酸を加えてアニリン塩酸塩とし、これを氷水につけて冷却しながら亜硝酸ナトリウム水溶液をすこしずつ反応させると、塩化ベンゼンジアゾニウム C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>N<sub>2</sub><sup>+</sup>Cl<sup>ー</sup> を生じる。-N{{sup|+}}≡Nを含む化合物ジアゾニウム化合物と呼び、このようにジアゾニウム塩を生じる反応を'''ジアゾ化'''(diazotization)と呼ぶ。
: [[ファイル:塩化ベンゼンジアゾニウムの合成式.svg|700x700ピクセル|塩化ベンゼンジアゾニウムの合成式]]
塩化ベンゼンジアゾニウムは非常に不安定な物質であり、常温ではフェノールと窒素に分解してしまう。そのため、低温に冷却して反応を進行させる必要がある。
塩化ベンゼンジアゾニウム水溶液にナトリウムフェノキシド水溶液を加えると、''p''-ヒドロキシアゾベンゼン(''p''-フェニルアゾフェノール)を生じて橙赤色(とうせきしょく)を呈する。このようにジアゾニウム塩と他の芳香族化合物からアゾ化合物を生成する反応を'''ジアゾカップリング'''(diazo coupling)と呼ぶ。
: [[ファイル:Pヒドロキシアゾベンゼンの合成式.svg|900x900ピクセル|Pヒドロキシアゾベンゼンの合成式]]
分子中に'''アゾ基''' -N=N- を持つ物質を'''アゾ化合物'''(azo compound)と呼ぶ。アゾ化合物は様々な色をもち、染料として用いられるものもある。また、このようにジアゾ二ウム塩から、アゾ基をもつ化合物をつくる反応を'''ジアゾカップリング'''(diazo coupling)という。
== アゾ化合物の利用 ==
芳香族アゾ化合物は、一般に、黄色〜赤色、橙色の化合物であり、染料('''アゾ染料''')や顔料として用いられる。
[[ファイル:Methyl-orange-sample.jpg|サムネイル|メチルオレンジ]]
[[ファイル:Methyl_orange_for_beginner_student_jp.svg|600x600ピクセル|メチルオレンジ]]
{{-}} またメチルオレンジやメチルレッドもアゾ化合物であり、水溶液中のpHによって色が変わるので、pH指示薬として用いられているものも存在する。
[[ファイル:Methyl_orange_02035.JPG|左|サムネイル|200x200ピクセル|メチルオレンジの溶液]]
{{DEFAULTSORT:ほうこうそくかこうふつ へんせん}}
[[Category:高等学校化学]]
[[Category:高等学校教育]]
[[Category:化学]]
<references />
== コラム ==
=== ベンゼンの発見の歴史 ===
[[ファイル:Frkekulé.jpg|サムネイル|ケクレ]]
ベンゼンは、イギリスのファラデーによって1825年に照明用の鯨油の熱分解生成物から単離され、発見された(※ 参考文献:数研出版チャート式化学、および 東京書籍の検定教科書『化学』)。しかし、分子構造は、ファラデーは分からなかった。
その後、ドイツのミッチェルリッヒにより、ベンゼンの化学式が C<sub>6</sub>H<sub>6</sub> である事が1834年に分かった。
しかし、当初は、なぜ付加反応が起こりづらいかが不明であった。
伝統的な化学史では「ベンゼンが6角形であることをドイツの化学者ケクレが発見した」と言われているが、だが近年の研究で、それが間違いであることが分かっている。ケクレが発見したとされる1860年よりも前に、すでに1854年に発表された化学者ローランの本でベンゼンが6角形で表されている<ref>山口達明、『有機化学の理論 <<学生の疑問に答えるノート>>』、三共株式会社、2020年10月10日 第5版 第1刷発行、P82</ref>。
なお、それでもケクレには別の業績があり、当時のドイツの化学者ケクレは、構造式で結合手を1本の棒で表すことを提案した人物である(※ 参考文献: 文英堂シグマベスト化学I・II)。ケクレは、さまざまな化学物質の分子構造をこの結合手の棒による表現方法であらわし、化学を発展させた。
ケクレが居眠り中にひらめいたとされるケクレの夢の内容は、おおむね下記のとおり。
{{コラム|「ケクレの夢」|ある日、ついにケクレは、ベンゼンの構造が、ひらめいた。
そしてケクレは、ベンゼンが6角形の構造をしていて、二重結合と単結合が交互に一つおきにあると考えると、つじつまがあうという事を、世界で初めて、1865年に提案した。
ケクレはベンゼンの構造をひらめく前、居眠りをしていたとき、夢で、原子のつながりがヘビのように動き、それらのヘビがおたがいの尻をかじって輪っか状になって、ぐるぐると回っている様子を夢で見た、といわれており、それをヒントにベンゼンの構造がひらめいたといわれる。
この業績をたたえてか、ベンゼンの分子構造のことを「ケクレ式」や「ケクレ構造」という場合もある。}}
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2022-08-22T07:24:49Z
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wikitext
text/x-wiki
{{pathnav|高等学校の学習|高等学校理科|高等学校理科 化学|pagename=芳香族化合物|frame=1|small=1}}
= ベンゼン =
:[[File:ベンゼン環の分子模型.svg|thumb|left|150x150px|ベンゼンの分子模型]]
[[ファイル:Benezene-2D molecule.jpg|サムネイル|ベンゼンの構造。]]
'''ベンゼン'''C{{sub|6}}H{{sub|6}}は正六角形の環状構造である。
6つの炭素原子が正六角形に結合し、その外側に水素原子がひとつずつ結合した構造をもつ。これら12個の原子はすべて同一平面上にある。
この構造式を見ると炭素原子間の結合は二重結合と単結合が繰り返されているように思えるが、実際は、炭素原子間の6つの結合はすべて等価であり、単結合と二重結合の中間の1.5重結合のような性質を持っている。
この特徴的な環構造を'''ベンゼン環'''(benzene ring)という。ベンゼン環の構造は
:[[File:Benzol.svg|60px|ベンゼン環]] または [[File:Benzene circle.svg|60px|ベンゼン環]] または [[File:Benzol 2.svg|60px|ベンゼンの略記号。]] または [[File:Benzol 3.svg|60px|ベンゼンの略記号。]]
などと略記する。この教科書では、いずれの書き方も用いる。
=== 性質 ===
* 特有な臭いをもち、無色で揮発性の液体(沸点80℃、融点5.5℃)である。
* 水に溶けにくく、有機化合物をよく溶かすので、有機溶媒として用いられる。
* 引火しやすい。炭素原子の割合が多いため、多量のすすを出して燃える。
* 人体には有毒で発がん性がある。
== 芳香族炭化水素 ==
{| cellspacing="0" border="1" align="right"
!名称
!構造式
|-
|'''トルエン'''C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>CH<sub>3</sub>
|[[ファイル:Toluene_acsv.svg|91x91ピクセル|トルエン]]
|-
|'''スチレン'''
|[[ファイル:Polystyrol-Strukturformel.svg|100x100ピクセル|スチレン]]
|-
|'''ナフタレン'''C<sub>10</sub>H<sub>8</sub>
| [[ファイル:Naphthalene-2D-Skeletal.svg|100x100ピクセル|ナフタレン]]
|-
| '''アントラセン'''
C<sub>14</sub>H<sub>10</sub>
| [[ファイル:Anthracen.svg|150x150ピクセル|アントラセン]]
|-
|}
ベンゼン環をもつ炭化水素を'''{{Ruby|芳香|ほうこう}}族炭化水素'''(aromatic hydrocarbon)という。 芳香族炭化水素には、ベンゼンの原子が置換した'''トルエン'''(toluene、化学式:C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>CH<sub>3</sub>)やキシレンや、ベンゼンが2個結合した'''ナフタレン'''(naphthalene、化学式:C<sub>10</sub>H<sub>8</sub>)、などがある。
おもな芳香族炭化水素を右表に示す。
これらの化合物は芳香を持つものが多く、人体には有害なものが多い。また、ベンゼンと同様に可燃性があり、引火すると、すす を多く出して燃える。
キシレンには、2つのメチル基の位置によって3種類の異性体が存在する。
[[ファイル:Xylenes_ja.png|中央|500x500ピクセル|キシレンの異性体]]
''o''-,''m''-,''p''- はそれぞれ、オルト、メタ、パラと読む<ref>例えば、p-キシレンは、パラキシレンと読む。</ref>。
2つの置換基がある場合、ある置換基に対して、そのすぐ隣の位置を'''オルト位'''、1つ空いて離れた位置を'''メタ位'''、ベンゼン環を挟んで正反対の位置を'''パラ位'''と呼び、それぞれ記号''o''-,''m''-,''p''-をつけて異性体を区別する。
{| class="wikitable"
|+
!名称
!融点[℃]
!沸点[℃]
|-
|ベンゼン
|6
|80
|-
|トルエン
| -95
|111
|-
|スチレン
| -31
|145
|-
|o-キシレン
| -25
|144
|-
|m-キシレン
| -48
|139
|-
|p-キシレン
|13
|138
|-
|ナフタレン
|81
|218
|-
|アントラセン
|216
|342
|-
|}
=== ベンゼンの反応 ===
==== ベンゼンの置換反応 ====
=== ベンゼンの置換反応 ===
ベンゼンは、ベンゼン環の安定性のため、アルケンよりは付加反応を起こしづらい。だが、置換反応では、環の構造が保存されるため、ベンゼンは置換反応を起こしやすい。
*; スルホン化(sulfonation)
: 濃硫酸にベンゼンを加え加熱すると、水素原子がスルホ基 -SO<sub>3</sub>H に置換され、'''ベンゼンスルホン酸''' ( C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>SO<sub>3</sub>H ) を生じる。
: [[ファイル:ベンゼンスルホン酸の合成式.svg|500x500ピクセル|ベンゼンスルホン酸の合成式]]
ベンゼンスルホン酸は強酸である。
*; ニトロ化(nitration)
: 濃硫酸と濃硝酸の混合物(混酸)にベンゼンを加え加熱すると、水素がニトロ基 -NO<sub>2</sub> で置換され、'''ニトロベンゼン''' ( C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>NO<sub>2</sub> ) を生じる。
:: [[ファイル:ニトロベンゼンの合成式.svg|500x500ピクセル|ニトロベンゼンの合成式]]
ニトロベンゼンは、無色の液体で、特有の甘い香りをもつ。ニトロベンゼンは、水に溶けにくく、水より重い(密度1.2g/cm<sup>3</sup>)。
ニトロベンゼンのように、炭素原子に直接ニトロ基が結合した化合物をニトロ化合物という。
*; ハロゲン化(halogenation)
: [[ファイル:1,4-dichlorobenzene.svg|サムネイル|191x191ピクセル|p-ジクロロベンゼン]]ベンゼンに触媒を用いてハロゲンを反応させると、置換反応が生じる。例えば塩素を反応させると水素原子を1つ置換して'''クロロベンゼン''' ( C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>Cl ) が生じる。
:: [[ファイル:クロロベンゼンの合成式.svg|500x500ピクセル|クロロベンゼンの生成]]
: クロロベンゼンにさらに塩素を付加すると生じるパラジクロロベンゼン(''p''-ジクロロベンゼン)は昇華性がある無色の固体(融点:54℃)であり、防虫剤として用いられる。
=== ベンゼンの付加反応 ===
ベンゼンでは付加反応はほとんど起こらないが、高温高圧下で触媒を用いると、水素を付加されてシクロヘキサン ( C<sub>6</sub>H<sub>12</sub> ) を生じる。
: [[ファイル:ベンゼンの水素付加反応.svg|450x450ピクセル|ベンゼンの水素付加反応]]
また、ベンゼンと塩素の混合物に紫外線を加えても、付加反応を起こし、ヘキサクロロシクロヘキサン ( C<sub>6</sub>H<sub>6</sub>Cl<sub>6</sub> ) を生じる。
: [[ファイル:ベンゼンの塩素付加反応.svg|510x510ピクセル|ベンゼンの塩素付加反応]]
==== トルエンのニトロ化 ====
混酸をもちいてトルエンをニトロ化すると、o-位やp-位がニトロ化されて、ニトロトルエン C<sub>6</sub>H<sub>4</sub>(CH<sub>3</sub>)NO<sub>2</sub> が生じる。<gallery widths="150px" heights="150px">
File:O-Nitrotoluol.svg|o-ニトロトルエン
File:P-Nitrotoluol.svg|p-ニトロトルエン
File:Trinitrotoluene acsv.svg|2,4,6,-トリニトロトルエン
</gallery>さらにニトロ化すると、 2,4,6,-トリニトロトルエン(略称:TNT)が生じる。TNTは火薬の原料である。
== 発展: ベンゼン環の共鳴 ==
[[ファイル:共鳴を知らない場合のO-キシレンの想定.svg|サムネイル|300x300ピクセル|共鳴を知らない場合のo-キシレンの想像図(じっさいとは、ちがう)。]]
[[ファイル:Benzol_Representationen.svg|サムネイル|600x600ピクセル|π電子の説明図、など(図中の文字はドイツ語)下段の右から2つめの図 Benzol Delokalisierte π-Orbitalwolke の青色で表現された電子のように、ベンゼン環では価電子がリング状に存在している。]]
ベンゼンの異性体のひとつ、o-キシレンは、想像図のように2通りが考えられそうだが、じっさいには1通りしかない。
なぜなら、そもそもベンゼン環の環の部分のあいだの結合は、単結合と二重結合の中間の状態の結合になっているからである。 じっさいに、どんな実験によっても、o-キシレンは1種類しか発見されていない。
このように、単結合と二重結合の中間の状態の結合のある現象を'''共鳴'''(きょうめい)という。
ベンゼン環が共鳴をしているという事は、つまり、価電子が、特定の2個の炭素原子間に束縛されず、ベンゼン環のリング全体に円周状に均等に広がって存在しているという事である。このような現象を、電子の「非局在化」(ひ きょくざいか、英:delocation)などという。
(※ ベンゼン環での価電子の非局在化は、高校の範囲内。啓林館の検定教科書や、第一学習社の検定教科書などに、書いてある。)
つまり、ベンゼン環では、価電子が非局在化する事により、安定をしている。
なにもo-キシレンだけにかぎらず、すべてのベンゼン環は、このように共鳴している。
ベンゼン環が共鳴していることを明記したい場合、
[[ファイル:Benzene_circle.svg|左|72x72ピクセル|ベンゼン環]]
でベンゼン環を表記する場合もある。
{{-}} o-キシレンなどベンゼン環をもつ化合物にて、そのベンゼン環が共鳴してる構造式を書く場合には、書き方が主に2つある。 ひとつの書き方としては、下図のように両矢印でつないで書き、さらに [ ] で囲って、共鳴をあらわす。
[[ファイル:O-キシレンの共鳴_1.svg|左|サムネイル|300x300ピクセル|O-キシレンの共鳴の書き方のひとつ。]]
{{-}} あるいは、もうひとつの書き方として、構造式中のベンゼン環を [[ファイル:Benzene_circle.svg|72x72ピクセル|ベンゼン環]] で表して共鳴を表現してもよい。
[[ファイル:O-キシレンの共鳴_2.svg|左|サムネイル|200x200ピクセル|O-キシレンの共鳴の書き方のひとつ。]]
{{-}}
また、ベンゼン環は、共鳴によってエネルギー的に安定化する。そもそも、そのような原理によって、ベンゼン化合物で安定して存在できるのである。そして、ベンゼン環における共鳴とはつまり、価電子の非局在化のことだから、非局在化によって電子が安定的に存在できる、という事になる。
== フェノール類 ==
{| style="text-align:center" cellspacing="0" border="1" align="right"
!名称
!構造式
|-
|'''フェノール'''
|[[ファイル:Phenol-2D-skeletal.png|85x85ピクセル|フェノール]]
|-
|'''''o''-クレゾール'''
|[[ファイル:O-Kresol.png|76x76ピクセル|o-クレゾール]]
|-
|'''''m''-クレゾール'''
|[[ファイル:M-Kresol.png|76x76ピクセル|m-クレゾール]]
|-
|'''''p''-クレゾール'''
|[[ファイル:P-Kresol.png|99x99ピクセル|p-クレゾール]]
|}
ベンゼン環にヒドロキシ基 -OH が直接結合したものを'''フェノール類'''(phenols)と呼ぶ。フェノール類には、フェノールのほか、クレゾール、ナフトールなどがある。フェノール類は互いに似た性質を示す。
構造式を下に示すベンジルアルコールのように、ベンゼン環に直接ヒドロキシ基が結合しないものはフェノール類に属さない。
[[ファイル:Alkohol_benzylowy.svg|中央|サムネイル|150x150ピクセル|ベンジルアルコール]]
フェノール類の持つヒドロキシ基は水溶液中でわずかに電離し、弱酸性を示す。フェノール類の水溶液は、炭酸よりも弱い酸性を示す。
: [[ファイル:フェノキシドイオンの合成式.svg|600x600ピクセル|フェノキシドイオンの合成式]]
フェノール類は水にほとんど溶けないが、塩基水溶液と反応して塩となり水に溶ける。
: [[ファイル:ナトリウムフェノキシドの合成式.svg|600x600ピクセル|ナトリウムフェノキシドの合成式]]
ナトリウムフェノキシドの溶液に、フェノールよりも強い酸である二酸化炭素などをくわえると、フェノールが生じる。
* ナトリウムとの反応
また、フェノール類は、アルコールと同様に単体のナトリウムと反応し、水素を発生する。
: 2[[ファイル:フェノール.svg|100x100ピクセル|フェノール]] + 2Na → 2 [[ファイル:Natriumphenolat_Structural_Formula_V.1.svg|80x80ピクセル|ナトリウムフェノキシド]] + H{{sub|2}}↑
=== 検出反応 ===
フェノール類水溶液は塩化鉄(Ⅲ) FeCl{{sub|3}} 水溶液を加えると青~赤紫色を呈する。この呈色反応はフェノール類の検出に利用される。
=== フェノール ===
'''フェノール'''はベンゼン環の水素原子を1つヒドロキシ基で置換した構造を持つ、人体には有毒な白色の固体である。石炭の乾留から得られるため石炭酸ともいう。
[[ファイル:Phenol-2D-skeletal.png|左|サムネイル|128x128ピクセル|フェノール]]
{{-}}
==== フェノールの合成 ====
フェノールはベンゼンを原料として様々な経路により合成することができる。中でも、工業的には'''クメン法'''(Cummene process)が重要である。
; クメン法
# ベンゼンとプロピレンを触媒を用いて反応させ、クメンを生じる。
# クメンを酸素で酸化し、クメンヒドロペルオキシドとする。
# 希硫酸により分解し、フェノールを生じる。この際、副生成物としてアセトンを生じる。
: [[ファイル:クメン法.svg|中央|700x700ピクセル|クメン法]]
このほかに、従来はベンゼンスルホン酸やクロロベンゼンからフェノールを合成する方法もあったが、現在は行われていない。
: [[ファイル:フェノールの昔の製法.svg|700x700ピクセル|フェノールの昔の製法]]
なお、ベンゼンスルホン酸からの製法では水酸化ナトリウムを300℃前後で融解させるので、'''アルカリ融解'''とも言われる。
==== フェノールの反応 ====
: [[ファイル:Pikrinsäure.svg|サムネイル|ピクリン酸]]
フェノールは反応性が高く、さまざまな化合物を生じる。フェノールに臭素を反応させると、ヒドロキシ基に対してオルト位とパラ位の水素原子が臭素で置換され、2,4,6-トリブロモフェノールの白色沈殿を生じる。
: [[ファイル:2,4,6-tribromophenol_synthesis.PNG|400x400ピクセル|2,4,6-トリブロモフェノールの合成]]
また、フェノールに濃硫酸と濃硝酸を作用させると、ヒドロキシ基に対してオルト位とパラ位をニトロ化してピクリン酸を生じる。
ベンゼン環にカルボキシル基が直接結合した有機化合物を'''芳香族カルボン酸'''(ほうこうぞくカルボンさん、aromatc carboxylic acid)という。一般に、水には溶けにくいが、水中ではわずかに電離して、水中では弱い酸性を示す。
また、水酸化ナトリウムなどの塩基の水溶液と中和して、塩を生じて、水に溶けるようになる。
芳香族カルボン酸は、医薬品や染料の原料として、よく用いられる。
=== 安息香酸 ===
[[ファイル:安息香酸.svg|サムネイル|安息香酸。高校では、このように略記するのが普通。]]
[[ファイル:Benzoesäure_V1.2.svg|サムネイル|安息香酸の構造。あまり、こうは描かない。]]
'''安息香酸'''(あんそく こうさん、benzoic acid) C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>COOH はベンゼン環の水素原子1つをカルボキシル基で置換した物質である。白色の固体で、水に溶けにくいが、熱水には溶け、水溶液中では弱酸性を示す。また、有機溶媒によく溶ける。最も単純な構造の芳香族カルボン酸であり、弱酸性を示す。安息香酸は水酸化ナトリウム水溶液に加えると、安息香酸ナトリウムを生じて溶ける。しかし、塩酸などの強酸を加えると、弱酸である安息香酸は遊離し、白色結晶が析出する。
: [[ファイル:安息香酸の合成式.svg|600x600ピクセル|安息香酸の合成式]]
安息香酸は、触媒をもちいてトルエンの酸化により得られる。トルエンを二酸化マンガンを触媒として酸化するか、あるいは過マンガン酸カリウム水溶液中で加熱するかで、トルエンの側鎖 -CH<sub>3</sub> が酸化されて安息香酸が得られる。
: [[ファイル:ベンズアルデヒドと安息香酸の式.svg|600x600ピクセル|ベンズアルデヒドと安息香酸の式]]
トルエンから安息香酸までの反応のさい、おだやかな条件で酸化させると、まずトルエンのメチル基 -CH<sub>3</sub> が酸化されアルデヒド基となり、-CHO基をもつベンズアルデヒド C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>CHO が生じる。ベンズアルデヒドは無色であり、芳香をもち、空気中で徐々に酸化されて、しだいに安息香酸になる。
{{-}}
=== フタル酸とテレフタル酸 ===
[[ファイル:Phthalic_Acid.PNG|サムネイル|フタル酸]]
'''フタル酸''' C<sub>6</sub>H<sub>4</sub>(COOH)<sub>2</sub> はベンゼン環に2つのカルボキシル基が、互いにオルト位に結合した物質である。フタル酸は2つのカルボキシル基が近い位置にあるため、加熱により分子内脱水反応が起こり、無水フタル酸を生じる。
: [[ファイル:フタル酸と無水フタル酸.svg|500x500ピクセル|フタル酸と無水フタル酸]]
フタル酸の製法は、工業的には、o(オルト)-キシレンの酸化によって得られる。「オルト」とは、ベンゼン環での隣り合った位置どうしの関係のこと。
なお、バナジウムの触媒でナフタレンを酸化しても、無水フタル酸が得られる。
'''テレフタル酸'''はフタル酸の異性体であり、互いにパラ位に2つのカルボキシル基が存在する。フタル酸とは異なり、カルボキシル基が離れているため、加熱しても脱水反応は起こらない。テレフタル酸はペットボトルやワイシャツなどの素材となるPET(ポリエチレンテレフタラート)の原料である。テレフタル酸の製法は、工業的には、p(パラ)-キシレンの酸化によって得られる。
: [[ファイル:テレフタル酸.svg|600x600ピクセル|テレフタル酸]]
{{-}}
=== サリチル酸 ===
'''サリチル酸'''は、ベンゼン環にカルボキシル基とヒドロキシ基が互いにオルト位に結合した物質である。 サリチル酸は、ナトリウムフェノキシドから合成される。ナトリウムフェノキシドに二酸化炭素を高温・高圧下で反応させるとサリチル酸ナトリウムが作られる。そのサリチル酸ナトリウムに希硫酸を作用させると、サリチル酸が得られる。
: [[ファイル:サリチル酸の合成式.svg|700x700ピクセル|サリチル酸の合成式]]
サリチル酸は無色(白色)の結晶で、水にはわずかに溶けて酸性を示す。温水やエタノールにはよく溶ける。サリチル酸はベンゼン環に直接ヒドロキシ基が結合しているため、芳香族カルボン酸としての性質を持つと同時に、[[高等学校化学I/芳香族化合物/芳香族カルボン酸#%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%AB%E9%A1%9E|フェノール類]]としての性質も持つ。
また、サリチル酸のヒドロキシ基を無水酢酸でアセチル化(アセチル基-OCOCH{{sub|3}}での置換反応)すると、'''アセチルサリチル酸'''となる。アセチルサリチル酸は「アスピリン」とも呼ばれ、解熱鎮痛剤として広く用いられている。
: [[ファイル:アセチルサリチル酸の合成式.svg|800x800ピクセル|アセチルサリチル酸の合成式]]
サリチル酸のカルボキシル基をメタノールでエステル化すると、'''サリチル酸メチル'''となる。サリチル酸メチルは湿布薬などに消炎剤として用いられる。
:
== 芳香族アミン ==
アンモニア NH<sub>3</sub> の水素基を炭化水素基で置換した化合物を'''アミン'''(amine)といい、その置換で置かれた炭化水素基が芳香族炭化水素基の場合を'''芳香族アミン'''(aliphateic amine)といい、つまりベンゼン環をもつアミンが芳香族アミンであり、具体例としては後述するアニリンが芳香族アミンである。
一般に芳香族アミンは弱塩基性であり、また、アンモニアに化学的性質が似ている。
=== アニリン ===
'''アニリン'''はベンゼンの水素原子1つをアミノ基で置換した物質である。アニリンは無色油状の液体で(沸点185℃)、水に溶けにくい。アニリンを水と混ぜると、分離して下に沈む。アミノ基は弱塩基性を示すため、塩酸と反応するとアニリン塩酸塩 C6H5NH5Cl を生じて、水に溶けるようになる。
: [[ファイル:アニリン塩酸塩の合成式.svg|600x600ピクセル|アニリン塩酸塩の合成式]]
アニリン塩酸塩に、水酸化ナトリウムのような強塩基の水溶液を加えると、油状のアニリンが遊離する。
アニリン溶液は、さらし粉の水溶液を加えると、酸化されて赤紫色になる。この呈色反応はアニリンの検出反応として重要である。
また、アニリンを硫酸酸性二クロム酸カリウム水溶液で酸化すると黒色物質を生じる。これは'''アニリンブラック'''(aniline black)と呼ばれ、黒色染料や黒色顔料として用いられる。
* 製法
アニリンの製法は、実験室ではニトロベンゼンから合成される。ニトロベンゼンにスズと塩酸を加えて加熱すると、還元され、アニリン塩酸塩を生じる。この水溶液に水酸化ナトリウム水溶液のような強塩基を加えて、アニリンを遊離させる。アニリンは水に溶けず分離するため、ジエチルエーテルを加えてアニリンをエーテルに溶かし抽出する。エーテル層と水層の2層に分離するため、エーテル層のみを取り出してエーテルを蒸発させると、アニリンが得られる。
: [[ファイル:Nitrobenzene-reduction.png|300x300ピクセル|アニリンの合成]]
=== アセトアニリド ===
アニリンに無水酢酸を作用させると、アミノ基がアセチル化され、'''アセトアニリド''' C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>NHCOCH<sub>3</sub> を生じる。アセトアニリドは無色無臭(白色)の固体であり、解熱鎮痛剤の原料となる。
: [[ファイル:アセトアニリドの合成式.svg|700x700ピクセル|アセトアニリドの合成式]]
この反応では、アミノ基とカルボキシ基との間で分子間脱水した結合-NH-CO-を生じている。この結合は'''アミド結合'''と呼ばれ、タンパク質やアミノ酸を構成する結合としても重要である。
== アゾ化合物 ==
アニリンに希塩酸を加えてアニリン塩酸塩とし、これを氷水につけて冷却しながら亜硝酸ナトリウム水溶液をすこしずつ反応させると、塩化ベンゼンジアゾニウム C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>N<sub>2</sub><sup>+</sup>Cl<sup>ー</sup> を生じる。-N{{sup|+}}≡Nを含む化合物ジアゾニウム化合物と呼び、このようにジアゾニウム塩を生じる反応を'''ジアゾ化'''(diazotization)と呼ぶ。
: [[ファイル:塩化ベンゼンジアゾニウムの合成式.svg|700x700ピクセル|塩化ベンゼンジアゾニウムの合成式]]
塩化ベンゼンジアゾニウムは非常に不安定な物質であり、常温ではフェノールと窒素に分解してしまう。そのため、低温に冷却して反応を進行させる必要がある。
塩化ベンゼンジアゾニウム水溶液にナトリウムフェノキシド水溶液を加えると、''p''-ヒドロキシアゾベンゼン(''p''-フェニルアゾフェノール)を生じて橙赤色(とうせきしょく)を呈する。このようにジアゾニウム塩と他の芳香族化合物からアゾ化合物を生成する反応を'''ジアゾカップリング'''(diazo coupling)と呼ぶ。
: [[ファイル:Pヒドロキシアゾベンゼンの合成式.svg|900x900ピクセル|Pヒドロキシアゾベンゼンの合成式]]
分子中に'''アゾ基''' -N=N- を持つ物質を'''アゾ化合物'''(azo compound)と呼ぶ。アゾ化合物は様々な色をもち、染料として用いられるものもある。また、このようにジアゾ二ウム塩から、アゾ基をもつ化合物をつくる反応を'''ジアゾカップリング'''(diazo coupling)という。
== アゾ化合物の利用 ==
芳香族アゾ化合物は、一般に、黄色〜赤色、橙色の化合物であり、染料('''アゾ染料''')や顔料として用いられる。
[[ファイル:Methyl-orange-sample.jpg|サムネイル|メチルオレンジ]]
[[ファイル:Methyl_orange_for_beginner_student_jp.svg|600x600ピクセル|メチルオレンジ]]
{{-}} またメチルオレンジやメチルレッドもアゾ化合物であり、水溶液中のpHによって色が変わるので、pH指示薬として用いられているものも存在する。
[[ファイル:Methyl_orange_02035.JPG|左|サムネイル|200x200ピクセル|メチルオレンジの溶液]]
{{DEFAULTSORT:ほうこうそくかこうふつ へんせん}}
[[Category:高等学校化学]]
[[Category:高等学校教育]]
[[Category:化学]]
<references />
== コラム ==
=== ベンゼンの発見の歴史 ===
[[ファイル:Frkekulé.jpg|サムネイル|ケクレ]]
ベンゼンは、イギリスのファラデーによって1825年に照明用の鯨油の熱分解生成物から単離され、発見された(※ 参考文献:数研出版チャート式化学、および 東京書籍の検定教科書『化学』)。しかし、分子構造は、ファラデーは分からなかった。
その後、ドイツのミッチェルリッヒにより、ベンゼンの化学式が C<sub>6</sub>H<sub>6</sub> である事が1834年に分かった。
しかし、当初は、なぜ付加反応が起こりづらいかが不明であった。
伝統的な化学史では「ベンゼンが6角形であることをドイツの化学者ケクレが発見した」と言われているが、だが近年の研究で、それが間違いであることが分かっている。ケクレが発見したとされる1860年よりも前に、すでに1854年に発表された化学者ローランの本でベンゼンが6角形で表されている<ref>山口達明、『有機化学の理論 <<学生の疑問に答えるノート>>』、三共株式会社、2020年10月10日 第5版 第1刷発行、P82</ref>。
なお、それでもケクレには別の業績があり、当時のドイツの化学者ケクレは、構造式で結合手を1本の棒で表すことを提案した人物である(※ 参考文献: 文英堂シグマベスト化学I・II)。ケクレは、さまざまな化学物質の分子構造をこの結合手の棒による表現方法であらわし、化学を発展させた。
ケクレが居眠り中にひらめいたとされるケクレの夢の内容は、おおむね下記のとおり。
{{コラム|「ケクレの夢」|ある日、ついにケクレは、ベンゼンの構造が、ひらめいた。
そしてケクレは、ベンゼンが6角形の構造をしていて、二重結合と単結合が交互に一つおきにあると考えると、つじつまがあうという事を、世界で初めて、1865年に提案した。
ケクレはベンゼンの構造をひらめく前、居眠りをしていたとき、夢で、原子のつながりがヘビのように動き、それらのヘビがおたがいの尻をかじって輪っか状になって、ぐるぐると回っている様子を夢で見た、といわれており、それをヒントにベンゼンの構造がひらめいたといわれる。
この業績をたたえてか、ベンゼンの分子構造のことを「ケクレ式」や「ケクレ構造」という場合もある。}}
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2022-08-22T07:26:14Z
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wikitext
text/x-wiki
{{pathnav|高等学校の学習|高等学校理科|高等学校理科 化学|pagename=芳香族化合物|frame=1|small=1}}
= ベンゼン =
:[[File:ベンゼン環の分子模型.svg|thumb|left|150x150px|ベンゼンの分子模型]]
[[ファイル:Benezene-2D molecule.jpg|サムネイル|ベンゼンの構造。]]
'''ベンゼン'''C{{sub|6}}H{{sub|6}}は正六角形の環状構造である。
6つの炭素原子が正六角形に結合し、その外側に水素原子がひとつずつ結合した構造をもつ。これら12個の原子はすべて同一平面上にある。
この構造式を見ると炭素原子間の結合は二重結合と単結合が繰り返されているように思えるが、実際は、炭素原子間の6つの結合はすべて等価であり、単結合と二重結合の中間の1.5重結合のような性質を持っている。
この特徴的な環構造を'''ベンゼン環'''(benzene ring)という。ベンゼン環の構造は
:[[File:Benzol.svg|60px|ベンゼン環]] または [[File:Benzene circle.svg|60px|ベンゼン環]] または [[File:Benzol 2.svg|60px|ベンゼンの略記号。]] または [[File:Benzol 3.svg|60px|ベンゼンの略記号。]]
などと略記する。この教科書では、いずれの書き方も用いる。
=== 性質 ===
* 特有な臭いをもち、無色で揮発性の液体(沸点80℃、融点5.5℃)である。
* 水に溶けにくく、有機化合物をよく溶かすので、有機溶媒として用いられる。
* 引火しやすい。炭素原子の割合が多いため、多量のすすを出して燃える。
* 人体には有毒で発がん性がある。
== 芳香族炭化水素 ==
{| cellspacing="0" border="1" align="right"
!名称
!構造式
|-
|'''トルエン'''C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>CH<sub>3</sub>
|[[ファイル:Toluene_acsv.svg|91x91ピクセル|トルエン]]
|-
|'''スチレン'''
|[[ファイル:Polystyrol-Strukturformel.svg|100x100ピクセル|スチレン]]
|-
|'''ナフタレン'''C<sub>10</sub>H<sub>8</sub>
| [[ファイル:Naphthalene-2D-Skeletal.svg|100x100ピクセル|ナフタレン]]
|-
| '''アントラセン'''
C<sub>14</sub>H<sub>10</sub>
| [[ファイル:Anthracen.svg|150x150ピクセル|アントラセン]]
|-
|}
ベンゼン環をもつ炭化水素を'''{{Ruby|芳香|ほうこう}}族炭化水素'''(aromatic hydrocarbon)という。 芳香族炭化水素には、ベンゼンの原子が置換した'''トルエン'''(toluene、化学式:C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>CH<sub>3</sub>)やキシレンや、ベンゼンが2個結合した'''ナフタレン'''(naphthalene、化学式:C<sub>10</sub>H<sub>8</sub>)、などがある。
おもな芳香族炭化水素を右表に示す。
これらの化合物は芳香を持つものが多く、人体には有害なものが多い。また、ベンゼンと同様に可燃性があり、引火すると、すす を多く出して燃える。
キシレンには、2つのメチル基の位置によって3種類の異性体が存在する。
[[ファイル:Xylenes_ja.png|中央|500x500ピクセル|キシレンの異性体]]
''o''-,''m''-,''p''- はそれぞれ、オルト、メタ、パラと読む<ref>例えば、p-キシレンは、パラキシレンと読む。</ref>。
2つの置換基がある場合、ある置換基に対して、そのすぐ隣の位置を'''オルト位'''、1つ空いて離れた位置を'''メタ位'''、ベンゼン環を挟んで正反対の位置を'''パラ位'''と呼び、それぞれ記号''o''-,''m''-,''p''-をつけて異性体を区別する。
{| class="wikitable"
|+
!名称
!融点[℃]
!沸点[℃]
|-
|ベンゼン
|6
|80
|-
|トルエン
| -95
|111
|-
|スチレン
| -31
|145
|-
|o-キシレン
| -25
|144
|-
|m-キシレン
| -48
|139
|-
|p-キシレン
|13
|138
|-
|ナフタレン
|81
|218
|-
|アントラセン
|216
|342
|-
|}
=== ベンゼンの置換反応 ===
ベンゼンは、ベンゼン環の安定性のため、アルケンよりは付加反応を起こしづらい。だが、置換反応では、環の構造が保存されるため、ベンゼンは置換反応を起こしやすい。
*; スルホン化(sulfonation)
: 濃硫酸にベンゼンを加え加熱すると、水素原子がスルホ基 -SO<sub>3</sub>H に置換され、'''ベンゼンスルホン酸''' ( C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>SO<sub>3</sub>H ) を生じる。
: [[ファイル:ベンゼンスルホン酸の合成式.svg|500x500ピクセル|ベンゼンスルホン酸の合成式]]
ベンゼンスルホン酸は強酸である。
*; ニトロ化(nitration)
: 濃硫酸と濃硝酸の混合物(混酸)にベンゼンを加え加熱すると、水素がニトロ基 -NO<sub>2</sub> で置換され、'''ニトロベンゼン''' ( C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>NO<sub>2</sub> ) を生じる。
:: [[ファイル:ニトロベンゼンの合成式.svg|500x500ピクセル|ニトロベンゼンの合成式]]
ニトロベンゼンは、無色の液体で、特有の甘い香りをもつ。ニトロベンゼンは、水に溶けにくく、水より重い(密度1.2g/cm<sup>3</sup>)。
ニトロベンゼンのように、炭素原子に直接ニトロ基が結合した化合物をニトロ化合物という。
*; ハロゲン化(halogenation)
: [[ファイル:1,4-dichlorobenzene.svg|サムネイル|191x191ピクセル|p-ジクロロベンゼン]]ベンゼンに触媒を用いてハロゲンを反応させると、置換反応が生じる。例えば塩素を反応させると水素原子を1つ置換して'''クロロベンゼン''' ( C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>Cl ) が生じる。
:: [[ファイル:クロロベンゼンの合成式.svg|500x500ピクセル|クロロベンゼンの生成]]
: クロロベンゼンにさらに塩素を付加すると生じるパラジクロロベンゼン(''p''-ジクロロベンゼン)は昇華性がある無色の固体(融点:54℃)であり、防虫剤として用いられる。
=== ベンゼンの付加反応 ===
ベンゼンでは付加反応はほとんど起こらないが、高温高圧下で触媒を用いると、水素を付加されてシクロヘキサン ( C<sub>6</sub>H<sub>12</sub> ) を生じる。
: [[ファイル:ベンゼンの水素付加反応.svg|450x450ピクセル|ベンゼンの水素付加反応]]
また、ベンゼンと塩素の混合物に紫外線を加えても、付加反応を起こし、ヘキサクロロシクロヘキサン ( C<sub>6</sub>H<sub>6</sub>Cl<sub>6</sub> ) を生じる。
: [[ファイル:ベンゼンの塩素付加反応.svg|510x510ピクセル|ベンゼンの塩素付加反応]]
==== トルエンのニトロ化 ====
混酸をもちいてトルエンをニトロ化すると、o-位やp-位がニトロ化されて、ニトロトルエン C<sub>6</sub>H<sub>4</sub>(CH<sub>3</sub>)NO<sub>2</sub> が生じる。<gallery widths="150px" heights="150px">
File:O-Nitrotoluol.svg|o-ニトロトルエン
File:P-Nitrotoluol.svg|p-ニトロトルエン
File:Trinitrotoluene acsv.svg|2,4,6,-トリニトロトルエン
</gallery>さらにニトロ化すると、 2,4,6,-トリニトロトルエン(略称:TNT)が生じる。TNTは火薬の原料である。
== 発展: ベンゼン環の共鳴 ==
[[ファイル:共鳴を知らない場合のO-キシレンの想定.svg|サムネイル|300x300ピクセル|共鳴を知らない場合のo-キシレンの想像図(じっさいとは、ちがう)。]]
[[ファイル:Benzol_Representationen.svg|サムネイル|600x600ピクセル|π電子の説明図、など(図中の文字はドイツ語)下段の右から2つめの図 Benzol Delokalisierte π-Orbitalwolke の青色で表現された電子のように、ベンゼン環では価電子がリング状に存在している。]]
ベンゼンの異性体のひとつ、o-キシレンは、想像図のように2通りが考えられそうだが、じっさいには1通りしかない。
なぜなら、そもそもベンゼン環の環の部分のあいだの結合は、単結合と二重結合の中間の状態の結合になっているからである。 じっさいに、どんな実験によっても、o-キシレンは1種類しか発見されていない。
このように、単結合と二重結合の中間の状態の結合のある現象を'''共鳴'''(きょうめい)という。
ベンゼン環が共鳴をしているという事は、つまり、価電子が、特定の2個の炭素原子間に束縛されず、ベンゼン環のリング全体に円周状に均等に広がって存在しているという事である。このような現象を、電子の「非局在化」(ひ きょくざいか、英:delocation)などという。
(※ ベンゼン環での価電子の非局在化は、高校の範囲内。啓林館の検定教科書や、第一学習社の検定教科書などに、書いてある。)
つまり、ベンゼン環では、価電子が非局在化する事により、安定をしている。
なにもo-キシレンだけにかぎらず、すべてのベンゼン環は、このように共鳴している。
ベンゼン環が共鳴していることを明記したい場合、
[[ファイル:Benzene_circle.svg|左|72x72ピクセル|ベンゼン環]]
でベンゼン環を表記する場合もある。
{{-}} o-キシレンなどベンゼン環をもつ化合物にて、そのベンゼン環が共鳴してる構造式を書く場合には、書き方が主に2つある。 ひとつの書き方としては、下図のように両矢印でつないで書き、さらに [ ] で囲って、共鳴をあらわす。
[[ファイル:O-キシレンの共鳴_1.svg|左|サムネイル|300x300ピクセル|O-キシレンの共鳴の書き方のひとつ。]]
{{-}} あるいは、もうひとつの書き方として、構造式中のベンゼン環を [[ファイル:Benzene_circle.svg|72x72ピクセル|ベンゼン環]] で表して共鳴を表現してもよい。
[[ファイル:O-キシレンの共鳴_2.svg|左|サムネイル|200x200ピクセル|O-キシレンの共鳴の書き方のひとつ。]]
{{-}}
また、ベンゼン環は、共鳴によってエネルギー的に安定化する。そもそも、そのような原理によって、ベンゼン化合物で安定して存在できるのである。そして、ベンゼン環における共鳴とはつまり、価電子の非局在化のことだから、非局在化によって電子が安定的に存在できる、という事になる。
== フェノール類 ==
{| style="text-align:center" cellspacing="0" border="1" align="right"
!名称
!構造式
|-
|'''フェノール'''
|[[ファイル:Phenol-2D-skeletal.png|85x85ピクセル|フェノール]]
|-
|'''''o''-クレゾール'''
|[[ファイル:O-Kresol.png|76x76ピクセル|o-クレゾール]]
|-
|'''''m''-クレゾール'''
|[[ファイル:M-Kresol.png|76x76ピクセル|m-クレゾール]]
|-
|'''''p''-クレゾール'''
|[[ファイル:P-Kresol.png|99x99ピクセル|p-クレゾール]]
|}
ベンゼン環にヒドロキシ基 -OH が直接結合したものを'''フェノール類'''(phenols)と呼ぶ。フェノール類には、フェノールのほか、クレゾール、ナフトールなどがある。フェノール類は互いに似た性質を示す。
構造式を下に示すベンジルアルコールのように、ベンゼン環に直接ヒドロキシ基が結合しないものはフェノール類に属さない。
[[ファイル:Alkohol_benzylowy.svg|中央|サムネイル|150x150ピクセル|ベンジルアルコール]]
フェノール類の持つヒドロキシ基は水溶液中でわずかに電離し、弱酸性を示す。フェノール類の水溶液は、炭酸よりも弱い酸性を示す。
: [[ファイル:フェノキシドイオンの合成式.svg|600x600ピクセル|フェノキシドイオンの合成式]]
フェノール類は水にほとんど溶けないが、塩基水溶液と反応して塩となり水に溶ける。
: [[ファイル:ナトリウムフェノキシドの合成式.svg|600x600ピクセル|ナトリウムフェノキシドの合成式]]
ナトリウムフェノキシドの溶液に、フェノールよりも強い酸である二酸化炭素などをくわえると、フェノールが生じる。
* ナトリウムとの反応
また、フェノール類は、アルコールと同様に単体のナトリウムと反応し、水素を発生する。
: 2[[ファイル:フェノール.svg|100x100ピクセル|フェノール]] + 2Na → 2 [[ファイル:Natriumphenolat_Structural_Formula_V.1.svg|80x80ピクセル|ナトリウムフェノキシド]] + H{{sub|2}}↑
=== 検出反応 ===
フェノール類水溶液は塩化鉄(Ⅲ) FeCl{{sub|3}} 水溶液を加えると青~赤紫色を呈する。この呈色反応はフェノール類の検出に利用される。
=== フェノール ===
'''フェノール'''はベンゼン環の水素原子を1つヒドロキシ基で置換した構造を持つ、人体には有毒な白色の固体である。石炭の乾留から得られるため石炭酸ともいう。
[[ファイル:Phenol-2D-skeletal.png|左|サムネイル|128x128ピクセル|フェノール]]
{{-}}
==== フェノールの合成 ====
フェノールはベンゼンを原料として様々な経路により合成することができる。中でも、工業的には'''クメン法'''(Cummene process)が重要である。
; クメン法
# ベンゼンとプロピレンを触媒を用いて反応させ、クメンを生じる。
# クメンを酸素で酸化し、クメンヒドロペルオキシドとする。
# 希硫酸により分解し、フェノールを生じる。この際、副生成物としてアセトンを生じる。
: [[ファイル:クメン法.svg|中央|700x700ピクセル|クメン法]]
このほかに、従来はベンゼンスルホン酸やクロロベンゼンからフェノールを合成する方法もあったが、現在は行われていない。
: [[ファイル:フェノールの昔の製法.svg|700x700ピクセル|フェノールの昔の製法]]
なお、ベンゼンスルホン酸からの製法では水酸化ナトリウムを300℃前後で融解させるので、'''アルカリ融解'''とも言われる。
==== フェノールの反応 ====
: [[ファイル:Pikrinsäure.svg|サムネイル|ピクリン酸]]
フェノールは反応性が高く、さまざまな化合物を生じる。フェノールに臭素を反応させると、ヒドロキシ基に対してオルト位とパラ位の水素原子が臭素で置換され、2,4,6-トリブロモフェノールの白色沈殿を生じる。
: [[ファイル:2,4,6-tribromophenol_synthesis.PNG|400x400ピクセル|2,4,6-トリブロモフェノールの合成]]
また、フェノールに濃硫酸と濃硝酸を作用させると、ヒドロキシ基に対してオルト位とパラ位をニトロ化してピクリン酸を生じる。
ベンゼン環にカルボキシル基が直接結合した有機化合物を'''芳香族カルボン酸'''(ほうこうぞくカルボンさん、aromatc carboxylic acid)という。一般に、水には溶けにくいが、水中ではわずかに電離して、水中では弱い酸性を示す。
また、水酸化ナトリウムなどの塩基の水溶液と中和して、塩を生じて、水に溶けるようになる。
芳香族カルボン酸は、医薬品や染料の原料として、よく用いられる。
=== 安息香酸 ===
[[ファイル:安息香酸.svg|サムネイル|安息香酸。高校では、このように略記するのが普通。]]
[[ファイル:Benzoesäure_V1.2.svg|サムネイル|安息香酸の構造。あまり、こうは描かない。]]
'''安息香酸'''(あんそく こうさん、benzoic acid) C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>COOH はベンゼン環の水素原子1つをカルボキシル基で置換した物質である。白色の固体で、水に溶けにくいが、熱水には溶け、水溶液中では弱酸性を示す。また、有機溶媒によく溶ける。最も単純な構造の芳香族カルボン酸であり、弱酸性を示す。安息香酸は水酸化ナトリウム水溶液に加えると、安息香酸ナトリウムを生じて溶ける。しかし、塩酸などの強酸を加えると、弱酸である安息香酸は遊離し、白色結晶が析出する。
: [[ファイル:安息香酸の合成式.svg|600x600ピクセル|安息香酸の合成式]]
安息香酸は、触媒をもちいてトルエンの酸化により得られる。トルエンを二酸化マンガンを触媒として酸化するか、あるいは過マンガン酸カリウム水溶液中で加熱するかで、トルエンの側鎖 -CH<sub>3</sub> が酸化されて安息香酸が得られる。
: [[ファイル:ベンズアルデヒドと安息香酸の式.svg|600x600ピクセル|ベンズアルデヒドと安息香酸の式]]
トルエンから安息香酸までの反応のさい、おだやかな条件で酸化させると、まずトルエンのメチル基 -CH<sub>3</sub> が酸化されアルデヒド基となり、-CHO基をもつベンズアルデヒド C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>CHO が生じる。ベンズアルデヒドは無色であり、芳香をもち、空気中で徐々に酸化されて、しだいに安息香酸になる。
{{-}}
=== フタル酸とテレフタル酸 ===
[[ファイル:Phthalic_Acid.PNG|サムネイル|フタル酸]]
'''フタル酸''' C<sub>6</sub>H<sub>4</sub>(COOH)<sub>2</sub> はベンゼン環に2つのカルボキシル基が、互いにオルト位に結合した物質である。フタル酸は2つのカルボキシル基が近い位置にあるため、加熱により分子内脱水反応が起こり、無水フタル酸を生じる。
: [[ファイル:フタル酸と無水フタル酸.svg|500x500ピクセル|フタル酸と無水フタル酸]]
フタル酸の製法は、工業的には、o(オルト)-キシレンの酸化によって得られる。「オルト」とは、ベンゼン環での隣り合った位置どうしの関係のこと。
なお、バナジウムの触媒でナフタレンを酸化しても、無水フタル酸が得られる。
'''テレフタル酸'''はフタル酸の異性体であり、互いにパラ位に2つのカルボキシル基が存在する。フタル酸とは異なり、カルボキシル基が離れているため、加熱しても脱水反応は起こらない。テレフタル酸はペットボトルやワイシャツなどの素材となるPET(ポリエチレンテレフタラート)の原料である。テレフタル酸の製法は、工業的には、p(パラ)-キシレンの酸化によって得られる。
: [[ファイル:テレフタル酸.svg|600x600ピクセル|テレフタル酸]]
{{-}}
=== サリチル酸 ===
'''サリチル酸'''は、ベンゼン環にカルボキシル基とヒドロキシ基が互いにオルト位に結合した物質である。 サリチル酸は、ナトリウムフェノキシドから合成される。ナトリウムフェノキシドに二酸化炭素を高温・高圧下で反応させるとサリチル酸ナトリウムが作られる。そのサリチル酸ナトリウムに希硫酸を作用させると、サリチル酸が得られる。
: [[ファイル:サリチル酸の合成式.svg|700x700ピクセル|サリチル酸の合成式]]
サリチル酸は無色(白色)の結晶で、水にはわずかに溶けて酸性を示す。温水やエタノールにはよく溶ける。サリチル酸はベンゼン環に直接ヒドロキシ基が結合しているため、芳香族カルボン酸としての性質を持つと同時に、[[高等学校化学I/芳香族化合物/芳香族カルボン酸#%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%AB%E9%A1%9E|フェノール類]]としての性質も持つ。
また、サリチル酸のヒドロキシ基を無水酢酸でアセチル化(アセチル基-OCOCH{{sub|3}}での置換反応)すると、'''アセチルサリチル酸'''となる。アセチルサリチル酸は「アスピリン」とも呼ばれ、解熱鎮痛剤として広く用いられている。
: [[ファイル:アセチルサリチル酸の合成式.svg|800x800ピクセル|アセチルサリチル酸の合成式]]
サリチル酸のカルボキシル基をメタノールでエステル化すると、'''サリチル酸メチル'''となる。サリチル酸メチルは湿布薬などに消炎剤として用いられる。
:
== 芳香族アミン ==
アンモニア NH<sub>3</sub> の水素基を炭化水素基で置換した化合物を'''アミン'''(amine)といい、その置換で置かれた炭化水素基が芳香族炭化水素基の場合を'''芳香族アミン'''(aliphateic amine)といい、つまりベンゼン環をもつアミンが芳香族アミンであり、具体例としては後述するアニリンが芳香族アミンである。
一般に芳香族アミンは弱塩基性であり、また、アンモニアに化学的性質が似ている。
=== アニリン ===
'''アニリン'''はベンゼンの水素原子1つをアミノ基で置換した物質である。アニリンは無色油状の液体で(沸点185℃)、水に溶けにくい。アニリンを水と混ぜると、分離して下に沈む。アミノ基は弱塩基性を示すため、塩酸と反応するとアニリン塩酸塩 C6H5NH5Cl を生じて、水に溶けるようになる。
: [[ファイル:アニリン塩酸塩の合成式.svg|600x600ピクセル|アニリン塩酸塩の合成式]]
アニリン塩酸塩に、水酸化ナトリウムのような強塩基の水溶液を加えると、油状のアニリンが遊離する。
アニリン溶液は、さらし粉の水溶液を加えると、酸化されて赤紫色になる。この呈色反応はアニリンの検出反応として重要である。
また、アニリンを硫酸酸性二クロム酸カリウム水溶液で酸化すると黒色物質を生じる。これは'''アニリンブラック'''(aniline black)と呼ばれ、黒色染料や黒色顔料として用いられる。
* 製法
アニリンの製法は、実験室ではニトロベンゼンから合成される。ニトロベンゼンにスズと塩酸を加えて加熱すると、還元され、アニリン塩酸塩を生じる。この水溶液に水酸化ナトリウム水溶液のような強塩基を加えて、アニリンを遊離させる。アニリンは水に溶けず分離するため、ジエチルエーテルを加えてアニリンをエーテルに溶かし抽出する。エーテル層と水層の2層に分離するため、エーテル層のみを取り出してエーテルを蒸発させると、アニリンが得られる。
: [[ファイル:Nitrobenzene-reduction.png|300x300ピクセル|アニリンの合成]]
=== アセトアニリド ===
アニリンに無水酢酸を作用させると、アミノ基がアセチル化され、'''アセトアニリド''' C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>NHCOCH<sub>3</sub> を生じる。アセトアニリドは無色無臭(白色)の固体であり、解熱鎮痛剤の原料となる。
: [[ファイル:アセトアニリドの合成式.svg|700x700ピクセル|アセトアニリドの合成式]]
この反応では、アミノ基とカルボキシ基との間で分子間脱水した結合-NH-CO-を生じている。この結合は'''アミド結合'''と呼ばれ、タンパク質やアミノ酸を構成する結合としても重要である。
== アゾ化合物 ==
アニリンに希塩酸を加えてアニリン塩酸塩とし、これを氷水につけて冷却しながら亜硝酸ナトリウム水溶液をすこしずつ反応させると、塩化ベンゼンジアゾニウム C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>N<sub>2</sub><sup>+</sup>Cl<sup>ー</sup> を生じる。-N{{sup|+}}≡Nを含む化合物ジアゾニウム化合物と呼び、このようにジアゾニウム塩を生じる反応を'''ジアゾ化'''(diazotization)と呼ぶ。
: [[ファイル:塩化ベンゼンジアゾニウムの合成式.svg|700x700ピクセル|塩化ベンゼンジアゾニウムの合成式]]
塩化ベンゼンジアゾニウムは非常に不安定な物質であり、常温ではフェノールと窒素に分解してしまう。そのため、低温に冷却して反応を進行させる必要がある。
塩化ベンゼンジアゾニウム水溶液にナトリウムフェノキシド水溶液を加えると、''p''-ヒドロキシアゾベンゼン(''p''-フェニルアゾフェノール)を生じて橙赤色(とうせきしょく)を呈する。このようにジアゾニウム塩と他の芳香族化合物からアゾ化合物を生成する反応を'''ジアゾカップリング'''(diazo coupling)と呼ぶ。
: [[ファイル:Pヒドロキシアゾベンゼンの合成式.svg|900x900ピクセル|Pヒドロキシアゾベンゼンの合成式]]
分子中に'''アゾ基''' -N=N- を持つ物質を'''アゾ化合物'''(azo compound)と呼ぶ。アゾ化合物は様々な色をもち、染料として用いられるものもある。また、このようにジアゾ二ウム塩から、アゾ基をもつ化合物をつくる反応を'''ジアゾカップリング'''(diazo coupling)という。
== アゾ化合物の利用 ==
芳香族アゾ化合物は、一般に、黄色〜赤色、橙色の化合物であり、染料('''アゾ染料''')や顔料として用いられる。
[[ファイル:Methyl-orange-sample.jpg|サムネイル|メチルオレンジ]]
[[ファイル:Methyl_orange_for_beginner_student_jp.svg|600x600ピクセル|メチルオレンジ]]
{{-}} またメチルオレンジやメチルレッドもアゾ化合物であり、水溶液中のpHによって色が変わるので、pH指示薬として用いられているものも存在する。
[[ファイル:Methyl_orange_02035.JPG|左|サムネイル|200x200ピクセル|メチルオレンジの溶液]]
{{DEFAULTSORT:ほうこうそくかこうふつ へんせん}}
[[Category:高等学校化学]]
[[Category:高等学校教育]]
[[Category:化学]]
<references />
== コラム ==
=== ベンゼンの発見の歴史 ===
[[ファイル:Frkekulé.jpg|サムネイル|ケクレ]]
ベンゼンは、イギリスのファラデーによって1825年に照明用の鯨油の熱分解生成物から単離され、発見された(※ 参考文献:数研出版チャート式化学、および 東京書籍の検定教科書『化学』)。しかし、分子構造は、ファラデーは分からなかった。
その後、ドイツのミッチェルリッヒにより、ベンゼンの化学式が C<sub>6</sub>H<sub>6</sub> である事が1834年に分かった。
しかし、当初は、なぜ付加反応が起こりづらいかが不明であった。
伝統的な化学史では「ベンゼンが6角形であることをドイツの化学者ケクレが発見した」と言われているが、だが近年の研究で、それが間違いであることが分かっている。ケクレが発見したとされる1860年よりも前に、すでに1854年に発表された化学者ローランの本でベンゼンが6角形で表されている<ref>山口達明、『有機化学の理論 <<学生の疑問に答えるノート>>』、三共株式会社、2020年10月10日 第5版 第1刷発行、P82</ref>。
なお、それでもケクレには別の業績があり、当時のドイツの化学者ケクレは、構造式で結合手を1本の棒で表すことを提案した人物である(※ 参考文献: 文英堂シグマベスト化学I・II)。ケクレは、さまざまな化学物質の分子構造をこの結合手の棒による表現方法であらわし、化学を発展させた。
ケクレが居眠り中にひらめいたとされるケクレの夢の内容は、おおむね下記のとおり。
{{コラム|「ケクレの夢」|ある日、ついにケクレは、ベンゼンの構造が、ひらめいた。
そしてケクレは、ベンゼンが6角形の構造をしていて、二重結合と単結合が交互に一つおきにあると考えると、つじつまがあうという事を、世界で初めて、1865年に提案した。
ケクレはベンゼンの構造をひらめく前、居眠りをしていたとき、夢で、原子のつながりがヘビのように動き、それらのヘビがおたがいの尻をかじって輪っか状になって、ぐるぐると回っている様子を夢で見た、といわれており、それをヒントにベンゼンの構造がひらめいたといわれる。
この業績をたたえてか、ベンゼンの分子構造のことを「ケクレ式」や「ケクレ構造」という場合もある。}}
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2022-08-22T07:44:04Z
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wikitext
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{{pathnav|高等学校の学習|高等学校理科|高等学校理科 化学|pagename=芳香族化合物|frame=1|small=1}}
= ベンゼン =
:[[File:ベンゼン環の分子模型.svg|thumb|left|150x150px|ベンゼンの分子模型]]
[[ファイル:Benezene-2D molecule.jpg|サムネイル|ベンゼンの構造。]]
'''ベンゼン'''C{{sub|6}}H{{sub|6}}は正六角形の環状構造である。
6つの炭素原子が正六角形に結合し、その外側に水素原子がひとつずつ結合した構造をもつ。これら12個の原子はすべて同一平面上にある。
この構造式を見ると炭素原子間の結合は二重結合と単結合が繰り返されているように思えるが、実際は、炭素原子間の6つの結合はすべて等価であり、単結合と二重結合の中間の1.5重結合のような性質を持っている。
この特徴的な環構造を'''ベンゼン環'''(benzene ring)という。ベンゼン環の構造は
:[[File:Benzol.svg|60px|ベンゼン環]] または [[File:Benzene circle.svg|60px|ベンゼン環]] または [[File:Benzol 2.svg|60px|ベンゼンの略記号。]] または [[File:Benzol 3.svg|60px|ベンゼンの略記号。]]
などと略記する。この教科書では、いずれの書き方も用いる。
=== 性質 ===
* 特有な臭いをもち、無色で揮発性の液体(沸点80℃、融点5.5℃)である。
* 水に溶けにくく、有機化合物をよく溶かすので、有機溶媒として用いられる。
* 引火しやすい。炭素原子の割合が多いため、多量のすすを出して燃える。
* 人体には有毒で発がん性がある。
== 芳香族炭化水素 ==
{| cellspacing="0" border="1" align="right"
!名称
!構造式
|-
|'''トルエン'''C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>CH<sub>3</sub>
|[[ファイル:Toluene_acsv.svg|91x91ピクセル|トルエン]]
|-
|'''スチレン'''
|[[ファイル:Polystyrol-Strukturformel.svg|100x100ピクセル|スチレン]]
|-
|'''ナフタレン'''C<sub>10</sub>H<sub>8</sub>
| [[ファイル:Naphthalene-2D-Skeletal.svg|100x100ピクセル|ナフタレン]]
|-
| '''アントラセン'''
C<sub>14</sub>H<sub>10</sub>
| [[ファイル:Anthracen.svg|150x150ピクセル|アントラセン]]
|-
|}
ベンゼン環をもつ炭化水素を'''{{Ruby|芳香|ほうこう}}族炭化水素'''(aromatic hydrocarbon)という。 芳香族炭化水素には、ベンゼンの原子が置換した'''トルエン'''(toluene、化学式:C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>CH<sub>3</sub>)やキシレンや、ベンゼンが2個結合した'''ナフタレン'''(naphthalene、化学式:C<sub>10</sub>H<sub>8</sub>)、などがある。
おもな芳香族炭化水素を右表に示す。
これらの化合物は芳香を持つものが多く、人体には有害なものが多い。また、ベンゼンと同様に可燃性があり、引火すると、すす を多く出して燃える。
キシレンには、2つのメチル基の位置によって3種類の異性体が存在する。
[[ファイル:Xylenes_ja.png|中央|500x500ピクセル|キシレンの異性体]]
''o''-,''m''-,''p''- はそれぞれ、オルト、メタ、パラと読む<ref>例えば、p-キシレンは、パラキシレンと読む。</ref>。
2つの置換基がある場合、ある置換基に対して、そのすぐ隣の位置を'''オルト位'''、1つ空いて離れた位置を'''メタ位'''、ベンゼン環を挟んで正反対の位置を'''パラ位'''と呼び、それぞれ記号''o''-,''m''-,''p''-をつけて異性体を区別する。
{| class="wikitable"
|+
!名称
!融点[℃]
!沸点[℃]
|-
|ベンゼン
|6
|80
|-
|トルエン
| -95
|111
|-
|スチレン
| -31
|145
|-
|o-キシレン
| -25
|144
|-
|m-キシレン
| -48
|139
|-
|p-キシレン
|13
|138
|-
|ナフタレン
|81
|218
|-
|アントラセン
|216
|342
|-
|}
=== ベンゼンの置換反応 ===
ベンゼンは、ベンゼン環の安定性のため、アルケンよりは付加反応を起こしづらい。だが、置換反応では、環の構造が保存されるため、ベンゼンは置換反応を起こしやすい。
*; スルホン化(sulfonation)
: 濃硫酸にベンゼンを加え加熱すると、水素原子がスルホ基 -SO<sub>3</sub>H に置換され、'''ベンゼンスルホン酸''' ( C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>SO<sub>3</sub>H ) を生じる。
: [[ファイル:ベンゼンスルホン酸の合成式.svg|500x500ピクセル|ベンゼンスルホン酸の合成式]]
ベンゼンスルホン酸は強酸である。
*; ニトロ化(nitration)
: 濃硫酸と濃硝酸の混合物(混酸)にベンゼンを加え加熱すると、水素がニトロ基 -NO<sub>2</sub> で置換され、'''ニトロベンゼン''' ( C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>NO<sub>2</sub> ) を生じる。
:: [[ファイル:ニトロベンゼンの合成式.svg|500x500ピクセル|ニトロベンゼンの合成式]]
ニトロベンゼンは、無色の液体で、特有の甘い香りをもつ。ニトロベンゼンは、水に溶けにくく、水より重い(密度1.2g/cm<sup>3</sup>)。
ニトロベンゼンのように、炭素原子に直接ニトロ基が結合した化合物をニトロ化合物という。
*; ハロゲン化(halogenation)
: [[ファイル:1,4-dichlorobenzene.svg|サムネイル|191x191ピクセル|p-ジクロロベンゼン]]ベンゼンに触媒を用いてハロゲンを反応させると、置換反応が生じる。例えば塩素を反応させると水素原子を1つ置換して'''クロロベンゼン''' ( C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>Cl ) が生じる。
:: [[ファイル:クロロベンゼンの合成式.svg|500x500ピクセル|クロロベンゼンの生成]]
: クロロベンゼンにさらに塩素を付加すると生じるパラジクロロベンゼン(''p''-ジクロロベンゼン)は昇華性がある無色の固体(融点:54℃)であり、防虫剤として用いられる。
=== ベンゼンの付加反応 ===
ベンゼンでは付加反応はほとんど起こらないが、高温高圧下で触媒を用いると、水素を付加されてシクロヘキサン ( C<sub>6</sub>H<sub>12</sub> ) を生じる。
: [[ファイル:ベンゼンの水素付加反応.svg|450x450ピクセル|ベンゼンの水素付加反応]]
また、ベンゼンと塩素の混合物に紫外線を加えても、付加反応を起こし、ヘキサクロロシクロヘキサン ( C<sub>6</sub>H<sub>6</sub>Cl<sub>6</sub> ) を生じる。
: [[ファイル:ベンゼンの塩素付加反応.svg|510x510ピクセル|ベンゼンの塩素付加反応]]
==== トルエンのニトロ化 ====
混酸をもちいてトルエンをニトロ化すると、o-位やp-位がニトロ化されて、ニトロトルエン C<sub>6</sub>H<sub>4</sub>(CH<sub>3</sub>)NO<sub>2</sub> が生じる。<gallery widths="150px" heights="150px">
File:O-Nitrotoluol.svg|o-ニトロトルエン
File:P-Nitrotoluol.svg|p-ニトロトルエン
File:Trinitrotoluene acsv.svg|2,4,6,-トリニトロトルエン
</gallery>さらにニトロ化すると、 2,4,6,-トリニトロトルエン(略称:TNT)が生じる。TNTは火薬の原料である。
== 発展: ベンゼン環の共鳴 ==
[[ファイル:共鳴を知らない場合のO-キシレンの想定.svg|サムネイル|300x300ピクセル|共鳴を知らない場合のo-キシレンの想像図(じっさいとは、ちがう)。]]
[[ファイル:Benzol_Representationen.svg|サムネイル|600x600ピクセル|π電子の説明図、など(図中の文字はドイツ語)下段の右から2つめの図 Benzol Delokalisierte π-Orbitalwolke の青色で表現された電子のように、ベンゼン環では価電子がリング状に存在している。]]
ベンゼンの異性体のひとつ、o-キシレンは、想像図のように2通りが考えられそうだが、じっさいには1通りしかない。
なぜなら、そもそもベンゼン環の環の部分のあいだの結合は、単結合と二重結合の中間の状態の結合になっているからである。 じっさいに、どんな実験によっても、o-キシレンは1種類しか発見されていない。
このように、単結合と二重結合の中間の状態の結合のある現象を'''共鳴'''(きょうめい)という。
ベンゼン環が共鳴をしているという事は、つまり、価電子が、特定の2個の炭素原子間に束縛されず、ベンゼン環のリング全体に円周状に均等に広がって存在しているという事である。このような現象を、電子の「非局在化」(ひ きょくざいか、英:delocation)などという。
(※ ベンゼン環での価電子の非局在化は、高校の範囲内。啓林館の検定教科書や、第一学習社の検定教科書などに、書いてある。)
つまり、ベンゼン環では、価電子が非局在化する事により、安定をしている。
なにもo-キシレンだけにかぎらず、すべてのベンゼン環は、このように共鳴している。
ベンゼン環が共鳴していることを明記したい場合、
[[ファイル:Benzene_circle.svg|左|72x72ピクセル|ベンゼン環]]
でベンゼン環を表記する場合もある。
{{-}} o-キシレンなどベンゼン環をもつ化合物にて、そのベンゼン環が共鳴してる構造式を書く場合には、書き方が主に2つある。 ひとつの書き方としては、下図のように両矢印でつないで書き、さらに [ ] で囲って、共鳴をあらわす。
[[ファイル:O-キシレンの共鳴_1.svg|左|サムネイル|300x300ピクセル|O-キシレンの共鳴の書き方のひとつ。]]
{{-}} あるいは、もうひとつの書き方として、構造式中のベンゼン環を [[ファイル:Benzene_circle.svg|72x72ピクセル|ベンゼン環]] で表して共鳴を表現してもよい。
[[ファイル:O-キシレンの共鳴_2.svg|左|サムネイル|200x200ピクセル|O-キシレンの共鳴の書き方のひとつ。]]
{{-}}
また、ベンゼン環は、共鳴によってエネルギー的に安定化する。そもそも、そのような原理によって、ベンゼン化合物で安定して存在できるのである。そして、ベンゼン環における共鳴とはつまり、価電子の非局在化のことだから、非局在化によって電子が安定的に存在できる、という事になる。
== フェノール類 ==
{| style="text-align:center" cellspacing="0" border="1" align="right"
!名称
!構造式
|-
|'''フェノール'''
|[[ファイル:Phenol-2D-skeletal.png|85x85ピクセル|フェノール]]
|-
|'''''o''-クレゾール'''
|[[ファイル:O-Kresol.png|76x76ピクセル|o-クレゾール]]
|-
|'''''m''-クレゾール'''
|[[ファイル:M-Kresol.png|76x76ピクセル|m-クレゾール]]
|-
|'''''p''-クレゾール'''
|[[ファイル:P-Kresol.png|99x99ピクセル|p-クレゾール]]
|}
ベンゼン環にヒドロキシ基 -OH が直接結合したものを'''フェノール類'''(phenols)と呼ぶ。フェノール類には、フェノールのほか、クレゾール、ナフトールなどがある。フェノール類は互いに似た性質を示す。
構造式を下に示すベンジルアルコールのように、ベンゼン環に直接ヒドロキシ基が結合しないものはフェノール類に属さない。
[[ファイル:Alkohol_benzylowy.svg|中央|サムネイル|150x150ピクセル|ベンジルアルコール]]
フェノール類の持つヒドロキシ基は水溶液中でわずかに電離し、弱酸性を示す。フェノール類の水溶液は、炭酸よりも弱い酸性を示す。
: [[ファイル:フェノキシドイオンの合成式.svg|600x600ピクセル|フェノキシドイオンの合成式]]
フェノール類は水にほとんど溶けないが、塩基水溶液と反応して塩となり水に溶ける。
: [[ファイル:ナトリウムフェノキシドの合成式.svg|600x600ピクセル|ナトリウムフェノキシドの合成式]]
ナトリウムフェノキシドの溶液に、フェノールよりも強い酸である二酸化炭素などをくわえると、フェノールが生じる。
* ナトリウムとの反応
また、フェノール類は、アルコールと同様に単体のナトリウムと反応し、水素を発生する。
: 2[[ファイル:フェノール.svg|100x100ピクセル|フェノール]] + 2Na → 2 [[ファイル:Natriumphenolat_Structural_Formula_V.1.svg|80x80ピクセル|ナトリウムフェノキシド]] + H{{sub|2}}↑
=== 検出反応 ===
フェノール類水溶液は塩化鉄(Ⅲ) FeCl{{sub|3}} 水溶液を加えると青~赤紫色を呈する。この呈色反応はフェノール類の検出に利用される。
=== フェノール ===
'''フェノール'''はベンゼン環の水素原子を1つヒドロキシ基で置換した構造である。
特有の匂いを持つ、人体には有毒な白色の固体である。石炭の乾留から得られるため石炭酸ともいう。
[[ファイル:Phenol-2D-skeletal.png|左|サムネイル|128x128ピクセル|フェノール]]
{{-}}
==== フェノールの合成 ====
フェノールはベンゼンを原料として様々な経路により合成することができる。中でも、工業的には'''クメン法'''(Cummene process)が重要である。
; クメン法
# ベンゼンとプロピレンを触媒を用いて反応させ、クメンを生じる。
# クメンを酸素で酸化し、クメンヒドロペルオキシドとする。
# 希硫酸により分解し、フェノールを生じる。この際、副生成物としてアセトンを生じる。
: [[ファイル:クメン法.svg|中央|700x700ピクセル|クメン法]]
このほかに、従来はベンゼンスルホン酸やクロロベンゼンからフェノールを合成する方法もあったが、現在は行われていない。
他にも、ベンゼンスルホン酸のアルカリ融解や、クロロベンゼンからフェノールを合成する方法も存在する。
: [[ファイル:フェノールの昔の製法.svg|700x700ピクセル|フェノールの昔の製法]]
なお、ベンゼンスルホン酸からの製法では水酸化ナトリウムを300℃前後で融解させるので、'''アルカリ融解'''とも言われる。
また、フェノールはコールタール(石炭の乾留から生じる液体)の分留によっても得ることが出来る。
==== フェノールの反応 ====
:
フェノールは反応性が高く、さまざまな化合物を生じる。フェノールに臭素を反応させると、ヒドロキシ基に対してオルト位とパラ位の水素原子が臭素で置換され、2,4,6-トリブロモフェノールの白色沈殿を生じる。
: [[ファイル:2,4,6-tribromophenol_synthesis.PNG|400x400ピクセル|2,4,6-トリブロモフェノールの合成]]
[[ファイル:Pikrinsäure.svg|サムネイル|ピクリン酸]]また、フェノールに濃硫酸と濃硝酸を作用させると、ヒドロキシ基に対してオルト位とパラ位をニトロ化してピクリン酸を生じる。
== 芳香族カルボン酸 ==
ベンゼン環にカルボキシル基が直接結合した化合物を'''芳香族カルボン酸'''(aromatc carboxylic acid)という。一般に、水には溶けにくいが、水中ではわずかに電離して、水中では弱い酸性を示す。
また、水酸化ナトリウムなどの塩基の水溶液と中和して、塩を生じて、水に溶ける。
芳香族カルボン酸は、医薬品や染料の原料として、よく用いられる。
=== 安息香酸 ===
[[ファイル:安息香酸.svg|サムネイル|安息香酸。高校では、このように略記するのが普通。]]
[[ファイル:Benzoesäure_V1.2.svg|サムネイル|安息香酸の構造。あまり、こうは描かない。]]
'''{{Ruby|安息香|あんそくこう}}酸'''(benzoic acid) C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>COOH はベンゼン環の水素原子1つをカルボキシル基で置換した物質である。白色の固体で、水に溶けにくいが、熱水には溶け、水溶液中では弱酸性を示す。また、有機溶媒によく溶ける。最も単純な構造の芳香族カルボン酸であり、弱酸性を示す。安息香酸は水酸化ナトリウム水溶液に加えると、安息香酸ナトリウムを生じて溶ける。しかし、塩酸などの強酸を加えると、弱酸である安息香酸は遊離し、白色結晶が析出する。
: [[ファイル:安息香酸の合成式.svg|600x600ピクセル|安息香酸の合成式]]
安息香酸は、触媒をもちいてトルエンの酸化により得られる。トルエンを二酸化マンガンを触媒として酸化するか、あるいは過マンガン酸カリウム水溶液中で加熱するかで、トルエンの側鎖 -CH<sub>3</sub> が酸化されて安息香酸が得られる。
: [[ファイル:ベンズアルデヒドと安息香酸の式.svg|600x600ピクセル|ベンズアルデヒドと安息香酸の式]]
トルエンから安息香酸までの反応のさい、おだやかな条件で酸化させると、まずトルエンのメチル基 -CH<sub>3</sub> が酸化されアルデヒド基となり、-CHO基をもつベンズアルデヒド C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>CHO が生じる。ベンズアルデヒドは無色であり、芳香をもち、空気中で徐々に酸化されて、しだいに安息香酸になる。
{{-}}
=== フタル酸とテレフタル酸 ===
[[ファイル:Phthalic_Acid.PNG|サムネイル|フタル酸]]
'''フタル酸''' C<sub>6</sub>H<sub>4</sub>(COOH)<sub>2</sub> はベンゼン環に2つのカルボキシル基が、互いにオルト位に結合した物質である。フタル酸は2つのカルボキシル基が近い位置にあるため、加熱により分子内脱水反応が起こり、無水フタル酸を生じる。
: [[ファイル:フタル酸と無水フタル酸.svg|500x500ピクセル|フタル酸と無水フタル酸]]
フタル酸の製法は、工業的には、o(オルト)-キシレンの酸化によって得られる。「オルト」とは、ベンゼン環での隣り合った位置どうしの関係のこと。
なお、バナジウムの触媒でナフタレンを酸化しても、無水フタル酸が得られる。
'''テレフタル酸'''はフタル酸の異性体であり、互いにパラ位に2つのカルボキシル基が存在する。フタル酸とは異なり、カルボキシル基が離れているため、加熱しても脱水反応は起こらない。テレフタル酸はペットボトルやワイシャツなどの素材となるPET(ポリエチレンテレフタラート)の原料である。テレフタル酸の製法は、工業的には、p(パラ)-キシレンの酸化によって得られる。
: [[ファイル:テレフタル酸.svg|600x600ピクセル|テレフタル酸]]
{{-}}
=== サリチル酸 ===
'''サリチル酸'''は、ベンゼン環にカルボキシル基とヒドロキシ基が互いにオルト位に結合した物質である。 サリチル酸は、ナトリウムフェノキシドから合成される。ナトリウムフェノキシドに二酸化炭素を高温・高圧下で反応させるとサリチル酸ナトリウムが作られる。そのサリチル酸ナトリウムに希硫酸を作用させると、サリチル酸が得られる。
: [[ファイル:サリチル酸の合成式.svg|700x700ピクセル|サリチル酸の合成式]]
サリチル酸は無色(白色)の結晶で、水にはわずかに溶けて酸性を示す。温水やエタノールにはよく溶ける。サリチル酸はベンゼン環に直接ヒドロキシ基が結合しているため、芳香族カルボン酸としての性質を持つと同時に、[[高等学校化学I/芳香族化合物/芳香族カルボン酸#%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%AB%E9%A1%9E|フェノール類]]としての性質も持つ。
また、サリチル酸のヒドロキシ基を無水酢酸でアセチル化(アセチル基-OCOCH{{sub|3}}での置換反応)すると、'''アセチルサリチル酸'''となる。アセチルサリチル酸は「アスピリン」とも呼ばれ、解熱鎮痛剤として広く用いられている。
: [[ファイル:アセチルサリチル酸の合成式.svg|800x800ピクセル|アセチルサリチル酸の合成式]]
サリチル酸のカルボキシル基をメタノールでエステル化すると、'''サリチル酸メチル'''となる。サリチル酸メチルは湿布薬などに消炎剤として用いられる。
:
== 芳香族アミン ==
アンモニア NH<sub>3</sub> の水素基を炭化水素基で置換した化合物を'''アミン'''(amine)といい、その置換で置かれた炭化水素基が芳香族炭化水素基の場合を'''芳香族アミン'''(aliphateic amine)といい、つまりベンゼン環をもつアミンが芳香族アミンであり、具体例としては後述するアニリンが芳香族アミンである。
一般に芳香族アミンは弱塩基性であり、また、アンモニアに化学的性質が似ている。
=== アニリン ===
'''アニリン'''はベンゼンの水素原子1つをアミノ基で置換した物質である。アニリンは無色油状の液体で(沸点185℃)、水に溶けにくい。アニリンを水と混ぜると、分離して下に沈む。アミノ基は弱塩基性を示すため、塩酸と反応するとアニリン塩酸塩 C6H5NH5Cl を生じて、水に溶けるようになる。
: [[ファイル:アニリン塩酸塩の合成式.svg|600x600ピクセル|アニリン塩酸塩の合成式]]
アニリン塩酸塩に、水酸化ナトリウムのような強塩基の水溶液を加えると、油状のアニリンが遊離する。
アニリン溶液は、さらし粉の水溶液を加えると、酸化されて赤紫色になる。この呈色反応はアニリンの検出反応として重要である。
また、アニリンを硫酸酸性二クロム酸カリウム水溶液で酸化すると黒色物質を生じる。これは'''アニリンブラック'''(aniline black)と呼ばれ、黒色染料や黒色顔料として用いられる。
* 製法
アニリンの製法は、実験室ではニトロベンゼンから合成される。ニトロベンゼンにスズと塩酸を加えて加熱すると、還元され、アニリン塩酸塩を生じる。この水溶液に水酸化ナトリウム水溶液のような強塩基を加えて、アニリンを遊離させる。アニリンは水に溶けず分離するため、ジエチルエーテルを加えてアニリンをエーテルに溶かし抽出する。エーテル層と水層の2層に分離するため、エーテル層のみを取り出してエーテルを蒸発させると、アニリンが得られる。
: [[ファイル:Nitrobenzene-reduction.png|300x300ピクセル|アニリンの合成]]
=== アセトアニリド ===
アニリンに無水酢酸を作用させると、アミノ基がアセチル化され、'''アセトアニリド''' C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>NHCOCH<sub>3</sub> を生じる。アセトアニリドは無色無臭(白色)の固体であり、解熱鎮痛剤の原料となる。
: [[ファイル:アセトアニリドの合成式.svg|700x700ピクセル|アセトアニリドの合成式]]
この反応では、アミノ基とカルボキシ基との間で分子間脱水した結合-NH-CO-を生じている。この結合は'''アミド結合'''と呼ばれ、タンパク質やアミノ酸を構成する結合としても重要である。
== アゾ化合物 ==
アニリンに希塩酸を加えてアニリン塩酸塩とし、これを氷水につけて冷却しながら亜硝酸ナトリウム水溶液をすこしずつ反応させると、塩化ベンゼンジアゾニウム C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>N<sub>2</sub><sup>+</sup>Cl<sup>ー</sup> を生じる。-N{{sup|+}}≡Nを含む化合物ジアゾニウム化合物と呼び、このようにジアゾニウム塩を生じる反応を'''ジアゾ化'''(diazotization)と呼ぶ。
: [[ファイル:塩化ベンゼンジアゾニウムの合成式.svg|700x700ピクセル|塩化ベンゼンジアゾニウムの合成式]]
塩化ベンゼンジアゾニウムは非常に不安定な物質であり、常温ではフェノールと窒素に分解してしまう。そのため、低温に冷却して反応を進行させる必要がある。
塩化ベンゼンジアゾニウム水溶液にナトリウムフェノキシド水溶液を加えると、''p''-ヒドロキシアゾベンゼン(''p''-フェニルアゾフェノール)を生じて橙赤色(とうせきしょく)を呈する。このようにジアゾニウム塩と他の芳香族化合物からアゾ化合物を生成する反応を'''ジアゾカップリング'''(diazo coupling)と呼ぶ。
: [[ファイル:Pヒドロキシアゾベンゼンの合成式.svg|900x900ピクセル|Pヒドロキシアゾベンゼンの合成式]]
分子中に'''アゾ基''' -N=N- を持つ物質を'''アゾ化合物'''(azo compound)と呼ぶ。アゾ化合物は様々な色をもち、染料として用いられるものもある。また、このようにジアゾ二ウム塩から、アゾ基をもつ化合物をつくる反応を'''ジアゾカップリング'''(diazo coupling)という。
== アゾ化合物の利用 ==
芳香族アゾ化合物は、一般に、黄色〜赤色、橙色の化合物であり、染料('''アゾ染料''')や顔料として用いられる。
[[ファイル:Methyl-orange-sample.jpg|サムネイル|メチルオレンジ]]
[[ファイル:Methyl_orange_for_beginner_student_jp.svg|600x600ピクセル|メチルオレンジ]]
{{-}} またメチルオレンジやメチルレッドもアゾ化合物であり、水溶液中のpHによって色が変わるので、pH指示薬として用いられているものも存在する。
[[ファイル:Methyl_orange_02035.JPG|左|サムネイル|200x200ピクセル|メチルオレンジの溶液]]
{{DEFAULTSORT:ほうこうそくかこうふつ へんせん}}
[[Category:高等学校化学]]
[[Category:高等学校教育]]
[[Category:化学]]
<references />
== コラム ==
=== ベンゼンの発見の歴史 ===
[[ファイル:Frkekulé.jpg|サムネイル|ケクレ]]
ベンゼンは、イギリスのファラデーによって1825年に照明用の鯨油の熱分解生成物から単離され、発見された(※ 参考文献:数研出版チャート式化学、および 東京書籍の検定教科書『化学』)。しかし、分子構造は、ファラデーは分からなかった。
その後、ドイツのミッチェルリッヒにより、ベンゼンの化学式が C<sub>6</sub>H<sub>6</sub> である事が1834年に分かった。
しかし、当初は、なぜ付加反応が起こりづらいかが不明であった。
伝統的な化学史では「ベンゼンが6角形であることをドイツの化学者ケクレが発見した」と言われているが、だが近年の研究で、それが間違いであることが分かっている。ケクレが発見したとされる1860年よりも前に、すでに1854年に発表された化学者ローランの本でベンゼンが6角形で表されている<ref>山口達明、『有機化学の理論 <<学生の疑問に答えるノート>>』、三共株式会社、2020年10月10日 第5版 第1刷発行、P82</ref>。
なお、それでもケクレには別の業績があり、当時のドイツの化学者ケクレは、構造式で結合手を1本の棒で表すことを提案した人物である(※ 参考文献: 文英堂シグマベスト化学I・II)。ケクレは、さまざまな化学物質の分子構造をこの結合手の棒による表現方法であらわし、化学を発展させた。
ケクレが居眠り中にひらめいたとされるケクレの夢の内容は、おおむね下記のとおり。
{{コラム|「ケクレの夢」|ある日、ついにケクレは、ベンゼンの構造が、ひらめいた。
そしてケクレは、ベンゼンが6角形の構造をしていて、二重結合と単結合が交互に一つおきにあると考えると、つじつまがあうという事を、世界で初めて、1865年に提案した。
ケクレはベンゼンの構造をひらめく前、居眠りをしていたとき、夢で、原子のつながりがヘビのように動き、それらのヘビがおたがいの尻をかじって輪っか状になって、ぐるぐると回っている様子を夢で見た、といわれており、それをヒントにベンゼンの構造がひらめいたといわれる。
この業績をたたえてか、ベンゼンの分子構造のことを「ケクレ式」や「ケクレ構造」という場合もある。}}
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2022-08-22T08:25:20Z
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wikitext
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{{pathnav|高等学校の学習|高等学校理科|高等学校理科 化学|pagename=芳香族化合物|frame=1|small=1}}
= ベンゼン =
:[[File:ベンゼン環の分子模型.svg|thumb|left|150x150px|ベンゼンの分子模型]]
[[ファイル:Benezene-2D molecule.jpg|サムネイル|ベンゼンの構造。]]
'''ベンゼン'''C{{sub|6}}H{{sub|6}}は正六角形の環状構造である。
6つの炭素原子が正六角形に結合し、その外側に水素原子がひとつずつ結合した構造をもつ。これら12個の原子はすべて同一平面上にある。
この構造式を見ると炭素原子間の結合は二重結合と単結合が繰り返されているように思えるが、実際は、炭素原子間の6つの結合はすべて等価であり、単結合と二重結合の中間の1.5重結合のような性質を持っている。
この特徴的な環構造を'''ベンゼン環'''(benzene ring)という。ベンゼン環の構造は
:[[File:Benzol.svg|60px|ベンゼン環]] または [[File:Benzene circle.svg|60px|ベンゼン環]] または [[File:Benzol 2.svg|60px|ベンゼンの略記号。]] または [[File:Benzol 3.svg|60px|ベンゼンの略記号。]]
などと略記する。この教科書では、いずれの書き方も用いる。
=== 性質 ===
* 特有な臭いをもち、無色で揮発性の液体(沸点80℃、融点5.5℃)である。
* 水に溶けにくく、有機化合物をよく溶かすので、有機溶媒として用いられる。
* 引火しやすい。炭素原子の割合が多いため、多量のすすを出して燃える。
* 人体には有毒で発がん性がある。
=== ベンゼンの置換反応 ===
ベンゼンは、ベンゼン環の安定性のため、アルケンよりは付加反応を起こしづらい。だが、置換反応では、環の構造が保存されるため、ベンゼンは置換反応を起こしやすい。
*; スルホン化(sulfonation)
: 濃硫酸にベンゼンを加え加熱すると、水素原子がスルホ基 -SO<sub>3</sub>H に置換され、'''ベンゼンスルホン酸''' ( C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>SO<sub>3</sub>H ) を生じる。
: [[ファイル:ベンゼンスルホン酸の合成式.svg|500x500ピクセル|ベンゼンスルホン酸の合成式]]
ベンゼンスルホン酸は強酸である。
*; ニトロ化(nitration)
: 濃硫酸と濃硝酸の混合物(混酸)にベンゼンを加え加熱すると、水素がニトロ基 -NO<sub>2</sub> で置換され、'''ニトロベンゼン''' ( C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>NO<sub>2</sub> ) を生じる。
:: [[ファイル:ニトロベンゼンの合成式.svg|500x500ピクセル|ニトロベンゼンの合成式]]
ニトロベンゼンは、無色の液体で、特有の甘い香りをもつ。ニトロベンゼンは、水に溶けにくく、水より重い(密度1.2g/cm<sup>3</sup>)。
ニトロベンゼンのように、炭素原子に直接ニトロ基が結合した化合物をニトロ化合物という。
*; ハロゲン化(halogenation)
: [[ファイル:1,4-dichlorobenzene.svg|サムネイル|191x191ピクセル|p-ジクロロベンゼン]]ベンゼンに触媒を用いてハロゲンを反応させると、置換反応が生じる。例えば塩素を反応させると水素原子を1つ置換して'''クロロベンゼン''' ( C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>Cl ) が生じる。
:: [[ファイル:クロロベンゼンの合成式.svg|500x500ピクセル|クロロベンゼンの生成]]
: クロロベンゼンにさらに塩素を付加すると生じるパラジクロロベンゼン(''p''-ジクロロベンゼン)は昇華性がある無色の固体(融点:54℃)であり、防虫剤として用いられる。
=== ベンゼンの付加反応 ===
ベンゼンでは付加反応はほとんど起こらないが、高温高圧下で触媒を用いると、水素を付加されてシクロヘキサン ( C<sub>6</sub>H<sub>12</sub> ) を生じる。
: [[ファイル:ベンゼンの水素付加反応.svg|450x450ピクセル|ベンゼンの水素付加反応]]
また、ベンゼンと塩素の混合物に紫外線を加えても、付加反応を起こし、ヘキサクロロシクロヘキサン ( C<sub>6</sub>H<sub>6</sub>Cl<sub>6</sub> ) を生じる。
: [[ファイル:ベンゼンの塩素付加反応.svg|510x510ピクセル|ベンゼンの塩素付加反応]]
== 芳香族炭化水素 ==
{| cellspacing="0" border="1" align="right"
!名称
!構造式
|-
|'''トルエン'''C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>CH<sub>3</sub>
|[[ファイル:Toluene_acsv.svg|91x91ピクセル|トルエン]]
|-
|'''スチレン'''
|[[ファイル:Polystyrol-Strukturformel.svg|100x100ピクセル|スチレン]]
|-
|'''ナフタレン'''C<sub>10</sub>H<sub>8</sub>
| [[ファイル:Naphthalene-2D-Skeletal.svg|100x100ピクセル|ナフタレン]]
|-
| '''アントラセン'''
C<sub>14</sub>H<sub>10</sub>
| [[ファイル:Anthracen.svg|150x150ピクセル|アントラセン]]
|-
|}
ベンゼン環をもつ炭化水素を'''{{Ruby|芳香|ほうこう}}族炭化水素'''(aromatic hydrocarbon)という。 芳香族炭化水素には、ベンゼンの原子が置換した'''トルエン'''(toluene、化学式:C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>CH<sub>3</sub>)やキシレンや、ベンゼンが2個結合した'''ナフタレン'''(naphthalene、化学式:C<sub>10</sub>H<sub>8</sub>)、などがある。
おもな芳香族炭化水素を右表に示す。
これらの化合物は芳香を持つものが多く、人体には有害なものが多い。また、ベンゼンと同様に可燃性があり、引火すると、すす を多く出して燃える。
キシレンには、2つのメチル基の位置によって3種類の異性体が存在する。
[[ファイル:Xylenes_ja.png|中央|500x500ピクセル|キシレンの異性体]]
''o''-,''m''-,''p''- はそれぞれ、オルト、メタ、パラと読む<ref>例えば、p-キシレンは、パラキシレンと読む。</ref>。
2つの置換基がある場合、ある置換基に対して、そのすぐ隣の位置を'''オルト位'''、1つ空いて離れた位置を'''メタ位'''、ベンゼン環を挟んで正反対の位置を'''パラ位'''と呼び、それぞれ記号''o''-,''m''-,''p''-をつけて異性体を区別する。
{| class="wikitable"
|+
!名称
!融点[℃]
!沸点[℃]
|-
|ベンゼン
|6
|80
|-
|トルエン
| -95
|111
|-
|スチレン
| -31
|145
|-
|o-キシレン
| -25
|144
|-
|m-キシレン
| -48
|139
|-
|p-キシレン
|13
|138
|-
|ナフタレン
|81
|218
|-
|アントラセン
|216
|342
|-
|}
==== トルエンのニトロ化 ====
混酸をもちいてトルエンをニトロ化すると、o-位やp-位がニトロ化されて、ニトロトルエン C<sub>6</sub>H<sub>4</sub>(CH<sub>3</sub>)NO<sub>2</sub> が生じる。<gallery widths="150px" heights="150px">
File:O-Nitrotoluol.svg|o-ニトロトルエン
File:P-Nitrotoluol.svg|p-ニトロトルエン
File:Trinitrotoluene acsv.svg|2,4,6,-トリニトロトルエン
</gallery>さらにニトロ化すると、 2,4,6,-トリニトロトルエン(略称:TNT)が生じる。TNTは火薬の原料である。
== 発展: ベンゼン環の共鳴 ==
[[ファイル:共鳴を知らない場合のO-キシレンの想定.svg|サムネイル|300x300ピクセル|共鳴を知らない場合のo-キシレンの想像図(じっさいとは、ちがう)。]]
[[ファイル:Benzol_Representationen.svg|サムネイル|600x600ピクセル|π電子の説明図、など(図中の文字はドイツ語)下段の右から2つめの図 Benzol Delokalisierte π-Orbitalwolke の青色で表現された電子のように、ベンゼン環では価電子がリング状に存在している。]]
ベンゼンの異性体のひとつ、o-キシレンは、想像図のように2通りが考えられそうだが、じっさいには1通りしかない。
なぜなら、そもそもベンゼン環の環の部分のあいだの結合は、単結合と二重結合の中間の状態の結合になっているからである。 じっさいに、どんな実験によっても、o-キシレンは1種類しか発見されていない。
このように、単結合と二重結合の中間の状態の結合のある現象を'''共鳴'''(きょうめい)という。
ベンゼン環が共鳴をしているという事は、つまり、価電子が、特定の2個の炭素原子間に束縛されず、ベンゼン環のリング全体に円周状に均等に広がって存在しているという事である。このような現象を、電子の「非局在化」(ひ きょくざいか、英:delocation)などという。
(※ ベンゼン環での価電子の非局在化は、高校の範囲内。啓林館の検定教科書や、第一学習社の検定教科書などに、書いてある。)
つまり、ベンゼン環では、価電子が非局在化する事により、安定をしている。
なにもo-キシレンだけにかぎらず、すべてのベンゼン環は、このように共鳴している。
ベンゼン環が共鳴していることを明記したい場合、
[[ファイル:Benzene_circle.svg|左|72x72ピクセル|ベンゼン環]]
でベンゼン環を表記する場合もある。
{{-}} o-キシレンなどベンゼン環をもつ化合物にて、そのベンゼン環が共鳴してる構造式を書く場合には、書き方が主に2つある。 ひとつの書き方としては、下図のように両矢印でつないで書き、さらに [ ] で囲って、共鳴をあらわす。
[[ファイル:O-キシレンの共鳴_1.svg|左|サムネイル|300x300ピクセル|O-キシレンの共鳴の書き方のひとつ。]]
{{-}} あるいは、もうひとつの書き方として、構造式中のベンゼン環を [[ファイル:Benzene_circle.svg|72x72ピクセル|ベンゼン環]] で表して共鳴を表現してもよい。
[[ファイル:O-キシレンの共鳴_2.svg|左|サムネイル|200x200ピクセル|O-キシレンの共鳴の書き方のひとつ。]]
{{-}}
また、ベンゼン環は、共鳴によってエネルギー的に安定化する。そもそも、そのような原理によって、ベンゼン化合物で安定して存在できるのである。そして、ベンゼン環における共鳴とはつまり、価電子の非局在化のことだから、非局在化によって電子が安定的に存在できる、という事になる。
== フェノール類 ==
{| style="text-align:center" cellspacing="0" border="1" align="right"
!名称
!構造式
|-
|'''フェノール'''
|[[ファイル:Phenol-2D-skeletal.png|85x85ピクセル|フェノール]]
|-
|'''''o''-クレゾール'''
|[[ファイル:O-Kresol.png|76x76ピクセル|o-クレゾール]]
|-
|'''''m''-クレゾール'''
|[[ファイル:M-Kresol.png|76x76ピクセル|m-クレゾール]]
|-
|'''''p''-クレゾール'''
|[[ファイル:P-Kresol.png|99x99ピクセル|p-クレゾール]]
|}
ベンゼン環にヒドロキシ基 -OH が直接結合したものを'''フェノール類'''(phenols)と呼ぶ。フェノール類には、フェノールのほか、クレゾール、ナフトールなどがある。フェノール類は互いに似た性質を示す。
構造式を下に示すベンジルアルコールのように、ベンゼン環に直接ヒドロキシ基が結合しないものはフェノール類に属さない。
[[ファイル:Alkohol_benzylowy.svg|中央|サムネイル|150x150ピクセル|ベンジルアルコール]]
フェノール類の持つヒドロキシ基は水溶液中でわずかに電離し、弱酸性を示す。フェノール類の水溶液は、炭酸よりも弱い酸性を示す。
: [[ファイル:フェノキシドイオンの合成式.svg|600x600ピクセル|フェノキシドイオンの合成式]]
フェノール類は水にほとんど溶けないが、塩基水溶液と反応して塩となり水に溶ける。
: [[ファイル:ナトリウムフェノキシドの合成式.svg|600x600ピクセル|ナトリウムフェノキシドの合成式]]
ナトリウムフェノキシドの溶液に、フェノールよりも強い酸である二酸化炭素などをくわえると、フェノールが生じる。
* ナトリウムとの反応
また、フェノール類は、アルコールと同様に単体のナトリウムと反応し、水素を発生する。
: 2[[ファイル:フェノール.svg|100x100ピクセル|フェノール]] + 2Na → 2 [[ファイル:Natriumphenolat_Structural_Formula_V.1.svg|80x80ピクセル|ナトリウムフェノキシド]] + H{{sub|2}}↑
=== 検出反応 ===
フェノール類水溶液は塩化鉄(Ⅲ) FeCl{{sub|3}} 水溶液を加えると青~赤紫色を呈する。この呈色反応はフェノール類の検出に利用される。
=== フェノール ===
'''フェノール'''はベンゼン環の水素原子を1つヒドロキシ基で置換した構造である。
特有の匂いを持つ、人体には有毒な白色の固体である。石炭の乾留から得られるため石炭酸ともいう。
[[ファイル:Phenol-2D-skeletal.png|左|サムネイル|128x128ピクセル|フェノール]]
{{-}}
==== フェノールの合成 ====
フェノールはベンゼンを原料として様々な経路により合成することができる。中でも、工業的には'''クメン法'''(Cummene process)が重要である。
; クメン法
# ベンゼンとプロピレンを触媒を用いて反応させ、クメンを生じる。
# クメンを酸素で酸化し、クメンヒドロペルオキシドとする。
# 希硫酸により分解し、フェノールを生じる。この際、副生成物としてアセトンを生じる。
: [[ファイル:クメン法.svg|中央|700x700ピクセル|クメン法]]
このほかに、従来はベンゼンスルホン酸やクロロベンゼンからフェノールを合成する方法もあったが、現在は行われていない。
他にも、ベンゼンスルホン酸のアルカリ融解や、クロロベンゼンからフェノールを合成する方法も存在する。
: [[ファイル:フェノールの昔の製法.svg|700x700ピクセル|フェノールの昔の製法]]
なお、ベンゼンスルホン酸からの製法では水酸化ナトリウムを300℃前後で融解させるので、'''アルカリ融解'''とも言われる。
また、フェノールはコールタール(石炭の乾留から生じる液体)の分留によっても得ることが出来る。
==== フェノールの反応 ====
:
フェノールは反応性が高く、さまざまな化合物を生じる。フェノールに臭素を反応させると、ヒドロキシ基に対してオルト位とパラ位の水素原子が臭素で置換され、2,4,6-トリブロモフェノールの白色沈殿を生じる。
: [[ファイル:2,4,6-tribromophenol_synthesis.PNG|400x400ピクセル|2,4,6-トリブロモフェノールの合成]]
[[ファイル:Pikrinsäure.svg|サムネイル|ピクリン酸]]また、フェノールに濃硫酸と濃硝酸を作用させると、ヒドロキシ基に対してオルト位とパラ位をニトロ化してピクリン酸を生じる。
== 芳香族カルボン酸 ==
ベンゼン環にカルボキシル基が直接結合した化合物を'''芳香族カルボン酸'''(aromatc carboxylic acid)という。一般に、水には溶けにくいが、水中ではわずかに電離して、水中では弱い酸性を示す。
また、水酸化ナトリウムなどの塩基の水溶液と中和して、塩を生じて、水に溶ける。
芳香族カルボン酸は、医薬品や染料の原料として、よく用いられる。
=== 安息香酸 ===
[[ファイル:安息香酸.svg|サムネイル|安息香酸。高校では、このように略記するのが普通。]]
[[ファイル:Benzoesäure_V1.2.svg|サムネイル|安息香酸の構造。あまり、こうは描かない。]]
'''{{Ruby|安息香|あんそくこう}}酸'''(benzoic acid) C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>COOH はベンゼン環の水素原子1つをカルボキシル基で置換した物質である。白色の固体で、水に溶けにくいが、熱水には溶け、水溶液中では弱酸性を示す。また、有機溶媒によく溶ける。最も単純な構造の芳香族カルボン酸であり、弱酸性を示す。安息香酸は水酸化ナトリウム水溶液に加えると、安息香酸ナトリウムを生じて溶ける。しかし、塩酸などの強酸を加えると、弱酸である安息香酸は遊離し、白色結晶が析出する。
: [[ファイル:安息香酸の合成式.svg|600x600ピクセル|安息香酸の合成式]]
安息香酸は、触媒をもちいてトルエンの酸化により得られる。トルエンを二酸化マンガンを触媒として酸化するか、あるいは過マンガン酸カリウム水溶液中で加熱するかで、トルエンの側鎖 -CH<sub>3</sub> が酸化されて安息香酸が得られる。
: [[ファイル:ベンズアルデヒドと安息香酸の式.svg|600x600ピクセル|ベンズアルデヒドと安息香酸の式]]
トルエンから安息香酸までの反応のさい、おだやかな条件で酸化させると、まずトルエンのメチル基 -CH<sub>3</sub> が酸化されアルデヒド基となり、-CHO基をもつベンズアルデヒド C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>CHO が生じる。ベンズアルデヒドは無色であり、芳香をもち、空気中で徐々に酸化されて、しだいに安息香酸になる。
{{-}}
=== フタル酸とテレフタル酸 ===
[[ファイル:Phthalic_Acid.PNG|サムネイル|フタル酸]]
'''フタル酸''' C<sub>6</sub>H<sub>4</sub>(COOH)<sub>2</sub> はベンゼン環に2つのカルボキシル基が、互いにオルト位に結合した物質である。フタル酸は2つのカルボキシル基が近い位置にあるため、加熱により分子内脱水反応が起こり、無水フタル酸を生じる。
: [[ファイル:フタル酸と無水フタル酸.svg|500x500ピクセル|フタル酸と無水フタル酸]]
フタル酸の製法は、工業的には、o(オルト)-キシレンの酸化によって得られる。「オルト」とは、ベンゼン環での隣り合った位置どうしの関係のこと。
なお、バナジウムの触媒でナフタレンを酸化しても、無水フタル酸が得られる。
'''テレフタル酸'''はフタル酸の異性体であり、互いにパラ位に2つのカルボキシル基が存在する。フタル酸とは異なり、カルボキシル基が離れているため、加熱しても脱水反応は起こらない。テレフタル酸はペットボトルやワイシャツなどの素材となるPET(ポリエチレンテレフタラート)の原料である。テレフタル酸の製法は、工業的には、p(パラ)-キシレンの酸化によって得られる。
: [[ファイル:テレフタル酸.svg|600x600ピクセル|テレフタル酸]]
{{-}}
=== サリチル酸 ===
'''サリチル酸'''は、ベンゼン環にカルボキシル基とヒドロキシ基が互いにオルト位に結合した物質である。 サリチル酸は、ナトリウムフェノキシドから合成される。ナトリウムフェノキシドに二酸化炭素を高温・高圧下で反応させるとサリチル酸ナトリウムが作られる。そのサリチル酸ナトリウムに希硫酸を作用させると、サリチル酸が得られる。
: [[ファイル:サリチル酸の合成式.svg|700x700ピクセル|サリチル酸の合成式]]
サリチル酸は無色(白色)の結晶で、水にはわずかに溶けて酸性を示す。温水やエタノールにはよく溶ける。サリチル酸はベンゼン環に直接ヒドロキシ基が結合しているため、芳香族カルボン酸としての性質を持つと同時に、[[高等学校化学I/芳香族化合物/芳香族カルボン酸#%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%AB%E9%A1%9E|フェノール類]]としての性質も持つ。
また、サリチル酸のヒドロキシ基を無水酢酸でアセチル化(アセチル基-OCOCH{{sub|3}}での置換反応)すると、'''アセチルサリチル酸'''となる。アセチルサリチル酸は「アスピリン」とも呼ばれ、解熱鎮痛剤として広く用いられている。
: [[ファイル:アセチルサリチル酸の合成式.svg|800x800ピクセル|アセチルサリチル酸の合成式]]
サリチル酸のカルボキシル基をメタノールでエステル化すると、'''サリチル酸メチル'''となる。サリチル酸メチルは湿布薬などに消炎剤として用いられる。
:
== 芳香族アミン ==
アンモニア NH<sub>3</sub> の水素基を炭化水素基で置換した化合物を'''アミン'''(amine)といい、その置換で置かれた炭化水素基が芳香族炭化水素基の場合を'''芳香族アミン'''(aliphateic amine)といい、つまりベンゼン環をもつアミンが芳香族アミンであり、具体例としては後述するアニリンが芳香族アミンである。
一般に芳香族アミンは弱塩基性であり、また、アンモニアに化学的性質が似ている。
=== アニリン ===
'''アニリン'''はベンゼンの水素原子1つをアミノ基で置換した物質である。アニリンは無色油状の液体で(沸点185℃)、水に溶けにくい。アニリンを水と混ぜると、分離して下に沈む。アミノ基は弱塩基性を示すため、塩酸と反応するとアニリン塩酸塩 C6H5NH5Cl を生じて、水に溶けるようになる。
: [[ファイル:アニリン塩酸塩の合成式.svg|600x600ピクセル|アニリン塩酸塩の合成式]]
アニリン塩酸塩に、水酸化ナトリウムのような強塩基の水溶液を加えると、油状のアニリンが遊離する。
アニリン溶液は、さらし粉の水溶液を加えると、酸化されて赤紫色になる。この呈色反応はアニリンの検出反応として重要である。
また、アニリンを硫酸酸性二クロム酸カリウム水溶液で酸化すると黒色物質を生じる。これは'''アニリンブラック'''(aniline black)と呼ばれ、黒色染料や黒色顔料として用いられる。
* 製法
アニリンの製法は、実験室ではニトロベンゼンから合成される。ニトロベンゼンにスズと塩酸を加えて加熱すると、還元され、アニリン塩酸塩を生じる。この水溶液に水酸化ナトリウム水溶液のような強塩基を加えて、アニリンを遊離させる。アニリンは水に溶けず分離するため、ジエチルエーテルを加えてアニリンをエーテルに溶かし抽出する。エーテル層と水層の2層に分離するため、エーテル層のみを取り出してエーテルを蒸発させると、アニリンが得られる。
: [[ファイル:Nitrobenzene-reduction.png|300x300ピクセル|アニリンの合成]]
=== アセトアニリド ===
アニリンに無水酢酸を作用させると、アミノ基がアセチル化され、'''アセトアニリド''' C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>NHCOCH<sub>3</sub> を生じる。アセトアニリドは無色無臭(白色)の固体であり、解熱鎮痛剤の原料となる。
: [[ファイル:アセトアニリドの合成式.svg|700x700ピクセル|アセトアニリドの合成式]]
この反応では、アミノ基とカルボキシ基との間で分子間脱水した結合-NH-CO-を生じている。この結合は'''アミド結合'''と呼ばれ、タンパク質やアミノ酸を構成する結合としても重要である。
== アゾ化合物 ==
アニリンに希塩酸を加えてアニリン塩酸塩とし、これを氷水につけて冷却しながら亜硝酸ナトリウム水溶液をすこしずつ反応させると、塩化ベンゼンジアゾニウム C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>N<sub>2</sub><sup>+</sup>Cl<sup>ー</sup> を生じる。-N{{sup|+}}≡Nを含む化合物ジアゾニウム化合物と呼び、このようにジアゾニウム塩を生じる反応を'''ジアゾ化'''(diazotization)と呼ぶ。
: [[ファイル:塩化ベンゼンジアゾニウムの合成式.svg|700x700ピクセル|塩化ベンゼンジアゾニウムの合成式]]
塩化ベンゼンジアゾニウムは非常に不安定な物質であり、常温ではフェノールと窒素に分解してしまう。そのため、低温に冷却して反応を進行させる必要がある。
塩化ベンゼンジアゾニウム水溶液にナトリウムフェノキシド水溶液を加えると、''p''-ヒドロキシアゾベンゼン(''p''-フェニルアゾフェノール)を生じて橙赤色(とうせきしょく)を呈する。このようにジアゾニウム塩と他の芳香族化合物からアゾ化合物を生成する反応を'''ジアゾカップリング'''(diazo coupling)と呼ぶ。
: [[ファイル:Pヒドロキシアゾベンゼンの合成式.svg|900x900ピクセル|Pヒドロキシアゾベンゼンの合成式]]
分子中に'''アゾ基''' -N=N- を持つ物質を'''アゾ化合物'''(azo compound)と呼ぶ。アゾ化合物は様々な色をもち、染料として用いられるものもある。また、このようにジアゾ二ウム塩から、アゾ基をもつ化合物をつくる反応を'''ジアゾカップリング'''(diazo coupling)という。
== アゾ化合物の利用 ==
芳香族アゾ化合物は、一般に、黄色〜赤色、橙色の化合物であり、染料('''アゾ染料''')や顔料として用いられる。
[[ファイル:Methyl-orange-sample.jpg|サムネイル|メチルオレンジ]]
[[ファイル:Methyl_orange_for_beginner_student_jp.svg|600x600ピクセル|メチルオレンジ]]
{{-}} またメチルオレンジやメチルレッドもアゾ化合物であり、水溶液中のpHによって色が変わるので、pH指示薬として用いられているものも存在する。
[[ファイル:Methyl_orange_02035.JPG|左|サムネイル|200x200ピクセル|メチルオレンジの溶液]]
{{DEFAULTSORT:ほうこうそくかこうふつ へんせん}}
[[Category:高等学校化学]]
[[Category:高等学校教育]]
[[Category:化学]]
<references />
== コラム ==
=== ベンゼンの発見の歴史 ===
[[ファイル:Frkekulé.jpg|サムネイル|ケクレ]]
ベンゼンは、イギリスのファラデーによって1825年に照明用の鯨油の熱分解生成物から単離され、発見された(※ 参考文献:数研出版チャート式化学、および 東京書籍の検定教科書『化学』)。しかし、分子構造は、ファラデーは分からなかった。
その後、ドイツのミッチェルリッヒにより、ベンゼンの化学式が C<sub>6</sub>H<sub>6</sub> である事が1834年に分かった。
しかし、当初は、なぜ付加反応が起こりづらいかが不明であった。
伝統的な化学史では「ベンゼンが六角形であることをドイツの化学者ケクレが発見した」と言われているが、だが近年の研究で、それが間違いであることが分かっている。ケクレが発見したとされる1860年よりも前に、すでに1854年に発表された化学者ローランの本でベンゼンが六角形で表されている<ref>山口達明、『有機化学の理論 <<学生の疑問に答えるノート>>』、三共株式会社、2020年10月10日 第5版 第1刷発行、P82</ref>。
なお、それでもケクレには別の業績があり、当時のドイツの化学者ケクレは、構造式で結合手を1本の棒で表すことを提案した人物である(※ 参考文献: 文英堂シグマベスト化学I・II)。ケクレは、さまざまな化学物質の分子構造をこの結合手の棒による表現方法であらわし、化学を発展させた。
ケクレが居眠り中にひらめいたとされるケクレの夢の内容は、おおむね下記のとおり。
{{コラム|「ケクレの夢」|ある日、ついにケクレは、ベンゼンの構造が、ひらめいた。
そしてケクレは、ベンゼンが6角形の構造をしていて、二重結合と単結合が交互に一つおきにあると考えると、つじつまがあうという事を、世界で初めて、1865年に提案した。
ケクレはベンゼンの構造をひらめく前、居眠りをしていたとき、夢で、原子のつながりがヘビのように動き、それらのヘビがおたがいの尻をかじって輪っか状になって、ぐるぐると回っている様子を夢で見た、といわれており、それをヒントにベンゼンの構造がひらめいたといわれる。
この業績をたたえてか、ベンゼンの分子構造のことを「ケクレ式」や「ケクレ構造」という場合もある。}}
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高等学校化学II/気体の性質
0
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115193
2022-08-22T08:44:08Z
Nermer314
62933
/* ※ 範囲外: 分子間力の起きる原因 */
wikitext
text/x-wiki
== 理想気体と実在気体 ==
:『[[高等学校理科 物理I/熱]]』が予備知識。
==== 理想気体 ====
ボイル・シャルルの法則は、温度が高い場合や、定圧の場合はよく当てはまる。しかし、気体の温度が低い場合や、気体の圧力が高い場合には、ズレが大きくなってくる。
熱力学の計算では、計算の便宜上、どんなときでもボイル・シャルルの法則が、そのまま成り立つ気体を考えると、計算の都合がいい。このような、ボイル・シャルルの法則がそのまま成り立つ気体のことを'''理想気体'''(りそうきたい、ideal gas)という。
理想気体は気体分子の分子間力の影響が小さい場合に、良く成り立つ。
==== 実在気体 ====
[[File:理想気体からのズレ 温度一定.svg|thumb|500px|理想気体からのズレ。 温度一定]]
いっぽう、現実の気体を'''実在気体'''(じつざいきたい)という。実在気体でも、状態方程式を改良することによって、計算ができるような工夫がされている。いくつかの改良された方程式があるが、そのうちのひとつとして、ファンデルワールス方程式という式がある。
;ファンデルワールスの状態方程式
理想気体の状態方程式では、分子そのものの大きさを考慮していないので、だったら、分子の大きさを考慮した式を作ればいいのである。同様に、理想気体では、分子間力も考慮していなかった。だったら、これを考慮した状態方程式を作れば良い。
このようにして、現実気体でも適合するように、分子の大きさと分子間力を考慮して改良された状態方程式として、'''ファンデルワールスの状態方程式'''がある。
ファンデルワールスの状態方程式を式であらわすと、
:<math> (P + \frac{n^2}{v^2} a)(V-nb) = nRT </math>
である。式中のaが分子間力を考慮した係数である。式中のbは'''排除体積'''といい、分子の大きさを考慮した数値である。
まず式中のaの係数について考えよう。
係数の<math>+\frac{n^2}{v^2} </math>が分かりづらいかもしれないが、プラス符号がついているのは、分子間力によって圧力が減少するからであり、そのためには、符号をプラスにする必要がある。
では、<math>+\frac{n^2}{v^2} </math> をどう解釈するかを述べる。
先に結論を述べるが、
:<math>+\frac{n^2}{v^2} </math> = ある分子に作用する分子間力<math>\frac{n}{v} </math> × モル濃度<math> \frac{n}{v} </math>
である。
では、この結論を導く。
まず、このような気体中の、ある1つの分子に作用する分子間力の大きさは、その分子の近くにあるまわりの分子の数に比例するので、よって、ある1つの分子に作用する分子間力の大きさは、気体の濃度
<math>c= \frac{n}{v} </math>
に比例する。
そして、すべての分子が、このような分子間力を作用しあっている事を考慮する必要があるが、しかし分子間力の性質として、近くどうしの分子のみを考えれば充分なので、現実的には、単位体積中の分子数で計算する事になる。
単位体積中の分子数とは、つまり、その気体のモル濃度 <math>c= \frac{n}{v} </math> である。
(なお、理想気体の式 pv=nRT は、<math>P = cRT </math>と変形できたことも、思い出そう。)
結局、<math>+\frac{n^2}{v^2} </math>は、単に、
:<math>+\frac{n^2}{v^2} </math> = ある分子に作用する分子間力<math>\frac{n}{v} </math> × モル濃度<math> \frac{n}{v} </math>
という計算である。
さて、bの係数について考えよう。
ボイル・シャルルの法則<math>PV = nRT </math>での体積Vとは、何かというと、これは気体分子が動ける空間である。だったら、それぞれの分子が動ける空間の体積は、その分子以外の他分子の体積を減算する必要がある。一般の気体の分子数は膨大なので他分子の数はn[mol]に比例すると見て良い。こうして、他分子の体積を減算した、気体分子が動ける分だけの体積<math>(V-nb)</math>を考慮すればよい。
==== ※ 範囲外: 分子間力の起きる原因 ====
このような気体における、上述のようなファンデルワールス方程式のような実験結果をひきおこす分子間力の原因は何だろう?
読者の高校生は、化学Iで「ファンデルワールス力」を習ったと思う。
このファンデルワールス力こそが、このような実在気体での、分子間力の原因だと考えられてる。
:(なお、気体にかぎらず、単に「分子間力」といっただけの場合、水素結合(分子間のHとOHの引き合う結合)なども含む。しかし、このファンデルワールス方程式の気体の理論では、例外として気体が水蒸気の場合を除けば、水素結合は原因ではないだろう。)
:(※ 上の節では、説明の簡単化のため、主に「ファンデルワールス力」の意味として「分子間力」という用語を用いた。)
だが、そもそも「では、ファンデワールス力の原因は何か? 万有引力とファンデルワールス力は、どう違うのか?」という問題に行きつき、結局、また疑問になってしまう。
答えを結論からいうと、定説では、分子や原子では瞬間的な分極が頻繁(ひんぱん)に起きていて、つまり、瞬間的に、プラス電荷とマイナス電荷が分子の両端に発生していて、ほかの分子と電気的な引力をおよぼしあっている、・・・というような説が、定説である。(量子力学などによるエネルギーの「ゆらぎ」が、その瞬間的な分極の起きる根拠とされている。)
分極の影響は、たとえば磁石なら遠くにいくほど、測定位置から両極の距離がほぼ同じになり、そして反対符号のN極とS極の磁力が打ち消しあうので、磁石全体の影響は逆2乗よりも急激に減少していく。このような原理で、分極では、遠くの物体の影響は無視できるのである。
なので、ファンデルワールス力の理論でも、「じつは、分子や原子は、瞬間的に電気的な分極をしているため、このような力(ファンデルワールス力)が発生するのだ」、・・・と、定説では考えられている。
要するに、まだ未解明のことが多く、科学者たちも、ファンデルワールス力の正体を、よく分かっておらず、断言しきれないのである。
== 分圧の法則 ==
反応しあわない分子式の異なる気体を混合させた複数種の気体を、一つの密閉した容器に混ぜた気体を、'''混合気体'''という。
混合して生じた混合気体の圧力を、その混合気体の'''全圧'''(ぜんあつ)という。
例として、2種の気体Aと気体Bを混ぜた混合気体を考える。混合気体の各成分AとBをそれぞれ別に、Aだけにして同じ容器に同じ温度で入れた時の圧力を気体Aの'''分圧'''(ぶんあつ)という。同様に、気体Bを気体Bだけにしておなじ容器に同じ温度で入れたときの圧力を気体Bの分圧という。
気体Aの分圧を<math>p_A</math> として、気体Bの分圧を<math>p_B</math> とすると、全圧pと分圧の間に次の関係が成り立つことが知られている。
<math> p=p_A +p_B </math>
このような、「全圧は分圧の和に等しい。」という関係式を'''ドルトンの分圧の法則'''という。
気体成分が3個以上の場合でも、同様の結果が成り立つ。3種の場合は、気体A,B,Cについて、全圧と分圧の関係は、
<math> p=p_A +p_B+p_C </math>
である。気体成分の種類の数に関わらず、これらの「全圧は分圧の和に等しい。」という関係式を'''ドルトンの分圧の法則'''という。
=== 分圧の法則の導出 ===
分圧の法則は、「混合気体でも、状態方程式が各成分単独の場合と同様に成り立つ」と仮定すれば、状態方程式から分圧の法則を導出できる。この法則は、気体成分の種類が何種類でも成り立つが、説明のため、気体成分は3種類と仮定しよう。混合気体の物質量について、以下のような関係が導出できる。
<math> n= n_A +n_B + n_C </math>
これを示そう。まず、状態方程式より、全圧の状態方程式を表すと、
<math> pv=nRT </math>
である。
このとき、分圧と物質量は、分圧の定義より、次の式になる。
<math> p_A v=n_A RT </math>
<math> p_B v=n_B RT </math>
<math> p_C v=n_C RT </math>
これ等の3個の式を足し合わせると
<math> (p_A +p_B +p_C ) v= ( n_A +n_B + n_C ) RT </math>
これを、pv=nRTで割ると、
<math> \frac{p_A +p_B +p_C }{p} = \frac{ n_A +n_B + n_C }{n} </math>
また、物質量の<math> n </math> と、 <math> n_A +n_B + n_C </math> との関係は、質量保存の法則より、以下の関係が成り立つ。
<math> n= n_A +n_B + n_C </math>
これより、
<math> \frac{p_A +p_B +p_C }{p} = \frac{ n_A +n_B + n_C }{n} =1 </math>
つまり、
<math> \frac{p_A +p_B +p_C }{p} =1 </math>
両辺に分母を掛けて
<math> p_A +p_B +p_C =p </math>
これは、分圧の法則に他ならない。
かくして、ドルトンの分圧の法則は導出された。
=== 分圧とモル分率の関係 ===
混合気体の物質量の総和に対する、各成分の物質量の比を'''モル分率'''という。
たとえば、3種類の混合気体A,B,CにおけるAのモル分率は
<math> \frac{n_A}{n} </math>
である。
同様に、Bのモル分率は、
<math> \frac{n_B}{n} </math>
である。
モル分率と全圧について、次の関係式が成り立つ。
各成分の分圧は、全圧にその成分のモル分率を掛けたものに等しい。
<math> p_A v=n_A RT </math> ・・・(1)
<math> pv=nRT </math> ・・・(2)
これより、(1)を (2)で割って、
<math> \frac{p_A}{ p}= \frac{n_A}{n} </math>
分母の全圧pを両辺に掛ければ、
<math> p_A = p \frac{n_A}{n} </math>
となり、命題「各成分の分圧は、全圧にその成分のモル分率を掛けたものに等しい。」を状態方程式から導出できた。以上。
=== 水上置換法の分圧 ===
水素H<sub>2</sub>などを水上置換法で集める場合を考える。水上置換法で集められる気体は、水蒸気の混じった混合気体である。捕集した気体の圧力には、水蒸気の分圧が含まれている。
この例の水素の場合、水素のみの分圧を求めたい場合は、捕集した気体の全圧から、水蒸気の分圧を差し引く必要がある。
つまり水素の分圧<math> p_{H_2}</math>は、全圧<math>P </math>から水蒸気の分圧<math>p_{H_2 O} </math>を差し引いた値になる。
<math> p_{H_2} = P - p_{H_2 O} </math>
大気圧下での水蒸気圧については表などで与えられるので、それを利用する。なお、参考値を言うと、温度t=27℃で、水蒸気圧は、およそ3.6kPa、あるいは単位を変えれば27mmHgである。
=== 平均分子量 ===
酸素と窒素のまじった大気中の空気などのように、2種類以上の気体が混在してる時、この混合気体を、仮に1種類の気体からなると仮定して、その気体の分子量[mol]を算出したものを'''平均分子量'''という。たとえば、空気は混合気体であり、主成分の窒素と酸素の物質量[mol]の割合が、
窒素:酸素=4:1
であるが、モル質量が窒素28g/molであり、酸素は32g/molなので、空気の平均分子量は
''28.0[g/mol] ×'' <math>\frac{4}{5}</math> ''+ 32.0[g/mol]×'' <math> \frac{4}{5}</math>''= 28.8[g/mol]''
となる。
実際にはアルゴンやニ酸化炭素なども含まれているので、これより少し式や値は変わるが、ほとんど同じ値になる。
以上の例では、大気中の空気を例に平均分子量を解説したが、なにも空気で何くても平均分子量は必要に応じて定義される。
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高校化学 天然高分子化合物
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== 糖類 ==
多数のヒドロキシ基を持つ、分子式 <chem>C_{m}(H2O){}_{n}</chem> で表される化合物を'''糖類'''(saccharides)または'''炭水化物'''(carbohydrate)という。
それ以上小さくならない最小の糖類を'''単糖'''という。単糖2分子が脱水縮合した糖類を'''二糖(disaccharide)'''、単糖2~10分子程度が脱水縮合した糖類をオリゴ糖、多数の単糖が脱水縮合した糖類を'''多糖(polysaccharide)'''という。
グルコースのようなアルデヒド基をもつ糖を'''アルドース'''(aldose)、ケトン基をもつ糖を'''ケトース'''という。
主な単糖として、グルコース、フルクトース、ガラクトース。
主な二糖として、マルトース、スクロース、ラクトース、セロビオース。
主な多糖として、デンプン、セルロースが挙げられる。
=== 単糖 ===
==== グルコース ====
* グルコース glucose(ブドウ糖, grape sugar )C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub>
グルコースは、デンプンを加水分解することによって得られる。
:(C<sub>6</sub>H<sub>10</sub>O<sub>5</sub>)<sub>n</sub> + nH<sub>2</sub>O → nC<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub>
グルコースは甘味をもち、また、水によく溶ける。水溶液中のグルコースは、一部のグルコースの環構造が開き鎖式構造に変わる。ホルミル基を持ち、還元性を示す。従って、銀鏡反応やフェーリング反応を示す。
グルコースは三種類あり、'''αグルコース'''と'''鎖式グルコース'''と'''βグルコース'''とがある。
αグルコースを水に溶かすと、上記のように一部が鎖式グルコースになり、さらにその一部が鎖式構造を経てβグルコースになる。最終的に3種類のグルコースのα形、鎖式、β型の混じりあった平衡状態になる。
[[File:Alpha-D-Glucopyranose.svg|thumb|150px|left|αグルコース]]
[[File:Beta-D-Glucopyranose.svg|thumb|150px|center|βグルコース]]
{{clear}}
==== フルクトース ====
フルクトース,fructose(果糖, fruit sugar )C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub>
フルクトースは水溶液中では、六員環フルクトースと鎖式フルクトースと五員環フルクトースがある。
フルクトースを水に溶かすと、一部が鎖式フルクトースを経て、五員環フルクトース、六員環フルクトースになる。五員環フルクトースと六員環フルクトースにはα型とβ型が存在するため、フルクトースは水溶液中では5種類の構造が存在する。
鎖状構造のフルクトースにはホルミル基は無いが、一部が異性化し、ホルミル基を持つので還元性を示す。
フルクトースは、糖類の中で最も甘く、果実などに含まれることが多い。
[[ファイル:Beta-D-Fructopyranose.svg|thumb|150px|left|六員環のβフルクトース]]
[[ファイル:Beta-D-Fructofuranose.svg|thumb|150px|center|五員環のβフルクトース]]
{{clear}}'''アルコール発酵'''
グルコースやフルクトースなどの6炭糖は酵素群チマーゼによって'''アルコール発酵'''を起こす。
C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub> → 2C<sub>2</sub>H<sub>5</sub>OH + 2CO<sub>2</sub>
==== ガラクトース ====
ガラクトースはグルコースの4位の不斉炭素原子の立体配置が異なる単糖である。寒天の成分であるガラクタンを加水分解すると、ガラクトースが得られる。ヘミアセタール構造が存在するので、水溶液は還元性をしめす。
=== ニ糖類 ===
[[ファイル:Sucrose-inkscape.svg|thumb|200px|二糖の一種であるスクロース]]
二糖類を構成する単糖類の縮合したエーテル結合を'''グリコシド結合'''という。
主な二糖類には、スクロース、マルトース、セロビオース、ラクトースがある。
==== ヘミアセタール構造 ====
有機化合物中の、ある一つのC原子に対して、そのC原子にヒドロキシル基 -OH とエーテル結合 -O- が隣り合ってる構造を、'''ヘミアセタール構造'''という。グルコースで、ヘミアセタール構造をもつのは、一箇所だけである。-OH結合だけを持つC原子は数箇所あるが、-O- 結合が隣り合ってない場合はヘミアセタール構造とは呼ばない。
水溶液中のグルコースでは、このヘミアセタール構造が変形してアルデヒドを形成している。
このヘミアセタール構造の有無を、糖類の構造式を見て調べることで、糖類の水溶液中の還元性を予測できる。まず、構造式中のエーテル結合-O- を持つ部分を探してそのOに隣り合ったC原子が-OH を持つかどうかで、還元性の有無を予測できる。
==== スクロース ====
[[ファイル:Sucrose-inkscape.svg|thumb|250px|スクロース]]スクロース(sucrose)は、αグルコースとβフルクトースがα-1,2-グリコシド結合した構造をもつ。
スクロースの水溶液は還元性を示さない。これは、グルコースとフルクトースの還元性をしめすヘミアセタール構造の部分で縮合が行われていることによる。
作物では、サトウキビやテンサイなどに、スクロースが含まれる。
* 加水分解
希酸または酵素インペルターゼでスクロースは加水分解すると、グルコースとフルクトースの等量混合物になる。
C<sub>12</sub>H<sub>22</sub>O<sub>11</sub> (スクロース) + H<sub>2</sub>O → C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub>(グルコース) + C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub> (フルクトース)
グルコースとフルクトースの等量混合物を'''転化糖'''(invert sugar)という。スクロースを加水分解すると転化糖が得られる。
==== マルトース ====
[[File:Maltose Gleichgewicht.svg|thumb|400px|マルトース(左)と、水溶液中でのアルデヒド基の出現(右)]]
(麦芽糖)
αグルコースの二分子が縮合した構造。
* 特徴
還元性を示す。
* 加水分解
希酸または酵素マルターゼで加水分解される。
デンプンを酵素アミラーゼで加水分解すると生じるのが、マルトースである。
==== ラクトース ====
[[File:Lactose(lac).png|thumb|300px|ラクトース]]
(乳糖)
ラクトース(lactose)は、ガラクトースとαグルコースが縮合した構造。
* 特徴
ラクトースの水溶液は還元性を示す。
* 加水分解
酵素ラクターゼによってラクトースは加水分解され、ガラクトースとグルコースになる。
牛乳など、哺乳類の乳汁にラクトースは含まれる。
==== トレハロース ====
[[File:Trehalose Haworth.svg|thumb|トレハロース]]
:
トレハロースの構造は、αグルコースが2分子からなり、αグルコースの1位の還元基どうしが結合した構造となっている。このことからもわかるように、トレハロースの水溶液は還元性を示さない。
自然界では、昆虫の体液、キノコやカビ、海藻などに含まれる。
=== 多糖類 ===
==== デンプン ====
デンプン(starch)は、植物が光合成によって体内につくる多糖類である。二糖類とちがい、デンプンは甘味をしめさない。また、デンプンは、還元性を示さない。
デンプンは、多数のαグルコースが脱水縮合して出来た構造をもつ多糖類の高分子化合物である。
(C<sub>6</sub>H<sub>10</sub>O<sub>5</sub>)<sub>n </sub>の構造を持つ。nは数百から数十万である。
* デンプンの性質
デンプンは冷水には溶けにくいが、約80℃の熱水には溶けてコロイド状のデンプンのりになる。
酵素'''アミラーゼ'''によって、デンプンは加水分解される。このアミラーゼによるデンプンの加水分解の結果、デンプンの重合数が少なくなった'''デキストリン'''(C<sub>6</sub>H<sub>10</sub>O<sub>5</sub>)<sub>n </sub>を生じる。そしてデキストリンは、さらに二糖類の'''マルトース'''に分解される。
マルトースに対しては、酵素'''マルターゼ'''によって、グルコースになる。
デンプンからグルコースまでの順序を化学式にまとめれば、
(C<sub>6</sub>H<sub>10</sub>O<sub>5</sub>)<sub>n </sub>デンプン→ (C<sub>6</sub>H<sub>10</sub>O<sub>5</sub>)<sub>m</sub> デキストリン → C<sub>12</sub>H<sub>22</sub>O<sub>11</sub> マルトース→ C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub> グルコース
である。(デンプンとデキストリンの重合数について、n>mとした。)
デンプンには還元性は無い。したがってデンプンは、フェーリング液を還元しない。
===== ヨウ素デンプン反応 =====
[[File:ヨウ素デンプン反応の分子構造.svg|thumb|500px|ヨウ素デンプン反応の分子構造]]
ヨウ化カリウム水溶液KIにより、デンプンは青紫色に呈色する。加熱すると、無色になる。この反応を'''ヨウ素デンプン反応'''(iodine-starch reaction)という。
デンプンは水溶液中では、分子内の水素結合により、らせん構造をとる。このらせん構造の中にヨウ素が入りこむことで、呈色する。
加熱で無色になっても、冷却すると、再び、もとの青紫色の呈色を示すようになる。
===== アミロースとアミロペクチン =====
[[File:Amylose2.svg|thumb|right|270px|アミロースの分子構造]]
[[File:Amylopektin Sessel.svg|thumb|right|アミロペクチンの分子構造]]
デンプンの種類のうち、αグルコースが直鎖状に結合したものを'''アミロース'''(amylose)と言う。αグルコースが、ところどころ枝分かれした構造のデンプンを'''アミロペクチン'''(amylopectin)という。枝分かれの割合はαグルコース数十個につき、一個の枝分かれの程度である。
もち米のデンプンは、アミロペクチンが100%である。ふつうの植物のデンプンには、アミロースが20%程度でアミロペクチンが80%程度ほど含まれている。
* アミロース
グルコースの1位と4位が結合して重合した構造になっている。
ヨウ素デンプン反応では、アミロースは青色。多くのヒドロキシル基を持ち、極性を持つ部分が多いため、熱湯には、比較的、溶けやすい。冷水には溶けにくい。
* アミロペクチン
グルコースの1位と4位が結合して重合したほかに、1位と6位が結合した重合構造になっている。
1位と6位の結合のため、構造に枝分かれ上の分岐が起こる。
ヨウ素デンプン反応では、アミロペクチンは赤紫色。アミロースとの色の違いは、直鎖状の長さの違いによって、ヨウ素との結合力に違いが生じたからある。ヨウ素と反応することから分かるように、アミロペクチンもらせん構造を取る。枝分かれをするものの、分かれた枝の先がそれぞれらせん構造をとる。
熱湯には、溶けにくい。冷水にも溶けにくい。
==== グリコーゲン ====
[[File:Glycogen structure.svg|thumb|260px|グリコーゲンの断面図]]
'''グリコーゲン'''(glycogen)は、動物の肝臓に多い多糖類で、その構造はアミロペクチンと似ているが、アミロペクチンよりも枝分かれが多い。分岐の頻度は、おおむね8~12基に一回の程度の分岐である。枝分かれが多いため放射したような網目構造をとり、らせん構造をとらない。このため、極性をもった部分が外側に出やすく、水溶性が高い。
ヨウ素デンプン反応では、グリコーゲンは赤褐色を示す。
* グリコーゲンを含む生体には、動物の体内で栄養素として多いことから、'''動物デンプン'''ともよばれる。
* グリコーゲンは肝臓や筋肉に多く含まれる。
==== セルロース ====
[[Image:Cellulose-2D-skeletal.svg|thumb|240px|セルロースの構造式]]
[[File:Alg-frut-6.jpg|left|thumb|200px|綿花から取れる綿は天然のセルロースである。]]
'''セルロース'''(cellulose)[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)<sub>3</sub>]<sub>n </sub>は植物の細胞壁の主成分である。木綿、パルプ、ろ紙は、ほぼ純粋なセルロースである。セルロースの構造は、多数のβグルコースが、直線状に縮合した構造である。セルロースの構造では、各グルコースの向きが交互に表・裏・表・裏を繰り返すので、セルロース全体で見れば直線状になっている。
* セルロースは、還元性を持たず、また、ヨウ素デンプン反応も示さない。
* セルロースは、冷水や熱水には溶けない。セルロースは、エーテルやアルコールなどにも溶けない。
* セルロースは'''シュバイツアー試薬'''に溶ける。
シュバイツアー試薬とは、水酸化銅Cu(OH)2を濃アンモニア水に溶かしたものである。水溶液中でイオンが、'''テトラ アンミン イオン''' [Cu(NH<sub>3</sub>)<sub>4</sub>]<sup>2+</sup> になる。
セルロースの示性式は、[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)<sub>3</sub>]<sub>n </sub>である。グルコース1単位あたり3個のヒドロキシル基OHを持つ。したがって、酸と反応させるとエステルを作りやすく、酢酸や硝酸とエステルをつくる。
セルロースは、酸をくわえて長時間加熱すると、最終的にグルコースになる。
このほか、酵素セルラーゼによって、セルロースは分解される。
工業上は硝酸とのセルロースのエステルである「ニトロセルロース」(後述する。)が、特に重要である。
{{clear}}
==== セルロースの誘導体 ====
===== ニトロセルロース =====
セルロース[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)<sub>3</sub>]<sub>n</sub>に、濃硝酸および濃硫酸の混合溶液(混酸)を作用させると、セルロースのOH基の一部または全部がエステル化される。セルロース中のグルコース1単位あたり、3個のOH基の一部または3個全部が硝酸エステル化されたものをニトロセルロース(nitrocellulose)という。特にセルロース中のグルコース1単位のうち、3個のOH基すべてが硝酸エステル化されたもの [C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(ONO<sub>2</sub>)<sub>3</sub>]<sub>n</sub> を'''トリニトロセルロース'''という。
[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)<sub>3</sub>]<sub>n</sub> + 3n HONO<sub>2</sub> → [C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(ONO<sub>2</sub>)<sub>3</sub>]<sub>n</sub> + 3n H<sub>2</sub>O
このトリニトロセルロースは火薬の原料である。
===== ジニトロセルロース =====
セルロース中の2個のOH基がエステル化したものはジニトロセルロースという。このジニトロセルロースは、有機溶媒に溶ける。
* コロジオン
このジニトロセルロースを、エタノールとエーテルの混合液に溶かしたものを'''コロジオン'''という。混合液には水分などを含まないので「水溶液」では無いことに注意。
コロジオンの溶液を蒸発させると、薄い膜が残る。これは半透膜の材料に使われる。コロジオンから得られた半透膜のことをコロジオン膜ともいう。
* セルロイド
ニトロセルロースをエタノールに溶かし、ショウノウを加えて得られる樹脂をセルロイドという。
===== アセテート類 =====
セルロースを無水酢酸、氷酢酸および少量の濃硫酸との混合物を反応させる。すると、分子中のOH基中のHがCOOH基で置換される'''アセチル化'''が起きて、'''トリアセチルセルロース'''が生成する。
[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)<sub>3</sub>]<sub>n</sub> + 3n (CH<sub>2</sub>CO)<sub>2</sub> O → [C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OCOCH<sub>3</sub>)<sub>3</sub>]<sub>n</sub> + 3n CH<sub>3</sub>COOH
トリアセチルセルロースはヒドロキシル基OHを持たないため、通常の溶媒(メタノール等)には溶解しづらい。しかし、トリアセチルセルロースは常温の水または温水で、エステル結合の一部が加水分解して'''ジアセチルセルロース'''
[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)(OCOCH<sub>3</sub>)<sub>2</sub>]<sub>n</sub>
になる。このジアセチルセルロースはヒドロキシル基をもつので、アセトン溶媒に溶解するようになる。このジアセチルセルロースの溶けたアセトン溶液を細孔から押し出してアセトンを蒸発・乾燥させて、紡糸したものを'''アセテート繊維'''という、あるいは単に'''アセテート'''という。
語「アセテート」の意味は、「酢酸エステルの」という意味である。
アセテート繊維のように、天然繊維を化学的に処理してから紡糸した繊維を'''半合成繊維'''(semisynthetic fiber)という。
===== レーヨン =====
天然繊維を溶媒に溶かしたのち、再び繊維に戻したものを'''再生繊維'''(regenerate fiber)という。セルロースの再生繊維は'''レーヨン'''(rayon)と呼ばれ、レーヨンにはビスコースレーヨンと銅アンモニアレーヨンがある。
* 銅アンモニアレーヨン
水酸化銅(II)であるCu(OH)<sub>2</sub>を濃アンモニア溶液に溶かした溶液を'''シュバイツアー試薬'''という。このシュバイツアー試薬溶液にセルロース(具体的には脱脂綿など)を溶かすと、粘度のある液体が得られる。この粘い液体を細孔から希硫酸の中にゆっくり押し出すと、セルロースが再生する。こうして得られた繊維を'''銅アンモニアレーヨン'''または'''キュプラ'''といい、光沢があり、滑らかであり、柔らかいので、衣服の裏地に利用される。
* ビスコースレーヨン
セルロース(具体的には脱脂綿など)を濃い水酸化ナトリウム溶液に浸す処理をして'''アルカリセルロース'''(化学式は[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)<sub>2</sub>ONa]nである。)にしてから、紙などで挟んでから絞って水気を切って、つぎに二硫化炭素CS<sub>2</sub>と反応をさせると、セルロースキサントゲン酸ナトリウム(式は[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)<sub>2</sub>OCSSNa]<sub>n</sub>である。)という物質になる。これを水酸化ナトリウム水溶液に溶かすと、赤褐色のコロイド溶液が得られる。こうして、セルロースから得られた赤褐色のコロイド溶液を'''ビスコース'''(viscose)という。このビスコースを、細孔から希硫酸の中に押し出して、セルロースを再生させて紡糸したものが、'''ビスコースレーヨン'''(viscose rayon)という繊維である。
そして、ビスコースを細孔からではなく、細長いすきまから膜上に押し出したものを'''セロハン'''(cellophane)といい、テープや包装材に利用される。
* 再生繊維
レーヨンのように、天然繊維を一度化学的に処理して溶液にした後、糸として、元の化学式を再生させた繊維を'''再生繊維'''という。
なお、アセテート繊維は化学式が変わっているので再生繊維でない。アセテート繊維は化学式が元のセルロースから変わっている繊維で、また人工物だけから得られた合成繊維でもないので、アセテート繊維などは半合成繊維という。
== タンパク質とアミノ酸 ==
=== アミノ酸 ===
[[File:Amino acid strucuture for highscool education.svg|thumb|300px|アミノ酸の一般的な構造。図中のRは、アミノ酸の種類によって、ことなる。]]
分子中にアミノ基( -NH<sub>2</sub> )とカルボキシル基( -COOH )をもつ化合物を'''アミノ酸'''(amino acid)という。アミノ酸のうち、同一の炭素C原子に、-NH<sub>2</sub>と-COOHが結合しているアミノ酸を'''αアミノ酸'''という。
アミノ酸の一般式は
:R-CH(NH<sub>2</sub>)-COOH
で表される。(Rは炭化水素基あるいは水素など。)
なお、R-の部分をアミノ酸の'''側鎖'''(そくさ)という。Rの違いによって、アミノ酸の種類が決まる。
:※ なお、生体のタンパク質は、約20種類のαアミノ酸が成分となって縮合してできる物である。生体に必要なアミノ酸のうち、ヒトの体内で合成されない・合成されにくいアミノ酸を'''必須アミノ酸'''(essential amino acid)という。
==== 光学異性体 ====
[[File:アラニンの光学異性体.svg|thumb|400px|アラニンの光学異性体]]
グリシン以外のすべてのアミノ酸には'''光学異性体'''(optical isomer)が存在する('''鏡像異性体''' enantiomer ともいう)。
天然のアミノ酸のほとんどは、L型の配置である。D型の配置のアミノ酸は、天然にはほとんどない。
{{-}}
==== アミノ酸の反応 ====
[[File:アミノ酸のアミド化とエステル化.svg|thumb|800px|center|アミノ酸のアミド化とエステル化]]
アミノ酸は分子内にカルボキシル基-COOH が存在するため、アルコール(CH<sub>3</sub>OH など)と反応しエステル化をしてエステルをつくる。また、アミノ酸は分子内にアミノ基-NH<sub>3</sub>が存在するため無水酢酸( (CH<sub>3</sub>CO)<sub>2</sub>O )と反応させるとアセチル化してアミドをつくる。
==== 双性イオン ====
[[File:双性イオン.svg|800px|center|]]
アミノ酸のアミノ基( -NH<sub>3</sub> )は塩基性を示し、いっぽうカルボキシル基( -COOH )は酸性を示すので、アミノ酸は両性化合物である。結晶中のアミノ酸分子中では、分子内で( -COOH )が水素Hを( -NH<sub>2</sub> )に渡して、アミノ酸内にイオンの( -COO<sup>-</sup> )と( -NH<sub>3</sub><sup>+</sup> )を生じる。その結果、アミノ酸の構造は、
R-CH(NH<sub>3</sub><sup>+</sup>)-COO<sup>-</sup>
の構造になる。このように分子内に酸性と塩基性の両方のイオンを生じるので、'''双性イオン'''(zwitterion)とよばれる。
このようにイオンがあるため、アミノ酸は水に溶けやすく、また、有機溶媒には溶けにくい。双性イオンの陽イオンと陰イオンどうしがクーロン力で引き合うため、アミノ酸はイオン結晶に近い結晶構造を取り、また、ほかの有機化合物と比べるとアミノ酸は比較的に融点や沸点が高い。
アミノ酸の水溶液に外部から酸をくわえると、平衡がかたむき、-COO<sup>-</sup>がH<sup>+</sup>を受け取り -COOHになるので、アミノ酸分子中で-NH<sub>3</sub><sup>+</sup>が余るので、酸性が強い溶液中ではアミノ酸は陽イオンになる。
いっぽう、アミノ酸の水溶液に外部から塩基をくわえると、平衡がかたむき、-NH<sub>3</sub><sup>+</sup>がOH<sup>-</sup>にH<sup>+</sup>を放出することによって-NH<sub>2</sub>と変わることによって、-COO<sup>-</sup>が余るので、アミノ酸は陰イオンになる。
==== 等電点 ====
アミノ酸分子中の正負の電荷が等しくなっているときのpHを'''等電点'''(isoelectric point)という。側鎖がイオン化する場合は、その電荷も含む。
等電点を測定するには、水溶液に電圧を加ればよい。等電点よりPHが小さい(酸性)水溶液中では、アミノ酸は陽イオンになっているため、陰極側に移動する。いっぽう、等電点よりpHが大きい(塩基性)と、アミノ酸は陰イオンになってるため、陽極側に移動する。
そして、pHが等電点と同じくらいの水溶液中だと、アミノ酸は陽極にも陰極にも移動しないので、よって、この状態の水溶液のpHを測定することにより、等電点を測定できる。
要するに、アミノ酸の等電点を測定する方法とは、アミノ酸混合物の水溶液のpHを変えながら、それぞれのpHごとに電気泳動をすればよい。
また、この等電点の測定のさいの電気泳動を利用して、アミノ酸を分離することができる。
具体的な実験方法は、アミノ酸を染み込ませた濾紙(ろし)などに、2本の電極で直流電圧を加える電気泳動をおこなうと、等電点の異なるアミノ酸は移動の仕方が異なるので分離をする。このとき、アミノ酸を呈色をさせるため、後述するニンヒドリン反応を利用する必要があり、そのため、電気泳動後にニンヒドリン溶液をふきつける。
このような実験で、等電点より酸性では陰極側へアミノ酸が移動したのが観測でき、等電点より塩基性では陽極側へ移動することが観測でき、このように、じっさいに目視でアミノ酸のpHごとの移動結果を観測できる。
アミノ酸の種類ごとの等電点は、たとえばグリシンでは pH=6.0 であり、酸性アミノ酸のグルタミン酸ではpH=3.2であり、塩基性アミノ酸のリシンでは9.7というように、アミノ酸の種類ごとに等電点は異なる。
水溶液が中性付近では、ふつうは双対イオン状態のアミノ酸が最も多く、陰イオン状態のアミノ酸や陽イオン状態のアミノ酸は少ししか存在しない。
==== ニンヒドリン反応 ====
[[File:Ninhydrin.svg|thumb|ニンヒドリン分子]]
アミノ酸水溶液に薄いニンヒドリン水溶液を加えて温めると、アミノ基 -NH<sub>2</sub> と反応して、色が青紫~赤紫になる。この反応を'''ニンヒドリン反応'''(ninhydrin reaction)といい、アミノ酸の検出などの目的に用いられる。この反応は、アミノ酸の検出やタンパク質の検出に利用される。なお。タンパク質も、構造の端部などにアミノ酸をふくむため、少しながらニンヒドリン反応をするので、色が青紫〜赤紫になる(※ タンパク質のニンヒドリン反応も、高校の範囲内。啓林館や第一学習社の検定教科書に、タンパク質のニンヒドリン反応の記述あり)。
{{-}}
==== アミノ酸の例 ====
{| class="wikitable" style="background-color:#fff"
! 名称 <br /> (カッコ内のは略記号) !! 構造式 !! 所在、特徴など !! 等電点
|-
| グリシン <br /> (Gly) || [[Image:Glycine for highschool.svg|150px]] || 最も簡単なアミノ酸。<br />光学異性体が存在しない。 || 6.0
|-
| アラニン <br /> (Ala) || [[Image:Alanine for highschool.svg|150px]] || タンパク質の構成成分。<br />絹に多い。 || 6.0
|-
| セリン <br /> (Ser) || [[Image:Serine for highschool.svg|150px]] || 絹に多い。<br />-OH基をもつ。 || 5.7
|-
| フェニルアラニン <br /> (Phe) || [[Image:Phenylakanine for highschool.svg|190px]] || 牛乳や卵に多い。<br />ベンゼン環をもつ。 || 5.5
|-
| システイン <br /> (Cys) || [[Image:Cysteine for highschool.svg|150px]] || 毛や爪、角に多い。<br />-SH(チオ基)をもつ。 || 5.1
|-
| メチオニン <br /> (Met) || CH3 ー S ー (CH2)2 ー || 牛乳のタンパク質のガゼインに多い。<br />硫黄をふくむ。 || 5.7
|-
| アスパラギン酸 <br /> (Asp) || [[Image:Aspartic-acid for highschool.svg|200px]] || 植物のタンパク質に多い。<br /> || 2.8
|-
| グルタミン酸 <br /> (Glu) || [[Image:Glutamic-acid for highschool.svg|200px]] || 小麦に多い。<br />-COOH基を2個もつ塩基性アミノ酸。 || 3.2
|-
| リシン <br /> (Lys) || [[Image:Lysine for highschool.svg|280px]] || ほとんどすべてのタンパク質にある。<br />-NH2基を2個もつ塩基性アミノ酸。 || 9.7
|-
|}
* 必須アミノ酸
フェニルアラニンやリシン、メチオニンは必須アミノ酸の例である。
必須アミノ酸は、ヒトの体内で合成されないバリン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、リシンの8種類に、合成されにくいヒスチジンを加えた9種類である。幼児では、さらにアルギニンを加える場合もある。
* グルタミン酸
グルタミン酸は、昆布のうま味の成分である。グルタミン酸には光学異性体があり、L型のグルタミン酸のみが うま味 を示す。D型は示さない。
=== タンパク質 ===
==== ペプチド結合 ====
[[File:ペプチド結合.svg|center|800px|ペプチド結合]]
2個のアミノ酸分子が結合し、いっぽうのアミノ酸のカルボキシル基と、もう一方のアミノ酸のアミノ基が縮合して、脱水縮合して結合を'''ペプチド結合'''(peptide bond)という。それぞれのアミノ酸は同一種でなくても良い。また、ペプチド結合によって生成する化合物をペプチド(peptide)という。
ペプチドのうち、2分子のアミノ酸がペプチド結合したものを'''ジペプチド'''(dipeptide)という。3分子のアミノ酸がペプチド結合したものをトリペプチド(tripeptide)という。多数のアミノ酸が縮合重合したものを'''ポリペプチド'''(polypeptide)という。
ジペプチドには、ペプチド結合が1つ存在する。トリペプチドには、ペプチド結合が2つ存在する。
タンパク質は、ポリペプチドである。
ペプチド化合物で縮合に使われなかったアミノ基が末端に残るが、このペプチド化合物の縮合に使われなかった末端のアミノ基を'''N末端'''という。同様に、カルボキシル基も末端に残るが、これを'''C末端'''という。ペプチドの構造式を書くときは、N末端を左側に、C末端を右に配置して書くのが慣行である。
ジペプチドには、構造異性体が存在する。たとえば、グリシン(Gly)とアラニン(Ala)からなるジペプチドについて、グリシンのCOOH基とアラニンのNH2基が結合したものを、グリシルアラニン(Gly-Ala) という。また、グリシンのNH2基とアラニンのCOOH基が結合したものを、アラニルグリシン(Ala-Gly )という。
グリシルアラシンもアラニルグリシンも、原子数は同じであるが、構造は異なる。
なお、ペプチドの名称は、このグリシルアラニンの例のように、N末端を持つグリシンが名称の先に来て、C末端をもつアラニンがあとに来る。
トリペプチドやポリペプチドの表記でも同様に、N末端からC末端のアミノ酸の名称で表記する。
トリペプチドでも、ジペプチドと同様に構造異性体が存在する。
なお、グルタミン酸は、カルボキシル基を2箇所もつので、グルタミン酸を含むペプチドでは、構造異性体の数が2倍に増える。
例として、いくつかのトリペプチドで構造異性体の数を求める。
;例1:
GlyとGlyとAlaが結合したトリペプチドの場合。(Glyが2分子。)
構造順はGly-Gly-Ala と Gly-Ala-GlyとAla-Gly-Glyの3通りがある。光学異性体を考慮した場合は、グリシン以外のアミノ酸は光学異性体をもち、異性体数が2倍になるので、光学異性体を考慮したGlyとGlyとAlaが結合したトリペプチドの異性体は3×2=6で6通りになる。
;例2:
GlyとAlaとAlaが結合したトリペプチドの場合。(Alaが2分子。)
構造順はGly-Ala-Ala とAla-Gly-Alaと Ala-Ala-Gly の3通りがある。光学異性体を考慮した場合は、グリシン以外のアミノ酸は光学異性体をもち、異性体数が2倍になるのであった。そして、光学異性体を持つAlaが2個あるから、2×2=4で4倍になる。最終的に光学異性体を考慮した異性体数は3×4=12で12通りになる。
==== 一次構造と高次構造 ====
* 一次構造
タンパク質を構成するアミノ酸の配列順序のことを'''一次構造'''(いちじこうぞう、primary structure)という。たとえば表記「Gly-Gly-Ala」などは一次構造の表記である。
* 二次構造
** αヘリックス
[[Image:AlphaHelixProtein fr.jpg|thumb|left|250px|αヘリックス。<br>図中の“Liaison H”が水素結合のこと。<br>(リエゾン エイチと書いてある。)]]
[[Image:Helice alpha spire 0.png|thumb|100px|right|αヘリックスはアミノ酸間の水素結合である.]]
タンパク質のポリペプチドの多くの構造は、時計回り(右回り、Z撚り「ゼットより」)のらせん構造をもつ。
このポリペプチドのらせん構造を'''αヘリックス'''という。らせん1巻あたり、平均3.6個のアミノ酸が含まれる。
このらせん化は、水素結合による現象であり、 アミノ酸の分子中の-C=Oと-N-Hの間のOとHが水素結合し、
-C=O ・・・ H-N-
のように水素結合した結果、ペプチド全体ではらせん構造を取る。
* βシート
[[Image:Feuillet beta 2.jpg|300px|thumb|βシート]]
並行にならんだ2本のポリペプチドのあいだに水素結合が保たれ、ヒダ状に折れ曲る構造をとることがあり、これを'''βシート'''という。
これら、αヘリックスやβシートをまとめて、タンパク質の'''二次構造'''(secondary structure)という。
{{clear}}
* 三次構造
[[画像:Myoglobin.png|thumb|left|250px|三次構造の例。ミオグロビン立体構造]]
αヘリックスをとったポリペプチドや、βシートをとったポリペプチドなど、二次構造をとったポリペプチドが、さらに折りたたまれて'''三次構造'''(tertiary structure)になる。三次構造の形成には、側鎖どうしに働く引力や、システインによる'''ジスルフィド結合'''(disulfide bond) -S-S- によるものが関わっている。
三次構造は'''サブユニット'''と呼ばれる。
三次構造の生体組織の例として、'''ミオグロビン'''がある。ミオグロビンは、1本のポリペプチド鎖からなり、ヘム色素を持っている。ヘム色素は、酸素と化合する性質がある。
* 四次構造
[[画像:hemoglobin.jpg|thumb|240px|四次構造の例。ヘモグロビン]]
三次構造のポリペプチド鎖(サブユニットという)が、複数個あつまって集合体をなした構造を'''四次構造'''(quaternary structure)という。
四次構造の生体組織の例として、'''ヘモグロビン'''がある。ヘモグロビンは、2種類のサブユニットが2個ずつ、合計4個のサブユニットが集まって、できている。ヘモグロビンは、2個のヘム色素をもつ。
==== タンパク質の分類 ====
===== 単純タンパク質と複合タンパク質 =====
タンパク質を加水分解したとき、アミノ酸だけでなく色素、核酸、リン、脂質などアミノ酸以外の有機物を生じるものを'''複合タンパク質'''(conjugated protein)という。
たとえば、血液中にふくまれるヘモグロビンは色素をふくむ複合タンパク質であり、牛乳にふくまれるガゼインはリン酸をふくむ複合タンパク質であり、だ液にふくまれるムチンは糖をふくむ複合タンパク質である。
いっぽう、タンパク質を加水分解したとき、アミノ酸のみを生じるものを'''単純タンパク質'''(simple protein)という。
===== 球状タンパク質と繊維状タンパク質 =====
タンパク質の形状にもとづいて、'''球状タンパク質'''(globular protein)と'''繊維状タンパク質'''(fibrous protein)に分類される。一般に繊維状タンパク質は、水には溶けにくい。一方、球場タンパク質は、水に溶けやすい。球状タンパク質は、親水基を外側に、疎水基を内側にして、まとまっている事が多いため、である。
アルブミン、グロブリン、グルテリンなどが、繊維状タンパク質である。
ケラチン、コラーゲン、フィブロインなどが、繊維状タンパク質である。
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==== タンパク質の特徴 ====
* タンパク質の変性
タンパク質に熱、酸・塩基、重金属イオン、有機溶媒などを加えると凝固し生理的機能を失う。これをタンパク質の'''変性'''(denaturation)という。加熱によって変性することを熱変性という場合もある。
タンパク質の変性は、二次構造〜4次構造が破壊されることによって、起きている。そのため、変性したタンパク質は、元には戻らないのが普通である。タンパク質の変性では一次構造の配列順序は変わっていないが、二次構造以上の構造が変わっている。
* 溶液
タンパク質は水に溶けると、親水コロイド溶液になる。タンパク質のコロイド溶液は、多量の電解質によって、水和している水分子が覗かれるため、沈殿する(塩析)。
==== 検出反応 ====
===== ビウレット反応 =====
[[File:Biuret Test 2.jpg|thumb|100px|ビウレット反応]]
タンパク質水溶液に水酸化ナトリウム溶液NaOHを加え、少量の硫酸銅(II)水溶液CuSO<sub>4</sub>を加えると、赤紫色になる。この反応を'''ビウレット反応'''(biulet reaction)という。これはCuとペプチド結合とが錯イオンを形成することに基づき、トリペプチドやポリペプチドなどのようにペプチド結合を2個以上もつ場合に起こる。よって、ペプチド結合が1個だけであるジペプチドでは、ビウレット反応は起こらない。
===== キサントプロテイン反応 =====
タンパク質水溶液に濃硝酸をくわえて加熱すると、チロシンやトリプトファンなどのアミノ酸中にベンゼン環をもつ場合に、タンパク質水溶液が黄色になる。これは、ベンゼン環がニトロ化されるためである。この溶液を冷却し、NaOHやアンモニアなどで溶液を塩基性にすると、橙色になる。
これらの反応を'''キサントプロテイン反応'''(Xanthoprotein reaction)という。
橙色になった水溶液は中和すると、タンパク質の色は黄色に戻る。
フェニルアラニンはベンゼン環を持つが、あまり反応しない。
===== 硫黄の検出反応 =====
システインやメチオニンなどのようにタンパク質がイオウを含む場合は、タンパク質の水溶液に、固体の水酸化ナトリウムを加えて加熱して、それから酢酸などで中和し、さらにそれから酢酸鉛(II)水溶液 (CH<sub>3</sub>COO)<sub>2</sub>Pb を加えると、硫化鉛(II) PbS の沈殿を生じる。硫化鉛の沈殿の色は黒色である。
:Pb<sup>2+</sup> + S<sup>2-</sup> → PbS
==== 毛髪のパーマネントのしくみ ====
毛髪はケラチンという繊維状タンパク質からなるが、この分子はジスルフィド結合 -S-S- によって、ところどころ結ばれている。このジスルフィド結合のため、毛髪は一定の形を保っている。
毛髪のパーマ処理は、還元剤をもちいて、このジスルフィド結合を還元して -S-H にすることで、ジスルフィド結合を切断している。
つぎに、酸化剤で、ジスルフィド結合 -S-S- を再生させると、もととは違ったつながりかたで、部分的にジスルフィド結合が再生されるので、元の髪型とは違った髪型になる。
パーマの還元剤には、チオグリコール酸アンモニウムが用いられる。パーマの酸化剤には、臭素酸ナトリウム NaBrO<sub>3</sub> や過酸化水素などが用いられる。
== 繊維 ==
=== 総論 ===
繊維(fiber)とは、細くて糸状のものをいうが、その繊維のうち天然にある糸状の繊維を'''天然繊維'''(natural fiber)という。石油などから合成した繊維は'''合成繊維'''(synthetic fiber)という。
天然繊維のうち、植物からとれるもの(たとえば綿や麻など。主成分はセルロースなど)を'''植物繊維'''(plant fiber)といい、動物から取れるもの(羊毛や絹など。主成分はタンパク質。絹とはカイコから取れる繊維。)を'''動物繊維'''(animal fiber)という。
=== 具体例 ===
* 木綿
木綿(もめん、cotton)は、植物のワタから取れる植物繊維であり、主成分はセルロースである。木綿は、繊維の内部に中空部分があり、吸湿性が高い。
* 絹
絹は、カイコガのまゆから取り出される繊維である。絹の主成分と構造は、フィブロインというタンパク質を、セリンと呼ばれるタンパク質がくるんだ構造である。
* 羊毛
羊毛の主成分はケラチンである。
羊毛は、動物繊維であり、主成分はケラチンである。羊毛の表皮が鱗(うろこ)状で、クチクラ(キューティクル)と呼ばれる構造である。
羊毛は、伸縮性が大きく、また、水をはじく撥水性(はっすいせい)がある。羊毛は保温性があるので、毛布やコートなどに使われる。
羊毛や絹はタンパク質であるので、キサントプロテイン反応を呈する。
=== 化学繊維 ===
合成繊維や、天然繊維を溶媒に溶かしたり化学反応させたりと化学的に処理させたものなど、素材の合成に化学的な処理を必要とする繊維を'''化学繊維'''という。
天然繊維を溶媒に溶かしたのち、再び繊維に戻したものを'''再生繊維'''(regenerate fiber)という。セルロースの再生繊維はレーヨンと呼ばれ、レーヨンにはビスコースレーヨンと銅アンモニアレーヨンがある。
いっぽう、天然繊維を化学的に処理して組成を変化させたものは'''半合成繊維'''という。半合成繊維としては、たとえばアセテート繊維がある。
== 酵素 ==
ある種のタンパク質には触媒の働きを持つものがある。この触媒として機能するタンパク質を'''酵素'''(enzyme)という。酵素は、無機触媒や金属触媒とは、異なる性質をもつ。酵素は、ある特定の物質にしか作用しない。これを'''基質特異性'''(substrate specificity)という。そして酵素が作用する物質および分子構造を'''基質'''(substrate)という。
酵素には、基質と立体的にむすびつく'''活性部位'''(active site)があるため、このような反応が起こる。活性部位のことを、'''活性中心'''(active center)ともいう。
[[File:酵素基質複合体 模式図.svg|thumb|600px|center|酵素基質複合体の模式図]]
たとえば、だ液にふくまれるアミラーぜはデンプンを加水分解するが、タンパク質を加水分解できない。酵素インペルターゼはスクロースの加水分解にしか作用せず、マルトースやラクトースなどの他の二糖類にはインペルターゼは作用しない。また、マルターゼは、マルトースにしか作用しない。
=== 失活 ===
また、酵素はタンパク質であるので、タンパク質が変性する状況では、酵素はその能力を失う。熱変性などで、タンパク質が修復不可能になると、酵素の触媒能力もまた修復不可能となり、酵素を冷却しても、もはや触媒として機能しなくなる。このように酵素が触媒としての能力を失って、もはや酵素ではなくなったことを'''失活'''(deactivation)という。
=== 最適温度 ===
酵素の触媒作用が最も働く温度を'''最適温度'''という。酵素にもよるが、動物の体温に近い、35℃から40℃といった温度である。
50℃以上など、これらより高温では熱変性で酵素の構造が破壊される。最適温度より低温にした場合は、低温の間は酵素としての作用が弱まるが、適温に戻すと、再び酵素としての触媒能力を取り戻す。
低温で酵素としての能力を失うことは一般には失活とは呼ばない。
=== 最適pH ===
[[File:酵素と最適pH.svg|thumb|300px|酵素と最適pH]]
酵素には、その場所のpHによって、触媒の働きの反応速度が変わる。もっとも酵素が働くpHを'''最適pH'''(optimum pH)という。
最適pHの値の傾向は、酵素の種類にもよるが、おおむねpH6~8といった、中性付近か、弱酸性の付近で、もっともよく働く。たとえばアミラーゼはpH6~7の付近が最適pHである。すい臓の中で働く酵素のトリプシンはpH8の弱い塩基性が最適pHである。
なお、胃酸の中で働く酵素の'''ペプシン'''は最適pHがpH2の付近の強い酸性である。このpH2は、胃液のpHに近い。このように、酵素は、その酵素が働く環境下に近いpHで、よく働く性質になっている場合が多い。
== 核酸 ==
:[[高等学校生物 生物I‐遺伝]]
[[Category:高等学校化学]]
[[Category:高等学校教育]]
[[Category:化学]]
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== 糖類 ==
多数のヒドロキシ基を持つ、分子式 <chem>C_{m}(H2O){}_{n}</chem> で表される化合物を'''糖類'''(saccharides)または'''炭水化物'''(carbohydrate)という。
それ以上小さくならない最小の糖類を'''単糖'''という。単糖2分子が脱水縮合した糖類を'''二糖(disaccharide)'''、単糖2~10分子程度が脱水縮合した糖類をオリゴ糖、多数の単糖が脱水縮合した糖類を'''多糖(polysaccharide)'''という。
グルコースのようなアルデヒド基をもつ糖を'''アルドース'''(aldose)、ケトン基をもつ糖を'''ケトース'''という。
主な単糖として、グルコース、フルクトース、ガラクトース。
主な二糖として、マルトース、スクロース、ラクトース、セロビオース。
主な多糖として、デンプン、セルロースが挙げられる。
=== 単糖 ===
==== グルコース ====
* グルコース glucose(ブドウ糖, grape sugar )C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub>
グルコースは、デンプンを加水分解することによって得られる。
:(C<sub>6</sub>H<sub>10</sub>O<sub>5</sub>)<sub>n</sub> + nH<sub>2</sub>O → nC<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub>
グルコースは甘味をもち、また、水によく溶ける。水溶液中のグルコースは、一部のグルコースの環構造が開き鎖式構造に変わる。ホルミル基を持ち、還元性を示す。従って、銀鏡反応やフェーリング反応を示す。
グルコースは三種類あり、'''αグルコース'''と'''鎖式グルコース'''と'''βグルコース'''とがある。
αグルコースを水に溶かすと、上記のように一部が鎖式グルコースになり、さらにその一部が鎖式構造を経てβグルコースになる。最終的に3種類のグルコースのα形、鎖式、β型の混じりあった平衡状態になる。
[[File:Alpha-D-Glucopyranose.svg|thumb|150px|left|αグルコース]]
[[File:Beta-D-Glucopyranose.svg|thumb|150px|center|βグルコース]]
{{clear}}
==== フルクトース ====
フルクトース,fructose(果糖, fruit sugar )C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub>
フルクトースは水溶液中では、六員環フルクトースと鎖式フルクトースと五員環フルクトースがある。
フルクトースを水に溶かすと、一部が鎖式フルクトースを経て、五員環フルクトース、六員環フルクトースになる。五員環フルクトースと六員環フルクトースにはα型とβ型が存在するため、フルクトースは水溶液中では5種類の構造が存在する。
鎖状構造のフルクトースにはホルミル基は無いが、一部が異性化し、ホルミル基を持つので還元性を示す。
フルクトースは、糖類の中で最も甘く、果実などに含まれることが多い。
[[ファイル:Beta-D-Fructopyranose.svg|thumb|150px|left|六員環のβフルクトース]]
[[ファイル:Beta-D-Fructofuranose.svg|thumb|150px|center|五員環のβフルクトース]]
{{clear}}'''アルコール発酵'''
グルコースやフルクトースなどの6炭糖は酵素群チマーゼによって'''アルコール発酵'''を起こす。
C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub> → 2C<sub>2</sub>H<sub>5</sub>OH + 2CO<sub>2</sub>
==== ガラクトース ====
ガラクトースはグルコースの4位の不斉炭素原子の立体配置が異なる単糖である。寒天の成分であるガラクタンを加水分解すると、ガラクトースが得られる。ヘミアセタール構造が存在するので、水溶液は還元性をしめす。
=== ニ糖類 ===
[[ファイル:Sucrose-inkscape.svg|thumb|200px|二糖の一種であるスクロース]]
二糖類を構成する単糖類の縮合したエーテル結合を'''グリコシド結合'''という。
主な二糖類には、スクロース、マルトース、セロビオース、ラクトースがある。
==== ヘミアセタール構造 ====
有機化合物中の、ある一つのC原子に対して、そのC原子にヒドロキシル基 -OH とエーテル結合 -O- が隣り合ってる構造を、'''ヘミアセタール構造'''という。グルコースで、ヘミアセタール構造をもつのは、一箇所だけである。-OH結合だけを持つC原子は数箇所あるが、-O- 結合が隣り合ってない場合はヘミアセタール構造とは呼ばない。
水溶液中のグルコースでは、このヘミアセタール構造が変形してアルデヒドを形成している。
このヘミアセタール構造の有無を、糖類の構造式を見て調べることで、糖類の水溶液中の還元性を予測できる。まず、構造式中のエーテル結合-O- を持つ部分を探してそのOに隣り合ったC原子が-OH を持つかどうかで、還元性の有無を予測できる。
==== スクロース ====
[[ファイル:Sucrose-inkscape.svg|thumb|250px|スクロース]]スクロース(sucrose)は、αグルコースとβフルクトースがα-1,2-グリコシド結合した構造をもつ。
スクロースの水溶液は還元性を示さない。これは、グルコースとフルクトースの還元性をしめすヘミアセタール構造の部分で縮合が行われていることによる。
作物では、サトウキビやテンサイなどに、スクロースが含まれる。
* 加水分解
希酸または酵素インペルターゼでスクロースは加水分解すると、グルコースとフルクトースの等量混合物になる。
C<sub>12</sub>H<sub>22</sub>O<sub>11</sub> (スクロース) + H<sub>2</sub>O → C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub>(グルコース) + C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub> (フルクトース)
グルコースとフルクトースの等量混合物を'''転化糖'''(invert sugar)という。スクロースを加水分解すると転化糖が得られる。
==== マルトース ====
[[File:Maltose Gleichgewicht.svg|thumb|400px|マルトース(左)と、水溶液中でのアルデヒド基の出現(右)]]
(麦芽糖)
αグルコースの二分子が縮合した構造。
* 特徴
還元性を示す。
* 加水分解
希酸または酵素マルターゼで加水分解される。
デンプンを酵素アミラーゼで加水分解すると生じるのが、マルトースである。
==== ラクトース ====
[[File:Lactose(lac).png|thumb|300px|ラクトース]]
(乳糖)
ラクトース(lactose)は、ガラクトースとαグルコースが縮合した構造。
* 特徴
ラクトースの水溶液は還元性を示す。
* 加水分解
酵素ラクターゼによってラクトースは加水分解され、ガラクトースとグルコースになる。
牛乳など、哺乳類の乳汁にラクトースは含まれる。
==== トレハロース ====
[[File:Trehalose Haworth.svg|thumb|トレハロース]]
:
トレハロースの構造は、αグルコースが2分子からなり、αグルコースの1位の還元基どうしが結合した構造となっている。このことからもわかるように、トレハロースの水溶液は還元性を示さない。
自然界では、昆虫の体液、キノコやカビ、海藻などに含まれる。
=== 多糖類 ===
==== デンプン ====
デンプン(starch)は、植物が光合成によって体内につくる多糖類である。二糖類とちがい、デンプンは甘味をしめさない。また、デンプンは、還元性を示さない。
デンプンは、多数のαグルコースが脱水縮合して出来た構造をもつ多糖類の高分子化合物である。
(C<sub>6</sub>H<sub>10</sub>O<sub>5</sub>)<sub>n </sub>の構造を持つ。nは数百から数十万である。
* デンプンの性質
デンプンは冷水には溶けにくいが、約80℃の熱水には溶けてコロイド状のデンプンのりになる。
酵素'''アミラーゼ'''によって、デンプンは加水分解される。このアミラーゼによるデンプンの加水分解の結果、デンプンの重合数が少なくなった'''デキストリン'''(C<sub>6</sub>H<sub>10</sub>O<sub>5</sub>)<sub>n </sub>を生じる。そしてデキストリンは、さらに二糖類の'''マルトース'''に分解される。
マルトースに対しては、酵素'''マルターゼ'''によって、グルコースになる。
デンプンからグルコースまでの順序を化学式にまとめれば、
(C<sub>6</sub>H<sub>10</sub>O<sub>5</sub>)<sub>n </sub>デンプン→ (C<sub>6</sub>H<sub>10</sub>O<sub>5</sub>)<sub>m</sub> デキストリン → C<sub>12</sub>H<sub>22</sub>O<sub>11</sub> マルトース→ C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub> グルコース
である。(デンプンとデキストリンの重合数について、n>mとした。)
デンプンには還元性は無い。したがってデンプンは、フェーリング液を還元しない。
===== ヨウ素デンプン反応 =====
[[File:ヨウ素デンプン反応の分子構造.svg|thumb|500px|ヨウ素デンプン反応の分子構造]]
ヨウ化カリウム水溶液KIにより、デンプンは青紫色に呈色する。加熱すると、無色になる。この反応を'''ヨウ素デンプン反応'''(iodine-starch reaction)という。
デンプンは水溶液中では、分子内の水素結合により、らせん構造をとる。このらせん構造の中にヨウ素が入りこむことで、呈色する。
加熱で無色になっても、冷却すると、再び、もとの青紫色の呈色を示すようになる。
===== アミロースとアミロペクチン =====
[[File:Amylose2.svg|thumb|right|270px|アミロースの分子構造]]
[[File:Amylopektin Sessel.svg|thumb|right|アミロペクチンの分子構造]]
デンプンの種類のうち、αグルコースが直鎖状に結合したものを'''アミロース'''(amylose)と言う。αグルコースが、ところどころ枝分かれした構造のデンプンを'''アミロペクチン'''(amylopectin)という。枝分かれの割合はαグルコース数十個につき、一個の枝分かれの程度である。
もち米のデンプンは、アミロペクチンが100%である。ふつうの植物のデンプンには、アミロースが20%程度でアミロペクチンが80%程度ほど含まれている。
* アミロース
グルコースの1位と4位が結合して重合した構造になっている。
ヨウ素デンプン反応では、アミロースは青色。多くのヒドロキシル基を持ち、極性を持つ部分が多いため、熱湯には、比較的、溶けやすい。冷水には溶けにくい。
* アミロペクチン
グルコースの1位と4位が結合して重合したほかに、1位と6位が結合した重合構造になっている。
1位と6位の結合のため、構造に枝分かれ上の分岐が起こる。
ヨウ素デンプン反応では、アミロペクチンは赤紫色。アミロースとの色の違いは、直鎖状の長さの違いによって、ヨウ素との結合力に違いが生じたからある。ヨウ素と反応することから分かるように、アミロペクチンもらせん構造を取る。枝分かれをするものの、分かれた枝の先がそれぞれらせん構造をとる。
熱湯には、溶けにくい。冷水にも溶けにくい。
==== グリコーゲン ====
[[File:Glycogen structure.svg|thumb|260px|グリコーゲンの断面図]]
'''グリコーゲン'''(glycogen)は、動物の肝臓に多い多糖類で、その構造はアミロペクチンと似ているが、アミロペクチンよりも枝分かれが多い。分岐の頻度は、おおむね8~12基に一回の程度の分岐である。枝分かれが多いため放射したような網目構造をとり、らせん構造をとらない。このため、極性をもった部分が外側に出やすく、水溶性が高い。
ヨウ素デンプン反応では、グリコーゲンは赤褐色を示す。
* グリコーゲンを含む生体には、動物の体内で栄養素として多いことから、'''動物デンプン'''ともよばれる。
* グリコーゲンは肝臓や筋肉に多く含まれる。
==== セルロース ====
[[Image:Cellulose-2D-skeletal.svg|thumb|240px|セルロースの構造式]]
[[File:Alg-frut-6.jpg|left|thumb|200px|綿花から取れる綿は天然のセルロースである。]]
'''セルロース'''(cellulose)[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)<sub>3</sub>]<sub>n </sub>は植物の細胞壁の主成分である。木綿、パルプ、ろ紙は、ほぼ純粋なセルロースである。セルロースの構造は、多数のβグルコースが、直線状に縮合した構造である。セルロースの構造では、各グルコースの向きが交互に表・裏・表・裏を繰り返すので、セルロース全体で見れば直線状になっている。
* セルロースは、還元性を持たず、また、ヨウ素デンプン反応も示さない。
* セルロースは、冷水や熱水には溶けない。セルロースは、エーテルやアルコールなどにも溶けない。
* セルロースは'''シュバイツアー試薬'''に溶ける。
シュバイツアー試薬とは、水酸化銅Cu(OH)2を濃アンモニア水に溶かしたものである。水溶液中でイオンが、'''テトラ アンミン イオン''' [Cu(NH<sub>3</sub>)<sub>4</sub>]<sup>2+</sup> になる。
セルロースの示性式は、[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)<sub>3</sub>]<sub>n </sub>である。グルコース1単位あたり3個のヒドロキシル基OHを持つ。したがって、酸と反応させるとエステルを作りやすく、酢酸や硝酸とエステルをつくる。
セルロースは、酸をくわえて長時間加熱すると、最終的にグルコースになる。
このほか、酵素セルラーゼによって、セルロースは分解される。
工業上は硝酸とのセルロースのエステルである「ニトロセルロース」(後述する。)が、特に重要である。
{{clear}}
==== セルロースの誘導体 ====
===== ニトロセルロース =====
セルロース[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)<sub>3</sub>]<sub>n</sub>に、濃硝酸および濃硫酸の混合溶液(混酸)を作用させると、セルロースのOH基の一部または全部がエステル化される。セルロース中のグルコース1単位あたり、3個のOH基の一部または3個全部が硝酸エステル化されたものをニトロセルロース(nitrocellulose)という。特にセルロース中のグルコース1単位のうち、3個のOH基すべてが硝酸エステル化されたもの [C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(ONO<sub>2</sub>)<sub>3</sub>]<sub>n</sub> を'''トリニトロセルロース'''という。
[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)<sub>3</sub>]<sub>n</sub> + 3n HONO<sub>2</sub> → [C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(ONO<sub>2</sub>)<sub>3</sub>]<sub>n</sub> + 3n H<sub>2</sub>O
このトリニトロセルロースは火薬の原料である。
===== ジニトロセルロース =====
セルロース中の2個のOH基がエステル化したものはジニトロセルロースという。このジニトロセルロースは、有機溶媒に溶ける。
* コロジオン
このジニトロセルロースを、エタノールとエーテルの混合液に溶かしたものを'''コロジオン'''という。混合液には水分などを含まないので「水溶液」では無いことに注意。
コロジオンの溶液を蒸発させると、薄い膜が残る。これは半透膜の材料に使われる。コロジオンから得られた半透膜のことをコロジオン膜ともいう。
* セルロイド
ニトロセルロースをエタノールに溶かし、ショウノウを加えて得られる樹脂をセルロイドという。
===== アセテート類 =====
セルロースを無水酢酸、氷酢酸および少量の濃硫酸との混合物を反応させる。すると、分子中のOH基中のHがCOOH基で置換される'''アセチル化'''が起きて、'''トリアセチルセルロース'''が生成する。
[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)<sub>3</sub>]<sub>n</sub> + 3n (CH<sub>2</sub>CO)<sub>2</sub> O → [C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OCOCH<sub>3</sub>)<sub>3</sub>]<sub>n</sub> + 3n CH<sub>3</sub>COOH
トリアセチルセルロースはヒドロキシル基OHを持たないため、通常の溶媒(メタノール等)には溶解しづらい。しかし、トリアセチルセルロースは常温の水または温水で、エステル結合の一部が加水分解して'''ジアセチルセルロース'''
[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)(OCOCH<sub>3</sub>)<sub>2</sub>]<sub>n</sub>
になる。このジアセチルセルロースはヒドロキシル基をもつので、アセトン溶媒に溶解するようになる。このジアセチルセルロースの溶けたアセトン溶液を細孔から押し出してアセトンを蒸発・乾燥させて、紡糸したものを'''アセテート繊維'''という、あるいは単に'''アセテート'''という。
語「アセテート」の意味は、「酢酸エステルの」という意味である。
アセテート繊維のように、天然繊維を化学的に処理してから紡糸した繊維を'''半合成繊維'''(semisynthetic fiber)という。
===== レーヨン =====
天然繊維を溶媒に溶かしたのち、再び繊維に戻したものを'''再生繊維'''(regenerate fiber)という。セルロースの再生繊維は'''レーヨン'''(rayon)と呼ばれ、レーヨンにはビスコースレーヨンと銅アンモニアレーヨンがある。
* 銅アンモニアレーヨン
水酸化銅(II)であるCu(OH)<sub>2</sub>を濃アンモニア溶液に溶かした溶液を'''シュバイツアー試薬'''という。このシュバイツアー試薬溶液にセルロース(具体的には脱脂綿など)を溶かすと、粘度のある液体が得られる。この粘い液体を細孔から希硫酸の中にゆっくり押し出すと、セルロースが再生する。こうして得られた繊維を'''銅アンモニアレーヨン'''または'''キュプラ'''といい、光沢があり、滑らかであり、柔らかいので、衣服の裏地に利用される。
* ビスコースレーヨン
セルロース(具体的には脱脂綿など)を濃い水酸化ナトリウム溶液に浸す処理をして'''アルカリセルロース'''(化学式は[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)<sub>2</sub>ONa]nである。)にしてから、紙などで挟んでから絞って水気を切って、つぎに二硫化炭素CS<sub>2</sub>と反応をさせると、セルロースキサントゲン酸ナトリウム(式は[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)<sub>2</sub>OCSSNa]<sub>n</sub>である。)という物質になる。これを水酸化ナトリウム水溶液に溶かすと、赤褐色のコロイド溶液が得られる。こうして、セルロースから得られた赤褐色のコロイド溶液を'''ビスコース'''(viscose)という。このビスコースを、細孔から希硫酸の中に押し出して、セルロースを再生させて紡糸したものが、'''ビスコースレーヨン'''(viscose rayon)という繊維である。
そして、ビスコースを細孔からではなく、細長いすきまから膜上に押し出したものを'''セロハン'''(cellophane)といい、テープや包装材に利用される。
* 再生繊維
レーヨンのように、天然繊維を一度化学的に処理して溶液にした後、糸として、元の化学式を再生させた繊維を'''再生繊維'''という。
なお、アセテート繊維は化学式が変わっているので再生繊維でない。アセテート繊維は化学式が元のセルロースから変わっている繊維で、また人工物だけから得られた合成繊維でもないので、アセテート繊維などは半合成繊維という。
== タンパク質とアミノ酸 ==
=== アミノ酸 ===
[[File:Amino acid strucuture for highscool education.svg|thumb|300px|アミノ酸の一般的な構造。図中のRは、アミノ酸の種類によって、ことなる。]]
分子中にアミノ基( -NH<sub>2</sub> )とカルボキシル基( -COOH )をもつ化合物を'''アミノ酸'''(amino acid)という。アミノ酸のうち、同一の炭素C原子に、-NH<sub>2</sub>と-COOHが結合しているアミノ酸を'''αアミノ酸'''という。
アミノ酸の一般式は
:R-CH(NH<sub>2</sub>)-COOH
で表される。(Rは炭化水素基あるいは水素など。)
なお、R-の部分をアミノ酸の'''側鎖'''(そくさ)という。Rの違いによって、アミノ酸の種類が決まる。
:※ なお、生体のタンパク質は、約20種類のαアミノ酸が成分となって縮合してできる物である。生体に必要なアミノ酸のうち、ヒトの体内で合成されない・合成されにくいアミノ酸を'''必須アミノ酸'''(essential amino acid)という。
==== 光学異性体 ====
[[File:アラニンの光学異性体.svg|thumb|400px|アラニンの光学異性体]]
グリシン以外のすべてのアミノ酸には'''光学異性体'''(optical isomer)が存在する('''鏡像異性体''' enantiomer ともいう)。
天然のアミノ酸のほとんどは、L型の配置である。D型の配置のアミノ酸は、天然にはほとんどない。
{{-}}
==== アミノ酸の反応 ====
[[File:アミノ酸のアミド化とエステル化.svg|thumb|800px|center|アミノ酸のアミド化とエステル化]]
アミノ酸は分子内にカルボキシル基-COOH が存在するため、アルコール(CH<sub>3</sub>OH など)と反応しエステル化をしてエステルをつくる。また、アミノ酸は分子内にアミノ基-NH<sub>3</sub>が存在するため無水酢酸( (CH<sub>3</sub>CO)<sub>2</sub>O )と反応させるとアセチル化してアミドをつくる。
==== 双性イオン ====
[[File:双性イオン.svg|800px|center|]]
アミノ酸のアミノ基( -NH<sub>3</sub> )は塩基性を示し、いっぽうカルボキシル基( -COOH )は酸性を示すので、アミノ酸は両性化合物である。結晶中のアミノ酸分子中では、分子内で( -COOH )が水素Hを( -NH<sub>2</sub> )に渡して、アミノ酸内にイオンの( -COO<sup>-</sup> )と( -NH<sub>3</sub><sup>+</sup> )を生じる。その結果、アミノ酸の構造は、
R-CH(NH<sub>3</sub><sup>+</sup>)-COO<sup>-</sup>
の構造になる。このように分子内に酸性と塩基性の両方のイオンを生じるので、'''双性イオン'''(zwitterion)とよばれる。
このようにイオンがあるため、アミノ酸は水に溶けやすく、また、有機溶媒には溶けにくい。双性イオンの陽イオンと陰イオンどうしがクーロン力で引き合うため、アミノ酸はイオン結晶に近い結晶構造を取り、また、ほかの有機化合物と比べるとアミノ酸は比較的に融点や沸点が高い。
アミノ酸の水溶液に外部から酸をくわえると、平衡がかたむき、-COO<sup>-</sup>がH<sup>+</sup>を受け取り -COOHになるので、アミノ酸分子中で-NH<sub>3</sub><sup>+</sup>が余るので、酸性が強い溶液中ではアミノ酸は陽イオンになる。
いっぽう、アミノ酸の水溶液に外部から塩基をくわえると、平衡がかたむき、-NH<sub>3</sub><sup>+</sup>がOH<sup>-</sup>にH<sup>+</sup>を放出することによって-NH<sub>2</sub>と変わることによって、-COO<sup>-</sup>が余るので、アミノ酸は陰イオンになる。
==== 等電点 ====
アミノ酸分子中の正負の電荷が等しくなっているときのpHを'''等電点'''(isoelectric point)という。側鎖がイオン化する場合は、その電荷も含む。
等電点を測定するには、水溶液に電圧を加ればよい。等電点よりPHが小さい(酸性)水溶液中では、アミノ酸は陽イオンになっているため、陰極側に移動する。いっぽう、等電点よりpHが大きい(塩基性)と、アミノ酸は陰イオンになってるため、陽極側に移動する。
そして、pHが等電点と同じくらいの水溶液中だと、アミノ酸は陽極にも陰極にも移動しないので、よって、この状態の水溶液のpHを測定することにより、等電点を測定できる。
要するに、アミノ酸の等電点を測定する方法とは、アミノ酸混合物の水溶液のpHを変えながら、それぞれのpHごとに電気泳動をすればよい。
また、この等電点の測定のさいの電気泳動を利用して、アミノ酸を分離することができる。
具体的な実験方法は、アミノ酸を染み込ませた濾紙(ろし)などに、2本の電極で直流電圧を加える電気泳動をおこなうと、等電点の異なるアミノ酸は移動の仕方が異なるので分離をする。このとき、アミノ酸を呈色をさせるため、後述するニンヒドリン反応を利用する必要があり、そのため、電気泳動後にニンヒドリン溶液をふきつける。
このような実験で、等電点より酸性では陰極側へアミノ酸が移動したのが観測でき、等電点より塩基性では陽極側へ移動することが観測でき、このように、じっさいに目視でアミノ酸のpHごとの移動結果を観測できる。
アミノ酸の種類ごとの等電点は、たとえばグリシンでは pH=6.0 であり、酸性アミノ酸のグルタミン酸ではpH=3.2であり、塩基性アミノ酸のリシンでは9.7というように、アミノ酸の種類ごとに等電点は異なる。
水溶液が中性付近では、ふつうは双対イオン状態のアミノ酸が最も多く、陰イオン状態のアミノ酸や陽イオン状態のアミノ酸は少ししか存在しない。
==== ニンヒドリン反応 ====
[[File:Ninhydrin.svg|thumb|ニンヒドリン分子]]
アミノ酸水溶液に薄いニンヒドリン水溶液を加えて温めると、アミノ基 -NH<sub>2</sub> と反応して、色が青紫~赤紫になる。この反応を'''ニンヒドリン反応'''(ninhydrin reaction)といい、アミノ酸の検出などの目的に用いられる。この反応は、アミノ酸の検出やタンパク質の検出に利用される。なお。タンパク質も、構造の端部などにアミノ酸をふくむため、少しながらニンヒドリン反応をするので、色が青紫〜赤紫になる(※ タンパク質のニンヒドリン反応も、高校の範囲内。啓林館や第一学習社の検定教科書に、タンパク質のニンヒドリン反応の記述あり)。
{{-}}
==== アミノ酸の例 ====
{| class="wikitable" style="background-color:#fff"
! 名称 <br /> (カッコ内のは略記号) !! 構造式 !! 所在、特徴など !! 等電点
|-
| グリシン <br /> (Gly) || [[Image:Glycine for highschool.svg|150px]] || 最も簡単なアミノ酸。<br />光学異性体が存在しない。 || 6.0
|-
| アラニン <br /> (Ala) || [[Image:Alanine for highschool.svg|150px]] || タンパク質の構成成分。<br />絹に多い。 || 6.0
|-
| セリン <br /> (Ser) || [[Image:Serine for highschool.svg|150px]] || 絹に多い。<br />-OH基をもつ。 || 5.7
|-
| フェニルアラニン <br /> (Phe) || [[Image:Phenylakanine for highschool.svg|190px]] || 牛乳や卵に多い。<br />ベンゼン環をもつ。 || 5.5
|-
| システイン <br /> (Cys) || [[Image:Cysteine for highschool.svg|150px]] || 毛や爪、角に多い。<br />-SH(チオ基)をもつ。 || 5.1
|-
| メチオニン <br /> (Met) || CH3 ー S ー (CH2)2 ー || 牛乳のタンパク質のガゼインに多い。<br />硫黄をふくむ。 || 5.7
|-
| アスパラギン酸 <br /> (Asp) || [[Image:Aspartic-acid for highschool.svg|200px]] || 植物のタンパク質に多い。<br /> || 2.8
|-
| グルタミン酸 <br /> (Glu) || [[Image:Glutamic-acid for highschool.svg|200px]] || 小麦に多い。<br />-COOH基を2個もつ塩基性アミノ酸。 || 3.2
|-
| リシン <br /> (Lys) || [[Image:Lysine for highschool.svg|280px]] || ほとんどすべてのタンパク質にある。<br />-NH2基を2個もつ塩基性アミノ酸。 || 9.7
|-
|}
* 必須アミノ酸
フェニルアラニンやリシン、メチオニンは必須アミノ酸の例である。
必須アミノ酸は、ヒトの体内で合成されないバリン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、リシンの8種類に、合成されにくいヒスチジンを加えた9種類である。幼児では、さらにアルギニンを加える場合もある。
* グルタミン酸
グルタミン酸は、昆布のうま味の成分である。グルタミン酸には光学異性体があり、L型のグルタミン酸のみが うま味 を示す。D型は示さない。
=== タンパク質 ===
==== ペプチド結合 ====
[[File:ペプチド結合.svg|center|800px|ペプチド結合]]
2個のアミノ酸分子が結合し、いっぽうのアミノ酸のカルボキシル基と、もう一方のアミノ酸のアミノ基が縮合して、脱水縮合して結合を'''ペプチド結合'''(peptide bond)という。それぞれのアミノ酸は同一種でなくても良い。また、ペプチド結合によって生成する化合物をペプチド(peptide)という。
ペプチドのうち、2分子のアミノ酸がペプチド結合したものを'''ジペプチド'''(dipeptide)という。3分子のアミノ酸がペプチド結合したものをトリペプチド(tripeptide)という。多数のアミノ酸が縮合重合したものを'''ポリペプチド'''(polypeptide)という。
ジペプチドには、ペプチド結合が1つ存在する。トリペプチドには、ペプチド結合が2つ存在する。
タンパク質は、ポリペプチドである。
ペプチド化合物で縮合に使われなかったアミノ基が末端に残るが、このペプチド化合物の縮合に使われなかった末端のアミノ基を'''N末端'''という。同様に、カルボキシル基も末端に残るが、これを'''C末端'''という。ペプチドの構造式を書くときは、N末端を左側に、C末端を右に配置して書くのが慣行である。
ジペプチドには、構造異性体が存在する。たとえば、グリシン(Gly)とアラニン(Ala)からなるジペプチドについて、グリシンのCOOH基とアラニンのNH2基が結合したものを、グリシルアラニン(Gly-Ala) という。また、グリシンのNH2基とアラニンのCOOH基が結合したものを、アラニルグリシン(Ala-Gly )という。
グリシルアラシンもアラニルグリシンも、原子数は同じであるが、構造は異なる。
なお、ペプチドの名称は、このグリシルアラニンの例のように、N末端を持つグリシンが名称の先に来て、C末端をもつアラニンがあとに来る。
トリペプチドやポリペプチドの表記でも同様に、N末端からC末端のアミノ酸の名称で表記する。
トリペプチドでも、ジペプチドと同様に構造異性体が存在する。
なお、グルタミン酸は、カルボキシル基を2箇所もつので、グルタミン酸を含むペプチドでは、構造異性体の数が2倍に増える。
例として、いくつかのトリペプチドで構造異性体の数を求める。
;例1:
GlyとGlyとAlaが結合したトリペプチドの場合。(Glyが2分子。)
構造順はGly-Gly-Ala と Gly-Ala-GlyとAla-Gly-Glyの3通りがある。光学異性体を考慮した場合は、グリシン以外のアミノ酸は光学異性体をもち、異性体数が2倍になるので、光学異性体を考慮したGlyとGlyとAlaが結合したトリペプチドの異性体は3×2=6で6通りになる。
;例2:
GlyとAlaとAlaが結合したトリペプチドの場合。(Alaが2分子。)
構造順はGly-Ala-Ala とAla-Gly-Alaと Ala-Ala-Gly の3通りがある。光学異性体を考慮した場合は、グリシン以外のアミノ酸は光学異性体をもち、異性体数が2倍になるのであった。そして、光学異性体を持つAlaが2個あるから、2×2=4で4倍になる。最終的に光学異性体を考慮した異性体数は3×4=12で12通りになる。
==== 一次構造と高次構造 ====
* 一次構造
タンパク質を構成するアミノ酸の配列順序のことを'''一次構造'''(いちじこうぞう、primary structure)という。たとえば表記「Gly-Gly-Ala」などは一次構造の表記である。
* 二次構造
** αヘリックス
[[Image:AlphaHelixProtein fr.jpg|thumb|left|250px|αヘリックス。<br>図中の“Liaison H”が水素結合のこと。<br>(リエゾン エイチと書いてある。)]]
[[Image:Helice alpha spire 0.png|thumb|100px|right|αヘリックスはアミノ酸間の水素結合である.]]
タンパク質のポリペプチドの多くの構造は、時計回り(右回り、Z撚り「ゼットより」)のらせん構造をもつ。
このポリペプチドのらせん構造を'''αヘリックス'''という。らせん1巻あたり、平均3.6個のアミノ酸が含まれる。
このらせん化は、水素結合による現象であり、 アミノ酸の分子中の-C=Oと-N-Hの間のOとHが水素結合し、
-C=O ・・・ H-N-
のように水素結合した結果、ペプチド全体ではらせん構造を取る。
* βシート
[[Image:Feuillet beta 2.jpg|300px|thumb|βシート]]
並行にならんだ2本のポリペプチドのあいだに水素結合が保たれ、ヒダ状に折れ曲る構造をとることがあり、これを'''βシート'''という。
これら、αヘリックスやβシートをまとめて、タンパク質の'''二次構造'''(secondary structure)という。
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* 三次構造
[[画像:Myoglobin.png|thumb|left|250px|三次構造の例。ミオグロビン立体構造]]
αヘリックスをとったポリペプチドや、βシートをとったポリペプチドなど、二次構造をとったポリペプチドが、さらに折りたたまれて'''三次構造'''(tertiary structure)になる。三次構造の形成には、側鎖どうしに働く引力や、システインによる'''ジスルフィド結合'''(disulfide bond) -S-S- によるものが関わっている。
三次構造は'''サブユニット'''と呼ばれる。
三次構造の生体組織の例として、'''ミオグロビン'''がある。ミオグロビンは、1本のポリペプチド鎖からなり、ヘム色素を持っている。ヘム色素は、酸素と化合する性質がある。
* 四次構造
[[画像:hemoglobin.jpg|thumb|240px|四次構造の例。ヘモグロビン]]
三次構造のポリペプチド鎖(サブユニットという)が、複数個あつまって集合体をなした構造を'''四次構造'''(quaternary structure)という。
四次構造の生体組織の例として、'''ヘモグロビン'''がある。ヘモグロビンは、2種類のサブユニットが2個ずつ、合計4個のサブユニットが集まって、できている。ヘモグロビンは、2個のヘム色素をもつ。
==== タンパク質の分類 ====
===== 単純タンパク質と複合タンパク質 =====
タンパク質を加水分解したとき、アミノ酸だけでなく色素、核酸、リン、脂質などアミノ酸以外の有機物を生じるものを'''複合タンパク質'''(conjugated protein)という。
たとえば、血液中にふくまれるヘモグロビンは色素をふくむ複合タンパク質であり、牛乳にふくまれるガゼインはリン酸をふくむ複合タンパク質であり、だ液にふくまれるムチンは糖をふくむ複合タンパク質である。
いっぽう、タンパク質を加水分解したとき、アミノ酸のみを生じるものを'''単純タンパク質'''(simple protein)という。
===== 球状タンパク質と繊維状タンパク質 =====
タンパク質の形状にもとづいて、'''球状タンパク質'''(globular protein)と'''繊維状タンパク質'''(fibrous protein)に分類される。一般に繊維状タンパク質は、水には溶けにくい。一方、球場タンパク質は、水に溶けやすい。球状タンパク質は、親水基を外側に、疎水基を内側にして、まとまっている事が多いため、である。
アルブミン、グロブリン、グルテリンなどが、繊維状タンパク質である。
ケラチン、コラーゲン、フィブロインなどが、繊維状タンパク質である。
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==== タンパク質の特徴 ====
* タンパク質の変性
タンパク質に熱、酸・塩基、重金属イオン、有機溶媒などを加えると凝固し生理的機能を失う。これをタンパク質の'''変性'''(denaturation)という。加熱によって変性することを熱変性という場合もある。
タンパク質の変性は、二次構造〜4次構造が破壊されることによって、起きている。そのため、変性したタンパク質は、元には戻らないのが普通である。タンパク質の変性では一次構造の配列順序は変わっていないが、二次構造以上の構造が変わっている。
* 溶液
タンパク質は水に溶けると、親水コロイド溶液になる。タンパク質のコロイド溶液は、多量の電解質によって、水和している水分子が覗かれるため、沈殿する(塩析)。
==== 検出反応 ====
===== ビウレット反応 =====
[[File:Biuret Test 2.jpg|thumb|100px|ビウレット反応]]
タンパク質水溶液に水酸化ナトリウム溶液NaOHを加え、少量の硫酸銅(II)水溶液CuSO<sub>4</sub>を加えると、赤紫色になる。この反応を'''ビウレット反応'''(biulet reaction)という。これはCuとペプチド結合とが錯イオンを形成することに基づき、トリペプチドやポリペプチドなどのようにペプチド結合を2個以上もつ場合に起こる。よって、ペプチド結合が1個だけであるジペプチドでは、ビウレット反応は起こらない。
===== キサントプロテイン反応 =====
タンパク質水溶液に濃硝酸をくわえて加熱すると、チロシンやトリプトファンなどのアミノ酸中にベンゼン環をもつ場合に、タンパク質水溶液が黄色になる。これは、ベンゼン環がニトロ化されるためである。この溶液を冷却し、NaOHやアンモニアなどで溶液を塩基性にすると、橙色になる。
これらの反応を'''キサントプロテイン反応'''(Xanthoprotein reaction)という。
橙色になった水溶液は中和すると、タンパク質の色は黄色に戻る。
フェニルアラニンはベンゼン環を持つが、あまり反応しない。
===== 硫黄の検出反応 =====
システインやメチオニンなどのようにタンパク質がイオウを含む場合は、タンパク質の水溶液に、固体の水酸化ナトリウムを加えて加熱して、それから酢酸などで中和し、さらにそれから酢酸鉛(II)水溶液 (CH<sub>3</sub>COO)<sub>2</sub>Pb を加えると、硫化鉛(II) PbS の沈殿を生じる。硫化鉛の沈殿の色は黒色である。
:Pb<sup>2+</sup> + S<sup>2-</sup> → PbS
==== 毛髪のパーマネントのしくみ ====
毛髪はケラチンという繊維状タンパク質からなるが、この分子はジスルフィド結合 -S-S- によって、ところどころ結ばれている。このジスルフィド結合のため、毛髪は一定の形を保っている。
毛髪のパーマ処理は、還元剤をもちいて、このジスルフィド結合を還元して -S-H にすることで、ジスルフィド結合を切断している。
つぎに、酸化剤で、ジスルフィド結合 -S-S- を再生させると、もととは違ったつながりかたで、部分的にジスルフィド結合が再生されるので、元の髪型とは違った髪型になる。
パーマの還元剤には、チオグリコール酸アンモニウムが用いられる。パーマの酸化剤には、臭素酸ナトリウム NaBrO<sub>3</sub> や過酸化水素などが用いられる。
== 繊維 ==
=== 総論 ===
繊維(fiber)とは、細くて糸状のものをいうが、その繊維のうち天然にある糸状の繊維を'''天然繊維'''(natural fiber)という。石油などから合成した繊維は'''合成繊維'''(synthetic fiber)という。
天然繊維のうち、植物からとれるもの(たとえば綿や麻など。主成分はセルロースなど)を'''植物繊維'''(plant fiber)といい、動物から取れるもの(羊毛や絹など。主成分はタンパク質。絹とはカイコから取れる繊維。)を'''動物繊維'''(animal fiber)という。
=== 具体例 ===
* 木綿
木綿(もめん、cotton)は、植物のワタから取れる植物繊維であり、主成分はセルロースである。木綿は、繊維の内部に中空部分があり、吸湿性が高い。
* 絹
絹は、カイコガのまゆから取り出される繊維である。絹の主成分と構造は、フィブロインというタンパク質を、セリンと呼ばれるタンパク質がくるんだ構造である。
* 羊毛
羊毛の主成分はケラチンである。
羊毛は、動物繊維であり、主成分はケラチンである。羊毛の表皮が鱗(うろこ)状で、クチクラ(キューティクル)と呼ばれる構造である。
羊毛は、伸縮性が大きく、また、水をはじく撥水性(はっすいせい)がある。羊毛は保温性があるので、毛布やコートなどに使われる。
羊毛や絹はタンパク質であるので、キサントプロテイン反応を呈する。
=== 化学繊維 ===
合成繊維や、天然繊維を溶媒に溶かしたり化学反応させたりと化学的に処理させたものなど、素材の合成に化学的な処理を必要とする繊維を'''化学繊維'''という。
天然繊維を溶媒に溶かしたのち、再び繊維に戻したものを'''再生繊維'''(regenerate fiber)という。セルロースの再生繊維はレーヨンと呼ばれ、レーヨンにはビスコースレーヨンと銅アンモニアレーヨンがある。
いっぽう、天然繊維を化学的に処理して組成を変化させたものは'''半合成繊維'''という。半合成繊維としては、たとえばアセテート繊維がある。
== 酵素 ==
ある種のタンパク質には触媒の働きを持つものがある。この触媒として機能するタンパク質を'''酵素'''(enzyme)という。酵素は、無機触媒や金属触媒とは、異なる性質をもつ。酵素は、ある特定の物質にしか作用しない。これを'''基質特異性'''(substrate specificity)という。そして酵素が作用する物質および分子構造を'''基質'''(substrate)という。
酵素には、基質と立体的にむすびつく'''活性部位'''(active site)があるため、このような反応が起こる。活性部位のことを、'''活性中心'''(active center)ともいう。
[[File:酵素基質複合体 模式図.svg|thumb|600px|center|酵素基質複合体の模式図]]
たとえば、だ液にふくまれるアミラーぜはデンプンを加水分解するが、タンパク質を加水分解できない。酵素インペルターゼはスクロースの加水分解にしか作用せず、マルトースやラクトースなどの他の二糖類にはインペルターゼは作用しない。また、マルターゼは、マルトースにしか作用しない。
=== 失活 ===
また、酵素はタンパク質であるので、タンパク質が変性する状況では、酵素はその能力を失う。熱変性などで、タンパク質が修復不可能になると、酵素の触媒能力もまた修復不可能となり、酵素を冷却しても、もはや触媒として機能しなくなる。このように酵素が触媒としての能力を失って、もはや酵素ではなくなったことを'''失活'''(deactivation)という。
=== 最適温度 ===
酵素の触媒作用が最も働く温度を'''最適温度'''という。酵素にもよるが、動物の体温に近い、35℃から40℃といった温度である。
50℃以上など、これらより高温では熱変性で酵素の構造が破壊される。最適温度より低温にした場合は、低温の間は酵素としての作用が弱まるが、適温に戻すと、再び酵素としての触媒能力を取り戻す。
低温で酵素としての能力を失うことは一般には失活とは呼ばない。
=== 最適pH ===
[[File:酵素と最適pH.svg|thumb|300px|酵素と最適pH]]
酵素には、その場所のpHによって、触媒の働きの反応速度が変わる。もっとも酵素が働くpHを'''最適pH'''(optimum pH)という。
最適pHの値の傾向は、酵素の種類にもよるが、おおむねpH6~8といった、中性付近か、弱酸性の付近で、もっともよく働く。たとえばアミラーゼはpH6~7の付近が最適pHである。すい臓の中で働く酵素のトリプシンはpH8の弱い塩基性が最適pHである。
なお、胃酸の中で働く酵素の'''ペプシン'''は最適pHがpH2の付近の強い酸性である。このpH2は、胃液のpHに近い。このように、酵素は、その酵素が働く環境下に近いpHで、よく働く性質になっている場合が多い。
== 核酸 ==
細胞には'''核酸'''という高分子化合物が存在し、これは遺伝情報を担っている。
リン酸、ペントース、有機塩基が結合した化合物を'''ヌクレオチド'''という。
[[ファイル:DAMP chemical structure.svg|中央|サムネイル|ヌクレオチド]]
また、ペントースと有機塩基が結合した化合物を'''ヌクレオシド'''という。
[[ファイル:Phosphodiester Bond Diagram.svg|サムネイル|ヌクレオチドの結合]]
核酸はヌクレオチドのペントースの3位の -HO とリン酸の -OH の部分が縮合重合したポリヌクレオチドである。
核酸には、リボ核酸 RNA と デオキシリボ核酸 DNA の2種類が存在する。核酸を構成するペントースの部分が、RNAはリボース <chem>C5H10O5</chem>、DNAはデオキシリボース <chem>C5H10O4</chem> である。
[[ファイル:Pentozi nukleotid.svg|中央|サムネイル|リボース(左) デオキシリボース(右)]]
RNAを構成する有機塩基はアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(C)の4種類である。DNAはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種類である。
[[ファイル:Main nucleobases.png|中央|サムネイル|400x400ピクセル]]
=== DNAの構造 ===
[[ファイル:DNAの並び方.png|サムネイル|DNAの並び方]]
DNAはアデニン(A)とチミン(T)、グアニン(G)とシトシン(C)が水素結合によって、2本のポリヌクレオチドが合わさった'''二重らせん構造'''をとっている。
[[ファイル:Base_pair_GC.svg|左|サムネイル|水素結合。 DNAにおける2つの塩基対の内の1つであるグアニンとシトシン間の水素結合。]]
{{-}}
[[ファイル:DNA_animation.gif|右|サムネイル|DNAの立体構造]]
=== DNAの働き ===
DNAの働きは、主にタンパク質の設計図となることと、遺伝情報を子孫に伝えることである。
DNAの遺伝子の働きかたを決める要因は、塩基の並び方で決定される。この塩基の並び方で、細胞で合成されるタンパク質が異なるため、DNAはタンパク質の設計図となっている。
DNAは、細胞核の中で、RNAをつくる。RNAの情報は、DNAの情報を元にしている。RNAは、核の外に出ていきリボソームと結合し、消化器官で食品のタンパク質から分解・吸収したアミノ酸を材料にして、 RNAの塩基配列に従ってアミノ酸をつなぎかえることで、タンパク質を作っている。
[[Category:高等学校化学]]
[[Category:高等学校教育]]
[[Category:化学]]
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== 糖類 ==
多数のヒドロキシ基を持つ、分子式 <chem>C_{m}(H2O){}_{n}</chem> で表される化合物を'''糖類'''(saccharides)または'''炭水化物'''(carbohydrate)という。
それ以上小さくならない最小の糖類を'''単糖'''という。単糖2分子が脱水縮合した糖類を'''二糖(disaccharide)'''、単糖2~10分子程度が脱水縮合した糖類をオリゴ糖、多数の単糖が脱水縮合した糖類を'''多糖(polysaccharide)'''という。
グルコースのようなアルデヒド基をもつ糖を'''アルドース'''(aldose)、ケトン基をもつ糖を'''ケトース'''という。
主な単糖として、グルコース、フルクトース、ガラクトース。
主な二糖として、マルトース、スクロース、ラクトース、セロビオース。
主な多糖として、デンプン、セルロースが挙げられる。
=== 単糖 ===
==== グルコース ====
* グルコース glucose(ブドウ糖, grape sugar )C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub>
グルコースは、デンプンを加水分解することによって得られる。
:(C<sub>6</sub>H<sub>10</sub>O<sub>5</sub>)<sub>n</sub> + nH<sub>2</sub>O → nC<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub>
グルコースは甘味をもち、また、水によく溶ける。水溶液中のグルコースは、一部のグルコースの環構造が開き鎖式構造に変わる。ホルミル基を持ち、還元性を示す。従って、銀鏡反応やフェーリング反応を示す。
グルコースは三種類あり、'''αグルコース'''と'''鎖式グルコース'''と'''βグルコース'''とがある。
αグルコースを水に溶かすと、上記のように一部が鎖式グルコースになり、さらにその一部が鎖式構造を経てβグルコースになる。最終的に3種類のグルコースのα形、鎖式、β型の混じりあった平衡状態になる。
[[File:Alpha-D-Glucopyranose.svg|thumb|150px|left|αグルコース]]
[[File:Beta-D-Glucopyranose.svg|thumb|150px|center|βグルコース]]
{{clear}}
==== フルクトース ====
フルクトース,fructose(果糖, fruit sugar )C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub>
フルクトースは水溶液中では、六員環フルクトースと鎖式フルクトースと五員環フルクトースがある。
フルクトースを水に溶かすと、一部が鎖式フルクトースを経て、五員環フルクトース、六員環フルクトースになる。五員環フルクトースと六員環フルクトースにはα型とβ型が存在するため、フルクトースは水溶液中では5種類の構造が存在する。
鎖状構造のフルクトースにはホルミル基は無いが、一部が異性化し、ホルミル基を持つので還元性を示す。
フルクトースは、糖類の中で最も甘く、果実などに含まれることが多い。
[[ファイル:Beta-D-Fructopyranose.svg|thumb|150px|left|六員環のβフルクトース]]
[[ファイル:Beta-D-Fructofuranose.svg|thumb|150px|center|五員環のβフルクトース]]
{{clear}}'''アルコール発酵'''
グルコースやフルクトースなどの6炭糖は酵素群チマーゼによって'''アルコール発酵'''を起こす。
C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub> → 2C<sub>2</sub>H<sub>5</sub>OH + 2CO<sub>2</sub>
==== ガラクトース ====
ガラクトースはグルコースの4位の不斉炭素原子の立体配置が異なる単糖である。寒天の成分であるガラクタンを加水分解すると、ガラクトースが得られる。ヘミアセタール構造が存在するので、水溶液は還元性をしめす。
=== ニ糖類 ===
[[ファイル:Sucrose-inkscape.svg|thumb|200px|二糖の一種であるスクロース]]
二糖類を構成する単糖類の縮合したエーテル結合を'''グリコシド結合'''という。
主な二糖類には、スクロース、マルトース、セロビオース、ラクトースがある。
==== ヘミアセタール構造 ====
有機化合物中の、ある一つのC原子に対して、そのC原子にヒドロキシル基 -OH とエーテル結合 -O- が隣り合ってる構造を、'''ヘミアセタール構造'''という。グルコースで、ヘミアセタール構造をもつのは、一箇所だけである。-OH結合だけを持つC原子は数箇所あるが、-O- 結合が隣り合ってない場合はヘミアセタール構造とは呼ばない。
水溶液中のグルコースでは、このヘミアセタール構造が変形してアルデヒドを形成している。
このヘミアセタール構造の有無を、糖類の構造式を見て調べることで、糖類の水溶液中の還元性を予測できる。まず、構造式中のエーテル結合-O- を持つ部分を探してそのOに隣り合ったC原子が-OH を持つかどうかで、還元性の有無を予測できる。
==== スクロース ====
[[ファイル:Sucrose-inkscape.svg|thumb|250px|スクロース]]スクロース(sucrose)は、αグルコースとβフルクトースがα-1,2-グリコシド結合した構造をもつ。
スクロースの水溶液は還元性を示さない。これは、グルコースとフルクトースの還元性をしめすヘミアセタール構造の部分で縮合が行われていることによる。
作物では、サトウキビやテンサイなどに、スクロースが含まれる。
* 加水分解
希酸または酵素インペルターゼでスクロースは加水分解すると、グルコースとフルクトースの等量混合物になる。
C<sub>12</sub>H<sub>22</sub>O<sub>11</sub> (スクロース) + H<sub>2</sub>O → C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub>(グルコース) + C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub> (フルクトース)
グルコースとフルクトースの等量混合物を'''転化糖'''(invert sugar)という。スクロースを加水分解すると転化糖が得られる。
==== マルトース ====
[[File:Maltose Gleichgewicht.svg|thumb|400px|マルトース(左)と、水溶液中でのアルデヒド基の出現(右)]]
(麦芽糖)
αグルコースの二分子が縮合した構造。
* 特徴
還元性を示す。
* 加水分解
希酸または酵素マルターゼで加水分解される。
デンプンを酵素アミラーゼで加水分解すると生じるのが、マルトースである。
==== ラクトース ====
[[File:Lactose(lac).png|thumb|300px|ラクトース]]
(乳糖)
ラクトース(lactose)は、ガラクトースとαグルコースが縮合した構造。
* 特徴
ラクトースの水溶液は還元性を示す。
* 加水分解
酵素ラクターゼによってラクトースは加水分解され、ガラクトースとグルコースになる。
牛乳など、哺乳類の乳汁にラクトースは含まれる。
==== トレハロース ====
[[File:Trehalose Haworth.svg|thumb|トレハロース]]
:
トレハロースの構造は、αグルコースが2分子からなり、αグルコースの1位の還元基どうしが結合した構造となっている。このことからもわかるように、トレハロースの水溶液は還元性を示さない。
自然界では、昆虫の体液、キノコやカビ、海藻などに含まれる。
=== 多糖類 ===
==== デンプン ====
デンプン(starch)は、植物が光合成によって体内につくる多糖類である。二糖類とちがい、デンプンは甘味をしめさない。また、デンプンは、還元性を示さない。
デンプンは、多数のαグルコースが脱水縮合して出来た構造をもつ多糖類の高分子化合物である。
(C<sub>6</sub>H<sub>10</sub>O<sub>5</sub>)<sub>n </sub>の構造を持つ。nは数百から数十万である。
* デンプンの性質
デンプンは冷水には溶けにくいが、約80℃の熱水には溶けてコロイド状のデンプンのりになる。
酵素'''アミラーゼ'''によって、デンプンは加水分解される。このアミラーゼによるデンプンの加水分解の結果、デンプンの重合数が少なくなった'''デキストリン'''(C<sub>6</sub>H<sub>10</sub>O<sub>5</sub>)<sub>n </sub>を生じる。そしてデキストリンは、さらに二糖類の'''マルトース'''に分解される。
マルトースに対しては、酵素'''マルターゼ'''によって、グルコースになる。
デンプンからグルコースまでの順序を化学式にまとめれば、
(C<sub>6</sub>H<sub>10</sub>O<sub>5</sub>)<sub>n </sub>デンプン→ (C<sub>6</sub>H<sub>10</sub>O<sub>5</sub>)<sub>m</sub> デキストリン → C<sub>12</sub>H<sub>22</sub>O<sub>11</sub> マルトース→ C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub> グルコース
である。(デンプンとデキストリンの重合数について、n>mとした。)
デンプンには還元性は無い。したがってデンプンは、フェーリング液を還元しない。
===== ヨウ素デンプン反応 =====
[[File:ヨウ素デンプン反応の分子構造.svg|thumb|500px|ヨウ素デンプン反応の分子構造]]
ヨウ化カリウム水溶液KIにより、デンプンは青紫色に呈色する。加熱すると、無色になる。この反応を'''ヨウ素デンプン反応'''(iodine-starch reaction)という。
デンプンは水溶液中では、分子内の水素結合により、らせん構造をとる。このらせん構造の中にヨウ素が入りこむことで、呈色する。
加熱で無色になっても、冷却すると、再び、もとの青紫色の呈色を示すようになる。
===== アミロースとアミロペクチン =====
[[File:Amylose2.svg|thumb|right|270px|アミロースの分子構造]]
[[File:Amylopektin Sessel.svg|thumb|right|アミロペクチンの分子構造]]
デンプンの種類のうち、αグルコースが直鎖状に結合したものを'''アミロース'''(amylose)と言う。αグルコースが、ところどころ枝分かれした構造のデンプンを'''アミロペクチン'''(amylopectin)という。枝分かれの割合はαグルコース数十個につき、一個の枝分かれの程度である。
もち米のデンプンは、アミロペクチンが100%である。ふつうの植物のデンプンには、アミロースが20%程度でアミロペクチンが80%程度ほど含まれている。
* アミロース
グルコースの1位と4位が結合して重合した構造になっている。
ヨウ素デンプン反応では、アミロースは青色。多くのヒドロキシル基を持ち、極性を持つ部分が多いため、熱湯には、比較的、溶けやすい。冷水には溶けにくい。
* アミロペクチン
グルコースの1位と4位が結合して重合したほかに、1位と6位が結合した重合構造になっている。
1位と6位の結合のため、構造に枝分かれ上の分岐が起こる。
ヨウ素デンプン反応では、アミロペクチンは赤紫色。アミロースとの色の違いは、直鎖状の長さの違いによって、ヨウ素との結合力に違いが生じたからある。ヨウ素と反応することから分かるように、アミロペクチンもらせん構造を取る。枝分かれをするものの、分かれた枝の先がそれぞれらせん構造をとる。
熱湯には、溶けにくい。冷水にも溶けにくい。
==== グリコーゲン ====
[[File:Glycogen structure.svg|thumb|260px|グリコーゲンの断面図]]
'''グリコーゲン'''(glycogen)は、動物の肝臓に多い多糖類で、その構造はアミロペクチンと似ているが、アミロペクチンよりも枝分かれが多い。分岐の頻度は、おおむね8~12基に一回の程度の分岐である。枝分かれが多いため放射したような網目構造をとり、らせん構造をとらない。このため、極性をもった部分が外側に出やすく、水溶性が高い。
ヨウ素デンプン反応では、グリコーゲンは赤褐色を示す。
* グリコーゲンを含む生体には、動物の体内で栄養素として多いことから、'''動物デンプン'''ともよばれる。
* グリコーゲンは肝臓や筋肉に多く含まれる。
==== セルロース ====
[[Image:Cellulose-2D-skeletal.svg|thumb|240px|セルロースの構造式]]
[[File:Alg-frut-6.jpg|left|thumb|200px|綿花から取れる綿は天然のセルロースである。]]
'''セルロース'''(cellulose)[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)<sub>3</sub>]<sub>n </sub>は植物の細胞壁の主成分である。木綿、パルプ、ろ紙は、ほぼ純粋なセルロースである。セルロースの構造は、多数のβグルコースが、直線状に縮合した構造である。セルロースの構造では、各グルコースの向きが交互に表・裏・表・裏を繰り返すので、セルロース全体で見れば直線状になっている。
* セルロースは、還元性を持たず、また、ヨウ素デンプン反応も示さない。
* セルロースは、冷水や熱水には溶けない。セルロースは、エーテルやアルコールなどにも溶けない。
* セルロースは'''シュバイツアー試薬'''に溶ける。
シュバイツアー試薬とは、水酸化銅Cu(OH)2を濃アンモニア水に溶かしたものである。水溶液中でイオンが、'''テトラ アンミン イオン''' [Cu(NH<sub>3</sub>)<sub>4</sub>]<sup>2+</sup> になる。
セルロースの示性式は、[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)<sub>3</sub>]<sub>n </sub>である。グルコース1単位あたり3個のヒドロキシル基OHを持つ。したがって、酸と反応させるとエステルを作りやすく、酢酸や硝酸とエステルをつくる。
セルロースは、酸をくわえて長時間加熱すると、最終的にグルコースになる。
このほか、酵素セルラーゼによって、セルロースは分解される。
工業上は硝酸とのセルロースのエステルである「ニトロセルロース」(後述する。)が、特に重要である。
{{clear}}
==== セルロースの誘導体 ====
===== ニトロセルロース =====
セルロース[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)<sub>3</sub>]<sub>n</sub>に、濃硝酸および濃硫酸の混合溶液(混酸)を作用させると、セルロースのOH基の一部または全部がエステル化される。セルロース中のグルコース1単位あたり、3個のOH基の一部または3個全部が硝酸エステル化されたものをニトロセルロース(nitrocellulose)という。特にセルロース中のグルコース1単位のうち、3個のOH基すべてが硝酸エステル化されたもの [C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(ONO<sub>2</sub>)<sub>3</sub>]<sub>n</sub> を'''トリニトロセルロース'''という。
[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)<sub>3</sub>]<sub>n</sub> + 3n HONO<sub>2</sub> → [C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(ONO<sub>2</sub>)<sub>3</sub>]<sub>n</sub> + 3n H<sub>2</sub>O
このトリニトロセルロースは火薬の原料である。
===== ジニトロセルロース =====
セルロース中の2個のOH基がエステル化したものはジニトロセルロースという。このジニトロセルロースは、有機溶媒に溶ける。
* コロジオン
このジニトロセルロースを、エタノールとエーテルの混合液に溶かしたものを'''コロジオン'''という。混合液には水分などを含まないので「水溶液」では無いことに注意。
コロジオンの溶液を蒸発させると、薄い膜が残る。これは半透膜の材料に使われる。コロジオンから得られた半透膜のことをコロジオン膜ともいう。
* セルロイド
ニトロセルロースをエタノールに溶かし、ショウノウを加えて得られる樹脂をセルロイドという。
===== アセテート類 =====
セルロースを無水酢酸、氷酢酸および少量の濃硫酸との混合物を反応させる。すると、分子中のOH基中のHがCOOH基で置換される'''アセチル化'''が起きて、'''トリアセチルセルロース'''が生成する。
[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)<sub>3</sub>]<sub>n</sub> + 3n (CH<sub>2</sub>CO)<sub>2</sub> O → [C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OCOCH<sub>3</sub>)<sub>3</sub>]<sub>n</sub> + 3n CH<sub>3</sub>COOH
トリアセチルセルロースはヒドロキシル基OHを持たないため、通常の溶媒(メタノール等)には溶解しづらい。しかし、トリアセチルセルロースは常温の水または温水で、エステル結合の一部が加水分解して'''ジアセチルセルロース'''
[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)(OCOCH<sub>3</sub>)<sub>2</sub>]<sub>n</sub>
になる。このジアセチルセルロースはヒドロキシル基をもつので、アセトン溶媒に溶解するようになる。このジアセチルセルロースの溶けたアセトン溶液を細孔から押し出してアセトンを蒸発・乾燥させて、紡糸したものを'''アセテート繊維'''という、あるいは単に'''アセテート'''という。
語「アセテート」の意味は、「酢酸エステルの」という意味である。
アセテート繊維のように、天然繊維を化学的に処理してから紡糸した繊維を'''半合成繊維'''(semisynthetic fiber)という。
===== レーヨン =====
天然繊維を溶媒に溶かしたのち、再び繊維に戻したものを'''再生繊維'''(regenerate fiber)という。セルロースの再生繊維は'''レーヨン'''(rayon)と呼ばれ、レーヨンにはビスコースレーヨンと銅アンモニアレーヨンがある。
* 銅アンモニアレーヨン
水酸化銅(II)であるCu(OH)<sub>2</sub>を濃アンモニア溶液に溶かした溶液を'''シュバイツアー試薬'''という。このシュバイツアー試薬溶液にセルロース(具体的には脱脂綿など)を溶かすと、粘度のある液体が得られる。この粘い液体を細孔から希硫酸の中にゆっくり押し出すと、セルロースが再生する。こうして得られた繊維を'''銅アンモニアレーヨン'''または'''キュプラ'''といい、光沢があり、滑らかであり、柔らかいので、衣服の裏地に利用される。
* ビスコースレーヨン
セルロース(具体的には脱脂綿など)を濃い水酸化ナトリウム溶液に浸す処理をして'''アルカリセルロース'''(化学式は[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)<sub>2</sub>ONa]nである。)にしてから、紙などで挟んでから絞って水気を切って、つぎに二硫化炭素CS<sub>2</sub>と反応をさせると、セルロースキサントゲン酸ナトリウム(式は[C<sub>6</sub>H<sub>7</sub>O<sub>2</sub>(OH)<sub>2</sub>OCSSNa]<sub>n</sub>である。)という物質になる。これを水酸化ナトリウム水溶液に溶かすと、赤褐色のコロイド溶液が得られる。こうして、セルロースから得られた赤褐色のコロイド溶液を'''ビスコース'''(viscose)という。このビスコースを、細孔から希硫酸の中に押し出して、セルロースを再生させて紡糸したものが、'''ビスコースレーヨン'''(viscose rayon)という繊維である。
そして、ビスコースを細孔からではなく、細長いすきまから膜上に押し出したものを'''セロハン'''(cellophane)といい、テープや包装材に利用される。
* 再生繊維
レーヨンのように、天然繊維を一度化学的に処理して溶液にした後、糸として、元の化学式を再生させた繊維を'''再生繊維'''という。
なお、アセテート繊維は化学式が変わっているので再生繊維でない。アセテート繊維は化学式が元のセルロースから変わっている繊維で、また人工物だけから得られた合成繊維でもないので、アセテート繊維などは半合成繊維という。
== タンパク質とアミノ酸 ==
=== アミノ酸 ===
[[File:Amino acid strucuture for highscool education.svg|thumb|300px|アミノ酸の一般的な構造。図中のRは、アミノ酸の種類によって、ことなる。]]
分子中にアミノ基( -NH<sub>2</sub> )とカルボキシル基( -COOH )をもつ化合物を'''アミノ酸'''(amino acid)という。アミノ酸のうち、同一の炭素C原子に、-NH<sub>2</sub>と-COOHが結合しているアミノ酸を'''αアミノ酸'''という。
アミノ酸の一般式は
:R-CH(NH<sub>2</sub>)-COOH
で表される。(Rは炭化水素基あるいは水素など。)
なお、R-の部分をアミノ酸の'''側鎖'''(そくさ)という。Rの違いによって、アミノ酸の種類が決まる。
:※ なお、生体のタンパク質は、約20種類のαアミノ酸が成分となって縮合してできる物である。生体に必要なアミノ酸のうち、ヒトの体内で合成されない・合成されにくいアミノ酸を'''必須アミノ酸'''(essential amino acid)という。
==== 光学異性体 ====
[[File:アラニンの光学異性体.svg|thumb|400px|アラニンの光学異性体]]
グリシン以外のすべてのアミノ酸には'''光学異性体'''(optical isomer)が存在する('''鏡像異性体''' enantiomer ともいう)。
天然のアミノ酸のほとんどは、L型の配置である。D型の配置のアミノ酸は、天然にはほとんどない。
{{-}}
==== アミノ酸の反応 ====
[[File:アミノ酸のアミド化とエステル化.svg|thumb|800px|center|アミノ酸のアミド化とエステル化]]
アミノ酸は分子内にカルボキシル基-COOH が存在するため、アルコール(CH<sub>3</sub>OH など)と反応しエステル化をしてエステルをつくる。また、アミノ酸は分子内にアミノ基-NH<sub>3</sub>が存在するため無水酢酸( (CH<sub>3</sub>CO)<sub>2</sub>O )と反応させるとアセチル化してアミドをつくる。
==== 双性イオン ====
[[File:双性イオン.svg|800px|center|]]
アミノ酸のアミノ基( -NH<sub>3</sub> )は塩基性を示し、いっぽうカルボキシル基( -COOH )は酸性を示すので、アミノ酸は両性化合物である。結晶中のアミノ酸分子中では、分子内で( -COOH )が水素Hを( -NH<sub>2</sub> )に渡して、アミノ酸内にイオンの( -COO<sup>-</sup> )と( -NH<sub>3</sub><sup>+</sup> )を生じる。その結果、アミノ酸の構造は、
R-CH(NH<sub>3</sub><sup>+</sup>)-COO<sup>-</sup>
の構造になる。このように分子内に酸性と塩基性の両方のイオンを生じるので、'''双性イオン'''(zwitterion)とよばれる。
このようにイオンがあるため、アミノ酸は水に溶けやすく、また、有機溶媒には溶けにくい。双性イオンの陽イオンと陰イオンどうしがクーロン力で引き合うため、アミノ酸はイオン結晶に近い結晶構造を取り、また、ほかの有機化合物と比べるとアミノ酸は比較的に融点や沸点が高い。
アミノ酸の水溶液に外部から酸をくわえると、平衡がかたむき、-COO<sup>-</sup>がH<sup>+</sup>を受け取り -COOHになるので、アミノ酸分子中で-NH<sub>3</sub><sup>+</sup>が余るので、酸性が強い溶液中ではアミノ酸は陽イオンになる。
いっぽう、アミノ酸の水溶液に外部から塩基をくわえると、平衡がかたむき、-NH<sub>3</sub><sup>+</sup>がOH<sup>-</sup>にH<sup>+</sup>を放出することによって-NH<sub>2</sub>と変わることによって、-COO<sup>-</sup>が余るので、アミノ酸は陰イオンになる。
==== 等電点 ====
アミノ酸分子中の正負の電荷が等しくなっているときのpHを'''等電点'''(isoelectric point)という。側鎖がイオン化する場合は、その電荷も含む。
等電点を測定するには、水溶液に電圧を加ればよい。等電点よりPHが小さい(酸性)水溶液中では、アミノ酸は陽イオンになっているため、陰極側に移動する。いっぽう、等電点よりpHが大きい(塩基性)と、アミノ酸は陰イオンになってるため、陽極側に移動する。
そして、pHが等電点と同じくらいの水溶液中だと、アミノ酸は陽極にも陰極にも移動しないので、よって、この状態の水溶液のpHを測定することにより、等電点を測定できる。
要するに、アミノ酸の等電点を測定する方法とは、アミノ酸混合物の水溶液のpHを変えながら、それぞれのpHごとに電気泳動をすればよい。
また、この等電点の測定のさいの電気泳動を利用して、アミノ酸を分離することができる。
具体的な実験方法は、アミノ酸を染み込ませた濾紙(ろし)などに、2本の電極で直流電圧を加える電気泳動をおこなうと、等電点の異なるアミノ酸は移動の仕方が異なるので分離をする。このとき、アミノ酸を呈色をさせるため、後述するニンヒドリン反応を利用する必要があり、そのため、電気泳動後にニンヒドリン溶液をふきつける。
このような実験で、等電点より酸性では陰極側へアミノ酸が移動したのが観測でき、等電点より塩基性では陽極側へ移動することが観測でき、このように、じっさいに目視でアミノ酸のpHごとの移動結果を観測できる。
アミノ酸の種類ごとの等電点は、たとえばグリシンでは pH=6.0 であり、酸性アミノ酸のグルタミン酸ではpH=3.2であり、塩基性アミノ酸のリシンでは9.7というように、アミノ酸の種類ごとに等電点は異なる。
水溶液が中性付近では、ふつうは双対イオン状態のアミノ酸が最も多く、陰イオン状態のアミノ酸や陽イオン状態のアミノ酸は少ししか存在しない。
==== ニンヒドリン反応 ====
[[File:Ninhydrin.svg|thumb|ニンヒドリン分子]]
アミノ酸水溶液に薄いニンヒドリン水溶液を加えて温めると、アミノ基 -NH<sub>2</sub> と反応して、色が青紫~赤紫になる。この反応を'''ニンヒドリン反応'''(ninhydrin reaction)といい、アミノ酸の検出などの目的に用いられる。この反応は、アミノ酸の検出やタンパク質の検出に利用される。なお。タンパク質も、構造の端部などにアミノ酸をふくむため、少しながらニンヒドリン反応をするので、色が青紫〜赤紫になる(※ タンパク質のニンヒドリン反応も、高校の範囲内。啓林館や第一学習社の検定教科書に、タンパク質のニンヒドリン反応の記述あり)。
{{-}}
==== アミノ酸の例 ====
{| class="wikitable" style="background-color:#fff"
! 名称 <br /> (カッコ内のは略記号) !! 構造式 !! 所在、特徴など !! 等電点
|-
| グリシン <br /> (Gly) || [[Image:Glycine for highschool.svg|150px]] || 最も簡単なアミノ酸。<br />光学異性体が存在しない。 || 6.0
|-
| アラニン <br /> (Ala) || [[Image:Alanine for highschool.svg|150px]] || タンパク質の構成成分。<br />絹に多い。 || 6.0
|-
| セリン <br /> (Ser) || [[Image:Serine for highschool.svg|150px]] || 絹に多い。<br />-OH基をもつ。 || 5.7
|-
| フェニルアラニン <br /> (Phe) || [[Image:Phenylakanine for highschool.svg|190px]] || 牛乳や卵に多い。<br />ベンゼン環をもつ。 || 5.5
|-
| システイン <br /> (Cys) || [[Image:Cysteine for highschool.svg|150px]] || 毛や爪、角に多い。<br />-SH(チオ基)をもつ。 || 5.1
|-
| メチオニン <br /> (Met) || CH3 ー S ー (CH2)2 ー || 牛乳のタンパク質のガゼインに多い。<br />硫黄をふくむ。 || 5.7
|-
| アスパラギン酸 <br /> (Asp) || [[Image:Aspartic-acid for highschool.svg|200px]] || 植物のタンパク質に多い。<br /> || 2.8
|-
| グルタミン酸 <br /> (Glu) || [[Image:Glutamic-acid for highschool.svg|200px]] || 小麦に多い。<br />-COOH基を2個もつ塩基性アミノ酸。 || 3.2
|-
| リシン <br /> (Lys) || [[Image:Lysine for highschool.svg|280px]] || ほとんどすべてのタンパク質にある。<br />-NH2基を2個もつ塩基性アミノ酸。 || 9.7
|-
|}
* 必須アミノ酸
フェニルアラニンやリシン、メチオニンは必須アミノ酸の例である。
必須アミノ酸は、ヒトの体内で合成されないバリン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、リシンの8種類に、合成されにくいヒスチジンを加えた9種類である。幼児では、さらにアルギニンを加える場合もある。
* グルタミン酸
グルタミン酸は、昆布のうま味の成分である。グルタミン酸には光学異性体があり、L型のグルタミン酸のみが うま味 を示す。D型は示さない。
=== タンパク質 ===
==== ペプチド結合 ====
[[File:ペプチド結合.svg|center|800px|ペプチド結合]]
2個のアミノ酸分子が結合し、いっぽうのアミノ酸のカルボキシル基と、もう一方のアミノ酸のアミノ基が縮合して、脱水縮合して結合を'''ペプチド結合'''(peptide bond)という。それぞれのアミノ酸は同一種でなくても良い。また、ペプチド結合によって生成する化合物をペプチド(peptide)という。
ペプチドのうち、2分子のアミノ酸がペプチド結合したものを'''ジペプチド'''(dipeptide)という。3分子のアミノ酸がペプチド結合したものをトリペプチド(tripeptide)という。多数のアミノ酸が縮合重合したものを'''ポリペプチド'''(polypeptide)という。
ジペプチドには、ペプチド結合が1つ存在する。トリペプチドには、ペプチド結合が2つ存在する。
タンパク質は、ポリペプチドである。
ペプチド化合物で縮合に使われなかったアミノ基が末端に残るが、このペプチド化合物の縮合に使われなかった末端のアミノ基を'''N末端'''という。同様に、カルボキシル基も末端に残るが、これを'''C末端'''という。ペプチドの構造式を書くときは、N末端を左側に、C末端を右に配置して書くのが慣行である。
ジペプチドには、構造異性体が存在する。たとえば、グリシン(Gly)とアラニン(Ala)からなるジペプチドについて、グリシンのCOOH基とアラニンのNH2基が結合したものを、グリシルアラニン(Gly-Ala) という。また、グリシンのNH2基とアラニンのCOOH基が結合したものを、アラニルグリシン(Ala-Gly )という。
グリシルアラシンもアラニルグリシンも、原子数は同じであるが、構造は異なる。
なお、ペプチドの名称は、このグリシルアラニンの例のように、N末端を持つグリシンが名称の先に来て、C末端をもつアラニンがあとに来る。
トリペプチドやポリペプチドの表記でも同様に、N末端からC末端のアミノ酸の名称で表記する。
トリペプチドでも、ジペプチドと同様に構造異性体が存在する。
なお、グルタミン酸は、カルボキシル基を2箇所もつので、グルタミン酸を含むペプチドでは、構造異性体の数が2倍に増える。
例として、いくつかのトリペプチドで構造異性体の数を求める。
;例1:
GlyとGlyとAlaが結合したトリペプチドの場合。(Glyが2分子。)
構造順はGly-Gly-Ala と Gly-Ala-GlyとAla-Gly-Glyの3通りがある。光学異性体を考慮した場合は、グリシン以外のアミノ酸は光学異性体をもち、異性体数が2倍になるので、光学異性体を考慮したGlyとGlyとAlaが結合したトリペプチドの異性体は3×2=6で6通りになる。
;例2:
GlyとAlaとAlaが結合したトリペプチドの場合。(Alaが2分子。)
構造順はGly-Ala-Ala とAla-Gly-Alaと Ala-Ala-Gly の3通りがある。光学異性体を考慮した場合は、グリシン以外のアミノ酸は光学異性体をもち、異性体数が2倍になるのであった。そして、光学異性体を持つAlaが2個あるから、2×2=4で4倍になる。最終的に光学異性体を考慮した異性体数は3×4=12で12通りになる。
==== 一次構造と高次構造 ====
* 一次構造
タンパク質を構成するアミノ酸の配列順序のことを'''一次構造'''(いちじこうぞう、primary structure)という。たとえば表記「Gly-Gly-Ala」などは一次構造の表記である。
* 二次構造
** αヘリックス
[[Image:AlphaHelixProtein fr.jpg|thumb|left|250px|αヘリックス。<br>図中の“Liaison H”が水素結合のこと。<br>(リエゾン エイチと書いてある。)]]
[[Image:Helice alpha spire 0.png|thumb|100px|right|αヘリックスはアミノ酸間の水素結合である.]]
タンパク質のポリペプチドの多くの構造は、時計回り(右回り、Z撚り「ゼットより」)のらせん構造をもつ。
このポリペプチドのらせん構造を'''αヘリックス'''という。らせん1巻あたり、平均3.6個のアミノ酸が含まれる。
このらせん化は、水素結合による現象であり、 アミノ酸の分子中の-C=Oと-N-Hの間のOとHが水素結合し、
-C=O ・・・ H-N-
のように水素結合した結果、ペプチド全体ではらせん構造を取る。
* βシート
[[Image:Feuillet beta 2.jpg|300px|thumb|βシート]]
並行にならんだ2本のポリペプチドのあいだに水素結合が保たれ、ヒダ状に折れ曲る構造をとることがあり、これを'''βシート'''という。
これら、αヘリックスやβシートをまとめて、タンパク質の'''二次構造'''(secondary structure)という。
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* 三次構造
[[画像:Myoglobin.png|thumb|left|250px|三次構造の例。ミオグロビン立体構造]]
αヘリックスをとったポリペプチドや、βシートをとったポリペプチドなど、二次構造をとったポリペプチドが、さらに折りたたまれて'''三次構造'''(tertiary structure)になる。三次構造の形成には、側鎖どうしに働く引力や、システインによる'''ジスルフィド結合'''(disulfide bond) -S-S- によるものが関わっている。
三次構造は'''サブユニット'''と呼ばれる。
三次構造の生体組織の例として、'''ミオグロビン'''がある。ミオグロビンは、1本のポリペプチド鎖からなり、ヘム色素を持っている。ヘム色素は、酸素と化合する性質がある。
* 四次構造
[[画像:hemoglobin.jpg|thumb|240px|四次構造の例。ヘモグロビン]]
三次構造のポリペプチド鎖(サブユニットという)が、複数個あつまって集合体をなした構造を'''四次構造'''(quaternary structure)という。
四次構造の生体組織の例として、'''ヘモグロビン'''がある。ヘモグロビンは、2種類のサブユニットが2個ずつ、合計4個のサブユニットが集まって、できている。ヘモグロビンは、2個のヘム色素をもつ。
==== タンパク質の分類 ====
===== 単純タンパク質と複合タンパク質 =====
タンパク質を加水分解したとき、アミノ酸だけでなく色素、核酸、リン、脂質などアミノ酸以外の有機物を生じるものを'''複合タンパク質'''(conjugated protein)という。
たとえば、血液中にふくまれるヘモグロビンは色素をふくむ複合タンパク質であり、牛乳にふくまれるガゼインはリン酸をふくむ複合タンパク質であり、だ液にふくまれるムチンは糖をふくむ複合タンパク質である。
いっぽう、タンパク質を加水分解したとき、アミノ酸のみを生じるものを'''単純タンパク質'''(simple protein)という。
===== 球状タンパク質と繊維状タンパク質 =====
タンパク質の形状にもとづいて、'''球状タンパク質'''(globular protein)と'''繊維状タンパク質'''(fibrous protein)に分類される。一般に繊維状タンパク質は、水には溶けにくい。一方、球場タンパク質は、水に溶けやすい。球状タンパク質は、親水基を外側に、疎水基を内側にして、まとまっている事が多いため、である。
アルブミン、グロブリン、グルテリンなどが、繊維状タンパク質である。
ケラチン、コラーゲン、フィブロインなどが、繊維状タンパク質である。
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==== タンパク質の特徴 ====
* タンパク質の変性
タンパク質に熱、酸・塩基、重金属イオン、有機溶媒などを加えると凝固し生理的機能を失う。これをタンパク質の'''変性'''(denaturation)という。加熱によって変性することを熱変性という場合もある。
タンパク質の変性は、二次構造〜4次構造が破壊されることによって、起きている。そのため、変性したタンパク質は、元には戻らないのが普通である。タンパク質の変性では一次構造の配列順序は変わっていないが、二次構造以上の構造が変わっている。
* 溶液
タンパク質は水に溶けると、親水コロイド溶液になる。タンパク質のコロイド溶液は、多量の電解質によって、水和している水分子が覗かれるため、沈殿する(塩析)。
==== 検出反応 ====
===== ビウレット反応 =====
[[File:Biuret Test 2.jpg|thumb|100px|ビウレット反応]]
タンパク質水溶液に水酸化ナトリウム溶液NaOHを加え、少量の硫酸銅(II)水溶液CuSO<sub>4</sub>を加えると、赤紫色になる。この反応を'''ビウレット反応'''(biulet reaction)という。これはCuとペプチド結合とが錯イオンを形成することに基づき、トリペプチドやポリペプチドなどのようにペプチド結合を2個以上もつ場合に起こる。よって、ペプチド結合が1個だけであるジペプチドでは、ビウレット反応は起こらない。
===== キサントプロテイン反応 =====
タンパク質水溶液に濃硝酸をくわえて加熱すると、チロシンやトリプトファンなどのアミノ酸中にベンゼン環をもつ場合に、タンパク質水溶液が黄色になる。これは、ベンゼン環がニトロ化されるためである。この溶液を冷却し、NaOHやアンモニアなどで溶液を塩基性にすると、橙色になる。
これらの反応を'''キサントプロテイン反応'''(Xanthoprotein reaction)という。
橙色になった水溶液は中和すると、タンパク質の色は黄色に戻る。
フェニルアラニンはベンゼン環を持つが、あまり反応しない。
===== 硫黄の検出反応 =====
システインやメチオニンなどのようにタンパク質がイオウを含む場合は、タンパク質の水溶液に、固体の水酸化ナトリウムを加えて加熱して、それから酢酸などで中和し、さらにそれから酢酸鉛(II)水溶液 (CH<sub>3</sub>COO)<sub>2</sub>Pb を加えると、硫化鉛(II) PbS の沈殿を生じる。硫化鉛の沈殿の色は黒色である。
:Pb<sup>2+</sup> + S<sup>2-</sup> → PbS
==== 毛髪のパーマネントのしくみ ====
毛髪はケラチンという繊維状タンパク質からなるが、この分子はジスルフィド結合 -S-S- によって、ところどころ結ばれている。このジスルフィド結合のため、毛髪は一定の形を保っている。
毛髪のパーマ処理は、還元剤をもちいて、このジスルフィド結合を還元して -S-H にすることで、ジスルフィド結合を切断している。
つぎに、酸化剤で、ジスルフィド結合 -S-S- を再生させると、もととは違ったつながりかたで、部分的にジスルフィド結合が再生されるので、元の髪型とは違った髪型になる。
パーマの還元剤には、チオグリコール酸アンモニウムが用いられる。パーマの酸化剤には、臭素酸ナトリウム NaBrO<sub>3</sub> や過酸化水素などが用いられる。
== 繊維 ==
=== 総論 ===
繊維(fiber)とは、細くて糸状のものをいうが、その繊維のうち天然にある糸状の繊維を'''天然繊維'''(natural fiber)という。石油などから合成した繊維は'''合成繊維'''(synthetic fiber)という。
天然繊維のうち、植物からとれるもの(たとえば綿や麻など。主成分はセルロースなど)を'''植物繊維'''(plant fiber)といい、動物から取れるもの(羊毛や絹など。主成分はタンパク質。絹とはカイコから取れる繊維。)を'''動物繊維'''(animal fiber)という。
=== 具体例 ===
* 木綿
木綿(もめん、cotton)は、植物のワタから取れる植物繊維であり、主成分はセルロースである。木綿は、繊維の内部に中空部分があり、吸湿性が高い。
* 絹
絹は、カイコガのまゆから取り出される繊維である。絹の主成分と構造は、フィブロインというタンパク質を、セリンと呼ばれるタンパク質がくるんだ構造である。
* 羊毛
羊毛の主成分はケラチンである。
羊毛は、動物繊維であり、主成分はケラチンである。羊毛の表皮が鱗(うろこ)状で、クチクラ(キューティクル)と呼ばれる構造である。
羊毛は、伸縮性が大きく、また、水をはじく撥水性(はっすいせい)がある。羊毛は保温性があるので、毛布やコートなどに使われる。
羊毛や絹はタンパク質であるので、キサントプロテイン反応を呈する。
=== 化学繊維 ===
合成繊維や、天然繊維を溶媒に溶かしたり化学反応させたりと化学的に処理させたものなど、素材の合成に化学的な処理を必要とする繊維を'''化学繊維'''という。
天然繊維を溶媒に溶かしたのち、再び繊維に戻したものを'''再生繊維'''(regenerate fiber)という。セルロースの再生繊維はレーヨンと呼ばれ、レーヨンにはビスコースレーヨンと銅アンモニアレーヨンがある。
いっぽう、天然繊維を化学的に処理して組成を変化させたものは'''半合成繊維'''という。半合成繊維としては、たとえばアセテート繊維がある。
== 酵素 ==
ある種のタンパク質には触媒の働きを持つものがある。この触媒として機能するタンパク質を'''酵素'''(enzyme)という。酵素は、無機触媒や金属触媒とは、異なる性質をもつ。酵素は、ある特定の物質にしか作用しない。これを'''基質特異性'''(substrate specificity)という。そして酵素が作用する物質および分子構造を'''基質'''(substrate)という。
酵素には、基質と立体的にむすびつく'''活性部位'''(active site)があるため、このような反応が起こる。活性部位のことを、'''活性中心'''(active center)ともいう。
[[File:酵素基質複合体 模式図.svg|thumb|600px|center|酵素基質複合体の模式図]]
たとえば、だ液にふくまれるアミラーぜはデンプンを加水分解するが、タンパク質を加水分解できない。酵素インペルターゼはスクロースの加水分解にしか作用せず、マルトースやラクトースなどの他の二糖類にはインペルターゼは作用しない。また、マルターゼは、マルトースにしか作用しない。
=== 失活 ===
また、酵素はタンパク質であるので、タンパク質が変性する状況では、酵素はその能力を失う。熱変性などで、タンパク質が修復不可能になると、酵素の触媒能力もまた修復不可能となり、酵素を冷却しても、もはや触媒として機能しなくなる。このように酵素が触媒としての能力を失って、もはや酵素ではなくなったことを'''失活'''(deactivation)という。
=== 最適温度 ===
酵素の触媒作用が最も働く温度を'''最適温度'''という。酵素にもよるが、動物の体温に近い、35℃から40℃といった温度である。
50℃以上など、これらより高温では熱変性で酵素の構造が破壊される。最適温度より低温にした場合は、低温の間は酵素としての作用が弱まるが、適温に戻すと、再び酵素としての触媒能力を取り戻す。
低温で酵素としての能力を失うことは一般には失活とは呼ばない。
=== 最適pH ===
[[File:酵素と最適pH.svg|thumb|300px|酵素と最適pH]]
酵素には、その場所のpHによって、触媒の働きの反応速度が変わる。もっとも酵素が働くpHを'''最適pH'''(optimum pH)という。
最適pHの値の傾向は、酵素の種類にもよるが、おおむねpH6~8といった、中性付近か、弱酸性の付近で、もっともよく働く。たとえばアミラーゼはpH6~7の付近が最適pHである。すい臓の中で働く酵素のトリプシンはpH8の弱い塩基性が最適pHである。
なお、胃酸の中で働く酵素の'''ペプシン'''は最適pHがpH2の付近の強い酸性である。このpH2は、胃液のpHに近い。このように、酵素は、その酵素が働く環境下に近いpHで、よく働く性質になっている場合が多い。
== 核酸 ==
細胞には'''核酸'''という高分子化合物が存在し、これは遺伝情報を担っている。
リン酸、ペントース、有機塩基が結合した化合物を'''ヌクレオチド'''という。
[[ファイル:DAMP chemical structure.svg|中央|サムネイル|ヌクレオチド]]
また、ペントースと有機塩基が結合した化合物を'''ヌクレオシド'''という。
[[ファイル:Phosphodiester Bond Diagram.svg|サムネイル|ヌクレオチドの結合]]
核酸はヌクレオチドのペントースの3位の -HO とリン酸の -OH の部分が縮合重合したポリヌクレオチドである。
核酸には、リボ核酸 RNA と デオキシリボ核酸 DNA の2種類が存在する。核酸を構成するペントースの部分が、RNAはリボース <chem>C5H10O5</chem>、DNAはデオキシリボース <chem>C5H10O4</chem> である。
[[ファイル:Pentozi nukleotid.svg|中央|サムネイル|リボース(左) デオキシリボース(右)]]
RNAを構成する有機塩基はアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(C)の4種類である。DNAはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種類である。
[[ファイル:Main nucleobases.png|中央|サムネイル|400x400ピクセル]]
=== DNAの構造 ===
[[ファイル:DNAの並び方.png|サムネイル|DNAの並び方]]
DNAはアデニン(A)とチミン(T)、グアニン(G)とシトシン(C)が水素結合によって、2本のポリヌクレオチドが合わさった'''二重らせん構造'''をとっている。
[[ファイル:Base_pair_GC.svg|左|サムネイル|水素結合。 DNAにおける2つの塩基対の内の1つであるグアニンとシトシン間の水素結合。]]
{{-}}
[[ファイル:DNA_animation.gif|右|サムネイル|DNAの立体構造]]
=== DNAの働き ===
DNAの働きは、主にタンパク質の設計図となることと、遺伝情報を子孫に伝えることである。
DNAの遺伝子の働きかたを決める要因は、塩基の並び方で決定される。この塩基の並び方で、細胞で合成されるタンパク質が異なるため、DNAはタンパク質の設計図となっている。
DNAは、細胞核の中で、RNAをつくる。RNAの情報は、DNAの情報を元にしている。RNAは、核の外に出ていきリボソームと結合し、消化器官で食品のタンパク質から分解・吸収したアミノ酸を材料にして、 RNAの塩基配列に従ってアミノ酸をつなぎかえることで、タンパク質を作っている。
[[Category:高等学校化学]]
[[Category:高等学校教育]]
[[Category:化学]]
3w13lv3ll45kp23y7bcsbh6f8n927r5
高等学校化学II/化学反応の速さ
0
18203
206955
198503
2022-08-22T08:40:30Z
Nermer314
62933
/* アレニウスの式 */
wikitext
text/x-wiki
== 活性化エネルギー ==
[[File:ヨウ化水素の活性化エネルギー.svg|thumb|350px|ヨウ化水素による活性化エネルギーの説明]]
[[File:Activation energy ja.svg|right|thumb|300px|活性化エネルギーの概念図。図中の値の大小関係は、本文中のものとは違うので注意。]]
たとえば、ヨウ化水素HIの生成の反応、つまり、ヨウ素Iと水素Hを容器に入れて高温にして起こす反応では、
<math> H_2 + I_2 \rightarrow 2HI </math>
では、なにも熱を加えない常温のままだと、反応は起こらない。また結合エネルギーの和は、左辺の<math> H_2 + I_2 </math>のほうが右辺の2HIの和より大きい。エネルギー的にはエネルギーの低いほうが安定なので、2HIのほうが安定なはずなのに、熱を加えないと、反応が始まらないのである。
この状態から察するに、化学反応をする原子は、もとの分子よりエネルギーの高い状態を経由する必要がある。
たとえば、ヨウ化水素の生成の反応
<math> H_2 + I_2 \rightarrow 2HI </math>
では、解離エネルギーにより推測される必要なエネルギーと、実際の反応に要するエネルギーが一致しない。解離エネルギーを考えると、
<math> H_2 + 432 kJ \rightarrow H + H </math>
<math> I_2 + 149 kJ \rightarrow I + I </math>
により、合計で432 + 149 = 581 kJ のエネルギーが必要だと推測できる。しかし、実際の反応でのエネルギーは、そうではない。
HIの2molの生成でも、必要なエネルギーは348 kJ が必要であり、これは、解離エネルギーの和の581 kJよりも小さい。なお、この場合のヨウ化水素の反応温度は、およそ400℃である。348kJを1molあたりに換算すると、174 kJ/molである。
以上のような実験結果から、実際の反応では、分子は解離状態を経由しないと考えられている。代わりに経由するのは、「活性化錯体」(かっせいか さくたい)という状態であり、高温などのエネルギーを与えた状態の間のみに生じる、反応分子どうしの複合体である'''活性化錯体'''という複合体を経由して、そこから結合相手を変えて反応式右辺の生成物(この場合はHI)を生じる反応が行われていると考えられる。
この反応物と生成物との中間の状態を'''活性化状態'''(かっせいか じょうたい)と言い、その活性化状態にするために必要なエネルギーを'''活性化エネルギー'''(かっせいかエネルギー)という。反応が起こるためには、活性化エネルギー以上のエネルギーが分子に加わる必要がある。
「活性化状態」のことを「遷移状態」ともいう。
=== 触媒 ===
過酸化水素水<math> H_2O_2 </math>は、そのままでは、常温では、ほとんど分解せず、ゆっくりと分解する。
<math> H_2O_2 \rightarrow 2 H_2 O + O_2 </math>
しかし、少量の二酸化マンガンを加えると、分解は速まり、酸素の発生が激しくなる。そして、二酸化マンガンの量は、反応の前後では変化しない。この二酸化マンガンのように、自身は量が変化せず、反応の速度を変える働きのある物質を'''触媒'''(しょくばい)という。
触媒では、反応熱は変わらない。
この二酸化マンガンのように反応速度を上げるものを正触媒(せいしょくばい)という。また、反応速度を下げる触媒を負触媒(ふしょくばい)という。ふつう、「触媒」といったら、正触媒のことを指すことが多い。
正触媒で反応速度が増えるのは、一般に、触媒の表面では、触媒の吸着力により、もとの結合が弱められ、そのため、反応物の活性化錯体を作るエネルギーが減少し、したがって原子の組み換えをするためのエネルギーが減少したことから活性化エネルギーが減少するからである。
{{clear}}
[[File:触媒とヨウ化水素の活性化エネルギー.svg|thumb|350px|ヨウ化水素の反応における、触媒と活性化エネルギーの関係。]]
ヨウ化水素の場合、白金が触媒になる。白金があると、ヨウ化水素の反応での活性化エネルギーが小さくなる。また、活性化エネルギーが小さくなったため、反応も速くなる。触媒があっても、反応熱は変化しない。
一般に、(正触媒)触媒によって、活性化エネルギーが小さくなれば、反応速度は速くなる。一般に、触媒では、反応熱は変わらない。
== 反応の速さ ==
化学反応の反応速度は、注目した物質の濃度変化の速度で定式化する。反応物に注目するか生成物に注目するかで式は変わる。反応速度で濃度に着目するときは、モル濃度の変化速度で考えるのが一般である。
ある物質Aの反応物のモル濃度の前後を反応前は濃度[A]_1だとして反応後は濃度[A]_2だとして、生成物の濃度変化は、
ΔC<sub>A</sub>=[A]_2-[A]_1
であり、反応時間をΔtとすると、濃度変化の速度vは、(「反応速度」ではなく、「濃度変化の速度」と言ってることに注意。)
<math> v=-\frac{\Delta C_A}{\Delta t} </math>
となる。符号にマイナスがついているのは、一般に化学反応の反応速度はプラスで表すことが多いので、そのためである。
では、反応速度について考えよう。
具体的にヨウ化水素HIを、水素とヨウ素から生成する反応で考えてみよう。
<math> H_2 + I_2 \rightarrow 2HI </math>
この場合、注目する物質が3種類あるので、「濃度」変化の速度の定義には、三通りの定義の仕方が生じる。物質によって、「反応速度」が違ってしまうと不便なので、そういうことが無くなるように、定義式で化学反応式の係数の逆数を濃度変化速度に掛けるのが一般である。
また、右辺の生成物では符号の係数をプラスにし、左辺の反応物では符号の係数をマイナスにする。
つまり、以上をまとめると、このHIの反応での3種類の物質の反応速度vの定義式は以下のようになる。
<math> v=-\frac{\Delta [H_2]}{\Delta t}=-\frac{\Delta [I_2]}{\Delta t}=\frac{1}{2} \frac{\Delta [HI]}{\Delta t} </math>
なお、反応速度の単位には[mol/(l・分)]を用いるのが一般である。
以上は反応速度の定義式であった。
つぎに、実際の化学反応で、反応速度を性質を考えよう。まず、ヨウ化水素HIの生成の例で考えよう。水素[H]とヨウ素[I]の濃度を色々変えて実験された結果、次の結果が、実際の測定でも確認されている。
反応速度vは、左辺の反応物<math> [H_2] </math>と<math> [I_2] </math>の濃度に比例する。つまり、
<math> v=k[H_2][I_2] </math>
である。ただしkは、反応速度の比例定数。(このkは物理で使うボルツマン定数<math> k_B </math> とは違うので混同しないように)
この式の意味を考えてみれば、反応が起こるには、反応に必要な物質どうしが接触または衝突することが必要なのであろうということが想像できる。
他の物質の化学反応の場合も考慮して、反応速度の一般の式を求めよう。
a[A]+b[B] +c[C]+ ・・・・ → x[X]+y[Y]+・・・・
となるとき、ほとんどの物質で、反応速度は次の式で表される。(「ほとんど」というように例外もある。例外の場合は後述する。まずは一般の場合から学習してほしい。)反応速度は、
<math> v=k [A]^a \cdot [B]^b \cdot [C]^c </math>
となる。
反応速度の式で、係数のaを[A]に乗じたりしているのは、たとえばa=3のときには、反応式
3[A] + b[B] ・・・・ → x[X]+y[Y]+・・・・
の式は、以下のように、
[A] + [A] + [A] + b[B] ・・・・ → x[X]+y[Y]+・・・・
のように書けるからである。
==== 多段階反応と律速段階 ====
上記のような例に従わない場合の、代表的な例として<math> N_2O_5 </math>がある。この物質の反応の仕組みも解明されているので、これを説明する。まず<math> N_2O_5 </math>の反応式は、
<math> 2N_2O_5 \rightarrow 2N_2O_4 + O_2 </math>
である。式から推定した反応速度vは、
<math> v=k [N_2O_5]^2 </math>
である。しかし、実際の反応速度を測定した結果は、
<math> v=[N_2O_5] </math>
である。
では、次にこの謎を解明しよう。
じつは、<math> N_2O_5 </math> から<math> N_2O_4 </math> が生成される反応は、ひとつの反応では無いのである。
以下に示すような順序で、4個の反応が行われているのである。
<math> N_2O_5 \rightarrow N_2O_3 + O_2 </math> ・・・・(1)
<math> N_2O_3 \rightarrow NO + NO_2 </math> ・・・・(2)
<math> N_2O_5 + NO \rightarrow 3NO_2 </math> ・・・・(3)
<math> 2NO_2 \rightarrow N_2O_4 </math> ・・・・(4)
この一つ一つの反応を'''素反応'''(そはんのう)という。また、<math> N_2O_5 </math>の反応のように、複数の素反応からなる反応を'''多段階反応'''という。
式(1)の左辺の反応物と式(4)の右辺の生成物を見ると、<math> N_2O_5 </math> と <math> N_2O_4 </math>がある。これが反応速度の謎の正体である。
式(1)から式(2)、式(3)、式(4)のそれぞれの反応速度を、反応式から推定すると、
<math> N_2O_5 \rightarrow N_2O_3 + O_2 </math> ・・・・(1) <math> v_1 = k_1 [N_2O 5] </math>
<math> N_2O_3 \rightarrow NO + NO_2 </math> ・・・・(2) <math> v_2 = k_2 [N_2O_3] </math>
<math> N_2O_5 + NO \rightarrow 3NO_2 </math> ・・・・(3) <math> v_3 = k_3 [N_2O_5] [NO] </math>
<math> 2NO_2 \rightarrow N_2O_4 </math> ・・・・(4) <math> v_4 = k_4 [NO_2]^2 </math>
となる。実験の結果では、4つの素反応の中で、もっとも反応速度が小さいのは式(1)の反応であることが知られている。このように、多段階反応では、もっとも反応速度が遅い反応によって、全体の反応速度が決まる。
全体の反応を決定する素反応を'''律速段階'''(りっそくだんかい)という。
=== 反応速度を変える条件 ===
* 温度の影響
温度が増えると、常温付近では、だいたい10℃あがるごとに、反応速度が2倍から3倍程度になる。
この理由は、温度が増えると、活性化エネルギー以上のエネルギーをもつ分子が増えるからである。
* 触媒の影響
触媒もまた、反応速度を変える。前の節で既に記述したので、必要ならば参照のこと。
=== アレニウスの式 ===
化学者のアレニウスが、多くの物質の反応速度と温度との関係を調べた結果、実験法則として、以下の関係式が分かった。
反応速度定数kは、活性化エネルギーを<math> E_a </math>絶対温度をTとすると、以下の式で表される。
<math> k=A e^{\frac{-E_a}{RT}} </math>
ここで、Rは気体定数、eはネイピア数である。
この実験式を'''アレニウスの式'''という。
==== 分子運動論によるアレニウスの式の解釈 ====
アレニウスの式の意味は、状態方程式を用いて、分子運動論的に、これを解釈できる。(高等数学などを用いた、より詳細な分子運動論の解明が、マクスウェルやボルツマンらによってなされたが、高校レベルを超えるので、それは省く。)
まず、ここでは高校レベルの気体分子運動論を用いた説明をする。
状態方程式 PV=nRT を用いよう。これを位置エネルギーの概念と組み合わせる。(ここでエネルギーと組み合わせて説明するのは、化学では、結合エネルギーやイオン化エネルギーなど、エネルギーを用いるので、それと組み合わせて説明しようという思惑が、我々にはあるということを、読者は念頭に置こう。)
空気中で、圧力と位置エネルギーの概念を組み合わせると、気圧による重さの概念が出てくる。
気圧とはその上にある空気の重さによる圧力および力のことだから、高さがΔhだけ上昇したときの気圧の変化ΔPは
ΔP = -ρg Δh
である。
右辺にマイナスの符号がつくのは、標高が高くなるほど気圧が下がるからである。
いっぽう、気体の状態方程式 PV=nRTは、ボルツマン定数k_Bを用いれば
<math>PV=N K_B T </math>
に書き換えられる。ボルツマン定数は高校物理(3年生の程度)で習うので、物理を参照のこと。ボルツマン定数を知らなければ、ここでは、とりあえず、普遍気体定数Rが、分子1molあたりの温度と圧力と圧力の関係式の係数だったのに対し、ボルツマン定数は分子1個あたりの関係式の係数と思っておけば良い。
上式で、nは空気分子のモル数[mol]であり、Nは空気分子の粒子数、k_Bはボルツマン定数とする。
状態方程式を圧力の方程式 ΔP = -ρg Δh と連立させるため、状態方程式を式変形して、密度の方程式にしよう。空気分子1個あたりの質量をmとすると、
<math> P = (N/V) k_B T = (Nm/V) k_B T /m </math>
密度ρは
ρ = Nm/V
だから、圧力を密度を用いて表せば、
P = ρkT/m
である。
さて、以降の説明では高さhが変わっても絶対温度は T= (一定) とする。
気圧Pが標高で変わるように、P,n,N、ρは高さhの関数である。従って、関数で有ることが分かるように、
P(h) [Pa] , n(h) [mol] ,N(h) 、 ρ(h) [g/m^3] などと書こう。
<math> P(h)V = n(h)RT = N(h) k_B T </math>
気圧の変化式 ΔP = -ρg Δh と状態方程式 <math> P(h)V=n(h)RT=N(h) k_B T </math> で割って連立して、
<math> \frac{\Delta P}{P} = \frac{-\rho g \Delta h}{\rho k_B T/m} = \frac{-mg \Delta h}{k_B T} </math>
となる。よって
<math> \frac{\Delta P}{P} = \frac{-mg \Delta h}{k_B T} </math>
ここで T= (一定) に注意して、上式を積分して解くと、
<math> P = Ce^{-mg \Delta h/(k_B T)} </math>
・・・ただしCは積分定数であり任意定数。
となる。
高さ h=0 での気圧を P(0) とすれば、高さhでの気圧P(h)は、
<math> P(h) = P(0) e^{ \frac{-mg \Delta h}{k_B T} } </math>
となる。この式により、圧力を測ることで、高さを算出できるので、この式を測高公式という。
実際に、気圧を用いて標高を簡易的に測る標高計や高度計などの測定器は実在する。
さて、我々の思惑は化学反応のアレニウスの式
<math> k=A e^{\frac{-E_a}{RT}} </math>
である。まだ、測高公式で終わりではない。
この式と、個数あたりに変形した状態方程式<math> PV = N k_B T </math>により
<math> \frac{P(h)}{P(0)} = \frac{N(h)k_B T / V}{N(0)k_B T/V} = \frac{N(h)}{N(0)} = e^{\frac{-mg \Delta h}{k_B T}} = e^{\frac{-mg (h-0)}{k_B T}}=e^{\frac{-mg h)}{k_B T}} </math>
となり、上式の途中の式変形を省いてまとめると、
<math> \frac{P(h)}{P(0)} = e^{\frac{-mg h}{k_B T}} </math>
となる。だいぶ、アレニウスの式に近づいたが、まだアレニウスの式ではない。
圧力の比の式を、分子数の比の式 N(h)/N(0) に変える必要がある。または密度の比 ρ(h)/ρ(0)であっても良い。
空気分子の比は、
<math> \frac{N(h)}{N(0)} = e^{\frac{-mg h}{k_B T}} </math>
となる。ここで、読者は、上式で、空気分子数の比は、空気分子の存在確率の比でもある、と考えなさい。
つまり,空気分子の存在確率を pr とすると、確率prは<math> e^{\frac{-mg h}{k_B T}} </math>に比例する。
そして、上式は、空気分子のエネルギー状態に対する、その存在確率の公式だと、考えなさい。
つまり mgh を位置エネルギー E=mgh とおいて、
pr ∝ <math> e^{-\frac{E}{k_B T}} </math>
と、考えるのである。
<math> e^{-\frac{E}{k_B T}} </math> のことを、'''ボルツマン因子'''という。
さて、物理現象には、「温度が高くなるほど、○○が増える」という現象が、いろいろと存在する。
これらの他の現象にも、ボルツマン因子の考え方は適用でき、多少の式変形を伴うが、実は物理学や化学の色々な関係式で、ボルツマン因子が活用できることが分かっている。
化学反応におけるアレニウスの式も、その一つであることが分かっている。
実際に式変形をすると、ボルツマン因子の
<math> e^{-\frac{E}{k_B T}} </math>
のエネルギーEを活性化エネルギー<math> E_a </math>にして、式中の指数の分母のボルツマン定数
<math> k_B </math>
を代わりに普遍気体定数Rにすれば、アレニウスの式の指数部分と同じになる。なお、アレニウスの式は
<math> k=A e^{-\frac{E_a}{RT}} </math>
で、あった。このkは反応速度係数であり、ボルツマン定数では無いので、混同しないように注意。
;備考
歴史的には、アレニウスはボルツマンの研究とは独立して、さまざまな実験結果を整理することから、アレニウスの式を発見した。
また、ボルツマンがボルツマン因子を発見したのは、物理学者マクスウェルらによる気体分子運動論の理論を発展させた結果からであって、べつに上式のように状態方程式から発見したのでは無い。
また大学教育では、教員らが学生への教育で、マクスウェルらが用いた数学的な手法を、先に学生に教育したいという教育的な都合によって、紹介が省かれる場合も有る。
そのような理由から、大学レベルの物理の書籍では、測高公式によるボルツマン因子の定式化を紹介しない場合もある。
もっとも紹介しない本があると言っても、紹介してる学術書も有る由緒ある考え方なので心配なく学習して良い。
たとえば、米国の著名な物理学者ファインマンによる彼の物理の書籍<ref>ファインマン、『ファインマン物理学〈2〉光・熱・波動』、岩波書店</ref>でも、測高公式による確率的な考え方は、紹介されている。
なお物理学の計算では、計算の簡略化のため、<math> \beta = 1/(k_B T) </math> と置いて、ボルツマン因子を
<math> e^{(-\beta E)} </math>
とも、あらわす場合もある。この場合、<math> \beta </math>は温度<math> T </math>の関数になる。
== 脚注 ==
<references />
[[Category:高等学校化学]]
[[Category:高等学校教育]]
[[Category:化学]]
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中学校社会 地理/世界と比べてみた日本 工業
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/* 世界の工業と日本の工業 */
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text/x-wiki
日本の工業
== 世界の工業と日本の工業 ==
日本の工業技術はアメリカやドイツともならび、世界でも有数の高度な工業技術を持った工業国である。
しかし、近年では大韓民国や中華人民共和国、東南アジア諸国でも工業化が進んでいる。中国など、これら新興の工業国は、賃金の安さを利用して、多くの仕事を取って、工業製品を生産をしている。
そのため、いくつかの業種では、日本から工場がほとんどなくなる産業の空洞化が進んだ。
新興工業国の賃金の安い国の工業に対抗するため、ヨーロッパやアメリカ、日本など前々から工業国だった国は、技術力の高い製品を開発して新興工業国では作れない製品を生産し、差別化を図っている。
また、先進工業国どうしでも工業の競争がある。中国や東南アジアなどの賃金の安い国に、日本やアメリカやドイツなど工業先進国が工場を進出させるのも、より安い価格で製品をつくることで先進工業国どうしの経済競争に勝つためである。このため、中国や東南アジアの工場は、新興の工業国と言っても、ヨーロッパ企業や日本企業、アメリカ企業など先進工業国の企業の支援を受けており、新興工業国の工場の技術力は高い場合もある。
日本で工業が盛んな地域は、主に太平洋側の平野部に多い。関東地方の太平洋側から、瀬戸内海、北九州にかけての地帯で工業がさかんであり、これらの地帯をまとめて '''太平洋ベルト''' と呼ばれている。
日本では、1970年ごろから、工業の国際競争が厳しさを増し、そのため、単純な技術で作られる製品の工場は、賃金の安い海外に移っていった。
日本の製造業では、石油危機の反省から、省エネルギー化の研究開発が進み、省エネ製品が増えた。
* 工業地帯
{{ruby|太平洋|たいへいよう}}ベルトとよばれる日本列島の太平洋側の臨海部に多い工業地帯を中心に、明治時代の工業は発展してきた。太平洋ベルトの中にある、 <span style="color:Brown"><big>{{ruby|中京|ちゅうきょう}}</big></span>工業地帯 と <span style="color:Brown"><big>阪神</big></span>(はんしん)工業地帯 と <span style="color:Brown"><big>{{ruby|京浜|けいひん}}</big></span>工業地帯 を現在では、 <span style="color:Brown"><big>{{ruby|三大工業地帯|さんだいこうぎょうちたい}}</big></span> という。
中京工業地帯は愛知県の名古屋を中心とした工業地帯である。阪神工業地帯は大阪や兵庫を中心とした工業地帯である。京浜工業地帯は、東京や神奈川を中心とした工業地帯である。
生産額は中京工業地帯が最も多く、ついで阪神が2番目の生産額で、京浜は3番目の生産額である<ref>工業地域まで含めると、京浜工業地帯は瀬戸内工業地域・北関東工業地域に次ぐ、第五位となっている。</ref>(2019年)。
昔は北九州をふくめて中京・阪神・京浜・北九州を{{ruby|四大工業地帯|よんだい こうぎょうちたい}}と言ってきた。しかし、近年、北九州の生産量が落ちてきているので、北九州をはずして、中京・阪神・京浜を三大工業地帯と呼んでいる。
== 工業の変化の歴史 ==
日本では、第二次世界大戦の前までは、天然繊維の製品の輸出などの繊維工業が日本の主要な工業であった。
しかし戦後、朝鮮戦争による特需景気を日本経済は経験したあと、賃金の安い中国(中華人民共和国)や東南アジアなどの外国に工場を移転させたことやナイロンなどの化学繊維の発明によって、繊維工業の割合は低下した。
:※ 朝鮮戦争の「特需」(とくじゅ)とは、朝鮮戦争のときに日本がアメリカ軍から大量の物資の注文をうけたために日本が好景気になったことである。
::(※ 中学社会科の歴史分野でも第二次世界大戦後の歴史の分野で「特需」について習うので、深入りしなくていい。)
1960年代の高度経済成長のころから、機械工業がさかんになった(電子機械もふくむ)。
2014年の現在でも軽工業のなかでは機械工業がさかんである。自動車などの輸送用機械の生産が、機械工業の中ではもっとも多い(2014年)。
* {{ruby|加工貿易|かこう ぼうえき}}
日本には、資源が乏しく、外国から原料などを多く輸入している。
このように外国から原料を輸入し、日本国内で加工して工業製品にして、その工業製品を外国に輸出することで外貨をかせぐ貿易の方法を <span style="color:Brown"><big>加工貿易</big></span> という。日本にとって、加工貿易は外貨を獲得したり、工業力を発展させるたりするためにも必要な方法である。
なお、現在では、日本国内で製品を作るだけでなく、アメリカなど外国にも日本企業の工場が進出しており、現地の国の人などを雇って生産して、その地域の消費者に販売している。ヨーロッパでも同様に、日本企業の工場などが進出しており、現地生産している。
* 産業の空洞化
日本からも、人件費の安い外国(東南アジアなど)に生産工場をうつす動きがあるが、その結果、国内の工場の仕事が減り、国内の生産力が下がるという「産業の空洞化」が起きている。
また、外国に工場を作ると、日本国内の工場でつちかわれた生産ノウハウも外国の労働者に教えることになるので、外国に技術ノウハウが流出するという {{ruby|技術流出|ぎじゅつ りゅうしゅつ}}も、問題になっている。
== 用語 ==
=== 重工業と軽工業 ===
* {{ruby|重工業|じゅうこうぎょう}}
製鉄業や造船業などのように、大きな設備で、とても重い製品をつくる工業を <big>{{ruby|重工業|じゅうこうぎょう}}</big>という。自動車産業や精密機械、電子機械も、重工業に含める。
石油の精製などをつうじて、プラスチックや薬品などを作る工業を化学工業という。重工業と合わせて、 {{ruby|重化学工業|じゅうかがくこうぎょう}} と言う。
* {{ruby|軽工業|けいこうぎょう}}
繊維工業や食品産業や印刷業などのように、比較的、軽い製品を作る工業を <big>軽工業</big>という。
日本の工業の{{ruby|内訳|うちわけ}}は、重化学工業が 約70% である(2008年)。軽工業は 約30% である。
1960年代の高度経済成長のころから、重化学工業がさかんになり、2014年の現在でも重化学工業が大きな割り合いを占める。
==注==
<references/>
[[Category:中学校地理|せかいとくらへてみたにほん こうきよう]]
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/* 世界の工業と日本の工業 */
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text/x-wiki
日本の工業
== 世界の工業と日本の工業 ==
日本の工業技術はアメリカやドイツともならび、世界でも有数の高度な工業技術を持った工業国である。
しかし、近年では大韓民国や中華人民共和国、東南アジア諸国でも工業化が進んでいる。中国など、これら新興の工業国は、賃金の安さを利用して、多くの仕事を取って、工業製品を生産をしている。
そのため、いくつかの業種では、日本から工場がほとんどなくなる産業の空洞化が進んだ。
新興工業国の賃金の安い国の工業に対抗するため、ヨーロッパやアメリカ、日本など前々から工業国だった国は、技術力の高い製品を開発して新興工業国では作れない製品を生産し、差別化を図っている。
また、先進工業国どうしでも工業の競争がある。中国や東南アジアなどの賃金の安い国に、日本やアメリカやドイツなど工業先進国が工場を進出させるのも、より安い価格で製品をつくることで先進工業国どうしの経済競争に勝つためである。このため、中国や東南アジアの工場は、新興の工業国と言っても、ヨーロッパ企業や日本企業、アメリカ企業など先進工業国の企業の支援を受けており、新興工業国の工場の技術力は高い場合もある。
日本で工業が盛んな地域は、主に太平洋側の平野部に多い。関東地方の太平洋側から、瀬戸内海、北九州にかけての地帯で工業がさかんであり、これらの地帯をまとめて '''太平洋ベルト''' と呼ばれている。
日本では、1970年ごろから、工業の国際競争が厳しさを増し、そのため、単純な技術で作られる製品の工場は、賃金の安い海外に移っていった。
日本の製造業では、石油危機の反省から、省エネルギー化の研究開発が進み、省エネ製品が増えた。
* 工業地帯
太平洋ベルトとよばれる日本列島の太平洋側の臨海部に多い工業地帯を中心に、明治時代の工業は発展してきた。太平洋ベルトの中にある、中京工業地帯 と阪神工業地帯 と京浜工業地帯 を現在では、 <span style="三大工業地帯という。
中京工業地帯は愛知県の名古屋を中心とした工業地帯である。阪神工業地帯は大阪や兵庫を中心とした工業地帯である。京浜工業地帯は、東京や神奈川を中心とした工業地帯である。
生産額は中京工業地帯が最も多く、ついで阪神が2番目の生産額で、京浜は3番目の生産額である<ref>工業地域まで含めると、京浜工業地帯は瀬戸内工業地域・北関東工業地域に次ぐ、第五位となっている。</ref>(2019年)。
昔は北九州をふくめて中京・阪神・京浜・北九州を{{ruby|四大工業地帯|よんだい こうぎょうちたい}}と言ってきた。しかし、近年、北九州の生産量が落ちてきているので、北九州をはずして、中京・阪神・京浜を三大工業地帯と呼んでいる。
== 工業の変化の歴史 ==
日本では、第二次世界大戦の前までは、天然繊維の製品の輸出などの繊維工業が日本の主要な工業であった。
しかし戦後、朝鮮戦争による特需景気を日本経済は経験したあと、賃金の安い中国(中華人民共和国)や東南アジアなどの外国に工場を移転させたことやナイロンなどの化学繊維の発明によって、繊維工業の割合は低下した。
:※ 朝鮮戦争の「特需」(とくじゅ)とは、朝鮮戦争のときに日本がアメリカ軍から大量の物資の注文をうけたために日本が好景気になったことである。
::(※ 中学社会科の歴史分野でも第二次世界大戦後の歴史の分野で「特需」について習うので、深入りしなくていい。)
1960年代の高度経済成長のころから、機械工業がさかんになった(電子機械もふくむ)。
2014年の現在でも軽工業のなかでは機械工業がさかんである。自動車などの輸送用機械の生産が、機械工業の中ではもっとも多い(2014年)。
* {{ruby|加工貿易|かこう ぼうえき}}
日本には、資源が乏しく、外国から原料などを多く輸入している。
このように外国から原料を輸入し、日本国内で加工して工業製品にして、その工業製品を外国に輸出することで外貨をかせぐ貿易の方法を <span style="color:Brown"><big>加工貿易</big></span> という。日本にとって、加工貿易は外貨を獲得したり、工業力を発展させるたりするためにも必要な方法である。
なお、現在では、日本国内で製品を作るだけでなく、アメリカなど外国にも日本企業の工場が進出しており、現地の国の人などを雇って生産して、その地域の消費者に販売している。ヨーロッパでも同様に、日本企業の工場などが進出しており、現地生産している。
* 産業の空洞化
日本からも、人件費の安い外国(東南アジアなど)に生産工場をうつす動きがあるが、その結果、国内の工場の仕事が減り、国内の生産力が下がるという「産業の空洞化」が起きている。
また、外国に工場を作ると、日本国内の工場でつちかわれた生産ノウハウも外国の労働者に教えることになるので、外国に技術ノウハウが流出するという {{ruby|技術流出|ぎじゅつ りゅうしゅつ}}も、問題になっている。
== 用語 ==
=== 重工業と軽工業 ===
* {{ruby|重工業|じゅうこうぎょう}}
製鉄業や造船業などのように、大きな設備で、とても重い製品をつくる工業を <big>{{ruby|重工業|じゅうこうぎょう}}</big>という。自動車産業や精密機械、電子機械も、重工業に含める。
石油の精製などをつうじて、プラスチックや薬品などを作る工業を化学工業という。重工業と合わせて、 {{ruby|重化学工業|じゅうかがくこうぎょう}} と言う。
* {{ruby|軽工業|けいこうぎょう}}
繊維工業や食品産業や印刷業などのように、比較的、軽い製品を作る工業を <big>軽工業</big>という。
日本の工業の{{ruby|内訳|うちわけ}}は、重化学工業が 約70% である(2008年)。軽工業は 約30% である。
1960年代の高度経済成長のころから、重化学工業がさかんになり、2014年の現在でも重化学工業が大きな割り合いを占める。
==注==
<references/>
[[Category:中学校地理|せかいとくらへてみたにほん こうきよう]]
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中学校社会 歴史/平安時代
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/* 平安時代 */
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text/x-wiki
== 平安時代 ==
~<big>貴族がさかえた時代</big>~<br>
[[ファイル:Miniature Model of Rajomon.jpg|260px|thumb|left|平安京の羅城門(らじょうもん)の復元模型(京都文化博物館)]]
[[File:Emperor Kammu large.jpg|thumb|200px|桓武天皇(かんむ てんのう)<br>唐(とう、※ 中国)の服装をしている様子が描かれています。]]
かつての天平文化の仏教保護の政策などにより、仏教の僧や寺院の影響力が強くなる。
ちの天皇や朝廷は、これらの仏教勢力を嫌がり、そのため、<big>桓武天皇</big>(かんむ てんのう)により、寺院の多い現在でいう奈良県から京都府へと都をうつす。まず784年に京都府の 長岡京(ながおかきょう) にうつす。さらに794年に京都府の <span style="color:red"><big>平安京</big></span>(へいあんきょう) にうつす。
[[画像:HeiankyouMapJapanese.svg|900px]]
奈良から平安京への寺院の移転は禁止されます。
他にも、社会の変化で、もはや、公地公民による昔(むかし)の政治が上手くいかなくなり、政治のしかたを改める必要もあったのだろう。
平安京に都を移してから約400年間は、政治の中心地は平安京だったので、この時代を <span style="color:red"><big>平安時代</big></span>(へいあんじだい) という。
くわしくいうと、後に1192年に武士である源頼朝が権力をにぎる鎌倉幕府(かまくら ばくふ)ができますが、794年から1192年までを平安時代と言うことが多い。
なお、平安時代より、あとの武士による政治の時代になっても、都は平安京のままです。明治時代に東京に都が移るまでは、平安京が日本の都でした。平安京のつくりは、唐の都である 長安(ちょうあん) を、参考(さんこう)にしています。
桓武天皇は、公地公民が上手くいかない理由の一つである、税負担の重さに改革の手をつけます。
税負担の重さを減らしました。雑徭(ぞうよう)の日数を60日から30日に減らします。6年ごとに見直してた区分田に支給を、12年ごとに変えました。
(※ 中学の範囲外:) また、国司に対する監督をきびしくするため、勘解由使(かげゆし)という役人を置きました。(※ 検定教科書では、単に「国司に対する監督をきびしくさせました」的なことだけが書いてあり、「勘解由使」(かげゆし)の用語は紹介してない。 ただし、自由社の教科書では、勘解由使(かげゆし)を紹介している。)
このころ、奴婢(ぬひ)の制度も、無くなっていきました。
また、農民を兵士にすることをやめ、郡司の子弟(してい)などから<big>健児</big>(こんでい)という兵士を選ぶようにしました。
{| style="width:100%"
|valign=top style="width:60%;text-indent:1em"|
また、桓武天皇の政権は、東北地方に支配を広げます。
東北地方の <span style="color:red"><big>蝦夷</big></span>(えみし) とよばれる人々は朝廷の支配に反対し、たびたび反乱を起こしていました。朝廷は蝦夷の征服のため、 <span style="color:red"><big>坂上田村麻呂</big></span>(さかのうえの たむらまろ) という人物を <big>征夷大将軍</big>(せいいたいしょうぐん) という役職(やくしょく)に任命し(797年)、彼に東北地方を平定させ、朝廷は東北地方に支配を広げました。
しかし、その後もたびたび、蝦夷の反乱は起きました。
<gallery widths=200px heights=200px>
画像:Monument of Aterui in Hirakata.jpeg|アテルイが処刑されたとされる場所の碑。大阪府 枚方(ひらかた)市。
画像:Monument to Aterui and More2.jpg|アテルイと副将母礼(もれ)の碑。京都府 清水寺(きよみずでら)。田村麻呂にゆかりのある寺なので、アテルイらの碑が建てられている。写真中の「阿弖流為」という文字で「アテルイ」と読む。
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蝦夷の族長は'''アテルイ'''という人物で、アテルイの兵力と、対する田村麻呂らの朝廷軍との戦いです。
結果的に、田村麻呂の側が勝ちます。つまり朝廷の側が勝ちます。
アテルイは負け、802年に降伏(こうふく)します。アテルイは平安京に連行されたのち、京にて処刑されます。
田村麻呂は、アテルイの命を助けるよう減刑をもとめましたが、貴族たちの反対により、アテルイは処刑されました。
東北での戦争のさい、<big>胆沢城</big>(いさわじょう、場所は岩手県、築802年)が田村麻呂らにより築かれ、また多賀城(たがじょう、宮城県、築724年)、秋田城(あきたじょう、秋田県、築733年) なども朝廷軍の拠点になり、朝廷による東北支配の拠点になります。
|}
== 仏教界の変化 ==
[[ファイル:最澄像 一乗寺蔵 平安時代.jpg|thumb|left|最澄]]
[[ファイル:Kukai2.jpg|thumb|空海]]
平安時代に入り、奈良時代の仏教とは変化した。<span style="color:red"><big>天台宗</big></span>(てんだいしゅう)や<span style="color:red"><big>真言宗</big></span>(しんごんしゅう)という新しい宗派(しゅうは)ができ、それが広まった。奈良時代の仏教とはちがい、新しい平安時代の宗派は、山奥(やまおく)で修行(しゅぎょう)をしたりする仏教である。
僧の<span style="color:red"><big>最澄</big></span>(さいちょう)と僧の<span style="color:red"><big>空海</big></span>(くうかい)による、新しい仏教の考え方が広まった。おそらくは朝廷が、奈良時代の政治に深く介入した従来の仏教勢力をきらい、かわりに新しい宗派を保護したのだろう。
最澄も空海も、遣唐使と共に唐にわたり留学し、唐の新しい仏教の教えを学んできた僧である。
[[File:Enryakuji Konponchudo02s5s3200.jpg|thumb|300px|延暦寺(えんりゃくじ)。国宝。]]
最澄は805年に日本に帰国し、<big>比叡山</big>(ひえいざん、滋賀県にある。)に <big>延暦寺</big>(えんりゃくじ) を建て、<big>天台宗 </big>(てんだいしゅう)をひろめた。最澄は伝教大師(でんきょうだいし)とも言われます。
空海は806年に帰国し、<big>高野山</big>(こうやさん、和歌山県にある。)に <big>金剛峯寺</big>(こんごうぶじ) を建て、<big>真言宗</big>(しんごんしゅう)を広めた。 ことわざの「弘法も筆のあやまり(こうぼうも ふでのあやまり)」の弘法大師は空海のことだ。
比叡山と言い、高野山と言い、ともに山であることに注目もしよう。朝廷が仏教の政治介入を嫌う事とも、つじつまがあう。
== 荘園(しょうえん) ==
奈良時代に墾田永年私財法により、開墾した土地の所有が認められるようになったので、貴族たちや寺社は農民らに開墾をさせ、貴族の所有する土地を広げていった。この貴族の所有する私有地が <span style="color:red"><big>荘園</big></span>(しょうえん) である。
また、平安時代に、貴族や寺社の所有する荘園には税をおさめなくてもよいという、貴族につごうのいい権利が出来た。
税を収めない権利を<big>不輸の権</big>(ふゆのけん)と言い、荘園への役人の立ち入りを拒否(きょひ)できる権利を<big>不入の権</big>(ふにゅうのけん)といいます。
これら不輸不入の権もあり、貴族の荘園は、どんどんふえていき、朝廷の税収は減るので財政は悪化し、律令政治が上手くいかなくなります。
有力な貴族でない者の荘園は国司に取り上げられたり、他の豪族にうばわれることもあったので、そのような有力でない者は、朝廷の有力な貴族に、形式的だが荘園を寄付(きふ)した。これを<big>寄進</big>(きしん) という。
10世紀に入ると、班田収授は行われなくなり、公地公民は くずれていきます。
== 摂関政治(せっかんせいじ) ==
9世紀の中頃になると藤原鎌足(ふじわらのかまたり、中臣鎌足のこと。)の子孫の一族の<big>藤原氏</big>(ふじわらし) が、権力を強めます。
藤原氏の一族は、代々、娘を天皇の妃(きさき)にしています。
すると、藤原氏は天皇の母方(ははかた)の親戚(しんせき)ということになるので、藤原氏の権力が強まる、という仕組みで、さらに権力を強めました。
[[File:Fujiwara no Michinaga 2.jpg|thumb|300px|藤原道長(ふじわらの みちなが)]]
藤原氏の一族では、とくに11世紀の前半に <span style="color:red"><big>藤原道長</big></span>(ふじわらの みちなが) と、道長の子の<big>藤原頼通</big>(ふじわらのよりみち)らの親子が権力をにぎっていた時代が、もっとも勢力が、さかんでした。
道長が有名なので、よく、教科書などに道長が取り上げられますが、藤原氏の権力は、べつに11世紀に急に強まったわけではなく、9世紀ごろから藤原良房(ふじわらのよしふさ)が摂政になったりなど、すでに藤原氏の勢力が強かったです。皇族以外で摂政になったのは、良房が、はじめてです。
天皇が幼いときは、藤原氏の者が<big>摂政</big>(せっしょう)になり政治の実権(じっけん)を握り、天皇が成人しても藤原氏は<span style="color:red"><big>関白</big></span>(かんぱく)という地位になり実権をにぎり、政治を行いつづける、という手法で権力を強めました。このような摂政や関白として政治を行なうという政治の方法を <span style="color:red"><big>摂関政治</big></span>(せっかん せいじ) といいます。
道長の読んだ歌で、つぎの歌があります。
:<big><big>「この世(よ)をば わが世(よ)とぞ思ふ(おもう) 望月(もちづき)の 欠けたる(かけたる)ことも なしと思へば(おもえば)」</big></big> (『小右記』(しょうゆうき)より )
意味は、「この世は 自分(道長)のためにあるようなものだ 望月(=満月)のように 何も足りないものはない」という意味です。この歌は、いわゆる「望月の歌」(もちづきのうた)として有名です。
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:藤原実資(ふじわら さねすけ)の日記。
::寛永2年(1018年)、今日は道長さまの娘さまの威子(いし)女御(にょうご、女官の階級の一つ)が、中宮(ちゅうぐう)になられる日である。太閤(=道長)さまが私(=日記の作者。実資)を呼んで、こう申された。
::「和歌を読もうと思う。君も必ず返事を読め。」と言われた。
:::私は返事をして「きっと返事を言いましょう。」と答えた。
::つづけて、道長さまはこう言われた。「自慢の歌なのだよ。べつにあらかじめ作っておいた歌では無いがね。」と。
:そして、言われた。「この世をば 我が世とぞ思う 望月の 欠けたることも なしと思わば。」と。
:::私は答えた。「とても優美な歌です。かえす歌も作れません。(道長以外の)みんなで、このお歌を唱和するのがよろしいでしょう。」と申し上げた。みんなも、私の言葉に応じ、この歌を唱和した。道長さまは、たいそう機嫌をよくして、返歌をしなかった私を責めなかった。
:(『小右記』(しょうゆうき)より。藤原実資(さねすけ)の日記。抜粋、要約。)
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摂関政治のころ、地方の行政は、国司に まかせられるようになりました。国司の中には、自分は現地に行かずに都にとどまり、代理人を送る者も、いました。
国司には、蓄えをふやそうと、税を厳しく取り立てる者もあり、農民などの不満は大きく、朝廷に国司の不正を訴えでる者もいました。
{{-}}
== 平安時代の文化 ==
=== 時代背景 ===
[[File:Sugawara Michizane.jpg|thumb|300px|菅原道真(すがわらの みちざね)<br>菅原道真は遣唐使の廃止後、藤原氏と対立し、901年には<big>太宰府</big>
(だざいふ)の管理職に左遷(させん)されてしまいます。(※ 現代の日本語では、「左遷」(させん)とは、地位の高い役職の人が、組織の人事(じんじ)の変更により、地位の低い役職にうつらさせること、を意味します。
そして道真は大宰府でなくなりました。その後、災害が多く発生したので、朝廷は道真の たたり だとおそれて、道真を神様として、たてまつるようになりました。
]]
* 遣唐使の廃止
894年に、<big>菅原道真</big>(すがわらの みちざね)の進言により遣唐使が廃止されます。
:語呂合わせ:<big>白紙(はくし、894)に戻そう 遣唐使</big>
遣唐使の廃止の理由は、すでに唐から多くのことを学んであること、中国大陸で内乱が多く唐が弱っていること、船の遭難(そうなん)など死の危険が多く有能な人材の命を損ないかねないこと、経済的な負担が大きい、などです。
この遣唐使の廃止により、日本の貴族文化では、だんだん、中国大陸の文化の影響(えいきょう)が、うすれていきます。
かわりに日本独自の貴族文化が発展していきます。この平安時代に発展した日本独自の貴族文化を<big>国風文化</big>(こくふうぶんか) と言います。
なお、)
{{コラム|「左遷」と学問の神様|
:※ 検定教科書には無い話題ですが、授業中にかならず先生(教師・講師)が口頭で教える範囲の話題です。
:※ なお、東京書籍や育鵬社と帝国書院など一部の検定教科書では、道真が大宰府に追いやられた経緯や結果が紹介されています。(意外と他の教科書では、紹介されていない。)
大宰府の職の地位については、道真のもとの右大臣の職とくらべたら、(大宰府の管理職は)地位が低い。
「左遷」(させん)という熟語が現代の日本にありますが、その具体例として、菅原道真が901年に大宰府の職へ追いやられたことが、「左遷」の典型例であると、現代ではよく表現されます。
なお、「左遷」の語源は古代中国の文献『史記 韓信盧綰伝』であり、日本に由来する言葉ではありません。(※ 文献名『韓信盧綰伝』は中高の範囲外なので覚えなくてよいです。)
右大臣である道真が大宰府に追いやられる前、藤原氏で左大臣だった藤原時平(ふじわらの ときひら)が、道真をこころよく思わなかったので陰謀をしかけたのです。(※ 育鵬社の検定教科書のコラム欄に、道真の「追放」と書いてあるので、追いやるなどと言ってもマチガイではない。)
:なお、帝国書院は「大宰府に流されました」と言っている。
そして時平の陰謀により菅原道真が大宰府に追放されて以降、道真は903年に大宰府で亡くなってしまいました。道真の死後、京都では災害や異変が多く発生したので、人々はこれを、きっと道真の祟り(たたり)にちがいないと、恐れ(おそれ)ました。ある貴族は、落雷に打たれて死をとげたとも、言い伝えられています。
このため、当時の京都の天皇や大臣たちは祟りをしずめようとして、道真を神様として、たてまつるようになった、といわれてています。
現在、「天満宮」(てんまんぐう)と言われる神社・寺は、菅原道真をたてまつっている宗教施設です。また「天神」(てんじん)とは、神様としての菅原道真のことを言っています。「天神」とか「天満」とか「天」と言葉のつく理由は、一説には、たたりが京都の天気・天候の異常としてに災害をもたらしたからだと(いわゆる「気象災害」、たとえば台風による被害、暴風雨や激しい落雷、あるいは日照り(ひでり)などといった天気の異常による被害の発生のこと)、いわれています。
こうして現代には、菅原道真は学問の神様であるとして、いいつたえられるようになりました。
大宰府の場所にあたる現代の福岡県も天満宮(太宰府天満宮)があります。
道真が「学問の神様」であるといわれてるほどに学問が得意と言われている理由は、道真は若くして、地位の高い役人になるための試験に合格したからだと、言われています。
なお、京都には北野天満宮があります。
}}
[[画像:Hiragana origin.svg|thumb|right|300px|漢字からひらがなへの変化]]
* 大陸中国と朝鮮半島
唐は10世紀の始めごろに滅び、小国の争いをへて、<big>宋</big>(そう)が統一して、宋に王朝が変わります。中国と日本の、正式な国交は途絶えますが、商人などの交流や僧侶の留学はその後も続き、中国の文物も日本に入ってきました。同じ頃、朝鮮半島では<big>高麗</big>(こうらい、コリョ)が出来て、高麗が新羅(しらぎ、シルラ)を滅ぼしました。
=== 国風文化 ===
* かな文字の発明
ひらがな や カタカナ などの <big>かな文字</big>が、平安時代に発明されます。
ひらがなは、漢字の形をくずして、発明されました。カタカナは漢字の へん や つくり などの一部をもとに発明されました。
[[ファイル:Katakana origine.svg|thumb|left|300px|カタカナの由来]]
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{{コラム|紀貫之の『土佐日記』|
この時代の当初(とうしょ)、ひらがなやカタカナは、女が用いる字であった。
(※ 発展 : )貴族の紀貫之(きの つらゆき)は男だが、名を隠し(かくし)、女を名乗り『土佐日記』(とさにっき)を書いた。日記の出だしの文章は「男もすなる日記というものを 女もしてみむとて するなり」と言った出だしです。
内容は、第三者のフリをして、国司(こくし)として、四国の土佐(とさ)に派遣されていた紀貫之のような経歴の人物のことを、書いた日記です。(※ 教育出版の教科書で『土佐日記』を紹介。)
:※ 『土佐日記』について、くわしくは高校で習うので、中学生はムリに暗記しなくてよい。
}}
かな文字をつかって、『<big>古今和歌集</big>』(こきん わかしゅう) や『<big>竹取物語</big>』(たけとり ものがたり) などが、この時代に書かれた。
『古今和歌集』は、<big>紀貫之</big>(きのつらゆき)という人物の編集による和歌集です。(醍醐天皇(だいごてんのう)の命令により、紀貫之らが『古今和歌集』を編集しました。)
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[[画像:Genji emaki azumaya.jpg|thumb|300px|right|源氏物語絵巻(げんじものがたり えまき)]]
文学の物語では、紫式部(むらさきしきぶ)によって『源氏物語』(げんじものがたり)が書かれました。
(※ 発展: )この『源氏物語』は、主人公は貴族の「光源氏」(ひかる げんじ)という人物で、光源氏を中心とした貴族の恋愛などを書いています。
なお、名前が後の幕府の「源氏」(げんじ)と似ていますが、光源氏は武士ではありません。源氏物語が出来た1007年ごろは、まだ鎌倉幕府はありません。
随筆(ずいひつ)では、清少納言(せい しょうなごん)が『枕草子』を記しました。清少納言が 日常生活や自然を観察して、感想を述べたものです。
紫式部も清少納言も、宮廷(きゅうてい)に仕える女官(にょかん/にょうかん)です。
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[[ファイル:Chouju thief.jpg|thumb|right|500px|鳥獣戯画の一部分]]
絵画では、日本の風景などを書いた <big>大和絵</big>(やまとえ) が出てくる。寝殿造りの屋敷の屏風(びょうぶ)や ふすま などに大和絵が描かれた。絵巻物などにも大和絵は描かれた。
(※ 発展: )大和絵の作品では、<big>鳥獣戯画</big>(ちょうじゅうぎが)や<big>源氏物語絵巻</big>(げんじものがたりえまき)などが有名です。
:(※ 中学社会科の教科書には書いてないが、しかし中学美術で鳥獣戯画を習う。『源氏物語絵巻』については、検定教科書では、源氏物語といっしょに紹介している。)
鳥獣戯画(ちょうじゅうぎが)は、当時の社会を風刺するために、蛙や猿、うさぎなどの動物たちを擬人的に描いて表現した絵です。
大和絵にも、「源氏物語絵巻」(げんじものがたりえまき)が、描かれました。「源氏物語絵巻」は、紫式部の『源氏物語』の内容を、絵画を使って表したものです。
* その他の文化
[[Image:Miniature Model of HigashiSanjoDono.jpg|thumb|375px|典型的な寝殿造である東三条殿の復元模型(京都文化博物館)
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1. 寝殿(しんでん)、2. 北対(きたのたい)、3. 細殿(ほそどの)、4. 東対(ひがしのたい)、5. 東北対(ひがしきたのたい)、6. 侍所(さむらいどころ)、7. 渡殿(わたどの)、8. 中門廊(ちゅうもんろう)、9. 釣殿(つりどの)]]
[[image:Abe Masahiro Portrait.png|thumb|left|150px|江戸時代の束帯(阿部正弘)]]
[[File:十二単です.JPG|thumb|150px|left|五衣唐衣裳(俗称 十二単)(京都御所にて)]]
平安時代には、貴族の衣服の正装(せいそう・・・正式な服のこと)が変わり、男の貴族の服は <big>束帯</big>(そくたい) になり、女の貴族の服は <big>十二単</big>(じゅうにひとえ) になります。
貴族の住居の形が <big>寝殿造</big>(しんでんづくり) になる。
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=== 浄土(じょうど)の信仰 ===
[[Image: Kuya Portrait.JPG |thumb|right|200px|空也の像 (六波羅蜜寺) ]]
平安時代の中ごろは、伝染病が流行ったり、災害が起きたりしたので、社会の不安が大きくなった。このため、宗教では、人々に安心を与える宗教が、平安時代の半ばごろから流行るようになる。
[[ファイル:Byodoin Amitaabha Buddha.JPG|thumb|200px|left|阿弥陀如来像 (平等院・鳳凰堂)。像の現物は金色。]]
浄土教という信仰が流行るようになる。阿弥陀如来(あみだにょらい)にすがり、念仏(ねんぶつ)を唱えていれば、死後には、極楽浄土へ行ける、という信仰である。
浄土教を布教した人物では、<big>空也</big>(くうや)という人物が有名である。空也(生:903年~没:972年)は、10世紀中ごろ、諸国をまわり、庶民に浄土教を布教していた。「南無阿弥陀仏」(なむあみだぶつ)という念仏を唱えるとよい、と空也は民衆たちに広めたという。人が集まる市(いち)で布教していたことから、空也は、市聖(いちのひじり)とも呼ばれます。
仏教の教えによると、1052年は釈迦が死んでから2000年後ということらしく、死後1000年ともなると釈迦の教えがおとろえて世の中が悪くなるという思想があり、この思想は <big>末法</big>(まっぽう) と言われた。この末法思想もあって、浄土信仰は広まっていった。
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[[ファイル:Konjikido-Ooido.jpg|240px|thumb|left|中尊寺金色堂。外側の覆堂(おおいどう)。中尊寺金色堂は、世界遺産および国宝になっている。 岩手県 平泉(ひらいずみ)市]]
[[File:Interior of Konjikido, Chusonji (62).jpg|thumb|250px|中尊寺金色堂の内部。白黒写真。実際の仏像の色は金色。]]
地方にも浄土教がひろまり、各地に阿弥陀仏をまつる寺院である 阿弥陀堂(あみだどう) がたてられた。たとえば岩手県の平泉(ひらいずみ)には <big>中尊寺金色堂</big>(ちゅうそんじこんじきどう)という阿弥陀堂 が建てられた。大分県に富貴寺大堂(ふきじおおどう)が、たてられた。
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人々の不安もあって、仏教では、念仏(ねんぶつ)を唱えて阿弥陀仏(あみだぶつ)さえ信じさえすれば救われるという内容の<big>浄土教</big>(じょうどきょう)が流行りました。
[[ファイル:Byodoin Phoenix Hall Uji 2009.jpg|300px|thumb|left|平等院 鳳凰堂]]
京都の宇治(うじ)にある<big>平等院鳳凰堂</big>(びょうどういんほうおうどう)は、この時代に建てられました。十円玉に描かれている建物は、平等院鳳凰堂の絵です。
[[ファイル:10JPY.JPG|thumb|10円]]
平等院鳳凰堂のなかにも、阿弥陀像(あみだぞう)があります。平等院鳳凰堂も阿弥陀堂です。
{{-}}
== 平安時代の武士たち ==
平安時代には、地方の豪族や有力農民たちは私有地を広げていったのであった。9世紀の中ごろから、豪族や有力な農民たちは、自分たちの土地や財産をまもるためには、兵力をたくわえていった。一族の者や、手下の農民たちに武装させるようになった。
このようにして、<span style="color:red"><big>武士</big></span>(ぶし)が、できていった。
武士たちは、一族の かしら を棟梁(とうりょう)として、それぞれの一族ごとに<big>武士団</big>(ぶしだん)を結成していった。
貴族の中にも、これにならい、武士団をつくり棟梁となって兵を指揮する者が、地方貴族から出てきた。源氏や平氏などが、そのような貴族の武士である。
源氏も平氏も天皇の子孫です。
武士の中には、朝廷に対して反乱を起こす者も出てきました。
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:* 平将門(たいらの まさかど)による反乱
10世紀の935年に、平将門(たいらの まさかど)が反乱を関東地方で起こしました。朝廷は、ほかの武士の助けを借りて、将門の反乱を鎮圧します。
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[[画像:Taira no masakado kubiduka 2012-03-22.JPG|thumb|280px|right|将門(まさかど)の首塚(くびつか)。東京都 千代田区(ちよだく) 大手町(おおてまち)。]]
{{-}}
将門は、常陸(ひたち)の国府をおそい、周辺の国府もしたがえて、自分たちで国司を任命し、京都の朝廷とは別に自分たちの朝廷をつくろうとします。平将門は「新皇」(しんのう)をなのりました。しかし、鎮圧されました。
|}
:* 藤原純友(ふじわらの すみとも)による反乱
939年には、藤原純友(ふじわらのすみとも)が反乱を瀬戸内海の周辺で起こし、海賊らを率いて反乱を起こします。朝廷は、ほかの武士の助けを借りて、反乱を鎮圧します。
朝廷の力だけでは、この2つの反乱をしずめることはできず、ほかの武士の協力をえる必要があり、これらの反乱により武士の影響力が増すことになった。
この2つの反乱のことを、起きた年の年号をとり 承平・天慶の乱(じょうへい・てんぎょう の らん) と言う。
* 東北地方での反乱
11世紀の1051年には東北地方で反乱が起き、安倍頼時らが反乱を起こした。この反乱の鎮圧を、源氏である源頼義(みなもとのよりよし)および源義家(みなもとの よしいえ)らの兵が鎮圧した。この反乱と鎮圧のできごとを 前九年の役(ぜんくねん の えき) と言う。
1051年から1062年まで続いた。源氏が鎮圧を行ったので、関東地方では源氏の影響力が強まった。
また1083年にも反乱が起き、源氏らが鎮圧した。1083年から1087年まで争乱がつづき、この争乱を 後三年の役(ごさんねんのえき) と言う。
[[File:Interior of Konjikido, Chusonji (62).jpg|thumb|250px|中尊寺金色堂の内部。白黒写真。実際の仏像の色は金色。]]
また、後三年の役で勝利した源氏の側についた藤原清衡(ふじわらの きよひら)の一族の奥州藤原氏(おうしゅう ふじわらし)の勢力が広まった。中尊寺金色堂(ちゅうそんじ こんじきどう)は、藤原清衡が建てさせた阿弥陀堂(あみだどう)である。
[[Category:中学校歴史|へいあんしたい]]
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/* 平安時代 */
wikitext
text/x-wiki
== 平安時代 ==
~<big>貴族がさかえた時代</big>~<br>
[[ファイル:Miniature Model of Rajomon.jpg|260px|thumb|left|平安京の羅城門(らじょうもん)の復元模型(京都文化博物館)]]
[[File:Emperor Kammu large.jpg|thumb|200px|桓武天皇(かんむ てんのう)<br>唐(とう、※ 中国)の服装をしている様子が描かれています。]]
かつての天平文化の仏教保護の政策などにより、仏教の僧や寺院の影響力が強くなる。
のちの天皇や朝廷は、これらの仏教勢力を嫌がり、そのため、<big>桓武天皇</big>(かんむ てんのう)により、寺院の多い現在でいう奈良県から京都府へと都をうつす。まず784年に京都府の 長岡京(ながおかきょう) にうつす。さらに794年に京都府の <span style="color:red"><big>平安京</big></span>(へいあんきょう) にうつす。
[[画像:HeiankyouMapJapanese.svg|900px]]
奈良から平安京への寺院の移転は禁止されます。
他にも、社会の変化で、もはや、公地公民による昔(むかし)の政治が上手くいかなくなり、政治のしかたを改める必要もあったのだろう。
平安京に都を移してから約400年間は、政治の中心地は平安京だったので、この時代を <span style="color:red"><big>平安時代</big></span>(へいあんじだい) という。
くわしくいうと、後に1192年に武士である源頼朝が権力をにぎる鎌倉幕府(かまくら ばくふ)ができますが、794年から1192年までを平安時代と言うことが多い。
なお、平安時代より、あとの武士による政治の時代になっても、都は平安京のままです。明治時代に東京に都が移るまでは、平安京が日本の都でした。平安京のつくりは、唐の都である 長安(ちょうあん) を、参考(さんこう)にしています。
桓武天皇は、公地公民が上手くいかない理由の一つである、税負担の重さに改革の手をつけます。
税負担の重さを減らしました。雑徭(ぞうよう)の日数を60日から30日に減らします。6年ごとに見直してた区分田に支給を、12年ごとに変えました。
(※ 中学の範囲外:) また、国司に対する監督をきびしくするため、勘解由使(かげゆし)という役人を置きました。(※ 検定教科書では、単に「国司に対する監督をきびしくさせました」的なことだけが書いてあり、「勘解由使」(かげゆし)の用語は紹介してない。 ただし、自由社の教科書では、勘解由使(かげゆし)を紹介している。)
このころ、奴婢(ぬひ)の制度も、無くなっていきました。
また、農民を兵士にすることをやめ、郡司の子弟(してい)などから<big>健児</big>(こんでい)という兵士を選ぶようにしました。
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|valign=top style="width:60%;text-indent:1em"|
また、桓武天皇の政権は、東北地方に支配を広げます。
東北地方の <span style="color:red"><big>蝦夷</big></span>(えみし) とよばれる人々は朝廷の支配に反対し、たびたび反乱を起こしていました。朝廷は蝦夷の征服のため、 <span style="color:red"><big>坂上田村麻呂</big></span>(さかのうえの たむらまろ) という人物を <big>征夷大将軍</big>(せいいたいしょうぐん) という役職(やくしょく)に任命し(797年)、彼に東北地方を平定させ、朝廷は東北地方に支配を広げました。
しかし、その後もたびたび、蝦夷の反乱は起きました。
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画像:Monument of Aterui in Hirakata.jpeg|アテルイが処刑されたとされる場所の碑。大阪府 枚方(ひらかた)市。
画像:Monument to Aterui and More2.jpg|アテルイと副将母礼(もれ)の碑。京都府 清水寺(きよみずでら)。田村麻呂にゆかりのある寺なので、アテルイらの碑が建てられている。写真中の「阿弖流為」という文字で「アテルイ」と読む。
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蝦夷の族長は'''アテルイ'''という人物で、アテルイの兵力と、対する田村麻呂らの朝廷軍との戦いです。
結果的に、田村麻呂の側が勝ちます。つまり朝廷の側が勝ちます。
アテルイは負け、802年に降伏(こうふく)します。アテルイは平安京に連行されたのち、京にて処刑されます。
田村麻呂は、アテルイの命を助けるよう減刑をもとめましたが、貴族たちの反対により、アテルイは処刑されました。
東北での戦争のさい、<big>胆沢城</big>(いさわじょう、場所は岩手県、築802年)が田村麻呂らにより築かれ、また多賀城(たがじょう、宮城県、築724年)、秋田城(あきたじょう、秋田県、築733年) なども朝廷軍の拠点になり、朝廷による東北支配の拠点になります。
|}
== 仏教界の変化 ==
[[ファイル:最澄像 一乗寺蔵 平安時代.jpg|thumb|left|最澄]]
[[ファイル:Kukai2.jpg|thumb|空海]]
平安時代に入り、奈良時代の仏教とは変化した。<span style="color:red"><big>天台宗</big></span>(てんだいしゅう)や<span style="color:red"><big>真言宗</big></span>(しんごんしゅう)という新しい宗派(しゅうは)ができ、それが広まった。奈良時代の仏教とはちがい、新しい平安時代の宗派は、山奥(やまおく)で修行(しゅぎょう)をしたりする仏教である。
僧の<span style="color:red"><big>最澄</big></span>(さいちょう)と僧の<span style="color:red"><big>空海</big></span>(くうかい)による、新しい仏教の考え方が広まった。おそらくは朝廷が、奈良時代の政治に深く介入した従来の仏教勢力をきらい、かわりに新しい宗派を保護したのだろう。
最澄も空海も、遣唐使と共に唐にわたり留学し、唐の新しい仏教の教えを学んできた僧である。
[[File:Enryakuji Konponchudo02s5s3200.jpg|thumb|300px|延暦寺(えんりゃくじ)。国宝。]]
最澄は805年に日本に帰国し、<big>比叡山</big>(ひえいざん、滋賀県にある。)に <big>延暦寺</big>(えんりゃくじ) を建て、<big>天台宗 </big>(てんだいしゅう)をひろめた。最澄は伝教大師(でんきょうだいし)とも言われます。
空海は806年に帰国し、<big>高野山</big>(こうやさん、和歌山県にある。)に <big>金剛峯寺</big>(こんごうぶじ) を建て、<big>真言宗</big>(しんごんしゅう)を広めた。 ことわざの「弘法も筆のあやまり(こうぼうも ふでのあやまり)」の弘法大師は空海のことだ。
比叡山と言い、高野山と言い、ともに山であることに注目もしよう。朝廷が仏教の政治介入を嫌う事とも、つじつまがあう。
== 荘園(しょうえん) ==
奈良時代に墾田永年私財法により、開墾した土地の所有が認められるようになったので、貴族たちや寺社は農民らに開墾をさせ、貴族の所有する土地を広げていった。この貴族の所有する私有地が <span style="color:red"><big>荘園</big></span>(しょうえん) である。
また、平安時代に、貴族や寺社の所有する荘園には税をおさめなくてもよいという、貴族につごうのいい権利が出来た。
税を収めない権利を<big>不輸の権</big>(ふゆのけん)と言い、荘園への役人の立ち入りを拒否(きょひ)できる権利を<big>不入の権</big>(ふにゅうのけん)といいます。
これら不輸不入の権もあり、貴族の荘園は、どんどんふえていき、朝廷の税収は減るので財政は悪化し、律令政治が上手くいかなくなります。
有力な貴族でない者の荘園は国司に取り上げられたり、他の豪族にうばわれることもあったので、そのような有力でない者は、朝廷の有力な貴族に、形式的だが荘園を寄付(きふ)した。これを<big>寄進</big>(きしん) という。
10世紀に入ると、班田収授は行われなくなり、公地公民は くずれていきます。
== 摂関政治(せっかんせいじ) ==
9世紀の中頃になると藤原鎌足(ふじわらのかまたり、中臣鎌足のこと。)の子孫の一族の<big>藤原氏</big>(ふじわらし) が、権力を強めます。
藤原氏の一族は、代々、娘を天皇の妃(きさき)にしています。
すると、藤原氏は天皇の母方(ははかた)の親戚(しんせき)ということになるので、藤原氏の権力が強まる、という仕組みで、さらに権力を強めました。
[[File:Fujiwara no Michinaga 2.jpg|thumb|300px|藤原道長(ふじわらの みちなが)]]
藤原氏の一族では、とくに11世紀の前半に <span style="color:red"><big>藤原道長</big></span>(ふじわらの みちなが) と、道長の子の<big>藤原頼通</big>(ふじわらのよりみち)らの親子が権力をにぎっていた時代が、もっとも勢力が、さかんでした。
道長が有名なので、よく、教科書などに道長が取り上げられますが、藤原氏の権力は、べつに11世紀に急に強まったわけではなく、9世紀ごろから藤原良房(ふじわらのよしふさ)が摂政になったりなど、すでに藤原氏の勢力が強かったです。皇族以外で摂政になったのは、良房が、はじめてです。
天皇が幼いときは、藤原氏の者が<big>摂政</big>(せっしょう)になり政治の実権(じっけん)を握り、天皇が成人しても藤原氏は<span style="color:red"><big>関白</big></span>(かんぱく)という地位になり実権をにぎり、政治を行いつづける、という手法で権力を強めました。このような摂政や関白として政治を行なうという政治の方法を <span style="color:red"><big>摂関政治</big></span>(せっかん せいじ) といいます。
道長の読んだ歌で、つぎの歌があります。
:<big><big>「この世(よ)をば わが世(よ)とぞ思ふ(おもう) 望月(もちづき)の 欠けたる(かけたる)ことも なしと思へば(おもえば)」</big></big> (『小右記』(しょうゆうき)より )
意味は、「この世は 自分(道長)のためにあるようなものだ 望月(=満月)のように 何も足りないものはない」という意味です。この歌は、いわゆる「望月の歌」(もちづきのうた)として有名です。
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:藤原実資(ふじわら さねすけ)の日記。
::寛永2年(1018年)、今日は道長さまの娘さまの威子(いし)女御(にょうご、女官の階級の一つ)が、中宮(ちゅうぐう)になられる日である。太閤(=道長)さまが私(=日記の作者。実資)を呼んで、こう申された。
::「和歌を読もうと思う。君も必ず返事を読め。」と言われた。
:::私は返事をして「きっと返事を言いましょう。」と答えた。
::つづけて、道長さまはこう言われた。「自慢の歌なのだよ。べつにあらかじめ作っておいた歌では無いがね。」と。
:そして、言われた。「この世をば 我が世とぞ思う 望月の 欠けたることも なしと思わば。」と。
:::私は答えた。「とても優美な歌です。かえす歌も作れません。(道長以外の)みんなで、このお歌を唱和するのがよろしいでしょう。」と申し上げた。みんなも、私の言葉に応じ、この歌を唱和した。道長さまは、たいそう機嫌をよくして、返歌をしなかった私を責めなかった。
:(『小右記』(しょうゆうき)より。藤原実資(さねすけ)の日記。抜粋、要約。)
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摂関政治のころ、地方の行政は、国司に まかせられるようになりました。国司の中には、自分は現地に行かずに都にとどまり、代理人を送る者も、いました。
国司には、蓄えをふやそうと、税を厳しく取り立てる者もあり、農民などの不満は大きく、朝廷に国司の不正を訴えでる者もいました。
{{-}}
== 平安時代の文化 ==
=== 時代背景 ===
[[File:Sugawara Michizane.jpg|thumb|300px|菅原道真(すがわらの みちざね)<br>菅原道真は遣唐使の廃止後、藤原氏と対立し、901年には<big>太宰府</big>
(だざいふ)の管理職に左遷(させん)されてしまいます。(※ 現代の日本語では、「左遷」(させん)とは、地位の高い役職の人が、組織の人事(じんじ)の変更により、地位の低い役職にうつらさせること、を意味します。
そして道真は大宰府でなくなりました。その後、災害が多く発生したので、朝廷は道真の たたり だとおそれて、道真を神様として、たてまつるようになりました。
]]
* 遣唐使の廃止
894年に、<big>菅原道真</big>(すがわらの みちざね)の進言により遣唐使が廃止されます。
:語呂合わせ:<big>白紙(はくし、894)に戻そう 遣唐使</big>
遣唐使の廃止の理由は、すでに唐から多くのことを学んであること、中国大陸で内乱が多く唐が弱っていること、船の遭難(そうなん)など死の危険が多く有能な人材の命を損ないかねないこと、経済的な負担が大きい、などです。
この遣唐使の廃止により、日本の貴族文化では、だんだん、中国大陸の文化の影響(えいきょう)が、うすれていきます。
かわりに日本独自の貴族文化が発展していきます。この平安時代に発展した日本独自の貴族文化を<big>国風文化</big>(こくふうぶんか) と言います。
なお、)
{{コラム|「左遷」と学問の神様|
:※ 検定教科書には無い話題ですが、授業中にかならず先生(教師・講師)が口頭で教える範囲の話題です。
:※ なお、東京書籍や育鵬社と帝国書院など一部の検定教科書では、道真が大宰府に追いやられた経緯や結果が紹介されています。(意外と他の教科書では、紹介されていない。)
大宰府の職の地位については、道真のもとの右大臣の職とくらべたら、(大宰府の管理職は)地位が低い。
「左遷」(させん)という熟語が現代の日本にありますが、その具体例として、菅原道真が901年に大宰府の職へ追いやられたことが、「左遷」の典型例であると、現代ではよく表現されます。
なお、「左遷」の語源は古代中国の文献『史記 韓信盧綰伝』であり、日本に由来する言葉ではありません。(※ 文献名『韓信盧綰伝』は中高の範囲外なので覚えなくてよいです。)
右大臣である道真が大宰府に追いやられる前、藤原氏で左大臣だった藤原時平(ふじわらの ときひら)が、道真をこころよく思わなかったので陰謀をしかけたのです。(※ 育鵬社の検定教科書のコラム欄に、道真の「追放」と書いてあるので、追いやるなどと言ってもマチガイではない。)
:なお、帝国書院は「大宰府に流されました」と言っている。
そして時平の陰謀により菅原道真が大宰府に追放されて以降、道真は903年に大宰府で亡くなってしまいました。道真の死後、京都では災害や異変が多く発生したので、人々はこれを、きっと道真の祟り(たたり)にちがいないと、恐れ(おそれ)ました。ある貴族は、落雷に打たれて死をとげたとも、言い伝えられています。
このため、当時の京都の天皇や大臣たちは祟りをしずめようとして、道真を神様として、たてまつるようになった、といわれてています。
現在、「天満宮」(てんまんぐう)と言われる神社・寺は、菅原道真をたてまつっている宗教施設です。また「天神」(てんじん)とは、神様としての菅原道真のことを言っています。「天神」とか「天満」とか「天」と言葉のつく理由は、一説には、たたりが京都の天気・天候の異常としてに災害をもたらしたからだと(いわゆる「気象災害」、たとえば台風による被害、暴風雨や激しい落雷、あるいは日照り(ひでり)などといった天気の異常による被害の発生のこと)、いわれています。
こうして現代には、菅原道真は学問の神様であるとして、いいつたえられるようになりました。
大宰府の場所にあたる現代の福岡県も天満宮(太宰府天満宮)があります。
道真が「学問の神様」であるといわれてるほどに学問が得意と言われている理由は、道真は若くして、地位の高い役人になるための試験に合格したからだと、言われています。
なお、京都には北野天満宮があります。
}}
[[画像:Hiragana origin.svg|thumb|right|300px|漢字からひらがなへの変化]]
* 大陸中国と朝鮮半島
唐は10世紀の始めごろに滅び、小国の争いをへて、<big>宋</big>(そう)が統一して、宋に王朝が変わります。中国と日本の、正式な国交は途絶えますが、商人などの交流や僧侶の留学はその後も続き、中国の文物も日本に入ってきました。同じ頃、朝鮮半島では<big>高麗</big>(こうらい、コリョ)が出来て、高麗が新羅(しらぎ、シルラ)を滅ぼしました。
=== 国風文化 ===
* かな文字の発明
ひらがな や カタカナ などの <big>かな文字</big>が、平安時代に発明されます。
ひらがなは、漢字の形をくずして、発明されました。カタカナは漢字の へん や つくり などの一部をもとに発明されました。
[[ファイル:Katakana origine.svg|thumb|left|300px|カタカナの由来]]
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{{コラム|紀貫之の『土佐日記』|
この時代の当初(とうしょ)、ひらがなやカタカナは、女が用いる字であった。
(※ 発展 : )貴族の紀貫之(きの つらゆき)は男だが、名を隠し(かくし)、女を名乗り『土佐日記』(とさにっき)を書いた。日記の出だしの文章は「男もすなる日記というものを 女もしてみむとて するなり」と言った出だしです。
内容は、第三者のフリをして、国司(こくし)として、四国の土佐(とさ)に派遣されていた紀貫之のような経歴の人物のことを、書いた日記です。(※ 教育出版の教科書で『土佐日記』を紹介。)
:※ 『土佐日記』について、くわしくは高校で習うので、中学生はムリに暗記しなくてよい。
}}
かな文字をつかって、『<big>古今和歌集</big>』(こきん わかしゅう) や『<big>竹取物語</big>』(たけとり ものがたり) などが、この時代に書かれた。
『古今和歌集』は、<big>紀貫之</big>(きのつらゆき)という人物の編集による和歌集です。(醍醐天皇(だいごてんのう)の命令により、紀貫之らが『古今和歌集』を編集しました。)
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[[画像:Genji emaki azumaya.jpg|thumb|300px|right|源氏物語絵巻(げんじものがたり えまき)]]
文学の物語では、紫式部(むらさきしきぶ)によって『源氏物語』(げんじものがたり)が書かれました。
(※ 発展: )この『源氏物語』は、主人公は貴族の「光源氏」(ひかる げんじ)という人物で、光源氏を中心とした貴族の恋愛などを書いています。
なお、名前が後の幕府の「源氏」(げんじ)と似ていますが、光源氏は武士ではありません。源氏物語が出来た1007年ごろは、まだ鎌倉幕府はありません。
随筆(ずいひつ)では、清少納言(せい しょうなごん)が『枕草子』を記しました。清少納言が 日常生活や自然を観察して、感想を述べたものです。
紫式部も清少納言も、宮廷(きゅうてい)に仕える女官(にょかん/にょうかん)です。
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[[ファイル:Chouju thief.jpg|thumb|right|500px|鳥獣戯画の一部分]]
絵画では、日本の風景などを書いた <big>大和絵</big>(やまとえ) が出てくる。寝殿造りの屋敷の屏風(びょうぶ)や ふすま などに大和絵が描かれた。絵巻物などにも大和絵は描かれた。
(※ 発展: )大和絵の作品では、<big>鳥獣戯画</big>(ちょうじゅうぎが)や<big>源氏物語絵巻</big>(げんじものがたりえまき)などが有名です。
:(※ 中学社会科の教科書には書いてないが、しかし中学美術で鳥獣戯画を習う。『源氏物語絵巻』については、検定教科書では、源氏物語といっしょに紹介している。)
鳥獣戯画(ちょうじゅうぎが)は、当時の社会を風刺するために、蛙や猿、うさぎなどの動物たちを擬人的に描いて表現した絵です。
大和絵にも、「源氏物語絵巻」(げんじものがたりえまき)が、描かれました。「源氏物語絵巻」は、紫式部の『源氏物語』の内容を、絵画を使って表したものです。
* その他の文化
[[Image:Miniature Model of HigashiSanjoDono.jpg|thumb|375px|典型的な寝殿造である東三条殿の復元模型(京都文化博物館)
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1. 寝殿(しんでん)、2. 北対(きたのたい)、3. 細殿(ほそどの)、4. 東対(ひがしのたい)、5. 東北対(ひがしきたのたい)、6. 侍所(さむらいどころ)、7. 渡殿(わたどの)、8. 中門廊(ちゅうもんろう)、9. 釣殿(つりどの)]]
[[image:Abe Masahiro Portrait.png|thumb|left|150px|江戸時代の束帯(阿部正弘)]]
[[File:十二単です.JPG|thumb|150px|left|五衣唐衣裳(俗称 十二単)(京都御所にて)]]
平安時代には、貴族の衣服の正装(せいそう・・・正式な服のこと)が変わり、男の貴族の服は <big>束帯</big>(そくたい) になり、女の貴族の服は <big>十二単</big>(じゅうにひとえ) になります。
貴族の住居の形が <big>寝殿造</big>(しんでんづくり) になる。
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=== 浄土(じょうど)の信仰 ===
[[Image: Kuya Portrait.JPG |thumb|right|200px|空也の像 (六波羅蜜寺) ]]
平安時代の中ごろは、伝染病が流行ったり、災害が起きたりしたので、社会の不安が大きくなった。このため、宗教では、人々に安心を与える宗教が、平安時代の半ばごろから流行るようになる。
[[ファイル:Byodoin Amitaabha Buddha.JPG|thumb|200px|left|阿弥陀如来像 (平等院・鳳凰堂)。像の現物は金色。]]
浄土教という信仰が流行るようになる。阿弥陀如来(あみだにょらい)にすがり、念仏(ねんぶつ)を唱えていれば、死後には、極楽浄土へ行ける、という信仰である。
浄土教を布教した人物では、<big>空也</big>(くうや)という人物が有名である。空也(生:903年~没:972年)は、10世紀中ごろ、諸国をまわり、庶民に浄土教を布教していた。「南無阿弥陀仏」(なむあみだぶつ)という念仏を唱えるとよい、と空也は民衆たちに広めたという。人が集まる市(いち)で布教していたことから、空也は、市聖(いちのひじり)とも呼ばれます。
仏教の教えによると、1052年は釈迦が死んでから2000年後ということらしく、死後1000年ともなると釈迦の教えがおとろえて世の中が悪くなるという思想があり、この思想は <big>末法</big>(まっぽう) と言われた。この末法思想もあって、浄土信仰は広まっていった。
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[[ファイル:Konjikido-Ooido.jpg|240px|thumb|left|中尊寺金色堂。外側の覆堂(おおいどう)。中尊寺金色堂は、世界遺産および国宝になっている。 岩手県 平泉(ひらいずみ)市]]
[[File:Interior of Konjikido, Chusonji (62).jpg|thumb|250px|中尊寺金色堂の内部。白黒写真。実際の仏像の色は金色。]]
地方にも浄土教がひろまり、各地に阿弥陀仏をまつる寺院である 阿弥陀堂(あみだどう) がたてられた。たとえば岩手県の平泉(ひらいずみ)には <big>中尊寺金色堂</big>(ちゅうそんじこんじきどう)という阿弥陀堂 が建てられた。大分県に富貴寺大堂(ふきじおおどう)が、たてられた。
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人々の不安もあって、仏教では、念仏(ねんぶつ)を唱えて阿弥陀仏(あみだぶつ)さえ信じさえすれば救われるという内容の<big>浄土教</big>(じょうどきょう)が流行りました。
[[ファイル:Byodoin Phoenix Hall Uji 2009.jpg|300px|thumb|left|平等院 鳳凰堂]]
京都の宇治(うじ)にある<big>平等院鳳凰堂</big>(びょうどういんほうおうどう)は、この時代に建てられました。十円玉に描かれている建物は、平等院鳳凰堂の絵です。
[[ファイル:10JPY.JPG|thumb|10円]]
平等院鳳凰堂のなかにも、阿弥陀像(あみだぞう)があります。平等院鳳凰堂も阿弥陀堂です。
{{-}}
== 平安時代の武士たち ==
平安時代には、地方の豪族や有力農民たちは私有地を広げていったのであった。9世紀の中ごろから、豪族や有力な農民たちは、自分たちの土地や財産をまもるためには、兵力をたくわえていった。一族の者や、手下の農民たちに武装させるようになった。
このようにして、<span style="color:red"><big>武士</big></span>(ぶし)が、できていった。
武士たちは、一族の かしら を棟梁(とうりょう)として、それぞれの一族ごとに<big>武士団</big>(ぶしだん)を結成していった。
貴族の中にも、これにならい、武士団をつくり棟梁となって兵を指揮する者が、地方貴族から出てきた。源氏や平氏などが、そのような貴族の武士である。
源氏も平氏も天皇の子孫です。
武士の中には、朝廷に対して反乱を起こす者も出てきました。
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:* 平将門(たいらの まさかど)による反乱
10世紀の935年に、平将門(たいらの まさかど)が反乱を関東地方で起こしました。朝廷は、ほかの武士の助けを借りて、将門の反乱を鎮圧します。
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[[画像:Taira no masakado kubiduka 2012-03-22.JPG|thumb|280px|right|将門(まさかど)の首塚(くびつか)。東京都 千代田区(ちよだく) 大手町(おおてまち)。]]
{{-}}
将門は、常陸(ひたち)の国府をおそい、周辺の国府もしたがえて、自分たちで国司を任命し、京都の朝廷とは別に自分たちの朝廷をつくろうとします。平将門は「新皇」(しんのう)をなのりました。しかし、鎮圧されました。
|}
:* 藤原純友(ふじわらの すみとも)による反乱
939年には、藤原純友(ふじわらのすみとも)が反乱を瀬戸内海の周辺で起こし、海賊らを率いて反乱を起こします。朝廷は、ほかの武士の助けを借りて、反乱を鎮圧します。
朝廷の力だけでは、この2つの反乱をしずめることはできず、ほかの武士の協力をえる必要があり、これらの反乱により武士の影響力が増すことになった。
この2つの反乱のことを、起きた年の年号をとり 承平・天慶の乱(じょうへい・てんぎょう の らん) と言う。
* 東北地方での反乱
11世紀の1051年には東北地方で反乱が起き、安倍頼時らが反乱を起こした。この反乱の鎮圧を、源氏である源頼義(みなもとのよりよし)および源義家(みなもとの よしいえ)らの兵が鎮圧した。この反乱と鎮圧のできごとを 前九年の役(ぜんくねん の えき) と言う。
1051年から1062年まで続いた。源氏が鎮圧を行ったので、関東地方では源氏の影響力が強まった。
また1083年にも反乱が起き、源氏らが鎮圧した。1083年から1087年まで争乱がつづき、この争乱を 後三年の役(ごさんねんのえき) と言う。
[[File:Interior of Konjikido, Chusonji (62).jpg|thumb|250px|中尊寺金色堂の内部。白黒写真。実際の仏像の色は金色。]]
また、後三年の役で勝利した源氏の側についた藤原清衡(ふじわらの きよひら)の一族の奥州藤原氏(おうしゅう ふじわらし)の勢力が広まった。中尊寺金色堂(ちゅうそんじ こんじきどう)は、藤原清衡が建てさせた阿弥陀堂(あみだどう)である。
[[Category:中学校歴史|へいあんしたい]]
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高等学校地学/地学/地球の内部
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206936
198343
2022-08-22T04:34:31Z
すじにくシチュー
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地球内部の緑色説の紹介と出典リンク。
wikitext
text/x-wiki
== 地球の内部構造 ==
=== 地球内部の層構造 ===
[[File:Travel-time-curve jp.svg|thumb|400px|走時曲線 と モホ面 との関係。]]
地震波の観測によって、地球内部での地震波の伝わる速度が分かる。地震波の速度の解析から、地下の深さ30km〜60kmあたりで、地震波の速度が急激に変化する深さがあることが発見された。これは、地殻とマントルとの境界である。この境界面を'''モホロビチッチ不連続面'''('''モホ面''')(英:Mohorovičić discontinuity)という。モホ面より上が地殻(ちかく、crust)である。モホ面より下をマントル(mantle)としている。
地震波が観測地点に到達するまでの時間を'''走時'''(そうじ)という。
横軸に震央からの距離を取り、縦軸に走時を取ってグラフにしたものを'''[[走時曲線]]'''(そうじきょくせん)という。
地殻の厚さは、大陸の地殻と海洋下の地殻とでは、厚さが大きく違う。
一般に大陸地殻は厚さ 30km〜60km であり、海洋地殻は厚さ 5km〜10km である。
地球の半径は 約6400km であるので、地球半径と比べると、地殻は、とてもうすい。
大陸下の地殻を'''大陸地殻'''(たいりく ちかく、continental crust)という。海洋下の地殻を'''海洋地殻'''(かいよう ちかく、oceanic crust)という。
大陸地殻の上部は花こう岩質であり、大陸地殻の下部は、玄武岩(げんぶがん)質である。この上部地殻と下部地殻の境界を'''コンラッド不連続面'''という。
海洋地殻は、ほとんど玄武岩質である。
=== アイソスタシー ===
[[ファイル:Isostasy.svg|thumb|280px|2次元モデルで示したアイソスタシーの説明図。比重の大きいマントルの上に、比重の小さい地殻が浮かんでいる。<br />1: 山岳、2: 高地、3: 普通の大陸、4: 大洋底、5: 海洋面、6: 地殻、7: マントル]]
水には、木などの密度の低い物質が浮かぶ。さて、マントルの密度と比べて、地殻の密度は小さい。よって地殻はマントルの上に浮かぶような浮力を受けていると見なせる。たとえば、海中に氷山が浮かぶようなものである。
さてマントルに浮かぶ地殻について、ある地点の付近での、地殻が安定するためには、力学的に直感的に考えれば、標高の高い地殻は、そのぶん浮力も多く必要なので、地下深くにまで地殻が続いている必要がある。
このような地殻とマントルの、浮力と重力の釣り合いを、'''アイソスタシー'''(isostacy)という。
ある一定深さでは、その地点付近では、ある面にかかる圧力は同じである。
このように地殻が地下まで続いているため、ブーゲー異常については、山などの高い地形がある場所では、アイソスタシーによって地下に密度の低い地殻があるため、山の付近ではブーゲー異常が負になるのが一般である。
{{-}}
=== シャドーゾーン ===
[[File:Earthquake wave shadow zone japanese2.svg|thumb|300px|left|地震のシャドーゾーン]]
走時曲線を分析してみると、震央距離を地球中心からの角度で表した場合(これを角距離(かくきょり)という)、角103°から
先の領域にはS波が伝わらない。この領域を「S波のシャドーゾーン」と言う。また震央距離の角103°から角143°にあたる地域はP波が直接伝わらない。これを「P波のシャドーゾーン」という。結局、角距離103°〜143°にあたる地域ではP波もS波も伝わらない。このような、地震波の伝わらない地域を'''シャドーゾーン'''という。シャドーゾーンのできる理由は、深さ2900kmのあたりで地下の構成物質が変わるため、P波の速度が急に遅くなり、よって物理でいう「波の屈折の法則」により、地震波が地表の方向へと屈折するためである。
[[File:Shadow zone graph diagram japanese.svg|thumb|500px|]]
{{-}}
[[File:Earth-crust-cutaway-japanese.svg|thumb|350px|地球の内部構造]]
この深さ2900kmあたりから、地球内部に向けて存在している物質を'''核'''(かく、英:core '''コア''')という。
マントルと核の境界を'''グーテンベルク不連続面'''という。核の存在は、グーテンベルクによって、1926年に発見された。
復習として、モホロビッチ不連続面は地殻とマントルとの不連続面であることを指摘しておく。
核は、さらに内核と外核に分けられる。これは、P波の速さが5100kmに相当する場所で不連続になるからである。なお、この5100kmにある不連続面を'''レーマン不連続面'''という。
また、外核はS波が伝わらないことから、外核は液体であると考えられている。内核は、P波が速くなることから、固体であると考えられている。
S波は横波であるので、固体にしか伝わることができない。(水面などの表面波は、横波ではなく、べつの機構の波である。) P波は、固体・液体・気体中を伝わる。固い物質ほど、地震波が速く伝わる。
マグマオーシャンから分離した鉄が地球中心部に核を形成したが,時代を経るにつれて冷え,鉄が固体となって中心部に沈み,内核を形成した。
{{-}}
== 地球内部の状態と物質 ==
(※ 範囲外 :)地球の内部には不明な事も多い。
かつて、地球の内部の色は、火山マグマなどの色から類推して、基本的には赤色、高温で光を放ってもせいぜい白色かと思われていた時代もあった。図鑑などでも、赤く描かれた地球中心部の絵などをよく見かけるだろう。
しかし最近では、その赤色説は根拠不十分として、異論や反論も出されている。
地球内部の色は、箇所にもよるが、深さによっては、もしかしたら緑色の部分もあるかもしれない、という説も近年には出されている[https://www.works-i.com/works/series/macro/detail013.html Macro Scope『地球の内部は、キラキラ光る“宝石”だ!』Text=入倉由理子、インタビュー対象・マントル岩石学者 阿部なつ江、] [https://q.hatena.ne.jp/1333285403 『マントルは何色ですか?』、ベストアンサー 2012/04/01 22:37:58]。
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/* 地球内部の状態と物質 */
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== 地球の内部構造 ==
=== 地球内部の層構造 ===
[[File:Travel-time-curve jp.svg|thumb|400px|走時曲線 と モホ面 との関係。]]
地震波の観測によって、地球内部での地震波の伝わる速度が分かる。地震波の速度の解析から、地下の深さ30km〜60kmあたりで、地震波の速度が急激に変化する深さがあることが発見された。これは、地殻とマントルとの境界である。この境界面を'''モホロビチッチ不連続面'''('''モホ面''')(英:Mohorovičić discontinuity)という。モホ面より上が地殻(ちかく、crust)である。モホ面より下をマントル(mantle)としている。
地震波が観測地点に到達するまでの時間を'''走時'''(そうじ)という。
横軸に震央からの距離を取り、縦軸に走時を取ってグラフにしたものを'''[[走時曲線]]'''(そうじきょくせん)という。
地殻の厚さは、大陸の地殻と海洋下の地殻とでは、厚さが大きく違う。
一般に大陸地殻は厚さ 30km〜60km であり、海洋地殻は厚さ 5km〜10km である。
地球の半径は 約6400km であるので、地球半径と比べると、地殻は、とてもうすい。
大陸下の地殻を'''大陸地殻'''(たいりく ちかく、continental crust)という。海洋下の地殻を'''海洋地殻'''(かいよう ちかく、oceanic crust)という。
大陸地殻の上部は花こう岩質であり、大陸地殻の下部は、玄武岩(げんぶがん)質である。この上部地殻と下部地殻の境界を'''コンラッド不連続面'''という。
海洋地殻は、ほとんど玄武岩質である。
=== アイソスタシー ===
[[ファイル:Isostasy.svg|thumb|280px|2次元モデルで示したアイソスタシーの説明図。比重の大きいマントルの上に、比重の小さい地殻が浮かんでいる。<br />1: 山岳、2: 高地、3: 普通の大陸、4: 大洋底、5: 海洋面、6: 地殻、7: マントル]]
水には、木などの密度の低い物質が浮かぶ。さて、マントルの密度と比べて、地殻の密度は小さい。よって地殻はマントルの上に浮かぶような浮力を受けていると見なせる。たとえば、海中に氷山が浮かぶようなものである。
さてマントルに浮かぶ地殻について、ある地点の付近での、地殻が安定するためには、力学的に直感的に考えれば、標高の高い地殻は、そのぶん浮力も多く必要なので、地下深くにまで地殻が続いている必要がある。
このような地殻とマントルの、浮力と重力の釣り合いを、'''アイソスタシー'''(isostacy)という。
ある一定深さでは、その地点付近では、ある面にかかる圧力は同じである。
このように地殻が地下まで続いているため、ブーゲー異常については、山などの高い地形がある場所では、アイソスタシーによって地下に密度の低い地殻があるため、山の付近ではブーゲー異常が負になるのが一般である。
{{-}}
=== シャドーゾーン ===
[[File:Earthquake wave shadow zone japanese2.svg|thumb|300px|left|地震のシャドーゾーン]]
走時曲線を分析してみると、震央距離を地球中心からの角度で表した場合(これを角距離(かくきょり)という)、角103°から
先の領域にはS波が伝わらない。この領域を「S波のシャドーゾーン」と言う。また震央距離の角103°から角143°にあたる地域はP波が直接伝わらない。これを「P波のシャドーゾーン」という。結局、角距離103°〜143°にあたる地域ではP波もS波も伝わらない。このような、地震波の伝わらない地域を'''シャドーゾーン'''という。シャドーゾーンのできる理由は、深さ2900kmのあたりで地下の構成物質が変わるため、P波の速度が急に遅くなり、よって物理でいう「波の屈折の法則」により、地震波が地表の方向へと屈折するためである。
[[File:Shadow zone graph diagram japanese.svg|thumb|500px|]]
{{-}}
[[File:Earth-crust-cutaway-japanese.svg|thumb|350px|地球の内部構造]]
この深さ2900kmあたりから、地球内部に向けて存在している物質を'''核'''(かく、英:core '''コア''')という。
マントルと核の境界を'''グーテンベルク不連続面'''という。核の存在は、グーテンベルクによって、1926年に発見された。
復習として、モホロビッチ不連続面は地殻とマントルとの不連続面であることを指摘しておく。
核は、さらに内核と外核に分けられる。これは、P波の速さが5100kmに相当する場所で不連続になるからである。なお、この5100kmにある不連続面を'''レーマン不連続面'''という。
また、外核はS波が伝わらないことから、外核は液体であると考えられている。内核は、P波が速くなることから、固体であると考えられている。
S波は横波であるので、固体にしか伝わることができない。(水面などの表面波は、横波ではなく、べつの機構の波である。) P波は、固体・液体・気体中を伝わる。固い物質ほど、地震波が速く伝わる。
マグマオーシャンから分離した鉄が地球中心部に核を形成したが,時代を経るにつれて冷え,鉄が固体となって中心部に沈み,内核を形成した。
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== 地球内部の状態と物質 ==
(※ 範囲外 :)地球の内部には不明な事も多い。
かつて、地球の内部の色は、火山マグマなどの色から類推して、基本的には赤色、高温で光を放ってもせいぜい白色かと思われていた時代もあった。図鑑などでも、赤く描かれた地球中心部の絵などをよく見かけるだろう。
しかし最近では、その赤色説は根拠不十分として、異論や反論も出されている。
地球内部の色は、箇所にもよるが、深さによっては、もしかしたら緑色の部分もあるかもしれない、という説も近年には出されている[https://www.works-i.com/works/series/macro/detail013.html Macro Scope『地球の内部は、キラキラ光る“宝石”だ!』Text=入倉由理子、インタビュー対象・マントル岩石学者 阿部なつ江、] [https://q.hatena.ne.jp/1333285403 『マントルは何色ですか?』、ベストアンサー 2012/04/01 22:37:58]。
かんらん岩は基本的に緑色であるのだが、上部マントルの主成分がかんらん岩なのだから、「もしかしたら深さによっては地球内部は緑色なのでは?」というのが、緑色説の基本的な考えである。なお、数千度もの高温になると物体は光を放ち、その温度によっても色は変わるので、実際の色はもっと複雑であるという可能性もある。
高校生としては、「地球の内部は○○だ」と単に暗記するのではなく、上述のように「なぜ○○だと判断できるのか?」と科学的に根拠をもって考えるようにしたい。
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== 地球の内部構造 ==
=== 地球内部の層構造 ===
[[File:Travel-time-curve jp.svg|thumb|400px|走時曲線 と モホ面 との関係。]]
地震波の観測によって、地球内部での地震波の伝わる速度が分かる。地震波の速度の解析から、地下の深さ30km〜60kmあたりで、地震波の速度が急激に変化する深さがあることが発見された。これは、地殻とマントルとの境界である。この境界面を'''モホロビチッチ不連続面'''('''モホ面''')(英:Mohorovičić discontinuity)という。モホ面より上が地殻(ちかく、crust)である。モホ面より下をマントル(mantle)としている。
地震波が観測地点に到達するまでの時間を'''走時'''(そうじ)という。
横軸に震央からの距離を取り、縦軸に走時を取ってグラフにしたものを'''[[走時曲線]]'''(そうじきょくせん)という。
地殻の厚さは、大陸の地殻と海洋下の地殻とでは、厚さが大きく違う。
一般に大陸地殻は厚さ 30km〜60km であり、海洋地殻は厚さ 5km〜10km である。
地球の半径は 約6400km であるので、地球半径と比べると、地殻は、とてもうすい。
大陸下の地殻を'''大陸地殻'''(たいりく ちかく、continental crust)という。海洋下の地殻を'''海洋地殻'''(かいよう ちかく、oceanic crust)という。
大陸地殻の上部は花こう岩質であり、大陸地殻の下部は、玄武岩(げんぶがん)質である。この上部地殻と下部地殻の境界を'''コンラッド不連続面'''という。
海洋地殻は、ほとんど玄武岩質である。
=== アイソスタシー ===
[[ファイル:Isostasy.svg|thumb|280px|2次元モデルで示したアイソスタシーの説明図。比重の大きいマントルの上に、比重の小さい地殻が浮かんでいる。<br />1: 山岳、2: 高地、3: 普通の大陸、4: 大洋底、5: 海洋面、6: 地殻、7: マントル]]
水には、木などの密度の低い物質が浮かぶ。さて、マントルの密度と比べて、地殻の密度は小さい。よって地殻はマントルの上に浮かぶような浮力を受けていると見なせる。たとえば、海中に氷山が浮かぶようなものである。
さてマントルに浮かぶ地殻について、ある地点の付近での、地殻が安定するためには、力学的に直感的に考えれば、標高の高い地殻は、そのぶん浮力も多く必要なので、地下深くにまで地殻が続いている必要がある。
このような地殻とマントルの、浮力と重力の釣り合いを、'''アイソスタシー'''(isostacy)という。
ある一定深さでは、その地点付近では、ある面にかかる圧力は同じである。
このように地殻が地下まで続いているため、ブーゲー異常については、山などの高い地形がある場所では、アイソスタシーによって地下に密度の低い地殻があるため、山の付近ではブーゲー異常が負になるのが一般である。
{{-}}
=== シャドーゾーン ===
[[File:Earthquake wave shadow zone japanese2.svg|thumb|300px|left|地震のシャドーゾーン]]
走時曲線を分析してみると、震央距離を地球中心からの角度で表した場合(これを角距離(かくきょり)という)、角103°から
先の領域にはS波が伝わらない。この領域を「S波のシャドーゾーン」と言う。また震央距離の角103°から角143°にあたる地域はP波が直接伝わらない。これを「P波のシャドーゾーン」という。結局、角距離103°〜143°にあたる地域ではP波もS波も伝わらない。このような、地震波の伝わらない地域を'''シャドーゾーン'''という。シャドーゾーンのできる理由は、深さ2900kmのあたりで地下の構成物質が変わるため、P波の速度が急に遅くなり、よって物理でいう「波の屈折の法則」により、地震波が地表の方向へと屈折するためである。
[[File:Shadow zone graph diagram japanese.svg|thumb|500px|]]
{{-}}
[[File:Earth-crust-cutaway-japanese.svg|thumb|350px|地球の内部構造]]
この深さ2900kmあたりから、地球内部に向けて存在している物質を'''核'''(かく、英:core '''コア''')という。
マントルと核の境界を'''グーテンベルク不連続面'''という。核の存在は、グーテンベルクによって、1926年に発見された。
復習として、モホロビッチ不連続面は地殻とマントルとの不連続面であることを指摘しておく。
核は、さらに内核と外核に分けられる。これは、P波の速さが5100kmに相当する場所で不連続になるからである。なお、この5100kmにある不連続面を'''レーマン不連続面'''という。
また、外核はS波が伝わらないことから、外核は液体であると考えられている。内核は、P波が速くなることから、固体であると考えられている。
S波は横波であるので、固体にしか伝わることができない。(水面などの表面波は、横波ではなく、べつの機構の波である。) P波は、固体・液体・気体中を伝わる。固い物質ほど、地震波が速く伝わる。
マグマオーシャンから分離した鉄が地球中心部に核を形成したが,時代を経るにつれて冷え,鉄が固体となって中心部に沈み,内核を形成した。
{{-}}
== 地球内部の状態と物質 ==
(※ 範囲外 :)地球の内部には不明な事も多い。
かつて、地球の内部の色は、火山マグマなどの色から類推して、基本的には赤色、高温で光を放ってもせいぜい白色かと思われていた時代もあった。図鑑などでも、赤く描かれた地球中心部の絵などをよく見かけるだろう。
しかし最近では、その赤色説は根拠不十分として、異論や反論も出されている。
地球内部の色は、箇所にもよるが、深さによっては、もしかしたら緑色の部分もあるかもしれない、という説も近年には出されている[https://www.works-i.com/works/series/macro/detail013.html Macro Scope『地球の内部は、キラキラ光る“宝石”だ!』Text=入倉由理子、インタビュー対象・マントル岩石学者 阿部なつ江、] [https://q.hatena.ne.jp/1333285403 『マントルは何色ですか?』、ベストアンサー 2012/04/01 22:37:58]。
かんらん岩は基本的に緑色であるのだが、上部マントルの主成分がかんらん岩なのだから、「もしかしたら深さによっては地球内部は緑色なのでは?」というのが、緑色説の基本的な考えである。なお、数千度もの高温になると物体は光を放ち、その温度によっても色は変わるので、実際の色はもっと複雑であるという可能性もある。
このように、地球の内部の状態や成分については、実は現代科学でも不明な部分は多い。教材によっては「地球の内部は○○だ」と断言している場合もあるが、しかし断言されている内容はあくまで仮説でしかない。
現代の科学で確実に分かっているのは、採掘が可能な地表付近の部分だけでしかない。それよりも深い部分は、科学者たちの仮説という想像の産物でしかない。
たとえば、地球以外の太陽や金星・火星などの研究成果を活用して地球の内部を想像しようにも、「そもそも太陽(または火星や金星)の学説をそのまま地球に当てはめていいのか?」といった事すらも、証明が不可能または困難な状態である。そしてその太陽や火星や金星の構造すらも、ほとんどは仮説でしかない。
地球外の天体で解明されているのは、地球から天体望遠鏡などで観測できる部分と、火星や金星ならNASAなどの探査機で具体的に降り立つなどして成分採取したりした部分しか、人類は解明できていない。
どんなに偉い肩書きの立派な学者が「火星は○○です」など断言しようにも、実際に人類が実験や観測や採取などを具体的かつ直接的に対象物に行って証明された事以外は、科学においては本来は仮説でしかない。たとえ、間接的な実験によって多く補強されていて「いかにもありそうな仮説」であっても、あるいは数学や物理学などの先端の数式を駆使して裏づけされた仮説でも、直接的な実験や観測や採取をともなわないかぎりは「よくできた仮説」でしかない(残念ながら小中高レベルの地球科学や天文学などでは、ときどき、この原則がうやむやになりやすいが。大学教養の地球科学ですら、あまりこの原則は守られていない)。
高校生としては、「地球の内部は○○だ」と単に暗記するのではなく、上述のように「なぜ○○だと判断できるのか?」と科学的に根拠をもって考えるようにしたい。なぜなら、そうしないと(学説の根拠を把握するようにしないと)、もしも定説が変わったときに、今までの暗記が無意味になる。なにより、自然の科学的真実を追及するのではなく科学出版物の流行を追及してしまうのは、本末転倒であろう。
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高校英語の文法
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<!-- このページには導入部がありません。適切な導入部を作成し、このコメントを除去してください。 -->
== 目次 ==
* [[高校英語の文法/文の種類]]
* [[高校英語の文法/動詞と文型]]
* [[高校英語の文法/時制]] ※ 参考書によって微妙に単元名が異なるので暫定
* [[高校英語の文法/完了形]]
* [[高校英語の文法/助動詞]]
* [[高校英語の文法/不定詞]]
* [[高校英語の文法/動名詞]]
*
* [[高校英語の文法/比較]]
* [[高校英語の文法/関係詞]]
* [[高校英語の文法/仮定法]]
* [[高校英語の文法/名詞]]
* [[高校英語の文法/冠詞]]
*
* [[高校英語の文法/否定]]
* [[高校英語の文法/接続詞]]
* [[高校英語の文法/前置詞]]
その他 [[高等学校英語/文法用語の英単語]] 「名詞」Noun など(入試には出ないので覚える必要は無い)
== 文の構造 ==
=== 文の要素 ===
文の構造を知るためには、文がどのような要素で成り立っているのかを知らなければならない。
==== 主語と述語動詞 ====
# '''The old man''' ''is'' a famous singer.
# '''My sister''' ''studied'' math.
## 訳例:その老人'''は'''有名な歌手'''だ'''。
## 訳例:私の姉'''は'''数学を研究'''していた'''。
1の文は「AはBだ」という文であり、2の文は「AはCする」という文である。どちらも
# 「…は」「…が」という主題の部分
# 「~である」「~する」という主題が何であるかについて述べる部分
の二つが共通している。
この場合、1を'''主部'''といい、2を'''述部'''という。
そして、主部の中心となる語を'''主語'''(Subject)といい、述部の中心となる部分を'''述語動詞'''(Predicate Verb略して'''動詞'''('''Verb'''))という。
たとえば上記「私の姉」以下略の場合、 sister を主語、My sister を主部と分類する場合もある。
だが、主部のことを主語という場合もある(文英堂インスパイア)。
以下では、述語動詞は原則として単に動詞と呼ぶ。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|-
! || - || 主語 || 述語動詞 || -
|-
| -
| colspan="2" | 主部
| colspan="2" | 述部
|-
| 1.
| The old
| man
| is
| a famous singer.
|-
| 2.
| My
| sister
| studied
| math.
|}
主語は単に'''S'''で表し、動詞は'''V'''で表す。
==== 目的語 ====
# He ''has'' '''a personal computer'''.
# We ''played'' '''soccer'''.
# Everone ''likes'' '''Sushi'''.
## 訳例:彼はパソコン'''を'''持っている。
## 訳例:私たちはサッカー'''を'''した。
## 訳例:みんなが寿司'''を'''好む。
いずれの文の動詞も「~を」という、動作の対象が必要である。このような動作の対象を表す語を'''目的語'''(Object)といい、'''O'''で表す。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|-
! || 主語 || 動詞 || 目的語
|-
| -
| colspan="1" | 主部
| colspan="2" | 述部
|-
| 1.
| He
| has
| a personal computer.
|-
| 2.
| We
| played
| soccer.
|-
| 3.
| Everone
| likes
| Sushi.
|}
このような、'''S+V+O'''という形の文は英文の基本形の一つである。
==== 補語 ====
# Mary ''is'' '''happy'''.
# John ''became'' '''a doctor'''.
## 訳例:メアリーは幸せだ。
## 訳例:ジョンは医者になった。
これらはいずれも主語の状態を説明した文であるが、isやbecomeで文を切ると意味をとれない。happyやa doctorという、主語の様子をおぎなう語があって初めて意味のある文となる。このように、主語の様子について説明する語を'''補語'''(Complement)という。補語は'''C'''で表される。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|-
! || 主語 || 動詞 || 補語
|-
| -
| colspan="1" | 主部
| colspan="2" | 述部
|-
| 1.
| Mary
| is
| happy.
|-
| 2.
| John
| became
| a doctor.
|}
このような'''S+V+C'''の文も基本的な文の一つである。なお、後で学ぶように、補語は主語の様子だけでなく目的語の様子を説明する場合もある(例文:I call him Sensei.(私は彼を先生と呼ぶ))。
==== まとめ ====
文の要素を表す記号をまとめると、
主語 '''S''' (Subject) / 動詞 '''V''' (Verb) / 目的語 '''O''' (Object) / 補語 '''C''' (Complement) / 修飾語 '''M''' (Modifier)
である。
subject や verb などの単語は、青チャート、文英堂インスパイア、いいずな出版エバーグリーン、などで紹介されている。一方、大修館書店ジーニアス、桐原ファクトブックには無い。
「主部」と「主語」は厳密には異なるが、しかしSVOO文型やSVC文型など文型について言う場合、主部のことも含めて「主語」と呼んでよい。参考書もそうなっている。
文法用語でいう修飾語(Modifier)には副詞と形容詞があるが、しかし文型の理論でいう記号 '''M''' は副詞だけに限定するのが一般的である(インスパイア)。
また、よく記号Mを「修飾語」というが、実際には1単語の「語」だけでなくとも、複数の語からなる副詞句や副詞節でも「修飾語」といって記号 M で表す(インスパイア)。
== 動詞の用法 ==
=== 助動詞 ===
=== 態 ===
==== 受動態 ====
;どういうときに受動態を使うか。
動作主が不明な場合、
動作主をぼかしたい場合(ジーニアス)、
動作主に興味が無い場合(インスパイア)、
and接続詞のある文などで、形容詞をつかった「 be +形容詞」型の文章と並列させたい場合、受動態を使うことで「 It is 形容詞 and is 過去分詞(受動態)」のように主語を同じままで並列できて読みやすくなる(ジーニアス)。
;by以外の動作主の前置詞
受動態にて動詞主をあらわす前置詞は一般的には by であるが、
しかし be known to ~ (知られている)や be covered with (~で覆われている)など、意味や動詞によっては前置詞がすでに決まっている。ほか、
be caught in ((にわか雨などに)あう)、
be filled with (~で満たされている)、
などが、そういったby以外が決まっている動詞(青チャート、ジーニアス)。
なお、by で表せるような動詞の受動態の場合、動作主が一般の人である場合は、byおよび動作主を省略することもある(青チャート)。
;感情と受動態
感情を表す be surprised at (驚く)などを、一説には、形容詞ではなく受動態であると見なす場合もある(ジーニアス、青チャート)。
be pleased with / be delight with 「~で喜ぶ」、
be satisfied with 「~に満足する」、
be disappointed at / in / with 「~に落胆する」
be interested in 「~に興味を持つ」、
be amused at/with 「~を楽しむ」、
be amazed at 「~に驚嘆している」、※ ジーニアス
be worried about 「~を心配している」、
==== 助動詞と組み合わさった受動態 ====
He could be seen by her.
受動態の文を作るときには、その文の述語は必ずbe動詞の節になるが、be動詞に対して助動詞を用いたり、時制の変化をさせることも普通に行なわれる。
この時には、例えば
He is seen by her.
という文が
He could be seen by her.
の様にbe動詞は、助動詞+beの形で書き換えられる。これは、be動詞の原形が
beで与えられることによる。同じ様に例えば、
might be
may be
must be
will be
なども用いることが出来る。また、過去形や現在完了と組み合わせるときにも通常の規則に従えばよい。例えば、上の文では
He was seen by her.
He has been seen by her.
などとなる。been は be の過去分詞である。ここで、be が過去分詞 been になったのは、現在完了を作るためであり、see が過去分詞 seen になったのは、受動態を作るためであることに注意。
=== 分詞 ===
== さまざまな構文 ==
=== 分詞構文 ===
分詞構文は現在分詞や過去分詞を用いて、従属の接続詞節のような意味を持つ文の成分を作る用法である。例文として、
Crying out something, he quickly runs away.
がある。この文は「何かを叫びながら、彼は素早く逃げていった。」という
意味だが、この様な文は例えば接続詞whileを用いて、
While he cries out something, he quickly runs away
接続詞を取る。
He cries out something, he quickly runs away.
主語を取る。
Cries out some thing, he guickly runs away.
動詞を現在分詞形にする。
Crying out some thing, he quickly runs away.→'''これで完成!'''
などとすることが出来る。分詞構文は文の前後関係から、省略される接続詞が予測できると考えられるとき、接続詞と主語を省略することによって
得られる。ただし、接続詞無しで節を作ることは出来ないことから、接続詞節の述語は対応する現在分詞になるのである。上の例文は
while を用いた文から接続詞 while を省き、述語 cries を現在分詞 crying にすることに
よって得たものと解釈出来る。ただし、元の従属接続詞節に対応する主文の主語と接続詞節の主語が等しいときには、現在分詞の主語は
省略出来る。上の文で while 節の主語に対応する語が無いのはこのことからである。
主節の主語と従属節の主語が異なっているときには、分詞構文の主語として対応する従属節の主語を所有格として与える。例えば、上の例で主語を省略せず書くと、
His crying out something, ... のようになる。
一般に現在分詞の主語を指定するときは通常所有格を用いる。
分詞構文で省略される接続詞には主なものとして、
because, since, as: 〜だから(理由)
when, as, while: 〜のとき(ある時点)
などがあげられる。
分詞構文になる従属節では述語がbe動詞であることがある。
このときにも上の規則に従って、Being -,によって分詞構文が作られることも多い。
==== 分詞構文の受動態 ====
特にbe動詞に対応する補語が受動態であったり、形容詞であるときには、beingを省いて過去分詞、もしくは形容詞から分詞構文が
始まることも多い。
(Being) seen from airport, everything looked small.(飛行機から見ると、全てのものが小さく見えた)
The assignment (being) finished, we went on a hike to the nearby mountain.(その課題が終わってから、私たちは近くの山へハイキングへ行った。)
このときには、be動詞と接続詞、必要なら対応する主語も補って考える必要がある。ただし、この様な省略がなされるのは、あくまで省略されたものが文脈からすぐに分かる時のみである。
=== 話法 ===
=== 会話表現 ===
== 品詞 ==
=== 代名詞 ===
==== 未分類 ====
中学校では「代名詞」として、 he や she や we など、基本的な代名詞を習う。
もちろんそれも代名詞であるが、しかしそれ以外にも多くの代名詞がある。
たとえば the same (「同じもの」の意味)も代名詞である(青チャート、ジーニアス)。なぜなら、the same は、なにか具体的な名詞を言う代わりとして使われるのだから、the same も立派な代名詞である。
このように、代名詞は別に一語でなくても構わない。
なお、形容詞的に the same の直後につづけて名詞が来る場合もあり、「the same ~ as ・・・(名詞または代名詞)」で、「・・・と同じ ~」の意味。
こちらの構文では the same は代名詞というよりも形容詞としての用法だが、市販の参考書では都合上、代名詞の章でいっしょにthe same ~ as の構文も教えているのが通例である。
ともかく例文は、たとえば
the same ~ as yours で「あなたのと同じ~」の意味(ジーニアス、エバーグリーン)。
the same shoes as yours なら「あなたのと同じ靴」だし(エバー)、
the same computer as yours なら「あなたのと同じコンピュータ」である(ジーニアス)。
一方、慣用的に、節が続く場合は as ではなく that の場合が多く
the same man that I saw yesterday で「昨日見かけたのと同じ男の人」の意味だし(エバーの和訳を少し改造)、
the same song that I heard yesterday で「昨日聞いたのと同じ曲」の意味(ジーニアス)。
のように、
「the same ~ that ・・・(節)」
というのもある。
ただし、節が続く場合でも、べつに as を使ってもかまわず、つまり「 the same ~ as ・・・(節)」としてもマチガイではない(ブレイクスルー)。
those who ~ で「~な人々」の意味の代名詞である。
たとえばエバーグリーンいわく、 those who wish to smoke で「たばこを吸いたい人々」である。
such は代名詞として「そのようなもの」「そのような人」として扱われる場合もある。
たとえば
He is an adult now, and should be treated as such. 「彼はもう大人なのだから、そのように扱うべきだ。」 ※ジーニアス
He is mere child, and should be treated as such. 「彼はまだほんの子供だから、子供として扱ってやるべきだ。」 ※青チャート
のように such はよく as such などとして使われる。
==== some と any ====
{| class="wikitable" style="left"
|+ 複合不定代名詞
! !! some- !! any- !! no- !! every-
|-
! 人<br> -one<br> -body
| someone <br> somebody<br>(だれか) || anyone <br> anybody<br>(だれか、だれでも) || no one (※ 離して書く)<br> nobody<br>(だれも~ない) || everyone<br> everybody<br>(だれでも)
|-
! 物<br>-thing
| something || anything || nothing || everything
|-
|}
some にも any にも「いくつかの」という意味がある。
よく参考書では、「 some は肯定文で使う。anyは疑問文・否定文で使う」などと習う(青チャート、ジーニアスなど)。
しかし桐原ファクトいわく、anyの基本的な意味は「どれでも」の意味である。any の「いくつかの」の意味は、「どれでも」の派生だと思うほうが良いだろう。
some と any の区別で悩んだ場合は、この「どれでも」の意味を基準に考えると良い。
だから肯定文であっても、「どれでも」の意味の形容詞には any を使う。
桐原ファクトいわく、疑問文で any を使う場合でも、ニュアンス的には「どれでも」の意味があるのが実際とのこと。否定文の any も同様。
この any の基本的な意味が「どれでも」の説に立てば、たとえば熟語 not ~ any が形容詞 no と同じ意味だということも、 not ~ any は「どれでもいいので存在してほしい(any)という事についてすら、それが成り立たない(not)。 → つまり無い」というふうに理解できます。
なお、any の後ろに否定語を置くのは禁止されている(ジーニアス、青チャート)。
ほか、慣用的な表現として、よくお茶などやコーヒーの飲み物をすすめる際に、
Would you like some coffee? 「コーヒーはいかがですか」(桐原ファクト)
Would you like some more tea? 「お茶のお代わりはいかがですか」(青チャート)
のようにsome を使う。
青チャートいわく、some は、答えが Yes であることを期待しているニュアンスのある表現とのこと。そういう用法もある。なので、人にものを勧めるからには、some で質問しないと失礼になるので、someを使うのが当然とのこと。
実際にはsome も any もけっして意味中立的な表現ではなく、それぞれニュアンスがあるので、some と any を完全に使い分けるのは難しいだろう。
参考書にあるような代表的な事例についてだけ、some とanyを使い分ければ、とりあえずは平気だろう。
somebody と anybody などの使い分けも、上記の some と any に準じる(桐原ファクト)。
たとえば「誰かに出会いました」といいたい場合は、somebody を使うべきだと桐原は言っている。これがもしanybodyだと 「誰でもいいのですが、その人に会いました」(原文ママ(桐原))という内容の意味不明の文章になってしまうことからも分かるとして、桐原ファクトは誰かに会った事を言いたい場合には somebody を使うべきだと言っている。
所有格については、-body や -thing の末尾に 's をつければいい(インスパ)。
Everybody's business is nobody's business. 「みなの仕事は誰の仕事でもない」(直訳)→「共同責任は無責任」(ことわざ)
※ 「共同責任は無責任」の部分がことわざ。青チャートおよびインスパイアがこの ことわざ を紹介。
;慣用句など
He is something of musician. 「彼はちょっとした音楽家だ」 ※青チャ、インスパ、ロイヤル
something of a 「少しは~である」※青チャ、「ちょっとした~」※インスパ、
He thinks he is something. 「彼は自分を立派な人だと思っている」
「He thinks himself somebody. 」などでも同じ意味。
somebody または something で「立派な人」の意味(青チャート)。
逆に、nobody または nothing には「とるにたらない人」の意味がある(青チャート、ロイヤル)。
be something like または look something like で「少し似ている」の意味(青チャ、ロイヤル)。
==== every とall の違い ====
「すべての」という意味での every は形容詞であるが(インスパイア)、市販の参考書では便宜的に代名詞の章で紹介される。形容詞なので、every 単独ではあつかわれず、必ず直後に名詞または代名詞をともなう(インスパイア)。
every には「すべての」の意味もある(桐原ファクト、インスパイア)。しかし every と all には、ニュアンスの違いが明確に存在する。
また、every の後ろは単数形でなければならない。
every は、その全部を構成する一つ一つに関心がある文脈の場合に用いられる(桐原ファクト)。だから every で形容される名詞は必ず単数形でなければならないのも当然である(桐原ファクト)。また、everyは例外がないことを強調している(ジーニアス)。
each は2つ以上、every は3つ以上のものについて使用する。
なお、each は比較的に小さい個数のものに使い、everyは比較的に大きい数のものに使う(ジーニアス)。 each の使用対象はべつに2個限定でなくても構わない。
every と all には、こういったニュアンスの違いがあるので、参考書によってはevery の標準的な和訳を「すべての」以外で紹介する参考書も多い。
たとえば「あらゆる」「どの~も」という訳で every を紹介する参考書がよくある(青チャート、ブレイクスル-)。
なお、every には別の用法で「~(数詞のつく名詞)ごとに」の意味もあり、この場合は複数形になる。
たとえば every six hours で「6時間ごとに」である(ブレイクスルー)。 every four years で「四年ごとに」である(エバーグリーン)、なおオリンピックが四年ごとに開かれる という文章。
なお、「一日おきに」は every other day である(インスパイア)。
{{コラム|every child を受ける代名詞は he か she か?|
桐原ファクトに書いてあるのですが、男女のどちらの場合もある単数の名詞について、それを代名詞で受ける際、
he か she かが、時代とともに変わっていきました。
もともとは、男女不明などの場合は、とりあえず he で代名詞を受けていました(桐原ファクト)。
だから every child も he で受けていました。
しかし、それが男女平等の観点に反するという意見が多くなり、近年になって、「 he/ she 」などと受ける代名詞が変わってきました。
「he / she 」はhe or she と読みます。
しかし、長くなるので会話などで不便でした(桐原ファクト)。
その不便さを解消するためか、さらに最近では、単数形であることを無視して every child のような名詞でも they で受けています(桐原ファクトの 2022年 第2版で確認)。
each も同様、最近では they で受けます(桐原ファクト)。
:※ 上記のような説が有名であるが、それに対する若干の異論もある。それは
「もともと he は男の代名詞ではなく性別不明の代名詞であり、もし、男である何らかの名詞についてそれを代名詞で受ける場合については、とりあえず性別不明の代名詞である he を当てるというルールだった」というような説です。
ツイッターで東大の地震学の教授・[[w:ロバート・ゲラー]]がそのような主張をしています。 [https://twitter.com/rjgeller/status/1062486963242979328 Robert Geller@rjgeller 午前8:26 · 2018年11月14日]
おおむね、その教授はおおむね「自分は50年前の高校生のときにそう習った(heは性別不明の代名詞だと習った)」(※ 日本語として読みやすくなるようにwiki側で文章を修正。正確な文章については参照元を読むこと)とツイッターで主張していました。
この場合でも男女は不平等であります。しかし、女性差別とは言いがたい実態になります。
つまり、「女性を無視して男性を意味する he を使っていたのではなく、そもそも he は男女不明の代名詞であったが、女性専用の she という代名詞が存在していたため、あとからhe に男性の意味がついてきた。なのに『性別不明の名詞に he を使う事を女性差別だ』というフェミニズム言説は間違っている」という説です。
もしこの説「he は性別不明の代名詞だった」論のとおりなら(この説が間違っている可能性もありますので、どちらかに決め付けないように)、現代の各国の英語教育が、フェミニズミム運動などに配慮して代名詞 he の歴史の説明について、若干のウソをついている事になる可能性があります。
どちらの場合にせよ(数学の確率問題の場合わけのように、マジメに検証する人は両方の可能性を検討する)、参考書の桐原ファクトをよく読めば、性別不明の代名詞 he → he/she → they の変遷について「男女平等」という表現は説明に用いていますが、しかし「女性差別」という表現は用いていません。桐原ファクトの著者たちは、なかなか優秀です。こういう何気ない言葉の端々に、参考書の著者の優秀さが現れます。
まあ、私たちは背景事情にまでは深入りする必要はありません。上記のような異論もあることも承知した上で、異論もふくめた両者の合意である he → he/she → they という性別不明の単数代名詞の客観的事実を覚えれば済みます。
}}
==== その他 ====
「those who ~」で「~する人々」
Heaven helps those who help themselves. 「天はみずから助くる者を助く。」(ことわざ) ※ 青チャート
So do I. 「私もです。」
「So 動詞+主語」 か「So 主語+動詞」かで意味が違う。
「So 動詞+主語」は、「主語もです」の意味。
「So 主語+動詞 」 は「主語は確かにそうだ」の意味(インスパ代名詞、ジーニアス副詞)。
例文を出せば、たとえば
So he is. 「確かに彼はそうだ」
Tom is kind. 「トムは親切だ。」
- So he is. 「確かに彼はそうだ(=彼・トムは親切だ)。」
- So is John. 「ジョンもそうです。(=トムだけでなくジョンも親切ですよ)」
のような違いがある。
Tom can French well. 「トムはフランス語を上手に話せます」
- So he can. 「確かに彼はそうだ」
- So can John. 「ジョンもフランス語が上手ですよ」
※ 青チャにcanで似た例文
=== 形容詞・副詞 ===
;副詞の位置
副詞の位置がどこに来るかについて、単語や文章によって様々である。
通常、英語では副詞の位置は、修飾対象に前置きである。
しかし very much や from time to time など複数語から構成される副詞表現になると、通常は文末または修飾対象の後ろに置かれるのが通常である(桐原ファクト)。
== 名詞構文・無生物主語 ==
=== 名詞構文 ===
=== 無生物主語 ===
The road takes you to the station. 「その道を歩いていくと駅につきます。」
The bus takes you to the station. 「そのバスに乗れば駅に行きます。」
take は「連れて行く」の意味だが、交通機関などを主語にして使うことも出来る。その場合は、たとえば道なら「その道を行けば、~につきます」のような意味になる。
takes の代わりに will take としても良い(ロイヤル英文法)。
「remind 人 of」 で「人に~を思い出させる」の意味である。
This picture reminds me of vacation in Greece. 「その写真を見ると、ギリシャでの休日を思い出す。」
This picture reminds me of holidays in London. 「その写真を見ると、ロンドンでの休日を思い出す。」
なお、大修館ジーニアスだとロンドン、桐原フォレストだとギリシャの例文。
「deprived 人 of ~」 「(機会などが)うばわれる」
The knee injury deprived him of the chance to play in the final game. 「ひざのけがのため、彼は決勝戦に出場する機会を失った。」
または
The knee injury deprived the player of the chance to play in the game. 「ひざにけがをしたため、その選手は試合に出場する機会を失った。」
のように例文が参考書によくある。
enable ~ は、「~をできるようにする」「~を可能にする」の意味。「~のおかげで、・・・できるようになった」と訳すことができる。
The scholarship enabled him to go on to university. 「その奨学金のおかげで彼は大学へ進学できた。」
ジーニアス、ロイヤルに scholarship の似た例文。
== 疑問詞 ==
疑問詞は、'''疑問代名詞'''と'''疑問副詞'''に分けられる。
下記に疑問代名詞の一覧の表を示す。
{| class="wikitable" style="float:left"
|+ 疑問代名詞の種類
! !! 主格 !! 所有格 !! 目的格
|-
! 人
| who (だれが) || whose (だれの(もの)) || who / whom (だれを、だれに)
|-
! 人、事物
| what (何が) || ない || what (何を、何に)
|-
! 人、事物
| which || ない || which (どれを、どちらに)
|}
{{-}}
what, which には所有格が無い(青チャ、ロイヤル)。
what, which, whose は疑問形容詞としても用いられる(青チャ、ブレイクスルー)。※ ブレイクスルーでは、一覧表の直後で章が変わり、疑問形容詞の章になる。
上記の一覧表は、あくまで疑問代名詞のみである。
疑問副詞については、まったく言及していない。
{{-}}
インスパイア、青チャート、ブレイクスルー、ロイヤルには上記のような疑問詞の一覧表がある。
ジーニアス、エバーグリーン、桐原ファクトには無い。
=== 前置詞と疑問詞 ===
Where are you from? 出身はどちらですか?
文法上、ここでの Where は副詞であり、「疑問副詞」というのに分類される(ロイヤル)。
中学校では主語を you にした例を中心にWhereの疑問文を教わったかもしれないが(中学の1年くらいだと、まだ3人称をあまり習ってないなどの教育的理由があるので)、もちろん he や she などを主語にしても where を使った質問は使用可能である(青チャ)。
Where does he live in? 「彼はどこに住んでいますか」
- Los Angels. 「ロサンゼルスです」
のようにyou以外にも he やsheなどでも言うことも可能。
さて、「Where are you from?」 について前置詞 from に注目しよう。
もしかしたら中学高校などで「前置詞は名詞や代名詞の前に移動するのが原則」とか習うかもしれないが、しかし前置詞をけっしてfromの前に移動しない。
なので、Where は副詞であると考えたほうが理解しやすいだろう。(これとは別の解釈で、そもそも「副詞には前置詞がいらない」という考えから副詞ではなく代名詞としての機能だと考える立場もあり、ジーニアスやロイヤルやフォレストがそういう立場。だが、机上の空論だろう。)
なお、法学など幾つかの学問では、『原則』というのは例外のありうる規則、という意味である。おそらくジーニアスが「原則」という言葉を使っているのは、Where ~?などの疑問詞を文頭にもちいた疑問文の場合は例外的な事例という含みがあるのだろう。
Where に限らず、たとえば When などで疑問文を作るときも原則、それらの疑問詞の前には前置詞(When の場合は since や till や until など)を置かない。そのため、それら When の文でも前置詞は文末にくる場合が多くなる。
つまり、「いつから~?」なら When do you ~ since ? のような文章になる事が多い。
ただし、疑問代名詞の場合は例外的である。
たとえば前置詞 With を使う場合、Who が目的格 Whom に変化する場合もあり、
With whom do you ~? 「誰と一緒に~しますか?」
のようにWith が文頭にくる場合もあるが(桐原)、文語調である(青チャート)。with以外の前置詞の場合でも文頭に持ってくる場合には同様にwhoではなく whom に変化する(ジーニアス)。なお、前置詞を文頭に持ってくる場合、whomを使わずにwho のままで文頭の前置詞の次に置くのは禁止である。
なお、Whomを使わずとも who のままで下記のように言うこともでき
Who do you ~ with?
となり、こちらは口語調である。
青チャートからの引用になるが、
About Which Yamada were you talking? (文語)「どちらが山田さんのことを話していたのですか.」
Which Yamada were you talking about? (口語)「どちらが山田さんのことを話していたのですか.」
となる。
しかし、
What are you looking for? 「何をさがしているのですか。」
については、 look for でひとつの句動詞(群動詞)なので、forは動詞の直後の文末でなければならない(青チャート)。なお、句動詞のことを群動詞ともいう。青チャートでは「句動詞」、インスパイアでは「群動詞」である。
同様にlook for (=を探す), look after (~を世話する),laugh at(を笑う), listen to, depend on , などが句動詞(群動詞)である(青チャ、インスパ、ロイヤル)。なので、これら句動詞(群動詞)では、動詞と前置詞は分離できないので、語順は「疑問詞 ~ 動詞 前置詞?」になる。
さて、疑問副詞の話題に戻る。
Where are you from? の場合、もし前置詞 from がないと、「あなたはどこ?」となり、それが出身をたずねているのか、それとも現在地をたずねているのか、意味が分からなくなることもあってか、ともかく 「Where are you from?」の文章は from を省略できない。
ジーニアスは、話し言葉ではWhereでは from を省略しないという言い方をしているが、しかし書き言葉であっても from を省略しないのが一般的であろう(省略したら上述のように意味が通らなり読み手に誤解を与えるので。)。
しかし、用いる動詞などによっては前置詞を省略できる場合があり、たとえば
Where do you go to? 「どこに行きますか?」
なら、もし前置詞 to を省略しても、動詞 go から意味を推測できるので、この場合は to を省略されるのが許され、つまり
Where do you go?
でも許される(ジーニアス)。
このように文法の理論というのは、あまり論理的ではない。最終的には、英文法の学習では典型的な構文を覚えて、それを真似して使っていく必要がある。
=== 慣用的な疑問文 ===
How about a cup of tea? 「お茶を一杯いかがですか?」
How about ~? は勧誘を表す。
What do you say to ~ing 名詞/動名詞 ? 「~はいかがですか?」「~しませんか」
What do you say to ~ing でも勧誘を表せる。
ここでのsayの直後にある to は前置詞であると考えられている(桐原フォレスト)。どういうわけか、ジーニアスもロイヤルも、to が前置詞かどうかは言及していない。
ほか、Why don't you 動詞 ~ ? は、「~してはどうしょうか」のような相手に行為を促す(うながす)言い方であり、やや押し付けがましい言い方である(ジーニアス)。 Why don't we の形で、一緒になにかをする時に「~しましょうよ」の意味で使う場合もある(フォレスト)。
また、これを省略的に Why not ~? の形で「~はどうですか」「~してはいかがでしょうか」「~しましょうよ」の意味にもある。
How come S + V ~?
How come ~? は「どうして~」の意味でありwhy に近いが、How come のほうが感情的な表現であるので、目上の人に使うのは避けるのが良い(ジーニアス)。なお、How come は語順がSVと肯定形の語順になる。
How come you didn't call me ? 「どうして電話をくれなかったの?」
※ 「電話してほしかったのに」のような含みがあり、相手を責めているようにも受け取られかねない。だから返事も、Sorry, 「ごめん」とかになる(ジーニアス)。
許可を求める表現である Do you mind if~? で、「~してもいいですか」という許可を求める表現ができる。なお Would you mind if ~? については仮定法になり、つまり「~」中の動詞が過去形になる。Would you mind if ~? については 『[[高校英語の文法/仮定法]]』で説明済み。
Do you mind if のほうは、if ~ の動詞は現在形で構わない。
=== 間接疑問文 ===
「何が起きたかを話して」Tell me what happened. (ジーニアス、ブレイクスルー)
のように、文中に疑問的な言い回し(上記の例では「何が起きたか」what happened の部分)が含まれているが、しかし文全体としては平叙文のような英文があり、こういう構造の文のことを間接疑問文という。
「間接疑問」とはいうものの、文中の「関節疑問」の部分は名詞節として働く。
間接疑問文が疑問文なのか平叙文なのかの分類は入試では問われないので、安心していい。文法参考書でも、間接疑問文については、紹介を書籍の後半部に後回しに後回しにしている参考書もある。
このため、高校英語では、疑問文とは、文末が「?」で終わる文章のことだと思っておけば、特に問題が無い。
Would you tell me what happened? 「何が起きたかを話してくれませんか.」
のように間接疑問文をさらに文全体でも疑問文にすることもできるが、本ページでは深入りしない。
I know what he wants. 「私は彼が欲しいものを知っている.」
のような表現も、間接疑問文に分類する場合もある。なお、間接疑問の節中の動詞の人称格変化の有無や、時制の一致などに注意。
I don't know what he wants. 「私は彼が欲しいものを知らない.」
のように文全体が否定文になることもある。
I know where he lives. 「私は彼が住んでいる場所を知っている.」
なお、
Do you know where he lives? 「彼がどこに住んでいるかを知っていますか.」
と質問された場合、文法的には返事は
Yes, I do. 「はい知ってますよ」
No, I don't. 「いいえ、知りません」
となる。(ただし、現実では、質問された側が気を利かして、住んでいる場所まで答えてくれるような場合もありうるが、しかし本単元では考慮しないとする。)
文法的に、どこに住んでいるかを聞き出したい場合は、間接疑問ではなく、疑問副詞を用いた一般的な疑問文で
Where does he live?
で質問することになる。
このように、文頭の単語を見れば、文法上の返事の仕方や、文法的には質問されているものは何かを決定できる。
== 参考文献についての注意 ==
サブページ中の参考文献で、現代2022年では廃止になったシリーズの桐原『フォレスト』などを掲げているが、現代でも他社の いいずな出版『エバーグリーン』シリーズにフォレストの権利が引き継がれているようなので、わざわざ古本のフォレストを探す必要は無い。
[[カテゴリ:高等学校教育|ふむほふ]]
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206958
206956
2022-08-22T08:46:50Z
すじにくシチュー
12058
/* 態 */
wikitext
text/x-wiki
<!-- このページには導入部がありません。適切な導入部を作成し、このコメントを除去してください。 -->
== 目次 ==
* [[高校英語の文法/文の種類]]
* [[高校英語の文法/動詞と文型]]
* [[高校英語の文法/時制]] ※ 参考書によって微妙に単元名が異なるので暫定
* [[高校英語の文法/完了形]]
* [[高校英語の文法/助動詞]]
* [[高校英語の文法/不定詞]]
* [[高校英語の文法/動名詞]]
*
* [[高校英語の文法/比較]]
* [[高校英語の文法/関係詞]]
* [[高校英語の文法/仮定法]]
* [[高校英語の文法/名詞]]
* [[高校英語の文法/冠詞]]
*
* [[高校英語の文法/否定]]
* [[高校英語の文法/接続詞]]
* [[高校英語の文法/前置詞]]
その他 [[高等学校英語/文法用語の英単語]] 「名詞」Noun など(入試には出ないので覚える必要は無い)
== 文の構造 ==
=== 文の要素 ===
文の構造を知るためには、文がどのような要素で成り立っているのかを知らなければならない。
==== 主語と述語動詞 ====
# '''The old man''' ''is'' a famous singer.
# '''My sister''' ''studied'' math.
## 訳例:その老人'''は'''有名な歌手'''だ'''。
## 訳例:私の姉'''は'''数学を研究'''していた'''。
1の文は「AはBだ」という文であり、2の文は「AはCする」という文である。どちらも
# 「…は」「…が」という主題の部分
# 「~である」「~する」という主題が何であるかについて述べる部分
の二つが共通している。
この場合、1を'''主部'''といい、2を'''述部'''という。
そして、主部の中心となる語を'''主語'''(Subject)といい、述部の中心となる部分を'''述語動詞'''(Predicate Verb略して'''動詞'''('''Verb'''))という。
たとえば上記「私の姉」以下略の場合、 sister を主語、My sister を主部と分類する場合もある。
だが、主部のことを主語という場合もある(文英堂インスパイア)。
以下では、述語動詞は原則として単に動詞と呼ぶ。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|-
! || - || 主語 || 述語動詞 || -
|-
| -
| colspan="2" | 主部
| colspan="2" | 述部
|-
| 1.
| The old
| man
| is
| a famous singer.
|-
| 2.
| My
| sister
| studied
| math.
|}
主語は単に'''S'''で表し、動詞は'''V'''で表す。
==== 目的語 ====
# He ''has'' '''a personal computer'''.
# We ''played'' '''soccer'''.
# Everone ''likes'' '''Sushi'''.
## 訳例:彼はパソコン'''を'''持っている。
## 訳例:私たちはサッカー'''を'''した。
## 訳例:みんなが寿司'''を'''好む。
いずれの文の動詞も「~を」という、動作の対象が必要である。このような動作の対象を表す語を'''目的語'''(Object)といい、'''O'''で表す。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|-
! || 主語 || 動詞 || 目的語
|-
| -
| colspan="1" | 主部
| colspan="2" | 述部
|-
| 1.
| He
| has
| a personal computer.
|-
| 2.
| We
| played
| soccer.
|-
| 3.
| Everone
| likes
| Sushi.
|}
このような、'''S+V+O'''という形の文は英文の基本形の一つである。
==== 補語 ====
# Mary ''is'' '''happy'''.
# John ''became'' '''a doctor'''.
## 訳例:メアリーは幸せだ。
## 訳例:ジョンは医者になった。
これらはいずれも主語の状態を説明した文であるが、isやbecomeで文を切ると意味をとれない。happyやa doctorという、主語の様子をおぎなう語があって初めて意味のある文となる。このように、主語の様子について説明する語を'''補語'''(Complement)という。補語は'''C'''で表される。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|-
! || 主語 || 動詞 || 補語
|-
| -
| colspan="1" | 主部
| colspan="2" | 述部
|-
| 1.
| Mary
| is
| happy.
|-
| 2.
| John
| became
| a doctor.
|}
このような'''S+V+C'''の文も基本的な文の一つである。なお、後で学ぶように、補語は主語の様子だけでなく目的語の様子を説明する場合もある(例文:I call him Sensei.(私は彼を先生と呼ぶ))。
==== まとめ ====
文の要素を表す記号をまとめると、
主語 '''S''' (Subject) / 動詞 '''V''' (Verb) / 目的語 '''O''' (Object) / 補語 '''C''' (Complement) / 修飾語 '''M''' (Modifier)
である。
subject や verb などの単語は、青チャート、文英堂インスパイア、いいずな出版エバーグリーン、などで紹介されている。一方、大修館書店ジーニアス、桐原ファクトブックには無い。
「主部」と「主語」は厳密には異なるが、しかしSVOO文型やSVC文型など文型について言う場合、主部のことも含めて「主語」と呼んでよい。参考書もそうなっている。
文法用語でいう修飾語(Modifier)には副詞と形容詞があるが、しかし文型の理論でいう記号 '''M''' は副詞だけに限定するのが一般的である(インスパイア)。
また、よく記号Mを「修飾語」というが、実際には1単語の「語」だけでなくとも、複数の語からなる副詞句や副詞節でも「修飾語」といって記号 M で表す(インスパイア)。
== 動詞の用法 ==
=== 助動詞 ===
=== 態 ===
==== 受動態 ====
;どういうときに受動態を使うか。
動作主が不明な場合、
動作主をぼかしたい場合(ジーニアス)、
動作主に興味が無い場合(インスパイア)、
and接続詞のある文などで、形容詞をつかった「 be +形容詞」型の文章と並列させたい場合、受動態を使うことで「 It is 形容詞 and is 過去分詞(受動態)」のように主語を同じままで並列できて読みやすくなる(ジーニアス)。
能動態だと主語が長くなる場合、受動態を使うことがよくある。英語では長い主語を避けるのが普通(インスパ、ジーニアス)。
;by以外の動作主の前置詞
受動態にて動詞主をあらわす前置詞は一般的には by であるが、
しかし be known to ~ (知られている)や be covered with (~で覆われている)など、意味や動詞によっては前置詞がすでに決まっている。ほか、
be caught in ((にわか雨などに)あう)、
be filled with (~で満たされている)、
などが、そういったby以外が決まっている動詞(青チャート、ジーニアス)。
なお、by で表せるような動詞の受動態の場合、動作主が一般の人である場合は、byおよび動作主を省略することもある(青チャート)。
;感情と受動態
感情を表す be surprised at (驚く)などを、一説には、形容詞ではなく受動態であると見なす場合もある(ジーニアス、青チャート)。
be pleased with / be delight with 「~で喜ぶ」、
be satisfied with 「~に満足する」、
be disappointed at / in / with 「~に落胆する」
be interested in 「~に興味を持つ」、
be amused at/with 「~を楽しむ」、
be amazed at 「~に驚嘆している」、※ ジーニアス
be worried about 「~を心配している」、
==== 助動詞と組み合わさった受動態 ====
He could be seen by her.
受動態の文を作るときには、その文の述語は必ずbe動詞の節になるが、be動詞に対して助動詞を用いたり、時制の変化をさせることも普通に行なわれる。
この時には、例えば
He is seen by her.
という文が
He could be seen by her.
の様にbe動詞は、助動詞+beの形で書き換えられる。これは、be動詞の原形が
beで与えられることによる。同じ様に例えば、
might be
may be
must be
will be
なども用いることが出来る。また、過去形や現在完了と組み合わせるときにも通常の規則に従えばよい。例えば、上の文では
He was seen by her.
He has been seen by her.
などとなる。been は be の過去分詞である。ここで、be が過去分詞 been になったのは、現在完了を作るためであり、see が過去分詞 seen になったのは、受動態を作るためであることに注意。
=== 分詞 ===
== さまざまな構文 ==
=== 分詞構文 ===
分詞構文は現在分詞や過去分詞を用いて、従属の接続詞節のような意味を持つ文の成分を作る用法である。例文として、
Crying out something, he quickly runs away.
がある。この文は「何かを叫びながら、彼は素早く逃げていった。」という
意味だが、この様な文は例えば接続詞whileを用いて、
While he cries out something, he quickly runs away
接続詞を取る。
He cries out something, he quickly runs away.
主語を取る。
Cries out some thing, he guickly runs away.
動詞を現在分詞形にする。
Crying out some thing, he quickly runs away.→'''これで完成!'''
などとすることが出来る。分詞構文は文の前後関係から、省略される接続詞が予測できると考えられるとき、接続詞と主語を省略することによって
得られる。ただし、接続詞無しで節を作ることは出来ないことから、接続詞節の述語は対応する現在分詞になるのである。上の例文は
while を用いた文から接続詞 while を省き、述語 cries を現在分詞 crying にすることに
よって得たものと解釈出来る。ただし、元の従属接続詞節に対応する主文の主語と接続詞節の主語が等しいときには、現在分詞の主語は
省略出来る。上の文で while 節の主語に対応する語が無いのはこのことからである。
主節の主語と従属節の主語が異なっているときには、分詞構文の主語として対応する従属節の主語を所有格として与える。例えば、上の例で主語を省略せず書くと、
His crying out something, ... のようになる。
一般に現在分詞の主語を指定するときは通常所有格を用いる。
分詞構文で省略される接続詞には主なものとして、
because, since, as: 〜だから(理由)
when, as, while: 〜のとき(ある時点)
などがあげられる。
分詞構文になる従属節では述語がbe動詞であることがある。
このときにも上の規則に従って、Being -,によって分詞構文が作られることも多い。
==== 分詞構文の受動態 ====
特にbe動詞に対応する補語が受動態であったり、形容詞であるときには、beingを省いて過去分詞、もしくは形容詞から分詞構文が
始まることも多い。
(Being) seen from airport, everything looked small.(飛行機から見ると、全てのものが小さく見えた)
The assignment (being) finished, we went on a hike to the nearby mountain.(その課題が終わってから、私たちは近くの山へハイキングへ行った。)
このときには、be動詞と接続詞、必要なら対応する主語も補って考える必要がある。ただし、この様な省略がなされるのは、あくまで省略されたものが文脈からすぐに分かる時のみである。
=== 話法 ===
=== 会話表現 ===
== 品詞 ==
=== 代名詞 ===
==== 未分類 ====
中学校では「代名詞」として、 he や she や we など、基本的な代名詞を習う。
もちろんそれも代名詞であるが、しかしそれ以外にも多くの代名詞がある。
たとえば the same (「同じもの」の意味)も代名詞である(青チャート、ジーニアス)。なぜなら、the same は、なにか具体的な名詞を言う代わりとして使われるのだから、the same も立派な代名詞である。
このように、代名詞は別に一語でなくても構わない。
なお、形容詞的に the same の直後につづけて名詞が来る場合もあり、「the same ~ as ・・・(名詞または代名詞)」で、「・・・と同じ ~」の意味。
こちらの構文では the same は代名詞というよりも形容詞としての用法だが、市販の参考書では都合上、代名詞の章でいっしょにthe same ~ as の構文も教えているのが通例である。
ともかく例文は、たとえば
the same ~ as yours で「あなたのと同じ~」の意味(ジーニアス、エバーグリーン)。
the same shoes as yours なら「あなたのと同じ靴」だし(エバー)、
the same computer as yours なら「あなたのと同じコンピュータ」である(ジーニアス)。
一方、慣用的に、節が続く場合は as ではなく that の場合が多く
the same man that I saw yesterday で「昨日見かけたのと同じ男の人」の意味だし(エバーの和訳を少し改造)、
the same song that I heard yesterday で「昨日聞いたのと同じ曲」の意味(ジーニアス)。
のように、
「the same ~ that ・・・(節)」
というのもある。
ただし、節が続く場合でも、べつに as を使ってもかまわず、つまり「 the same ~ as ・・・(節)」としてもマチガイではない(ブレイクスルー)。
those who ~ で「~な人々」の意味の代名詞である。
たとえばエバーグリーンいわく、 those who wish to smoke で「たばこを吸いたい人々」である。
such は代名詞として「そのようなもの」「そのような人」として扱われる場合もある。
たとえば
He is an adult now, and should be treated as such. 「彼はもう大人なのだから、そのように扱うべきだ。」 ※ジーニアス
He is mere child, and should be treated as such. 「彼はまだほんの子供だから、子供として扱ってやるべきだ。」 ※青チャート
のように such はよく as such などとして使われる。
==== some と any ====
{| class="wikitable" style="left"
|+ 複合不定代名詞
! !! some- !! any- !! no- !! every-
|-
! 人<br> -one<br> -body
| someone <br> somebody<br>(だれか) || anyone <br> anybody<br>(だれか、だれでも) || no one (※ 離して書く)<br> nobody<br>(だれも~ない) || everyone<br> everybody<br>(だれでも)
|-
! 物<br>-thing
| something || anything || nothing || everything
|-
|}
some にも any にも「いくつかの」という意味がある。
よく参考書では、「 some は肯定文で使う。anyは疑問文・否定文で使う」などと習う(青チャート、ジーニアスなど)。
しかし桐原ファクトいわく、anyの基本的な意味は「どれでも」の意味である。any の「いくつかの」の意味は、「どれでも」の派生だと思うほうが良いだろう。
some と any の区別で悩んだ場合は、この「どれでも」の意味を基準に考えると良い。
だから肯定文であっても、「どれでも」の意味の形容詞には any を使う。
桐原ファクトいわく、疑問文で any を使う場合でも、ニュアンス的には「どれでも」の意味があるのが実際とのこと。否定文の any も同様。
この any の基本的な意味が「どれでも」の説に立てば、たとえば熟語 not ~ any が形容詞 no と同じ意味だということも、 not ~ any は「どれでもいいので存在してほしい(any)という事についてすら、それが成り立たない(not)。 → つまり無い」というふうに理解できます。
なお、any の後ろに否定語を置くのは禁止されている(ジーニアス、青チャート)。
ほか、慣用的な表現として、よくお茶などやコーヒーの飲み物をすすめる際に、
Would you like some coffee? 「コーヒーはいかがですか」(桐原ファクト)
Would you like some more tea? 「お茶のお代わりはいかがですか」(青チャート)
のようにsome を使う。
青チャートいわく、some は、答えが Yes であることを期待しているニュアンスのある表現とのこと。そういう用法もある。なので、人にものを勧めるからには、some で質問しないと失礼になるので、someを使うのが当然とのこと。
実際にはsome も any もけっして意味中立的な表現ではなく、それぞれニュアンスがあるので、some と any を完全に使い分けるのは難しいだろう。
参考書にあるような代表的な事例についてだけ、some とanyを使い分ければ、とりあえずは平気だろう。
somebody と anybody などの使い分けも、上記の some と any に準じる(桐原ファクト)。
たとえば「誰かに出会いました」といいたい場合は、somebody を使うべきだと桐原は言っている。これがもしanybodyだと 「誰でもいいのですが、その人に会いました」(原文ママ(桐原))という内容の意味不明の文章になってしまうことからも分かるとして、桐原ファクトは誰かに会った事を言いたい場合には somebody を使うべきだと言っている。
所有格については、-body や -thing の末尾に 's をつければいい(インスパ)。
Everybody's business is nobody's business. 「みなの仕事は誰の仕事でもない」(直訳)→「共同責任は無責任」(ことわざ)
※ 「共同責任は無責任」の部分がことわざ。青チャートおよびインスパイアがこの ことわざ を紹介。
;慣用句など
He is something of musician. 「彼はちょっとした音楽家だ」 ※青チャ、インスパ、ロイヤル
something of a 「少しは~である」※青チャ、「ちょっとした~」※インスパ、
He thinks he is something. 「彼は自分を立派な人だと思っている」
「He thinks himself somebody. 」などでも同じ意味。
somebody または something で「立派な人」の意味(青チャート)。
逆に、nobody または nothing には「とるにたらない人」の意味がある(青チャート、ロイヤル)。
be something like または look something like で「少し似ている」の意味(青チャ、ロイヤル)。
==== every とall の違い ====
「すべての」という意味での every は形容詞であるが(インスパイア)、市販の参考書では便宜的に代名詞の章で紹介される。形容詞なので、every 単独ではあつかわれず、必ず直後に名詞または代名詞をともなう(インスパイア)。
every には「すべての」の意味もある(桐原ファクト、インスパイア)。しかし every と all には、ニュアンスの違いが明確に存在する。
また、every の後ろは単数形でなければならない。
every は、その全部を構成する一つ一つに関心がある文脈の場合に用いられる(桐原ファクト)。だから every で形容される名詞は必ず単数形でなければならないのも当然である(桐原ファクト)。また、everyは例外がないことを強調している(ジーニアス)。
each は2つ以上、every は3つ以上のものについて使用する。
なお、each は比較的に小さい個数のものに使い、everyは比較的に大きい数のものに使う(ジーニアス)。 each の使用対象はべつに2個限定でなくても構わない。
every と all には、こういったニュアンスの違いがあるので、参考書によってはevery の標準的な和訳を「すべての」以外で紹介する参考書も多い。
たとえば「あらゆる」「どの~も」という訳で every を紹介する参考書がよくある(青チャート、ブレイクスル-)。
なお、every には別の用法で「~(数詞のつく名詞)ごとに」の意味もあり、この場合は複数形になる。
たとえば every six hours で「6時間ごとに」である(ブレイクスルー)。 every four years で「四年ごとに」である(エバーグリーン)、なおオリンピックが四年ごとに開かれる という文章。
なお、「一日おきに」は every other day である(インスパイア)。
{{コラム|every child を受ける代名詞は he か she か?|
桐原ファクトに書いてあるのですが、男女のどちらの場合もある単数の名詞について、それを代名詞で受ける際、
he か she かが、時代とともに変わっていきました。
もともとは、男女不明などの場合は、とりあえず he で代名詞を受けていました(桐原ファクト)。
だから every child も he で受けていました。
しかし、それが男女平等の観点に反するという意見が多くなり、近年になって、「 he/ she 」などと受ける代名詞が変わってきました。
「he / she 」はhe or she と読みます。
しかし、長くなるので会話などで不便でした(桐原ファクト)。
その不便さを解消するためか、さらに最近では、単数形であることを無視して every child のような名詞でも they で受けています(桐原ファクトの 2022年 第2版で確認)。
each も同様、最近では they で受けます(桐原ファクト)。
:※ 上記のような説が有名であるが、それに対する若干の異論もある。それは
「もともと he は男の代名詞ではなく性別不明の代名詞であり、もし、男である何らかの名詞についてそれを代名詞で受ける場合については、とりあえず性別不明の代名詞である he を当てるというルールだった」というような説です。
ツイッターで東大の地震学の教授・[[w:ロバート・ゲラー]]がそのような主張をしています。 [https://twitter.com/rjgeller/status/1062486963242979328 Robert Geller@rjgeller 午前8:26 · 2018年11月14日]
おおむね、その教授はおおむね「自分は50年前の高校生のときにそう習った(heは性別不明の代名詞だと習った)」(※ 日本語として読みやすくなるようにwiki側で文章を修正。正確な文章については参照元を読むこと)とツイッターで主張していました。
この場合でも男女は不平等であります。しかし、女性差別とは言いがたい実態になります。
つまり、「女性を無視して男性を意味する he を使っていたのではなく、そもそも he は男女不明の代名詞であったが、女性専用の she という代名詞が存在していたため、あとからhe に男性の意味がついてきた。なのに『性別不明の名詞に he を使う事を女性差別だ』というフェミニズム言説は間違っている」という説です。
もしこの説「he は性別不明の代名詞だった」論のとおりなら(この説が間違っている可能性もありますので、どちらかに決め付けないように)、現代の各国の英語教育が、フェミニズミム運動などに配慮して代名詞 he の歴史の説明について、若干のウソをついている事になる可能性があります。
どちらの場合にせよ(数学の確率問題の場合わけのように、マジメに検証する人は両方の可能性を検討する)、参考書の桐原ファクトをよく読めば、性別不明の代名詞 he → he/she → they の変遷について「男女平等」という表現は説明に用いていますが、しかし「女性差別」という表現は用いていません。桐原ファクトの著者たちは、なかなか優秀です。こういう何気ない言葉の端々に、参考書の著者の優秀さが現れます。
まあ、私たちは背景事情にまでは深入りする必要はありません。上記のような異論もあることも承知した上で、異論もふくめた両者の合意である he → he/she → they という性別不明の単数代名詞の客観的事実を覚えれば済みます。
}}
==== その他 ====
「those who ~」で「~する人々」
Heaven helps those who help themselves. 「天はみずから助くる者を助く。」(ことわざ) ※ 青チャート
So do I. 「私もです。」
「So 動詞+主語」 か「So 主語+動詞」かで意味が違う。
「So 動詞+主語」は、「主語もです」の意味。
「So 主語+動詞 」 は「主語は確かにそうだ」の意味(インスパ代名詞、ジーニアス副詞)。
例文を出せば、たとえば
So he is. 「確かに彼はそうだ」
Tom is kind. 「トムは親切だ。」
- So he is. 「確かに彼はそうだ(=彼・トムは親切だ)。」
- So is John. 「ジョンもそうです。(=トムだけでなくジョンも親切ですよ)」
のような違いがある。
Tom can French well. 「トムはフランス語を上手に話せます」
- So he can. 「確かに彼はそうだ」
- So can John. 「ジョンもフランス語が上手ですよ」
※ 青チャにcanで似た例文
=== 形容詞・副詞 ===
;副詞の位置
副詞の位置がどこに来るかについて、単語や文章によって様々である。
通常、英語では副詞の位置は、修飾対象に前置きである。
しかし very much や from time to time など複数語から構成される副詞表現になると、通常は文末または修飾対象の後ろに置かれるのが通常である(桐原ファクト)。
== 名詞構文・無生物主語 ==
=== 名詞構文 ===
=== 無生物主語 ===
The road takes you to the station. 「その道を歩いていくと駅につきます。」
The bus takes you to the station. 「そのバスに乗れば駅に行きます。」
take は「連れて行く」の意味だが、交通機関などを主語にして使うことも出来る。その場合は、たとえば道なら「その道を行けば、~につきます」のような意味になる。
takes の代わりに will take としても良い(ロイヤル英文法)。
「remind 人 of」 で「人に~を思い出させる」の意味である。
This picture reminds me of vacation in Greece. 「その写真を見ると、ギリシャでの休日を思い出す。」
This picture reminds me of holidays in London. 「その写真を見ると、ロンドンでの休日を思い出す。」
なお、大修館ジーニアスだとロンドン、桐原フォレストだとギリシャの例文。
「deprived 人 of ~」 「(機会などが)うばわれる」
The knee injury deprived him of the chance to play in the final game. 「ひざのけがのため、彼は決勝戦に出場する機会を失った。」
または
The knee injury deprived the player of the chance to play in the game. 「ひざにけがをしたため、その選手は試合に出場する機会を失った。」
のように例文が参考書によくある。
enable ~ は、「~をできるようにする」「~を可能にする」の意味。「~のおかげで、・・・できるようになった」と訳すことができる。
The scholarship enabled him to go on to university. 「その奨学金のおかげで彼は大学へ進学できた。」
ジーニアス、ロイヤルに scholarship の似た例文。
== 疑問詞 ==
疑問詞は、'''疑問代名詞'''と'''疑問副詞'''に分けられる。
下記に疑問代名詞の一覧の表を示す。
{| class="wikitable" style="float:left"
|+ 疑問代名詞の種類
! !! 主格 !! 所有格 !! 目的格
|-
! 人
| who (だれが) || whose (だれの(もの)) || who / whom (だれを、だれに)
|-
! 人、事物
| what (何が) || ない || what (何を、何に)
|-
! 人、事物
| which || ない || which (どれを、どちらに)
|}
{{-}}
what, which には所有格が無い(青チャ、ロイヤル)。
what, which, whose は疑問形容詞としても用いられる(青チャ、ブレイクスルー)。※ ブレイクスルーでは、一覧表の直後で章が変わり、疑問形容詞の章になる。
上記の一覧表は、あくまで疑問代名詞のみである。
疑問副詞については、まったく言及していない。
{{-}}
インスパイア、青チャート、ブレイクスルー、ロイヤルには上記のような疑問詞の一覧表がある。
ジーニアス、エバーグリーン、桐原ファクトには無い。
=== 前置詞と疑問詞 ===
Where are you from? 出身はどちらですか?
文法上、ここでの Where は副詞であり、「疑問副詞」というのに分類される(ロイヤル)。
中学校では主語を you にした例を中心にWhereの疑問文を教わったかもしれないが(中学の1年くらいだと、まだ3人称をあまり習ってないなどの教育的理由があるので)、もちろん he や she などを主語にしても where を使った質問は使用可能である(青チャ)。
Where does he live in? 「彼はどこに住んでいますか」
- Los Angels. 「ロサンゼルスです」
のようにyou以外にも he やsheなどでも言うことも可能。
さて、「Where are you from?」 について前置詞 from に注目しよう。
もしかしたら中学高校などで「前置詞は名詞や代名詞の前に移動するのが原則」とか習うかもしれないが、しかし前置詞をけっしてfromの前に移動しない。
なので、Where は副詞であると考えたほうが理解しやすいだろう。(これとは別の解釈で、そもそも「副詞には前置詞がいらない」という考えから副詞ではなく代名詞としての機能だと考える立場もあり、ジーニアスやロイヤルやフォレストがそういう立場。だが、机上の空論だろう。)
なお、法学など幾つかの学問では、『原則』というのは例外のありうる規則、という意味である。おそらくジーニアスが「原則」という言葉を使っているのは、Where ~?などの疑問詞を文頭にもちいた疑問文の場合は例外的な事例という含みがあるのだろう。
Where に限らず、たとえば When などで疑問文を作るときも原則、それらの疑問詞の前には前置詞(When の場合は since や till や until など)を置かない。そのため、それら When の文でも前置詞は文末にくる場合が多くなる。
つまり、「いつから~?」なら When do you ~ since ? のような文章になる事が多い。
ただし、疑問代名詞の場合は例外的である。
たとえば前置詞 With を使う場合、Who が目的格 Whom に変化する場合もあり、
With whom do you ~? 「誰と一緒に~しますか?」
のようにWith が文頭にくる場合もあるが(桐原)、文語調である(青チャート)。with以外の前置詞の場合でも文頭に持ってくる場合には同様にwhoではなく whom に変化する(ジーニアス)。なお、前置詞を文頭に持ってくる場合、whomを使わずにwho のままで文頭の前置詞の次に置くのは禁止である。
なお、Whomを使わずとも who のままで下記のように言うこともでき
Who do you ~ with?
となり、こちらは口語調である。
青チャートからの引用になるが、
About Which Yamada were you talking? (文語)「どちらが山田さんのことを話していたのですか.」
Which Yamada were you talking about? (口語)「どちらが山田さんのことを話していたのですか.」
となる。
しかし、
What are you looking for? 「何をさがしているのですか。」
については、 look for でひとつの句動詞(群動詞)なので、forは動詞の直後の文末でなければならない(青チャート)。なお、句動詞のことを群動詞ともいう。青チャートでは「句動詞」、インスパイアでは「群動詞」である。
同様にlook for (=を探す), look after (~を世話する),laugh at(を笑う), listen to, depend on , などが句動詞(群動詞)である(青チャ、インスパ、ロイヤル)。なので、これら句動詞(群動詞)では、動詞と前置詞は分離できないので、語順は「疑問詞 ~ 動詞 前置詞?」になる。
さて、疑問副詞の話題に戻る。
Where are you from? の場合、もし前置詞 from がないと、「あなたはどこ?」となり、それが出身をたずねているのか、それとも現在地をたずねているのか、意味が分からなくなることもあってか、ともかく 「Where are you from?」の文章は from を省略できない。
ジーニアスは、話し言葉ではWhereでは from を省略しないという言い方をしているが、しかし書き言葉であっても from を省略しないのが一般的であろう(省略したら上述のように意味が通らなり読み手に誤解を与えるので。)。
しかし、用いる動詞などによっては前置詞を省略できる場合があり、たとえば
Where do you go to? 「どこに行きますか?」
なら、もし前置詞 to を省略しても、動詞 go から意味を推測できるので、この場合は to を省略されるのが許され、つまり
Where do you go?
でも許される(ジーニアス)。
このように文法の理論というのは、あまり論理的ではない。最終的には、英文法の学習では典型的な構文を覚えて、それを真似して使っていく必要がある。
=== 慣用的な疑問文 ===
How about a cup of tea? 「お茶を一杯いかがですか?」
How about ~? は勧誘を表す。
What do you say to ~ing 名詞/動名詞 ? 「~はいかがですか?」「~しませんか」
What do you say to ~ing でも勧誘を表せる。
ここでのsayの直後にある to は前置詞であると考えられている(桐原フォレスト)。どういうわけか、ジーニアスもロイヤルも、to が前置詞かどうかは言及していない。
ほか、Why don't you 動詞 ~ ? は、「~してはどうしょうか」のような相手に行為を促す(うながす)言い方であり、やや押し付けがましい言い方である(ジーニアス)。 Why don't we の形で、一緒になにかをする時に「~しましょうよ」の意味で使う場合もある(フォレスト)。
また、これを省略的に Why not ~? の形で「~はどうですか」「~してはいかがでしょうか」「~しましょうよ」の意味にもある。
How come S + V ~?
How come ~? は「どうして~」の意味でありwhy に近いが、How come のほうが感情的な表現であるので、目上の人に使うのは避けるのが良い(ジーニアス)。なお、How come は語順がSVと肯定形の語順になる。
How come you didn't call me ? 「どうして電話をくれなかったの?」
※ 「電話してほしかったのに」のような含みがあり、相手を責めているようにも受け取られかねない。だから返事も、Sorry, 「ごめん」とかになる(ジーニアス)。
許可を求める表現である Do you mind if~? で、「~してもいいですか」という許可を求める表現ができる。なお Would you mind if ~? については仮定法になり、つまり「~」中の動詞が過去形になる。Would you mind if ~? については 『[[高校英語の文法/仮定法]]』で説明済み。
Do you mind if のほうは、if ~ の動詞は現在形で構わない。
=== 間接疑問文 ===
「何が起きたかを話して」Tell me what happened. (ジーニアス、ブレイクスルー)
のように、文中に疑問的な言い回し(上記の例では「何が起きたか」what happened の部分)が含まれているが、しかし文全体としては平叙文のような英文があり、こういう構造の文のことを間接疑問文という。
「間接疑問」とはいうものの、文中の「関節疑問」の部分は名詞節として働く。
間接疑問文が疑問文なのか平叙文なのかの分類は入試では問われないので、安心していい。文法参考書でも、間接疑問文については、紹介を書籍の後半部に後回しに後回しにしている参考書もある。
このため、高校英語では、疑問文とは、文末が「?」で終わる文章のことだと思っておけば、特に問題が無い。
Would you tell me what happened? 「何が起きたかを話してくれませんか.」
のように間接疑問文をさらに文全体でも疑問文にすることもできるが、本ページでは深入りしない。
I know what he wants. 「私は彼が欲しいものを知っている.」
のような表現も、間接疑問文に分類する場合もある。なお、間接疑問の節中の動詞の人称格変化の有無や、時制の一致などに注意。
I don't know what he wants. 「私は彼が欲しいものを知らない.」
のように文全体が否定文になることもある。
I know where he lives. 「私は彼が住んでいる場所を知っている.」
なお、
Do you know where he lives? 「彼がどこに住んでいるかを知っていますか.」
と質問された場合、文法的には返事は
Yes, I do. 「はい知ってますよ」
No, I don't. 「いいえ、知りません」
となる。(ただし、現実では、質問された側が気を利かして、住んでいる場所まで答えてくれるような場合もありうるが、しかし本単元では考慮しないとする。)
文法的に、どこに住んでいるかを聞き出したい場合は、間接疑問ではなく、疑問副詞を用いた一般的な疑問文で
Where does he live?
で質問することになる。
このように、文頭の単語を見れば、文法上の返事の仕方や、文法的には質問されているものは何かを決定できる。
== 参考文献についての注意 ==
サブページ中の参考文献で、現代2022年では廃止になったシリーズの桐原『フォレスト』などを掲げているが、現代でも他社の いいずな出版『エバーグリーン』シリーズにフォレストの権利が引き継がれているようなので、わざわざ古本のフォレストを探す必要は無い。
[[カテゴリ:高等学校教育|ふむほふ]]
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206959
206958
2022-08-22T08:48:51Z
すじにくシチュー
12058
/* 態 */
wikitext
text/x-wiki
<!-- このページには導入部がありません。適切な導入部を作成し、このコメントを除去してください。 -->
== 目次 ==
* [[高校英語の文法/文の種類]]
* [[高校英語の文法/動詞と文型]]
* [[高校英語の文法/時制]] ※ 参考書によって微妙に単元名が異なるので暫定
* [[高校英語の文法/完了形]]
* [[高校英語の文法/助動詞]]
* [[高校英語の文法/不定詞]]
* [[高校英語の文法/動名詞]]
*
* [[高校英語の文法/比較]]
* [[高校英語の文法/関係詞]]
* [[高校英語の文法/仮定法]]
* [[高校英語の文法/名詞]]
* [[高校英語の文法/冠詞]]
*
* [[高校英語の文法/否定]]
* [[高校英語の文法/接続詞]]
* [[高校英語の文法/前置詞]]
その他 [[高等学校英語/文法用語の英単語]] 「名詞」Noun など(入試には出ないので覚える必要は無い)
== 文の構造 ==
=== 文の要素 ===
文の構造を知るためには、文がどのような要素で成り立っているのかを知らなければならない。
==== 主語と述語動詞 ====
# '''The old man''' ''is'' a famous singer.
# '''My sister''' ''studied'' math.
## 訳例:その老人'''は'''有名な歌手'''だ'''。
## 訳例:私の姉'''は'''数学を研究'''していた'''。
1の文は「AはBだ」という文であり、2の文は「AはCする」という文である。どちらも
# 「…は」「…が」という主題の部分
# 「~である」「~する」という主題が何であるかについて述べる部分
の二つが共通している。
この場合、1を'''主部'''といい、2を'''述部'''という。
そして、主部の中心となる語を'''主語'''(Subject)といい、述部の中心となる部分を'''述語動詞'''(Predicate Verb略して'''動詞'''('''Verb'''))という。
たとえば上記「私の姉」以下略の場合、 sister を主語、My sister を主部と分類する場合もある。
だが、主部のことを主語という場合もある(文英堂インスパイア)。
以下では、述語動詞は原則として単に動詞と呼ぶ。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|-
! || - || 主語 || 述語動詞 || -
|-
| -
| colspan="2" | 主部
| colspan="2" | 述部
|-
| 1.
| The old
| man
| is
| a famous singer.
|-
| 2.
| My
| sister
| studied
| math.
|}
主語は単に'''S'''で表し、動詞は'''V'''で表す。
==== 目的語 ====
# He ''has'' '''a personal computer'''.
# We ''played'' '''soccer'''.
# Everone ''likes'' '''Sushi'''.
## 訳例:彼はパソコン'''を'''持っている。
## 訳例:私たちはサッカー'''を'''した。
## 訳例:みんなが寿司'''を'''好む。
いずれの文の動詞も「~を」という、動作の対象が必要である。このような動作の対象を表す語を'''目的語'''(Object)といい、'''O'''で表す。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|-
! || 主語 || 動詞 || 目的語
|-
| -
| colspan="1" | 主部
| colspan="2" | 述部
|-
| 1.
| He
| has
| a personal computer.
|-
| 2.
| We
| played
| soccer.
|-
| 3.
| Everone
| likes
| Sushi.
|}
このような、'''S+V+O'''という形の文は英文の基本形の一つである。
==== 補語 ====
# Mary ''is'' '''happy'''.
# John ''became'' '''a doctor'''.
## 訳例:メアリーは幸せだ。
## 訳例:ジョンは医者になった。
これらはいずれも主語の状態を説明した文であるが、isやbecomeで文を切ると意味をとれない。happyやa doctorという、主語の様子をおぎなう語があって初めて意味のある文となる。このように、主語の様子について説明する語を'''補語'''(Complement)という。補語は'''C'''で表される。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|-
! || 主語 || 動詞 || 補語
|-
| -
| colspan="1" | 主部
| colspan="2" | 述部
|-
| 1.
| Mary
| is
| happy.
|-
| 2.
| John
| became
| a doctor.
|}
このような'''S+V+C'''の文も基本的な文の一つである。なお、後で学ぶように、補語は主語の様子だけでなく目的語の様子を説明する場合もある(例文:I call him Sensei.(私は彼を先生と呼ぶ))。
==== まとめ ====
文の要素を表す記号をまとめると、
主語 '''S''' (Subject) / 動詞 '''V''' (Verb) / 目的語 '''O''' (Object) / 補語 '''C''' (Complement) / 修飾語 '''M''' (Modifier)
である。
subject や verb などの単語は、青チャート、文英堂インスパイア、いいずな出版エバーグリーン、などで紹介されている。一方、大修館書店ジーニアス、桐原ファクトブックには無い。
「主部」と「主語」は厳密には異なるが、しかしSVOO文型やSVC文型など文型について言う場合、主部のことも含めて「主語」と呼んでよい。参考書もそうなっている。
文法用語でいう修飾語(Modifier)には副詞と形容詞があるが、しかし文型の理論でいう記号 '''M''' は副詞だけに限定するのが一般的である(インスパイア)。
また、よく記号Mを「修飾語」というが、実際には1単語の「語」だけでなくとも、複数の語からなる副詞句や副詞節でも「修飾語」といって記号 M で表す(インスパイア)。
== 動詞の用法 ==
=== 助動詞 ===
=== 態 ===
==== 受動態 ====
;どういうときに受動態を使うか。
動作主が不明な場合、
動作主をぼかしたい場合(ジーニアス)、
動作主に興味が無い場合(インスパイア)、
and接続詞のある文などで、形容詞をつかった「 be +形容詞」型の文章と並列させたい場合、受動態を使うことで「 It is 形容詞 and is 過去分詞(受動態)」のように主語を同じままで並列できて読みやすくなる(ジーニアス)。
能動態だと主語が長くなる場合、受動態を使うことがよくある。英語では長い主語を避けるのが普通(インスパ、ジーニアス)。
;by以外の動作主の前置詞
受動態にて動詞主をあらわす前置詞は一般的には by であるが、
しかし be known to ~ (知られている)や be covered with (~で覆われている)など、意味や動詞によっては前置詞がすでに決まっている。ほか、
be caught in ((にわか雨などに)あう)、
be filled with (~で満たされている)、
などが、そういったby以外が決まっている動詞(青チャート、ジーニアス)。
余談だが、「be known by ~」は、動作主ではなく「判断の基準」を表すのに使われる(インスパイア)。
なお、by で表せるような動詞の受動態の場合、動作主が一般の人である場合は、byおよび動作主を省略することもある(青チャート)。
;感情と受動態
感情を表す be surprised at (驚く)などを、一説には、形容詞ではなく受動態であると見なす場合もある(ジーニアス、青チャート)。
be pleased with / be delight with 「~で喜ぶ」、
be satisfied with 「~に満足する」、
be disappointed at / in / with 「~に落胆する」
be interested in 「~に興味を持つ」、
be amused at/with 「~を楽しむ」、
be amazed at 「~に驚嘆している」、※ ジーニアス
be worried about 「~を心配している」、
==== 助動詞と組み合わさった受動態 ====
He could be seen by her.
受動態の文を作るときには、その文の述語は必ずbe動詞の節になるが、be動詞に対して助動詞を用いたり、時制の変化をさせることも普通に行なわれる。
この時には、例えば
He is seen by her.
という文が
He could be seen by her.
の様にbe動詞は、助動詞+beの形で書き換えられる。これは、be動詞の原形が
beで与えられることによる。同じ様に例えば、
might be
may be
must be
will be
なども用いることが出来る。また、過去形や現在完了と組み合わせるときにも通常の規則に従えばよい。例えば、上の文では
He was seen by her.
He has been seen by her.
などとなる。been は be の過去分詞である。ここで、be が過去分詞 been になったのは、現在完了を作るためであり、see が過去分詞 seen になったのは、受動態を作るためであることに注意。
=== 分詞 ===
== さまざまな構文 ==
=== 分詞構文 ===
分詞構文は現在分詞や過去分詞を用いて、従属の接続詞節のような意味を持つ文の成分を作る用法である。例文として、
Crying out something, he quickly runs away.
がある。この文は「何かを叫びながら、彼は素早く逃げていった。」という
意味だが、この様な文は例えば接続詞whileを用いて、
While he cries out something, he quickly runs away
接続詞を取る。
He cries out something, he quickly runs away.
主語を取る。
Cries out some thing, he guickly runs away.
動詞を現在分詞形にする。
Crying out some thing, he quickly runs away.→'''これで完成!'''
などとすることが出来る。分詞構文は文の前後関係から、省略される接続詞が予測できると考えられるとき、接続詞と主語を省略することによって
得られる。ただし、接続詞無しで節を作ることは出来ないことから、接続詞節の述語は対応する現在分詞になるのである。上の例文は
while を用いた文から接続詞 while を省き、述語 cries を現在分詞 crying にすることに
よって得たものと解釈出来る。ただし、元の従属接続詞節に対応する主文の主語と接続詞節の主語が等しいときには、現在分詞の主語は
省略出来る。上の文で while 節の主語に対応する語が無いのはこのことからである。
主節の主語と従属節の主語が異なっているときには、分詞構文の主語として対応する従属節の主語を所有格として与える。例えば、上の例で主語を省略せず書くと、
His crying out something, ... のようになる。
一般に現在分詞の主語を指定するときは通常所有格を用いる。
分詞構文で省略される接続詞には主なものとして、
because, since, as: 〜だから(理由)
when, as, while: 〜のとき(ある時点)
などがあげられる。
分詞構文になる従属節では述語がbe動詞であることがある。
このときにも上の規則に従って、Being -,によって分詞構文が作られることも多い。
==== 分詞構文の受動態 ====
特にbe動詞に対応する補語が受動態であったり、形容詞であるときには、beingを省いて過去分詞、もしくは形容詞から分詞構文が
始まることも多い。
(Being) seen from airport, everything looked small.(飛行機から見ると、全てのものが小さく見えた)
The assignment (being) finished, we went on a hike to the nearby mountain.(その課題が終わってから、私たちは近くの山へハイキングへ行った。)
このときには、be動詞と接続詞、必要なら対応する主語も補って考える必要がある。ただし、この様な省略がなされるのは、あくまで省略されたものが文脈からすぐに分かる時のみである。
=== 話法 ===
=== 会話表現 ===
== 品詞 ==
=== 代名詞 ===
==== 未分類 ====
中学校では「代名詞」として、 he や she や we など、基本的な代名詞を習う。
もちろんそれも代名詞であるが、しかしそれ以外にも多くの代名詞がある。
たとえば the same (「同じもの」の意味)も代名詞である(青チャート、ジーニアス)。なぜなら、the same は、なにか具体的な名詞を言う代わりとして使われるのだから、the same も立派な代名詞である。
このように、代名詞は別に一語でなくても構わない。
なお、形容詞的に the same の直後につづけて名詞が来る場合もあり、「the same ~ as ・・・(名詞または代名詞)」で、「・・・と同じ ~」の意味。
こちらの構文では the same は代名詞というよりも形容詞としての用法だが、市販の参考書では都合上、代名詞の章でいっしょにthe same ~ as の構文も教えているのが通例である。
ともかく例文は、たとえば
the same ~ as yours で「あなたのと同じ~」の意味(ジーニアス、エバーグリーン)。
the same shoes as yours なら「あなたのと同じ靴」だし(エバー)、
the same computer as yours なら「あなたのと同じコンピュータ」である(ジーニアス)。
一方、慣用的に、節が続く場合は as ではなく that の場合が多く
the same man that I saw yesterday で「昨日見かけたのと同じ男の人」の意味だし(エバーの和訳を少し改造)、
the same song that I heard yesterday で「昨日聞いたのと同じ曲」の意味(ジーニアス)。
のように、
「the same ~ that ・・・(節)」
というのもある。
ただし、節が続く場合でも、べつに as を使ってもかまわず、つまり「 the same ~ as ・・・(節)」としてもマチガイではない(ブレイクスルー)。
those who ~ で「~な人々」の意味の代名詞である。
たとえばエバーグリーンいわく、 those who wish to smoke で「たばこを吸いたい人々」である。
such は代名詞として「そのようなもの」「そのような人」として扱われる場合もある。
たとえば
He is an adult now, and should be treated as such. 「彼はもう大人なのだから、そのように扱うべきだ。」 ※ジーニアス
He is mere child, and should be treated as such. 「彼はまだほんの子供だから、子供として扱ってやるべきだ。」 ※青チャート
のように such はよく as such などとして使われる。
==== some と any ====
{| class="wikitable" style="left"
|+ 複合不定代名詞
! !! some- !! any- !! no- !! every-
|-
! 人<br> -one<br> -body
| someone <br> somebody<br>(だれか) || anyone <br> anybody<br>(だれか、だれでも) || no one (※ 離して書く)<br> nobody<br>(だれも~ない) || everyone<br> everybody<br>(だれでも)
|-
! 物<br>-thing
| something || anything || nothing || everything
|-
|}
some にも any にも「いくつかの」という意味がある。
よく参考書では、「 some は肯定文で使う。anyは疑問文・否定文で使う」などと習う(青チャート、ジーニアスなど)。
しかし桐原ファクトいわく、anyの基本的な意味は「どれでも」の意味である。any の「いくつかの」の意味は、「どれでも」の派生だと思うほうが良いだろう。
some と any の区別で悩んだ場合は、この「どれでも」の意味を基準に考えると良い。
だから肯定文であっても、「どれでも」の意味の形容詞には any を使う。
桐原ファクトいわく、疑問文で any を使う場合でも、ニュアンス的には「どれでも」の意味があるのが実際とのこと。否定文の any も同様。
この any の基本的な意味が「どれでも」の説に立てば、たとえば熟語 not ~ any が形容詞 no と同じ意味だということも、 not ~ any は「どれでもいいので存在してほしい(any)という事についてすら、それが成り立たない(not)。 → つまり無い」というふうに理解できます。
なお、any の後ろに否定語を置くのは禁止されている(ジーニアス、青チャート)。
ほか、慣用的な表現として、よくお茶などやコーヒーの飲み物をすすめる際に、
Would you like some coffee? 「コーヒーはいかがですか」(桐原ファクト)
Would you like some more tea? 「お茶のお代わりはいかがですか」(青チャート)
のようにsome を使う。
青チャートいわく、some は、答えが Yes であることを期待しているニュアンスのある表現とのこと。そういう用法もある。なので、人にものを勧めるからには、some で質問しないと失礼になるので、someを使うのが当然とのこと。
実際にはsome も any もけっして意味中立的な表現ではなく、それぞれニュアンスがあるので、some と any を完全に使い分けるのは難しいだろう。
参考書にあるような代表的な事例についてだけ、some とanyを使い分ければ、とりあえずは平気だろう。
somebody と anybody などの使い分けも、上記の some と any に準じる(桐原ファクト)。
たとえば「誰かに出会いました」といいたい場合は、somebody を使うべきだと桐原は言っている。これがもしanybodyだと 「誰でもいいのですが、その人に会いました」(原文ママ(桐原))という内容の意味不明の文章になってしまうことからも分かるとして、桐原ファクトは誰かに会った事を言いたい場合には somebody を使うべきだと言っている。
所有格については、-body や -thing の末尾に 's をつければいい(インスパ)。
Everybody's business is nobody's business. 「みなの仕事は誰の仕事でもない」(直訳)→「共同責任は無責任」(ことわざ)
※ 「共同責任は無責任」の部分がことわざ。青チャートおよびインスパイアがこの ことわざ を紹介。
;慣用句など
He is something of musician. 「彼はちょっとした音楽家だ」 ※青チャ、インスパ、ロイヤル
something of a 「少しは~である」※青チャ、「ちょっとした~」※インスパ、
He thinks he is something. 「彼は自分を立派な人だと思っている」
「He thinks himself somebody. 」などでも同じ意味。
somebody または something で「立派な人」の意味(青チャート)。
逆に、nobody または nothing には「とるにたらない人」の意味がある(青チャート、ロイヤル)。
be something like または look something like で「少し似ている」の意味(青チャ、ロイヤル)。
==== every とall の違い ====
「すべての」という意味での every は形容詞であるが(インスパイア)、市販の参考書では便宜的に代名詞の章で紹介される。形容詞なので、every 単独ではあつかわれず、必ず直後に名詞または代名詞をともなう(インスパイア)。
every には「すべての」の意味もある(桐原ファクト、インスパイア)。しかし every と all には、ニュアンスの違いが明確に存在する。
また、every の後ろは単数形でなければならない。
every は、その全部を構成する一つ一つに関心がある文脈の場合に用いられる(桐原ファクト)。だから every で形容される名詞は必ず単数形でなければならないのも当然である(桐原ファクト)。また、everyは例外がないことを強調している(ジーニアス)。
each は2つ以上、every は3つ以上のものについて使用する。
なお、each は比較的に小さい個数のものに使い、everyは比較的に大きい数のものに使う(ジーニアス)。 each の使用対象はべつに2個限定でなくても構わない。
every と all には、こういったニュアンスの違いがあるので、参考書によってはevery の標準的な和訳を「すべての」以外で紹介する参考書も多い。
たとえば「あらゆる」「どの~も」という訳で every を紹介する参考書がよくある(青チャート、ブレイクスル-)。
なお、every には別の用法で「~(数詞のつく名詞)ごとに」の意味もあり、この場合は複数形になる。
たとえば every six hours で「6時間ごとに」である(ブレイクスルー)。 every four years で「四年ごとに」である(エバーグリーン)、なおオリンピックが四年ごとに開かれる という文章。
なお、「一日おきに」は every other day である(インスパイア)。
{{コラム|every child を受ける代名詞は he か she か?|
桐原ファクトに書いてあるのですが、男女のどちらの場合もある単数の名詞について、それを代名詞で受ける際、
he か she かが、時代とともに変わっていきました。
もともとは、男女不明などの場合は、とりあえず he で代名詞を受けていました(桐原ファクト)。
だから every child も he で受けていました。
しかし、それが男女平等の観点に反するという意見が多くなり、近年になって、「 he/ she 」などと受ける代名詞が変わってきました。
「he / she 」はhe or she と読みます。
しかし、長くなるので会話などで不便でした(桐原ファクト)。
その不便さを解消するためか、さらに最近では、単数形であることを無視して every child のような名詞でも they で受けています(桐原ファクトの 2022年 第2版で確認)。
each も同様、最近では they で受けます(桐原ファクト)。
:※ 上記のような説が有名であるが、それに対する若干の異論もある。それは
「もともと he は男の代名詞ではなく性別不明の代名詞であり、もし、男である何らかの名詞についてそれを代名詞で受ける場合については、とりあえず性別不明の代名詞である he を当てるというルールだった」というような説です。
ツイッターで東大の地震学の教授・[[w:ロバート・ゲラー]]がそのような主張をしています。 [https://twitter.com/rjgeller/status/1062486963242979328 Robert Geller@rjgeller 午前8:26 · 2018年11月14日]
おおむね、その教授はおおむね「自分は50年前の高校生のときにそう習った(heは性別不明の代名詞だと習った)」(※ 日本語として読みやすくなるようにwiki側で文章を修正。正確な文章については参照元を読むこと)とツイッターで主張していました。
この場合でも男女は不平等であります。しかし、女性差別とは言いがたい実態になります。
つまり、「女性を無視して男性を意味する he を使っていたのではなく、そもそも he は男女不明の代名詞であったが、女性専用の she という代名詞が存在していたため、あとからhe に男性の意味がついてきた。なのに『性別不明の名詞に he を使う事を女性差別だ』というフェミニズム言説は間違っている」という説です。
もしこの説「he は性別不明の代名詞だった」論のとおりなら(この説が間違っている可能性もありますので、どちらかに決め付けないように)、現代の各国の英語教育が、フェミニズミム運動などに配慮して代名詞 he の歴史の説明について、若干のウソをついている事になる可能性があります。
どちらの場合にせよ(数学の確率問題の場合わけのように、マジメに検証する人は両方の可能性を検討する)、参考書の桐原ファクトをよく読めば、性別不明の代名詞 he → he/she → they の変遷について「男女平等」という表現は説明に用いていますが、しかし「女性差別」という表現は用いていません。桐原ファクトの著者たちは、なかなか優秀です。こういう何気ない言葉の端々に、参考書の著者の優秀さが現れます。
まあ、私たちは背景事情にまでは深入りする必要はありません。上記のような異論もあることも承知した上で、異論もふくめた両者の合意である he → he/she → they という性別不明の単数代名詞の客観的事実を覚えれば済みます。
}}
==== その他 ====
「those who ~」で「~する人々」
Heaven helps those who help themselves. 「天はみずから助くる者を助く。」(ことわざ) ※ 青チャート
So do I. 「私もです。」
「So 動詞+主語」 か「So 主語+動詞」かで意味が違う。
「So 動詞+主語」は、「主語もです」の意味。
「So 主語+動詞 」 は「主語は確かにそうだ」の意味(インスパ代名詞、ジーニアス副詞)。
例文を出せば、たとえば
So he is. 「確かに彼はそうだ」
Tom is kind. 「トムは親切だ。」
- So he is. 「確かに彼はそうだ(=彼・トムは親切だ)。」
- So is John. 「ジョンもそうです。(=トムだけでなくジョンも親切ですよ)」
のような違いがある。
Tom can French well. 「トムはフランス語を上手に話せます」
- So he can. 「確かに彼はそうだ」
- So can John. 「ジョンもフランス語が上手ですよ」
※ 青チャにcanで似た例文
=== 形容詞・副詞 ===
;副詞の位置
副詞の位置がどこに来るかについて、単語や文章によって様々である。
通常、英語では副詞の位置は、修飾対象に前置きである。
しかし very much や from time to time など複数語から構成される副詞表現になると、通常は文末または修飾対象の後ろに置かれるのが通常である(桐原ファクト)。
== 名詞構文・無生物主語 ==
=== 名詞構文 ===
=== 無生物主語 ===
The road takes you to the station. 「その道を歩いていくと駅につきます。」
The bus takes you to the station. 「そのバスに乗れば駅に行きます。」
take は「連れて行く」の意味だが、交通機関などを主語にして使うことも出来る。その場合は、たとえば道なら「その道を行けば、~につきます」のような意味になる。
takes の代わりに will take としても良い(ロイヤル英文法)。
「remind 人 of」 で「人に~を思い出させる」の意味である。
This picture reminds me of vacation in Greece. 「その写真を見ると、ギリシャでの休日を思い出す。」
This picture reminds me of holidays in London. 「その写真を見ると、ロンドンでの休日を思い出す。」
なお、大修館ジーニアスだとロンドン、桐原フォレストだとギリシャの例文。
「deprived 人 of ~」 「(機会などが)うばわれる」
The knee injury deprived him of the chance to play in the final game. 「ひざのけがのため、彼は決勝戦に出場する機会を失った。」
または
The knee injury deprived the player of the chance to play in the game. 「ひざにけがをしたため、その選手は試合に出場する機会を失った。」
のように例文が参考書によくある。
enable ~ は、「~をできるようにする」「~を可能にする」の意味。「~のおかげで、・・・できるようになった」と訳すことができる。
The scholarship enabled him to go on to university. 「その奨学金のおかげで彼は大学へ進学できた。」
ジーニアス、ロイヤルに scholarship の似た例文。
== 疑問詞 ==
疑問詞は、'''疑問代名詞'''と'''疑問副詞'''に分けられる。
下記に疑問代名詞の一覧の表を示す。
{| class="wikitable" style="float:left"
|+ 疑問代名詞の種類
! !! 主格 !! 所有格 !! 目的格
|-
! 人
| who (だれが) || whose (だれの(もの)) || who / whom (だれを、だれに)
|-
! 人、事物
| what (何が) || ない || what (何を、何に)
|-
! 人、事物
| which || ない || which (どれを、どちらに)
|}
{{-}}
what, which には所有格が無い(青チャ、ロイヤル)。
what, which, whose は疑問形容詞としても用いられる(青チャ、ブレイクスルー)。※ ブレイクスルーでは、一覧表の直後で章が変わり、疑問形容詞の章になる。
上記の一覧表は、あくまで疑問代名詞のみである。
疑問副詞については、まったく言及していない。
{{-}}
インスパイア、青チャート、ブレイクスルー、ロイヤルには上記のような疑問詞の一覧表がある。
ジーニアス、エバーグリーン、桐原ファクトには無い。
=== 前置詞と疑問詞 ===
Where are you from? 出身はどちらですか?
文法上、ここでの Where は副詞であり、「疑問副詞」というのに分類される(ロイヤル)。
中学校では主語を you にした例を中心にWhereの疑問文を教わったかもしれないが(中学の1年くらいだと、まだ3人称をあまり習ってないなどの教育的理由があるので)、もちろん he や she などを主語にしても where を使った質問は使用可能である(青チャ)。
Where does he live in? 「彼はどこに住んでいますか」
- Los Angels. 「ロサンゼルスです」
のようにyou以外にも he やsheなどでも言うことも可能。
さて、「Where are you from?」 について前置詞 from に注目しよう。
もしかしたら中学高校などで「前置詞は名詞や代名詞の前に移動するのが原則」とか習うかもしれないが、しかし前置詞をけっしてfromの前に移動しない。
なので、Where は副詞であると考えたほうが理解しやすいだろう。(これとは別の解釈で、そもそも「副詞には前置詞がいらない」という考えから副詞ではなく代名詞としての機能だと考える立場もあり、ジーニアスやロイヤルやフォレストがそういう立場。だが、机上の空論だろう。)
なお、法学など幾つかの学問では、『原則』というのは例外のありうる規則、という意味である。おそらくジーニアスが「原則」という言葉を使っているのは、Where ~?などの疑問詞を文頭にもちいた疑問文の場合は例外的な事例という含みがあるのだろう。
Where に限らず、たとえば When などで疑問文を作るときも原則、それらの疑問詞の前には前置詞(When の場合は since や till や until など)を置かない。そのため、それら When の文でも前置詞は文末にくる場合が多くなる。
つまり、「いつから~?」なら When do you ~ since ? のような文章になる事が多い。
ただし、疑問代名詞の場合は例外的である。
たとえば前置詞 With を使う場合、Who が目的格 Whom に変化する場合もあり、
With whom do you ~? 「誰と一緒に~しますか?」
のようにWith が文頭にくる場合もあるが(桐原)、文語調である(青チャート)。with以外の前置詞の場合でも文頭に持ってくる場合には同様にwhoではなく whom に変化する(ジーニアス)。なお、前置詞を文頭に持ってくる場合、whomを使わずにwho のままで文頭の前置詞の次に置くのは禁止である。
なお、Whomを使わずとも who のままで下記のように言うこともでき
Who do you ~ with?
となり、こちらは口語調である。
青チャートからの引用になるが、
About Which Yamada were you talking? (文語)「どちらが山田さんのことを話していたのですか.」
Which Yamada were you talking about? (口語)「どちらが山田さんのことを話していたのですか.」
となる。
しかし、
What are you looking for? 「何をさがしているのですか。」
については、 look for でひとつの句動詞(群動詞)なので、forは動詞の直後の文末でなければならない(青チャート)。なお、句動詞のことを群動詞ともいう。青チャートでは「句動詞」、インスパイアでは「群動詞」である。
同様にlook for (=を探す), look after (~を世話する),laugh at(を笑う), listen to, depend on , などが句動詞(群動詞)である(青チャ、インスパ、ロイヤル)。なので、これら句動詞(群動詞)では、動詞と前置詞は分離できないので、語順は「疑問詞 ~ 動詞 前置詞?」になる。
さて、疑問副詞の話題に戻る。
Where are you from? の場合、もし前置詞 from がないと、「あなたはどこ?」となり、それが出身をたずねているのか、それとも現在地をたずねているのか、意味が分からなくなることもあってか、ともかく 「Where are you from?」の文章は from を省略できない。
ジーニアスは、話し言葉ではWhereでは from を省略しないという言い方をしているが、しかし書き言葉であっても from を省略しないのが一般的であろう(省略したら上述のように意味が通らなり読み手に誤解を与えるので。)。
しかし、用いる動詞などによっては前置詞を省略できる場合があり、たとえば
Where do you go to? 「どこに行きますか?」
なら、もし前置詞 to を省略しても、動詞 go から意味を推測できるので、この場合は to を省略されるのが許され、つまり
Where do you go?
でも許される(ジーニアス)。
このように文法の理論というのは、あまり論理的ではない。最終的には、英文法の学習では典型的な構文を覚えて、それを真似して使っていく必要がある。
=== 慣用的な疑問文 ===
How about a cup of tea? 「お茶を一杯いかがですか?」
How about ~? は勧誘を表す。
What do you say to ~ing 名詞/動名詞 ? 「~はいかがですか?」「~しませんか」
What do you say to ~ing でも勧誘を表せる。
ここでのsayの直後にある to は前置詞であると考えられている(桐原フォレスト)。どういうわけか、ジーニアスもロイヤルも、to が前置詞かどうかは言及していない。
ほか、Why don't you 動詞 ~ ? は、「~してはどうしょうか」のような相手に行為を促す(うながす)言い方であり、やや押し付けがましい言い方である(ジーニアス)。 Why don't we の形で、一緒になにかをする時に「~しましょうよ」の意味で使う場合もある(フォレスト)。
また、これを省略的に Why not ~? の形で「~はどうですか」「~してはいかがでしょうか」「~しましょうよ」の意味にもある。
How come S + V ~?
How come ~? は「どうして~」の意味でありwhy に近いが、How come のほうが感情的な表現であるので、目上の人に使うのは避けるのが良い(ジーニアス)。なお、How come は語順がSVと肯定形の語順になる。
How come you didn't call me ? 「どうして電話をくれなかったの?」
※ 「電話してほしかったのに」のような含みがあり、相手を責めているようにも受け取られかねない。だから返事も、Sorry, 「ごめん」とかになる(ジーニアス)。
許可を求める表現である Do you mind if~? で、「~してもいいですか」という許可を求める表現ができる。なお Would you mind if ~? については仮定法になり、つまり「~」中の動詞が過去形になる。Would you mind if ~? については 『[[高校英語の文法/仮定法]]』で説明済み。
Do you mind if のほうは、if ~ の動詞は現在形で構わない。
=== 間接疑問文 ===
「何が起きたかを話して」Tell me what happened. (ジーニアス、ブレイクスルー)
のように、文中に疑問的な言い回し(上記の例では「何が起きたか」what happened の部分)が含まれているが、しかし文全体としては平叙文のような英文があり、こういう構造の文のことを間接疑問文という。
「間接疑問」とはいうものの、文中の「関節疑問」の部分は名詞節として働く。
間接疑問文が疑問文なのか平叙文なのかの分類は入試では問われないので、安心していい。文法参考書でも、間接疑問文については、紹介を書籍の後半部に後回しに後回しにしている参考書もある。
このため、高校英語では、疑問文とは、文末が「?」で終わる文章のことだと思っておけば、特に問題が無い。
Would you tell me what happened? 「何が起きたかを話してくれませんか.」
のように間接疑問文をさらに文全体でも疑問文にすることもできるが、本ページでは深入りしない。
I know what he wants. 「私は彼が欲しいものを知っている.」
のような表現も、間接疑問文に分類する場合もある。なお、間接疑問の節中の動詞の人称格変化の有無や、時制の一致などに注意。
I don't know what he wants. 「私は彼が欲しいものを知らない.」
のように文全体が否定文になることもある。
I know where he lives. 「私は彼が住んでいる場所を知っている.」
なお、
Do you know where he lives? 「彼がどこに住んでいるかを知っていますか.」
と質問された場合、文法的には返事は
Yes, I do. 「はい知ってますよ」
No, I don't. 「いいえ、知りません」
となる。(ただし、現実では、質問された側が気を利かして、住んでいる場所まで答えてくれるような場合もありうるが、しかし本単元では考慮しないとする。)
文法的に、どこに住んでいるかを聞き出したい場合は、間接疑問ではなく、疑問副詞を用いた一般的な疑問文で
Where does he live?
で質問することになる。
このように、文頭の単語を見れば、文法上の返事の仕方や、文法的には質問されているものは何かを決定できる。
== 参考文献についての注意 ==
サブページ中の参考文献で、現代2022年では廃止になったシリーズの桐原『フォレスト』などを掲げているが、現代でも他社の いいずな出版『エバーグリーン』シリーズにフォレストの権利が引き継がれているようなので、わざわざ古本のフォレストを探す必要は無い。
[[カテゴリ:高等学校教育|ふむほふ]]
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206960
206959
2022-08-22T09:01:45Z
すじにくシチュー
12058
/* 態 */
wikitext
text/x-wiki
<!-- このページには導入部がありません。適切な導入部を作成し、このコメントを除去してください。 -->
== 目次 ==
* [[高校英語の文法/文の種類]]
* [[高校英語の文法/動詞と文型]]
* [[高校英語の文法/時制]] ※ 参考書によって微妙に単元名が異なるので暫定
* [[高校英語の文法/完了形]]
* [[高校英語の文法/助動詞]]
* [[高校英語の文法/不定詞]]
* [[高校英語の文法/動名詞]]
*
* [[高校英語の文法/比較]]
* [[高校英語の文法/関係詞]]
* [[高校英語の文法/仮定法]]
* [[高校英語の文法/名詞]]
* [[高校英語の文法/冠詞]]
*
* [[高校英語の文法/否定]]
* [[高校英語の文法/接続詞]]
* [[高校英語の文法/前置詞]]
その他 [[高等学校英語/文法用語の英単語]] 「名詞」Noun など(入試には出ないので覚える必要は無い)
== 文の構造 ==
=== 文の要素 ===
文の構造を知るためには、文がどのような要素で成り立っているのかを知らなければならない。
==== 主語と述語動詞 ====
# '''The old man''' ''is'' a famous singer.
# '''My sister''' ''studied'' math.
## 訳例:その老人'''は'''有名な歌手'''だ'''。
## 訳例:私の姉'''は'''数学を研究'''していた'''。
1の文は「AはBだ」という文であり、2の文は「AはCする」という文である。どちらも
# 「…は」「…が」という主題の部分
# 「~である」「~する」という主題が何であるかについて述べる部分
の二つが共通している。
この場合、1を'''主部'''といい、2を'''述部'''という。
そして、主部の中心となる語を'''主語'''(Subject)といい、述部の中心となる部分を'''述語動詞'''(Predicate Verb略して'''動詞'''('''Verb'''))という。
たとえば上記「私の姉」以下略の場合、 sister を主語、My sister を主部と分類する場合もある。
だが、主部のことを主語という場合もある(文英堂インスパイア)。
以下では、述語動詞は原則として単に動詞と呼ぶ。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|-
! || - || 主語 || 述語動詞 || -
|-
| -
| colspan="2" | 主部
| colspan="2" | 述部
|-
| 1.
| The old
| man
| is
| a famous singer.
|-
| 2.
| My
| sister
| studied
| math.
|}
主語は単に'''S'''で表し、動詞は'''V'''で表す。
==== 目的語 ====
# He ''has'' '''a personal computer'''.
# We ''played'' '''soccer'''.
# Everone ''likes'' '''Sushi'''.
## 訳例:彼はパソコン'''を'''持っている。
## 訳例:私たちはサッカー'''を'''した。
## 訳例:みんなが寿司'''を'''好む。
いずれの文の動詞も「~を」という、動作の対象が必要である。このような動作の対象を表す語を'''目的語'''(Object)といい、'''O'''で表す。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|-
! || 主語 || 動詞 || 目的語
|-
| -
| colspan="1" | 主部
| colspan="2" | 述部
|-
| 1.
| He
| has
| a personal computer.
|-
| 2.
| We
| played
| soccer.
|-
| 3.
| Everone
| likes
| Sushi.
|}
このような、'''S+V+O'''という形の文は英文の基本形の一つである。
==== 補語 ====
# Mary ''is'' '''happy'''.
# John ''became'' '''a doctor'''.
## 訳例:メアリーは幸せだ。
## 訳例:ジョンは医者になった。
これらはいずれも主語の状態を説明した文であるが、isやbecomeで文を切ると意味をとれない。happyやa doctorという、主語の様子をおぎなう語があって初めて意味のある文となる。このように、主語の様子について説明する語を'''補語'''(Complement)という。補語は'''C'''で表される。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|-
! || 主語 || 動詞 || 補語
|-
| -
| colspan="1" | 主部
| colspan="2" | 述部
|-
| 1.
| Mary
| is
| happy.
|-
| 2.
| John
| became
| a doctor.
|}
このような'''S+V+C'''の文も基本的な文の一つである。なお、後で学ぶように、補語は主語の様子だけでなく目的語の様子を説明する場合もある(例文:I call him Sensei.(私は彼を先生と呼ぶ))。
==== まとめ ====
文の要素を表す記号をまとめると、
主語 '''S''' (Subject) / 動詞 '''V''' (Verb) / 目的語 '''O''' (Object) / 補語 '''C''' (Complement) / 修飾語 '''M''' (Modifier)
である。
subject や verb などの単語は、青チャート、文英堂インスパイア、いいずな出版エバーグリーン、などで紹介されている。一方、大修館書店ジーニアス、桐原ファクトブックには無い。
「主部」と「主語」は厳密には異なるが、しかしSVOO文型やSVC文型など文型について言う場合、主部のことも含めて「主語」と呼んでよい。参考書もそうなっている。
文法用語でいう修飾語(Modifier)には副詞と形容詞があるが、しかし文型の理論でいう記号 '''M''' は副詞だけに限定するのが一般的である(インスパイア)。
また、よく記号Mを「修飾語」というが、実際には1単語の「語」だけでなくとも、複数の語からなる副詞句や副詞節でも「修飾語」といって記号 M で表す(インスパイア)。
== 動詞の用法 ==
=== 助動詞 ===
=== 態 ===
==== 受動態 ====
;どういうときに受動態を使うか。
動作主が不明な場合、
動作主をぼかしたい場合(ジーニアス)、
動作主に興味が無い場合(インスパイア)、
and接続詞のある文などで、形容詞をつかった「 be +形容詞」型の文章と並列させたい場合、受動態を使うことで「 It is 形容詞 and is 過去分詞(受動態)」のように主語を同じままで並列できて読みやすくなる(ジーニアス)。
能動態だと主語が長くなる場合、受動態を使うことがよくある。英語では長い主語を避けるのが普通(インスパ、ジーニアス)。
;by以外の動作主の前置詞
受動態にて動詞主をあらわす前置詞は一般的には by であるが、
しかし be known to ~ (知られている)や be covered with (~で覆われている)など、意味や動詞によっては前置詞がすでに決まっている。ほか、
be caught in ((にわか雨などに)あう)、
be filled with (~で満たされている)、
などが、そういったby以外が決まっている動詞(青チャート、ジーニアス)。
余談だが、「be known by ~」は、動作主ではなく「判断の基準」を表すのに使われる(インスパイア)。
A man is known by the company he keeps. 「つきあっている友達を見れば、その人の人柄が分かる」(ことわざ)※ インスパイア
A tree is known by its fruit. 「木のよしあしはその果実によって決まる」→「人はことばではなく行いによって判断される」(ことわざ)※青チャート
なお、by で表せるような動詞の受動態の場合、動作主が一般の人である場合は、byおよび動作主を省略することもある(青チャート)。
;感情と受動態
感情を表す be surprised at (驚く)などを、一説には、形容詞ではなく受動態であると見なす場合もある(ジーニアス、青チャート)。
be pleased with / be delight with 「~で喜ぶ」、
be satisfied with 「~に満足する」、
be disappointed at / in / with 「~に落胆する」
be interested in 「~に興味を持つ」、
be amused at/with 「~を楽しむ」、
be amazed at 「~に驚嘆している」、※ ジーニアス
be worried about 「~を心配している」、
;被害や災害
感情だけでなく、被害や災害も、英語では普通は受動態であらわす(インスパイア、青チャート)。
be delayed (遅れる)
be delayed due to heavy snow 「大雪で遅れる」※インスパ 、 de delayed by heavy snow 「大雪で遅れる」※青チャ
be injured (けがをする)
be injured in the accident 「その事故でけがをする」※青チャ
be killed ((戦争や事故などで)死亡する)
be killed in traffic accident. 「交通事故で死亡する」※エバグリ
==== 助動詞と組み合わさった受動態 ====
He could be seen by her.
受動態の文を作るときには、その文の述語は必ずbe動詞の節になるが、be動詞に対して助動詞を用いたり、時制の変化をさせることも普通に行なわれる。
この時には、例えば
He is seen by her.
という文が
He could be seen by her.
の様にbe動詞は、助動詞+beの形で書き換えられる。これは、be動詞の原形が
beで与えられることによる。同じ様に例えば、
might be
may be
must be
will be
なども用いることが出来る。また、過去形や現在完了と組み合わせるときにも通常の規則に従えばよい。例えば、上の文では
He was seen by her.
He has been seen by her.
などとなる。been は be の過去分詞である。ここで、be が過去分詞 been になったのは、現在完了を作るためであり、see が過去分詞 seen になったのは、受動態を作るためであることに注意。
=== 分詞 ===
== さまざまな構文 ==
=== 分詞構文 ===
分詞構文は現在分詞や過去分詞を用いて、従属の接続詞節のような意味を持つ文の成分を作る用法である。例文として、
Crying out something, he quickly runs away.
がある。この文は「何かを叫びながら、彼は素早く逃げていった。」という
意味だが、この様な文は例えば接続詞whileを用いて、
While he cries out something, he quickly runs away
接続詞を取る。
He cries out something, he quickly runs away.
主語を取る。
Cries out some thing, he guickly runs away.
動詞を現在分詞形にする。
Crying out some thing, he quickly runs away.→'''これで完成!'''
などとすることが出来る。分詞構文は文の前後関係から、省略される接続詞が予測できると考えられるとき、接続詞と主語を省略することによって
得られる。ただし、接続詞無しで節を作ることは出来ないことから、接続詞節の述語は対応する現在分詞になるのである。上の例文は
while を用いた文から接続詞 while を省き、述語 cries を現在分詞 crying にすることに
よって得たものと解釈出来る。ただし、元の従属接続詞節に対応する主文の主語と接続詞節の主語が等しいときには、現在分詞の主語は
省略出来る。上の文で while 節の主語に対応する語が無いのはこのことからである。
主節の主語と従属節の主語が異なっているときには、分詞構文の主語として対応する従属節の主語を所有格として与える。例えば、上の例で主語を省略せず書くと、
His crying out something, ... のようになる。
一般に現在分詞の主語を指定するときは通常所有格を用いる。
分詞構文で省略される接続詞には主なものとして、
because, since, as: 〜だから(理由)
when, as, while: 〜のとき(ある時点)
などがあげられる。
分詞構文になる従属節では述語がbe動詞であることがある。
このときにも上の規則に従って、Being -,によって分詞構文が作られることも多い。
==== 分詞構文の受動態 ====
特にbe動詞に対応する補語が受動態であったり、形容詞であるときには、beingを省いて過去分詞、もしくは形容詞から分詞構文が
始まることも多い。
(Being) seen from airport, everything looked small.(飛行機から見ると、全てのものが小さく見えた)
The assignment (being) finished, we went on a hike to the nearby mountain.(その課題が終わってから、私たちは近くの山へハイキングへ行った。)
このときには、be動詞と接続詞、必要なら対応する主語も補って考える必要がある。ただし、この様な省略がなされるのは、あくまで省略されたものが文脈からすぐに分かる時のみである。
=== 話法 ===
=== 会話表現 ===
== 品詞 ==
=== 代名詞 ===
==== 未分類 ====
中学校では「代名詞」として、 he や she や we など、基本的な代名詞を習う。
もちろんそれも代名詞であるが、しかしそれ以外にも多くの代名詞がある。
たとえば the same (「同じもの」の意味)も代名詞である(青チャート、ジーニアス)。なぜなら、the same は、なにか具体的な名詞を言う代わりとして使われるのだから、the same も立派な代名詞である。
このように、代名詞は別に一語でなくても構わない。
なお、形容詞的に the same の直後につづけて名詞が来る場合もあり、「the same ~ as ・・・(名詞または代名詞)」で、「・・・と同じ ~」の意味。
こちらの構文では the same は代名詞というよりも形容詞としての用法だが、市販の参考書では都合上、代名詞の章でいっしょにthe same ~ as の構文も教えているのが通例である。
ともかく例文は、たとえば
the same ~ as yours で「あなたのと同じ~」の意味(ジーニアス、エバーグリーン)。
the same shoes as yours なら「あなたのと同じ靴」だし(エバー)、
the same computer as yours なら「あなたのと同じコンピュータ」である(ジーニアス)。
一方、慣用的に、節が続く場合は as ではなく that の場合が多く
the same man that I saw yesterday で「昨日見かけたのと同じ男の人」の意味だし(エバーの和訳を少し改造)、
the same song that I heard yesterday で「昨日聞いたのと同じ曲」の意味(ジーニアス)。
のように、
「the same ~ that ・・・(節)」
というのもある。
ただし、節が続く場合でも、べつに as を使ってもかまわず、つまり「 the same ~ as ・・・(節)」としてもマチガイではない(ブレイクスルー)。
those who ~ で「~な人々」の意味の代名詞である。
たとえばエバーグリーンいわく、 those who wish to smoke で「たばこを吸いたい人々」である。
such は代名詞として「そのようなもの」「そのような人」として扱われる場合もある。
たとえば
He is an adult now, and should be treated as such. 「彼はもう大人なのだから、そのように扱うべきだ。」 ※ジーニアス
He is mere child, and should be treated as such. 「彼はまだほんの子供だから、子供として扱ってやるべきだ。」 ※青チャート
のように such はよく as such などとして使われる。
==== some と any ====
{| class="wikitable" style="left"
|+ 複合不定代名詞
! !! some- !! any- !! no- !! every-
|-
! 人<br> -one<br> -body
| someone <br> somebody<br>(だれか) || anyone <br> anybody<br>(だれか、だれでも) || no one (※ 離して書く)<br> nobody<br>(だれも~ない) || everyone<br> everybody<br>(だれでも)
|-
! 物<br>-thing
| something || anything || nothing || everything
|-
|}
some にも any にも「いくつかの」という意味がある。
よく参考書では、「 some は肯定文で使う。anyは疑問文・否定文で使う」などと習う(青チャート、ジーニアスなど)。
しかし桐原ファクトいわく、anyの基本的な意味は「どれでも」の意味である。any の「いくつかの」の意味は、「どれでも」の派生だと思うほうが良いだろう。
some と any の区別で悩んだ場合は、この「どれでも」の意味を基準に考えると良い。
だから肯定文であっても、「どれでも」の意味の形容詞には any を使う。
桐原ファクトいわく、疑問文で any を使う場合でも、ニュアンス的には「どれでも」の意味があるのが実際とのこと。否定文の any も同様。
この any の基本的な意味が「どれでも」の説に立てば、たとえば熟語 not ~ any が形容詞 no と同じ意味だということも、 not ~ any は「どれでもいいので存在してほしい(any)という事についてすら、それが成り立たない(not)。 → つまり無い」というふうに理解できます。
なお、any の後ろに否定語を置くのは禁止されている(ジーニアス、青チャート)。
ほか、慣用的な表現として、よくお茶などやコーヒーの飲み物をすすめる際に、
Would you like some coffee? 「コーヒーはいかがですか」(桐原ファクト)
Would you like some more tea? 「お茶のお代わりはいかがですか」(青チャート)
のようにsome を使う。
青チャートいわく、some は、答えが Yes であることを期待しているニュアンスのある表現とのこと。そういう用法もある。なので、人にものを勧めるからには、some で質問しないと失礼になるので、someを使うのが当然とのこと。
実際にはsome も any もけっして意味中立的な表現ではなく、それぞれニュアンスがあるので、some と any を完全に使い分けるのは難しいだろう。
参考書にあるような代表的な事例についてだけ、some とanyを使い分ければ、とりあえずは平気だろう。
somebody と anybody などの使い分けも、上記の some と any に準じる(桐原ファクト)。
たとえば「誰かに出会いました」といいたい場合は、somebody を使うべきだと桐原は言っている。これがもしanybodyだと 「誰でもいいのですが、その人に会いました」(原文ママ(桐原))という内容の意味不明の文章になってしまうことからも分かるとして、桐原ファクトは誰かに会った事を言いたい場合には somebody を使うべきだと言っている。
所有格については、-body や -thing の末尾に 's をつければいい(インスパ)。
Everybody's business is nobody's business. 「みなの仕事は誰の仕事でもない」(直訳)→「共同責任は無責任」(ことわざ)
※ 「共同責任は無責任」の部分がことわざ。青チャートおよびインスパイアがこの ことわざ を紹介。
;慣用句など
He is something of musician. 「彼はちょっとした音楽家だ」 ※青チャ、インスパ、ロイヤル
something of a 「少しは~である」※青チャ、「ちょっとした~」※インスパ、
He thinks he is something. 「彼は自分を立派な人だと思っている」
「He thinks himself somebody. 」などでも同じ意味。
somebody または something で「立派な人」の意味(青チャート)。
逆に、nobody または nothing には「とるにたらない人」の意味がある(青チャート、ロイヤル)。
be something like または look something like で「少し似ている」の意味(青チャ、ロイヤル)。
==== every とall の違い ====
「すべての」という意味での every は形容詞であるが(インスパイア)、市販の参考書では便宜的に代名詞の章で紹介される。形容詞なので、every 単独ではあつかわれず、必ず直後に名詞または代名詞をともなう(インスパイア)。
every には「すべての」の意味もある(桐原ファクト、インスパイア)。しかし every と all には、ニュアンスの違いが明確に存在する。
また、every の後ろは単数形でなければならない。
every は、その全部を構成する一つ一つに関心がある文脈の場合に用いられる(桐原ファクト)。だから every で形容される名詞は必ず単数形でなければならないのも当然である(桐原ファクト)。また、everyは例外がないことを強調している(ジーニアス)。
each は2つ以上、every は3つ以上のものについて使用する。
なお、each は比較的に小さい個数のものに使い、everyは比較的に大きい数のものに使う(ジーニアス)。 each の使用対象はべつに2個限定でなくても構わない。
every と all には、こういったニュアンスの違いがあるので、参考書によってはevery の標準的な和訳を「すべての」以外で紹介する参考書も多い。
たとえば「あらゆる」「どの~も」という訳で every を紹介する参考書がよくある(青チャート、ブレイクスル-)。
なお、every には別の用法で「~(数詞のつく名詞)ごとに」の意味もあり、この場合は複数形になる。
たとえば every six hours で「6時間ごとに」である(ブレイクスルー)。 every four years で「四年ごとに」である(エバーグリーン)、なおオリンピックが四年ごとに開かれる という文章。
なお、「一日おきに」は every other day である(インスパイア)。
{{コラム|every child を受ける代名詞は he か she か?|
桐原ファクトに書いてあるのですが、男女のどちらの場合もある単数の名詞について、それを代名詞で受ける際、
he か she かが、時代とともに変わっていきました。
もともとは、男女不明などの場合は、とりあえず he で代名詞を受けていました(桐原ファクト)。
だから every child も he で受けていました。
しかし、それが男女平等の観点に反するという意見が多くなり、近年になって、「 he/ she 」などと受ける代名詞が変わってきました。
「he / she 」はhe or she と読みます。
しかし、長くなるので会話などで不便でした(桐原ファクト)。
その不便さを解消するためか、さらに最近では、単数形であることを無視して every child のような名詞でも they で受けています(桐原ファクトの 2022年 第2版で確認)。
each も同様、最近では they で受けます(桐原ファクト)。
:※ 上記のような説が有名であるが、それに対する若干の異論もある。それは
「もともと he は男の代名詞ではなく性別不明の代名詞であり、もし、男である何らかの名詞についてそれを代名詞で受ける場合については、とりあえず性別不明の代名詞である he を当てるというルールだった」というような説です。
ツイッターで東大の地震学の教授・[[w:ロバート・ゲラー]]がそのような主張をしています。 [https://twitter.com/rjgeller/status/1062486963242979328 Robert Geller@rjgeller 午前8:26 · 2018年11月14日]
おおむね、その教授はおおむね「自分は50年前の高校生のときにそう習った(heは性別不明の代名詞だと習った)」(※ 日本語として読みやすくなるようにwiki側で文章を修正。正確な文章については参照元を読むこと)とツイッターで主張していました。
この場合でも男女は不平等であります。しかし、女性差別とは言いがたい実態になります。
つまり、「女性を無視して男性を意味する he を使っていたのではなく、そもそも he は男女不明の代名詞であったが、女性専用の she という代名詞が存在していたため、あとからhe に男性の意味がついてきた。なのに『性別不明の名詞に he を使う事を女性差別だ』というフェミニズム言説は間違っている」という説です。
もしこの説「he は性別不明の代名詞だった」論のとおりなら(この説が間違っている可能性もありますので、どちらかに決め付けないように)、現代の各国の英語教育が、フェミニズミム運動などに配慮して代名詞 he の歴史の説明について、若干のウソをついている事になる可能性があります。
どちらの場合にせよ(数学の確率問題の場合わけのように、マジメに検証する人は両方の可能性を検討する)、参考書の桐原ファクトをよく読めば、性別不明の代名詞 he → he/she → they の変遷について「男女平等」という表現は説明に用いていますが、しかし「女性差別」という表現は用いていません。桐原ファクトの著者たちは、なかなか優秀です。こういう何気ない言葉の端々に、参考書の著者の優秀さが現れます。
まあ、私たちは背景事情にまでは深入りする必要はありません。上記のような異論もあることも承知した上で、異論もふくめた両者の合意である he → he/she → they という性別不明の単数代名詞の客観的事実を覚えれば済みます。
}}
==== その他 ====
「those who ~」で「~する人々」
Heaven helps those who help themselves. 「天はみずから助くる者を助く。」(ことわざ) ※ 青チャート
So do I. 「私もです。」
「So 動詞+主語」 か「So 主語+動詞」かで意味が違う。
「So 動詞+主語」は、「主語もです」の意味。
「So 主語+動詞 」 は「主語は確かにそうだ」の意味(インスパ代名詞、ジーニアス副詞)。
例文を出せば、たとえば
So he is. 「確かに彼はそうだ」
Tom is kind. 「トムは親切だ。」
- So he is. 「確かに彼はそうだ(=彼・トムは親切だ)。」
- So is John. 「ジョンもそうです。(=トムだけでなくジョンも親切ですよ)」
のような違いがある。
Tom can French well. 「トムはフランス語を上手に話せます」
- So he can. 「確かに彼はそうだ」
- So can John. 「ジョンもフランス語が上手ですよ」
※ 青チャにcanで似た例文
=== 形容詞・副詞 ===
;副詞の位置
副詞の位置がどこに来るかについて、単語や文章によって様々である。
通常、英語では副詞の位置は、修飾対象に前置きである。
しかし very much や from time to time など複数語から構成される副詞表現になると、通常は文末または修飾対象の後ろに置かれるのが通常である(桐原ファクト)。
== 名詞構文・無生物主語 ==
=== 名詞構文 ===
=== 無生物主語 ===
The road takes you to the station. 「その道を歩いていくと駅につきます。」
The bus takes you to the station. 「そのバスに乗れば駅に行きます。」
take は「連れて行く」の意味だが、交通機関などを主語にして使うことも出来る。その場合は、たとえば道なら「その道を行けば、~につきます」のような意味になる。
takes の代わりに will take としても良い(ロイヤル英文法)。
「remind 人 of」 で「人に~を思い出させる」の意味である。
This picture reminds me of vacation in Greece. 「その写真を見ると、ギリシャでの休日を思い出す。」
This picture reminds me of holidays in London. 「その写真を見ると、ロンドンでの休日を思い出す。」
なお、大修館ジーニアスだとロンドン、桐原フォレストだとギリシャの例文。
「deprived 人 of ~」 「(機会などが)うばわれる」
The knee injury deprived him of the chance to play in the final game. 「ひざのけがのため、彼は決勝戦に出場する機会を失った。」
または
The knee injury deprived the player of the chance to play in the game. 「ひざにけがをしたため、その選手は試合に出場する機会を失った。」
のように例文が参考書によくある。
enable ~ は、「~をできるようにする」「~を可能にする」の意味。「~のおかげで、・・・できるようになった」と訳すことができる。
The scholarship enabled him to go on to university. 「その奨学金のおかげで彼は大学へ進学できた。」
ジーニアス、ロイヤルに scholarship の似た例文。
== 疑問詞 ==
疑問詞は、'''疑問代名詞'''と'''疑問副詞'''に分けられる。
下記に疑問代名詞の一覧の表を示す。
{| class="wikitable" style="float:left"
|+ 疑問代名詞の種類
! !! 主格 !! 所有格 !! 目的格
|-
! 人
| who (だれが) || whose (だれの(もの)) || who / whom (だれを、だれに)
|-
! 人、事物
| what (何が) || ない || what (何を、何に)
|-
! 人、事物
| which || ない || which (どれを、どちらに)
|}
{{-}}
what, which には所有格が無い(青チャ、ロイヤル)。
what, which, whose は疑問形容詞としても用いられる(青チャ、ブレイクスルー)。※ ブレイクスルーでは、一覧表の直後で章が変わり、疑問形容詞の章になる。
上記の一覧表は、あくまで疑問代名詞のみである。
疑問副詞については、まったく言及していない。
{{-}}
インスパイア、青チャート、ブレイクスルー、ロイヤルには上記のような疑問詞の一覧表がある。
ジーニアス、エバーグリーン、桐原ファクトには無い。
=== 前置詞と疑問詞 ===
Where are you from? 出身はどちらですか?
文法上、ここでの Where は副詞であり、「疑問副詞」というのに分類される(ロイヤル)。
中学校では主語を you にした例を中心にWhereの疑問文を教わったかもしれないが(中学の1年くらいだと、まだ3人称をあまり習ってないなどの教育的理由があるので)、もちろん he や she などを主語にしても where を使った質問は使用可能である(青チャ)。
Where does he live in? 「彼はどこに住んでいますか」
- Los Angels. 「ロサンゼルスです」
のようにyou以外にも he やsheなどでも言うことも可能。
さて、「Where are you from?」 について前置詞 from に注目しよう。
もしかしたら中学高校などで「前置詞は名詞や代名詞の前に移動するのが原則」とか習うかもしれないが、しかし前置詞をけっしてfromの前に移動しない。
なので、Where は副詞であると考えたほうが理解しやすいだろう。(これとは別の解釈で、そもそも「副詞には前置詞がいらない」という考えから副詞ではなく代名詞としての機能だと考える立場もあり、ジーニアスやロイヤルやフォレストがそういう立場。だが、机上の空論だろう。)
なお、法学など幾つかの学問では、『原則』というのは例外のありうる規則、という意味である。おそらくジーニアスが「原則」という言葉を使っているのは、Where ~?などの疑問詞を文頭にもちいた疑問文の場合は例外的な事例という含みがあるのだろう。
Where に限らず、たとえば When などで疑問文を作るときも原則、それらの疑問詞の前には前置詞(When の場合は since や till や until など)を置かない。そのため、それら When の文でも前置詞は文末にくる場合が多くなる。
つまり、「いつから~?」なら When do you ~ since ? のような文章になる事が多い。
ただし、疑問代名詞の場合は例外的である。
たとえば前置詞 With を使う場合、Who が目的格 Whom に変化する場合もあり、
With whom do you ~? 「誰と一緒に~しますか?」
のようにWith が文頭にくる場合もあるが(桐原)、文語調である(青チャート)。with以外の前置詞の場合でも文頭に持ってくる場合には同様にwhoではなく whom に変化する(ジーニアス)。なお、前置詞を文頭に持ってくる場合、whomを使わずにwho のままで文頭の前置詞の次に置くのは禁止である。
なお、Whomを使わずとも who のままで下記のように言うこともでき
Who do you ~ with?
となり、こちらは口語調である。
青チャートからの引用になるが、
About Which Yamada were you talking? (文語)「どちらが山田さんのことを話していたのですか.」
Which Yamada were you talking about? (口語)「どちらが山田さんのことを話していたのですか.」
となる。
しかし、
What are you looking for? 「何をさがしているのですか。」
については、 look for でひとつの句動詞(群動詞)なので、forは動詞の直後の文末でなければならない(青チャート)。なお、句動詞のことを群動詞ともいう。青チャートでは「句動詞」、インスパイアでは「群動詞」である。
同様にlook for (=を探す), look after (~を世話する),laugh at(を笑う), listen to, depend on , などが句動詞(群動詞)である(青チャ、インスパ、ロイヤル)。なので、これら句動詞(群動詞)では、動詞と前置詞は分離できないので、語順は「疑問詞 ~ 動詞 前置詞?」になる。
さて、疑問副詞の話題に戻る。
Where are you from? の場合、もし前置詞 from がないと、「あなたはどこ?」となり、それが出身をたずねているのか、それとも現在地をたずねているのか、意味が分からなくなることもあってか、ともかく 「Where are you from?」の文章は from を省略できない。
ジーニアスは、話し言葉ではWhereでは from を省略しないという言い方をしているが、しかし書き言葉であっても from を省略しないのが一般的であろう(省略したら上述のように意味が通らなり読み手に誤解を与えるので。)。
しかし、用いる動詞などによっては前置詞を省略できる場合があり、たとえば
Where do you go to? 「どこに行きますか?」
なら、もし前置詞 to を省略しても、動詞 go から意味を推測できるので、この場合は to を省略されるのが許され、つまり
Where do you go?
でも許される(ジーニアス)。
このように文法の理論というのは、あまり論理的ではない。最終的には、英文法の学習では典型的な構文を覚えて、それを真似して使っていく必要がある。
=== 慣用的な疑問文 ===
How about a cup of tea? 「お茶を一杯いかがですか?」
How about ~? は勧誘を表す。
What do you say to ~ing 名詞/動名詞 ? 「~はいかがですか?」「~しませんか」
What do you say to ~ing でも勧誘を表せる。
ここでのsayの直後にある to は前置詞であると考えられている(桐原フォレスト)。どういうわけか、ジーニアスもロイヤルも、to が前置詞かどうかは言及していない。
ほか、Why don't you 動詞 ~ ? は、「~してはどうしょうか」のような相手に行為を促す(うながす)言い方であり、やや押し付けがましい言い方である(ジーニアス)。 Why don't we の形で、一緒になにかをする時に「~しましょうよ」の意味で使う場合もある(フォレスト)。
また、これを省略的に Why not ~? の形で「~はどうですか」「~してはいかがでしょうか」「~しましょうよ」の意味にもある。
How come S + V ~?
How come ~? は「どうして~」の意味でありwhy に近いが、How come のほうが感情的な表現であるので、目上の人に使うのは避けるのが良い(ジーニアス)。なお、How come は語順がSVと肯定形の語順になる。
How come you didn't call me ? 「どうして電話をくれなかったの?」
※ 「電話してほしかったのに」のような含みがあり、相手を責めているようにも受け取られかねない。だから返事も、Sorry, 「ごめん」とかになる(ジーニアス)。
許可を求める表現である Do you mind if~? で、「~してもいいですか」という許可を求める表現ができる。なお Would you mind if ~? については仮定法になり、つまり「~」中の動詞が過去形になる。Would you mind if ~? については 『[[高校英語の文法/仮定法]]』で説明済み。
Do you mind if のほうは、if ~ の動詞は現在形で構わない。
=== 間接疑問文 ===
「何が起きたかを話して」Tell me what happened. (ジーニアス、ブレイクスルー)
のように、文中に疑問的な言い回し(上記の例では「何が起きたか」what happened の部分)が含まれているが、しかし文全体としては平叙文のような英文があり、こういう構造の文のことを間接疑問文という。
「間接疑問」とはいうものの、文中の「関節疑問」の部分は名詞節として働く。
間接疑問文が疑問文なのか平叙文なのかの分類は入試では問われないので、安心していい。文法参考書でも、間接疑問文については、紹介を書籍の後半部に後回しに後回しにしている参考書もある。
このため、高校英語では、疑問文とは、文末が「?」で終わる文章のことだと思っておけば、特に問題が無い。
Would you tell me what happened? 「何が起きたかを話してくれませんか.」
のように間接疑問文をさらに文全体でも疑問文にすることもできるが、本ページでは深入りしない。
I know what he wants. 「私は彼が欲しいものを知っている.」
のような表現も、間接疑問文に分類する場合もある。なお、間接疑問の節中の動詞の人称格変化の有無や、時制の一致などに注意。
I don't know what he wants. 「私は彼が欲しいものを知らない.」
のように文全体が否定文になることもある。
I know where he lives. 「私は彼が住んでいる場所を知っている.」
なお、
Do you know where he lives? 「彼がどこに住んでいるかを知っていますか.」
と質問された場合、文法的には返事は
Yes, I do. 「はい知ってますよ」
No, I don't. 「いいえ、知りません」
となる。(ただし、現実では、質問された側が気を利かして、住んでいる場所まで答えてくれるような場合もありうるが、しかし本単元では考慮しないとする。)
文法的に、どこに住んでいるかを聞き出したい場合は、間接疑問ではなく、疑問副詞を用いた一般的な疑問文で
Where does he live?
で質問することになる。
このように、文頭の単語を見れば、文法上の返事の仕方や、文法的には質問されているものは何かを決定できる。
== 参考文献についての注意 ==
サブページ中の参考文献で、現代2022年では廃止になったシリーズの桐原『フォレスト』などを掲げているが、現代でも他社の いいずな出版『エバーグリーン』シリーズにフォレストの権利が引き継がれているようなので、わざわざ古本のフォレストを探す必要は無い。
[[カテゴリ:高等学校教育|ふむほふ]]
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206961
206960
2022-08-22T09:22:54Z
すじにくシチュー
12058
/* 態 */ ;受動態にならない動詞
wikitext
text/x-wiki
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== 目次 ==
* [[高校英語の文法/文の種類]]
* [[高校英語の文法/動詞と文型]]
* [[高校英語の文法/時制]] ※ 参考書によって微妙に単元名が異なるので暫定
* [[高校英語の文法/完了形]]
* [[高校英語の文法/助動詞]]
* [[高校英語の文法/不定詞]]
* [[高校英語の文法/動名詞]]
*
* [[高校英語の文法/比較]]
* [[高校英語の文法/関係詞]]
* [[高校英語の文法/仮定法]]
* [[高校英語の文法/名詞]]
* [[高校英語の文法/冠詞]]
*
* [[高校英語の文法/否定]]
* [[高校英語の文法/接続詞]]
* [[高校英語の文法/前置詞]]
その他 [[高等学校英語/文法用語の英単語]] 「名詞」Noun など(入試には出ないので覚える必要は無い)
== 文の構造 ==
=== 文の要素 ===
文の構造を知るためには、文がどのような要素で成り立っているのかを知らなければならない。
==== 主語と述語動詞 ====
# '''The old man''' ''is'' a famous singer.
# '''My sister''' ''studied'' math.
## 訳例:その老人'''は'''有名な歌手'''だ'''。
## 訳例:私の姉'''は'''数学を研究'''していた'''。
1の文は「AはBだ」という文であり、2の文は「AはCする」という文である。どちらも
# 「…は」「…が」という主題の部分
# 「~である」「~する」という主題が何であるかについて述べる部分
の二つが共通している。
この場合、1を'''主部'''といい、2を'''述部'''という。
そして、主部の中心となる語を'''主語'''(Subject)といい、述部の中心となる部分を'''述語動詞'''(Predicate Verb略して'''動詞'''('''Verb'''))という。
たとえば上記「私の姉」以下略の場合、 sister を主語、My sister を主部と分類する場合もある。
だが、主部のことを主語という場合もある(文英堂インスパイア)。
以下では、述語動詞は原則として単に動詞と呼ぶ。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|-
! || - || 主語 || 述語動詞 || -
|-
| -
| colspan="2" | 主部
| colspan="2" | 述部
|-
| 1.
| The old
| man
| is
| a famous singer.
|-
| 2.
| My
| sister
| studied
| math.
|}
主語は単に'''S'''で表し、動詞は'''V'''で表す。
==== 目的語 ====
# He ''has'' '''a personal computer'''.
# We ''played'' '''soccer'''.
# Everone ''likes'' '''Sushi'''.
## 訳例:彼はパソコン'''を'''持っている。
## 訳例:私たちはサッカー'''を'''した。
## 訳例:みんなが寿司'''を'''好む。
いずれの文の動詞も「~を」という、動作の対象が必要である。このような動作の対象を表す語を'''目的語'''(Object)といい、'''O'''で表す。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|-
! || 主語 || 動詞 || 目的語
|-
| -
| colspan="1" | 主部
| colspan="2" | 述部
|-
| 1.
| He
| has
| a personal computer.
|-
| 2.
| We
| played
| soccer.
|-
| 3.
| Everone
| likes
| Sushi.
|}
このような、'''S+V+O'''という形の文は英文の基本形の一つである。
==== 補語 ====
# Mary ''is'' '''happy'''.
# John ''became'' '''a doctor'''.
## 訳例:メアリーは幸せだ。
## 訳例:ジョンは医者になった。
これらはいずれも主語の状態を説明した文であるが、isやbecomeで文を切ると意味をとれない。happyやa doctorという、主語の様子をおぎなう語があって初めて意味のある文となる。このように、主語の様子について説明する語を'''補語'''(Complement)という。補語は'''C'''で表される。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|-
! || 主語 || 動詞 || 補語
|-
| -
| colspan="1" | 主部
| colspan="2" | 述部
|-
| 1.
| Mary
| is
| happy.
|-
| 2.
| John
| became
| a doctor.
|}
このような'''S+V+C'''の文も基本的な文の一つである。なお、後で学ぶように、補語は主語の様子だけでなく目的語の様子を説明する場合もある(例文:I call him Sensei.(私は彼を先生と呼ぶ))。
==== まとめ ====
文の要素を表す記号をまとめると、
主語 '''S''' (Subject) / 動詞 '''V''' (Verb) / 目的語 '''O''' (Object) / 補語 '''C''' (Complement) / 修飾語 '''M''' (Modifier)
である。
subject や verb などの単語は、青チャート、文英堂インスパイア、いいずな出版エバーグリーン、などで紹介されている。一方、大修館書店ジーニアス、桐原ファクトブックには無い。
「主部」と「主語」は厳密には異なるが、しかしSVOO文型やSVC文型など文型について言う場合、主部のことも含めて「主語」と呼んでよい。参考書もそうなっている。
文法用語でいう修飾語(Modifier)には副詞と形容詞があるが、しかし文型の理論でいう記号 '''M''' は副詞だけに限定するのが一般的である(インスパイア)。
また、よく記号Mを「修飾語」というが、実際には1単語の「語」だけでなくとも、複数の語からなる副詞句や副詞節でも「修飾語」といって記号 M で表す(インスパイア)。
== 動詞の用法 ==
=== 助動詞 ===
=== 態 ===
==== 受動態 ====
;どういうときに受動態を使うか。
動作主が不明な場合、
動作主をぼかしたい場合(ジーニアス)、
動作主に興味が無い場合(インスパイア)、
and接続詞のある文などで、形容詞をつかった「 be +形容詞」型の文章と並列させたい場合、受動態を使うことで「 It is 形容詞 and is 過去分詞(受動態)」のように主語を同じままで並列できて読みやすくなる(ジーニアス)。
能動態だと主語が長くなる場合、受動態を使うことがよくある。英語では長い主語を避けるのが普通(インスパ、ジーニアス)。
;by以外の動作主の前置詞
受動態にて動詞主をあらわす前置詞は一般的には by であるが、
しかし be known to ~ (知られている)や be covered with (~で覆われている)など、意味や動詞によっては前置詞がすでに決まっている。ほか、
be caught in ((にわか雨などに)あう)、
be filled with (~で満たされている)、
などが、そういったby以外が決まっている動詞(青チャート、ジーニアス)。
余談だが、「be known by ~」は、動作主ではなく「判断の基準」を表すのに使われる(インスパイア)。
A man is known by the company he keeps. 「つきあっている友達を見れば、その人の人柄が分かる」(ことわざ)※ インスパイア
A tree is known by its fruit. 「木のよしあしはその果実によって決まる」→「人はことばではなく行いによって判断される」(ことわざ)※青チャート
なお、by で表せるような動詞の受動態の場合、動作主が一般の人である場合は、byおよび動作主を省略することもある(青チャート)。
;感情と受動態
感情を表す be surprised at (驚く)などを、一説には、形容詞ではなく受動態であると見なす場合もある(ジーニアス、青チャート)。
be pleased with / be delight with 「~で喜ぶ」、
be satisfied with 「~に満足する」、
be disappointed at / in / with 「~に落胆する」
be interested in 「~に興味を持つ」、
be amused at/with 「~を楽しむ」、
be amazed at 「~に驚嘆している」、※ ジーニアス
be worried about 「~を心配している」、
;被害や災害
感情だけでなく、被害や災害も、英語では普通は受動態であらわす(インスパイア、青チャート)。
be delayed (遅れる)
be delayed due to heavy snow 「大雪で遅れる」※インスパ 、 de delayed by heavy snow 「大雪で遅れる」※青チャ
be injured (けがをする)
be injured in the accident 「その事故でけがをする」※青チャ
be killed ((戦争や事故などで)死亡する)
be killed in traffic accident. 「交通事故で死亡する」※エバグリ
被害以外にも、受動態が使われる動詞がいくつかある。
be born in ~ 「~(場所、年)に生まれる」
I was born in U.S.A. 「私はアメリカ合衆国に生まれた」
be located in ~(場所)「~(場所)にある」※インスパ
be accustomed to 「~に慣れている」※インスパ
;受動態にならない動詞
resemble ,meet のように相互関係を表す動詞(ロイヤル)は、受動態にならない。ただし、meetは「出迎える」の意味では受動態になりうる(ロイヤル)。
所有の状態をあらわす用法での have や 非所有の状態を表す lack などの動詞(ロイヤル、インスパ)は、受動態にならない。ただし、have でも「手に入れる」という別の意味では受動態にできる(ロイヤル)。
cost (金額がかかる)など数量を目的語にとる動詞(ロイヤル、インスパ)は、受動態にならない。
suit(~に似合う)、become(~に似合う)などの動詞(インスパ)は、受動態にならない。
;be動詞ではなくgetを使う動詞
※ 未記述
==== 助動詞と組み合わさった受動態 ====
He could be seen by her.
受動態の文を作るときには、その文の述語は必ずbe動詞の節になるが、be動詞に対して助動詞を用いたり、時制の変化をさせることも普通に行なわれる。
この時には、例えば
He is seen by her.
という文が
He could be seen by her.
の様にbe動詞は、助動詞+beの形で書き換えられる。これは、be動詞の原形が
beで与えられることによる。同じ様に例えば、
might be
may be
must be
will be
なども用いることが出来る。また、過去形や現在完了と組み合わせるときにも通常の規則に従えばよい。例えば、上の文では
He was seen by her.
He has been seen by her.
などとなる。been は be の過去分詞である。ここで、be が過去分詞 been になったのは、現在完了を作るためであり、see が過去分詞 seen になったのは、受動態を作るためであることに注意。
=== 分詞 ===
== さまざまな構文 ==
=== 分詞構文 ===
分詞構文は現在分詞や過去分詞を用いて、従属の接続詞節のような意味を持つ文の成分を作る用法である。例文として、
Crying out something, he quickly runs away.
がある。この文は「何かを叫びながら、彼は素早く逃げていった。」という
意味だが、この様な文は例えば接続詞whileを用いて、
While he cries out something, he quickly runs away
接続詞を取る。
He cries out something, he quickly runs away.
主語を取る。
Cries out some thing, he guickly runs away.
動詞を現在分詞形にする。
Crying out some thing, he quickly runs away.→'''これで完成!'''
などとすることが出来る。分詞構文は文の前後関係から、省略される接続詞が予測できると考えられるとき、接続詞と主語を省略することによって
得られる。ただし、接続詞無しで節を作ることは出来ないことから、接続詞節の述語は対応する現在分詞になるのである。上の例文は
while を用いた文から接続詞 while を省き、述語 cries を現在分詞 crying にすることに
よって得たものと解釈出来る。ただし、元の従属接続詞節に対応する主文の主語と接続詞節の主語が等しいときには、現在分詞の主語は
省略出来る。上の文で while 節の主語に対応する語が無いのはこのことからである。
主節の主語と従属節の主語が異なっているときには、分詞構文の主語として対応する従属節の主語を所有格として与える。例えば、上の例で主語を省略せず書くと、
His crying out something, ... のようになる。
一般に現在分詞の主語を指定するときは通常所有格を用いる。
分詞構文で省略される接続詞には主なものとして、
because, since, as: 〜だから(理由)
when, as, while: 〜のとき(ある時点)
などがあげられる。
分詞構文になる従属節では述語がbe動詞であることがある。
このときにも上の規則に従って、Being -,によって分詞構文が作られることも多い。
==== 分詞構文の受動態 ====
特にbe動詞に対応する補語が受動態であったり、形容詞であるときには、beingを省いて過去分詞、もしくは形容詞から分詞構文が
始まることも多い。
(Being) seen from airport, everything looked small.(飛行機から見ると、全てのものが小さく見えた)
The assignment (being) finished, we went on a hike to the nearby mountain.(その課題が終わってから、私たちは近くの山へハイキングへ行った。)
このときには、be動詞と接続詞、必要なら対応する主語も補って考える必要がある。ただし、この様な省略がなされるのは、あくまで省略されたものが文脈からすぐに分かる時のみである。
=== 話法 ===
=== 会話表現 ===
== 品詞 ==
=== 代名詞 ===
==== 未分類 ====
中学校では「代名詞」として、 he や she や we など、基本的な代名詞を習う。
もちろんそれも代名詞であるが、しかしそれ以外にも多くの代名詞がある。
たとえば the same (「同じもの」の意味)も代名詞である(青チャート、ジーニアス)。なぜなら、the same は、なにか具体的な名詞を言う代わりとして使われるのだから、the same も立派な代名詞である。
このように、代名詞は別に一語でなくても構わない。
なお、形容詞的に the same の直後につづけて名詞が来る場合もあり、「the same ~ as ・・・(名詞または代名詞)」で、「・・・と同じ ~」の意味。
こちらの構文では the same は代名詞というよりも形容詞としての用法だが、市販の参考書では都合上、代名詞の章でいっしょにthe same ~ as の構文も教えているのが通例である。
ともかく例文は、たとえば
the same ~ as yours で「あなたのと同じ~」の意味(ジーニアス、エバーグリーン)。
the same shoes as yours なら「あなたのと同じ靴」だし(エバー)、
the same computer as yours なら「あなたのと同じコンピュータ」である(ジーニアス)。
一方、慣用的に、節が続く場合は as ではなく that の場合が多く
the same man that I saw yesterday で「昨日見かけたのと同じ男の人」の意味だし(エバーの和訳を少し改造)、
the same song that I heard yesterday で「昨日聞いたのと同じ曲」の意味(ジーニアス)。
のように、
「the same ~ that ・・・(節)」
というのもある。
ただし、節が続く場合でも、べつに as を使ってもかまわず、つまり「 the same ~ as ・・・(節)」としてもマチガイではない(ブレイクスルー)。
those who ~ で「~な人々」の意味の代名詞である。
たとえばエバーグリーンいわく、 those who wish to smoke で「たばこを吸いたい人々」である。
such は代名詞として「そのようなもの」「そのような人」として扱われる場合もある。
たとえば
He is an adult now, and should be treated as such. 「彼はもう大人なのだから、そのように扱うべきだ。」 ※ジーニアス
He is mere child, and should be treated as such. 「彼はまだほんの子供だから、子供として扱ってやるべきだ。」 ※青チャート
のように such はよく as such などとして使われる。
==== some と any ====
{| class="wikitable" style="left"
|+ 複合不定代名詞
! !! some- !! any- !! no- !! every-
|-
! 人<br> -one<br> -body
| someone <br> somebody<br>(だれか) || anyone <br> anybody<br>(だれか、だれでも) || no one (※ 離して書く)<br> nobody<br>(だれも~ない) || everyone<br> everybody<br>(だれでも)
|-
! 物<br>-thing
| something || anything || nothing || everything
|-
|}
some にも any にも「いくつかの」という意味がある。
よく参考書では、「 some は肯定文で使う。anyは疑問文・否定文で使う」などと習う(青チャート、ジーニアスなど)。
しかし桐原ファクトいわく、anyの基本的な意味は「どれでも」の意味である。any の「いくつかの」の意味は、「どれでも」の派生だと思うほうが良いだろう。
some と any の区別で悩んだ場合は、この「どれでも」の意味を基準に考えると良い。
だから肯定文であっても、「どれでも」の意味の形容詞には any を使う。
桐原ファクトいわく、疑問文で any を使う場合でも、ニュアンス的には「どれでも」の意味があるのが実際とのこと。否定文の any も同様。
この any の基本的な意味が「どれでも」の説に立てば、たとえば熟語 not ~ any が形容詞 no と同じ意味だということも、 not ~ any は「どれでもいいので存在してほしい(any)という事についてすら、それが成り立たない(not)。 → つまり無い」というふうに理解できます。
なお、any の後ろに否定語を置くのは禁止されている(ジーニアス、青チャート)。
ほか、慣用的な表現として、よくお茶などやコーヒーの飲み物をすすめる際に、
Would you like some coffee? 「コーヒーはいかがですか」(桐原ファクト)
Would you like some more tea? 「お茶のお代わりはいかがですか」(青チャート)
のようにsome を使う。
青チャートいわく、some は、答えが Yes であることを期待しているニュアンスのある表現とのこと。そういう用法もある。なので、人にものを勧めるからには、some で質問しないと失礼になるので、someを使うのが当然とのこと。
実際にはsome も any もけっして意味中立的な表現ではなく、それぞれニュアンスがあるので、some と any を完全に使い分けるのは難しいだろう。
参考書にあるような代表的な事例についてだけ、some とanyを使い分ければ、とりあえずは平気だろう。
somebody と anybody などの使い分けも、上記の some と any に準じる(桐原ファクト)。
たとえば「誰かに出会いました」といいたい場合は、somebody を使うべきだと桐原は言っている。これがもしanybodyだと 「誰でもいいのですが、その人に会いました」(原文ママ(桐原))という内容の意味不明の文章になってしまうことからも分かるとして、桐原ファクトは誰かに会った事を言いたい場合には somebody を使うべきだと言っている。
所有格については、-body や -thing の末尾に 's をつければいい(インスパ)。
Everybody's business is nobody's business. 「みなの仕事は誰の仕事でもない」(直訳)→「共同責任は無責任」(ことわざ)
※ 「共同責任は無責任」の部分がことわざ。青チャートおよびインスパイアがこの ことわざ を紹介。
;慣用句など
He is something of musician. 「彼はちょっとした音楽家だ」 ※青チャ、インスパ、ロイヤル
something of a 「少しは~である」※青チャ、「ちょっとした~」※インスパ、
He thinks he is something. 「彼は自分を立派な人だと思っている」
「He thinks himself somebody. 」などでも同じ意味。
somebody または something で「立派な人」の意味(青チャート)。
逆に、nobody または nothing には「とるにたらない人」の意味がある(青チャート、ロイヤル)。
be something like または look something like で「少し似ている」の意味(青チャ、ロイヤル)。
==== every とall の違い ====
「すべての」という意味での every は形容詞であるが(インスパイア)、市販の参考書では便宜的に代名詞の章で紹介される。形容詞なので、every 単独ではあつかわれず、必ず直後に名詞または代名詞をともなう(インスパイア)。
every には「すべての」の意味もある(桐原ファクト、インスパイア)。しかし every と all には、ニュアンスの違いが明確に存在する。
また、every の後ろは単数形でなければならない。
every は、その全部を構成する一つ一つに関心がある文脈の場合に用いられる(桐原ファクト)。だから every で形容される名詞は必ず単数形でなければならないのも当然である(桐原ファクト)。また、everyは例外がないことを強調している(ジーニアス)。
each は2つ以上、every は3つ以上のものについて使用する。
なお、each は比較的に小さい個数のものに使い、everyは比較的に大きい数のものに使う(ジーニアス)。 each の使用対象はべつに2個限定でなくても構わない。
every と all には、こういったニュアンスの違いがあるので、参考書によってはevery の標準的な和訳を「すべての」以外で紹介する参考書も多い。
たとえば「あらゆる」「どの~も」という訳で every を紹介する参考書がよくある(青チャート、ブレイクスル-)。
なお、every には別の用法で「~(数詞のつく名詞)ごとに」の意味もあり、この場合は複数形になる。
たとえば every six hours で「6時間ごとに」である(ブレイクスルー)。 every four years で「四年ごとに」である(エバーグリーン)、なおオリンピックが四年ごとに開かれる という文章。
なお、「一日おきに」は every other day である(インスパイア)。
{{コラム|every child を受ける代名詞は he か she か?|
桐原ファクトに書いてあるのですが、男女のどちらの場合もある単数の名詞について、それを代名詞で受ける際、
he か she かが、時代とともに変わっていきました。
もともとは、男女不明などの場合は、とりあえず he で代名詞を受けていました(桐原ファクト)。
だから every child も he で受けていました。
しかし、それが男女平等の観点に反するという意見が多くなり、近年になって、「 he/ she 」などと受ける代名詞が変わってきました。
「he / she 」はhe or she と読みます。
しかし、長くなるので会話などで不便でした(桐原ファクト)。
その不便さを解消するためか、さらに最近では、単数形であることを無視して every child のような名詞でも they で受けています(桐原ファクトの 2022年 第2版で確認)。
each も同様、最近では they で受けます(桐原ファクト)。
:※ 上記のような説が有名であるが、それに対する若干の異論もある。それは
「もともと he は男の代名詞ではなく性別不明の代名詞であり、もし、男である何らかの名詞についてそれを代名詞で受ける場合については、とりあえず性別不明の代名詞である he を当てるというルールだった」というような説です。
ツイッターで東大の地震学の教授・[[w:ロバート・ゲラー]]がそのような主張をしています。 [https://twitter.com/rjgeller/status/1062486963242979328 Robert Geller@rjgeller 午前8:26 · 2018年11月14日]
おおむね、その教授はおおむね「自分は50年前の高校生のときにそう習った(heは性別不明の代名詞だと習った)」(※ 日本語として読みやすくなるようにwiki側で文章を修正。正確な文章については参照元を読むこと)とツイッターで主張していました。
この場合でも男女は不平等であります。しかし、女性差別とは言いがたい実態になります。
つまり、「女性を無視して男性を意味する he を使っていたのではなく、そもそも he は男女不明の代名詞であったが、女性専用の she という代名詞が存在していたため、あとからhe に男性の意味がついてきた。なのに『性別不明の名詞に he を使う事を女性差別だ』というフェミニズム言説は間違っている」という説です。
もしこの説「he は性別不明の代名詞だった」論のとおりなら(この説が間違っている可能性もありますので、どちらかに決め付けないように)、現代の各国の英語教育が、フェミニズミム運動などに配慮して代名詞 he の歴史の説明について、若干のウソをついている事になる可能性があります。
どちらの場合にせよ(数学の確率問題の場合わけのように、マジメに検証する人は両方の可能性を検討する)、参考書の桐原ファクトをよく読めば、性別不明の代名詞 he → he/she → they の変遷について「男女平等」という表現は説明に用いていますが、しかし「女性差別」という表現は用いていません。桐原ファクトの著者たちは、なかなか優秀です。こういう何気ない言葉の端々に、参考書の著者の優秀さが現れます。
まあ、私たちは背景事情にまでは深入りする必要はありません。上記のような異論もあることも承知した上で、異論もふくめた両者の合意である he → he/she → they という性別不明の単数代名詞の客観的事実を覚えれば済みます。
}}
==== その他 ====
「those who ~」で「~する人々」
Heaven helps those who help themselves. 「天はみずから助くる者を助く。」(ことわざ) ※ 青チャート
So do I. 「私もです。」
「So 動詞+主語」 か「So 主語+動詞」かで意味が違う。
「So 動詞+主語」は、「主語もです」の意味。
「So 主語+動詞 」 は「主語は確かにそうだ」の意味(インスパ代名詞、ジーニアス副詞)。
例文を出せば、たとえば
So he is. 「確かに彼はそうだ」
Tom is kind. 「トムは親切だ。」
- So he is. 「確かに彼はそうだ(=彼・トムは親切だ)。」
- So is John. 「ジョンもそうです。(=トムだけでなくジョンも親切ですよ)」
のような違いがある。
Tom can French well. 「トムはフランス語を上手に話せます」
- So he can. 「確かに彼はそうだ」
- So can John. 「ジョンもフランス語が上手ですよ」
※ 青チャにcanで似た例文
=== 形容詞・副詞 ===
;副詞の位置
副詞の位置がどこに来るかについて、単語や文章によって様々である。
通常、英語では副詞の位置は、修飾対象に前置きである。
しかし very much や from time to time など複数語から構成される副詞表現になると、通常は文末または修飾対象の後ろに置かれるのが通常である(桐原ファクト)。
== 名詞構文・無生物主語 ==
=== 名詞構文 ===
=== 無生物主語 ===
The road takes you to the station. 「その道を歩いていくと駅につきます。」
The bus takes you to the station. 「そのバスに乗れば駅に行きます。」
take は「連れて行く」の意味だが、交通機関などを主語にして使うことも出来る。その場合は、たとえば道なら「その道を行けば、~につきます」のような意味になる。
takes の代わりに will take としても良い(ロイヤル英文法)。
「remind 人 of」 で「人に~を思い出させる」の意味である。
This picture reminds me of vacation in Greece. 「その写真を見ると、ギリシャでの休日を思い出す。」
This picture reminds me of holidays in London. 「その写真を見ると、ロンドンでの休日を思い出す。」
なお、大修館ジーニアスだとロンドン、桐原フォレストだとギリシャの例文。
「deprived 人 of ~」 「(機会などが)うばわれる」
The knee injury deprived him of the chance to play in the final game. 「ひざのけがのため、彼は決勝戦に出場する機会を失った。」
または
The knee injury deprived the player of the chance to play in the game. 「ひざにけがをしたため、その選手は試合に出場する機会を失った。」
のように例文が参考書によくある。
enable ~ は、「~をできるようにする」「~を可能にする」の意味。「~のおかげで、・・・できるようになった」と訳すことができる。
The scholarship enabled him to go on to university. 「その奨学金のおかげで彼は大学へ進学できた。」
ジーニアス、ロイヤルに scholarship の似た例文。
== 疑問詞 ==
疑問詞は、'''疑問代名詞'''と'''疑問副詞'''に分けられる。
下記に疑問代名詞の一覧の表を示す。
{| class="wikitable" style="float:left"
|+ 疑問代名詞の種類
! !! 主格 !! 所有格 !! 目的格
|-
! 人
| who (だれが) || whose (だれの(もの)) || who / whom (だれを、だれに)
|-
! 人、事物
| what (何が) || ない || what (何を、何に)
|-
! 人、事物
| which || ない || which (どれを、どちらに)
|}
{{-}}
what, which には所有格が無い(青チャ、ロイヤル)。
what, which, whose は疑問形容詞としても用いられる(青チャ、ブレイクスルー)。※ ブレイクスルーでは、一覧表の直後で章が変わり、疑問形容詞の章になる。
上記の一覧表は、あくまで疑問代名詞のみである。
疑問副詞については、まったく言及していない。
{{-}}
インスパイア、青チャート、ブレイクスルー、ロイヤルには上記のような疑問詞の一覧表がある。
ジーニアス、エバーグリーン、桐原ファクトには無い。
=== 前置詞と疑問詞 ===
Where are you from? 出身はどちらですか?
文法上、ここでの Where は副詞であり、「疑問副詞」というのに分類される(ロイヤル)。
中学校では主語を you にした例を中心にWhereの疑問文を教わったかもしれないが(中学の1年くらいだと、まだ3人称をあまり習ってないなどの教育的理由があるので)、もちろん he や she などを主語にしても where を使った質問は使用可能である(青チャ)。
Where does he live in? 「彼はどこに住んでいますか」
- Los Angels. 「ロサンゼルスです」
のようにyou以外にも he やsheなどでも言うことも可能。
さて、「Where are you from?」 について前置詞 from に注目しよう。
もしかしたら中学高校などで「前置詞は名詞や代名詞の前に移動するのが原則」とか習うかもしれないが、しかし前置詞をけっしてfromの前に移動しない。
なので、Where は副詞であると考えたほうが理解しやすいだろう。(これとは別の解釈で、そもそも「副詞には前置詞がいらない」という考えから副詞ではなく代名詞としての機能だと考える立場もあり、ジーニアスやロイヤルやフォレストがそういう立場。だが、机上の空論だろう。)
なお、法学など幾つかの学問では、『原則』というのは例外のありうる規則、という意味である。おそらくジーニアスが「原則」という言葉を使っているのは、Where ~?などの疑問詞を文頭にもちいた疑問文の場合は例外的な事例という含みがあるのだろう。
Where に限らず、たとえば When などで疑問文を作るときも原則、それらの疑問詞の前には前置詞(When の場合は since や till や until など)を置かない。そのため、それら When の文でも前置詞は文末にくる場合が多くなる。
つまり、「いつから~?」なら When do you ~ since ? のような文章になる事が多い。
ただし、疑問代名詞の場合は例外的である。
たとえば前置詞 With を使う場合、Who が目的格 Whom に変化する場合もあり、
With whom do you ~? 「誰と一緒に~しますか?」
のようにWith が文頭にくる場合もあるが(桐原)、文語調である(青チャート)。with以外の前置詞の場合でも文頭に持ってくる場合には同様にwhoではなく whom に変化する(ジーニアス)。なお、前置詞を文頭に持ってくる場合、whomを使わずにwho のままで文頭の前置詞の次に置くのは禁止である。
なお、Whomを使わずとも who のままで下記のように言うこともでき
Who do you ~ with?
となり、こちらは口語調である。
青チャートからの引用になるが、
About Which Yamada were you talking? (文語)「どちらが山田さんのことを話していたのですか.」
Which Yamada were you talking about? (口語)「どちらが山田さんのことを話していたのですか.」
となる。
しかし、
What are you looking for? 「何をさがしているのですか。」
については、 look for でひとつの句動詞(群動詞)なので、forは動詞の直後の文末でなければならない(青チャート)。なお、句動詞のことを群動詞ともいう。青チャートでは「句動詞」、インスパイアでは「群動詞」である。
同様にlook for (=を探す), look after (~を世話する),laugh at(を笑う), listen to, depend on , などが句動詞(群動詞)である(青チャ、インスパ、ロイヤル)。なので、これら句動詞(群動詞)では、動詞と前置詞は分離できないので、語順は「疑問詞 ~ 動詞 前置詞?」になる。
さて、疑問副詞の話題に戻る。
Where are you from? の場合、もし前置詞 from がないと、「あなたはどこ?」となり、それが出身をたずねているのか、それとも現在地をたずねているのか、意味が分からなくなることもあってか、ともかく 「Where are you from?」の文章は from を省略できない。
ジーニアスは、話し言葉ではWhereでは from を省略しないという言い方をしているが、しかし書き言葉であっても from を省略しないのが一般的であろう(省略したら上述のように意味が通らなり読み手に誤解を与えるので。)。
しかし、用いる動詞などによっては前置詞を省略できる場合があり、たとえば
Where do you go to? 「どこに行きますか?」
なら、もし前置詞 to を省略しても、動詞 go から意味を推測できるので、この場合は to を省略されるのが許され、つまり
Where do you go?
でも許される(ジーニアス)。
このように文法の理論というのは、あまり論理的ではない。最終的には、英文法の学習では典型的な構文を覚えて、それを真似して使っていく必要がある。
=== 慣用的な疑問文 ===
How about a cup of tea? 「お茶を一杯いかがですか?」
How about ~? は勧誘を表す。
What do you say to ~ing 名詞/動名詞 ? 「~はいかがですか?」「~しませんか」
What do you say to ~ing でも勧誘を表せる。
ここでのsayの直後にある to は前置詞であると考えられている(桐原フォレスト)。どういうわけか、ジーニアスもロイヤルも、to が前置詞かどうかは言及していない。
ほか、Why don't you 動詞 ~ ? は、「~してはどうしょうか」のような相手に行為を促す(うながす)言い方であり、やや押し付けがましい言い方である(ジーニアス)。 Why don't we の形で、一緒になにかをする時に「~しましょうよ」の意味で使う場合もある(フォレスト)。
また、これを省略的に Why not ~? の形で「~はどうですか」「~してはいかがでしょうか」「~しましょうよ」の意味にもある。
How come S + V ~?
How come ~? は「どうして~」の意味でありwhy に近いが、How come のほうが感情的な表現であるので、目上の人に使うのは避けるのが良い(ジーニアス)。なお、How come は語順がSVと肯定形の語順になる。
How come you didn't call me ? 「どうして電話をくれなかったの?」
※ 「電話してほしかったのに」のような含みがあり、相手を責めているようにも受け取られかねない。だから返事も、Sorry, 「ごめん」とかになる(ジーニアス)。
許可を求める表現である Do you mind if~? で、「~してもいいですか」という許可を求める表現ができる。なお Would you mind if ~? については仮定法になり、つまり「~」中の動詞が過去形になる。Would you mind if ~? については 『[[高校英語の文法/仮定法]]』で説明済み。
Do you mind if のほうは、if ~ の動詞は現在形で構わない。
=== 間接疑問文 ===
「何が起きたかを話して」Tell me what happened. (ジーニアス、ブレイクスルー)
のように、文中に疑問的な言い回し(上記の例では「何が起きたか」what happened の部分)が含まれているが、しかし文全体としては平叙文のような英文があり、こういう構造の文のことを間接疑問文という。
「間接疑問」とはいうものの、文中の「関節疑問」の部分は名詞節として働く。
間接疑問文が疑問文なのか平叙文なのかの分類は入試では問われないので、安心していい。文法参考書でも、間接疑問文については、紹介を書籍の後半部に後回しに後回しにしている参考書もある。
このため、高校英語では、疑問文とは、文末が「?」で終わる文章のことだと思っておけば、特に問題が無い。
Would you tell me what happened? 「何が起きたかを話してくれませんか.」
のように間接疑問文をさらに文全体でも疑問文にすることもできるが、本ページでは深入りしない。
I know what he wants. 「私は彼が欲しいものを知っている.」
のような表現も、間接疑問文に分類する場合もある。なお、間接疑問の節中の動詞の人称格変化の有無や、時制の一致などに注意。
I don't know what he wants. 「私は彼が欲しいものを知らない.」
のように文全体が否定文になることもある。
I know where he lives. 「私は彼が住んでいる場所を知っている.」
なお、
Do you know where he lives? 「彼がどこに住んでいるかを知っていますか.」
と質問された場合、文法的には返事は
Yes, I do. 「はい知ってますよ」
No, I don't. 「いいえ、知りません」
となる。(ただし、現実では、質問された側が気を利かして、住んでいる場所まで答えてくれるような場合もありうるが、しかし本単元では考慮しないとする。)
文法的に、どこに住んでいるかを聞き出したい場合は、間接疑問ではなく、疑問副詞を用いた一般的な疑問文で
Where does he live?
で質問することになる。
このように、文頭の単語を見れば、文法上の返事の仕方や、文法的には質問されているものは何かを決定できる。
== 参考文献についての注意 ==
サブページ中の参考文献で、現代2022年では廃止になったシリーズの桐原『フォレスト』などを掲げているが、現代でも他社の いいずな出版『エバーグリーン』シリーズにフォレストの権利が引き継がれているようなので、わざわざ古本のフォレストを探す必要は無い。
[[カテゴリ:高等学校教育|ふむほふ]]
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206962
206961
2022-08-22T09:37:16Z
すじにくシチュー
12058
/* 態 */
wikitext
text/x-wiki
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== 目次 ==
* [[高校英語の文法/文の種類]]
* [[高校英語の文法/動詞と文型]]
* [[高校英語の文法/時制]] ※ 参考書によって微妙に単元名が異なるので暫定
* [[高校英語の文法/完了形]]
* [[高校英語の文法/助動詞]]
* [[高校英語の文法/不定詞]]
* [[高校英語の文法/動名詞]]
*
* [[高校英語の文法/比較]]
* [[高校英語の文法/関係詞]]
* [[高校英語の文法/仮定法]]
* [[高校英語の文法/名詞]]
* [[高校英語の文法/冠詞]]
*
* [[高校英語の文法/否定]]
* [[高校英語の文法/接続詞]]
* [[高校英語の文法/前置詞]]
その他 [[高等学校英語/文法用語の英単語]] 「名詞」Noun など(入試には出ないので覚える必要は無い)
== 文の構造 ==
=== 文の要素 ===
文の構造を知るためには、文がどのような要素で成り立っているのかを知らなければならない。
==== 主語と述語動詞 ====
# '''The old man''' ''is'' a famous singer.
# '''My sister''' ''studied'' math.
## 訳例:その老人'''は'''有名な歌手'''だ'''。
## 訳例:私の姉'''は'''数学を研究'''していた'''。
1の文は「AはBだ」という文であり、2の文は「AはCする」という文である。どちらも
# 「…は」「…が」という主題の部分
# 「~である」「~する」という主題が何であるかについて述べる部分
の二つが共通している。
この場合、1を'''主部'''といい、2を'''述部'''という。
そして、主部の中心となる語を'''主語'''(Subject)といい、述部の中心となる部分を'''述語動詞'''(Predicate Verb略して'''動詞'''('''Verb'''))という。
たとえば上記「私の姉」以下略の場合、 sister を主語、My sister を主部と分類する場合もある。
だが、主部のことを主語という場合もある(文英堂インスパイア)。
以下では、述語動詞は原則として単に動詞と呼ぶ。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|-
! || - || 主語 || 述語動詞 || -
|-
| -
| colspan="2" | 主部
| colspan="2" | 述部
|-
| 1.
| The old
| man
| is
| a famous singer.
|-
| 2.
| My
| sister
| studied
| math.
|}
主語は単に'''S'''で表し、動詞は'''V'''で表す。
==== 目的語 ====
# He ''has'' '''a personal computer'''.
# We ''played'' '''soccer'''.
# Everone ''likes'' '''Sushi'''.
## 訳例:彼はパソコン'''を'''持っている。
## 訳例:私たちはサッカー'''を'''した。
## 訳例:みんなが寿司'''を'''好む。
いずれの文の動詞も「~を」という、動作の対象が必要である。このような動作の対象を表す語を'''目的語'''(Object)といい、'''O'''で表す。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|-
! || 主語 || 動詞 || 目的語
|-
| -
| colspan="1" | 主部
| colspan="2" | 述部
|-
| 1.
| He
| has
| a personal computer.
|-
| 2.
| We
| played
| soccer.
|-
| 3.
| Everone
| likes
| Sushi.
|}
このような、'''S+V+O'''という形の文は英文の基本形の一つである。
==== 補語 ====
# Mary ''is'' '''happy'''.
# John ''became'' '''a doctor'''.
## 訳例:メアリーは幸せだ。
## 訳例:ジョンは医者になった。
これらはいずれも主語の状態を説明した文であるが、isやbecomeで文を切ると意味をとれない。happyやa doctorという、主語の様子をおぎなう語があって初めて意味のある文となる。このように、主語の様子について説明する語を'''補語'''(Complement)という。補語は'''C'''で表される。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|-
! || 主語 || 動詞 || 補語
|-
| -
| colspan="1" | 主部
| colspan="2" | 述部
|-
| 1.
| Mary
| is
| happy.
|-
| 2.
| John
| became
| a doctor.
|}
このような'''S+V+C'''の文も基本的な文の一つである。なお、後で学ぶように、補語は主語の様子だけでなく目的語の様子を説明する場合もある(例文:I call him Sensei.(私は彼を先生と呼ぶ))。
==== まとめ ====
文の要素を表す記号をまとめると、
主語 '''S''' (Subject) / 動詞 '''V''' (Verb) / 目的語 '''O''' (Object) / 補語 '''C''' (Complement) / 修飾語 '''M''' (Modifier)
である。
subject や verb などの単語は、青チャート、文英堂インスパイア、いいずな出版エバーグリーン、などで紹介されている。一方、大修館書店ジーニアス、桐原ファクトブックには無い。
「主部」と「主語」は厳密には異なるが、しかしSVOO文型やSVC文型など文型について言う場合、主部のことも含めて「主語」と呼んでよい。参考書もそうなっている。
文法用語でいう修飾語(Modifier)には副詞と形容詞があるが、しかし文型の理論でいう記号 '''M''' は副詞だけに限定するのが一般的である(インスパイア)。
また、よく記号Mを「修飾語」というが、実際には1単語の「語」だけでなくとも、複数の語からなる副詞句や副詞節でも「修飾語」といって記号 M で表す(インスパイア)。
== 動詞の用法 ==
=== 助動詞 ===
=== 態 ===
==== 受動態 ====
;どういうときに受動態を使うか。
動作主が不明な場合、
動作主をぼかしたい場合(ジーニアス)、
動作主に興味が無い場合(インスパイア)、
and接続詞のある文などで、形容詞をつかった「 be +形容詞」型の文章と並列させたい場合、受動態を使うことで「 It is 形容詞 and is 過去分詞(受動態)」のように主語を同じままで並列できて読みやすくなる(ジーニアス)。
能動態だと主語が長くなる場合、受動態を使うことがよくある。英語では長い主語を避けるのが普通(インスパ、ジーニアス)。
;by以外の動作主の前置詞
受動態にて動詞主をあらわす前置詞は一般的には by であるが、
しかし be known to ~ (知られている)や be covered with (~で覆われている)など、意味や動詞によっては前置詞がすでに決まっている。ほか、
be caught in ((にわか雨などに)あう)、
be filled with (~で満たされている)、
などが、そういったby以外が決まっている動詞(青チャート、ジーニアス)。
余談だが、「be known by ~」は、動作主ではなく「判断の基準」を表すのに使われる(インスパイア)。
A man is known by the company he keeps. 「つきあっている友達を見れば、その人の人柄が分かる」(ことわざ)※ インスパイア
A tree is known by its fruit. 「木のよしあしはその果実によって決まる」→「人はことばではなく行いによって判断される」(ことわざ)※青チャート
なお、by で表せるような動詞の受動態の場合、動作主が一般の人である場合は、byおよび動作主を省略することもある(青チャート)。
;感情と受動態
感情を表す be surprised at (驚く)などを、一説には、形容詞ではなく受動態であると見なす場合もある(ジーニアス、青チャート)。
be pleased with / be delight with 「~で喜ぶ」、
be satisfied with 「~に満足する」、
be disappointed at / in / with 「~に落胆する」
be interested in 「~に興味を持つ」、
be amused at/with 「~を楽しむ」、
be amazed at 「~に驚嘆している」、※ ジーニアス
be worried about 「~を心配している」、
;被害や災害
感情だけでなく、被害や災害も、英語では普通は受動態であらわす(インスパイア、青チャート)。
be delayed (遅れる)
be delayed due to heavy snow 「大雪で遅れる」※インスパ 、 de delayed by heavy snow 「大雪で遅れる」※青チャ
be injured (けがをする)
be injured in the accident 「その事故でけがをする」※青チャ
be killed ((戦争や事故などで)死亡する)
be killed in traffic accident. 「交通事故で死亡する」※エバグリ
被害以外にも、受動態が使われる動詞がいくつかある。
be born in ~ 「~(場所、年)に生まれる」
I was born in U.S.A. 「私はアメリカ合衆国に生まれた」
be located in ~(場所)「~(場所)にある」※インスパ
be accustomed to 「~に慣れている」※インスパ
婚約や結婚も、受動態。
be engaged 「婚約している」
be married 「結婚している」
なお、married は、
He got married to her. 「彼は彼女と結婚した。」
のように get married でもいう。
いくつかの動詞では、be 動詞のかわりに「 get 過去分詞」でも受動態になる。
engaged には「従事している」の意味もあるが、こちらも受動態でしか使わないのが普通。つまり
be engaged 「従事している」
;受動態にならない動詞
resemble ,meet のように相互関係を表す動詞(ロイヤル)は、受動態にならない。ただし、meetは「出迎える」の意味では受動態になりうる(ロイヤル)。
所有の状態をあらわす用法での have や 非所有の状態を表す lack などの動詞(ロイヤル、インスパ)は、受動態にならない。ただし、have でも「手に入れる」という別の意味では受動態にできる(ロイヤル)。
cost (金額がかかる)など数量を目的語にとる動詞(ロイヤル、インスパ)は、受動態にならない。
suit(~に似合う)、become(~に似合う)などの動詞(インスパ)は、受動態にならない。
;be動詞ではなくgetを使う動詞
get married 「結婚する」
He got married to her. 「彼は彼女と結婚した。」
become acquainted with 「知り合いになる」
==== 助動詞と組み合わさった受動態 ====
He could be seen by her.
受動態の文を作るときには、その文の述語は必ずbe動詞の節になるが、be動詞に対して助動詞を用いたり、時制の変化をさせることも普通に行なわれる。
この時には、例えば
He is seen by her.
という文が
He could be seen by her.
の様にbe動詞は、助動詞+beの形で書き換えられる。これは、be動詞の原形が
beで与えられることによる。同じ様に例えば、
might be
may be
must be
will be
なども用いることが出来る。また、過去形や現在完了と組み合わせるときにも通常の規則に従えばよい。例えば、上の文では
He was seen by her.
He has been seen by her.
などとなる。been は be の過去分詞である。ここで、be が過去分詞 been になったのは、現在完了を作るためであり、see が過去分詞 seen になったのは、受動態を作るためであることに注意。
=== 分詞 ===
== さまざまな構文 ==
=== 分詞構文 ===
分詞構文は現在分詞や過去分詞を用いて、従属の接続詞節のような意味を持つ文の成分を作る用法である。例文として、
Crying out something, he quickly runs away.
がある。この文は「何かを叫びながら、彼は素早く逃げていった。」という
意味だが、この様な文は例えば接続詞whileを用いて、
While he cries out something, he quickly runs away
接続詞を取る。
He cries out something, he quickly runs away.
主語を取る。
Cries out some thing, he guickly runs away.
動詞を現在分詞形にする。
Crying out some thing, he quickly runs away.→'''これで完成!'''
などとすることが出来る。分詞構文は文の前後関係から、省略される接続詞が予測できると考えられるとき、接続詞と主語を省略することによって
得られる。ただし、接続詞無しで節を作ることは出来ないことから、接続詞節の述語は対応する現在分詞になるのである。上の例文は
while を用いた文から接続詞 while を省き、述語 cries を現在分詞 crying にすることに
よって得たものと解釈出来る。ただし、元の従属接続詞節に対応する主文の主語と接続詞節の主語が等しいときには、現在分詞の主語は
省略出来る。上の文で while 節の主語に対応する語が無いのはこのことからである。
主節の主語と従属節の主語が異なっているときには、分詞構文の主語として対応する従属節の主語を所有格として与える。例えば、上の例で主語を省略せず書くと、
His crying out something, ... のようになる。
一般に現在分詞の主語を指定するときは通常所有格を用いる。
分詞構文で省略される接続詞には主なものとして、
because, since, as: 〜だから(理由)
when, as, while: 〜のとき(ある時点)
などがあげられる。
分詞構文になる従属節では述語がbe動詞であることがある。
このときにも上の規則に従って、Being -,によって分詞構文が作られることも多い。
==== 分詞構文の受動態 ====
特にbe動詞に対応する補語が受動態であったり、形容詞であるときには、beingを省いて過去分詞、もしくは形容詞から分詞構文が
始まることも多い。
(Being) seen from airport, everything looked small.(飛行機から見ると、全てのものが小さく見えた)
The assignment (being) finished, we went on a hike to the nearby mountain.(その課題が終わってから、私たちは近くの山へハイキングへ行った。)
このときには、be動詞と接続詞、必要なら対応する主語も補って考える必要がある。ただし、この様な省略がなされるのは、あくまで省略されたものが文脈からすぐに分かる時のみである。
=== 話法 ===
=== 会話表現 ===
== 品詞 ==
=== 代名詞 ===
==== 未分類 ====
中学校では「代名詞」として、 he や she や we など、基本的な代名詞を習う。
もちろんそれも代名詞であるが、しかしそれ以外にも多くの代名詞がある。
たとえば the same (「同じもの」の意味)も代名詞である(青チャート、ジーニアス)。なぜなら、the same は、なにか具体的な名詞を言う代わりとして使われるのだから、the same も立派な代名詞である。
このように、代名詞は別に一語でなくても構わない。
なお、形容詞的に the same の直後につづけて名詞が来る場合もあり、「the same ~ as ・・・(名詞または代名詞)」で、「・・・と同じ ~」の意味。
こちらの構文では the same は代名詞というよりも形容詞としての用法だが、市販の参考書では都合上、代名詞の章でいっしょにthe same ~ as の構文も教えているのが通例である。
ともかく例文は、たとえば
the same ~ as yours で「あなたのと同じ~」の意味(ジーニアス、エバーグリーン)。
the same shoes as yours なら「あなたのと同じ靴」だし(エバー)、
the same computer as yours なら「あなたのと同じコンピュータ」である(ジーニアス)。
一方、慣用的に、節が続く場合は as ではなく that の場合が多く
the same man that I saw yesterday で「昨日見かけたのと同じ男の人」の意味だし(エバーの和訳を少し改造)、
the same song that I heard yesterday で「昨日聞いたのと同じ曲」の意味(ジーニアス)。
のように、
「the same ~ that ・・・(節)」
というのもある。
ただし、節が続く場合でも、べつに as を使ってもかまわず、つまり「 the same ~ as ・・・(節)」としてもマチガイではない(ブレイクスルー)。
those who ~ で「~な人々」の意味の代名詞である。
たとえばエバーグリーンいわく、 those who wish to smoke で「たばこを吸いたい人々」である。
such は代名詞として「そのようなもの」「そのような人」として扱われる場合もある。
たとえば
He is an adult now, and should be treated as such. 「彼はもう大人なのだから、そのように扱うべきだ。」 ※ジーニアス
He is mere child, and should be treated as such. 「彼はまだほんの子供だから、子供として扱ってやるべきだ。」 ※青チャート
のように such はよく as such などとして使われる。
==== some と any ====
{| class="wikitable" style="left"
|+ 複合不定代名詞
! !! some- !! any- !! no- !! every-
|-
! 人<br> -one<br> -body
| someone <br> somebody<br>(だれか) || anyone <br> anybody<br>(だれか、だれでも) || no one (※ 離して書く)<br> nobody<br>(だれも~ない) || everyone<br> everybody<br>(だれでも)
|-
! 物<br>-thing
| something || anything || nothing || everything
|-
|}
some にも any にも「いくつかの」という意味がある。
よく参考書では、「 some は肯定文で使う。anyは疑問文・否定文で使う」などと習う(青チャート、ジーニアスなど)。
しかし桐原ファクトいわく、anyの基本的な意味は「どれでも」の意味である。any の「いくつかの」の意味は、「どれでも」の派生だと思うほうが良いだろう。
some と any の区別で悩んだ場合は、この「どれでも」の意味を基準に考えると良い。
だから肯定文であっても、「どれでも」の意味の形容詞には any を使う。
桐原ファクトいわく、疑問文で any を使う場合でも、ニュアンス的には「どれでも」の意味があるのが実際とのこと。否定文の any も同様。
この any の基本的な意味が「どれでも」の説に立てば、たとえば熟語 not ~ any が形容詞 no と同じ意味だということも、 not ~ any は「どれでもいいので存在してほしい(any)という事についてすら、それが成り立たない(not)。 → つまり無い」というふうに理解できます。
なお、any の後ろに否定語を置くのは禁止されている(ジーニアス、青チャート)。
ほか、慣用的な表現として、よくお茶などやコーヒーの飲み物をすすめる際に、
Would you like some coffee? 「コーヒーはいかがですか」(桐原ファクト)
Would you like some more tea? 「お茶のお代わりはいかがですか」(青チャート)
のようにsome を使う。
青チャートいわく、some は、答えが Yes であることを期待しているニュアンスのある表現とのこと。そういう用法もある。なので、人にものを勧めるからには、some で質問しないと失礼になるので、someを使うのが当然とのこと。
実際にはsome も any もけっして意味中立的な表現ではなく、それぞれニュアンスがあるので、some と any を完全に使い分けるのは難しいだろう。
参考書にあるような代表的な事例についてだけ、some とanyを使い分ければ、とりあえずは平気だろう。
somebody と anybody などの使い分けも、上記の some と any に準じる(桐原ファクト)。
たとえば「誰かに出会いました」といいたい場合は、somebody を使うべきだと桐原は言っている。これがもしanybodyだと 「誰でもいいのですが、その人に会いました」(原文ママ(桐原))という内容の意味不明の文章になってしまうことからも分かるとして、桐原ファクトは誰かに会った事を言いたい場合には somebody を使うべきだと言っている。
所有格については、-body や -thing の末尾に 's をつければいい(インスパ)。
Everybody's business is nobody's business. 「みなの仕事は誰の仕事でもない」(直訳)→「共同責任は無責任」(ことわざ)
※ 「共同責任は無責任」の部分がことわざ。青チャートおよびインスパイアがこの ことわざ を紹介。
;慣用句など
He is something of musician. 「彼はちょっとした音楽家だ」 ※青チャ、インスパ、ロイヤル
something of a 「少しは~である」※青チャ、「ちょっとした~」※インスパ、
He thinks he is something. 「彼は自分を立派な人だと思っている」
「He thinks himself somebody. 」などでも同じ意味。
somebody または something で「立派な人」の意味(青チャート)。
逆に、nobody または nothing には「とるにたらない人」の意味がある(青チャート、ロイヤル)。
be something like または look something like で「少し似ている」の意味(青チャ、ロイヤル)。
==== every とall の違い ====
「すべての」という意味での every は形容詞であるが(インスパイア)、市販の参考書では便宜的に代名詞の章で紹介される。形容詞なので、every 単独ではあつかわれず、必ず直後に名詞または代名詞をともなう(インスパイア)。
every には「すべての」の意味もある(桐原ファクト、インスパイア)。しかし every と all には、ニュアンスの違いが明確に存在する。
また、every の後ろは単数形でなければならない。
every は、その全部を構成する一つ一つに関心がある文脈の場合に用いられる(桐原ファクト)。だから every で形容される名詞は必ず単数形でなければならないのも当然である(桐原ファクト)。また、everyは例外がないことを強調している(ジーニアス)。
each は2つ以上、every は3つ以上のものについて使用する。
なお、each は比較的に小さい個数のものに使い、everyは比較的に大きい数のものに使う(ジーニアス)。 each の使用対象はべつに2個限定でなくても構わない。
every と all には、こういったニュアンスの違いがあるので、参考書によってはevery の標準的な和訳を「すべての」以外で紹介する参考書も多い。
たとえば「あらゆる」「どの~も」という訳で every を紹介する参考書がよくある(青チャート、ブレイクスル-)。
なお、every には別の用法で「~(数詞のつく名詞)ごとに」の意味もあり、この場合は複数形になる。
たとえば every six hours で「6時間ごとに」である(ブレイクスルー)。 every four years で「四年ごとに」である(エバーグリーン)、なおオリンピックが四年ごとに開かれる という文章。
なお、「一日おきに」は every other day である(インスパイア)。
{{コラム|every child を受ける代名詞は he か she か?|
桐原ファクトに書いてあるのですが、男女のどちらの場合もある単数の名詞について、それを代名詞で受ける際、
he か she かが、時代とともに変わっていきました。
もともとは、男女不明などの場合は、とりあえず he で代名詞を受けていました(桐原ファクト)。
だから every child も he で受けていました。
しかし、それが男女平等の観点に反するという意見が多くなり、近年になって、「 he/ she 」などと受ける代名詞が変わってきました。
「he / she 」はhe or she と読みます。
しかし、長くなるので会話などで不便でした(桐原ファクト)。
その不便さを解消するためか、さらに最近では、単数形であることを無視して every child のような名詞でも they で受けています(桐原ファクトの 2022年 第2版で確認)。
each も同様、最近では they で受けます(桐原ファクト)。
:※ 上記のような説が有名であるが、それに対する若干の異論もある。それは
「もともと he は男の代名詞ではなく性別不明の代名詞であり、もし、男である何らかの名詞についてそれを代名詞で受ける場合については、とりあえず性別不明の代名詞である he を当てるというルールだった」というような説です。
ツイッターで東大の地震学の教授・[[w:ロバート・ゲラー]]がそのような主張をしています。 [https://twitter.com/rjgeller/status/1062486963242979328 Robert Geller@rjgeller 午前8:26 · 2018年11月14日]
おおむね、その教授はおおむね「自分は50年前の高校生のときにそう習った(heは性別不明の代名詞だと習った)」(※ 日本語として読みやすくなるようにwiki側で文章を修正。正確な文章については参照元を読むこと)とツイッターで主張していました。
この場合でも男女は不平等であります。しかし、女性差別とは言いがたい実態になります。
つまり、「女性を無視して男性を意味する he を使っていたのではなく、そもそも he は男女不明の代名詞であったが、女性専用の she という代名詞が存在していたため、あとからhe に男性の意味がついてきた。なのに『性別不明の名詞に he を使う事を女性差別だ』というフェミニズム言説は間違っている」という説です。
もしこの説「he は性別不明の代名詞だった」論のとおりなら(この説が間違っている可能性もありますので、どちらかに決め付けないように)、現代の各国の英語教育が、フェミニズミム運動などに配慮して代名詞 he の歴史の説明について、若干のウソをついている事になる可能性があります。
どちらの場合にせよ(数学の確率問題の場合わけのように、マジメに検証する人は両方の可能性を検討する)、参考書の桐原ファクトをよく読めば、性別不明の代名詞 he → he/she → they の変遷について「男女平等」という表現は説明に用いていますが、しかし「女性差別」という表現は用いていません。桐原ファクトの著者たちは、なかなか優秀です。こういう何気ない言葉の端々に、参考書の著者の優秀さが現れます。
まあ、私たちは背景事情にまでは深入りする必要はありません。上記のような異論もあることも承知した上で、異論もふくめた両者の合意である he → he/she → they という性別不明の単数代名詞の客観的事実を覚えれば済みます。
}}
==== その他 ====
「those who ~」で「~する人々」
Heaven helps those who help themselves. 「天はみずから助くる者を助く。」(ことわざ) ※ 青チャート
So do I. 「私もです。」
「So 動詞+主語」 か「So 主語+動詞」かで意味が違う。
「So 動詞+主語」は、「主語もです」の意味。
「So 主語+動詞 」 は「主語は確かにそうだ」の意味(インスパ代名詞、ジーニアス副詞)。
例文を出せば、たとえば
So he is. 「確かに彼はそうだ」
Tom is kind. 「トムは親切だ。」
- So he is. 「確かに彼はそうだ(=彼・トムは親切だ)。」
- So is John. 「ジョンもそうです。(=トムだけでなくジョンも親切ですよ)」
のような違いがある。
Tom can French well. 「トムはフランス語を上手に話せます」
- So he can. 「確かに彼はそうだ」
- So can John. 「ジョンもフランス語が上手ですよ」
※ 青チャにcanで似た例文
=== 形容詞・副詞 ===
;副詞の位置
副詞の位置がどこに来るかについて、単語や文章によって様々である。
通常、英語では副詞の位置は、修飾対象に前置きである。
しかし very much や from time to time など複数語から構成される副詞表現になると、通常は文末または修飾対象の後ろに置かれるのが通常である(桐原ファクト)。
== 名詞構文・無生物主語 ==
=== 名詞構文 ===
=== 無生物主語 ===
The road takes you to the station. 「その道を歩いていくと駅につきます。」
The bus takes you to the station. 「そのバスに乗れば駅に行きます。」
take は「連れて行く」の意味だが、交通機関などを主語にして使うことも出来る。その場合は、たとえば道なら「その道を行けば、~につきます」のような意味になる。
takes の代わりに will take としても良い(ロイヤル英文法)。
「remind 人 of」 で「人に~を思い出させる」の意味である。
This picture reminds me of vacation in Greece. 「その写真を見ると、ギリシャでの休日を思い出す。」
This picture reminds me of holidays in London. 「その写真を見ると、ロンドンでの休日を思い出す。」
なお、大修館ジーニアスだとロンドン、桐原フォレストだとギリシャの例文。
「deprived 人 of ~」 「(機会などが)うばわれる」
The knee injury deprived him of the chance to play in the final game. 「ひざのけがのため、彼は決勝戦に出場する機会を失った。」
または
The knee injury deprived the player of the chance to play in the game. 「ひざにけがをしたため、その選手は試合に出場する機会を失った。」
のように例文が参考書によくある。
enable ~ は、「~をできるようにする」「~を可能にする」の意味。「~のおかげで、・・・できるようになった」と訳すことができる。
The scholarship enabled him to go on to university. 「その奨学金のおかげで彼は大学へ進学できた。」
ジーニアス、ロイヤルに scholarship の似た例文。
== 疑問詞 ==
疑問詞は、'''疑問代名詞'''と'''疑問副詞'''に分けられる。
下記に疑問代名詞の一覧の表を示す。
{| class="wikitable" style="float:left"
|+ 疑問代名詞の種類
! !! 主格 !! 所有格 !! 目的格
|-
! 人
| who (だれが) || whose (だれの(もの)) || who / whom (だれを、だれに)
|-
! 人、事物
| what (何が) || ない || what (何を、何に)
|-
! 人、事物
| which || ない || which (どれを、どちらに)
|}
{{-}}
what, which には所有格が無い(青チャ、ロイヤル)。
what, which, whose は疑問形容詞としても用いられる(青チャ、ブレイクスルー)。※ ブレイクスルーでは、一覧表の直後で章が変わり、疑問形容詞の章になる。
上記の一覧表は、あくまで疑問代名詞のみである。
疑問副詞については、まったく言及していない。
{{-}}
インスパイア、青チャート、ブレイクスルー、ロイヤルには上記のような疑問詞の一覧表がある。
ジーニアス、エバーグリーン、桐原ファクトには無い。
=== 前置詞と疑問詞 ===
Where are you from? 出身はどちらですか?
文法上、ここでの Where は副詞であり、「疑問副詞」というのに分類される(ロイヤル)。
中学校では主語を you にした例を中心にWhereの疑問文を教わったかもしれないが(中学の1年くらいだと、まだ3人称をあまり習ってないなどの教育的理由があるので)、もちろん he や she などを主語にしても where を使った質問は使用可能である(青チャ)。
Where does he live in? 「彼はどこに住んでいますか」
- Los Angels. 「ロサンゼルスです」
のようにyou以外にも he やsheなどでも言うことも可能。
さて、「Where are you from?」 について前置詞 from に注目しよう。
もしかしたら中学高校などで「前置詞は名詞や代名詞の前に移動するのが原則」とか習うかもしれないが、しかし前置詞をけっしてfromの前に移動しない。
なので、Where は副詞であると考えたほうが理解しやすいだろう。(これとは別の解釈で、そもそも「副詞には前置詞がいらない」という考えから副詞ではなく代名詞としての機能だと考える立場もあり、ジーニアスやロイヤルやフォレストがそういう立場。だが、机上の空論だろう。)
なお、法学など幾つかの学問では、『原則』というのは例外のありうる規則、という意味である。おそらくジーニアスが「原則」という言葉を使っているのは、Where ~?などの疑問詞を文頭にもちいた疑問文の場合は例外的な事例という含みがあるのだろう。
Where に限らず、たとえば When などで疑問文を作るときも原則、それらの疑問詞の前には前置詞(When の場合は since や till や until など)を置かない。そのため、それら When の文でも前置詞は文末にくる場合が多くなる。
つまり、「いつから~?」なら When do you ~ since ? のような文章になる事が多い。
ただし、疑問代名詞の場合は例外的である。
たとえば前置詞 With を使う場合、Who が目的格 Whom に変化する場合もあり、
With whom do you ~? 「誰と一緒に~しますか?」
のようにWith が文頭にくる場合もあるが(桐原)、文語調である(青チャート)。with以外の前置詞の場合でも文頭に持ってくる場合には同様にwhoではなく whom に変化する(ジーニアス)。なお、前置詞を文頭に持ってくる場合、whomを使わずにwho のままで文頭の前置詞の次に置くのは禁止である。
なお、Whomを使わずとも who のままで下記のように言うこともでき
Who do you ~ with?
となり、こちらは口語調である。
青チャートからの引用になるが、
About Which Yamada were you talking? (文語)「どちらが山田さんのことを話していたのですか.」
Which Yamada were you talking about? (口語)「どちらが山田さんのことを話していたのですか.」
となる。
しかし、
What are you looking for? 「何をさがしているのですか。」
については、 look for でひとつの句動詞(群動詞)なので、forは動詞の直後の文末でなければならない(青チャート)。なお、句動詞のことを群動詞ともいう。青チャートでは「句動詞」、インスパイアでは「群動詞」である。
同様にlook for (=を探す), look after (~を世話する),laugh at(を笑う), listen to, depend on , などが句動詞(群動詞)である(青チャ、インスパ、ロイヤル)。なので、これら句動詞(群動詞)では、動詞と前置詞は分離できないので、語順は「疑問詞 ~ 動詞 前置詞?」になる。
さて、疑問副詞の話題に戻る。
Where are you from? の場合、もし前置詞 from がないと、「あなたはどこ?」となり、それが出身をたずねているのか、それとも現在地をたずねているのか、意味が分からなくなることもあってか、ともかく 「Where are you from?」の文章は from を省略できない。
ジーニアスは、話し言葉ではWhereでは from を省略しないという言い方をしているが、しかし書き言葉であっても from を省略しないのが一般的であろう(省略したら上述のように意味が通らなり読み手に誤解を与えるので。)。
しかし、用いる動詞などによっては前置詞を省略できる場合があり、たとえば
Where do you go to? 「どこに行きますか?」
なら、もし前置詞 to を省略しても、動詞 go から意味を推測できるので、この場合は to を省略されるのが許され、つまり
Where do you go?
でも許される(ジーニアス)。
このように文法の理論というのは、あまり論理的ではない。最終的には、英文法の学習では典型的な構文を覚えて、それを真似して使っていく必要がある。
=== 慣用的な疑問文 ===
How about a cup of tea? 「お茶を一杯いかがですか?」
How about ~? は勧誘を表す。
What do you say to ~ing 名詞/動名詞 ? 「~はいかがですか?」「~しませんか」
What do you say to ~ing でも勧誘を表せる。
ここでのsayの直後にある to は前置詞であると考えられている(桐原フォレスト)。どういうわけか、ジーニアスもロイヤルも、to が前置詞かどうかは言及していない。
ほか、Why don't you 動詞 ~ ? は、「~してはどうしょうか」のような相手に行為を促す(うながす)言い方であり、やや押し付けがましい言い方である(ジーニアス)。 Why don't we の形で、一緒になにかをする時に「~しましょうよ」の意味で使う場合もある(フォレスト)。
また、これを省略的に Why not ~? の形で「~はどうですか」「~してはいかがでしょうか」「~しましょうよ」の意味にもある。
How come S + V ~?
How come ~? は「どうして~」の意味でありwhy に近いが、How come のほうが感情的な表現であるので、目上の人に使うのは避けるのが良い(ジーニアス)。なお、How come は語順がSVと肯定形の語順になる。
How come you didn't call me ? 「どうして電話をくれなかったの?」
※ 「電話してほしかったのに」のような含みがあり、相手を責めているようにも受け取られかねない。だから返事も、Sorry, 「ごめん」とかになる(ジーニアス)。
許可を求める表現である Do you mind if~? で、「~してもいいですか」という許可を求める表現ができる。なお Would you mind if ~? については仮定法になり、つまり「~」中の動詞が過去形になる。Would you mind if ~? については 『[[高校英語の文法/仮定法]]』で説明済み。
Do you mind if のほうは、if ~ の動詞は現在形で構わない。
=== 間接疑問文 ===
「何が起きたかを話して」Tell me what happened. (ジーニアス、ブレイクスルー)
のように、文中に疑問的な言い回し(上記の例では「何が起きたか」what happened の部分)が含まれているが、しかし文全体としては平叙文のような英文があり、こういう構造の文のことを間接疑問文という。
「間接疑問」とはいうものの、文中の「関節疑問」の部分は名詞節として働く。
間接疑問文が疑問文なのか平叙文なのかの分類は入試では問われないので、安心していい。文法参考書でも、間接疑問文については、紹介を書籍の後半部に後回しに後回しにしている参考書もある。
このため、高校英語では、疑問文とは、文末が「?」で終わる文章のことだと思っておけば、特に問題が無い。
Would you tell me what happened? 「何が起きたかを話してくれませんか.」
のように間接疑問文をさらに文全体でも疑問文にすることもできるが、本ページでは深入りしない。
I know what he wants. 「私は彼が欲しいものを知っている.」
のような表現も、間接疑問文に分類する場合もある。なお、間接疑問の節中の動詞の人称格変化の有無や、時制の一致などに注意。
I don't know what he wants. 「私は彼が欲しいものを知らない.」
のように文全体が否定文になることもある。
I know where he lives. 「私は彼が住んでいる場所を知っている.」
なお、
Do you know where he lives? 「彼がどこに住んでいるかを知っていますか.」
と質問された場合、文法的には返事は
Yes, I do. 「はい知ってますよ」
No, I don't. 「いいえ、知りません」
となる。(ただし、現実では、質問された側が気を利かして、住んでいる場所まで答えてくれるような場合もありうるが、しかし本単元では考慮しないとする。)
文法的に、どこに住んでいるかを聞き出したい場合は、間接疑問ではなく、疑問副詞を用いた一般的な疑問文で
Where does he live?
で質問することになる。
このように、文頭の単語を見れば、文法上の返事の仕方や、文法的には質問されているものは何かを決定できる。
== 参考文献についての注意 ==
サブページ中の参考文献で、現代2022年では廃止になったシリーズの桐原『フォレスト』などを掲げているが、現代でも他社の いいずな出版『エバーグリーン』シリーズにフォレストの権利が引き継がれているようなので、わざわざ古本のフォレストを探す必要は無い。
[[カテゴリ:高等学校教育|ふむほふ]]
ousv1qzo89u6mcvveyjp2zh9v8wliax
206963
206962
2022-08-22T09:39:11Z
すじにくシチュー
12058
/* 動詞の用法 */
wikitext
text/x-wiki
<!-- このページには導入部がありません。適切な導入部を作成し、このコメントを除去してください。 -->
== 目次 ==
* [[高校英語の文法/文の種類]]
* [[高校英語の文法/動詞と文型]]
* [[高校英語の文法/時制]] ※ 参考書によって微妙に単元名が異なるので暫定
* [[高校英語の文法/完了形]]
* [[高校英語の文法/助動詞]]
* [[高校英語の文法/不定詞]]
* [[高校英語の文法/動名詞]]
*
* [[高校英語の文法/比較]]
* [[高校英語の文法/関係詞]]
* [[高校英語の文法/仮定法]]
* [[高校英語の文法/名詞]]
* [[高校英語の文法/冠詞]]
*
* [[高校英語の文法/否定]]
* [[高校英語の文法/接続詞]]
* [[高校英語の文法/前置詞]]
その他 [[高等学校英語/文法用語の英単語]] 「名詞」Noun など(入試には出ないので覚える必要は無い)
== 文の構造 ==
=== 文の要素 ===
文の構造を知るためには、文がどのような要素で成り立っているのかを知らなければならない。
==== 主語と述語動詞 ====
# '''The old man''' ''is'' a famous singer.
# '''My sister''' ''studied'' math.
## 訳例:その老人'''は'''有名な歌手'''だ'''。
## 訳例:私の姉'''は'''数学を研究'''していた'''。
1の文は「AはBだ」という文であり、2の文は「AはCする」という文である。どちらも
# 「…は」「…が」という主題の部分
# 「~である」「~する」という主題が何であるかについて述べる部分
の二つが共通している。
この場合、1を'''主部'''といい、2を'''述部'''という。
そして、主部の中心となる語を'''主語'''(Subject)といい、述部の中心となる部分を'''述語動詞'''(Predicate Verb略して'''動詞'''('''Verb'''))という。
たとえば上記「私の姉」以下略の場合、 sister を主語、My sister を主部と分類する場合もある。
だが、主部のことを主語という場合もある(文英堂インスパイア)。
以下では、述語動詞は原則として単に動詞と呼ぶ。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|-
! || - || 主語 || 述語動詞 || -
|-
| -
| colspan="2" | 主部
| colspan="2" | 述部
|-
| 1.
| The old
| man
| is
| a famous singer.
|-
| 2.
| My
| sister
| studied
| math.
|}
主語は単に'''S'''で表し、動詞は'''V'''で表す。
==== 目的語 ====
# He ''has'' '''a personal computer'''.
# We ''played'' '''soccer'''.
# Everone ''likes'' '''Sushi'''.
## 訳例:彼はパソコン'''を'''持っている。
## 訳例:私たちはサッカー'''を'''した。
## 訳例:みんなが寿司'''を'''好む。
いずれの文の動詞も「~を」という、動作の対象が必要である。このような動作の対象を表す語を'''目的語'''(Object)といい、'''O'''で表す。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|-
! || 主語 || 動詞 || 目的語
|-
| -
| colspan="1" | 主部
| colspan="2" | 述部
|-
| 1.
| He
| has
| a personal computer.
|-
| 2.
| We
| played
| soccer.
|-
| 3.
| Everone
| likes
| Sushi.
|}
このような、'''S+V+O'''という形の文は英文の基本形の一つである。
==== 補語 ====
# Mary ''is'' '''happy'''.
# John ''became'' '''a doctor'''.
## 訳例:メアリーは幸せだ。
## 訳例:ジョンは医者になった。
これらはいずれも主語の状態を説明した文であるが、isやbecomeで文を切ると意味をとれない。happyやa doctorという、主語の様子をおぎなう語があって初めて意味のある文となる。このように、主語の様子について説明する語を'''補語'''(Complement)という。補語は'''C'''で表される。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|-
! || 主語 || 動詞 || 補語
|-
| -
| colspan="1" | 主部
| colspan="2" | 述部
|-
| 1.
| Mary
| is
| happy.
|-
| 2.
| John
| became
| a doctor.
|}
このような'''S+V+C'''の文も基本的な文の一つである。なお、後で学ぶように、補語は主語の様子だけでなく目的語の様子を説明する場合もある(例文:I call him Sensei.(私は彼を先生と呼ぶ))。
==== まとめ ====
文の要素を表す記号をまとめると、
主語 '''S''' (Subject) / 動詞 '''V''' (Verb) / 目的語 '''O''' (Object) / 補語 '''C''' (Complement) / 修飾語 '''M''' (Modifier)
である。
subject や verb などの単語は、青チャート、文英堂インスパイア、いいずな出版エバーグリーン、などで紹介されている。一方、大修館書店ジーニアス、桐原ファクトブックには無い。
「主部」と「主語」は厳密には異なるが、しかしSVOO文型やSVC文型など文型について言う場合、主部のことも含めて「主語」と呼んでよい。参考書もそうなっている。
文法用語でいう修飾語(Modifier)には副詞と形容詞があるが、しかし文型の理論でいう記号 '''M''' は副詞だけに限定するのが一般的である(インスパイア)。
また、よく記号Mを「修飾語」というが、実際には1単語の「語」だけでなくとも、複数の語からなる副詞句や副詞節でも「修飾語」といって記号 M で表す(インスパイア)。
== 動詞の用法 ==
=== 態 ===
==== 受動態 ====
;どういうときに受動態を使うか。
動作主が不明な場合、
動作主をぼかしたい場合(ジーニアス)、
動作主に興味が無い場合(インスパイア)、
and接続詞のある文などで、形容詞をつかった「 be +形容詞」型の文章と並列させたい場合、受動態を使うことで「 It is 形容詞 and is 過去分詞(受動態)」のように主語を同じままで並列できて読みやすくなる(ジーニアス)。
能動態だと主語が長くなる場合、受動態を使うことがよくある。英語では長い主語を避けるのが普通(インスパ、ジーニアス)。
;by以外の動作主の前置詞
受動態にて動詞主をあらわす前置詞は一般的には by であるが、
しかし be known to ~ (知られている)や be covered with (~で覆われている)など、意味や動詞によっては前置詞がすでに決まっている。ほか、
be caught in ((にわか雨などに)あう)、
be filled with (~で満たされている)、
などが、そういったby以外が決まっている動詞(青チャート、ジーニアス)。
余談だが、「be known by ~」は、動作主ではなく「判断の基準」を表すのに使われる(インスパイア)。
A man is known by the company he keeps. 「つきあっている友達を見れば、その人の人柄が分かる」(ことわざ)※ インスパイア
A tree is known by its fruit. 「木のよしあしはその果実によって決まる」→「人はことばではなく行いによって判断される」(ことわざ)※青チャート
なお、by で表せるような動詞の受動態の場合、動作主が一般の人である場合は、byおよび動作主を省略することもある(青チャート)。
;感情と受動態
感情を表す be surprised at (驚く)などを、一説には、形容詞ではなく受動態であると見なす場合もある(ジーニアス、青チャート)。
be pleased with / be delight with 「~で喜ぶ」、
be satisfied with 「~に満足する」、
be disappointed at / in / with 「~に落胆する」
be interested in 「~に興味を持つ」、
be amused at/with 「~を楽しむ」、
be amazed at 「~に驚嘆している」、※ ジーニアス
be worried about 「~を心配している」、
;被害や災害
感情だけでなく、被害や災害も、英語では普通は受動態であらわす(インスパイア、青チャート)。
be delayed (遅れる)
be delayed due to heavy snow 「大雪で遅れる」※インスパ 、 de delayed by heavy snow 「大雪で遅れる」※青チャ
be injured (けがをする)
be injured in the accident 「その事故でけがをする」※青チャ
be killed ((戦争や事故などで)死亡する)
be killed in traffic accident. 「交通事故で死亡する」※エバグリ
被害以外にも、受動態が使われる動詞がいくつかある。
be born in ~ 「~(場所、年)に生まれる」
I was born in U.S.A. 「私はアメリカ合衆国に生まれた」
be located in ~(場所)「~(場所)にある」※インスパ
be accustomed to 「~に慣れている」※インスパ
婚約や結婚も、受動態。
be engaged 「婚約している」
be married 「結婚している」
なお、married は、
He got married to her. 「彼は彼女と結婚した。」
のように get married でもいい、「get 過去分詞」では変化を表す(エバーグリーン)。
engaged には「従事している」の意味もあるが、こちらも受動態でしか使わないのが普通。つまり
be engaged 「従事している」
;受動態にならない動詞
resemble ,meet のように相互関係を表す動詞(ロイヤル)は、受動態にならない。ただし、meetは「出迎える」の意味では受動態になりうる(ロイヤル)。
所有の状態をあらわす用法での have や 非所有の状態を表す lack などの動詞(ロイヤル、インスパ)は、受動態にならない。ただし、have でも「手に入れる」という別の意味では受動態にできる(ロイヤル)。
cost (金額がかかる)など数量を目的語にとる動詞(ロイヤル、インスパ)は、受動態にならない。
suit(~に似合う)、become(~に似合う)などの動詞(インスパ)は、受動態にならない。
;be動詞ではなくgetやbecomeを使う動詞
get married 「結婚する」
He got married to her. 「彼は彼女と結婚した。」
become acquainted with 「知り合いになる」
==== 助動詞と組み合わさった受動態 ====
He could be seen by her.
受動態の文を作るときには、その文の述語は必ずbe動詞の節になるが、be動詞に対して助動詞を用いたり、時制の変化をさせることも普通に行なわれる。
この時には、例えば
He is seen by her.
という文が
He could be seen by her.
の様にbe動詞は、助動詞+beの形で書き換えられる。これは、be動詞の原形が
beで与えられることによる。同じ様に例えば、
might be
may be
must be
will be
なども用いることが出来る。また、過去形や現在完了と組み合わせるときにも通常の規則に従えばよい。例えば、上の文では
He was seen by her.
He has been seen by her.
などとなる。been は be の過去分詞である。ここで、be が過去分詞 been になったのは、現在完了を作るためであり、see が過去分詞 seen になったのは、受動態を作るためであることに注意。
=== 分詞 ===
== さまざまな構文 ==
=== 分詞構文 ===
分詞構文は現在分詞や過去分詞を用いて、従属の接続詞節のような意味を持つ文の成分を作る用法である。例文として、
Crying out something, he quickly runs away.
がある。この文は「何かを叫びながら、彼は素早く逃げていった。」という
意味だが、この様な文は例えば接続詞whileを用いて、
While he cries out something, he quickly runs away
接続詞を取る。
He cries out something, he quickly runs away.
主語を取る。
Cries out some thing, he guickly runs away.
動詞を現在分詞形にする。
Crying out some thing, he quickly runs away.→'''これで完成!'''
などとすることが出来る。分詞構文は文の前後関係から、省略される接続詞が予測できると考えられるとき、接続詞と主語を省略することによって
得られる。ただし、接続詞無しで節を作ることは出来ないことから、接続詞節の述語は対応する現在分詞になるのである。上の例文は
while を用いた文から接続詞 while を省き、述語 cries を現在分詞 crying にすることに
よって得たものと解釈出来る。ただし、元の従属接続詞節に対応する主文の主語と接続詞節の主語が等しいときには、現在分詞の主語は
省略出来る。上の文で while 節の主語に対応する語が無いのはこのことからである。
主節の主語と従属節の主語が異なっているときには、分詞構文の主語として対応する従属節の主語を所有格として与える。例えば、上の例で主語を省略せず書くと、
His crying out something, ... のようになる。
一般に現在分詞の主語を指定するときは通常所有格を用いる。
分詞構文で省略される接続詞には主なものとして、
because, since, as: 〜だから(理由)
when, as, while: 〜のとき(ある時点)
などがあげられる。
分詞構文になる従属節では述語がbe動詞であることがある。
このときにも上の規則に従って、Being -,によって分詞構文が作られることも多い。
==== 分詞構文の受動態 ====
特にbe動詞に対応する補語が受動態であったり、形容詞であるときには、beingを省いて過去分詞、もしくは形容詞から分詞構文が
始まることも多い。
(Being) seen from airport, everything looked small.(飛行機から見ると、全てのものが小さく見えた)
The assignment (being) finished, we went on a hike to the nearby mountain.(その課題が終わってから、私たちは近くの山へハイキングへ行った。)
このときには、be動詞と接続詞、必要なら対応する主語も補って考える必要がある。ただし、この様な省略がなされるのは、あくまで省略されたものが文脈からすぐに分かる時のみである。
=== 話法 ===
=== 会話表現 ===
== 品詞 ==
=== 代名詞 ===
==== 未分類 ====
中学校では「代名詞」として、 he や she や we など、基本的な代名詞を習う。
もちろんそれも代名詞であるが、しかしそれ以外にも多くの代名詞がある。
たとえば the same (「同じもの」の意味)も代名詞である(青チャート、ジーニアス)。なぜなら、the same は、なにか具体的な名詞を言う代わりとして使われるのだから、the same も立派な代名詞である。
このように、代名詞は別に一語でなくても構わない。
なお、形容詞的に the same の直後につづけて名詞が来る場合もあり、「the same ~ as ・・・(名詞または代名詞)」で、「・・・と同じ ~」の意味。
こちらの構文では the same は代名詞というよりも形容詞としての用法だが、市販の参考書では都合上、代名詞の章でいっしょにthe same ~ as の構文も教えているのが通例である。
ともかく例文は、たとえば
the same ~ as yours で「あなたのと同じ~」の意味(ジーニアス、エバーグリーン)。
the same shoes as yours なら「あなたのと同じ靴」だし(エバー)、
the same computer as yours なら「あなたのと同じコンピュータ」である(ジーニアス)。
一方、慣用的に、節が続く場合は as ではなく that の場合が多く
the same man that I saw yesterday で「昨日見かけたのと同じ男の人」の意味だし(エバーの和訳を少し改造)、
the same song that I heard yesterday で「昨日聞いたのと同じ曲」の意味(ジーニアス)。
のように、
「the same ~ that ・・・(節)」
というのもある。
ただし、節が続く場合でも、べつに as を使ってもかまわず、つまり「 the same ~ as ・・・(節)」としてもマチガイではない(ブレイクスルー)。
those who ~ で「~な人々」の意味の代名詞である。
たとえばエバーグリーンいわく、 those who wish to smoke で「たばこを吸いたい人々」である。
such は代名詞として「そのようなもの」「そのような人」として扱われる場合もある。
たとえば
He is an adult now, and should be treated as such. 「彼はもう大人なのだから、そのように扱うべきだ。」 ※ジーニアス
He is mere child, and should be treated as such. 「彼はまだほんの子供だから、子供として扱ってやるべきだ。」 ※青チャート
のように such はよく as such などとして使われる。
==== some と any ====
{| class="wikitable" style="left"
|+ 複合不定代名詞
! !! some- !! any- !! no- !! every-
|-
! 人<br> -one<br> -body
| someone <br> somebody<br>(だれか) || anyone <br> anybody<br>(だれか、だれでも) || no one (※ 離して書く)<br> nobody<br>(だれも~ない) || everyone<br> everybody<br>(だれでも)
|-
! 物<br>-thing
| something || anything || nothing || everything
|-
|}
some にも any にも「いくつかの」という意味がある。
よく参考書では、「 some は肯定文で使う。anyは疑問文・否定文で使う」などと習う(青チャート、ジーニアスなど)。
しかし桐原ファクトいわく、anyの基本的な意味は「どれでも」の意味である。any の「いくつかの」の意味は、「どれでも」の派生だと思うほうが良いだろう。
some と any の区別で悩んだ場合は、この「どれでも」の意味を基準に考えると良い。
だから肯定文であっても、「どれでも」の意味の形容詞には any を使う。
桐原ファクトいわく、疑問文で any を使う場合でも、ニュアンス的には「どれでも」の意味があるのが実際とのこと。否定文の any も同様。
この any の基本的な意味が「どれでも」の説に立てば、たとえば熟語 not ~ any が形容詞 no と同じ意味だということも、 not ~ any は「どれでもいいので存在してほしい(any)という事についてすら、それが成り立たない(not)。 → つまり無い」というふうに理解できます。
なお、any の後ろに否定語を置くのは禁止されている(ジーニアス、青チャート)。
ほか、慣用的な表現として、よくお茶などやコーヒーの飲み物をすすめる際に、
Would you like some coffee? 「コーヒーはいかがですか」(桐原ファクト)
Would you like some more tea? 「お茶のお代わりはいかがですか」(青チャート)
のようにsome を使う。
青チャートいわく、some は、答えが Yes であることを期待しているニュアンスのある表現とのこと。そういう用法もある。なので、人にものを勧めるからには、some で質問しないと失礼になるので、someを使うのが当然とのこと。
実際にはsome も any もけっして意味中立的な表現ではなく、それぞれニュアンスがあるので、some と any を完全に使い分けるのは難しいだろう。
参考書にあるような代表的な事例についてだけ、some とanyを使い分ければ、とりあえずは平気だろう。
somebody と anybody などの使い分けも、上記の some と any に準じる(桐原ファクト)。
たとえば「誰かに出会いました」といいたい場合は、somebody を使うべきだと桐原は言っている。これがもしanybodyだと 「誰でもいいのですが、その人に会いました」(原文ママ(桐原))という内容の意味不明の文章になってしまうことからも分かるとして、桐原ファクトは誰かに会った事を言いたい場合には somebody を使うべきだと言っている。
所有格については、-body や -thing の末尾に 's をつければいい(インスパ)。
Everybody's business is nobody's business. 「みなの仕事は誰の仕事でもない」(直訳)→「共同責任は無責任」(ことわざ)
※ 「共同責任は無責任」の部分がことわざ。青チャートおよびインスパイアがこの ことわざ を紹介。
;慣用句など
He is something of musician. 「彼はちょっとした音楽家だ」 ※青チャ、インスパ、ロイヤル
something of a 「少しは~である」※青チャ、「ちょっとした~」※インスパ、
He thinks he is something. 「彼は自分を立派な人だと思っている」
「He thinks himself somebody. 」などでも同じ意味。
somebody または something で「立派な人」の意味(青チャート)。
逆に、nobody または nothing には「とるにたらない人」の意味がある(青チャート、ロイヤル)。
be something like または look something like で「少し似ている」の意味(青チャ、ロイヤル)。
==== every とall の違い ====
「すべての」という意味での every は形容詞であるが(インスパイア)、市販の参考書では便宜的に代名詞の章で紹介される。形容詞なので、every 単独ではあつかわれず、必ず直後に名詞または代名詞をともなう(インスパイア)。
every には「すべての」の意味もある(桐原ファクト、インスパイア)。しかし every と all には、ニュアンスの違いが明確に存在する。
また、every の後ろは単数形でなければならない。
every は、その全部を構成する一つ一つに関心がある文脈の場合に用いられる(桐原ファクト)。だから every で形容される名詞は必ず単数形でなければならないのも当然である(桐原ファクト)。また、everyは例外がないことを強調している(ジーニアス)。
each は2つ以上、every は3つ以上のものについて使用する。
なお、each は比較的に小さい個数のものに使い、everyは比較的に大きい数のものに使う(ジーニアス)。 each の使用対象はべつに2個限定でなくても構わない。
every と all には、こういったニュアンスの違いがあるので、参考書によってはevery の標準的な和訳を「すべての」以外で紹介する参考書も多い。
たとえば「あらゆる」「どの~も」という訳で every を紹介する参考書がよくある(青チャート、ブレイクスル-)。
なお、every には別の用法で「~(数詞のつく名詞)ごとに」の意味もあり、この場合は複数形になる。
たとえば every six hours で「6時間ごとに」である(ブレイクスルー)。 every four years で「四年ごとに」である(エバーグリーン)、なおオリンピックが四年ごとに開かれる という文章。
なお、「一日おきに」は every other day である(インスパイア)。
{{コラム|every child を受ける代名詞は he か she か?|
桐原ファクトに書いてあるのですが、男女のどちらの場合もある単数の名詞について、それを代名詞で受ける際、
he か she かが、時代とともに変わっていきました。
もともとは、男女不明などの場合は、とりあえず he で代名詞を受けていました(桐原ファクト)。
だから every child も he で受けていました。
しかし、それが男女平等の観点に反するという意見が多くなり、近年になって、「 he/ she 」などと受ける代名詞が変わってきました。
「he / she 」はhe or she と読みます。
しかし、長くなるので会話などで不便でした(桐原ファクト)。
その不便さを解消するためか、さらに最近では、単数形であることを無視して every child のような名詞でも they で受けています(桐原ファクトの 2022年 第2版で確認)。
each も同様、最近では they で受けます(桐原ファクト)。
:※ 上記のような説が有名であるが、それに対する若干の異論もある。それは
「もともと he は男の代名詞ではなく性別不明の代名詞であり、もし、男である何らかの名詞についてそれを代名詞で受ける場合については、とりあえず性別不明の代名詞である he を当てるというルールだった」というような説です。
ツイッターで東大の地震学の教授・[[w:ロバート・ゲラー]]がそのような主張をしています。 [https://twitter.com/rjgeller/status/1062486963242979328 Robert Geller@rjgeller 午前8:26 · 2018年11月14日]
おおむね、その教授はおおむね「自分は50年前の高校生のときにそう習った(heは性別不明の代名詞だと習った)」(※ 日本語として読みやすくなるようにwiki側で文章を修正。正確な文章については参照元を読むこと)とツイッターで主張していました。
この場合でも男女は不平等であります。しかし、女性差別とは言いがたい実態になります。
つまり、「女性を無視して男性を意味する he を使っていたのではなく、そもそも he は男女不明の代名詞であったが、女性専用の she という代名詞が存在していたため、あとからhe に男性の意味がついてきた。なのに『性別不明の名詞に he を使う事を女性差別だ』というフェミニズム言説は間違っている」という説です。
もしこの説「he は性別不明の代名詞だった」論のとおりなら(この説が間違っている可能性もありますので、どちらかに決め付けないように)、現代の各国の英語教育が、フェミニズミム運動などに配慮して代名詞 he の歴史の説明について、若干のウソをついている事になる可能性があります。
どちらの場合にせよ(数学の確率問題の場合わけのように、マジメに検証する人は両方の可能性を検討する)、参考書の桐原ファクトをよく読めば、性別不明の代名詞 he → he/she → they の変遷について「男女平等」という表現は説明に用いていますが、しかし「女性差別」という表現は用いていません。桐原ファクトの著者たちは、なかなか優秀です。こういう何気ない言葉の端々に、参考書の著者の優秀さが現れます。
まあ、私たちは背景事情にまでは深入りする必要はありません。上記のような異論もあることも承知した上で、異論もふくめた両者の合意である he → he/she → they という性別不明の単数代名詞の客観的事実を覚えれば済みます。
}}
==== その他 ====
「those who ~」で「~する人々」
Heaven helps those who help themselves. 「天はみずから助くる者を助く。」(ことわざ) ※ 青チャート
So do I. 「私もです。」
「So 動詞+主語」 か「So 主語+動詞」かで意味が違う。
「So 動詞+主語」は、「主語もです」の意味。
「So 主語+動詞 」 は「主語は確かにそうだ」の意味(インスパ代名詞、ジーニアス副詞)。
例文を出せば、たとえば
So he is. 「確かに彼はそうだ」
Tom is kind. 「トムは親切だ。」
- So he is. 「確かに彼はそうだ(=彼・トムは親切だ)。」
- So is John. 「ジョンもそうです。(=トムだけでなくジョンも親切ですよ)」
のような違いがある。
Tom can French well. 「トムはフランス語を上手に話せます」
- So he can. 「確かに彼はそうだ」
- So can John. 「ジョンもフランス語が上手ですよ」
※ 青チャにcanで似た例文
=== 形容詞・副詞 ===
;副詞の位置
副詞の位置がどこに来るかについて、単語や文章によって様々である。
通常、英語では副詞の位置は、修飾対象に前置きである。
しかし very much や from time to time など複数語から構成される副詞表現になると、通常は文末または修飾対象の後ろに置かれるのが通常である(桐原ファクト)。
== 名詞構文・無生物主語 ==
=== 名詞構文 ===
=== 無生物主語 ===
The road takes you to the station. 「その道を歩いていくと駅につきます。」
The bus takes you to the station. 「そのバスに乗れば駅に行きます。」
take は「連れて行く」の意味だが、交通機関などを主語にして使うことも出来る。その場合は、たとえば道なら「その道を行けば、~につきます」のような意味になる。
takes の代わりに will take としても良い(ロイヤル英文法)。
「remind 人 of」 で「人に~を思い出させる」の意味である。
This picture reminds me of vacation in Greece. 「その写真を見ると、ギリシャでの休日を思い出す。」
This picture reminds me of holidays in London. 「その写真を見ると、ロンドンでの休日を思い出す。」
なお、大修館ジーニアスだとロンドン、桐原フォレストだとギリシャの例文。
「deprived 人 of ~」 「(機会などが)うばわれる」
The knee injury deprived him of the chance to play in the final game. 「ひざのけがのため、彼は決勝戦に出場する機会を失った。」
または
The knee injury deprived the player of the chance to play in the game. 「ひざにけがをしたため、その選手は試合に出場する機会を失った。」
のように例文が参考書によくある。
enable ~ は、「~をできるようにする」「~を可能にする」の意味。「~のおかげで、・・・できるようになった」と訳すことができる。
The scholarship enabled him to go on to university. 「その奨学金のおかげで彼は大学へ進学できた。」
ジーニアス、ロイヤルに scholarship の似た例文。
== 疑問詞 ==
疑問詞は、'''疑問代名詞'''と'''疑問副詞'''に分けられる。
下記に疑問代名詞の一覧の表を示す。
{| class="wikitable" style="float:left"
|+ 疑問代名詞の種類
! !! 主格 !! 所有格 !! 目的格
|-
! 人
| who (だれが) || whose (だれの(もの)) || who / whom (だれを、だれに)
|-
! 人、事物
| what (何が) || ない || what (何を、何に)
|-
! 人、事物
| which || ない || which (どれを、どちらに)
|}
{{-}}
what, which には所有格が無い(青チャ、ロイヤル)。
what, which, whose は疑問形容詞としても用いられる(青チャ、ブレイクスルー)。※ ブレイクスルーでは、一覧表の直後で章が変わり、疑問形容詞の章になる。
上記の一覧表は、あくまで疑問代名詞のみである。
疑問副詞については、まったく言及していない。
{{-}}
インスパイア、青チャート、ブレイクスルー、ロイヤルには上記のような疑問詞の一覧表がある。
ジーニアス、エバーグリーン、桐原ファクトには無い。
=== 前置詞と疑問詞 ===
Where are you from? 出身はどちらですか?
文法上、ここでの Where は副詞であり、「疑問副詞」というのに分類される(ロイヤル)。
中学校では主語を you にした例を中心にWhereの疑問文を教わったかもしれないが(中学の1年くらいだと、まだ3人称をあまり習ってないなどの教育的理由があるので)、もちろん he や she などを主語にしても where を使った質問は使用可能である(青チャ)。
Where does he live in? 「彼はどこに住んでいますか」
- Los Angels. 「ロサンゼルスです」
のようにyou以外にも he やsheなどでも言うことも可能。
さて、「Where are you from?」 について前置詞 from に注目しよう。
もしかしたら中学高校などで「前置詞は名詞や代名詞の前に移動するのが原則」とか習うかもしれないが、しかし前置詞をけっしてfromの前に移動しない。
なので、Where は副詞であると考えたほうが理解しやすいだろう。(これとは別の解釈で、そもそも「副詞には前置詞がいらない」という考えから副詞ではなく代名詞としての機能だと考える立場もあり、ジーニアスやロイヤルやフォレストがそういう立場。だが、机上の空論だろう。)
なお、法学など幾つかの学問では、『原則』というのは例外のありうる規則、という意味である。おそらくジーニアスが「原則」という言葉を使っているのは、Where ~?などの疑問詞を文頭にもちいた疑問文の場合は例外的な事例という含みがあるのだろう。
Where に限らず、たとえば When などで疑問文を作るときも原則、それらの疑問詞の前には前置詞(When の場合は since や till や until など)を置かない。そのため、それら When の文でも前置詞は文末にくる場合が多くなる。
つまり、「いつから~?」なら When do you ~ since ? のような文章になる事が多い。
ただし、疑問代名詞の場合は例外的である。
たとえば前置詞 With を使う場合、Who が目的格 Whom に変化する場合もあり、
With whom do you ~? 「誰と一緒に~しますか?」
のようにWith が文頭にくる場合もあるが(桐原)、文語調である(青チャート)。with以外の前置詞の場合でも文頭に持ってくる場合には同様にwhoではなく whom に変化する(ジーニアス)。なお、前置詞を文頭に持ってくる場合、whomを使わずにwho のままで文頭の前置詞の次に置くのは禁止である。
なお、Whomを使わずとも who のままで下記のように言うこともでき
Who do you ~ with?
となり、こちらは口語調である。
青チャートからの引用になるが、
About Which Yamada were you talking? (文語)「どちらが山田さんのことを話していたのですか.」
Which Yamada were you talking about? (口語)「どちらが山田さんのことを話していたのですか.」
となる。
しかし、
What are you looking for? 「何をさがしているのですか。」
については、 look for でひとつの句動詞(群動詞)なので、forは動詞の直後の文末でなければならない(青チャート)。なお、句動詞のことを群動詞ともいう。青チャートでは「句動詞」、インスパイアでは「群動詞」である。
同様にlook for (=を探す), look after (~を世話する),laugh at(を笑う), listen to, depend on , などが句動詞(群動詞)である(青チャ、インスパ、ロイヤル)。なので、これら句動詞(群動詞)では、動詞と前置詞は分離できないので、語順は「疑問詞 ~ 動詞 前置詞?」になる。
さて、疑問副詞の話題に戻る。
Where are you from? の場合、もし前置詞 from がないと、「あなたはどこ?」となり、それが出身をたずねているのか、それとも現在地をたずねているのか、意味が分からなくなることもあってか、ともかく 「Where are you from?」の文章は from を省略できない。
ジーニアスは、話し言葉ではWhereでは from を省略しないという言い方をしているが、しかし書き言葉であっても from を省略しないのが一般的であろう(省略したら上述のように意味が通らなり読み手に誤解を与えるので。)。
しかし、用いる動詞などによっては前置詞を省略できる場合があり、たとえば
Where do you go to? 「どこに行きますか?」
なら、もし前置詞 to を省略しても、動詞 go から意味を推測できるので、この場合は to を省略されるのが許され、つまり
Where do you go?
でも許される(ジーニアス)。
このように文法の理論というのは、あまり論理的ではない。最終的には、英文法の学習では典型的な構文を覚えて、それを真似して使っていく必要がある。
=== 慣用的な疑問文 ===
How about a cup of tea? 「お茶を一杯いかがですか?」
How about ~? は勧誘を表す。
What do you say to ~ing 名詞/動名詞 ? 「~はいかがですか?」「~しませんか」
What do you say to ~ing でも勧誘を表せる。
ここでのsayの直後にある to は前置詞であると考えられている(桐原フォレスト)。どういうわけか、ジーニアスもロイヤルも、to が前置詞かどうかは言及していない。
ほか、Why don't you 動詞 ~ ? は、「~してはどうしょうか」のような相手に行為を促す(うながす)言い方であり、やや押し付けがましい言い方である(ジーニアス)。 Why don't we の形で、一緒になにかをする時に「~しましょうよ」の意味で使う場合もある(フォレスト)。
また、これを省略的に Why not ~? の形で「~はどうですか」「~してはいかがでしょうか」「~しましょうよ」の意味にもある。
How come S + V ~?
How come ~? は「どうして~」の意味でありwhy に近いが、How come のほうが感情的な表現であるので、目上の人に使うのは避けるのが良い(ジーニアス)。なお、How come は語順がSVと肯定形の語順になる。
How come you didn't call me ? 「どうして電話をくれなかったの?」
※ 「電話してほしかったのに」のような含みがあり、相手を責めているようにも受け取られかねない。だから返事も、Sorry, 「ごめん」とかになる(ジーニアス)。
許可を求める表現である Do you mind if~? で、「~してもいいですか」という許可を求める表現ができる。なお Would you mind if ~? については仮定法になり、つまり「~」中の動詞が過去形になる。Would you mind if ~? については 『[[高校英語の文法/仮定法]]』で説明済み。
Do you mind if のほうは、if ~ の動詞は現在形で構わない。
=== 間接疑問文 ===
「何が起きたかを話して」Tell me what happened. (ジーニアス、ブレイクスルー)
のように、文中に疑問的な言い回し(上記の例では「何が起きたか」what happened の部分)が含まれているが、しかし文全体としては平叙文のような英文があり、こういう構造の文のことを間接疑問文という。
「間接疑問」とはいうものの、文中の「関節疑問」の部分は名詞節として働く。
間接疑問文が疑問文なのか平叙文なのかの分類は入試では問われないので、安心していい。文法参考書でも、間接疑問文については、紹介を書籍の後半部に後回しに後回しにしている参考書もある。
このため、高校英語では、疑問文とは、文末が「?」で終わる文章のことだと思っておけば、特に問題が無い。
Would you tell me what happened? 「何が起きたかを話してくれませんか.」
のように間接疑問文をさらに文全体でも疑問文にすることもできるが、本ページでは深入りしない。
I know what he wants. 「私は彼が欲しいものを知っている.」
のような表現も、間接疑問文に分類する場合もある。なお、間接疑問の節中の動詞の人称格変化の有無や、時制の一致などに注意。
I don't know what he wants. 「私は彼が欲しいものを知らない.」
のように文全体が否定文になることもある。
I know where he lives. 「私は彼が住んでいる場所を知っている.」
なお、
Do you know where he lives? 「彼がどこに住んでいるかを知っていますか.」
と質問された場合、文法的には返事は
Yes, I do. 「はい知ってますよ」
No, I don't. 「いいえ、知りません」
となる。(ただし、現実では、質問された側が気を利かして、住んでいる場所まで答えてくれるような場合もありうるが、しかし本単元では考慮しないとする。)
文法的に、どこに住んでいるかを聞き出したい場合は、間接疑問ではなく、疑問副詞を用いた一般的な疑問文で
Where does he live?
で質問することになる。
このように、文頭の単語を見れば、文法上の返事の仕方や、文法的には質問されているものは何かを決定できる。
== 参考文献についての注意 ==
サブページ中の参考文献で、現代2022年では廃止になったシリーズの桐原『フォレスト』などを掲げているが、現代でも他社の いいずな出版『エバーグリーン』シリーズにフォレストの権利が引き継がれているようなので、わざわざ古本のフォレストを探す必要は無い。
[[カテゴリ:高等学校教育|ふむほふ]]
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高等学校日本史B/鎌倉幕府の成立
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206922
206848
2022-08-21T14:28:55Z
椎楽
32225
wikitext
text/x-wiki
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== 源平の争乱 ==
=== 内乱の始まり ===
1179年に平清盛は後白河法皇を幽閉し、平氏の専制体制を作り上げた。このことは他の有力貴族や寺社の不満を高めることとなった。1180年に清盛が、娘の{{ruby|徳子|とくこ}}の産んだ安徳天皇を即位させると、後白河法皇の第2皇子の{{ruby|以仁王|もちひとおう}}が{{ruby|源頼政|みなもとのよりまさ}}とともに挙兵した。これに清盛は速やかに対応し、以仁王らを攻撃した。頼政は宇治で戦死し、以仁王も奈良に逃亡する最中に討ち取られた。
こうした中、同年6月に清盛は都を摂津の'''福原'''に移した。この遷都は瀬戸内海の支配を確保し、平家の指導力を高めるための拠点移動であった。だが、貴族の反対に加え、南都北嶺の僧兵や畿内の源氏の活動が活発になったために半年で京に都を戻した。
以仁王は敗死したが、挙兵と同時に諸国の武士に平氏討伐の令旨を出しており、各地でこれに呼応した各地の武士(在地領主)が立ち上がった。こうして全国に反平家勢力が挙兵したことによって起きた内乱を'''治承・寿永の乱'''と呼ぶ。反平家勢力の中でも有力だったのが、平治の乱で敗れて{{ruby|伊豆|いず}}に流されていた'''源頼朝'''、および信濃国木曽の'''源義仲'''であった。
源頼朝は、叔父の源行家によって伝えられた以仁王の令旨に応じ、1180年8月に妻・'''政子'''の父である'''北条時政'''らと挙兵して伊豆国目代の館を奇襲した。目代への襲撃は成功するものの、頼朝挙兵の報を受けた平家方の大庭景親が3000騎の大軍を率いて頼朝討伐を開始した。兵力の乏しい頼朝軍は石橋山(神奈川県)で迎撃するも大敗する('''石橋山の戦い''')。頼朝は安房国(千葉県南部)へと逃れ、再起をはかった。安房で北条氏とともに挙兵した三浦氏とも合流し、源氏に仕えていた武士たちも頼朝の下に集まりはじめた。そして、千葉常胤や上総広常などの有力な豪族が頼朝に従うと形勢は頼朝の方へ一気に傾いた。そして、同年10月には平家方の大庭らの平家方豪族を倒して源氏ゆかりの地である鎌倉に入った。
清盛は孫の平{{ruby|維盛|これもり}}を大将とした討伐軍を派遣するが、平家軍は駿河国富士川での頼朝軍との合戦('''富士川の戦い''')に敗北する<ref>『平家物語』では平家軍は水鳥の飛び立つ音に驚き、戦わずして敗走したと伝えている。</ref>。しかし、勝利した頼朝は御家人の意見を取り入れてそれ以上の進軍を行わず、鎌倉に帰還して東国経営に専念する。
大敗した平家も立て直しを図り、以仁王に味方した大寺社を焼討し、畿内の源氏勢力を討伐した。特に、1180年12月には反平家の動きを見せた興福寺を、清盛が息子の平{{ruby|重衡|しげひら}}に命じて攻撃した'''南都焼打ち'''は興福寺と東大寺の堂塔伽藍を焼失させ、奈良の街にも大きな被害をもたらした。しかし、翌1181年2月に清盛が死去する。加えて、畿内・西国を中心とした飢饉('''養和の飢饉''')は、西国を拠点とする平家に深刻な打撃を与えることとなった。
=== 源義仲の栄光と没落 ===
頼朝のいとこにあたる源義仲は拠点である信濃国で挙兵した。義仲は1181年6月に平家方の豪族を倒すと、北陸道の反平家勢力をまとめ上げて勢力を急拡大する。1183年、平家が再び維盛を大将とした義仲討伐軍を派遣するも、加賀国と越中国の国境にある{{ruby|'''倶利伽羅'''|くりから}}'''峠の戦い'''で義仲軍に大敗してしまう。勢いに乗った義仲軍は平家方を追撃し、同年7月には京都に進軍してきた。畿内の反平家勢力もこれに呼応するように進撃をはじめた。防衛が難しいと判断した平家は京都を放棄し、安徳天皇を連れて拠点である西国に撤退する('''平氏都落ち''')。その際、平家方は後白河法皇も西国へと連れ出すことを企図していたが、法皇はいち早く比叡山に脱出しており、失敗した。
入京した義仲は、当初こそ後白河法皇から軍功を称賛されたものの、安徳天皇の次の皇位をめぐる問題から法皇・朝廷との関係が急速に悪化する。さらに飢饉によって疲弊していた京都の市街では義仲軍だけでなく他の反平家勢力も混在していたこともあり、義仲の統制が十分にはなされなかった。そのため、都の治安が急速に悪化し、兵たちによる略奪が横行した。こうした失態を挽回するべく義仲は同年9月に西国へと出陣した。
しかし、義仲が京都を発つ頃には後白河法皇と頼朝とが交渉を始めていた。同年(1183年・寿永2年)10月、頼朝は後白河法皇との交渉の末に東海・東山両道の支配権を承認された('''寿永二年十月宣旨''')。
そして、頼朝は弟の源{{ruby|範頼|のりより}}および源{{ruby|義経|よしつね}}を将とする軍勢を京に派遣する<ref>これについては、実教出版の教科書では源氏どうしで戦わせて勢力を削ぎ、後白河法皇を中心とした政権を築こうとする策謀という解釈を述べている。他方、後白河法皇には長期的な戦略がなく場当たり的な判断に終始しており(『陰謀の日本中世史』呉座勇一著、角川書店、p.84参照)、単に有力な勢力に乗り換えただけという見解も根強い。</ref>。源義仲は防戦するも、もはや義仲に付く武士は少なかった。1184年1月、義仲は近江国粟津にて討死した。
=== 平家滅亡 ===
義仲と頼朝が争っている間に平家は福原まで進出し、京都奪還をうかがうまでに勢力を回復した。後白河法皇は義仲が討たれると、すぐさま平家討伐の院宣を頼朝に下す。1184年2月、源氏勢は摂津国一の谷での決戦に勝利する。こののち、頼朝勢は義仲の残党や平家に与する勢力を掃討または臣従させ、平家の拠点たる九州・四国まで勢力を伸ばすことに成功する。1185年2月には讃岐国{{ruby|屋島|やしま}}を急襲して平氏を破る('''屋島の戦い''')。そして、同年3月には{{ruby|長門|ながと}}国の{{ruby|'''壇ノ浦'''|だんのうら}}'''の戦い'''にて平家は滅亡し、安徳天皇も海中に没した。
=== コラム:源平合戦の実態 ===
治承・寿永の内乱は源平合戦とも言われ、源氏と平氏の勢力争いのように描かれることが多い。軍記物では「源平の宿命的な対立」も強調されがちである。しかし、実のところ全ての源氏が頼朝に、全ての平氏が平家<ref><!--どこぞのポンコツ煮込みを含む-->多くの人が誤解しがちだが、平氏=平家ではない。一般的に平家は平清盛の一族・縁者とその郎党を指す。</ref>の下についたわけではない。例えば、頼朝とともに挙兵した北条氏・三浦氏は平氏であった。一方、古くからの源氏の家人は当初、頼朝の挙兵には否定的な者も少なくなかった。また、同じ清和源氏である常陸(茨城県)の佐竹氏は平家に近かったため、頼朝から討伐された。
治承・寿永の内乱の背景には、平家による権力の独占に対する反発に加えて、所領の拡大を目指す在地領主と国司・荘園領主との対立があった。自らの知行国を増加させて荘園の集積も行った平家一門は、地方政治の矛盾を一手に引き受けてしまった上に有効な手を打てなかったのである。そのことが平家への反発を強めることになったのだ。そして、在地領主はあくまで自らの要求に最も応える可能性のあるものに従ったのであり、「源氏の棟梁」という理由で頼朝に従ったわけではない。
そのため、頼朝以外にも武家の棟梁となりうる者もいた。平家一門を都落ちさせた源義仲、以仁王の令旨を届け、交渉力に長けた源行家、甲斐源氏の棟梁であり富士川の戦いで頼朝の勝利に貢献した武田(源)信義、さらには清盛の後継者である平宗盛にも棟梁となるチャンスはあった。しかし、在地領主や荘園の荘官、諸国の在庁官人たちの要求に最もよく応えられた頼朝だけが彼らを御家人としてまとめ上げ、武家の棟梁となることに成功したのだった。
== 鎌倉幕府 ==
=== 統治機構の確立 ===
鎌倉は東海道の要衝であり、三方を山で囲まれ、南は海に面した天然の要害であった。さらに、頼朝の五代前の先祖である頼義が鶴岡八幡宮を建立したこともあり、鎌倉は源氏ゆかりの地でもある。こうしたことから、頼朝は鎌倉を拠点として関東統治のための機構をつくりあげる。頼朝は鎌倉を動かず、合戦はもっぱら弟の源範頼と源義経に任せていた。
1180年、富士川の戦いの後、頼朝は有力武士たちとの主従関係を明確なものとし、頼朝に直属する武士たちは'''御家人'''と呼ばれるようになり、頼朝は後に'''鎌倉殿'''と呼ばれるようになった。そして、御家人たちを統括する部署として{{Ruby|'''侍所'''|さむらいどころ}}が設けられた。その別当(長官)に任じられたのが関東の有力豪族であった三浦一族の{{Ruby|和田義盛|わだよしもり}}であった。
1184年には政務や財務を取りしきる{{Ruby|'''公文所'''|くもんじょ}}と裁判事務を担当する'''{{Ruby|問注所|もんちゅうじょ}}'''が開かれた。公文所は後に整備が進み{{ruby|'''政所'''|まんどころ}}となる。公文所(政所)別当には元々朝廷の下級官吏であった{{Ruby|大江広元|おおえのひろもと}}が、問注所執事(長官)には下級官吏出身の{{Ruby|三善康信|みよしのやすのぶ}}が招かれた。
=== 全国支配の公認 ===
1185年、後白河法皇は、頼朝の勢力をそごうとして、義経に頼朝追討を命じるが失敗する。そして、逆に頼朝は軍勢を京に送って後白河にせまり、頼朝は諸国を管理する権限(御家人を「'''守護'''」(しゅご)として各国に置く権利)を獲得する。また、荘園や国衙領にも地頭を置いて兵糧米を徴収する権利も、獲得した(文治勅許)。
:当初は「守護」でなく「'''国地頭'''」(くにじとう)などと呼ばれたが、やがて「守護」と呼ばれるようになった。
:すでに東国は頼朝の支配下にあったので、実質的には、頼朝は西国の支配権を手に入れたことになる。
こうして、1185年に、頼朝が実質的に全国支配をする体制が出来上がった。
そして1189年、頼朝は、奥州藤原氏が義経(よしつね)をかくまったとして、頼朝は奥州藤原氏をほろぼした。(奥州藤原氏の藤原泰衡(やすひら)は頼朝の要求に従って義経を殺したが、それにもかかわらず、頼朝は藤原泰衡を滅ぼした。)
1190年に頼朝は右近衛大将(うこのえたいしょう)となった。
1192年の後白河法皇の死後、源頼朝は征夷大将軍に任命された。
=== コラム:鎌倉幕府の成立は何年か ===
今(2022年)の40歳代以上の年代に鎌倉幕府の成立年を聞けば、たいていの場合「{{ruby|いい国|1192}}つくろう鎌倉幕府」の言葉とともに1192年という答えが返ってくるだろう。
しかし、現在では1192年を鎌倉幕府成立とする教科書・テキストはない。現行の中高の日本史教科書では1185年を鎌倉幕府成立としていることが多いが、これは頼朝が「日本国惣追捕使(守護)」「日本国惣地頭」の地位を獲得し、守護・地頭の任命権を持ったことを根拠とする。しかし、中世史研究者の間では以下の6説が提示されている。
#1180年末:頼朝が鎌倉を拠点とし、侍所を設け、南関東と東海道東部の支配権を確立した段階。
#1183年10月:頼朝の東国支配権が事実上承認された、いわゆる「寿永二年十月宣旨」を受けた段階。
#1184年10月:公文所と問注所の設立。
#1185年11月:全国の荘園と公領に守護・地頭を置く権限を獲得した「文治勅許」を得た段階。(中高の歴史教科書で採用されている見解でもある)
#1190年11月:頼朝が右近衛大将に任命されたとき。
#1192年7月:頼朝が征夷大将軍に任命されたとき。
古くからの説は5と6であるが、これは「幕府」という言葉が近衛大将や将軍の館の意味に由来したことに基づく説である。すなわち、「頼朝が近衛大将・将軍となったこと」に注目したものと言える。現在、この2説に人気がないのは、既に頼朝が統治のための機構を作り上げつつあったことよりも「将軍」という形式にのみ注目しているからといえる。
一方、1~4は「鎌倉幕府」が軍事政権としての実体を持つようになった時期、つまり「どの段階で頼朝が政権を握った」と言えるか注目したものである。現在有力視されている4は頼朝の権力を全国に広げる契機に着目した説である。だが、鎌倉幕府の「頼朝による東国の支配権の確立」という性格に着目すれば2ないし3の説が、さらにその実効支配までさかのぼるならば1の説も主張される。
こうした見解の相違は、結局のところ「武家政権=幕府なのか」「将軍がいなくとも幕府と言えるか」「そもそも武家政権の権限はどこまで有効だったのか」などといった「幕府とは何か」という根本的な問いに由来する。
== 封建制度の成立 ==
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<references/>
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高等学校生物/生物I/生物の体内環境の維持
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すじにくシチュー
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/* その他 */
wikitext
text/x-wiki
== 導入 ==
生物は外界の環境の変化によらず体内の環境を一定に保つ恒常性と呼ばれる働きを持っている。
また、動物は刺激に対して反応することができる。
このページでは、動物の恒常性、様々な刺激の受容と反応、神経系の構造と働き、動物の様々な行動、などを扱う。
== 体液とその恒常性 ==
=== 体温の恒常性 ===
生物が、'''外部環境'''(external milieu)が変化しても、その'''内部環境'''(ないぶかんきょう、internal milieu)(別名:'''体内環境''')を一定に保とうとする働きを'''恒常性'''(こうじょうせい、homeostasis)('''ホメオスタシス''')という。
ヒトの体温が平常では37℃付近なのもホメオスタシスの一例である。恒常性には、温度、浸透圧、養分、酸素などを一定に保とうとする働きがある。
生物が体温を一定に保つ理由は、酵素の働きが温度によって異なるからである。
酵素は温度が約40℃のとき最もよく働き、低すぎると働きが鈍くなり、高すぎると酵素が破壊され全く働かなくなる。
体温を一定に保つために、暑いときは熱を逃がし、寒いときは熱を逃がさないようにしたり筋肉を震わせて熱を作ったりしている。
脳の間脳と呼ばれる部分が無意識に体温調節をしている。
=== 体液の働きとその循環 ===
[[画像:Red White Blood cells.jpg|thumb|right|320px|左から赤血球、血小板、白血球]]
多細胞の動物の内部環境では、細胞は血液や組織液などの'''体液'''(body fluid)で満たされている。
体液には、血管を流れる'''血液'''(blood)、細胞間を満たす'''組織液'''(interstitial fluid)、リンパ管を流れる'''リンパ液'''(lymph)がある。ヒトの成人の場合、体重の約60%は水分である。
血液の成分には、液体成分である'''血しょう(けっしょう, plasma、血漿)'''と、有形成分である'''赤血球'''(erythrocyte)・'''白血球'''(leucocyte)・'''血小板'''(platelet)の'''血球'''(blood cell)がある。
血球には、酸素を運ぶ'''赤血球'''(erythrocyte)、体内に侵入した細菌・異物を排除する'''白血球'''(leucocyte)、血液を凝固させ止血する'''血小板'''(platelet)がある。有形成分が作られる場所は、ヒトの成人の場合、骨の内部にある'''骨髄'''(こつずい、bone marrow)で作られる。
血液が全身の細胞へ酸素や栄養分を送ることで、
細胞は活動することができる。
血液の重さの約55%は血しょうの重さである。血しょうの主成分は水(約90%)であり、それに少量のタンパク質(約7%)やグルコース・タンパク質・脂質・無機塩類などが混ざっている。血しょうのタンパク質は、アルブミン(albumin)やグロブリン(globulin)などのタンパク質である。
組織液は、血しょうが毛細血管(もうさいけっかん、capillary)から染み出たものである。組織液の大部分は再び血管にもどる。
{{-}}
赤血球の形は、直径が約8μmの円盤状であり、中央がくぼんでいる。赤血球には核が無い。ヒトの成人の場合、血液1mm<sup>3</sup>あたりの個数は、男子は500万個/mm<sup>3</sup>、女子は450万個/mm<sup>3</sup>。ヒトの赤血球の寿命は約120日である。古くなった赤血球は肝臓や ひ臓 で壊される。骨髄で赤血球は作られる。
赤血球には'''ヘモグロビン'''(hemoglobin)(化学式:'''Hb''' と表記)という赤い色素タンパク質が多量に含まれている。このへモグロビンが肺で酸素O<sub>2</sub>と結合して酸素を運搬する役目を持ち、全身に酸素を運んでいる。ヘモグロビンは鉄(Fe)をふくんでいる。
ヘモグロビンは、酸素濃度が高いと、酸素と結合して'''酸素ヘモグロビン'''('''HbO<sub>2</sub>''')となる。
また、酸素濃度が低いと、酸素と分離しヘモグロビンに戻る。
:Hb+O<sub>2</sub> <math>\leftrightarrows</math> HbO<sub>2</sub>
このようにして、酸素濃度の高い肺で酸素を受け取り、
酸素濃度の低い組織へ酸素を運ぶ。
:(※ 範囲外: ) 酸素ヘモグロビンのことを「酸素化ヘモグロビン」と書いても、正しい。(※ 参考文献: 医学書院『標準生理学 第8版』、695ページ、監修: 小澤 瀞司/福田 康一郎、発行:2015年8月1日。 参考文献『標準生理学』にて、「酸素化ヘモグロビン」と表記している。) なお、酸素とまったく結合していない状態のヘモグロビンのことを、脱酸素化ヘモグロビン(deoxyhemoglobin)という。(※ 参考文献: 医学書院『標準生理学 第8版』、695ページ、) この反応は、「酸化」反応ではなく「酸素化」(oxygeneation)反応という、別の反応である<ref>KIM E. BARRETT ほか原著改訂、岡田泰伸 監訳『ギャノング生理学 原著23版 』丸善株式会社、平成23年1月31日 発行、P707</ref>。
:※ 高校生は、「酸素化」反応よりも先に「酸化還元反応」のほうを学ぶのが良いだろう。ヘモグロビンにしか応用できない「酸素化」反応よりも、多くの化学反応に応用できる酸化還元反応のほうを優先的に学ぶべきである。wikibooksでは『[[高等学校化学I/酸化還元反応]]』に酸化還元反応の解説がある。そう考えれば、高校生物で「酸素化」という概念を紹介しない事にも、一理ある。
:(※ 範囲外: ) 酸素と結合していない状態のヘモグロビンのことを「還元ヘモグロビン」と書いても正しい。つまり、脱酸素化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンは同じである。「還元ヘモグロビン」もまた、正式な医学用語である。(※ 参考文献: 『標準病理学 第5版』373ページ、で「還元ヘモグロビン」の名称の記載を確認。)
:(※ 範囲外: ) 一酸化炭素中毒や喫煙などのせいにより、一酸化炭素と結合してしまったヘモグロビンのことは、「一酸化炭素ヘモグロビン」などという。(※ 保健体育の検定教科書であつかう。第一学習社の保健体育の教科書などで紹介されている。)
植物では、(そもそも植物に赤血球はないし、)植物はヘモグロビンを持ってない。(※ 検定教科書には無いが、センター試験にこういう選択肢が出る。2017年の生物基礎の本試験。)
* 酸素解離曲線(oxygen dissociation curve)
[[File:酸素解離曲線.svg|thumb|500px|酸素解離曲線]]
*発展 イカとヘモシアニン
:(※ 文英堂シグマベスト『理解しやすい生物I・II』で記述を確認。教科書範囲外かもしれないが、参考書などで扱われる話題。)
イカなど、いくつかの動物では、銅 Cu をふくむタンパク質の'''ヘモシアニン''' (Hemocyanin)が血液を介して酸素を運ぶ役目をしている動物もいる。ヘモシアニンをふくむ動物の血液は青い。この青色は銅イオンの色である。イカの青い筋は、このヘモシアニンの色である。(※ 参考文献: 文英堂『理解しやすい生物I・II』、2004年版、205ページ) ヘモシアニンをふくむ動物には、イカ・タコや貝などの軟体動物、エビ・カニなどの甲殻類に見られる。これらの動物(イカ、タコ、エビ、カニ)は、血しょう中にヘモシアニンを含んでいる。 人間の血液は、ヘモシアニンをふくまない。
:(発展、終わり。)
酸素ヘモグロビンを多くふくみ酸素濃度の高い血液を'''動脈血'''(arterial blood)と呼ぶ。
ヘモグロビンを多くふくみ酸素濃度の低い血液を'''静脈血'''(venous blood)と呼ぶ。
白血球はヘモグロビンを持たない。白血球は核を持つ。リンパ球やマクロファージは白血球である。体内に侵入した細菌・異物を排除することに白血球は関わる。
血しょうの一部は組織へしみだして組織液になり、栄養分を供給し老廃物を受け取る。
組織液の大部分は血管へ戻り血液となり、一部はリンパ管へ入りリンパ液となる。
リンパ液はリンパ管を通り、鎖骨下静脈で血液と合流する。
=== 血液の凝固 ===
[[File:血液の凝固と血清.svg|thumb|血液の凝固と血清]]
血小板は血液の凝固に関わる。血小板は2μm~5μmほどであり、核を持たない。
血管などが傷つくと、まず傷口に血小板が集まる。そして繊維状のタンパク質である'''フィブリン'''がいくつも生成し、フィブリンどうしと赤血球などの血球とが絡んで'''血ぺい'''(けっぺい)ができる。血ぺいが傷口をふさぐ。このような一連の反応を'''血液凝固反応'''という。
採血した血液を放置した場合でも、血ぺいが生じて、血ぺいが沈殿する。このときの上澄み液を'''血清'''(けっせい、serum)という。血清の色は、やや黄色がかっている。なお、注射した血清は数日すると抗体が無くなってしまい(※ チャート式生物)、また免疫記憶も生じないので(※ 東京書籍の生物基礎の教科書)、予防には役立たない。
*発展 血液凝固反応の仕組み
傷口から'''トロンボプラスチン'''が出る。これが他の凝固因子や血しょう中のカルシウムイオンCa<sup>2+</sup>とともに、'''プロトロンビン'''というタンパク質に作用して、プロトロンビンが'''トロンビン'''という酵素になる。
トロンビンは、血しょうに溶けている'''フィブリノーゲン'''に作用して、フィブリノーゲンを繊維状の'''フィブリン'''に変える。このフィブリンが血球を絡めて血ぺい(けっぺい)をつくる。
血友病(けつゆうびょう)という出血しても止血が始まらない病気は、血液凝固に何らかの不具合があってフィブリンをつくれなくて起きる病気である。
=== 体液の循環 ===
[[画像:Diagram of the human heart (cropped) ja.svg|thumb|right|320px|ヒトの心臓の構造<br />血液の流れは白い矢印で示されている]]
血液は、心臓(heart)によって全身へ送られる。
ヒトの心臓は、右心房(right atrium)、右心室(right ventricle)、左心房(Left atrium)、左心室(Left ventricle)の4部分に分かれていて、'''2心房2心室'''である。ほ乳類の心臓は'''2心房2心室'''である。
'''心筋'''(cardiac muscle)という筋肉でできている。
弁によって血液の逆流を防いでいる。心臓のリズムは、右心房の上部にある'''洞房結節'''(どうぼうけっせつ)という特殊な筋肉の出す電気刺激によって作られる。
全身から送られた血液は、大静脈(vena cava)をとおり、右心房・右心室をとおり、肺動脈(pulmonary artery)をとおり肺へと送られる。
肺で酸素を受け取った血液は、肺静脈(pulmonary vein)をとおり、左心房・左心室をとおり、大動脈(aorta)をとおり全身へ送られる。
肺動脈・肺・肺静脈を通る血液の流れを'''肺循環'''(pulmonary circulation)と呼び、
大動脈・全身・大静脈を通る血液の流れを'''体循環'''(Systemic circulation)と呼ぶ。
{{-}}
バッタなど昆虫やエビなど無脊椎動物(invertebrate)の血管系は、毛細血管をもたない'''開放血管系'''(かいほうけっかんけい、open blood-vascular system)である。いっぽう、魚類(pisces)・ほ乳類(mammalia)など脊椎動物(vertebrate)は毛細血管(capillary)をもち、'''閉鎖血管系'''(へいさけっかんけい、closed blood-vascular system)である。
=== リンパ系 ===
人体各部の組織液の一部は毛細血管に戻らず、毛細リンパ管に入り、リンパ管で合流して、'''リンパ液'''になる。リンパ管は流れ着く先は、最終的には、静脈に合流する。リンパ管には逆流を防ぐための弁が、ところどころにある。リンパ管のところどころに、球状にふくらんだ'''リンパ節'''がある。
リンパ液にふくまれる'''リンパ球'''(lymphocyte)は白血球の一種であり、マクロファージとともにリンパ球は異物を攻撃して、細菌などを排除する。
リンパ球はリンパ節で増殖する。
=== 生体防御 ===
外部環境から生体を守るために、異物の侵入を阻止したり、侵入した異物を白血球などが除去したりする仕組みを'''生体防御'''(せいたいぼうぎょ)と呼ぶ。
生体防御には、免疫、血液凝固、炎症などがある。
私たち生物の体は栄養豊富なので、もし生体防御の仕組みが無いと、あっという間に病原菌などが繁殖し、私たちは死んでしまう。そうならないのは、生体防御の仕組みが私たちを守っているからである。
生体が異物を非自己と認識して、その異物を排除する仕組みを'''免疫'''(めんえき、immunity)と呼ぶ。
免疫は、病原体や毒素を排除する働きを持つ。
免疫には、白血球の食作用などの先天的に生まれつき備わっている'''自然免疫'''(innate immunity)と、いっぽう、リンパ球などが抗原抗体反応によって異物の情報を記憶して排除するという後天的に獲得される'''獲得免疫'''(acquired immunity)がある。
==== 自然免疫 ====
自然免疫は、好中球(neutrophil)、マクロファージ(単球)、樹状細胞(dendritic cell)、リンパ球といった白血球(leukocyte)が、病原体などの異物を食べる現象である'''食作用'''(Phagocytosis)で行われる。食べられた異物は、分解されて排除される。
* 好中球
好中球は自然免疫で、異物を食べて、除去する。攻撃した相手とともに死んでしまう細胞である。そのため寿命は短い。
ケガをしたときに傷口にできる膿は、好中球が死んだものである。
* マクロファージ
自然免疫で異物を食べる。あとで説明する獲得免疫に、異物の情報をつたえる。
近年、マクロファージや好中球などは、ある程度は異物の種類を認識している事が分かった。マクロファージや好中球や好中球などの細胞膜表面には'''トル様受容体'''(TLR)という受容体がある。
:(※ チャート式 生物でトル様受容体を扱っています。)
:(※ 検定教科書では、第一学習社の教科書などで扱っています。)
トル様受容体には、いくつかの種類があり、反応できる異物の種類が、トル受容体の種類ごとに、ある程度、(反応できる異物の種類が)限られている。
あるトル様受容体(TLR9)は、ウイルスのDNAやRNAを認識する。また他のあるトル様受容体(TLR2)は、細胞膜や細胞壁の成分を認識する。
(※ 読者への注意: TLR9などの具体的な番号は覚えなくてよい。wikibooks編集者が査読しやすいように補記してあるだけである。)
べん毛タンパク質を認識するトル様受容体(TLR5)もある。
:※ このように、トル様受容体の種類がいろいろとあることにより、どうやら、白血球は異物の種類を、ある程度は認識できているという仕組みのようである。
* 血液凝固
出血したときは、血小板などの働きによってフィブリン(fibrin)と呼ばれる繊維状のタンパク質が合成され、
フィブリンが血球と絡み合って血餅(けっぺい, clot)となり止血する。
* 炎症
生体が傷ついたときにおこる、赤く腫れる(はれる)症状を炎症(えんしょう、inflammation)と呼ぶ。炎症は自然免疫の一つであり、白血球が異物を除去している。
まず、赤く腫れる原因は、ヒスタミン(histamine)や'''プロスタグランジン'''(prostaglandin、略称:PG)といった警報物質による。(※プロスタグランジンは高校範囲内。数研出版『生物基礎』平成26年発行、P.128 で記述を確認。) なお、プロスタグランジンは脂肪酸から作られる生理活性物質の一つであり、その動物の体の組織・器官などに作用を及ぼす。
:※ なお、ひとまとめに「プロスタグランジン」と言ったが、じつは何種類もある。「プロスタグランジンD2」とか「プロスタグランジンE2」とか「プロスタグランジンF2」など、いくつもの種類がある。種類によって、作用対象の器官・組織も違い、作用の内容も違ってくる。なので、プロスタグランジンの全部の種類をまとめて呼びたい場合、専門書などでは「プロスタグランジン類」などのように、語尾に「類」をつけて呼ぶ場合もある。
:: ※ 高校の範囲外。プロスタグランジンの種類や、種類ごとの作用については、高校理科の範囲外なのは確実なので、普通科高校の高校生は覚えなくて良い。
ヒスタミンやプロスタグランジンなど、これらの警報物質によって、血管が拡張するので、肌が赤く見えるようになる。また警報物質により、毛細血管の透過性が高くなり、水分が血管外に出るので腫れる。
血管から組織にしみでた血液とともに、血液中の白血球もしみでる。そして、しみでた白血球が異物を認識して除去することで、自然免疫が働く。
炎症の症状としては、発熱・発赤・はれ・痛みなどがある。
炎症の際、神経がプロスタグランジンなどによって刺激されるので、痛みが生じる。この痛みによって、私たちは体の異常を感知できる。
また、炎症によって体温が上がるので、雑菌の繁殖が抑えられ、さらに白血球などが活性化する。
* 参考: 鎮痛剤の「アスピリン」 (※ 化学!、化学II で、アスピリンとその鎮痛作用を扱う。下記の説明は高校範囲外。)
鎮痛剤の「アスピリン」(主成分:アセチルサリチル酸。「アスピリン」は商品名)という医薬品は、このプロスタグランジンの合成を阻害することで、鎮痛作用を及ぼすという仕組みであることが、すでに分かっている。プロスタグランジンを合成する酵素のシクロオキシゲナーゼ(略称:COX)の働きを、アスピリンが阻害することで、プロスタグランジンの合成が阻害されるという仕組みである。そして、プロスタグランジンには、いくつもの種類があるので、種類によっては、痛みの機能以外にも、胃液の分泌調整や、睡眠の調整などの様々な機能を持っている。
なので、プロスタグランジンの阻害をする薬では、胃液の分泌異常などの副作用が起きる場合がある。
*体液の酸性
だ液(saliva)は弱酸性、胃液は強酸性などのように、外界と接する体液は、中性ではない体液によって、雑菌の繁殖を防いでいる。
==== 獲得免疫 ====
獲得免疫には、後述する「体液性免疫」(たいえきせい めんえき、humoral immunity)がある。
なお「細胞性免疫」(さいぼうせい めんえき、cell-mediated immunity)とは、キラーT細胞によって生じる免疫のこと。キラーT細胞は、トリからファブリキウス嚢を除去しても働く<ref>小林芳郎 ほか著『第4版 スタンダード免疫学』、丸善出版、平成25年3月30日、P.135</ref>ので、細胞性免疫を獲得免疫に含めるかどうか微妙であるが、とりあえず冒頭では言及だけしておく。
:(※ 範囲外:) 結核や一部のウイルス感染症に対しては、後述の「抗体」よりも「キラーT細胞」のほうが役割が大きい<ref>小林芳郎 ほか著『第4版 スタンダード免疫学』、丸善出版、平成25年3月30日、P.137</ref>と言う説がある。一方、結核にはBCGやツベルクリンなどのワクチンがある。なので、キラーT細胞は考えようによっては、獲得免疫に含める事もできるかもしれないが、しかしキラーT細胞の獲得免疫的な性質についてはまだ研究途上の分野なので、分類は微妙ではある。
===== 体液性免疫 =====
[[File:免疫グロブリンの模式図.svg|320px|thumb|免疫グロブリンの構造]]
免疫グロブリンは、血液などの体液中に含まれている。
体液性免疫は、リンパ球の一部であるB細胞が、'''免疫グロブリン'''といわれる'''抗体'''(こうたい、antibody)を作り行う。抗体は'''免疫グロブリン'''(immunoglobulin、Igと略記)というタンパク質で構成されている。
いっぽう、病原体などの異物に対して抗体が作られた時、その異物を'''抗原'''(こうげん、antigen)と呼ぶ。
抗原と抗体が反応することを'''抗原抗体反応'''(antigen-antibody reaction)と呼ぶ。
病原体などの抗原は、抗体と結合することで、毒性が低下し、また凝集するので、白血球による食作用を受けやすくなる。
免疫グロブリンによる免疫は、体液中の抗体による免疫なので、体液性免疫という。
* 免疫グロブリンの構造と機能
免疫グロブリンはY字型をしたタンパク質である。
免疫グロブリンの構造は、H鎖とL鎖といわれる2種類のポリペプチドが2個ずつ結合した構造になっている。図のように、免疫グロブリンは、合計4本のポリペプチドから構成されている。
H鎖とL鎖の先端部には'''可変部'''(かへんぶ、variable region)という抗体ごとに(免疫グロブリンの可変部の)アミノ酸配列の変わる部分があり、この部分(可変部)が特定の抗原と結合する。そして免疫グロブリンの可変部が抗原と結合することにより、免疫機能は抗原を認識して、一連の免疫反応をする。可変部の配列によって、認識する抗原の構造が異なる。
1種類の抗原に対応する抗体は1種類だけであるが、しかし上述のように可変部が変わりうるので、多種多様な抗原に対応できる仕組みになっている。
免疫グロブリンの構造において、可変部以外のほかの部分は'''定常部'''(ていじょうぶ、constant region)という。
また、H鎖同士、H鎖とL鎖は'''ジスルフィド(S-S)結合'''でつながっている。
* 体液性免疫の仕組み
そもそも免疫グロブリンはB細胞で産生される。免疫グロブリンの可変部の遺伝子も、そもそもB細胞の遺伝子が断片的に選択されて組み合わせされたものである。このような遺伝子配列の組み合わせによって、配列のパターンが膨大に増えて何百万とおりにもなるので、このような仕組みによって多種多様な病原体(抗原)に対応している。
より細かく言うと、下記のような順序で、産生される。
樹状細胞などの食作用によって分解された断片が、抗原として提示される(抗原提示)。 そして、その抗原が、'''ヘルパーT細胞'''(ヘルパーティーさいぼう、helper T cell)によって認識される。
抗原を認識したヘルパーT細胞は活性化し、'''B細胞'''(ビーさいぼう)の増殖を促進する。
増殖したB細胞が、'''抗体産生細胞'''(こうたい さんせいさいぼう)へと分化する。
そして抗体産生細胞が、抗体として免疫グロブリンを産生する。
この抗体が、抗原と特異的に結合する('''抗原抗体反応''')。
抗原抗体反応によって、抗体と結合された抗原は毒性が弱まり、またマクロファージによって認識されやすくなり、マクロファージの食作用によって抗原が分解されるようになる。
* 利根川進(とねがわ すすむ)の業績
ヒトの遺伝子は数万種類であるといわれているが(※ 参考文献: 東京書籍の教科書、平成24検定版)、しかし抗体の種類はそれを膨大に上回り、抗体は数百万種類ていどにも対応する。
その仕組みは、B細胞の遺伝子から、選択的に抗体の遺伝子が選ばれるという仕組みになっている。この辺の抗体の種類の計算の仕組みは、1970年代ごろに日本人の生物学者の利根川進などによって研究されており、1987年には利根川進(とねがわ すすむ)はこの業績でノーベル医学・生理学賞を受賞した。
{{コラム|定常部は実は定常ではない|
ここでいう「可変部」とは、免疫グロブリンのY形の2股の先端部分のことである。
実は、先端以外の、H鎖の「定常部」も、ヘルパーT細胞やサイトカインなどの働きによって形状・構造の変化することが遅くとも1970年代には分かっている。
定説では(一般の動物では?)、免疫グロブリンには5種類あり、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類のクラスがある。(免疫グロブリンの記法は、 Igなんとか のような記号で表すのが一般的である。)
定常部の変化によって免疫グロブリンの種類(クラス)が変わることを'''クラススイッチ'''という。
いっぽう、「可変部」の変化による組み合わせの種類は数百万~数千万ほどの無数にあるし、実際に抗原に結合する(と考えられる)接触部分は「可変部」である。
:(※ 可変部の組み合わせの個数を「数百万~数千万」とした根拠は、たとえば羊土社『基礎から学ぶ生物学・細胞生物学』和田勝 著、第7版、229ページ、 で無数の抗体の個数の一例として「100万個の抗体」という語句があるので、それを参考にした。)
:なお 東京化学同人『免疫学の基礎』、小山次郎、第4版、40ページ では、B細胞クローンの(抗体の)種類として、「10<sup>6</sup>~10<sup>8</sup>」(百万~1億)という数字をあげている。
なので、高校の段階では、「可変部」の変化だけを教えることも、それなりに合理的である。
また、クラススイッチの現象が起きて、ある抗体のクラスがスイッチされても、抗体の可変部は前のままであるので、抗原特異性は変わらない。(参考文献: 東京化学同人『ストライヤー生科学』、Jeremy M.Bergほか著、入村達郎ほか訳、第7版、928ページ。)
なお、クラススイッチの発見者・研究者でもある本庶 佑(ほんじょ たすく、1942年 - )が、2018年のノーベル賞を受賞した。ただし、受賞内容の研究は、これとは違う研究テーマである。(時事的な話題であるが、大学レベルの免疫学の教科書では、かなり前からクラススイッチは紹介されている。)
クラススイッチについては、AIDと呼ばれる酵素・因子が関わることなどが分かっているが(※ 参考文献: 東京化学同人『分子細胞生物学 第7版』、Lodishほか著、石浦章一ほか訳、 ・・・では、「AID」を酵素として紹介している。)、まだ分子機構に未解明の部分が多いので、高校生は単にこういう現象がある事を知っていればいい。
定常部は、その名に反して、あまり定常ではないのである。
「可変部」だの「定常部」だの、歴史的な経緯により、そういう名前がつけられてしまっているが、あまり実態を反映してないので、名前だけを鵜呑みにしないように気をつけよう。
}}
===== ABO式血液型 =====
輸血は、血液型が同じ型どうしで輸血するの通常である。
赤血球表面に、抗原にあたる凝集原(ぎょうしゅうげん)AまたはBがある。なお、凝集原の正体は糖鎖である。
血清中に、抗体にあたる凝集素のαまたはβがある。この抗体は、病気の有無に関わらず、生まれつき持っている抗体である。
凝集原と凝集素との組み合わせによって、4つの型に分類される。
{| class="wikitable" style="float:right"
|+ ABO式血液型の凝集原と凝集素
! !! 凝集原(抗原) !! 凝集素(抗体)
|-
! A型
| A || β
|-
! B型
| B || α
|-
! AB型
| AB || なし
|-
! O型
| なし || α、β
|-
|}
Aとαが共存すると凝集する。
Bとβが共存すると凝集する。
たとえばA型の血をB型のヒトに輸血すると、赤血球が凝集してしまうので、輸血するのは危険である。
A型の糖鎖は、H型糖鎖という糖鎖の末端にNアセチルガラクトースアミン(GalNa)が結合している。
B型は、H型糖鎖という糖鎖の末端にガラクトース(Gal)が結合している。
AB型は、この両方の糖鎖が細胞膜にある。O型の糖鎖はH型糖鎖そのものだけである。
===== 細胞性免疫 =====
トリからファブリキウス嚢を除去してもウイルス感染しない。このため、抗体とは別にウイルスを除去する機構がある事が分かっている<ref>小林芳郎 ほか著『第4版 スタンダード免疫学』、丸善出版、平成25年3月30日、P.135</ref>
そのような抗体とは別のウイルス除去機構の一つとして、キラーT細胞というものがある。
:(※ 範囲外: )なお一方で、動物から胸腺を除去することでT細胞を産生・分化できなくすると、B細胞も産生できなくなる<ref>小林芳郎 ほか著『第4版 スタンダード免疫学』、丸善出版、平成25年3月30日、P.135</ref>。
ともかく細胞性免疫について、下記のキラーというものがある。
抗原提示されたヘルパーT細胞は、'''キラーT細胞'''(killer T cell)とよばれるT細胞を増殖させる。
キラーT細胞は、ウイルスに感染された自己の細胞を攻撃するが、移植細胞や がん細胞 も攻撃することもある。
細胞性免疫は、キラーT細胞が、抗原を直接攻撃して行う。
臓器移植や皮膚移植などで別の個体の臓器や皮膚などを移植すると、たとえ同種の個体からの移植でも、普通、定着しないで脱落する。これを'''拒絶反応'''という。これは細胞性免疫によって異物として移植臓器が認識され、キラーT細胞によって攻撃されたためである。
細胞膜の表面には、'''MHC'''('''主要組織適合性複合体'''、Major Histocompatibility Complex)というタンパク質がある。臓器移植で拒絶反応が起きる場合は、MHCが異なる場合であり、キラーT細胞が移植臓器を攻撃しているのである。
:※ 説明の簡単化のため、ヒトのMHCを想定して解説する。
MHCは個人ごとに異なるので、普通、他人とは一致しない。
T細胞は、相手方細胞の表面にあるMHCを認識している。つまりMHCの違いによって、ヘルパーT細胞が自己と非自己を認識する。そしてヘルパーT細胞が非自己の物質が侵入したことを感知して、キラーT細胞を活性化させる。
なお、ヒトでは、ヒトの白血球の細胞表面にある'''ヒト白血球型抗原'''('''HLA'''、Human Leukocyte Antigen)がMHCとして機能する。血縁関係の無い他人どうしで、HLAが一致する確率は、ほとんど無い。同じ親から生まれた兄弟間で、HLAの一致は4分の1の確率である。移植手術の際、これらの免疫を抑制する必要があり、免疫抑制のために、あるカビから精製した「シクロスポリン」(ciclosporin)という名前の薬剤が、よく免疫抑制剤(めんえきよくせいざい)として使われる。(※ シクロスポリンはいちおう、高校の教科書で紹介されている。)<ref>浅島誠『生物基礎』東京書籍、平成26年2月発行、P.121</ref> <ref>吉田邦久『チャート式シリーズ要点と演習 新生物IB・II』東京書籍、P.121</ref>
:(※ 範囲外: )シクロスポリンと名前の似ている物質で、抗生物質の「セファロスポリン」があるので、混同しないように。
:(※ 範囲外: )妊娠歴のある女性や輸血を受けた経歴のある人には、免疫抑制剤が効かなくなる場合がある<ref>宮坂昌之ほか『標準免疫学』、医学書院、第3版、301ページ</ref>。※ 高校教育的には、高校でこういう例外的な専門知識まで教えるわけにはいかないので、現在の高校理科ではあまり免疫抑制剤について教えてないことにも、それなりの理由がある。
臓器移植など移植手術での拒絶反応が起きる際の理由も、MHC(ヒトの場合はHLA)が異なって、T細胞が移植片を非自己と認識するからである(※ 参考文献: 第一学習社『高等学校生物』、24年検定版、26年発行、58ページ)、と考えられている。
なおシクロスポリンは、T細胞によるサイトカイン(このサイトカインは細胞性免疫の情報伝達に関わる物質の一種であり、キラーT細胞などの他の免疫細胞を活性化させる役割を持っている)の産生を阻害することにより、細胞性免疫の作用を抑制している。(※ サイトカインは高校の範囲内)
:※ 「サイトカイニン」(植物ホルモンの一種)と「サイトカイン」は全く異なる別物質である。
:※ 検定教科箇所では、MHCの和訳を「主要組織適合性複合体」というかわりに「主要組織適合抗原」などという場合もある。大学の教科書でも、教科書出版社によって、どちらの表現を用いているかが異なっており、統一されていない。たとえば東京化学同人『免疫学の基礎』では「主要組織適合抗原系」という表現を用いている。羊土社『理系総合のための生命科学』では、「主要組織適合性複合体」を用いている。
:※ 余談だが、ヒトのHLA遺伝子の場所は解明されており、第6染色体に6対の領域(つまり12か所の領域)があることが分かっている。高校教科書でも図表などで紹介されている(※ 数年出版や第一学習者の教科書など)。(※ 入試にはまず出ないだろうから、暗記しないくて良いだろう。)
:いきなり「HLA遺伝子」と言う用語を使ったが、もちろん意味は、HLAを発現する遺伝子のことである。HLA遺伝子の対立遺伝子の数はけっこう多く、そのため、血縁者ではない他人どうしでは、まず一致しないのが通常である(※ 参考文献: 数研出版の教科書)、と考えられている。いっぽう、一卵性双生児では、HLAは一致する(※ 啓林館の教科書)、と考えられている。
:(※ 範囲外 :) 医学的な背景として、一卵性双生児では、移植手術の拒絶反応が起きづらいことが、実験的事実であるとして、知られている。
:また、医学書などでは、このような一卵性双生児の拒絶反応の起きづらい理由として、MHCが一致しているからだ、と結論づけている(※ 専門書による確認: 『標準免疫学』(医学書院、第3版、42ページ、ページ左段) に、MHCが同じ一卵性双生児では移植の拒絶反応が起きないという主旨の記述あり。)
:高校教科書の啓林館の教科書が、一卵性双生児にこだわるのは、こういう医学的な背景があるためだろう。
:なお、移植手術の歴史は以外と新しく、1950年代に人類初の、ヒトの移植手術が行われている。いっぽう、MHCの発見は、1940年代にマウスのMHC(マウスの場合はH-2抗原という)が発見されていた。
:(※ 範囲外 :) 余談だが、胎児は母体とMHCが違うにもかかわらず、胎内では免疫反応は起きない。胎盤が抗体の進入を防いでいると考えられえている<ref>小林芳郎 ほか著『第4版 スタンダード免疫学』、丸善出版、平成25年3月30日、P.98</ref>。
:※ 余談: (※ 覚えなくていい。一部の教科書にある発展的な記述。)
::MHCが糖タンパク質であることが分かっている(※ 数研出版の教科書で紹介)。MHCには主に2種類あり、クラスIとクラスIIに分類される(※ 数研出版の教科書で紹介)。
::MHCの先端には、体内に侵入してきた病原体など有機の異物のタンパク質を分解した断片が、くっつけられ、提示される仕組みである(※ 第一学習社の教科書で紹介)。これによって、MHCからT細胞に情報を送る仕組みである。そして、有機の異物が侵入してない場合にも、MHCの先端には自己のタンパク質を分解した断片がくっつけられており、提示されている。自己タンパク質断片の提示される場合では、T細胞は提示された細胞を自己と認識するので、その場合にはT細胞は活性化されないという仕組みである。
:(※ 調査中:) 侵入した異物がタンパク質やアミノ酸などを含まない場合の異物についてはどうか、専門書を見ても、書かれていない。文献では、異物として、最近やウイルスを構成するタンパク質を想定している文献ばかりだが、「では、栄養素などを構成するタンパク質やアミノ酸も、細胞は異物として認識するために細胞表面に抗原として提示するのかどうか?」については、残念ながら調査した文献の範囲内では書かれていなかった。)
{{コラム|「MHC分子」や「MHC遺伝子」などの用語|
[[File:MHC molecule alias japanese.svg|thumb|300px|MHCとT細胞受容体]]
検定教科書には、あまり無い用語なのだが、入試過去問などでMHCについて、「MHC分子」および「MHC遺伝子」という用語がある。(※ 旺文社の標準問題精講あたりで発見。実は実教出版の検定教科書『生物基礎』に「MHC分子」だけ用語がある。)
この用語はどういう意味かと言うと、「MHC分子」とは、MHCの機能の受容体などに相当する、細胞膜表面のタンパク質のことである。
検定教科書や参考書のイラストなどで、細胞膜の表面にある受容体のようなものによく(※ 正確には、受容体ではなく、MHCの結合相手のT細胞受容体に結合する「リガンド」(※ 大学生物学の用語なので暗記は不要)だが)、単に「MHC」と明記してあるが、「MHC分子」とはその受容体っぽいものの事である。つまり、教科書イラストにある「MHC」が「MHC分子」の事である。
数研出版『生物基礎』の教科書では、「MHC抗原」と言ってる部分が、実教出版のいう「MHC分子」のことである。なお、東京書籍『生物』(専門生物)では、「MHCタンパク質」と言ってる部分でもある。
つまり、公式っぽくイコール記号で表せば
MHC抗原 = MHC分子 = MHCタンパク質
となる。
「分子」と言っても、けっして化学のH2O分子とかCO2分子のような意味ではない。
いっぽう、「MHC遺伝子」とは、MHC分子を作らせる遺伝子のこと。
歴史的には、「MHC」は用語の意味が微妙に変わっていき、もともとの「MHC」の意味は今で言う「MHC遺伝子」の意味だったのだが、しかし、次第に研究が進んだり普及するうちに、「MHC」だけだと読み手に混乱を起こすので、日本では意味に応じて「MHC分子」または「MHC遺伝子」などと使い分けるようになっている。
細胞膜のMHCのタンパク質部分の呼び名は英語が MHC molecule という言い方が主流なので、それを直訳すると「MHC分子」になるのだが(大学教科書でも「MHC分子」と表現している教材が多い)、しかしハッキリ言って、「分子」という表現は(少なくとも日本では、)やや誤解を招きやすい。(だから日本の高校教科書では、「MHC抗原」とか「MHCタンパク質」とか、いくつかの出版社がそういう言い方にしているのだろう。
なお、グーグル検索すると、 MHC antigen (直訳すると MHC 抗原)という表現も少々、出てくる。
さて、専門書だと、遺伝子のほうを単に「MHC」でゴリ押ししている書籍もあるが、しかし高校生むけの教材なら、遺伝子のほうを表すなら「MHC遺伝子」と説明するほうが合理的だろう。(だから旺文社の参考書でも「MHC遺伝子」表記になっているわけだ。)
}}
{{コラム|「T細胞受容体」|
:(※ ほぼ範囲外)
T細胞には、MHCを認識する受容体がある。なお、T細胞には多くの種類の受容体があり、MHCを認識する受容体以外にも、異なる機能をもった受容体が、いくつもある。
T細胞に存在する、抗原を認識する受容体のことを'''T細胞受容体'''(TCR)という。(※ いちおう、東京書籍と第一学習社の高校教科書にTCRの紹介があるが、他社の教科書には見られない。
:※ じつは「T細胞受容体」「TCR」の意味が、まだ専門家どうしにも統一していないようだ。現状、大きく分けて2種類の意味がある。
::・意味1: 文字通り、T細胞にある、抗原を認識するための受容体の総称。・・・という意味
::・意味2: MHCを認識する種類の受容体。・・・という意味
高校の検定教科書(東書、第一)では、主に「MHCを認識する種類の受容体。」の意味で使われている。
:※ 高校卒業以降の生物学の勉強のさいは、どちらの意味なのか、文脈から判断すること。大学レベルの教科書などを見ると、たとえば書籍の最初のほうではMHCを認識するタンパク質の意味として「TCR」を使っていたのに、書籍中の後半部で、T細胞の受容体の総称としての意味に「TCR」が変わっていたりする場合もある。(このように、意味が不統一なので、おそらく、あまり入試にTCRは出ないだろう。もし出るとしても、ここは暗記の必要は無いだろう。)
なお、MHCをもつ一般の細胞は、病原体や非自己の有機物が入ってきたとき、それを分解して得られたタンパク質をMHCの上に乗せる。MHCに非自己のタンパク質が乗ったとき、T細胞側の受容体が、MHC と MHCの乗ったタンパク質 を抗原として認識する。
;B細胞のBCR
なお、B細胞の表面にある「BCR」と呼ばれる「B細胞受容体」(B Ce Receptor)については、「BCR」とは抗原と結合する部分で、抗原との結合後にB細胞から分離して免疫グロブリンとして分泌されることになる部分のことである。やはりB細胞もT細胞と同様に、「B細胞受容体」と言っても、けっしてB細胞の受容体のことではないので、注意が必要である。つまり、B細胞では、細胞表面に免疫グロブリンの前駆体があり、抗原との結合後にそれが免疫グロブリンとして分離されるが、それが「BCR」と呼ばれる部分である<ref>熊ノ郷淳ほか『免疫学コア講義』、南山堂、2019年3月25日 4版 2刷、P.37</ref>。
}}
* ツベルクリン反応
結核菌のタンパク質を投与して、結核菌に対しての免疫記憶があるかどうかを検査するのが'''ツベルクリン反応検査'''である。
結核菌への免疫があれば、炎症が起こり、赤く腫れる。この反応は細胞性免疫であり、ヘルパーT細胞やマクロファージの働きによるものである。
ツベルクリン反応をされて、赤く腫れる場合が陽性である。いっぽう、赤く腫れない場合が陰性である。
陰性のヒトは免疫が無いので、結核に感染する可能性があり、そのため免疫を獲得させるために弱毒化した結核菌が投与される。
BCGとは、この弱毒化した結核菌のことである。
* インターロイキン (※ 実教出版『生物基礎』(平成24年検定版、147ページ)にインターロイキンの説明をするコラムあり。数研出版と啓林館の専門生物(生物II)にも、記述あり。)
免疫細胞では、'''インターロイキン'''(interleukin)というタンパク質が、主に情報伝達物質として働いている。インターロイキンには、多くの種類がある。
インターロイキンのうち、いくつかの種類のものについては、ヘルパーT細胞からインターロイキンが放出されており、免疫に関する情報伝達をしている。
体液性免疫では、ヘルパーT細胞から(ある種類の)インターロイキンが放出されて、B細胞に情報が伝わっている。こうしてB細胞は抗体産生細胞に変化する。
細胞性免疫では、ヘルパーT細胞が(ある種類の)インターロイキンを放出し、キラーT細胞やマクロファージなどに情報が伝わる。
なお、名前の似ている「インターフェロン」という物質があるが、これはウイルスに感染した細胞から放出され、周囲の未感染細胞にウイルスの増殖を抑える物質を作らせる。(※ チャート式生物(平成26年版)の範囲。)
* 樹状細胞などの抗原提示について
[[File:MHC for beginners jp.svg|thumb|300px|MHCとT細胞受容体]]
マクロファージや樹状細胞も、病原体などを分解して、そのタンパク質断片を(マクロファージや樹状細胞の)細胞表面で抗原提示をして、ヘルパーT細胞を活性化する、・・・と考えられている。(※ 検定教科書では、MHCかどうかは、触れられてない。)
(※ まだ新しい分野でもあり、未解明のことも多く、高校生は、この分野には、あまり深入りしないほうが安全だろう。)
===== 免疫記憶 =====
T細胞やB細胞の一部は攻撃に参加せず、'''記憶細胞'''として残り、抗原の記憶を維持する。そのため、もし同じ抗原が侵入しても、1回目の免疫反応よりも、すばやく認識でき、すばやくT細胞やB細胞などを増殖・分化できる。
このため、すぐに、より強い、免疫が発揮できる。
これを'''免疫記憶'''(immunological memory)と呼ぶ。
一度かかった感染病には、再びは、かかりにくくなる。
これはリンパ球の一部が免疫記憶として病原体の情報を記憶しているためである。
免疫記憶は予防接種としても利用されている。
===== 免疫寛容 =====
免疫は、個体が未熟なときから存在する。成熟の課程で、リンパ球(T細胞)は、いったん多くの種類が作られ、あらゆる抗原に対応するので、自己の細胞も抗原と認識してしまうリンパ球もできる。いったん自分自身に免疫が働かないように、しかし、自己と反応したリンパ球は死んでいくので、個体の成熟の課程で、自己を排除しようとする不適切なリンパ球は取り除かれる。そして最終的に、自己とは反応しないリンパ球のみが、生き残る。
こうして、成熟の課程で、自己に対しての免疫が抑制される仕組みを'''免疫寛容'''(めんえき かんよう)という。
免疫寛容について、下記のことが分かっている。
まず、そもそも、T細胞もB細胞も、おおもとの原料となる細胞は、骨髄でつくられる。
骨髄で作られた未成熟T細胞は、血流にのって胸腺まで運ばれ、胸腺でT細胞として分化・増殖する。
膨大なT細胞が作られる際、いったん、あらゆる抗原に対応できるようにT細胞がつくられるので、作られたT細胞のなかには自己の細胞を抗原として認識してしまうものも存在している。
しかし、分化・成熟の過程で、自己を攻撃してしまうT細胞があれば、その(自己を攻撃する)T細胞は胸腺で取り除かれる。
このようにして、免疫寛容が達成される。
==== 免疫の利用 ====
===== 予防接種 =====
殺しておいた病原体、あるいは無毒化や弱毒化させておいた病原体などを'''ワクチン'''(英: vaccine<ref>高等学校外国語科用『Standard Vision Quest English Logic and Expression I』、啓林館、令和3年3月5日検定済、令和3年12月10日発行、P121</ref>)という。このワクチンを、人間に接種すると、もとの病気に対しての抗体と免疫記憶を作らせることができるので、病気の予防になる。こうしてワクチンを接種して病気を予防することを'''予防接種'''という。
ワクチン療法の元祖は、18世紀なかばの医師ジェンナーによる、牛痘(ぎゅうとう)を利用した、天然痘(てんねんとう)の予防である。
天然痘は、死亡率が高く、ある世紀では、ヨーロッパ全土で100年間あたり6000万人もの人が死亡したとも言われている。天然痘はウイルスであることが、現在では知られている。
牛痘は牛に感染するが、人間にも感染する。人間に感染した場合、天然痘よりも症状は比較的軽い。
当事のヨーロッパで牛痘に感染した人は、天然痘には感染しにくい事が知られており、また牛痘に感染した人は天然痘に感染しても症状が軽い事が知られていた。このような話をジェンナーも聞いたようであり、牛の乳搾りをしていた農夫の女から聞いたらしい。
ジェンナーは、牛痘に感染した牛の膿を人間に接種することで、天然痘を予防する方法を開発した。
さらに19世紀末にパスツールがワクチンの手法を改良し、天然痘のワクチンを改良するとともに、狂犬病のワクチンなどを開発していった。
狂犬病はウイルスである。
現在では、天然痘のDNAおよび牛痘のDNAの解析がされており、天然痘と牛痘とは塩基配列が似ていることが分かっている。
1980年、世界保健機構(WHO)は、天然痘の根絶宣言を出した。
現在ではインフルエンザの予防にもワクチンが用いられている。インフルエンザには多くの型があり、年によって、流行している型がさまざまである。流行している型とは他の型のワクチンを接種しても、効果が無いのが普通である。
インフルエンザの感染は、鳥やブタやウマなどにも感染するのであり、けっしてヒトだけに感染するのではない。
インフルエンザはウイルスであり、細菌ではない。
インフルエンザのワクチンは、ニワトリの卵(鶏卵)の中で、インフルエンザウイルスを培養させた後、これを薬品処理して無毒化したものをワクチンとしている。このように薬品などで病原体を殺してあるワクチンを'''不活化ワクチン'''という。インフルエンザワクチンは不活化ワクチンである。いっぽう、結核の予防に用いられるBCGワクチンは、生きた弱毒結核菌である。BCGのように生きたワクチンを'''生ワクチン'''という。
1918年に世界的に流行したスペイン風邪も、インフルエンザである。
インフルエンザは変異しやすく、ブタなどに感染したインフルエンザが変異して、人間にも感染するようになる場合もある。
===== 血清療法 =====
ウマやウサギなどの動物に、弱毒化した病原体や、弱毒化した毒素などを投与し、その抗体を作らせる。その動物の血液の中には、抗体が多量に含まれることになる。
血液を採取し、そして血球やフィブリンなどを分離し、血清を回収すると、その血清の中に抗体が含まれている。
マムシやハブなどの毒ヘビにかまれた場合の治療として、これらのヘビ毒に対応した血清の注射が用いられている。このように血清をもちいた治療法を'''血清療法'''(けっせいりょうほう)という。血清療法は、免疫記憶は作らないので、予防には役立たない。予防ではなく治療のために血清療法を行う。
ヘビ毒以外には、破傷風(はしょうふう)やジフテリアなどの治療にも血清が用いられる。
血清療法は、1890年ごろ、北里柴三郎が開発した。
===== 白血病と骨髄移植 =====
(未記述)
==== 病気と免疫 ====
===== アレルギー =====
抗原抗体反応が過剰に起こることを'''アレルギー'''(allergy)と呼ぶ。スギ花粉などが原因で起きる'''花粉症'''もアレルギーの一つである。
アレルギーを引き起こす抗原を'''アレルゲン'''(allergen)と呼ぶ。
アレルギーのよって、じんましんが起きるきともある。
ヒトによっては卵やソバやピーナッツなどの食品もアレルゲンになりうる。、
ダニやホコリなどもアレルゲンになりうる。
抗原抗体反応によって、呼吸困難や血圧低下などの強い症状が起きる場合もあり、または全身に炎症などの症状が現れたりする場合もあり、このような現象を'''アナフィラキシー'''という。
(つまり、アレルギー反応によって、呼吸困難や血圧低下などの強い症状が起きる場合や、または全身に炎症などの症状が現れたりする場合もあり、このような現象を'''アナフィラキシー'''という。)
ハチ毒で、まれにアナフィラキシーが起きる場合がある。ペニシリン(penicillin <ref>高等学校学外国語科用『CROWN English Expression II New Edition』、三省堂、2022年3月30日 発行、P56</ref>)などの薬剤でもアナフィラキシーが起きる場合がある。
※ 「アナフィラキシー・ショック」(anaphylactic shock)と書いても、正しい。(※ 東京書籍の検定教科書『生物基礎』平成23年検定版、124ページでは「アナフィラキシーショック」の用語で紹介している。)
:また、医学用語でも「アナフィラキシーショック」は使われる。(※ 参考文献: 医学書院『標準生理学 第8版』、657ページ、監修: 小澤 瀞司/福田 康一郎、発行:2015年8月1日。 『標準生理学』にて「アナフィラキシーショック」の用語を利用している。)欧米では薬学書として権威的な「カッツング薬理学」シリーズの『カッツング薬理学 原書第10版』和訳版にも「アナフィラキシ-ショック」という用語がある<ref>Bertram G.Katzung 著、柳沢輝行ほか訳『カッツング薬理学 原書第10版』、丸善株式会社、平成21年3月25日 発行、P136</ref>。どうやら、けっして「アナフィラキシ-ショック」日本独自の造語ではなく、欧米でも「アナフィラキ-ショック」という用語は使われるようである。
※ 「アナフィラキシー」の結果が、血圧低下なのか、それとも炎症なのかの説明が、検定教科書でもハッキリしていない。東京書籍の教科書では、全身の炎症を「アナフィラキシーショック」の症状として説明している。だが実教出版では、血圧低下や呼吸困難を、「アナフィラキシー」の結果としているし、「アナフィラキシーショック」とはアナフィラキシーの重症化した症状だと(実教出版は)説明している。カッツング薬理学を読んでも、「アナフィラキシ-ショック」と「アナフィラキシー」がどう違うのか、あまり明確には書いてないので、高校生は気にしなくて良い<ref>Bertram G.Katzung 著、柳沢輝行ほか訳『カッツング薬理学 原書第10版』、丸善株式会社、平成21年3月25日 発行、P136</ref>。
:※ 「ショック」という用語が医学用語で意味をもつが、高校理科の範囲外なので、あまり「アナフィラキシーショック」の用語には深入りしなくていい。「アナフィラキシー」で覚えておけば、大学入試対策では、じゅうぶんだろう。
:医学などでも、語尾に「ショック」のついてない「アナフィラキシー」という表現もよく使われるので、高校生は「アナフィラキシー」、「アナフィラキシーショック」の両方の言い回しとも覚えておこう。
===== HIV =====
'''エイズ'''('''後天性免疫不全症候群'''、'''AIDS''')の原因である'''HIV'''('''ヒト免疫不全ウイルス''')というウイルスは、ヘルパーT細胞に感染して、ヘルパーT細胞を破壊する。ヘルパーT細胞は免疫をつかさどる細胞である。そのため、エイズ患者の免疫機能が壊れ、さまざまな病原体に感染しやすくなってしまう。エイズ患者ではヘルパーT細胞が壊れているため、B細胞が抗体をつくることが出来ない。
ふつうのヒトでは発病しない弱毒の病原体でも、エイズ患者では免疫機能が無いため発症することもあり、このことを'''日和見感染'''(ひよりみ かんせん、opportunistic infection)という。
HIVとは Human Immunodeficiency Virus の略。
AIDSとは Acquired Immune Deficiency Syndrome の略。
HIVの遺伝子は変化をしやすく、そのため抗体を作成しても、遺伝子が変化しているので効果が無く、ワクチンが効かない。開発されているエイズ治療薬は、ウイルスの増加を抑えるだけである。
よって、予防が大事である。
===== 自己免疫疾患 =====
自己の組織や器官に対して、免疫が働いてしまい、その結果、病気が起きることを'''自己免疫疾患'''という。
関節リウマチ(rheumatoid arthritis)、重症筋無力症(myasthenia gravis)は自己免疫疾患である。I型糖尿病も自己免疫疾患である。
:(※ ほぼ範囲外?)甲状腺ホルモンの分泌過剰の病気であるバセドウ病(Basedow's Disease)の原因は、おそらく自己免疫疾患という説が有力である。書籍によってはバセドウ病は自己免疫疾患だと断定している。
:自己免疫疾患で、自己の甲状腺刺激ホルモンに対して抗体が作られてしまい、その抗体が甲状腺刺激ホルモンと似た作用を示し、抗体が甲状腺の受容体と結合して甲状腺ホルモンが過剰に分泌される、という仕組みがバセドウ病の原因として有力である。
:バセドウ病の症状では、眼球が突出するという症状がある。
==== その他 ====
ヒトの汗や鼻水や涙にはリゾチームという酵素があり、リゾチームは細菌の細胞壁を破壊する。<ref>『生物基礎』東京書籍、p.114</ref>
{{コラム|(※ 範囲外) 「T細胞」と「B細胞」の名前の由来|
:※ 啓発林館の生物基礎など。
「T細胞」のTの語源は胸腺(Thymus)である。
「B細胞」の語源は、ニワトリなど鳥類にあるファブリキウス嚢(Bursa of Fabricus)である。研究の当初、まずニワトリのファブリキウス嚢が、ニワトリでは抗体産生に必要なことがわかった。また、ファブリキウス嚢を失ったニワトリは、抗体産生をしないことも分かった。
のちに、哺乳類では骨髄(Bone Marrow)でB細胞がつくられることが分かったが、偶然、Boneも頭文字がBであったので、名前を変える必要は無かったので、現代でもそのままB細胞と呼ばれている。
なお、動物実験で、ニワトリの(ファブリキウス嚢ではなく)胸腺を摘出した場合、この胸腺なしニワトリに(他の個体の皮膚を)皮膚移植をすれば他の個体の皮膚が定着する。
あるいは遺伝的に胸腺の無いヌードマウスなど、胸腺の無い個体の場合、拒絶反応が起きない。(第一学習社の「生物基礎」教科書で、遺伝的に胸腺の無いヌードマウスの皮膚移植を紹介。)
}}
=== 肝臓とその働き ===
[[画像:Surface projections of the organs of the trunk.png|thumb|right|ヒトの肝臓(liver)、腎臓(kidney)]]
肝臓(かんぞう、liver)は腹部の右上に位置する最も大きな臓器であり、ヒトの成人では1kg以上の重さがあり、約1200g~2000gである。'''肝小葉'''(かんしょうよう)という基本単位が約50万個、集まって、肝臓が出来ている。心臓から出た血液の約4分の1は、肝臓に入る。
肝臓の働きは、栄養分の貯蔵や分解、有害な物質の解毒、不要な物質を胆汁(たんじゅう、bile)として捨てる、などを行っている。
肝臓には肝動脈と肝静脈のほかに、腸からの静脈の血管である'''肝門脈'''(かんもんみゃく)が肝臓を通っている。
腸で吸収されたグルコースやアミノ酸などの栄養が関門脈の中を流れる血液に含まれている。
*血糖値の調節
グルコースの一部は肝臓で'''グリコーゲン'''へと合成され貯蔵される。グリコーゲンは必要に応じてグルコースに分解されて、エネルギー源として消費される。このようにして、血液中のグルコースの量や濃度('''血糖値'''、血糖量)が、一定に保たれる。
*タンパク質の合成・分解
肝臓では血しょうの主なタンパク質の'''アルブミン'''(albumin)を合成しており、また血しょう中の血液凝固に関するタンパク質である'''フィビリノーゲン'''も肝臓で合成している。
*尿素の合成
タンパク質の合成にはアンモニアなど有害な物質が生成するが、肝臓はアンモニアを毒性の低い'''尿素'''(にょうそ)に変えている。尿素は腎臓(じんぞう)に集められ、膀胱(ぼうこう)を経て、尿道から体外へと排出される。
:(※編集者へ ここに「オルチニン回路」の図を追加してください。)
哺乳類や両生類では、アンモニアを尿素に変えてから排出する。なお、魚類は生成したアンモニアを直接、外部に放出している。まわりに水が多いため、アンモニアを直接排出しても害が少ないため、と考えられてる。鳥類やハ虫類では、尿素ではなく尿酸を合成しており、尿酸を排出する。鳥類とハ虫類とも、陸で生まれて、かたい卵で生まれる動物である。
*アルコールなどの分解
そのほか有害な物質の解毒の例としては、アルコールを分解したりしている。
*胆汁
胆汁は肝臓で作られており、胆汁は胆管(bile duct)を通り、胆のう(gallbladder)へ貯蔵され、十二指腸(duodenum)へ分泌される。
胆汁は脂肪を消化吸収しやすくする。胆汁に消化酵素は含まれていない。胆汁は脂肪を小さな粒に変える。このように脂肪を小さな粒に変えることを'''乳化'''(にゅうか)という。
*古くなった赤血球の破壊
古くなった赤血球を破壊する。ヒトの胆汁中に含まれる色素の'''ピリルビン'''は、古くなって破壊した赤血球に含まれていたヘモグロビンに由来している。便(大便)とともに、ピリルビンは排出される。
*体温の維持
合成・分解など様々な化学反応が行われるため、反応熱が発生し、体温の維持にも役立っている。
=== 腎臓とその働き ===
<gallery widths=200px heights=200px>
File:Gray1120-kidneys.png|腎臓(kidoney)<br />(※編集者へ あとで、他の簡略図に差し替えてください。)
Image:Kidney PioM.png|腎臓の片側の模式図。 3.腎動脈 4.腎静脈 7.輸尿管 13.ネフロン <br />(※編集者へ あとで、他の簡略図に差し替えてください。)
</gallery>
ヒトなどの高等な動物の場合、腎臓(kidney)は左右一対で背側に位置し、
腎動脈(Renal artery)、腎静脈(renal vein)、輸尿管(ureter)が伸びている。
血液は腎動脈・腎臓・腎静脈を通り、
腎臓は血液中の不要な成分をろ過し尿として輸尿管・膀胱(ぼうこう、bladder)・尿道(にょうどう、urethra)を通り排出する。
[[File:Nephron illustration.svg|thumb|200px|ネフロン<br />1. 腎小体, 5~9あたりは集合管 赤い血管は動脈 青い血管は静脈。
図のように毛細血管が集合している。<br />(※編集者へ あとで、他の簡略図に差し替えてください。)]]
腎臓には'''ネフロン'''(nephron)と呼ばれる構造上の単位があり、
ネフロンは'''腎小体'''(じんしょうたい、renal corpuscle、マルピーギ小体)と'''細尿管'''(さいにょうかん、'''尿細管、腎細管''', renal tubule)からなり、
片方の腎臓あたり、ネフロンは約100万個ある。
腎小体は、毛細血管が球状に密集している'''糸球体'''(しきゅうたい、glomerulus)と、それを囲む'''ボーマンのう'''(Bowman's capsule)からなる。
{{-}}
[[File:腎臓の働きと再吸収.svg|thumb|500px|腎臓の働きと再吸収]]
タンパク質以外の血漿は糸球体からボーマンのうに ろ過 されて 原尿(げんにょう、primary urine)となり、
原尿は細尿管で、水の'''再吸収'''と、グルコースや無機塩類などの必要な成分が'''再吸収'''される。(「再吸収」も用語) グルコースは、健康なら、すべて(100%)吸収される。これらの再吸収は、ATPのエネルギーを用いた'''能動輸送'''である。
グルコ-ス以外の、水や無機塩類の再吸収率は、体の状況に応じて再吸収率が調節されている。原則的に、血液の塩類濃度を一定に保とうとする方向に、水や塩類の再吸収率は調節されている。この再吸収率の調整の際、ホルモンが関わっている。
原尿は集合管(しゅうごうかん、collecting duct)を通り、ここで水分が再吸収される。ナトリウムイオンは、腎細管でほとんどが再吸収される。その結果、原尿のナトリウム濃度は低い。
尿素は不要なため、再吸収されない。
そして原尿から水分が吸収されたことで、残された尿素などの老廃物や再吸収されなかったものが濃縮して'''尿'''(にょう、urine)となり、体外へ尿として排出される。なお尿素は肝臓で作られる。
ボーマンのうでこし出される原尿は、ヒトの成人男性では1日あたり約170Lもあるが、その大部分は再吸収されるので、最終的に対外に尿として排出される液量は1L~2Lほどになる。99%ほど濃縮されたことになる。
*再吸収とホルモンとの関係
ヒトなどの場合、血液中の塩分濃度が低いと、Naの再吸収がホルモンによって促進される。このホルモンは'''鉱質コルチコイド'''(mineral corticoid)という。腎細管でほとんどのナトリウムが再吸収される。鉱質コルチコイドは副腎皮質から分泌されている。
水の再吸収については、脳下垂体から'''バソプレシン'''(vasopressin)というホルモンが分泌されることによって、集合管での水の再吸収が促進される。
塩類の過剰な摂取などで、血液中の塩類濃度が上昇して体液の浸透圧が上がったときにも、バソプレシンによって水の再吸収が促進され、塩類濃度を下げさせる。水が吸収された結果、尿の液量は少なくなり、尿は濃くなる。
:※参考 このように尿量を減らす作用がバソプレシンにあるため、バソプレシンは「抗利尿ホルモン」(ADH)とも呼ばれる。<ref>嶋田正和ほか『生物基礎』数研出版、平成26年発行、p.119</ref>(※ 検定教科書での「抗利尿ホルモン」の記載を確認。) 専門書などでは「抗利尿ホルモン」の名称のほうを紹介している場合もある。
*再吸収の計算例とイヌリン
{{-}}
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=== 水中生物の塩類濃度調節 ===
==== 脊椎動物の場合 ====
*淡水魚の場合
淡水(たんすい)とは、川や湖のように、塩分をあまり含まない水のことである。海水は、淡水ではない。淡水魚の場合、体内の塩分を失わせないため、淡水魚は水をほとんど飲まない。淡水魚の えら は、塩分を吸収しやすい特殊な作りになっている。
*海水魚の場合
体内の水分を確保するため、まず海水を飲んで塩ごと水分を補給し、そして、えら から塩分を排出することで、体内の水分を確保している。
体液の塩類濃度が海水よりも低いのが一般である(体液が低張液、海水が高張液)。そのため、浸透によって水分が海水に取られてしまう傾向にある。サメやエイなどの硬骨魚類では、体液中に尿素を溶かすことで体液の塩類濃度を上げることで浸透圧を高めており、体液の浸透圧を海水の浸透圧に近づけている。
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*ウミガメの場合
水分の補給は、海水だけを飲むのだが、余分な塩分を排出する塩類腺(せんるいせん)を持ち、塩類腺から、塩分のたかい液体を排出している。腺の場所はウミガメの場合、目のところに腺があるので、陸上で観察すると、あたかも涙を流しているように見える。
*海鳥
アホウドリなどの海鳥は、鼻のところに塩類腺(せんるいせん)を持つ。
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==== 無脊椎動物の場合 ====
多くの無脊椎動物では、海に暮らす動物の場合でも、いっぽう川に暮らす動物の場合でも、あまり塩類濃度の調節機構が発達していない。
例外的に、いくつかの生物では発達している。
:'''カニの場合'''
:*モズクガニ
::川と海を行き来する。浸透圧の調節機構が発達している。
:*ケアシガニ
::外洋のみで暮らす。あまり塩類濃度の調節機構が発達していない。
:*ミドリイサ ガザミ (カニの一種)
::河口付近に生息。浸透圧の調節機構が発達している。
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:'''ゾウリムシの場合'''<br />
::'''収縮胞'''で余分な水を排出する。ゾウリムシは淡水に住む。
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=== ホルモン ===
'''ホルモン'''(hormone)とは、'''内分泌腺'''(ないぶんぴせん)という器官から血液へ分泌される物質であり、他の器官に情報を伝える化学物質である。ホルモンは血液によって全身へと運ばれる。そして、特定の器官へホルモンは作用する。'''脳下垂体'''、'''甲状腺'''、'''すい蔵'''などが内分泌腺である。
ホルモンは自律神経に比べて、反応が現れるまでに時間がかかり、比較的遅く、全身へ作用する。ホルモンの主な成分は、タンパク質や脂質やアミノ酸である。このように脂質は、ホルモンの成分として、情報を全身に伝える役目も持っている。脂質は、けっして単にエネルギー源なだけではないのである。
{| class="wikitable" style="float:right"
|+ おもなホルモンのはたらき
!colspan="2"| 内分泌 !! ホルモン !! はたらき
|-
| colspan="2"|視床下部 || 放出ホルモン|| 脳下垂体のホルモン分泌の調整
|-
| rowspan="4"|脳<br />下<br />垂<br />体 ||rowspan="3"|前葉 || 成長ホルモン || 成長の促進。タンパク質の合成を促進。<br />血糖値をあげる。
|-
| 甲状腺刺激ホルモン|| チロキシン(甲状腺ホルモン)の分泌を促進。
|-
| 副腎皮質刺激ホルモン ||糖質コルチコイドの分泌を促進。
|-
|後葉 || バソプレシン || 腎臓での水分の再吸収を促進。<br />血圧の上昇。
|-
| colspan="2"|甲状腺 || チロキシン|| 体内の化学反応を促進。
|-
| colspan="2"|副甲状腺 || パラトルモン|| 血液中のカルシウムイオン濃度を増加。
|-
| rowspan="2"|すい臓 ||A細胞 || グルカゴン || 血糖値を上げる。
|-
| B細胞 || インスリン || 血糖値を下げる。
|-
| rowspan="3"|副腎 ||髄質 || アドレナリン || 血糖値を上げる。
|-
| rowspan="2"|皮質 || 糖質コルチコイド || 血糖値を上げる。
|-
| 鉱質コルチコイド || 血液中の無機塩類イオン濃度(Na<sup>+</sup>とK<sup>+</sup>)の調節。
|-
|}
*外分泌腺
いっぽう汗のように体外へ物質を分泌する腺を外分泌腺(がいぶんぴせん)という。外分泌腺には、汗を分泌する汗腺、だ液を分泌する だ腺、乳を分泌する乳腺、などがある。
{{-}}
*交感神経と副交感神経
{| class="wikitable" style="float:right"
|+ 自律神経系のはたらき
! 器官 !! 交感神経の作用 !! 副交感神経の作用
|-
| ひとみ || 拡大 || 縮小
|-
| 心臓(拍動) || 促進 || 抑制
|-
| 血圧 || 上げる || 下げる
|-
| 気管支 || 拡張 || 収縮
|-
| 胃腸(ぜん動) || 抑制 || 促進
|-
| すい臓<br />(すい液の分泌) || 抑制 || 促進
|-
| 立毛筋 || 収縮 || (分布していない)
|-
| 排尿(ぼうこう) || 抑制 || 促進
|-
|}
自律神経(autonomic nerve)は、意思とは無関係に、他の器官に情報を伝える神経である。
自律神経はホルモンに比べて、比較的早く、局所へ作用する。
自律神経には、働きの異なる二つの神経系があり、'''交感神経'''(こうかんしねけい、sympathetic nerve)と'''副交感神経'''(ふくこうかんしんけい、parasympathetic nerve)とに分けられる。
交感神経は、敵と戦うなどの身体が活動的なときや緊張状態のときに働く。一方、副交感神経は、休息したりなどの身体が非活動的なときに働く。
たとえば、動物が、命がけで敵と戦うとか、あるいは敵に襲われて命がけで逃げなければならない、としよう。そのときの神経の働きを考えよう。
:まず、命がけなので緊張をするはずである。なので、交感神経が働く。敵と戦うにしても、逃げるにしても、すばやく力強く活動をする必要があるので、心臓の拍動が激しくなって、血行が良くなる。また、呼吸が活発になることで、すばやく力強く動けるようになる。いっぽう、敵から攻撃されたときの出血を減らすため、血管は収縮している。交感神経の働きは、このような働きになっている。
このように、交感神経は、闘争(そうそう)や逃走(とうそう)のときに、よく働く。この「闘争や逃走」のことを、英語でも fight or flight (ファイト・オア・フライト)という。
多くの場合、交感神経と副交感神経は、反対の作用を持つので、拮抗(きっこう)的に働く。交感神経と副交感神経は、同じ器官に分布している事が多い。
交感神経は、脊髄の末端から出ていて、分布している。
副交感神経は、'''中脳'''・'''延髄'''および脊髄の末端から出ている。
自律神経は間脳の視床下部に中枢がある。
神経の末端からは、情報伝達のための'''神経伝達物質'''が放出される。
交感神経の末端からは主に'''ノルアドレナリン'''(noradrenaline)という神経伝達物質が分泌される。副交感神経の末端からは、主に'''アセチルコリン'''という神経伝達物質が分泌される。
:(※ 図 レーヴィの実験)
{{-}}
==== ホルモンの受容体 ====
ホルモンが作用する器官を'''標的器官'''(ひょうてき きかん)という。標的器官の細胞には、特定のホルモンが結合できる'''受容体'''(じゅようたい)がある。ホルモンの種類ごとに、受容体の種類も異なるので、その受容体を持った特定の器官だけが作用を受けるので、特定の器官だけがホルモンの作用を受ける。
標的器官の細胞で、ホルモンの受容体を持った細胞を'''標的細胞'''という。
*ペプチドホルモン
タンパク質でできたホルモンは、分子量が大きいため、細胞膜を透過できない。このよう細胞膜を透過できないホルモンの受容体は、細胞膜の表面にある。アミノ酸が多数つながった長いものをペプチドというのだが、ペプチドでできたホルモンを'''ペプチドホルモン'''という。(※ 高校教科書の範囲内)<ref>吉里勝利ほか『高校生物』第一学習社、平成26年2月10日発行、p.54</ref>
:もし読者が高校科学をまだ習ってなくてペプチドとは何かを分からなければ、とりあえずペプチドとはタンパク質のことであり、ペプチドホルモンとはタンパク質で出来たホルモンだと思えばよい。
一般にタンパク質が細胞膜を透過できないため、ペプチドホルモンも細胞膜を透過できないのが普通である。インスリンはペプチドホルモンである。
なおホルモンに限らず、伝達物質が細胞膜にある受容体と結合したあとの、細胞内へ情報が伝わる仕組みは、カルシウムイオンCa<sup>2+</sup> を用いて情報伝達をしたり、あるいはcAMP(サイクリックアデノシン一リン酸、サイクリックAMP)や Gタンパク質 が、情報伝達に用いられる。cAMPやGタンパク質は酵素などに作用する。<ref>吉里勝利ほか『高校生物』第一学習社、平成26年2月10日発行、p.54</ref>なおcAMPはATPをもtにして酵素反応によって作られる。<ref>浅島誠ほか『生物』東京書籍、平成26年2月10日発行、p.24</ref>(※ これらの話題は高校教科書の範囲内)
これらカルシウムイオンやcAMPやGタンパク質のような、このような細胞内の情報伝達物質を'''セカンドメッセンジャー'''(second messenger)という。<ref>吉里勝利ほか『高校生物』第一学習社、平成26年2月10日発行、p.54</ref> (※ 高校教科書の範囲内)
ペプチドホルモンから細胞への情報伝達においても、カルシウムイオンやcAMPやGタンパク質がセカンドメッセンジャ-として機能する。
* ステロイドホルモン
いっぽう、脂質やアミノ酸を主成分とするホルモンの場合は、細胞膜を透過することができる。なぜなら、これらのホルモンは脂溶性であり、そしてホルモンが脂溶性ならば、リン脂質を主成分とする細胞二重膜を透過できるからである。このような細胞膜を透過するホルモンに結合するための受容体は、細胞内にある。
脂質でできたホルモンには、脂質の一種であるステロイド(steroid)で出来ているホルモンも多い。私たちヒトの脂質のコレステロールも、ステロイドの一種である。ステロイドでできたホルモンを'''ステロイドホルモン'''(steroid hormone)という。糖質コルチコイドや鉱質コルチコイドは、ステロイドホルモンである。ステロイドホルモンは、脂質に溶けやすく、そのため細胞膜を透過しやすい。(※ 高校教科書の範囲内)<ref>吉里勝利ほか『高校生物』第一学習社、平成26年2月10日発行、p.55</ref>
つまり糖質コルチコイドや鉱質コルチコイドは、脂質に溶けやすく、細胞膜を透過しやすい。
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例外もあり、脂質を主成分としながらも細胞膜に受容体を持つホルモンも発見されている。<ref>浅島誠ほか『理系総合のための生命科学』羊土社、2007年2月25日発行、p.256</ref>(※ 高校の範囲外)
:なお、実際のホルモンでは、タンパク質を成分とするホルモンでも、中には脂肪酸を持っていたりする物があったり、あるいは糖鎖がついていたりなど、より複雑である。<ref>浅島誠ほか『理系総合のための生命科学』羊土社、2007年2月25日発行、p.256</ref>(※ 高校の範囲外)
==== ホルモンの発見の歴史 ====
胃酸などを含んだ酸性の消化物が十二指腸に入ると、十二指腸から'''セクレチン'''(secretin)が分泌される。
当初、これは神経の働きだと考えられていた。
しかし1902年にベイリスとスターリングは、神経を切断した十二指腸に塩酸を注入すると、すい液が分泌される事を発見した。
さらに、体外に取り出した十二指腸の粘膜に塩酸を掛けてしぼった液を、すい臓(pancress)への血管に注射しても、すい液が分泌された。
これらの実験結果によって、十二指腸で作られた物質が血管を通してすい臓へ送られて、すい液の分泌を即していることが分かった。すい液の分泌を促進する物質は、'''セクレチン'''と名づけられた。
==== ホルモン分泌の調節 ====
ホルモン分泌で中心的な役割をしている器官は、間脳にある'''視床下部'''(ししょうかぶ、hypothalamus)と、視床下部の下にある'''脳下垂体'''である。
脳下垂体には前葉と後葉がある。
*神経分泌(しんけいぶんぴ)
間脳の視床下部には、ホルモンを分泌する神経細胞があり、これを'''神経分泌細胞'''(しんけい ぶんぴつ さいぼう、neurosecretory cell)という。また、このように神経がホルモンを分泌することを'''神経分泌'''(しんけい ぶんぴ)という。この間脳の神経分泌細胞により、脳下垂体の血管中にホルモンが分泌される。この神経分泌のホルモンは、脳下垂体のホルモンを調節するための放出ホルモン(releasing hormone)または放出抑制ホルモン(inhibiting hormone)である。
視床下部から伸びている神経分泌細胞が、脳下垂体に作用して、脳下垂体のホルモン分泌を調節している。
脳下垂体の前葉と後葉とで、分泌される血管の位置が違う。
脳下垂体前葉では、視床下部にある血管に分泌し、その血管が前葉まで続いて脳下垂体に作用している。前葉からは'''成長ホルモン'''(growth hormone)などが分泌される。
いっぽう、脳下垂体後葉では、視床下部からつながる神経伝達細胞が後葉まで続いており、後葉中の血管に、神経伝達細胞が直接、ホルモンを分泌している。
後葉からは、水分調節に関わる'''バソプレシン'''というホルモンが分泌され、バソプレシンによって腎臓での集合管における水の再吸収などが促進される。
*チロキシン
[[File:Thyroxine feedback jp.svg|thumb|450px|チロキシンのフィードバックによる調節]]
のどの近くにある甲状腺(こうじょうせん、thyroid gland)からは'''チロキシン'''(thyroxine)が分泌される。
チロキシンは代謝を活性化するホルモンであり、酸素の消費やグルコースの消費が、活発になる。
視床下部は、チロキシンの濃度を、つぎのような仕組みで調節している。
チロキシンによって、視床下部や脳下垂体による甲状腺刺激が抑制されるという仕組みである。
視床下部や脳下垂体は、チロキシンが多くなりすぎないように、チロキシンによってホルモンを抑制する。チロキシンによって視床下部は甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンを抑制する。また、チロキシンによって、脳下垂体は甲状腺刺激ホルモンを抑制する。こうして、チロキシン自身が最終的に、甲状腺からのチロキシン分泌を抑制するように働きかける。
逆にチロキシンが少なくなると、視床下部や脳下垂体が、甲状腺刺激ホルモンを通して甲状腺にチロキシンを増やすように働きかける。
チロキシンを受け取った細胞では代謝が活発になる。
このように、最終産物(この場合はチロキシン)が、前の段階(この場合は視床下部や脳下垂体)に働きかけることを'''フィードバック'''(feedback)という。
フィードバックは生物学に限らず、多くの分野で見られる現象だが、とりあえず生物学を例に説明する。
フィードッバックが前の段階を抑制する場合、負のフィードバック(negative feedback)という。ふつう、ホルモンは負のフィードバックによって、濃度などが一定の範囲内に近づくように調節されている。
:(※編集注 バソプレシンのフィードバックの図を追加。)
腎臓での水の再吸収に関わるバソプレシンも、負のフィードバックによって一定に保たれる。この結果、バソプレシンが人体の水分調節のためのホルモンとして働くことになる。
いっぽう、フィードバックによって、前の段階が促進される場合を正のフィードバックという。電子機械などで見られる現象で、たとえば音声マイクとスピーカーのハウリング現象(マイクをスピーカーに近づけたときの、うるさい現象。※ うるさいので実験しないように。)などが、正のフィードバックにあたる。
ハウリングの起きる仕組みは、マイクから入力された音が、スピーカーから出て、そのスピーカーから出た音をマイクがひろってしまうので、さらにスピーカーから音が出るので、音が大きくなり、その大きくなった音をふたたびマイクがひろってしまうので、さらにスピ-カーから、もっと大きな音が出てしまい、そしてさらに・・・という、とてもうるさい現象である。
==== ホルモンの働き ====
===== 心臓の拍動の調節 =====
心臓の拍動は延髄と自律神経によって調節されている。
運動などによって酸素が消費され、二酸化炭素濃度が高くなると、
延髄は交感神経を働かせ、
交感神経の末端から'''ノルアドレナリン'''(noradrenaline)が放出され、
心臓の拍動数が増加する。
逆に安静時に酸素の消費量が減り、二酸化炭素濃度が低くなると、
延髄は副交感神経を働かせ、
副交感神経の末端から'''アセチルコリン'''(acetylcholine)が放出され、
心臓の拍動数が減少する。
心臓の拍動の調節の実験には、
[[w:オットー・レーヴィ|オットー・レーヴィ]]のカエルの心臓を用いた[[w:オットー・レーヴィ#研究|実験]]がある。
レーヴィは2つのカエルの心臓を取り出してつなぎ、リンガー液を循環させる装置を作った。
片方の心臓からのびる迷走神経(副交感神経)を刺激すると、その心臓の拍動数が減少し、
しばらくして、もう片方の心臓の拍動数も減少した。
これにより、迷走神経のシナプスから化学物質が分泌され、
心臓の拍動数を制御していることが明らかとなった。
その化学物質は、今日ではアセチルコリンであることが分かっている。
===== 浸透圧の調節 =====
魚類の浸透圧の調節は、えら・腸・腎臓などで行われ、
淡水魚と海水魚の場合でその働きは異なっている。
淡水魚の場合、水分が体内に侵入するため、
えらや腸で無機塩類を吸収し、
腎臓で体液より低張の尿を大量に排出する。
海水魚の場合、水分が体外に出るため、
海水を大量に呑み込み腸で吸収し、
腎臓で体液と等張の尿を少量排出する。
また、えらから無機塩類を排出する。
哺乳類の浸透圧の調節は、腎臓で行われる。
また、腎臓の働きは、間脳視床下部・脳下垂体後葉や副腎皮質(ふくじんひしつ、adrenal medulla)によって調節されている。
水分の摂取などで、低浸透圧になった場合、副腎皮質が働く。
副腎皮質からは'''鉱質コルチコイド'''(mineral corticoid)が分泌される。
鉱質コルチコイドは腎臓の細尿管から無機塩類の再吸収を促進する働きがある。
水分の不足などで、高浸透圧になった場合、
間脳視床下部、脳下垂体後葉が働く。
脳下垂体後葉からは'''バソプレシン'''(vasopressin)が分泌される。
バソプレシンは腎臓の細尿管から水分の再吸収を促進する働きがある。
===== 血糖値の調節 =====
血液中に含まれるグルコースを'''血糖'''(けっとう、blood glucose)という。
健康なヒトの場合の血糖の含有量は一定の範囲に保たれ、空腹時で血液100mLあたり、ほぼ100mgという濃度である。
このような血統の値を'''血糖値'''(けっとうち)という。または血糖量という、または血糖濃度という。
グルコースは細胞の活動に必要な糖である。
血糖値が低すぎたり高すぎたりすると様々な症状を引き起こすため、
ホルモンと自律神経によって一定に保たれている。
食事などで炭水化物や糖質を取ると、一時的に血糖値が上昇する。逆に、急激な運動の後などでは下がっている。
血糖値が60mg以下(血液100mLあたり)だと、意識喪失や けいれん などが起き、危険である。運動などによって低血糖になると、間脳の視床下部が働く。
さて、血糖の調節に関わる器官は、すい臓および視床下部である。
視床下部は、交感神経によって、すい臓と副腎髄質を働かせる。
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*低血糖の場合
グリコーゲンが、つぎの仕組みで分解されることで、グリコーゲンからグルコースが取り出され、グルコース濃度を上げる仕組みである。
すい臓の'''ランゲルハンス島'''の'''A細胞'''からは'''グルカゴン'''(glucagon)が分泌され、
副腎髄質(ふくじんひしつ、adrenal medulla)からは'''アドレナリン'''(adrenaline)が分泌される。
グルカゴンやアドレナリンは、グリコーゲンをグルコースへ分解させる働きがある。
また、視床下部は放出ホルモンで脳下垂体前葉を働かせ、脳下垂体前葉は副腎皮質刺激ホルモンで副腎皮質を働かせ、副腎皮質からアドレナリンが分泌される。
また、副腎皮質が分泌する'''糖質コルチコイド'''(glucocorticoid)が、タンパク質を分解させて、その分解された元タンパク質を材料としてグルコースを合成させる。糖質コルチコイドは、タンパク質をグルコースへ分解させる働きがある。
アドレナリンやグルカゴンが、肝臓や筋肉に働きかけ、貯蔵されているグリコーゲンの分解を促進する。(肝臓や筋肉にはグリコーゲンが蓄えられている。)
これらの反応の結果、血糖値が上昇する。
*高血糖の場合
食事などによって高血糖になると、すい臓の'''ランゲルハンス島'''の'''B細胞'''が、血糖値の上昇を感知し、B細胞が'''インスリン'''(insulin <ref>高等学校学外国語科用『CROWN English Expression II New Edition』、三省堂、2022年3月30日 発行、P56</ref>)を分泌する。
インスリンは、グルコースをグリコーゲンへ合成させたり、
グルコースを細胞へ吸収・分解させたりする働きがある。
このインスリンが、細胞でのグルコースを用いた呼吸を促進したり、肝臓でのグリコーゲンの合成を促進するので、結果的にグルコースの消費が促進されるので、グルコースの濃度が下がり、グルコース濃度が通常の濃度に近づくという仕組みである。
また、間脳の視床下部でも血糖値の上昇は感知され、副交感神経の刺激を通じて、すい臓にインスリンの分泌をうながし、すい臓のランゲルハンス島B細胞がインスリンを分泌する。
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*糖尿病 (※ 高校の範囲'''内''')
いっぽう、病気により血糖値が常に200mgを越えると、'''糖尿病'''(とうにょうびょう、diabetes <ref>荻野治雄『データベース4500 完成英単語・熟語【5th Edition】』、桐原書店、2020年1月10日 第5版 第6刷発行、P.388</ref>)という病気だと判断される。<ref>文部科学省『高等学校用 疾病と看護』教育出版、平成25年発行、P.51</ref>
(※ 高校理科の範囲内<ref>浅島誠『生物基礎』東京書籍、平成26年2月発行、P.108</ref>)
糖尿病とは、すい臓からのインスリン分泌が、うまくは分泌されなくなってしまった病気である。インスリンが細胞と結合すると、グルコースを消費させる。しかし、インスリン分泌がうまくいかないと、この消費がなくなってしまい、その結果、グルコースが余る。
その結果、原尿にグルコースが高濃度で含まれるので細尿管でのグルコース吸収が間に合わず、尿中に高濃度のグルコースが含まれて排出される。
(もし健康なヒトなら、原尿のグルコースは、ほぼ100%再吸収されてるので、尿中には高濃度のグルコースは排出されない。なのに高濃度のグルコースを含む尿が排出されるという事は、つまり病気に掛かっている事になる。)
高血糖が長く続くと、欠陥が変性して血流が低下してしまい、その結果、眼や腎臓などの、さまざまな器官で障害を起こす。糖尿病には、このような各器官での合併症があるため、危険な病気である。
糖尿病の分類は、大きくは二つの種類に分けられる。
まず、インスリンを分泌する細胞そのものが破壊されていて分泌できない場合のI型糖尿病がある。若くして発症することが多い。
もう一つは、I型とは別のなんらかの原因で、インスリンの分泌量が低下したり、インスリンに細胞が反応しなくなる場合であり、これをII型糖尿病という。肥満や喫煙・運動不足などの生活習慣病などによる糖尿病で、II型糖尿病が多く見られている。
日本の糖尿病患者の多くはII型である。
糖尿病の治療には、I型・II型とも、インスリンの投与が行われる。患者は、食後などに毎回、自分でインスリンを注射しなければならない。
II型の生活習慣が原因と考えられる場合、食事の見直しや、適度な運動なども、治療に必要になる。
糖尿病の症状として頻尿(ひんにょう)がある。<ref>庄野邦彦ほか『生物基礎』実教出版、平成26年1月発行、P.51</ref>(※ 高校の範囲'''内''')
この原因は、原尿の浸透圧が血糖によって上昇したことにより、細尿管での水分の再吸収が減るためだと考えられてる。<ref>有田和恵ほか『解剖生理学』照林社、2007年6月発行、P.206</ref>(※ 高校の範囲'''外''')
また、頻尿などにより水分が低下するので、のどの渇きが起きる。
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血糖値をあげるホルモンの種類は多く仕組みも複雑である。なのに、血糖値を下げるホルモンはインスリンのみしか今のところ知られておらず、また仕組みも単純である。この事から、動物は、飢餓に適応して、血糖値の調節の機構を進化させてきたと考えられている。飽食の時代よりも、飢餓の時代のほうが、圧倒的に多かったのだろうと考えられている。
===== 体温の調節 =====
変温動物は、体温調節が不完全で、体温は外部環境によって変化する。
一方、恒温動物では、体温は、外部環境によらず、一定に保たれている。ヒトの場合、健康なら、体温は約37℃に保たれる。
体温の調節は、ホルモンや自律神経が行っている。体温調節の中枢のある場所は、間脳の視床下部にある。
*体温が低下した場合
寒さによって体温が低下すると、間脳の視床下部が働く。
視床下部は、交感神経やホルモンによって、肝臓や筋肉の代謝を促進し、発熱量を増加させる。
また、交感神経によって皮膚の血管や立毛筋を縮小させ、熱放散を減少させる。また、骨格筋をふるわせることで、熱を産生する。
また、チロキシンやアドレナリンなどが分泌され、肝臓での物質の分解を促進して熱を産生する。
*体温が上昇した場合
暑さによって体温が上昇すると、間脳の視床下部が働く。
視床下部は、交感神経によって、
皮膚血管を拡張し、汗腺から発汗させ、熱放散を増加させる。
また、副交感神経によって、肝臓での物質の分解が抑制され、熱の産生を抑える。
==== その他 ====
[[File:Thyroide.jpg|thumb|甲状腺(こうじょうせん)の場所]]
ヒトの 「のどぼとけ」 の、すぐ下には、甲状腺という器官がある。この甲状腺は、甲状腺ホルモンというホルモンを分泌している器官である。ホルモンとは、体内のいろいろな働きを調節するための分泌物(ぶんぴぶつ)である。くわしくは、中学の保健体育で習うか、または高校生物で習う。
さて、甲状腺ホルモンの主成分はヨウ素である。ヨウ素は、ワカメやコンブなどの海ソウに多く含まれている。
さて、通常のヨウ素には放射能(ほうしゃのう)が無く、安全である。だが、原子力発電などの原子核分裂では、放射性のある様々な原子が作られる。その中に放射性のある特別なヨウ素も作られる場合がある。
原子力発電などの事故などへの対策として、原子力発電所などの近隣地区に ヨウ素剤(ようそ ざい) が配布される理由は、この放射能のある特別なヨウ素が甲状腺に集まらないようにするためである。
体内に吸収されたヨウ素は、甲状腺に集まる性質がある。なので、あらかじめ、普通のヨウ素を摂取しておけば、放射性のある特別なヨウ素を吸収しづらくなるのである。もしくは、仮に吸収してしまっても、通常のヨウ素によって、放射性のあるヨウ素が、うすめられる。
なお、甲状腺ホルモンの働きは、体内での、さまざまな化学反応を促進(そくしん)する働きがある。
:(※ 範囲外)なお、ウランやプルトニウムの経口摂取などでの化学反応的な毒性は、実は不明である。ウランなどの放射線による毒性が高すぎるので、それが経口毒性などを覆い隠してしまうので、もし化学反応的な毒性があったとしても区別がつかない状況である。(※ ネットには、「ウランなどには経口摂取の毒性が無い」というデマがあるので、念のため記述。)
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dd7qksrqde956cf1xf23ocro7312nyl
206935
206933
2022-08-22T03:40:57Z
すじにくシチュー
12058
/* その他 */ プルトニウムの経口毒性について出典を追加。桜井弘『元素118の新知識』、講談社(講談社ブルーバックス文庫)、2017年8月20日 第1版発行、P420、
wikitext
text/x-wiki
== 導入 ==
生物は外界の環境の変化によらず体内の環境を一定に保つ恒常性と呼ばれる働きを持っている。
また、動物は刺激に対して反応することができる。
このページでは、動物の恒常性、様々な刺激の受容と反応、神経系の構造と働き、動物の様々な行動、などを扱う。
== 体液とその恒常性 ==
=== 体温の恒常性 ===
生物が、'''外部環境'''(external milieu)が変化しても、その'''内部環境'''(ないぶかんきょう、internal milieu)(別名:'''体内環境''')を一定に保とうとする働きを'''恒常性'''(こうじょうせい、homeostasis)('''ホメオスタシス''')という。
ヒトの体温が平常では37℃付近なのもホメオスタシスの一例である。恒常性には、温度、浸透圧、養分、酸素などを一定に保とうとする働きがある。
生物が体温を一定に保つ理由は、酵素の働きが温度によって異なるからである。
酵素は温度が約40℃のとき最もよく働き、低すぎると働きが鈍くなり、高すぎると酵素が破壊され全く働かなくなる。
体温を一定に保つために、暑いときは熱を逃がし、寒いときは熱を逃がさないようにしたり筋肉を震わせて熱を作ったりしている。
脳の間脳と呼ばれる部分が無意識に体温調節をしている。
=== 体液の働きとその循環 ===
[[画像:Red White Blood cells.jpg|thumb|right|320px|左から赤血球、血小板、白血球]]
多細胞の動物の内部環境では、細胞は血液や組織液などの'''体液'''(body fluid)で満たされている。
体液には、血管を流れる'''血液'''(blood)、細胞間を満たす'''組織液'''(interstitial fluid)、リンパ管を流れる'''リンパ液'''(lymph)がある。ヒトの成人の場合、体重の約60%は水分である。
血液の成分には、液体成分である'''血しょう(けっしょう, plasma、血漿)'''と、有形成分である'''赤血球'''(erythrocyte)・'''白血球'''(leucocyte)・'''血小板'''(platelet)の'''血球'''(blood cell)がある。
血球には、酸素を運ぶ'''赤血球'''(erythrocyte)、体内に侵入した細菌・異物を排除する'''白血球'''(leucocyte)、血液を凝固させ止血する'''血小板'''(platelet)がある。有形成分が作られる場所は、ヒトの成人の場合、骨の内部にある'''骨髄'''(こつずい、bone marrow)で作られる。
血液が全身の細胞へ酸素や栄養分を送ることで、
細胞は活動することができる。
血液の重さの約55%は血しょうの重さである。血しょうの主成分は水(約90%)であり、それに少量のタンパク質(約7%)やグルコース・タンパク質・脂質・無機塩類などが混ざっている。血しょうのタンパク質は、アルブミン(albumin)やグロブリン(globulin)などのタンパク質である。
組織液は、血しょうが毛細血管(もうさいけっかん、capillary)から染み出たものである。組織液の大部分は再び血管にもどる。
{{-}}
赤血球の形は、直径が約8μmの円盤状であり、中央がくぼんでいる。赤血球には核が無い。ヒトの成人の場合、血液1mm<sup>3</sup>あたりの個数は、男子は500万個/mm<sup>3</sup>、女子は450万個/mm<sup>3</sup>。ヒトの赤血球の寿命は約120日である。古くなった赤血球は肝臓や ひ臓 で壊される。骨髄で赤血球は作られる。
赤血球には'''ヘモグロビン'''(hemoglobin)(化学式:'''Hb''' と表記)という赤い色素タンパク質が多量に含まれている。このへモグロビンが肺で酸素O<sub>2</sub>と結合して酸素を運搬する役目を持ち、全身に酸素を運んでいる。ヘモグロビンは鉄(Fe)をふくんでいる。
ヘモグロビンは、酸素濃度が高いと、酸素と結合して'''酸素ヘモグロビン'''('''HbO<sub>2</sub>''')となる。
また、酸素濃度が低いと、酸素と分離しヘモグロビンに戻る。
:Hb+O<sub>2</sub> <math>\leftrightarrows</math> HbO<sub>2</sub>
このようにして、酸素濃度の高い肺で酸素を受け取り、
酸素濃度の低い組織へ酸素を運ぶ。
:(※ 範囲外: ) 酸素ヘモグロビンのことを「酸素化ヘモグロビン」と書いても、正しい。(※ 参考文献: 医学書院『標準生理学 第8版』、695ページ、監修: 小澤 瀞司/福田 康一郎、発行:2015年8月1日。 参考文献『標準生理学』にて、「酸素化ヘモグロビン」と表記している。) なお、酸素とまったく結合していない状態のヘモグロビンのことを、脱酸素化ヘモグロビン(deoxyhemoglobin)という。(※ 参考文献: 医学書院『標準生理学 第8版』、695ページ、) この反応は、「酸化」反応ではなく「酸素化」(oxygeneation)反応という、別の反応である<ref>KIM E. BARRETT ほか原著改訂、岡田泰伸 監訳『ギャノング生理学 原著23版 』丸善株式会社、平成23年1月31日 発行、P707</ref>。
:※ 高校生は、「酸素化」反応よりも先に「酸化還元反応」のほうを学ぶのが良いだろう。ヘモグロビンにしか応用できない「酸素化」反応よりも、多くの化学反応に応用できる酸化還元反応のほうを優先的に学ぶべきである。wikibooksでは『[[高等学校化学I/酸化還元反応]]』に酸化還元反応の解説がある。そう考えれば、高校生物で「酸素化」という概念を紹介しない事にも、一理ある。
:(※ 範囲外: ) 酸素と結合していない状態のヘモグロビンのことを「還元ヘモグロビン」と書いても正しい。つまり、脱酸素化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンは同じである。「還元ヘモグロビン」もまた、正式な医学用語である。(※ 参考文献: 『標準病理学 第5版』373ページ、で「還元ヘモグロビン」の名称の記載を確認。)
:(※ 範囲外: ) 一酸化炭素中毒や喫煙などのせいにより、一酸化炭素と結合してしまったヘモグロビンのことは、「一酸化炭素ヘモグロビン」などという。(※ 保健体育の検定教科書であつかう。第一学習社の保健体育の教科書などで紹介されている。)
植物では、(そもそも植物に赤血球はないし、)植物はヘモグロビンを持ってない。(※ 検定教科書には無いが、センター試験にこういう選択肢が出る。2017年の生物基礎の本試験。)
* 酸素解離曲線(oxygen dissociation curve)
[[File:酸素解離曲線.svg|thumb|500px|酸素解離曲線]]
*発展 イカとヘモシアニン
:(※ 文英堂シグマベスト『理解しやすい生物I・II』で記述を確認。教科書範囲外かもしれないが、参考書などで扱われる話題。)
イカなど、いくつかの動物では、銅 Cu をふくむタンパク質の'''ヘモシアニン''' (Hemocyanin)が血液を介して酸素を運ぶ役目をしている動物もいる。ヘモシアニンをふくむ動物の血液は青い。この青色は銅イオンの色である。イカの青い筋は、このヘモシアニンの色である。(※ 参考文献: 文英堂『理解しやすい生物I・II』、2004年版、205ページ) ヘモシアニンをふくむ動物には、イカ・タコや貝などの軟体動物、エビ・カニなどの甲殻類に見られる。これらの動物(イカ、タコ、エビ、カニ)は、血しょう中にヘモシアニンを含んでいる。 人間の血液は、ヘモシアニンをふくまない。
:(発展、終わり。)
酸素ヘモグロビンを多くふくみ酸素濃度の高い血液を'''動脈血'''(arterial blood)と呼ぶ。
ヘモグロビンを多くふくみ酸素濃度の低い血液を'''静脈血'''(venous blood)と呼ぶ。
白血球はヘモグロビンを持たない。白血球は核を持つ。リンパ球やマクロファージは白血球である。体内に侵入した細菌・異物を排除することに白血球は関わる。
血しょうの一部は組織へしみだして組織液になり、栄養分を供給し老廃物を受け取る。
組織液の大部分は血管へ戻り血液となり、一部はリンパ管へ入りリンパ液となる。
リンパ液はリンパ管を通り、鎖骨下静脈で血液と合流する。
=== 血液の凝固 ===
[[File:血液の凝固と血清.svg|thumb|血液の凝固と血清]]
血小板は血液の凝固に関わる。血小板は2μm~5μmほどであり、核を持たない。
血管などが傷つくと、まず傷口に血小板が集まる。そして繊維状のタンパク質である'''フィブリン'''がいくつも生成し、フィブリンどうしと赤血球などの血球とが絡んで'''血ぺい'''(けっぺい)ができる。血ぺいが傷口をふさぐ。このような一連の反応を'''血液凝固反応'''という。
採血した血液を放置した場合でも、血ぺいが生じて、血ぺいが沈殿する。このときの上澄み液を'''血清'''(けっせい、serum)という。血清の色は、やや黄色がかっている。なお、注射した血清は数日すると抗体が無くなってしまい(※ チャート式生物)、また免疫記憶も生じないので(※ 東京書籍の生物基礎の教科書)、予防には役立たない。
*発展 血液凝固反応の仕組み
傷口から'''トロンボプラスチン'''が出る。これが他の凝固因子や血しょう中のカルシウムイオンCa<sup>2+</sup>とともに、'''プロトロンビン'''というタンパク質に作用して、プロトロンビンが'''トロンビン'''という酵素になる。
トロンビンは、血しょうに溶けている'''フィブリノーゲン'''に作用して、フィブリノーゲンを繊維状の'''フィブリン'''に変える。このフィブリンが血球を絡めて血ぺい(けっぺい)をつくる。
血友病(けつゆうびょう)という出血しても止血が始まらない病気は、血液凝固に何らかの不具合があってフィブリンをつくれなくて起きる病気である。
=== 体液の循環 ===
[[画像:Diagram of the human heart (cropped) ja.svg|thumb|right|320px|ヒトの心臓の構造<br />血液の流れは白い矢印で示されている]]
血液は、心臓(heart)によって全身へ送られる。
ヒトの心臓は、右心房(right atrium)、右心室(right ventricle)、左心房(Left atrium)、左心室(Left ventricle)の4部分に分かれていて、'''2心房2心室'''である。ほ乳類の心臓は'''2心房2心室'''である。
'''心筋'''(cardiac muscle)という筋肉でできている。
弁によって血液の逆流を防いでいる。心臓のリズムは、右心房の上部にある'''洞房結節'''(どうぼうけっせつ)という特殊な筋肉の出す電気刺激によって作られる。
全身から送られた血液は、大静脈(vena cava)をとおり、右心房・右心室をとおり、肺動脈(pulmonary artery)をとおり肺へと送られる。
肺で酸素を受け取った血液は、肺静脈(pulmonary vein)をとおり、左心房・左心室をとおり、大動脈(aorta)をとおり全身へ送られる。
肺動脈・肺・肺静脈を通る血液の流れを'''肺循環'''(pulmonary circulation)と呼び、
大動脈・全身・大静脈を通る血液の流れを'''体循環'''(Systemic circulation)と呼ぶ。
{{-}}
バッタなど昆虫やエビなど無脊椎動物(invertebrate)の血管系は、毛細血管をもたない'''開放血管系'''(かいほうけっかんけい、open blood-vascular system)である。いっぽう、魚類(pisces)・ほ乳類(mammalia)など脊椎動物(vertebrate)は毛細血管(capillary)をもち、'''閉鎖血管系'''(へいさけっかんけい、closed blood-vascular system)である。
=== リンパ系 ===
人体各部の組織液の一部は毛細血管に戻らず、毛細リンパ管に入り、リンパ管で合流して、'''リンパ液'''になる。リンパ管は流れ着く先は、最終的には、静脈に合流する。リンパ管には逆流を防ぐための弁が、ところどころにある。リンパ管のところどころに、球状にふくらんだ'''リンパ節'''がある。
リンパ液にふくまれる'''リンパ球'''(lymphocyte)は白血球の一種であり、マクロファージとともにリンパ球は異物を攻撃して、細菌などを排除する。
リンパ球はリンパ節で増殖する。
=== 生体防御 ===
外部環境から生体を守るために、異物の侵入を阻止したり、侵入した異物を白血球などが除去したりする仕組みを'''生体防御'''(せいたいぼうぎょ)と呼ぶ。
生体防御には、免疫、血液凝固、炎症などがある。
私たち生物の体は栄養豊富なので、もし生体防御の仕組みが無いと、あっという間に病原菌などが繁殖し、私たちは死んでしまう。そうならないのは、生体防御の仕組みが私たちを守っているからである。
生体が異物を非自己と認識して、その異物を排除する仕組みを'''免疫'''(めんえき、immunity)と呼ぶ。
免疫は、病原体や毒素を排除する働きを持つ。
免疫には、白血球の食作用などの先天的に生まれつき備わっている'''自然免疫'''(innate immunity)と、いっぽう、リンパ球などが抗原抗体反応によって異物の情報を記憶して排除するという後天的に獲得される'''獲得免疫'''(acquired immunity)がある。
==== 自然免疫 ====
自然免疫は、好中球(neutrophil)、マクロファージ(単球)、樹状細胞(dendritic cell)、リンパ球といった白血球(leukocyte)が、病原体などの異物を食べる現象である'''食作用'''(Phagocytosis)で行われる。食べられた異物は、分解されて排除される。
* 好中球
好中球は自然免疫で、異物を食べて、除去する。攻撃した相手とともに死んでしまう細胞である。そのため寿命は短い。
ケガをしたときに傷口にできる膿は、好中球が死んだものである。
* マクロファージ
自然免疫で異物を食べる。あとで説明する獲得免疫に、異物の情報をつたえる。
近年、マクロファージや好中球などは、ある程度は異物の種類を認識している事が分かった。マクロファージや好中球や好中球などの細胞膜表面には'''トル様受容体'''(TLR)という受容体がある。
:(※ チャート式 生物でトル様受容体を扱っています。)
:(※ 検定教科書では、第一学習社の教科書などで扱っています。)
トル様受容体には、いくつかの種類があり、反応できる異物の種類が、トル受容体の種類ごとに、ある程度、(反応できる異物の種類が)限られている。
あるトル様受容体(TLR9)は、ウイルスのDNAやRNAを認識する。また他のあるトル様受容体(TLR2)は、細胞膜や細胞壁の成分を認識する。
(※ 読者への注意: TLR9などの具体的な番号は覚えなくてよい。wikibooks編集者が査読しやすいように補記してあるだけである。)
べん毛タンパク質を認識するトル様受容体(TLR5)もある。
:※ このように、トル様受容体の種類がいろいろとあることにより、どうやら、白血球は異物の種類を、ある程度は認識できているという仕組みのようである。
* 血液凝固
出血したときは、血小板などの働きによってフィブリン(fibrin)と呼ばれる繊維状のタンパク質が合成され、
フィブリンが血球と絡み合って血餅(けっぺい, clot)となり止血する。
* 炎症
生体が傷ついたときにおこる、赤く腫れる(はれる)症状を炎症(えんしょう、inflammation)と呼ぶ。炎症は自然免疫の一つであり、白血球が異物を除去している。
まず、赤く腫れる原因は、ヒスタミン(histamine)や'''プロスタグランジン'''(prostaglandin、略称:PG)といった警報物質による。(※プロスタグランジンは高校範囲内。数研出版『生物基礎』平成26年発行、P.128 で記述を確認。) なお、プロスタグランジンは脂肪酸から作られる生理活性物質の一つであり、その動物の体の組織・器官などに作用を及ぼす。
:※ なお、ひとまとめに「プロスタグランジン」と言ったが、じつは何種類もある。「プロスタグランジンD2」とか「プロスタグランジンE2」とか「プロスタグランジンF2」など、いくつもの種類がある。種類によって、作用対象の器官・組織も違い、作用の内容も違ってくる。なので、プロスタグランジンの全部の種類をまとめて呼びたい場合、専門書などでは「プロスタグランジン類」などのように、語尾に「類」をつけて呼ぶ場合もある。
:: ※ 高校の範囲外。プロスタグランジンの種類や、種類ごとの作用については、高校理科の範囲外なのは確実なので、普通科高校の高校生は覚えなくて良い。
ヒスタミンやプロスタグランジンなど、これらの警報物質によって、血管が拡張するので、肌が赤く見えるようになる。また警報物質により、毛細血管の透過性が高くなり、水分が血管外に出るので腫れる。
血管から組織にしみでた血液とともに、血液中の白血球もしみでる。そして、しみでた白血球が異物を認識して除去することで、自然免疫が働く。
炎症の症状としては、発熱・発赤・はれ・痛みなどがある。
炎症の際、神経がプロスタグランジンなどによって刺激されるので、痛みが生じる。この痛みによって、私たちは体の異常を感知できる。
また、炎症によって体温が上がるので、雑菌の繁殖が抑えられ、さらに白血球などが活性化する。
* 参考: 鎮痛剤の「アスピリン」 (※ 化学!、化学II で、アスピリンとその鎮痛作用を扱う。下記の説明は高校範囲外。)
鎮痛剤の「アスピリン」(主成分:アセチルサリチル酸。「アスピリン」は商品名)という医薬品は、このプロスタグランジンの合成を阻害することで、鎮痛作用を及ぼすという仕組みであることが、すでに分かっている。プロスタグランジンを合成する酵素のシクロオキシゲナーゼ(略称:COX)の働きを、アスピリンが阻害することで、プロスタグランジンの合成が阻害されるという仕組みである。そして、プロスタグランジンには、いくつもの種類があるので、種類によっては、痛みの機能以外にも、胃液の分泌調整や、睡眠の調整などの様々な機能を持っている。
なので、プロスタグランジンの阻害をする薬では、胃液の分泌異常などの副作用が起きる場合がある。
*体液の酸性
だ液(saliva)は弱酸性、胃液は強酸性などのように、外界と接する体液は、中性ではない体液によって、雑菌の繁殖を防いでいる。
==== 獲得免疫 ====
獲得免疫には、後述する「体液性免疫」(たいえきせい めんえき、humoral immunity)がある。
なお「細胞性免疫」(さいぼうせい めんえき、cell-mediated immunity)とは、キラーT細胞によって生じる免疫のこと。キラーT細胞は、トリからファブリキウス嚢を除去しても働く<ref>小林芳郎 ほか著『第4版 スタンダード免疫学』、丸善出版、平成25年3月30日、P.135</ref>ので、細胞性免疫を獲得免疫に含めるかどうか微妙であるが、とりあえず冒頭では言及だけしておく。
:(※ 範囲外:) 結核や一部のウイルス感染症に対しては、後述の「抗体」よりも「キラーT細胞」のほうが役割が大きい<ref>小林芳郎 ほか著『第4版 スタンダード免疫学』、丸善出版、平成25年3月30日、P.137</ref>と言う説がある。一方、結核にはBCGやツベルクリンなどのワクチンがある。なので、キラーT細胞は考えようによっては、獲得免疫に含める事もできるかもしれないが、しかしキラーT細胞の獲得免疫的な性質についてはまだ研究途上の分野なので、分類は微妙ではある。
===== 体液性免疫 =====
[[File:免疫グロブリンの模式図.svg|320px|thumb|免疫グロブリンの構造]]
免疫グロブリンは、血液などの体液中に含まれている。
体液性免疫は、リンパ球の一部であるB細胞が、'''免疫グロブリン'''といわれる'''抗体'''(こうたい、antibody)を作り行う。抗体は'''免疫グロブリン'''(immunoglobulin、Igと略記)というタンパク質で構成されている。
いっぽう、病原体などの異物に対して抗体が作られた時、その異物を'''抗原'''(こうげん、antigen)と呼ぶ。
抗原と抗体が反応することを'''抗原抗体反応'''(antigen-antibody reaction)と呼ぶ。
病原体などの抗原は、抗体と結合することで、毒性が低下し、また凝集するので、白血球による食作用を受けやすくなる。
免疫グロブリンによる免疫は、体液中の抗体による免疫なので、体液性免疫という。
* 免疫グロブリンの構造と機能
免疫グロブリンはY字型をしたタンパク質である。
免疫グロブリンの構造は、H鎖とL鎖といわれる2種類のポリペプチドが2個ずつ結合した構造になっている。図のように、免疫グロブリンは、合計4本のポリペプチドから構成されている。
H鎖とL鎖の先端部には'''可変部'''(かへんぶ、variable region)という抗体ごとに(免疫グロブリンの可変部の)アミノ酸配列の変わる部分があり、この部分(可変部)が特定の抗原と結合する。そして免疫グロブリンの可変部が抗原と結合することにより、免疫機能は抗原を認識して、一連の免疫反応をする。可変部の配列によって、認識する抗原の構造が異なる。
1種類の抗原に対応する抗体は1種類だけであるが、しかし上述のように可変部が変わりうるので、多種多様な抗原に対応できる仕組みになっている。
免疫グロブリンの構造において、可変部以外のほかの部分は'''定常部'''(ていじょうぶ、constant region)という。
また、H鎖同士、H鎖とL鎖は'''ジスルフィド(S-S)結合'''でつながっている。
* 体液性免疫の仕組み
そもそも免疫グロブリンはB細胞で産生される。免疫グロブリンの可変部の遺伝子も、そもそもB細胞の遺伝子が断片的に選択されて組み合わせされたものである。このような遺伝子配列の組み合わせによって、配列のパターンが膨大に増えて何百万とおりにもなるので、このような仕組みによって多種多様な病原体(抗原)に対応している。
より細かく言うと、下記のような順序で、産生される。
樹状細胞などの食作用によって分解された断片が、抗原として提示される(抗原提示)。 そして、その抗原が、'''ヘルパーT細胞'''(ヘルパーティーさいぼう、helper T cell)によって認識される。
抗原を認識したヘルパーT細胞は活性化し、'''B細胞'''(ビーさいぼう)の増殖を促進する。
増殖したB細胞が、'''抗体産生細胞'''(こうたい さんせいさいぼう)へと分化する。
そして抗体産生細胞が、抗体として免疫グロブリンを産生する。
この抗体が、抗原と特異的に結合する('''抗原抗体反応''')。
抗原抗体反応によって、抗体と結合された抗原は毒性が弱まり、またマクロファージによって認識されやすくなり、マクロファージの食作用によって抗原が分解されるようになる。
* 利根川進(とねがわ すすむ)の業績
ヒトの遺伝子は数万種類であるといわれているが(※ 参考文献: 東京書籍の教科書、平成24検定版)、しかし抗体の種類はそれを膨大に上回り、抗体は数百万種類ていどにも対応する。
その仕組みは、B細胞の遺伝子から、選択的に抗体の遺伝子が選ばれるという仕組みになっている。この辺の抗体の種類の計算の仕組みは、1970年代ごろに日本人の生物学者の利根川進などによって研究されており、1987年には利根川進(とねがわ すすむ)はこの業績でノーベル医学・生理学賞を受賞した。
{{コラム|定常部は実は定常ではない|
ここでいう「可変部」とは、免疫グロブリンのY形の2股の先端部分のことである。
実は、先端以外の、H鎖の「定常部」も、ヘルパーT細胞やサイトカインなどの働きによって形状・構造の変化することが遅くとも1970年代には分かっている。
定説では(一般の動物では?)、免疫グロブリンには5種類あり、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類のクラスがある。(免疫グロブリンの記法は、 Igなんとか のような記号で表すのが一般的である。)
定常部の変化によって免疫グロブリンの種類(クラス)が変わることを'''クラススイッチ'''という。
いっぽう、「可変部」の変化による組み合わせの種類は数百万~数千万ほどの無数にあるし、実際に抗原に結合する(と考えられる)接触部分は「可変部」である。
:(※ 可変部の組み合わせの個数を「数百万~数千万」とした根拠は、たとえば羊土社『基礎から学ぶ生物学・細胞生物学』和田勝 著、第7版、229ページ、 で無数の抗体の個数の一例として「100万個の抗体」という語句があるので、それを参考にした。)
:なお 東京化学同人『免疫学の基礎』、小山次郎、第4版、40ページ では、B細胞クローンの(抗体の)種類として、「10<sup>6</sup>~10<sup>8</sup>」(百万~1億)という数字をあげている。
なので、高校の段階では、「可変部」の変化だけを教えることも、それなりに合理的である。
また、クラススイッチの現象が起きて、ある抗体のクラスがスイッチされても、抗体の可変部は前のままであるので、抗原特異性は変わらない。(参考文献: 東京化学同人『ストライヤー生科学』、Jeremy M.Bergほか著、入村達郎ほか訳、第7版、928ページ。)
なお、クラススイッチの発見者・研究者でもある本庶 佑(ほんじょ たすく、1942年 - )が、2018年のノーベル賞を受賞した。ただし、受賞内容の研究は、これとは違う研究テーマである。(時事的な話題であるが、大学レベルの免疫学の教科書では、かなり前からクラススイッチは紹介されている。)
クラススイッチについては、AIDと呼ばれる酵素・因子が関わることなどが分かっているが(※ 参考文献: 東京化学同人『分子細胞生物学 第7版』、Lodishほか著、石浦章一ほか訳、 ・・・では、「AID」を酵素として紹介している。)、まだ分子機構に未解明の部分が多いので、高校生は単にこういう現象がある事を知っていればいい。
定常部は、その名に反して、あまり定常ではないのである。
「可変部」だの「定常部」だの、歴史的な経緯により、そういう名前がつけられてしまっているが、あまり実態を反映してないので、名前だけを鵜呑みにしないように気をつけよう。
}}
===== ABO式血液型 =====
輸血は、血液型が同じ型どうしで輸血するの通常である。
赤血球表面に、抗原にあたる凝集原(ぎょうしゅうげん)AまたはBがある。なお、凝集原の正体は糖鎖である。
血清中に、抗体にあたる凝集素のαまたはβがある。この抗体は、病気の有無に関わらず、生まれつき持っている抗体である。
凝集原と凝集素との組み合わせによって、4つの型に分類される。
{| class="wikitable" style="float:right"
|+ ABO式血液型の凝集原と凝集素
! !! 凝集原(抗原) !! 凝集素(抗体)
|-
! A型
| A || β
|-
! B型
| B || α
|-
! AB型
| AB || なし
|-
! O型
| なし || α、β
|-
|}
Aとαが共存すると凝集する。
Bとβが共存すると凝集する。
たとえばA型の血をB型のヒトに輸血すると、赤血球が凝集してしまうので、輸血するのは危険である。
A型の糖鎖は、H型糖鎖という糖鎖の末端にNアセチルガラクトースアミン(GalNa)が結合している。
B型は、H型糖鎖という糖鎖の末端にガラクトース(Gal)が結合している。
AB型は、この両方の糖鎖が細胞膜にある。O型の糖鎖はH型糖鎖そのものだけである。
===== 細胞性免疫 =====
トリからファブリキウス嚢を除去してもウイルス感染しない。このため、抗体とは別にウイルスを除去する機構がある事が分かっている<ref>小林芳郎 ほか著『第4版 スタンダード免疫学』、丸善出版、平成25年3月30日、P.135</ref>
そのような抗体とは別のウイルス除去機構の一つとして、キラーT細胞というものがある。
:(※ 範囲外: )なお一方で、動物から胸腺を除去することでT細胞を産生・分化できなくすると、B細胞も産生できなくなる<ref>小林芳郎 ほか著『第4版 スタンダード免疫学』、丸善出版、平成25年3月30日、P.135</ref>。
ともかく細胞性免疫について、下記のキラーというものがある。
抗原提示されたヘルパーT細胞は、'''キラーT細胞'''(killer T cell)とよばれるT細胞を増殖させる。
キラーT細胞は、ウイルスに感染された自己の細胞を攻撃するが、移植細胞や がん細胞 も攻撃することもある。
細胞性免疫は、キラーT細胞が、抗原を直接攻撃して行う。
臓器移植や皮膚移植などで別の個体の臓器や皮膚などを移植すると、たとえ同種の個体からの移植でも、普通、定着しないで脱落する。これを'''拒絶反応'''という。これは細胞性免疫によって異物として移植臓器が認識され、キラーT細胞によって攻撃されたためである。
細胞膜の表面には、'''MHC'''('''主要組織適合性複合体'''、Major Histocompatibility Complex)というタンパク質がある。臓器移植で拒絶反応が起きる場合は、MHCが異なる場合であり、キラーT細胞が移植臓器を攻撃しているのである。
:※ 説明の簡単化のため、ヒトのMHCを想定して解説する。
MHCは個人ごとに異なるので、普通、他人とは一致しない。
T細胞は、相手方細胞の表面にあるMHCを認識している。つまりMHCの違いによって、ヘルパーT細胞が自己と非自己を認識する。そしてヘルパーT細胞が非自己の物質が侵入したことを感知して、キラーT細胞を活性化させる。
なお、ヒトでは、ヒトの白血球の細胞表面にある'''ヒト白血球型抗原'''('''HLA'''、Human Leukocyte Antigen)がMHCとして機能する。血縁関係の無い他人どうしで、HLAが一致する確率は、ほとんど無い。同じ親から生まれた兄弟間で、HLAの一致は4分の1の確率である。移植手術の際、これらの免疫を抑制する必要があり、免疫抑制のために、あるカビから精製した「シクロスポリン」(ciclosporin)という名前の薬剤が、よく免疫抑制剤(めんえきよくせいざい)として使われる。(※ シクロスポリンはいちおう、高校の教科書で紹介されている。)<ref>浅島誠『生物基礎』東京書籍、平成26年2月発行、P.121</ref> <ref>吉田邦久『チャート式シリーズ要点と演習 新生物IB・II』東京書籍、P.121</ref>
:(※ 範囲外: )シクロスポリンと名前の似ている物質で、抗生物質の「セファロスポリン」があるので、混同しないように。
:(※ 範囲外: )妊娠歴のある女性や輸血を受けた経歴のある人には、免疫抑制剤が効かなくなる場合がある<ref>宮坂昌之ほか『標準免疫学』、医学書院、第3版、301ページ</ref>。※ 高校教育的には、高校でこういう例外的な専門知識まで教えるわけにはいかないので、現在の高校理科ではあまり免疫抑制剤について教えてないことにも、それなりの理由がある。
臓器移植など移植手術での拒絶反応が起きる際の理由も、MHC(ヒトの場合はHLA)が異なって、T細胞が移植片を非自己と認識するからである(※ 参考文献: 第一学習社『高等学校生物』、24年検定版、26年発行、58ページ)、と考えられている。
なおシクロスポリンは、T細胞によるサイトカイン(このサイトカインは細胞性免疫の情報伝達に関わる物質の一種であり、キラーT細胞などの他の免疫細胞を活性化させる役割を持っている)の産生を阻害することにより、細胞性免疫の作用を抑制している。(※ サイトカインは高校の範囲内)
:※ 「サイトカイニン」(植物ホルモンの一種)と「サイトカイン」は全く異なる別物質である。
:※ 検定教科箇所では、MHCの和訳を「主要組織適合性複合体」というかわりに「主要組織適合抗原」などという場合もある。大学の教科書でも、教科書出版社によって、どちらの表現を用いているかが異なっており、統一されていない。たとえば東京化学同人『免疫学の基礎』では「主要組織適合抗原系」という表現を用いている。羊土社『理系総合のための生命科学』では、「主要組織適合性複合体」を用いている。
:※ 余談だが、ヒトのHLA遺伝子の場所は解明されており、第6染色体に6対の領域(つまり12か所の領域)があることが分かっている。高校教科書でも図表などで紹介されている(※ 数年出版や第一学習者の教科書など)。(※ 入試にはまず出ないだろうから、暗記しないくて良いだろう。)
:いきなり「HLA遺伝子」と言う用語を使ったが、もちろん意味は、HLAを発現する遺伝子のことである。HLA遺伝子の対立遺伝子の数はけっこう多く、そのため、血縁者ではない他人どうしでは、まず一致しないのが通常である(※ 参考文献: 数研出版の教科書)、と考えられている。いっぽう、一卵性双生児では、HLAは一致する(※ 啓林館の教科書)、と考えられている。
:(※ 範囲外 :) 医学的な背景として、一卵性双生児では、移植手術の拒絶反応が起きづらいことが、実験的事実であるとして、知られている。
:また、医学書などでは、このような一卵性双生児の拒絶反応の起きづらい理由として、MHCが一致しているからだ、と結論づけている(※ 専門書による確認: 『標準免疫学』(医学書院、第3版、42ページ、ページ左段) に、MHCが同じ一卵性双生児では移植の拒絶反応が起きないという主旨の記述あり。)
:高校教科書の啓林館の教科書が、一卵性双生児にこだわるのは、こういう医学的な背景があるためだろう。
:なお、移植手術の歴史は以外と新しく、1950年代に人類初の、ヒトの移植手術が行われている。いっぽう、MHCの発見は、1940年代にマウスのMHC(マウスの場合はH-2抗原という)が発見されていた。
:(※ 範囲外 :) 余談だが、胎児は母体とMHCが違うにもかかわらず、胎内では免疫反応は起きない。胎盤が抗体の進入を防いでいると考えられえている<ref>小林芳郎 ほか著『第4版 スタンダード免疫学』、丸善出版、平成25年3月30日、P.98</ref>。
:※ 余談: (※ 覚えなくていい。一部の教科書にある発展的な記述。)
::MHCが糖タンパク質であることが分かっている(※ 数研出版の教科書で紹介)。MHCには主に2種類あり、クラスIとクラスIIに分類される(※ 数研出版の教科書で紹介)。
::MHCの先端には、体内に侵入してきた病原体など有機の異物のタンパク質を分解した断片が、くっつけられ、提示される仕組みである(※ 第一学習社の教科書で紹介)。これによって、MHCからT細胞に情報を送る仕組みである。そして、有機の異物が侵入してない場合にも、MHCの先端には自己のタンパク質を分解した断片がくっつけられており、提示されている。自己タンパク質断片の提示される場合では、T細胞は提示された細胞を自己と認識するので、その場合にはT細胞は活性化されないという仕組みである。
:(※ 調査中:) 侵入した異物がタンパク質やアミノ酸などを含まない場合の異物についてはどうか、専門書を見ても、書かれていない。文献では、異物として、最近やウイルスを構成するタンパク質を想定している文献ばかりだが、「では、栄養素などを構成するタンパク質やアミノ酸も、細胞は異物として認識するために細胞表面に抗原として提示するのかどうか?」については、残念ながら調査した文献の範囲内では書かれていなかった。)
{{コラム|「MHC分子」や「MHC遺伝子」などの用語|
[[File:MHC molecule alias japanese.svg|thumb|300px|MHCとT細胞受容体]]
検定教科書には、あまり無い用語なのだが、入試過去問などでMHCについて、「MHC分子」および「MHC遺伝子」という用語がある。(※ 旺文社の標準問題精講あたりで発見。実は実教出版の検定教科書『生物基礎』に「MHC分子」だけ用語がある。)
この用語はどういう意味かと言うと、「MHC分子」とは、MHCの機能の受容体などに相当する、細胞膜表面のタンパク質のことである。
検定教科書や参考書のイラストなどで、細胞膜の表面にある受容体のようなものによく(※ 正確には、受容体ではなく、MHCの結合相手のT細胞受容体に結合する「リガンド」(※ 大学生物学の用語なので暗記は不要)だが)、単に「MHC」と明記してあるが、「MHC分子」とはその受容体っぽいものの事である。つまり、教科書イラストにある「MHC」が「MHC分子」の事である。
数研出版『生物基礎』の教科書では、「MHC抗原」と言ってる部分が、実教出版のいう「MHC分子」のことである。なお、東京書籍『生物』(専門生物)では、「MHCタンパク質」と言ってる部分でもある。
つまり、公式っぽくイコール記号で表せば
MHC抗原 = MHC分子 = MHCタンパク質
となる。
「分子」と言っても、けっして化学のH2O分子とかCO2分子のような意味ではない。
いっぽう、「MHC遺伝子」とは、MHC分子を作らせる遺伝子のこと。
歴史的には、「MHC」は用語の意味が微妙に変わっていき、もともとの「MHC」の意味は今で言う「MHC遺伝子」の意味だったのだが、しかし、次第に研究が進んだり普及するうちに、「MHC」だけだと読み手に混乱を起こすので、日本では意味に応じて「MHC分子」または「MHC遺伝子」などと使い分けるようになっている。
細胞膜のMHCのタンパク質部分の呼び名は英語が MHC molecule という言い方が主流なので、それを直訳すると「MHC分子」になるのだが(大学教科書でも「MHC分子」と表現している教材が多い)、しかしハッキリ言って、「分子」という表現は(少なくとも日本では、)やや誤解を招きやすい。(だから日本の高校教科書では、「MHC抗原」とか「MHCタンパク質」とか、いくつかの出版社がそういう言い方にしているのだろう。
なお、グーグル検索すると、 MHC antigen (直訳すると MHC 抗原)という表現も少々、出てくる。
さて、専門書だと、遺伝子のほうを単に「MHC」でゴリ押ししている書籍もあるが、しかし高校生むけの教材なら、遺伝子のほうを表すなら「MHC遺伝子」と説明するほうが合理的だろう。(だから旺文社の参考書でも「MHC遺伝子」表記になっているわけだ。)
}}
{{コラム|「T細胞受容体」|
:(※ ほぼ範囲外)
T細胞には、MHCを認識する受容体がある。なお、T細胞には多くの種類の受容体があり、MHCを認識する受容体以外にも、異なる機能をもった受容体が、いくつもある。
T細胞に存在する、抗原を認識する受容体のことを'''T細胞受容体'''(TCR)という。(※ いちおう、東京書籍と第一学習社の高校教科書にTCRの紹介があるが、他社の教科書には見られない。
:※ じつは「T細胞受容体」「TCR」の意味が、まだ専門家どうしにも統一していないようだ。現状、大きく分けて2種類の意味がある。
::・意味1: 文字通り、T細胞にある、抗原を認識するための受容体の総称。・・・という意味
::・意味2: MHCを認識する種類の受容体。・・・という意味
高校の検定教科書(東書、第一)では、主に「MHCを認識する種類の受容体。」の意味で使われている。
:※ 高校卒業以降の生物学の勉強のさいは、どちらの意味なのか、文脈から判断すること。大学レベルの教科書などを見ると、たとえば書籍の最初のほうではMHCを認識するタンパク質の意味として「TCR」を使っていたのに、書籍中の後半部で、T細胞の受容体の総称としての意味に「TCR」が変わっていたりする場合もある。(このように、意味が不統一なので、おそらく、あまり入試にTCRは出ないだろう。もし出るとしても、ここは暗記の必要は無いだろう。)
なお、MHCをもつ一般の細胞は、病原体や非自己の有機物が入ってきたとき、それを分解して得られたタンパク質をMHCの上に乗せる。MHCに非自己のタンパク質が乗ったとき、T細胞側の受容体が、MHC と MHCの乗ったタンパク質 を抗原として認識する。
;B細胞のBCR
なお、B細胞の表面にある「BCR」と呼ばれる「B細胞受容体」(B Ce Receptor)については、「BCR」とは抗原と結合する部分で、抗原との結合後にB細胞から分離して免疫グロブリンとして分泌されることになる部分のことである。やはりB細胞もT細胞と同様に、「B細胞受容体」と言っても、けっしてB細胞の受容体のことではないので、注意が必要である。つまり、B細胞では、細胞表面に免疫グロブリンの前駆体があり、抗原との結合後にそれが免疫グロブリンとして分離されるが、それが「BCR」と呼ばれる部分である<ref>熊ノ郷淳ほか『免疫学コア講義』、南山堂、2019年3月25日 4版 2刷、P.37</ref>。
}}
* ツベルクリン反応
結核菌のタンパク質を投与して、結核菌に対しての免疫記憶があるかどうかを検査するのが'''ツベルクリン反応検査'''である。
結核菌への免疫があれば、炎症が起こり、赤く腫れる。この反応は細胞性免疫であり、ヘルパーT細胞やマクロファージの働きによるものである。
ツベルクリン反応をされて、赤く腫れる場合が陽性である。いっぽう、赤く腫れない場合が陰性である。
陰性のヒトは免疫が無いので、結核に感染する可能性があり、そのため免疫を獲得させるために弱毒化した結核菌が投与される。
BCGとは、この弱毒化した結核菌のことである。
* インターロイキン (※ 実教出版『生物基礎』(平成24年検定版、147ページ)にインターロイキンの説明をするコラムあり。数研出版と啓林館の専門生物(生物II)にも、記述あり。)
免疫細胞では、'''インターロイキン'''(interleukin)というタンパク質が、主に情報伝達物質として働いている。インターロイキンには、多くの種類がある。
インターロイキンのうち、いくつかの種類のものについては、ヘルパーT細胞からインターロイキンが放出されており、免疫に関する情報伝達をしている。
体液性免疫では、ヘルパーT細胞から(ある種類の)インターロイキンが放出されて、B細胞に情報が伝わっている。こうしてB細胞は抗体産生細胞に変化する。
細胞性免疫では、ヘルパーT細胞が(ある種類の)インターロイキンを放出し、キラーT細胞やマクロファージなどに情報が伝わる。
なお、名前の似ている「インターフェロン」という物質があるが、これはウイルスに感染した細胞から放出され、周囲の未感染細胞にウイルスの増殖を抑える物質を作らせる。(※ チャート式生物(平成26年版)の範囲。)
* 樹状細胞などの抗原提示について
[[File:MHC for beginners jp.svg|thumb|300px|MHCとT細胞受容体]]
マクロファージや樹状細胞も、病原体などを分解して、そのタンパク質断片を(マクロファージや樹状細胞の)細胞表面で抗原提示をして、ヘルパーT細胞を活性化する、・・・と考えられている。(※ 検定教科書では、MHCかどうかは、触れられてない。)
(※ まだ新しい分野でもあり、未解明のことも多く、高校生は、この分野には、あまり深入りしないほうが安全だろう。)
===== 免疫記憶 =====
T細胞やB細胞の一部は攻撃に参加せず、'''記憶細胞'''として残り、抗原の記憶を維持する。そのため、もし同じ抗原が侵入しても、1回目の免疫反応よりも、すばやく認識でき、すばやくT細胞やB細胞などを増殖・分化できる。
このため、すぐに、より強い、免疫が発揮できる。
これを'''免疫記憶'''(immunological memory)と呼ぶ。
一度かかった感染病には、再びは、かかりにくくなる。
これはリンパ球の一部が免疫記憶として病原体の情報を記憶しているためである。
免疫記憶は予防接種としても利用されている。
===== 免疫寛容 =====
免疫は、個体が未熟なときから存在する。成熟の課程で、リンパ球(T細胞)は、いったん多くの種類が作られ、あらゆる抗原に対応するので、自己の細胞も抗原と認識してしまうリンパ球もできる。いったん自分自身に免疫が働かないように、しかし、自己と反応したリンパ球は死んでいくので、個体の成熟の課程で、自己を排除しようとする不適切なリンパ球は取り除かれる。そして最終的に、自己とは反応しないリンパ球のみが、生き残る。
こうして、成熟の課程で、自己に対しての免疫が抑制される仕組みを'''免疫寛容'''(めんえき かんよう)という。
免疫寛容について、下記のことが分かっている。
まず、そもそも、T細胞もB細胞も、おおもとの原料となる細胞は、骨髄でつくられる。
骨髄で作られた未成熟T細胞は、血流にのって胸腺まで運ばれ、胸腺でT細胞として分化・増殖する。
膨大なT細胞が作られる際、いったん、あらゆる抗原に対応できるようにT細胞がつくられるので、作られたT細胞のなかには自己の細胞を抗原として認識してしまうものも存在している。
しかし、分化・成熟の過程で、自己を攻撃してしまうT細胞があれば、その(自己を攻撃する)T細胞は胸腺で取り除かれる。
このようにして、免疫寛容が達成される。
==== 免疫の利用 ====
===== 予防接種 =====
殺しておいた病原体、あるいは無毒化や弱毒化させておいた病原体などを'''ワクチン'''(英: vaccine<ref>高等学校外国語科用『Standard Vision Quest English Logic and Expression I』、啓林館、令和3年3月5日検定済、令和3年12月10日発行、P121</ref>)という。このワクチンを、人間に接種すると、もとの病気に対しての抗体と免疫記憶を作らせることができるので、病気の予防になる。こうしてワクチンを接種して病気を予防することを'''予防接種'''という。
ワクチン療法の元祖は、18世紀なかばの医師ジェンナーによる、牛痘(ぎゅうとう)を利用した、天然痘(てんねんとう)の予防である。
天然痘は、死亡率が高く、ある世紀では、ヨーロッパ全土で100年間あたり6000万人もの人が死亡したとも言われている。天然痘はウイルスであることが、現在では知られている。
牛痘は牛に感染するが、人間にも感染する。人間に感染した場合、天然痘よりも症状は比較的軽い。
当事のヨーロッパで牛痘に感染した人は、天然痘には感染しにくい事が知られており、また牛痘に感染した人は天然痘に感染しても症状が軽い事が知られていた。このような話をジェンナーも聞いたようであり、牛の乳搾りをしていた農夫の女から聞いたらしい。
ジェンナーは、牛痘に感染した牛の膿を人間に接種することで、天然痘を予防する方法を開発した。
さらに19世紀末にパスツールがワクチンの手法を改良し、天然痘のワクチンを改良するとともに、狂犬病のワクチンなどを開発していった。
狂犬病はウイルスである。
現在では、天然痘のDNAおよび牛痘のDNAの解析がされており、天然痘と牛痘とは塩基配列が似ていることが分かっている。
1980年、世界保健機構(WHO)は、天然痘の根絶宣言を出した。
現在ではインフルエンザの予防にもワクチンが用いられている。インフルエンザには多くの型があり、年によって、流行している型がさまざまである。流行している型とは他の型のワクチンを接種しても、効果が無いのが普通である。
インフルエンザの感染は、鳥やブタやウマなどにも感染するのであり、けっしてヒトだけに感染するのではない。
インフルエンザはウイルスであり、細菌ではない。
インフルエンザのワクチンは、ニワトリの卵(鶏卵)の中で、インフルエンザウイルスを培養させた後、これを薬品処理して無毒化したものをワクチンとしている。このように薬品などで病原体を殺してあるワクチンを'''不活化ワクチン'''という。インフルエンザワクチンは不活化ワクチンである。いっぽう、結核の予防に用いられるBCGワクチンは、生きた弱毒結核菌である。BCGのように生きたワクチンを'''生ワクチン'''という。
1918年に世界的に流行したスペイン風邪も、インフルエンザである。
インフルエンザは変異しやすく、ブタなどに感染したインフルエンザが変異して、人間にも感染するようになる場合もある。
===== 血清療法 =====
ウマやウサギなどの動物に、弱毒化した病原体や、弱毒化した毒素などを投与し、その抗体を作らせる。その動物の血液の中には、抗体が多量に含まれることになる。
血液を採取し、そして血球やフィブリンなどを分離し、血清を回収すると、その血清の中に抗体が含まれている。
マムシやハブなどの毒ヘビにかまれた場合の治療として、これらのヘビ毒に対応した血清の注射が用いられている。このように血清をもちいた治療法を'''血清療法'''(けっせいりょうほう)という。血清療法は、免疫記憶は作らないので、予防には役立たない。予防ではなく治療のために血清療法を行う。
ヘビ毒以外には、破傷風(はしょうふう)やジフテリアなどの治療にも血清が用いられる。
血清療法は、1890年ごろ、北里柴三郎が開発した。
===== 白血病と骨髄移植 =====
(未記述)
==== 病気と免疫 ====
===== アレルギー =====
抗原抗体反応が過剰に起こることを'''アレルギー'''(allergy)と呼ぶ。スギ花粉などが原因で起きる'''花粉症'''もアレルギーの一つである。
アレルギーを引き起こす抗原を'''アレルゲン'''(allergen)と呼ぶ。
アレルギーのよって、じんましんが起きるきともある。
ヒトによっては卵やソバやピーナッツなどの食品もアレルゲンになりうる。、
ダニやホコリなどもアレルゲンになりうる。
抗原抗体反応によって、呼吸困難や血圧低下などの強い症状が起きる場合もあり、または全身に炎症などの症状が現れたりする場合もあり、このような現象を'''アナフィラキシー'''という。
(つまり、アレルギー反応によって、呼吸困難や血圧低下などの強い症状が起きる場合や、または全身に炎症などの症状が現れたりする場合もあり、このような現象を'''アナフィラキシー'''という。)
ハチ毒で、まれにアナフィラキシーが起きる場合がある。ペニシリン(penicillin <ref>高等学校学外国語科用『CROWN English Expression II New Edition』、三省堂、2022年3月30日 発行、P56</ref>)などの薬剤でもアナフィラキシーが起きる場合がある。
※ 「アナフィラキシー・ショック」(anaphylactic shock)と書いても、正しい。(※ 東京書籍の検定教科書『生物基礎』平成23年検定版、124ページでは「アナフィラキシーショック」の用語で紹介している。)
:また、医学用語でも「アナフィラキシーショック」は使われる。(※ 参考文献: 医学書院『標準生理学 第8版』、657ページ、監修: 小澤 瀞司/福田 康一郎、発行:2015年8月1日。 『標準生理学』にて「アナフィラキシーショック」の用語を利用している。)欧米では薬学書として権威的な「カッツング薬理学」シリーズの『カッツング薬理学 原書第10版』和訳版にも「アナフィラキシ-ショック」という用語がある<ref>Bertram G.Katzung 著、柳沢輝行ほか訳『カッツング薬理学 原書第10版』、丸善株式会社、平成21年3月25日 発行、P136</ref>。どうやら、けっして「アナフィラキシ-ショック」日本独自の造語ではなく、欧米でも「アナフィラキ-ショック」という用語は使われるようである。
※ 「アナフィラキシー」の結果が、血圧低下なのか、それとも炎症なのかの説明が、検定教科書でもハッキリしていない。東京書籍の教科書では、全身の炎症を「アナフィラキシーショック」の症状として説明している。だが実教出版では、血圧低下や呼吸困難を、「アナフィラキシー」の結果としているし、「アナフィラキシーショック」とはアナフィラキシーの重症化した症状だと(実教出版は)説明している。カッツング薬理学を読んでも、「アナフィラキシ-ショック」と「アナフィラキシー」がどう違うのか、あまり明確には書いてないので、高校生は気にしなくて良い<ref>Bertram G.Katzung 著、柳沢輝行ほか訳『カッツング薬理学 原書第10版』、丸善株式会社、平成21年3月25日 発行、P136</ref>。
:※ 「ショック」という用語が医学用語で意味をもつが、高校理科の範囲外なので、あまり「アナフィラキシーショック」の用語には深入りしなくていい。「アナフィラキシー」で覚えておけば、大学入試対策では、じゅうぶんだろう。
:医学などでも、語尾に「ショック」のついてない「アナフィラキシー」という表現もよく使われるので、高校生は「アナフィラキシー」、「アナフィラキシーショック」の両方の言い回しとも覚えておこう。
===== HIV =====
'''エイズ'''('''後天性免疫不全症候群'''、'''AIDS''')の原因である'''HIV'''('''ヒト免疫不全ウイルス''')というウイルスは、ヘルパーT細胞に感染して、ヘルパーT細胞を破壊する。ヘルパーT細胞は免疫をつかさどる細胞である。そのため、エイズ患者の免疫機能が壊れ、さまざまな病原体に感染しやすくなってしまう。エイズ患者ではヘルパーT細胞が壊れているため、B細胞が抗体をつくることが出来ない。
ふつうのヒトでは発病しない弱毒の病原体でも、エイズ患者では免疫機能が無いため発症することもあり、このことを'''日和見感染'''(ひよりみ かんせん、opportunistic infection)という。
HIVとは Human Immunodeficiency Virus の略。
AIDSとは Acquired Immune Deficiency Syndrome の略。
HIVの遺伝子は変化をしやすく、そのため抗体を作成しても、遺伝子が変化しているので効果が無く、ワクチンが効かない。開発されているエイズ治療薬は、ウイルスの増加を抑えるだけである。
よって、予防が大事である。
===== 自己免疫疾患 =====
自己の組織や器官に対して、免疫が働いてしまい、その結果、病気が起きることを'''自己免疫疾患'''という。
関節リウマチ(rheumatoid arthritis)、重症筋無力症(myasthenia gravis)は自己免疫疾患である。I型糖尿病も自己免疫疾患である。
:(※ ほぼ範囲外?)甲状腺ホルモンの分泌過剰の病気であるバセドウ病(Basedow's Disease)の原因は、おそらく自己免疫疾患という説が有力である。書籍によってはバセドウ病は自己免疫疾患だと断定している。
:自己免疫疾患で、自己の甲状腺刺激ホルモンに対して抗体が作られてしまい、その抗体が甲状腺刺激ホルモンと似た作用を示し、抗体が甲状腺の受容体と結合して甲状腺ホルモンが過剰に分泌される、という仕組みがバセドウ病の原因として有力である。
:バセドウ病の症状では、眼球が突出するという症状がある。
==== その他 ====
ヒトの汗や鼻水や涙にはリゾチームという酵素があり、リゾチームは細菌の細胞壁を破壊する。<ref>『生物基礎』東京書籍、p.114</ref>
{{コラム|(※ 範囲外) 「T細胞」と「B細胞」の名前の由来|
:※ 啓発林館の生物基礎など。
「T細胞」のTの語源は胸腺(Thymus)である。
「B細胞」の語源は、ニワトリなど鳥類にあるファブリキウス嚢(Bursa of Fabricus)である。研究の当初、まずニワトリのファブリキウス嚢が、ニワトリでは抗体産生に必要なことがわかった。また、ファブリキウス嚢を失ったニワトリは、抗体産生をしないことも分かった。
のちに、哺乳類では骨髄(Bone Marrow)でB細胞がつくられることが分かったが、偶然、Boneも頭文字がBであったので、名前を変える必要は無かったので、現代でもそのままB細胞と呼ばれている。
なお、動物実験で、ニワトリの(ファブリキウス嚢ではなく)胸腺を摘出した場合、この胸腺なしニワトリに(他の個体の皮膚を)皮膚移植をすれば他の個体の皮膚が定着する。
あるいは遺伝的に胸腺の無いヌードマウスなど、胸腺の無い個体の場合、拒絶反応が起きない。(第一学習社の「生物基礎」教科書で、遺伝的に胸腺の無いヌードマウスの皮膚移植を紹介。)
}}
=== 肝臓とその働き ===
[[画像:Surface projections of the organs of the trunk.png|thumb|right|ヒトの肝臓(liver)、腎臓(kidney)]]
肝臓(かんぞう、liver)は腹部の右上に位置する最も大きな臓器であり、ヒトの成人では1kg以上の重さがあり、約1200g~2000gである。'''肝小葉'''(かんしょうよう)という基本単位が約50万個、集まって、肝臓が出来ている。心臓から出た血液の約4分の1は、肝臓に入る。
肝臓の働きは、栄養分の貯蔵や分解、有害な物質の解毒、不要な物質を胆汁(たんじゅう、bile)として捨てる、などを行っている。
肝臓には肝動脈と肝静脈のほかに、腸からの静脈の血管である'''肝門脈'''(かんもんみゃく)が肝臓を通っている。
腸で吸収されたグルコースやアミノ酸などの栄養が関門脈の中を流れる血液に含まれている。
*血糖値の調節
グルコースの一部は肝臓で'''グリコーゲン'''へと合成され貯蔵される。グリコーゲンは必要に応じてグルコースに分解されて、エネルギー源として消費される。このようにして、血液中のグルコースの量や濃度('''血糖値'''、血糖量)が、一定に保たれる。
*タンパク質の合成・分解
肝臓では血しょうの主なタンパク質の'''アルブミン'''(albumin)を合成しており、また血しょう中の血液凝固に関するタンパク質である'''フィビリノーゲン'''も肝臓で合成している。
*尿素の合成
タンパク質の合成にはアンモニアなど有害な物質が生成するが、肝臓はアンモニアを毒性の低い'''尿素'''(にょうそ)に変えている。尿素は腎臓(じんぞう)に集められ、膀胱(ぼうこう)を経て、尿道から体外へと排出される。
:(※編集者へ ここに「オルチニン回路」の図を追加してください。)
哺乳類や両生類では、アンモニアを尿素に変えてから排出する。なお、魚類は生成したアンモニアを直接、外部に放出している。まわりに水が多いため、アンモニアを直接排出しても害が少ないため、と考えられてる。鳥類やハ虫類では、尿素ではなく尿酸を合成しており、尿酸を排出する。鳥類とハ虫類とも、陸で生まれて、かたい卵で生まれる動物である。
*アルコールなどの分解
そのほか有害な物質の解毒の例としては、アルコールを分解したりしている。
*胆汁
胆汁は肝臓で作られており、胆汁は胆管(bile duct)を通り、胆のう(gallbladder)へ貯蔵され、十二指腸(duodenum)へ分泌される。
胆汁は脂肪を消化吸収しやすくする。胆汁に消化酵素は含まれていない。胆汁は脂肪を小さな粒に変える。このように脂肪を小さな粒に変えることを'''乳化'''(にゅうか)という。
*古くなった赤血球の破壊
古くなった赤血球を破壊する。ヒトの胆汁中に含まれる色素の'''ピリルビン'''は、古くなって破壊した赤血球に含まれていたヘモグロビンに由来している。便(大便)とともに、ピリルビンは排出される。
*体温の維持
合成・分解など様々な化学反応が行われるため、反応熱が発生し、体温の維持にも役立っている。
=== 腎臓とその働き ===
<gallery widths=200px heights=200px>
File:Gray1120-kidneys.png|腎臓(kidoney)<br />(※編集者へ あとで、他の簡略図に差し替えてください。)
Image:Kidney PioM.png|腎臓の片側の模式図。 3.腎動脈 4.腎静脈 7.輸尿管 13.ネフロン <br />(※編集者へ あとで、他の簡略図に差し替えてください。)
</gallery>
ヒトなどの高等な動物の場合、腎臓(kidney)は左右一対で背側に位置し、
腎動脈(Renal artery)、腎静脈(renal vein)、輸尿管(ureter)が伸びている。
血液は腎動脈・腎臓・腎静脈を通り、
腎臓は血液中の不要な成分をろ過し尿として輸尿管・膀胱(ぼうこう、bladder)・尿道(にょうどう、urethra)を通り排出する。
[[File:Nephron illustration.svg|thumb|200px|ネフロン<br />1. 腎小体, 5~9あたりは集合管 赤い血管は動脈 青い血管は静脈。
図のように毛細血管が集合している。<br />(※編集者へ あとで、他の簡略図に差し替えてください。)]]
腎臓には'''ネフロン'''(nephron)と呼ばれる構造上の単位があり、
ネフロンは'''腎小体'''(じんしょうたい、renal corpuscle、マルピーギ小体)と'''細尿管'''(さいにょうかん、'''尿細管、腎細管''', renal tubule)からなり、
片方の腎臓あたり、ネフロンは約100万個ある。
腎小体は、毛細血管が球状に密集している'''糸球体'''(しきゅうたい、glomerulus)と、それを囲む'''ボーマンのう'''(Bowman's capsule)からなる。
{{-}}
[[File:腎臓の働きと再吸収.svg|thumb|500px|腎臓の働きと再吸収]]
タンパク質以外の血漿は糸球体からボーマンのうに ろ過 されて 原尿(げんにょう、primary urine)となり、
原尿は細尿管で、水の'''再吸収'''と、グルコースや無機塩類などの必要な成分が'''再吸収'''される。(「再吸収」も用語) グルコースは、健康なら、すべて(100%)吸収される。これらの再吸収は、ATPのエネルギーを用いた'''能動輸送'''である。
グルコ-ス以外の、水や無機塩類の再吸収率は、体の状況に応じて再吸収率が調節されている。原則的に、血液の塩類濃度を一定に保とうとする方向に、水や塩類の再吸収率は調節されている。この再吸収率の調整の際、ホルモンが関わっている。
原尿は集合管(しゅうごうかん、collecting duct)を通り、ここで水分が再吸収される。ナトリウムイオンは、腎細管でほとんどが再吸収される。その結果、原尿のナトリウム濃度は低い。
尿素は不要なため、再吸収されない。
そして原尿から水分が吸収されたことで、残された尿素などの老廃物や再吸収されなかったものが濃縮して'''尿'''(にょう、urine)となり、体外へ尿として排出される。なお尿素は肝臓で作られる。
ボーマンのうでこし出される原尿は、ヒトの成人男性では1日あたり約170Lもあるが、その大部分は再吸収されるので、最終的に対外に尿として排出される液量は1L~2Lほどになる。99%ほど濃縮されたことになる。
*再吸収とホルモンとの関係
ヒトなどの場合、血液中の塩分濃度が低いと、Naの再吸収がホルモンによって促進される。このホルモンは'''鉱質コルチコイド'''(mineral corticoid)という。腎細管でほとんどのナトリウムが再吸収される。鉱質コルチコイドは副腎皮質から分泌されている。
水の再吸収については、脳下垂体から'''バソプレシン'''(vasopressin)というホルモンが分泌されることによって、集合管での水の再吸収が促進される。
塩類の過剰な摂取などで、血液中の塩類濃度が上昇して体液の浸透圧が上がったときにも、バソプレシンによって水の再吸収が促進され、塩類濃度を下げさせる。水が吸収された結果、尿の液量は少なくなり、尿は濃くなる。
:※参考 このように尿量を減らす作用がバソプレシンにあるため、バソプレシンは「抗利尿ホルモン」(ADH)とも呼ばれる。<ref>嶋田正和ほか『生物基礎』数研出版、平成26年発行、p.119</ref>(※ 検定教科書での「抗利尿ホルモン」の記載を確認。) 専門書などでは「抗利尿ホルモン」の名称のほうを紹介している場合もある。
*再吸収の計算例とイヌリン
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=== 水中生物の塩類濃度調節 ===
==== 脊椎動物の場合 ====
*淡水魚の場合
淡水(たんすい)とは、川や湖のように、塩分をあまり含まない水のことである。海水は、淡水ではない。淡水魚の場合、体内の塩分を失わせないため、淡水魚は水をほとんど飲まない。淡水魚の えら は、塩分を吸収しやすい特殊な作りになっている。
*海水魚の場合
体内の水分を確保するため、まず海水を飲んで塩ごと水分を補給し、そして、えら から塩分を排出することで、体内の水分を確保している。
体液の塩類濃度が海水よりも低いのが一般である(体液が低張液、海水が高張液)。そのため、浸透によって水分が海水に取られてしまう傾向にある。サメやエイなどの硬骨魚類では、体液中に尿素を溶かすことで体液の塩類濃度を上げることで浸透圧を高めており、体液の浸透圧を海水の浸透圧に近づけている。
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*ウミガメの場合
水分の補給は、海水だけを飲むのだが、余分な塩分を排出する塩類腺(せんるいせん)を持ち、塩類腺から、塩分のたかい液体を排出している。腺の場所はウミガメの場合、目のところに腺があるので、陸上で観察すると、あたかも涙を流しているように見える。
*海鳥
アホウドリなどの海鳥は、鼻のところに塩類腺(せんるいせん)を持つ。
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==== 無脊椎動物の場合 ====
多くの無脊椎動物では、海に暮らす動物の場合でも、いっぽう川に暮らす動物の場合でも、あまり塩類濃度の調節機構が発達していない。
例外的に、いくつかの生物では発達している。
:'''カニの場合'''
:*モズクガニ
::川と海を行き来する。浸透圧の調節機構が発達している。
:*ケアシガニ
::外洋のみで暮らす。あまり塩類濃度の調節機構が発達していない。
:*ミドリイサ ガザミ (カニの一種)
::河口付近に生息。浸透圧の調節機構が発達している。
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:'''ゾウリムシの場合'''<br />
::'''収縮胞'''で余分な水を排出する。ゾウリムシは淡水に住む。
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=== ホルモン ===
'''ホルモン'''(hormone)とは、'''内分泌腺'''(ないぶんぴせん)という器官から血液へ分泌される物質であり、他の器官に情報を伝える化学物質である。ホルモンは血液によって全身へと運ばれる。そして、特定の器官へホルモンは作用する。'''脳下垂体'''、'''甲状腺'''、'''すい蔵'''などが内分泌腺である。
ホルモンは自律神経に比べて、反応が現れるまでに時間がかかり、比較的遅く、全身へ作用する。ホルモンの主な成分は、タンパク質や脂質やアミノ酸である。このように脂質は、ホルモンの成分として、情報を全身に伝える役目も持っている。脂質は、けっして単にエネルギー源なだけではないのである。
{| class="wikitable" style="float:right"
|+ おもなホルモンのはたらき
!colspan="2"| 内分泌 !! ホルモン !! はたらき
|-
| colspan="2"|視床下部 || 放出ホルモン|| 脳下垂体のホルモン分泌の調整
|-
| rowspan="4"|脳<br />下<br />垂<br />体 ||rowspan="3"|前葉 || 成長ホルモン || 成長の促進。タンパク質の合成を促進。<br />血糖値をあげる。
|-
| 甲状腺刺激ホルモン|| チロキシン(甲状腺ホルモン)の分泌を促進。
|-
| 副腎皮質刺激ホルモン ||糖質コルチコイドの分泌を促進。
|-
|後葉 || バソプレシン || 腎臓での水分の再吸収を促進。<br />血圧の上昇。
|-
| colspan="2"|甲状腺 || チロキシン|| 体内の化学反応を促進。
|-
| colspan="2"|副甲状腺 || パラトルモン|| 血液中のカルシウムイオン濃度を増加。
|-
| rowspan="2"|すい臓 ||A細胞 || グルカゴン || 血糖値を上げる。
|-
| B細胞 || インスリン || 血糖値を下げる。
|-
| rowspan="3"|副腎 ||髄質 || アドレナリン || 血糖値を上げる。
|-
| rowspan="2"|皮質 || 糖質コルチコイド || 血糖値を上げる。
|-
| 鉱質コルチコイド || 血液中の無機塩類イオン濃度(Na<sup>+</sup>とK<sup>+</sup>)の調節。
|-
|}
*外分泌腺
いっぽう汗のように体外へ物質を分泌する腺を外分泌腺(がいぶんぴせん)という。外分泌腺には、汗を分泌する汗腺、だ液を分泌する だ腺、乳を分泌する乳腺、などがある。
{{-}}
*交感神経と副交感神経
{| class="wikitable" style="float:right"
|+ 自律神経系のはたらき
! 器官 !! 交感神経の作用 !! 副交感神経の作用
|-
| ひとみ || 拡大 || 縮小
|-
| 心臓(拍動) || 促進 || 抑制
|-
| 血圧 || 上げる || 下げる
|-
| 気管支 || 拡張 || 収縮
|-
| 胃腸(ぜん動) || 抑制 || 促進
|-
| すい臓<br />(すい液の分泌) || 抑制 || 促進
|-
| 立毛筋 || 収縮 || (分布していない)
|-
| 排尿(ぼうこう) || 抑制 || 促進
|-
|}
自律神経(autonomic nerve)は、意思とは無関係に、他の器官に情報を伝える神経である。
自律神経はホルモンに比べて、比較的早く、局所へ作用する。
自律神経には、働きの異なる二つの神経系があり、'''交感神経'''(こうかんしねけい、sympathetic nerve)と'''副交感神経'''(ふくこうかんしんけい、parasympathetic nerve)とに分けられる。
交感神経は、敵と戦うなどの身体が活動的なときや緊張状態のときに働く。一方、副交感神経は、休息したりなどの身体が非活動的なときに働く。
たとえば、動物が、命がけで敵と戦うとか、あるいは敵に襲われて命がけで逃げなければならない、としよう。そのときの神経の働きを考えよう。
:まず、命がけなので緊張をするはずである。なので、交感神経が働く。敵と戦うにしても、逃げるにしても、すばやく力強く活動をする必要があるので、心臓の拍動が激しくなって、血行が良くなる。また、呼吸が活発になることで、すばやく力強く動けるようになる。いっぽう、敵から攻撃されたときの出血を減らすため、血管は収縮している。交感神経の働きは、このような働きになっている。
このように、交感神経は、闘争(そうそう)や逃走(とうそう)のときに、よく働く。この「闘争や逃走」のことを、英語でも fight or flight (ファイト・オア・フライト)という。
多くの場合、交感神経と副交感神経は、反対の作用を持つので、拮抗(きっこう)的に働く。交感神経と副交感神経は、同じ器官に分布している事が多い。
交感神経は、脊髄の末端から出ていて、分布している。
副交感神経は、'''中脳'''・'''延髄'''および脊髄の末端から出ている。
自律神経は間脳の視床下部に中枢がある。
神経の末端からは、情報伝達のための'''神経伝達物質'''が放出される。
交感神経の末端からは主に'''ノルアドレナリン'''(noradrenaline)という神経伝達物質が分泌される。副交感神経の末端からは、主に'''アセチルコリン'''という神経伝達物質が分泌される。
:(※ 図 レーヴィの実験)
{{-}}
==== ホルモンの受容体 ====
ホルモンが作用する器官を'''標的器官'''(ひょうてき きかん)という。標的器官の細胞には、特定のホルモンが結合できる'''受容体'''(じゅようたい)がある。ホルモンの種類ごとに、受容体の種類も異なるので、その受容体を持った特定の器官だけが作用を受けるので、特定の器官だけがホルモンの作用を受ける。
標的器官の細胞で、ホルモンの受容体を持った細胞を'''標的細胞'''という。
*ペプチドホルモン
タンパク質でできたホルモンは、分子量が大きいため、細胞膜を透過できない。このよう細胞膜を透過できないホルモンの受容体は、細胞膜の表面にある。アミノ酸が多数つながった長いものをペプチドというのだが、ペプチドでできたホルモンを'''ペプチドホルモン'''という。(※ 高校教科書の範囲内)<ref>吉里勝利ほか『高校生物』第一学習社、平成26年2月10日発行、p.54</ref>
:もし読者が高校科学をまだ習ってなくてペプチドとは何かを分からなければ、とりあえずペプチドとはタンパク質のことであり、ペプチドホルモンとはタンパク質で出来たホルモンだと思えばよい。
一般にタンパク質が細胞膜を透過できないため、ペプチドホルモンも細胞膜を透過できないのが普通である。インスリンはペプチドホルモンである。
なおホルモンに限らず、伝達物質が細胞膜にある受容体と結合したあとの、細胞内へ情報が伝わる仕組みは、カルシウムイオンCa<sup>2+</sup> を用いて情報伝達をしたり、あるいはcAMP(サイクリックアデノシン一リン酸、サイクリックAMP)や Gタンパク質 が、情報伝達に用いられる。cAMPやGタンパク質は酵素などに作用する。<ref>吉里勝利ほか『高校生物』第一学習社、平成26年2月10日発行、p.54</ref>なおcAMPはATPをもtにして酵素反応によって作られる。<ref>浅島誠ほか『生物』東京書籍、平成26年2月10日発行、p.24</ref>(※ これらの話題は高校教科書の範囲内)
これらカルシウムイオンやcAMPやGタンパク質のような、このような細胞内の情報伝達物質を'''セカンドメッセンジャー'''(second messenger)という。<ref>吉里勝利ほか『高校生物』第一学習社、平成26年2月10日発行、p.54</ref> (※ 高校教科書の範囲内)
ペプチドホルモンから細胞への情報伝達においても、カルシウムイオンやcAMPやGタンパク質がセカンドメッセンジャ-として機能する。
* ステロイドホルモン
いっぽう、脂質やアミノ酸を主成分とするホルモンの場合は、細胞膜を透過することができる。なぜなら、これらのホルモンは脂溶性であり、そしてホルモンが脂溶性ならば、リン脂質を主成分とする細胞二重膜を透過できるからである。このような細胞膜を透過するホルモンに結合するための受容体は、細胞内にある。
脂質でできたホルモンには、脂質の一種であるステロイド(steroid)で出来ているホルモンも多い。私たちヒトの脂質のコレステロールも、ステロイドの一種である。ステロイドでできたホルモンを'''ステロイドホルモン'''(steroid hormone)という。糖質コルチコイドや鉱質コルチコイドは、ステロイドホルモンである。ステロイドホルモンは、脂質に溶けやすく、そのため細胞膜を透過しやすい。(※ 高校教科書の範囲内)<ref>吉里勝利ほか『高校生物』第一学習社、平成26年2月10日発行、p.55</ref>
つまり糖質コルチコイドや鉱質コルチコイドは、脂質に溶けやすく、細胞膜を透過しやすい。
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例外もあり、脂質を主成分としながらも細胞膜に受容体を持つホルモンも発見されている。<ref>浅島誠ほか『理系総合のための生命科学』羊土社、2007年2月25日発行、p.256</ref>(※ 高校の範囲外)
:なお、実際のホルモンでは、タンパク質を成分とするホルモンでも、中には脂肪酸を持っていたりする物があったり、あるいは糖鎖がついていたりなど、より複雑である。<ref>浅島誠ほか『理系総合のための生命科学』羊土社、2007年2月25日発行、p.256</ref>(※ 高校の範囲外)
==== ホルモンの発見の歴史 ====
胃酸などを含んだ酸性の消化物が十二指腸に入ると、十二指腸から'''セクレチン'''(secretin)が分泌される。
当初、これは神経の働きだと考えられていた。
しかし1902年にベイリスとスターリングは、神経を切断した十二指腸に塩酸を注入すると、すい液が分泌される事を発見した。
さらに、体外に取り出した十二指腸の粘膜に塩酸を掛けてしぼった液を、すい臓(pancress)への血管に注射しても、すい液が分泌された。
これらの実験結果によって、十二指腸で作られた物質が血管を通してすい臓へ送られて、すい液の分泌を即していることが分かった。すい液の分泌を促進する物質は、'''セクレチン'''と名づけられた。
==== ホルモン分泌の調節 ====
ホルモン分泌で中心的な役割をしている器官は、間脳にある'''視床下部'''(ししょうかぶ、hypothalamus)と、視床下部の下にある'''脳下垂体'''である。
脳下垂体には前葉と後葉がある。
*神経分泌(しんけいぶんぴ)
間脳の視床下部には、ホルモンを分泌する神経細胞があり、これを'''神経分泌細胞'''(しんけい ぶんぴつ さいぼう、neurosecretory cell)という。また、このように神経がホルモンを分泌することを'''神経分泌'''(しんけい ぶんぴ)という。この間脳の神経分泌細胞により、脳下垂体の血管中にホルモンが分泌される。この神経分泌のホルモンは、脳下垂体のホルモンを調節するための放出ホルモン(releasing hormone)または放出抑制ホルモン(inhibiting hormone)である。
視床下部から伸びている神経分泌細胞が、脳下垂体に作用して、脳下垂体のホルモン分泌を調節している。
脳下垂体の前葉と後葉とで、分泌される血管の位置が違う。
脳下垂体前葉では、視床下部にある血管に分泌し、その血管が前葉まで続いて脳下垂体に作用している。前葉からは'''成長ホルモン'''(growth hormone)などが分泌される。
いっぽう、脳下垂体後葉では、視床下部からつながる神経伝達細胞が後葉まで続いており、後葉中の血管に、神経伝達細胞が直接、ホルモンを分泌している。
後葉からは、水分調節に関わる'''バソプレシン'''というホルモンが分泌され、バソプレシンによって腎臓での集合管における水の再吸収などが促進される。
*チロキシン
[[File:Thyroxine feedback jp.svg|thumb|450px|チロキシンのフィードバックによる調節]]
のどの近くにある甲状腺(こうじょうせん、thyroid gland)からは'''チロキシン'''(thyroxine)が分泌される。
チロキシンは代謝を活性化するホルモンであり、酸素の消費やグルコースの消費が、活発になる。
視床下部は、チロキシンの濃度を、つぎのような仕組みで調節している。
チロキシンによって、視床下部や脳下垂体による甲状腺刺激が抑制されるという仕組みである。
視床下部や脳下垂体は、チロキシンが多くなりすぎないように、チロキシンによってホルモンを抑制する。チロキシンによって視床下部は甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンを抑制する。また、チロキシンによって、脳下垂体は甲状腺刺激ホルモンを抑制する。こうして、チロキシン自身が最終的に、甲状腺からのチロキシン分泌を抑制するように働きかける。
逆にチロキシンが少なくなると、視床下部や脳下垂体が、甲状腺刺激ホルモンを通して甲状腺にチロキシンを増やすように働きかける。
チロキシンを受け取った細胞では代謝が活発になる。
このように、最終産物(この場合はチロキシン)が、前の段階(この場合は視床下部や脳下垂体)に働きかけることを'''フィードバック'''(feedback)という。
フィードバックは生物学に限らず、多くの分野で見られる現象だが、とりあえず生物学を例に説明する。
フィードッバックが前の段階を抑制する場合、負のフィードバック(negative feedback)という。ふつう、ホルモンは負のフィードバックによって、濃度などが一定の範囲内に近づくように調節されている。
:(※編集注 バソプレシンのフィードバックの図を追加。)
腎臓での水の再吸収に関わるバソプレシンも、負のフィードバックによって一定に保たれる。この結果、バソプレシンが人体の水分調節のためのホルモンとして働くことになる。
いっぽう、フィードバックによって、前の段階が促進される場合を正のフィードバックという。電子機械などで見られる現象で、たとえば音声マイクとスピーカーのハウリング現象(マイクをスピーカーに近づけたときの、うるさい現象。※ うるさいので実験しないように。)などが、正のフィードバックにあたる。
ハウリングの起きる仕組みは、マイクから入力された音が、スピーカーから出て、そのスピーカーから出た音をマイクがひろってしまうので、さらにスピーカーから音が出るので、音が大きくなり、その大きくなった音をふたたびマイクがひろってしまうので、さらにスピ-カーから、もっと大きな音が出てしまい、そしてさらに・・・という、とてもうるさい現象である。
==== ホルモンの働き ====
===== 心臓の拍動の調節 =====
心臓の拍動は延髄と自律神経によって調節されている。
運動などによって酸素が消費され、二酸化炭素濃度が高くなると、
延髄は交感神経を働かせ、
交感神経の末端から'''ノルアドレナリン'''(noradrenaline)が放出され、
心臓の拍動数が増加する。
逆に安静時に酸素の消費量が減り、二酸化炭素濃度が低くなると、
延髄は副交感神経を働かせ、
副交感神経の末端から'''アセチルコリン'''(acetylcholine)が放出され、
心臓の拍動数が減少する。
心臓の拍動の調節の実験には、
[[w:オットー・レーヴィ|オットー・レーヴィ]]のカエルの心臓を用いた[[w:オットー・レーヴィ#研究|実験]]がある。
レーヴィは2つのカエルの心臓を取り出してつなぎ、リンガー液を循環させる装置を作った。
片方の心臓からのびる迷走神経(副交感神経)を刺激すると、その心臓の拍動数が減少し、
しばらくして、もう片方の心臓の拍動数も減少した。
これにより、迷走神経のシナプスから化学物質が分泌され、
心臓の拍動数を制御していることが明らかとなった。
その化学物質は、今日ではアセチルコリンであることが分かっている。
===== 浸透圧の調節 =====
魚類の浸透圧の調節は、えら・腸・腎臓などで行われ、
淡水魚と海水魚の場合でその働きは異なっている。
淡水魚の場合、水分が体内に侵入するため、
えらや腸で無機塩類を吸収し、
腎臓で体液より低張の尿を大量に排出する。
海水魚の場合、水分が体外に出るため、
海水を大量に呑み込み腸で吸収し、
腎臓で体液と等張の尿を少量排出する。
また、えらから無機塩類を排出する。
哺乳類の浸透圧の調節は、腎臓で行われる。
また、腎臓の働きは、間脳視床下部・脳下垂体後葉や副腎皮質(ふくじんひしつ、adrenal medulla)によって調節されている。
水分の摂取などで、低浸透圧になった場合、副腎皮質が働く。
副腎皮質からは'''鉱質コルチコイド'''(mineral corticoid)が分泌される。
鉱質コルチコイドは腎臓の細尿管から無機塩類の再吸収を促進する働きがある。
水分の不足などで、高浸透圧になった場合、
間脳視床下部、脳下垂体後葉が働く。
脳下垂体後葉からは'''バソプレシン'''(vasopressin)が分泌される。
バソプレシンは腎臓の細尿管から水分の再吸収を促進する働きがある。
===== 血糖値の調節 =====
血液中に含まれるグルコースを'''血糖'''(けっとう、blood glucose)という。
健康なヒトの場合の血糖の含有量は一定の範囲に保たれ、空腹時で血液100mLあたり、ほぼ100mgという濃度である。
このような血統の値を'''血糖値'''(けっとうち)という。または血糖量という、または血糖濃度という。
グルコースは細胞の活動に必要な糖である。
血糖値が低すぎたり高すぎたりすると様々な症状を引き起こすため、
ホルモンと自律神経によって一定に保たれている。
食事などで炭水化物や糖質を取ると、一時的に血糖値が上昇する。逆に、急激な運動の後などでは下がっている。
血糖値が60mg以下(血液100mLあたり)だと、意識喪失や けいれん などが起き、危険である。運動などによって低血糖になると、間脳の視床下部が働く。
さて、血糖の調節に関わる器官は、すい臓および視床下部である。
視床下部は、交感神経によって、すい臓と副腎髄質を働かせる。
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*低血糖の場合
グリコーゲンが、つぎの仕組みで分解されることで、グリコーゲンからグルコースが取り出され、グルコース濃度を上げる仕組みである。
すい臓の'''ランゲルハンス島'''の'''A細胞'''からは'''グルカゴン'''(glucagon)が分泌され、
副腎髄質(ふくじんひしつ、adrenal medulla)からは'''アドレナリン'''(adrenaline)が分泌される。
グルカゴンやアドレナリンは、グリコーゲンをグルコースへ分解させる働きがある。
また、視床下部は放出ホルモンで脳下垂体前葉を働かせ、脳下垂体前葉は副腎皮質刺激ホルモンで副腎皮質を働かせ、副腎皮質からアドレナリンが分泌される。
また、副腎皮質が分泌する'''糖質コルチコイド'''(glucocorticoid)が、タンパク質を分解させて、その分解された元タンパク質を材料としてグルコースを合成させる。糖質コルチコイドは、タンパク質をグルコースへ分解させる働きがある。
アドレナリンやグルカゴンが、肝臓や筋肉に働きかけ、貯蔵されているグリコーゲンの分解を促進する。(肝臓や筋肉にはグリコーゲンが蓄えられている。)
これらの反応の結果、血糖値が上昇する。
*高血糖の場合
食事などによって高血糖になると、すい臓の'''ランゲルハンス島'''の'''B細胞'''が、血糖値の上昇を感知し、B細胞が'''インスリン'''(insulin <ref>高等学校学外国語科用『CROWN English Expression II New Edition』、三省堂、2022年3月30日 発行、P56</ref>)を分泌する。
インスリンは、グルコースをグリコーゲンへ合成させたり、
グルコースを細胞へ吸収・分解させたりする働きがある。
このインスリンが、細胞でのグルコースを用いた呼吸を促進したり、肝臓でのグリコーゲンの合成を促進するので、結果的にグルコースの消費が促進されるので、グルコースの濃度が下がり、グルコース濃度が通常の濃度に近づくという仕組みである。
また、間脳の視床下部でも血糖値の上昇は感知され、副交感神経の刺激を通じて、すい臓にインスリンの分泌をうながし、すい臓のランゲルハンス島B細胞がインスリンを分泌する。
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*糖尿病 (※ 高校の範囲'''内''')
いっぽう、病気により血糖値が常に200mgを越えると、'''糖尿病'''(とうにょうびょう、diabetes <ref>荻野治雄『データベース4500 完成英単語・熟語【5th Edition】』、桐原書店、2020年1月10日 第5版 第6刷発行、P.388</ref>)という病気だと判断される。<ref>文部科学省『高等学校用 疾病と看護』教育出版、平成25年発行、P.51</ref>
(※ 高校理科の範囲内<ref>浅島誠『生物基礎』東京書籍、平成26年2月発行、P.108</ref>)
糖尿病とは、すい臓からのインスリン分泌が、うまくは分泌されなくなってしまった病気である。インスリンが細胞と結合すると、グルコースを消費させる。しかし、インスリン分泌がうまくいかないと、この消費がなくなってしまい、その結果、グルコースが余る。
その結果、原尿にグルコースが高濃度で含まれるので細尿管でのグルコース吸収が間に合わず、尿中に高濃度のグルコースが含まれて排出される。
(もし健康なヒトなら、原尿のグルコースは、ほぼ100%再吸収されてるので、尿中には高濃度のグルコースは排出されない。なのに高濃度のグルコースを含む尿が排出されるという事は、つまり病気に掛かっている事になる。)
高血糖が長く続くと、欠陥が変性して血流が低下してしまい、その結果、眼や腎臓などの、さまざまな器官で障害を起こす。糖尿病には、このような各器官での合併症があるため、危険な病気である。
糖尿病の分類は、大きくは二つの種類に分けられる。
まず、インスリンを分泌する細胞そのものが破壊されていて分泌できない場合のI型糖尿病がある。若くして発症することが多い。
もう一つは、I型とは別のなんらかの原因で、インスリンの分泌量が低下したり、インスリンに細胞が反応しなくなる場合であり、これをII型糖尿病という。肥満や喫煙・運動不足などの生活習慣病などによる糖尿病で、II型糖尿病が多く見られている。
日本の糖尿病患者の多くはII型である。
糖尿病の治療には、I型・II型とも、インスリンの投与が行われる。患者は、食後などに毎回、自分でインスリンを注射しなければならない。
II型の生活習慣が原因と考えられる場合、食事の見直しや、適度な運動なども、治療に必要になる。
糖尿病の症状として頻尿(ひんにょう)がある。<ref>庄野邦彦ほか『生物基礎』実教出版、平成26年1月発行、P.51</ref>(※ 高校の範囲'''内''')
この原因は、原尿の浸透圧が血糖によって上昇したことにより、細尿管での水分の再吸収が減るためだと考えられてる。<ref>有田和恵ほか『解剖生理学』照林社、2007年6月発行、P.206</ref>(※ 高校の範囲'''外''')
また、頻尿などにより水分が低下するので、のどの渇きが起きる。
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血糖値をあげるホルモンの種類は多く仕組みも複雑である。なのに、血糖値を下げるホルモンはインスリンのみしか今のところ知られておらず、また仕組みも単純である。この事から、動物は、飢餓に適応して、血糖値の調節の機構を進化させてきたと考えられている。飽食の時代よりも、飢餓の時代のほうが、圧倒的に多かったのだろうと考えられている。
===== 体温の調節 =====
変温動物は、体温調節が不完全で、体温は外部環境によって変化する。
一方、恒温動物では、体温は、外部環境によらず、一定に保たれている。ヒトの場合、健康なら、体温は約37℃に保たれる。
体温の調節は、ホルモンや自律神経が行っている。体温調節の中枢のある場所は、間脳の視床下部にある。
*体温が低下した場合
寒さによって体温が低下すると、間脳の視床下部が働く。
視床下部は、交感神経やホルモンによって、肝臓や筋肉の代謝を促進し、発熱量を増加させる。
また、交感神経によって皮膚の血管や立毛筋を縮小させ、熱放散を減少させる。また、骨格筋をふるわせることで、熱を産生する。
また、チロキシンやアドレナリンなどが分泌され、肝臓での物質の分解を促進して熱を産生する。
*体温が上昇した場合
暑さによって体温が上昇すると、間脳の視床下部が働く。
視床下部は、交感神経によって、
皮膚血管を拡張し、汗腺から発汗させ、熱放散を増加させる。
また、副交感神経によって、肝臓での物質の分解が抑制され、熱の産生を抑える。
==== その他 ====
[[File:Thyroide.jpg|thumb|甲状腺(こうじょうせん)の場所]]
ヒトの 「のどぼとけ」 の、すぐ下には、甲状腺という器官がある。この甲状腺は、甲状腺ホルモンというホルモンを分泌している器官である。ホルモンとは、体内のいろいろな働きを調節するための分泌物(ぶんぴぶつ)である。くわしくは、中学の保健体育で習うか、または高校生物で習う。
さて、甲状腺ホルモンの主成分はヨウ素である。ヨウ素は、ワカメやコンブなどの海ソウに多く含まれている。
さて、通常のヨウ素には放射能(ほうしゃのう)が無く、安全である。だが、原子力発電などの原子核分裂では、放射性のある様々な原子が作られる。その中に放射性のある特別なヨウ素も作られる場合がある。
原子力発電などの事故などへの対策として、原子力発電所などの近隣地区に ヨウ素剤(ようそ ざい) が配布される理由は、この放射能のある特別なヨウ素が甲状腺に集まらないようにするためである。
体内に吸収されたヨウ素は、甲状腺に集まる性質がある。なので、あらかじめ、普通のヨウ素を摂取しておけば、放射性のある特別なヨウ素を吸収しづらくなるのである。もしくは、仮に吸収してしまっても、通常のヨウ素によって、放射性のあるヨウ素が、うすめられる。
なお、甲状腺ホルモンの働きは、体内での、さまざまな化学反応を促進(そくしん)する働きがある。
:(※ 範囲外)なお、ウランやプルトニウムの経口摂取などでの化学反応的な毒性は、実は不明である。ウランなどの放射線による毒性が高すぎるので、それが経口毒性などを覆い隠してしまうので、もし化学反応的な毒性があったとしても区別がつかない状況である。(※ ネットには、「ウランなどには経口摂取の毒性が無い」というデマがあるので、念のため記述。)
科学系に強い文庫である講談社ブルーブックス文庫の『元素118の新知識』によれば、引用「プルトニウムは放射性物質として危険であるだけではなく、化学的にもきわめて毒性が強い元素として知られている。」<ref>桜井弘『元素118の新知識』、講談社(講談社ブルーバックス文庫)、2017年8月20日 第1版発行、P420、</ref>
中略
引用「経口摂取や吸入摂取により体内に取り込まれ、長く体内に留まる場合には、その放射性および化学的反応性によって発がん性に結びつく。」<ref>桜井弘『元素118の新知識』、講談社(講談社ブルーバックス文庫)、2017年8月20日 第1版発行、P420、</ref>
である。
経口摂取の無毒性デマを真っ向から講談社ブルーバックスは否定している。
ほかにも、出典が見つからなかったので紹介しないが、放射線医学の専門書などを見ても、プロトニウムの放射性毒性ではなく化学毒性の可能性については、昔からよく学問的にも言われていることである。(※ この段落のwiki著者の地元の図書館に昔は放射線医学の専門書が置いてあったが2022年に図書館の本棚を調べたら文献が消失していた(※ 一般に公立図書館では古い書籍は廃棄処分などをされてしまうので))
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94ljs5tf6sryzx6sixp3axvc5oxt7bq
線型代数学/行列と行列式/第三類/行列の積
0
26332
206917
206905
2022-08-21T13:47:21Z
131.129.115.125
wikitext
text/x-wiki
次に行列どうしの積について説明する.
行列の積は少々面倒である.
成分ごとに積というわけにはいかない.
行列の積の基本は,次のような1行からなる行列と1列からなる行列の計算のしかたである.
:<math>
\left(
\begin{array}{c}
a & b
\end{array}
\right)
\left(
\begin{array}{c}
x \\
y
\end{array}
\right)
=
ax + by \quad\quad\quad
\left(
\begin{array}{c}
a & b &c
\end{array}
\right)
\left(
\begin{array}{c}
x \\
y \\
z
\end{array}
\right)
=
ax + by + cz
</math>
左の行列を列ベクトルとしてみれば,この計算はちょうど列ベクトルどうしの内積の値に等しくなる.
:<math>
\left(
\begin{array}{c}
a \\
b
\end{array}
\right)
\cdot
\left(
\begin{array}{c}
x \\
y
\end{array}
\right)
=
ax + by \quad\quad\quad
\left(
\begin{array}{c}
a \\
b \\
c
\end{array}
\right)
\cdot
\left(
\begin{array}{c}
x \\
y \\
z
\end{array}
\right)
=
ax + by + cz
</math>
2 行の行列と 1 列の行列の積は次のようにして計算する.
:<math>
\left(
\begin{array}{c}
a & b \\
c & d
\end{array}
\right)
\left(
\begin{array}{c}
x \\
y
\end{array}
\right)
=
\left(
\begin{array}{c}
ax + by \\
cx + dy
\end{array}
\right)
\quad\quad\quad
\left(
\begin{array}{c}
a & b & c\\
d & e & f
\end{array}
\right)
\left(
\begin{array}{c}
x \\
y \\
z
\end{array}
\right)
=
\left(
\begin{array}{c}
ax + by + cz\\
dx + ey + fz
\end{array}
\right)
</math>
左の行列を行にわけて計算するところがポイントである.
2 次の正方行列どうしの積,(2, 3) 型行列と (3, 2) 型行列の積はつぎのようになる.
:<math>
\left(
\begin{array}{c}
a & b \\
c & d
\end{array}
\right)
\left(
\begin{array}{c}
x & z\\
y & w
\end{array}
\right)
=
\left(
\begin{array}{c}
ax + by & az + bw \\
cx + dy & cz + dw
\end{array}
\right)
\quad\quad\quad
\left(
\begin{array}{c}
a & b & c\\
d & e & f
\end{array}
\right)
\left(
\begin{array}{c}
x & w \\
y & u \\
z & v
\end{array}
\right)
=
\left(
\begin{array}{c}
ax + by + cz & aw + bu + cv \\
dx + ey + fz & dw + eu + fv
\end{array}
\right)
</math>
左の行列は行に分け,右の行列は列に分けて計算する.
ここまでの例で一般の行列の積の計算の要領をわかっていただけたものと思う.
一般の行列の積に関してまとめると次のようになる.
<!-- def:007:start -->
<strong>定義7</strong>
<strong>行列の積</strong>
<math>A</math> を <math>(l, m)</math> 型行列,<math>B</math> を <math>(m, n)</math> 型行列とすると,
<math>AB</math> は <math>(l, n)</math> 型行列であり,<math>(i, j)</math> 成分は <math>A</math> の第 <math>i</math> 行と <math>B</math> の第 <math>j</math> 列の積である.
<math>\blacksquare</math>
<!-- def:007:end -->
行列 <math>A, B</math> の積 <math>AB</math> が計算できるためには,<math>A</math> の列のサイズと <math>B</math> の行のサイズが一致しなければならないことに注意する.
なお,この定義によると 1 列の行列と 1 行の行列の積は,
:<math>
\begin{pmatrix}a \\ b\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}x & y\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}ax & ay \\ bx & by\end{pmatrix}\quad\quad
\begin{pmatrix}a \\ b \end{pmatrix}
\begin{pmatrix}x & y & z\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}ax & ay & az \\ bx & by & bz \end{pmatrix}\quad\quad
</math>
となる.左の行列の行で,右の行列を列に分けると1つずつの成分で行,列を構成することになってしまうのでこうなるわけである.
盲点になっている人がいるので念のため.
こうして定義された行列の積について,次のような計算法則が成り立つ.
<!-- th:007:start -->
<strong>定理7</strong>
<strong>行列の積の計算法則</strong>
(1) <math>(AB)C = A(BC)\ \ \ </math>(結合則)<br />
(2a) <math>(A+B)C = AC + BC\ \ \ </math><br />
(2b) <math>A(B+C) = AB + AC\ \ \ </math>(分配則)<br />
(3) <math>AO = OA = O</math><br >
<strong>証明</strong>
以下、行列 <math>M</math> の第 <math>i</math> 行第 <math>j</math> 列成分を <math>m_{ij}</math>,
これと並行に成分の表示方法として,行列 <math>M</math> の各成分を <math>(M)_{ij}</math> と表示するものとする.<br />
<div id="matrix's-associativity">
(1)
行列の積 <math>AB, (AB)C, BC, A(BC)</math> のすべてが定義できるものと仮定する.<br />
定理7 より、<br />
<math>(AB)_{ij} = \sum_k a_{ik}b_{kj}</math><br />
よって、<br />
<math>(AB)_{ij} = \sum_x a_{ix}b_{xj}</math><br />
<math>\therefore \left\{ (AB)C \right\}_{ij} = \sum_y (AB)_{iy}c_{yj}</math><br />
<math>= \sum_y \left( \sum_x a_{ix}b_{xy} \right)c_{yj}</math><br />
<math>= \sum_y \sum_x a_{ix}b_{xy}c_{yj}\ \ \ (\because</math> <math>c</math> の添え字は内側の <math>\sum_x</math> の添え字<math>x</math>(従属変数)と関係ない。) <br />
同様に、<br />
<math>\left\{A(BC)\right\}_{ij} = \sum_x a_{ix}\left(BC\right)_{xj}</math><br />
<math>=\sum_{x}a_{ix}\sum_y b_{xy}c_{yj}</math><br />
<math>=\sum_x \sum_y a_{ix}b_{xy}c_{yj}\ \ \ (\because a </math>の添え字は内側の<math>\sum_y</math> の添え字<math>y</math>(従属変数)と関係ない。)<br />
<math>=\sum_y \sum_x a_{ix}b_{xy}c_{yj}</math><br />
<math>= \left\{ (AB)C \right\}_{ij}</math><br />
<math>\therefore A(BC) = (AB)C</math><br />
(2a)
行列の積 <math>(A + B)C, AC, BC</math> が定義可能であると仮定する.<br />
<math>\left\{ (A+B)C \right\}_{ij} = \sum_k (A + B)_{ik}c_{kj}</math><br />
<math>= \sum_k (a_{ik} + b_{ik} )c_{kj}</math><br />
<math>= \sum_k (a_{ik}c_{kj} + b_{ik}c_{kj})</math><br />
<math>= \sum_k a_{ik}b_{kj} + \sum_k b_{ik}c_{kj}</math><br />
<math>= (AC)_{ij} + (BC)_{ij}</math><br />
<math>= (AC + BC)_{ij}</math><br />
<math>\therefore (A + B)C = AC + BC</math><br />
(2b)
行列の積 <math>A(B + C), AB, AC</math> が定義可能であると仮定する.<br />
<math>\left\{ A(B + C) \right\}_{ij} = \sum_k a_{ik} (B + C)_{kj}</math><br />
<math>= \sum_k a_{ik}(b_{kj} + c_{kj})</math><br />
<math>= \sum_k a_{ik}b_{kj} + a_{ik}c_{kj}</math><br />
<math>= \sum_k a_{ik}b_{kj} + \sum_k a_{ik}c_{kj}</math><br />
<math>= (AB)_{ij} + (AC)_{ij}</math><br />
<math>= (AB + AC)_{ij}</math><br />
<math>\therefore A(B + C) = AB + AC</math><br />
(3)
<math>O</math> を零行列とし、行列の積 <math>AO</math> および <math>OA</math> のいずれも定義可能であると仮定する.<br />
<math>(AO)_{ij} = \sum_k a_{ik}o_{kj}</math><br />
<math>= \sum_k a_{ik}\cdot 0 \ \ \ \because o_{kj} \equiv 0</math><br />
<math> \equiv 0</math><br />
<math>\therefore AO = O</math><br />
<br />
<math>(OA)_{ij} = \sum_k o_{ik}a_{kj}</math><br />
<math>= \sum_k 0\cdot a_{kj} \ \ \ \because o_{kj} \equiv 0</math><br />
<math>\equiv 0</math><br />
<math>\therefore OA = O</math><br />
<math>\therefore AO = OA = O</math><br />
<math>\blacksquare</math>
<!-- th:007:end -->
行列の積の計算練習を行う.
<!-- ex:005:start-->
<div id="ex:5">
<strong>演習5.</strong><math>\quad</math>行列の積<br />
<br />
<math>
A =
\left(\begin{array}{c}
2 & -1 \\
3 & 1
\end{array}\right)
, \ B =
\left(\begin{array}{c}
-2 & 3 \\
2 & 1
\end{array}\right)\ </math> のとき,<math>AB, BA</math> を求めよ.
<strong>解答例</strong>
<math>\blacksquare</math>
<!-- ex:005:end-->
ex1p6twz90hgkzizbs6whvh24ebb572
ゲームプログラミング/バランス調整
0
27004
206925
206852
2022-08-21T21:52:20Z
Honooo
14373
/* 始めよければすべてよし? 或いは終わりよければすべてよし? いやいや、どっちにしろ全然駄目なこともあるよ^^ */
wikitext
text/x-wiki
{{substub}}
現在の版の著者達は、ゲーム戦闘の調整の経験はないので、現状では本ページの内容は調べ物としては役立ちません。経験があり、かつ人間性も良好な人の協力をお待ちしています。
==本ページの目的==
本科目『ゲームプログラミング』は、科目名に「プログラミング」とあるとおり、ゲームクリエイターのための教材ではなくプログラマーのための教材です。
従って、話題がプログラミング的な技術的な話題に片寄っています。一般のゲームクリエイターを目指す人には、本書のバランス調整の記述は到底、役立ちません。
プログラマーが、とりあえず何か趣味でゲームを作る際、バランス調整についての調べ物の手間を少なくするためだけの目的の教科書です。
……と、前編集者Suj. は書いたんだけど、その割にはこの人物の私欲を満たすためだけの駄文が結構くどくど書かれてる気がするんだけど…
気のせいか?まあまだちゃんと読んでないしね、熱でもあるのカナ? コロナか^^?
==バランス調整==
ゲームには難易度というものがあるが、そのゲームの面白さのため、あるいは商品としての購買力アップのため、調整し、最適値を見出す必要があるだろう。敵の強さや主人公の強さ、それらを調整し、最適値を見出すための調査、テストプレイなどが必要だ。
より普遍的に、バグ修正、操作性の改善、仕様実装の更新、そして今書いたバランス調整、ゲームを面白く、評価を高めるための様々な改善を、一般にチューニングと呼んでいる。
英語では、難易度の調整のことを「レベルデザイン」と言う。このレベルとは、高低差の意味で、欧米での昔の3Dゲームにおける、マップの高低差を意図しているらしい。このレベルを調整するツールをレベルエディタというが、このマップの高低差の調整で難易度が変わるので、しだいにレベルデザインが難易度の調整の意味になっていったという<ref>川上大典ほか著『ゲームプランとデザインの教科書』、秀和システム、2018年11月1日第1版第1刷、P.57</ref>。
難易度デザイン、という言葉も使われている<ref>川上大典 ほか著『ゲームプランとデザインの教科書』、秀和システム、2018年11月1日 第1版 第1刷、P.58</ref>。
そして、難易度の調整にはマップの処理もあるので、3Dゲームのレベルデザイン担当者は、MAYAなどの3Dグラフィックツールの技能を持っているスタッフが多いという<ref>吉冨賢介『ゲームプランナー入門』、P234</ref>。
===詰み、を避けたい===
製品として販売するゲーム、そしてそうでなくとも、プレイヤーがセーブした時点でクリア不能な状況、仕様になっている、つまり、プログラムの流れとして事実上そうなっている、これを「詰み」、と呼んでいますが、それは避ける必要がある。
これはプログラムの構造の問題ですが、ゲームは進行の仕様自体かなりの複雑さを持っていますから、制作者が気付かないうちにプレイヤーがそこに追い込まれる可能性があり、これは娯楽であるゲームとしては避けたい事態です<ref name="twogc78">蛭田健司『ゲームクリエイターの仕事 イマドキのゲーム制作現場を大解剖』、翔泳社、2016年4月14日初版第1刷発行、P78</ref>。
まず、ゲーム全体のバランスとして、平均的なプレイヤーなら、妥当な労力でクリアできる調整も必要でしょう。
ゲームプレイで詰みに追い込まれるのは、プログラムの構造の悪さでもありますが、それを見つけ出すためには、具体的にテストプレイにおいて、少なくとも誰か一人のテストプレイヤーが、そのゲーム内で想定できるクリア困難な状況から、実際に挽回してクリアしたという、事実、実績が必要です。
つまりコンピュータープログラムで常にセキュリティの問題が発生するのと同様に、ゲームプログラムでは構造が複雑になりすぎて、詰みがプログラマーの想定を超えて発生する可能性があるので、実際のプレイで、実際のプレイヤーの現実の巻き返しで確認して調整したい、という事ですね<ref name="twogc78" />。
そして一方難易度調整として、平均的プレイヤーが平均的な労力でクリアできるようにしておきたい。
ちなみに現編集者の昔のゲームプレイ経験ですが、初代ファミコン版のファイナルファンタジーですね、番号は幾つだったか……市販の攻略本を読みながらプレイしていたのですが、あるところまでいった時点で、攻略本を読んでも、どう考えても先に進めない状況に陥り、まあ私のプレイヤーとしての技量にも問題あったのかもしれませんが、結局にっちもさっちもいかなくなって、プレイを放棄してクリアしないまま積みゲーになってしまったことがあります。もちろんそれでそのゲームの仕様が悪かったと主張するつもりはありませんが、プレイヤーの私としてはその時点で完全に詰んでしまったわけです。
===実はゲームプレイヤーだけではなく、あらゆる人間が面倒くさい、俺も、あんたもね^^===
……しかしあんまり面倒くさがると、結局最後には偉い人に怒られてしまうのがこの社会の常です^^;;;。
一般にゲームプレイヤーがプレイ中に面倒くさがることは、覚えること、計算すること、配ること、だと言われています<ref>『ゲームプランとデザインの教科書』,P342</ref>。
ゲーム中に、Wolfram|Alpha が使えるような仕様にすると、案外よかったりしてね^^
===ゲーム制作者はいろいろ考えて作っているだろうけど、プレイヤーだってそれに負けずに考えてプレイしている===
プレーヤーも制作者も、時代の流れとともに、色々な変遷はありますよね。
時々指摘されるようですが、昔よりの最近の方が、ゲームの難しさに関する感受性が大きくて、割と簡単にこのゲームは難しいと指摘されることが多い、と、言われている。
たとえば携帯ゲームにおいて、平均的なゲームプレイヤーがクリアまでに5回ゲームオーバーになるように調整されたゲームは、今では「難しい」ゲームと判断される<ref>『ゲームプランナーの新しい教科書』、P210</ref>。つまり昔のプレイヤーの方が我慢強かったってこと??
一方平均的なプレイヤーならゲームオーバーにならない難易度のゲームは、やさしいゲームと呼ばれることが多い。
だからもはやゲームの難しい易しいという言葉さえ、相対的で、結構人によって判断が違う。
2011~2013年頃のテレビ番組で、ゲーム業界を取材した番組、夜中の番組で、こういうものがあったという。
「昔の子供は、難しいゲームをプレイしたとき、「このゲームは難しい」と答えていたが、今の子供は「このゲームはつまらない」 と答える」
しかし実はテレビというのはこの社会で一番いい加減なメディアで、常に制作者に都合のいい印象操作、不当なイメージ操作が行われている。
つまり昔の子供より今の子供の方が愚かだというイメージを作りたいだけで、インチキな企業のためのいんちきな広告としての意味以外何も持たないだろう。
===商業だろうとそうでなかろうとゲーム制作はプレイヤーの事を考える、難易度はどうする?===
『ナナのリテラシー』という漫画、作者はゲーム好きで、ゲーム雑誌でも描いていたことがあるようです。ビジネス系しかもノウハウ系かな?2巻がゲーム会社回。
ゲーム会社の隅の老人経営者曰く(この漫画内の話ですよ)、「誰もが飛び越せる絶妙な難易度の壁をクリアさせる」、これがゲーム作りのコツじゃ^^!!!
この漫画、前編集者が書くにはかなり、そこそこ取材されているという。
「PS」(プレステ)のロードは、「1回のロードで2WMが限界。どんなマップも2メガに入れなくちゃいけない。会話も音楽も全部ね。」なんて描写があるらしい。
この老人の主張は作品自体の主張でも作者の主張でもないというが、しかし前編集者は重要な事だと考えているようだ。
しかし誰もが飛び越せる絶妙な壁をクリアさせて、消費者に快楽を与えて、ガッポガッポも儲けるにしても、人間には個性があり、性格や性質にもばらつきがある。
全ての人に等しく、偉そうに試練を与えて、それを乗り越えたから気持ちいい、と自己満足に等しく浸らせることは難しい。
だから、インチキにガッポがっぽ儲けるためには(←しつこい^^;;;)、ターゲット層をある程度はしぼりこむ必要がある<ref>『ゲームプランとデザインの教科書』、P.97 </ref>。
「遊んだプレイヤー全員が満足するものを、目指さない」との記述がある書籍もある<ref>塩川洋介『ゲームデザイン プロフェッショナル』、技術評論社、2020年10月3日 第1刷発行、P.173</ref>。ただこれはテストプレイヤーの意見を重視しすぎて振り回されないように、という意図がある記述だという。
ターゲット層を絞りこむには、実在の人物をイメージするのが良いと言う。「20代社会人男性が」、ではなく、自分の知人・友人・家族、あの人を面白がらせたい!!、と、いうのがいいようだ<ref>『ゲームデザイン プロフェッショナル』、P205</ref>。
{{コラム|カラケオは気持ちよく歌いたい^^|
80年代~90年代にカラオケが流行した。と、いっても今でも、盛んだけどね。俺も好き^^
カラオケの難易度は、利用者が楽しめるように易しめに作られているようですね。というか前の項目で書いた、絶妙な難易度らしいよ。そこそこ難しく、それを乗り越えると俺は偉いと自己満足にふけれるらしい。岡田斗司夫が90年代後半にその指摘をしていたというが、しかし本当に前編集者は岡田斗司夫が好きなのね^^;;;。
小室哲哉の曲が典型的にそれだという人もいるらしい。そういえば、NHKアニメーション「だぁ!だぁ!だぁ!」のエンディングは凄く良かったな^^。いや、もちろんこれは只の雑談ですが^^;;;。
エヴァンゲリオンの残酷な天使のテーゼは、監督やスポンサーのレコード会社プロデューサーが、子供でも歌いやすいように作曲してくれと作曲家に依頼している。
確かに凝った楽曲の割に、カラオケで歌いやすい^^
}}
{{コラム|作者の意図通りに視聴者が受け取るとは限らない。作者の意図とは全く別に受け手は作品を楽しむ。それが嫌ならそもそも創作するなよ。|
商業作品であるなら、最終的には売上によって作品の是非が決まる、なんて前編集者は書いてるけど、インチキ書くなよ、あくまでも金は商売としての是非、作品としての価値、意義は別の話だよ。
しかしこいつほんとにアフリマンなのね。金と物質以外何も見えないのか。
ゲームの話題としては、味の善し悪しはプレイヤーが決める、という言葉があるようですね<ref>『ゲームデザイン プロフェッショナル』、P.167</ref>。ターゲット層が、美味い^^!!、と、いう作品を作りたい。
ジブリアニメの『となりのトトロ』は、子供たちにアニメばかり見ずに外で遊ぶように啓蒙するようなストーリーを作者・監督の宮崎駿は目指したと言われています。
ところでこれ↑前編集者の文章だけど、完全なる虚偽だよ、いいかがんにしろ。あのねー、宮崎さんという人は確かに少し偏屈な大人だから、その手の事は時々言うけど、映画を作る時は基本的に、見た人に楽しんでほしい、夢のような時間を過ごしてほしい、そしてこの社会に生まれてよかったと、子供も大人も思ってほしい、そういう思いで、常にそれが第一テーマで漫画映画を作ってるの。
すじ肉先輩さー、あんた俺や他の編集者を何度も知ったかぶりって書いたけど、結局あんたが人類史上、唯一最大の知ったかぶりだね。そもそもあんた、トトロ、観てないんじゃないの?
ほんとにあんたってなにも見えてないのね。「うちの子は、よく宮崎先生のアニメを見ています。面白いアニメを作ってくださり有難うございます」なんて感想は全く問題ないだろ。宮崎氏だってありがたく受け取ってるよ。それに対してアニメばかり観ずに外で遊べ!!なんて言うのはお前とお前の同類のキチガイだけだ。
あとガンダムやエヴァンゲリオンでも似たような逸話があるとのことだが、こっちはどうでもいい。そもそもこれを作っている連中は、宮崎氏ほど切迫した気持ちで作っているわけではなく、ただ金が欲しくて自分が偉いと思いたいだけだから、作った方がどう思おうが、そいつらに金を与えて養ってる連中がどう思おうが、大したことじゃあないだろ?
}}
===チュートリアル===
ゲームをプレイするための、操作方法をプレイヤーが知って覚えるための入門的なイベントをチュートリアルというようですね。実は現編集者はあまり、特に最近はほとんどコンピューターゲームはしないので、ここの執筆をしつつもゲームについてはあまり知らない。
ただここの主要執筆者で、ゲーム大好き、プログラム大好き、アニメ大好き、自分自身も一応絵描き、そしてハイルオタキングの E.Suj. かなりひどい内容の文章を大量に書き散らすので、このサイトの参加者として嫌々多少書き直しをせざるを得ない。
そこでチュートリアル、これはふつうゲーム自体に組み込まれ、初盤がそれになりますが、これは別モードにすると良いという指摘がある<ref>『ゲームプランとデザインの教科書』、P401</ref>。
『不思議のダンジョン2 風来のシレン』が、このスタイルを採用している。
とはいえプレイヤーが必ずチュートリアルをプレイしなければ、ゲームを楽しめない構成なら、あまり大きな意味があるとも思えないが、しかしそうでない場合も多いだろう。
ゲーム構成の選択手として考えてもいいだろう。
===技能の習得としてのゲーム===
====ゲームをプレイしていることで、プレイヤーは何を知って、何を身につけているか?====
まあゲームをしていることで、プレイヤーは何らかの行為、練習を繰り返して、技能様の物を身につけていく、と、考えても、いい? まあいいか、とりあえずはそう見なしましょう。
ですからそこでプレイヤーが身に着ける技能を想定しておくと、上手にバランス調整が出来るという。
すじにく大先生が愛読している文献では、「教育的難易度」という用語を使っています<ref>吉沢秀雄『ゲームプランナー入門講座』SBクリエイティブ、2015年12月29日 初版第1刷発行、225ページ</ref>。まあゲーム関係者で教育について分かってる奴なんて、ほとんどいないだろうけど…
ここでの教育難易度とは、むしろ大先生の意図とは逆で、ある敵を攻略するのにプレイヤーがなんらかの操作が必要な時、まず1個だけのその敵の撃破用の操作技能だけをプレイヤーが修得できれば攻略できるようにしろと、つまり、プレイヤーが技能を覚えやすいように、難易度を下げろという事でしょう。
前編集者は本質的キチガイなので、とにかく世の中で自分が偉いことが何より大事なので「教育」という言葉を使いたい。一方で割と似たようなことを語る時に、学習という言葉を使っている文献もある<ref>『ゲームプランとデザインの教科書』、P.61 </ref>。要するにこの本の筆者の方が、E.Suj. よりまともな人間だという事でしょう。
ただ、プレイヤーの技能の習得という視点は、バランス調整の時に一番重要になるという。確かにゲームは技能や知恵、解決のための何らかの手段、鍛錬も必要だが、一方では間違いなく娯楽で、面白いものであるはずだ。
そしてゲームをすることで、自分の思考力が磨かれて、成長したという感慨を持つプレイヤーも多いようで<ref>https://www.teu.ac.jp/ap_page/koukai/2019_03_3endo.pdf 66ページ</ref>、全くその気持ちを否定する意図はないが、でもねー、ゲームっていうのは結局遊びなんだよ?
ゲーミフィケーションなんて言葉を使っていい気になっている連中もいるようだけど、まあその概念や運動がまったく意味を持たないとは言わないが、でもやっぱりゲームは娯楽であり遊びであり、ある程度堕落した、ある程度常識的な硬い世界からは非難される要素があるもので、あまり理屈を並べて自分たちの世界が高級なものだと主張しない方がいいんじゃあない?
{{コラム|ゲーミフィケーション|
どうもゲーム業界の連中が、自分たちの仕事を美化して、正当化したいため、ゲーミフィケーションがどうの、なんて言いだしたようだよ<ref>https://news.denfaminicogamer.jp/kikakuthetower/190731a</ref>。
2019年にゲーミフィケーション学会設立。もっともこの運動や概念がまったく意味がないものだとは、現編集者も言わない。確かにゲーム的な行為を、もう少し遊びから離れて、現実の有用な出来事に結び付けようというのは、それほど間違っていないし、意義はある。
2013年ごろからすでに、企業の新人研修で、ゲームの要素を取り入れた研修などがされていたようだ。
岸本好弘(ファミスタの父、と呼ばれているらしい)の言では、「ゲームの本質っていうのは、人間が頭で想像することの素晴らしさ」<ref>https://www.fantasy.co.jp/edutainment/article/interview16</ref>ってことらしいけど、なんか軽い言葉だね。想像には意義があるが、それってほんとに頭でするもの?
40年前(※1980頃?)、
:「そのころアーケードゲームのデザインで言われていたのは、初めてそのゲームに挑戦したプレイヤーでも3分間程度は遊べるようにすること。「もう一度チャレンジしたら、先に進めそうだ!」と、プレイヤーの気持ちが動くように制作すること」
ってことだけど、そうすれば子供が100円玉いっぱい入れて、お前らが儲かるってだけだろ?
:「これって、現在IT業界で言われるUX、ユーザーエクスペリエンスですよね。ゲーム業界では理論化、言語化していなかったけれど、40年前から現代に通じることをやっていたんだなと思いました。」
何かそれらしい言葉だけ踊ってかっこつけてるようにしか聞こえん^^;;;。
:「ゲームって全部「そそのかし」なんです。ゲームをプレイしていて、Aの洞窟に行きなさいとか、Bの洞窟には行くなとは言われないですよね。プレイヤーが2つの洞窟をぱっと見たときに「こっちの洞窟に宝があるかも!」って見えるように作っているんです。これを「そそのかし」って言うんです。」
まあそれはそれでいいけど、それってそんなに大したことかね?
: (抜粋)「先生は答えを教えるのではなく、生徒が自分で「わかった!」、「僕が一人で気が付いた!」と思わせることが大切。」
思わせるっていうのがすごいし、傲慢だよな。お前は神か?
: 「ゲームをデザインするのも授業をデザインするのも同じです。楽しいと思うことやワクワクすることは脳の働きを最大限にする。だから、つらいことを我慢するのはよくない。脳が楽しいと感じることがとても大切なんです。」
お前みたいな奴って、すぐ脳がどうのって言うよな。まあ楽しいことやワクワクするのが大事なのは認めるが、人生つらいことを我慢しなければいけない時なんてしょっちゅうだよ。後ゲームと授業は別物にしろ、一緒にするな。
しかし思うんだけど、ゲーム業界の奴らって、自分たちの仕事に少しやましさがあるから、教育と結び付けて、高級なものに仕立て上げたいんじゃあないの?
まあゲーム的な教育っていうのはありだが、やはりゲームの本質は遊びで娯楽で、しかも堕落だよ。
}}
{{コラム|すじ肉しちゅ~は今日も右手を上げて、「ハイル、オタキング!!!」と言った。|
1990年代後半に、オタキング岡田斗司夫は、著書『世紀の大怪獣!!オカダ―岡田斗司夫のお蔵出し 』(おそらく)で、マリオカートを例に、市販のゲームソフトの多くは達成感を味合わせるものだと指摘した。
岡田に言わせれば、ゲーム文化以前の人生の趣味の多くは、必ずしも努力の量と、上達とが比例しない。スポーツ、絵画、しかしこれほんと?もちろん厳密に量を考えて、グダグダ気色悪い比較をすれば、そう見えることはあるけど、少なくとも人間、何かをすれば必ず、それなりに得るものがあるはずなんだけどね。
しかしファミコン以降のコンピュータ式のゲームでは努力は無駄にならず、ほぼ必ずといっていいくらい、少なくとも初心者レベルの範囲でなら、プレイして練習すれば上達するように設計されていると、岡田の著書では述べられている。
ふーん、要するにゲームプレイヤーって、ゲーム制作者が作った達成感が欲しいから、金払うってわけね。
岡田が言うには、人生はゲームみたいに甘くないし、もしかしたらゲームは現実逃避で不健全かもしれないけど、でも大人だって親だって達成感をもっと感じたいんだぜ・・・だから今日も娘といっしょにマリオカートをプレイしている、と書いてたって言うけど、そもそも現実逃避や不健全から達成感って手に入る?
なんか頭のおかしい奴はやたら達成感って言うんだけど、それってほんとに欲しい?
いや、もちろんある程度は欲しいけど、でもそんな重要な事かね? もっと人生で必要なもの、いっぱいないかね?
}}
{{コラム|ガイナックスとはオタキング岡田斗司夫が創業した、アニメーションとコンピューターゲームの制作会社である。|
ガイナックスは、コンピューターゲームも作っていたね。確か、美少女18禁ソフトもあったよね。
1991年、『プリンセスメーカー』、育成シミュレーションゲーム。確かに赤井孝美さんのグラフィックは魅力的だった。
少女を光源氏的に育成するゲームだったか、キャラクター育成ゲームのはしりだね<ref>STUDIO SHIN『ゲームプランナーの新しい教科書』、翔泳社、2018年3月10日 初版 第2刷 発行、P182</ref>。
98年にはコナミ社『ときめきメモリアル』というのが出た。ただこれは育成というよりは、美少女との恋愛疑似体験ゲームみたいな、まあ俺はやったことないから詳細は知らないけど、まあ美少女と上手に付き合えるように、男性キャラクターを育成する要素はあったのかね。
「プリンセスメーカー」→「同級生」→「ときメモ」の流れがあるって、ある評論家は言う。
良くわからないけど、岡田斗司夫はゲーム制作会社の社長でもあるんだから、前のコラムの達成感がどうののたわごとに意義を認めろって、すじ肉は書くんだけど、なんなのこいつ。
岡田斗司夫の肩書に関する議論って意味ある?
別にアニメ評論家でも、会社社長でも、なんでも勝手に名乗って威張っていればいいけど、でもやっぱり岡田斗司夫の肩書は、オタキングだよね。
}}
{{コラム|プリンセスメーカーdeathpenalty|
少女育成ゲーム・プリンセスメーカーは全滅時の損失が軽いのが、割と画期的だったようです。戦闘で全滅すると、拠点に戻されたうえ、1か月経過する。
全滅時の損失のことを和製英語でデス ペナルティといいます。英語では dead damage と云うらしい(DDと略すようです)。英語の death penalty は「死刑」の意味だって。
つまりどうやら、デスペナルティが軽くても、面白いはRPG は作れるらしい。
;デスルーラ
全滅しても拠点に戻るだけのシステムだと、拠点に戻りたい場合にわざと全滅する方法を使える。これを和製英語で「デスルーラ」と言う。ルーラとはドラクエの移動魔法ルーラのこと。
全滅したときに拠点に戻るゲームでは、拠点に戻れなくするイベントは不可能。
全滅したら拠点に戻れるからね。ただ、戦いが起こらなければどうかな?
どちらにしろこの議論、意味ある?
ただ例外的に全滅したとき拠点以外に戻る、っていう事は仕様で作れるよね。
}}
{{コラム|Roblox,Among_Us|
現編集者は現在は基本的に、コンピューターゲームはしない生活、でもほんのちょっと前、思うところあって、MicrosoftStore,Xbox 経由で、すこしゲームをしていた時期があった。
そしてMicrosoftStore はなんだかんだでゲームを売り込んでくるよね。
その時思ったんだけど、Roblox って面白そうだよねー。プレイはしていないんだけど、広告や表示を見ると、これ絶対面白いなって直感的に思う。
だからこのゲームのユーザーやプレイヤー、あるいは関係者にこのページの執筆してほしいな^^
後、Among_Us っていうのも面白そう。何か皮肉がすごく効いてそうだね。
}}
{{コラム|デスペナルティ関連|
このコラム、前編集者が、(この話題は、後述の商学書『メイド・イン・ジャパンは負けるのか』の話題と関連するので、残す必要がある。)ってメモを張っていたんだけど、読んでみたんだけど、現編集者Hにはちょっと話が見えなくてね。おそらくRPG をやりこんでいる人は内容が良くわかるんだろうけど、現編集者にとってはかなりの部分が???????だね。だからできるだけまとめる一方で、詳細不明の部分は前編集者の記述をそのまま残しました。
;帰り道を通せんぼするイベントは、詰みのリスクが高くなる。
サガシリーズはどこでもセーブできるが、この場合、帰り道を通せんぼするイベントは、上手に設計しないとクリア不能になる恐れがある。
ファミコン~スーファミ時代のドラクエとファイナルファンタジー、GB版サガとロマサガには帰り道を通せんぼするイベントは無いように見える。
ロマサガ1の氷結城の帰り道で通せんぼするボス敵がいる。しかし会話選択肢で戦闘を回避すると、詰みを避けられる。
古い時代のサガ系とロマサガでは、ダンジョン奥まで探検すると、最深部に一方通行のダンジョン出口がある。これは帰り道短縮の意味と、テンポ感向上(プレイヤーが既に理解していることを再度要求しないから)の効果がある。
しかしこの場合、もしダンジョンに一方通行出口がない場合、プレイヤーは帰り道にボス戦があると予測する。これはネタバレになってよくない。ドラクエは、最後の一方通行出口をあまり用意しないが、この狙いがあるのだろう。
このようにゲームのルール設定が、可能なイベントやマップを限定する。
}}
さて、ゲームのシリーズ物は、ルールが一様になる傾向がある。
だから、シリーズ作品によって搭載されるイベントの傾向も決まってくる。
イベントの傾向が限定されると、マンネリ化につながる恐れもある。
『メイド・イン・ジャパンは負けるのか』という2010年ごろの書籍でも、
シリーズ化とマンネリ化との相互関係が語られていて、基本的に家庭用ゲーム機の作品群の多くはゲーム性の根幹が90年代以降の作品は変わっておらず、変わったのはグラフィックが細かくなっただけ、と書かれている。
しかしゲーム会社からすれば、新規の斬新な発想のゲームはむしろ売れないと見られている。
グラフィック重視は、商業ゲームでは非常に重要と考えられているらしい。
そしてゲーム評論家は偉そうな批判はするが、自分では結局ゲームを作らない。
1980年代は、家庭用ゲーム黎明期。1995年ごろ、プレステ1時代からソフト容量が飛躍的に伸びた。
昔はゲームに勢いがあったが、今となっては、新しくて画期的かつリアリティと説得力のあるルールを思いつくこと自体、そんな簡単な事ではない。
漫画産業やアニメーション産業は黎明期をとっくに過ぎたようだが、結局今でもこの産業は続いている。そもそも、ラジオ、新聞、書籍、オールドメディアと呼んでいい産業も、今、しっかり続いている。2010年代のゲーム産業だって、もしかしたらスマホゲーム黎明期、ソーシャルゲーム黎明期なのかもしれない。
{{コラム|オタキングアノマリー論|
オタキングによるアノマリー(片寄り)論(『東大オタク学講座』に記述あり)によると、ゲームのバランス調整は結局普遍性は持たず、作家の世界観が反映されるものになる、という。
都市運営シミュレーション『シムシティ』、アメリカ製のゲームですが、ここでは火力発電所よりも原子力発電所の方が効果的な投資になっている。これは現実の経済情勢を正しく反映しているか?
これは現実の経済分析の話だが、現編集者はYESだと思っている。巨大なお金が動いているからこそ、いまだにこの国は原発をやめられない。
そして岡田はこの設定をアメリカ的な都市政策観の反映だとしている。しかし岡田はこのゲームの感覚を片寄りだと思っているのか?
そのほか、岡田は、ドラクエシリーズに対して、「なぜ作者の堀井さんは、作中で父親と子の関係に、どの作品でも、こだわりたがるんだろう? なにかあったんじゃねえの?」的なゲスい勘繰りもしています。
↑ちなみに上の段落は前編集者、E.Suj.の記述をそのまま残したものだが、まあね、オタキングがゲスい人間なのは、オタク全員が知っているからね^^;;;。
ここで書いたシムシティに関する議論と堀井氏に関する議論はどうも別の話のように見える。
つまり前編集者の議論は当初から混乱しているのだが、結局E.Suj. は作家の個性とは異常性の裏返しだと言いたいらしい。つまり個性とは長所ではなく、欠点の別形態だと。
では現編集者はこのE.Suj. に質問したいが、結局人間、個性持っていたほうがいいの?持っていない方がいいの?
大人は欠点すらうまく自分で活用しなければいけない、なんて書いてるけど、そんなこと上手く出来ている大人なんて、この地球上に一人もいないよ。
}}
====本文====
さて、上述までの再編集により、前編集者E.Suj, の邪念から生まれた、ゲーム-教育-成長のインチキ理論は完全に否定できたと思う。
結局前編集者もゲームにおける教育論は疑似的なものだと記述してるが、そんなら最初っからそんなこと書くな。
地獄のような長時間の再編集を終え、やっと話を本題のバランス調整にもどせることになった。
まずアクションゲームの調整。
敵が飛び道具で来るならどうする?
もちろん事実上はほぼ無限の対応策があるが、例えば、物陰に隠れながら移動して近づく、あるいはこちらも飛び道具で応戦とか、幾つか具体策は見えるでしょう。
(しかしよく考えたら、この行動って、E.Suj.のこのサイトでの行動とそっくりだよね^^;;;。)
基本的にゲームバランス調整では、例えば、物陰に隠れて攻撃を避けるなどの具体的技法、そして事実上それはそのゲームでの有効策なのですが、プレイヤーがこの対応策を覚えるように導く、そしてそれを可能なものにするため難易度を下げる、これが必要だと言います<ref>吉沢秀雄『ゲームプランナー入門講座』SBクリエイティブ、2015年12月29日初版第1刷発行、226ページ</ref>。
一つの方針としては、必要だと思われる技能をプレイヤーが行っていると判断したら、しかも一度には基本的に一つ、その敵を簡単に倒せるようなプログラムにする。
とにかく特定の方向にプレーヤーを導く意図を持つ、つまり導きたい方向にプレイヤーが行為すれば、難易度が下がる。だから、飛び道具を避ける物陰には、罠も無ければ敵もいない<ref>吉沢秀雄『ゲームプランナー集中講座』SBクリエイティブ、2015年12月29日初版第1刷発行、226ページ</ref>。
あれっ、今気づいたんだけど、新約聖書には、狭き門から入れ、って言葉があったよね…。
基本的には前編集をわかり易く書き直してるだけなんだけど…
とにかくこの場合、推奨されるパラメーター設定は、目的の敵を妥当な経過で主人公が攻撃したら、敵はすぐ倒せるようにしておけって書いてるんだけど、これって広き門じゃあない?
とにかくこの前編集は、あらゆるプログラムを駆使して、プレイヤーが特定の行動をするよう導けって書いてある…。
まあしかしまとめ編集を続けるかね…
大抵のゲームは先に進むと難易度が上がっていくようだが、いや、これ自体事実かどうか怪しいが、仮にそうするとした場合、その難易度の上がった敵のギミックや行動は、制作者が導く行動を複数、と言ってもごく少数の複合だろうが、プレイヤーがなしたら、敵を倒せるようにしたら良いという。複合技をプレイヤーが繰り出すことで、成長した感や、興奮を、ユーザーは感じるだろう<ref>吉沢秀雄『ゲームプランナー集中講座』SBクリエイティブ、2015年12月29日 初版 第1刷発行、228ページ</ref>。
前編集者は、ゲームの後半難易度を上げるのは、プレイヤーに創意工夫を呼び起こすためと書いている。
確かに難易度が上がれば、創意工夫して解決を目指すのはゲームだけではない。しかし現編集者が問題を感じるのは、常にプログラムの手妻を駆使して、特定行動にユーザを導けと主張している点だ。
これは実はアメリカの過去の宇宙開発で宇宙に送る実験動物を調教、教育した方法と全く同じだ。
とにかくゲーム制作者の中に、このような馬鹿げた教育論を持っている愚か者はそこそこいそうだが。
このインチキな前編集者の愛読書には、ボス戦などの難しいイベントの目的は、プレイヤーが自分自身の技量を試す、自分がこのゲームにおける熟練プレイヤーか試す、そこにあるという。歯ごたえのある敵と戦って、自分がこのゲームにはまっているかどうか知る事が出来る、そういうことだろう<ref>吉冨賢介『ゲームプランナー入門』、P60</ref>。
;やはり何事も制限はあるか?
例えば主人公が不死身なら、まあゲームになりませんよね。何らかの弱いところは必ずあるでしょう。
所持金が無限とか、無いですよね。お前はドラえもんのポケットか?^^;;;
敵もそこそこ強いよね、あんまり弱いのはちょっと。
(たとえばアクションゲームで一時停止ボタン(ポーズボタン)を押さずにトイレに行ってウンコを数分してきても、ウンコから戻ってきてもキャラが負けてないのは明らかに駄目)。
↑ちなみにこれは前編集者の記述だけど、ん~、まあ、残しておくか^^;;;。
だから前編集者としては、プレイヤーに創意工夫を求める。まあもっともプレイヤーが創意工夫しないゲームなんて、この世にないけど。
だからゲームオーバーはやっぱり必要だということか<ref>川上大典 ほか著『ゲームプランとデザインの教科書』、秀和システム、2018年11月1日第1版第1刷、P.254</ref>。
だから前編集者はゲームには敗北とそれを回避するための努力が必要だと主張する。
まあでもこのサイトの別の場所でも書いたけど、E.Suj.は努力なんて全くしてないけどね。ただ毎日欲望のまま手を動かしてるだけ。
;真実は一つ^^!!!本当?とりあえず解法は複数^^!!!!
スーパーマリオのステージ1-1の最初のクリボーをどうする? (解1)踏んずけてやる^^!!!(解2)そのクリボーを飛び越えてこっちに来い!!!^^(解3)ブロックに乗って、絶景哉^^。
====ゲームと漫画、アニメーション====
非常におおざっぱに語ると、漫画やアニメーションは完成して世に出た時点で、その版では、定められた運命が記述されている、ヤーンの書のようなものでしょう。
ゲームはインタラクティブだから、運命は決まっていないし、あいまいで、事実上選択肢がある世界。
そしてゲーム=戦闘ではないが、戦闘を描いたゲーム、漫画、アニメーション、
というのは明らかにある、そしてその話なんですが…
1982年『鳥山明のヘタッピマンガ研究所』という書籍では、マンガやアニメや特撮(ウルトラマン)などの敵の強さは、主人公がなんとか苦戦しながら倒せるギリギリの強さだと指摘されている。ただしこの出典関係の記述にはWiki著書の記憶違いがあるかもしれない。
しかしゲームでの敵は、もうちょっと弱めにしておくといいらしい。
まあそりゃあそうだよね。毎回毎回ギリギリの敵と戦うなら、ゲームなんて誰もしなくなるよ。これに関して前編集者はプレイヤーの創意工夫がどうのなんて書いてるけど、完全なる欺瞞だろう。
具体作品を上げると、ゲーム『激神フリーザ』。要するにドラゴンボール原作のゲームですね。クリリンでもちょっと鍛えて頑張ればザーボン(ナメック星編の中ボス敵)を倒せるようになっている(原作マンガだとクリリンはザーボンを倒せない)。
漫画やアニメーションでは、一回の戦闘での強敵の倒しかたが一通りしかなく、いちばん読者に魅力的に見える奇想天外・破天荒な倒しかたで、敵を倒します。なのでここでは、ギリギリ倒せる強さのほうが良い。
しかしゲームの強敵では、多くのプレイヤーの、それぞれ異なる色々なアイデアに対応した倒し方を何通りも準備する必要があるので、ゲームでの強敵の強さは、ギリギリ倒せる状態よりも少し弱めにする必要がある。しかしやはりそれ以前に、あまり敵が強すぎたら、プレイヤーがしんどすぎるだろ、単に難易度が高いゲームになっちゃうよ。
==== 「廃人」 ====
基本的にコンピューターゲーム界隈は、いちびった下品な人間が多いので、そこで飛び交う言葉も汚い言葉が多い。
例えば、廃人、なんてよく言うらしいよ。つまりいろいろな理由で暇な人間、まあ、E,Suj. もそうだけど、普通に忙しい人間より、ネットゲームとかでは有利だよね。そういう人間を貶めたくて言うんだね。
後色々な理由でゲームに過度にお金を費やせる人に悪口言いたい時とかね。
まあはっきり言って、E.Suj. も間違いなくこの廃人の一人だけど、彼の愛読書では、「廃課金ユーザー」という記述にしているらしい<ref>『ゲームプランとデザインの教科書』、P66</ref>。「廃Wikiユーザー」とか?
だけど世の中色々でね。人にはそれぞれ事情がある。望まなくても廃人になってしまう人はいっぱいいるよ。
===ゲーム作者が自作をプレイしたら、やはり他者プレイヤーよりそのゲームは簡単だと見なすだろう。===
あらゆる分野で作者は自作は面白いし、難易度やネガティブな要素は低いと見るだろう。作り手は妥当なバランスをどう見出したら良いだろうか?
====作者が客観的に自作を見る事さえ難しい、しかしいいバランスは見つけ出したい====
やはり常識的な判断としても、経験則としても、作者がやや簡単だと思うくらいがちょうどいい、という事だろう<ref>STUDIO SHIN 著『ゲームプランナーの新しい教科書』、翔泳社、2018年3月10日 初版第2刷発行、54ページ</ref>。
プレイヤーにとっては易しいほうの案Aと難しいほうの案Bとがあったら、ゲーム本編には、やさしいほうの案Aを採用するのが良い<ref>吉沢秀雄『ゲームプランナー集中講座』SBクリエイティブ、2015年12月29日初版第1刷発行、P207および235ページ</ref>。
難しい方の案Bは、付加的なサブステージ(クリアには不要な)に流用するといいですかね<ref>吉沢秀雄『ゲームプランナー集中講座』SBクリエイティブ、2015年12月29日 初版第1刷発行、P207および235ページ</ref>。
RPGにおいてはクリアに絶対に必要なイベントと、エクストラのクリア条件ではないイベントがありますね。それぞれ「強制イベント」、「任意イベント」と、呼ぶこともあります<ref>STUDIO SHIN著『ゲームプランナーの新しい教科書』、P198</ref>。
サブステージや任意イベントの難易度は、割と自由に扱う事が出来そう。むしろ様々な難易度があった方が、多様なユーザーの要求に対応しているとも言えるし、しかしそもそもサブステージなどなくてもいいとも言えますが、あるとしたら、遊びは多くなりますよね<ref>吉沢秀雄『ゲームプランナー集中講座』SBクリエイティブ、2015年12月29日初版第1刷発行、P208</ref>。
そして基本的に作り手は「簡単」だと思っていても、初めてプレイするプレイヤーには難しい、それはよくあることですよね<ref>吉冨賢介『ゲームプランナー入門』、P56</ref>。
====レベル上げを楽しむ?====
一般的なゲームは、例えばRPGでは、ストーリーや戦術性の面白さが普遍的な主流の興味ですよね。作り手も、RPGというジャンルが今現在、どういう一般的な魅力があるか、それを考えて、それを重視して作る。
一方プレイヤーとしては、正道を外れたややマニアックな楽しみ方もある。RPGのレベル上げ(だけ)を楽しむ、なんて遊び方もできますよね。
つまりプレイヤーはプレイヤーで、本来の制作者が意図した別のところで楽しみを見出すこともある。ある意味コンピュータープログラムのインタラクティブな性質が、そういう遊び方を見出す余地を持っていると言える。
しかし制作者はやはり、RPGの持つ本道の面白さを目指してゲームを作るでしょう。
前編集者はこのことを、少年漫画を例に語っていますね。
漫画家スポコン漫画(そう?^^;;)「バクマン」では、こんなエピソードがあったようです。
「たとえ少女の読者がいても、その少女は、「男の子が読んでいるマンガを自分も読んでみたい」、と思うような女の子。少年ジャンプの取るべき編集姿勢としては、あくまで、男の子向けを貫かないといけない」
少年漫画誌は、ターゲットは、少年、割と年少の男の子ですからね。それ以外のファンがいても、その読者層におもねる漫画は載せないでしょう。それはカテゴリ崩壊だよね。
しかし実は少年にもいろいろな個性を持つ子がいる。少女にも、大人にも、老人にもいろいろな個性がある。ターゲットがどうのと言ったところで、実は結構あいまいでいい加減な物なんだよね。
少年ジャンプは自らの分析として、売れる漫画の方向性として、「友情・努力・勝利」の3原則を提唱した。この3原則を外すことは今現在は許されてはいないのでしょう。
====No title.====
ある意味当然のことだが、ゲームの作者は、ほかのプレイヤーより、自身のゲームの難易度を低いと見るだろう。「作者バイアス」という言葉が使われることもある。
;雑誌「ゲーム批評」による指摘
1990年代に「ゲーム批評」という雑誌が、ゲームの内容を考えるときは、ゲーム制作に熟練していない人は、既存ゲームを難しくアレンジした提案をしがちだと指摘しています。
例えば、スーパーファミコン版のマリオ、こういうゲームを自分たちが作る時、どういうゲームにしようか?
マリオが空を飛んだ時、簡単にクリアできるけど、ここで空中に敵キャラクターを多く配置したらどうだろうか? そして『超音速攻撃ヘリ エアーウルフ』、、云々の記述が前編集にあったが、これはいつものこの前編集者の一般的な他者に対する愚弄目的の文章なので、再掲載する必要はないだろう。
そしてこのアイディアに対する、一般的な批判としては、マリオの地上ステージの空中に敵が少ないのは、ゲームが苦手なプレイヤーのための救済措置だったり、あるいは体験済みステージ前半を無視するための工夫、であるので、その部分を難しく、複雑にするのは不適切だと思われる、と、いうことになる。
ところでやや話題が脱線するが、過去少年マガジンに掲載されていた、漫画作品、[[w:1・2の三四郎]]にも、似たような話があった。
高校生の主人公、東 三四郎と、本当はレスリング部にしたい西上 馬之助と三四郎の友人南小路 虎吉の三人で柔道部の活動をしていたのだが、ある日三四郎が馬之助にこう言う。
「スタンハンセンのウエスタンラリアット(プロレスの技)の改良技を考えたのだが」
「ほう」
「ハンセンは、ラリアットを打撃技にしているが、ここで打撃しないで、首に引っかけるようにして倒して後頭部をマットに打ち付けるのはどうだろう?」
「あほ!!それはジャイアント馬場の、ランニング・ネックブリーカー・ドロップや。ハンセンはそれをもとにウエスタンラリアットを考えたの。なんでお前がわざわざそれをもとに戻してんのや」
ただ、今ではこのジャイアント馬場云々は俗説と言われているようですね。
少しマリオの話とは違うかもしれませんが、脱線の雑談として書いてみました^^
さて、今仮に、「ゲーム作者はネットの批評はあまり参考にしない。基本的にゲームを作ったことのない人の意見はあまり意味がないと考えている。」と、いう主張があったところで、あなたはこの意見をどう思いますか?
まず全くの素の状態でこの言及を聴いたところで、その通りだと思います?あるいはいや、違うと思います?。
そしてもし素の状態ではなく、仮に出典とやらがあった場合、出典と言ってもいろいろありますよね。ネットの言及の場合もあるし、あるいは何らかの偉そうな市販の書籍にそう書いてあるかもしれない。
この辺の出典とかの情報、事実で意見変わります?
だからあなたが素の状態でどう思おうと、偉そうな人の言及があったら、じゃあそれは正しいんだと思いますか?。
しかしまあこの言及の場合は、ゲーム作家とやらが、ああ、俺はそう思っていると言えば、一つの証言となりますよね。
しかしゲーム作家だって複数いる。しかもゲーム作家と呼んでいい人とは具体的にだれか?
ですから現編集者はこの議論は全く無意味だと考える。しかし実は前編集者もやりたいことは、ただただ商業の創作者を持ち上げて、ネット上や同人の創作者を貶めたいだけなんですよね。
とにかく前編集者は私欲を見たすために、この言及の出典とやらを探しましたが、辛うじて、「一次情報以外、個性には役立たない:インターネットやSNS:そうした情報は知識として役に立つことはありますが、ゲームデザイナーが個性を発揮するうえではあまり役に立ちません<ref>『ゲームデザイン プロフェショナル』、P314</ref>」という記述を見つけただけだったという。
{{コラム|マリオメーカー、他|
マリオメーカーは任天堂が2015に発売した、Wii U用の(3DS用も有)ゲームソフトウェアですね。マリオのゲームの素材を使って、自分でもアクションマリオゲームが作れる。
このソフトウェアでは、自作のマリオゲームを任天堂のWebサイトに投稿、公開する事が出来ます。しかし条件があって、一度そのゲームをクリアしないと、公開はできません。
そして一方、実は、マリオメーカーが発売される前、インターネット上には「改造マリオ」といって、マリオのROMを違法改造して、自作ステージをつくって無料公開する行為が行われていました。
実際には改造マリオのデータを、ゲームとして利用するのはなかなか手間がかかり、むしろそのプレイ映像を動画化し、それが動画サイトで人気になったようです。しかし改造マリオを作るという行為自体が、著作権の問題を持っていました。
そして多くの場合、そのステージの難易度は異常に高くなり、そしてその難易度の高いマリオを実際にクリアする動画が非常に人気を持ったようです。
さて、そこでこのことに関して、前編集者は例え話を始めたのですが、まず一つ目が、「犬が人をかんでもニュースにならないが、人が犬をかむとニュースになる」、だそうです。
つまり…改造マリオの方が人が犬を噛んでいる? すると任天堂本家のマリオメーカーが、犬が人を噛んでいるか?
辛うじてこの例え話の意味は分かるけど、もう一つの例え話がこれ↓なんだけど…
また、アンケート調査などの心理学的ノウハウとして、「あなたは○○を買いますか?」と「あなたは○○を好きですか?」と聞いたときでは、アンケート結果の傾向がかなり異なり、多くの人が、「○○を好きですか?」と質問されても決して実際に好きなものを答えるのではなく、世間から賞賛されそうな趣味趣向の場合にだけ回答で「はい、好きです」と答えるようであるという、分析結果があります。
これはさらによくわからん(?_?)?????
マリオメーカーは買うで、改造マリオは好き?
要するにいつものこの編集者の議論で、商業のマリオメーカーを褒め称えて、Web文化の改造マリオは貶めたいんだろうね。
まあ改造マリオは違法性があるから、別にそれはそれでいいけど…
}}
{{コラム|とにかく E.Suj. はWeb文化を貶めて、商業文化を誉めそやしたい|
確かにWeb上には無料コンテンツも多々あるが、商売人たちが仕掛けているのは、有料コンテンツのための撒き餌のようなものだ。一方で同人、アマチュア活動として、無料で作品を公開している人もたくさんいるし、これらのコンテンツまで貶めようと試みる E.Suj. は本当に性根の腐った嫌な人間だね。勿論違法性のある無料コンテンツもあるから、これらは当然非難されてしかるものだろう。
まずゲームに関しては、前編集者の報告では、実際にプレイすることなく、無料動画を見ただけとか、あるいはさらに悪い例はWeb上の言論だけをもとに、特定のゲームを批判する人物がいるようで、これは確かに良くないことだ。
漫画界でも、似たような問題があるようだ。マンガ『ラーメン発見伝』(小学館ビッグコミックスペリオール )では、作中のライバル役のラーメン屋経営者(いわゆる「ラーメンハゲ」)が、ネットの情報をもとにラーメンの実際の食べたときの味を無視してラーメン評論をするラーメンマニアに陰口で悪態をついています。確かに漫画だろうが、ラーメンだろうが、映画だろうが、小説だろうが、実物に触れないのにあれこれ言うのは、基本的には悪いことだろう。
とはいえ現編集者は、[[v:Topic:読まないのに書評]]なんてやっちゃったけどね。まあ気にすんなよ^^;;;。
そこで前編集者は、Webを徹底的に否定して、市販本だけに価値を置いているけど、それも極論じゃあない?
ゲームを実際にプレイしないで、各種情報で知った気になるのは確かに良くないこと<ref>『ゲームデザイン プロフェッショナル』、P.282</ref>だけど、我々だってすべてのゲームはプレイできないよ。
それに各種情報から、何となくいけ好かない存在って誰にでもあるものだし、まあ基本悪口はよくないけど、Webは新しい混沌メディアだからね。市販の書籍やゲームが圧倒的に価値高いわけではないね。
新聞の第一面によく載っている、有り得なく馬鹿馬鹿しい書籍の広告、あんなの絶対に買わないし、読まなくたって無条件で悪口言いたくなるよ。
とにかく E.Suj.はゲームに関して、メジャー作品、人気作をプレイせよ<ref>『ゲームデザイン プロフェッショナル』、P280</ref>、なんて書くけど大きなお世話。自分のプレイするゲームは自分で選ぶね。
YouTube動画に、「アニメ私塾」というチャンネルがあるらしくて、そこで勧める絵の練習法は、プロのアニメ作品の模写らしいけど、これだって単に一つの意見。絵の勉強法なんて無数にあるよ。
まあ確かに漫画に関する違法サイト読書は問題だろうし、検挙もされているけど、同人誌やエロ関係の無断掲載は検挙もしていないように見える。
ただそこで漫画を読むことは倫理的に非難はされるけど、読んだ以上は、作品を読んでいないという評価は違うだろう。勿論不正な方法で読んだという非難は正当だけどね。
結局、E.Suj.の目的は、いい加減な言論を駆使して、既成の商業コンテンツの権威と金を守りたいんだろう。
}}
アナログゲーム(カードゲームやボードゲーム)の設計者は、ネット上の意見はもとより、実際のテストプレイヤーの意見さえあまりあてにならないという考えがあるらしい。テストプレーヤーも様々な理由で本音を語らなかったり、何らかのバイアスであまり有用な意見が出てこないという見方もある。一番重視するのは、実際のプレイの様子を観察することだいう<ref>『ゲームプランとデザインの教科書』、P338</ref>。
{{コラム|世のメディアでは、人気投票企画は多いが、基本的には遊びでお祭りでファンサービスで、本格的な統計調査とは別物だろう。|
イナズマイレブン、2008発売のサッカーRPG。アニメ化や映画化もされている。中学校サッカー部が舞台だから、中学生がメインターゲットだろう。
この公式サイトが、登場キャラクターの人気投票を行ったという。
作品中に、五条というマイナーキャラクターがいた。中学生で、おじさんぽい顔、眼鏡で目が隠れ、何を考えているかわからない不気味な悪役的キャラクター。
ある匿名掲示板で、おそらく[[w:2ちゃんねる]]だと思いますが、このキャラクターへの組織票投票の呼びかけが行われました。
はたして2(5)ちゃんねるに中学生のユーザーがいるのか? 少しはいるかもしれないが、やはりこの組織票祭りの参加者の多くはもっと年長、しかしそれほど年寄りのメンバーもいないように思われる。
まあ結局オタクどもの遊び、祭りということだろうが、しかしその影響か、その公式サイトでの人気投票結果は、五条が一位になった。
まあ不合理な結果と言えば結果だが、ネット上ではその手の馬鹿げたことはしょっちゅう起こる。少しこだわりのある変わり者たちが、自然な状態をかき乱したくて、色々なことを仕掛けてくる。
公式サイトの運営者としては、面白くない展開だが、そもそもイナズマイレブンのゲームユーザーの何割が中学生か?
購買層の中に明らかにこの手のオタク、大きなお友達が、かなりの数占めているだろう。
しかしこういう人たちが、企画内容に大きな影響を及ぼすなら、やはり運営としては面白くない話だ。
AKB48の人気投票は、CDに投票券をつけている形式だが、やはりここでも不規則状況を狙って、投票券目当てでおなじCDを何枚も購入するファンがいるらしい。
勿論この手の、奇矯な手妻は、人気投票の企画者にとっては、面白くないことだが、しかし世の中こういう変わり者は必ずある程度いるものでね、それはそれぞれの企画者が上手に運営方法考えればいいのであって、こんな話をこのページにわざわざコラムとか言って書く意味ある?
;美人投票
経済学者ケインズは、投資家の行動を美人投票にたとえた。「100枚の写真の中から最も美人だと思う人に投票してもらい、最も投票が多かった人に投票した人達に賞品を与える」、投資家は、この手の美人投票に参加しているようなものだと。普通の美人投票では、自分自身が美人だと思う女性に投票する。しかしこの投資家の美人投票では、賞品目当てなので、自分自身がどう思うかより、票が集まる写真はどれかを予想して投票するだろう。
前述のイナズマイレブンの投票祭りも、自分が好きな登場人物に投票しているわけではない。地味で目立たないキャラクターが一位になれば面白かろうと、示し合わせて、不美人投票をしているのだ。
;ノイジー・マイノリティ
ノイジー・マイノリティとは、少数派であるのにその声は大きい、目立つ、目立つにかかわらず、そのような考え方、主張をする人は少数である、だから基本的にはその人たちの大きい声は聞き入れない方が良い、多数派の意見を反映していない、ということでしょう。
基本的にはネガティブな意味を持つ言葉であり、大騒ぎするクレーマーに近いイメージだろう。
なるほどね、確かに現編集者の主張はいつでも希少な少数派の意見に近いだろう。
そしてすじ肉しちゅ~なる人物はいつも多数派の味方で、多数派の安易で愚かな意見が絶対的に正しいと振りかざし、他者を愚弄し常に暴力をふるっている。
そういう多数派の暴力に対抗するために、マイノリティとして常に俺は大騒ぎしているのだが、物は言いよう、言い方を少し変えれば、集団、多数派の暴力が正しいと、言い張る事が出来るんだね。
衆愚の暴力とは、どこまでも防ぐのが困難なのね。
}}
さて、我々は学業でも、スポーツでも、趣味でも、そしてもちろん仕事でも、必ず技能というのがあって、それを日々身に着けている、身に着けようと試みていると考えていいと思いますが、果たして今の自分はどんな技能を持っているのか?そもそも何らかの技能持っているのか?そういうことで悩んだり考え込んでしまうことはありますよね。
E.Suj.のように集団におもねる以外の生き方を一切知らず、大した技能なんかないのに、スキルスキルと威張り倒して他人を貶めること以外何もしない人間がいる一方で、かなりの技能を持っているのに自信が持てず、鬱々と生活している人間もいます。
勿論技能自体はかなり客観的な物でしょうが、他者の技能評価は結構いいかげんで、技能が大したない人間が威張り散らして、ある程度技能がある人間をこき下ろして貶めている事なんて、世の中でしょっちゅう起こっていますよ。
そこで大した話ではないんですが、ある技能からある技能に転向する場合がありますよね。つまり生活自体が変わるのでしょう。特定の技能をふるう生活から別の技能中心の生活に変わること。
具体的にゲーム業務に関する話題では、デザイナーからプランナーに役務が変わるとか…
その時にはやはり、デザイナーとしての自分は封印したほうがいい<ref>大久保磨『レベルデザイン徹底指南書』、2016年12月14日 初版 第1刷発行、P81</ref>。
やはりプランナーとしての仕事を優先し、デザインに関してあまり大上段に口を出さない方がいいでしょう。
{{コラム|一人で何でも出来るわけではない。しかし偏向した愚か者の集団より、一人の総合的な人間の方が、相対的にいいものを作り出すだろう。|
基本的に商業漫画、商業アニメーション、そしてほとんど多くの商業メディアはその根源的な創作部分でさえ、多人数の協業で作られています。一応全体を統括する指揮者はいますが、個々の秀逸な表現はその監督だけの手柄ではない。
これはこの手の物事についてある程度知っている人間にとっては、もちろんたまには例外もありますが、ほぼ当たり前のことで、得意げに語ることでも何でもない。
「と学会」の人が2010年ごろにニコニコ生放送の番組に出演したときに、この人物は、ある漫画原作者にネタ提供したと語ったという。しかしネタ提供といっても様々な形態があり、ピンからキリまであり、実際にその作品に貢献していない場合もあるし、単にこいつ、自慢話したかっただけだろ?
漫画家にしろ脚本家にしろ、色々な事柄にアイディアの元を頼っているだろう。有償無償に関わらず、アドバイザーも多いと思う。
ゴルゴ13なんかは明らかに協業で作られていたし、各種映画やテレビドラマも、様々な人間がその作品の質の向上に寄与している。
歴史ものや軍事物、その分野の専門家が強力に考証を加えているし、当然設定の信頼度も高くなる。
だから創作作品は協業関係が上手に機能して、それを統一した理念でまとめ上げれば、当然質はかなり高いものを作る事が出来る。
}}
{{コラム|可処分時間|
経理には「可処分所得」という用語があります。労働者の給料のうち、税金や社会保険料など支払いが義務付けられているものを差し引いた、残りの自由に使えるぶんの金額です。勿論その中から自分の生活費は支出しなければいけませんがね。
そこから類推して「可処分時間」。
前編集者の言葉では、「1日のうちの自分の起きている時間のうち、労働時間などを差し引いた、残りの自由に使える時間」。
だから、もし無職で何らかの理由で生活できるなら、100%が可処分時間でしょう。
で、E.Suj. はこのサイトで、こういう人間をひたすら愚弄するような文章を書き続けて来たのですが、 E.Suj. 自身の可処分時間は何%?
仮にこのサイトでインチキ書いてお金が入っても、それは可処分時間に入れろよ?
そして…「商売の競争とは、消費者の可処分所得の奪い合い」ということらしいけど…希少な可処分時間を奪われたうえ、そいつらに金払うの? 可処分時間って必ず金払って埋めなければいけないの?
}}
===ドラゴンクエストは、ゲームを進めるため、ゲーム操作の技能を得ることを求めていない?===
ドラゴンクエストでは、ゲームのプレイを続け、キャラクターのレベルが上がっていくごとに、キャラクターも戦闘力が上がり、より強い敵も倒せるようになる。これはそれ以前のアーケードゲームのように、プレイヤーがゲーム操作の上手な技能を身に着けることによってクリアするのではなく、レベルが上がることで事実上、プレイヤーが上手な操作する必要なく強くなっている。これを、「クリア保障」と呼んでいるWebコンテンツもある<ref>https://news.denfaminicogamer.jp/column05/170905b
2020年12月21日に閲覧して確認.</ref>。
ドラクエでダンジョンに入った場合でも、様々な試行錯誤は繰り返すであろうが、プレイし続けて時間経過とともに経験値が上がると、最後にはダンジョンのボスも倒す事が出来て、クリアする事が出来る。
つまりドラゴンクエストでは、プレイヤーがそのゲームの操作の技能を覚えることで、難易度の高いステージをクリアしているのではなく、ゲームを続け、経験値が上がりレベルが上がることによって、ある意味自動的に強くなっている。
序盤のダンジョンで未探検のものがある場合、その時点ではかなり探索は困難を極めるが、レベルが上がった時点では、割と簡単に、クリアできる。つまり難易度が自動的に下がっているともいえる。
つまりドラゴンクエストのクリアシステムは、ゲームを続けてプレイを重ねていくうちに自動的にキャラクターは強くなり、最後にはゲームクリア、コンプリートに至る、ということだろう。
ドラゴンクエストのようなインターフェイスでも、古いゲームやフリーゲームではこの特徴を満たしてはいないものがあると、前編集者は書いていたが、どういう事だろう? 何度も書くが現編集者はそれ程沢山ゲームをやりこんでいるわけではない。
アクションゲームでは当然難易度の高いステージはそれなりの技能やテクニックが必要だろう。しかしRPGではそれほど技能の必要や出る幕もないから、多かれ少なかれドラゴンクエストのような形態にはなるのではないだろうか?
全体を通してレベルがそれほど上がらないゲームというのはあるし、あったのだろう。この場合は何らかのゲーム上の困難の打開策や有効な戦術を見出さない限り、クリア困難の事態に陥るだろう。
RPGに限らず一般に、ゲームの後半に行くに従って、次ステージ攻略などのための事前準備の増加や、試行錯誤の時間の増加に時間のかかるようになっていく事が多い。そして、ステージクリアに必要な時間の増加が、ゲームを苦手とするプレイヤーに、そのゲームのクリアを諦めさせる<ref>http://endohlab.org/paper/whydoplayersdrop.pdf 2020年12月21日に閲覧して確認.</ref>。つまり娯楽であるはずのゲームが、難易度が上がりすぎてその機能を果たさなくなるのだろう。
=== 自由度 ===
一本道で難題を乗り越えるゲームもありますが、いっぽうでマルチエンディングとか、攻略ルートや展開が複数あるゲームもありますよね。こういう自由度の高いゲームは、その展開の場合の数に応じて、調整の際に考慮する事項も増えていきます<ref>『ゲームクリエイターの仕事 イマドキのゲーム制作現場を大解剖!』、P78</ref>。
===Non-title===
※バランス調整に限った話題ではないが、他に適した単元が見つからないし、メインページに書くほどでもないので(←なら書かないで削除せよ。by E.H.)、間借り(まがり)的にバランス調整のページで書くことにする。ただし、この節の内容を他のぺージに移動することは、 E.H.が禁止する。
====ゲーム業界に就職したい?====
……ならば、今現在の業界を構成している人達のアドバイスに従うのが無難だろう。
まず彼らが望むのは、ゲーム人気作の知識。特にデザイナーならなおさららしい。まず過去の名作は手本になるという。それから共通言語としての、コンセプトや知識を知っておくべきだと<ref>『ゲームデザイン プロフェッショナル』、P278</ref>。
とにかくゲームについて知らないのはよくないようだ。過去現在の人気作や、自分の興味ある、そして入社出来たら実際に作っているジャンルのゲームについて、プレイし、周辺知識も知っておきたい。
====[https://www.uta-net.com/movie/59818/ シッパイマン]====
この節のタイトルは、失敗とは何かを知りたければ、以下を読むよりリンク先を見た方がいいだろう、という意味のリンク付きタイトルです。
基本的に前編集者は手本がなくては生きていけないようで、創意工夫という言葉もあまり知らない。そして権威ある手本のパワーに依存しまくって、他者を愚弄しまくる。
しかしまあとりあえず、その論旨に乗っかって記述するが、人気作や人気シリーズをとりあえず崇めて手本にせよと。そして人気でない作も良く調べて、崇める手本と比べてどこが良くないか見いだせ<ref>https://news.denfaminicogamer.jp/interview/200615a/3 2020年11月27日に閲覧して確認.</ref>、と。
そしてなぜか前編集者はゲームの事だけで完結せず、アニメの事も語りたがるんだけど、まあ好きだからなんだろうけど、ガンダムについて語りたければ、それ以前のロボットアニメについても調べろ、と、岡田斗司夫や氷川竜介が書いていたんだって。
結局、性格の汚い有名人の権威に頼りっぱなし。
そしてまたまた岡田斗司夫の著作によると、演劇作家・演出家の鴻上尚史氏はゲーム進出に失敗したらしい。失敗してたの^^;;;??? 現編集者はそれは知らなかった。ゲームに手を出したことは知っていたけど…そもそも鴻上さん、映画制作も失敗していなかった^^;;;?。特別に好きでファンだという訳ではないけど、一時期この人のラジオかなり聴いていたんだけど…
とにかく岡田氏の結論は、鴻上氏とどういう関連があるかはわからないが、「成功例から学びたがる人は多いが、しかし成功例だけから学ぶのは素人。プロは失敗例にこそ学ぶ。」、らしい。もっともこれはあくまでも前編集者の要約だけど…
うーん、プロだの素人だのはどうでもいいけど、失敗と成功の両方から学ぶのは、ごくごく当たり前で妥当なことじゃないの?
あと失敗に関しては、畑村洋太郎氏の失敗学という概念もある。<ref>https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjlp1960/43/2/43_2_182/_pdf</ref>
{{コラム|「失敗を恐れるな!!」なんてよく言うけど、実は誰もが失敗は怖い。むしろその怖さや失敗自体との向き合い方が問題なのだろう。|
まあ現実問題として、失敗のない人生なんてないよね。
かと言ってねー、そう簡単に人間成功しないし、物事上手くいかないものだよ。
とにかくどん欲に成功を求めすぎるのも、逆説的に失敗の元になるだろう
あとあまり点数とか量について考えない方がいいと思う。
マーフィーの法則ではないけど、この世界と我々の人生は明らかに失敗方向にバイアスがかかっている。
失点しても試合に勝てばいいという意見もあるけど<ref>『ゲームデザイン プロフェッショナル』、P.334</ref>、結局ぼろ負けして泣いて帰ることもしょっちゅうだよ^^;;;。
しかしまあ、誰もがそこそこ成功したいよね。
だけどさー、なんだかんだであんたらの人生、物事上手くいって楽しいときは確実にあるでしょ?
}}
===異業種? いやいや、それどころか、異人、異世界の事も想像しろ><!!!===
ゲームとは文化でもあるでしょうか。様々な文化の一分野? そうなると文芸とかイラストとか、短歌とか映画とか、小説とか漫画とか、様々な文化のジャンルがありますよね。
特定のジャンルが衰退するとか発展するとか、具体的にはどういうことですか? もちろん商業文化としての、流通の規模というのはありますよね。しかし文化というのはだれ一人手掛けなくても、自分自身がその創作活動を続け、何らかの形で発表し、そしてそれを享受する人がある程度いる以上、仮にお金は一切発生しなくても、完全にこの世から消え去ることはない。
2012年に新日本プロレスリングを買収したゲーム会社のブシロードは、こう述べた。「すべてのジャンルはマニアが潰す」<ref>https://newspicks.com/news/4135958/body/ 2021年11月7日に確認→ただし有料コンテンツなので表紙を確認しただけ^^;;;</ref>。マニアねー。そもそもオタクとマニアはどう違うの? オタキングを崇拝している人たちは、マニアは悪く言えるけど、オタクは悪く言えないよね? どっちにしろ大した言及じゃあないよ、馬鹿げた話だね。
そしてゲーム業界は、1990~2000年の一時期、ジャンルによってはゲームが高難易度化した作品が多くなって、新規参入者が苦手と感じてプレイヤーが減って衰退縮小していったことがあったという。
まずゲームのジャンルが明確に固定化されているとは思えない。ある程度はそれ様の物はあると思うけど、結局これって、ゲーム商売の話であって、もっと一般にゲームが好きな人たちの事を考えると、特定のジャンルが好きならば絶対自分たち自身でその分野を盛り上げようとするだろうし、そういう人たちが少なければ当然ジャンルの規模は小さくなり、小さくなったり消えてしまったところで、それはそれ、歴史の流れなんじゃあない?
ゲームセンターの対戦格闘ゲームでは、初心者が筐体をプレイすると、熟練者が参入して、初心者を打ち負かす「初心者狩り」が起こり、初心者が楽しめない、参入者が減ってそのジャンル自体が衰退、ということもあったようです。
スポーツ競技でも似たようなことが起きると言うが、まあ結局この社会、やさしいいい人なんてほとんどいないし、本当の意味で賢い人間もほとんどいない。
とにかくどんな分野でも、事実上楽しくなければ、人は去っていくだろう。
{{コラム|作者は答えを知ってしまっている、が、それでも、自分の作りだした物語と世界は、素敵で魅力的なものだと思っているだろう。|
ハドソン『新桃太郎伝説』(スーファミ版)の攻略本『新桃太郎伝説 究極本』(KKベストセラーズ 刊)で、作者の さくま あきら が、読者インタビューにこう答えています。
読者「ゲーム中、もっとも印象に残ったシーンはどこですか?」
さくま氏「作者はシナリオの答えを知ってるので、もっとも印象に残るとかそういうのはありません」
これは明らかに質問の仕方がおかしいし、不適切だろう。最も印象に残ったシーンって、…これはゲームと物語を受け取った側が感じる事じゃない? 。
}}
;ティッシュテスター
作者バイアスでバランスが分からなくなるのは作者だけではなく、テストプレイヤーやデバッガーも、そのゲームに慣れてゆくと、次第に感覚が一般プレイヤーとずれていき、適切なバランス側が分からなくなっていく。
このことに関して「ティッシュ テスター」(tissue tester)という言葉があるらしい。つまりティッシュは一度きりの使い捨て、新鮮にゲームを見てバランスを判断できるテスターも、最初の一回きりということ。最もテスターも仕事としてそれをやっているのだから、使い捨てにされたらたまったもんじゃあないけどね。
「フレッシュミート」(新鮮な肉、fresh meat)とも言うようですね。
どちらにしろゲーム業界の連中が、他人を雇うということをどう見て考えているか、よくわかる言い草だね。
=== 要素の相互関係 ===
====概要====
調整は、関連あるものを、まとめて同時期に、ただし1個ずつ、行う<ref>『ゲームデザイン プロフェッショナル』、P.182</ref>。
だから、関連ある要素を実装しきっていない段階では、調整はない。だから開発の最初の方では調整しないだろう。
しかし、場合によっては、要素の実装をそろうのを待つと調整開始の時期が遅くなりすぎてしまい、計画に支障が出る場合があります。そういう場合、ある程度のまとまりのある実装ができた段階で、調整をするようです。
具体的な調整の判断基準については、参考文献『ゲームデザイン プロフェッショナル』を買ってお読みください。
しかしここで釘を刺しておくが、 Wikiは決して読書ガイドではない。システムとして多人数の協業の手段を提供しているだけで、あくまでもWeb上のコンテンツ、文書に過ぎない。ウィキペディアが出典主義なのは、協業上の文章作成として、信頼度を保つための方法として、その姿勢を採用しているだけで、この場合も読書ガイドではない。
原則としてWikiは、文書として独立、完結しているもので、市販本と等位の存在、しかも基本無料、だからと言って市販本より質が悪いとは限らない。
ゲームデザインなんちゃらという本が最初から素晴らしいと思っているのなら、アマゾンで検索してその本を購入すればいいのであって、Wiki を読む必要も、関わる必要も、書く必要もない。
さて、バランス調整を実際にどうするのか、そしてそれ以外でのゲーム創作の総合的な知見、感覚は、例えば『RPGツクール』で実際にゲーム制作に手を染めれば、おのずと理解が深まっていくだろう<ref>大久保磨『レベルデザイン徹底指南書』、2016年12月14日初版第1刷発行、P81</ref>。
====マップと敵====
ゲームのバランスには、様々なパラメータがかかわる。敵の強さ、マップの構成、各種アイテムや装備品の強さ、要素とその関係が上手に整理された時、ゲーム全体がバランスの取れた、プレーヤーにとって楽しい、続けていたくなるゲームになるのだろう。
宝箱もマップの要素。敵の強さだけではなく、宝箱の中のアイテムも、ゲームバランスに影響を及ぼす。そこでマップが実装された後でバランス調整するのが好ましい。
しかし実際には、マップ実装は時間も手間もかかる。マップはステージと物語の世界観も反映しているので、そう簡単にトントンと決まらない。
マップに敵を組み込む方式で調整する場合は、マップ実装が済まないとバランス調整はできない。
:マップを作ってからそのマップに敵を組み込んでみてプレイしてみて、敵の強さを決める?
:敵の強さを決めてから、マップを決める?
:マップと敵を別々に決めてから、最後に組み合わせて微調整?
色々な方法があるが、とにかく物事、自分たちに都合のいいようにしつらえられていることはほとんどないので、迷いながら現実に打つ手を見出すしかないだろう。
====始めよければすべてよし? 或いは終わりよければすべてよし? いやいや、どっちにしろ全然駄目なこともあるよ^^====
とはいえ、まずは始め。バランス調整もまず序盤を多めにプレイして、面白いバランスを見出すのがいいようだ。
やはり始めと終わりが重要で、中盤は多少いい加減でもなんとかなるらしい<ref>『ゲームプランナー集中講座』、P236</ref>。
アニメーション業界でも、とりあえず始めと終わりに力を入れろという考えはあるらしい。テレビシリーズでもとりあえず一話と最終話に力と予算を費やしている場合は多い。
結局最初は気合が入っているが、最後に向かってドタバタして、事実上最初に力がやけに入っていた、ということは起こるだろう。
あと現実問題として、RPGのバランス調整は、主に敵の強さを調整している。味方の調整や装備品の調整はあまり行われない。慣習的にそうなのか、あるいは何らかの合理的な理由があるのか、は、不明。とはいえ味方の値は、プレイヤーやプレー状況によって変わる経験値を持った全体を通じた可変値だから、こちらで調整するほうが事実上難しいだろう。
スーパーファミコンRPG『新桃太郎伝説』では、最終ボスのパラメータのほうを調整していることが、攻略本、『新桃太郎伝説究極本』に書かれている。(調整前はボスはもっとHPが多かった。)
しかし味方キャラクターや装備品の数値を全く調整しない、と、いうわけではない。敵の能力値は大きく変更して調整するが、味方関係は小さな変更になるのだろう。
そして結局常識的には、序盤から順番にバランス調整していくしか道はない。
そのため、過去のゲームでは、ゲーム後半の調整がうまく機能せず、極端に難しかったり或いは簡単すぎたり、そんな場合も多かったようだ。ドラゴンクエスト2の後半ダンジョンであるロンダルキア洞窟とその次ステージがその典型例という指摘もある。
{{コラム|ゲーム理論とは何か?|
ゲーム理論は基本、数学上の議論で、様々な社会科学上の問題に関連する発想だと考えられています。数学者フォン・ノイマンと経済学者モルゲンシュテインの研究が契機で、現在まで様々な発展をしているようですが、典型例では[[w:囚人のジレンマ]]の議論が有名です。
宗教学者、人類学者の中沢新一氏は、ノイマンのゲーム理論では昨今のコンピューターゲームについては十分に説明できない、と語っていました。(ただし出典不明、Wiki著者の記憶も不鮮明)。最近の中沢氏は、ゲーム産業に関心を持ち、コンピューターゲームのイベントにも登壇しているようです<ref>https://news.denfaminicogamer.jp/kikakuthetower/nakagawa-endo_bb/2 2022年1月18日に確認. </ref>。
ゲーム理論では、複数の主体が相互関係を持った時どう行動するか、それを数学的に分析していきますが、主に人間の社会行動を議論したい時に、理論的な根拠として提示されるものです。
一方コンピューターゲームは、娯楽としてのゲームそのもの、しかし人間の行動を規定する相互作用でもある。
中沢は特に言及していないですが、数学的にモデル化するなら、政策応用なら「国際情勢」など外交的な制約によって出力にとりうる値1個あたりの幅や個数が2~3個に限定されたりのような、値の個数が十分に小さくて有限の整数個の場合でないと、なかなかゲーム理論の応用は効果を発揮しません。
↑上の段落の記述はこのサイトの一Wiki著者の言及ですが、参考までに無編集で掲載します。
人間の社会行動を議論し解明するためのゲーム理論ですが、我々がコンピューターゲームをする、というのも一つの行動、社会行動ではありますね。
ゲーム制作に関する参考書類でもゲーム理論について語られることはありますが、詳細に具体的に、ゲーム制作とゲーム理論の関係性ついて解説されることはあまり無いようです<ref>『ゲーム作りの発想法と企画書の作り方』、P64</ref>。
}}
=== 各論(デザイン的なこと) ===
どの程度、レベル上昇でキャラクターを強くすればいいかについては、ハドソン社あたりでの有名な慣習があり、新しく訪れたダンジョンなどでは「レベルが3上がると、敵を1撃で倒せるようにすべし」という有名な基準があります<ref>『ゲームプランとデザインの教科書』、P.94、 ※ 著者のひとりの「平川らいあん」氏はハドソン出身</ref>。他社ゲームでは別かもしれませんが、だいたいスーファミ時代の桃太郎伝説シリーズはこんな感じに調整されているはずです。
== RPGのダメージ計算式 ==
=== 特化型が有利になりやすい ===
文献『ゲームプランとデザインの教科書』によると、ファミコン時代のゲームに限らず、21世紀の現代的なゲームでも、「なんでも平均的にできる」キャラクターよりも「○○だけなら自分が一番強い」といった感じの特化型のキャラクターが戦闘では強くなりやすい傾向があります<ref>川上大典 ほか著『ゲームプランとデザインの教科書』、秀和システム、2018年11月1日 第1版 第1刷、P.227</ref>。対して、バランス型は「器用貧乏」になりやすいのが現状です<ref>川上大典 ほか著『ゲームプランとデザインの教科書』、秀和システム、、2018年11月1日 第1版 第1刷、P.227</ref>。
なお文献『ゲーム作りの発想法と企画書の作り方』によると、ダメージ計算式を考えるのは(プログラマーの仕事ではなく)ゲームデザイナーの仕事です<ref>『ゲーム作りの発想法と企画書の作り方』、P145</ref>。
では、特化型が有利になりやすい原理を、これから説明していきます。
たとえば、キャラクターに能力をプレイヤーが自由に選んで振り分け配分できるシステムのゲームがあったとしましょう。(商業ゲームでも、いくつかの作品で、似たようなシステムのRPGがあります。)
説明の単純化のため、合計値が必ず100だとしましょう。
つまり、たとえば下記のようになります。
;作成キャラの能力例
:(※ 合計100)
ちから: 10
たいりょく: 30
しゅびりょく: 10
すばやさ: 40
きようさ: 10
さて、別の作成キャラ例を考えます。
;平均型キャラA
ちから: 20
たいりょく:20
しゅびりょく: 20
すばやさ: 20
きようさ: 20
:(※ 合計100)
のように、能力値を平均にふりわけたキャラクターと
合計値は同じですが、特定のパラメータに特化して能力値を振り分けした
;特化型キャラB
ちから: 40
たいりょく:20
しゅびりょく: 30
すばやさ: 5
きようさ: 5
:(※ 合計100)
のようなキャラクターを、
コンピュータ上でRPGの戦闘システムのアルゴリズム上で対戦させた場合、
ほとんどの20世紀のRPGのアルゴリズムでは、特化型のキャラBのほうが勝ち、つまり特化型のほうが強くなってしまいます。
さらに言うと、たいてい「攻撃力」のような、敵にダメージを与える意味のパラメーターに振り割ったほうが、キャラクターが強くなるゲームのほうが多いです。(ファミコン時代から、ウィザードリィ1の攻略本でそういわれていました。敵モンスター『ワイバーン』あたりの攻略法として「攻撃は最大の防御」という格言を出しています。表紙の黒かった攻略本なので、たぶんゲームアーツの本。『ウィザードリィ攻略の手引き』(MIA BOOKS)かと思われます。)
なぜこうなるかと言うと、なぜなら、もし攻撃力が上がると、敵を倒すのに要するターン数も減少するので、結果的に敵を倒すまでに自キャラの受けるダメージ量も減るからです。(なお、現実の軍事学でも、似たような事が言われており、戦術論ですが、クラウゼヴィッツ(近代ドイツの軍事学者の一人)は防御重視の作戦よりも攻撃重視の作戦のほうが有利だと述べています。防御だけで攻撃しなければ、現実でもゲ-ムでも戦闘では絶対に勝てません。)
裏を返せば、平均型能力のキャラは、多くのゲームシステムでは弱くなりがちです。
パラメータの振り分けは自由ではないですが、ドラクエ2(ファミコン版)でいう、サマルトリア王子が弱くなる現象です。ファイナルファンタジー3・5の赤魔導師も、似たような弱点を抱えています。
理由はいろいろとありますが、バランス側の弱くなりやすい理由のひとつとして、参考文献などは特には無いですが、
:・ウィザードリィやドラクエなどの古いRPGのアルゴリズムが、特化型に有利になっているという歴史的な経緯。
:・命中率などの確率に関わるパラメータ(「器用さ」)のある場合、パラメータ割り振り前から既にある程度の底上げ補正がされている場合が多いので、わざわざ命中率を上げると割り損になる。
:・「すばやさ」(素早さ)が攻撃の順番にしか影響しない場合、素早さが低くても1ターンに1度は攻撃できるので、素早さを上げると損。
などの理由があるでしょうか。
命中率に関しては、多くのRPGで、攻撃が外れるのは、プレイヤーに不満感を与えるので、たいていのゲームでは、ゲーム序盤のレベル1のキャラであっても、数値上での「命中率」や「器用さ」などの表向きの命中率が低くても、たとえば「命中率 40」と表示されていても、実際のゲーム内部での命中率はたとえば+20%されてて本当の命中率が60%だったりするような場合もあります。
このような底上げ命中率のあるシステムだと、20%底上げされる場合、命中率を80%以上に育てるのは損です。なぜなら100%以上には上がりようが無いからです。
命中率が101%以上の場合に特殊な追加スキルなどを獲得できるなら別ですが(たとえば、クリティカルヒットの確率がけっこう増えるとか)、たいていの古いゲームでは、そこまでの手入れをしていません。おそらく調整に時間が掛かるからでしょう。
=== ダメージ計算式 ===
さて、RPGの戦闘におけるダメージの計算式(「ダメージ計算式」といいます)に、アルテリオス計算式というのがあります。これは、昔のゲーム『アルテリオス』で採用された計算式なのですが、
攻撃側の攻撃力 - 守備側の守備力 = 守備側のダメージ
という計算式です。
ドラクエやファイナルファンタジーのシリーズの計算式はもっと複雑なのですが、どのRPGでもダメージ計算式の基本的な設計思想・方針はアルテリオス計算式と同じです。
アルテリオス以外のダメージ計算式でも、たとえば
:1.3×攻撃側の攻撃力 - 0.75 × 守備側の守備力 = 守備側のダメージ
というような感じの計算式である作品も多いです。
せいぜい、変数の前に定数係数が掛かっている程度です。
なぜ、どの会社のRPGでも、この程度の中学校レベルの単純な計算式なのかというと、バランス調整が簡単だからです。
バランス調整するのは人間なので、もし、ダメージ計算式があまりに複雑な方程式であると(たとえば量子物理のシュレーディンガー方程式みたいなのだったりすると)、そもそもバランス調整担当の社員が理解できません。
そして、このアルテリオス式を見ると分かるのですが、
:攻撃側の攻撃力 - 守備側の守備力 = 守備側のダメージ
もし自軍の攻撃力が0の場合、敵にダメージを与えられないので(ダメージが0)、絶対に負けてしまいます。つまり、攻撃力が敵の守備力を下回る場合も、絶対に負けるのです。
一方、「すばやさ」パラメータが戦闘の先攻/後攻の順番にしか影響しない場合、素早さが0であっても、勝つことは可能です。
また、守備力が0であっても、勝つことは可能です。
このように、パラメータの種類ごとに、そのゲームにおいて重視・軽視の差があり、不公平になっている事が多いのです。
また、バランス型の能力値のキャラクターの場合、せっかく「ちから」を上げて攻撃力を上げても、守備側の守備力を下回っていると、ダメージ0になってしまい、絶対に負けます。
つまり、
自分の攻撃力 > 敵の守備力
でないと、アルテリオス式では必ず負けるのです。
一方、
:1.3×攻撃側の攻撃力 - 0.75 × 守備側の守備力 = 守備側のダメージ
のように係数を掛けた計算式の場合、
守備力を1ポイント増やしても、その効果は25%減少されます。(たとえばレベルアップの際に上昇パラメータを一種類選べるシステムの場合、守備力を選ぶと損になる場合が多い。)
いっぽう、攻撃力を1ポイント増やすと、効果は30%増しです。
このように、計算式によって、有利/不利なパラメータという格差が生じます。
=== DPS (Damage Per Second) の概念 ===
:※ 出典は無いが、あまりに有名な概念なので、さすがに消さない。
最近のRPGゲームには攻撃コマンド選択時に「二段斬り」などのスキル選択ができます。
スキルを設計するとき、昔の初心者のやりがちなミスとして、最近は減ってきましたが、スキルの結果の見かけの数値にゴマかされて、実はスキルが強くなってない特技を設計してしまうミスが時々ありました。
たとえば典型的なのは特技『ためる』です。これは、次回ターン時のダメージを数倍に倍増し、次回ターンの1回だけ、ダメージを倍増させる特技です。
この『ためる』は必ず、次回ターン時のダメージが2倍を超えないと(たとえば2.5倍にならないと)、無意味です。
なぜなら、『ためる』コマンドを選択したターンは、攻撃をしてないからです。
つまり、スキルを使わずに普通に2ターン通常攻撃した場合、ダメージ量は単純計算で
:1+1=2
より、2ターンぶんのダメージです。
いっぽう、『ためる』コマンドを使えば、それがもし2倍しかダメージが倍増しない場合、
:0+2=2
で、結果は同じ通常攻撃2発ぶんのダメージのままです。
計算すれば子供でも分かる理屈ですが、しかしファミコン時代には市販の商業ゲームですら、こういうミスがありました。たとえばファイナルファンタジー3の職業『空手家』のスキル『ためる』です。
このようなミスを犯さないために必要な概念としては、'''DPS''' ('''D'''amage '''P'''er '''S'''econd) の概念が便利でしょう。DPS とは1秒あたりのダメージ量、という意味です。
もともと欧米のアクションゲームについての理論研究に由来する用語なので、単位が 秒 (second)になっていますが、RPGに応用する場合には単位をターンに変えるなどして工夫しましょう。
このDPSの概念を使って、上述の『ためる』コマンドの設計ミスを説明すれば、つまり、1ターンあたりのダメージ量(DPS)が上昇していないのが問題点です。
では、私たちが改善策を考えましょう。数学的に考えれば中学レベルで充分で、
: 0 + x > 2
を満たす変数xを設計するだけの問題です。
なので、たとえば、『ためる』後の攻撃ダメージ量を「2.5倍」とか「3倍」とかの数値に設計すればいいのです。
では、次に応用問題を考えましょう。
「『ためる』を2回続けると、さらにダメージ量がアップ」などのシステムを導入するときも、必ずDPSが増えるようにしましょう。
たとえば、この場合、ダメージを与えるのに最低3ターンが必要なので、不等式を考えれば、
変数xについての
:0 + 0 + x > 3
を満たさないといけません。
つまり、『ためる』2回後のダメージ量は、最低でも「3.5倍」のように3を超える数値、あるいは整数に限定すれば、たとえば「4倍」とか「5倍」とかになっている必要があります。
== KPI ==
Key Performance Indicator という経営的な指標があり、『レベルデザイン徹底指南書』P140 および 『ゲームプランとデザインの教科書』P70 によると、共通しているのは後述の内容です。なお、『ゲームプランとデザインの教科書』P67 によると、オンラインゲームの運営などで使われる用語ですが、別にゲーム業界限定の用語ではありません。
;DAU(Daily Active User)
:デイリー・アクティブ・ユーザー
DAUとは、その日に遊んでくれたユーザーの人数です。
;MAU(Mathly Active User)
:マンスリー・アクティブ・ユーザー
MAUとは、その月に遊んでくれたユーザーの人数です。
;WAU(Weekly Active User)
:ウィークリー・アクティブ・ユーザー
WAUとは、その週に遊んでくれたユーザーの人数です。
;PU(Paying User)
:ペイング・ユーザー
課金ユーザーの人数のことです。その日を課金ユーザー人数をDPU、その月の課金ユーザー人数をMPUと言います<ref>『レベルデザイン徹底指南書』、P140</ref>。
;課金率
たとえば、ある月のユーザ数のうちの課金ユーザーの割合など、
一定期間中の課金ユーザーの割合を言ったりしますす<ref>『レベルデザイン徹底指南書』、P140</ref>。
あるいは、全ユーザーのうちの課金ユーザーのことだったりしますす<ref>『ゲームプランとデザインの教科書』、P70</ref>。(書籍によって、内容が微妙に違う)
;継続率
前月と比べて今月はどんだけユーザーが残っているかとか、あるいは前週と比べて今週はどんだけユーザーが残っているかのことを、
継続率といいます。
(以上)
このほかにも、色々な指標があります。
== 参考文献・脚注など ==
cmcfu058379197cg4l2im7fi178lmkd
ゲームプログラミング/書類/集団作業の場合の書類と書き方
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206926
206838
2022-08-21T21:55:21Z
Honooo
14373
/* 要求事項 */
wikitext
text/x-wiki
{{substub}}このページの主要執筆者は、ゲーム業界経験者ではないので(2022/1時点)、ここの記述は調べ物としては役立ちません。
2022/1時点でゲームプログラミングと直接の関係ない話題が長い、という問題があるので、より簡潔、かつ分かり易い記事への編集にご協力いただけたら幸いです。もっとも現編集者Hは、解ってるならそれを書いた奴が書き直せ、そもそも余計なことは最初から書くな、…とは思いますが…。
このページは、教科書としてゲームプログラミングの方針を説明する際に、どうしても書類についての説明が必要だから記述されています。現状では、一般IT業界や製造業などの設計図を参考に説明がなされています。
== 本書の目的 ==
本書は、ゲームデザイナーのための教科書ではありません。
メインページ、「[[ゲームプログラミング]]」の題名どおり、プログラマーのための教科書です。プログラマーがゲーム制作に興味をもって実際に作り始める際に、調べ物の手間を減らすために書かれた参考書籍です。
ゲームデザインに関する解説を望む方は、別途、他の参考資料に当たってみてください。
==「仕様書」==
ここでいう「仕様書」とは、ゲームの設計図のことです<ref>川上大典ほか『ゲームプランとデザインの教科書』、秀和システム、2018年11月1日第1版第1刷、P.126</ref>。しかも職業的に集団でゲームを作るときの書類です。
ではまず、「設計図」とは何か、について、考えていきましょう。これは普通科高校では学習しない事項です。
ゲーム業界では、「仕様書」を含む書類群の「発注書」には、決められたルールや書式はありません。だから作るゲーム内容や製作チームごとに、適切な発注書のありかたを毎回考える事になります<ref>『ゲームデザイン プロフェッショナル』、P.145</ref>。
職業的なゲーム開発では、一般に
:発注 → 実装 → 調整
というプロセスを経て<ref>『ゲームデザイン プロフェッショナル』、P.61</ref>、最終的にとりあえずの完成になります。
ゲーム産業での「仕様書」は、発注の段階での書類です。
==集団ゲーム制作での解説文==
発売禁止になってしまった書籍(おそらく。しかし何故?)『国際おたく大学―1998年 最前線からの研究報告』(岡田斗司夫ほか、光文社)に書いてあった事例なのですが、G.O.D.と言うイマジニア社のRPGゲームに対する大学生(岡田は当時、大学講師だった)の取材があって、そのGODの開発に参加した劇作家の鴻上尚史(こうかみ しょうじ)氏と、エニックスの堀井雄二(ほりい ゆうじ)氏とが、対談した経緯が、紹介されていました。
劇作家の鴻上は、ゲームに演劇のリアリティを入れようとして、スタッフに「間(ま)を意識したシナリオを書いてほしい」と要求したが、うまく行かずに難航したと体験談を述べています。
対談相手の堀井は、鴻上のその体験談に対し「『(※ここで3秒休止)』とか書くと良いですよ」と、指示書で具体的に書くと良い、とアドバイスした、と、岡田の書籍にある大学生のレポートにあります。
おそらくドラゴンクエストのゲーム開発でも、このように具体的な指定を必要に応じて出していた・いるものと思われます。
21世紀現代の、商業ゲームの現場でも同様であり、書籍『ゲームデザイン プロフェッショナル』にもありますが(※かぎカッコ内が引用)、「もっとかっこよく調整してほしい」という問題であれば、たとえば「もっと目立たせたいので、アニメーションのシルエットを全体的に今より少しだけ大きくしてほしい」<ref name="gp296">『ゲームデザイン プロフェッショナル』、P296</ref>という具体的な指定が妥当でしょう。
== 集団作業に必要な書類 ==
===設計図===
IT業界やゲーム業界では、集団作業で制作開始をしようとする際、まず、いきなり設計図を作るのではなく、まず先に試作品(しさくひん、英語で「プロトタイプ」proto-type)のプログラムを作り、企画で考えた各種システムなどのアイデアが有効かどうかを検証します。
そのプロトタイプで、企画のアイデアが本当に有効であるかを確認してから、もし有効だったら、本格的な制作を開始します。
もしかしたら会社によっては、企画会議(もしくは企画の打ち合わせ)よりも先にプロトタイプを作るかもしれません。
さて、会社へのプロトタイプ提出で、制作続行・制作本格化の賛同が会社から得られたとしましょう。
IT業界でも製造業でも、どこの業界でも集団作業で、制作の合意を作るさい、必要な書類は、おおむね、
:作業者用の具体的な「完成予想図」
です。
しかしゲーム業界の場合、いきなり完成予想図に相当する「仕様書」は書けないので、書籍『ゲームデザインプロフェッショナル』によるとまずゲーム中の大まかな実装予定事項を記述した『企画概要書』という書類を作成することもあると言われています<ref>『ゲームデザインプロフェッショナル』、P139</ref>。ただしこの「企画概要書」は、名前に「企画」とはついているものの、どちらかというと仕様書の方針を大まかに打ち合わせするための書類に近いので、いわゆる「企画書」とは異なります。
なお、一般のIT企業でよく書かれる「要求事項書」は、ゲーム書籍では紹介されていないので、おそらくゲーム業界では書かないのが普通だと思われます。(たとえば『ゲームプランナー入門』(吉冨賢介、技術評論社)や『ゲームプランナーの新しい教科書』(STUDIO SHIN著、 翔泳社)などを読んでも、『企画書』と『仕様書』は触れられていても、要求事項書については全く触れられてない。)
===ゲーム業界での技術職===
言葉というのは同じ国の国語でも、その業種や職場、社会集団で、微妙に違った使われ方をすることも多く、技術職、という言葉もゲーム業界での特別な使い方があるようですね。
この業界では、グラフィックデザイナ-やサウンドクリエイターやプログラマーが「技術職」<ref>『ゲームプランとデザインの教科書』、P125</ref>。技術職 = ¬(not)企画職、という事で、プロデュ-サーやプランナーやディレクターなどの「技術職」でない製作スタッフが企画職です。
ただ現編集者はプロデューサーとディレクターは対立する職種だというイメージはありますね。プロデューサーは企画職だろうけど、ディレクターは、"実"制作職ではないかな?
===企画書===
*PREP法
基本的にビジネス上の書類は、結論を一番先に書く構成法が望ましいですね。もちろん商業ゲーム制作の現場でもそうでしょう。文献『ゲームプランナー入門』では、具体例として、PREP法を紹介しています。
PREP法とは、
:Point(結論)→Reason(理由)→Example(具体例)→Point(結論)。
ほかにもホールパート法やSDS法などがありますが、どれも冒頭で結論を示した後詳細を伝える方法で、ビジネス文書はやはり、その形式が常道でしょう<ref>『ゲームプランナー入門』、P141</ref>。
しかしこの社会、ビジネスが重要なのは事実だが結局、他者の行為や仕事をただ自分の欲望と利益に使い、他者の存在や詳細に興味のない人間は、とにかく結論だけを先に聞きたがるし、それ以外の事には事実上何の興味も持っていないでしょう。
*ゲームのルール
常識的な判断としては、ゲームにはルールがあるものですよね。ルールのないゲームというのは、ふつうあまり考えつかないし、イメージできない。
ですからゲーム企画書としては、ルールの説明が必要になる。キャラクター設定や世界観の解説があったとして、ルール説明がない企画書はふつう受け入れられない<ref>『ゲームプランとデザインの教科書』、P83</ref>。
ただ今ではゲームジャンルの固定化が進んでいるので、ルールはくどくど説明する必要はない、という場合はある。
企画書を誰が書くかという問題もある。業界の内部の重要人物か、全く外部の業界経験の無い人物か。
どちらににろ常識判断としては、ある程度のゲームルールの解説は必要だろう。
*プレイ人数
企画書には、ゲームのプレイ人数の記述も必要<ref>『ゲームプランナー入門』、P159</ref>。
ほんとの昔は、一人か二人でプレイするのがコンピューターゲームだったのですが、もはや時代は変わりましたね。インターネットを駆使して多人数プレイ、ソーシャルゲームなんてものも出てきました。
<!--(:※ ここから先、セクション末尾まで文章の編集者が異なります。編集者Hによる文章です。なお出典のある部分は編集者Hではなく別の編集者Sによるものです。)←すじ肉先輩さー、この記述は無いわ^^;;。だってこれって、みなさーん、以下の馬鹿文はHが書いたんだからね、俺、Sujの文じゃあないよ、馬鹿なのはHであって、俺じゃあないから。Sujはちゃんと出典は全部書いてんだよ^^、って言ってるのと同じだよね^^;;;;;-->
さて、企画書に関しては、よくない企画の典型例というのはあるようですね。特に特定人物のネームバリューに依存した企画は良くないし、批判の対象になることも多いようです。ゲームとしては、イラストレーターや声優に超大物を起用することを強調した企画書ですね。
出典として『テリー伊藤のお笑い大蔵省極秘情報』あたり、確実に特定はできませんが、木村拓也のタレント性に頼った企画は、著者のテリー伊藤によってよくない企画の例として指摘されていたようです。
もっともテリー伊藤という人物自身が、ビートたけしの面白さ、彼を起用したことの良さによって世に出て知られるようになった人物なので、そんな事言っていいのかね、などと現編集者は少し思いますが…。
また今回の本題、ゲーム業界でもそういう良くない企画書が提出されることは多いようです。元ゲーム業界人でゲーム評論家の あべひろき が、90年代の著書で、過去にゲーム関連会社に勤務してたときの体験談を書いています。企画書の精査をしているときに、「人気声優の○○さん起用!」と書かれていたものがあったが、あべ氏がその声優の所属する声優事務所に確認の電話をとると、なんの商談も声優とも事務所ともされていなかったという事です。
もっとも企画書とは企画に過ぎないのではないだろうか?これらの他人のネームバリューに頼った企画が良くないのは事実だが、企画が通って実現する見込みが決定する以前は、むしろ声優本人や事務所にアクセスすることはないのが普通だろう。
もちろん企画者がその事務者や声優と懇意にしてる場合は、あらかじめ話をする可能性はあるが、しかし企画段階ではそもそも現実のビジネスになる可能性はそれほど高くない。声優や事務所にとってもその段階でもっともらしく話をされても、むしろ困惑するだけではないだろうか?
ただこういう他人任せの企画は、「プロデューサー的企画」と呼ばれるようです<ref>吉冨賢介『ゲームプランナー入門』、P71</ref>。クリエイティブな企画とは言えないわけですが、しかし商業的な娯楽作品には、クリエイターだけではなく、プロデューサーも絶対必要でしょう。
一般に企画でも他の仕事でも、他者の力や権威、その後の作業などに頼り切った態度は、どんな場所でも嫌われて批判されますし、それは職業の場だけではないでしょう。
また、ゲームの企画に関してもう一つの話題として、アメリカでも売ることに成功したドンキーコングの、ディレクターの宮本茂(任天堂)は、「人間の生理的なところを体感できるゲームを作れば、それがユニバーサル」、だと、語っていたようです<ref>川村元気『理系に学ぶ』、ダイヤモンド社、2016年4月21日第1刷発行、P89</ref>。
===「仕様書」、「企画書」===
商業的なゲーム制作では、一般に、
発注 → 実装 → 調整
の過程を辿ります。
そして発注段階で重要な書類は、「企画書」と「仕様書」の二つです。まず『企画書』で作るゲームのコンセプトを固めてから、あとで『仕様書』で、より詳細に内容をを決める、という順序をとります<ref>『ゲームプランとデザインの教科書』、P43およびP45</ref>。
企画書<ref name="gcs72">蛭田健司『ゲームクリエイターの仕事』、翔泳社、2016年4月1日初版第1刷発行、72ページ</ref>は社内だけでなく協力会社にも見せる資料であり、開発者・協力者に対して手短かに、そのゲームの全体的なコンセプトを伝えるためのものです。
仕様書は、ゲーム制作では「設計図」であり、「完成予想図」であるといっていいでしょう。企画書よりより詳細にゲームの内容を決め、指定しています。
さて、話を進める前に、商業的に集団でゲームを作る場合の他の書類や必要事項の名称について、ここで簡単に書いておきます。
まず「発注書」とは,発注時に作られる、必要な書類群のことでしょう。「企画書」と「仕様書」も含みます。
「指示書」はむしろ、実装や調整段階でなされる、具体的なゲーム演出上の指定でしょうね。
試作品(しさくひん、英語で「プロトタイプ」proto-type)や企画会議(もしくは企画の打ち合わせ)なんて言葉も出てきますが、こういうのはあえてクドクド説明しなくても、直感的にイメージわきますよね。
『企画概要書』とは企画書とは異なるもので、仕様書に準ずる書類で、仕様書の方針を大まかに打ち合わせするためゲーム中の大まかな実装予定事項を記述している書類です。
『原案書』<ref name="gcs72" />は社内だけで企画がペイするかどうかの検討を決算書などを参考に分析・会議するための書類です。
こういう書類や用語に関する言葉の使い方は、商業的集団的なゲーム制作の場として妥当と思われるものをまとめてみましたが、もちろん職場によって、会社によって使い方や意味が微妙に変わってくる場合はあるでしょう。
さらにゲーム以外の一般IT業界や製造業でもそれぞれの慣習があり、今回の説明が成り立たない、そしてそこはより一般的な職場ですから、それぞれより一般的な言葉の使い方があると思います。
さて、コンセプトの具体例として、書籍『ゲームプランとデザインの教科書』によると、たとえば『ポケットモンスター』のメインのコンセプトは、「通信ケーブルを伝わって、ポケモンが入ったカプセルが移動して交換する」、が始まりだそうです<ref>『ゲームプランとデザインの教科書』、P109</ref>。
また、書籍『ゲームプランナー入門』(吉冨賢介 著)によると、『メタルギア』シリーズのコンセプトは、「敵に見つからないように進む」、とのことですね<ref>吉冨賢介『ゲームプランナー入門』、P108</ref>。
イラストや音楽の発注は、一般的には企画が決まった後でしょう。
そもそもイラストレーションや音楽を対価を払って提供してもらったとして、それを実作品に使用しないのは、作者にとっては不本意なことだと思います。
アニメーターの故大塚康生氏は、アニメーション演出家が安易にアニメーターに大量の絵を描かせ、そこからいいもの、利用できるものだけ取捨選択する方法を批判していましたし、一般的に手仕事には作者の思い入れがありますから、安易な大量生産品と同じ取り扱いはできないと思います。
もっとも一方で、あるアメリカの日本人アニメーターが、同僚の日本人アニメーターが、自分の描いたものを日本の家族や友人たちが見ることができないことを不満に思っていた、という事を批判的に語っていたのを、現編集者は聞いたことがあります。
しかしゲームの場合、例外的にイラストや音楽が先行する場合はありますね。
RPG『クロノトリガー』は、企画の当初からイラストレーターをつとめた漫画家・鳥山明のイラストがあって、それをもとに作品を作ったと、鳥山のマンガの編集者であった元・少年ジャンプ編集の鳥嶋和彦は述べています。<ref name="tskdq">[https://news.denfaminicogamer.jp/projectbook/torishima/2]</ref>決めシーンなどのキービジュアルを先に決め、それに合うように設定を練りこんでいくという方式で、クロノは作られたようです。
企画書の制作ツールとしては、清書としては、オフィスソフトの「PowerPoint」と、アドビの「Illustrator」、または、アドビのソフトウェアは高価なので代わりにフリーソフトの「Inkscape」および「GIMP」がよく使われます<ref>川上大典ほか著『ゲームプランとデザインの教科書』、秀和システム、、2018年11月1日第1版第1刷、P.281</ref>。なお、Illustrator および Inkscape は、ベクトル画像を描画するソフトウェアです。
ただし、下書きなどでは、タッチペンと何らかの画像ソフト、またはタッチペン用メモソフトで下書きすることもあります。
業界で、ゲームプランナーと呼ばれる職種は、仕様書作成や進捗管理、テスト&デバッグ、スタッフとのコミュニケーション、などが仕事ですね<ref name="gpd9">『ゲームプランとデザインの教科書』、P.9</ref>。
また、ゲーム制作に関して、だれもが様々なアイディアを持っていると思いますが、メモを取って、もし忘れてもメモで思い出せるようにするといいですね<ref>『ゲームプランとデザインの教科書』、P.20</ref>。
アマチュアの企画なら、実際にプロトタイプ(プレイできる試作品のこと)を作って実作品で企画、仕様を説明してしまったほうが早いかもしれません。
参考文献『ゲームプランとデザインの教科書』でも、(試作品を)「ゲームプランナーを志す中で企画書や仕様書を書きながら、ぜひ自分でも作ってみましょう。プログラムや3Dモデルを簡単なものでいいので作ってゲームに仕上げてみましょう。」と述べています<ref>『ゲームプランとデザインの教科書』、P.3</ref>。
上記の本の図表によると、企画書では、「競合情報」、「世界観」、「ストーリー」なども記述して欲しいようです<ref>『ゲームプランとデザインの教科書』、P.43 </ref>。世界観とストーリーが分けられているのです。
物語とその舞台ですね。我々自身もこの世界で自分という役を演じている役者ですよね^^
{{コラム|ゲームの企画書とアニメーションの企画書|
商業アニメーションの世界では、企画の段階でストーリーの概要が決まっているようです。ただこれは、アニメーション作品の企画として、当然に必要とされる要素であるから記述されているわけで、実制作の過程で、実際のスタッフの意向により大幅に変更されることもあります。また、これらの企画では、キャラクター設定やキャラクターイラストのデザインも当然必要であり、かなり明確な形で提出されています。
たとえば、アニメ業界の企画書ですが、1990年代のアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の企画書の掲載されている『新世紀エヴァンゲリオン (ニュータイプ100%コレクション) 』(1997年2月28日初版発行、85~88ページ)を読むと、『企書画』の段階でもう、キャラクターイラストが主役だけでなくその友人や周囲の大人なども含めて、ほとんどのキャラクターでイラスト紹介されており、さらに全部の話数ぶんの粗筋と見せ場・意図を2~3行ていどで説明しています(ただし第1話と最終3話(24~26話)のみ説明が5行以上くらいと長い)。
因みに現編集者は実際にアニメーション業界で企画書を書いたことがありますが、その時に上司、制作会社の重役に指摘されたのは、1クール(3か月)か2クール分の実際のストーリーの具体内容を書いてほしい、との事でした。
一方ゲーム業界では、そういうキャラクター設定やストーリーは、企画段階では決まっていなくて、もし書かれていても邪魔だと感じられるようです<ref>吉富賢介『ゲームプランナー入門 アイデア・企画書・仕様書の技術から就職まで』、技術評論社、2019年5月2日、149ページ</ref>。
業界の企画書で、強調してほしい内容とは、ゲームシステムと、そうシステムを設計した根拠のようです。なぜなら、ゲームの企画書でいう「コンセプトが重要」、と言う際の「コンセプト」の意味とは、ゲームシステムやゲームルールを設計した根拠のことだからです<ref>吉富賢介『ゲームプランナー入門 アイデア・企画書・仕様書の技術から就職まで』、技術評論社、2019年5月2日、108ページあたり</ref>。
とはいえ、ゲーム業界の企画書でも、ゲームの世界観が「中世西洋ファンタジー風」なのか、「現代日本」か、「近未来SF風」なのか、などの設定はある様です。ネット上で公開されている商業ゲ-ム企画書からその様子が分かりますが、しかし、最初の企画書の段階で決まってる世界観はその程度まで、です。
背景としては、ビジネスモデルが根本的にアニメーション業界とゲーム業界とでは違う、という事情があるのでしょう。
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{{コラム|キャラクター重視の物語論|
アニメ―ション業界のビジネスモデルは、キャラクタービジネスだと言われています。1990年代の徳間書店のアニメーションに関する書籍(アニメージュ10周年記念)で、徳間の編集者が1980年代のアニメ業界を振り返ると、これはキャラクタービジネスだろうと、たとえば銀河鉄道999のアニメ―ションの人気も、メーテルなどのキャラクターの人気なのだという分析があり、アニメージュ創刊当時の『銀河鉄道999』特集では、ストーリー解説ではなく、キャラクターに焦点を当てた記事を組んだと、述懐(じゅっかい)しています。
また、漫画産業もキャラクター重視のようです。主人公に共感させるための様々な演出が凝らされている。そして主人公が身近に感じられることが重要だと指摘されています<ref name="tskdq" />。
これは日本人が物語軽視というよりは、海外でも同様であり、むしろ物語とはキャラクターを描くという要素が非常に大きいという事でしょう。多くのミステリの中でも「シャーロック・ホームズ」や「007」の人気が非常に高いのも、キャラクター性と結びついた作品だからでしょうね<ref name="tskdq" />。
1982年頃『鳥山明のヘタッピマンガ研究所』では、おおむね「マンガとは人間を描くことだ」という主張がなされています。
現編集者の記憶では、漫画がキャラクターだという主張を強くしたのは、漫画原作者であり、劇画村塾の開設者である、故[[w:小池一夫|小池一夫]]氏でしょう。上述の書籍の共著者、さくまあきら氏も、劇画村塾出身ですから、さもありなんということですね。
アニメ評論家の岡田斗司夫氏は、対談集『マジメな話』で、「古代ギリシア人や古代ローマ人はとても論理的で学問も発達していたが、一方でギリシア神話やギリシア悲劇が普及していた、人間には物語が必要なのだろう、自分達の社会の仕組みを、物語になぞらえて理解する、物語が学問や科学に匹敵する」といったことを述べていました。
ギリシア神話では実に人間的な神々の物語が語られていきます。
また、政治学者小室直樹氏は、別の書籍、おそらく、『日本人のための宗教原論』あたりで、「幼少期の子供にとっての、父親の力強さと畏怖のイメージ」こそが神のイメージだろうと述べています。ギリシア神話の最高神ゼウスは、明らかに父性を示していますよね。
これはユダヤ教やキリスト教の神のイメージだと考えてもいいと思います。この辺[[w:父なる神]]あたりに面白い記述がありますし、一方でイスラム教は神に父性を見出さない、などの興味深い分析も書かれています。
また、RPGゲーム『真・女神転生』では、裏設定ですが、作中の「悪魔」とは、力の象徴であり、それは父親を暗喩しているというコンセプトがあります(たしか公式ファンブック『CLUB邪教の館』あたりに記載がある)。だからこのゲームの主人公は、父親がいない母子家庭の子供だという事になっています。
}}
{{コラム|ゲームにおけるキャラクター|
ゲームの世界は、ソーシャルゲームや美少女ゲーム等はありますが、一般的にはキャラクター重視のメディアではないようです。シューティングゲーム『ゼビウス』のキャラクター性とか、『平安京エイリアン』のキャラクター性など、想像力を最大限に駆使すれば見出せないことはないですが、常識的にはキャラクターの魅力は提供されてはいないでしょう。
ゲーム学という概念を推進している人達は、ナラティブ(「叙述」という意味)といって、スーパーマリオなどのように作中にストーリー説明文が無いゲームのことを説明しているようです。
今現在では、可愛いキャラクターや恰好いいキャラクターを作品に取り込めるのなら、それを除外する必要はないでしょう。しかし現実の人気ゲームでは、キャラクター性があいまい、あるいはほとんど見出せないゲームも多いですよね。
ゲームのキャラクターは、開発途上で変更される可能性もある。海外展開しているゲームは、相手国の風習、社会状況に合わせて、キャラクター設定を変える場合もある。
今現在は、ソーシャルゲームでもキャラクターゲームは人気ですが、昔はそうではありませんでした。1990年代は、多くのゲームファンの間では、「キャラクターゲームはつまらない」と言われていました。
2002年にシリーズ発売開始されたRPG『ドットハック』シリーズの企画コンセプトは、面白いキャラクターゲームを実現することであり、2003年当時の社長(松山洋)がラジオ番組『ドットハックレイディオ』に出演した時に、「キャラクターゲームがつまらない」という一般的に言われている常識を打破したい、それがコンセプトだ、と述べていました。
しかし実際には1990年時点で魅力的なキャラクターゲームもありましたし、大ヒットすることは無くても、一部の大きな人気は得られていたようです。
}}
{{コラム|企画が実制作に移ること|
1990年代後半に書籍を出し始めた、元ゲーム業界人・阿部広樹氏は、ゲーム会社から請け負って、そこで頓挫した、或いは難航した企画を練り直しする仕事をしていたようです。彼の著作ではその経験、経緯が語られています。
扱った一つの企画が、ガンダム風の巨大ロボット操作ゲームで、企画として完成度の高いものでした。
主要機体の巨大ロボットのグラフィック設定画は線画が完成していて、機体パイロットである主人公の顔グラフィック線画もある、ロボットの設定サイズ(「全長○○メートル」、「主要武器:○○」など)なども含む、仕様書がすでに用意されていました。
機体の名前には「メタトロン」や(たしか)「サンダルフォン」と、ネットの普及していなかった当時では調べるのにも手間のかかるユダヤ教の大天使の名前がつけられていました。
阿部氏も、このゲームは実現するだろうと、期待を込めて企画を進めていたようです。
しかし現実にはこのロボットゲーム企画は対象のゲーム会社では採用されず、実際に制作されることはありませんでした。このようにゲームの企画は、企画だけで終了してしまうものが沢山あります。
一般的に商業ゲームの製作は、本当にペイするかどうか、経営者や出資者の審査、判断の上、実制作に取り掛かるでしょう。
企画を作る方も仕事として取り組んでいるのですから、「没になるかもしれない」といって手抜きするはずもなく、内容的にも、前設定の完成度としても、どれも相当の力と手間暇をかけて企画を練りこんでゆくでしょう。
しかし結果は結果としてありますよね。採用される保証はないしされないほうが実際多い。その判断が正しかったかどうかはまた別の話ですがね。
}}
{{コラム|他業種、一般的な意味での『企画書』|
企画書にもいろいろな段階があります。
#本当に企画の初期段階の、内部関係者しか見ない、思いつきを書きなぐったような企画提案の書類(厚さはせいぜい2~3ページくらいまで?)
#企画が熟成してスポンサーや外部に見せられるようになった段階、もしくはその直前くらいの企画書(10ページを超える程度)
#パワーポイントなどを使ってプロジェクタ-で見せるプレゼン資料の「企画書」
多くの業界の企画書で学生や外部の人間が見るのは 2.か 3.でしょう。
1990年代後半のゲーム評論家の阿部広樹の他者との共著による書籍によると、彼はゲーム業界で企画に関するトラブルを解決する仕事をしていたようですが、ある案件で、「当時の人気アニメ声優を起用!」など書かれた企画書をトラブル解決のために扱いましたが、彼らが調査した時には相手先のアニメ声優および声優事務所には全く話が行っておらず、対応にも難航したようです。ただ、本Wikiの別の場所でも指摘しましたが、企画時点では、その手の手続きを踏む必要はないでしょう。企画は企画にすぎませんし、実現の見通しが大きくはないその時点で話を持ってこられても、声優も事務所も、対応しようがないと思う。ただ、前編集者の記述では、許可をとれそうな見込みもないと書いてあるから、よほどのビッグネーム声優、要するにその声優の知名度だけをあてにしている企画ですから、悪い企画の例として非難されても仕方ないのかもしれません。しかし現編集者がさらに邪推、想像するに、彼らに企画トラブルの解決を依頼したゲーム会社は、自分たちは零細で知名度もパワーもないので、とてもその有名声優にはアクセスできない、ですからトラブル解決を稼業にしている業者なら、上手にその声優にアクセスしてくれるのでは?という期待があったのではないでしょうか?だとしたら、この事案に対する阿部氏らの態度、そして後になってわざわざ自らの著書でその出来事、関係者を愚弄して、それで自分たちが正しいかのように言うこの人物の姿勢は、職業人、仕事人として問題があるのではないでしょうか?
さて、ある程度企画が本格化してくると、スポンサーに提示するプレゼン用の資料とは別に、詳細な設定や企画意図を説明する、「詳述企画書(ここでの仮の名称)」も作られていきます。この書類は今後の作業のためのひな型の意味もあり、具体的にどんなキャラクターが出てくるか、イラストなども描かれます。
因みに、「ゲーム 企画書」でグーグル検索してみると、企画書としては 1.~3. そして今書いた「詳述企画書」が混然と表示され、書類として種類や趣旨は明確化されていないようです。企業が求職者を採用するために、企画書を求める場合は、プレゼン資料が最適のようですね。採用担当者にとって一番読みやすい資料だからでしょう。
企画書として、説得力のある内容なら、採用され実制作に移る可能性も高くなるのでしょうね。そのために指摘される事として、冒頭部分で、この企画と既存の作品の違い、今までの状況からの改善点、そして実際の改良の実現の見通しと方針を示すといい様です。これは「企画意図」や「コンセプト」と呼ばれますね。
「改善点→(競合他社の)現状説明→改善案の詳細」を、詳細企画書で段階的に説明するといいですね。新聞記事の書き方で、起承転結ならぬ「結・起・承」(けつきしょう)というのがあるので、それを参考にするのもいいでしょう。
また、売り込み先の消費者として想定しているターゲット層の指定も必要です。年齢はいくつくらいなのか、性別は男性か女性か、などですね。
企画の詳細を作りこんである場合や、すでにゲームソフトを実装してある場合のシステムの説明では、単にフローチャートを図示するだけでなく、そのシステムでプレイヤーは何ができるのか、簡単な遊び方の概要説明、等を加えるといいですね。
}}
{{コラム|日産自動車の社内講習でのアニメーション業界人の講演|
どこの企業でも社員向けの講習会はそれなりにあるでしょうが、日産自動車では過去、アニメーション制作会社の幹部を招いて、営業マンや企画職の社員のために講演してもらったことがあるようです。
テレビアニメーション『輪廻のラグランジェ』が2012年に放映されていた前後、日産が取材協力として制作に参加していたので、CG雑誌で、日産の講演会の様子が紹介されていました。
アニメーション業界では、実在しない物体や機械のイメージを、メカニック設定などで詳細にイメージを作り、絵コンテマンや、原画・動画のスタッフ間でその具体設計を共有するので、自動車製造業界でも参考になる要素があると考えられたようです。
日産の担当者は、制作会社の幹部の講演会に手ごたえを感じたので、もっと話を聞かせてほしいと要望すると、『輪廻のラグランジェ』の製作会社を紹介してくれたので、その会社にも講演をお願いし、さらに制作会社側の取材協力にも積極的に応じて、異業種同士のコラボレーションが形成されていったようです。
}}
さて、ゲームの『仕様書』はそのゲームの設計図なので、起こりうる全てのパターンを網羅して設計を指定する必要があります…と言いたいところですが、そもそも本当にすべての操作に対する反応をもれなく記述できるのか? しかしできる出来ないにかかわらず、創作物が世に出れば、それはコンピューターアプリケーションとして、ユーザーに自由に操作される。その時仕様と創作物が、合理的に網羅的に作られていれば、プレーヤーはストレスなく、ゲームを楽しむ事が出来るでしょう。
;検品、検収
さて、一般に技術系の業界では、図面などの設計図は、検品のさいのチェックリストを兼ねています。(ただし、ゲーム業界での「仕様書」が検品チェックリストを兼ねているかどうかは、2022/01時点、著者側の調査不足で不明。)
しかし検品自体はゲーム業界でも行っている。協力会社から納品されたプログラムも、仕様を満たしているかチェックするだろう。
そしてチェックを通ったら、合格した製品として正式に受け取る。
納品物を合格として認めて受け取ることを「検収」(けんしゅう)という。(ゲーム業界でも)<ref name="creator_work:77">蛭田健司『ゲームクリエイターの仕事』、翔泳社、2016年4月1日初版第1刷発行、77ページ</ref>。ゲームの仕様書は、この検収を考慮に入れて書くのがいいだろう。
つまり逆に納品物が合格していないと判断されると、受け入れない、検収しない、納品者に作り直しを要求することになるだろう<ref>蛭田健司『ゲームクリエイターの仕事』、翔泳社、2016年4月1日初版第1刷発行、76ページ</ref>。
商業ゲーム界では、営業マンが見積もりをするときの根拠は、仕様書、という事になる<ref name="creator_work:77" />。
外注テストに関しては、仕様書では不十分で、テスト用の別資料を用意する<ref name="gpd9" />。
バグチェックを外注しない場合は、「仕様書」を根拠にする場合が多いという<ref>吉冨賢介『ゲームプランナー入門』、P20およびP199</ref>。
つまりやはり、製品の仕様の基盤は仕様書、正しい仕様は、仕様書に書かれている事だという事になる。
開発後半のデバッグ段階などのバグチェックの段階に入る前に、仕様書を最新のゲームの状態とそろえる<ref>吉冨賢介『ゲームプランナー入門』、P238</ref>。つまりこれは、ゲームの仕様が制作過程で変わっていったら、逆に仕様書を書き換えて、実際の仕様に合わせるという事だ。
==作成工程==
===完成予想図===
仕様書はゲームの設計図。この書類を基盤にプログラマー、グラフィッカー、製作スタッフたちは作業を進める。しかし、ゲームの場合は、いきなり完成図を明確に決定するのは困難な場合が多い。そうなると方便的に大まかな設計、決定を作っていくという事になるだろう。事実、現実の業界では、大まかな「企画概要書」から詳細な「仕様書」へと、段階的に仕様が決まっていく<ref>『ゲームデザイン プロフェッショナル』、P.141</ref>。
一般的な製造業でもゲーム業界でも、あいまいな指定は事故のもとだと考えている。「とにかく、かっこいい感じでお願いします」なんて言いたくなることもあるけど、危険らしい<ref>『ゲームデザイン プロフェッショナル』、P.60</ref>。相手の「かっこいい」のイメージが、有り得ないものだったりする場合、あるよね^^;;;。
しかし場合によっては例外もあるようだ。裁量とか、阿吽の呼吸といったものも、人間関係ではある。しかし技術を語る場合、設計とは極力あいまいさは排除するものだろう。
ゲームでは、他者に発注するときは、ある程度相手の裁量にゆだねた方が良い場合もある<ref>『ゲームデザイン プロフェッショナル』、P.134</ref>。しかしその場合も、具体的にどういう実装予定のもので、どこに裁量を与えるのか明確にする必要があるという。裁量の発注については、『ゲームデザイン プロフェッショナル』本書を読めと、前編集者は書く。
とにかくこの編集者によると、Wikibooks をはじめ、Web上のWiki には何の価値もないと言う。世の中唯一価値のある文献は市販されている書籍で、Wikiの利用意味はその価値のある素晴らしい書籍を、出典としての記述を参考に、知ることだと言う。
それなら、Wiki書くのなんて辞めて、本屋でも始めたら?
===各機能の予想図の決定===
ソフトウェアの完成予想図は、画面を基準にすると伝わりやすい。
結局パソコン、情報機器を使っている時は画面を見ますからね。
<pre>
△△モードの××画面
Aボタン: ダッシュ(走る)。押すとキャラが十字キーの選択方向にダッシュするようにプログラムする
Bボタン: ジャンプ。押すとキャラが上方向にジャンプするようにプログラムする
</pre>
とか、こんな風に書くといいのではないでしょうか。それぞれのモード、画面での機能の満たすべき情報の一覧、を伝えておきたいですね。
ユーザ視点での仕様の事は、「外部仕様」、というようです。
ですからソフトウェア設計者は、各モードについて、画面表示、操作などの外部仕様の一覧を用意したいですね。
これは完成予想図でもある。
一方ソースコードの詳細は、内部仕様ですね。
商業ゲーム界では、原則的に内部仕様に関する書類は、あまり書かないようです。とはいえ設計項目の、ファイルや変数の具体的な記述は、ある程度は仕様書に書かれる。
そして外部仕様は「画面仕様」だけではない。例えばアクションゲームのモンスターの動き方のパターン、RPGのダメージ計算式、プレイヤーが具体的に実感できる仕様は、仕様書において指摘しておきたい。
ゲーム完成予想図とは、各種外部仕様を具体的にわかりやすく記述することになるだろう。
==※例==
一冊の完成予想図の中で、説明が重複し、同じ記述が複数あるのは好ましくない。
ある記述内容が変更になる時、重複した先も変更しなければいけなくなる<ref>吉富賢介『ゲームプランナー入門 アイデア・企画書・仕様書の技術から就職まで』、技術評論社、2019年5月2日、228ページ、</ref>。
一般的製造業の製図でもこのルールは守られている。一つの末端部分の図面はそれだけで完結し、他の部分を参照しないようにしている。
ではここからは、ウディタのサンプルゲームを具体例に説明しよう。
本来サンプルがあれば仕様書は不要という事になるが、今回は説明用として、サンプルから仕様書を書き起こす。
まずサンプルゲームのメニュー画面、
:相談
:アイテム
:特殊技能
:装備
:システム
:セーブ
と、6つのコマンドがある。
上から4つめの「装備」にカーソルを合わせた状態で決定ボタンを押すとキャラクター選択に移り、十字キーで目的のキャラクターを選択して決定ボタンを押すと、装備画面に移る。
さて、これを仕様書に書くと…
【'''装備キャラクター選択画面'''】
'''遷移直後の変化'''
メニュー欄に「装備」コマンド位置に決定後カーソル画像「○○○.bmp」を表示。
キャラクター選択欄のカーソルの点滅が開始。キャラクター選択用の点滅用カーソルの画像は「△△△.bmp」。
'''ボタン押の反応'''
キャラ選択欄で十字キーの方向にいる隣または次のキャラクターを選択でき、そのキャラの選択欄にて点滅カーソルが点滅表示される。
決定キーを押すと、選択中キャラクターの『装備部位の選択画面』に移る。
キャンセルキーを押すと『メニュー画面』に移る。
'''画像リソース'''
○○○.bmp :メニュー欄用の決定中カーソル画像
△△△.bmp :キャラクター選択欄用の点滅用カーソル画像
という感じ? その画面とやりとりする相手先の画面の名前と、あとはその画面の読み込むファイル、無駄なことは書かない、他の画面や他ファイルについては書かないほうが良い。
上述の仕様書の書式の参考は、吉富賢介『ゲームプランナー入門 アイデア・企画書・仕様書の技術から就職まで』、技術評論社、2019年5月2日、221ページ、の例『各画面の仕様書の例』の書式。
『装備部位の選択画面』に移ったあとの説明は続けて書かず、別途、たとえば『装備フロー仕様書』のような仕様書を作成せよ。
仕様変更で、『装備』コマンドの位置が(サンプルゲームでは上から4番目だが)上から6個目に変わったら、「メニューの装備コマンドは上から4番目にある」と書いた書類は全部作り直しになってしまう、そういう事態を避けたい。
そのため、あえて書類をモジュール化する。全体像は把握しづらくなるが、しかし全体像の把握については、そのための専用フローチャートを書類に設け、修正の手間が波及しないようにする。
例えば…
'''装備フロー仕様'''
【 メニュー画面 】
決定ボタン ↓ ↑ キャンセルボタン
【 キャラクター選択画面 】
決定ボタン ↓ ↑ キャンセルボタン
【 装備品 選択画面 】
とかね。
フローチャートの作図をしたい場合は、オフィスソフトのパワーポイントの図形描画の機能で作図が可能。フローチャートの描き方はJISで決まっているので、それを参考に。中学校の技術家庭科でも習うのでその教科書を引っ張り出してきても良い。
例えば装備部分の選択画面は、
:右手
:左手
:身体
:装飾1
:装飾2
これがこう変更されると…
:武器
:盾
:頭
:身体
:腕
:装飾
書類上の「装備部位の選択画面の「右手」選択にカーソルの合わさった状態で移る」というような記述はすべて書き直さざるを得ない。
そこでまず、『メニュー画面』や『キャラクター選択画面』では、他画面、例えば『装備部位選択画面』の具体的項目名称とその遷移法は書かないようにする。
『キャラクター選択画面』の仕様は、例えば、「選択キャラクターの『装備部位選択画面』に移る。」と書く。
「画面の変更時は原則、その画面のいちばん上のメニュー項目にカーソルの合わさった状態で画面が移る」と書く。
例えば装備関係のフローを描くときは、
:マップ画面 → 決定ボタン → メニュー画面 → 「装備」を選択で決定ボタン → キャラクター選択 → 決定ボタン → 装備品選択画面
と、続けて書くのはよくない。フローを分解する。
'''メニュー選択フロー'''
【 マップ画面 】
決定ボタン ↓ ↑ キャンセルボタン
【 メニュー画面 】
'''装備関係フロー'''
【 メニュー画面 】
決定ボタン ↓ ↑ キャンセルボタン
【 キャラクター選択画面 】
決定ボタン ↓ ↑ キャンセルボタン
【 装備品 選択画面 】
こういう2分割でしょうか。
意味的にまとまりのある単位ごとに階層をフロー分割したい。
かといって、5分割や10分割と、階層が大きくなりすぎるのは、多重下請けのいんちき業界みたいなので、多くてもせいぜい3分割でしょうね。
そしてフロー同士を結ぶ記述が必要。
【メニュー画面仕様】
'''表示項目リスト'''
決定ボタンで下記の項目を選択できる。
・相談 :決定すればメニュー相談フローに移行
・アイテム :決定すればメニューアイテムフローに移行
・特殊技能 :決定すればメニュー特殊技能フローに移行
・装備 :決定すればメニュー装備フローに移行
・システム :決定すればメニューシステムフローに移行
・セーブ :決定すればメニューセーブフローに移行
'''非表示項目'''
・キャンセルボタンでマップ画面に戻る
とか?
なお、各画面での遷移先の画面の説明と、フロー図での遷移先の画面との説明が重複しているけど、まあ気にしない、気にしない^^;;;。
参考文献の『ゲームプランナー入門 アイデア・企画書・仕様書の技術から就職まで』の209ページ「状態遷移フローの例」と211ページ「各画面の仕様書の例」とでも、遷移先の画面の説明はそれぞれ重複しています。まあ場合によってはいつものようにこの後の記述でそこそこ言い訳するかもしれないけど…^^;;;
;一枚の図面の中での重複は、すじ肉大先生が許してくださる^^
というのは、例えば機能の似たものを二つ作る時、2個目の説明では、「○○については△△と同じ」と、書けるからね<ref name="aps229">吉富賢介『ゲームプランナー入門 アイデア・企画書・仕様書の技術から就職まで』、技術評論社、2019年5月2日、229ページ</ref>。
同じ一枚の図面なら、これで良い。
「○○については△△と同じ」「~~~と同じ」のように書いて具体的には書かない。<ref name="aps229" />。
;その他
画面名やファイル名の名前は、具体的にしたい<ref>吉富賢介『ゲームプランナー入門 アイデア・企画書・仕様書の技術から就職まで』、技術評論社、2019年5月2日、213ページ、</ref>。
たとえば、上述のウディタのサンプルゲームの画面は
:「マップ画面」、「メニュー画面」、「装備キャラクター選択画面」、「装備部位選択画面」と、したいね。
例えば
「画面1」、「画面2」、「画面3」、…
とか、
「メイン画面」、「メニュー画面」、「サブメニュー画面1」、「サブメニュー画面2」、…
にしたいときはあるし、事実上これは、命名の手間は省けるんだけど、他人に伝わりにくいので、ここは少し手間をかけて、具体的に内容ある命名にしたい。
{{コラム||
法律の設計でも、相互参照が増えると、その法律の構造自体の複雑さが増加する現象が知られています。近年、世界各国でIT的な考え方を使って法律の設計論を研究しようという学問分野があり、その学問でそう指摘されています[https://www.nature.com/articles/s41598-020-73623-x Daniel Martin Katz, Corinna Coupette, Janis Beckedorf & Dirk Hartung "Complex societies and the growth of the law" , nature.com, Published: 30 October 2020 ]。これらのIT的な法学では、法律中の単語数、階層数、法律間の相互引用数が多ければ多いほど、その法律の構造は複雑になると考えられています。ご参考に。
}}
====要求事項====
IT界の一般的な慣習として、「要求事項」とは、完成品の満たすべき要件を示しています。しかしゲーム業界では通例は、そのような追加の書類は作られないと考えられます。ゲーム設計論の専門書を読んでも「要求事項書」などというものは紹介されていません。(たとえば『ゲームプランナー入門』(吉冨賢介、技術評論社)や『ゲームプランナーの新しい教科書』(STUDIO SHIN著、 翔泳社)などを読んでも、『企画書』と『仕様書』は触れられていても、要求事項書については全く触れられてない。)
基本的に「要求事項書」とは、発注者と受注者の両方の打ち合わせによって作られていくものですが、ゲーム界、ゲームデザイナーからの要求については「仕様書」、または発注書などの手続きの際に、相手方に希望を伝えてしまうのでしょう<ref name="gp296" />。
==== データ暫定値 ====
ゲーム中のデータの数値、例えばRPG武器の攻撃力、等、はすべての項目の想定値を設計図に記述します<ref>https://www.youtube.com/watch?v=KVdtNiB_lIQ 2020年3月14日に閲覧</ref>。
CSVファイルを作りましょうか、ソフトはエクセル?
【剣データ暫定値】
銅の剣: 攻撃力 7
鉄の剣: 攻撃力 18
ハガネの剣: 攻撃力 37
ミスリルの剣: 攻撃力 70
ほのおの剣: 攻撃力 57
(※ 剣ではランク5は欠番とする)
デスブリンガー: 攻撃力 150
備前長船: 攻撃力 250
聖剣エクスカリバー: 攻撃力 450
魔剣レーヴァテイン: 攻撃力 450
具体的な指定も一緒に書いて、もちろん今後の調整で変更する可能性はあります。
====データ仕様書====
データ仕様書とは、たとえばRPGなら
:攻撃力: 敵の守備力との計算によってダメージを算出する
のようなパラメータ計算式の定義を行った仕様書のことです<ref name="gpnt92">STUDIO SHIN 著『ゲームプランナーの新しい教科書』、翔泳社、96ページ、2018年3月10日初版第2刷発行、92ページ</ref>。
そして、この「データ仕様書」は、デバッグのための資料になります。デバッガーが、この資料と実際の動作を照合することで、仕様どおりにプログラムが動いているかを確認します<ref name="gpnt92" />。
書籍『ゲームプランナーの新しい教科書』では、アイテム(「やくそう」や「毒消し」などの)価格の「100」(100ゴールド)や「200」(200ゴールド)の具体値のあるデータ表のことを「仕様書」と言っている。この本では、本当は「100」になるべき数値が「200」になっている場合 「仕様書」で簡単に確認できる、記述されている。
一般にRPGの仕様書は非常に厚く、大冊になるという。オタキング岡田斗司夫氏が聞いたところによると、(出典は『オタク学講座』など)、ある有名RPGの仕様書は、書類の量をページ数ではなくKg で数えていたという。(しかし、1kg=何枚かな?^^)。有名作の仕様書は、分厚い電話帳のようなものが何冊もあるらしいです。データ台帳、
各種パラメータ、設計の背景の要求事項、まあいろいろ書かれているのでしょうね。
;攻略本と仕様書
ゲーム攻略本にある、アイテムの効果値や、敵の能力値といった数値の一覧は、おそらくそのゲームのデータ台帳から転記されているのでしょう。
プログラム部分の設計図である仕様書も参考になるでしょうが、データ台帳には、直接的な数値が書かれています。
しかし実際の市販の攻略本には正しくない記述もある。制作側から正しいデータ、情報を手に入れられなかった場合もあるでしょう。
==プランナーが事務方の現場で動いているスタッフとみて良いでしょう==
ゲーム業界では、プランナーと言われる人が、連絡網の中心になって、いろいろな部署のあいだの情報伝達をします。
<div style="font-size:120%;">
<pre>
ディレクター ━━━ プランナー ━━━━┳━ プログラマ
┃
┣━ グラフィッカー
┃
┣━ デバッガー
</pre>
</div>
ディレクターが現実の制作のトップ、そしてその後ろにプロデューサー、管理職など、商業コンテンツとしての責任者がいることになりますね。
このプランナーは、ゲーム業界の場合、中間管理職? のような権限があり、各部署(プログラマ部署やグラフィッカー部署など)やディレクター(監督)の間で、様々な調整や連絡をしていきます。
アニメーション業界で言えば、制作進行とか、制作デスク、のような立場でしょうか。
「プランナー」というと、プラン「計画」を練るという意味になりますが、テレビ業界でいう「AD」アシスタントディレクターのようなイメージのほうが近いかもしれません<ref>吉冨賢介『ゲームプランナー入門』、P236</ref>。勿論現場を現実に回すための様々なプランは必要ですね。
==ゲームに取り込むイラスト、音楽==
商業ゲームで、イラストや音楽、そしてそれ以外でも、他者に何らかの作業を発注する場合、特に常識的、慣習的な発注フォーマットというのは無いようです。割と場当たり的に、作品、状況にあった発注形態がとられているのでしょう<ref>『ゲームデザイン プロフェッショナル』、P.146</ref>。
音楽やイラストの提供を他者に求める場合は、もちろんその作品に関するその絵描きや音楽家の関わり方にもよりますが、そのゲーム内でどのように絵や音楽を使うか、明確に説明できることが望ましいですね。
様々な事象項目チェックリストも用意したい<ref>『ゲームデザイン プロフェッショナル』、P.159</ref>。
===他者に委ねる場合===
商業としても、あるいは同人としても、割と外部の他者に描いてもらったイラストや音楽をゲームに取り込むことは多いでしょう。商業ならそれこそ、対価を明示したうえで外注、ということになる。
例えば他者にイラストをお願いするときは…
:構図、
:希望のポーズ、
:塗り方、
:テイスト、
この辺を相手に伝えておきたいですね<ref name="gpd128">『ゲームプランとデザインの教科書』、P.128</ref>。
さて、ゲームには美術的な素材として、イラストレーション、アニメーション、コミック(漫画)などがありますが、これらはもちろん絵画としての共通点はありますが、一般的にはそれぞれ別分野と見なした方がいいようです<ref name="gpd128" />。
特に商業の世界では、美術作品という共通点はあっても、他分野の創作は手間や方法論の整備や熟練などの問題で、それぞれの専門家に依頼するのが妥当でしょう<ref>畑大典ほか著『ゲーム作りの発想法と企画書の作り方』、総合科学出版、2020年11月19日第1版第1刷発行、P168</ref>。
そして、商業ゲーム界では、あるいはそれ以外でもあるかもしれませんが、キャラクターイラストを描いてもらうときは、実在のアイドルやモデルの名前をイメージとして、提示する場合もある<ref>畑大典 ほか著『ゲーム作りの発想法と企画書の作り方』、総合科学出版、2020年11月19日 第1版 第1刷発行、P168</ref>。
あるいは仮に自分は絵が上手に描けなかったとしても、ラフな簡単な絵をかいて、どんなキャラクターのどんな構図を描いてほしいか、大体の要望を伝える、ということもありますし、また、その構図が作中でどういう目的で使われるか、意図用途を伝える<ref name="gp296" />、というのも意義がありますね。
ただ他人に何かを伝えるということは、一般的な意味でも難しいことですよね。ここでイラスト描きに希望を伝えるにしても、長文の書類だと読んでもらえないこともあるし、口頭でもその相手にとって分かりにくい説明というのがある。
ですから、出来るだけ、ですね、わかり易く受け入れやすい言及が必要です<ref>『ゲームデザイン プロフェッショナル』、P295</ref>。
;アダルトゲーム
アダルトゲームでは、シナリオも外注の場合があるらしい<ref>畑大典著『ゲーム作りの発想法と企画書の作り方』、総合科学出版、2020年11月19日第1版第1刷発行、P129</ref>。しかしむしろこれは企画販売の会社と、制作主体が別だという話ではないだろうか?
ところで皆さんは、アダルトゲームって、プレイします?^^;;;
;そもそもイラストの発注者は、絵描きの頬を札びらで叩いて描かせているわけ?
基本的には有償のイラストの場合は、発注者の指定にイラストレーターは従うでしょう。それでも媒体にもよりますけどね。ゲームの場合は、発注者の指定に従う縛りは大きいと見ていいですね。
そもそも要求事項がどうのとか、書類に関する理屈をグダグダ述べれば、さらにこの縛りは強くなりますね。事実上はその辺の判断はあいまいなのですが、発注者は一般的にリテイク(書き直し)を出す権利があるとみて良い。
例えばイラストの仕事を有償で得たとして、実際にはそのイラストの使われ方も問題になりますが、「セーラー服の少女を描いてください」と頼まれてそのイラストを引き受けたら、ブレザー服の少女を描いて提出するのは不適切でしょう。リテイクを出される<ref>『クリエイターのためのおんなのこデータベース2008-ファッション編-』、編著 おんなのこデータベース制作委員会、ジャイブ株式会社(出版社名)、2008年7月5日初版発行、P.208</ref>。それどころか、仮にセーラー服の少女を描いたとしても、発注元がそのイラストの質が良くないと判断したら、一般的にはリテイクを出してよいと見られています。しかしもう一つ問題があって、そのイラストレーターはそもそもなぜブレザー少女を描いたのか?そしてもう一つ、現編集者の推奨としては、イラストレーターはリテイクの扱いについて、具体的にどう扱うか、発注者とよく話し合ってある程度ルールを明確にしておいた方が良いと思います。
前編集者はこの問題について、社会のルールがどうのとか、自称イラストレーターがどうのとか、教育がどうのとか、2005以前がどうのとか、いつものように狂った理屈を長々書いていますが、全て愚か者の自己本位なたわごとでしょう。
{{コラム|絵の仕事とはどんな仕事?|
さて、前編集者 Suj. は、このコラムで、2005~2008 にかけて、絵の仕事を、「自由に絵が描ける」「漫画や絵の仕事は、競争を気にしなくていい」と、思い込んでいる人がいたと書いているけど、これ本当の事かね? どうせいつもの[[w:かかし論法]]じゃあないの? そもそもなんでこの話では、大好きな出典出さないわけ?
しかもこの人物は、教育に携わる資格なんてまるでない性格異常者なのに、なぜか偉そうに大上段に教育論を語りたがる。
そもそもそんな人がいるかどうかも怪しいが、それは小中高の美術教育、自由に絵を描かせる授業方針のせいなんだって。
この人物の妄想世界では、「小学校の図工のような自由な仕事 <nowiki>=</nowiki> プロ絵描き」と思い込んでいる人がいるんだって。ほんとかね?
何かこの人物が大好きな江川達也もそんなこと書いていたようだよ。
2001~2005の雑誌コラム、スパ? 漫画業界について「漫画家は、競争が無くて自由に漫画を描ける仕事」、という言説に怒っているんだって。しかしほんとにそんな主張があったの?江川もストローマン叩いてるだけじゃあない?そしてわざわざゆとり教育に言及? インチキ臭いね。
しかも江川が書くには、「漫画家はとても競争の厳しい世界だ。」ってことだけど、まあそんな部分はあるけど、結局はそこで生き残って飯食ってる俺は偉いって話でしょ? 江川ってほんとにいい漫画描いてる? 単にインチキな業界人に気に入られているだけでしょ?
あと小林よしのりは、ゴーマニズム(そろそろマジメニズムになったら?)宣言で、プロデビュー前、「マンガ出版社は、漫画家が死ぬまで面倒を見てくれる、まるで公務員のような終身雇用の業界が漫画業界」と思い込んでいた、と、描いていたって言うけど、そうね、私もこんな記述昔読んだような気はするけど…
しかし、E.Suj.はこの小林の当時の考えはよくて、今同じ様な考えを持つと阿保馬鹿書くわけ? しかもほんとにこんな考えの人が今いるのかね? 出典くれない?
まあ確かに実際に今現在、そんな考えの人はひょっとしたらいるかもしれないけど…。しかしここでわざわざその話題をコラムとやらにして、彼らを愚弄する意味なんてある?
}}
===特定の絵に関して、誰でも質やクオリテイを語ることはできる。しかしそれは主観的な判断に過ぎない上、自分自身が神のように凄い絵を描けるわけではない。だからあまり威張って断定的にそれを語るなよな。===
事実上今現在の商業ゲーム界の主流の絵は、まずCGであり、手描きの場合は細密かつCG特有のグラデーション、その他最新のテクニックを駆使した多色の華やかな絵柄
でしょう。
その絵が上手に描かれたいいものであれば、ゲーム業界の馬鹿馬鹿しい連中は、この絵はクオリティが高い、などと宣うわけです。
で、その条件から外れた絵を見ると、彼らは下手だ下手だと騒ぎだすのでしょう。
;アニメーション、漫画、CGイラストレーション
上記の3つの絵画は、多少質が異なるものになるでしょう。前者二つは一枚絵で完結していないので、ある程度簡略化した手間をかけない描き方がなされる。一枚絵のイラストはそれだけで完結なので、事実かなり手間と時間はかける事が出来る。
しかしどちらにしろ、時間と手間は様々な諸事情のバランスで、それが選ばれ決定されますね。
特定の絵が上手いとか下手なことにこだわり、朝から晩までその議論ばかりしている愚か者は多いですが、事実上、時間と手間の大小にかかわらず、特定の人の心を打つ絵というのはある。
しかしやはりその心の動き自体が、主観的なものであるでしょう。
;後日修正
手間と時間をかけた絵が欲しいなら、後日修正という道はありますね。商業漫画でもアニメーションでも、後から修正を加えて絵の質を高めることはあるでしょう。
基本的にはあらゆる物事が、時間と手間をかけたことによって評価は高まりますが、しかし我々の時間も労力も無限ではない。いいバランスで、いい完成度で、多くの物は創作終了されています。
===芸術、自由、文化。そして娯楽、商業作品===
さて、前編集者Suj. は常に自分にとって都合のいい主張をしている市販本を探し、そしてそれが見つかったら購入し(しかしそのお金はどこから出ているのだろう?)、そしてそれを斜め読みした後、このサイトでクオリティ最悪の駄文を書き散らしているのだが、彼の愛読書には、ゲーム作りに必要な資質は、作家性と「人を楽しませたいと思う気持ち」<ref name="gpl246">『ゲームプランナー集中講座』、P246</ref>、だと、書かれている、らしい。
まあこのサイトを見てわかるとおり、彼自身はその二つとも全く持ち合わせていないのだが…
そしてその馬鹿馬鹿しい本には、ゲーム会社の採用担当も、ゲーム会社自体も、クリエーターに自己表現は求めていない、と書いている<ref name="gpl246" />。つまり、ゲーム会社の幹部たちに都合のいい作業を安い賃金でしてくれる、奴隷が欲しいということだろう。
そして、E.Suj,はとにかく他人の褌をはいて威張ること以外何もしないのだが、彼のイラスト分野の愛読書には、依頼内容を無視して自由に絵を描こうとする人は、「プロ」ではなく「芸術家」、と書かれている<ref>
『クリエイターのためのおんなのこデータベース2008-ファッション編-』、編著 おんなのこデータベース制作委員会、ジャイブ株式会社(出版社名)、2008年7月5日初版発行、P.198</ref>(らしい)。
====芸術と商業漫画====
漫画『サルでも描けるまんが教室』には、芸術と商業漫画に関する面白い記述がありました。
{{コラム|竹熊と相原のサル漫|
一応この漫画を知らない人のために少し説明すると、竹熊健太郎氏が原作、相原コージ氏が作画、まあ必ずきっかり分業がなされているかはわかりませんが、この二人が漫画内で主人公にもなって、商業漫画ハウツーギャクが展開します。
相原「む~…。俺たちはこんなくだらない漫画を描いてていいのだろうか…」
竹熊「どうした相原?」
相原「俺たちはもっと本質的な作品を作るべきではないか?例えば…資本主義などという下らない次元にとらわれてはいけないのではないだろうか…俺たちは国や大企業におどらされているのではないか?やはり漫画にも芸術は必要だろう…」
竹熊「バッキャローー!!!(ガッと、相原を殴る)」
相原「な、何をする…」
竹熊「お前は芸術をぜんぜん分かっちゃあいない!」
相原「そんなことない…」
竹熊「じゃあ、お前のいう芸術とは何か、言ってみろ?」
相原「それはー…、人間の内面の…真実ってゆうか…」
竹熊「にんげんのぉー、ないめんの~しんじつぅ~??? あのなー、お前は権威にとらわれてはいけないとはいうが、じゃあお前のその意見は、どこかの芸術大学の教授の権威にすがっているだけではないのか!?」
相原「そんなことない…お前こそ、政府や商業メデイアによる宣伝のつくった権威にとらわれているじゃないか。」
竹熊「ああそうかね。だけどお前だって、芸術教授の権威にあやかって自分も地位と名誉が欲しいだけだし、結局、お前もカネが欲しいだけなのだ。」
……と、いうような、もちろんこの漫画は第一にギャグマンガですが、商業漫画界やアニメーション界での、芸術という言葉の捉え方をよく示していると思います。
例えば、『ねじ式』という漫画に芸術性があると評価された、つげ義春さんも自身の漫画が芸術でくくられることを嫌っていました。漫画家は芸術家ではなくて職人だ、と語っていたインタビュー記事を読んだことがあります。
しかし実はこのサル漫、最新最終作『サルまん2.0』ではさらに面白い展開を迎えています。
少し書きますが、「とんち番長」という漫画で一世を風靡した竹熊と相原(もちろんこの漫画内の、ですよ)だったが、やがて落ちぶれ、それでも再起を図って、漫画出版社に持ち込みする。
そこでの編集者が採用を断る時の言葉。
「いやいや先生。我々の雑誌では、先生たちの高尚な漫画は掲載できませんよ…。読者はみんなほんの愚かな子供たちで、先生たちの高尚な漫画はとてもとても理解できません…」
つまり過去大騒ぎして否定していた芸術側に、いつの間にか落ちぶれて、竹熊と相原は所属していたわけです…
}}
====私小説====
{{コラム|基本的に娯楽産業の連中は、芸術という言葉も概念も嫌う|
前コラムでも書きましたが、結局商業アニメーションや漫画界では、娯楽、楽しい或いは扇情的、売れる、ということが重要で、あまり芸術的なことを語ると徹底的に嫌われます。
このコラムの前編集を見てもらえるとわかりますが、前編集の筆者もその感覚に追従して、好きかってなことを書いています。
特に自己探求にこだわった創作は、「私小説」などと呼ばれて揶揄されます。
1998年、オタキング岡田斗司夫の対談集『マジメな話』でも、当時のエヴァンゲリオンの映画版を「私小説」だと、対談相手の小説家・今野敏が批判していました。事実上この作品は衒学的な、疑似芸術作品でした。
やはり何らかの娯楽性、収益性、芸術性の問題が、常に創作作品には付きまとうようです。
さて、例えば、大正文学の売上のベストセラーは、
:倉田百三『出家とその弟子』、
:島田清次郎『地上』、
:賀川豊彦『死線を越えて』、
三大ベストセラーですが、しかし今や彼らは文学史の教科書には、滅多にのりません。せいぜい高校日本史の教科書で、倉田が少し紹介されているくらいです。
現代の教科書でよく大正時代の小説家として紹介される芥川龍之介は、じつは当時は倉田・島田らほどには売れていない作家です。また、「私小説」といわれるジャンルも当初から収益性はない。もっとも、芥川が私小説を書き出したのは晩年のことですが…。
しかし前編集者はこの問題に、毎日新聞の戦略とか、左翼がどうのとか、研究不足がどうのとか、なんかいい加減なこと書いているようですが、まあどうでもいいか。
現編集者は上記の3ベストセラーの、倉田の作品だけ読んだことがある。親鸞の話だったけど、私にとっては底の浅いいい加減な話に見えた。はっきり言って芥川の小説の方が、はるかに意味と深い内容を持っているだろう。
島田清次郎に関しては、「栄光なき天才たち」という漫画で、この人物の詳細と人生が描かれていたのを読んでいる。この漫画の中では彼は、「地上」の最終巻の採用を、編集者に断られている。
}}
=== ローポリ関連の作画 ===
単元『[[ゲームプログラミング/3Dグラフィック#ローポリ制作手法的なこと]]』で説明した。
==レポートは結論だけを読んでも分かるように書く==
レポートなどは、ゲーム業界なら、途中を読み飛ばしても、内容がおおまかに分かるように書きたい。
別に冒頭で結論を述べる必要はありませんが(会社による)、しかし、仮に書類のページの順序どおりに他者が読まなくても、
レポート全体の内容を把握できるように書くのが推奨です。
==書類は誰でも簡単に理解できるように書きたい==
書類の言葉選択は、「中学生の知識でも理解できる言葉を使う」、のが望ましいですね。言いやすいフレーズ、理解しやすいフレーズ、こういう言語選択も重要です。<ref>『ゲームデザイン プロフェッショナル』、P101</ref>
基本的にゲーム界に限らず、あらゆる場所で、わかり易い言葉を使うことが重要ですし、相手の理解に配慮することは必要でしょう。E.Suj.のように自分が理解できなければ全て相手のせいにし、相手が理解できないのもすべて相手のせいにするのは、一番有り得ない最低の態度でしょう。
== 脚注・参考文献 ==
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高校英語の文法/動詞と文型
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/* SVO(第3文型) */ ;同族目的語
wikitext
text/x-wiki
=== 文型 ===
英語の文型は基本的には、下記の5通りに分かれる。
「第1文型」と呼ぶ代わりに「SV文型」、第2文型と呼ぶ代わりに「SVC文型」のようにいう場合もある。なので、高校生としては、どの文型が何番だったかまでは覚える必要は無い。
==== SV(第1文型) ====
主語 + 動詞
※ 未記述.
==== SVC(第2文型) ====
主語 + 動詞 + 補語
がSVC文型である。
第2文型は
# Mary ''is'' '''happy'''.
# John ''became'' '''a doctor'''.
などである。
SVC文型を取る典型的な動詞がある。
become(なる)、 turn(変化して~になる), go (~(悪い状態に)なる)
のように、~になるという意味の動詞に多い。
The leaves turn red in the fall. 「秋になると、木の葉は赤くなる。」
leavesは必ずしも樹木の葉とは限らず、草の葉の場合もあるが、しかし市販の参考書などでは、これでも通じている。
The milk has gone bad. 「その牛乳は腐っている。」
などである。go は完了形で使うことが多い。
ほか、be動詞や、外見的な様子をあらわす look(のように見える), appear(~のように見える)、seem (~のように見える)
なども典型的にSVC文型である。
She is happy. 「彼女はしあわせだ。」
She looks happy. 「彼女はしあわせそうに見える。」
She appears happy. 「彼女はしあわせそうだ。」
などである。
She seems happy. 「彼女はしあわせなように見える。」
知覚を表す、feel(感じられる), smell(においがする), sound(聞こえる),taste(味がする)、なども、典型的な第2文型をとることの多い動詞である。
そのほか、熟語 be fond of ~ 「~が好きである」や be sure of ~「~を確信している」のように、形式的にはSVC文型だが、続く修飾語がないと意味をなさない言い回しもあるが、便宜的にこういった熟語表現でも形式的にSVC文型でさえありさえずれば、分類上はSVC文型として分類する。
ほか、教育上の注意として、よく便宜的に<nowiki>S = C</nowiki>と等号を使って比喩的に教育される場合もあるが、しかし数学の等号とは異なり、一般にSとCの単語のそれぞれの位置は交換できないことに教育者は気をつけておく必要がある。
==== SVO(第3文型) ====
主語 + 動詞 + 目的語
の文型がSVO文型である。
文法上は、一般にSVO文型を取る動詞は通常、他動詞である。
多くの動詞がSVO文型に該当するので、覚えるなら、他の文型と間違いやすいものを覚えると良い。
たとえば「議論する」discussは、よく間違いでabout を付けられる場合があるが、しかしaboutを使わずにSVO文型でdisucussは使う動詞である。
discuss はもともと「粉々にする」というような意味であり(ジーニアス英和)、それが転じて、話を分解するような意味になったので、なのでabout はつけない。
このような、前置詞をつけない他動詞を列挙すると、
approach(~に近づく)、attend (~に出席する), discuss(~について話し合う)、enter(~に入る)、join (~に参加する)、marry(~と結婚する)、resemble(~に似ている)、visit (~を訪問する)
などが、参考書では代表的である。
ほかに、前置詞をつけない動詞の例としては
contact (~と連絡をとる)※ジーニアス、
mention (~を述べる)※インスパイア、ジーニアス、
oppose (~に反対する)※エバーグリーン
などがある。
逆に本来なら前置詞が必要なのにそれを忘れやすい動詞としては
agree with ~(人) 「~に賛成する」、 ※ ブレイクスルー、エバーグリーン
agree to 案 「<案>に賛成する」、※ エバーグリーン
complain to 人 about 関心事 「<人>に<関心事>について不平を言う」 ※ ブレイクスルー、エバーグリーン
complain の「to 人」は省略しても構わない(ブレイクスルー)。
apologize to ~(人) 「~に謝罪する」、
たとえば
You should apologize to her. 「きみは彼女に謝罪するべきだよ。」 ※ エバーグリーン
I must apologize to her. 「私は彼女に謝罪しなければならない。」※ 青チャート
suggest 情報 to 人 「<人>に<情報>を提示する」、
同様に introduce も、
introduce 人1 to 人2 「<人2>に<人1>を紹介する」
である(青チャート、インスパイア)。<人1>のほうが紹介される情報になる。
ほか、
graduate from 学校「<学校>を卒業する」 ※日本語の「学校『を』」に引きずられて from を忘れる生徒が多いと言われている(ジーニアス)。
などがある(青チャート、インスパイア)。
そのほか、
She '''lived''' a happy '''life'''. 「彼女はしあわせな生活を送った」
のように、動詞と関連の深い目的語を取る例もある(青チャート、ジーニアス)。
ただし普通は、
She lived happily.
のように言う場合が多い(青チャート)。
smile a happy smile 「うれしそうに笑う」、
dream a strange dream 「きみょうな夢を見る」、
などの表現もある(ジーニアス)。
;同族目的語
She lived a happy life. 「彼女はしあわせな生活を送った.」 ※ 青チャート、インスパイア
や
They fought a fierce battle. 「彼らは激しく戦った.」※ インスパイア、ロイヤル英文法
のように、動詞と目的語に同じ意味が含まれている場合、これらの目的語のことを同族目的語という。
live は普段は自動詞なので目的語をとらないが、しかし同族目的語の場合、他動詞として目的語をとることができる。
このように同族目的語をとる動詞では例外的に、ふだんは自動詞でも目的語をとることができる場合がある。
言い換え表現として、
She lived happily. 「彼女はしあわせな生活を送った.
They fought fiercely. 「彼らは激しく戦った.」
のように、同族目的語を使わなくても副詞を使って言い換えることもできる。
==== SVOO(第4文型) ====
SVOO文型とは、
主語 + 動詞 + 目的語1 + 目的語2
である。なお、
主語 + 動詞 + 間接目的語 + 直接目的語
のようにも言う参考書も多い。
「~(人など)に○○(物など)を与える」という意味の基本的な動詞には、SVOO文型の用法をもつものが多い。
典型的なのは giveであり give O1 O2 で「O1にO2を与える」だが、そのほかにも hand (手渡す)や、offer (手渡す)など、和訳上では「与える」とは限らないので、意外と注意が必要である。sell 「売る」もこのグループである。
そのほか、物理的には物を渡さなくても、teach O1 O2 (O1にO2を教える)や 、tell O1 O2 (O1にO2を話す)や write O1 O2 (O1にO2(手紙など)を書く)といった、相手のもとに情報を届けるものにも、SVOO文型の用法がある。
この、相手のもとに何かを届けるグループのものは、前置詞 to を使った言い換えで、たとえば give the money to him のように表現できるものが多い。
列挙すると、
give(与える) , lend (貸す), hand (手渡す), offer (提供する), show (見せる), send (送る), tell (伝える・話す), write ((手紙などを)書く),
などがある。
ほか、他人のために何かを「してあげる」という意味の動詞にも、SVOO文型のものが多い。
具体的には、buy 「買ってあげる」、cook 「料理を作ってあげる」や find 「見つけてあげる」や、get O1 O2 (O1のためにO2を手に入れる), make (作ってあげる)という用法をもつ動詞が、SVOO文型の用法をもつ。
この、「してあげる」グループの動詞は、前置詞を使った言い換えでは、to ではなく for のほうが適切な場合が多い。
buy a new bike for him. 「新しい自転車を買ってあげる」
などのように。
buy (買う), cook(料理する), make(作る), play(演奏する), sing (歌う)、が、
もし前置詞で言い換えるならそのforのほうが適切なグループである。
;そのほかのグループ
bring「持ってくる」 とleave「残す」は、to でも for でも、SVOOでも、どれでも使える。
bringの場合で、前置詞を使う場合は、文脈から to か for かより適切なほうを判断する。
leave の場合、慣用的に、財産を残して死ぬ場合は to を、ケーキやクッキーなどを人に残しておくのは for である。
I left some cake for him. 「私は彼にケーキを少し残しておいた。」
He left a fortune to his wife. 「彼は妻に財産を残して死んだ。」
;to や for で言い換えできないグループ
cost, envy(うらやましく思う), save(節約する), spare(省く) , は、SVOO文型の用法はあるが、しかし一般に to や for を使った言い換えは出来ないし、またそのためO1とO2の語順も変えられない。
==== SVOC(第5文型) ====
主語+動詞+目的語+補語
SVOC文型では、O = C の関係が成立する。
make O C 「OをCにさせる」がSVOCの一例である。
call 「~と呼ぶ」や name「~と名づける」など、何かを呼ぶ表現がSVOCである。
ほか、elect O C で 「OをCに選ぶ」だが、しかし類義語の choose は伝統的にはSVOC文型にはならない事に注意する必要がある。ただし、最近は事情が異なり、 choose でも SVOC文型を取る場合もあるので(ロイヤル英文法)、複雑である。
leave「残しておく」や keep「~にしておく」など、現状維持の意味の動詞でも、用法によっては SVOC の場合もある。
そのほか、「~を・・・と思う」グループとして、believe「OをCと信じる」、consider「OをCと見なす」, find「OがCだと分かる」, think 「OをCと思う」などがある。
I believe him a great artist. 「私は彼を偉大な芸術家だと思う。」
I consider him a great artist. 「私は彼を偉大な芸術家だとみなしている。
なお、regard 「見なす」は、このタイプ'''ではなく'''、前置詞 as が必要である(桐原フォレスト、大修館総合英語)。
regard A as B で、「AをBだと見なす」
たとえば、 regard her as our leader で、「彼女を私たちのリーダーだとみなす」である。
===== 主語と述語動詞の構文 =====
====== have 過去分詞 ======
'''I''' ''have'' my teeth '''cleaned'''.(私は歯を磨いてもらっている)
ここでは、<code>have=させる(依頼)</code>である。主語(I)と述語動詞(cleaned)が対応している関係になっている。つまり、I cleaned というふうに組み合わせて文法的に正解であれば、このhave 過去分詞の構文は正解である。
==== there構文など ====
There is ~ や There are ~ といった、いわゆるthere構文は、これをSV文型とみる解釈と、SVC文型とみる解釈とがある。
冒頭の there をS と解釈すれば SVC文型という解釈になる。
冒頭の there を M(修飾語)と解釈すれば、SV文型という解釈になる。
このため、there 構文は5文型による分類からは独立した特殊な構文であると考えられている。
ほか、it seems 「~のように見える」など形式主語 it を使った文章も、例外的なものだとして、文型の分類からは除外されることが多い。
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=== 文型 ===
英語の文型は基本的には、下記の5通りに分かれる。
「第1文型」と呼ぶ代わりに「SV文型」、第2文型と呼ぶ代わりに「SVC文型」のようにいう場合もある。なので、高校生としては、どの文型が何番だったかまでは覚える必要は無い。
==== SV(第1文型) ====
主語 + 動詞
※ 未記述.
==== SVC(第2文型) ====
主語 + 動詞 + 補語
がSVC文型である。
第2文型は
# Mary ''is'' '''happy'''.
# John ''became'' '''a doctor'''.
などである。
SVC文型を取る典型的な動詞がある。
become(なる)、 turn(変化して~になる), go (~(悪い状態に)なる)
のように、~になるという意味の動詞に多い。
The leaves turn red in the fall. 「秋になると、木の葉は赤くなる。」
leavesは必ずしも樹木の葉とは限らず、草の葉の場合もあるが、しかし市販の参考書などでは、これでも通じている。
The milk has gone bad. 「その牛乳は腐っている。」
などである。go は完了形で使うことが多い。
ほか、be動詞や、外見的な様子をあらわす look(のように見える), appear(~のように見える)、seem (~のように見える)
なども典型的にSVC文型である。
She is happy. 「彼女はしあわせだ。」
She looks happy. 「彼女はしあわせそうに見える。」
She appears happy. 「彼女はしあわせそうだ。」
などである。
She seems happy. 「彼女はしあわせなように見える。」
知覚を表す、feel(感じられる), smell(においがする), sound(聞こえる),taste(味がする)、なども、典型的な第2文型をとることの多い動詞である。
そのほか、熟語 be fond of ~ 「~が好きである」や be sure of ~「~を確信している」のように、形式的にはSVC文型だが、続く修飾語がないと意味をなさない言い回しもあるが、便宜的にこういった熟語表現でも形式的にSVC文型でさえありさえずれば、分類上はSVC文型として分類する。
ほか、教育上の注意として、よく便宜的に<nowiki>S = C</nowiki>と等号を使って比喩的に教育される場合もあるが、しかし数学の等号とは異なり、一般にSとCの単語のそれぞれの位置は交換できないことに教育者は気をつけておく必要がある。
==== SVO(第3文型) ====
主語 + 動詞 + 目的語
の文型がSVO文型である。
文法上は、一般にSVO文型を取る動詞は通常、他動詞である。
多くの動詞がSVO文型に該当するので、覚えるなら、他の文型と間違いやすいものを覚えると良い。
たとえば「議論する」discussは、よく間違いでabout を付けられる場合があるが、しかしaboutを使わずにSVO文型でdisucussは使う動詞である。
discuss はもともと「粉々にする」というような意味であり(ジーニアス英和)、それが転じて、話を分解するような意味になったので、なのでabout はつけない。
このような、前置詞をつけない他動詞を列挙すると、
approach(~に近づく)、attend (~に出席する), discuss(~について話し合う)、enter(~に入る)、join (~に参加する)、marry(~と結婚する)、resemble(~に似ている)、visit (~を訪問する)
などが、参考書では代表的である。
ほかに、前置詞をつけない動詞の例としては
contact (~と連絡をとる)※ジーニアス、
mention (~を述べる)※インスパイア、ジーニアス、
oppose (~に反対する)※エバーグリーン
などがある。
逆に本来なら前置詞が必要なのにそれを忘れやすい動詞としては
agree with ~(人) 「~に賛成する」、 ※ ブレイクスルー、エバーグリーン
agree to 案 「<案>に賛成する」、※ エバーグリーン
complain to 人 about 関心事 「<人>に<関心事>について不平を言う」 ※ ブレイクスルー、エバーグリーン
complain の「to 人」は省略しても構わない(ブレイクスルー)。
apologize to ~(人) 「~に謝罪する」、
たとえば
You should apologize to her. 「きみは彼女に謝罪するべきだよ。」 ※ エバーグリーン
I must apologize to her. 「私は彼女に謝罪しなければならない。」※ 青チャート
suggest 情報 to 人 「<人>に<情報>を提示する」、
同様に introduce も、
introduce 人1 to 人2 「<人2>に<人1>を紹介する」
である(青チャート、インスパイア)。<人1>のほうが紹介される情報になる。
ほか、
graduate from 学校「<学校>を卒業する」 ※日本語の「学校『を』」に引きずられて from を忘れる生徒が多いと言われている(ジーニアス)。
などがある(青チャート、インスパイア)。
そのほか、
She '''lived''' a happy '''life'''. 「彼女はしあわせな生活を送った」
のように、動詞と関連の深い目的語を取る例もある(青チャート、ジーニアス)。
ただし普通は、
She lived happily.
のように言う場合が多い(青チャート)。
smile a happy smile 「うれしそうに笑う」、
dream a strange dream 「きみょうな夢を見る」、
などの表現もある(ジーニアス)。
;同族目的語
下記のように、動詞と目的語で語源が同じ単語だったり似た意味の単語の場合、これらの目的語のことを'''同族目的語'''という。
She '''lived''' a happy '''life'''. 「彼女はしあわせな生活を送った.」 (語源が同じ)※ 青チャート、インスパイア
They '''fought''' a fierce '''battle'''. 「彼らは激しく戦った.」(似た意味)※ インスパイア、ロイヤル英文法
なお、live は普段は自動詞なので目的語をとらないが、しかし同族目的語の場合、他動詞として目的語をとることができる。
このように同族目的語をとる動詞では例外的に、ふだんは自動詞でも目的語をとることができる場合がある。
言い換え表現として、
She lived happily. 「彼女はしあわせな生活を送った.
They fought fiercely. 「彼らは激しく戦った.」
のように、同族目的語を使わなくても副詞を使って言い換えることもできる。
==== SVOO(第4文型) ====
SVOO文型とは、
主語 + 動詞 + 目的語1 + 目的語2
である。なお、
主語 + 動詞 + 間接目的語 + 直接目的語
のようにも言う参考書も多い。
「~(人など)に○○(物など)を与える」という意味の基本的な動詞には、SVOO文型の用法をもつものが多い。
典型的なのは giveであり give O1 O2 で「O1にO2を与える」だが、そのほかにも hand (手渡す)や、offer (手渡す)など、和訳上では「与える」とは限らないので、意外と注意が必要である。sell 「売る」もこのグループである。
そのほか、物理的には物を渡さなくても、teach O1 O2 (O1にO2を教える)や 、tell O1 O2 (O1にO2を話す)や write O1 O2 (O1にO2(手紙など)を書く)といった、相手のもとに情報を届けるものにも、SVOO文型の用法がある。
この、相手のもとに何かを届けるグループのものは、前置詞 to を使った言い換えで、たとえば give the money to him のように表現できるものが多い。
列挙すると、
give(与える) , lend (貸す), hand (手渡す), offer (提供する), show (見せる), send (送る), tell (伝える・話す), write ((手紙などを)書く),
などがある。
ほか、他人のために何かを「してあげる」という意味の動詞にも、SVOO文型のものが多い。
具体的には、buy 「買ってあげる」、cook 「料理を作ってあげる」や find 「見つけてあげる」や、get O1 O2 (O1のためにO2を手に入れる), make (作ってあげる)という用法をもつ動詞が、SVOO文型の用法をもつ。
この、「してあげる」グループの動詞は、前置詞を使った言い換えでは、to ではなく for のほうが適切な場合が多い。
buy a new bike for him. 「新しい自転車を買ってあげる」
などのように。
buy (買う), cook(料理する), make(作る), play(演奏する), sing (歌う)、が、
もし前置詞で言い換えるならそのforのほうが適切なグループである。
;そのほかのグループ
bring「持ってくる」 とleave「残す」は、to でも for でも、SVOOでも、どれでも使える。
bringの場合で、前置詞を使う場合は、文脈から to か for かより適切なほうを判断する。
leave の場合、慣用的に、財産を残して死ぬ場合は to を、ケーキやクッキーなどを人に残しておくのは for である。
I left some cake for him. 「私は彼にケーキを少し残しておいた。」
He left a fortune to his wife. 「彼は妻に財産を残して死んだ。」
;to や for で言い換えできないグループ
cost, envy(うらやましく思う), save(節約する), spare(省く) , は、SVOO文型の用法はあるが、しかし一般に to や for を使った言い換えは出来ないし、またそのためO1とO2の語順も変えられない。
==== SVOC(第5文型) ====
主語+動詞+目的語+補語
SVOC文型では、O = C の関係が成立する。
make O C 「OをCにさせる」がSVOCの一例である。
call 「~と呼ぶ」や name「~と名づける」など、何かを呼ぶ表現がSVOCである。
ほか、elect O C で 「OをCに選ぶ」だが、しかし類義語の choose は伝統的にはSVOC文型にはならない事に注意する必要がある。ただし、最近は事情が異なり、 choose でも SVOC文型を取る場合もあるので(ロイヤル英文法)、複雑である。
leave「残しておく」や keep「~にしておく」など、現状維持の意味の動詞でも、用法によっては SVOC の場合もある。
そのほか、「~を・・・と思う」グループとして、believe「OをCと信じる」、consider「OをCと見なす」, find「OがCだと分かる」, think 「OをCと思う」などがある。
I believe him a great artist. 「私は彼を偉大な芸術家だと思う。」
I consider him a great artist. 「私は彼を偉大な芸術家だとみなしている。
なお、regard 「見なす」は、このタイプ'''ではなく'''、前置詞 as が必要である(桐原フォレスト、大修館総合英語)。
regard A as B で、「AをBだと見なす」
たとえば、 regard her as our leader で、「彼女を私たちのリーダーだとみなす」である。
===== 主語と述語動詞の構文 =====
====== have 過去分詞 ======
'''I''' ''have'' my teeth '''cleaned'''.(私は歯を磨いてもらっている)
ここでは、<code>have=させる(依頼)</code>である。主語(I)と述語動詞(cleaned)が対応している関係になっている。つまり、I cleaned というふうに組み合わせて文法的に正解であれば、このhave 過去分詞の構文は正解である。
==== there構文など ====
There is ~ や There are ~ といった、いわゆるthere構文は、これをSV文型とみる解釈と、SVC文型とみる解釈とがある。
冒頭の there をS と解釈すれば SVC文型という解釈になる。
冒頭の there を M(修飾語)と解釈すれば、SV文型という解釈になる。
このため、there 構文は5文型による分類からは独立した特殊な構文であると考えられている。
ほか、it seems 「~のように見える」など形式主語 it を使った文章も、例外的なものだとして、文型の分類からは除外されることが多い。
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/* SVOO(第4文型) */ envyなどの出典
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=== 文型 ===
英語の文型は基本的には、下記の5通りに分かれる。
「第1文型」と呼ぶ代わりに「SV文型」、第2文型と呼ぶ代わりに「SVC文型」のようにいう場合もある。なので、高校生としては、どの文型が何番だったかまでは覚える必要は無い。
==== SV(第1文型) ====
主語 + 動詞
※ 未記述.
==== SVC(第2文型) ====
主語 + 動詞 + 補語
がSVC文型である。
第2文型は
# Mary ''is'' '''happy'''.
# John ''became'' '''a doctor'''.
などである。
SVC文型を取る典型的な動詞がある。
become(なる)、 turn(変化して~になる), go (~(悪い状態に)なる)
のように、~になるという意味の動詞に多い。
The leaves turn red in the fall. 「秋になると、木の葉は赤くなる。」
leavesは必ずしも樹木の葉とは限らず、草の葉の場合もあるが、しかし市販の参考書などでは、これでも通じている。
The milk has gone bad. 「その牛乳は腐っている。」
などである。go は完了形で使うことが多い。
ほか、be動詞や、外見的な様子をあらわす look(のように見える), appear(~のように見える)、seem (~のように見える)
なども典型的にSVC文型である。
She is happy. 「彼女はしあわせだ。」
She looks happy. 「彼女はしあわせそうに見える。」
She appears happy. 「彼女はしあわせそうだ。」
などである。
She seems happy. 「彼女はしあわせなように見える。」
知覚を表す、feel(感じられる), smell(においがする), sound(聞こえる),taste(味がする)、なども、典型的な第2文型をとることの多い動詞である。
そのほか、熟語 be fond of ~ 「~が好きである」や be sure of ~「~を確信している」のように、形式的にはSVC文型だが、続く修飾語がないと意味をなさない言い回しもあるが、便宜的にこういった熟語表現でも形式的にSVC文型でさえありさえずれば、分類上はSVC文型として分類する。
ほか、教育上の注意として、よく便宜的に<nowiki>S = C</nowiki>と等号を使って比喩的に教育される場合もあるが、しかし数学の等号とは異なり、一般にSとCの単語のそれぞれの位置は交換できないことに教育者は気をつけておく必要がある。
==== SVO(第3文型) ====
主語 + 動詞 + 目的語
の文型がSVO文型である。
文法上は、一般にSVO文型を取る動詞は通常、他動詞である。
多くの動詞がSVO文型に該当するので、覚えるなら、他の文型と間違いやすいものを覚えると良い。
たとえば「議論する」discussは、よく間違いでabout を付けられる場合があるが、しかしaboutを使わずにSVO文型でdisucussは使う動詞である。
discuss はもともと「粉々にする」というような意味であり(ジーニアス英和)、それが転じて、話を分解するような意味になったので、なのでabout はつけない。
このような、前置詞をつけない他動詞を列挙すると、
approach(~に近づく)、attend (~に出席する), discuss(~について話し合う)、enter(~に入る)、join (~に参加する)、marry(~と結婚する)、resemble(~に似ている)、visit (~を訪問する)
などが、参考書では代表的である。
ほかに、前置詞をつけない動詞の例としては
contact (~と連絡をとる)※ジーニアス、
mention (~を述べる)※インスパイア、ジーニアス、
oppose (~に反対する)※エバーグリーン
などがある。
逆に本来なら前置詞が必要なのにそれを忘れやすい動詞としては
agree with ~(人) 「~に賛成する」、 ※ ブレイクスルー、エバーグリーン
agree to 案 「<案>に賛成する」、※ エバーグリーン
complain to 人 about 関心事 「<人>に<関心事>について不平を言う」 ※ ブレイクスルー、エバーグリーン
complain の「to 人」は省略しても構わない(ブレイクスルー)。
apologize to ~(人) 「~に謝罪する」、
たとえば
You should apologize to her. 「きみは彼女に謝罪するべきだよ。」 ※ エバーグリーン
I must apologize to her. 「私は彼女に謝罪しなければならない。」※ 青チャート
suggest 情報 to 人 「<人>に<情報>を提示する」、
同様に introduce も、
introduce 人1 to 人2 「<人2>に<人1>を紹介する」
である(青チャート、インスパイア)。<人1>のほうが紹介される情報になる。
ほか、
graduate from 学校「<学校>を卒業する」 ※日本語の「学校『を』」に引きずられて from を忘れる生徒が多いと言われている(ジーニアス)。
などがある(青チャート、インスパイア)。
そのほか、
She '''lived''' a happy '''life'''. 「彼女はしあわせな生活を送った」
のように、動詞と関連の深い目的語を取る例もある(青チャート、ジーニアス)。
ただし普通は、
She lived happily.
のように言う場合が多い(青チャート)。
smile a happy smile 「うれしそうに笑う」、
dream a strange dream 「きみょうな夢を見る」、
などの表現もある(ジーニアス)。
;同族目的語
下記のように、動詞と目的語で語源が同じ単語だったり似た意味の単語の場合、これらの目的語のことを'''同族目的語'''という。
She '''lived''' a happy '''life'''. 「彼女はしあわせな生活を送った.」 (語源が同じ)※ 青チャート、インスパイア
They '''fought''' a fierce '''battle'''. 「彼らは激しく戦った.」(似た意味)※ インスパイア、ロイヤル英文法
なお、live は普段は自動詞なので目的語をとらないが、しかし同族目的語の場合、他動詞として目的語をとることができる。
このように同族目的語をとる動詞では例外的に、ふだんは自動詞でも目的語をとることができる場合がある。
言い換え表現として、
She lived happily. 「彼女はしあわせな生活を送った.
They fought fiercely. 「彼らは激しく戦った.」
のように、同族目的語を使わなくても副詞を使って言い換えることもできる。
==== SVOO(第4文型) ====
SVOO文型とは、
主語 + 動詞 + 目的語1 + 目的語2
である。なお、
主語 + 動詞 + 間接目的語 + 直接目的語
のようにも言う参考書も多い。
「~(人など)に○○(物など)を与える」という意味の基本的な動詞には、SVOO文型の用法をもつものが多い。
典型的なのは giveであり give O1 O2 で「O1にO2を与える」だが、そのほかにも hand (手渡す)や、offer (手渡す)など、和訳上では「与える」とは限らないので、意外と注意が必要である。sell 「売る」もこのグループである。
そのほか、物理的には物を渡さなくても、teach O1 O2 (O1にO2を教える)や 、tell O1 O2 (O1にO2を話す)や write O1 O2 (O1にO2(手紙など)を書く)といった、相手のもとに情報を届けるものにも、SVOO文型の用法がある。
この、相手のもとに何かを届けるグループのものは、前置詞 to を使った言い換えで、たとえば give the money to him のように表現できるものが多い。
列挙すると、
give(与える) , lend (貸す), hand (手渡す), offer (提供する), show (見せる), send (送る), tell (伝える・話す), write ((手紙などを)書く),
などがある。
ほか、他人のために何かを「してあげる」という意味の動詞にも、SVOO文型のものが多い。
具体的には、buy 「買ってあげる」、cook 「料理を作ってあげる」や find 「見つけてあげる」や、get O1 O2 (O1のためにO2を手に入れる), make (作ってあげる)という用法をもつ動詞が、SVOO文型の用法をもつ。
この、「してあげる」グループの動詞は、前置詞を使った言い換えでは、to ではなく for のほうが適切な場合が多い。
buy a new bike for him. 「新しい自転車を買ってあげる」
などのように。
buy (買う), cook(料理する), make(作る), play(演奏する), sing (歌う)、が、
もし前置詞で言い換えるならそのforのほうが適切なグループである。
;そのほかのグループ
bring「持ってくる」 とleave「残す」は、to でも for でも、SVOOでも、どれでも使える。
bringの場合で、前置詞を使う場合は、文脈から to か for かより適切なほうを判断する。
leave の場合、慣用的に、財産を残して死ぬ場合は to を、ケーキやクッキーなどを人に残しておくのは for である。
I left some cake for him. 「私は彼にケーキを少し残しておいた。」
He left a fortune to his wife. 「彼は妻に財産を残して死んだ。」
;to や for で言い換えできないグループ
cost, envy(うらやましく思う), save(節約する), spare(省く) , は、SVOO文型の用法はあるが、しかし一般に to や for を使った言い換えは出来ないし、またそのためO1とO2の語順も変えられない(インスパイア、ジーニアス、ロイヤル)。
==== SVOC(第5文型) ====
主語+動詞+目的語+補語
SVOC文型では、O = C の関係が成立する。
make O C 「OをCにさせる」がSVOCの一例である。
call 「~と呼ぶ」や name「~と名づける」など、何かを呼ぶ表現がSVOCである。
ほか、elect O C で 「OをCに選ぶ」だが、しかし類義語の choose は伝統的にはSVOC文型にはならない事に注意する必要がある。ただし、最近は事情が異なり、 choose でも SVOC文型を取る場合もあるので(ロイヤル英文法)、複雑である。
leave「残しておく」や keep「~にしておく」など、現状維持の意味の動詞でも、用法によっては SVOC の場合もある。
そのほか、「~を・・・と思う」グループとして、believe「OをCと信じる」、consider「OをCと見なす」, find「OがCだと分かる」, think 「OをCと思う」などがある。
I believe him a great artist. 「私は彼を偉大な芸術家だと思う。」
I consider him a great artist. 「私は彼を偉大な芸術家だとみなしている。
なお、regard 「見なす」は、このタイプ'''ではなく'''、前置詞 as が必要である(桐原フォレスト、大修館総合英語)。
regard A as B で、「AをBだと見なす」
たとえば、 regard her as our leader で、「彼女を私たちのリーダーだとみなす」である。
===== 主語と述語動詞の構文 =====
====== have 過去分詞 ======
'''I''' ''have'' my teeth '''cleaned'''.(私は歯を磨いてもらっている)
ここでは、<code>have=させる(依頼)</code>である。主語(I)と述語動詞(cleaned)が対応している関係になっている。つまり、I cleaned というふうに組み合わせて文法的に正解であれば、このhave 過去分詞の構文は正解である。
==== there構文など ====
There is ~ や There are ~ といった、いわゆるthere構文は、これをSV文型とみる解釈と、SVC文型とみる解釈とがある。
冒頭の there をS と解釈すれば SVC文型という解釈になる。
冒頭の there を M(修飾語)と解釈すれば、SV文型という解釈になる。
このため、there 構文は5文型による分類からは独立した特殊な構文であると考えられている。
ほか、it seems 「~のように見える」など形式主語 it を使った文章も、例外的なものだとして、文型の分類からは除外されることが多い。
0tf7fs4byp97g7ksk33xph37s3hkp2j
206930
206929
2022-08-22T00:23:48Z
すじにくシチュー
12058
/* SVOO(第4文型) */
wikitext
text/x-wiki
=== 文型 ===
英語の文型は基本的には、下記の5通りに分かれる。
「第1文型」と呼ぶ代わりに「SV文型」、第2文型と呼ぶ代わりに「SVC文型」のようにいう場合もある。なので、高校生としては、どの文型が何番だったかまでは覚える必要は無い。
==== SV(第1文型) ====
主語 + 動詞
※ 未記述.
==== SVC(第2文型) ====
主語 + 動詞 + 補語
がSVC文型である。
第2文型は
# Mary ''is'' '''happy'''.
# John ''became'' '''a doctor'''.
などである。
SVC文型を取る典型的な動詞がある。
become(なる)、 turn(変化して~になる), go (~(悪い状態に)なる)
のように、~になるという意味の動詞に多い。
The leaves turn red in the fall. 「秋になると、木の葉は赤くなる。」
leavesは必ずしも樹木の葉とは限らず、草の葉の場合もあるが、しかし市販の参考書などでは、これでも通じている。
The milk has gone bad. 「その牛乳は腐っている。」
などである。go は完了形で使うことが多い。
ほか、be動詞や、外見的な様子をあらわす look(のように見える), appear(~のように見える)、seem (~のように見える)
なども典型的にSVC文型である。
She is happy. 「彼女はしあわせだ。」
She looks happy. 「彼女はしあわせそうに見える。」
She appears happy. 「彼女はしあわせそうだ。」
などである。
She seems happy. 「彼女はしあわせなように見える。」
知覚を表す、feel(感じられる), smell(においがする), sound(聞こえる),taste(味がする)、なども、典型的な第2文型をとることの多い動詞である。
そのほか、熟語 be fond of ~ 「~が好きである」や be sure of ~「~を確信している」のように、形式的にはSVC文型だが、続く修飾語がないと意味をなさない言い回しもあるが、便宜的にこういった熟語表現でも形式的にSVC文型でさえありさえずれば、分類上はSVC文型として分類する。
ほか、教育上の注意として、よく便宜的に<nowiki>S = C</nowiki>と等号を使って比喩的に教育される場合もあるが、しかし数学の等号とは異なり、一般にSとCの単語のそれぞれの位置は交換できないことに教育者は気をつけておく必要がある。
==== SVO(第3文型) ====
主語 + 動詞 + 目的語
の文型がSVO文型である。
文法上は、一般にSVO文型を取る動詞は通常、他動詞である。
多くの動詞がSVO文型に該当するので、覚えるなら、他の文型と間違いやすいものを覚えると良い。
たとえば「議論する」discussは、よく間違いでabout を付けられる場合があるが、しかしaboutを使わずにSVO文型でdisucussは使う動詞である。
discuss はもともと「粉々にする」というような意味であり(ジーニアス英和)、それが転じて、話を分解するような意味になったので、なのでabout はつけない。
このような、前置詞をつけない他動詞を列挙すると、
approach(~に近づく)、attend (~に出席する), discuss(~について話し合う)、enter(~に入る)、join (~に参加する)、marry(~と結婚する)、resemble(~に似ている)、visit (~を訪問する)
などが、参考書では代表的である。
ほかに、前置詞をつけない動詞の例としては
contact (~と連絡をとる)※ジーニアス、
mention (~を述べる)※インスパイア、ジーニアス、
oppose (~に反対する)※エバーグリーン
などがある。
逆に本来なら前置詞が必要なのにそれを忘れやすい動詞としては
agree with ~(人) 「~に賛成する」、 ※ ブレイクスルー、エバーグリーン
agree to 案 「<案>に賛成する」、※ エバーグリーン
complain to 人 about 関心事 「<人>に<関心事>について不平を言う」 ※ ブレイクスルー、エバーグリーン
complain の「to 人」は省略しても構わない(ブレイクスルー)。
apologize to ~(人) 「~に謝罪する」、
たとえば
You should apologize to her. 「きみは彼女に謝罪するべきだよ。」 ※ エバーグリーン
I must apologize to her. 「私は彼女に謝罪しなければならない。」※ 青チャート
suggest 情報 to 人 「<人>に<情報>を提示する」、
同様に introduce も、
introduce 人1 to 人2 「<人2>に<人1>を紹介する」
である(青チャート、インスパイア)。<人1>のほうが紹介される情報になる。
ほか、
graduate from 学校「<学校>を卒業する」 ※日本語の「学校『を』」に引きずられて from を忘れる生徒が多いと言われている(ジーニアス)。
などがある(青チャート、インスパイア)。
そのほか、
She '''lived''' a happy '''life'''. 「彼女はしあわせな生活を送った」
のように、動詞と関連の深い目的語を取る例もある(青チャート、ジーニアス)。
ただし普通は、
She lived happily.
のように言う場合が多い(青チャート)。
smile a happy smile 「うれしそうに笑う」、
dream a strange dream 「きみょうな夢を見る」、
などの表現もある(ジーニアス)。
;同族目的語
下記のように、動詞と目的語で語源が同じ単語だったり似た意味の単語の場合、これらの目的語のことを'''同族目的語'''という。
She '''lived''' a happy '''life'''. 「彼女はしあわせな生活を送った.」 (語源が同じ)※ 青チャート、インスパイア
They '''fought''' a fierce '''battle'''. 「彼らは激しく戦った.」(似た意味)※ インスパイア、ロイヤル英文法
なお、live は普段は自動詞なので目的語をとらないが、しかし同族目的語の場合、他動詞として目的語をとることができる。
このように同族目的語をとる動詞では例外的に、ふだんは自動詞でも目的語をとることができる場合がある。
言い換え表現として、
She lived happily. 「彼女はしあわせな生活を送った.
They fought fiercely. 「彼らは激しく戦った.」
のように、同族目的語を使わなくても副詞を使って言い換えることもできる。
==== SVOO(第4文型) ====
SVOO文型とは、
主語 + 動詞 + 目的語1 + 目的語2
である。なお、
主語 + 動詞 + 間接目的語 + 直接目的語
のようにも言う参考書も多い。
「~(人など)に○○(物など)を与える」という意味の基本的な動詞には、SVOO文型の用法をもつものが多い。
典型的なのは giveであり give O1 O2 で「O1にO2を与える」だが、そのほかにも hand (手渡す)や、offer (手渡す)など、和訳上では「与える」とは限らないので、意外と注意が必要である。sell 「売る」もこのグループである。
そのほか、物理的には物を渡さなくても、teach O1 O2 (O1にO2を教える)や 、tell O1 O2 (O1にO2を話す)や write O1 O2 (O1にO2(手紙など)を書く)といった、相手のもとに情報を届けるものにも、SVOO文型の用法がある。
この、相手のもとに何かを届けるグループのものは、前置詞 to を使った言い換えで、たとえば give the money to him のように表現できるものが多い。
列挙すると、
give(与える) , lend (貸す), hand (手渡す), offer (提供する), show (見せる), send (送る), tell (伝える・話す), write ((手紙などを)書く),
などがある。
ほか、他人のために何かを「してあげる」という意味の動詞にも、SVOO文型のものが多い。
具体的には、buy 「買ってあげる」、cook 「料理を作ってあげる」や find 「見つけてあげる」や、get O1 O2 (O1のためにO2を手に入れる), make (作ってあげる)という用法をもつ動詞が、SVOO文型の用法をもつ。
この、「してあげる」グループの動詞は、前置詞を使った言い換えでは、to ではなく for のほうが適切な場合が多い。
buy a new bike for him. 「新しい自転車を買ってあげる」
などのように。
buy (買う), cook(料理する), make(作る), play(演奏する), sing (歌う)、が、
もし前置詞で言い換えるならそのforのほうが適切なグループである。
;そのほかのグループ
bring「持ってくる」 とleave「残す」は、to でも for でも、SVOOでも、どれでも使える。
bringの場合で、前置詞を使う場合は、文脈から to か for かより適切なほうを判断する。
leave の場合、慣用的に、財産を残して死ぬ場合は to を、ケーキやクッキーなどを人に残しておくのは for である。
I left some cake for him. 「私は彼にケーキを少し残しておいた。」
He left a fortune to his wife. 「彼は妻に財産を残して死んだ。」
;to や for で言い換えできないグループ
cost, envy(うらやましく思う), save(節約する), spare(省く) , は、SVOO文型の用法はあるが、しかし一般に to や for を使った言い換えは出来ないし、またそのためO1とO2の語順も変えられない(インスパイア、ジーニアス、ロイヤル)。
また、askも、「たずねる」の意味では、あまり語順を変えない(ロイヤル)。なお、ask~of はどちらかというと「頼む」の意味で使うことが多い(ロイヤル)。なお、ジーニアスでは、askは「たずねる」の意味では語順を変えないとしているが、しかしロイヤルでは、そこまで断言していない。
==== SVOC(第5文型) ====
主語+動詞+目的語+補語
SVOC文型では、O = C の関係が成立する。
make O C 「OをCにさせる」がSVOCの一例である。
call 「~と呼ぶ」や name「~と名づける」など、何かを呼ぶ表現がSVOCである。
ほか、elect O C で 「OをCに選ぶ」だが、しかし類義語の choose は伝統的にはSVOC文型にはならない事に注意する必要がある。ただし、最近は事情が異なり、 choose でも SVOC文型を取る場合もあるので(ロイヤル英文法)、複雑である。
leave「残しておく」や keep「~にしておく」など、現状維持の意味の動詞でも、用法によっては SVOC の場合もある。
そのほか、「~を・・・と思う」グループとして、believe「OをCと信じる」、consider「OをCと見なす」, find「OがCだと分かる」, think 「OをCと思う」などがある。
I believe him a great artist. 「私は彼を偉大な芸術家だと思う。」
I consider him a great artist. 「私は彼を偉大な芸術家だとみなしている。
なお、regard 「見なす」は、このタイプ'''ではなく'''、前置詞 as が必要である(桐原フォレスト、大修館総合英語)。
regard A as B で、「AをBだと見なす」
たとえば、 regard her as our leader で、「彼女を私たちのリーダーだとみなす」である。
===== 主語と述語動詞の構文 =====
====== have 過去分詞 ======
'''I''' ''have'' my teeth '''cleaned'''.(私は歯を磨いてもらっている)
ここでは、<code>have=させる(依頼)</code>である。主語(I)と述語動詞(cleaned)が対応している関係になっている。つまり、I cleaned というふうに組み合わせて文法的に正解であれば、このhave 過去分詞の構文は正解である。
==== there構文など ====
There is ~ や There are ~ といった、いわゆるthere構文は、これをSV文型とみる解釈と、SVC文型とみる解釈とがある。
冒頭の there をS と解釈すれば SVC文型という解釈になる。
冒頭の there を M(修飾語)と解釈すれば、SV文型という解釈になる。
このため、there 構文は5文型による分類からは独立した特殊な構文であると考えられている。
ほか、it seems 「~のように見える」など形式主語 it を使った文章も、例外的なものだとして、文型の分類からは除外されることが多い。
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206931
206930
2022-08-22T00:24:29Z
すじにくシチュー
12058
/* SVOO(第4文型) */ typo
wikitext
text/x-wiki
=== 文型 ===
英語の文型は基本的には、下記の5通りに分かれる。
「第1文型」と呼ぶ代わりに「SV文型」、第2文型と呼ぶ代わりに「SVC文型」のようにいう場合もある。なので、高校生としては、どの文型が何番だったかまでは覚える必要は無い。
==== SV(第1文型) ====
主語 + 動詞
※ 未記述.
==== SVC(第2文型) ====
主語 + 動詞 + 補語
がSVC文型である。
第2文型は
# Mary ''is'' '''happy'''.
# John ''became'' '''a doctor'''.
などである。
SVC文型を取る典型的な動詞がある。
become(なる)、 turn(変化して~になる), go (~(悪い状態に)なる)
のように、~になるという意味の動詞に多い。
The leaves turn red in the fall. 「秋になると、木の葉は赤くなる。」
leavesは必ずしも樹木の葉とは限らず、草の葉の場合もあるが、しかし市販の参考書などでは、これでも通じている。
The milk has gone bad. 「その牛乳は腐っている。」
などである。go は完了形で使うことが多い。
ほか、be動詞や、外見的な様子をあらわす look(のように見える), appear(~のように見える)、seem (~のように見える)
なども典型的にSVC文型である。
She is happy. 「彼女はしあわせだ。」
She looks happy. 「彼女はしあわせそうに見える。」
She appears happy. 「彼女はしあわせそうだ。」
などである。
She seems happy. 「彼女はしあわせなように見える。」
知覚を表す、feel(感じられる), smell(においがする), sound(聞こえる),taste(味がする)、なども、典型的な第2文型をとることの多い動詞である。
そのほか、熟語 be fond of ~ 「~が好きである」や be sure of ~「~を確信している」のように、形式的にはSVC文型だが、続く修飾語がないと意味をなさない言い回しもあるが、便宜的にこういった熟語表現でも形式的にSVC文型でさえありさえずれば、分類上はSVC文型として分類する。
ほか、教育上の注意として、よく便宜的に<nowiki>S = C</nowiki>と等号を使って比喩的に教育される場合もあるが、しかし数学の等号とは異なり、一般にSとCの単語のそれぞれの位置は交換できないことに教育者は気をつけておく必要がある。
==== SVO(第3文型) ====
主語 + 動詞 + 目的語
の文型がSVO文型である。
文法上は、一般にSVO文型を取る動詞は通常、他動詞である。
多くの動詞がSVO文型に該当するので、覚えるなら、他の文型と間違いやすいものを覚えると良い。
たとえば「議論する」discussは、よく間違いでabout を付けられる場合があるが、しかしaboutを使わずにSVO文型でdisucussは使う動詞である。
discuss はもともと「粉々にする」というような意味であり(ジーニアス英和)、それが転じて、話を分解するような意味になったので、なのでabout はつけない。
このような、前置詞をつけない他動詞を列挙すると、
approach(~に近づく)、attend (~に出席する), discuss(~について話し合う)、enter(~に入る)、join (~に参加する)、marry(~と結婚する)、resemble(~に似ている)、visit (~を訪問する)
などが、参考書では代表的である。
ほかに、前置詞をつけない動詞の例としては
contact (~と連絡をとる)※ジーニアス、
mention (~を述べる)※インスパイア、ジーニアス、
oppose (~に反対する)※エバーグリーン
などがある。
逆に本来なら前置詞が必要なのにそれを忘れやすい動詞としては
agree with ~(人) 「~に賛成する」、 ※ ブレイクスルー、エバーグリーン
agree to 案 「<案>に賛成する」、※ エバーグリーン
complain to 人 about 関心事 「<人>に<関心事>について不平を言う」 ※ ブレイクスルー、エバーグリーン
complain の「to 人」は省略しても構わない(ブレイクスルー)。
apologize to ~(人) 「~に謝罪する」、
たとえば
You should apologize to her. 「きみは彼女に謝罪するべきだよ。」 ※ エバーグリーン
I must apologize to her. 「私は彼女に謝罪しなければならない。」※ 青チャート
suggest 情報 to 人 「<人>に<情報>を提示する」、
同様に introduce も、
introduce 人1 to 人2 「<人2>に<人1>を紹介する」
である(青チャート、インスパイア)。<人1>のほうが紹介される情報になる。
ほか、
graduate from 学校「<学校>を卒業する」 ※日本語の「学校『を』」に引きずられて from を忘れる生徒が多いと言われている(ジーニアス)。
などがある(青チャート、インスパイア)。
そのほか、
She '''lived''' a happy '''life'''. 「彼女はしあわせな生活を送った」
のように、動詞と関連の深い目的語を取る例もある(青チャート、ジーニアス)。
ただし普通は、
She lived happily.
のように言う場合が多い(青チャート)。
smile a happy smile 「うれしそうに笑う」、
dream a strange dream 「きみょうな夢を見る」、
などの表現もある(ジーニアス)。
;同族目的語
下記のように、動詞と目的語で語源が同じ単語だったり似た意味の単語の場合、これらの目的語のことを'''同族目的語'''という。
She '''lived''' a happy '''life'''. 「彼女はしあわせな生活を送った.」 (語源が同じ)※ 青チャート、インスパイア
They '''fought''' a fierce '''battle'''. 「彼らは激しく戦った.」(似た意味)※ インスパイア、ロイヤル英文法
なお、live は普段は自動詞なので目的語をとらないが、しかし同族目的語の場合、他動詞として目的語をとることができる。
このように同族目的語をとる動詞では例外的に、ふだんは自動詞でも目的語をとることができる場合がある。
言い換え表現として、
She lived happily. 「彼女はしあわせな生活を送った.
They fought fiercely. 「彼らは激しく戦った.」
のように、同族目的語を使わなくても副詞を使って言い換えることもできる。
==== SVOO(第4文型) ====
SVOO文型とは、
主語 + 動詞 + 目的語1 + 目的語2
である。なお、
主語 + 動詞 + 間接目的語 + 直接目的語
のようにも言う参考書も多い。
「~(人など)に○○(物など)を与える」という意味の基本的な動詞には、SVOO文型の用法をもつものが多い。
典型的なのは giveであり give O1 O2 で「O1にO2を与える」だが、そのほかにも hand (手渡す)や、offer (手渡す)など、和訳上では「与える」とは限らないので、意外と注意が必要である。sell 「売る」もこのグループである。
そのほか、物理的には物を渡さなくても、teach O1 O2 (O1にO2を教える)や 、tell O1 O2 (O1にO2を話す)や write O1 O2 (O1にO2(手紙など)を書く)といった、相手のもとに情報を届けるものにも、SVOO文型の用法がある。
この、相手のもとに何かを届けるグループのものは、前置詞 to を使った言い換えで、たとえば give the money to him のように表現できるものが多い。
列挙すると、
give(与える) , lend (貸す), hand (手渡す), offer (提供する), show (見せる), send (送る), tell (伝える・話す), write ((手紙などを)書く),
などがある。
ほか、他人のために何かを「してあげる」という意味の動詞にも、SVOO文型のものが多い。
具体的には、buy 「買ってあげる」、cook 「料理を作ってあげる」や find 「見つけてあげる」や、get O1 O2 (O1のためにO2を手に入れる), make (作ってあげる)という用法をもつ動詞が、SVOO文型の用法をもつ。
この、「してあげる」グループの動詞は、前置詞を使った言い換えでは、to ではなく for のほうが適切な場合が多い。
buy a new bike for him. 「新しい自転車を買ってあげる」
などのように。
buy (買う), cook(料理する), make(作る), play(演奏する), sing (歌う)、が、
もし前置詞で言い換えるならそのforのほうが適切なグループである。
;そのほかのグループ
bring「持ってくる」 とleave「残す」は、to でも for でも、SVOOでも、どれでも使える。
bringの場合で、前置詞を使う場合は、文脈から to か for かより適切なほうを判断する。
leave の場合、慣用的に、財産を残して死ぬ場合は to を、ケーキやクッキーなどを人に残しておくのは for である。
I left some cake for him. 「私は彼にケーキを少し残しておいた。」
He left a fortune to his wife. 「彼は妻に財産を残して死んだ。」
;to や for で言い換えできないグループ
cost, envy(うらやましく思う), save(節約する), spare(省く) , は、SVOO文型の用法はあるが、しかし一般に to や for を使った言い換えは出来ないし、またそのためO1とO2の語順も変えられない(インスパイア、ジーニアス、ロイヤル)。
また、askも、「たずねる」の意味では、あまり語順を変えない(ロイヤル)。なお、ask~of はどちらかというと「頼む」の意味で使うことが多い(ロイヤル)。なお、インスパイアでは、askは「たずねる」の意味では語順を変えないとしているが、しかしロイヤルでは、そこまで断言していない。
==== SVOC(第5文型) ====
主語+動詞+目的語+補語
SVOC文型では、O = C の関係が成立する。
make O C 「OをCにさせる」がSVOCの一例である。
call 「~と呼ぶ」や name「~と名づける」など、何かを呼ぶ表現がSVOCである。
ほか、elect O C で 「OをCに選ぶ」だが、しかし類義語の choose は伝統的にはSVOC文型にはならない事に注意する必要がある。ただし、最近は事情が異なり、 choose でも SVOC文型を取る場合もあるので(ロイヤル英文法)、複雑である。
leave「残しておく」や keep「~にしておく」など、現状維持の意味の動詞でも、用法によっては SVOC の場合もある。
そのほか、「~を・・・と思う」グループとして、believe「OをCと信じる」、consider「OをCと見なす」, find「OがCだと分かる」, think 「OをCと思う」などがある。
I believe him a great artist. 「私は彼を偉大な芸術家だと思う。」
I consider him a great artist. 「私は彼を偉大な芸術家だとみなしている。
なお、regard 「見なす」は、このタイプ'''ではなく'''、前置詞 as が必要である(桐原フォレスト、大修館総合英語)。
regard A as B で、「AをBだと見なす」
たとえば、 regard her as our leader で、「彼女を私たちのリーダーだとみなす」である。
===== 主語と述語動詞の構文 =====
====== have 過去分詞 ======
'''I''' ''have'' my teeth '''cleaned'''.(私は歯を磨いてもらっている)
ここでは、<code>have=させる(依頼)</code>である。主語(I)と述語動詞(cleaned)が対応している関係になっている。つまり、I cleaned というふうに組み合わせて文法的に正解であれば、このhave 過去分詞の構文は正解である。
==== there構文など ====
There is ~ や There are ~ といった、いわゆるthere構文は、これをSV文型とみる解釈と、SVC文型とみる解釈とがある。
冒頭の there をS と解釈すれば SVC文型という解釈になる。
冒頭の there を M(修飾語)と解釈すれば、SV文型という解釈になる。
このため、there 構文は5文型による分類からは独立した特殊な構文であると考えられている。
ほか、it seems 「~のように見える」など形式主語 it を使った文章も、例外的なものだとして、文型の分類からは除外されることが多い。
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高校英語の文法/時制
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すじにくシチュー
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=== 時制の一致と話法 ===
==== 時制の一致 ====
===== 時制の一致の原則 =====
ジーニアス、ロイヤル英文法にある典型的な例文だが、
「私は、彼が忙しいと思う」 I think that he is busy.
「私は、彼が忙しいと思った」 I thought that he was busy.
これを分析しよう。主節が「思った」と過去形になると、英語では、従属節の意味が「忙しい」と現在形であっても、主節にあわせて he was busy のように動詞が過去形になります。このような現象を「時制の一致」(じせいのいっち)と言います。
時制の一致が起きるのは、主節が過去形または過去完了形の場合だけである。なお、過去完了形については高校で習う。
つまり、現在形・現在進行形・現在完了形および未来・未来完了形では、時制の一致は起きない。
ほか、従属節がもとから過去完了の場合、主節が現在形から過去形に変わっても、(※wiki追記 : もはやこれ以上は従属節の時制を古くはできないので、)従属節の時制の変化はせず、従属節の時制は過去完了のままである(インスパイア)。
なお、過去から見た過去を言い表す場合は、従属節は過去形のままかあるいは過去完了(大過去)になる。参考書ではいちいち分析しないが、「時制の一致」の観点からも、「大過去」を考えることができる。
従属節が未来系であっても、主節が過去形でありさえすれば、時制の一致は起きる。たとえば例文、
「彼が~するだろうと思う」 I think he will ~.
「彼が遅れるだろうと思った。」 I thought he would ~.
である。
===== 時制の一致の例外 =====
従属節で「水は100度で沸騰する」とか「光は音よりも速く伝わる」などの物理法則を習ったとか教わった、とかなどと場合は、習った時点が過去であっても、従属節の時制は現在形である。
これに準じてか、歴史的事実を習ったり知ったりした場合などは、その事実を習ったりした時点が過去であっても、従属節をけっして過去完了形にせず(大過去にせず)、従属節は単なる過去形にする。
また、「彼は毎日散歩をする」とか「彼は毎日ジョギングをする」など、現在も通用している習慣を表す場合、従属節を過去にせず現在形にするのが普通。
ただし、習慣については、必ずしも従属節を必ず現在形にしないといけないわけではなく、惰性的に主節が過去形なら従属節もひきづられて過去形にすることも実際にはよくあるのが現実である(ロイヤル英文法)
ただし、習慣の内容の従属節を過去形にした場合、果たして現在もその習慣が続いているか分からない、という解釈をされるおそれがある。なので高校生向けの英文法参考書などでは、習慣については時制の一致の例外として現在形にするという教育が好まれている。
:仮定法
仮定法の場合も、時制の一致の例外である。
なお、実現しなかった願望を表す意味での仮定法は基本、仮定法過去または仮定法過去完了のどちらか片方である。
これとは別に「仮定法現在」というのがあるが、願望の表現ではなく、かつては条件文などで仮定法現在が使われていた歴史もあったが、しかし古風な表現方法であり、なので21世紀ではあまり使われない。古風な文体を意図的に書く場合などで、仮定法現在を用いる場合もある。
==== 未来 ====
未来の出来事であっても、交通機関の時刻表にもとづく出来事や、カレンダーにもとづく行事などは、確定的な未来であるとして、動詞は現在形で表す。
The flight leaves at 10:30. 「その飛行機は10時30分に出発する。」
なお、「飛行機」はであってもいい(青チャート)。
The plane leaves at 10:30. 「その飛行機は10時30分に出発する。」
ほか、現在進行形で、比較的近い、自身などの予定を表せる。
I'm leaving for Sapporo tomorrow. 「私は明日、札幌に行く予定です。」
I'm visiting Sapporo tomorrow. 「私は明日、札幌に行く予定です。」
上述の現在進行形による予定の表現には、現在その準備や手配を具体的に整えているという含みもある。
be about to ~ 「まさに~が始まろうとしている」
これとほとんど同じ意味で、
be on the point of ~ing
中学でも習ったように、
be going to ~(不定詞)
「~するつもりだ」で、あらかじめ考えていた未来の予定・景気悪を表すのが(インスパイア、青チャート)、通常である。
だが例外的に、「行く予定である」を
be going to go というのも、口調が悪いと考える人もいて、この場合は to go が省略されることもある(ロイヤル、インスパイア)。
be going on a picnic 「ピクニックに行くつもりだ」※ インスパイア
ほか、「来るつもり」 going to come の代わりに「coming」と言う場合もある(※ インスパイア)。
なお、will は、その場で考えた意志にもとづく未来の予想に使う。
たとえば、家族に「冷蔵庫に牛乳がないよ」とか「時計が壊れた」とか言われて、その返事として下記、
I'll get a new one today. 「それ今日、買ってくるわ。」 ※ 牛乳がないことに、家族に言われて初めて気づいた
I'm going to get a new one. 「それなら、今日買うつもりだよ。」 ※ 牛乳がなくなることを事前に予想していたり既に知っていたりして、購入計画をすでに立ててあった
というニュアンスの違いがある(青チャート、インスパイア)。
そのほか、「be to 動詞の原形」つまり 「be to不定詞」で、公的な予定を表す。
== 現在 ==
=== 一般的事実 ===
The earth goes around the sun. 「地球は太陽のまわりを回っている。」
のように、時間の経過により変化しない真理・一般的事実は、現在形であらわす(ジーニアス、エバーグリーン)。
なお、インスパイアでは、
The moon goes around the earth. 「月は地球のまわりを回っている。」
である。
ほか、
Water consists of hydrogen and oxygen. 「水は水素と酸素から成る。」※エバーグリーン、ロイヤル
=== ことわざ ===
ほか、ことわざも現在形が普通。
All roads lead to Rome. 「すべての道はローマに通ず」※ ジーニアス
Practice makes perfect. 「習うより慣れろ」 ※インスパイア
The earky bird catches the worm. 「早起きの鳥は虫を捕らえる。」(「早起きは三文の得」に相当)※青チャート
なお、「ローマは一日にしてならず」は過去形。
Rome was not built in a day. 「ローマは一日にしてならず」※ インスパイア
=== スポーツ実況など ===
John pass the ball to Mike. He kicks to the goal. 「ジョンがボールをマイクにパス。マイク、ゴールへシュート。」
※ 青チャート、インスパイア。
なお、実況放送では、進行の順番どおりに説明していくのが普通(インスパイア)。
=== 歴史的現在 ===
「歴史的現在」と言い、小説などで、過去の出来事でも、まるで目の前で起きているかのように、現在形で表す表現技法がある。(※ 青チャート、インスパイア。)
そのほか、古人の言葉を引用するとき、「~は・・・と言っている」と現在時制 says を用いることがある。過去時制でも良い(インスパイア)。
=== 未来の代用 ===
時・条件を表す副詞節において、
条件 if(もし~ならば), unless(もし~でなければ),
時 when(~のとき), after(~してから), before(~の前に), until /till (~までに), as soon as(~するとすぐに),
などで始まる副詞節の中では、未来の内容であっても、動詞の現在形を使う(インスパイア、青チャート)。
== 進行形 ==
;基本は動作の継続
進行形の用法は基本的には、継続中の動作を表すための用法です。
;移りかけや取り掛かり
ですが、ほかにも、 die (死ぬ)の進行形 dying (死にかけている)のように、状態が移りかけている最中であるという用法もあります(青チャート)。 begin, stop end, open, die, sink などの進行形は、それぞれ「~しかけている」「~しようとしている」の意味です(青チャート)。
;反復動作 1
また、これとは別に、 cough (咳をする)など瞬時で終わる動作については、その動作が一回限りではなく何度か繰り返して行われている場合には coughing のように進行形にすることもよくあります(桐原ファクトブック)。nod(うなづく)が進行形 nodding の場合にも、繰り返しうなづいている、という意味です(桐原ファクトブック)。
;反復動作への不満
日本語では、たとえば、しつこい何かにうんざりするとき、「いつも~ばかりしている」のように批判することがあります。英語でも同様のよう王があります。
英語の repeatedly (繰り返して)や always(いつも)やconstantly(たえず)や all the time(終始) には、 話し手や書き手が不満をもっているときにそれらの副詞が使われる、という用法もあります(インスパイア、桐原ファクト、青チャート)。
ただし、alwaysがある文だからといって非難とは限らず、文脈によっては特に非難はなかったり(ジーニアス)、場合によっては賞賛の場合もあるので(青チャート)、早合点しないこと。
;一時性を強調する場合
be living は、一時的に住んでいる場合にだけ使う(エバーグリーン、インスパイア、ジーニアス)。
He is living in Tokyo. 「彼は東京に一時的に住んでいる。」
このように、一時性を強調するために進行形が使われる場合もある。
;ほか
なお、完了形で He has lived in Tokyo for ten years. 「彼は東京に10年間住んでいる」のように言うのは構わないし、完了進行形でも He has been living in Tokyo for ten years. とも言える(インスパイア)。
下記の話は、完了形でない通常の現在形での進行形(つまり単なる現在進行形)のはなしです。
他の場合としては、推移中の現象を表すのに進行形が使われる場合もある。
たとえば be resembling は、進行中の「似てきている」という場合にだけ使う。
He is resembling his father more and more. 「彼はどんどん父親に似てきている。」
なお、
He resembles his mother.「彼は母に似ている。」
である。この母に似ているの文章を進行形にしたらダメ(青チャート)。なぜなら resemble の場合に進行形は、(時間の経過とともに)「どんどん似てきている」という推移を表す場合にしか使えないからである。
resemble は「似ている」という状態を表すので、だから resemble は「状態動詞」というものに分類されるのが一般的。
be動詞 resemble などが状態動詞である。
だが、青チャートは「状態動詞」の用語を採用していない。べつにこの用語がなくても説明できるので、読者はまあ頭の片隅にしまっておけばいい。
どの単語が状態動詞なのかも、参考書によって微妙に違う。
とりあえず、青チャートいわく、「物事の構成や関係を表す動詞」は普通、進行形にならない場合が多いとのことであり、具体的には
belong to (所属している)、 resemble (似ている)、differ (異なっている)、depend on (~に依存している)、consist of (~から成り立っている)、contain (~を含んでいる)、
などが、「原則として進行形にならない」とのこと(青チャート)。インスパイアにも、「状態や物事の構成、関係を表す動詞は進行形にならない」とあり、belong, consist, deffer, resemble を例にあげている。
「状態動詞」の説明の例として「状態を表す動詞」だと説明するのは、同義反復であり頭が悪そうである。それと比べると、青チャートの説明は優れている。
動詞 have について、「持つ」という動作の意味では「動作動詞」という分類である。一方、「持っている」という意味でなら have は「状態動詞」である。このように、同じ単語でも、どの意味で考えるかによって動作動詞なのか状態動詞なのかが異なる。
:※ 受験レベルでは、特にどの単語が動作動詞だったか等を覚える必要は無いだろう。
ほか、 have a breakfast 「朝食をとる」などの have もあり、これは行為をあらわす表現なので進行形になる場合もある(桐原ファクト)。
wear が参考書のよくある例(ジーニアス、ブレイクスルー)。
He always(またはusualy) wears a red sweater. 「彼はいつも(または「よく」)赤いセーターを着ている。」
He is wearing a red sweater. 「彼は赤いセーターを着ているところだ。」
知覚を表す see(見える) , hear(聞こえる), smell(においがする) ,taste (味がする),などは、ふつう、現在形である。
なにかが「現在、見えている最中である」ことを言いたい場合、seeではなく、looking や watching を使う(青チャート、エバーグリーンなど)。
なお、see には「会う」の意味もあり、会っている最中なら進行形になる場合もある(ジーニアス)。
「聞こえている最中である」場合なら、hear ではなく、listening を使う(エバ)。
smellを進行形にすると「においをかいでいる」という、やや別の意味の動詞になる(ブレイクスルー)。「においがしている」(×)というわけではない。
be tasting だと「味見をする」ときに使われる(青チャート)。このように進行形だと意味が違う場合がある。
そのほか、心や感情などをあらわす like, love ,hate, want, hope,forget , , などいくつかの動詞は、進行形にならない(ジーニアス、エバ)。
ただし、普通は進行形にしない動詞でも、例外的に一時的な動作や一時的な状態であることなどを強調したい場合、つまり一時性を強調したい場合には、進行形にすることもある(インスパイア)。
また、単語のスペルは同じでも、違う複数の意味をもつ場合があり、そのような場合に意味によっては進行形にすべきかどうかが、それぞれ違っていることもある(インスパイア)。
ほか、ジーニアスいわく「 I'm just Loving it. 」「好きでたまらない」のように、本来なら進行形にしないloveでも強調のために進行形にすることもあるのが実際とのこと(ジーニアス)。ただし、他の参考書では記述が見つからない。
== 現在完了形 ==
現在完了には、中学校で習った基本の用法の「完了(・結果)」・「継続」・「経験」の3つの用法のほかにも、
終わったばかりの行為・状態を表すのに使うことがある(ジーニアス、桐原ファクト)。
なおジーニアスは、これを「継続」用法の派生の一種だと考えている。一方、桐原は、そうではない。
桐原ファクトの理論立ては、単なる過去形は、やや時間的に離れた過去を言うのに使うという事であり、完了形は直近の過去を使う用法もあるという理論立て。なお、桐原はこれを「完了」の用法に分類している。
なお、上記のように、参考書によって、同じ用法でも、「完了」に分類したり「継続」に分類したりと違っている。
青チャートおよびブレイクスルーやエバーグリーンも「完了」として分類しているが、しかし理論立ての仕方が桐原とは違う。青チャートおよびブレイクスル-では単に完了「すでに~してしまった」という典型的な用法のとなりに、さりげなく「ちょうど~したところだ」という訳も載せているだけである。
なお、この終わったばかりの行為・状態としての完了の用法では just (ちょうど)という副詞を使う場合も多い(青チャート)が、now (たった今)の場合もある(エバーグリーン)。
== 現在完了進行形 ==
進行形でない単なる現在完了形には、'''状態'''の'''継続'''の用法がある。
一方、動作の継続については、現在完了進行形で言うことが多い。
I've been waiting here for an hour. 「私はここで一時間、待ち続けている。」
How long have you been waiting for the train? 「どれくらい電車を待っているのですか。」※ インスパイア、エバーグリーン
He has been running for an hour. 「彼は一時間ずっと、ランニングし続けている」
※ ジーニアス、エバーグリーンなど
なお、「He has been running for an hour.」 は、現時点でランニングが終了しても構わない(ブレイクスルー、インスパイア)。だからといって、必ずしも現在完了進行形では現時点でランニング終了とも限らないので(エバーグリーン)、断定しないように。直前までの動作が終了している場合と、まだ終了指定なお場合との、両方の場合がありうる(エバーグリーン)。
参考書によっては動詞が running ではなく jogging の場合もある(ジーニアス、ブレイクスルー)。
He has been jogging for an hour. 「彼は一時間ずっと、ジョギングし続けている」
ほか参考書では、天候も、現在完了進行形でよく言われる例文が多い。
It has been raining for days. 「何日も雨が降り続いている。」 ※ ジーニアス、ブレイクスルー
It has been raining all day. 「1日中雨が降り続いている。」 ※ インスパイア。 なお「1日中」の1はインスパイアでは算用数字。
なお、完了形で He has lived in Tokyo for ten years. 「彼は東京に10年間住んでいる」のように言うのは構わないし、完了進行形でも He has been living in Tokyo for ten years. とも言える(インスパイア)。
live の例でも分かるように、習慣を完了進行形で言っても構わない。
たとえばインスパイアでは「私たちは6年間ずっと英語を勉強しています」をhave been studying および have studied で説明している。
エバーグリーンでは、「私たちは5年間英語の勉強をしています」を
We have studied English for five years.
We have been studying English for five years.
で説明しており(インスパイアもほぼ同様の例文で five が six になっただけ)、エバーグリーンいわく(現在完了形と)「現在完了進行形との意味の違いは、たいがい、無視できるほどわずかである。とはいえ、長期に渡って安定した状態を表す場合には、現在完了形が好まれる。」とある。
ジーニアスでは「エリーは10歳の時から日記をつづけている。」を has been keeping a diary で説明している。
まさか英語以外のことを6年間勉強してこない事は常識的に考えらないし、常識的にエリーも日記以外の動作もしているのだろうから、つまり上記の例文は習慣の意味だろう(参考書では明言されていない)。
また、習慣の継続の意味では、別に完了進行形でも、単なる完了形でも、どちらでもいいことが、上記の例文から分かる(参考書では明言されていない)。
これと似ているが、さらに、hear(~を聞く), forget(~を忘れる), find(~とわかる), understand(~がわかる)、learn, come などいくつかの動詞では、現在形で完了の意味を表す場合もある(エバーグリーン、インスパイア)。 learn と come はインスパイアが紹介。
つまり、
I forget his name. 「彼の名前を忘れてしまった。」
のように使う。インスパイアいわく、これを完了形で表しても構わない。つまり、
I have forgotten his name.
とも言える。
hear, forget の件について、青チャートやジーニアスなど他の参考書はここまで紹介していない。
一部の参考書にしか書かれてない細かな知識よりも、まずは「時制の一致」など入試定番の概念を理解して使いこなせるようにするのが先決である。一部の参考書にある話題は、知識の補強として活用すればいいだろう。
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高校英語の文法/助動詞
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2022-08-22T05:29:04Z
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助動詞には、ニュアンス的に、話し手・書き手の判断や気持ちが含まれている(インスパイア、桐原ファクト)。
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== May I と Can I ==
May には「許可」を意味する用法もある。
「May I ~?」(~してもいいですか?) は、目上の人に対して許可を求めるために用いられる。
「Can I ~?」は口語でよく使われ、とくに目上という関係は無い。
なお、
「You may ~. 」(あなたは~してもよい)は、目下の人間に対して使うので(桐原ファクト)、使用の際には注意が必要。
たとえば
You may use your dictionary for this test. 「このテスト中は辞書を使ってもよろしい」(ジーニアス、桐原ファクト に似た例文)
のように使う。このように、権威・権力にもとづく可能性を表す表現でもある(ジーニアス)。だから、けっして「may = 丁寧」と機械的に覚えないほうが良いだろう。
== must ==
=== 勧誘 must ===
must には、強い勧誘を意味する用法もある(インスパイア、桐原ファクトブック、ジーニアス)。
You must ~. 「ぜひ~してください」「ぜひ~したほうがいい」
のような意味。
青チャートには書いていない。(あまり重要視してないのだろう。)
欧米人は、この手の、外国人には分かりづらい、やや飛躍気味の表現をすることもよくある。
:※ 飛躍気味とは、たとえば最近の俗語の例では、英米人の近年の若者などの用法で、すばらしい絵や文芸を見たときに、「その絵を消してくれ」なんていう表現も最近の英語では良く使われるという。どうやら「素晴らしすぎて、魅了されて、頭がおかしくなってしまいそうだ」→「だから消してくれ」という意味らしいのだが、しかし事情が知らない外国人が聞くと、単にその絵や文芸に不満があるかと誤解されかねない。しかし、英語は世界の覇権言語なので、外国人からの誤解を気にする必要も無い。日本人からすれば、まったく、英米人はうらやましい限りである。
この 勧誘の must を紹介しているインスパイア、ジーニアスも、コラム的に紹介しているだけである。(桐原ファクトのみ、本文で紹介。)
:※ 昔から教育評論でよく言われる、英語教育の隠れた目的のひとつとして、誤解の恐れの少ない論理的な文章の書き方の教育を教える、という目的がある。文科省や国立大学などは、中立性などの理由で、「論理的な日本語の書き方はこうあるべきし」とは宣言できないので、仕方なく英文法など外国語を使って論理的な文章の書き方を教えようとしている、などとは昔はよく評論されたものである(もっとも、最近の英語教育では会話重視などで、そういう論理性の教育目的は雲散霧消してしまったが)。そういう論理的な文章の書き方の教育としては、勧誘 must やら上記例の「消してくれ」のような飛躍気味の用法は、嫌われるだろうから、大学入試などに勧誘の must などが出る可能性は低いかもしれない。
== 確信「ちがいない」 must の否定 ==
「~にちがいない」という強い確認の意味での must の否定は、 cannot 「~はずがない」である(ジーニアス、インスパイア、青チャート)。
なぜそうかといわれても、そうだと決まってる。英米人がそういう使い方をしているので、合わせるしかない。
:※ これまた、あまり論理的でないので、おそらく入試では問われづらいだろう。たとえば桐原ファクトでは、must の項目では、確信の否定 cannot を無視しており、非紹介である。なお、桐原でも can の側で cannot「~はずがない」を説明しており、可能性 can の否定として cannot「~はずがない」 という用法を説明するというのが桐原ファクトの理論構成である。
cannot や can't と言った場合、単に「~できない」という可能性を否定するだけの用法もあるが(インスパイア can側)、それとは別に「~のはずがない」という強めの感情的色彩をおびた「否定の確信」な意味の用法の場合もある(桐原ファクト、ジーニアス)。
== Can you ? ==
英語では、相手に能力を直接聞くのは、失礼に当たると見なされている場合もある。
たとえば、
Can you speak Japanese?
は、背景として、「あなたは日本語を話せないといけない」と思われることもある(インスパイア、ジーニアス)。このため、canを使わずに
Do you speak Japanese?
と聞くのが良いとされている(ジーニアス)。
一方、話し手が自分の語学の能力を「私は~できます」と言う場合は、なるべく be able to よりも canを使うほうが謙遜気味で礼儀正しいとされており、つまり I can のほうが良いとされている(ジーニアス)。I のあとに be able to を使うと、英米では能力自慢のように聞こえるらしい(ジーニアス)。
can youが無礼なのに I can が礼儀正しいのは意味不明だが、しかし覇権国家の英米人がそう使い分けているので、英語学ではそう合わせるしかない。うらやましい。所詮、語学は暗記科目であり、「理屈と膏薬はどこにでもつく」(日本のことわざ)である。
また、派生的にか、可能性のcanは疑問文では、強めの疑いや、おどろきや当惑などの意味をもつこともよくある(青チャート、インスパイア)。参考書によくある典型的な例文だが
Can the rumor be true? 「そのウワサは本当だろうか?」
という疑問文では、そのような、強めの疑いや、おどろきなどの意味がある。・
さて、can は、今後も通用する能力や可能性について言うので、単に一回だけのことに「昨日は~できた」みたいに言う場合には can や could を使わない(ジーニアス、青チャート)。
1回だけ「~できた」場合には、 be able to や 「managed to不定詞」 や succeed in ~ing などを使う(青チャート、インスパイア)。
また、とくに能力などを強調するのでなければ、単に過去形だけを使って1回だけできたことを表現してもいい(ジーニアス)。
なお、否定文や疑問文の場合は could を使っても良く、つまり couldn't や wasn't(または weren't) able to でもいい(インスパイア)。
ただし、こういう細かい使い分けよりも、入試に出るのは、構文
cannot help ~ing 「~せざるを得ない」
cannot help but +動詞の原型 「~せざるを得ない」
cannot but +動詞の原型
などだろう(インスパイア、桐原ファクトブック)。
90年代、こういう二重否定的な構文が(中学範囲ではなく)高校範囲だった過去がある。
cannot ~ too ○○ 「いくら~しすぎても○○しすぎることはない」
という反語的な表現も、90年代の典型的な高校英文法の範囲であった。
そのほか、「ときに ~することがある」と好ましくない事を言う場合に can を使うことがある。ジーニアスいわく「風邪は時に重い病気につながることがある」とか、青チャートいわく「そういう事故はときどき起こりうるものだ」で can を使っている。
だが、これとは逆に思える用法もインスパイアにあり、「can はもともと備わっている能力を表す」として「be able to は一時的な能力を表す」などという用法もある。
※ このように、助動詞まわりは、あまり規則的ではなく、またやや口語的であり、あまり日本の大学入試対策としては深入りする必要が無いだろう。上述したが cannot help ~ ing のような構文を覚えることを優先すべきである。
== 助動詞 need ==
本動詞 need とは別に、助動詞 need というのがあり、 「need +動詞の原型」の形で使う。
助動詞 need は主にイギリス英語である。
参考書では平叙文に助動詞 need が使われることもあるが(ジーニアス)、しかし実際の英米では疑問文と否定文でのみ助動詞 need が使われるのが一般的である(青チャート、桐原ファクト)。
このような制限が助動詞 need にあるため、実のところ、あまり信用頻度は高くない、・・・というのが桐原ファクトの見解。
助動詞 need の否定形は need not または needn't であり(青チャ-ト)、つまり「 need not +動詞の原型」のような形になる。
また、助動詞 need に過去形は無い(青チャ、インスパ)。また、主語が三人称単数でも、助動詞 need には sはつかず、needのまま(青チャ)。
もし、過去の必要性について言いたい場合、単に、本動詞 「need to不定詞」を使えばいい(ジーニアス、青チャ、インスパイア)。
なお、本動詞 need の否定文や疑問文は、単に中学英文法と同様に
I didn't need to 不定詞
や
Did you need to 不定詞 ?
を使えばいいだけである。
なお、完了形との組み合わせ「 need not have +過去分詞」だと、「~する必要はなかったのに」(+「しかし実際は~してしまった」)という後悔や非難などの意味になる(ジーニアス、インスパイア、桐原ファクト)。 ※ インスパイア・桐原ファクトに「実際は~してしまった」の説明あり。インスパイアに「非難」の意味あり。桐原は「後悔」のみ。ジーニアスは二次熟語では表現せず。
== dare ==
助動詞としては、2つの慣用文がある。
How dare say ~? 「よくも~できたものだね」
という苛立ち(いらだち)をあらわす。
I dare say ~. 「たぶん~だろう」「おそらく~だろう」
sayのあとに接続詞 that は続かない(インスパイア)。
I daresay ~
という一語でdareとsayを縮めた言い回しもある(インスパイア、ブレイクスルー)。
dare の用法は、あまり論理的ではない。ほか、助動詞 dareに過去形 dared もあるとされているが、現代ではマレ(青チャート)。
そのほか、
Bod dare not propose to her. 「ボブは彼女にプロポーズする勇気がない」
のように、否定文や疑問文で dare が使われることがある。
だが、この場合の dare は「勇気のある」の意味なので、助動詞を使わずとも courage や brave などをつかった言い表すこともできて、むしろ英米では口語には courage などの言い回しのほうが多いのが実態とのこと(エバーグリーン)。
さて、助動詞以外にも、本動詞としての dare の用法があり、上記2つの「How dare」「I dare say(または daresay)」慣用表現以外の場合では、本動詞としてdareをつかうことのほうが一般的であり(ジーニアス)、
He dares(または dared) to ~ 「彼はずうずうしくも~する(した)」
のように使うこともある(青チャ)。
== ought to ==
ought to は、助動詞 should と同じような意味として紹介されることもある。だが、実際には should よりも、やや意味が強い。
ought to には、「~すべきである」という義務・当然の意味や、「~するはずだ」「~にちがいない」という強い推定・見込みの意味(インスパイア、青チャ)がある。
義務の強さは、
must > ought to > should
である(ジーニアス)。
ought は助動詞であるが、to不定詞とともに使われる。
なお、ought to の否定形は ought not to ~ である(エバー、青)。
oughtn't to ~ という短縮形の否定もある(青)。
gimo疑問文は、たとえば「私は~すべきでしょうか?」なら
Ought I to 不定詞 ~?
の語順になる(青、ファクト)。
つまり、
Ought 主語 to 不定詞 ~?
の語順。
== had better ==
had better 「~したほうがいい」は、字面だけなら「推奨」の意味だが、文脈によっては「命令」や「脅し」の意味に受け取られる場合がある。
had better には「そうしないと(or)、困った事になるぞ」という含みがあると感じられる場合があるから、である(桐原ファクト、)。
とくに、主語が you の場合、命令などの意味に受け取られやすいので、注意が必要(エバー)。
このため、
I think you had better ~ のように「I think 」や maybe などをつけて、意味をやわらげる場合もよくある。
had better の否定は 「had better not 動詞の原型」である(エバ、ジーニ)。
:※ 完了形と混同してか、had better なのに had の後ろに not を置くミスが学生に多い(エバ)。
「It would be better for you to 不定詞」でも、意味をやわらげられる(青チャート、インスパ、ブレイク)ので、目上の人にはこの言い回しが良いとされる(青チャ)。
青チャートいわく、「 It might be better for you to 不定詞」や「I would suggest (that)」 などでも「~するのが良いでしょう」の意味で言い換えできる、とのこと(青チャ)。
言い換え表現のほうでは、動詞の前にtoがついてto不定詞になっているのに注意。
なお、口語では You'd better や I'd better のように、よくhad を 'd と省略する(青チャ、ブレイク)。
疑問文の語順については、インスパイアと青チャート以外、言及していない。説明の簡単のため主語を I とすると、「~したほうが良いですか?」は
Had I better ~?
または
Hadn't I better ~?
とのこと(インスパイア)。
いっぽう、
Han I better not ~? 「~しないほうが良いですか?」
とのこと(インスパイア)。
青チャートいわく、英語では実際によく使われるのは、
Hadn't I better ~? 「~しないほうが良いですか?」
という言い回しとのこと(青チャ)。
== その他 ==
助動詞には、ニュアンス的に、話し手・書き手の判断や気持ちが含まれている(インスパイア、桐原ファクト)。
なので、will→be going to や can→be able to などの言い換え表現をすると、じつはbe going to などのほうは話し手の判断や気持ちものニュアンスが薄まるので、客観的なニュアンスが強くなるので、参考書などでは「言い換え」とはいうが厳密には完全には同じ意味とは言えない場合もある。
ただし、日本人としては、そこまで考える必要は無い。
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すじにくシチュー
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/* ought to */ typo
wikitext
text/x-wiki
== May I と Can I ==
May には「許可」を意味する用法もある。
「May I ~?」(~してもいいですか?) は、目上の人に対して許可を求めるために用いられる。
「Can I ~?」は口語でよく使われ、とくに目上という関係は無い。
なお、
「You may ~. 」(あなたは~してもよい)は、目下の人間に対して使うので(桐原ファクト)、使用の際には注意が必要。
たとえば
You may use your dictionary for this test. 「このテスト中は辞書を使ってもよろしい」(ジーニアス、桐原ファクト に似た例文)
のように使う。このように、権威・権力にもとづく可能性を表す表現でもある(ジーニアス)。だから、けっして「may = 丁寧」と機械的に覚えないほうが良いだろう。
== must ==
=== 勧誘 must ===
must には、強い勧誘を意味する用法もある(インスパイア、桐原ファクトブック、ジーニアス)。
You must ~. 「ぜひ~してください」「ぜひ~したほうがいい」
のような意味。
青チャートには書いていない。(あまり重要視してないのだろう。)
欧米人は、この手の、外国人には分かりづらい、やや飛躍気味の表現をすることもよくある。
:※ 飛躍気味とは、たとえば最近の俗語の例では、英米人の近年の若者などの用法で、すばらしい絵や文芸を見たときに、「その絵を消してくれ」なんていう表現も最近の英語では良く使われるという。どうやら「素晴らしすぎて、魅了されて、頭がおかしくなってしまいそうだ」→「だから消してくれ」という意味らしいのだが、しかし事情が知らない外国人が聞くと、単にその絵や文芸に不満があるかと誤解されかねない。しかし、英語は世界の覇権言語なので、外国人からの誤解を気にする必要も無い。日本人からすれば、まったく、英米人はうらやましい限りである。
この 勧誘の must を紹介しているインスパイア、ジーニアスも、コラム的に紹介しているだけである。(桐原ファクトのみ、本文で紹介。)
:※ 昔から教育評論でよく言われる、英語教育の隠れた目的のひとつとして、誤解の恐れの少ない論理的な文章の書き方の教育を教える、という目的がある。文科省や国立大学などは、中立性などの理由で、「論理的な日本語の書き方はこうあるべきし」とは宣言できないので、仕方なく英文法など外国語を使って論理的な文章の書き方を教えようとしている、などとは昔はよく評論されたものである(もっとも、最近の英語教育では会話重視などで、そういう論理性の教育目的は雲散霧消してしまったが)。そういう論理的な文章の書き方の教育としては、勧誘 must やら上記例の「消してくれ」のような飛躍気味の用法は、嫌われるだろうから、大学入試などに勧誘の must などが出る可能性は低いかもしれない。
== 確信「ちがいない」 must の否定 ==
「~にちがいない」という強い確認の意味での must の否定は、 cannot 「~はずがない」である(ジーニアス、インスパイア、青チャート)。
なぜそうかといわれても、そうだと決まってる。英米人がそういう使い方をしているので、合わせるしかない。
:※ これまた、あまり論理的でないので、おそらく入試では問われづらいだろう。たとえば桐原ファクトでは、must の項目では、確信の否定 cannot を無視しており、非紹介である。なお、桐原でも can の側で cannot「~はずがない」を説明しており、可能性 can の否定として cannot「~はずがない」 という用法を説明するというのが桐原ファクトの理論構成である。
cannot や can't と言った場合、単に「~できない」という可能性を否定するだけの用法もあるが(インスパイア can側)、それとは別に「~のはずがない」という強めの感情的色彩をおびた「否定の確信」な意味の用法の場合もある(桐原ファクト、ジーニアス)。
== Can you ? ==
英語では、相手に能力を直接聞くのは、失礼に当たると見なされている場合もある。
たとえば、
Can you speak Japanese?
は、背景として、「あなたは日本語を話せないといけない」と思われることもある(インスパイア、ジーニアス)。このため、canを使わずに
Do you speak Japanese?
と聞くのが良いとされている(ジーニアス)。
一方、話し手が自分の語学の能力を「私は~できます」と言う場合は、なるべく be able to よりも canを使うほうが謙遜気味で礼儀正しいとされており、つまり I can のほうが良いとされている(ジーニアス)。I のあとに be able to を使うと、英米では能力自慢のように聞こえるらしい(ジーニアス)。
can youが無礼なのに I can が礼儀正しいのは意味不明だが、しかし覇権国家の英米人がそう使い分けているので、英語学ではそう合わせるしかない。うらやましい。所詮、語学は暗記科目であり、「理屈と膏薬はどこにでもつく」(日本のことわざ)である。
また、派生的にか、可能性のcanは疑問文では、強めの疑いや、おどろきや当惑などの意味をもつこともよくある(青チャート、インスパイア)。参考書によくある典型的な例文だが
Can the rumor be true? 「そのウワサは本当だろうか?」
という疑問文では、そのような、強めの疑いや、おどろきなどの意味がある。・
さて、can は、今後も通用する能力や可能性について言うので、単に一回だけのことに「昨日は~できた」みたいに言う場合には can や could を使わない(ジーニアス、青チャート)。
1回だけ「~できた」場合には、 be able to や 「managed to不定詞」 や succeed in ~ing などを使う(青チャート、インスパイア)。
また、とくに能力などを強調するのでなければ、単に過去形だけを使って1回だけできたことを表現してもいい(ジーニアス)。
なお、否定文や疑問文の場合は could を使っても良く、つまり couldn't や wasn't(または weren't) able to でもいい(インスパイア)。
ただし、こういう細かい使い分けよりも、入試に出るのは、構文
cannot help ~ing 「~せざるを得ない」
cannot help but +動詞の原型 「~せざるを得ない」
cannot but +動詞の原型
などだろう(インスパイア、桐原ファクトブック)。
90年代、こういう二重否定的な構文が(中学範囲ではなく)高校範囲だった過去がある。
cannot ~ too ○○ 「いくら~しすぎても○○しすぎることはない」
という反語的な表現も、90年代の典型的な高校英文法の範囲であった。
そのほか、「ときに ~することがある」と好ましくない事を言う場合に can を使うことがある。ジーニアスいわく「風邪は時に重い病気につながることがある」とか、青チャートいわく「そういう事故はときどき起こりうるものだ」で can を使っている。
だが、これとは逆に思える用法もインスパイアにあり、「can はもともと備わっている能力を表す」として「be able to は一時的な能力を表す」などという用法もある。
※ このように、助動詞まわりは、あまり規則的ではなく、またやや口語的であり、あまり日本の大学入試対策としては深入りする必要が無いだろう。上述したが cannot help ~ ing のような構文を覚えることを優先すべきである。
== 助動詞 need ==
本動詞 need とは別に、助動詞 need というのがあり、 「need +動詞の原型」の形で使う。
助動詞 need は主にイギリス英語である。
参考書では平叙文に助動詞 need が使われることもあるが(ジーニアス)、しかし実際の英米では疑問文と否定文でのみ助動詞 need が使われるのが一般的である(青チャート、桐原ファクト)。
このような制限が助動詞 need にあるため、実のところ、あまり信用頻度は高くない、・・・というのが桐原ファクトの見解。
助動詞 need の否定形は need not または needn't であり(青チャ-ト)、つまり「 need not +動詞の原型」のような形になる。
また、助動詞 need に過去形は無い(青チャ、インスパ)。また、主語が三人称単数でも、助動詞 need には sはつかず、needのまま(青チャ)。
もし、過去の必要性について言いたい場合、単に、本動詞 「need to不定詞」を使えばいい(ジーニアス、青チャ、インスパイア)。
なお、本動詞 need の否定文や疑問文は、単に中学英文法と同様に
I didn't need to 不定詞
や
Did you need to 不定詞 ?
を使えばいいだけである。
なお、完了形との組み合わせ「 need not have +過去分詞」だと、「~する必要はなかったのに」(+「しかし実際は~してしまった」)という後悔や非難などの意味になる(ジーニアス、インスパイア、桐原ファクト)。 ※ インスパイア・桐原ファクトに「実際は~してしまった」の説明あり。インスパイアに「非難」の意味あり。桐原は「後悔」のみ。ジーニアスは二次熟語では表現せず。
== dare ==
助動詞としては、2つの慣用文がある。
How dare say ~? 「よくも~できたものだね」
という苛立ち(いらだち)をあらわす。
I dare say ~. 「たぶん~だろう」「おそらく~だろう」
sayのあとに接続詞 that は続かない(インスパイア)。
I daresay ~
という一語でdareとsayを縮めた言い回しもある(インスパイア、ブレイクスルー)。
dare の用法は、あまり論理的ではない。ほか、助動詞 dareに過去形 dared もあるとされているが、現代ではマレ(青チャート)。
そのほか、
Bod dare not propose to her. 「ボブは彼女にプロポーズする勇気がない」
のように、否定文や疑問文で dare が使われることがある。
だが、この場合の dare は「勇気のある」の意味なので、助動詞を使わずとも courage や brave などをつかった言い表すこともできて、むしろ英米では口語には courage などの言い回しのほうが多いのが実態とのこと(エバーグリーン)。
さて、助動詞以外にも、本動詞としての dare の用法があり、上記2つの「How dare」「I dare say(または daresay)」慣用表現以外の場合では、本動詞としてdareをつかうことのほうが一般的であり(ジーニアス)、
He dares(または dared) to ~ 「彼はずうずうしくも~する(した)」
のように使うこともある(青チャ)。
== ought to ==
ought to は、助動詞 should と同じような意味として紹介されることもある。だが、実際には should よりも、やや意味が強い。
ought to には、「~すべきである」という義務・当然の意味や、「~するはずだ」「~にちがいない」という強い推定・見込みの意味(インスパイア、青チャ)がある。
義務の強さは、
must > ought to > should
である(ジーニアス)。
ought は助動詞であるが、to不定詞とともに使われる。
なお、ought to の否定形は ought not to ~ である(エバー、青、インスパ)。 oughtn't to ~ という短縮形の否定もある(青、インスパ)。
疑問文は、たとえば「私は~すべきでしょうか?」なら
Ought I to 不定詞 ~?
の語順になる(青、ファクト)。
つまり、
Ought 主語 to 不定詞 ~?
の語順。
== had better ==
had better 「~したほうがいい」は、字面だけなら「推奨」の意味だが、文脈によっては「命令」や「脅し」の意味に受け取られる場合がある。
had better には「そうしないと(or)、困った事になるぞ」という含みがあると感じられる場合があるから、である(桐原ファクト、)。
とくに、主語が you の場合、命令などの意味に受け取られやすいので、注意が必要(エバー)。
このため、
I think you had better ~ のように「I think 」や maybe などをつけて、意味をやわらげる場合もよくある。
had better の否定は 「had better not 動詞の原型」である(エバ、ジーニ)。
:※ 完了形と混同してか、had better なのに had の後ろに not を置くミスが学生に多い(エバ)。
「It would be better for you to 不定詞」でも、意味をやわらげられる(青チャート、インスパ、ブレイク)ので、目上の人にはこの言い回しが良いとされる(青チャ)。
青チャートいわく、「 It might be better for you to 不定詞」や「I would suggest (that)」 などでも「~するのが良いでしょう」の意味で言い換えできる、とのこと(青チャ)。
言い換え表現のほうでは、動詞の前にtoがついてto不定詞になっているのに注意。
なお、口語では You'd better や I'd better のように、よくhad を 'd と省略する(青チャ、ブレイク)。
疑問文の語順については、インスパイアと青チャート以外、言及していない。説明の簡単のため主語を I とすると、「~したほうが良いですか?」は
Had I better ~?
または
Hadn't I better ~?
とのこと(インスパイア)。
いっぽう、
Han I better not ~? 「~しないほうが良いですか?」
とのこと(インスパイア)。
青チャートいわく、英語では実際によく使われるのは、
Hadn't I better ~? 「~しないほうが良いですか?」
という言い回しとのこと(青チャ)。
== その他 ==
助動詞には、ニュアンス的に、話し手・書き手の判断や気持ちが含まれている(インスパイア、桐原ファクト)。
なので、will→be going to や can→be able to などの言い換え表現をすると、じつはbe going to などのほうは話し手の判断や気持ちものニュアンスが薄まるので、客観的なニュアンスが強くなるので、参考書などでは「言い換え」とはいうが厳密には完全には同じ意味とは言えない場合もある。
ただし、日本人としては、そこまで考える必要は無い。
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== May I と Can I ==
May には「許可」を意味する用法もある。
「May I ~?」(~してもいいですか?) は、目上の人に対して許可を求めるために用いられる。
「Can I ~?」は口語でよく使われ、とくに目上という関係は無い。
なお、
「You may ~. 」(あなたは~してもよい)は、目下の人間に対して使うので(桐原ファクト)、使用の際には注意が必要。
たとえば
You may use your dictionary for this test. 「このテスト中は辞書を使ってもよろしい」(ジーニアス、桐原ファクト に似た例文)
のように使う。このように、権威・権力にもとづく可能性を表す表現でもある(ジーニアス)。だから、けっして「may = 丁寧」と機械的に覚えないほうが良いだろう。
== must ==
=== 勧誘 must ===
must には、強い勧誘を意味する用法もある(インスパイア、桐原ファクトブック、ジーニアス)。
You must ~. 「ぜひ~してください」「ぜひ~したほうがいい」
のような意味。
青チャートには書いていない。(あまり重要視してないのだろう。)
欧米人は、この手の、外国人には分かりづらい、やや飛躍気味の表現をすることもよくある。
:※ 飛躍気味とは、たとえば最近の俗語の例では、英米人の近年の若者などの用法で、すばらしい絵や文芸を見たときに、「その絵を消してくれ」なんていう表現も最近の英語では良く使われるという。どうやら「素晴らしすぎて、魅了されて、頭がおかしくなってしまいそうだ」→「だから消してくれ」という意味らしいのだが、しかし事情が知らない外国人が聞くと、単にその絵や文芸に不満があるかと誤解されかねない。しかし、英語は世界の覇権言語なので、外国人からの誤解を気にする必要も無い。日本人からすれば、まったく、英米人はうらやましい限りである。
この 勧誘の must を紹介しているインスパイア、ジーニアスも、コラム的に紹介しているだけである。(桐原ファクトのみ、本文で紹介。)
:※ 昔から教育評論でよく言われる、英語教育の隠れた目的のひとつとして、誤解の恐れの少ない論理的な文章の書き方の教育を教える、という目的がある。文科省や国立大学などは、中立性などの理由で、「論理的な日本語の書き方はこうあるべきし」とは宣言できないので、仕方なく英文法など外国語を使って論理的な文章の書き方を教えようとしている、などとは昔はよく評論されたものである(もっとも、最近の英語教育では会話重視などで、そういう論理性の教育目的は雲散霧消してしまったが)。そういう論理的な文章の書き方の教育としては、勧誘 must やら上記例の「消してくれ」のような飛躍気味の用法は、嫌われるだろうから、大学入試などに勧誘の must などが出る可能性は低いかもしれない。
== 確信「ちがいない」 must の否定 ==
「~にちがいない」という強い確認の意味での must の否定は、 cannot 「~はずがない」である(ジーニアス、インスパイア、青チャート)。
なぜそうかといわれても、そうだと決まってる。英米人がそういう使い方をしているので、合わせるしかない。
:※ これまた、あまり論理的でないので、おそらく入試では問われづらいだろう。たとえば桐原ファクトでは、must の項目では、確信の否定 cannot を無視しており、非紹介である。なお、桐原でも can の側で cannot「~はずがない」を説明しており、可能性 can の否定として cannot「~はずがない」 という用法を説明するというのが桐原ファクトの理論構成である。
cannot や can't と言った場合、単に「~できない」という可能性を否定するだけの用法もあるが(インスパイア can側)、それとは別に「~のはずがない」という強めの感情的色彩をおびた「否定の確信」な意味の用法の場合もある(桐原ファクト、ジーニアス)。
== Can you ? ==
英語では、相手に能力を直接聞くのは、失礼に当たると見なされている場合もある。
たとえば、
Can you speak Japanese?
は、背景として、「あなたは日本語を話せないといけない」と思われることもある(インスパイア、ジーニアス)。このため、canを使わずに
Do you speak Japanese?
と聞くのが良いとされている(ジーニアス)。
一方、話し手が自分の語学の能力を「私は~できます」と言う場合は、なるべく be able to よりも canを使うほうが謙遜気味で礼儀正しいとされており、つまり I can のほうが良いとされている(ジーニアス)。I のあとに be able to を使うと、英米では能力自慢のように聞こえるらしい(ジーニアス)。
can youが無礼なのに I can が礼儀正しいのは意味不明だが、しかし覇権国家の英米人がそう使い分けているので、英語学ではそう合わせるしかない。うらやましい。所詮、語学は暗記科目であり、「理屈と膏薬はどこにでもつく」(日本のことわざ)である。
また、派生的にか、可能性のcanは疑問文では、強めの疑いや、おどろきや当惑などの意味をもつこともよくある(青チャート、インスパイア)。参考書によくある典型的な例文だが
Can the rumor be true? 「そのウワサは本当だろうか?」
という疑問文では、そのような、強めの疑いや、おどろきなどの意味がある。・
さて、can は、今後も通用する能力や可能性について言うので、単に一回だけのことに「昨日は~できた」みたいに言う場合には can や could を使わない(ジーニアス、青チャート)。
1回だけ「~できた」場合には、 be able to や 「managed to不定詞」 や succeed in ~ing などを使う(青チャート、インスパイア)。
また、とくに能力などを強調するのでなければ、単に過去形だけを使って1回だけできたことを表現してもいい(ジーニアス)。
なお、否定文や疑問文の場合は could を使っても良く、つまり couldn't や wasn't(または weren't) able to でもいい(インスパイア)。
ただし、こういう細かい使い分けよりも、入試に出るのは、構文
cannot help ~ing 「~せざるを得ない」
cannot help but +動詞の原型 「~せざるを得ない」
cannot but +動詞の原型
などだろう(インスパイア、桐原ファクトブック)。
90年代、こういう二重否定的な構文が(中学範囲ではなく)高校範囲だった過去がある。
cannot ~ too ○○ 「いくら~しすぎても○○しすぎることはない」
という反語的な表現も、90年代の典型的な高校英文法の範囲であった。
そのほか、「ときに ~することがある」と好ましくない事を言う場合に can を使うことがある。ジーニアスいわく「風邪は時に重い病気につながることがある」とか、青チャートいわく「そういう事故はときどき起こりうるものだ」で can を使っている。
だが、これとは逆に思える用法もインスパイアにあり、「can はもともと備わっている能力を表す」として「be able to は一時的な能力を表す」などという用法もある。
※ このように、助動詞まわりは、あまり規則的ではなく、またやや口語的であり、あまり日本の大学入試対策としては深入りする必要が無いだろう。上述したが cannot help ~ ing のような構文を覚えることを優先すべきである。
== 助動詞 need ==
本動詞 need とは別に、助動詞 need というのがあり、 「need +動詞の原型」の形で使う。
助動詞 need は主にイギリス英語である。
参考書では平叙文に助動詞 need が使われることもあるが(ジーニアス)、しかし実際の英米では疑問文と否定文でのみ助動詞 need が使われるのが一般的である(青チャート、桐原ファクト)。
このような制限が助動詞 need にあるため、実のところ、あまり信用頻度は高くない、・・・というのが桐原ファクトの見解。
助動詞 need の否定形は need not または needn't であり(青チャ-ト)、つまり「 need not +動詞の原型」のような形になる。
また、助動詞 need に過去形は無い(青チャ、インスパ)。また、主語が三人称単数でも、助動詞 need には sはつかず、needのまま(青チャ)。
もし、過去の必要性について言いたい場合、単に、本動詞 「need to不定詞」を使えばいい(ジーニアス、青チャ、インスパイア)。
なお、本動詞 need の否定文や疑問文は、単に中学英文法と同様に
I didn't need to 不定詞
や
Did you need to 不定詞 ?
を使えばいいだけである。
なお、完了形との組み合わせ「 need not have +過去分詞」だと、「~する必要はなかったのに」(+「しかし実際は~してしまった」)という後悔や非難などの意味になる(ジーニアス、インスパイア、桐原ファクト)。 ※ インスパイア・桐原ファクトに「実際は~してしまった」の説明あり。インスパイアに「非難」の意味あり。桐原は「後悔」のみ。ジーニアスは二次熟語では表現せず。
== dare ==
助動詞としては、2つの慣用文がある。
How dare say ~? 「よくも~できたものだね」
という苛立ち(いらだち)をあらわす。
I dare say ~. 「たぶん~だろう」「おそらく~だろう」
sayのあとに接続詞 that は続かない(インスパイア)。
I daresay ~
という一語でdareとsayを縮めた言い回しもある(インスパイア、ブレイクスルー)。
dare の用法は、あまり論理的ではない。ほか、助動詞 dareに過去形 dared もあるとされているが、現代ではマレ(青チャート)。
そのほか、
Bod dare not propose to her. 「ボブは彼女にプロポーズする勇気がない」
のように、否定文や疑問文で dare が使われることがある。
だが、この場合の dare は「勇気のある」の意味なので、助動詞を使わずとも courage や brave などをつかった言い表すこともできて、むしろ英米では口語には courage などの言い回しのほうが多いのが実態とのこと(エバーグリーン)。
さて、助動詞以外にも、本動詞としての dare の用法があり、上記2つの「How dare」「I dare say(または daresay)」慣用表現以外の場合では、本動詞としてdareをつかうことのほうが一般的であり(ジーニアス)、
He dares(または dared) to ~ 「彼はずうずうしくも~する(した)」
のように使うこともある(青チャ)。
== ought to ==
ought to は、助動詞 should と同じような意味として紹介されることもある。だが、実際には should よりも、やや意味が強い。
ought to には、「~すべきである」という義務・当然の意味や、「~するはずだ」「~にちがいない」という強い推定・見込みの意味(インスパイア、青チャ)がある。
義務の強さは、
must > ought to > should
である(ジーニアス)。
ought は助動詞であるが、to不定詞とともに使われる。
なお、ought to の否定形は ought not to ~ である(エバー、青、インスパ)。 oughtn't to ~ という短縮形の否定もある(青、インスパ)。
疑問文は、たとえば「私は~すべきでしょうか?」なら
Ought I to 不定詞 ~?
の語順になる(青、ファクト、インスパ)。
つまり、
Ought 主語 to 不定詞 ~?
の語順。
== had better ==
had better 「~したほうがいい」は、字面だけなら「推奨」の意味だが、文脈によっては「命令」や「脅し」の意味に受け取られる場合がある。
had better には「そうしないと(or)、困った事になるぞ」という含みがあると感じられる場合があるから、である(桐原ファクト、)。
とくに、主語が you の場合、命令などの意味に受け取られやすいので、注意が必要(エバー)。
このため、
I think you had better ~ のように「I think 」や maybe などをつけて、意味をやわらげる場合もよくある。
had better の否定は 「had better not 動詞の原型」である(エバ、ジーニ)。
:※ 完了形と混同してか、had better なのに had の後ろに not を置くミスが学生に多い(エバ)。
「It would be better for you to 不定詞」でも、意味をやわらげられる(青チャート、インスパ、ブレイク)ので、目上の人にはこの言い回しが良いとされる(青チャ)。
青チャートいわく、「 It might be better for you to 不定詞」や「I would suggest (that)」 などでも「~するのが良いでしょう」の意味で言い換えできる、とのこと(青チャ)。
言い換え表現のほうでは、動詞の前にtoがついてto不定詞になっているのに注意。
なお、口語では You'd better や I'd better のように、よくhad を 'd と省略する(青チャ、ブレイク)。
疑問文の語順については、インスパイアと青チャート以外、言及していない。説明の簡単のため主語を I とすると、「~したほうが良いですか?」は
Had I better ~?
または
Hadn't I better ~?
とのこと(インスパイア)。
いっぽう、
Han I better not ~? 「~しないほうが良いですか?」
とのこと(インスパイア)。
青チャートいわく、英語では実際によく使われるのは、
Hadn't I better ~? 「~しないほうが良いですか?」
という言い回しとのこと(青チャ)。
== その他 ==
助動詞には、ニュアンス的に、話し手・書き手の判断や気持ちが含まれている(インスパイア、桐原ファクト)。
なので、will→be going to や can→be able to などの言い換え表現をすると、じつはbe going to などのほうは話し手の判断や気持ちものニュアンスが薄まるので、客観的なニュアンスが強くなるので、参考書などでは「言い換え」とはいうが厳密には完全には同じ意味とは言えない場合もある。
ただし、日本人としては、そこまで考える必要は無い。
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/* 助動詞 need */
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== May I と Can I ==
May には「許可」を意味する用法もある。
「May I ~?」(~してもいいですか?) は、目上の人に対して許可を求めるために用いられる。
「Can I ~?」は口語でよく使われ、とくに目上という関係は無い。
なお、
「You may ~. 」(あなたは~してもよい)は、目下の人間に対して使うので(桐原ファクト)、使用の際には注意が必要。
たとえば
You may use your dictionary for this test. 「このテスト中は辞書を使ってもよろしい」(ジーニアス、桐原ファクト に似た例文)
のように使う。このように、権威・権力にもとづく可能性を表す表現でもある(ジーニアス)。だから、けっして「may = 丁寧」と機械的に覚えないほうが良いだろう。
== must ==
=== 勧誘 must ===
must には、強い勧誘を意味する用法もある(インスパイア、桐原ファクトブック、ジーニアス)。
You must ~. 「ぜひ~してください」「ぜひ~したほうがいい」
のような意味。
青チャートには書いていない。(あまり重要視してないのだろう。)
欧米人は、この手の、外国人には分かりづらい、やや飛躍気味の表現をすることもよくある。
:※ 飛躍気味とは、たとえば最近の俗語の例では、英米人の近年の若者などの用法で、すばらしい絵や文芸を見たときに、「その絵を消してくれ」なんていう表現も最近の英語では良く使われるという。どうやら「素晴らしすぎて、魅了されて、頭がおかしくなってしまいそうだ」→「だから消してくれ」という意味らしいのだが、しかし事情が知らない外国人が聞くと、単にその絵や文芸に不満があるかと誤解されかねない。しかし、英語は世界の覇権言語なので、外国人からの誤解を気にする必要も無い。日本人からすれば、まったく、英米人はうらやましい限りである。
この 勧誘の must を紹介しているインスパイア、ジーニアスも、コラム的に紹介しているだけである。(桐原ファクトのみ、本文で紹介。)
:※ 昔から教育評論でよく言われる、英語教育の隠れた目的のひとつとして、誤解の恐れの少ない論理的な文章の書き方の教育を教える、という目的がある。文科省や国立大学などは、中立性などの理由で、「論理的な日本語の書き方はこうあるべきし」とは宣言できないので、仕方なく英文法など外国語を使って論理的な文章の書き方を教えようとしている、などとは昔はよく評論されたものである(もっとも、最近の英語教育では会話重視などで、そういう論理性の教育目的は雲散霧消してしまったが)。そういう論理的な文章の書き方の教育としては、勧誘 must やら上記例の「消してくれ」のような飛躍気味の用法は、嫌われるだろうから、大学入試などに勧誘の must などが出る可能性は低いかもしれない。
== 確信「ちがいない」 must の否定 ==
「~にちがいない」という強い確認の意味での must の否定は、 cannot 「~はずがない」である(ジーニアス、インスパイア、青チャート)。
なぜそうかといわれても、そうだと決まってる。英米人がそういう使い方をしているので、合わせるしかない。
:※ これまた、あまり論理的でないので、おそらく入試では問われづらいだろう。たとえば桐原ファクトでは、must の項目では、確信の否定 cannot を無視しており、非紹介である。なお、桐原でも can の側で cannot「~はずがない」を説明しており、可能性 can の否定として cannot「~はずがない」 という用法を説明するというのが桐原ファクトの理論構成である。
cannot や can't と言った場合、単に「~できない」という可能性を否定するだけの用法もあるが(インスパイア can側)、それとは別に「~のはずがない」という強めの感情的色彩をおびた「否定の確信」な意味の用法の場合もある(桐原ファクト、ジーニアス)。
== Can you ? ==
英語では、相手に能力を直接聞くのは、失礼に当たると見なされている場合もある。
たとえば、
Can you speak Japanese?
は、背景として、「あなたは日本語を話せないといけない」と思われることもある(インスパイア、ジーニアス)。このため、canを使わずに
Do you speak Japanese?
と聞くのが良いとされている(ジーニアス)。
一方、話し手が自分の語学の能力を「私は~できます」と言う場合は、なるべく be able to よりも canを使うほうが謙遜気味で礼儀正しいとされており、つまり I can のほうが良いとされている(ジーニアス)。I のあとに be able to を使うと、英米では能力自慢のように聞こえるらしい(ジーニアス)。
can youが無礼なのに I can が礼儀正しいのは意味不明だが、しかし覇権国家の英米人がそう使い分けているので、英語学ではそう合わせるしかない。うらやましい。所詮、語学は暗記科目であり、「理屈と膏薬はどこにでもつく」(日本のことわざ)である。
また、派生的にか、可能性のcanは疑問文では、強めの疑いや、おどろきや当惑などの意味をもつこともよくある(青チャート、インスパイア)。参考書によくある典型的な例文だが
Can the rumor be true? 「そのウワサは本当だろうか?」
という疑問文では、そのような、強めの疑いや、おどろきなどの意味がある。・
さて、can は、今後も通用する能力や可能性について言うので、単に一回だけのことに「昨日は~できた」みたいに言う場合には can や could を使わない(ジーニアス、青チャート)。
1回だけ「~できた」場合には、 be able to や 「managed to不定詞」 や succeed in ~ing などを使う(青チャート、インスパイア)。
また、とくに能力などを強調するのでなければ、単に過去形だけを使って1回だけできたことを表現してもいい(ジーニアス)。
なお、否定文や疑問文の場合は could を使っても良く、つまり couldn't や wasn't(または weren't) able to でもいい(インスパイア)。
ただし、こういう細かい使い分けよりも、入試に出るのは、構文
cannot help ~ing 「~せざるを得ない」
cannot help but +動詞の原型 「~せざるを得ない」
cannot but +動詞の原型
などだろう(インスパイア、桐原ファクトブック)。
90年代、こういう二重否定的な構文が(中学範囲ではなく)高校範囲だった過去がある。
cannot ~ too ○○ 「いくら~しすぎても○○しすぎることはない」
という反語的な表現も、90年代の典型的な高校英文法の範囲であった。
そのほか、「ときに ~することがある」と好ましくない事を言う場合に can を使うことがある。ジーニアスいわく「風邪は時に重い病気につながることがある」とか、青チャートいわく「そういう事故はときどき起こりうるものだ」で can を使っている。
だが、これとは逆に思える用法もインスパイアにあり、「can はもともと備わっている能力を表す」として「be able to は一時的な能力を表す」などという用法もある。
※ このように、助動詞まわりは、あまり規則的ではなく、またやや口語的であり、あまり日本の大学入試対策としては深入りする必要が無いだろう。上述したが cannot help ~ ing のような構文を覚えることを優先すべきである。
== 助動詞 need ==
本動詞 need とは別に、助動詞 need というのがあり、 「need +動詞の原型」の形で使う。
助動詞 need は主にイギリス英語である。
参考書では平叙文に助動詞 need が使われることもあるが(ジーニアス)、しかし実際の英米では疑問文と否定文でのみ助動詞 need が使われるのが一般的である(青チャート、桐原ファクト、インスパイア)。
つまり、平叙文、肯定文では、助動詞ではなく本動詞 need が使われるのが実際(インスパイア)。
このような制限が助動詞 need にあるため、実のところ、あまり信用頻度は高くない、・・・というのが桐原ファクトの見解。
助動詞 need の否定形は need not または needn't であり(青チャ-ト)、つまり「 need not +動詞の原型」のような形になる。
また、助動詞 need に過去形は無い(青チャ、インスパ)。また、主語が三人称単数でも、助動詞 need には sはつかず、needのまま(青チャ)。
もし、過去の必要性について言いたい場合、単に、本動詞 「need to不定詞」を使えばいい(ジーニアス、青チャ、インスパイア)。
なお、本動詞 need の否定文や疑問文は、単に中学英文法と同様に
I didn't need to 不定詞
や
Did you need to 不定詞 ?
を使えばいいだけである。
なお、完了形との組み合わせ「 need not have +過去分詞」だと、「~する必要はなかったのに」(+「しかし実際は~してしまった」)という後悔や非難などの意味になる(ジーニアス、インスパイア、桐原ファクト)。 ※ インスパイア・桐原ファクトに「実際は~してしまった」の説明あり。インスパイアに「非難」の意味あり。桐原は「後悔」のみ。ジーニアスは二次熟語では表現せず。
== dare ==
助動詞としては、2つの慣用文がある。
How dare say ~? 「よくも~できたものだね」
という苛立ち(いらだち)をあらわす。
I dare say ~. 「たぶん~だろう」「おそらく~だろう」
sayのあとに接続詞 that は続かない(インスパイア)。
I daresay ~
という一語でdareとsayを縮めた言い回しもある(インスパイア、ブレイクスルー)。
dare の用法は、あまり論理的ではない。ほか、助動詞 dareに過去形 dared もあるとされているが、現代ではマレ(青チャート)。
そのほか、
Bod dare not propose to her. 「ボブは彼女にプロポーズする勇気がない」
のように、否定文や疑問文で dare が使われることがある。
だが、この場合の dare は「勇気のある」の意味なので、助動詞を使わずとも courage や brave などをつかった言い表すこともできて、むしろ英米では口語には courage などの言い回しのほうが多いのが実態とのこと(エバーグリーン)。
さて、助動詞以外にも、本動詞としての dare の用法があり、上記2つの「How dare」「I dare say(または daresay)」慣用表現以外の場合では、本動詞としてdareをつかうことのほうが一般的であり(ジーニアス)、
He dares(または dared) to ~ 「彼はずうずうしくも~する(した)」
のように使うこともある(青チャ)。
== ought to ==
ought to は、助動詞 should と同じような意味として紹介されることもある。だが、実際には should よりも、やや意味が強い。
ought to には、「~すべきである」という義務・当然の意味や、「~するはずだ」「~にちがいない」という強い推定・見込みの意味(インスパイア、青チャ)がある。
義務の強さは、
must > ought to > should
である(ジーニアス)。
ought は助動詞であるが、to不定詞とともに使われる。
なお、ought to の否定形は ought not to ~ である(エバー、青、インスパ)。 oughtn't to ~ という短縮形の否定もある(青、インスパ)。
疑問文は、たとえば「私は~すべきでしょうか?」なら
Ought I to 不定詞 ~?
の語順になる(青、ファクト、インスパ)。
つまり、
Ought 主語 to 不定詞 ~?
の語順。
== had better ==
had better 「~したほうがいい」は、字面だけなら「推奨」の意味だが、文脈によっては「命令」や「脅し」の意味に受け取られる場合がある。
had better には「そうしないと(or)、困った事になるぞ」という含みがあると感じられる場合があるから、である(桐原ファクト、)。
とくに、主語が you の場合、命令などの意味に受け取られやすいので、注意が必要(エバー)。
このため、
I think you had better ~ のように「I think 」や maybe などをつけて、意味をやわらげる場合もよくある。
had better の否定は 「had better not 動詞の原型」である(エバ、ジーニ)。
:※ 完了形と混同してか、had better なのに had の後ろに not を置くミスが学生に多い(エバ)。
「It would be better for you to 不定詞」でも、意味をやわらげられる(青チャート、インスパ、ブレイク)ので、目上の人にはこの言い回しが良いとされる(青チャ)。
青チャートいわく、「 It might be better for you to 不定詞」や「I would suggest (that)」 などでも「~するのが良いでしょう」の意味で言い換えできる、とのこと(青チャ)。
言い換え表現のほうでは、動詞の前にtoがついてto不定詞になっているのに注意。
なお、口語では You'd better や I'd better のように、よくhad を 'd と省略する(青チャ、ブレイク)。
疑問文の語順については、インスパイアと青チャート以外、言及していない。説明の簡単のため主語を I とすると、「~したほうが良いですか?」は
Had I better ~?
または
Hadn't I better ~?
とのこと(インスパイア)。
いっぽう、
Han I better not ~? 「~しないほうが良いですか?」
とのこと(インスパイア)。
青チャートいわく、英語では実際によく使われるのは、
Hadn't I better ~? 「~しないほうが良いですか?」
という言い回しとのこと(青チャ)。
== その他 ==
助動詞には、ニュアンス的に、話し手・書き手の判断や気持ちが含まれている(インスパイア、桐原ファクト)。
なので、will→be going to や can→be able to などの言い換え表現をすると、じつはbe going to などのほうは話し手の判断や気持ちものニュアンスが薄まるので、客観的なニュアンスが強くなるので、参考書などでは「言い換え」とはいうが厳密には完全には同じ意味とは言えない場合もある。
ただし、日本人としては、そこまで考える必要は無い。
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すじにくシチュー
12058
/* 助動詞 need */
wikitext
text/x-wiki
== May I と Can I ==
May には「許可」を意味する用法もある。
「May I ~?」(~してもいいですか?) は、目上の人に対して許可を求めるために用いられる。
「Can I ~?」は口語でよく使われ、とくに目上という関係は無い。
なお、
「You may ~. 」(あなたは~してもよい)は、目下の人間に対して使うので(桐原ファクト)、使用の際には注意が必要。
たとえば
You may use your dictionary for this test. 「このテスト中は辞書を使ってもよろしい」(ジーニアス、桐原ファクト に似た例文)
のように使う。このように、権威・権力にもとづく可能性を表す表現でもある(ジーニアス)。だから、けっして「may = 丁寧」と機械的に覚えないほうが良いだろう。
== must ==
=== 勧誘 must ===
must には、強い勧誘を意味する用法もある(インスパイア、桐原ファクトブック、ジーニアス)。
You must ~. 「ぜひ~してください」「ぜひ~したほうがいい」
のような意味。
青チャートには書いていない。(あまり重要視してないのだろう。)
欧米人は、この手の、外国人には分かりづらい、やや飛躍気味の表現をすることもよくある。
:※ 飛躍気味とは、たとえば最近の俗語の例では、英米人の近年の若者などの用法で、すばらしい絵や文芸を見たときに、「その絵を消してくれ」なんていう表現も最近の英語では良く使われるという。どうやら「素晴らしすぎて、魅了されて、頭がおかしくなってしまいそうだ」→「だから消してくれ」という意味らしいのだが、しかし事情が知らない外国人が聞くと、単にその絵や文芸に不満があるかと誤解されかねない。しかし、英語は世界の覇権言語なので、外国人からの誤解を気にする必要も無い。日本人からすれば、まったく、英米人はうらやましい限りである。
この 勧誘の must を紹介しているインスパイア、ジーニアスも、コラム的に紹介しているだけである。(桐原ファクトのみ、本文で紹介。)
:※ 昔から教育評論でよく言われる、英語教育の隠れた目的のひとつとして、誤解の恐れの少ない論理的な文章の書き方の教育を教える、という目的がある。文科省や国立大学などは、中立性などの理由で、「論理的な日本語の書き方はこうあるべきし」とは宣言できないので、仕方なく英文法など外国語を使って論理的な文章の書き方を教えようとしている、などとは昔はよく評論されたものである(もっとも、最近の英語教育では会話重視などで、そういう論理性の教育目的は雲散霧消してしまったが)。そういう論理的な文章の書き方の教育としては、勧誘 must やら上記例の「消してくれ」のような飛躍気味の用法は、嫌われるだろうから、大学入試などに勧誘の must などが出る可能性は低いかもしれない。
== 確信「ちがいない」 must の否定 ==
「~にちがいない」という強い確認の意味での must の否定は、 cannot 「~はずがない」である(ジーニアス、インスパイア、青チャート)。
なぜそうかといわれても、そうだと決まってる。英米人がそういう使い方をしているので、合わせるしかない。
:※ これまた、あまり論理的でないので、おそらく入試では問われづらいだろう。たとえば桐原ファクトでは、must の項目では、確信の否定 cannot を無視しており、非紹介である。なお、桐原でも can の側で cannot「~はずがない」を説明しており、可能性 can の否定として cannot「~はずがない」 という用法を説明するというのが桐原ファクトの理論構成である。
cannot や can't と言った場合、単に「~できない」という可能性を否定するだけの用法もあるが(インスパイア can側)、それとは別に「~のはずがない」という強めの感情的色彩をおびた「否定の確信」な意味の用法の場合もある(桐原ファクト、ジーニアス)。
== Can you ? ==
英語では、相手に能力を直接聞くのは、失礼に当たると見なされている場合もある。
たとえば、
Can you speak Japanese?
は、背景として、「あなたは日本語を話せないといけない」と思われることもある(インスパイア、ジーニアス)。このため、canを使わずに
Do you speak Japanese?
と聞くのが良いとされている(ジーニアス)。
一方、話し手が自分の語学の能力を「私は~できます」と言う場合は、なるべく be able to よりも canを使うほうが謙遜気味で礼儀正しいとされており、つまり I can のほうが良いとされている(ジーニアス)。I のあとに be able to を使うと、英米では能力自慢のように聞こえるらしい(ジーニアス)。
can youが無礼なのに I can が礼儀正しいのは意味不明だが、しかし覇権国家の英米人がそう使い分けているので、英語学ではそう合わせるしかない。うらやましい。所詮、語学は暗記科目であり、「理屈と膏薬はどこにでもつく」(日本のことわざ)である。
また、派生的にか、可能性のcanは疑問文では、強めの疑いや、おどろきや当惑などの意味をもつこともよくある(青チャート、インスパイア)。参考書によくある典型的な例文だが
Can the rumor be true? 「そのウワサは本当だろうか?」
という疑問文では、そのような、強めの疑いや、おどろきなどの意味がある。・
さて、can は、今後も通用する能力や可能性について言うので、単に一回だけのことに「昨日は~できた」みたいに言う場合には can や could を使わない(ジーニアス、青チャート)。
1回だけ「~できた」場合には、 be able to や 「managed to不定詞」 や succeed in ~ing などを使う(青チャート、インスパイア)。
また、とくに能力などを強調するのでなければ、単に過去形だけを使って1回だけできたことを表現してもいい(ジーニアス)。
なお、否定文や疑問文の場合は could を使っても良く、つまり couldn't や wasn't(または weren't) able to でもいい(インスパイア)。
ただし、こういう細かい使い分けよりも、入試に出るのは、構文
cannot help ~ing 「~せざるを得ない」
cannot help but +動詞の原型 「~せざるを得ない」
cannot but +動詞の原型
などだろう(インスパイア、桐原ファクトブック)。
90年代、こういう二重否定的な構文が(中学範囲ではなく)高校範囲だった過去がある。
cannot ~ too ○○ 「いくら~しすぎても○○しすぎることはない」
という反語的な表現も、90年代の典型的な高校英文法の範囲であった。
そのほか、「ときに ~することがある」と好ましくない事を言う場合に can を使うことがある。ジーニアスいわく「風邪は時に重い病気につながることがある」とか、青チャートいわく「そういう事故はときどき起こりうるものだ」で can を使っている。
だが、これとは逆に思える用法もインスパイアにあり、「can はもともと備わっている能力を表す」として「be able to は一時的な能力を表す」などという用法もある。
※ このように、助動詞まわりは、あまり規則的ではなく、またやや口語的であり、あまり日本の大学入試対策としては深入りする必要が無いだろう。上述したが cannot help ~ ing のような構文を覚えることを優先すべきである。
== 助動詞 need ==
本動詞 need とは別に、助動詞 need というのがあり、 「need +動詞の原型」の形で使う。
助動詞 need は主にイギリス英語である。
参考書では平叙文に助動詞 need が使われることもあるが(ジーニアス)、しかし実際の英米では疑問文と否定文でのみ助動詞 need が使われるのが一般的である(青チャート、桐原ファクト、インスパイア)。
つまり、平叙文、肯定文では、助動詞ではなく本動詞 need が使われるのが実際(インスパイア)。
このような制限が助動詞 need にあるため、実のところ、あまり信用頻度は高くない、・・・というのが桐原ファクトの見解。
助動詞 need の否定形は need not または needn't であり(青チャ-ト)、つまり「 need not +動詞の原型」のような形になる。
また、助動詞 need に過去形は無い(青チャ、インスパ)。また、主語が三人称単数でも、助動詞 need には sはつかず、needのまま(青チャ)。
もし、過去の必要性について言いたい場合、単に、本動詞 「need to不定詞」を使えばいい(ジーニアス、青チャ、インスパイア)。
なお、本動詞 need の否定文や疑問文は、単に中学英文法と同様に(たとえば過去形の場合なら)
I didn't need to 不定詞
や
Did you need to 不定詞 ?
を使えばいいだけである。
なお、完了形との組み合わせ「 need not have +過去分詞」だと、「~する必要はなかったのに」(+「しかし実際は~してしまった」)という後悔や非難などの意味になる(ジーニアス、インスパイア、桐原ファクト)。 ※ インスパイア・桐原ファクトに「実際は~してしまった」の説明あり。インスパイアに「非難」の意味あり。桐原は「後悔」のみ。ジーニアスは二次熟語では表現せず。
== dare ==
助動詞としては、2つの慣用文がある。
How dare say ~? 「よくも~できたものだね」
という苛立ち(いらだち)をあらわす。
I dare say ~. 「たぶん~だろう」「おそらく~だろう」
sayのあとに接続詞 that は続かない(インスパイア)。
I daresay ~
という一語でdareとsayを縮めた言い回しもある(インスパイア、ブレイクスルー)。
dare の用法は、あまり論理的ではない。ほか、助動詞 dareに過去形 dared もあるとされているが、現代ではマレ(青チャート)。
そのほか、
Bod dare not propose to her. 「ボブは彼女にプロポーズする勇気がない」
のように、否定文や疑問文で dare が使われることがある。
だが、この場合の dare は「勇気のある」の意味なので、助動詞を使わずとも courage や brave などをつかった言い表すこともできて、むしろ英米では口語には courage などの言い回しのほうが多いのが実態とのこと(エバーグリーン)。
さて、助動詞以外にも、本動詞としての dare の用法があり、上記2つの「How dare」「I dare say(または daresay)」慣用表現以外の場合では、本動詞としてdareをつかうことのほうが一般的であり(ジーニアス)、
He dares(または dared) to ~ 「彼はずうずうしくも~する(した)」
のように使うこともある(青チャ)。
== ought to ==
ought to は、助動詞 should と同じような意味として紹介されることもある。だが、実際には should よりも、やや意味が強い。
ought to には、「~すべきである」という義務・当然の意味や、「~するはずだ」「~にちがいない」という強い推定・見込みの意味(インスパイア、青チャ)がある。
義務の強さは、
must > ought to > should
である(ジーニアス)。
ought は助動詞であるが、to不定詞とともに使われる。
なお、ought to の否定形は ought not to ~ である(エバー、青、インスパ)。 oughtn't to ~ という短縮形の否定もある(青、インスパ)。
疑問文は、たとえば「私は~すべきでしょうか?」なら
Ought I to 不定詞 ~?
の語順になる(青、ファクト、インスパ)。
つまり、
Ought 主語 to 不定詞 ~?
の語順。
== had better ==
had better 「~したほうがいい」は、字面だけなら「推奨」の意味だが、文脈によっては「命令」や「脅し」の意味に受け取られる場合がある。
had better には「そうしないと(or)、困った事になるぞ」という含みがあると感じられる場合があるから、である(桐原ファクト、)。
とくに、主語が you の場合、命令などの意味に受け取られやすいので、注意が必要(エバー)。
このため、
I think you had better ~ のように「I think 」や maybe などをつけて、意味をやわらげる場合もよくある。
had better の否定は 「had better not 動詞の原型」である(エバ、ジーニ)。
:※ 完了形と混同してか、had better なのに had の後ろに not を置くミスが学生に多い(エバ)。
「It would be better for you to 不定詞」でも、意味をやわらげられる(青チャート、インスパ、ブレイク)ので、目上の人にはこの言い回しが良いとされる(青チャ)。
青チャートいわく、「 It might be better for you to 不定詞」や「I would suggest (that)」 などでも「~するのが良いでしょう」の意味で言い換えできる、とのこと(青チャ)。
言い換え表現のほうでは、動詞の前にtoがついてto不定詞になっているのに注意。
なお、口語では You'd better や I'd better のように、よくhad を 'd と省略する(青チャ、ブレイク)。
疑問文の語順については、インスパイアと青チャート以外、言及していない。説明の簡単のため主語を I とすると、「~したほうが良いですか?」は
Had I better ~?
または
Hadn't I better ~?
とのこと(インスパイア)。
いっぽう、
Han I better not ~? 「~しないほうが良いですか?」
とのこと(インスパイア)。
青チャートいわく、英語では実際によく使われるのは、
Hadn't I better ~? 「~しないほうが良いですか?」
という言い回しとのこと(青チャ)。
== その他 ==
助動詞には、ニュアンス的に、話し手・書き手の判断や気持ちが含まれている(インスパイア、桐原ファクト)。
なので、will→be going to や can→be able to などの言い換え表現をすると、じつはbe going to などのほうは話し手の判断や気持ちものニュアンスが薄まるので、客観的なニュアンスが強くなるので、参考書などでは「言い換え」とはいうが厳密には完全には同じ意味とは言えない場合もある。
ただし、日本人としては、そこまで考える必要は無い。
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すじにくシチュー
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/* dare */
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== May I と Can I ==
May には「許可」を意味する用法もある。
「May I ~?」(~してもいいですか?) は、目上の人に対して許可を求めるために用いられる。
「Can I ~?」は口語でよく使われ、とくに目上という関係は無い。
なお、
「You may ~. 」(あなたは~してもよい)は、目下の人間に対して使うので(桐原ファクト)、使用の際には注意が必要。
たとえば
You may use your dictionary for this test. 「このテスト中は辞書を使ってもよろしい」(ジーニアス、桐原ファクト に似た例文)
のように使う。このように、権威・権力にもとづく可能性を表す表現でもある(ジーニアス)。だから、けっして「may = 丁寧」と機械的に覚えないほうが良いだろう。
== must ==
=== 勧誘 must ===
must には、強い勧誘を意味する用法もある(インスパイア、桐原ファクトブック、ジーニアス)。
You must ~. 「ぜひ~してください」「ぜひ~したほうがいい」
のような意味。
青チャートには書いていない。(あまり重要視してないのだろう。)
欧米人は、この手の、外国人には分かりづらい、やや飛躍気味の表現をすることもよくある。
:※ 飛躍気味とは、たとえば最近の俗語の例では、英米人の近年の若者などの用法で、すばらしい絵や文芸を見たときに、「その絵を消してくれ」なんていう表現も最近の英語では良く使われるという。どうやら「素晴らしすぎて、魅了されて、頭がおかしくなってしまいそうだ」→「だから消してくれ」という意味らしいのだが、しかし事情が知らない外国人が聞くと、単にその絵や文芸に不満があるかと誤解されかねない。しかし、英語は世界の覇権言語なので、外国人からの誤解を気にする必要も無い。日本人からすれば、まったく、英米人はうらやましい限りである。
この 勧誘の must を紹介しているインスパイア、ジーニアスも、コラム的に紹介しているだけである。(桐原ファクトのみ、本文で紹介。)
:※ 昔から教育評論でよく言われる、英語教育の隠れた目的のひとつとして、誤解の恐れの少ない論理的な文章の書き方の教育を教える、という目的がある。文科省や国立大学などは、中立性などの理由で、「論理的な日本語の書き方はこうあるべきし」とは宣言できないので、仕方なく英文法など外国語を使って論理的な文章の書き方を教えようとしている、などとは昔はよく評論されたものである(もっとも、最近の英語教育では会話重視などで、そういう論理性の教育目的は雲散霧消してしまったが)。そういう論理的な文章の書き方の教育としては、勧誘 must やら上記例の「消してくれ」のような飛躍気味の用法は、嫌われるだろうから、大学入試などに勧誘の must などが出る可能性は低いかもしれない。
== 確信「ちがいない」 must の否定 ==
「~にちがいない」という強い確認の意味での must の否定は、 cannot 「~はずがない」である(ジーニアス、インスパイア、青チャート)。
なぜそうかといわれても、そうだと決まってる。英米人がそういう使い方をしているので、合わせるしかない。
:※ これまた、あまり論理的でないので、おそらく入試では問われづらいだろう。たとえば桐原ファクトでは、must の項目では、確信の否定 cannot を無視しており、非紹介である。なお、桐原でも can の側で cannot「~はずがない」を説明しており、可能性 can の否定として cannot「~はずがない」 という用法を説明するというのが桐原ファクトの理論構成である。
cannot や can't と言った場合、単に「~できない」という可能性を否定するだけの用法もあるが(インスパイア can側)、それとは別に「~のはずがない」という強めの感情的色彩をおびた「否定の確信」な意味の用法の場合もある(桐原ファクト、ジーニアス)。
== Can you ? ==
英語では、相手に能力を直接聞くのは、失礼に当たると見なされている場合もある。
たとえば、
Can you speak Japanese?
は、背景として、「あなたは日本語を話せないといけない」と思われることもある(インスパイア、ジーニアス)。このため、canを使わずに
Do you speak Japanese?
と聞くのが良いとされている(ジーニアス)。
一方、話し手が自分の語学の能力を「私は~できます」と言う場合は、なるべく be able to よりも canを使うほうが謙遜気味で礼儀正しいとされており、つまり I can のほうが良いとされている(ジーニアス)。I のあとに be able to を使うと、英米では能力自慢のように聞こえるらしい(ジーニアス)。
can youが無礼なのに I can が礼儀正しいのは意味不明だが、しかし覇権国家の英米人がそう使い分けているので、英語学ではそう合わせるしかない。うらやましい。所詮、語学は暗記科目であり、「理屈と膏薬はどこにでもつく」(日本のことわざ)である。
また、派生的にか、可能性のcanは疑問文では、強めの疑いや、おどろきや当惑などの意味をもつこともよくある(青チャート、インスパイア)。参考書によくある典型的な例文だが
Can the rumor be true? 「そのウワサは本当だろうか?」
という疑問文では、そのような、強めの疑いや、おどろきなどの意味がある。・
さて、can は、今後も通用する能力や可能性について言うので、単に一回だけのことに「昨日は~できた」みたいに言う場合には can や could を使わない(ジーニアス、青チャート)。
1回だけ「~できた」場合には、 be able to や 「managed to不定詞」 や succeed in ~ing などを使う(青チャート、インスパイア)。
また、とくに能力などを強調するのでなければ、単に過去形だけを使って1回だけできたことを表現してもいい(ジーニアス)。
なお、否定文や疑問文の場合は could を使っても良く、つまり couldn't や wasn't(または weren't) able to でもいい(インスパイア)。
ただし、こういう細かい使い分けよりも、入試に出るのは、構文
cannot help ~ing 「~せざるを得ない」
cannot help but +動詞の原型 「~せざるを得ない」
cannot but +動詞の原型
などだろう(インスパイア、桐原ファクトブック)。
90年代、こういう二重否定的な構文が(中学範囲ではなく)高校範囲だった過去がある。
cannot ~ too ○○ 「いくら~しすぎても○○しすぎることはない」
という反語的な表現も、90年代の典型的な高校英文法の範囲であった。
そのほか、「ときに ~することがある」と好ましくない事を言う場合に can を使うことがある。ジーニアスいわく「風邪は時に重い病気につながることがある」とか、青チャートいわく「そういう事故はときどき起こりうるものだ」で can を使っている。
だが、これとは逆に思える用法もインスパイアにあり、「can はもともと備わっている能力を表す」として「be able to は一時的な能力を表す」などという用法もある。
※ このように、助動詞まわりは、あまり規則的ではなく、またやや口語的であり、あまり日本の大学入試対策としては深入りする必要が無いだろう。上述したが cannot help ~ ing のような構文を覚えることを優先すべきである。
== 助動詞 need ==
本動詞 need とは別に、助動詞 need というのがあり、 「need +動詞の原型」の形で使う。
助動詞 need は主にイギリス英語である。
参考書では平叙文に助動詞 need が使われることもあるが(ジーニアス)、しかし実際の英米では疑問文と否定文でのみ助動詞 need が使われるのが一般的である(青チャート、桐原ファクト、インスパイア)。
つまり、平叙文、肯定文では、助動詞ではなく本動詞 need が使われるのが実際(インスパイア)。
このような制限が助動詞 need にあるため、実のところ、あまり信用頻度は高くない、・・・というのが桐原ファクトの見解。
助動詞 need の否定形は need not または needn't であり(青チャ-ト)、つまり「 need not +動詞の原型」のような形になる。
また、助動詞 need に過去形は無い(青チャ、インスパ)。また、主語が三人称単数でも、助動詞 need には sはつかず、needのまま(青チャ)。
もし、過去の必要性について言いたい場合、単に、本動詞 「need to不定詞」を使えばいい(ジーニアス、青チャ、インスパイア)。
なお、本動詞 need の否定文や疑問文は、単に中学英文法と同様に(たとえば過去形の場合なら)
I didn't need to 不定詞
や
Did you need to 不定詞 ?
を使えばいいだけである。
なお、完了形との組み合わせ「 need not have +過去分詞」だと、「~する必要はなかったのに」(+「しかし実際は~してしまった」)という後悔や非難などの意味になる(ジーニアス、インスパイア、桐原ファクト)。 ※ インスパイア・桐原ファクトに「実際は~してしまった」の説明あり。インスパイアに「非難」の意味あり。桐原は「後悔」のみ。ジーニアスは二次熟語では表現せず。
== dare ==
助動詞としては、2つの慣用文がある。
How dare say ~? 「よくも~できたものだね」
という苛立ち(いらだち)をあらわす。
I dare say ~. 「たぶん~だろう」「おそらく~だろう」 (インスパイア、ジーニアス、ブレイクスルー)
sayのあとに接続詞 that は続かない(インスパイア)。
I daresay ~
という一語でdareとsayを縮めた言い回しもある(インスパイア、ブレイクスルー)。
dare の用法は、あまり論理的ではない。ほか、助動詞 dareに過去形 dared もあるとされているが、現代ではマレ(青チャート)。
そのほか、
Bod dare not propose to her. 「ボブは彼女にプロポーズする勇気がない」
のように、否定文や疑問文で dare が使われることがある。
だが、この場合の dare は「勇気のある」の意味なので、助動詞を使わずとも courage や brave などをつかった言い表すこともできて、むしろ英米では口語には courage などの言い回しのほうが多いのが実態とのこと(エバーグリーン)。
さて、助動詞以外にも、本動詞としての dare の用法があり、上記2つの「How dare」「I dare say(または daresay)」慣用表現以外の場合では、本動詞としてdareをつかうことのほうが一般的であり(ジーニアス)、
He dares(または dared) to ~ 「彼はずうずうしくも~する(した)」
のように使うこともある(青チャ)。
== ought to ==
ought to は、助動詞 should と同じような意味として紹介されることもある。だが、実際には should よりも、やや意味が強い。
ought to には、「~すべきである」という義務・当然の意味や、「~するはずだ」「~にちがいない」という強い推定・見込みの意味(インスパイア、青チャ)がある。
義務の強さは、
must > ought to > should
である(ジーニアス)。
ought は助動詞であるが、to不定詞とともに使われる。
なお、ought to の否定形は ought not to ~ である(エバー、青、インスパ)。 oughtn't to ~ という短縮形の否定もある(青、インスパ)。
疑問文は、たとえば「私は~すべきでしょうか?」なら
Ought I to 不定詞 ~?
の語順になる(青、ファクト、インスパ)。
つまり、
Ought 主語 to 不定詞 ~?
の語順。
== had better ==
had better 「~したほうがいい」は、字面だけなら「推奨」の意味だが、文脈によっては「命令」や「脅し」の意味に受け取られる場合がある。
had better には「そうしないと(or)、困った事になるぞ」という含みがあると感じられる場合があるから、である(桐原ファクト、)。
とくに、主語が you の場合、命令などの意味に受け取られやすいので、注意が必要(エバー)。
このため、
I think you had better ~ のように「I think 」や maybe などをつけて、意味をやわらげる場合もよくある。
had better の否定は 「had better not 動詞の原型」である(エバ、ジーニ)。
:※ 完了形と混同してか、had better なのに had の後ろに not を置くミスが学生に多い(エバ)。
「It would be better for you to 不定詞」でも、意味をやわらげられる(青チャート、インスパ、ブレイク)ので、目上の人にはこの言い回しが良いとされる(青チャ)。
青チャートいわく、「 It might be better for you to 不定詞」や「I would suggest (that)」 などでも「~するのが良いでしょう」の意味で言い換えできる、とのこと(青チャ)。
言い換え表現のほうでは、動詞の前にtoがついてto不定詞になっているのに注意。
なお、口語では You'd better や I'd better のように、よくhad を 'd と省略する(青チャ、ブレイク)。
疑問文の語順については、インスパイアと青チャート以外、言及していない。説明の簡単のため主語を I とすると、「~したほうが良いですか?」は
Had I better ~?
または
Hadn't I better ~?
とのこと(インスパイア)。
いっぽう、
Han I better not ~? 「~しないほうが良いですか?」
とのこと(インスパイア)。
青チャートいわく、英語では実際によく使われるのは、
Hadn't I better ~? 「~しないほうが良いですか?」
という言い回しとのこと(青チャ)。
== その他 ==
助動詞には、ニュアンス的に、話し手・書き手の判断や気持ちが含まれている(インスパイア、桐原ファクト)。
なので、will→be going to や can→be able to などの言い換え表現をすると、じつはbe going to などのほうは話し手の判断や気持ちものニュアンスが薄まるので、客観的なニュアンスが強くなるので、参考書などでは「言い換え」とはいうが厳密には完全には同じ意味とは言えない場合もある。
ただし、日本人としては、そこまで考える必要は無い。
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羅馬史略
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2022-08-21T14:38:57Z
Linguae
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/* 羅馬史略の読解 */
wikitext
text/x-wiki
<div style="font-family:游明朝;font-size:60pt;text-align:center;">羅馬史畧 </div>
<div style="background-color:#fffffe; width:760px;"> '''羅馬史略'''(羅馬史畧、ろーましりゃく)は、明治初期の[[w:1874年|1874年]]~[[w:1875年|1875年]](明治7~8年)に日本の[[w:文部省|文部省]]が発行した[[w:古代ローマ|古代ローマ史]]の教科書。全10巻で、アメリカの複数の著述家などが著した英語の著作をもとに、[[w:英学|英学]]などを修めて当時の文部省職員であった <ruby><rb><span style="font-size:13pt;">[[w:大槻文彦|大槻文彦]]</span></rb><rp>(</rp><rt>おおつきふみひこ</rt><rp>)</rp></ruby>(1847-1928、国語学者として著名)が翻案したものである。<br> 『羅馬史略』という書名は「ローマ史の概略」あるいは「概説ローマ史」というような意味である。内容の範囲は、伝承上の初代王である[[w:ロームルス|ロームルス]]による建国(紀元前8世紀)から、[[w:東ローマ帝国|東ローマ帝国]]の滅亡([[w:1453年|1453年]])までの約2200年間に及ぶ。古代ローマ史だけで10巻もの教科書が発行された背景には、当時の明治政府が国民への西洋事情の啓蒙を急いでいたという時流があったのであろう。<br> 明治初期の著作全般にいえることであるが、近代日本語の[[w:日本語#文語文と口語文|口語文]]が確立する前の文語文で書かれ、漢字・仮名ともに現代では用いられない特殊な字体も見られるため、大戦後の現代日本人には甚だ読みづらい代物である。<br> ここでは、ローマ史のハイライトというべき題材を選び、読みづらい日本語文語文を判読しつつ、明治維新期の日本政府が教育しようとしていたローマ史を読み解く。
</div>
__notoc__
== 各巻の内容 ==
== 羅馬史略の読解 ==
*巻之五
**<span style="background-color:#ffc;">[[/巻之五/塞撒ガ髙慮ヲ征伐スル事|/塞撒ガ髙慮ヲ征伐スル事]](カエサルがガリアを征伐する事) {{進捗|00%|2022-08-21}} </span><small>(2022年8月18日より)</small>
== 関連項目 ==
*[[ガリア戦記]]
*[[内乱記]]
== 外部リンク ==
[[Category:羅馬史略|*]]
[[Category:ローマ史|ろうましりやく]]
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<div style="font-family:游明朝;font-size:60pt;text-align:center;">羅馬史畧 </div>
<div style="background-color:#fffffe; width:760px;"> '''羅馬史略'''(羅馬史畧、ろーましりゃく)は、明治初期の[[w:1874年|1874年]]~[[w:1875年|1875年]](明治7~8年)に日本の[[w:文部省|文部省]]が発行した[[w:古代ローマ|古代ローマ史]]の教科書。全10巻で、アメリカの複数の著述家などが著した英語の著作をもとに、[[w:英学|英学]]などを修めて当時の文部省職員であった <ruby><rb><span style="font-size:13pt;">[[w:大槻文彦|大槻文彦]]</span></rb><rp>(</rp><rt>おおつきふみひこ</rt><rp>)</rp></ruby>(1847-1928、国語学者として著名)が翻案したものである。<br> 『羅馬史略』という書名は「ローマ史の概略」あるいは「概説ローマ史」というような意味である。内容の範囲は、伝承上の初代王である[[w:ロームルス|ロームルス]]による建国(紀元前8世紀)から、[[w:東ローマ帝国|東ローマ帝国]]の滅亡([[w:1453年|1453年]])までの約2200年間に及ぶ。古代ローマ史だけで10巻もの教科書が発行された背景には、当時の明治政府が国民への西洋事情の啓蒙を急いでいたという時流があったのであろう。<br> 明治初期の著作全般にいえることであるが、近代日本語の[[w:日本語#文語文と口語文|口語文]]が確立する前の文語文で書かれ、漢字・仮名ともに現代では用いられない特殊な字体も見られるため、大戦後の現代日本人には甚だ読みづらい代物である。<br> ここでは、ローマ史のハイライトというべき題材を選び、読みづらい日本語文語文を判読しつつ、明治維新期の日本政府が教育しようとしていたローマ史を読み解く。
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== 各巻の内容 ==
== 羅馬史略の読解 ==
*巻之五
**<span style="background-color:#ffc;">[[/巻之五/塞撒ガ髙慮ヲ征伐スル事|/塞撒ガ髙慮ヲ征伐スル事]](カエサルがガリアを征伐する事) {{進捗|00%|2022-08-21}} </span><small>(2022年8月18日より)</small>
== 付録 ==
*<span style="background-color:#ffc;">[[/漢語表記について]] {{進捗|00%|2022-08-22}} </span><small>(2022年8月22日より)</small>
== 関連項目 ==
*[[ガリア戦記]]
*[[内乱記]]
== 外部リンク ==
[[Category:羅馬史略|*]]
[[Category:ローマ史|ろうましりやく]]
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羅馬史略/巻之五/塞撒ガ髙慮ヲ征伐スル事
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/* はじめに */ Gaul
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text/x-wiki
<div style="font-family:游明朝;font-size:35pt;text-align:center;">羅馬史畧 卷之五</div>
<div style="font-family:游明朝;font-size:20pt;text-align:center;">塞撒ガ髙慮ヲ征伐スル事</div>
== はじめに ==
ここに示すのは、[[w:紀元前58年|紀元前58年]]にローマの政治家・武将[[w:ガイウス・ユリウス・カエサル|ユリウス・カエサル]]が[[w:ガリア|ガリア]](現在のフランス・ベルギーなど)の征服戦争([[w:ガリア戦争|ガリア戦争]])を起こした記事である。この記事の後半は、カエサルの盟友[[w:マルクス・リキニウス・クラッスス|クラッスス]]の出来事を記すものだが、こちらは別稿に譲る。
; 固有名詞の表記例
<div style="font-family:游明朝;font-size:15pt;"> <ruby><rb>塞撒</rb><rp>(</rp><rt>セサル</rt><rp>)</rp></ruby> <ref>「カエサル」は現代中国語(繁体字)では「[[wikt:en:凱撒|凱撒]]」と表記される。</ref> → [[w:ガイウス・ユリウス・カエサル|カエサル]]、<ruby><rb>髙<!--髙-->慮</rb><rp>(</rp><rt>ゴウル</rt><rp>)</rp></ruby> <ref>英語の ''[[wikt:en:Gaul#English|Gaul]]'' の仮名読み。
「ガリア」は現代中国語(繁体字)でも「[[wikt:en:高盧|高盧]]」と表記される。</ref> →[[w:ガリア|ガリア]]、<ruby><rb>加𡈽<!--𡈽--></rb><rp>(</rp><rt>カト</rt><rp>)</rp></ruby>→[[w:マルクス・ポルキウス・カト・ウティケンシス|カトー]]
</div>
== 原文と修整テキスト ==
下表の左欄に原文を、右欄に修整テキストを示す。<br>修整テキストは、原文をもとにして漢字・仮名づかいなどの表記をより読みやすいように修整したものである。<br><span style="color:#800;">赤い文字</span>は、端末の環境(OSやブラウザー)によっては正しく表示されない場合がある。
{| class="wikitable" style="vertical-align:top;"
|- style="font-family:游明朝;font-size:18pt;"
| style="width:15em;text-align:center; background-color:#ddd;" |塞撒ガ<ruby><rb>髙慮</rb><rp>(</rp><rt>ゴウル</rt><rp>)</rp></ruby>ヲ征伐スル事<br>紀元前五十八年ニ起ル
| style="width:19em;text-align:center; background-color:#ddd;" |<ruby><rb>塞撒</rb><rp>(</rp><rt>セサル</rt><rp>)</rp></ruby>が<ruby><rb>髙慮</rb><rp>(</rp><rt>ゴウル</rt><rp>)</rp></ruby>を征伐する事<br>紀元前五十八年に起る
|- style="vertical-align:top; font-family:游明朝;"
| style="font-size:16pt;" |塞撒ガ髙<!--髙-->慮ニ於ケル政治戰畧ノ記事ハ、其自記スル<span style="color:#800;">𫝂</span>ノ一正史アリテ、沿革事歴、䏻ク今世ニ傳ハレリ、
| style="font-size:16pt;" |<ruby><rb>塞撒</rb><rp>(</rp><rt>セサル</rt><rp>)</rp></ruby>が<ruby><rb>髙<!--髙-->慮</rb><rp>(</rp><rt>ゴウル</rt><rp>)</rp></ruby>に<ruby><rb>於</rb><rp>(</rp><rt>お</rt><rp>)</rp></ruby>ける政治戦略<ref><span style="font-family:游明朝;font-size:20pt;">戰畧→戦略</span>:旧字体→新字体の書き換え。</ref>の記事は、<ruby><rb>其</rb><rp>(</rp><rt>その</rt><rp>)</rp></ruby>自記する所<ref name="ところ"><span style="font-size:30pt;"><span style="color:#800;">[[wikt:𫝂|𫝂]]</span>([[画像:Gw u2b742.svg|border|40px]])</span> は「所」の俗字なので、書き換えた。</ref>の一正史ありて、沿革事歴、<ruby><rb>能</rb><rp>(</rp><rt>よ</rt><rp>)</rp></ruby><ref>原文では「<span style="font-size:30pt;">䏻</span>」に近い字体を用いており、「能」の異体字なので書き換えた。</ref>く<ruby><rb>今世</rb><rp>(</rp><rt>こんせ</rt><rp>)</rp></ruby>に伝<ref><span style="font-family:游明朝;font-size:20pt;">傳→伝</span>:旧字体→新字体の書き換え。</ref>われり、
|- style="vertical-align:top; font-family:游明朝;"
| style="font-size:16pt;" |塞撒、初メ此國ヲ征シテ、頗ル困難ナリシガ、終ニ其智勇ヲ以テ、盡ク之ヲ征服シ、羅馬ニ於テハ、其名聲嘖々トシテ、人皆塞撒ヲ驚歎畏敬セリ、
| style="font-size:16pt;" |<ruby><rb>塞撒</rb><rp>(</rp><rt>セサル</rt><rp>)</rp></ruby>、初め<ruby><rb>此</rb><rp>(</rp><rt>この</rt><rp>)</rp></ruby>国<ref name="国"><span style="font-family:游明朝;font-size:20pt;">國→国</span>:旧字体→新字体の書き換え。</ref>を征して、<ruby><rb>頗</rb><rp>(</rp><rt>すこぶ</rt><rp>)</rp></ruby>る困難なりしが、<ruby><rb>終</rb><rp>(</rp><rt>つい</rt><rp>)</rp></ruby>に<ruby><rb>其</rb><rp>(</rp><rt>その</rt><rp>)</rp></ruby>智勇を<ruby><rb>以</rb><rp>(</rp><rt>もっ</rt><rp>)</rp></ruby>て、<ruby><rb>盡</rb><rp>(</rp><rt>ことごと</rt><rp>)</rp></ruby>く<ruby><rb>之</rb><rp>(</rp><rt>これ</rt><rp>)</rp></ruby>を征服し、<ruby><rb>羅馬</rb><rp>(</rp><rt>ローマ</rt><rp>)</rp></ruby>に<ruby><rb>於</rb><rp>(</rp><rt>おい</rt><rp>)</rp></ruby>ては、<ruby><rb>其</rb><rp>(</rp><rt>その</rt><rp>)</rp></ruby>名声<ruby><rb>嘖々</rb><rp>(</rp><rt>さくさく</rt><rp>)</rp></ruby>として、人皆<ruby><rb>塞撒</rb><rp>(</rp><rt>セサル</rt><rp>)</rp></ruby>を驚嘆<ref>「<span style="font-family:游明朝;font-size:20pt;">[[wikt:歎|歎]]</span>」を「<span style="font-family:游明朝;font-size:20pt;">[[wikt:嘆|嘆]]</span>」に書き換えた。</ref><ruby><rb>畏敬</rb><rp>(</rp><rt>いけい</rt><rp>)</rp></ruby>せり、
|- style="vertical-align:top; font-family:游明朝;"
| style="font-size:16pt;" |獨リ會議官ニ<ruby><rb>加𡈽<!--𡈽--></rb><rp>(</rp><rt>カト</rt><rp>)</rp></ruby>ナル者アリ、决<!--决-->シテ塞撒ヲ信セズ、其人、性剛毅ニシテ、功名ノ心ヨリハ、國ノ自由ヲ念<!--(おも)-->フノ心、更ニ大ニシテ、塞撒ガ非望ヲ懐<!--(なつ)-->クノ志アリテ、今其敵ヲ征服スルノ間ニ當<!--(あたっ)-->テ、既ニ、他年、自國ヲ脚下ニ壓スルノ機ヲ<!--〓-->含<!--〓-->メルヿ<!--ヿ-->ヲ先見セリ、」
| style="font-size:16pt;" |<ruby><rb>独</rb><rp>(</rp><rt>ひと</rt><rp>)</rp></ruby><ref><span style="font-family:游明朝;font-size:20pt;">獨→独</span>:旧字体→新字体の書き換え。</ref>り会<ref><span style="font-family:游明朝;font-size:20pt;">會→会</span>:旧字体→新字体の書き換え。</ref>議官<ref>「会議官」は、[[w:元老院 (ローマ)|元老院]]の議員のこと。</ref>に<ruby><rb>加土</rb><rp>(</rp><rt>カト</rt><rp>)</rp></ruby><ref>「<span style="font-family:游明朝;font-size:20pt;">[[wikt:𡈽|𡈽]]</span>」は「[[wikt:土|土]]」の異体字なので、書き換えた。</ref><ref>「<ruby><rb>加土</rb><rp>(</rp><rt>カト</rt><rp>)</rp></ruby>」は、元老院議員でカエサルの政敵であった「小カトー」こと[[w:マルクス・ポルキウス・カト・ウティケンシス|マールクス・ポルキウス・カトー(・ウティケーンシス)]]のこと。</ref>なる者あり、<ruby><rb>決</rb><rp>(</rp><rt>けっ</rt><rp>)</rp></ruby><ref>「<span style="font-family:游明朝;font-size:20pt;">[[wikt:决|决]]</span>」は「[[wikt:決|決]]」の異体字なので、書き換えた。</ref>して<ruby><rb>塞撒</rb><rp>(</rp><rt>セサル</rt><rp>)</rp></ruby>を信ぜず、<ruby><rb>其</rb><rp>(</rp><rt>その</rt><rp>)</rp></ruby>人、性<ruby><rb>剛毅</rb><rp>(</rp><rt>ごうき</rt><rp>)</rp></ruby>にして、功名の心よりは、国<ref name="国"/>の自由を<ruby><rb>念</rb><rp>(</rp><rt>おも</rt><rp>)</rp></ruby>うの心、<ruby><rb>更</rb><rp>(</rp><rt>さら</rt><rp>)</rp></ruby>に大にして、<ruby><rb>塞撒</rb><rp>(</rp><rt>セサル</rt><rp>)</rp></ruby>が<ruby><rb>非望</rb><rp>(</rp><rt>ひぼう</rt><rp>)</rp></ruby><ref>「非望」とは、身分不相応の大それたことを望むこと、また、その望み。[https://kotobank.jp/word/%E9%9D%9E%E6%9C%9B-612357 コトバンク]等を参照せよ。</ref>を<ruby><rb>懐</rb><rp>(</rp><rt>なつ</rt><rp>)</rp></ruby>くの志ありて、今<ruby><rb>其</rb><rp>(</rp><rt>その</rt><rp>)</rp></ruby>敵を征服するの間に<ruby><rb>当</rb><rp>(</rp><rt>あたっ</rt><rp>)</rp></ruby>て、<ruby><rb>既</rb><rp>(</rp><rt>すで</rt><rp>)</rp></ruby>に、他年、自国<ref name="国"/>を脚下に圧<ref><span style="font-family:游明朝;font-size:20pt;">[[wikt:壓|壓]]→圧</span>:旧字体→新字体の書き換え。</ref>するの機を含<ref>「含」は原文では俗字を用いているが([https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/863075 新撰漢字訳解.巻之2] の79コマ、または [https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/863258 大全数字引 : 以呂波分] の40コマ右頁、等を参照)コンピューターで表示できないため「含」を用いた。</ref>める事<ref name="事">「<span style="font-family:游明朝;font-size:20pt;">[[w:ヿ|ヿ]]</span><!--ヿ-->」は「事(こと)」を表わす特殊な仮名文字なので「事」と書き換えた。</ref>を先見せり、」
|- style="vertical-align:top; font-family:游明朝;"
| style="font-size:16pt;" |
| style="font-size:16pt;" |
|-
! style="width:15em;" |
! style="width:19em;" |
|}
(編集中)
<!--
<span style="color:#800;"></span>
<span style="font-size:20pt;"></span>
<ruby><rb>●漢字●</rb><rp>(</rp><rt>●ルビ●</rt><rp>)</rp></ruby>
-->
== 訳注 ==
<div class="references-small"><references group="訳注"/></div>
[[Category:羅馬史略|せさる]]
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